環境省
VOLUME.72
2019年8・9月号

G20 JAPAN SPECIAL INTERVIEW

髙村ゆかり

エコとビジネスをつなげて、脱炭素に向けた新たな社会へ

原田環境大臣と世耕経済産業大臣が共同で議長を務めた軽井沢での関係閣僚会合は、どのような成果を上げ、私たちの社会にどのような課題を投げかけたのでしょうか。
長年、気候変動をはじめ環境関連の法政策を研究テーマとする髙村ゆかりさんにお聞きしました。

東京大学未来ビジョン研究センター教授。
専門は国際法・環境法。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得。
気候変動をはじめ環境関連の法政策などを主な研究テーマとする。

 「G20大阪サミット」に先駆けて軽井沢で行われた会合では、経済成長と環境の好循環を実現していくという考え方を、中国、インドをはじめとした新興国を含むG20の大臣が共有し、地球規模で問題となっている海洋プラスチックごみ対策を強化すること、そのための新たな枠組みの設置が合意されるなど、確かな成果があったと思います。

 とりわけ、海洋プラスチックごみ対策については、議長国である日本のリードで新たに「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」に合意しました。これは、各国が自主的な対策を進め、その取り組みを報告し、お互いにチェックをし合うというもので、国際的な数値目標や各国の義務を定めるというものではありませんが、プラスチックごみ対策が待ったなしの課題であり、スピード感をもって具体的な対策をとる必要があることを確認・共有できたことはとても重要です。「G20大阪サミット」ではさらに一歩踏み込み、海洋プラスチックごみの排出防止と大幅削減のための対策を速やかにとり、2050年までに海洋プラスチックごみの追加汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が首脳レベルで合意されました。アジア地域はプラスチックの生産・廃棄量が多く、ごみの適正処理に問題を抱えている国も少なくありません。今後も生産・廃棄量の増加が見込まれる新興国を含むG20の首脳により、こうした合意がなされたことは大きな成果といえるでしょう。

 また、G20に先駆け、総理の指示によって、パリ協定に基づく脱炭素社会の実現と経済成長を両立させるための新たなビジョンを打ち出す長期戦略が策定されました。この策定のために「パリ協定長期成長戦略懇談会」が設けられ、私も委員の1人として出席していましたが、この懇談会の立ち上げの際に、総理は「もはや温暖化対策は企業にとってのコストではない。競争力の源泉である」「まさに環境と成長の好循環とも呼ぶべき変化が、世界規模で、ものすごいスピードで進んでいる」と発言されています。

 世界的に見ても、環境や社会、企業統治(ガバナンス)に配慮する企業に対して投資をするESG投資が広がり、再生可能エネルギーのコスト低下によってクリーンエネルギーの市場が拡大し、大きな資金の流れが生まれています。CO2排出を削減するだけでなく、そこに新たな市場や雇用が生まれ、企業にとっても大きなビジネスチャンスになることが見えるようになり、地域活性化や社会の課題解決への可能性も見え始めてきました。

 日本のミッションは、脱炭素社会、海洋プラスチックごみゼロ社会に向かうことが経済にとってもプラスになるよう、具体的な施策を早期に打ち出していくこと。そのことが、新たな市場や雇用を生み出し、成長と社会の課題解決の機会をつくり出すとともに、G20の議長国として、世界にそのモデルを示していくことになります。私たち消費者も、脱炭素社会、海洋プラスチックごみゼロ社会の実現に貢献する製品やサービスを賢く選択していくことが大切です。

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略

パリ協定の要請に基づき、内閣総理大臣の指示のもと、これまでの常識にとらわれない新たなビジョン策定のため、金融界、経済界、学界などの有識者からなる「パリ協定長期成長戦略懇談会」を設置。今年4月の会議で取りまとめられた提言をもとに、今世紀後半のできるだけ早期に温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、脱炭素社会を目指す「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が策定。G20に先駆け6月に閣議決定された。

軽井沢のG20関係閣僚会合に参加した各国の環境大臣とエネルギー大臣ら

軽井沢のG20関係閣僚会合に参加した各国の環境大臣とエネルギー大臣ら

写真/石原敦志

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