環境省
VOLUME.72
2019年8・9月号

課題解決ストーリー エコ・サクセス

エコに取り組み、目標を達成した
サクセスストーリーを紹介します

Vol.08 伊那食品工業株式会社

伊那食品工業は寒天製品のトップメーカー。 独自に開発した寒天を主原料とする可食性フィルムは、大手コンビニエンスストアのカップチルド麺などに採用され、プラスチック削減に貢献しています。

【課題】寒天を使って、食にまつわる手間とごみを減らしたい…

START!
始まりは粉末調味料の小袋

 1958年の創業時から家庭で食べられる寒天製品を製造・販売している伊那食品工業。インスタントスープの開発時、問題になったのが、粉末調味料を入れる小袋だった。既存の類似品はプラスチック製を使っていたが、食べるときに手間がかかる上、ごみにもなる。これを解決するために生まれたのが、自社で開発していた寒天フィルムを小袋に使うという発想だった。

START!

伊那食品工業の可食性の寒天フィルム「クレール」シリーズ。プラスチック製のフィルムを使っていた生産ラインでも使える、高い強度も特徴

PROCESS
大手コンビニのカップチルド麺に採用

 初めて小袋に寒天フィルムを使った「寒天のスープ」を1991年に発売。しかし、当時は環境問題への関心がまだ高くなく、他社から寒天フィルムへの要望はほとんどなかった。用途を広げるため、2005年から原材料や製造工程を一つ一つ徹底的に見直し、4年間で大幅な生産性の向上とコスト削減に成功。2009年、コンビニエンスストアのカップチルド麺で、麺とスープを分けるセパレートフィルムに採用された。

PROCESS

寒天フィルムが採用されたカップチルド麺。ごみの削減に加え、加熱後にフィルムを取り除く手間も省くことができる

GOAL!!!
商品の外装に使える寒天フィルムの開発を目指す

 「コンビニエンスストアに採用されたときには、量産化するまでにかなり苦労しました」と語るのは、開発担当の落俊行さん。長時間連続して生産できるよう、フィルムの元になる寒天溶液の保持温度を細かく調整したり、原料の1%にも満たない材料を見直したり、寝る間も惜しんで試行錯誤を重ねたという。完成したフィルムによって、年間約2.5tのプラスチックごみの削減に貢献した。

 その後、ほかのコンビニチェーンのカップチルド麺、そうめんの結束バンド、雑穀米の包装などにも採用され、現在は出荷ベースで年間約100tのプラスチックごみが削減されているという。こうした実績が評価され、2019年度の海ごみゼロアワードでは審査員特別賞を受賞した。

 現在、寒天フィルムで液体を包む技術の確立に取り組んでいる落さん。「成功すれば、商品の外装にも使えるようになると期待しています。より多くの場面で使っていただき、脱プラスチックにつなげたいですね」

GOAL!!! これまでに数百tのプラスチックごみを削減しました

寒天フィルムの研究開発に取り組むスタッフのみなさん。「薄くて軽いフィルムで数百tものごみ削減ができたことは非常にうれしく、誇りに思っています」(前列左・落さん)

SUCCESS HINT!

助け合える人間関係ができていたこと

寒天フィルムの量産化では、生産現場の担当者も開発に加わり、互いの知識を生かして改良を重ねた。伊那食品工業では以前から、社員旅行や月例会などで社員同士が顔を合わせ、コミュニケーションを大切にしている。「助け合える人間関係ができていたことが、成功の秘訣ですね」(落さん)

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