環境省
VOLUME.63
2018年2月・3月号

応用編

日本の企業が進める
「気候変動適応への取り組み」とは?

今月の講師

今月の講師

前川統一郎さん

国際航業株式会社上級顧問
環境経営学会理事
「企業の気候変動適応に関する研究委員会」委員長

国際航業株式会社上級顧問
環境経営学会理事
「企業の気候変動適応に関する研究委員会」委員長

パナソニック株式会社では、無電化地域で活用できるソーラーLED 照明を開発し、それを広めることで途上国の人々の暮らしを豊かにすることに取り組んでいる/国際移住機関(IMO)提供

パナソニック株式会社では、無電化地域で活用できるソーラーLED 照明を開発し、それを広めることで途上国の人々の暮らしを豊かにすることに取り組んでいる

 私が所属する国際航業株式会社は、GIS(空間情報技術)をベースに、地質調査・海洋調査、防災、環境・エネルギーなどの分野で、総合的なコンサルティング業務を行っています。また、私は環境経営学会「企業の気候変動適応に関する研究委員会」の委員長を務めていることもあり、政府主催のシンポジウム、ワークショップなどに出席する機会も多くあります。このような立場から、「企業の気候変動適応への取り組み」「適応ビジネス」についてお話ししたいと思います。
 日本企業における「気候変動適応への取り組み」は、まだ始まったばかりです。BCP(Business continuity planning=事業継続計画)の一環として、震災や風水害に備えるための対策を行っている企業はありますが、残念ながらこれを「適応策の一環」と明確に位置づけている企業は少なく、その内容も、多くは初歩的な域を出ていません。
 また、経済産業省が2016年11月に発表した「適応グッドプラクティス事例集」にもあるように、自然災害に対するインフラの強靱化やエネルギーの安定供給など、自社の技術を通して途上国に貢献している例もありますが、気候変動の間接的・中長期的な影響も含めた多様な影響への「適応」について、経営課題・経営戦略として主体的かつ積極的に取り組んでいる企業は極めて少ないのが現状です。

パナソニック株式会社では、無電化地域で活用できるソーラーLED 照明を開発し、それを広めることで途上国の人々の暮らしを豊かにすることに取り組んでいる/国際移住機関(IMO)提供

パナソニック株式会社では、無電化地域で活用できるソーラーLED 照明を開発し、それを広めることで途上国の人々の暮らしを豊かにすることに取り組んでいる

 英国では 2008年に「気候変動法」が成立。緩和策(2050年までに温室効果ガス排出量を1990年比で80%削減)とともに、国家としての気候変動のリスク評価、適応策の行動枠組が策定されました。さらに 、2011年のタイの大洪水によるサプライチェーンの寸断などをきっかけに、気候変動の影響への危機感が高まり、「適応」に積極的に取り組む企業が増えました。英国環境庁が、企業向けに「サプライチェーンの気候変動リスクの評価と管理」と題した実践的なガイドブックを発行するなど、日本に比べ早い時期から「適応」への取り組みがスタートしています。
 ここで忘れてはならないのが、「適応」は企業リスクの回避や低減だけでなく、イノベーションなどによる競争力向上やビジネス機会の創出につながるという視点です。実際、欧米では「新たなビジネスチャンス」としての機運が高まっています。
気候変動における企業への影響 例えば、2013年に制定された英国の国家適応計画では、産業部門の重点領域のひとつに、「レジリエンスを通じた企業競争力の実現」が掲げられています。英国環境庁は「気候変動におけるビジネス機会」の中で、気候変動に取り組むことの利点として、「事業継続性が高まる」「コスト改善ができる」「企業評価が高まる」「企業競争力が向上する」などを掲げています。
 このように、気候変動は、事業活動にとって無視できない変化となっています。機関投資家が企業や事業に投資する際のリスク、あるいは企業にとってのビジネスチャンスを評価する際に、気候変動関連情報は欠かせません。企業は、気候変動が事業活動にもたらす可能性のあるリスクをしっかりと把握・開示してリスクを軽減する努力をしていくことが求められており、それに消極的な企業は投資家はもちろん、消費者や従業員からの支持も失ってしまうのです。
 日本企業は、このような世界の産業界の動きに後れをとらぬよう、国内情報に限らず世界の幅広い情報に耳を傾けることによって、世界の「適応」に関する潮流への情報感度を高めなくてはなりません。
 そのために、気候変動適応情報プラットフォーム「A-PLAT」における情報提供などを通じて、多くの企業に「適応」の意義と方法について理解を深めてほしいと思っています。

気候変動における企業への影響

< 今回のおさらい >

「適応」に積極的な企業は、
競争力と企業価値が向上。
経営戦略としての取り組みを!

前川統一郎

1981年4月、国際航業株式会社入社。入社後、約15年間は地下水資源の開発と保全のコンサルティング業務に、以降は土壌・地下水汚染対策のエンジニアリングに従事。2008年3月、同社より分社した国際環境ソリューションズの社長に就任。2015年3月より現職。

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