近所の小学生が学校帰りに立ち寄り、手芸を教わることも
福島県田村市都路町に建つ築100年を越える古民家。
避難指示が解除され、町に戻ってきた人々が気軽に集える「よりあい処」として活用されています。
一度は分断されかけた地域のコミュニティが、この場所から新たに生まれているようです。
「ほら、ここに糸を通して」「あ、できた!」。地域のお年寄りが、子どもたちに楽し気に手芸を教えている。ここは福島県田村市都路(みやこじ)町にある「よりあい処華」。震災後、都路町に出されていた避難指示が解除された2014年、近隣の小学校が再び始まり、子どもとその親たちが町に戻ってきたのを機にオープンした地域の人々の交流の場だ。
築100年を越える民家は、運営する今泉富代さんの実家だった場所。「ここは私が生まれ育ち、その後は兄夫婦が住んでいた家です。私は避難所でも手芸を教えていたのですが、大変な状況の中でも皆さんと楽しい時間を過ごすことができました。避難指示が解除されて町に戻ってきた時、どこかに集まれる場所がないと各々が孤立してしまうんじゃないかと思いました。そこで、空いていた実家を交流の場にしようと思い立ったんです」と今泉さんはオープンの経緯を語る。人々が町に戻り、にぎわいを取り戻しつつあるように見える都路町だが、「まだ不安や心配なこともあります。だから、みんなで他愛もない話をして笑っている時間が大切なんです」。
田村市復興応援隊のボランティアの協力も得てオープンした「華」は、地域の人々が気軽に集まれる家であり、手芸教室やランチの提供、郷土料理の講習会など、多彩な利用が可能な場でもある。地域の食材を取り入れた「おまかせランチ」や「けんちん汁カレー」などを目当てに立ち寄る人も多い。週に1回開かれる手芸教室では、近所の女性たちが猫の小物「みゃーこちゃん(都路にかけてある)」づくりに余念がない。楽しくおしゃべりしながらも、次々と「作品」が仕上がっていく。学校帰りの子どもたちが立ち寄って作り方を教わったり、世代を超えた交流の場にもなっている。「この場所から、地域の伝統や風習、郷土料理などを若い世代に伝えていけたらいいですね。震災後の地域の未来は、子どもたちの手にかかっているんですから」。
1_かつては茅葺き屋根だった築100年を越える古民家が“みんなの家”になった 2_ 郷土色豊かな料理が並ぶ日替わりの「おまかせランチ」も人気 3_元は養蚕農家だったこともあり、高い天井が解放感を生む 4_都路にかけた手作りの「みゃーこちゃん」は販売もされている
INFORMATION
よりあい処「華」
住所: 福島県田村市都路町古道字新町67
TEL: 080-8203-8787
URL: https://sites.google.com/site/yoriaihana/
写真/石原敦志