環境省
VOLUME.59
2017年6・7月号

エコジンインタビュー/あの日の東北、あれからの東北/サンドウィッチマン

サンドウィッチマン

コントや漫才のネタで勝負できる芸人として不動の人気を誇るサンドウィッチマン。

共に宮城県仙台市出身の2人は、たまたまロケで訪れていた気仙沼で東日本大震災に遭遇しました。

復興支援にも積極的に関わってきた2人に、震災から6年が経った今、あらためて復興や東北への思いをお聞きしました。

 2011年3月11日。サンドウィッチマンの2人は、東北放送のローカル番組のロケで宮城県気仙沼市の港付近にいたところ、突如、激しい揺れに襲われた。

伊達「一瞬、何が起こったのか分かりませんでした。安波山(あんばさん)という小高い山で午前中にオープニングの撮影をしていたので、スタッフがそこに避難しようと言って、急いでロケ用の車に乗り込んだんです」

富澤「揺れがあってから津波がくるまで30~40分はあったのかな。地元の人たちは何も持たずに家を飛び出してきたので、中には自宅に貴重品を取りに戻る人もいた。結局、その人たちの多くは戻ってくることはありませんでした……」

 2人は、津波が街を飲み込む様子を地元の人たちと共に呆然と眺めるしかなかった。富澤さんは、翌月に出産を控えていた奥さんと、揺れが収まった直後に携帯電話で無事を確認し合ったものの、その直後から不通に。避難場所として開放された高台に建つホテルのロビーで、オレンジ色の炎に染まる気仙沼の空を見ながら不安な一夜を明かした。しかし、震災の翌々日、東京に戻った時、2人はこう感じたという。

伊達「あれ? なんかいつも通りだな、と。東京は既に日常を取り戻している。現地の大変な状況が伝わっていないなと思いました。たくさんの人が亡くなり、行方不明になっている中、僕らは奇跡的に助かった。生き残った者としてちゃんと伝えなきゃいけないし、何かしなきゃダメだと思いました」

 2人は震災発生から5日後の3月16日、「東北魂義援金」をいち早く開設。当初は被災者全体への支援だったが、2012年からは「震災孤児・遺児」の支援に切り替えた。震災後、親になった2人にとって、被災した子どもたちのことが何より気がかりだったのだ。

富澤「震災直後に自分の子どもが生まれたこともあって、とても他人事とは思えなかった」

伊達「被災地に行くと、『あの子、すごく元気にしてるけど両親が亡くなったんだよ』という話も耳にします。大人はがんばって働けばいいとしても、子どもは学校を出るまでの資金がどうしても必要になりますから」

震災が風化しているとしたら、 復興が進んだ証だと思う。 これまでに集まった義援金は4億円を超えた。2人は岩手・宮城・福島に定期的に出向き、義援金を県知事に直接手渡している。

伊達「直接お渡ししながら、復興の状況なども教えてもらっています」

ところで、人を笑わせる芸人の仕事と復興支援の活動との間で葛藤はなかったのだろうか。

伊達「少しはありましたよ。人から『震災の色が付いちゃうね』と言われたこともありますけど、それはそれでいいか、と。同級生も亡くなっているし、こういう経験を伝えられる立場にいる人はそう多くない。芸人としてというより宮城県民として、東北人としてやらなきゃいけないんじゃないかと思いましたね」

富澤「コントや漫才のネタは僕が書くんですけど、たとえ震災の色が付いたとしても、それを超えるくらい面白いことをやればいい。それができなければそれまでだなと思いました」

伊達「でも、サンドウィッチマンは東北の人たちだ、というイメージは付いていると思うけど、震災という色はそれほど付いてないんじゃないかな」

富澤「震災後2年くらい封印したネタはありましたけどね。たとえば不動産屋のネタで『この部屋で人が死んだんです』というような部分は、捉え方によっては誤解されかねないので」

伊達「どうするか会議したよね。ネタの一部分を変えるんだったら丸ごと封印しよう、と。笑いに対するスタンスだけはブレちゃダメだというのが僕たちの結論でした」

 6年が経ち、震災の記憶の風化もささやかれているが。

伊達「地元の人の中には『もう被災地と言われたくない』と言う人もいます。風化というとネガティブですけど、それだけ復興が進んだことの証でもあるんじゃないでしょうか」

富澤「ただ、僕らの体験したことはこれからも伝えていきたい。うちの子どもは6歳なので津波の映像はまだ見せられないですけど、口では伝えていますね」

2人が震災を目の当たりにした気仙沼は、今や第二の故郷となった。

伊達「行くと、『おかえり』って言われます。『あんなに怖い目に遭ったのにまた来たの。ありがとね』って。震災をきっかけに、僕らも東北の魅力を再発見していますね」

富澤「頻繁に行くから、もはや僕らが歩いていても全然騒がれない。でも、それでいいんです」

 東北は、前を見て歩き出している。

profile

サンドウィッチマン

伊達みきお(写真左)と富澤たけし(同右)によるお笑いコンビ。宮城県仙台市出身。共に1974年生まれの同級生。1998年にコンビを結成、2007年の『M-1グランプリ』で王者に輝き一躍人気者に。みなと気仙沼大使、みやぎ絆大使、松島町観光親善大使なども務める。

写真/石原敦志

ページトップへ戻る