2019年度環境省重点施策集

平成30年8月

【全文】[PDF 61MB]

【分割】

1.生活の質を向上する「新たな成長」に向けた政策展開

(1)持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築

① 「脱炭素経営による企業価値向上促進プログラム」(2018年6月環境省)等により、SBT やRE100 への参加等を支援するとともに、これらに挑戦する企業間のネットワーク構築、中小企業への展開支援等を行い、我が国のバリューチェーン全体における脱炭素化を実現する。

② ブロックチェーン、IoT、AI等のデジタル技術を活用することにより、脱炭素社会の構築や資源生産性の更なる向上といった課題の解決に向け、新たなビジネスの創成・普及を図る。

③ 脱炭素社会・SDGsの実現を金融面から支えていくため、国際的な潮流やESG金融懇談会の提言等も踏まえ、企業の環境情報開示の促進等によりグリーンファイナンス等のESG金融を強力に推進する。

④ 脱炭素社会に向けて資源の戦略的な配分を促し、新たな経済成長につなげていく原動力としてのカーボンプライシングの活用に関する検討を進める。

⑤ 我が国の温室効果ガス削減目標に深刻な支障を来すことが懸念される石炭火力発電に対して、脱石炭火力に向けた国内外の動きを踏まえて、厳しい姿勢で臨む。

⑥ 我が国として率先して対策に取り組むべく、「プラスチック資源循環戦略」 も踏まえ、使い捨て容器包装等のリデュースや再生可能資源(紙、バイオプラスチック等)への代替の促進、国内資源循環体制の構築及び資源循環関連産業の振興に取り組むとともに、幅広い関係主体の自主的取組・連携協働を一体的に促進することにより、海洋プラスチックごみの発生抑制等を総合的に推進する。

⑦ G20サミット及びG20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合等の機会を活用し、途上国を含むG20各国との連携を強化しながら、我が国の優れたソフト・ハードインフラの輸出等により、実効的な海洋プラスチック対策等に取り組む。

(2)国土のストックとしての価値の向上

① 気候変動適応法の制定を受け、環境省が旗振り役となり、政府一丸となって適応策を強力に推進するとともに、気候変動影響評価に係る科学的知見の集積、国立環境研究所を中核とする適応の情報基盤の整備、適応策のPDCA手法の開発、地域での取組の加速化、適応策の海外展開や適応ビジネスの促進、国民参加型の情報収集、熱中症対策の強化など、適応策の更なる充実・強化を図る。

② 廃棄物処理施設の整備や自立・分散型エネルギーシステムの構築を進めるとともに、大規模災害に備えた万全な災害廃棄物処理体制の構築や災害廃棄物の円滑・迅速な処理を図ること等により環境施策を通じた国土強靱化への対応に取り組む。

③ 海岸漂着物処理推進法(海ごみ法)の改正も踏まえ、発生抑制や回収処理等の海洋ごみ対策に取り組むほか、海洋の生物多様性保全に向けた取組等を進め、健全な海洋環境を実現する。

④ 自然資本の維持・充実・活用を図るとともに、人口減少下における土地の適切な管理と自然環境を保全・再生・活用する国土利用を進める。

(3)地域資源を活用した持続可能な地域づくり

① 地域循環共生圏の具現化に向けて取り組もうとする地方公共団体等に対し、地域資源の発掘、取組の枠組みづくりと人材育成、事業構想づくり、事業化といった各ステージに対応し、地域のニーズに応じた支援を行うとともに、先進事例の他地域への展開を図る。

② 国立公園を世界水準のナショナルパークとして磨き上げ、保全された質の高い自然を楽しむ「国立公園満喫プロジェクト」を推進し、ICT等を活用した多言語解説や体験型コンテンツの充実等に取り組むほか、先行8公園の成果や事例を他の公園にも展開する。

③ 再生可能エネルギー・廃棄物発電等を活用する地域エネルギー企業の立ち上げ支援、交通ネットワークを含む公共インフラの維持と脱炭素化を同時に進めるグリーンスローモビリティ等の取組により、地域の自立につながる再省蓄エネ等の促進を図る。

(4)健康で心豊かな暮らしの実現 

① ビッグデータ分析等を活用して行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による温室効果ガス削減のためのモデル構築や、食品ロス対策、森里川海プロジェクトの展開等に取り組み、持続可能なライフスタイルへの転換を加速する。

②平成30年7月豪雨に象徴される自然災害の激甚化・頻発化や今夏の記録的な酷暑及びそれに伴う熱中症の増加など、気候変動の影響の拡大が懸念される中で、気候変動に対する国民の危機意識の醸成・共有を図る普及啓発を展開する。

③ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)に代表される、快適な生活にも資する良質な社会ストックの形成を促進する。

④高齢化社会に対応した家庭ごみの収集運搬制度の設計や、社会福祉施策と連携したペット適正飼養対策等、環境政策の切り口から、高齢化、少子化といった社会課題にも対応する政策を展開していく。

(5)持続可能性を支える技術の開発・普及

①CNF 、水素、CCUS 、窒化ガリウムを用いた高効率デバイスなど脱炭素技術の開発・実証・社会実装を進める。また、その他の環境分野についても若手研究者支援を強化しつつ、基礎研究から社会実装までを見据えた研究・技術開発を推進する。

②電気自動車(EV)の普及拡大に備えた電池のリユース・リサイクル技術の開発・実証や、燃料電池バス等の次世代自動車の普及に取り組む。また、世界の潮流である自動車CASE の視点を踏まえエネルギー自家消費の推進等を見据えた蓄電機能の活用等に向けた実証を行い、地域全体での脱炭素化モデルを構築する。

③ブロックチェーン、IoT、AIといったSociety5.0の実現に資するデジタル技術について、再エネ推進や資源循環といった環境分野での活用を進める。<1.(1)②を参照>

(6)国際貢献による我が国のリーダーシップの発揮と戦略的パートナーシップの構築

① G20サミット及びG20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合等の機会を活用し、海洋プラスチック対策、気候変動対策、生物多様性確保等における世界の議論をリードし、国際連携を強化する。

②「インフラシステム輸出戦略(平成30年度改訂版)」及び「海外展開戦略(環境)」(いずれも2018年6月7日経協インフラ戦略会議)を踏まえ、二国間クレジット制度(JCM)による脱炭素技術の海外展開をはじめ、資源循環、適応、水環境、大気汚染対策といった各分野において、環境インフラ海外展開の更なる推進を図る。

③パリ協定実施に向けて、「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2017」等に基づきコ・イノベーション の推進に取り組むほか、衛星を活用した温室効果ガスの観測、生物多様性分野でのポスト愛知目標の検討、ヒアリ等の外来種対策、水銀対策といった各分野での積極的な国際貢献を進める。

2.気候変動対策

(1)長期大幅削減を実現し、脱炭素社会を構築する明確な方向性の提示
(2)技術・社会システムのイノベーションをリードする対策・施策・枠組み

①バリューチェーン全体での脱炭素化といった意欲的な環境経営に取り組もうとする企業の動きを加速化させる。<1.(1)①を参照>

②太陽光、風力、バイオマス等を含めた再エネについて、固定価格買取制度に頼らない主力電源化に向け、コストダウンを図りながら2030年度のエネルギーミックスの水準を超えた更なる拡大と前倒しを追求する。このため、「再エネ加速化・最大化促進プログラム」(2018年3月環境省)を更新するとともに、再省蓄エネを通じた地域活性化や防災機能強化を図る。

③ 環境に適切に配慮した太陽光・風力・地熱等の再生可能エネルギーの円滑な導入に向け、風力発電に係るゾーニング手法の普及、メガソーラーに係る環境アセスメント制度の検討等、質が高く効率的な環境アセスメントの展開等を図る。

④ 「統合イノベーション戦略」を踏まえた、最新技術も活用した脱炭素技術の開発・実証・社会実装を推進する。<1.(5)①を参照>

⑤ 地球温暖化の進行による影響増大の危機感を共有しつつ、「COOL CHOICE」を旗印とする国民運動の展開を進め、脱炭素型ライフスタイルへの転換を進める。<1.(4)②を参照>

⑥ 脱炭素社会に向けて資源の戦略的な配分を促し、新たな経済成長につなげていく原動力としてのカーボンプライシングの活用に関する検討を進める。 <1.(1)④を参照>

⑦ 我が国の温室効果ガス削減目標に深刻な支障を来すことが懸念される石炭火力発電に対して、脱石炭火力に向けた国内外の動きを踏まえて、厳しい姿勢で臨む。 <1.(1)⑤を参照>

(3)総合的なフロン排出抑制対策の促進
(4)適応策の更なる推進<1.(2)①を参照>
(5)イノベーションを通じた世界全体の脱炭素化の牽引に向けた国際協力

① G20サミット及びG20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合等を契機に、各国間の連携強化によるイノベーションの加速化を図り、世界の温室効果ガス大幅削減に貢献する。<1.(6)①を参照>

② 「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2017」に基づくコ・イノベーションの推進、環境インフラ海外展開の更なる推進等により、脱炭素化と経済成長に向けた国際協力を押し進める。<1.(6)②③を参照>

3.東日本大震災からの復興・創生

(1)被災地の環境再生に向けた取組の着実な実施

①中間貯蔵施設について、用地取得・施設整備・搬入の流れを着実に進める。同時に、仮置場の跡地について円滑に原状回復を行い返地を進めていく。また、引き続き除去土壌等の再生利用に向けた取組を進めていく。

②認定された特定復興再生拠点区域復興再生計画に沿って、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域内における家屋等の解体・除染を着実に実施する。

③被災地の指定廃棄物等の処理を着実に推進する。

(2)新たなステージに向けた、被災地の産業・まち・暮らしの創生

① 被災地の復興に貢献すべく、地域の再生や産業の創生といった視点を大切にしながら、脱炭素、資源循環を基軸とした先導的なモデル事業を推進するとともに、自然資源を活用した復興プロジェクトの推進に取り組む。

②放射線健康管理・リスクコミュニケーションの実施や正確な情報発信を通じ、住民等の不安の解消等を図る。

4.循環型社会の形成・資源循環イノベーション

(1)イノベーションの実装による国内での資源循環の促進

①地域のエネルギーセンターとしての廃棄物処理施設の機能強化等、資源循環の側面から地域循環共生圏の構築を図る。

②「プラスチック資源循環戦略」に基づく施策展開、家庭系食品ロス削減に向けた国民運動の展開、メダルプロジェクトの機運を活かした都市鉱山の有効利用、太陽光パネルの適正なリサイクルシステムの構築に向けた検討、紙おむつリサイクルの推進に向けたガイドラインの策定等、ライフサイクル全体での徹底した資源循環を押し進める。

③汚水処理事業のリノベーション、廃棄物処理業者における人材の確保・育成等にも取り組み、適正処理の更なる推進と循環産業全体の健全化及び振興を図る。

④IoT、AIといったデジタル技術を活用した革新的な3R関連ビジネスの創成・普及や自治体のごみ処理システムの高度化を促進する。<1.(1)②を参照>

(2)資源循環イノベーションの国際展開<1.(6)②を参照>

5.生物多様性の確保・自然共生

(1)生物多様性の確保

①希少種保全や海洋の生物多様性保全をはじめ、愛知目標の達成に向けた取組を加速化させる。また、SATOYAMAイニシアティブ等による国際連携の一層の展開を図るとともに、生態系を活用した気候変動への適応や社会の強靱化といった視点も組み込みながら、ポスト愛知目標及び次期生物多様性国家戦略の検討を進める。

②指定管理鳥獣(ニホンジカ、イノシシ)について、広域連携による捕獲強化や、ジビエ促進とも連携した利活用の推進を図る。

③ヒアリの継続的監視や対策困難外来種への対応の検討等、外来種防除対策の強化を図る。

④所有明示など飼い主責任の徹底や自治体による適正譲渡の促進、大規模災害発生を想定した対応等、ペットの適正飼養等の課題に着実に取り組む。

(2)自然資源の保全・活用による観光立国・地方創生・経済成長

①国立公園満喫プロジェクトについてインバウンドの目標達成に向け取組を展開しつつ、国立公園を軸とした地方創生の歩みを確実なものとする。 <1.(3)②を参照>

② 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の世界自然遺産登録に向けIUCNから指摘された課題への対応を行うとともに、遺産の資質を適切に保全しつつ、地域の活性化を推進する。

③ 地域の自然資源を活用した地域循環共生圏の構築について、地方公共団体の取組を支援する。<1.(3)①を参照>

6.環境リスクの管理

(1)地域・暮らしを支える廃棄物対策

① 一般廃棄物処理施設の更新需要への適切な対応を進めるほか、汚水処理リノベーションに向け、単独処理浄化槽の宅内配管工事を含めた合併処理浄化槽への転換促進や、浄化槽台帳を活用した維持管理の生産性向上を図る。

② PCB廃棄物処理基本計画に基づき、高濃度PCB廃棄物の適正かつ着実な処理の実施を進めるとともに、低濃度PCB廃棄物についても新たな処理方式を含め処理の推進を図る。

(2)安全な暮らしの確保

① マイクロプラスチックを含む海洋ごみについて、流域圏での上下流一体となった発生抑制、回収処理、実態把握等、対策の一層の推進を図る。このほか、健全で豊かな瀬戸内海の実現に向けたあり方の検討等、海洋・水環境保全対策を推進する。

② アスベスト飛散防止、微小粒子状物質(PM2.5)の国内対策・越境汚染対策等を推進する。また、土壌汚染に関するリスク管理を着実に推進する。

③ 安心できる子育て環境づくりにも資するエコチル調査の実施をはじめ、ライフサイクル全体での化学物質のリスク評価及び管理の推進など、化学物質による環境リスクの低減に向けた取組を進める。また、農薬取締法の改正を踏まえ、農薬の生態影響評価の拡充に取り組む。

④ 水俣病対策をはじめとする公害健康被害対策や、石綿健康被害の救済に着実に取り組む。

⑤ 2020年東京オリンピック・パラリンピックも見据え、気候変動への適応にも資する熱中症対策を強化する。