課題名

B-5 熱帯アジアの土地利用変化が陸域生態系からの温室効果ガスの発生・吸収量に及ぼす影響の評価に関する研究

課題代表者名

鶴田 治雄 (独立行政法人農業環境技術研究所地球環境部温室効果ガスチーム)

研究期間

平成11−13年度

合計予算額

 90,655千円(うち13年度 31,051千円)

研究体制

(1)土地利用変化に伴う温室効果ガスの発生・吸収の現地調査とその総合評価

  ー晶畴帯林地域における温室効果ガス発生吸収の現地調査とその総合評価

  泥炭湿地における土地利用変化が温室効果ガスの動態に及ぼす影響とその変動要因

(独立行政法人農業環境技術研究所、千葉大学、研究協力機関:独立行政法人森林総合研究所BIOTROP-GCTE-IC-SEA, Bogor Agricultural University, Indonesia,Lambung Mangkurat University, Indonesia,Jambi University, Indonesia,National University of Singapore

(2)熱帯林による二酸化炭素吸収の現地調査とその広域評価

(独立行政法人資源環境技術総合研究所、日本大学、東京情報大学、研究協力機関:Center for International Forestry Research、独立行政法人森林総合研究所Mulawarman University, Indonesia, Indonesian Institute of Sciences

(3)熱帯土壌からの温室効果ガスの発生・吸収要因の解明

(独立行政法人森林総合研究所、研究協力機関:独立行政法人農業環境技術研究所、BIOTROP-GCTE-IC-SEA, Bogor Agricultural University, Indonesia

(4)生態系変化のデータベース化とスケールアップに関する研究

(独立行政法人農業環境技術研究所、研究協力機関:Bogor Agricultural University,Indonesia

(5)アジアの農耕地から発生する窒素酸化物の抑制技術

(独立行政法人農業環境技術研究所、研究協力機関:中国科学院沈陽応用生態研究所、中国安徽省農業科学院)

研究概要

1.はじめに

 

 熱帯アジア地域では、人口の急増とともに、熱帯林が消失して農耕地やプランテーションになるという土地利用変化が急速に進行している。また、その土地利用の変化によって、土壌を含めた生物圏と大気圏との間の炭素・窒素の物質循環や収支、特に温室効果ガスの放出・吸収量が大きく変化して、地球温暖化に影響を及ぼしている、と推定されている。しかし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIGBP(地球圏―生物圏国際共同研究計画)でも指摘されているように、熱帯アジアではこれらの調査研究がなされておらず、アジア地域の研究者と共同でこれらの研究を実施することが緊急に要求されている。

 

2.研究目的

 

本研究の目的は、熱帯アジアでも特に土地利用変化の激しいインドネシアを対象として、湿潤熱帯林や泥炭湿地が農耕地や二次林などに変化していく過程で、温室効果ガスの大気中への放出量や陸域生態系への吸収量の変化および温室効果ガスの発生・吸収要因、また、土壌の炭素・窒素収支の変化などを現地調査と室内実験によって明らかにすることである。さらに、それらのデータと既存地理情報や人工衛星データを利用して作成した土地利用変化に関するデータベースとを用いて、温室効果ガス発生・吸収量スケールアップ手法を開発して、その面的なデータベースを作成し、土地利用変化による地球温暖化への影響を定量的に評価することである。

図1に本プロジェクト全体の研究内容の概要を示し、図2に本プロジェクトにおける現地調査地点及びランドサット画像解析地域を示す。次に(1)〜(5)にサブ課題毎の目的と(6)に国際ワークショップについての目的を記述する。

(1)インドネシアの湿潤熱帯林や泥炭湿地が伐採や焼き畑によって消失する地域で、土壌からの二酸化炭素(CO2)、亜酸化窒素(N2O)、メタン(CH4)のフラックスの時間・空間変動を長期的に測定し、土地利用変化による温室効果ガス発生・吸収量の時間・空間変動を明らかにする。

(2)インドネシアの東カリマンタンにおける森林火災後の2次林地域で、成長過程にある森林上空でのCO2の吸収量を測定するとともに、土壌呼吸をも測定し、さらに毎木調査から森林バイオマスの増加量を求め、炭素収支を現地調査から明らかにする。

(3)インドネシアの湿潤熱帯林の温室効果ガス測定地域で、地温、土壌水分量や無機態窒素量などを測定するとともに、土壌の培養実験などから温室効果ガスの発生・吸収ポテンシャルを測定し、熱帯林土壌や土地利用変化による温室効果ガスの発生・吸収の制御要因を解明する。

(4)広域の土地利用や生態系変化のデータベースを既存地理情報や人工衛星データを利用して構築し、温室効果ガスの発生・吸収量について現地調査で得られた局所データを面的にスケールアップする手法を開発し、生態系変化に伴う温室効果ガス発生・吸収量の面的変化量を推定する。

(5)窒素施肥土壌から発生するN2Oや一酸化窒素(NO)ガスの施肥方法による発生量の違いや発生ポテンシャルを、圃場調査やアジア地域の異なる土壌の培養実験などから明らかにし、アジアに適用可能なこれらのガス発生抑制技術を開発する。

(6)世界の3大熱帯地域での研究成果を比較するための国際ワークショップを開催する。

 


図1 本プロジェクト全体の研究内容の概要図

 

 


2 本プロジェクトにおける現地調査地点及びランドサット画像解析地域。

 

スマトラ島

 PasirmayangJambi:湿潤熱帯林(() ()、(3)、()

 Muarasabak:泥炭湿地(()(),

 Bukit Kototabang大気中二酸化炭素濃度測定(2)

カリマンタン島

 South Kalimantan:泥炭湿地((),

 Bukit SoehartoCO2フラックスと炭素収支の測定(2),

 図中の( )はサブ課題番号。

 

3.研究の内容・成果

 

(1)土地利用変化に伴う温室効果ガスの発生・吸収の現地調査とその総合評価

ー晶畴帯林地域----インドネシアの代表的な陸域生態系である湿潤熱帯林およびこれらの土地利用変化による農耕地のゴムや油ヤシのプランテーション地域で、温室効果ガス(メタン(CH4)、二酸化炭素(CO2)、亜酸化窒素(N2O))の発生・吸収量の時間変化と空間変化を解明するため、現地調査を行った。(1) スマトラ島ジャンビ州のパシルマヤン試験地で4つの異なる土地利用形態の6地点(一次林、択伐林、伐採焼却後植林地、初期ゴム園)で、1997年9月から2002年3月まで温室効果ガスフラックスを毎月測定した。その結果、択伐林が伐採・焼却され植林されていく過程で、N2Oフラックスは焼却後急激に増加したがその後ゆっくりと減少し約2年半後には伐採前のレベルに戻り、一方、CH4吸収フラックスは焼却後ほとんど0に近く小さくなったが、その後次第に大きくなり2年半後には伐採前のレベルに戻ったことが、はじめて明らかになった。この回復速度は、中米で熱帯林が牧草地に変化するとN2Oの発生が約10年間増加した結果と大きく異なった。(2) また、一次林や択伐林および初期ゴム園からのN2Oフラックスは、CO2と同様に雨期に大きく乾期に小さくなる季節変化を示したが、年平均値は10μgNm-2h-1以下で中南米熱帯地域よりも非常に小さく、IPCCによる熱帯林土壌からの発生量は過大に推定されていたことがわかった。(3) なお一次林土壌からはしばしばCH4が土壌から大気中に放出されたので、2001年9月に約0.5haの森林内に80地点で集中測定を行った。その結果、約半数の地点でCH4の大気中への放出がみられた。この原因はおもにシロアリの存在によるものと推定され、安定同位体比の測定により発生源を同定する予定である。(4) ジャンビ州内で6種類の土地利用形態(一次林、択伐林、油ヤシ園、ゴム園、シナモン園、草地)の27地点で広域フラックス調査を2001年9月に実施した結果、N2Oフラックスは耕作放棄されたアランアランの草地で最小であり、ゴム園では生育年数とともに大きくなる傾向があったが、油ヤシ園では施肥の影響を除けば、生育年数に関係なく小さかった。また、火山灰土壌ではN2Oフラックスが他の土壌タイプより小さく、土壌タイプもN2Oの主な発生要因であることが明らかになった。(5) 一方、CH4の吸収フラックスは、一次林および択伐林、油ヤシ園・ゴム園・シナモン園、草地の順に大きかった。なお、CH4が土壌から大気中に放出された地点があり、これはシロアリの影響と推測された。さらにCO2フラックスは、油ヤシ園で最小であり、生育年数に関係なく下草が少なく土壌が固いためと推定された。(6) 以上の結果から、熱帯アジアのインドネシアの陸域生態系土壌からの温室効果ガスの発生量は他の熱帯地域と異なっており、その発生・吸収要因は土地利用形態および土壌タイプによることがはじめて明らかになった。

 

泥炭湿地----自然湿地からの微量温室効果ガス、メタン発生量は地球全体からのメタン発生量の約20%を占めると推定されているがその推定精度は低い。また亜酸化窒素については同様な推定がない。熱帯アジアのインドネシアやマレーシア周辺には世界の熱帯泥炭地の約8割を占める大規模な湿地が存在しているにもかかわらず、その地域からのメタンや亜酸化窒素の放出に関する研究はほとんどなく、発生量の不確実性を大きくしている原因となっている。また、この地域は潜在的可耕地として急速な大規模農業開発が進められているが、こうした人間活動がメタンなどの温室効果ガス発生量に及ぼす影響についてはまったく解明されていない。本分担課題ではこれら熱帯地域で緊急に現地調査をするとともに、これまで日本で実施してきた発生要因に関する研究をさらに発展させて、熱帯アジアのインドネシアの自然湿地からのメタンおよび亜酸化窒素発生量を総合的に評価するために、現地でメタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスを測定した。さらに湿地土壌中のこれらのガス生成および吸収を支配する要因を明らかにすることを試みた。二酸化炭素ガスフラックスには大きな変動があり、土地利用変化の影響は水田で小さく、2次林では大きかった。2次林では排水の影響を受け乾燥化が進み、リター分解による放出増加が起こった可能性がある。メタンガスフラックスは概して小さく、既報の温帯・冷温帯のメタンガスフラックスより小さい傾向にあった。ただし水田化によって増大する場合が認められた。一方、亜酸化窒素は畑耕作によって増加する傾向が見られ、特に非湛水田で大きい放出量が認められたのに対して、湛水田ではほぼゼロないし微量の吸収が認められた。土地利用変化と降雨変動が地下水位変動を通して、これらのガス代謝に影響を及ぼしていると考察された。

(2)熱帯林による二酸化炭素吸収の現地調査とその広域評価

熱帯多雨林気候帯での二次林の成長過程における二酸化炭素収支の機構解明のため、インドネシアのカリマンタン島において観測を行った。カリマンタン島ブキットスハルトにある30m塔を使用して二次林の成長段階における二酸化炭素収支の観測を行っている。このサイトでは1998年のエルニーニョに伴う異常乾燥による火災で高度15-20mまで卓越していた二次林(主にMacaranga属)が消失し、その後3年にして高度10m近くまで復活してきている。観測は渦相関法による二酸化炭素収支、熱収支測定と気象観測からなっている。また土壌呼吸をチャンバー法により測定した。当研究期間中は、典型的な熱帯多雨林気候下での観測であった。年変化より日変化の方が大きいという熱帯多雨林気候のため、データの年内変動が小さい。観測されたCO2フラックス値を気象データでパラメータ化して、年単位の生態系純生産量NEP(あるいは生態系純交換量NEE)を概算した。また、毎木調査から求まる森林バイオマスの増加量から1次の純生産量NPPを求めた。さらに土壌呼吸量も考慮して、総生産GPPや全呼吸量など、この群落における炭素循環の構成パラメータ量も推定した。それによると、NEENPPはほぼ同量となり、それぞれ年々増加している。熱帯アジアにおける二酸化炭素濃度の季節的変動、大規模森林火災の影響、土地利用変化の影響を調べるため、インドネシアのスマトラ島ブキット・コタ・タバンにある国連環境計画(UNEP)の地球大気監視(GAW)局で二酸化炭素濃度の自動連続測定を行った。スマトラ島ジャンビ州パシルマヤン試験地において定期的に採取された土壌試料の安定同位体比(δ15N)の分析を進め,土壌有機物の質的経時な変化について考察した。また,土壌有機物のδ15Nが易分解性有機物(EDOM)の量的指標として有効であることを,現地の測定分析結果と比較して確かめた。検証したδ15NとEDOMの関係がパシルマヤン試験地以外の広域についても有効であるかを検討するため,δ15NとCO2放出フラックスの関係を解析した。その結果,CO2放出フラックスの地点間変動は,表層土壌有機物の無機過程の違いよりも,リターの分解過程の違いに由来するものと推定された。

 

(3)熱帯土壌からの温室効果ガスの発生・吸収要因の解明

熱帯アジアでの土地利用変化によって、炭素・窒素の物質循環や収支,特に温室効果ガスの放出・吸収量が大きく変化して地球温暖化に影響を及ぼしていると推測される。2001年度まで継続調査を行っていたインドネシア・スマトラ島中央部に位置するパシルマヤン試験地で,土地利用の異なる5つの固定試験地で土壌試料を採取し,雨季と乾季における土壌の変化の測定、N2O生成に関与するアンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌、脱窒菌の計数および脱窒活性の測定と、CH4吸収に関与するCH4酸化菌数の計数をおこなった。またCO2発生量に関係があると考えられる土壌糖量を定量し、CO2発生量と比較をおこなった。さらにパシルマヤン試験地周辺地域27地点において同様にガスフラックスの測定と土壌試料の分析をおこなった。パシルマヤン試験地の分析結果から、硝化過程がN2O生成の主過程であるという推論が支持され、硝化速度とN2Oフラックスの間に全球的に通用する関係が見いだされた。アンモニア酸化菌および亜硝酸酸化菌は伐採跡地で検出され、この地点におけるN2Oフラックスが硝化過程で発生しているという仮定と合致した。これらの硝化が従属栄養細菌によると推定された。これは今までに知られていなかった新しい知見である。脱窒菌の生息数は多くなく、脱窒によるN2O生成はそれほど重要ではないと考えられた。また27ヶ所の広域調査の結果、硝化速度に対するN2O生成速度はAndisols土壌で低いことが明らかになり、そのメカニズムの解明が急がれるとともに、Andisols土壌には新しいエミッションファクターを適用する必要があることが明らかになった。CO2フラックスとCH4フラックスは乾燥・湿潤という熱帯特有のサイクルに大きく影響を受け、パシルマヤン試験地では乾燥による微生物活動の阻害がCO2フラックスとCH4吸収フラックスを低下させていると考えられた。パシルマヤン試験地のCH4吸収フラックスは土壌の気相率と正の相関があった。しかし、広域調査の結果ではこの傾向は認められず、その原因は特定できなかったが、シロアリの影響が大きいと考えられる。CH4酸化活性とCH4酸化菌数の関係は明瞭ではなく、CH4フラックスを決定する要因についてはさらに解析が必要だと考えられた。また、土壌糖量を測定した結果から、土壌中の熱水抽出画分がCO2生成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。パシルマヤン試験地のCO2フラックスはリター量との相関が高く、CO2フラックスを森林のバイオマス量から推定する手法に可能性を見いだした。しかし、この関係は広域調査の観測にはあてはまらず、今後さらなる研究が必要と考えられる。

(4)生態系変化のデータベース化とスケールアップに関する研究

広域の温室効果ガスの収支を推定する場合、離散的にしか存在しないポイントデータを広域な面的データに変換する必要がある。このため、点データである観測データをスケールアップし、面的なデータとする手法の開発が必要である。熱帯地域の陸域生態系変化を把握するため、温室効果ガス(GHG)の定点現地測定を行っているインドネシアのスマトラ島ジャンビ州中央部のパシルマヤン地域のランドサットTMデータ(1999年4月9日,1995年6月17日,1993年6月11日の3時期)を入手し、現地調査結果と併せて、土地被覆変化の把握を行った。本プロジェクトで現地測定中間データ及び既存文献データにより、GHGフラックスについて土地利用毎の暫定値を決め、それぞれの年次での土地利用にGHGフラックス量を掛け合わせ、対象地域での放出量の推定を行った。さらに、土地利用変化の大きいスマトラ島ジャンビ州東部低地の1989年992年yび998年の土地被覆をランドサットTMデータにより明らかにし、この土地被覆面積と原単位の地上カーボン(C)量をかけあわせることにより、この研究対象地域内に貯蔵されているC量を推定する方法を確立した。離散的なポイントのデータを連続的な面的データに変換するためのスケールアップ手法確立のためのケーススタディとして、1992年と1993年の気候値を使って,自然植生の潜在炭素固定量を推定し,純一次生産力(NPP)マップを作成した。この世界のNPPマップから、気候学的熱帯のアジア全体について,耕地,草地,林地,その他の土地被覆ごとに集計を試みた。本プロジェクトにおいては、2001年9月に、スマトラ島ジャンビ州での広域GHGフラックス地上観測を実施しており、この広域観測時に撮影された写真について、データベースの知識が無くても簡単に使用できうる画像データベースを完成させた。

 

(5)アジアの農耕地から発生する窒素酸化物の抑制技術

亜酸化窒素(N2O)は主要な温室効果ガスの一つであり、一酸化窒素(NO)は対流層オゾンの生成と酸性雨に関与している。農耕地への窒素肥料の投入は、これらのガスを大気中に放出するので、今後窒素肥料使用量の増大が予測されるアジア地域で、それらのガスの発生量を減少させる技術の開発が強く要求されている。(1)そこで、肥料として通常肥料と被覆肥料を、また施肥方法として全面全層施肥法と溝状に局所的に施肥する方法を対象として、それらの方法が収量およびN2OとNOの放出量に及ぼす影響を明らかにするため、黒ボク土壌の畑圃場で調査を実施した。つくばの農業環境技術研究所のハクサイ畑(投入窒素量は25 gN m-2)で、1999年9月から2000年3月までと2000年9月から12月までの2回にわたり、密閉チャンバー法を用いて亜酸化窒素(N2O)と一酸化窒素(NO)のフラックスを測定した。処理区は、尿素全面全層施肥区、尿素溝状施肥区、被覆尿素溝状施肥区であり(対照として無施肥区を設定)、2000年秋の調査ではさらに、尿素溝20%減量施肥区と被覆尿素溝20%減量を設定した。これらの調査から、尿素肥料(25 gN m-2)の全面全層施肥に対して被覆尿素を溝状にその20%だけ減量して施肥すれば、収穫量を減少させずにN2O総発生量を約20%削減できることが明らかになった。またNO発生量は、溝状に施肥すれば、土壌中での吸収により全面全層施肥に比べて50%以上も削減できた。さらに、作物の収穫物残さがN2Oの大きな発生源になっていることが明らかになった。(2)アジアの農耕地土壌におけるこれらのガス発生ポテンシャルを解明するために、中国の農耕地土壌の硝化、脱窒能を、室内実験で求めた。中国の畑地と水田から12種類の農耕地土壌を採取して、同一実験条件で各土壌の硝化活性および脱窒活性を比較した。その結果、硝化速度は土壌pHによって大きな影響を受けることが判った。添加されたアンモニアは、C/N比の高い黄土のサンプルを除いて、アルカリ土壌(pH≧8)では、最初の1週間に硝化され、また同時にN2OおよびNOを大量に放出した。酸性土壌(pH<5.0)では、硝化速度は遅かった。酸性水田の赤土を除いて、全ての土壌サンプルの脱窒活性は、硝化活性と比較すると、低かった。硝化実験におけるN2Oの初期1週間内の総放出量は、NOおよび CO2 の初期1週間内の総放出量と強い相関がみられたが、2-3週間内の総放出量との間には相関はみられなかった。脱窒実験からのN2O放出量も、CO2放出量と強い相関がみられた。

 

(6)国際ワークショップの開催

2002年2月1921日に、「熱帯地域の土地利用変化と温室効果ガス、土壌炭素と栄養分のサイクル」に関する国際ワークショップを、つくばで開催した。本研究の共同研究者であるインドネシアの研究者を中心に、アフリカおよびアメリカなどから外国研究者を13名招待するとともに、日本の研究者も多数参加し、アジア、アフリカ、アメリカの熱帯地域における土地利用変化と温室効果ガスの発生などに関して、最新の成果を発表するともに、パネル討論を行った。このワークショップで、インドネシアの熱帯林からの亜酸化窒素の発生が、他の熱帯地域よりも小さいことが明らかになり、その原因についても熱心な討議が行われた。これらの成果は、科学誌の特集号として、1年後に出版することが決定された。

 

4.考察

 

 湿潤熱帯林や泥炭湿地が消失して農耕地やプランテーションになるという土地利用変化の激しいインドネシアを研究対象地域として、1996年度から計6年間、これらの土地利用変化による温室効果ガスの発生・吸収量の現地測定と、その発生・吸収を制御する要因についての室内実験、さらに、広域データベース作成やスケーリングアップ手法開発のためのリモートセンシングデータ解析などに関して、インドネシアの多くの研究者と共同研究を実施した。その結果、これまでに他の中南米などの熱帯地域で得られた結果と大きく異なる、次のような研究成果が得られた。

(1) 湿潤熱帯林が伐採・焼却されてゴム園などに変化する過程で、土壌からの亜酸化窒素(N2O) の発生が急増したが、2年半後には伐採以前のレベルまで減少した。これまで中米で熱帯林が牧草地に変換するとN2O の発生が約10年間継続したという結果に対して、本研究では土壌の回復速度がそれよりも速い結果が得られた。

(2) このN2Oはおもに硝化過程で生成され、硝化速度とN2Oフラックスの間に全球的に適用する関係が見いだされ、これらの硝化が従属栄養細菌によると推定された。これは今までに知られていなかった新しい知見である。

(3) 硝化速度に対するN2O生成速度は、Andisols土壌では他の土壌タイプより小さいことが明らかになり、そのメカニズムの解明が急がれるとともに、Andisols土壌には新しいN2O排出係数を適用する必要があることが明らかになった。

(4) これらから、インドネシアの湿潤熱帯林土壌からのN2O発生量は、他の熱帯地域からの発生量に比べて非常に少ないことが、はじめて明らかになった。

(5) 熱帯アジアに存在する泥炭湿地からのメタン(CH4)発生は、他の熱帯のアマゾン地域や温帯・冷温帯地域の泥炭湿地よりも非常に小さいことが初めて明らかになった。一方、N2Oは、泥炭湿地を畑作へ変換することによって増加する傾向が見られ、特に非湛水田で大きい放出量が認められた。

(6) インドネシアの東カリマンタンのサマリンダで炭素収支に関する総合観測を実施し、生態系純生産量(NEP)、あるいは生態系純交換量(NEE)を概算した。その結果、NEENPPはほぼ同量となり、それぞれ年々増加していることが熱帯地域ではじめて明らかになった。

(7) これらの現地測定は局所的なので、その結果を用いて広域に推定する手法をつぎのように開発した。温室効果ガスの定点現地測定を行っている試験地の3時期におけるランドサットTMデータを入手し、現地調査結果と併せて、土地被覆変化の把握を行い、現地のフラックスデータを用いて、温室効果ガスフラックスについて対象地域での放出量を面的に推定する手法を開発した。また、ジャンビ州東部低地の泥炭湿地での土地被覆変化をランドサットTMデータにより明らかにし、この研究対象地域内に貯蔵されている炭素量を推定する方法を確立した。

 これらの結果は、IPCCがまとめている世界における温室効果ガスの発生量推定の中で、熱帯林土壌からのN2O発生量と熱帯湿地からのCH4発生量は、過大評価していること、また、森林と土地利用変化による温室効果ガスの発生・吸収量推定に対しても新たな知見が見いだされたこと、などを示している。今後は、さらに詳しい解析を行うとともに、これらの成果をさらに発展させる調査研究を実施することが強く望まれる。

 

5.研究者略歴

 

課題代表者:鶴田治雄

  1941年生まれ、東京大学理学部卒業

  現在農業環境技術研究所地球環境部温室効果ガスチーム長

 主要論文:

 Tsuruta, H. and H. Akiyama: NO and N2O emissions from upland soils with the application of different types of nitrogen fertilizer, in Proceedings of Second International Symposium on Non-CO2 Greenhouse Gases: Scientific Understanding, Control and Implementation, Noordwijkerhout, The Netherlands, 8-10 Sep. 1999, 277-282 (2000)

 鶴田治雄:

  地球温暖化ガスの土壌生態系との関わり:3.人間活動による窒素化合物の排出と亜酸化窒素の発生、日本土壌肥料学雑誌、71554-564 (2000).

 Cai, Z.C., H. Tsuruta, X. Rong, H. Xu, Z. Yuan: The effect of growing green manure in  the winter season on CH4 emissions from rice fields, Biogeochemistry, 56, 75-91 (2001)

 

サブテーマ代表者

(1):鶴田治雄(同上)

(2):蒲生 稔

 1943年生まれ、京都大学大学院理学研究科終了

 現在産業技術総合研究所環境管理部門 主任研究員

 主要論文:Gamo,M.: Identification of soil degradation areas based on vegetation index and aridity index. Green Age 2000,19,6-10.

 蒲生 稔:気候と植生から見た乾燥域の分類、沙漠研究 1999 9-1, 17-26

(3):石塚成宏

 1966年生まれ、東京大学農学部卒業

 現在森林総合研究所北海道支所植物土壌系グループ主任研究官

 主要論文:Ishizuka, S., Sakata, T. and Ishizuka, K. (2000) Methane oxidation in Japanese forest soils. Soil Biol. and Biochem. 32, 769-777

 石塚成宏・阪田匡司・谷川東子・石塚和裕(2000)落葉広葉樹林におけるN2O生成とその空間的異質性,日本林学会誌 82, 62-71

 Ishizuka, S., Sakata, T. and Ishizuka, K. (1998) CO2, CH4, N2O fluxes on Japanese deciduous and coniferous forest soils, Proceeding of the XVIth world congress of soil science

(4):斎藤元也

 1946年生まれ、山形大学大学院農業研究科終了、農学博士

 現在、農業環境技術研究所 地球環境部生態システム研究グループ グループ長

 主要論文:斎藤元也:農業分野のリモートセンシング,日本リモートセンシング学会誌, vol.21, 78-81(2001)

 T. Murakami, S. Ogawa, N Ishitsuka, K. Kumagai and G. Saito: Crop discrimination with multitemporal SPOT/HRV data in the Saga Plains, Japan, Int. J. Remote Sensing,vol.22, 1335-1348(2001)

 村上拓彦・斎藤元也・小川 進・石塚直樹:VSW指数を応用した水稲作付面積推定、日本リモートセンシング学会誌,vol.21, 330-341(2001)

(5):鶴田治雄(同上)