課題名

A-2 オゾン層破壊物質及び代替物質の排出抑制システムに関する研究

課題代表者名

浦野紘平 (独立行政法人国立環境研究所非常勤研究員 横浜国立大学大学院環境情報研究院)

研究期間

平成11−13年度

合計予算額

92,233千円 (うち13年度  28,994千円)

研究体制

(1)廃自動車等からのフロン類の回収システムとハロン類の分解技術システムに関する研究
 ’兌動車からのフロン類の回収・再利用・分解の社会システムに関する研究

  (独立行政法人国立環境研究所)

 廃業務用機器からのフロン類の回収・再利用・分解の社会システムに関する研究

  (豊橋技術科学大学)

 ハロン類の安全確実な高温分解技術システムに関する研究(横浜国立大学)

 ぅ侫蛋如臭素系化合物の高温分解に伴うダイオキシン類縁物質の排出抑制技術システムの開発

  (京都大学)

(2)廃家電品からのフロン類の回収システムに関する研究(独立行政法人国立環境研究所)

(3)フロン類の低温プラズマ法による分解技術システムに関する研究

  (独立行政法人産業技術総合研究所)

(4)臭化メチルと代替物質の放出抑止技術システムに関する研究

  (独立行政法人農業環境技術研究所)

(5)検疫用臭化メチルの代替技術システムに関する研究(独立行政法人食品総合研究所)

研究概要

1.序

  フロン類、ハロン類、臭化メチルなどによるオゾン層の破壊は確実に進行し、従来推算されていた以上に長期間影響が続くと予想されてきている。また、これらは地球温暖化にも大きな影響を与えている。しかし、日本にはフロン類を使った製品が使用され続けており、その回収や分解無害化が十分進んでいない。フロン類の回収や分解については、すでに実用できる技術があるが、社会システムがうまく機能していない状況にある。また、オンサイトでの分解技術がない状況にある。一方、消火剤としてのハロン類も約400年分の使用量に相当する量が保管されたままであり、安全で確実な分解技術を確立する必要があるが、ハロン類の分解反応や分解時の副生成物質などについての研究は非常に少なく、また実際の設備での分解事例や最適化の研究も少ない現状にある。さらに、農業用及び検疫用の殺菌・殺虫剤として使われている臭化メチルも適切な排出抑制技術や代替技術およびその選択方法や普及方法が確立されていない状況にある。
とくに、平成12年度には、家電リサイクル法の施行やモントリオール議定書締約国会議でのCFCs削減計画の提出義務づけや臭化メチルの規制強化が進み、平成13年度には、フロンの大気中への放出を禁止するとともに、機器の廃棄時における適正な回収及び破壊処理の実施等を義務づけたフロン回収破壊法が成立し、平成144月から施行され、本研究の重要性が一層増大した。

 

2.研究目的

  本研究では、排出が続いているフロン類、代替フロン類、ハロン類および臭化メチルなどのオゾン層破壊や地球温暖化に影響する物質及びその代替物質について、大気への排出を従来より大幅に削減するための使用・回収・分解・代替の現実的な新しい技術システムを開発、確立すると同時に、それらの技術を実用するための社会システムの現状を解析し、あるべき姿とそれを実現するための現状改善の方法を提示するために、下記事項を目的とした。

(1)フロン類の回収・破壊のための最適な社会システムを設計するために、ライフサイクルアセスメント手法を用いて想定される技術システムについて評価し、併せて技術的、経済、社会制度的側面から見た回収・処理ルート、関係者の役割分担のあり方について検討する。

(2)臭素系オゾン層破壊物質の実験室規模の装置での高温分解を行い、分解温度、炭化水素濃度、酸素濃度、滞留時間等が高温分解に与える影響を明らかにし、分解反応速度式を推定し、高温分解特性を明らかにするとともに、実際の焼却施設等での最適な分解条件と技術システムを明らかにする。

(3)ハロンの処理および非意図的な燃焼を視野に入れ、スクラバや活性炭吸着塔を備えたラボスケール炉でハロンと廃棄物の混焼試験を行い、ハロンの分解効率を調査するとともにポリ臭素化ダイオキシン類(PBDDs/DFs)等の副生成物の挙動を調査する。

(4)低温プラズマ分解法における問題点の抽出とその解決法について検討を行い、最適操作条件を解明し、本技術の実用化の可能性を総合的に評価する。

(5)臭化メチルと代替薬剤の使用方法、使用量等の実体を把握するとともに、日本で一般的に行われている土壌くん蒸方法に適した薬剤施用量と大気放出量の削減技術を開発する。さらに土壌くん蒸剤使用地域周辺における大気中くん蒸剤濃度の連続モニタリング方法を検討し、環境影響を評価する。

(6)検疫用臭化メチルの代替技術として二酸化炭素を高圧で処理し、貯穀害虫の完全駆除に要する圧力と時間条件を決定し、高圧二酸化炭素処理が穀類の品質におよぼす影響を調査するとともに、より低圧での殺虫処理を目指して、二酸化炭素以外のガスの効果を調査する。

 

3.研究の内容・成果

(1)廃自動車等からのフロン類の回収システムとハロン類の分解技術システムに関する研究

’兌動車からのフロン類の回収・再利用・分解の社会システムに関する研究
 全国におけるフロンの長期的な廃棄量を時系列的に予測するとともに、都道府県別の面的な廃棄量分布を推定した。また、カーエアコンからのフロン類の回収・破壊状況を、文献調査及びヒアリング調査することで、現状と問題点を明らかにした。この結果、カーエアコンの冷媒に使用されているフロン類については、業界団体や解体業者などにより一部が回収されていることが明らかとなった。一方、廃家電製品、業務用冷凍空調機器については廃棄として発生するフロン類の総量を経年的に把握し、この中で家電製品の廃棄により排出されるフロン類の割合を明らかにした。カーエアコンの寄与率は、フロン類の総廃棄量の15%程度を占めることから、オゾン層破壊防止及び地球温暖化防止の観点から、確実な回収・破壊システムの構築が必要であることを示した。また、回収したフロン類を廃棄物焼却施設において破壊することを仮定して、フロン類の総廃棄量(廃家電、業務用冷凍空調機器由来のものを含む。)と破壊可能量を比較した。その結果、既存の廃棄物焼却施設を活用することで、十分な破壊能力が得られることが明らかとなった。さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて、フロン類の回収・破壊システムを評価した。インパクトカテゴリ別ではオゾン層の破壊及び地球温暖化に対する影響が大きい。特定フロンは、オゾン層の破壊と地球温暖化への影響が大きいことから特に確実な回収・破壊が求められ、代替フロンについても地球温暖化防止の観点から回収・破壊が必要であることを示し、とくに大気放散による環境負荷が最も大きいことから、環境負荷を低減するためには回収率の向上が重要なポイントであることを示した。

廃業務用機器からのフロン類の回収・再利用・分解の社会システムに関する研究
 業務用冷凍空調機器の収集フロン抜取運搬フロン分解にかかる費用の試算を行い、回収費用の側面からフロン回収システムの問題点を明確にし、得られた結果から回収システムの改善について検討した。
 業務用冷凍空調機器の現状のフロン回収システムについて調査し、その回収費用の試算方法を構築した。その結果、フロン回収に必要な回収費用は、人件費と回収装置の減価償却費が大きな割合を占めていて、回収を促進するには回収装置のレンタル制度などの充実による回収装置の減価償却費の低減が効果的であるということを得た。現状では効果的なフロン回収促進のための対策鞫gみが行われていないので、回収作業時間短縮のための技術指導やフロン回収費用負担者の明確化、回収装置の性能向上・価格低下などが必要である。
 次に、業務用冷凍冷蔵機器に関して、使用業種および使用機器種からフロンストック量を使用業種別ストック量に配分し事業所数を指標とする地域係数を乗じることによって、業務用空調機器に関しては建物床面積から、フロンストック分布量を推計する手法を開発した。フロンストック分布量より、回収対象地域における回収対象量や収集距離を考慮した回収システムにおける費用演v算でき、保管拠点選定に役立てることができることを示した。

ハロン類の安全確実な高温分解技術システムに関する研究
 3種類のハロンと臭化メチルについて、高温分解を行い、分解温度、炭化水素濃度、酸素濃度、滞留時間等が高温分解反応に与える影響を検討し、分解反応速度式を推定した。その結果、炭化水素が共存しない場合には、ハロン1301、ハロン2402の分解反応速度は1次式で表せ、頻度因子、活性化エネルギーを求めることができた。ハロン1211と臭化メチルの分解反応は単純な分解反応速度式で表すことができなかった。また、ハロン類と臭化メチルの分解性を比較したところ、臭化メチル>ハロン2402>ハロン1211>ハロン1301の順で分解しやすいことが分かった。炭化水素が共存した場合には、いずれのハロンも分解が促進された。そこで、ハロンの中でも特に使用~積量が多く、分解しにくいハロン1301について、ハロンの熱分解と酸化分解、炭化水素の熱分解による有機ラジカルの生成とラジカルの酸化、ハロンと有機ラジカルとの反応、生成した有機ラジカルの酸化、ハロン分解で生成した臭素ラジカルによる有機ラジカルの消費の各反応が起こっているとしてハロンの総括分解反応速度式を推定し、推定した式が適用できることを確認した。さらに、各炭化水素(トルエン、プロパン、ヘプタン、ドデカン)における総括分解反応速度式の各パラメータ値が求められ、任意の条件での分解率が予測できるようになった。
 分解に伴う副生成物質を調べたところ、炭化水素共存の有無によらず、揮発性有機ハロゲン化合物の生成は認められなかった。また、炭化水素がハロン導入濃度に対して過剰に存在すれば、ほとんど一酸化炭素は生成しなくなることが分かった。
 室内実験の結果を参考にして、実際の廃棄物焼却処理施設で3種類のハロンと臭化メチルの分解処理実験を行った。その結果、ハロン1211、ハロン2402、臭化メチルについてはいずれも十分に分解できたが、ハロン1301を直接導入すると、炉内濃度が高い部分で消火効果が現れ、一酸化炭素濃度が上昇し、分解率が安定しない場合があった。そこで、導入量と導入方法を検討し、廃棄物量の1%程度、平均ガス中濃度100ppm以下となるように、空気と十分に予混合して導入すれば、高い分解率が得られることを明らかにした。

ぅ魯蹈殴鷁醜臺の焼却分解に伴うダイオキシン類縁化合物の排出抑制技術システムの開発
 ラボスケールの燃焼炉を用いて、パーソナルコンピューター(PC)のケーシングを試料とした燃焼試験、さらにはこの試料に消火剤として使用されてきたハロンを添加した燃焼試験を行い、燃焼過程でのハロンの分解効率、また処理に伴い発生した副生成物の挙動をガスの流れに沿った数ヶ所のサンプリングポイントで測定することにより把握した。
 ハロンの分解効率について、混焼試料が難燃剤を含む上、ハロン添加量は投入試料重量比で8.9%と高い比率であったが、99.996%と良好な分解率を示した。ダイオキシン類は、PC試料中に特にPBDDs/DFsppmレベルで含有されていた。総排出量は0.0016 mg/kg試料であった。この排出量の全量が焼却残渣によるものであり、この系での分解率は99.995%であった。次に各測定ポイントでの濃度変化をみると、二次燃焼炉出口までに99.99%分解したPBDDs/DFsが冷却塔出口では若干上昇していた。しかし、吸着塔を経ることにより最終排ガスでは定量下限未満まで減少した。燃焼抑制効果を持つハロンを添加したが、PC系列と比較してPBDDs/DFsの総排出量に差は認められなかった。塩素化ダイオキシン類については、臭素化ダイオキシン類と比較して試料中には低い濃度で含有されていたが、PC系では二次燃焼炉出口において10倍近い濃度上昇が認められた。しかし、ハロンを添加している以外は同一条件のPC+ハロン系では濃度上昇が認められず、また、二次燃焼炉における塩素、塩化水素濃度に大きな差は認められなかった。
 全体としてハロンの分解効率は99.99%以上であり、有機ハロゲン物質、無機ハロゲン化物の総排出量は全て流入量を下回った。また、主要な排出経路としてはハロゲン化水素などガス体の物質を除き、ほとんどの場合、焼却残渣によるものであった。また、一部酸性ガス、およびブロモフェノールについては濃度によって、スクラバ、活性炭吸着塔での除去効率が低い場合があり、特にこれらの有機臭素系難燃剤やハロン熱的処理に際しての薬剤量などには注意が必要であ
ることが分かった。

(2)廃家電品からのフロン類の回収システムに関する研究
 全国におけるフロン類の長期的な廃棄量を時系列的に予測するとともに、都道府県別の面的な廃棄量分布を推定した。また、家電製品からのフロン類の回収・破壊状況を、文献調査及びヒアリング調査することで、現状と問題点を明らかにした。この結果、冷蔵庫の冷媒に使用されているフロン類については、リサイクル施設で回収されているが、断熱材に使用されているフロン類については、回収が行われていない施設が相当数あることが明らかとなった。
 また、家電製品に加えて自動車カーエアコン、業務用冷凍空調機器の廃棄により発生するフロン類
の総量を経年的に把握し、この中で家電製品の廃棄により排出されるフロン類の割合を明らかにした。家電製品の寄与率は、フロン類の総廃棄量の30%台を占めることから、オゾン層破壊防止及び地球温暖化防止の観点から、確実な回収・破壊システムの構築が必要である。
 さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて、フロン類の回収・破壊システムを評価した。インパクトカテゴリ別には、オゾン層の破壊の影響が大きく、地球温暖化に対する影響も無視できない。特定フロンは、特に影響が大きいことから確実な回収・破壊が求められているが、シクロペンタンについては回収・破壊を行うことにより環境負荷が大きくなるという結果となった。工程別には大気放散による環境負荷が最も大きいことから、環境負荷を低減するためには回収率の向上が重要なポイントである。製品別には、家電リサイクル法で回収・破壊が位置づけられていない冷蔵庫の断熱材に使用されているフロン類の影響が大きいことが明らかとなった。

(3)フロン類の低温プラズマ法による分解技術システムに関する研究
 低濃度フロン類(FCs:200-1000ppm)に対しては、強誘電体充填型反応器 (FPR)、無声放電型反応器 (SDR)、パルスコロナ型反応器 (PCR) により、 CH2F2 (HFC-32)CHF3 (HFC-23) CF4 (PFC-14) の分解実験を実施し、プラズマ発生法がFCsの相対反応性に与える影響、バックグラウンドガス組成やH2OFCsの分解反応性と副生成物分布に与える影響などについて検討した。上記いずれの反応器を用いてもH2Oは分解率に対して負の効果を示した。FPR SDR の場合と異なり PCR を用いた場合には、FCsの反応性が塩素系 VOC に比べて相対的に低くなる傾向が認められた。FPR を用いたときには、H2O2を窒素に混合することによりフッ素系炭化水素の分解率は低下したが、SDR を用いたときには、酸素共存系で高い分解率が得られた。系中に発生した活性酸素種によりFCsの酸化分解が促進されたものと考えられる。分解生成物の HF 等は CaCO3 吸収管により完全に除去されることがわかった。
 一方、高濃度FCsに対しては、分解の容易さはCHClF2 (HCFC-22) > CHF3(HFC-23) > CClF3(CFC-13)CCl2F2(CFC-12) > CF4 (PFC-14)の順になること、共存物質の効果については希薄濃度の場合とは異なり、H2OO2H2等により、反応効率が向上することを見出した。同時に、プラズマ発生方式に関しては、周波数24kHzの電源を用いた沿面放電型反応器(SPR)が他の周波数の電源を用いた同反応器やFPRよりも分解能力の高いことが明らかになった。さらに、触媒効果を期待して反応器にTiO2を導入したところ、効率が向上することが明らかになった。これらの効率向上の要因としては、分解されたFCのフラグメントがCF4等の他の安定なFCを再生する前に、TiO2、共存物質及びそこからから生じる酸素種や水素種と反応するため、反応効率が向上すると考えられた。

(4)臭化メチルと代替物質の放出抑制技術システムに関する研究
 土壌くん蒸からの臭化メチルの処理量と大気放出量を削減するため、二酸化チタン光触媒含有積層シートを作成し、夏季における実証試験を行った。二酸化チタン光触媒含有積層シートを用いることで、大気への放出量は、処理量(32.8g/m2)0.9%にまで削減でき、対照として行ったガスバリアー性フィルムの場合でも3.7%に削減できた。一般に用いられているポリエチレンフィルム(厚さ:0.05mm)で行った結果では、処理量の63.8%に達していた。この被覆資材の改良による大気への放出量削減技術は、これまで農家が行ってきた土壌くん蒸処理作業と同様に行えること、新たな機械類を要しないことが特徴である。また、被覆資材下部の臭化メチルの濃度時間積から、現行の処理量(30g/m2)の23程度にまで削減の可能性があることが示された。また、臭化メチルを含めた土壌くん蒸剤の大気中濃度連続一斉モニタリング方法を検討し、カーボン系吸着剤を充填した捕集管による大気捕集と、熱脱離導入装置を備えたガスクロマトグラムイオントラップ質量分析計の最適化を行った。茨城県下の園芸地帯の阿見町と伊奈町で200025月に、鉾田町で911月に大気環境中くん蒸剤濃度の推移を測定した。阿見町では1,3-ジクロロプロペンが頻繁に検出され、最大で600mg/m38時間加重平均濃度)を越えた。伊奈町のサンプリング地点は苗生産農家に隣接しており、臭化メチルが土壌くん蒸処理ごとに頻繁に検出され、最大で900mg/m3を超えた。鉾田町では1,3-ジクロロプロペンとメチルイソチオシアネートが数mg/m3以上の濃度で測定期間中常に検出された。さらに、土壌くん蒸処理されたクロルピクリンと1,3-ジクロロプロペンの大気放出量を、実際の農耕地条件下で評価する方法の確立と、大気放出量を評価した。処理直後には、くん蒸剤の地表面への拡散が進んでいないため、大きな放出は観測されなかったが、処理2日後にクロルピクリンで353mg/m2/h1,3-ジクロロプロペンで160mg/m2/hの最大の放出フラックスが観測され、その後漸減していった。被覆期間が13日間と長かったため、被覆期間中に被覆資材を通した大気放出と土壌中での分解が進行し、被覆資材撤去時に大きな
放出フラックスは観測されなかった。有効成分処理量に対する積算放出量割合は、クロルピクリンで24.6%、1,3-ジクロロプロペンで16.6%となることを示した。

(5)検疫用臭化メチルの代替技術システムに関する研究
検疫用臭化メチルの代替技術として、高圧二酸化炭素と各種ガスによる貯蔵食品害虫に対する殺虫法を検討した。まず、二酸化炭素を高圧で処理し、貯穀害虫の完全駆除に要する圧力と時間条件を決定すると共に、高圧二酸化炭素処理が穀類の品質におよぼす影響を調査した。内麦を加害中のコナナガシンクイ幼虫に対しては30kg×5分の処理で完全に殺虫できた。外麦、トウモロコシでも同様であり、特にトウモロコシの場合は15,20,25,30kgいずれの圧力でも10分以上の処理で完全に幼虫を殺虫できた。コクゾウムシでは内麦に産卵された卵に対しては30kg×5分の処理で完全に殺すことができた。内麦を加害中の幼虫に対しては20kg×10分、25kg×5分、30kg×5分の処理で完全に殺すことができた。また、処理コムギおよび無処理コムギについて品質の違いを調査したが、内麦、外麦ともに差は認められなかった。
 次に、常圧および高圧(15kg/cm2圧程度)において、ホスフィンおよびフッ化スルフリルの単独および混合使用の殺虫効果を調査した。常圧においてはグラナリアコクゾウムシおよびコクゾウムシ卵に対して、ホスフィンPH3 (2mg/l)とフッ化スルフリルSO2F2 (30mg/l)の混合ガスは完全な殺虫効果を示し、コクゾウムシ幼虫においても、ホスフィンとフッ化スルフリルおよび両者の混合ガスは完全な殺虫効果を示すことを明らかにした。さらに、ヨウ化メチルCH3Iは低濃度(5mg/l以下)でコクゾウムシの卵・幼虫・蛹を完全に殺虫できた。また15kg/cm2圧において、グラナリアコクゾウムシの蛹に対する従来の炭酸ガス単独処理の殺虫効果が不完全だったのに比較して、ホスフィン(0.1mg/l)、フッ化スルフリル(5mg/l)それぞれ単独、および両者を混合した場合、短時間、低濃度で完全な殺虫効果を示すことなどを明らかにした。

4.考察 
 平成11年度に始まった本研究は、2年目の12年度になって収集された情報の解析、新しい評価方法の提案、新しい分解処理や代替化の適切な条件など、具体的な成果がはっきりと得られてきた。しかし、国際的な動きが活発化し、また国内での関連法規の整備等も進み、オゾン層破壊物質であるフロン類等が地球温暖化物質としても非常に大きな問題となってきた。
 これらのことを踏まえて、平成13年度には、廃家電品・廃自動車・廃業務用機器からのフロン類の回収・破壊の社会システムに関する研究では、既存の社会システムの解析を一層進めるとともに、フロン・ハロンの分解技術システムと臭化メチル代替薫蒸技術に関する研究では、得られた基礎研究から、経済性と安全性の両立する技術を確立し、実用化に向けての検討を行い、オゾン層破壊物質及び代替物質の排出抑制システムの構築のための有用な成果が得られた。
(1)´△よび(2)については、フロン類を回収・破壊した場合の環境負荷は、2001年が最も大きく、年を経るごとに小さくなっていくことが分かり、今後、早急な回収・破壊体制の構築が求められた。破壊については、既存の廃棄物処理施設の活用をベースとしたシステム整備が効率的であり、回収については、破壊工程に比べて100倍以上のフロン類が排出されていることから、回収技術の開発が不可欠である。
 とくに、カーエアコンについては、冷蔵庫の冷媒フロンに比べて、地球温暖化で約3倍、オゾン層の破壊で約2.5倍の環境負荷が生じ、回収主体が自動車解体業者など小規模に分散することが予想されるため、処理台数と回収量に関する申告制度や回収に対する経済的なインセンティブなど、確実な回収・破壊のためのシステムの構築が求められる。今後は、その影響力の大きさを考慮すると断熱材の早急な対応が求められる。
 業務用機器からのフロン回収システムについては、抜取工程の人件費と抜取装置の減価償却費に大きく影響していることが分かり、これら費用の低減が効果的である。今後、抜取装置の性能向上、レンタル制度の充実などの対策が考えられる。また、作業者の技術指導や抜取装置の性能向上による耐用年数の長期化、回収費用及びその負担者の明確化も必要である。
 また、フロン回収には、関係者間のコンセンサス形成が最も重要で、特に、今後は回収の必要性などの情報が国民全体に普及していくシステムを構築することが期待される。
(1)い砲弔い討蓮得られた基礎的な知見から実際の産業廃棄物焼却施設での安全、確実に分解できる最適条件を明確にできたことから、今後、さらに各施設での適切なハロン類の導入方法を明確化するなど、全国の既存の施設での実用化を普及することが重要である。また、ハロン分解による生成が懸念される臭素化ダイオキシン類をはじめとする有機臭素化合物の測定・監視方法を確立し、生成抑制条件をより明らかにしていくことが望ましい。
(3)については、種々の反応条件、プラズマ反応器を用いてフルオロカーボン類の分解反応を試みた結果、希薄濃度フルオロカーボン類の低温プラズマ分解では無声放電型反応器の使用が、また高濃度フルオロカーボン類では沿面放電型反応器の使用が推奨された。しかし、最近の急激な技術開発や社会情勢の変化に伴い、CFC処理のコストパフォーマンス、装置の規模等を総合的に判断すると、本技術は競合技術の適用範囲と重複しない、室内環境に拡散した希薄濃度FCs、あるいはスクラバー施設が整備されている半導体工場等のHFCPFCなどのオンサイト処理施設としての開発が、望ましい方向と考えられる。
(4)については、臭化メチルの処理量と大気放出量削減に、二酸化チタン光触媒含有積層シートが有効であることが分かり、今後、これらの放出抑制技術の普及方法を検討する必要がある。また、代替薬剤の使用地域における大気中濃度を連続的にモニタリングしたところ、予想以上に大気汚染が進行していることを確認できた。今後は、大気中くん蒸剤濃度の監視が重要であり、土壌くん蒸剤全般に関わるリスクの評価、管理および削減が必要である。
(5)については、検疫用臭化メチルの代替技術として、高圧二酸化炭素による殺虫法は小麦の品質には影響を与えず、有効であり、さらに、ホスフィン・フッ化スルフリル・ヨウ化メチルなどの各種ガスによる常圧での殺虫処理は、施設にコストがかからずに簡便であることが分かった。今後は、これらの適用範囲をさらに明らかにして、実用化に向けたコスト試算などを行うことが望ましい。

5.研究者略歴

課題代表者:浦野紘平
1942年生まれ、東京工業大学博士課程修了、工業技術院公害資源研究所、
現在、横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、国立環境研究所非常勤研究員併任
主要論文:
1)浦野紘平,加藤みか,田崎智宏,木村ちづの,ロータリーキルン式産業廃棄物焼却施設によるフロン類の分解処理,廃棄物学会論文誌,8225-234 (1997)
2)K.Kato, K.Urano: Development of semi- and nonvolatile organic halogen as a new hazardous index of flue gas, Environ. Sci. Technol., 34(19), 4071-4075 (2000)
3)K.Kato, K.Urano: Convenient Substitute Indices to Toxic Equivalent Quantity for Controling and        Monitoring Dioxins in Stack Gas from Waste Incineration Facilities, Waste Management, 21(1),55-62 (2001)

サブテーマ代表者
(1) 中杉修身
 1944年生まれ、東京大学工学系大学院合成化学専攻博士課程修了、国立環境研究所化学環境部長、現在、独立行政法人国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター長、筑波大学社会工学系教授併任
主要論文: 
1)中杉修身: 化学物質対策法の現状と課題, ジュリスト, 増刊1999.5, 171-175 (1999)
2)A.Yasuhara, H.Shiraishi, M.Nishikawa, T.Yamamoto, O.Nakasugi et.al.: Organic Components in Leachates from Hazardous Waste Disposal Sites, Waste Manage. Res., 17,186 (1999)
3)中杉修身: 化学物質汚染のリスクとその管理, 21世紀の環境予測と対策, 69 (2000) 丸善

◆藤江幸一
 1951年生まれ、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了、東京工業大学資源化学研究所助手、横浜国立大学工学部物質工学科助教授、現在、豊橋技術科学大学エコロジー工学系教授
主要論文: 
1)後藤尚弘, 内藤ゆかり, 胡洪営, 藤江幸一: 地域ゼロエミッションを目指した愛知県物質フローの解析, 環境科学会誌, 14(2), 211-220 (2001)
2)藤江幸一, 後藤尚弘, 宮田譲, 迫田章義, 花木啓祐, 原科幸彦, 森俊介, 柳憲一郎, 池田伸, 羽野忠, 吉田弘之: ゼロエミッションを目指した地域物質循環ネットワークの構築とシナリオ策定手法, 環境科学会誌, 14(4), 391-401 (2001)
3)N.Goto, H.-Y.Hu, Lim B.-R. and K.Fujie: Analysis of material and energy consumption flow in sewage treatment facility in Japan, Environmental Technology, 22, 487-496 (2001)

:浦野紘平 (同上)

ぁЧ盞遏々
 1941年生まれ、京都大学工学部大学院博士課程修了、京都大学工学部助手、京都大学環境保全センター助教授、現在、京都大学環境保全センター教授
主要論文:
1)高月紘: 大学等研究機関における有害物質の管理システム, 文部省科学研究費 10898020 基盤研究研究報告書 (1999)
2)H.Takatsuki, S.Sakai: Environmental Impacts due to Municipal Solid Waste, Proceedings of International Solid Waste Association, World Congress (2000)
3)S.Sakai, S.Urano, H.Takatsuki: Leaching behavior of PCBs and PCDDs/DFs from some waste materials, Waste Management, 20, 249-258 (2000)

:酒井伸一
 1955年生まれ、京都大学大学院工学研究科博士課程修了、京都大学工学部数理工学科助手、京都大学環境保全センター助教授、現在、独立行政法人国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長
主要論文:
1)S.Sakai, M.Hiraoka, N.Takeda, K.Shiozaki: Coplanar PCBs and PCDDs/PCDFs in Municipal Waste Incineration, Chemosphere, 27(1-3), 233-240 (1993)
2)酒井伸一, 出口晋吾, 浦野真哉, 高月紘, 恵和子:琵琶湖および大阪湾底質中のダイオキシン類に関する歴史トレンド解析,環境化学, 9(2), 379-390 (1998
3)Sakai,S., Ukai,T., Takatsuki,H., Nakamura,K., Kinoshita,S. and Takasuga,T.: Material flow analysis of coplanar PCBs released from waste treatment processes, J. Material Cycles & Waste Management, 1, 62-74 (1999)

(2) :大迫政浩
 1963年生まれ、京都大学大学院工学研究科単位取得認定退学工学博士、厚生省国立公衆衛生院流動研究員、同廃棄物工学部研究員、同主任研究官、現在、国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター主任研究員
主要論文:
1)Matsui Y, Tanaka M and Osako M: Risk assessment and risk management in waste life cycle for mercury in used dry cells. Japanese Journal of Risk Analysis, 8(2), 13-20 (1997)
2)Osako M, Machida N and Tanaka M: Risk management measures against antimony in residue after incineration of municipal waste. Waste Management, 16, 519-526 (1997)
3)Osako M, et al.: A study on behavior of persistent organic pollutants in the landfill site with municipal solid waste incineration residue, Hanashima M.(Ed.): Modern Landfill Technology and Management, 397-403, JSWME (2000)

(3) :尾形 敦
 1962年生まれ、北海道大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了、理学博士、現在、産業技術総合研究所主任研究員
主要論文:
1)Atsushi. Ogata, Akio, Kazusaka, and Michio Enyo: Photoactivation of Silica Gel with Light during the Reaction of CO with O2, Journal of Physical Chemistry, 90, 5201-5205(1986)
2)Atsushi Ogata, Akira Obuchi, Koichi Mizuno, Akihiko Ohi, and Hideo Ohuchi: Active Sites and Redox Properties of Supported Palladium Catalysts for Nitric Oxide Direct Decomposition, Journal of Catalysis, 144, 452-459(1993)
3)Atsushi Ogata, Noboru Shintani, Kazushi Yamanouchi, Koichi Mizuno, and Toshiaki Yamamoto: Effect of Water Vapor on Benzene Decomposition Using a Nonthermal- Discharge Plasma Reactor, Plasma Chemistry and Plasma Processing, 20(4), 453-467 (2000)

:水野光一
 1947年生まれ、東京大学大学院工学系研究科合成化学専門課程修了、工学博士、資源環境技術総合研究所環境影響予測部部長、現在、長崎県工業技術センター所長
主要論文:
1)Koichi Mizuno, Jack H.Lunsford: Electron Paramagnetic Resonance Study of Tris(2,2'-Bipyridine) Cobalt(II) Complexes in Zeolite Y, Evidece for a Spin Equilibrium, Inorganic Chemistry, 22(23), 3484 (1983)
2)Toshiaki Yamamoto, Koichi Mizuno, Ikuo Tamori, Masaharu Nifuku, Monika Michalska and Graciela Prieto: Catalysis-Assisted Plasma Technology for Carbon Tetrachloride Destruction, IEEE Transactions on Industry Applications, 32(1), 100-105 (1996)
3)Atsushi Ogata, Noboru Shintani, Kazushi Yamanouchi, Koichi Mizuno, andToshiaki Yamamoto: Effect of Water Vapor on Benzene Decomposition Using a Nonthermal-Discharge Plasma Reactor, Plasma Chemistry and Plasma Processing, 20(4), 453-467 (2000)


(4) :石井康雄
 1942年生まれ、兵庫農科大農学部卒業、学術博士、農林水産省農業環境技術研究所資材動態部農薬動態科農薬管理研究室長、現在、独立行政法人農業環境技術研究所環境化学分析センター長
主要論文:
1)Y.Ishii, N.Adachi, J.Taniguchi and T.Sakamoto: Cleanup Procedure for Determination of Pesticide Residues by Automated Gel Permeation Chromato-graphy, J. Pesticide Sci., 15, 225-230 (1990)
2)Y.Ishii, J.Taniguchi and T.Sakamoto: Residue Analysis of Organochlorine Pesticides by Gas Chromatography Equipped with a Hall Electrolytic Conductivity Detector (Halogen Mode), J.Pesticide Sci., 15, 231-236 (1990)
3)稲生圭哉,小原裕三,石井康雄,上路雅子,山本章吾,北村恭朗: 水稲栽培における農薬の環境負荷量推定と生態影響評価-異なる栽培体系での比較-, 環境科学会誌, 12(3), 313-319 (1999)

(5) :高橋敬一
 1956年生まれ、東京農工大学農学部卒業、農林水産省草地試験場、農林水産省国際農林水産業研究センター、独立行政法人食品総合研究所流通安全部食品害虫研究室室長、現在、JICA, Palau Officce PFFEP, Bureau of Agriculture
主要論文
1)K.Takahashi: Sampling of flying insects with a truck mounted trap. JARQ (Japan Agricultural Research Quarterly), 26, 282-286 (1993)
2)高橋敬一: 捕食性天敵ナナホシテントウを利用したアルファルファのアブラムシの生物的防除に関する基礎的研究.草地試験場研究報告, 54, 18-77(1996)
3)K.Takahashi, M.Sakakibara, T.Terauchi and H.Soemori: Oviposition preference and larval development of Rhabdoscelus lineatocollis (Coleoptera :Rhynchophoridae) in sugarcane. Appl. Ent. Zool., 33(3), 409-411 (1998)

:宮ノ下明大
 1964年生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了、科学技術庁省際研究研究員、日本学術振興会特別研究員、螢ぁ次Ε┘后Ε▲ぁ現在、独立行政法人食品総合研究所流通安全部食品害虫研究室主任研究官
主要論文
1)Miyanoshita, A. et al.: Isolation characterization of a new member of insect defensin family from a beetle, Allomyrina dichotoma Biochem. Biophys. Res. Commun., 220, 526-531 (1996)
2)Miyanoshita, A and S. Tatsuki: Role of sex pheromone in reproductive isolation between two host races in Aspidiotus cryptomeriae Kuwana (Homoptera: Diaspididae). Appl. Entomol. Zool., 36, 199-202 (2001)
3)Sagisakia, A., A. Miyanoshita, J. Ishibashi and M. Yamakawa: Purification, characterization and gene expression of a glycine and prolin rich antibacterial protein family from larvae of a beetle, Allomyrina dichotoma. Insect Molecular Biology, 10, 293-302 (2001)