課題名

G-1 砂漠化の評価と防止技術に関する総合的研究

課題代表者名

清水 英幸 (環境省国立環境研究所地球環境研究センター)

研究期間

平成10−12年度

合計予算額

227,724千円(うち12年度 89,130千円)

研究体制

(1) 砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究

(環境省国立環境研究所、東京大学、パシフィックコンサルタンツ(株)

(2) 中国における砂漠化防止技術の適用に基づく土地利用計画手法に関する研究

(農林水産省農業環境技術研究所、東京大学、筑波大学、千葉大学)

(3) 西オーストラリアにおける砂漠化防止・植生回復技術に関する研究

(農林水産省農業環境技術研究所、束京大学、(社)国際環境研究協会)

(4) サブサハラアフリカの土壌扶養力の評価と維持・回復技術の開発

(農林水産省国際農林水産業研究センター、京都大学、北海道大学)

(5) 中国における砂漠化対策技術の評価に関する研究(環境省国立環境研究所)

(6) 中国における砂漠化評価のための指標に関する研究(環境省国立環境研究所)

研究概要

1.序

 国際連合によれば、砂漠化の影響は現在地球の全陸地の約1/4、世界人口の約1/6におよび、将来の地球環境や食糧供給に深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。しかし、砂漠化問題は気候的要因と人為的要因に加えて社会経済的要因も絡まって、その解決を難しくしている。19961226日に砂漠化対処条約が発効したのを受けて、先進締約国には砂漠化防止に対する資金的・技術的な支援が強く要請されている。砂漠化防止に関する我が国への期待も大きく、各種の砂漠化防止プロジェクトおよび共同研究などを通した技術的支援活動を、これまで以上に総合的に推進する必要がある。

 しかし、これまでの砂漠化研究および砂漠化防止技術開発などは、その技術・方法論、対象とする砂漠化プロセス、対象地域の点で、それぞれ別個に独立して展開される傾向があった。その結果、研究成果や開発された技術の総合化・普遍化が十分に行われていない。したがって、既往の砂漠化研究をレビューし、各研究の座標付けを与えるとともに、その総合化を図る必要がある。また、砂漠化防止技術については、地域性を越えた共通性を抽出し、対象地域−問題プロセス−防止技術のマトリクスを作成し、技術の体系化を図ることが必要である。

 その一方で、砂漠化は、局地的な自然や土地条件あるいは社会経済条件を反映して生じる現象であるという側面も持っている。このため、問題の解決に向けた一般化、普遍化が難しく、現地での実証的な研究に基づいた防止対策の確立を行うことも必要である。したがって、世界のいくつかの代表的な砂漠化地域について、環境容量に基づいた適正な土地管理計画の策定と対策技術の適用のための体系化に関連する研究も併せて行う必要がある。さらに、適切な砂漠化防止対策を立案するうえでは、砂漠化の進行度を適確に評価するための砂漠化指標も必要である。

 地球環境研究総合推進費では、これまでにも世界のいくつかの地域で、現地の研究者と協力して砂漠化に関する共同研究を推進してきた。平成10年度からは、新たに、「持続的土地利用のための砂漠化防止技術適用に関する実証的研究」および「砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究」が開始された。特に後者の研究推進過程では、これまでに地球環境研究総合推進費を含め、我が国で砂漠化問題に関する研究を中心となって推進してきた研究者・技術者などに参加してもらい、「地球環境研究展望−砂漠化−」検討会を設置し、様々な視点から砂漠化研究の推進に関する検討を行った。その中で、個々の砂漠化研究を独立的ではなく、総合的に推進する必要性も指摘された。また、上記2課題の課題代表者が2年目の平成11年度には交代することから、これらの課題をまとめて、また、新たな研究テーマを加えて、一つの新たな課題に再編することが、環境省および研究者の間で合意された。その結果、新たに「砂漠化の評価と防止技術に関する総合的研究」が平成11年度から開始されることとなった。しかし、個々のサブテーマは既に開始されていたため、課題全体として完全に一体的に推進されたわけではないが、可能な限り、連携をとりつつ研究を推進することとなった。平成10年度と1112年度における砂漠化の研究課題とサブ課題の関係を以下に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成10年度

 

 

 

 

平成11〜12年度

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G-3 砂漠化研究の総合化と砂漠化防止

 

 

 

 

 

 

 

 

G-1 砂漠化の評価と防止技術に関する総合的研究

 

 

技術の体系化に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1) 砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  体系化に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

G-1 持続的土地利用のための砂漠化防止

 

 

 

 

 

 

 

(2) 中国における砂漠化防止技術の適用に基づく

 

 

技術適用に関する実証的研究

 

 

 

 

 

 

 

  土地利用計画手法に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1) 砂漠化防止技術適用に基づく

 

 

 

 

 

 

 

(3) 西オーストラリアにおける砂漠化防止・

 

 

 

 

  土地利用計画手法に関する研究

 

 

 

 

 

 

  植生回復技術に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 砂漠化防止・植生回復に関する

 

 

 

 

 

 

 

 

(4) サブサハラアフリカの土壌扶養力の評価と

 

 

  要素技術の体系化に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

  維持・回復技術の開発

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(5) 中国における砂漠化対策技術の評価に関する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  研究

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(6) 中国における砂漠化評価のための指標に関する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  研究(平成12年度のみ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.研究目的

 本研究では、砂漠化研究の総合化と地域固有の砂漠化対策の策定の両側面から砂漠化研究を実施し、砂漠化対策のための実効性のある施策を提示することを目的とする。そのため、まず、中国、オーストラリアおよび西アフリカを対象として、現地での調査・実験などに基づいて、砂漠化対策技術と砂漠化した土地の修復技術の検討を行い、各地域の自然・土地条件と社会経済条件に基づいた、持続可能な土地利用計画手法の開発をめざす。

 さらに、世界の代表的な砂漠化地域における既往の砂漠化研究のレビューを行い、各地域の自然的環境条件や社会経済的条件に応じて、その地域で効率的かつ効果的な砂漠化防止プロジェクトや砂漠化研究を分析し、多様な砂漠化防止技術の体系化を図るとともに、実効性の高い砂漠化防止技術を明らかにする。加えて、砂漠化評価のための指標に関しても検討を行う。

 以上の研究成果に基づき、世界の各砂漠化地域における一連の砂漠化プロセスを、背景となる自然環境条件と伝統的な土地利用システム、砂漠化の自然的・人為的要因、フィジカルな砂漠化プロセス、砂漠化の人間生活への影響、砂漠化対策とその効果、周辺住民等へ及ぼす副次的影響という流れで総合化し、そのモデル化について検討する。

 そして、最終的には、地域の状況に適合した砂漠化防止技術を評価するシステムの構築に資する研究を推進すると共に、地域の固有性を越えて地球上で普遍的に認められる砂漠化プロセスを抽出し、そのプロセスの定量的モデルの提示を目指した研究を推進する。

 

3.研究の内容・成果

(1)砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究

 砂漠化研究の総合化については、モデリング・アプローチがその有効な手法のひとつと考えられる。そこで既往の砂漠化モデルをレビューした結果、砂漠化の要因、結果、影響のプロセスを包括的に扱ったモデルは開発されていないことが判明した。そこで一連の砂漠化プロセスを総合的かつ定量的に把握するための「砂漠化統合モデル」のフレームワークとそのモデリングの方法について検討した。モデル開発は村落スケールと地域スケールの2つの空間レベルを設定した。村落レベルモデルは、独自の詳細な調査データを基礎に、人間活動(社会経済)モジュールと生物生産モジュールを中心として、生物資源の生産と、その利用(需給バランス)を定量的に表現した。地域レベルモデルは、統計資料を活用して、現在、UNCCDCSTでおこなわれている基準・指標のアプローチとリンクさせたモデル開発をおこなった。また、これまでの砂漠化研究をレビューした結果、生物生産の需要供給バランスや、生産力変化の経済的評価に関する研究が手薄であることが判明した。統合的な砂漠化モデルの開発にあたっては、これらの点については独自のデータ収集をすることも視野に入れながら、研究を推進していく必要があることがわかった。

 砂漠化防止技術の体系化に関しては、対策技術が主として対象とする事象ごとに分類・整理すると共に、国内外の砂漠化対策関連研究者等へのアンケートから、具体的な技術例の効果の大きさ、緊急性の高さ、普及の必要性等に関する知見を整理した。また、砂漠化対策技術の範囲および働きかける対象により対策技術を整理する「技術分類マトリクス」案を検討した。さらに、技術の物理的・社会的・経済的評価等を地域特性と併せてまとめた「技術評価マトリクス」を作成した。これら2つのマトリクスを組み合わせ、さまざまなプロジェクトの比較検討を行った。小規模コミュニティレベルの最新技術のうち、風力、バイオガス等の再生可能エネルギー、およびマイクロガスタービン、燃料電池等の最新技術との組み合わせ利用に関する普及可能性の検討を行った。技術・人材・資金等の課題は相当程度大きいものの、将来的には具体的なケーススタディ等を実施した上で、特に遠隔地域における適用を検討することが望ましいと考えられた。さらに、入手の容易なデータに基づく技術評価手法の検討を行った。各種の技術を、技術のレベルおよび対象範囲による分布図に整理して評価すると共に、対象国の技術運用可能性をHuman Development Indexにより整理し、これらを踏まえて各種の事例を解析し、技術の導入可能性に関する評価を行った。さらに、類似の条件等を有する地域において適用可能と考えられる、コアセットメニューの抽出を試みた。

 

(2)中国における砂漠化防止技術の適用に基づく土地利用計画手法に関する研究

 半乾燥地のホルチン草地における治砂林、草方格、茎柵および灌木の栽植等の各種在来砂漠化対策技術の適用が、土壌特性や植生に及ぼす影響を明らかにした。また、この地域における砂漠化進行程度をもとに、大地形スケールで5つの地域に区分したところ、草地が退行し、砂漠化が問題となっているところは大興安嶺の山地前面までであることが確認された。分光放射測定で得られた植生指数とバイオマスの指標である単位面積当たりの乾物重との間に回帰式が得られ、この回帰式と衛星データの植生指数を利用して、広域の植生の定量的把握を可能にした。また、この地域に分布する土壌の特性を把握し、砂漠化指標の1つである土壌生産力評価をマップ化する手法を開発した。さらに、この地域では、舎飼畜産の導入・拡大を前提に放牧圧を軽減していくという、放牧畜産から舎飼畜産への転換が農家経営および環境保全上必要であることを示した。

 半湿潤地帯の四川省塩亭県において、1950年代以降の10年ごと4時期の土地利用・被覆図を作成し、森林率は1960年代の13.9%から1990年代には24.1%となり、約10%森林率が上昇したことが明らかとなった。また、雲南省・元謀試験地における流域の年間流出土砂量は、44.9t/ha/yrであり、四川省塩亭県の小流域の土壌侵食量は、1965年頃の森林が乏しかったときと比べて、1995年頃の植林が進められたときには約30%に低下したと推定された。なお、雲南省原簿宇検の家畜の放牧と樹木の採取の量と態様は、農家の生産・消費の水準に規定され、特に草食家畜の飼養頭数、その飼料の調理用に燃料を使用する豚の飼養頭数、家計としての燃料の使用量の3つの要素が重要であることが示された。さらに、四川省塩亭県と雲南省元謀県における村落レベルの生物資源の生産・利用プロセスを解明し、森林の豊富な塩亭県では木材が燃料として利用されていたのに対し、森林がほとんどない元謀県では燃料と家畜飼料の供給を草地に依存しており、それが草地の過剰利用を引き起こしていることを明らかにした。

 

(3)西オーストラリアにおける砂漠化防止・植生回復技術に関する研究

 西オーストラリア・カルグーリー地域の鉱山廃鉱埋立地を実証圃場とし、土壌撹乱・塩類集積・低肥沃度を特徴とするこの地域での砂漠化防止技術の開発を試み、以下の結果を得た。

〕臙呂らの植生の自然遷移を観察し、初期生育が速く、植生の回復・表土の固定および被覆に優れたアカザ科やイネ科に属するAtriplex spp., Enneapogon spp., Halosarcia spp.などをパイオニアプラントとして選抜した。

Atriplex spp..等の耐塩性植物を用いた塩類集積土壌の改良法について検討し、耐塩性植物体には1個体当たり最大44gのナトリウムが蓄積され、圃場レベルでは69.2128kgha-1の塩が除塩されると推定された。年12回パイオニアプラントを導入し、生長が平衡に達したと考えられる時点で植物体を除去することを繰り返し、より除塩効率の高い好塩性栽培種を導入することが可能なまで塩濃度を低下させた後に、これらの好塩性栽培種を導入すればより効果的な除塩が行えると考えられた。

B儕性植物と非耐塩性植物の混植を塩害地におけるコンパニオンプラント法として提案し、野菜を用いて導入条件を検討した結果、耐塩性植物の周囲1020cm程度で発芽促進が見られた。同様の条件で非耐塩性樹木の導入を試み、少量の灌概水で樹木を定着させることに成功した。

げ斑槐嘶物をポット状に成型した堆肥ポットを用いて、野菜の栽培を行い、生長促進効果を確認した。また、現地の有力な輸出木材であるビャクダンの育苗法の基礎として、植物薫蒸水を用いた発芽促進法を開発した。

 これらの要素技術を組み合わせた総合的植生回復法を提案した。まず、耐塩性植物を選抜・導入することで、土壌塩分環境の改善を行う。その後、除塩・コンパニオンプラント法によって非耐塩性の植生を導入するとともに、肥沃度の改善を図る。さらに、経済林・野菜などの商業的価値のある植生を導入するが、作物生産には堆肥ポット、良質な水資源を集中的に導入するというものである。このモデルプランは、汎用性の高い基本要素技術と、現地の実情に合った適応技術の組み合わせであるが、将来的にはこの総合的植生回復法が西オーストラリアのみならず、他の砂漠化進行地域にも展開されることが期待できる。

(4)サブサハラアフリカの土壌扶養力の評価と維持・回復技術の開発

 砂漠化・土壌劣化(土壌養分の減耗による作物生産の低下や植生の衰退、土壌流亡など)に対して農民自らがとれる等身大スケールでの対処方策の構築を目指し、その危険が指摘されているブルキナファソの3気候帯、すなわちサヘル帯(農牧混交地帯)、スーダン帯(耕種農耕地帯)およびギニア帯(耕種農耕地帯)の農村において、農民の土地利用や土壌保全活動の実態を現地調査に基づいて解明し、過去10数年間における変化とその社会経済的・自然的要因を解明した。また、現地の人々にとって、作物生産の低下、対応手段の消失等が実際上大きな問題であるとの認識から、土壌劣化や土壌扶養力低下を中心問題と捉え、農民が実践している在来技術の評価とその改善方向と可能性の解明、農民が危険分散のためにとっている現行の社会経済的な対処方策の解明および地理情報システムを利用する村落レベルでの土壌扶養力評価手法の開発等を目指した。調査対象村落は、国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)が1980年代前半に1回調査しているので、それから現在まで約15年間の気象、植生、土壌、社会経済および在来農耕技術等の変化を解析することができた。地理情報システム、地理、土壌、作物栄養、作物栽培、農業社会経済、文化人類学などの各分野からなるチームを組織し、同様の問題意識をもち、西アフリカで先行して調査研究を行っている国際肥料開発センター・アフリカ支所(IFDC-Africa)、ブルキナファソ農業省土壌肥沃度管理局およびワガドゥゴ大学と共同研究を行うこととした。

 2年間集中的に調査研究を行った結果、得られた成果は以下のようにまとめられた。〆叔化の進行状況および農耕地と休閑地の判別を含む農業的土地利用パターンを村落レベルで解析するための衛星リモートセンシングデータ解析手法を開発した。▲后璽瀬鸞咾肇ニア帯の村落では10数年前に比較して畜耕の普及や化学肥料の増加など個々のレベルでの対応策を講じていたが、サヘル帯では対応策が不十分で、改善の余地があることが分かった。スーダン帯の農家にとって血縁ネットワークを通じたコートジボワールヘの出稼ぎが脆弱性軽減の方策として重要であったが、昨年起きたブルキナファソ人排斥運動によって、脆弱性増大の危機を迎えている。づ攵蹐話麓租に古く、各種養分の溶脱が進み、貧栄養であり、生態系における養分の循環だけでは多収を期待できないので、化学肥料の投入や家畜糞等の有機物の還元等のインプットが必要である。イ海離ぅ鵐廛奪箸諒法として、サヘル帯の農牧混交地帯では牧畜民との共生によって得られる、家畜糞収集散布方式(パルカージュシステム)が有用である。Ε汽悒訛咾虜充租攵蹐良汁悄040cm)には細粒質の薄層が数cm間隔で幾層にも存在し風食抑制構造を形成しており、在来農耕技術(押し鍬除草や刈草等による飛砂トラップなど)はこの薄層保護上合理的である。Г海里茲Δ陛攵蹐蛤瀝菁盛無蚕僂瞭団Г鯑Г泙┐疹紊如⇒機物施用効果の機構の解明と併せて、より効率的・合理的な適応技術の開発方向を技術面および社会経済面から探る必要がある。

 

(5)中国における砂漠化対策技術の評価に関する研究

 中国においては比較的早くから砂漠化対策の取り組みがなされており、多くの成果が蓄積されていたにもかかわらず、これらの客観的評価はほとんどなされておらず、中国以外の諸外国への情報公開も不十分であった。本課題では、中国人研究者をエコフロンティアフェローとして招聘し、既往の中国における砂漠化防止プロジェクトや砂漠化対策に関連した文献・資料等を収集し、それらのレビューを行い、各砂漠化防止プロジェクトの実効性や各種の砂漠化防止技術の有効性の評価を行った。まず、収集した文献に基づいて、中国における砂漠化の現状や中国政府の砂漠化対策の基本方針などを概括的に整理した。また、中国における代表的な砂漠化防止技術(草方格技術、飛行機播種など)の特性や実施状況を整理し、有効性や適用可能条件などの検討を行った。さらに、最近砂漠化防止技術との関連性が高まっているリモートセンシング技術に関して考察し、リモートセンシング技術の砂漠化評価への適用の可能性を検討した。加えて、中国においてこれまで実施されてきた代表的な砂漠化防止プロジェクトの実施状況や成果などを整理し、各プロジェクトの砂漠化対策としての実効性の評価を行った。これらの過程で得られた研究成果を整理し、中国における砂漠化対策研究に関するデータベースを作成した。

 

(6)中国における砂漠化評価のための指標に関する研究

 中国を中心にこれまで蓄積されてきた砂漠化指標に関する知見を整理するために、中国人研究者をエコフロンティアフェローとして招聘し、中国をはじめとする世界各地で出版された砂漠化指標に関連する文献を収集し、これらのレビューを行った。その結果、これまでに報告されている砂漠化指標についての特質と問題点が整理された。また、砂漠化指標に関してのデータベースの作成を行った。さらに、中国の典型的な砂漠化地域の一例として、中国の内モンゴルの典型的な放牧地である羊草(Leymus chinensis)草原に注目し、この地域での砂漠化の進行と植生の状態の変異との関連性を詳細に検討し、植生を基準とした実用性のある砂漠化指標の探索を行った。その結果、この地域では、砂漠化の進展にともなって、バイオマス量や占有植物種の構成などが大幅に変移し、Artemisia frigidaなどの植物種の占有割合などが高感度な砂漠化指標として用いうることが明らかとなった。

 

4.考察

 サブテーマ(1)で採用した統合モデリングの手法は、トップダウンアプローチ、モジュール構造、そして既往研究の結合というキーワードによって特徴づけられる。したがって砂漠化統合モデルを検討し、開発すること自体が、砂漠化研究を総合化していくことでもあり、またその過程で、これまでの砂漠化研究のなかで欠落していた部分が明らかにされると思われた。一方、砂漠化防止技術の体系化に関しては、2種のマトリクスの利用、および指標と分布図を用いた評価を行うことにより、多様な地域における多数の砂漠化対策技術を、共通の軸で体系化し、比較検討し、評価を行うことが可能となった。今後は、より多くの事例のデータベース化を進めると共に、第三者機関による評価の解析等を継続的に蓄積することにより、適切なコアセットメニューの提案や、評価システムの改良等を行うことが必要とされる。

 サブテーマ(2)からは、中国における砂漠化防止または回復技術の適用において、土地利用として耕地利用を希望するのであれば、質的な回復よりもむしろ早急に砂丘を安定化する技術が必要であり、放牧地利用を計画する場合には、牧養力の高い植生へ誘導する技術を選択するなど、今後、自然環境資源の質と量を考慮した、それぞれの現地に根ざした研究を展開する必要があることが明らかとなった。

 サブテーマ(3)では、途上国に適用可能な要素技術を体系化することを試みた。砂漠化は地域性が強く、地域の実情に合った砂漠化防止技術を開発する必要があるが、一地域で開発された砂漠化防止技術は、他地域への応用性の高い基本的技術と、地域に根ざした適応技術との組み合わせである。地域の類似性から、用いる要素技術を取捨選択することで、他の砂漠化地域への展開が容易になると考えたが、今後はアジアの砂漠化地域での実践を行う必要がある。

 サブテーマ(4)では、アフリカのサヘル地域を対象とした。砂漠化・土壌劣化の危険が最も大きいサヘル帯の砂質土壌の表層は風食抑制構造を備えており、農家の在来耕作技術はこの構造を破壊しない利点をもち、土壌扶養力管理には牧畜民との共生による家畜糞の利用が大きな意味を持っていた。等身大スケールでの具体的な活動指針を立てるための基礎的な知見と経験が得られたので、農村の脆弱性増大の危機が大きい今、技術開発等の実際的取り組みを進める準備が整ったと考えられ、本格的な研究の展開が必要とされている。

 サブテーマ(5)では、中国を対象として、既往の砂漠化対策技術や砂漠化防止プロジェクトの整理と評価を行った。本研究の実施により、中国での砂漠化対策に関しての有用な情報がデータベースとして整理され、中国以外の諸外国の砂漠化問題に関与する人々も容易に情報の入手ができるようになった。本研究で得られた成果は、地球規模での砂漠化の防止を行ううえでも有用な知見を提供するものであると考える。

 サブテーマ(6)では、中国を中心に世界の砂漠化指標に関する文献のレビューを行うことにより、砂漠化指標の情報が整理されるとともに、既往の砂漠化指標に関する問題点が明確化された。また、そのデータベース化がなされ、砂漠化指標に関連する情報の有効な活用が可能になった。さらに、中国の典型的な砂漠化地域における砂漠化の進行度と植生の変移との関連性の解析を通して、植物種を基準とした砂漠化指標を確立するための一手法が提示された。この研究で得られた成果は、将来、信頼性の高い砂漠化指標を探索していくうえでの有用な基礎的情報となることが期待される。

 本研究課題では、砂漠化の評価と防止技術に関する研究を、世界のいくつかの砂漠化地域で、現地研究機関と共同研究を推進し、知見を集積すると共に、これらを含めた、既存の砂漠化研究と砂漠化防止技術のレビューを行い、「砂漠化統合モデル」や「砂漠化防止技術の体系化」について検討した。これらの研究はまだ緒についたばかりであり、今後も地域レベルの実践的研究と共に推進する必要があろう。さらに、その成果を地域研究にフィードバックし、問題点等を明らかにすることにより、砂漠化問題に有用な成果としてまとめる必要があろう。

 

5.研究者略歴

課題代表者:清水英幸

1954年生まれ、東京大学理学部卒業、農学博士、環境庁国立環境研究所生物圏環境部環境植物研究室主任研究員を経て、現在、環境省国立環境研究所地球環境研究センター研究管理官

主要論文:H. Shimizu, Y. Fujinuma and K. Omasa (1996) : Effects of carbon dioxide and/or relative humidity on the growth and the transpiration of several plants. Acta Horticulturae, 440, 175-180.

A. Tsunekawa and H. Shimizu (2000) : Methodologies of desertification monitoring and assessment. In Proceedings of the Workshop of the Asian Regional Thematic Programme Network on Desertification Monitoring and Assessment (p.251), Tokyo, June 28-30, 2000. Bonn : The Secretariat of United Nations Convention to Combat Desertification. 44-55.

G. Y. Qiu, Y. Gao, H. Shimizu, K. Tobe, K. Omasa (2001) : Study on the changes of plant diversity in the established communities for rehabilitation of desertificated land. Journal of Arid land Studies. 11 (1) : 63-70.

サブテーマ代表者

(1):清水英幸(同上)

 

(2):今川俊明

1953年生まれ、北海道大学大学院環境科学研究科博士課程修了、東京都立大学理学部助手を経て、現在、農林水産省農業環境技術研究所環境管理部環境立地研究室長

主要論文:今川俊明(1997):宇宙から観た中国東部の砂漠化、土壌の物理性、74, 29-38.

T. Imagawa, M. Fukuhara and T. Watanabe (1998) : A Monitoring Method of Land Cover/Land Use Change in Naiman, Inner Mongolia Autonomous Region, China using Landsat Data. Japan Agricultural Research Quarterly. 31 (3), 163-169.

今川俊明(2000):中国内モンゴル自治区奈曼旗における放牧圧の推定と砂漠化防止対策効果、地球環境、5 (1&2), 3-8.

 

(3):谷山一郎

1953年生まれ、北海道大学農学部卒業、農林水産省農業環境技術研究所環境資源部土壌生成研究室長を経て、現在、土壌保全研究室長

主要論文:谷山一郎(1998):地球温暖化による海面上昇が日本の農地に及ぼす影響、土壌・肥料学会誌69 (3), 316-321.

谷山一郎(1999):環境保全と農林業−農林地の持つ土壌侵食防止機能−、農業および園芸、74 (4), 445-451.

今川俊明、大黒俊哉、白戸康人、谷山一郎、藤原英司、石敏俊(2001):中国内モンゴル自治区奈曼旗における放牧圧の推定と砂漠化防止対策効果、地球環境、

5, 3-8、国際環境研究協会.

 

(4):伊藤 治

1950年生まれ、東京大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士、国際稲研究所(IRRI)研究員、ケッタリング研究所研究員、国立公害研究所研究員、農業環境技術研究所研究員、国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)チームリーダーを経て、現在、国際農林水産業研究センター環境資源部長

主要論文:O. Ito and M. Kondo (2000) Crop and resource management for improved productivity in dryland farming systems. Proceedings of the 12th Toyota Conference : Challenge of plant and agricultural sciences to the crisis of biosphere on the earth in the 21st century. eds by K. Watanabe and A. Komamine, Eurekah. com. p. 99-106.

O. Ito, J. 0'Toole and Hardy eds, (2000) "Genetic Improvement of Rice for Water-limited Environments" International Rice Research Institute pp 353.

O. Ito, E. Ella and N. Kawano (1999) Physiological basis of submergence tolerance in rainfed lowland rice ecosystem, Field Crops Research 64, 75-90.

 

(5):戸部和夫

1958年生まれ、放送大学教養学部卒業、国立環境研究所生物圏環境部環境植物研究室研究員を経て、現在、同研究室主任研究員

主要論文:K. Tobe, X. Li and K. Omasa (2000) : Seed germination and radicle growth of a halophyte, Kalidium caspicum (Chenopodiaceae). Annals of Botany, 85 (3), 391-396.

K. Tobe, X. Li and K. Omasa (2000) : Effects of NaCl on seed germination and growth of two Chinese desert shrubs, Haloxylon ammodendron and H. persicum (Chenopodiaceae). Australian Journal of Botany, 48 (4), 455-460.

K. Tobe, L. Zhang, G. Y. Qiu, H. Shimizu and K. Omasa (2001) : Characterisics of seed germination of five non-halophytic Chinese desert shrub species. Journal of Arid Environments, 47 (2), 191-201.

 

(6):戸部和夫(同上)