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自然冷媒機器開発秘話
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東芝ライフスタイル株式会社

東芝ライフスタイル株式会社は、生活家電やテレビなどの開発、製造、販売を手がける企業です。平成14 (2002) 年1月、日本で初めて冷媒としてフロン類を使用しない家庭用冷蔵庫を発売しました。今回は、当時の開発に携わった研究者の方々にお話を伺いました!

これまでにない家庭用冷蔵庫の開発

-冷媒としてフロン類を使用しない家庭用冷蔵庫を開発されたきっかけについて教えて下さい-

1990年代の終わりから2000年にかけて、環境NGOのグリーンピースから次のような指摘がありました。“欧州ではノンフロン製品が普及しているのに、どうして日本ではノンフロン製品が普及していないのか”。

イメージ:家庭用冷蔵庫の歴史を振り返りますと、断熱材と冷媒の2箇所でフロン類が使用されてきました。当時、断熱材については、オゾン層を破壊せず、地球温暖化にも影響を与えない「シクロペンタン」と呼ばれる物質への切り替えが完了していましたが、冷媒については、この指摘のとおり、切り替えを進めている最中でした。より環境への負荷の低い物質を求め、オゾン層を破壊するフロン(特定フロン)から、オゾン層を破壊しない一方で地球温暖化への影響がある代替フロンへの切り替えがようやく完了した頃です。さらにもう一歩前進し、オゾン層を破壊することなく、また地球温暖化への影響もない、環境にやさしい冷媒の導入は、業界に身を置く研究者にとってとても重要なテーマでした。

また、当時、フロンガスの認知度に関するアンケート調査を実施したところ、環境に対して関心の高い生活者の74%、一般の生活者の60%がフロンガスという存在を認知していることが分かりました。生活者の関心も高いという状況を踏まえ、安全性、省エネ、環境性、さらには本来冷蔵庫に求められる商品性、鮮度などに配慮した“これまでにない家庭用冷蔵庫の開発”に着手しました。

地球温暖化の影響が400分の1以下の冷媒を採用

-新しい冷媒とはどのような物質ですか-

新しい冷媒には「イソブタン」を採用しました。これまで使用されていた代替フロン(HFC-134a)の地球温暖化係数が1,300、イソブタンの地球温暖化係数が3ですので、冷蔵庫1台で使用される冷媒の地球温暖化の影響は、400分の1以下となりました。もちろん、オゾン層を破壊することもありません。

新技術・工夫をふんだんに入れ込んで安全性を確保

-新しい冷媒の採用には課題などなかったのでしょうか-

イメージ:冷蔵庫性能試験状況一番の課題は、安全性の確保でした。イソブタンは環境に優しい物質ですが、可燃性という特徴があります。冷蔵庫は電化製品ですので、イソブタンが万一漏れた場合、電気のパワーよってイソブタンに引火、冷蔵庫が発火してしまう恐れがあります。そのため、イソブタンの充塡量を減らすことは当然ながら、イソブタンに引火しないための工夫を行う必要がありました。

例えば、日本は高温多湿ですので、冷蔵庫内で霜が発生します。ずいぶん昔の冷蔵庫では、頻繁に冷蔵庫内に霜が発生し、定期的に霜取り作業を行われたという記憶をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。冷蔵庫には自動で霜取りができるよう、高温となるヒーターが内蔵されていますが、イソブタンをそのまま使用してしまいますと、イソブタンが万一漏れた場合、ヒーターによって引火してしまう恐れがあります。そのため、イソブタンの発火点(494℃)よりも100℃以上も低い温度までしか上がらない仕組を導入しました。霜が付く場所を直接暖めるのではなく、熱伝導という手法で冷却器を暖め、ヒーターの表面温度を90℃以下に抑えた低温除霜ヒーターなどを開発しました。

さらに、高い電圧で使用する部品もスパークの発生により引火の原因となる可能性があります。そこには、特殊な防爆装置を付けました。また、冷蔵庫内にイソブタンの漏れを検知するセンサーを付け、万が一漏れを検知した場合は、液晶によるサービスコールとアラームで告知する仕組も導入しています。主だった点は以上ですが、他にも色んな工夫を加え、安心して使っていただけるような配慮を随所に施しています。

工場での組立て時や修理時の安全性確保も必要

-その他に苦労した点としてどういったことがありましたか-

イメージ:イソブタンは可燃性の冷媒のため、修理などのサービス業務を確立することは大変でした。

溶接を伴う修理の場合、従来であればガス溶接で対応できたのですが、イソブタンは可燃性であるため、着火しないように超音波による溶着に変更する必要がありました。超音波による溶着はもちろん、安全な修理を実施するには熟練度が必要なため、サービスマンの教育もしっかりしました。

さらに、工場でイソブタンが漏れたら引火しますので、安全性を確保するための方策も検討しました。

イソブタンは空気に比べて重いため、低い場所にガス溜まりができる可能性があります。冷蔵庫を作る工場は、作業がしやすいように工場床に作業用のピットが用意されていますが、そこにもイソブタンが溜まる可能性があります。そこで、工場にセンサーを導入するなどの対応をしました。欧州では、このようなピットにイソブタンが滞留し、引火したという事故も実際に起こっていますので細かな対応も重要です。

 また、イソブタンは本来無臭なのですが、接着剤のような匂いをつけることで、漏れていることに気づくための工夫もしています。

省エネとおいしさ保持のための工夫

-イソブタンが安全に使われること以外に、どのような工夫をされましたか-

イメージ:これまで作ってきた冷蔵庫の技術を何も変えず、そのまま「イソブタン」を採用すると、冷凍する能力が減ってしまいます。つまりこれまでと変わらないだけ冷凍できるようにするには、新しい技術の採用や工夫を施す必要がありました。

高効率コンプレッサーの採用、コンプレッサーのシリンダーの変更などの対応を図り、冷凍する能力はこれまでと同等で、かつ10%程度の省エネをあわせて達成することができました。最近の冷蔵庫では真空断熱パネルなどさらに省エネ性能を高めるための取組が行われています。

また、家庭用冷蔵庫の中で、冷蔵部分は冷凍部分に比べると、そこまで温度を下げる必要はありません。東芝の冷蔵庫は、冷蔵室、野菜室、冷凍室3室をそれぞれ独立した冷却器で制御することによってさらに省エネ効果を高めています。さらに、平成14(2002)年1月に発売された冷蔵庫(400L)の電気使用量は、10年前と比較すると、1,286 kWh/年から280kWh/年まで80%近く削減することができています。

 そのほかにも色んな工夫を施しています。野菜室の脱臭、除菌はもちろん、野菜から発生し、野菜を傷める物質「エチレン」を分解する取組なども実現しています。できるだけ長い期間、美味しいと思える状態を保つことができるようになりました。

安全性確保のために実験の連続

-工夫の裏にはいろんな苦労があったと思います。どのような苦労がありましたか-

イメージ:新しい取組でしたので、苦労の連続でした。例えば、安全性の確保のため、接点部位が着火源とならないように工夫しています。でも、絶対に着火源とはならないことをきちんと検証することが必要です。そのための確認実験は大変でした。

自動製氷機のモーター、脱臭装置のトランス、コンプレッサー、除霜ヒーターなどあらゆる部品をひとつずつ検証・評価していきました。

回路の接続部が抜けかけると火花が生じるのではないか、冷蔵庫の近くで燃焼するストーブが置かれることもあるのではないか、想像力を働かせ、ありとあらゆる状況を作り、少しでも原因となるようであれば、使用に際して問題がなくなるまで対応していきました。

丸3年間の研究の上に確立した安全性と信頼性

-研究はどのような体制、人数で行われていたのですか-

研究に着手したのは平成10(1998)年の終わり、販売が平成14(2002)年1月でしたので、丸3年間、研究を行っていました。

冷蔵庫は24時間止まらず、動き続けます。安全性と同じく、信頼性も大切になります。冷蔵庫の心臓部となるコンプレッサーが安定して動くか、じっくり検証をおこないました。安全性、信頼性、省エネ性、鮮度確保など、あらゆる研究を行いました。先行開発には10名、量産開発などには20名程度の研究者が関わっていました。クリアすべき課題も多かったので、時間と労力をかけ、研究を進めてきました。

環境に意識の高い層からの支持で、想定の10倍の販売数に

-その後、フロン類を使用しない家庭用冷蔵庫が初めて登場するのですね-

平成14(2002)年1月、イソブタンを採用した容量400リットルの大型冷蔵庫が発売されました。当時、日本初のフロン類を使用しない家庭用冷蔵庫ということもあって、積極的にPRしました。評判がよく、想定以上に売れました。当初新しい技術ということもあって生産するラインは限られていました。企画段階では2,000台の販売を想定していましたが、実際は年間2万台販売しました。また、売価が当時の家庭用冷蔵庫の相場より2万円程度高かったのですが、それでも環境に敏感な方を中心に購入していただきました。時期的に、平成13(2001)年は、家電リサイクル法施行の翌年でしたので、前年の駆け込み需要の影響もあって、売上は落ち込むだろうと考えていた中で達成した販売数です。当時から環境に意識の高い層は確実に存在していたのだろうと思います。

イメージ:その後、平成14(2002)年9月からは、容量320-500リットルという主力モデル5機種全てに新技術を採用しました。電化製品業界では、新技術の商品を市場に投入する際、商品ラインナップ全てを一挙に新技術にするのではなく、一部の商品に新技術を採用し、市場動向を見ながら次の商品の販売戦略を立案するという手法を取ります。想定以上に売れたということもあって、新技術を採用した商品がいっきに増えました。

それから数年経ち、様々な企業からフロン類を使用しない家庭用冷蔵庫が発売され、いまでは当たり前の技術、当たり前の製品となりました。

なお、本製品は、これまでに無い技術を採用した製品ということもあって、日本冷凍空調学会という団体の技術賞も受賞しました。

安全で豊かな食生活を実現する冷蔵庫が世界中で普及するように

-海外を含め、今後の商品展開における見通しについてお聞かせ下さい-

イメージ:当社は、東南アジアでも事業を行っています。東南アジアでも、平成25(2013)年頃からイソブタンを使用するようになりました。東南アジアでは、サービスインフラを整えることが一番難しいところです。例えば、「冷蔵庫が故障した、サービスマンに見て欲しい」という連絡があった場合、東芝の教育されたサービスマンが現場に行くというのが日本では一般的です。しかし、東南アジアでは、どこの会社でも対応するというサービス会社が多々ありますので、そういった人々の教育が重要です。将来的には、世界のいろんな場所で、安全で豊かな食生活を送ることができる家庭用冷蔵庫が普及すればと願っています。

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東芝ライフスタイル株式会社 設計統括センター 冷蔵庫技監
関口 康幸

冷蔵庫開発全般統括、技術行政を担当

<研究開発で大切にしていること>

可能性があるのならばその点をとことん追求してみる、たとえ得られる効果は小さいものになるかもしれないけど、何でもやってみないと始まらない。

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東芝ライフスタイル株式会社 ホームアプライアンス事業本部
HA第一事業部技術部 部長
前田 雅彦

国内、海外向け冷蔵庫の開発を統括

<研究開発で大切にしていること>

技術者ではない、ごく普通の生活者である自分の母親が使うことを想定し、どんな使い方であっても絶対に安全な状態にしておくことが大切。

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東芝ライフスタイル株式会社 ホームアプライアンス事業本部
HA第一事業部技術部 性能設計担当参事
天明 稔

国内、海外向け冷蔵庫の冷凍サイクル、冷却性能開発に従事

<研究開発で大切にしていること>

環境は王道である。愚直に研究開発をしてそれが良いものであれば消費者の方にも認められる。実際、それを体現できたことは、本当に嬉しかった。

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東芝ライフスタイル株式会社 ホームアプライアンス事業本部
HA第一事業部技術部 電気・電子技術担当 グループ長
上野 俊司

冷蔵庫の電気、電子部品開発に従事。電気学会会員

<研究開発で大切にしていること>

部品の開発評価はモノが発信するアラームに神経を傾け、よく見る、触れることが大切。机上の検討だけではなく、モノを原点に真剣に検討し、対応する。

-編集後記-

生活者が安全で豊かに暮らすことができ、また、地球環境にも配慮した商品の開発。インタビューでは、これまでの取組を終始笑顔でお話頂きましたが、最後の言葉には、研究者の方々の並々ならぬ努力と情熱が含まれていることを改めて感じました。次にどういった商品が開発されるのか、次の展開を期待したくなるインタビューでした。

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