自然公園のあり方に関する中間答申

■戻る■

自然公園のあり方に関する中間答申

Ⅰ はじめに

 平成13年11月16日付け諮問第25号、環自国第346号による諮問「自然公園の今後のあり方について」を受け、本審議会は平成13年12月10日自然環境部会の下に「自然公園のあり方検討小委員会」を設け、鋭意審議を行ってきているところである。これまでの審議において、自然公園をめぐる状況及び課題について概観するとともに、生物多様性保全の観点から、現に問題が進行しつつあり、特に緊急の措置を必要とする事項について一定の結論に達したので次のとおり答申する。

Ⅱ 自然公園をめぐる状況と課題

(1)自然公園をめぐる状況

 自然公園は、昭和9年に国立公園が初めて指定されて以来、日本のすぐれた風景の保護及び利用の推進に大きな役割を果たしてきた制度である。面積において国土の約14%を占める自然公園は、日本列島の脊梁山脈や海岸線、島嶼等の主要な自然の風景地を広く含み、風景に支障を及ぼす人為を制限することにより風致、景観の保全が図られている。また、各種施設の整備や自然観察会などのソフト施策を通じて利用の促進が図られ、近年は年間延べ9億人の利用者が、保健休養、自然探勝など自然とのふれあいを楽しみ、自然の恵沢を受けているところである。
 しかしながら、国民の自然環境保全に対する意識の高まりの中で、自然公園への期待はより一層高まりつつある。保護の面では、自然の風景地の保護のみならず、そこに生息する野生生物の保護、それらの生息環境の保全など、生物多様性保全の観点から自然公園が積極的な役割を果たすことが求められている。また利用の面でも、単なる行楽的なものから、より原生的で神秘的な自然とふれあうことや、自然のしくみを理解することへの要求が高まっている。
 なお、平成13年12月11日には政府の「総合規制改革会議」により「規制改革の推進に関する第1次答申 [PDF 7.4KB]」が行われ、その中では「自然公園を生物多様性保全の屋台骨として積極的に活用するため、生態系の保全と野生生物保護の機能を自然公園法に位置付けるべき」とされ、また、「生物多様性国家戦略」の改訂のための審議会等における議論でも自然公園については生物多様性保全の視点から機能を強化すべきことが指摘されている。

(2)自然公園の課題

 自然公園は、国民が日本のありのままの自然とふれあい、自然のしくみを学ぶことのできる貴重な場所であること、国土の生物多様性保全に重要な役割を果たすべき地域であること、また、その風景の中には世界的にも比類のない美しさを有するものがあることを基本認識として、我々の後の世代に日本の宝として引き継ぐことのできるようその役割、機能を強化、拡充すべきである。
 このため、当審議会では、このような視点に立って、国民の期待に応え、国民に支持される自然公園のあり方について、国民生活、社会経済状況、自然環境の現状等多元的な観点から、次に示す課題について今後引き続き十分な審議を行う必要がある。

  1. 1.保護及び保全方策に関するもの
    • ・ 国土における自然公園の役割の明確化と地域指定(ゾーニング)のあり方
    • ・ 保護管理手法やこれを実施するための体制のあり方 等
  2. 2.自然公園利用の質的向上に関するもの
    • ・ 自然公園における環境教育・環境学習の推進のあり方
    • ・ 環境保全型自然体験活動(エコツアー)の推進など新たな利用形態への対応のあり方 等
  3. 3.自然公園の整備に関するもの
    • ・ 自然再生事業のあり方
    • ・ 自然と調和した自然公園内の施設のデザイン、工法のあり方 等
  4. 4.自然公園管理・運営の基盤となる科学的知見の集積、提供に関するもの
    • ・ 科学的データの収集、分析、提供のあり方
    • ・ 自然環境保全に関する研究の推進のあり方 等
  5. 5.自然公園の管理・運営を支えるための制度に関するもの
    • ・ 税制、助成措置、受益者負担等のあり方 等
  6. 6.自然公園の管理・運営と各主体の参加に関するもの
    • ・ 国、地方自治体など公園の管理・運営主体の適正な役割分担と連携のあり方
    • ・ 研究者、NGO、公園事業者、地元住民、利用者等の参画・連携のあり方 等

Ⅲ 生物多様性保全の観点から緊急に対応すべき自然公園の課題と措置

 Ⅱ章で述べたように、自然公園は、国土面積の約14%を占めており、自然環境を保全する制度としては最も広い面積を有し、標高の高い奥山の自然植生、シカ、クマ、サル等の大型哺乳類の分布域、高山チョウなど山岳部に特有の動植物の分布域を広く含むなど、国土における生物多様性の骨格的な部分、いわば屋台骨としての役割を担っている。
 また、自然公園内には人為的管理により成立している里山や二次草原が多く含まれており、そのような地域には、例えば阿蘇の牧野のように、特有で希少な動植物の重要な生息、生育地となっている地域が多く含まれている。
 このようなことから、自然公園は、国土における生物多様性保全の観点から量的にも質的にも重要な役割を果たすことが期待されている。
 一方で、自然公園では、原生的な自然の地域における利用者の増加による自然環境への影響や、従前からの規制では対応できない各種行為による自然環境の破壊が見られる。また、里山や二次草原など二次的な自然の地域では社会経済状況の変化により人為的管理が行われなくなった結果、自然環境の変質など生物多様性保全上の支障が顕在化しており、II章において示した課題の中でも特にこれらの問題について早急に対策を講ずる必要がある。
当審議会では、以上のような自然公園における課題に対応するため、緊急に措置すべき事項について集中的に検討したところであり、次のような具体的な措置を行うべきことを提案する。

1.利用の調整

近年、国民の自然志向の変化等によって、従来ほとんど利用者が立ち入ることのなかった原生的な自然の地域等を訪れる利用者が増加しつつあり、当該地の原生的な雰囲気が失われるとともに、風致景観、生物多様保全上の支障が生じている。
 このような問題に対応するため、場所によっては土地所有者を含む地域の関係者の申し合わせによって立ち入りを規制することによって対応している事例も見られるが、法的根拠がないことから実効性に問題が生じている。
 また、自然公園の利用という観点から見ると、原生的な自然の地域は、より深い自然とのふれあいと体験が得られる場として貴重であり、一定のルールとコントロールの下で持続的な利用を図ることが有効であると考えられる。
 したがって、これらの地域においては、自然公園の保護と利用の両面から、原生的な雰囲気を保持するとともに、利用圧の高まりによる風致景観、生物多様性保全上の支障が生じない範囲内での適正な利用の推進を図ることが必要である。
 このため、自然公園の原生的な自然の地域などにおいて、利用者の人数を限定するなどの利用のコントロール(調整)を図ることができる地区を設ける制度を創設する必要がある。

2.特別地域等における規制の強化

 自然公園内の特別保護地区や特別地域では、従前から工作物の新築、土地の形状変更、木竹の伐採、高山植物等の採取などの規制が行われており、野生生物の生息環境の保全など生物多様性保全に一定の効果を果たしてきたところである。しかしながら以下に述べるように、近年従前からの規制では対応できない新たな問題が発生しており、生物多様性保全の観点からも適切な措置を講ずる必要がある。

[1]特別地域における動物の捕獲規制

 従来、自然公園の特別地域では動物の捕獲は規制されておらず、一部の動物については捕獲による個体数の減少が問題となっている。例えば、チョウ類については、高山帯などに生息する高山性のチョウなどは、生息環境が厳しく、狭いことから元々個体数が少なく、また、二次草原に生息するチョウ類も草原の減少などに伴って著しく減少しており、ともにレッドデータブック記載種となっている種が多い。
 これらの減少原因は、主に生息地の消失、悪化などによるものであり、各種行為規制によりさらに一層の生息環境の保全が重要であるが、捕獲による影響も大きく、特に減少している種に対して捕獲の圧力が加わることによって、種の存続に致命的な影響を与えるおそれがある。
 高山性のチョウの生息地の中心部分は特別保護地区に指定され保護されていることが多いが、周辺の特別地域にも生息が確認されており、また、種によっては特別地域が主な生息地となっているものも見られる。さらに、著しく減少しつつある草原性のチョウ類の生息地は主に特別地域であることが多い。
このため、高山性のチョウなどの著しく減少しつつある動物種については、特別地域でも捕獲を規制する措置を講じる必要がある。

[2]特別地域における土石、廃棄物などの集積等の規制

 自然公園は、人里から離れており、人目に付きにくい場所が多く、建設残土などの廃土石、廃車や廃タイヤなどの投棄、集積などが行われ、風致景観上の支障が生じているほか、直接的な動植物生息地の消失や分断など、生物多様性保全上の支障の生ずるおそれのある場所がある。
現在、特別保護地区については、物の集積、貯蔵が規制されているが、その周辺に広がる特別地域では規制手段がないことからこのような問題が生じているものと考えられる。
 したがって、特別地域においても、風致景観等に重大な影響を与えるおそれのあるものについて、その集積、貯蔵を規制する措置を講じる必要がある。

[3]湿原など脆弱な自然環境の保護

 高層湿原や高山植物群落などのきわめて脆弱な自然環境は、人が踏み込むことによって、回復困難あるいは回復に長期間を要する植生等の破壊が生じることとなる。
 このため、踏み込まないよう利用者に呼びかけるなど、保護を図っているものの、写真撮影などのために脆弱な場所へ立ち入る心ない人も見られ、実効性に問題が生じている場合も見られる。
 これらのきわめて脆弱な自然環境を保全するためには、先に述べた利用の調整ではなく、人の踏み込み自体を法的に規制する必要がある。
 したがって、湿原などの極めて脆弱な自然環境については、地区を指定し、人の踏み込みを禁止する措置を講じる必要がある。

3.自然再生・修復

 全国各地には、様々な理由によって自然が大きく改変され、本来の自然生態系ではなくなっている場所が存在する。これらの自然生態系をよみがえらせるためには、自然の長期的持続可能性を最優先し、生態系のひろがりとつながりを重視し、多様な主体の参加の下、自然の不確実性を踏まえた順応的な生態系の管理手法を取り入れて積極的に自然を再生する公共事業、すなわち「自然再生型公共事業 [PDF 7.5KB]」を推進することが必要である。このことは、平成13年7月10日の「21世紀『環の国』づくり会議 [PDF 46.7KB]」でも報告されている。
 自然公園内においても、過剰利用等によって荒廃した場所や、過去に何らかの利用を目的に改変されたが、生物多様性保全上重要であり、社会経済的状況の変化によって復元・再生が可能となっている場所などについては、順応的な手法によって自然環境の再生・修復を積極的に実施することが必要である。このため、現在検討が進められている「自然再生事業」が自然公園の事業として実施できるよう所要の措置を講じる必要がある。
 なお、実施に当たっては、周到な事前の環境調査を実施し科学的知見に基づく情報を地域の関係者が共有し、社会的な合意を形成した上で再生・修復を進める必要があり、また、事業の実施によってかえって生態系の機能を損なうことのないよう順応的管理の考え方を取り入れ、事業途中及び、事業実施後においての的確なモニタリングと、必要に応じて事業内容の見直し、継続的な維持管理を行う必要がある。

4.自然環境情報の収集・提供

 自然公園の管理には、生物の生息状況、生態などの自然環境に関する科学的データの集積が不可欠である。従来、これらの情報は、全国的視点からの自然環境保全基礎調査の成果や各種の調査結果のデータを活用することなどにより集積が図られてきた。しかしながら、自然公園毎の体系的な情報収集の体制は不十分であり、特に、自然公園内の生物相や,生物の生息と深く関係する気温、降水量、日照量などの気象に関するデータ、河川の水量,水質及び土壌に関するデータなど基礎的な自然環境情報の収集は、極めて重要であるにもかかわらず現状では必ずしも十分に行われていない。
 これらの情報は、生物多様性保全に配慮した自然公園の管理の充実や、自然再生事業の推進には欠くことのできないものであり、情報収集体制の強化、充実が必要である。
 また、これらの情報をビジターセンターやインターネットを通じて積極的に、またきめ細かく自然公園の利用者や住民、研究者に発信、提供することにより、科学的、客観的なデータに基づいた自然公園の現状の紹介や、管理施策への理解、参加を促すこととなる。また、利用者にとっては、安全を確保し自然との体験を深めるための事前情報としても有益である。
 以上のことから、自然環境情報の収集、提供を行うための施設の整備などについては、自然公園の事業として推進できるよう早急に所要の措置を講ずる必要がある。

5.利用施設のあり方と整備の推進

 登山道や公衆便所をはじめとする自然公園の公共的な施設は、主に自然公園等事業 [PDF 7.3KB]で整備が進められている。平成6年から自然公園等事業が公共事業となったこともあり着実に予算が増加し、特に公園の利用上核心的な地域や利用者が多く訪れる地域などにおいて、ビジターセンター、歩道、トイレ等の利用の基盤となる施設の重点的整備が行われ、快適な利用が図られつつある。しかしながら、最近では、量的な充足もさることながら、施設の整備にあたって地域の特性に対応した自然環境への配慮など質的、技術的なレベルの向上が求められている。
 また、山岳地など自然条件が厳しく脆弱な地域においては自然への影響が最小となるような技術が十分に確立されていないことなどによって、利用施設の整備がかえって自然を損ねるといった状況も一部で生じている。
 さらに、中高年利用者を中心とする登山利用が増加しており、自然とのふれあいの促進の観点からは大変望ましい状況である一方、いわゆる百名山など一部の山岳地に利用が集中し、過剰な利用による登山道の荒廃やトイレ整備の遅れなどから自然環境への影響が発生している。
 これらの課題に対しては、自然公園の施設の質的、技術的向上を図るとともに、生物多様性保全に支障を生ずることのないよう自然公園にふさわしい施設のあり方や整備方法等を早急に検討することが必要である。
 特に、登山道や山岳トイレについては、環境の保全に配慮した整備促進を図る必要があり、これに対する助成措置の拡充等所要の措置を図る必要がある。

6.二次的自然の地域の保全

 自然公園内にある里山や二次草原などの二次的自然の地域は、従来からの風景の保護に加え、生物多様性保全の観点からも重要性が増大している。これらの二次的自然の地域は、人為による維持管理が行われることによって保全され、維持されているが、近年の社会経済状況の変化や農山村の人口構造の変化などにより、土地所有者や管理者による適切な維持管理が行われなくなり、良好な自然風景地として維持することが困難になりつつある。
 その一方では、都市近郊周辺を中心として、放置された里山の管理などを行い二次的自然の地域の保全を図ろうとする民間団体等の気運が高まりをみせている。
 現在の自然公園制度の下では、主に規制手法による管理が行われているが、これらの二次的自然の地域を保全し維持管理するためには、従来からの規制的手法のみでは限界があり、人為による管理を継続して行うための新たなしくみが必要となっている。
 こうした状況に対応し、自然公園内の二次的自然の地域の維持管理を行うためには、関係行政機関との連携はもとよりであるが、土地所有者と、保全に対する意欲を持つ民間団体等との連携を図ることによって、保全・管理を推進することが有効であると考えられる。
 このため、土地所有者と民間団体等との間で管理協定を結び、土地所有者に代わって民間団体等が維持管理等を行う仕組みを制度化することが必要である。
 また、管理協定制度を推進し、民間団体等の活動を活性化するため、自然環境の保全、管理能力を十分に有する民間団体等を国等が認定する制度を設けることが必要である。
さらに、これらの仕組みづくりを促進するため、土地所有者等の負担を軽減するための税制上の特例措置を検討するとともに、国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業 [PDF 3.8KB]等自然公園の管理充実を図るための事業を拡充し、それにより自然環境の保全・管理に当たる民間団体との連携の強化を図る必要がある。

Ⅳ 今後の検討

 Ⅲ章に掲げた事項については、自然公園法の改正、予算措置等、所要の措置によって早急に対応する必要がある。
 また、Ⅱ章に掲げた課題については、21世紀における自然公園のあり方をめざし、今後ここに掲げたものを中心に、幅広い論点について、さらに議論を深めていく必要がある。

Adobe Readerのダウンロード

PDF形式のファイルをご覧いただくためには、Adobe Readerが必要です。Adobe Reader(無償)をダウンロードしてご利用ください。

ページ先頭へ