第17回有明海・八代海総合調査評価委員会 会議録

1.日時

平成17年12月12日(月) 13:00~17:00

2.場所

経済産業省別館9階 944号会議室

3.出席者

委員長 須藤隆一委員長
委員 相生啓子委員 荒牧軍治委員 岡田光正委員 楠田哲也委員 小松利光委員
三本菅善昭委員 清野聡子委員 滝川清委員 中田英昭委員 原武史委員
細川恭史委員 本城凡夫委員 山口敦子委員 山田真知子委員 山本智子委員
臨時委員 菊池泰二委員
発表者 佐々木克之(日本海洋学会海洋環境問題委員会有明海小委員会編集委員会委員長)
事務局 環境省水・大気環境局水環境担当審議官
水・大気環境局水環境課長
水環境課閉鎖性海域対策室長
閉鎖性海域対策室長補佐

午後1時01分 開会

○環境省閉鎖性海域対策室長 定刻となりましたので、ただいまから第17回有明海・八代海総合調査評価委員会を開催いたします。
 先生方には年末のお忙しいところをご出席賜りまして、ありがとうございます。
 本日は、伊藤委員、大和田委員、森下委員の3名の委員から欠席と伺っておりまして、18名の方にご出席いただいておりますので、定足数を満たしております。
 議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。
 お手元の議事次第をめくっていただきますと、資料の一覧がございます。
 資料1としまして委員名簿、2といたしまして「水産資源に関するとりまとめ(2)主に魚類資源について」でございます。資料3といたしまして「有明海の魚類に関する最近の調査結果」、資料4といたしまして「「有明海の生態系再生をめざして」(海洋学会・海洋環境問題委員会編)の紹介」、資料5といたしまして、評価委員会の「中間取りまとめ構成案」でございます。 過不足等ございましたら、ご連絡いただきたいと思います。
 それから、先生方の前にはマイクがございますが、発言のときには真ん中のボタンを押していただき、発言が終了いたしましたら、ハウリングいたしますので、必ずマイクを切っていただくようにお願いいたします。 それでは、以下の進行につきましては須藤先生にお願い申し上げます。

○須藤委員長 皆さん、こんにちは。
 委員の先生方、事務局の皆様、それから関係6省の皆様、関係6県の皆様、年末の大変ご多忙の中をお繰り合わせ、ご出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 本日もまた大変多くの方に傍聴いただきましたこと、お礼を申し上げたいと思います。
 本日は、ただいま13時から始めまして17時の終了を予定しております。いつもの会議より1時間ほど長いご審議をお願いするということでございますので、議事進行につきましては、どうぞご協力いただきたいと思います。
 本日は、次第にございますように、その他を含めまして5つの議題が用意されております。
 まず1つ目の議題でございますが、有明海における水産資源についてであります。
 水産資源については、伊藤委員、中田委員、山口委員、原委員、菊池委員にご検討いただいてまいりました。取りまとめをいただきました中田先生を初め各先生方には、ご多忙の中、熱心にご検討いただきましたことをあらかじめお礼を申し上げたいと思います。
 第15回の評価委員会では、伊藤委員から二枚貝についてご発表いただきましたが、本日は、中田委員と山口委員から魚類を中心に報告をお願いいたします。
 それでは、中田委員からお願いいたします。

○中田委員 長崎大学水産学部の中田です。
 ただいま委員長からご紹介がありましたように、前々回の二枚貝資源に続きまして、本日は、主に魚類資源に関する検討結果をご報告します。
 最初に、私が全体的な取りまとめの結果についてお話ししまして、その後、山口委員から、最近の調査結果も含めまして、幾つか重要な点について補足説明をするという形で進めたいと思っております。
 水産資源につきましては、先ほどご紹介がありましたように、私と山口委員のほか、菊池委員、原委員、伊藤委員に参加していただきました。どうもありがとうございました。
 それから、当初の予定では、八代海の水産資源についてもあわせて取りまとめる予定でございましたが、八代海につきましては、有明海に輪をかけて情報が少ないということと、この検討グループの中での議論がまだ十分ではないということがございまして、情報は集めておりますが、その取りまとめについては後日、別の機会にしたいと考えております。今日は、有明海の魚類を中心とした水産資源に絞ってお話しさせていただきますので、その点、よろしくご了承をお願いします。
 最初に、有明海の環境特性についてまとめてあります。
 大きな潮汐と多量の浮泥が、いろいろな形で環境を維持すると同時に干潟を形成する、あるいは赤潮や貧酸素化を防止するといった働きをして、ノリ、貝の生産力を支える重要な働きをしてきたと考えているわけですが、魚類資源につきましても、実は、こういう有明海の環境の特性が非常に重要な働きをしていると考えていいと思います。この点は最後にまたお話しします。
 有明海を水産資源その他の生物の生息の場所として、幾つか特徴を挙げますと、非常に水深の浅い場所がかなり広がっている、それから、流入河川がたくさんあって、運び込まれる浮泥で広大な干潟が形成されている、こういったところが重要なポイントになるわけです。そういう環境のもとで非常に高い生物生産性、1平方キロメートル当たりの漁獲量にしまして、年間20トン以上ということで、瀬戸内海に並ぶ最高水準の生産力を誇っているということであります。
 特に魚類資源について、最も重要と思われますのは、こういう干潟あるいは流入河川の影響の強い河口域が、資源となる魚類の発育初期の仔稚魚の成育の場所として利用されている、あるいは有明海だけに棲んでいる特産種が幾つかございますが、その特産種の生息場所として非常に重要な働きをしているという点が挙げられます。
 特産生物としては、これまでに魚類で7種、浮遊性プランクトンで2種、ベントス14種ということで、いろいろな生物が報告されておりますが、特に魚類について、種類数を報告した事例を少し整理してみますと、こういう数になります。
 定量的な調査については長崎大学の山口さんの調査だけではございますが、東京湾などの魚類の種類数に比べて、はるかにたくさんの種類の魚類が有明海に生息していることがおわかりいただけると思います。ですから、非常に重要な点の1つは、有明海は生産性が高いだけでなくて、多様性も大きいという点でございます。
 後で山口委員から少し詳しい報告がありますが、漁獲対象になっている種類は実は半分ぐらいで、対象以外の種類がかなりの部分を占めているという点についても、これから有明海の資源の問題を考えていくときに非常に重要となるポイントではないかと思います。
 まずは、有明海にだけ生息しております特産魚類として、どういうものがあるかといいますと、ここに挙げたような種類になります。重要なポイントは、有明海の中で全生活史を送るということで、特に河口域、流入河川の感潮域を仔稚魚の成育の場所として利用している、ほとんどの種類がそういう特徴を持っております。ですから、いずれも淡水とかかわりの深い生活をしている点が重要だろうと思われます。
 その代表的なものとして、エツについてのこれまでの研究を少しまとめた形でこちらに持ってまいりました。
 重要な点だけをご紹介しますが、日本では、有明海の奥部と諫早湾だけに分布しているということですとか、あるいは漁獲量が83年ぐらいまでは100トン前後で推移していたものが、94年には36トンに減少している。これはほかの特産種についても同じような状況でございます。減少要因としては、堰の建設と多量の取水により、淡水域が縮小したためという報告がございます。ほかに、産卵期に親を漁獲することの影響も一部にあるかもしれないと思われますが、基本的には、淡水域の縮小が重要な要因になっていると言っていいだろうと思います。
 次に、有明海を代表する魚類を大きく2つのグループに分けて整理してみました。1つは、有明海の中に分布していて、季節によって、あるいは発育の段階によって場所を移動する種類でございます。メナダ、スズキ、コイチ、コウライアカシタビラメ、シログチというような種類を挙げてあります。
 もう一つは、生活史の一部、産卵の場所あるいは仔稚魚の成育の場所として部分的に有明海を利用している種類で、ヒラ、マナガツオ、トラフグ、シマフグといった種類をここには挙げております。
 後で漁獲量が絶対的に減少してきているというお話しをしますが、その漁獲量の減少が際立っているのは、先ほどお話ししました特産魚と、それから、この上のグループですね。有明海の中で生活して、季節によって、あるいは発育の段階によって生息場所を移動しているような種類の減少が非常に際立っているというところをお話しします。
 その代表的なものとして、コイチについて幾つか報告があります。それを分布、産卵、漁業、減少要因ということで取りまとめてみたものです。
 コイチは、日本国内では、瀬戸内海と有明海だけに生息していまして、水深5メートル前後の浅い海域で産卵して、仔魚は湾奥部のさらに浅い所に分布しています。特に河川の流入する河口域を中心に分布するということでして、減少要因として、主に感潮域、河口域、干潟域の減少と環境変化が最も大きな原因になっていると考えられます。
 これはコイチの仔稚魚の分布を示した報告ですが、先ほどお話ししましたように、産卵の場所は湾奥部と諫早湾、非常に限られた湾奥部の浅い海域です。それから、仔稚魚が湾奥部沿岸の浅海域から河口域に多く分布しています。この分布図を見ていただければ、そういう状況がよくおわかりいただけるのではないかと思います。
 そこで、もう少し一般的に、有明海における漁獲量のデータをもとにしまして、資源の動向、資源の経年的な変化の状況について分析してみます。
 ただ、これは今後の課題になりますが、漁業資源とか漁業資源になる生物の生態に関する情報というのは非常に少ないことは、最初に指摘しておかなければいけません。後でお話しいただく山口委員を中心として、幾つかの魚種について、かなり精力的な調査が進められておりますが、これまでの情報は非常に少ないということを頭に入れておく必要があります。
 資源量の変化を見るためには、漁獲量の情報しかないわけですが、例えば漁獲のための努力量みたいなものをあわせて考慮しないと、なかなか資源の評価は難しいというご意見もあるだろうと思いますが、有明海に関しては、漁獲の努力量の情報も非常に整備されていないので、信頼度が余り高くないんですね。
 有明海の場合は、かなり全体にわたって漁業者が資源を広く利用していますので、そういう意味では、漁獲量の動向は、資源量の変化をそのままあらわしていると考えてもいいのではないかと思っております。
 そこで、漁獲量の経年変化をもとに、資源動向について検討いたしました。
 これは漁獲量の経年変化を示したもので、ご存じのように、有明海の場合は、黄色で示してあります貝類の資源が大部分を占めております。それで、80年代に入って急速にその貝が減少してきているということですが、実は、青で示した魚類についても、そこだけを取り出して経年変化を見てみますと、これは1955年からの経年変化を示したものですが、上がったり下がったりしながら少しずつ上昇してきて、1987年あたりにピークがあるのですが、そこからは2002年ぐらいまで、ずっと減少していることがおわかりいただけると思います。以前のレベルに比べてはるかに下の方に来ているということでございます。
 これは、それを県別の統計として示したものですが、縦軸の数字を比べていただくとわかりますように、長崎県と熊本県が魚類の漁獲量のかなりの部分を占めておりまして、80年代中ごろからの減少も、この両県で特に目立っております。
 これは魚種別に漁獲量の変化の様子をまとめて示したものです。
 一番上に示してあるのがコノシロで、湾奥部の、どちらかというと表層で生活している種類ですが、そのほかのものをずっと見ていただきますとわかりますように、ほとんどが海底の近く、あるいは底層で生活している種類でございます。ですから、有明海では、主要な魚種の大半が底生生活をしているという点も非常に重要なポイントの1つであります。
 そういう種類の漁獲量、どれをとってもずっと右肩下がりで減少傾向を示していることがおわかりいただけると思います。
 幾つかのグループに分けてお話ししますが、最初は、漁獲量に大きな変化が見られないか、あるいは増加傾向がある種類です。このような事例は非常に少ないです。マダイ、フグ類、スルメイカ、タコ類といった種類がここに入ってまいります。ただ、大部分の魚類については漁獲量が減少傾向を示しておりまして、1980年代の中ごろから、ボラにしてもスズキにしても、クロダイ、その他のエビ類にしても、ずっと減少する様子を示していることがおわかりいただけると思います。
 全体的には、こういう傾向を示すものがほとんどですが、実は、重要な種類の中に幾つか、1990年代の後半あたりにさらに急激に減少している種類がございます。例えばヒラメ、カレイ、ニベ・グチ類、クルマエビといったような種類がそれに該当するものです。
 1995年ぐらいにラインを引いていたはずなんですが、抜けてしまっていますので、お手元の資料の方を見ていただきたいと思います。こちらを見ていただくとわかりますように、90年代の後半に急激に、これまでのレベルよりさらに急激に減少していることがおわかりいただけると思います。
 こういう、最近特に減少が著しい魚類に共通する特性として、いずれも海底に依存性が強く、それから産卵場と仔稚魚の出現場所が違う、そういう特徴があります。
 そこら辺を少し詳しくお話ししておきたいと思いますが、これはその代表的なものの1つであるシログチについて、再生産と資源変動要因をまとめてみたものです。
 シログチは、夏の時期に産卵するわけですが、その産卵の場所が、実は島原半島の沖の方がその中心になっていると考えられます。仔稚魚はもっと奥部の浅い所に出現する、そこで成育することもわかっておりまして、したがって、この中央部の産卵場から湾の奥の成育に適したところまで、流れによってうまく輸送されるかどうかが、資源の変動に影響する要因の1つにになっている可能性があります。
 ほかの魚種に比べても最近の減少の程度が大きいということで、特にこのシログチについて、1つは、流れの変化の影響が可能性としてありますし、それから、特に移動の経路に当たるところでの底層の環境、特に貧酸素等の酸素環境の変化という問題も考える必要があると思われます。仔稚魚の成育場を直接失うような影響に加えて、そういう環境変化、流れの変化の影響を受けている可能性があるというお話をしておきたいと思います。
 実は、シログチだけではなくて、先ほどクルマエビについても90年代後半に減少が著しいというお話をしましたが、シログチと非常に類似した再生産の特性を持っておりまして、有明海の中央部、あるいは少し外側で卵を生む。それが稚エビの段階では、かなり湾奥、沿岸の水深の浅い所で成育するということで、そういう所にうまく流れを利用して移動することが必要になります。
 これは、もう少し一般的に、いろいろな種類について、産卵場所と稚魚の出現場所等を整理してみたものですが、1990年代後半に減少が著しい魚種に共通する特性として、いずれも底生生活をしている種類で、特に産卵場は中央部、あるいは奥の方でも水深の深い所であるのに対して、稚魚が成育するのはもっと水深の浅い場所であるということ、そういう生活史の特性を持っていることから、底層の環境の悪化や流れの変化の影響、先ほどシログチについてお話ししたのと同じようなことが、この全体についても言えるのではないかと考えています。
 こういう漁獲量あるいは漁業資源の減少の要因については、いろいろなことが考えられるわけですが、基本的には、ここに初期減耗という言葉がありますが、発育の初期の卵から仔稚魚の時代までの間に、かなりの部分が死亡する。ここの生き残りの程度によって資源量が決定されると考えることができます。ですから、有明海の場合も、そういう資源変動を考える場合には、発育初期の減耗がどういうふうにコントロールされているか、そこにどういう要因が関与しているかといった観点で検討することが基本になると思います。
 これまでお話ししたようなことから、有明海の魚類資源の変動に関与する可能性のある要因を、大きく2つに分けて整理しました。1つは場の変化の問題で、生息場が消滅したり縮小したりすることの影響で、これは特に初期の減耗に関係する、仔稚魚期の成育場の変化の問題と言ってもいいと思います。これには干潟面積の減少、感潮域の消滅・縮小、海底地形の変化、それから底質の粒径その他の変化といったものが要因として関与している可能性があります。
 もう一つは、生息環境の悪化という点で、これは特に底層、あるいは仔稚魚の産卵場から成育場への輸送経路の環境が悪化していることの影響になります。1つは流速・流向の変化の問題、それから底層水の貧酸素域の拡大という問題、それから、もう少し一般的に水質の汚染、河川からの砂泥流入量が減少して濁りが低下する、赤潮が増加する、そういう問題。それから、最近の海水温の上昇の影響、ノリの酸処理剤などの影響も含めて、この生息環境の悪化の問題を整理していく必要があるだろうと思っております。
 それに加えて、その他として、実はいろいろな魚類について種苗放流が行われていたり、あるいは、後で山口委員からお話があると思いますが、エイを駆除するといった形で人為的なコントロールを加えている部分がございます。そういったものの影響とか、あるいは有明海の外からいろいろなものが中に入り込んでくる、外来種の影響の問題も、実態がもう一つよくわからないところがありますが、こういう点も含めて整理していくことが必要だと思われます。
 それから、産卵親魚や稚魚への漁獲圧の問題も一応含めて考える必要があります。ただ、これについては、これまで同じような形でずっと漁業が続けられてきていることを考えますと、最近の資源の変化に、それほど大きく影響しているとは考えにくいところがございます。
 もう一つ、この委員会でもいろいろな形でこれまで報告されております有明海の最近の環境変化と、今、お話ししました魚類資源の減少に関与している要因とを結びつけた形で整理してみたわけですが、1つは、場の減少の問題に関連して、淡水流入域、感潮域の減少、干潟面積の減少が特産種の生息場を縮小させる、あるいは仔稚魚の成育場を縮小させる、浄化能力を低下させるという形で資源に影響を与えるようなプロセスと、それから、赤で囲った下の方は、環境が悪化することに主に関係している部分でございまして、潮流の流速・流向が変化する、そして多分、潮汐などに適応した生活史あるいは生態特性を持っているようなものが変化する可能性があるでしょうし、直接的には、卵、仔稚魚の輸送の経路や輸送速度が変化するといったところにつながっていく可能性がある。
 このように流れが変わりますと、海底付近の底泥の粒子、実際にどんどん細粒化が進んでいるという報告が幾つかあります。粒子が細粒化すると沈積される有機物が増加する、そして貧酸素域の拡大につながって、底層環境を悪化させていく。さらに細かい粒子が海底に沈積していきますと、海水の方では透明度が上昇する─濁りが減少することになって、それが光条件を緩和させて赤潮の発生を加速していくということで、底層環境の悪化をさらに進めていくということが考えられるだろうと思います。
 以上、資源が減少した話を中心に、その要因ということで説明してきましたが、逆に最近、資源が増えることで問題になっているものとして、エイ類があります。これについては後で山口委員から詳しい説明があると思いますが、こういうふうに、最近は少し減ってきていますが、エイ類が増えている時期には、実はサメ類が減っているという事実がございます。
 こういう図を見ますと、エイが増えたり減ったりするというので、エイだけを見ていては非常にまずいことが分かりいただけると思います。有明海の生態系の中の魚種間のバランス全体の変化に注意を払いながら、いろいろなことを考えていくことが重要であろうと思っております。
 エイ類の増加の要因あるいは増加の影響、特に二枚貝を食害するということは、いろいろな形で指摘されておりますが、ほかに、底層での餌をめぐる競合関係が強まって、ほかの底生魚類の環境収容力が減少していくといったことも出てきているのではないかと考えられます。ここら辺は後で山口委員に補足をお願いしたいと思います。
 一応ここまでのところで、水産資源に関する課題を整理しておきたいと思いますが、1つは、資源動向をより正確に把握する、そして適正管理というところにつないでいくためのいろいろな検討課題がございます。漁獲統計を整理・充実させることは当然必要になってきます。
 それから、有明海の場合、最初にちょっとお話ししましたように、漁獲対象以外の種類がかなり含まれていて、それが有明海の生態系のかなり重要な構成要素となっていることから、生態系を基礎とした管理という方向に持っていくのは将来にわたる非常に重要な課題であります。現実的に、漁業者も含めた学習会等、そういう場をつくりながら、こういう課題に取り組んでいくことが重要ではないかと思います。
 それから、資源生態に関する調査・研究の推進がもう一つ重要な問題です。特に底生魚類の生態とか群集構造の解明、それからエイ類の生態解明、それから、幾つかの優占種について再生産機構を解明する。これは言い換えますと、資源減少要因をさらにしっかり解明するというところにつながっていく問題です。こういう調査・研究の推進があります。
 それから、まだ余りきちんと議論されておりませんが、特に発育初期の仔稚魚の成育の場となっている感潮域、干潟の保全と回復に向けて対策をとることが、もう一つ重要な課題になってくると思われます。
 あと、先ほどちょっとお話ししましたように、有明海の外から入ってる生物の影響評価の問題。これはまだ実態がよくわからないこともありまして、今の検討グループの中で議論はしましたが、まだ十分検討するところまでいっておりません。ここら辺もこれからの非常に重要な課題の1つであると考えております。
 ちょっと長くなりましたが、私からの全体的な話は以上でございまして、あとは山口委員から、最近の研究結果も含めて補足をお願いしたいと思います。

○須藤委員長 どうもありがとうございました。
 続いて山口委員、お願いします。

○山口委員 私からは最近の調査結果ということで、先ほどの中田委員のお話を受けまして、資源の増減に関係していると思われる重要な項目についての最近の調査結果を説明させていただきたいと思います。
 1つは、先ほどお話に出ました試験操業調査の結果で、これが有明海では初めての定量的な調査になるということで、この中身を少し説明させていただきます。
 その中でわかってきました有明海の優占魚種について、シログチとエイを取り上げてお話ししたいと思います。これは資源が減少しているもの、それから増加傾向にあると言われているもの、その両方を取り上げております。
 1つ目の、中央部における試験操業の調査結果ですが、これは2001年から2005年まで、ちょうど5年間になり、継続中です。
 底曳網を使いまして、島原沖の水深40から60メートルの所に、2定点を設けまして、1曳網2時間で、なるべく漁業の現場に近い形でということで、実際には3、4時間の操業になるのですが、2時間で調査しております。各季節、年に4回なんですが、5~8月から11月~2月の間の大潮の日にやっております。これ以外のときには底曳網の操業ができない時期になっています。
 そして、全漁獲物を研究室に持ち帰りまして、種の同定と生物学的測定を行っております。個々の魚種については、詳しく調べていまして、種別の個体数と重量を解析しまして、今までのところは、5年間の変動を見ております。
 それから、種間の関係を見るために、胃内容物の調査も行っています。
 これは漁獲物の写真ですが、1度にかなり大量にとれますが、これを現場で仕分けしてすべて持ち帰りまして、かなりの量になりますが、同定と測定を行います。
 出現した魚種ですが、これまでに114種を記録しております。ただ、今年度から刺網の調査も開始しておりますので、合計しますと、中央部からは124種が今までに見つかっております。底曳の方に限って言いますと、114種のうち39種が有明海で初めての記録となる魚種でした。それがここに示した魚類です。
 これも先ほどの話にありましたが、これまで3つの有明海の魚類に関する報告があります。ただし、これらはすべて定量的な調査ではありませんので、量的なものは見ておりません。
 それから、なぜ私たちが中央部で調査をしたかといいますと、湾奥の方では定量的な調査がしづらいというのも1つあるんですが、中田委員のご発表にありましたように、長崎県が魚類の漁獲量がとても多かったと思うんですが、漁業の中心的な海域になるのが、この中央部ですので、ここの調査をしたということです。
 これは今、投稿の準備中でまだ発表していないのですが、この中には九州で初記録となる種や、あるいは日本でも知られていない種、そういった分類学的にも解決すべき重要な問題が多く含まれていることもわかっております。
 これまでに約40種類もが見つかっていなかった理由ですが、こういうものを見ていただきますと、例えば、これはカナガシラの類です。ちょっと写真が見づらいんですが、どれも非常によく似ております。1つには、やはり同定の難しさというのがありまして、なかなか種類が違うことに気づかれなかったということもあるかと思います。
 これも非常によく似ておりますが、オビウシノシタとセトウシノシタですね。ここの部分が、切れ込みがあるか、ないかというところで簡単に区別できますが、このように、非常によく似た種類がたくさんいるということがあったかと思います。
 ここに書きましたが、今、有明海の魚類の検索表を作成してみようかということで、作業をしております。
 これは、漁獲対象種と対象でないものの割合を見たものです。これは個体数で見たときですが、全漁獲物の中の約3分の2程度は漁獲の対象とはなっていない種類ということで、これはそのまま、多くの場合は投棄されている種類です。この中の漁獲対象となっているのは、ほぼ3分の1強ぐらいになります。
 今度は、漁場別に魚類漁獲量を比較したものです。南北に2つの定点を設けております。これを比較してみますと、まず、夏の方が、これは過去の調査がありませんので何とも言えないんですが、漁業者の方々に伺いますと、ここは昔から夏の漁獲量が多かった。魚類の漁獲量がとても多かったと皆さん言われております。というのは、外海から多くの魚が夏、産卵のために有明海にやってきますので、この部分が多くの魚でひしめき合うような状態になります。そこで漁業をしていますので、特に夏場は非常に魚がよくとれたと言うんですが、本来とれていたであろう夏場の、特に北部漁業では、非常に漁獲量が少ない結果になりました。
 これをまた漁業者の方に伺いますと、北の方で余りとられなくなっているので、夏場、どうしても南側でよく漁業をするということでしたが、それをそのとおりあらわしたような結果となりました。
 冬になると北の方が回復しまして、夏よりも冬の方が多い結果となっております。
 それから、優占魚種の変化を調べてみたのですが、公になっている過去の資料がなかなかなかったのですが、いろいろ調べますと、95年から97年に長崎県の水産開発協会が、同じ漁具を使いまして、同じような場所で1度調査されておりました。その生データをお借りしまして解析してみました。
 そうしますと、ここが95年~97年、こちらが01年~05年なんですが、個体数と重量で比較しております。例えば、個体数の方では、95年~97年では過去20位以内に軟骨魚類が全然出てきていないのですが、01年~05年では15位に出てきております。そして、重量を見ますと、95年~97年はトビエイ、ガンギエイ、ツバクロエイ、シロザメ、アカエイ、このぐらいが揚がっていたんですが、01~05年になりますと、ウチワザメ、ツバクロエイ、トビエイ、ナルトビエイ、シロエイ、アカエイ、ズグエイと、たくさんの軟骨魚類が揚がってきているということで、軟骨魚類が上位を占めてきているという変化がわかります。
 これがグラフにしたものなんですが、重量で見てみますと、こちらは夏、こちらが冬ですが、どちらも01~05年の方が、軟骨魚類が全体に占める割合が多くなっていることがおわかりいただけるかと思います。多いときには、全漁獲量の8割を占めたこともさほど珍しくはありませんでした。
 ここで東京湾と比較してみようと思います。
 このような調査はほかの海域でも余りないんですが、東京湾で、まず種数について比較しています。これも先ほどの中田委員の図にありましたが、干潟域で60種、南部海域で83種ということで、こちらが湾奥、こちらが中央部にほぼ当たると考えていただきますと、有明海は東京湾の湾奥部では約2倍、中央部でも1.5倍程度種数が多いということで、多様性が大きいことがわかっていただけるかと思います。
 それから、種組成ですが、東京湾で行われた試験操業による調査結果を見ていただきますと、これは東大の清水先生が1977年から95年まで調査されまして、その後、国立環境研究所の方で2003年から2004年にかけて行われております。
 95年までの優占種は、シャコ、マコガレイ、ハタタテヌメリであったんですが、03~04年になりますと、アカエイ、ホシザメ、スズキというように板鰓類、軟骨魚類がかなり増加してきていることが指摘されております。
 ここでは、板鰓類と軟骨魚類はほぼ同じと考えていただければいいと思います。
 77~95年では全体の0.3%であったのが、7.6%に、個体数でも増えているということで、軟骨魚類の増加に限って言えば、東京湾と同様の傾向と考えることができます。ただし、出現魚種は非常に異なっておりまして、東京湾では数少ない種類しか出てきておりません。
 今度は優占魚種の話なんですが、シログチというのは、最近、特に資源の減少が著しい魚類です。これについて、その資源減少要因を調べようということで調査を行っております。
 なぜシログチかといいますと、1つには、有明海中央部の最優占種ということで、重量、個体数で見たとき、どちらも一番多いことがわかってきたためです。それから、漁獲量が多くて水産上、重要種でありますが、これを直接のターゲットとした漁業はありません。近年の資源減少が深刻であるということ、そして有明海に代表的な再生産戦略を持つということで、先ほども中田委員のお話にありましたが、流れを利用するタイプの再生産戦略を持っているということです。
 これはニベ・グチ類の漁獲量ですが、長崎県のものを見ておりますので、ほぼシログチと考えていただければいいかと思います。
 これを見てみますと、やはり最近の減りが有明海では大きいということと、それから、こういった外海、別の海域に比べましても漁獲量が非常に多いこともおわかりいただけるかと思います。
 それから、ほかの海域とは異なる変動パターンを示しているということで、特にこの部分の減少は有明海に特有の傾向であると考えることができます。
 初めに、資源の単位ということで、どこからどこまでが同じ系群かという調査をしておかなければいけませんので、初めにそれを調べました。そうしますと、有明海の系群というのは、橘湾に生息するシログチまで含めて1つの系群ではないかという結果が出てきました。それに対して外海の方は、全く成長も異なりまして、異なる系群であることがわかってきました。
 ですので、有明海のことに関して言うには、橘湾のシログチも含めて考えた方がよいだろうということがわかってきております。
 調査項目については、成魚の方は、ほとんどすべて生態について調べました。それから形態や寄生虫、そしてDNAなども調べております。
 シログチの成長、先ほど成長が全然違うと言ったんですが、これは赤が有明海なんですが、ほかの海域に比べて小さくて、寿命が短いことがわかります。それから、橘湾はほとんど有意な差がないこともわかっております。これだけ近い距離で、成長にこんなに大きな差があることは知られておりませんし、それから、ほかの海域に比べて寿命が短くて小型ではありますが、有明海では最優占種となっていることを考えますと、全体に対して数が多いという戦略を持っているのではないかと思います。
 再生産機構について、これまでにわかったことなんですが、これは湾奥部、中央部、橘湾でのシログチ採取を毎日から週1回程度行って調べました。生殖腺の重量指数と生殖腺の組織観察や、卵や仔稚魚のプランクトンネットによる採取などで調べたものです。
 産卵期は夏ですが、年により少し異なってきます。産卵場所は、中央部から湾口部の底層、水深40から60メートル前後。成熟年齢は雌雄とも満1歳で、どうやら月に1度の産卵ピークを持つようです。これには月周期性が見られるということで、ここについてはさらに詳しく調査しております。産卵時刻は、夕方から夜間にかけてです。
 仔魚は、6月から10月に湾奥部の方に出現します。体長10センチを超えるものは出てまいりませんので、大きくなったものから順次、中央部の方に戻っていくのではないかと考えております。
 このことから、卵や仔魚は流れを利用して産卵場所から湾奥まで輸送されるということで、先ほどから出ています、有明海の代表的な再生産の戦略を持つものと考えられます。
 これは他の海域とは異なる再生産機構でして、例えば東京湾のシログチを調べますと、全域に稚魚が出現しますので、稚魚と成魚の出現場所が異なるというのは、どうやら有明海に独自の特徴のようです。
 これも先ほど中田委員の図にもありましたが、減少に影響を及ぼした可能性のある環境要因ということで、産卵場所は中央部から湾口にかけてで、稚魚の成育場は湾奥の方ですから、輸送されていると考えております。
 シログチは、他の魚種に比べても減少程度が大きいと考えますと、これを直接のターゲットとした漁業はありませんので、漁獲の影響というよりは、生活史初期の生き残りが悪いことが大きく効いているのではないかと考えております。そうしますと、ここは先ほどと重なりますが、こういったところの貧酸素の影響ですとか、それも含めた底層環境の悪化、それから流れの変化、これが卵や仔魚の生残に及ぼす影響が考えられます。
 ただ、ここについては、どのような仕組みで卵や仔魚が輸送されるのかというメカニズムがまだわかっておりませんので、今後、調査が必要ということで、今、調査を始めております。
 それから、仔稚魚の成育場を一部失った影響ということですが、稚魚が出る場所として、河口域が非常に重要であることがわかっております。そうしますと、先ほどコイチでありましたが、ここ(諫早湾)はコイチの分布密度が高かったと思います。今、調査をしておりますと、シログチの場合は、こちらでは夏、ほとんど仔魚がとれておりません。というと、ここの川とセットの、この海域がなくなってしまったのも1つ大きな影響ではないかと考えております。
 もう一つ、まだ全く考慮されておりませんが、最近の海水温上昇傾向、0.8度から1.5度でしたか、中田委員の調査で海水温の上昇が言われておりますが、産卵と水温との関係も非常に重要な問題だと思いますので、それについては今後、調査をする必要があります。
 では、卵や仔稚魚にはどのような環境が必要なのかということで、そのメカニズムの解明を今、行っております。
 中央部の底層で産卵された卵は、発生が進むに連れて、どのような時間的経緯で、どのような流れを利用して湾奥部までたどり着くのか、産卵期に24時間連続してプランクトンネットによる層別の採取を行っております。時間帯別、層別の卵や発達段階ごとの仔魚の出現状況を調査しています。夕方産卵することはわかったので、その後、卵がどのような過程を経て輸送されるのかを推定します。
 これは産卵場所が同じでも、魚種によって稚魚の出現場所が異なります。例えばシログチは、湾奥でも佐賀、あるいはかつては諫早に恐らく多かったと思うんですが、そちらに流れていきます。コチの類は、同じ中央部で産卵しますが、熊本の方に出現します。そういうことで、魚種によってそれぞれ、同じように流れていっているわけではなくて、恐らく卵のときは受動的に流されるんだと思いますが、孵化してしまいますと、あとは能動的に、恐らく水深帯を利用して、上がったり下がったりという移動をして、うまく流れを使ってその魚に適した場所に流れるような仕組みを何か持っているんだと思いますので、そこを明らかにすることが今の重要な課題だと思います。
 こういった調査を行いますと、有明海に特徴的な再生産戦略を持つ多くの生物にとっても、モデルとなるのではないかと考えております。
 今度はエイの話ですが、エイの方は、増加が言われております。それと二枚貝減少との因果関係ということで、かなり重要視されています。
 エイについても、何が増えたか、何が減ったか全くわかりませんでしたので、まず、何がいるかを調べますと、合計で21種がいることがわかりまして、このうちエイが多くて、16種いることがわかっております。それに対してサメの方は、どうやら減少しているようで、大型のサメが減っていて、今ではほとんど見ないと漁業者の方に言われております。漁獲統計からも、減少傾向にあります。
 1つ、先ほど東京湾にも出てきましたホシザメという種類ですが、これは90年代までは最重要種と言えたんですが、2001年からの調査で1個体も採取されていないことがわかっております。
 どのようなエイが水揚げされているかといいますと、コモンサカタザメ、トビエイ、そしてアカエイ類なんですが、コモンサカタザメ、正式にはエイなんですが、統計上はサメに含まれていることがわかりました。それから、トビエイの方は、長崎県でのみ漁獲対象となっておりますので、全体的にエイとして統計に含まれているのは、このアカエイの類かと思います。ただし、シロエイにつきましては、個体が非常に小さいということで、余り水揚げされません。それから、イズヒメエイは稀にしかおりませんので、アカエイと、まだ名前のわからないアカエイ属の1種が中心であることがわかってきました。
 これは先ほどと同じで、増加傾向にあるんですが、97年ぐらいからまたちょっと減少傾向にあります。
 アカエイがこれだけ豊富な海域は、日本でほかにありませんので、まだ名前がわかっていないアカエイについて、分類学的な解決と生態を現在、研究中でして、まだ、なぜ増加したかとか、それを言うところまでは全くいっておりませんが、先ほどと同じように見てみますと、サメと非常によく対応していることがわかります。捕食者が減ったということが言えるかと思います。
 今度はトビエイですが、トビエイについては全く漁獲統計がありませんので、過去どうだったかはわかりません。こちらが、ナルトビエイで、増えたと言われているものです。
 有明海のエイをすべて調査しますと、二枚貝を専門に食べるのは、この2種だけでした。ナルトビエイは大型で、最大では体重50キロのエイです。それから、ナルトビエイの方が生息数も非常に多いことがわかってきました。それから、これは聞き取りの結果ですが、ナルトビエイが増加した可能性があるということで、食害ということを考えたときは、こちらの方が大きいのではないかと考えました。
 これは二枚貝の食害の発生状況です。ちょっと写真が悪いので飛ばしますが、何か掘ったような後があるということですね。
 駆除が2001年から2004年にかけて行われておりまして、特に2004年、かなり増えておりますが、これはエイが増えたのではなくて、エイに対する漁獲努力量が増えたことが一つの要因かと考えております。
 水温との関係ですが、ここはまだ調査の途中でして、少し欠けておりますが、恐らくこういうようなグラフができ上がるかと思います。すなわち、水温が17度以下に低下すると全く漁獲されなくなるということです。
 それから、1曳網当たり漁獲個体数を季節別に見てみますと、4月からとれ始めて11月から12月にかけてとれなくなるということで、やはりこのあたりが、水温が17度ぐらいに低下するところです。そうしますと、近年の水温上昇がエイを増加させたのではないかと考えることができます。
 胃内容物の調査の結果については、たしか前回もお話ししたと思いますので、一応ここにお見せしますが、これは胃袋を開けたときに出てきたタイラギですが、重さにして約1キロ近くも食べておりました。
 これが特徴的な歯で、何か鋭いもので掘ったような後が残されているのが特徴です。これがちょうど口の後ろから見た図ですが、下の歯が飛び出しております。
 これは胃内容物ですが、胃内容物の中には貝殻が一切含まれておりませんので、非常に同定が難しいです。
 1日の移動のパターンですが、干潮時には沖合でじっとしていて、満潮になると河口域の方に出かけていって、餌をたくさん食べるといったことがわかってきました。
 なぜナルトビエイが増えたのかを現時点で考えてみますと、1つには、海水温が上昇したこと、生態系が変化したこと、捕食者が減ったこと、それから、繁殖は河口域で行いますので、そういった大きな流入河川がたくさんあるということ。それから、もともと二枚貝が豊富であった海域ですが、沖合域の貝が著しく減少したことによって、エイの食害が非常に目立つようになったということ。バランスが悪くなったということが考えられます。
 これが二枚貝の漁獲量ですが、エイの食害が非常に言われ始めたのは、もう二枚貝がかなり減少した後のことでした。
 1つわかっていないのが、越冬場所と分布範囲ですので、今、冬になるとどこに行くのか調査しております。このようにGPSのついた発信機をナルトビエイにつけて離し、どこに行くかを追っています。
 ナルトビエイの駆除ですが、少しこの問題点について触れなければいけないと思います。駆除は2001年から始まりましたが、今年にかけてかなりたくさん駆除が行われるようになりました。ただし、これをよく見ていただきますと、写真がちょっと悪いんですが、ところどころ黄色い色や、違う形のエイが見えるかと思います。初めのころは、ほとんどナルトビエイだったんですが、最近、私の感覚としては少しエイが減ってきたような感じがしておりまして、逆にこういった、資源となるような重要な魚類がたくさん混獲されるようになりました。それらもすべて資源ですので、十分利用価値があるんですが、同じように、あわせて産業廃棄物となってしまっていることは1つの問題ではないかと思っております。
 ですので、駆除についても科学的なデータをとらなければいけないこと、それから、混獲されたその他の生物は、できる限り利用することを心がけなければいけないと思います。構造の変化や生態の変化もモニタリングして、生態系全体を考慮に入れた管理が必要かと思います。
 最後に、これは胃内容物組成なんですが、生態系ということで、何か増えれば何かが減るということで、生態系というのは常にいろいろな生物が関係し合って成り立っているものですから、いろいろな種間の関係を調べております。
 これを図式化しますと、ここに書き切れないほど多くの生物が有明海にはおりますが、それの種間の関係を、全体的なものをつくろうと思いまして、今、作成しております。そうしますと、ここにあるように、かなりの部分のエイと、そしてかなりの魚が含まれている、この部分が非常に多いことがわかりまして、これは大きなサメに食べられるグループであり、そしてアミや小さなエビを食べているグループであるといったことがわかってきました。
 生物の種と資源的な多様性、どちらも保持して、生態系全体を見渡した管理が必要ではないかということで、最後にこの図を紹介しました。
 以上です。

○須藤委員長 中田委員、山口委員、ご報告ありがとうございました。
 中田委員には水産資源について全体的にレビューをいただき、そして今、山口委員からは、最近の研究成果についてご発表をいただきました。
 お2人の先生のご報告につきまして、ご質問なりご意見なりございましたらどうぞおっしゃってください。

○小松委員 中田委員にお聞きしたいんですが、聞き落としたかもしれないんですが、最初に有明海における漁獲量の経年変化のところで、73年から83年ぐらいまでの間にぐんと大きくなっているわけですね。その後に落ちているんですが、落ちているところは、もうそれぐらいしか獲れないということだと思うんですが、73年頃に増えたというのは、生息している量が増えたと見るべきなのか、それとも漁獲努力が増えた結果こうなったと見るべきなのか、その点はいかがでしょうか。

○中田委員 先ほどちょっとお話ししましたように、漁獲努力量は統計的にきちんとした形で整理されておりませんので、努力量の変化というのは、はっきり言ってまだよくわからないところがあります。ただ、特にこの時期に努力量が増えたということは、恐らくないだろうと思っております。
 有明海の場合は、恐らく漁獲量の変化が資源量そのものの変化に対応していると考えていいのではないかと私は考えておりますし、検討グループの中でも、そういう意見が大多数だったのではないかと思います。
 ついでに申し上げますが、1950年代から70年代ぐらいの上がり下がりは、資源の変動としても十分あり得るもので、ある意味では、ここで言いますと、8,000トンぐらいのレベルを中心として増減していると見ていいのではないかと考えているんですが、最近の減少は、もう一方的にどんどん減っているということですので、やはり何か原因となるようなものがあるのだろうと見ております。

○楠田委員 中田委員、山口委員、どちらでも結構なんですが、1点お教えいただきたいんですが、今、いろいろな魚の種類の変動をお教えいただいたんですが、指標として、代表的にこれを見ておけばいいというのが感覚的にありましたら、お教えいただきたいと思います。

○中田委員 どれを代表にというのは、なかなか難しい問題ではあるんですが、今のお話では、特産種についてはエツを1つ取り上げましたし、湾内、湾奥に分布するものとしてコイチ、あるいは一番優占してくるものとしてシログチ、この3種を中心に話を組み立てたところでございます。
 それを代表と見なしていいかと言われると、なかなか難しいところがございますが、これまでの研究報告の内容なども考えて、今日はこの3種に絞った形でプレゼンテーションさせていただいたところです。

○山口委員 どれかだけを見るというのは、やはりちょっと難しいかと思いますが、先ほどおっしゃったような、特産種と言われるものと、あと、今日紹介したシログチは漁獲対象になっていない(専門に漁獲されていない)ということで、モニタリングするにはちょうどいい魚種かと思います。優占種であるということもありますし。

○相生委員 水産の有用魚種に関して、いろいろな変化を見せていただいたんですが、90年代後半からの減少が著しいという、これは一般的な傾向と考えていいのではないかと思いますが、中田委員のご説明の中に、魚類の初期減耗という問題がありましたね。これが著しく水産資源の漁獲に響くのではないかというお話だったと思いますが、これは魚類の産卵場が主に浅い所、特に干潟の減少が著しいといったことの影響ではないかと私は受け取ったんですが、その場合に、もちろん干潟の面積の問題になると思いますが、仔魚がどのようなものを食べて成育できるのか、その場合に、底生藻類などがえさになっているとすると、やはり干潟の機能の変化をもう少し詳しくとらえていかなければならないのかなと思います。

○中田委員 おっしゃっていることは、そのとおりだと思うんですが、1つ申し上げますと、魚類の資源変動に関与する可能性のある要因、あるいは最近年の環境変化と魚類資源への影響ということで、先ほど報告をさせていただいたわけですが、このどれが一番重要な要因かというところまで話ができるほどの材料は、まだ揃っていないんですね。ですから、干潟面積の減少が一番影響として大きいかどうかというあたりは、これからもう少し検討が必要なところではないかと思っています。
 そういう中で、その干潟のどういう機能が問題なのかということも当然検討していく必要がありますが、今のところは、十分検討できる材料はないように思います。これから調査を含めて、少しそこら辺も検討していく必要があるだろうと思います。

○滝川委員 潮流速の減少、流向の変化が生物生態系あるいは卵・仔稚魚輸送の変化に影響しているのではないかという方向性が示されたんですが、ちょっと私が聞き漏らしたんだろうと思うんですが、調査された結果、どういう流動の変化があったと解釈したらよろしいんでしょうか。あるいは季節的なもの。このシログチの再生機構という図を見ますと、秋から冬に向けて湾奥に向かうような流れがかいてありますが、これがどういうふうに変化すると影響を与えると考えたらいいのか。流動と仔稚魚の関係といいますか、そこがよくわからなかったので、教えていただければと思います。

○中田委員 それは先ほど山口委員からの報告にありましたように、卵とか仔稚魚の流れによる輸送の問題については、まだほとんどよくわかっておりません。今、山口委員の方で実際に調査・研究に取りかかっている段階です。ですから、むしろ流れの変化については潮流についての小委員会などでいろいろ議論しておられるところだと思いますので、そういう情報をもらいながら、これから出てくる研究結果と付き合わせていくことになるのではないかと思います。

○滝川委員 調査された結果から、どういうふうに流動が変化しているのではないかとか、類推されるようなことがあればお教えいただけたらと思うんですが。

○山口委員 私の方は、流れの調査は特にしているわけではなくて、それは今までのいろいろな知見をもとにすると、流れに変化があると言われていますので、それと、私の方でわかったことというと、とにかくかなりの長い距離を仔稚魚が輸送されるということですので、そう考えたときに、単純に、成育場として干潟が少なくなったりということも考えられるんですが、やはり初期生残と考えると、流れていく過程でいろいろなことが起こって、例えばシログチであれば、本来、恐らく湾奥でなければ生き残れない仕組みが何かあると思うんですが、それが間違って反対側に流されれば、たどり着いた所でえさがなく、餓死してしまったりということで、初期の生残が非常に悪くなって、そういうことが後々の資源の減少につながるのではないかと考えるので、そういうことで、1つ新しいキーワードとして、流れということを考えなければいけないだろうということがわかってきたということです。

○滝川委員 それが具体的にどういう方向に変わったというところまでは、まだわかっていないということですね。

○山口委員 先ほどお話ししましたように、流れというのは層によっても異なると思いますので、仔魚というのは恐らく水深移動をするようですので、それがある時間帯になれば上がる、ある時間帯には下がるというようなことがありますので、そういうふうにして、どういう流れを利用して湾奥まで行こうとしているのかを、今、調べています。

○清野委員 2点教えていただきたいんですが、まず、漁業の方式の中で、特に山口先生に教えていただきたいのは、島原沖を非常にいろいろな種類が、重要な場所として使っていたり通過していたということなのですが、そこにおいて、そういう季節的な変化だけではなくて、1日の間の変化といいますか、潮汐の変化によって影響を受ける漁業とか魚種があるかどうかということなんです。
 というのは、具体的には、クルマエビの漁業などは、ここの潮流の時間変化を使って操業していたという漁師さんの証言がありまして、そのように、魚類においてもそういうタイムスケールでの漁場利用があったのかということなんですが。

○山口委員 島原沖で、ですね。
 有明海だと、そういう潮の流れを利用してというと、漁業の場合だと、どちらかというと湾奥の方が多いかと思うんですが、タケハゼのようなものとか、アンコウハゼとか、そういうものはすべて潮流を利用したようなものなので、潮の流れに合わせて時間帯を変えて操業しているのがたくさんあります。底曳網の場合は、そういう影響がなるべく出ないように、全体として傾向をつかめるようにと思いまして、調査の方では、一応上げ下げ両方網羅できるように、一応底曳の漁師さんたちも潮の流れに任せながら操業していますので、それと同じようにやりながら、どちらのときも調査できるような形でやったんですけれども。
 ─島原沖の方だと、ちょっと今、答えが出ないですね。すみません。

○清野委員 今の話を伺って、島原沖に限らず、有明海の流れを利用した漁業の操業形態は、流れが変わったらそれに合わせて今度、そういう操業になるんだと思うので、そのあたりの知見がありましたら、ぜひまた今後、教えていただけたらと思います。

○山口委員 そうしますと、刺網などは流れとすごく関係がある漁業だと思うので、流れの向きに合わせたりとか、あと、逆に潮流が強過ぎると操業できないが、余りに流れが速いと網が立たなくなるので。なのでそういうときは普通は漁をしないんですが、例えば操業できる期間が長くなったとか、そのようなことは言われます。

○清野委員 もう一点、エイの駆除の問題なんですが、駆除だとか、いろいろ漁業の対策が、短期的にそういうことをやり過ぎると全体的に、やはり生態系とか漁場のバランスを崩してしまうことになると思うんですが、今後の駆除についての対策のご提言というのは、先ほどの発表で集約された論点で、実際にどのくらい現場で実行可能性がありますでしょうか。もし、こういうところでご提示いただければ、いろいろ関係する方も聞いておられるので、類似点はあると思いますが。

○山口委員 ここにナルトビエイ、トビエイのグループがあるんですが、今、ここをかなり、例えばナルトビエイを減らしてしまうと、トビエイがタイラギを新たに食べ始めます。このグループが全部なくなるとどうなるかというと、このグループは二枚貝を食べるんですが、例えばアサリなどを食べる肉食の貝も食べていますので、今度はそういった肉食の貝が増えて、アサリにインパクトがあるという可能性もあります。そういった生態系の変化がどう出るかわからないままに、ここを全部なくせばいいかというと、そうではないので、それはすごく気をつけなければいけない問題だと思うんですね。
 やはり有効利用することが大前提だと思うんです。潜在的にはこれらは十分利用できる、例えば東南アジアなどで利用されている重要な魚種で、今、世界的にはとり過ぎて絶命が危惧されている種類なので、そういう意味で、十分利用可能だと思いますから、そういう点は進めるということと、あとは、もしもこういったコントロールをするのであれば、やはり最低限漁獲物の調査をするということですね。何がどれぐらいとれていて、個体数がどれぐらいかというのも把握されていない場合も多いので、どのぐらいの大きさのものがどれぐらいとれているかということは最低限モニタリングして、それで毎年毎年資源構造が変化していくと思いますので、増えてきたものを増えた分、利用するというのは自然の流れかと思いますが、それを全部絶やすというのは余りよくないので、まず第1としては、やはりモニタリングをきちんとするということ、ここまでは可能ではないかと思います。

○須藤委員長 また今後、研究成果が出たらぜひご発表いただくということで。

○本城委員 中田委員にお伺いしたいんですが、1990年代の中ごろから4種類ぐらいの魚が挙げてあって、急激に落ちているというデータ、特にクルマエビとかそういったものは急激な落ち方をしているのが気になるんですが、これらのデータでは、どういう海域の場所で水揚げが急激に悪くなっているのか、あるいはどこの漁協の水揚げが悪くなっているのか、そういったことがもしわかれば教えていただきたい。

○中田委員 結局、こういう検討をするときの基礎にするデータのことも、検討グループでいろいろ話が出たんですが、結局は、農林水産統計の年報に出ている数字を利用することしか今の段階ではできないんですね。これは、この検討グループと別に、長崎大学の方では組合をずっと回って、組合ごとの漁獲統計のデータの整理もやったことがあるんですが、なかなか大変ですね。きちんと整理された統計がないんですよね。
 ですから、今の本城委員のご質問に対して答えるとすれば、県別の漁獲量の資料をお出ししましたが、この範囲でどの県でそういう傾向が一番目立つのかとか、それは十分できると思うんですが、組合あるいは漁場というレベルでそれができるかというと、なかなか簡単にいかないのではないかという感じがあります。それは大事なところだと思いますが。

○本城委員 そうですね、私も大事なところだと思います。漁獲統計が正確に整理されていないと仕方ありませんし、統計が信用できなければどうしようもございませんので、そのあたりは重々知っていて質問させていただいた次第でございます。

○須藤委員長 それでは、今後の検討課題ということで、もしわかれば、またもう少し詳細にということにさせていただきます。

○相生委員 山口委員にお伺いします。
 多様性の問題なんですが、漁獲対象数が3分の1で3分の2は漁獲対象にならない種類だとお話しされたと思うんですが、その場合に、中田委員のお話にあったエツなどは、諫早湾のみに分布しているということで、固有種と呼んでいいと思います。また漁獲の統計の問題になるかもしれませんが、そういった固有種に焦点を当てていくと、これはヨーロッパなどでやっているモニタリングなんですが、その海域内で絶滅が心配されるものに注目してモニタリングしていく、そして生物多様性の保全という方向へ持っていくために、やはり固有種に焦点を当てていった方がいいという流れがあると思うんですね。その場合に、有明海ではどの種類に目をつけていったらいいかということは、既に何となく見当はついておられますか。

○山口委員 固有種に関しては、やはり漁業として重要なのがエツということで、さっきエツが挙がったんですが、あとは、ムツゴロウとかそういったものもあります。固有種については、有明海では割と注目されていたんですが、固有種以外のその他の一般的な魚類で、特に資源になっていないようなものが相当多く有明海にいて、そちらの方は全く注目されていなかったということで、海域も湾奥と中央部というのはかなり特徴が異なる海域ですので、両方考えていかなければいけないのかなと今、思っているんですけれども。

○相生委員 今後の課題ですか。

○山口委員 そうですね。

○須藤委員長 先ほど楠田委員からも主要種のご質問ございましたので、水産資源の中で主要種というもの、別に1種ということではなくて、それを観察することによって環境変化なり水産資源がわかるかといったご検討を、続けてお願いしたいと思います。
 ほかに、よろしいですか。
 それでは、私から1つ中田先生にお教えいただきたいんですが、先ほど私、ちょっと数字は聞き漏らしたんですが、水温が上がって、0.8度から1.8度とおっしゃったかな、そのぐらいだったと思うんですが、これは平均水温と考えてよろしいですか。いろいろなデータを平均されているんだと思いますが、どういう状況でのデータと考えればよろしいですか。

○中田委員 冬季の湾口から湾奥全体を対象として見た場合の、温度上昇の大きさとしては、25年間で0.8から1.6位です。

○須藤委員長 25年前と現在ですか。

○中田委員 はい。回帰分析をした結果ですから、そういう意味の平均です。

○須藤委員長 これは水産資源ということだけではなくて、我が国の温暖化全体の問題として大変貴重な観察結果だと思うんです。平均気温の方は、我が国は2度以上上がったらもうかなり深刻になるということですから、四季を通して何度になるかよくわからないんですが、冬の水温の上昇が1.8度とするとすごく高い温度で、生態系への温度の影響というのは著しいものがあるんだろうなと理解しましたので、その辺のご検討ももう少し、いろいろなプロジェクトとかそういうことではなくて、やはり地球温暖化の問題もこういう中で取り上げられる必要があるのかなという気がいたしました。
 ほか、よろしゅうございますか。
 それでは両先生、どうもありがとうございました。
 次は、小委員会の活動についてでございます。
 現在、小委員会では、本年5月までに発表されました文献を精査していただいております。小委員会の先生方には大変な作業をお願いしているわけで、その成果は中間取りまとめにも適切に反映する必要があると考えております。
 また、本年6月以降に出されました文献も、可能な範囲で検討いただければという期待も持っております。
 荒牧委員から、小委員会の現在の活動状況及び今後の予定について報告をいただきたいと思います。
 どうぞお願いいたします。

○荒牧委員 現在、2004年7月から本年5月までに発表された論文を、もう既にリストアップして先生方に読んでいただいていておりまして、それを12月22日の小委員会に諮って取りまとめを行って、この委員会に報告することにしております。
 ただ、皆さんご存じのとおり、有明海・八代海の再生に関しては、最近になって非常にたくさんの論文が発表されていると思いますし、その報告がもう既に我々の方に来ておりますので、引き続きまして今年6月から12月までの文献─なぜここで切ったかというと、本委員会の取りまとめに間に合うレベルで作業しようということで、6月から12月までの文献を精査することができないだろうかと事務局と私どもの方と相談させていただいて、小委員会に諮って、引き続き6月から12月分の発表論文についても小委員会で評価したいと思って、次回提案しようと思っております。
 もう一つ、この評価委員会では中間取りまとめ、最終取りまとめに向けて作業が始まるわけですが、小委員会の方でも各先生方が論文をお読みになって、その成果がこの評価委員会でどう反映されてきたかということも非常に興味をお持ちだと思いますので、そのことについて小委員会でも、ここで検討された資料を使わせていただいて諮りたいということを、次回の委員会で検討してみたいと思いますので、そういう予定で作業を進めたいと思っております。
 いずれにしろ、12月22日の小委員会でそれらの作業日程を確定して、次年度に向けての作業に入りたいと思っております。

○須藤委員長 ご説明どうもありがとうございました。
 今、荒牧委員おっしゃっていただきましたように、本年5月までの文献は、小委員会で近くまとめていただくということでございますので、これは中間取りまとめに反映させるよう、事務局にぜひ配慮をお願いしたいと思います。
 それから、小委員会で引き続き本年6月から12月までの文献を精査することについて、次回の小委員会に諮っていただくという荒牧委員長からの提案でございますので、小委員会の先生方には、今まで大変ご苦労をおかけしております上にさらにご苦労をおかけすることになりますが、これは最終取りまとめに向けて大変有益でございますので、私としては、ぜひその方向で小委員会にお願いしていただきたいと思います。
 また、小委員会の先生方は、地域におられる先生方が大変多く、また、文献をたくさん読んでおられるわけでございますので、中間報告及び最終報告について、重要なご意見なり作業をしていただけると考えておりますので、小委員会で、さらにその反映をするという点についての意見交換の時間をとっていただくなり、ほかにいろいろ工夫があれば伺うということで進めたいと思っております。
 さらに必要があれば、特に最終取りまとめに向けての評価委員会と小委員会との合同委員会といったものを持っていただければいいかなと、私、委員長としては事務局にお願いしているところでございます。
 荒牧委員のご提案、さらに私の追加の意見を申し上げました。この小委員会の作業について、何かご意見ございますでしょうか。
 荒牧委員、そういうことで、中間報告までの合同委員会は、時間的にちょっと無理かなと思いますので、反映する部分についてのご意見を、少し前段(文献の精査)と一緒にしたことで、どういうふうに反映したらいいかとか、あるいは当方の原案等はその時点で差し上げられると思いますので、それを見ていただいて、これでは不十分だとか、あるいはここをつけ加えてほしいというのが多分、あるんだろうなと私は思いますので、ぜひそういう時間を小委員会でとっていただければ幸いであります。

○荒牧委員 今、委員長からご提案のありましたことを小委員会で諮って、できるだけそういう方向になるように努力はしたいと思います。

○須藤委員長 それでは、荒牧委員にはさらにご苦労をおかけいたしますが、どうぞよろしくご配慮いただきたいと思います。
 それでは、次の議題に参ります。
 最近の研究成果について、小松委員から、有明海における潮流測定結果のご報告をお願いします。

○小松委員 最初に、皆様におわびしなければいけないんですが、お手元に私のパワーポイントの資料がいってないと思います。事務局からも、1週間ぐらい前に「早く送ってください」と連絡があったんですが、忙しさにかまけてというか、怠けて、実は昨夜仕上げたところです。後で皆さんのお手元にコピーを配っていただくように、事務局にお願いしておりますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、有明海の潮流に関する最近の成果ということで、お話をさせていただきます。前回、細川委員から潮流ワーキンググループの中間報告をしていただいたんですが、その後、幾つかのことがわかってきているということと、潮流に関して明確にしておかなければいけないことも多々あるかなということで、今日、発表の機会を与えていただきました。
 今日の話の内容ですが、最初に、有明海の潮流の特性、それから現地観測結果による比較、それからまとめということでお話しさせていただきます。
 この辺の話は、よくご存じだと思いますが、一応確認の意味でお話しさせていただきます。
 まず、有明海の潮流の特性ということですが、有明海はもう随分地形の変化が出てきていて、長年にわたる干拓、それから構造物の築造等によって海表面積が大きく減少してきています。特に1997年の諫早湾の堤防の閉め切りは、ステップ的に大幅な減少を引き起こしていると言えるかと思います。
 潮位振動については、今までいろいろなデータの解析、分析、シミュレーションによる解析等が行われてきているんですが、定性的なことについては幾つか明確に言えるわけです。
 まず、潮位振幅自体は減少傾向にあります。要因として、月の昇交点の黄経の長周期変動。これは18.6年の周期です。それから、平均水位が上がってきています。平均水位が上がると、これはやはり潮位振幅が減る傾向になります。それから、外力としての外海の潮位振幅の減少。それから、内湾の海表面積が減少することによって固有振動周期が小さくなります。これは、M2潮の周期が12時間ちょっとですので、有明海の場合は7時間とか8時間とかそれぐらいなんですが、これがM2潮の周期に近づけば近づくほど共鳴振動が大きくなるのですが、離れれば離れるほど潮位振動は小さくなってくるわけですね。こういったすべての要因が、潮位振幅を減少させる方向に働いていると言えるかと思います。
 ここで非常に大事なことが、入退潮量という概念なんですね。有明海のような内湾でしたら、要するに、潮流というのは何で起こるかというと、入退潮量で起こるわけです。例えばこういう湾があって、ここの潮位が変化する。そうすると、これだけの量が出たり入ったりするわけです。それによって湾の中に潮流が起こります。
 例えば、仮に干拓や閉め切り等でこれだけ面積が減るとすると、結局、出入りする海水の量がこの部分だけ減ることになります。これが潮流の減少につながることになります。有明海のように、奥に行けば行くほど潮位振幅が大きくなるような場合には、例えば奥の方がカットされると、その面積の割合以上に入退潮量の減少率が大きくなってくるわけです。こういうふうに、副振動といいますが、副振動による潮位振幅の増大が奥に行くほど大きくなる場合は、入退潮量は加速度的に減少することになります。
 この辺を計算してみますと、例えば、この諫早堤防の閉め切りによる海表面積の減少は全体で見れば2.3%なんですが、奥に行けば行くほど干満差が大きくなるものですから、それによって生じる入退潮量の減少率は、この閉め切り堤のところで100%、諫早湾の入り口のところで33%、約3分の1ですね。それから、この諫早湾口の北の奥は0%です。これから奥は関係ありません。もちろん、諫早干拓以外の干拓等で海表面積が減少することはありますが、少なくとも1997年のステップ的な海表面積の減少に着目すると、これから奥はゼロです。
 それで、この北部有明海のボトルネックと言われている有明町-長洲町のこのラインが5.1%、熊本-島原でも3.8%、この有明海の入り口で2.7%ですね。もともと面積の減少率は2.3%だったのが、入退潮量の減少率は2.7%ということになります。
 これは潮位振幅が同じ場合でも、こういうことが言えるということです。ですから、断面平均で考えれば、島原-熊本でも4%近くの影響があるということで、例えば、ここの諫早閉め切りの影響が諫早湾内に止まるとか、湾口の近くだけに止まるということはあり得ません。これは流体力学の連続条件ですので、これは絶対に満たされなければいけない条件です。ですから、有明海全体にわたって必ず影響が出てきます。ただ、影響の程度は南に行くに従ってだんだん小さくなってきます。
 さらにこれに加えて潮位振幅が減少すると、入退潮量もさらに減少することになります。入退潮量が減少すると、潮流もさらに減少する。例えば、1993年から2003年の10年間を見てみますと、平均の潮位変動は2.4%減少しています。これは大浦の観測値でこれだけ減少しています。そうすると、有明-長洲のこの線上では、仮に潮位変動が同じ場合でも5.1%入退潮量が減るわけですが、それにさらに2.4%、ほとんどこれは線型的な重ね合わせが成り立ちます。従ってプラスして7.5%の減少ということになります。ですから、このライン上で入退潮量ならびに断面平均流速が7.5%減少する。
 では、7.5%というのがどれぐらいかというと、おおよそ1億8,000万トンの入退潮量の減少になります。毎秒8,200トン。これは平均的にこれだけということで、大潮のときはさらに大きくなります。2億5,000万トンとか、それぐらいになりますね。
 では、毎秒8,200トンというのはどれぐらいかというと、筑後川の100年に1回ぐらいの洪水で、毎秒大体8,000トンとか9,000トンぐらいですから、すごい量の海水の流入の減少が起こっているということになるわけです。このように潮位振幅が減少すると、それがさらに上乗せされることになります。
 ですから、干拓等によって閉め切られて、海表面積が減少するということは、これはとにかくその湾は潮流に関しては必ず減少系になっているということです。これが大前提です。これは絶対に崩れません。
 ただ、これはあくまでも断面平均の話です。例えば局所的にこの減少の影響がすごく大きく出て、ほかの所は影響が小さいといったことは、もちろんあり得ます。断面平均でこれだけ減少するということです。
 この図は潮位変動のデータで、これが大浦のデータです。最近、潮位変動が若干減少傾向にあります。
 今、「減少系としての有明海の潮流」という話をしたんですが、こういうふうに干拓、埋め立て、閉め切り等による海表面積の減少が入退潮量の減少につながって、これが断面平均的な流れの減少につながる。だから、先ほど言いましたように、本質的には有明海の潮流は減少系です。
 これにさらにノリヒビとか熊本新港、風、密度流、こういった要素が入ってくるんですが、こういう要素は、一時的、局所的に効いてくるわけですね。というのは、ノリヒビがあっても海面はきちんと上下していますので、それだけの入退潮量が必ずあるということになります。ただノリヒビのところで流速が遅くなったりとか、そういう局所的な影響は出てきますが、そこが遅くなった分、ほかのところが速くなりますから、収支のつり合いはとれて断面平均的には変わらないことになります。風も同じです。風が吹くと表面に吹送流ができて、影響が出てきますが、ほかの所で逆向きの流れが出てきます。密度流もそうですね。ですから、こういうものは一時的、局所的に効いてきますが、断面内では必ず補償をする効果が生じてきます。
 ですから、本質的に断面平均的に流れは減少系ということと、こういう付加的なファクターというのは、かなり性質が違うということが言えるかと思います。この(1)と(2)をきちんと立て分けて考えないと、いたずらに混乱を招くことになります。
 ノリヒビの影響とか熊本新港、風、密度流の影響がよくわからないから、潮流はわからないんだという主張がよくあるんですが、本質的には流れは必ず減少系になっています。
 前回も細川委員から、最近、HFレーダーで表面の流速がわかるようになってきたとご説明がありました。国交省の方で、今、一番奥の所なんですが、HFレーダーで計られており来年度はもっと南の海域も、レーダーでわかるようになってきますので、こういう新しい観測機器により、より詳細な計測が今後、可能になってきます。どんどん現象が明確になってくるので、やはり後世の人に笑われないように、我々もきちんと本質論に立って議論しておかないといけないのではないかと考えております。
 これは、潮流のワーキンググループの中間報告に出ている現地観測結果による比較の一覧表なんですが、潮流の減少が見られるという観測結果、それとシミュレーション、それから減少していない、変化が見られない、という観測結果がパラレルに挙げられています。
 これは海上保安庁の観測結果で減少していなかったというデータなんですが、減少しているというのは沢山あるんですが、こういう減少していないというデータが1つでもあることによって、どうも潮流もよくわからないのではないかと、そういう話になってしまうんですが、さっきも話しましたように、そういうことはないと言えます。それで、海上保安庁の観測を少し精査してみることにします。
 国調費(国土総合開発事業調査費)による小田巻・大庭・柴田さんたちの観測で、これは2003年の「海洋情報部研究報告」で報告されています。内容は、1973年8月、9月に海上保安庁の水路部が実施した観測、それから2001年に小田巻さんたちが実施した観測、計12点で、測点はできるだけ前回の近傍としたということで、水面下3メートルの所で、小野式プロペラ流速計を用いて、15昼夜連続観測を行っています。
 その結果、結論として「潮流については、場所によって強くなっているところも弱くなっているところもあり、必ずしも減衰しているとは言えなかった」ということですが、その後に、その違いは、やれ密度流の影響だの、やれ淡水流入が多かったという理由だろうというふうに、いろいろ理由が書かれているんですが、この辺をワーキンググループで議論して、最終的に細川委員の方から、「この2回の観測結果では、地形の変化のみの効果を取り出して評価するところまで至っていない」というそういう結論だったんですが、この観測結果はこれまで非常に大きな役割を果たしてきているので、これをもう少し詳しく見てみたいと思います。
 この小田巻さんたちの観測の問題点ですが、1つは、30年の期間の開きがあるということです。その間に、諫早干拓以外に他の干拓、埋め立て、浚渫、海底炭鉱の陥没など各種の地形変化が起こっているということ、それから、両観測において、ほぼ同一地点で測ったと言っているんですが、実際によく見てみると、ほぼ同じぐらいの地点だなと思える点は6点だけなんですね。それ以外は大きくずれています。この6点も諫早湾から離れた南半分に偏っていて、北半分はほとんど議論できません。
 それから、結論では「必ずしも減衰しているとは言えなかった」と言っているんですが、むしろ2001年の方が大幅に増えているんですね。例えば上げ潮でしたら、あるポイントでは1.3m/sから3.9 m/sに増えている、1.4 m/sから2.2 m/sに増えている、1.1 m/sが1.5 m/sに増えている。下げ潮もこういうふうに、むしろ30年後の方が増えている、こういう結果が出ています。特に下げ潮では、6測点中5点で増加しています。
 先ほど私が言いましたように、本質的には潮流は平均的に減少系でなければいけない。断面の中で局所的に増えたり減ったりということはあり得るんですが、平均的には必ず減っていなければいけないわけですね。
 これが比較なんですが、1973年のデータと、これが2001年のデータで、実際に比較できるのは、この赤丸を付けている所だけです。
 これが下げ潮なんですが、特にこのあたりは2001年の方が流速が大きく増えているわけですね。これも3倍ぐらい増えていると思います。
 それからもう一つは、この潮差の経年変動の図で1973年というのはここで、2001年はこっちの方ですから、やはり潮位変動自体も2001年の方が減っているわけなんですね。ですから、元々減少系であるということと、さらに潮位変動が減っているということを考えると、かなり大幅な減少を生じていなければいけない。それが平均的に増えているということは、ありえないことで、この比較そのものが適切ではないということになります。
 では、何が問題だったのかということで考えてみますと、まず、1973年は8月、9月で夏だった。2001年は5月で、春だった。各断面の水温、塩分分布を比較すると、全体的に8℃、新しい方が低温だった。そして1psu高塩分であったということです。8℃水温が変わると、相対密度差で大体0.002ぐらい変わってきます。これは非常に大きな、密度効果が十分発生する密度差です。
 それから河川流量が、1973年は平均207m3/s、それが2001年には47/sで、4.4倍違います。これが塩分濃度の違いにもあらわれてきているわけですね。
 ですから、流速の鉛直プロファイルを見ても、1973年は密度成層の効果を強く受けていることがわかっています。そういうことから、水面下3メートルの1点だけでは、これは比較できないということになります。深さ方向に流速が大きく変わってくるからです。
 ですから、結論としては、今回の小田巻さんたちの観測は、観測そのものが仮に正しかったとしても、前提となる観測背景や条件が違い過ぎることによって、これは比較できないデータであったと言えます。比較できないデータであるか、もしくは比較して物を言ってはいけないデータであると言えます。
 ですから、「減衰はしていなかった」と結論で言っているわけですが、それ自体は間違ってはいないんですが、それを結論として言ってはいけないことだと思うんですね。「比較すること自体が不可能なデータだった」が結論だと思います。
 そういう意味で、正確な比較のためにはできるだけ前提条件を同じにして、細心の注意を払って観測することが必要ということになります。
 その辺を十分考慮した上で、長崎大学の西ノ首先生たちの観測結果が報告されています。この2点での観測については以前、私から報告させていただいたんですが、その後さらに南の方のこの2点の観測結果が得られていますので、それもあわせてご報告させていただきます。
 やり方は10年前と全く同じで、同じ測定機具を使って、同じ人が実施した。それから、同じ季節に実施して、かつ月齢をあわせてデータの解析を行ったということです。電磁流速計を使って測定しています。それから水温計等も取りつけて、こういうふうに係留方式で、上から5メートルの所と20メートルの所に電磁流速計をつけて実施しています。係留の仕方も10年前と全く同じです。
 こういう係留方式ですので、潮流が速いときにはこれが流されて傾きます。傾くことによって、特に上の流速計が若干潮流を小さく観測することになるのではないかという指摘がありました。確かにそういう可能性も否定できないんですが、ただ、10年前と今回とを全く同じやり方でやっていますので、相対比較はできるだろうと考えています。
 もう一つは、もしこの難点があったとしても、潮流が速ければ速いほど小さく観測する可能性があるということなので、10年前の方が潮流が速いので、出てくる結果は10年前の方をより過少に計測することになります。従って、例えば仮に潮流差があったとしても、その差を小さ目に評価する方向に働きますので、ここで出てくる結果については「少なくとも、こういうことが言える」ということは間違いないと思います。
 これはP61、62の点の潮流楕円ですが、10年前に比べて今回は長軸も小さくなっているし、傾きも変わってきています。ですから、南北に立つような方向になってきているんですね。これは諫早湾の面積が小さくなることによって諫早湾への入退潮量が減少し、諫早湾向きの流速ベクトルが弱くなった結果だろうと考えています。
 減少率ですが、成分に分けたり方向に分けたりするといろいろなことが言えるんですが、長軸長の減少率は10.4%とか27.8%、26.7%、これぐらいになっています。
 それから、これは島原半島に沿ったずっと南の方のP41、43です。これについてもこういうふうに、潮流楕円が若干違っていて、そして減少率が5%、9%、20%、15%、これぐらいになっています。
 これをまとめると、諫早湾からの距離で考えてみると、これは諫早の堤防の所ですが、この堤防からの距離で見ると、大体こんな感じで潮流が減少していってると考えられます。
 ただ、先ほどの潮流の減少率で、潮位変動の減少を加味しても有明-長洲ラインで7.5%ぐらいだったわけですね。断面平均で。ところが、これを見ると20%から30%近く減少しています。この島原市沖あたり辺でも15%から20%ぐらい減少している。これはどうしてだろうという議論になるわけですが、さっき言いましたように、断面平均でそれぐらいは減少しなければいけない。諫早湾はこの辺で西側に位置していますので、その影響が島原半島沿いに帯状にずっと残って、減少率が大きく出てきます。ですから、この有明町沖は20%、30%で、ほかの所はもっと小さい。偏って影響が出てくる。そして、断面平均をとれば、それが7.5%ぐらいになるということで説明できます。
 これから見てもわかりますように、諫早湾の閉め切りの影響は島原半島沿いにずっと尾を引いて、それから、この諫早湾口北部の方に少し影響が出てきます。こういうふうに、この島原半島に沿って諫早堤防の閉め切りの影響がかなり大きく出てきていると考えています。
 では、何で諫早湾の影響がこの島原半島沖に偏って出てくるのかという話なんですが、それを明確にするために、有明-長洲のこの断面で、ADCPで潮流の流速観測を行ってみました。
 こういう現場で測ると、よく1回だけの観測でものを言ってはいけないのではないかという話があるので、大潮の秋、中潮の夏、それから中潮の冬ですね、いわゆる成層期、混合期、いろいろな場合について観測をやってみました。
 そうすると、有明町の沖でこういうふうに非常に速い流速が出てくる。常にこういう流速が出てきます。これは、このラインのすぐ北に諫早湾があって、その諫早湾に出入りする入退潮の影響がここに集中的に出てくるので、こういう流速の突出部分が出てくると考えることができます。
 では、その辺をもう少し詳しく明確にできないかということで、今度は諫早湾入り口のこの横断面について、潮流を測ってみました。これは大潮のとき、これは中潮のときです。大潮と中潮で若干違います。大潮のときは、出ていくときはすべてこういうふうに、素直な感じでビューッと、こういうふうに三角形に近いような流速分布で出ていくんですね。こちら側に、湾口の南側にこう偏ってその影響が出てきます。入ってくるときもやはり素直な感じでずっと、これかなり南の方がふくらんで入ってくるようになります。ところが、これが中潮ぐらいになると、出ていくときは南の方はこう出ていくんです。実は湾口の北部の方は外から入ってきて、それから南部の方でこう出ていく。入るときも、南の方はこう入るんですが、こちらの北部の方から少し出ていっているということで、この辺は非常に微妙な流れになっています。
 以前、この閉め切りがなかったときは、諫早湾側と有明最奥部側がほぼ対等な感じで、上げ潮のときは諫早湾に入る、下げ潮のときは諫早湾から出ていく。有明海最奥部も入る、出ていくという、この大潮のときの潮流に近い形だったと思います。それが閉め切りによって、面積が減った諫早湾がただの窪みみたいな感じになって、こう南の方から入って、それからこういうふうに北の方からまた出ていく、こういう複雑な流れが出てきているのだろうと思われます。
 ですから、今の諫早湾は、そういう意味では非常に微妙かつ複雑な流れの状況になっていると言えるかと思います。
 それでは、この辺をさらに詳しく測ってみようということで、この部分をさらに小さく、こういう測線ABCDで潮流の計測を行ってみました。測った時間帯はこの図に示すような時間帯で、中潮のときです。今年の7月7日。1番と4番と7番が最大上げ潮、最大下げ潮、最大上げ潮で、ほかはその途中です。
 それで流速のパターンを見てみると、こういうふうに、ここから上がってきたのがずっとこういうふうに流速が、諫早湾の方に行っているわけですね。それが下げ潮になると、こういう感じで諫早湾の中の方から出て来て、ここ有明町沖で大きくなる、こんなパターンになっている。
 ここで言えることは、諫早湾の内側南部、それから島原半島のごく近傍は、ちょっと流速の位相が速くなっています。まだ上げ潮で沖の方はどんどん入ってきているのに、もうこの辺は逆流が生じていました。それは下げ潮時でも言えて、この沖の方はどんどん下げ潮で下がっているのに、この辺はもう流速が遅くなって、これはもうすぐ逆流が生じようとしています。
 このように、諫早湾の湾口の付け根部分のすぐ沖は、少し位相が速くなって出てきているんですね。それで、上げ潮のときもこういう流れで、諫早湾に流れ込む、それからまた流出するということで、有明町沖のここの流速が非常に速くなっている。ところが、諫早湾の閉め切りによって、この流速の突出部分がかなり遅くなっているのではないかと考えています。
 この突出部分が、実は移流分散等で海水交換、それから物質輸送、そういったものに非常に大きく効いていると言えます。
 それからもう一つ、最近得られた知見で、どうも諫早湾でタイダルトラッピングみたいなものが生じていることが明らかになってきています。これは、この周辺で非常に詳しい計測をずっとやって出てきた結論なんですが、もう時間がありませんので結果だけお話しますが、有明海の奥部に、例えばこういう所にある物質があったら、それが下げ潮でこう出てきて、そして次の上げ潮で一部が諫早湾に回って、残りは有明海奥部に行って、こういうふうに分離する。それが次の下げ潮のときには、この諫早湾の中にあるものがずっとこちらに少し早い位相で南に下がってくるということで、こういうタイダルトラッピング現象が現状では起きているのかなと考えています。多分これは、閉め切り以前はなかった現象ではないかと考えています。
 それにしても、諫早湾というものがこういう物質の輸送、それから、さっき水産のグループの方たちからありましたように、幼生とか稚魚とか、そういったものの輸送等にこういう流れは非常に大きく効いてきますので、こういうタイダルトラッピング現象も有明海の生態系に大きく関与しているのかなと考えています。
 次にシミュレーションとの関係ですが、今の話で、我々が島原半島のすぐ近くで非常に大きな流速の減少が起こっているという話をすると、シミュレーションではなかなかそれが出てこないと言う方がいます。我々は逆に、それがシミュレーションの限界を表していると考えています。1つは、やはり分解能の問題があって、これまでのシミュレーションは計算格子が大き過ぎます。そこで、我々のところで、とにかく計算格子をできるだけ小さくして計算してみようということで、ΔXを100mから150m、一般曲線座標なので明確に「格子間隔はこれだ」と言えないんですが、大体これぐらいに相当するような、非常に細かいメッシュで計算してみました。
 そうすると、この図のように個々の突出部分はある程度再現されるんですが、この辺がなかなか観測と同じように出てきません。この辺の局所流、それから位相差の変化等を再現するには、これぐらいのメッシュ間隔ではまだまだ不十分だというのと、あと、やはり渦動粘性係数の評価をきちんとやらないと、多分、高性能のシミュレーションは実現できないのだろうと考えています。この辺も、これからまだまだ努力しなければいけないことかなと思っています。
 結論ですが、大体今まで言った通りなんですが、干拓や閉め切りによる海表面積の減少は、即入退潮量の減少につながり、それによって断面平均的に潮流が減少する。だから、本質的には潮流は減少傾向でなければならないと言えます。
 それから、海上保安庁による観測結果は、条件が異なり過ぎていて比較不能なデータになっており、したがって、「このデータからは、潮流の変化を議論することはできない」と言えます。
 島原半島沿いの速い潮流流速が、大幅に減少していることが確認されています。この部分の流速の大幅な減少は、有明海奥部領域の1~2週間の時間スケールの物質輸送能・海水交換能を大きく低下させていると思われます。これも物質輸送における諫早湾の大きな役割を示していると言えるかと思います。我々は、諫早湾は「海水交換ポンプ」の役割を果たしていると言っているんですが、まさにそのとおりだなと思っています。
 それから、最近の研究で、東京電機大の橋本先生たちのグループが種々のデータの重回帰分析を行って、10日ほど前の出水による栄養塩の流入と赤潮の発生が、冬の珪藻類の発生が非常に強い相関があると発表されています。有明海奥部における出水後の栄養塩の滞留傾向が、赤潮発生の大規模化、長期化の原因の1つになっていると思われます。
 以上です。

○須藤委員長 小松委員、ご発表ありがとうございました。
 それでは、委員の先生方からご質問なりコメントを伺います。

○滝川委員 小松委員と同じワーキンググループで潮流のことをいろいろ議論してきましたので、小松委員のご意見はよく承知しているつもりでございます。
 先だっては細川委員から我々のまとめをご報告いただいたところで、今日確認させていただきたいのは2点なんですが、ノリ網の影響は局所的といいますか、テンポラリーといいますか、基本的に諫早の閉め切りは減少系をつくり出しているというお話とまた別の観点で、ノリ網あるいは熊本新港ですか、そういう構造物等については局所的なものとして議論すべきだと。ちょっとそこで気になったんですが、ノリ網の影響というものが、速いところ遅いところ流れが出てくるから、基本的にはそれでキャンセルするというご発言があったんですが、そこのご説明が私ちょっと理解できないというのが1点です。減少系にあるから、多分、エネルギーがロスするので、そういった意味からすると何かほかにも影響があるのかなというのが1点。
 それと、先生がご主張なさっているように、諫早の閉め切りの影響で、平均的に島原-熊本間では今、3.8%、4%ですか、もうちょっと上かな─7%ぐらいというお話があって、それが実測の観測結果等によるとかなり島原湾沿いに20から30ぐらいの偏りもあるというご指摘があったわけですね。
 そうしますと、その断面において偏るというんですか、平均すると4~5%なんだが、偏ると局所的に30%。それも理解できるんですが、では、熊本沖のところは流動の変化がないということになると思うんですが、そこはどう考えればよろしいのか。
 そういったこともあって、小田巻さんが現地で測られたのは、全部瞬間的に細かく測られたわけではないので、多分そういった影響もあるのかなと私、ちょっと今、お聞きしながら思ったんですが、そこはどう解釈したらよろしいのか教えていただきたい。

○小松委員 まず、ノリヒビの影響ですが、これは断面平均の話では、とにかく海表面積が減ると入退潮量が減る。入退潮が減るとこういう断面では必ず、例えば同じ潮位振幅だったらここでは潮流は3.8%、5.1%減らなければいけないですよということです。例えば、仮にこの辺にノリヒビがあったとすると、この辺の流速は確かに遅くなります。でも、その分ほかのところが速くなりますから、断面で見ればちゃんとキャンセルしているわけですね。断面の中で見れば、遅くなった分、必ずほかの所が速くなりますから。

○滝川委員 ですから、それがエネルギー減少といいますか、外力そのものが落ちるような系に多分なっているはずですが、その影響が出てないんですか。

○小松委員 エネルギーは関係ないんです。こちらの奥の方の干満がそれによって顕著に少なくなっているんだったら、話しは別ですが、ノリヒビがあろうが何があろうが、必ず奥の方の干満という現象は起こっているわけですね。そうすると、そこにそれだけ流体が入らなければならないわけです。流体がそれだけ入らなければいけないということは、例えばノリヒビがある所の流速が遅くなっても、それ以外の所が速くなって、ちゃんとそれだけ海水が供給されているからここの水位は上昇して、干満が起こっているわけなんです。
 ですから、私が「ノリヒビの影響は局所的だ」と言ったのは、この島原-熊本ラインの断面で見れば、ここはノリヒビがあって遅くなっていても、ほかの所が速くなっているから、この断面平均で見れば、やはり3.8%の減少になりますよということを言っているわけです。
 風についても、同じようなことが言えます。
 それから、例えば潮位振幅がここで言うように2.4%変わっていれば、もうこの島原-熊本ラインでも6%ぐらいの減少になるわけですね。平均的に見れば、6%減で、この島原半島沖に減少の影響が大きく出れば、ほかの所はその影響は比較的少ないと言えます。
 それから、最近の研究で、諫早湾の影響は島原半島沿いにずっと出てくることが分かってきたんですが、諫早湾の閉め切りの影響でここの潮流が遅くなったことによって、どうも諫早湾口部の方から出てきたものが、前は潮流の勢いがよかったからスッと南の方に行っていたんですが、今はどうもスッと行けなくて、熊本側に戻ってきているのではないか、そんな傾向も若干見られます。というのはどういうことかというと、以前は島原半島沿いの流速はもっともっと速かったので、結構有明海の入り口の方まで行っていたんですが、最近これが弱くなっているということで、上げ潮のときに、こちら側の熊本港の方に回っていっているのではないか、そんな気配も最近の観測から少し出てきているような、そんな傾向がありました。その意味では熊本沖にも影響が出てきていると言えるかと思います。
 ただ、それはまだ明確に言えるほどのことではないので、ここでは示唆する程度にとどめておきたいと思いますが、いずれにしても、この諫早の閉め切りの影響は島原半島沿いに非常に大きく出ています。それ以外の断面中央とか東の方は、比較的影響が少ないと言えると思います。
 それから、前にもちょっと触れたんですが、諫早湾口北部のところで若干、逆に流速が速くなっていますが、それは非常に局所的で、それから変化量も非常に小さいものです。もともとの流速が非常に小さいものですから。基本的には、諫早湾の北のこの断面では、諫早湾の閉め切りによる潮流の変化は断面平均的には出てきませんので、ここが若干速くなってもほかが遅くなって、それで補償するという構造になっています。

○滝川委員 2点目の方は、どう解釈すればよろしいでしょうか。島原湾沿いに20~30%減少した、その断面の中で平均的な減少率があるならというところの解釈。

○小松委員 有明-長洲ラインの島原半島沖で20~30%なんですが、もっと南の方になると影響がどんどん落ちてきます。そしてこの島原-熊本ラインで15%とか20%とか、それぐらいですね。
 この1993年から2003年の10年間では、3.8%に潮汐の減少率の2.4%が上乗せされますので、約6.2ですか、それぐらいの断面平均の減少の影響があります。ですから、この辺で15%から20%ぐらいだったら、ほかのところはそれよりも小さい。要するに、積分値が6.2%ぐらいの減少になる。ここは15%から20%ぐらいあるが、ほかが小さければそれは構わない。

○滝川委員 そうですね。先生のお話だと、東海岸沿いの方は諫早の方に流れが偏向している分だけ、こちら側はそんなに影響はない、要するに、かたよってしまうというご説明なんでしょうか。

○小松委員 潮流減少の直接的な影響は、東側は多分小さいだろうと思います。ただ、さっきも言ったように、こちらの西側の流れが弱くなったことによって、この奥からの物質輸送、島原半島沿いにかなり流れてきてたんですが、今はこれが流れ切れなくて熊本側に上げ潮時に回っている可能性があります。

○滝川委員 ということは、それは逆に速くなるから……

○小松委員 いや、速くなるということとは違うんです。流速が速い、速くないというのとネットの物質輸送というのは、全く違いますので。正味の物質輸送というのは、また全然話が違います。

○滝川委員 多分そういった議論はもうちょっと詰めていかなければいけないだろうと思いますし、いわゆる3次元的なシミュレーションと先生おっしゃっていましたが、そういった流量の解像度といいますか、それも含めて議論すべき話かなと思います。

○須藤委員長 ほかの先生は、いかがですか。
 特にございませんが、これは潮流グループで、別に意見の一致を見るというような問題ではございませんが、さらにグループ内でもいろいろご検討していただければと思いますので、細川委員、代表者にしているわけではございませんが、ひとつまたワーキンググループの中でご議論いただきたいと思いますので、お願いいたします。
 小松委員、ありがとうございました。
 それでは、予定どおり進んでおりますので、ここで10分間休憩をとらせていただきます。25分までお休みください。

(休憩)

○須藤委員長 会議を再開させていただきます。
 次の議題も、最近の研究成果についてでございます。
 日本海洋学会から有明海についてレビューをされた本が最近出版されておりまして、その編集に携わりました佐々木先生からご報告をいただきたいと思います。
 佐々木先生、どうぞよろしくお願いいたします。

○佐々木氏 皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました佐々木です。
 今回、私どもの本を紹介する機会を与えていただきまして、須藤委員長を初め委員の皆さんにとても感謝いたします。
 この本は、今日お話しになったことと随分関係あるんですが、有明海はどんな海か、埋め立て等どんなことをされてきたか、それから水質とか底質にどんな変化があって、それはどうしてか、赤潮とか漁業生産の変化は何が原因と考えられるか、それらをわかりやすくまとめて、では、これからどうしたらいいか、こんなことを書いた本なんですが、今日は全部話すわけにいかないので、特に干拓事業と有明海漁業の関係に絞ってお話しさせていただきます。
 どうしてかというと、一番資料がたくさんあって、科学的な議論をしやすく、ほかにもいろいろあるんですが、ちょっと時間の関係で絞って話させていただきます。
 これは単に原因だけではなくて、これからどうしていくかということも我々はとても大事だと思っています。今日はこの本のことが中心ですが、その後、8月30日に公害等調整委員会から裁定が出されまして、これにも科学的なことがいろいろ書かれていますので、これも加味してお話しさせていただきます。
 先ほど漁業のお話がありました。皆さんご存じとは思いますが、80年ごろから80年台半ばまで一挙に減少して、これは主としてアサリです。ここからほとんど6万トンで安定して、このときもまだ、二枚貝は減っていてもほかのものは増えたりしていました。そして90年ぐらいから1回下がって、しばらく安定して、下がって、最終的には14万トンが2万トンぐらいまでになった、こういう大変危機的な状況でありますが、今日お話しするのは、この90年代以降のことになります。
 結論から言いますと、原因は何か。先ほどの、90年以降の減少も含めてですが、やはり潮流が弱まったことが一番問題ではないかということです。それから、諫早の調整池の水質が悪化したこと。それから、今日漁業の話もありましたが、干潟がなくなったこと。それから、今日は余り話しはなかったですが、ダムや川砂採取、こういうものがいろいろ影響してきたと思います。先ほど述べました80年代の減少、その原因についてはいろいろ書いてありますが、明確には言えないところがあるんですが、そういう減少があったところへ、さらに諫早湾干拓事業が拍車をかけた、こういう診断をしております。
 これを考えるときに、例えば、有明海特措法などを見ると、一般的な負荷量とか色といったことが書いてあって、有明海の特徴をとらえた解析になっていないなということで、やはり有明海の特徴をとらえた法則が必要だということです。1つは、ほかの海にない潮流がある、それから、日本の40%の干潟が有明海に存在している、それから浮泥が有名ですよね。それから、いろいろ見てみると、特に負荷量が大きく増加しているとか、そういうことはない。こういうことが有明海の特徴だと思います。
 例えば東京湾をとりますと、次の資料に示しましたが、ほとんど似ているんですね。14万トンから2万トンぐらいまで減ったとか、貝類が主要な生産物であったとか、非常に似ているんですが、この4点、東京湾はすべて違うわけですね。ですから、やはり有明海では恐らく東京湾とは違う要因がある、そういう観点で取り上げる必要があるのではないかというのが一つの見方です。
 もう一つは、ここに1、2、3と少し抽象的なことを書きましたが、やはり総合的に見るべきではないかということです。ある現象は漁業のあれには関係なさそうだが、あることはありそうだというのがいろいろあると思うんですね。今日、山口委員や中田委員から生活史の話がありましたが、生活史を考えてどうかとか、いろいろなことで、1つのことではなかなかはっきりしないことも、いろいろつなぎ合わせるとわかってくるのではないか。犯人捜査のときに、DNA鑑定や何かはっきりした証拠があれば、もうそれは犯人になるわけですが、状況証拠とか、そういうふうにしていく問題、こういう感じで見る必要があるのではないか。オール・オア・ナッシングではなくて。
 それから、疫学的視点と書いてあるんですが、これは時間がないので簡単に言いますと、ともかく、否定されることがあればしようがないが、そうでなかったらやはり可能性はあるということと、オール・オア・ナッシングではなくて確率的に見ていくということ。後で話します。
 それと、よく言われる予防原則ですね。これはリスクではないかと思われるが、それが十分に解明されていなくても、その段階で防ぐような効果。それと、こういう予防原則というのは、こうなっていますよ、こういうような視点が、生態系は非常に複雑ですから、そういうことが必要ではないかという考えで進めました。
 東京湾のことは今、述べたことで、後から資料として見てください。
 今日お話しするのは潮位・潮流のことと、調整池の水質のこと、具体的には赤潮、ノリ、それからタイラギを通じて問題点を考えてほしいということです。
 潮位・潮流は、私、特に専門家ではないんですが、ちょっと用意したんですが、先ほど小松委員が話してくれたので、別に小松先生に聞いてつくったわけではありませんが、似たような話になってしまうんですが、潮位は減ってきて、その減少の半分ぐらいは諫早干拓が影響しているのではないかといった話が1つあります。
 それから、これは見にくいんですが、柳さんの図です。こういうふうに回っているのは月の影響でなるということで、1980年についてはぴったり合うんですが、90年代になってくると実際のと月の効果とずれてくるんですね。この効果は、柳さんははっきり言っていないんですが、やはり干拓の効果ではないかと考えています。
 潮位差については、いろいろな潮位差がありまして、これが実際の年平均の潮位差で、ここでは下がったということでありますが、例えば、干拓事業の問題になっている所は必ずしも一番下がった所ではないんですね。ただ今度、こちらの方は、M2とかS2とか全部足したものですが、これは実際には大潮差に当たるということで、こちらの方は月の効果ではなしに、90年代から減ってきて、大潮差ですから、特に干潟の縁辺などでは大きな影響を及ぼすと思いますが。
 ただ、実際に生態系に影響を及ぼすのは、潮位ではなくて潮流なわけですね。それで、先ほどの小松委員の話になるんですが、たった2%か3%減って影響するのかという話がありまして、これはもう飛ばしますが、おさらいですが、農水省の調査で、平成元年─1989年に比べて閉め切り後はどうかというのをレビューに書いてありますが、それを見ると、特にここの点ですね、一番湾央に近い所。ここは農水省の調査でも、下げ潮最強流時で23%、上げ潮で26%。それから、これは表層からマイナス2メートルですかね。こちらは中層です。1/2深ですね。これでも下げ潮最強流時にマイナス6%、上げ潮ではマイナス24%と減っている。ですから、ここは農水省の調査でも非常に減っていることが発表されております。
 この青い点は小松委員たちの調査で、20%から30%─ここに「10~30%」とあるのは「20~30%」の間違いですが、そういうふうになっています。ですからこの辺は、先ほどお話があったように、非常に減っている。
 こちら、国調費(国土総合開発事業調査費)のモデルでは、この辺は5%ぐらい減ったということですが、やはりモデルというのはどんどん進化していくと思うんですが、もう少し改良されていくと、何というか、これも先ほど小松委員からあった話です。
 これも全く同じ話で恐縮ですが、海上保安庁のデータです。私ちょっと間違えたんですが、同じ点が1、2、3、4、5、6、7とあって、この4番目は、小松委員の話ではこれは違うというお話ですから、この4番目はカットして考えればいいんですが、比較して、このプラスというのは、最近の方が潮流が速くなったということですね。この結果で潮流が減ったというのは、この点だけが出ていて、あとはみんなプラスで、これはこの点も入れて「えいやっ」とやったら平均20%も速くなったという、これは先ほど言ったように、あり得ないのではないかという話です。
 最終的に言いたいのは、先ほど小松委員が言ったように、ここら辺が非常に弱くなっている。この辺の潮流が弱くなったことが、奥の方にどう影響するのか。これはこれから物理屋さんにぜひ解明していただきたいんですが、直感的に、特に筑後川から水が出てくるわけですから、ほかの川も出てきますが、出てくるときに、やはり遅くなったということは、水は連続していますから、出ているはずだと思うんですね。その結果が、これから述べますように、赤潮とか何とかに影響する。
 先ほどのお話だと、湾央から奥は変化がないのではないかということでしたが、それは本当にどうかというのは、私がこれから話すことを考えると、ぜひ潮流グループでご検討いただきたいと思うんですが、何らかの変化が必ずあるのではないかと思っております。
 それで、言いたいことは、少なくとも島原沖では、農水省の調査でも小松委員たちの調査でも遅くなっている、それは何らかの影響を及ぼしたのでないかということです。
 その次に、調整池ですね。
 調整池は、ご存じのように、閉め切ったらSS、COD、TN、TP全部増えたわけですが、SSが増えたのは、淡水化によってフロック化が抑制されたからだろう。これが増えると、有明海のSSは結構有機物などを含んでいますから、CODの増加や何かに寄与するわけです。それから、閉め切ったことによって赤潮が増える。これもCODの増加。こういうことだと思うんですが、こういうふうに悪化した水が諫早湾に出ていくと、当然、諫早湾の環境が悪くなるわけですが、さらに諫早湾の潮流も弱まったということで、水・底質が悪化するということで、諫早湾が悪化する─これはもう誰もが認めていることですが、こういうことがどういうことになるかという話を次にさせていただきたいと思います。
 その前に、この調整池の水質の問題です。これは私が計算したんですが、1988年の河川負荷量がこれぐらい、このときに干潟から、そのときは閉め切っていませんから、干潟から出てくる量はこのぐらい、こういう感じなんですが、これ、閉め切ると、実は河川の水質は随分よくなっているんですね。ですから、河川からの負荷量は半分ぐらいに減っているんですが、出てくる量は増大している。窒素などは、干潟で相当な浄化力があったということですね。河川負荷量がこんなに減っている。今は、河川の水はこんなにきれいになったのに、やはり増えている。こことここを比べても、みんな増えているわけですね。
 燐については、この河川の減少も一番大きいため、実質は以前と今とほとんど同じぐらいという計算になりますが、要するに、かなり河川をきれいにしても、まだまだ調整池から出る水は汚れているということです。
 これは諫早湾の中の水質です。これは農水省の調査ですが、B3は湾の真ん中、B4は湾口の北側、こっちは南側でして、ほとんど同じパターンで、2000年ごろからDINがほとんどゼロなんですね。春夏秋冬を通じて。ですから、夏場の珪藻など増えることはできないと思うんですね。ですから、あそこはすごく赤潮が起きて、それは別なベンモウソウとかその他が増える、その原因の1つはこれだと思うんですね。
 底質の方は、B3というのは湾の真ん中で、これはざっと汚れていますが、湾の北側も全く同じぐらいに有機物が増加している。S10というのは湾口の真ん中ですが、これは少し汚れています。一番南側の点は余り有機物は増えていない、こういう結果です。ですから、諫早湾の中でも底質は北側ほど悪くなって、だんだん南の方でよくなるんですが、それにしても、全体としては悪くなっているという結果です。
 今まで示したように、諫早湾周辺で潮流が減少したというと、1つは、成層化が予想される。流れと成層の関係は3乗に反比例するそうなので、例えば5%減ると成層度は15%増える、こういう感じになるわけですね。それから、流れが弱まると底質が細粒化する。それから、潮流が弱まると巻き上げが少なくなりますから、透明度が上がる。これについては、今日お話しされた長崎大学の中田委員が別なところでご発表されています。
 今度は浮泥、特に干潟の周辺の浮泥ですね。これは西海区水研の田中さんたちが調査やらいろいろやって、濁度が減少すると。濁度が減少すると透明度が上がるわけで、ノリをやっている所あたりの干潟では、その影響で赤潮増加傾向に働く、こういうことが予想されたり、研究発表されているわけです。
 先ほどの、成層度の強化ですが、これはシミュレーションです。数値実験の方なんですが、85年と99年の潮位から計算したという、先ほどの地形効果や何かは入っていませんが、それだけ計算してやると、白くなった所が、これに比べて成層度が強化された所で、この白くなった部分と、これは2001年7月の底層のDO分布と、これは低くなった所ですね、かなり一致していて、流れが弱くなると、この辺が貧酸素になる可能性を指摘した報告だと思います。
 それから、底質の細粒化。この委員会の資料ばかり使わせてもらいますが、佐賀県側で細粒化したのが東側にずれていったとか、それから、諫早湾口のここに黄緑色のラインがありまして、そこが拡大していますよね。それから、下の方の図は、これでは出ていませんが、Mdφ2~3という水色の部分が増えている。そこが細粒化したということで、熊本の方にもちょっと細粒化した部分が出ていますが、特に諫早湾から、湾口から奥の方ですね、やはり細粒化している傾向が見えるということで、こういうことが本当だとすれば、その原因は、やはり1番に流れが弱まったということ。その結果として赤潮が出て、赤潮が落ちて貧酸素化ということもありますが、私どもは、やはりこれは流れの弱まりのせいではないかと考えているわけです。
 諫早湾の水・底質が悪化して、ある程度の拡散や移流で湾から出てくるんですね。そして、ある程度南側に行きますが、一般に、内湾ではエスチュアリー循環というものがあるんですね。下層の水は奥側へ向かい、上層の水は沖合へ出る。ただ、有明海は非常に潮流が大きいので、これがほかの湾ほど明瞭ではなくて、必ずしも今まで十分言われていませんでしたが、公害等調整委員会専門委員会の3次元シミュレーションでは、残渣流として明らかにあると報告されていますので、もし諫早湾から悪化した水質なり底質の、例えば貧酸素とかそういうものが出ると、エスチュアリー循環で奥へ運ばれる可能性はあるのではないかと思います。東京湾や何かでも、これははっきり示されているわけですが、有明海では今のところ推定ですが、今後、ぜひ解明していただきたい課題です。
 それでは、今度は具体的な被害の問題についてお話しします。
 ノリ被害なんですが、2000年のはすごい影響ですが、その後は、生産量を見ても余り減っていないのではないかという話がありますが、よくよく調べたら、地域によって大分違うんですね。特に筑後川などの大きな川から遠い部分、つまり栄養塩のもともと少ない部分は赤潮の影響をもろに受けるので、そういうところは今でもずっとノリの生産が落ちたままです。
 この赤潮なんですが、これは熊本県立大の堤さんのお仕事ですが、先ほど小松委員もご紹介されていたように、雨が降ると一遍に赤潮になるというのはよく知られた事実ですが、これは赤潮発生40日前、40日間における降水量と赤潮発生規模指数の関係で、赤潮発生規模指数というのは、赤潮の面積に赤潮の持続期間を掛けたものです。これが非常に、この2000年の特別なものを除けば非常にきれいに線に乗る。特徴的なのは、○の方は97年まで、閉め切り前まで。こっちは閉め切り後だと、こういうきれいな関係になりまして、ここに0、200、200とあるのは0、100、200の間違いですが、例えば200だったとしたら、7,000ぐらいだったのが1万7千ほど、同じ雨が降っても閉め切り後は2倍から3倍赤潮が拡大した、こういうグラフです。
 これについては、なぜかというのはいろいろ考えられるわけですが、これについては、先ほど述べた公害等調整委員会で詳しく論議します。
 1番の成層化は飛ばしまして、2番、透明度です。閉め切ったために、透明度が増加したということは、いろいろ調べたが、はっきり言えません。アサリなどが減ったから赤潮になったということも、閉め切りとの関係を見れば、そういうことは言えない。それから、閉め切りで富栄養化したわけでもない。水温が上昇すると赤潮が発生するという話がありますので、それと結びつけていろいろ研究してみたが、そういう結果にはなっていませんでした。それから、照度というか、お日様が強くなったと、98年以降。それで赤潮になったという可能性も研究したが、そうも言えません。それから、雨がたくさん降ったから赤潮になりやすい、これも違います。
 そういうことで、先ほどの現象は成層化では説明がつくわけですが、成層化については、専門委員会報告書では、成層度の強化が認められるという、つまり、閉め切ったために成層化して、赤潮になるという可能性を指摘したんですが、一方で、浅海定線調査というのがありまして、それではそのような結果が見られていないということで、成層化を支持する報告もあるが、支持しない報告もあるということで、要するに不明ということで、「成層度の強化以外の要因は見出せなかった。赤潮の発生機構については未解明部分が残されていて、消去法によって要因を特定することは困難である」これが裁定書の結論です。
 先ほど、一番最初に疫学的とか予防原則とか言いましたが、例えば、閉め切りと成層化は関係ないということがはっきりしたら、閉め切りは赤潮と関係ないということになりますが、かなり、成層化以外全部否定されて、これだけ残って、この可能性は否定されなかったわけですね。ですから、一般的に言えば、やはり成層化が非常に怪しい、当然これを一番疑うべきだという結論にすべきだと思うんですが、残念ながらこういう結論が、裁定書の結果でありました。
 これについては今、調整委員会専門委員会の報告を紹介しますが、具体的に言いますと、増水時の数値実験報告です。これは夏で、冬ではないんですが、大潮下げ潮時には、非常に潮流が減少しました。それから、筑後川河口前面からの残渣流は、一たん南下した後、コリオリ力、これは地球の自転の力ですね、で西の佐賀の方に向かって、そして諫早湾口から出てくるんですが、これが閉め切った後どうなるかというと、この西に出た後、筑後川の水がさらに西側へ行く方向が強まった。ですから、諫早湾方向へさらに川の水が行く、こういう結果が出されました。
 それから、諫早湾の前面とか熊本県側とか有明中央、こういうところで塩分成層が強化されていたということが専門委員報告です。
 もう一つ、程木解析と書いてありますが、程木さんというのは今、北大にいる方で、統計的解析が非常に得意で、浅海定線データを解析した結果、筑後由来の低塩分水は、閉め切り後、佐賀県側により多く行って、福岡県南部ですから大牟田とかあっちの方ですが、少なくなるようになりました。それから、表層と中層の塩分差と表層塩分の関係を見てみます。表層の塩分が下がったときに中層はどのぐらい下がるかということなんですが、佐賀県側では、多くの調査点で塩分差が増大したということで、やはり成層化が進んだと。ただ、これは、閉め切り後というのは98年からで、データは2000年までしか公開されていないので、データ数が少ないんですね。ですから、こちらの方はその傾向があるということで、これはまだはっきりしていません。ただ、この上の方は、少ないデータでも非常に統計的にも有利な結果だった、こういう報告です。
 ですから、この1番目(程木解析)は2番目(専門委員会報告)と相当して、2番目(程木解析)は3番目(専門委員会報告)に相当して、ですから全然違う解析がかなり似た結果を出しているので、やはり可能性は強いのではないかと考えております。
 ですから、閉め切ったために何らかの物理的な理由、先ほどの、潮流が諫早湾口で弱まったとかいろいろあって、それが成層化を強めて赤潮になった可能性が非常に強いのではないか。100%そうかというと、さっき言ったとおりはっきりしませんが、確率論的に言えば、非常に高い確率で言えるのではないか、そういうふうに考えています。それで、赤潮が増えると栄養塩が減ってノリが減少する、こういうことですね。
 もう一つ、今度はタイラギのこともお話しさせていただきます。
 タイラギは2つありまして、1つは長崎県のタイラギ。これは諫早湾口で主にとられるんですが、これが工事、砂とりがこの線ですが、あっという間にいなくなってしまって、それからも全然いないんですね。ですから、これは底質が悪化してということが考えられています。湾の奥の方は関係なくとれているんですが、これも1999年以降はほとんどありません。これについては、この委員会でご発表になった資料を見ました。私は非常に貴重な資料だと思ったんですが、タイラギの浮遊幼生は昔も今も変わらない。減少していない。ただ、着底稚貝は佐賀県側で非常に減ってしまった。福岡県側だけしか残らなかった。ただし、残った稚貝も成長できなくなった、こういうことがはっきりしたわけですね。
 この着底稚貝が減って一番疑われるのは、まず細粒化ですね。泥化すると全然そこには着底、成長できません。もう一つは、着底できたとしても成長できないのは、貧酸素、それから、先ほどこちらの方についてはナルトビエイの話もありましたが、そういう問題もあると思いますが、とりあえず、この着底稚貝が圧倒的に減ってしまったというのは、どう考えても、やはり細粒化したとしか考えられないんですね。それと貧酸素が関係しています。
 貧酸素の方は、この委員会で出された資料で、黄色い所は硫化水素臭が確認された範囲と書いてありますが、熊本の方もありますが、ちょうどこのタイラギがいる所は、1つ貧酸素化ということが考えられると思います。
 もう一つ、これもこの委員会の資料ですが、青い所が酸素が少ないところです。明らかに佐賀県の奥と諫早湾に必ず発生源があって、これはこの図だけではなくて、西海区水研のいろいろな発表から、すべて発生源は2つだと。有明海の貧酸素はこういうふうに2つあって、それがそのときの潮流、風、いろいろな影響で、エスチュアリー循環も含めて全体に広がっていく。そして結果として、湾奥全体が貧酸素となる可能性が非常に高いことがその原因だと考えられます。
 これは私が言っているのではなくて、いろいろな報告書にも書いてあります。
 次は、ニベ・グチ、クルマエビと書いてありますが、これも今日、中田委員と山口委員がご報告されたことですので、省略します。ここには「解明する必要がある」と書いてありますが、かなり今日、いろいろなご研究があることがよくわかりました。ここは飛ばします。
 今日、皆様からご意見をいただきたいんですが、私、本当は詳しく勉強すれば良かったんですが、ざっとしか見ていなくて、この評価委員会の論点整理というのがありまして、非常に粗っぽくバッと見て、ですからこれは間違っているよ、そんなうまいこと言ってといったご指摘もあるかと思うのでお願いしますが、私どもは、漁獲量が減ったのは環境が変化したためで、その環境を変化させた原因があるはずだ、こういうことで考えたんですが、こういう整理が必ずしもまだ十分でないのではないかという感じがしているわけです。
 例えば、赤潮については、赤潮発生が増えた、その原因として気象条件の変化とか透明度とか質が挙げられていますが、気象の場合には自然減少ですから、温暖化とかそういう話ですが、例えば透明度とか、そういう変化があるとしたら、それはどうして起きたかという問題をはっきりさせないと、有明海の再生につながらないと思うんですね。「いや、実はこういうのをやっているんだよ」ということがあったら、ぜひ言っていただきたい。
 それから、ベントスについては、底質の細粒化、貧酸素、底質の有機化が言われています。では、その底質は、原因としては、河川からの泥供給が増えた。ダムや何かで砂が減って泥ばかり出てきたから、それで泥化したんだと。それから有機化は、40年ぐらいからずっと続いている、しかし、先ほどご紹介しましたタイラギなどは、細粒化するとだめになってしまうんですが、では、なぜ最近になって、94年以降から急にいなくなったかというのは、この説明では、ちょっと説明できないと思うんですね。近年、別に細粒化したと思うんですが、この辺ぜひご検討いただければと思います。
 それから、貧酸素については、見た範囲では、近年、貧酸素が増加しているかは不明と書いてあった。これは、浅海定線調査結果では確かにそうなんですね。ただ、最近の細かい調査ですと、特に夏季に貧酸素の層がざっと広がっていくという研究が非常にたくさんあるので、やはりこの辺をもう少し検討していただく必要があるのではないかと感じました。
 ここに「漁業について論点整理がまだない」と書きましたが、今日、非常に詳しいのがありましたので、5番目は全くカットです。
 繰り返しになりますが、漁獲量の減少とか赤潮の大規模化が起きた。これはどういう環境変化と関係あるかということで、先ほどいろいろお話ししましたが、環境の変化としては、貧酸素とか底質の細粒化があります。こういう有明海で起きているいろいろなことが、人為的な問題、ダムができたとか川砂をいっぱいとってしまったとか、埋め立てしたとか、干拓事業とか、そういうものとか自然現象、温暖化とかいろいろありますが、どれがどういうふうに関係しているか、やはりさまざまな角度からやって、この場合、確かに1対1の結果はないかもしれないので、そういうときは総合的視点で考える必要があると思います。私どもは、その検討結果を今度、本に表しましたし、公害等調整委員会でも、かなり詳しく検討して、それなりの結論を出していますが、こういう因果関係というんですか、これがはっきりしないと有明海をどうするかということにならないと思うんですね。
 もう一つ、私ちょっと不満なのは、この論点整理において、人為的なものがありますね、河川環境変化とかいろいろありますが、諫早湾の干拓事業、今日は小松委員が触れていましたが、余り触れられていないと思ったので、それはちょっと科学的じゃないのではないかという気がしました。
 もちろん、我々が書いた本にも諫早湾が影響した部分、それから河川環境が影響した部分とか、いろいろ分けて考えていますが、少なくとも干拓事業が影響を与えた可能性があるわけで、ただ、これはなかなか、今までの結果でも言えるという人とそうでないという人がおられますので、ノリ第三者委員会が提案したように、やはり開門調査するのが科学的に一番いいのではないかということで、今後ともご検討いただければと思います。
 最後の点は非常に乱暴な意見で、皆様から「とんでもない」とかいろいろご意見あるかと思いますが、それも含めてご意見いただければ幸いです。
 どうもありがとうございました。

○須藤委員長 佐々木先生、本日は大変ご多用の中を当委員会でご発表いただきまして、どうもありがとうございました。
 それでは、しばらく質疑応答ということでよろしゅうございますか。

○楠田委員 先ほどの本のご紹介ですが、私も読ませていただいたんですが、1点、確認させていただきたいんですが、私どもが所属している学会で、例えば学会の名前で本を出すときには、編集委員会があって、それを再度読み直して、おかしいとかおかしくないという第3の目を入れて出しているのが多いんです。これは海洋学会がオーソライズされて出している本という理解でよろしいでしょうか。

○佐々木氏 オーソライズの点は、必ずもそうでなくて、海洋学会の中に環境問題委員会というのがありまして、私もその委員なんですが、環境問題委員会がこういうことをやる、こういうことをやるというのは必ず、海洋学会の場合には幹事会というものがあって、執行部みたいなものですが、幹事会に提案して、それはいいよと。今までもいろいろ提言してきましたが、そういう議を経て今回の本を出したということで、ただ、お話ししたように、あの本をつくって全く編集委員と違う別個の人にレビューしてもらってということは、されていません。

○楠田委員 学会としてのスタンスは、先生はどうお考えですか。

○佐々木氏 幹事会としては、その都度、出した範囲の中では「この活動は了とした」というプロセスは経ているということで、それがいいかどうかというのは、私は別にやっている方だからあれですが、別に今のところ、海洋学会の方からおかしいのではないかとか、そんな話は出ていません。経過は、そういうことです。

○須藤委員長 ということは、執筆者の中での、先ほどお名前を出された委員の方の中で了解されている事項で、学会としてオーソライズされているわけではないという理解でよろしいんですね。

○佐々木氏 学会として内容の吟味をされたわけではなくて、出すことについては了承された。

○須藤委員長 もちろん、そうですね。内容についてはレビューを受けているわけではないということでよろしいですね。

○佐々木氏 はい。

○小松委員 先ほどの私のプレゼンテーションの中で、諫早湾の北の方に影響がないと言ったのは、あれは断面平均的に影響がないということです。あくまでも入退潮の減少がないものですから、断面平均的な流速の減少はありません。
 確かに、諫早湾の入り口の北の所では少し変化が出ています。ただ、それは変化が出た断面のほかの部分でそれを補償しているということで、変化そのものを否定しているわけではありません。

○佐々木氏 ですから、平均的には変化はないが、プラスになった所とキャンセルしてマイナスがあって、実際の変化はあるということですね。

○小松委員 局所的な変化は当然あります。

○菊池委員 1つは拝見した図18の大規模赤潮の発生の話で、これは熊本県立大学の堤教授の論文に基づくものと思いますが、発生域拡大の順序におかしな点があります。有明海湾奥部にまとまった雨が降って40日以内に大規模赤潮がでる、その傾向が1998年以降と以前で異なり98年以降は、継続期間×最大面積の指数が以前に比べずっと大きくなる。プロットが2本の異なった線上に並ぶとのことでした。しかし、今度の本の表4.1(p.106~107)の元データをみますと、大面積赤潮の広がりのほとんどが、まず熊本県中部の長洲沿岸から宇土半島の先端、あるいは天草諸島の大矢野島、著しい場合は天草下島の五和町沖といった有明海中・南部にあり、一・両日おくれて、福岡県や佐賀県沿岸の湾奥部で赤潮が始まっています。これは湾奥の大河川から出てきた富栄養な水が奥から中部へ流下するという説明に逆行するもので、熊本県沿岸にも菊池川、白川、緑川などの1級河川がありますし、これらの川の流量データは無かったのかも知れないが、むしろ同時多発的に広域に雨が降り、あちこちで赤潮が発生したと解釈するほうが素直のように思います。1日、2日の発生の差は、観察者の視察頻度や報告日の差によるもののようで、伝搬の過程を示すものではないと思います。これは、直接筆者の堤さんに言うべきことかも知れませんが、そのぐらいのチェックがあってもよかったのではないかと思いました。
 もう一つは、私自身がわからなくて困っているんですが、これだけ膨大なシルト・粘土がどのぐらいの期間にどうやって入ってきて、そして、この10年ぐらいの間に有明海の北西部に大量にたまっているわけですが、それと逆の方の熊本県の沿岸でも、砂地の干潟がみんな、この数年だか十数年の間に泥っぽくなって、それでアサリがとれなくなったんですね。
 陸からのシルト・粘土の流入量の問題と、すでに有明海にある泥の絶対量が近年急に増加し、局地的な浮泥の沈降を促進するように流れの営力が変化したという点で何かご説明あるかなと思っていたんですが、いかがでしょうか。

○佐々木氏 最初の方は、ちょっと私、間違って理解しているかもしれませんが、経年的なのは、本当はきちんとボーリングして、年代測定してやればきっと出ると思うので、そういう調査が一番いいと思うんですが、西海区水研と中央水研の共同で、かなり厳密な堆積速度を測ったんですね、有明海の中の。そうすると、1年にどのくらいというのが出ますから、そうすると、有明海全体でどのくらい……、何トンだか何万トンだか忘れてしまいましたが。一方、川からの量が出ていますよね。あれでやると、川からの量の方がずっと少ないんだそうです。これはバランスが合わないんですよね。ですから、まだこれから調査しなければなりませんが、やはり大雨のときのやつが入っていないから、あのときにバッとたくさん出ますよね。そういう解析をする必要があるというのが言われている。
 それから、後の方なんですが、堤さんにお聞きしますと、熊本県のアサリ漁場は、別に全然泥っぽくなっていないと言うんですよね。この辺は私、自分ではかっていないのでわかりませんけれども。ですから、貝はそういうことで減ったのではないと言っています。
 それからもう一つ、赤潮の方ですね。赤潮のことについては、彼は特に奥に生じる赤潮が影響するという観点で整理したもので、ああいう結果になったんですが、今の菊池委員のお話は、伝えておきます。

○山本委員 1点質問をお願いします。6ページの12枚目のスライドのデータなんですが、COD、燐、窒素の数値を出されているんですが、この算出方法を教えてください。

○佐々木氏 閉め切り後は非常に簡単なんですね。濃度がはっきりしていますから。それに排出量も非常に、頻度がわかるようなものを掛けてやれば出るので。河川負荷量の方は、河川の濃度にその年の河川水量、これは私がやってみたんですが、夏あたりの雨量とその前にあったデータが非常に相関がいいもので、その雨量からも全部計算してやりました。これは非常に簡単ですね。
 問題は1998年前ですね。これは、河川負荷量はいいと思うんですが、干潟があるときには、干潟から川の水の分だけ出る。移流と言いますが、それから今度、すごい潮汐が拡散していますね。拡散は濃度差でいきますから、その拡散係数を別な方で見積もって、移流と拡散係数でやった。
 この中で窒素と燐は、私もきちんとしたデータを出していますが、実はCODは必ずしも十分でない。なぜかといえば、川から入ってくるCODというのは、酸性法で測っているんです。ところが、その当時の海の方のデータは、アルカリ法で出していたんですね。ですからそのまま計算できないんですよ。ですから、アルカリ性で出したものを何らかの方法で酸性法に換算してやらなければならないので、ここで非常に誤差が生じる。私は、本当は閉め切り前はもう少しCODは少なく出ているのではないかと思っていたんですが、このCODについてはちょっと誤差があるんですが、そうやって移流と拡散を考えて計算しました。

○山本委員 拡散というのは、燐とか窒素が、どういう形であれ同じような拡散の仕方をするということですか。

○佐々木氏 そこが一番ポイントでして、実際の物質には溶けているものがありますね。溶存体の無機態とか有機態。それから、特にあそこはSSが多いから、縣濁態ですね、これは必ずしも水と一緒に動けませんよね。その問題を一応燐で、燐は堆積速度からいろいろ計算してやって、そこからは本当の水の拡散係数ではなくて、粒子も溶存体も全部混ざったような「えいや」という拡散係数を求めて、そして燐の数値から求めた拡散係数なんです。ですから、実際にはCODと窒素に適用するには少し問題ありかと思いますが、そういう本当の水だけの拡散ではなくて、縣濁物も混じった見かけの拡散係数というのかな、それを仮定して計算しました。

○須藤委員長 ほかに、よろしいですか。
 岡田委員、私どもこの評価委員会では、ご存じのとおり、特に岡田委員に幹事役になっていただいていろいろ論点の整理をしていただいてきているわけですが、今日も水産資源についてご発表いただいて、これで一通り論点とまでいかないにしても、整理ができるかなという段階に来ているわけですが、先ほど佐々木先生から、原因やら何やらはまあまあいいが、変化要因についての記述が不十分ではないかというご指摘をいただきましたので、先生のお立場で、当委員会の論点を整理されている幹事役として、何かコメントありますでしょうか。

○岡田委員 例えば、13ページの26枚目のスライドで触れられている点、変化要因について触れられていないとご指摘でございますが、我々として当然、変化要因についてもこれから触れていくつもりです。一番最初につくったグランドデザインの中では、変化要因は当然入っております。
 ただ、個別の議論のところで、例えば、赤潮のところで言いますと107カ所、赤潮発生件数の増加ということと、環境要因として気象、透明度がどうなるか、ここをまず明らかにして、その後、透明度と、例えば先生ご指摘のような流れがどう関係するとか順番に来て、では、その流れは何によるのかというふうに順番にやっていく予定でございますので、ご指摘の点につきましては、現時点においては不十分に見られるかもしれませんが、今後、やらないというスコープにはなっておりませんので、ご安心いただければと思います。

○佐々木氏 私が非常にせっかちだったということで、どうも申しわけありませんでした。

○須藤委員長 当方は、今のところ一通りプレゼンテーションをやっていただいて、事務局そのほか、特にワーキンググループの先生方の意見を伺いながら、中間報告に向けて取り上げていくわけですが、その問題も、先ほど聞いてくださっていたかどうか、小委員会もございまして、いろいろな文献も精査しながら、最終的には報告書という段階までには、可能な限りの論点の整理はしていくおつもりですが、中間報告で先生がご満足のようなところまでいけるかどうかは、ちょっとそれは不十分かと思いますが、そういう方向を目指していることだけは、岡田先生がその担当をしていただいているので、ご理解をいただきたいと思います。
 それからもう一点、先生は公害等調整委員会の専門委員会の報告書を引用されているんですが、これはちょっと私が釈明しなくてはいけないんですが、これは実は非公開でございまして、私は委員長として、事務局を通してぜひここの委員会に公開していただけるかという打診はいたしましたが、ああいう文書については非公開であるということで、ここにおられる先生は、公式的にはその報告をごらんになっていませんので、それだけはちょっとお含みおきいただかないと理解が不十分かと思います。先生からごらんになれば、我々がみんな見ているのではないかと思っていらっしゃるかもしれませんが、全く、例えば私個人にしても全く見ておりませんで、あるということしか知っておりません。
 そういうことで、ご了解いただきたいと思います。

○佐々木氏 最初の方は私の非常に勝手な言い分で、まことに僣越なことを言って申しわけありません。
 後の方なんですが、公害等調整委員会。あれは私も気になって、例えば法律に詳しい方にいろいろお聞きしましたところ、あれは農水省と漁民がやっているんですが、その双方がそれぞれ、別にこうだ、ああだということは構わない。逆に言えば、農水省までは発表するのは構わないということが1つ。
 それから、もう少し現実的に考えまして、公開でされた論議だし、何か公開できないというのはおかしいなと。実際に専門委員のお1人がどうしてこれは非公開なんだと質問したら、理由はプライバシーの問題だということで、私が今日報告したこと、プライバシーにかかわることは一つもないと思うので、ですから、本来はプライバシーに関係ないところは十分できるという理屈は、ぜひここの委員の方も農水省とか何かでお示しいただいて、あれはあれでとても貴重なものだと思うので、ぜひ活用していただければと希望いたします。

○須藤委員長 先生のご意見は理解いたしましたが、一応これは法律に基づいた委員会なので、それなりの手続が必要だと理解していますので、私は、そのような方法に基づいてこれからも進めていきたいと考えていますので、ご了解いただきたいと思います。
 そのほかに、佐々木先生へのご質問やらご意見、よろしいですか。

○本城委員 スライド番号26番、最後のものですが、その1番に「赤潮…シャトネラ赤潮」として、触れられていないというような表現をされています。岡田委員が今後、順番に処理していくということですが、私は、この評価委員会の最初に発表させられているんですね。そのときに、シャトネラ赤潮については十分に話したつもりです。そして、私個人の仮説も入れながら、それから自分の考えのどこが悪くてどこら辺がわからないといったことも発表したつもりなのですね。それを佐々木先生が頭の中に入れながら発表されたのかどうかということなのですが、私は、それは読んでいただいているはずだと思うのです。この資料は公開のはずですから。

○佐々木氏 先ほど言ったように、今回、お話しする機会が得られたので論点整理だけ読んで、その前までね、本当は見る必要があったんでしょうが、先ほど一番最初にお答えしたように、非常に乱暴なことで、改めて今度……。もともと私、本城委員は昔から知っていて、ご意見もよく知っていたので、ちゃんとそこまで読めばよかったんですが、まことに申しわけありませんでした。

○本城委員 読んでいただいておれば、今度の本の中にもそういうものが盛り込まれていると思うんですね。だから、いろいろな文献を取り上げてきて、それをサイエンティフィックに判断して、書物は出版されないといけないと思うんですね。私が最初に発表したものがこういう形でしか理解されていないとなるならば、私は、ほかの部分も十分な勉強をしていただきたいと思いました。

○佐々木氏 後半は本当ですが、そうすると、やはり論点整理というのは、もう少しわかりやすくつくってほしいと思いましたね。いや、その前まで読めば確かにおっしゃるとおりなので、ちょっと私も論点整理だけ見てしまったので、勉強不足というのはおっしゃるとおりなんですけれども。その点は申しわけありませんでした。

○須藤委員長 ここで委員長が言い訳をするわけではございませんが、論点整理というのはキーワードを順番に入れてあるので、あれだけで有明海の全貌をご理解いただくのは当然無理なので、ですから論点整理は、キーワードは私はそれなりにちゃんと入っていると理解しておりますので、もう一度ちょっとごらんになっていただいて、大変重要なご議論をいただきましたので、それは感謝申し上げますが。
 ……ということで、ほかの先生はよろしいですか。佐々木先生は。

○佐々木氏 今の、少なくとも本城委員のことは前のご発表をもう一回読んで、また個人的にご連絡させていただきたいと思います。

○須藤委員長 それでは、佐々木先生から大変貴重なご意見をいただきまして、ありがとうございました。私どものこれからのまとめに、十分参考にさせていただきたいと思います。心からお礼申し上げます。ありがとうございました。
 それでは、次の議題に入ります。
 次の議題は、中間取りまとめ構成案についてです。
 事務局より説明をお願いいたします。

○環境省閉鎖性海域対策室長 資料5をごらんいただきたいと思います。1枚紙でございますが、「有明海・八代海総合調査評価委員会-中間とりまとめ構成(案)-」でございます。
 中間取りまとめにつきましては、後ほどスケジュールをご説明しますが、来年1月30日に次回の評価委員会を予定しております。それまでの間、事務局として、これから中間取りまとめのたたき台の取りまとめ作業をやっていきたいと思っておりますが、それに先立ちまして粗々の目次案をつくりましたので、これを本日の時点で見ていただきまして、いろいろとコメントをいただきまして、今後の私どもの作業に反映していきたいという趣旨でございます。
 まず、最初の部分が検討の背景ということで、これは事実関係でございますが、有明海・八代海の概要、ノリ不作以降の経緯。経緯といいますのは、基本的には関係機関に設けられた調査委員会とか、行政の方でやった調査・研究、そういうものを中心に書きたいと思っております。それから、特にこの委員会と密接に関係いたします特措法の制定と、この評価委員会の設置の趣旨等について、まず背景として書きたいと思っています。
 2といたしまして、この評価委員会での検討の経緯ということで、これまで、今日でもう17回でございますが、さまざまな機関、関係者の方からの情報提供等ございました。もちろん、ここにその内容をすべて書くということでは膨大になってしまいますので、そういうことではございませんで、この評価委員会にどういう範囲の情報がインプットされたかをイメージするという趣旨でございまして、ここにございますように分離いたしまして、国・県による調査結果の報告、それから委員等による研究成果の紹介、それから小委員会でやっていただいている作業の成果、それから関係者からのヒアリング、こういうような分類で、これまでにインプットされた情報の範囲を整理したいと思っております。
 裏にいっていただきまして、3から内容に入ってまいりますが、3として、主な論点に関する議論の整理ということで、これまで挙げられてきました論点について、わかっていること、わかっていないことを整理していきたいと思っております。
 最初に、これは第10回から12回ぐらいの評価委員会で、岡田委員を中心にまとめていただいてご議論いただいた部分でございますが、さまざまな有明海・八代海に関する問題点、その原因、要因との関連、そういうもの全体を整理していただきまして、主な論点を整理していただいたということで、その結果をまず簡単にご紹介して、その後、個々の論点についてのこれまでの議論の整理ということでございます。ここにございますように、水質の変化、それから赤潮の発生、貧酸素水塊の発生、底質環境、底生生物、河川の影響、汚濁負荷の変遷、潮流・潮汐、水産資源、これについてはノリ、二枚貝、魚類と分かれております。それから藻場・干潟ということで、それらにつきまして、主に関係する方からの報告とかワーキンググループでの検討の結果、そういうものを踏まえたこの委員会での議論、そういうものを踏まえまして、先ほど論点の整理がちょっとわかりにくいという話がありましたが、図などもできるだけ取り入れて、わかりやすく整理していきたいと思っております。
 この整理については、また各委員の方とかワーキンググループの関係者の方々にフィードバックして確認していただきながら、これまでの議論をできるだけ正確に反映できるように作成したいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 最後でございますが、3までは、これまでの議論の整理でございますが、4として、来年秋ぐらいを目指して最終報告といいますか、ここには「最終取りまとめ」と書いてありますが、そういうものをまとめていかなければいけないということで、そこに向けて、さらにどういう検討が必要かということを最後にまとめてはどうかと考えております。
 ここにつきましては、今日この●で書いてあくのは、我々がとりあえず書いて例示でございまして、今後、この中間まとめに向けた議論の中でまたご議論いただき、整理していきたいと思っていますが、最低限こういうものは必要ではないかということで例示させていただきました。
 1つは、いろいろな論点、要因を議論していただいておりますが、さまざまな分野間の相互の関連でありますとか、どの要因が比較的重要になるといいますか、プライオリティーといいますか、そういう重要性の分析が必要ではないか。それから、これまでも再生に向けて具体的な議論がないというお話でございましたが、当然これから中間まとめ以降、最終まとめに向けて、再生に向けた具体的な取り組みについても議論していただく必要があるだろう。それから、いろいろなワーキンググループの報告の中でもご指摘があったように、調査研究・監視といったことをより総合的、体系的に進めていくべきではないかというご指摘もいろいろございまして、そういうものも一つの課題ではないかということでございます。
 これにつきましては、今日のはあくまでも例示ということで、またご議論いただいてまとめていきたいと思っております。
 簡単でございますが、以上でございます。

○須藤委員長 高橋室長、どうもありがとうございました。
 それでは、中間取りまとめの構成案について、ご意見を伺いたいと思います。
 特に4について、最終取りまとめに向けた検討課題というところは、最終報告に向けてどういうふうにまとめるかという方向性を示すものでございますので、大変重要かと考えています。それまでのところは、最初からお約束したそれぞれの課題ごとに、先ほどの論点整理をやりながら報告書をつくるわけですので、ここはそれほど異議はないだろうと思いますが、4については特に今、ご意見を伺っておいた方がいいかなと思います。
 細川委員、何かありますか。

○細川委員 この議論は、多分、岡田委員を中心としたブレーンストーミングを経て、骨組みを形づくるというようなことをしないと、なかなか見えてこない議論であると思います。ただ、時間を余りかけなくても、方向性について整理することができるところは整理していきましょうという余地もありそうです。高橋室長から、要因相互の関連とか重要性の分析とか指摘されました。まことにもっともそのとおりなんですが、どうやるかがわからないというのが大きな悩みどころです。どうやるかを一から議論するのではなく、情報の収集とか整理とかも併行して実施してみたらいかがかと思います。
 具体的に言いますと、ほかの湾とかほかの国でどんな議論をしているのかといったレビューです。これで、有明とか八代に使えそうなものがあるのかどうかは、今はちょっとわかりません。ほかの湾でどんな議論をしていくのか横目で見ることで、そんなに大それた議論をしなくても、そこそこ情報の整理ができるのではないかという気がします。
 どこから取っかかりを見つけていったらいいのかという一つのヒントになるかなと、気がついた次第です。どんなふうに情報収集と整理をやるかは、やはり岡田委員を中心にして議論しなければいけないと思います。

○須藤委員長 どうもありがとうございました。
 細川委員、東京湾はありますよね、何となく類似のものが。

○細川委員 いろいろな省庁とか自治体の方が集まっての東京湾の再生のための議論の場があります。そこから報告書は出ております。どれだけ参考になるのかといった点では、有明海・八代海をこれだけ勉強した者の目で東京湾のレポートを見直すという作業は必要かと思います。

○須藤委員長 細川委員は両方詳しいから、いつも宿題を預けてしまうから、まずどなたかに、やはり一般論ではなくて振っておかないと、私も作業の進捗が心配なので、東京湾ぐらいのは、先生から見て、これは役に立つか立たないかぐらいの判断をしていただきたい。

○細川委員 岡田委員と相談しながら。どのぐらいの作業ができるのかわかりませんが、なるべく協力したいと思います。わかりました。一生懸命やります。

○岡田委員 細川委員がおっしゃった、ほかの湾でどうなっているかという情報を有明海に当てはめてみようという方法論は、私も賛成です。それは非常に役に立つと思います。
 ただ、当然のことながら、有明海と東京湾は違うでしょうという議論も出てきますから、東京湾、その他の湾を横ににらみながらやっていくということでいいかと思います。
 ただ、それですと、では最終的に何もわからないではないかということになるんですが、それは多分、細川委員も最初にご指摘になったように、わからないでほうっておくわけにはいかん。時間もある程度、限られているという場合、最後は私が─というよりも、ここの委員会で専門家としての、極端に言えば、多数決というのはやり過ぎかもしれませんが、専門家としての勘で、AとB二つの要因があったとき、「やはりAの要因が大きいよね」というみんなの合意がとられたら、それはそれで進むべきだろう、進まざるを得ない。それが我が国のというか、ここにかかわる人々の、当然パブリック・コメントも求めるはずですから、今日ここにいらっしゃる傍聴者の方々もご意見をいただいて、この辺で決着するということもとらざるを得ないかと私は思います。
 ですから、私は、その意思決定の手続のお手伝いをさせていただくということでしたら、お引き受けさせていただきます。

○須藤委員長 そういう方向で結構でございます。

○楠田委員 最後の取りまとめのところでのお願いなんですが、十数回ずっと、「こういうことになっている」という事実のお話はたくさんちょうだいしましたが、例えばアサリにしてみても、なぜ減ったかというところがはっきりしていない。そういう意味で、因果関係が明確でないと、なかなかはっきりとした対応策はとりづらい。だから、そこのところをどうクリアするかが最終取りまとめに向けての一つの宿題だろう。
 だからといって、やっていれば必ずわかるかというと、どうしても最後、ブラックボックスで残るところがある。そのブラックボックスを残したままで、どうそこを補い、賄いをつけるかというところの方法論を先につくっておく必要があるだろうという感じがします。それが1番目です。
 2番目は、そういう要素が幾つもあって、例えばこの事実のお話の中で、化学物質あるいは農薬等についてのお話は出てこないということ。わかるデータがないということもあるかと思いますが、そういう状況の、まだわからないものを含みつつ、各要素のプライオリティを一体どうつけるかという判断が、やはりこの場で必要ではないかという感じがします。
 3番目は、いろいろな現象でこう変化してきましたということがありますが、自然現象で今からやっても手の出せない部分、水温が上がっているものを下げてくださいと言われても、それは無理。あるいは人為でやった部分は解消できるというところの、因果関係の原因の方をちゃんと識別しておく必要があって、自然現象についてはそれを回復することができないので、ファンクションとしてどこまで戻すかという決断で、最後の対応策が決まるのではないか。
 そういう意味では、対応策としてはかなりシステム的な判断をしないといけないのではないか。
 最後なんですが、例えば、ノリの場合には、今、日本の場合には輸入制限をかけていますから、海外の安いものが入ってこないようになっていて、つくれば売れることになっている。徐々に輸入制限が緩やかになってきていますから、輸入品が増えてしまうと、有明海がもとに戻っても、生産しても売れないという状況が出てくる。安いものが入ってきますから。そういう意味で、社会経済的な要素というものを対策オプションの中に取り込んでおかないと、完全に自然科学的発想だけでは社会問題を解けないと思います。
 以上です。

○須藤委員長 まとめていただきまして、どうもありがとうございました。
 楠田委員のこの辺のところのご研究は、今のようなストーリーでもう結構おやりになっているんですよね。

○楠田委員 進行中です。

○須藤委員長 ですから、楠田委員にはぜひ、別のプロジェクトではありますけれどもそういう方向性の研究をしていただいているので、多分クリアにまとめていただいたのは、委員自身がもうそういうおまとめをしてくださっているんだろうな、こういうふうに信じておりまして、岡田委員を助けてもらうには大変都合がよろしいかなと思います。
 いろいろな決め方については、さっき岡田委員がおっしゃったように、方法論の1つとしては、例えばプライオリティにしても、そのような問題については委員会の専門家としての最終的な判断というのは、勘と言ってはいかんですが、そういうところで決めざるを得ない点は多分あるんだろうなと思いますので、その辺のところは、やはりこの委員会、21人いらっしゃるわけですが、その責任に応じてご判断をいただくといったことは、多分あり得るかなという気はいたします。
 そうしないと、何をやっているかわからんということにもなりますので、その辺はぜひ最終的にはお願いしたいと思いますが、中間報告のときでどういうふうにやるか、それはそれなりの、例えば両論あれば両論書いておくといったこともあり得るかなという気がいたします。
 そういうことで、岡田委員への期待も随分高いわけですが、皆さん助けてくださるようでございますので、そういう意味で、ぜひそういうことで進めていきたいと思います。
 ほかによろしいですか。
 先ほど水産資源のところで中田委員が、「有明海はデータがあるが、八代海についてはほとんどなくて」といったお話をされていて、ほかの部分でもそういうお話をいただきましたが、当評価委員会は両方の海の委員会であって、中間取りまとめもそういう方向を目指さなくてはいけないので、可能な限り、少しでも八代海に触れていきたい、例えば水産資源についても触れていきたいと考えています。
 ですから、中間報告に間に合わなければ、せめて最終報告ではそういうことをしなくてはいけないのではないかと考えていますので、ぜひ、1年足らずしかないんですが、八代海についても委員の各担当の部分でお力添えをいただきたいということを、今、お願いしておきます。

○中田委員 今のことに関連して、確認というか、お願いなんですが、水産資源の方、ノリ養殖以外の水産資源について、二枚貝で2回、魚類資源について2回ほど検討グループの会合をこれまで持たせていただいて、今日までに報告をさせてもらっているんですが、そういう検討グループは、最終取りまとめ、あるいは中間取りまとめに向けてしばらく存続すると考えておいてよろしいでしょうか。

○須藤委員長 私は、ぜひそうしていただきたいと思います。まだ事務局とは詳しく相談していませんが、やはり意見を相互にまとめていただけるのは専門家のグループだと思っていますので、今の水産グループについては、ぜひそうしていただきたいと思います。
 また改めて事務局と相談した上で決めさせていただきます。よろしゅうございますか。そういう意味では、小委員会も同じということです。
 そういうことで、大分時間も終わりに近づいてまいりました。
 次の議題は、その他でございます。事務局から何かございますか。

○環境省閉鎖性海域対策室長 次回の予定でございます。既にメール等でお知らせしておりますが、次回は来年1月30日月曜日の午後、時間、場所等詳しい点は、また後ほどご連絡いたしますが、そういう予定で開催させていただきたいと思っております。
 次回は中間取りまとめのたたき台を事務局としてつくりまして、ご検討いただきたいと考えてございます。
 また、荒牧委員からもお話がありましたように、小委員会の文献のレビューの結果についてもご報告をいただきます。ただ、これは中間取りまとめに反映するということでございますので、先生からは正式に報告していただきますが、その前に、できてきた時点で、25日にまとまった時点で、先生方にはできるだけ早く事務局から送付させていただきたいと思っております。

○須藤委員長 どうもありがとうございました。
 委員の先生方、ほかに何かございますでしょうか。
 それでは、これをもちまして本日予定されましたすべての議題を終了いたしました。
 これにて第17回有明海・八代海総合調査評価委員会を終了させていただきます。
 議事進行へのご協力を心からお礼申し上げます。
 ありがとうございました。

午後4時40分 閉会