中央環境審議会地球環境部会第15回気候変動関する国際戦略専門委員会議事録

開催日時

平成19年2月20日(火)10:00~12:41

開催場所

環境省(合同庁舎5号館22階)第1会議室

出席委員

(委員長)

西岡 秀三

(委員)
明日香 壽川 太田 宏
蟹江 憲 史 亀山 康子
工藤 拓 毅 住  明正
高橋 一 生 高村 ゆかり

新澤 秀 則

米本 昌平

議題

  1. 気候変動に関する最近の国際動向について
  2. 気候変動に関する最近の科学的報告について
  3. 「気候安全保障(Climate Security)」の考え方について
  4. その他

配付資料

資料1 気候変動に関する最近の国際動向について
資料2-1 IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約
資料2-2 IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について
(報道発表資料
資料3-1 環境安全保障から気候安全保障へ(米本委員提出資料)
資料3-2 本委員会における「気候安全保障(Climate Security)」の検討の背景等
資料3-3 専門委員会の進め方
参考資料1

環境省報道発表資料:
「気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合
(COP/MOP2)の結果について」(概要と評価)
(平成18年11月19日)

参考資料2 「気候の安定化に向けて直ちに行動を!―科学者からの国民への緊急メッセージ―」
(平成19年2月2日

議事録

午前10時00分開会

○和田国際対策室長 定刻となりましたので、ただいまから気候変動に関する国際戦略専門委員会第15回会合を開催したいと思います。
  なお、冒頭、今回から委員として、新たに3名の委員を加えさせていただいております。まず、最初に、青山学院大学国際政治学部国際政治学科の太田宏先生でございます。それから、東京工業大学大学院社会理工学研究科の蟹江憲史先生でございます。それから、科学技術文明研究所の米本昌平先生でございます。
  なお、中央環境審議会の運営方針に基づきまして、環境への配慮の一環としまして、資料は縮小印刷の部分が多くなっておりますので、あらかじめご承知おきください。
  それでは、まず、開催に先立ちまして、小島地球環境審議官より一言ご挨拶申し上げます。

○小島地球環境審議官 おはようございます。環境省地球環境審議官の小島でございます。
  この国際戦略専門委員会は、長期目標に関する考え方、それから適用対策、それからCCS、こういう事柄について検討結果を取りまとめていただきました。
  今回のテーマはClimate Securityでございます。このClimate Securityにつきまして、最近の状況についてご説明を申し上げておきたいと思います。
  まず、Climate Security、この最近聞かれている言葉は、2006年10月、メキシコのモントレーで開催をされました第2回目のG12の会合でございます。イギリスのベケット外務大臣が、イギリスの気候変動問題への認識、対処、その中核的な概念としてClimate Securityという言葉を使いました。
  イギリスは、2005年のグレンイーグルズサミットで気候変動問題を主要課題の1つとして取り上げて以来、戦略的な行動をとってまいりました。第1は、科学的コンセンサスの形成でございます。2005年のグレンイーグルズで、ブレア首相みずからがブッシュ大統領を説得して、気候変動は人為的原因によって引き起こされているということをブッシュ大統領も認め、そのような文章がG8サミットの文書に盛り込まれた。日本では当たり前のことかもしれませんが、何度もブレア=ブッシュ会談が開かれておりました。
  第2は、主要排出国による協調でございます。京都議定書批准先進国だけによる温室効果ガス削減だけでは、条約の究極目標を達成できない。EUは産業革命以前から2℃を超えない温度上昇に抑制をするということを決めている。また、450ppmから50ppmの範囲内に大気中GHG濃度を抑制するという目標も掲げている。それを達成するためには、G8+5を中心とする約20カ国のG20の会合のプロジェクトを今立ち上げております。第1回目、イギリス、第2回目、メキシコで行われ、第3回目は今年の秋ドイツ、そして最終回は来年の初めに日本で行うという予定になっております。
  第3は、グリーンハウス・ガスの削減対策は、経済的に引き合うということについてのコンセンサスの形成でございます。IPCCのこれまでの検討が削減対策の経済への影響ということを述べていたのに対し、スターン・レビューは、コスト・オブ・アクションとコスト・オブ・インアクションを比較して、前者がGDPの1%程度であるのに対し、後者はGDPの5%から20%に上るということを明らかにいたしました。このClimate Securityの背景は、IPCCとスターン・レビューであるというふうに思います。
  第1に、IPCCによる気候変動の影響、特にポイント・オブ・ノーリターン、あるいはティッピング・ポイントという言葉が最近よく使われておりますが、これは破局的な影響を示すものとして、世界システムの破壊として認識されています。
  第2に、スターン・レビューは、インアクションの影響というのは20世紀に経験をした2度の世界大戦や世界大恐慌に匹敵するというふうにも述べておりまして、これもまた国家のシステム、世界システムの破壊を意味しております。
  G20は、当初から外務大臣、エネルギー産業大臣、環境大臣の3大臣で構成されております。気候変動は環境問題の範疇におさまらず、国を挙げて対応すべき課題であるというのがG20の認識でございます。最近では財務大臣もこの気候変動に向き合うべきであるという議論も出てきております。
  これらは、アメリカを気候変動に巻き込んでいくための大きな仕掛けであるということもありますけれども、それ以上に気候変動対策は国家の首脳レベルが対応すべき政治イシューであるという考えに基づくものであります。最近のUNFCCCのデ・ブア事務局長が、国連でヘッド・オブ・ステイツ(首脳)による会合を開催すべきだということで事務総長と動いているというのも、そういう考えに基づくものであろうというふうに思っております。
  Climate Securityは何をもたらすかということでございますが、climate security、low carbon society、bridging the gap、この3つのキーワードは、メキシコでのイギリスの基本的な考えでございました。気候変動のゴールは条約の究極目的の実現でございます。温暖化の進行を止めるには、まず、地球の吸収力に応じた排出に留める、いわゆるプライマリーバランスを確保するということが第1でございます。IPCCでは、地球の吸収能力31億トンに対して74億トンもの排出をしている。すなわち、プライマリーバランスを確保するためだけでも58%の削減をしなければいけないということが明らかになっております。
  そういう大規模な削減を地球規模で実現をする、それがlow carbon societyあるいはlow carbon economyであります。それに要する費用は世界のGDPの1%というのが負担レベルでありました。等しく費用配分をしても、日本のGDPの1%、約4兆円が必要になるということであります。これを国家予算で支出するということはできませんし、また適当ではありません。世界全体をlow carbon societyあるいはeconomyへ変革をするのには、民間の投資が基本的な役割を果たします。スターン・レビューは、ビジネスが主要な役割を果たすことを主張しております。手段として、マーケットメカニズムを活用するということを推奨しております。
  グローバル経済のもとで最も費用効果的にGHGを削減するために、空気の希少性を金銭的価値に置きかえて費用効果的に削減を図るというのがカーボンマーケットの考えであります。世界のGDPの1%を動員し、世界的にlow carbon society、economyを実現するには国際的な協調が必要でありますが、特に主要排出国の内政にlow carbon societyの実現というものを政策課題として位置づけなければなりません。
  現在のGHGを大量に排出して経済活動をしている現実と、low carbon societyあるいはeconomyの実現とのギャップは非常に大きなものがあります。そのギャップを埋める、すなわちbridging the gapには、強力な政治的なリーダーシップが必要であります。このような気候変動の挑戦を世界的規模で行う政治的意志を鼓舞する概念がClimate Securityであります。アメリカを巻き込み、中国を巻き込んでいくグレンイーグルズから始まったイギリスの戦略をこのように理解することができます。
  こういう考えに基づいたClimate Securityの概念は、今やイギリスだけではなく、EUに受け入れられつつあり、先日行われましたグローブ・インターナショナルのワシントンでの会合では、アメリカの議員にも受け入れられたという印象を強くいたしました。
  欧米の企業も、450ppmから500ppmへの究極目標を1つのコンセンサスとして受けとめ、2050年を1つの目標として、ビジネスとしての長期的な投資の指針というものを必要としております。ビジネスカウンセルの2050年に向けた3つのレポートというのは、世界のビジネスの考えを表しているものというふうに思います。
  今や、アメリカも大きな変化の時代を迎えております。クリントン=ゴアの時代は、政権は気候変動に積極的でありましたが、議会は消極的でありました。仮にゴア大統領が成立し、政権が努力しても、京都議定書は批准されなかったかもしれません。しかし、ブッシュ政権の6年の間に議会は大きな変化を持ち始めました。特に中間選挙後には、アメリカの議会は大きく変わりつつあります。
  また、2008年、来年の3月ですけれども、大統領のそれぞれの党の候補者が前倒しになっておりますので、共和・民主両党の次期大統領候補が明らかになります。その時点で、次期大統領候補の気候変動に対する政策も明らかになります。具体的な名前を挙げることは差し控えますけれども、現在、両党の有力候補と言われている人も、気候変動に対して非常に積極的な発言を繰り返しております。議会と政権が積極的になる、そういう条件が整いつつあります。アメリカの州の制度も連邦の制度と整合性を持ったとして、アメリカの国内制度が整う可能性もあります。アメリカのビジネスも動き始めております。
  2009年というのが、これから設定されようとする次期枠組の年でありますが、その2009年に向けてアメリカが国際的なリーダーシップをとる事態も十分想定をしなければなりません。
  2013年以降の枠組みに対する日本の方針は明らかであります。究極目標の明確化とその達成のうちに道筋に関する共通認識の形成、次期枠組みは究極目標達成の道筋に沿ったものでなければならないと。そのためには、アメリカ、中国、インド等、すべての主要排出国のコミットメントが必要であることなどであります。
  Climate Securityを中心とする戦略は既に動き始めております。日本の方針を実現するために、その有用性を検証し整理し、日本が主体的、積極的に国際的な流れをつくり出していく一助としたいと考えております。よろしく検討をお願いいたします。

○和田国際対策室長 それでは、以後の議事進行につきまして、西岡委員長によろしくお願いしたいと思います。

○西岡委員長 皆さん、おはようございます。この委員会も久しぶりでございます。しかしながらその間に、大きく気候変動の問題というのは転換しております。
  私は、どちらかというと自然科学の方ですけれども、自然科学の方の転換というのは、現象が本当に進みつつあるということですが、我々の観測でも明解になりつつある。これはIPCCの報告にお話があるかと思います。そういうこともありますし、また一方で人間社会の方も、今のお話のように大きく変わりつつあるかと思います。
  こういう時点で、気候変動の問題をさらに、言ってみればステップアップと言いましょうか、高いレベルに持ち上げて解決しなければいけない問題だという認識が、非常にあちこちに充満してきたというタイミングかと思います。
  そういうことで、この数回、私どもの国際戦略専門委員会の方では、Climate Securityという言葉の意味するところ、先ほどお話ししました有用性、そういう枠組みで考えるとどういうことを次として考えなければいけないのだろうかといったことについて、皆さんのご意見をお伺いしたいということで開催しているところでございます。
  今日の議題でございます。そういうわけで、今日は大体この委員会、本件については二、三回を予定しておりまして、今回はその全体の枠組みを皆で見てみようということで、これまで起きております状況の変化、今、小島地球環境審議官の方からもお話しがありましたけれども、そういうものに対する認識を共通にしたいということ。それから、1ラウンドは、皆さんこの問題についてどうお考えになっておられるだろうかということについて、ぜひお伺いしたいと思っております。さらに突っ込んだ議論は次の回にもお願いしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
  そういうことで、お手元の議事次第を最初に見ていただければ、きょうは3題ございまして、まず、最近の国際動向についてという説明がございます。それから、IPCCの第1作業部会報告がありましたけれども、最近の科学的根拠についてというご説明、そして最後に気候安全保障の考え方について、報告及び論点を審議したいという具合に考えておる次第でございます。ひとつよろしくお願いいたします。
  もう一つは、この会合ですけれども、12時半まで時間をいただいておりますので、比較的長く論議ができるかもしれません。
  それでは、資料の確認を事務局の方、よろしくお願いします。

○川又室長補佐 それでは、事務局より資料の確認をさせていただきたいと思います。
  まず、資料1といたしまして、気候変動に関する最近の国際動向についてというパワーポイントの資料でございます。それから、資料2-1といたしまして、IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書ということで、英文の資料があります。それから、資料2-2といたしまして、同じくIPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書の公表についてということで、報道発表資料がございます。続きまして、資料3-1、環境安全保障から気候安全保障へという題名で、米本委員からご提出いただいた資料がございます。それから、資料3-2といたしまして、横長の1枚紙でございますけれども、本委員会における気候安全保障の検討の背景等という資料でございます。それから、資料3-3といたしまして、縦の1枚紙ですが、専門委員会の進め方という資料です。
  それから、参考資料といたしまして、昨年ナイロビで行われましたCOP12、COP/MOP2の概要と評価、それから参考資料2といたしまして、IPCCの報告書が出された後に我が国の科学者から国民への緊急メッセージということで出された資料がついています。
  それから、これ以降は委員限りということになっておりますが、スターン・レポートの英訳の冊子でございます。それから、『NEWSWEEK』の「地球温暖化 破局まであと7分」というもののコピーを置かせていただいています。
  資料は以上でございます。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  皆さん、もしお手元の資料に不足がございましたらお申し付けください。多分ないと思いますので議事を進めさせていただきます。
  第1の議題でございますけれども、気候変動に関する最近の国際動向ということで、和田国際対策室長からお願いいたします。

○和田国際対策室長 それでは、着席したままで説明させていただきます。
  気候変動に関する最近の国際動向についてということで、お手元の資料1、またはこちらの画面の方をと思っております。
  まず、最初ですが、国際交渉の流れというところで、最近の特徴というか、特に大きな流れを気候変動枠組条約、いわゆる条約プロセスと呼ばれるものと、こちらの右側にございますG8、G20プロセスと呼ばれる、いわゆるG8のプロセスの関係のものが並行して動いているということが大きな特徴でございます。
  きょうは特に、2006年、昨年11月にケニアで開催されましたCOP12、COP/MOP2のアウトプット、それから今後どのような方向性で動いていくのか、国際交渉が展開しつつあるのかということと、それから、冒頭、地球環境審議官の方からございましたがClimate Securityというものがどのようにハイライトされているかというところを、もう少し具体的にご紹介させていただきたいと思います。
  大きな流れは、ことしはCOP13がインドネシア、バリの予定でございますけれども、その後が第1約束期間に突入しまして、早速候補としてはCOP14以降フォーラム等々と挙がっているところでございます。
  ここのポイントは、各国の批准手続などに要する期間などを逆算しますと、2009年とか2010年には次期枠組みの交渉の妥結が行われていないとギャップが生じてしまうという点が大きなポイントでございます。それから、これと並行しまして、G8プロセスの方につきましては、2005年にグレンイーグルズ対話というものがスタート、発足しておりまして、これはG8グレンイーグルズ対話、通称G20と言っておりますけれども、その第1回が2005年、それから2006年、昨年10月にはメキシコのモンテレーで第2回目の対話が開かれておりまして、このタイミングでイギリスの方から「Climate Security」というキーワードがハイライトされたという経緯がございます。
  で、第3回、第4回につきましては、先ほど説明のあった通りかと思いますので割愛させていただきますが、大きなポイントは、来年、2008年が日本がG8議長国でございますので、「G20第4回」と書いてありますが、これは単に第4回ということではなくて、最終の取りまとめといったイメージがございまして、第1回イギリスでキックオフして、最終会、第4回は日本で終結、取りまとめをしなければならないといったところであります。で、その内容をG8の日本サミットでプレイアップしていくといったところがポイントでございます、というスケジュールにさせていただきます。
  次は、2007年に特にハイライトしまして、大きな流れだけご説明させていただければと思っておりますけれども、今年は例年通り5月には補助機関会合が開催される予定でございますけれども、現在、ご承知の通りまさに次期枠組みの関連で動いておりますAWGの第3回でありますとか、それから長期対話(longtime dialogue)の関係もこの補助機関会合で開催されるといったところでございます。
  特に、AWGの関係につきましては、附属書I国の削減ポテンシャルを中心に議論がキックオフになる、議論というか情報意見交換がキックオフになるといったところでございます。そういう意味では、インドネシアまでこの削減ポテンシャルといったキーワードが続くというようなことを考えております。
  それから、後ほどご説明がありますけれども、一方でIPCCにつきましては、右側になりますが、第1作業部会の報告書につきましては、先般報告・公表がなされたところでありまして、4月には第2作業部会、5月には第3作業部会、最終的には統合レポートというものが11月といったところで、IPCCの動きにつきましても、特に今年は大きなアウトプットと活発なタイミングを迎えたところでございます。
  次でございます。次は、最近の気候変動問題、気候変動交渉の動きというところで幾つか、重複する部分は割愛させていただきたいと思っておりますが、ごらんになっていただいているような動きがございます。
  まず、英国のベケット外務大臣、前環境大臣ということになりますけれども、ベケット外相の方から気候安全保障(Climate Security)というキーワードをハイライトしておりまして、経済発展、雇用、貿易、投資、移民、紛争……、ずっとありますけれども、等の使命が十分果たせなくなるといったように、非常に幅広い観点から気候変動問題をとらまえてClimate Securityというキーワードをハイライトした経緯がございます。
  その後、アナン前国連事務総長でありますとか、それから後ほど説明がございますが、IPCCの4次報告書、それからさらに後ほど報告がございますけれども、スターン・レビュー、これにつきましても昨年の10月末に公表になりまして、11月には日本でシンポジウムが行われて、非常に国内でも盛り上がったという内容でございます。まだ、諸外国ほど浸透してないというのはありますが、非常に盛り上がった内容の1つでございますので、後ほどご説明させていただければと思っております。
  それから、政治的リーダーシップの強化を求める声というのも非常に大きなものがございまして、それは新しく事務総長に就任されました国連事務総長でありますとか、それから、条約事務局長デ・ブア事務局長等々につきましても、いわゆる今後は各国の首脳がこの気候変動問題を前面に取り上げていくということをしないと、国際交渉がうまく進まないといった点について非常に大きなハイライトをされているところでございます。
  次でございますけれども、次は先ほどご説明しましたが、昨年11月6日から17日までのナイロビで開催されましたCOP12、COP/MOP2の関係でございますけれども、こちらについては大きく主な審議事項というところにもございますけれども、2013年以降の次期枠組み、これがまず何といっても一番大きな論点、アジェンダの1つでありました。
  その関係に加えまして、アフリカで開催されたということもございまして、サハラ以南では初めてということもございまして、適応と技術移転、いわゆる開発途上国に対する支援の観点からの問題が非常にハイライトをされたといったことが大きな特徴であったかと思います。
  次につきましては、これはもう言葉が悪いのですけれども、釈迦に説法的になってしまいますのでごく簡単にと思っておりますが、今回のナイロビ会合でも、アメリカはいつものごとく非常に沈黙を維持していたという観点と、それから中国については、ここに二重線で引かれてございます通り、非常に強硬に、次期枠組みの議論をする前にまずは先進国がしっかりやらなくてはいけない。とても途上国はこの議論に前向きに乗れるような状況ではないというところを最も強硬に、もう少し正確に申しますと、いつもですとインド・中国という感じなのですが、特に今回は中国が強硬に主張していたというところが大きな特徴になろうかと思います。
  次のスライドに行かせていただきます。次は、ナイロビ会合でのアウトプットの主なものでございますけれども、先ほど申し上げました、まずは一番最初のポイントは次期枠組みに関する議論が大きく行われまして、今回は特に京都議定書の第9条の中にございますように、プロセス化に向けた合意を図るために見直しの1回目が行われました。これが非常に途上国対先進国というふうに、南北問題的な様相を非常に呈しまして、ありていに申しますと議定書全般に渡る見直し、第9条に関する見直しについては今回限りだと。あとは適宜将来必要になったらやればいいのだというような主張が途上国から主だったところで、特に中国は強行にその点について固執していたというところがあって、最後の最後まで中国だけこだわっていたというぐらいこの点については大きくハイライトされたという、問題の深さが出てきたところでございます。
  結論から申しますと、第2回目を2008年に行うと。2007年、その前の年、今年のインドネシアでは、具体的に見直しのTORの部分について、内容、範囲について議論が行われるといったように、まず何とかプロセス化というところを維持できたのではないかという結果でございます。
  それから、AWGの方でございますけれども、こちらは附属書I国の次期の約束の見直しに当たる部分でございますが、こちらについてはむしろ途上国の方は、言葉は悪いですが、しっかり早急にさっさとやれというような、非常に強要するような雰囲気が非常に強かったというのがこのAWGの方でございます。
  そのほか、2点ありまして、1点目が適応の関係について幾つか進展がございまして、5カ年作業計画について、具体的な活動の内容のところについて、2007年までのところについて合意をしまして、ナイロビ作業計画という内容になっております。それから、適応基金の運用主体の件、それから、EGTTと呼ばれるところについては今後継続を図るといった点。
  それからもう一つ大きく議論になりましたのは、京都メカニズムの関係でございますけれども、こちらにつきましては、昨今も話題になっておりましたように、CCSをCDMに位置付けるかといった点が非常に話題になったところでございますが、こちらの方については、今後ガイダンスを作っていくといったところで合意を得ております。それから、途上国側がこれまでも主張してきておりました、小規模CDMがもっと積極的に認められるようにして欲しいといった点で、小規模CDMの定義の拡大といった観点、それから地域配分の是正の観点も取り入れられてありました。
  それから、次のスライドでございますけれども、次期枠組みに向けての議論の概要ということでございまして、特に、先ほど申し上げました、議定書9条に基づく全般の見直しというところにつきましては、そこにもございますが、途上国対先進国ということで、先進国は何とかプロセス化ということでありますが、途上国は、「中国など」と書いてありますが、特に中国が強硬に反対しましたが、最終的には2008年に次回やるということで合意に至っています。
  それから、AWGにつきましては先ほどもありましたが、ギャップを生じないように、いわゆる2013年以降ギャップを生じないように作業を終了するといったことについて、合意、確認を得ているところでございます。
  それから、長期対話につきましては、大きく4本の話題が長期対話に課されているわけでございますけれども、開発政策との連携の関係、それから市場メカニズム、それから技術移転、適応とありますが、前者の2つについて開発政策との連携。いわゆる、例えばODA等との連携の必要性とか、それから市場メカニズムの活用について今回は議論が行われて、次回以降は技術移転と適応がテーマになるといったことでございます。特にODAについては、ODAの資金を条約事務局のフレームワークの中だけではなくて、ODAを担当する機関が持っている予算をメインストリーミング化すると、主流化するといった議論が非常に話題になっておりました。あとは市場メカニズム、特にEUETSという話題について、ヨーロッパ側は非常に特にハイライトしたプレゼンテーションがあったところでございます。
  それから、次のスライドでございますけれども、こちらにつきましては既に重複しておりますので割愛させていただいて、次のスライドに移らせていただきたいと思います。
  次は、技術移転と適応という次の柱になっております部分の適応でございますけれども、こちらにつきましては、先ほどもありましたように、2007年までの5カ年の作業計画について、具体的な活動内容の確定が行われて、一方この中では、特に科学的な影響等の特定をまず行ってからだという先進国と、そうではなくて適応そのものを少しでも早く実施したいという途上国との間に対立がございましたけれども、ナイロビ作業計画ということでまとまったというところです。
  適応基金につきましては、先ほどの説明の通りでございますので割愛させていただきたいと思います。
  それから、次でございますけれども、技術移転につきましては、EGTTと呼ばれる作業グループの任期満了が近づいているところなのですが、こちらは継続して、さらに中身をもう少し議論を続けるといった点が議論されたところでございます。ただ、このEGTTの中で非常にハイライトされた議論が、EGTTをもう少し独立の機関として機関を強化したいというような観点。そういう意味では非常にこの技術移転というものに対する途上国の熱い思いというのが表れていたかなという点が1点ございます。
  それと、もう一つ話題になりましたのは、知的所有権の買い取りというのがございまして、これにつきましては先進国政府が知的所有権ごと民間企業から買い取って、途上国に非常に安価・無償で渡すというのがないと進まないといった点について、議論の提示がなされたといったところでございます。
  それについては、次のスライドの中でもう少し具体的にございますが、最後の部分で、「我が国」となっていますけれども、先進国からは、政府の役割はR&Dや普及移転を促進するための資金提供とか制度の整備といったところが重要で、むしろ途上国側の方で、受け入れ側の方にも問題があって、キャパシティ・ビルディングや施策・制度の整備といったところが重要といった、いわゆる投資環境整備というのが重要ではないかといったところを、これは日本だけではなく先進国の方も主張していたというところがございます。
  それから、次でございますけれども、こちらにつきましては2点、ポイントだけにしたいと思います。まず、コフィ・アナン前国連事務総長から、いわゆる気候変動問題というものがあらゆる分野での脅威だというところで、これが今日のClimate Securityのメインの議論になる部分でございますが、こういうような捉え方をされているといった点が最近の流れになっています。少なくとも国連事務総長はこういう見方をしているといったところが非常に重要な点ではないかと思っています。
  それから、ナイロビ会合におきましては、ハイレベル・セグメントのステートメントにおきまして、次のスライドですが、当省の若林大臣から、特に気候変動問題については、ここの上から2つ目のところになりますけれども、気候変動問題に対する現状認識というところで、ここで所謂る温暖化問題は、今や広く人類の生存基盤や地球生態系に深刻な影響を与えるもので、安全保障の問題として取り組んでいくことが必要だというところステートメントで言われたところです。
  以上、ナイロビ会合でございますが、こちらの方につきましては、さらに詳しい内容は参考資料1にご用意させていただいておりますので、必要に応じてご参照いただければと思っております。
  次、国際交渉における日本の主張について、ここからはごくポイントだけにしたいと思いますが、先ほど小島地球審議官からございましたけれども、これは風呂桶と通称言っているところでございますが、いかに今、吸収量と排出量のバランスが、財政で言うプライマリー・バランスが赤字状態になっていると。すなわち、吸収量の2倍近く出しているといったところを、いかに早期の段階で、逆に言うと排出量を半減しなくてはいけないかといったところが我が国の主張の大きなところであります。
  一方では、京都議定書の批准国の排出削減義務がかかっている国の総量は30%にすぎないといった点がございますので、以下に今後は米・中・インドを巻き込んだ意義のある次期枠組みを議論していくのかといったところが非常にポイントになろうかと思います。
  次のスライドでございますが、特にポイントになるのがEUと米国でありますけれども、EUにつきましては特に先月、1月に、「EUエネルギー・パッケージ」というもので、まだ最終承認には至っておりませんけれども、2020年までに20%削減すると。国際合意の内容によっては30%削減といったようなドラスティックな提案も出てきておりまして、これは一方では従来からの主張であります2050年には世界全体で90年比50%削減といったところも引き続き主張があるといったところでございます。
  それから、米国については、一般教書の中でもGlobal Climate Securityへの貢献といった内容について、ブッシュ大統領の教書演説の中にあったといった観点と、それから2002年から2012年にかけて18%削減、それから、「Twenty in Ten」といって、ガソリンの消費量20%削減といった点も立ち上げられていっているところでございます。
  それから、次のスライドですが、こちらについては先ほどもありましたけれども、グレンイーグルズ対話、いわゆるG20対話に向けて、いかに今年と来年がポイントになる年かといったところを単的に示しているものです。まず、何よりも今年はドイツがG8議長国でありますが、来年についてはこのG20を最終的にまとめる役というのと、それからG8サミットそのものをホストするといった日本の非常に重要な位置付けがあって、そのような中で気候変動の話題については、まず1丁目1番地の話題になると。またしなくてはいけないといったところがございますので、ここで日本のプレゼンスが非常に問われるといった点でございます。
  なお、次のスライドにつきましては、G20について、どのような国が全体で大きく約80%位の排出量を占めているかというところを示しているものでございます。
  私の方からは以上でございます。

○西岡委員長 ありがとうございました。
  議論ということではなくて、何かご質問がございましたら。如何でしょうか、よろしゅうございますか。
  それでは、次がIPCCの報告というのでございます。それは、塚本研究調査室長の方からお願いいたします。

○塚本研究調査室長 ご指名いただきました塚本でございます。西岡先生、住先生、ご専門の先生の前に私がIPCCやスターン・レビューについて話すのははなはだ恥ずかしいと言いますか、学生が試験を受けるような気持ちでございますが、頑張ってみたいと思いますので、不足の点がありましたら、後ほど教えて下さい。
  それでは、早速ですが、これを飛ばして次のスライド。
  今回の第1次作業報告書のポイントということでございますけれども、1点目は、気温が事実として既に過去100年で0.74度上がったこと。今まで0.6度と言われておりましたけれども、6年時代がずれましたので、最近は特に温度の上がりが激しいということで、0.6度が0.74度ということになっています。
  このトレンドのグラフを見ていただけると分かるのですが、産業革命以降、段々に温度の上がり方が厳しくなっているというか加速化しておりまして、近年50年のラインで見ますと、過去100年のラインの倍の傾き、つまり倍速化して温暖化しているというのが観測事実として分かっているということでございます。
  将来予測については、モデルの数が増えましたので、今までは単に幅で、1.4度から5.4度など、そういう幅でしか示していなかったのですが、今回は最も確からしい値というものを出すことができています。今と同じように化石燃料を燃やし、経済成長重視で社会が進んだ場合、仮にそういう仮定を置いた場合には、最も確からしい値として今世紀末には4度さらに温度が上がるだろうというような結果が出ております。
  次に、海面上昇でございますけれども、やはり観測事実として、この100年で17センチ海面が上昇したということが言われています。それから、こちらもスピードがやはり1.8だったのが3.1ということでスピードが上がっているということが言われています。
  それから、ここに書いていないことですけれども、報告書には書いておりますが、過去10年間について考えると、これは今まで言われていたような、海の熱膨張だけでは説明ができず、やはり南極やグリーンランドの氷が実際上解けているというふうに書いてあります。南極やグリーンランドの氷はどうして解けるのかということに関しては、ダイナミック・メルティングという言葉が出てきておりまして、じわじわ解けるのではなくて、ゴアの映画をごらんになった方はご存知かもしれませんが、崩れるように崩壊して、物理的にも移動し、その過程でまた解けていくと。そういったメカニズムがあるということが、そういう説明は細かく書いてないのですが、ダイナミック・メルティンググローがあって、過去10年間はその効果もあるということが書かれております。
  将来予測でございますけれども、こちらは下方修正、かつての第3次報告書から比べますと下方修正されていて、最大で59センチということになっております。ここも報告書に明確に書いてございますが、この59センチという数字は、1、今私が申し上げたダイナミック・メルティングという現象の予測を含んでいません。ここは科学が追い付いていません。それから、2、次に私がこれから説明いたしますフィードバック現象、つまり温暖化が進めば尚更地球は温暖化していくという現象についても、こちらのモデルは含んでおりますが、こちらの海の方は追い付いていなくて、含んでいません。そういう状況があって、この59センチという数字は、現在の科学的知見としては最も確からしい読みだけれども、今私が申し上げたような点が含まれていない。つまり増える可能性があるということが明示的に報告書に書かれていると思います。それでは、次のスライドをお願いします。
  ここは、皆さん既にご存知の、台風が今後強力化するとか、そういうことをまとめておりますが、ここに書いていない点でぜひ私、強調させていただきたい点がございますが、それは海が既に酸性化しているという点でございます。観測値として、pH0.1酸性化している。将来の予測として、さらに0.14から0.35ペーハーが酸っぱい側に傾くと言われています。
  これがなぜ重要なのかという点については、残念ながらIPCC第1では書かれておりません。しかし、既存の科学的知見を考えますと、サンゴを初め海水中で石灰の殻を形成する微生物がおりますが、2種類ございます、酸に強いものと弱いものがございますが、酸に弱いとされている分は、今申し上げた予測値の中でほぼ殻が作れなくなるという濃度でございます。そういう生態系が明確に出る酸性化が予測されているということがポイントでございます。
  それでは、次のフィードバックの資料をお願いいたします。別のパートになります。
  今回の第1次報告書の中で非常に重要だと思われる点は、先ほどちらっと申し上げましたが、炭素循環フィードバックが正の方向に働く。つまり、土壌が沢山の有機物を蓄えているわけですが、そこが分解が進んで、温暖化をすることによって土壌からCO2が放出される。また海の温度が観測事実としても上がっておりますし、将来も上がるわけですが、最も今CO2を取り込んでくれているのは海洋ですが、海洋のCO2を取り込む量が減る。また、水蒸気量も、今後地球が暖まるとふえますが、これも温暖化を進める方向に寄与する。また、永久凍土からメタンも出てくる。
  こういった地球全体として温暖化が進めば進むほど、それが原因になってまた温暖化が進むというメカニズムが明らかになっております。そのことが報告書には明示的に書かれています。次のスライドをお願いします。
  それから、もう一つ、今まで人類は毎年約62億トン位のCO2を出して、そのうち31億トンが吸収されているということで、半分位は吸ってもらっていて、半分を人類が出していると。これをバランスしなくてはいけないとよく言われておりましたが、今回の報告書では既に72億トン人類は出しているというふうに言われています。従って、もう半分になっても収支は取れずに、57%削減して初めて地球全体の収支が取れるという事態になっています。
  しかし、今申し上げたように、この31という数字は現在の吸収量です。これは将来減っていくということが予想されておりますので、地球のバランスをとるためには、ますます57でも足りないということがわかっています。
  それから、もう一つ、よく450ppmで安定化するとか、またそのためには2050年の段階で現在に比べて50%地球全体で削減をしなくてはいけないということがこれまで言われてまいりました。しかし、今回このフィードバック現象を踏まえた上で、将来の排出パス、どのぐらい温室効果ガスを出せばどのくらい濃度が上がるというシミュレーション結果も、こちらは政策決定者への説明ではないのですが、後ろの方の技術レポートを見るとこういう情報がございまして、これに基づくとどうも2050年に50削減するようなパスでは、450ppmはとてもではないけれども超えてしまうと。むしろ、今まで450と思っていたパスで頑張ってみても、どうも550近くまで上がってしまうのではないかということも読み取ることができます。
  以上がIPCCのポイントということを勝手に選ばせていただきました。
  次、スターン・レビューでございますけれども、こちらについてはとても難しくて、余り細かい技術的なことをご説明できませんが、宣伝をいたします。
  これは、国立環境研究所、特にエイムチームというアジア・パシフィック・インテグレートルモデルのチームがございますが、全面的なご協力と努力によって、日英の対比の翻訳版、それから愛用版が、できました。これは、先ほど委員限りということで配付しているという説明がありましたが、一般公開をしておりまして、ウェブからダウンロードできます。印刷が足りなくて、私自身も貸出用というのを使っていますけれども、そんな状況ですので、参加の方々、申し訳ございませんが、もしご関心ありましたらぜひインターネットでダウンロードをお願いしたいと思います。環境省のホームページからダウンロードができますし、在日の英国大使館からもできます。間もなく増刷できますので、その節はまたお配りできるタイミングがあろうかと思います。
  それから、今回の600ページの方ですけれども、こちらも今翻訳作業をしておりまして、4月末ぐらいには完全な翻訳が完成いたしますので、また皆さんに是非ご覧いただきたいと思います。
  スターン・レビューのポイントでございますが、こちらにもありますけれども、温暖化というのはGDPの5%から20%の被害があるのだということを言っています。これを聞いて、本当にそんなにあるのかと思う方もいらっしゃると思うのですが、私も思いましたが、スターン・レビューの説明によりますと、まず1、これは2200年までの予想される被害額をすべて足し合わせた総額について、それをこれから毎年同じ被害に達するまで定率で毎年支払わないといけないとすればどの位の被害になるかというように計算をしています。従って、直ちに今年からGDPの5%被害が出る訳ではないのですが、今年から5%、来年も来年のGDPの5%、そういう形で溜めていった被害を2200年まで溜めると、実際に2200年までに幾何級数的に増えていった温暖化の被害と同じ額になるということなので、1つの近似値ですが、5%は少なくとも手堅い経済見積もりで被害があるとしています。
  では、手堅くない20%というのはどういう意味かと申しますと、1つは、人の健康あるいは環境が破壊される、生態系への影響。こういったものは金銭換算が非常に難しいですが、そこについてもトライをされています。私、詳しい文節はわかりませんが、その結果、5が11%にふえるというふうに書いてございます。
  さらに、その11%に先ほど私が申し上げました炭素のフィードバック、温暖化が温暖化を加速する、このことを考慮すると14%の被害になるというふうに言われています。最後の14から20%のジャンプでございますが、これについては実は地球全体で均一にこういった経済被害が起こるのではない。途上国、非常にフラジャイルなところに集中して起こるのだと。この集中による被害の荷重的な重みといいますかインパクト、これを勘案すると14がさらに20になると、そういう説明になっております。次お願いします。
  スターンでは、少しIPCCの先読みをいたしまして、フィードバックがかかった、つまり加速化する温暖化の世界においてどんな被害が起こるかということをわかりやすく図示をしております。次、お願いします。
  こちらですけれども、スターンはIPCCと違いまして、CO2Equivalent,つまりCO2のみではなくて、その他の温室効果ガスも加算した形で濃度を出して、何度上がるかという見積もりを出しているのでちょっと分かりづらいのですけれども、今のCO2が379ppm、それについては換算すると430ppm Equivalent。現在でもこの間ぐらいに達しているということなので、非常にスターンは悲観的な予測をしているというふうに見ることができます。次、お願いします。
  したがいまして、スターンに言わせると、仮に550、これはEquivalentなのでCO2と比較するのは難しいのですけれども、550で安定化する場合であれば2020年ピークということなのですが、もし450であるとするならば、もう2020年はピークを終わって、現状ぐらいまで。2030年に至っては、現状が400で、それに対してかなり落としていかなければいけないと、こういうシナリオを描いているということでございます。
  あと、スターンの特徴として申しますと、これは次期枠組交渉でも恐らく1つの大きな議論になると思いますが、いわゆる化石燃料、セメント系だけではなくて、土地利用、農業――土地利用というのは森林等の問題も含んでいると思いますが――こういうものが、極論すると3分の1位寄与しているというのがスターンの見解であります。
  後は、温度別にどんなことが起こるというのが、スターンとして既存の色々な報告書、論文のレビューをしておりますが、こちらについては間もなく4月にIPCC本体の報告書が出ると思いますので、着目をしているところでございます。
  以上、駆け足でございましたが、ご説明をいたしました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  IPCCの報告書ですけれども、どうしても科学の方から見ますと、科学というのはデータが出てからしか、はっきりしたことが言えないということがあって、非常に慎重に様々なものをきちんと認識していっているかなとは思います。しかしながら、様々な観測システム等々ができ始めたのが、それからそのデータを集める仕掛けができ始めたのが10年、20年前で、それが漸くこういう形の変化が現れてくるというような結論が出せるということになったので、非常に遅れがあるということはあります。
  そういうわけで、IPCCの報告自身もやや慎重であり、かつ後追い的であるかなという点はありますし、またポリシー・メーカー・サマリーというのは、どうしても単に科学者だけではなく、政策決定者も入れた論議の中で論議いたしますので、言ってみれば最低限のことが書かれているというようなことがあるかと思います。
  それに対して、今の塚本室長の報告は、むしろ本文のあたりで書かれていることも良く読んでもらいたいと。そういうところに本当は科学者が言いたいことも実は書いてあると私は思っておるのですけれども、そういう観点からの非常に明解なご説明があったと思います。後ほど住さんからも一言ぜひお願いしたいと思っております。
  もう一つ、スターン・レポートの方も、非常にいろいろな影響を与えたわけでございます。私は、スターン・レポートのコメントというのも同時に良く知っておりますけれども、今までの経済学からかなり踏み出したという意味は、今までの経済学は非常に短期なものを対象にして色々やってきたわけですけれども、長期の我々の生存に関わるようなことをまともに取り上げて経済学で論議するとこういうことになるのだなということが非常に勉強になったと。そういうわけで、この題名自身も、「気候変化の経済学」ということになっているのではないかと思っております。
  これにつきまして、新澤先生、工藤さんに、またご意見をいただければ良いなと思っております。少々の時間がございますので、まず、住先生。

○住委員 このIPCCの報告書ですけれども、これが非常に印象的だったのは、今までだとまず発表されると直ぐ『Wall Street Journal』だとかがごちゃごちゃと難癖をつけるという、今まで大体そういうことが多かったのですが、今回はそういう話が何もないというところが私は非常に驚いているところで、やはり向こうも腹を決めたなという感じを非常に持っております。
  それから、科学的な色々な発見とか何かに使うわけで、だから研究者の観点からいけばどんどん溜まってきたなと、それほど驚くに値しないと思うのです。やはり一番大きかったのは、第3次報告書の時に我々のグループが出したのは非常に温度が高くて、世界中から「そんなに高いのは何だ」と大分叩かれたことがあったのですが、我々がその時に、「いや、そういう可能性もある」と一生懸命ディフェンスしたのですけれども、今回行ってみたらものすごく雰囲気が変わっていて、特にヨーロッパはそうなのですが、高い可能性もあるのだと。それを排除するのはやばいよという、元々からそういう上に跳ねることがあることをまず認めましょうというような雰囲気であったので、えらく変わったなということと、それからやはりモデルに対する信頼が、非常に研究者の中のみならず一般の人にも大分浸透したのではないかと思います。
  それは、口の悪い人は、僕は何回も言われたのですけれども、「天気予報も当たらないのに、何で100年後がわかるのだと」いうことが毎回来るのですが、いわば多くの人の感じでは、結構やるじゃないかというような感じのような雰囲気になってきたなというのは、僕は非常に大きなことだと思います。
  それから、トリカーサマリーが確か90年に最初にやった予測の観測と合わせた図があるのですけれども、90年位を予測値としてやった2005年や、今のIPCCの第4次報告書は2000年スタートでやっているのですが、それで2005年までのトレンドを見ても、結構合っているじゃないかみたいな図がありますので、そのときは割と事実と比べてモデルの性能が、それなりにみんな確認できたかなということと、やはり僕はこのIPCCのプロセスの中では、やはり危機シミュレータが果たしたインパクトは僕は非常にあったと思います。
  やはりそういう形である意味ではやっていけば、現在の我々の持っている知見というのがかなりあるわけで、現在我々にも気候の観測地点まだあるわけで、それがIPCCのプロセスにまだ入り込めてない。それはインフラの問題で入り込めてないだけですから、そういうところを突破していくと、どんどんまた変わる、知見とか予測には繋がっていくのだということが割と出たということは、僕は日本にとっては非常に強いメッセージ性を出したと。
  ただ、日本の場合は、大体5年ぐらいで息切れがして、その先が……。つまり日本は二の矢、三の矢がない国ですから、一発勝負というところがあるので、そこは若干心配するのですが、それをないようにしていけば、僕はやはり1つ……。
  それから、特に台風の話などでも、やはり気象研などが出したシミュレーションというのは、反対する人もまたいて、今のモデルは台風だから出る筈がないのだから駄目だと言う人もいるのだけれども、やってみれば、台風もどきとは言え台風らしいものが出てきますので、そういう結果によって強いのが出てくるなという話はそれなりに影響力があったと僕は思います。

○西岡委員長 IPCCの方で何かおっしゃりたい方いらっしゃいますか。どうぞご遠慮なく。時間がございますので。
  先ほど、南極の氷の話があったのですけれども、私も論文、2次だとか3次、いろいろ見ていますけれども、ここ一、二年の間に南極の氷にクラックが入って割れて滑る可能性があってと出ているのですけれども、IPCCのあれでは十分な論議はできないというか、時間が足りないものでできないから載せられないのです。
  そうしますと、怖いのはまた5年遅れてしまうのです、そういうことがあって。僕は非常に、一番最初に申し上げましたように、IPCCの認識というのはどうしても慎重で且つ遅れますよということをいつも念頭に入れておいていただきたいと思います。そういう意味から、今日の塚本さんの発表は非常に良かったというふうに思います。

○住委員 それと、コメントに関して言えば、IPCCに初めて参加したのですけれども、相当慎重に対応しますよね。で、アメリカのガバメントのコメント等もものすごく変なこと、本当かとか、思うだけではだめで、確かだとかものすごく……。やはりそれはそういう主観というのは結構あるでしょうが、果敢なところがあることは確かですので、プロセスとしては非常にフェアに、IPCCは一部の環境マニアが意図的に引っ張っているという言い掛かりも付けられていましたけれども、そうではなくて、やはり本当にフェアでやっておられることをやって、サマリーをしていこうという体制は僕はあると思う。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  しばしばIPCCの研究者がこう言ったとか、それもやや偏見的に言われる時があるのですけれども、私はレギュレイター、最後にでき上がったものを全部のコメントが対応したかということをチェックする役目をやらされていまして、それこそ300、500のものを1週間かけて全部私がチェックしますし、ほかの方もチェックしているという状況で進めてきました。その信頼性についてはかなり確かなものかと思います。
  それでは、スターン・レポートについて、新澤先生、何かございますか。

○新澤委員 経済学会でも結構話題を呼んで、いまだに議論が続いているようです。
  経済学の中にもいろいろな考え方があって、スターン・レビューというのはダメージの評価に関して1つの問題提起をしたというのは西岡委員長のおっしゃる通りであろうと思います。

○西岡委員長 はい、どうもありますがございます。
  ごらんになって、雑感等ございますか。明日香さん。

○明日香委員 良い悪いというよりも、多分、割引率の議論はこれからも色々問題になってきているので、そこはこれから解決しなければいけない問題なのかなという気もしています。あるいは直接ないというか……。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  他にございましょうか。工藤委員、お願いします。

○工藤委員 先般発表されたEUの色々な論文の中での技術的資料としても活用されたりして、ある意味数字そのものがひとり歩きしているところがあるわけですが、先ほど丁度ご説明があったところは、ワーキンググループ1の色々な見方とスターンの方での見方というものは、必ずしも同じではないと。もしかしたらスターンの方がかなり早いタイミングで救わなければいけないということをやっているのではないかというような、簡単なご説明があったと思う。
  その辺のところが、ある意味ちゃんと見た上で、この経済インカムの評価等もちゃんとやっておきなさいと。数字そのものをどう捉えるということが分からないまま色々議論していても分からなくなるから。私もここのところの数字、ちょっと不勉強なのであれなのですが、逆に言いますと、先ほどのご説明でIPCCの評価とスターンの評価でどの位、どういったところにギャップがあったかというものが、もしはっきりしているのであるならば、その辺で色々教えてもらえるとありがたいなという気がしたのですけれども。

○西岡委員長 ありますか、数字の面で。

○塚本研究調査室長 現段階で比較可能なのは、まさに将来の温度上昇予測の部分なのですけれども、方法論が違うのですね。ワーキンググループ1の方は、大気中の温室効果ガスの有する放射強制力を直接のダイビングフォースとして、将来の温度上昇をシミュレーションしているようなのですけれども、スターンの方は一たん濃度に置きかえて、各濃度、しかもその濃度に置きかえるときはGHG濃度、CO2ではないということもあって、非常に比較がそもそもできない。というか、プロならできるかもしれませんが、普通に読む分には比較ができないということにおいて、どうも悲観的に見えるのですけれども、それすら本当に悲観的なのか、実は同じことを別な言い方をしているのか、正確に比べることが難しいというふうに見ております。

○西岡委員長 今の点ですけれども、物すごく大雑把には何ppm引けば良いというようなことも言えるのですが、あのグラフなどの計算をする時には、CO2を減らすよりも他のガスを減らす方が経済的に楽なものですから、そちらはすぐに減るような形であって、そのあたりが必ずしも定常的な数字で説明ができないという難しさがあります。今おっしゃった専門家の話です。
  それから、スターン・レビューに関してですけれども、ぜひこれに対するコメントが、またスターン・レビューの一部としてあります。非常にノードハウスなども丁々発止やっておりまして、ゾルだとかいろいろな人がやっていて、それを勉強しますと、それこそ経済学の教科書というか、面白いというか、ものすごくありまして、簡単な話でする私どもの国立環境研究所の方のウェブに入っていただきますと、我々がまとめたコメントというのが数ページございます。是非それもご覧いただければと思います。
  もしなければ……、他によろしゅうございますか。
  それでは、次の議題3に移りたいと思います。いよいよ気候安全保障の考え方ということでございますけれども、きょうは米本委員、昔から環境安全保障ということを唱えておられる米本委員の方から、環境安全保障という考え方についてご説明いただきたいということで、是非よろしくお願いいたします。

○米本委員 ご紹介いただきました。審議にまぜていただきました米本でございます。私、12時過ぎに新幹線に乗らないといけないのですけれども……。
  私、今、医療の問題を中心にやっておりまして、地球環境というのは今から10年以上前に地球環境問題とは何かという新書を書いて、そのまま後は若い方に任せたのですけれども、今日は国際関係のレベルの責任あるところの発言をちょっと勉強させていただいたのですけれども、何となく私が今日ここに呼び出された意味が少し分かるようになりました。
  実は、私がいろいろ本を書いていた、今から14年前に書いた本が一番売れていて、どうも大学の教科書に使っていただいているようなのですけれども。どのみち温暖化というのは超長期の話ですので、過去50年分位の国際交渉の意味を振り返った上でClimate Securityというのを考えなければいけないというふうに思いました。で、それであえて「環境安全保障から気候安全保障へ」というタイトルにしてみました。
  私は科学技術政策をやっているので、これを必ず使うことになっているのですけれども、日本の知識人及びアカデミー、政府を含めて最大の欠陥は、軍事技術及び軍事問題についての基本的な情報がすっぽり抜けているというのが、私の科学技術論からやってきている立場からのものすごい問題点です。
  で、20世紀はアメリカの世紀だと言われておりますけれども、確かに20世紀の初頭に実は工業出荷量でいくと、国毎に分けますとアメリカは世界最強の出荷量になるのですけれども、アメリカの科学技術というのは1941年ですっぱりモードが変わります。それ以前のアメリカの科学技術というのは、耐久消費財を作るために動員されておりまして、第1次世界大戦は実はアメリカは戦争当事国ではないのです。
  今、この温暖化理論と少し重なってきますのは、実は19世紀末に自動車というのが発明されるのですけれども、この時点での自動車というのは貴族の道楽でありまして、当時400社ぐらいメーカーがあったのですけれども、全部これは貴族が人に見せびらかすために発注するものでありまして、20世紀初頭では普通の公道を車が走ってはいけない国は沢山ありました。
  で、有名なのはイギリスの赤旗条例でありまして、車が走ってくる前には赤旗を持って人を走らせないといけない。それぐらい車というのは全く移動手段として考えられていませんでしたけれども、1907年にヘンリー・フォードという変な人がいて、貴族の道楽であったものを耐久消費財のコンセプトに変えてしまいます。これは都市近郊の農場主に、お前、車を買ってやるから父ちゃんの後を継げというような、泥道でも走れて運転が簡単で修理が簡単というT型フォードというものを作りまして、これは来年100周年なのですけれども、第1号機が1908年の確か秋に売り出されますが、これによってアメリカは巨大消費文明を構築します。
  それによって、20世紀前半は巨大な景気変動の波に飲まれますけれども、科学者や研究者は何も政府の言うことを聞かなかったのですが、1941年12月7日、日本時間12月8日に、突然アメリカは真珠湾攻撃によってアメリカ領土を初めて攻撃を受けまして、これによって初めて戦時科学研究動員という中央政府が突然力を持ちだして、ありとあらゆる知財を軍事研究のために動員いたします。
  この成功体験よって、1947年に冷戦が確定しますので、アメリカというのは20世紀前半と20世紀後半と全く技術の開発モードが違いまして、1941年12月7日から1991年12月の旧ソ連崩壊まで、ちょうど半世紀間、50年戦争を戦っておりまして、この50年間のアメリカ国家における科学技術のプライオリティの一番最高位にあるのは核兵器の開発でありました。
  ところが、これが急に不用になりまして、90年代を通して誰が大統領になってもこの冷戦体制の解体再編をしないといけない。そのために、核兵器抜きの核配備体制、これは世界中の巨大同時通信体制を構築することでしたので、これを何とか民生移管しないといけない。ですから、核兵器開発のシミュレーションに使っていたスーパーコンピュータを温暖化計算に使ったり、色々な査察衛星を温暖化観測のために使おうとするのですけれども、これは全くそろばんに合わないので止めということになりました。
  問題は、国際政治のレベルでありまして、次は経済政策ですから飛ばします。
  Environment Securityというのは、80年代中期から少しずつ使われるようになります。これがコンセプトとして英語圏の連中が一番腑に落ちるのは、実はヨーロッパにおける酸性雨交渉でありまして、これは少しお話しいたします。
  冷戦末期におけるEnvironment Securityというのは、1980年代後半に出てまいりまして、冷戦末期における環境問題の国際政治、アジェンダ化一般を指すようになります。それが一般的な使い方なのですけれども、もう少し狭く言いますと、旧ソ連の崩壊、冷戦の終焉に伴う国際政治空間の緊張の空白を埋めるものとして、新しい脅威として認知すると。もう少し言うと、もともと国際政治というのは――後ろの方に書いておきましたけれども――軍事力を背景に国益を実現するのが国際政治空間でありまして…、先へ行って後で戻ります。
  Climate Securityの含意なのですけれども、結局、地球温暖化問題のハイ・ポリティクス化ということであります。ハイ・ポリティクスというのは何かというと、これは伝統的に国際関係論、国際政治学のメイン主題である安全保障や軍事・軍縮問題でありまして、ロー・ポリティクスというのがそれ以外の国際関係、すなわち経済通商問題でありますが、1980年代までは外交交渉はせいぜいここまで。ですから、主たる軍縮とそれ以外の、例えば通商問題とか人権とか移動とか、そういったものが外交交渉の中心でありましたけれども、Climate Securityというのは、この外交交渉の本道に温暖化変動、気候変動を国際政治の最も責任者、最もハイテーブルのところで議論するアジェンダであるということを明確に各国首脳が言明しだしたということでありますので、これは国際関係論から言うと大変な変動の兆候だと私は思います。
  3枚目に戻っていただきますと、Environment Securityというのは、80年代から90年代初頭に、冷戦直後の国際関係を安定化させるための新しいアジェンダとしての組み込みのプロセスの中で色々な概念として使われました。上から1番目は一般論です。2番目が短期的な空隙を埋めるもの。それからもう一つは、軍事活動が最大の環境破壊だという考え方です。それからもう一つは、冷戦が終わりましたので、冷戦時代にかなり無理をして核兵器の緊急配備をやっておりましたので、それに伴う核汚染の浄化、各汚染の認知・浄化をEnvironment Securityと言い出しました。
  それから、もう一つ、一般的に環境破壊は政権の不安定化を招くということで、アフリカとか環境難民とか言い出しましたけれども、これに対してセキュリティの専門家というのは、実は国際関係論というのは軍事でありますので、軍事及び軍事技術を専門にしていた国際関係論の専門家は、Environment Securityということをぼろくそに言います。
  その最大の理由は、コンセプトがネガティブ定義であって、これは環境がinsecureな状態になったことに由来するものであって、セキュリティ概念というのは、実は要するに主権国家が使って、相手国の意図をちゃんと読んだ、そういう国際の情報発信のバランスの状態がセキュリティ問題であって、これはセキュリティというものが国民の生命・財産を保証するという意味では確かにそうかもわからないけれども、これはちょっとセキュリティの概念としては、伝統的に軍事を徹底的に主軸に置いた国際関係論から言うと非常に曖昧であるということを批判いたします。
  ただ、冷戦解体期のそれ以前というのは、環境問題というのは内政の失敗であって、所詮公害問題であって、外交交渉には乗らないのだと。で、途上国あるいは社会主義国は、国家の対面上もそんなものは国際交渉にしないという立場だったのですけれども、冷戦の解体によって、国際関係における緊張の度合いが、水位が減ってしまうと。その水位を埋め合わせる新しい同じタイプの国際緊張をはらむアジェンダとして自動的に国際条約が成立してしまうという事態が起きます。
  核戦争と温暖化は似ておりまして、脅威が地球大であって、架空の経済活動と連動していて、脅威の実態の確認が極めて困難であるという、この3つぐらいの理由で核戦争の脅威と温暖化の脅威は似ているのですけれども、1つだけ違っておりまして、核戦争の脅威というのは認知すると核開発と戦車と軍備増強に国富を投入しないといけませんけれども、温暖化の脅威というのは、むしろ国富を省エネ・公害防止投資にしゃにむに傾斜投入するということになりますので、むしろ人類にとっては幸いな脅威だと私は思います。
  非常に単純に言うと、1988年の末期から92年のこの4年間の間に、冷戦の解体と冷戦の終焉によって脅威が減った分の埋め合わせというのは大体終わってしまったと。その典型が温暖化条約であって、附属書には旧先進国が2種類並んでおりまして、旧先進国の中で市場経済興国は、先進国の義務は、削減義務はあるけれども経済的な義務は免れるということが行われるということになります。
  ですから、私の認識ですと、20世紀の末から21世紀の初頭までは、Environment Securityという認識であったわけですけれども、Climate SecurityということをG8の責任者が発言するということは、もともとG8というのは70年代の中東戦争で石油がべらぼうに上がったことに対して、西側経済主要国が経済会議を持ったことですので、そこでそこの主題になるということは、むしろ国際関係論の名実ともに温暖化問題が主題になるということを首脳が認知したということでありますので、私はこれは、むしろ政治的な分析としては大変重要な発言だと思います。
  この88年から92年に関するプロセスは、むしろ旧ソ連主導で行われまして、88年のシュワルナゼ演説と88年12月の国連総会におけるゴルバチョフ演説であります。実はこれは、私は当時手紙を書いて、原文をソ連からもらっておりまして、多分日本にこれ1部しかないと思いますけれども。88年のシュワルナゼ演説と、それからこれはソ連が当時非常に力を入れましたので、ゴルバチョフの演説を同時にプリントして配りました。私は早目に失礼いたしますので、これを回していただきたいと思います。
  このEnvironment Securityと言っているレベルは、幾つかの特徴がありますけれども、1つは何と言っても温暖化を典型に、科学連携と国際政治が融合してしまったのだと思います。これに似たものが、regulatory scienceというのがあって、80年代を通してアメリカが発がんのレベルを確定するために環境問題に対して行政判断のために大変に科学資源を投入するということになりますけれども、同じように国際関係で環境問題というのはむしろ、基本的には相手国に明確な被害が認定されないといけませんけれども、それをどう責任の関係をやるのか、あるいはどういう問題として認定するのかといったことについては、科学データが必要になるということになります。
  で、その最もいいと言いますのは、国際関係の中で殆ど研究が終わってしまっているのが、欧州における長距離越境大気汚染条約でありました。この特徴は、基本的には関係国が先進国ばかりであって、科学研究が中立、データの即時公開ということが当たり前だと思っている国であったと。それから、データの収集、モデル構築の透明性、それから資金の供出と共同運用ということで、外交の基本的なツールとして、国際公共財として科学研究プログラムを運用し、外交判断の基盤にするということがヨーロッパの酸性雨交渉の特徴であります。次をお願いします。
  これは、しかし対象地域が……、何度も申し上げますけれども。しかし、なぜこんなことが起こったかと言いますと、70年代に2度のオイルショックで日本を除く先進国は人類史上始めて世界同時不況を経験して、その結果全ての投資を手控えます。その結果、80年代を通して日本以外の先進国は環境悪化が非常に明確なものになります。
  ところが日本は、70年代を通して60年代の非常に安い中東の石油で運転したために、普通の経済判断の常識を超えて国難だと思って、公害防止投資の技術開発と現実の投資に物すごい国富を投入する。ですから、殆どあり得ないような経済行動をいたします。ですから、これは脅威と思って、国難だと思って、国も経済界も通常の経済の教科書から外れたようなことをやると。典型的なのは、例えば苛性ソーダでありまして、水銀を使っているというだけで隔膜法に転換するのであります。これは全然技術的にほとんど理屈はないのですけれども、そういうことをやります。
  その結果、何が起こったかというと、80年代になってみるとヨーロッパの環境悪化と日本が世界で一番公害防止投資と証明のレベルでものすごい生産効率の良い工業立国になってしまって、世界の富が日本に集中するということになります。
  ですから、温暖化問題もこのあたりまで考えないと多分いけないだろうということであります。
  で、この環境問題が外交交渉として成立するということが、これは国際間交渉で言うepistemic communityが成立してないといけない。すなわち、それが切実な国境を越えたアジェンダであって、国境を越えた研究者が自由に研究をする研究者集団があるということが前提であるということになります。
  その典型が、これは環境省が苦労して作ったことなのですけれども、例えば東アジアの酸性雨問題でモデル実験をやると、中国がやると日本のソックスは殆どが日本国内及び火山由来なのだけれども、日本の研究者がやると、日本のソックス源の2割から3割は中国由来にモデルになる。これが、モデル設計もしくはデータの投入のところの透明性を確保しなければいけない。ヨーロッパの酸性雨交渉のRAINSというモデルは、モデルの設計あるいは丸め方のところから完全に科学者がインターナショナルに参加するということであります。次、お願いします。
  これがそうなのですけれども、これは飛ばします。
  これは、私どもがまとめたものです。これはたまたま1冊しか持ってこなかったのですけれども、これは置いていきます。これは何かというと、ヨーロッパにおける酸性雨交渉の究極目的の図でありまして、ヨーロッパ全域をメッシュに分けて、これ以上の硫黄分が落ちてくると生態学的被害が出てくるので、究極目的はこれ以下にヨーロッパ全域のデソックス効果を抑えるということを条約の究極目的にいたします。
  これを見ていただくと、左端の方がスカンジナビア半島なのですけれども、こういうところは究極目的の数字が小さくなっております。これはですから、生態系の脆弱度に合わせて、削減の究極目的が違うということであります。これは、科学者はこういった図をぼろくそに言います。なぜかと言うと、科学的妥当性がないというのですけれども、しかしこれは外交的有用性と、それまでの科学活動のレベルあるいは目的が違うということでありますけれども、ヨーロッパは科学者と外交レベルが非常にしんどい議論をして丸めて、しかも正式の外交文書にまで採択したということであります。次お願いします。
  で、私が申し上げたいのは、この中間のRAINSという、どこからSO2が排出して、どこに落ちてきて、どの国がどの位の削減をすれば経済的に最適かという、外交交渉の基本になるコンピュータモデルですけれども、この設計をありとあらゆる国の担当者が自分たちの議論をやりながら、このコンセプトの設計のところで完全に透明性を確保する、あるいは科学データのところも完全に確保する。で、計算はもうこれは合理的なコンピュータに任せてしまって、各国の削減目標は伝統的な国際交渉に、いわゆる外交交渉に委ねないで、コンピュータから出てきた数値を少しまとめて、もうそれは各国の削減目標にするということで、ヨーロッパにおける酸性雨交渉のプロセスは、非常にある意味でモデルになっているということであります。
  問題は、温暖化でこんなことができるかというと、まずできないということであります。できないというか無理なのですけれども、これは私どものイシイ君と私がディスカッションをしていて、regulatory science と同じようなdiplomatory scienceというのがヨーロッパでは成立したし、温暖化では超長期には理屈上成立しないとだめだろうということで、彼がこういうふうにまとめました。
  すなわち、科学研究者集団というものの目的は真理の追求でありますが、外交交渉というのは権威ある決定、あるいはですから政治的拘束力を持った決定をしないといけない。その時に、必要な概念装置を科学者がどういうタイムスケールでどのレベルまで保証したものを提供するかということは、これは大変に新しい科学の研究活動、あるいは研究目的、あるいは試験配分の目的ということになります。
  ですから、そういう意味では、社会のための科学というのは、少し科学者の自由な告知に任せておくという時代から、もうある意味で少しポジションを変えないといけないということになるのではないかというふうに思います。次、お願いします。
  これは、もう大分古いところを取ってまいりましたけれども、経済水準と研究、もしくは投資目的の価値順位がどんどん違いますので、例えばこれは一般的な汚染対策のリソースの配分でありまして、経済成長がどんどん進むと、水はどんどん汚くなりますけれども、ある程度のGDPになりますと、省エネ・公害防止投資までも回ると。
  で、日本は、60年代末に突然公害防止投資をやりましたけれども、そのときのGDPが大体1,800ドルぐらいでありまして、これは現在の物価水準が3倍だといたしますと、大体GDP4,000ドルから5,000ドルぐらいになると省エネ・公害防止投資に社会が自発的に投資をするようになる。日本は今3万ドルぐらいですので、この表からはるかに外れているということであります。次、お願いいたします。
  何とか日本が、温暖化を含めて日本の技術、資源を投入するためには、相手国の経済政策、なかんずくエネルギー政策に影響を与えなければいけない。そのためには、内政干渉、これが影響を与えないといけない。内政干渉と認知しないで影響を与えるためには、epistemic communityをその手前に構築しないといけなくて、途上国はこういった科学研究活動の資源もないし、優先順位もないということですので、日本がこれにお金を出して、しかも日本がくちばしを入れないで、関係国の科学者の運用に任すということになるのだろうと思います。次お願いいたします。
  これは、先ほど申し上げましたけれども、下を読みますと、「人類活動が意図せざる地球次元の巨大実験」。これは、88年の当時のサッチャーが初めて使った言葉でありまして、巨大実験のその負の影響によって、不特定の国民の生命財産が脅威にさらされる。場合によっては、水没によって領土削減が起こる。
  領土の変更というのは原則的には戦争で起こるわけでして、そういう意味でもセキュリティという言葉を使うのは必ずしも当らずといえども遠からずでありまして、世界中領土の変更というのは、いわゆる戦後処理以外は、例えばカナダをロシアからアメリカが買った以外は、戦争以外に国境線が変更されたことは殆どないということであります。
  そういう意味でも、ゴアが10数年前に言っていたことと今回の本のコンセプトのメッセージは明らかに違っておりまして、やはりClimate Securityというのは、やはりこれまで研究者とかNGOが盛んに言っていたことが、やっと国家の責任者が明確に責任を持って発言するところまで、10数年掛かって上がってきたということだろうと思います。
  それから、もう一つ重要なことは、国際政治環境における日本の位置が大変に特殊だということであります。逆に言いますと、EUは非常に特殊の政治プロセスに入っておりまして、しかもそれを外交交渉に大変に上手く使っているというのが私の観察者としての結論であります。元々現在のEUというのは、前はECでありまして、それは石炭・鉄鋼共同体であります。元々これはアメリカから巨大なお金をもらって経済活動を再興する後の成果でありまして、ヨーロッパの争い事の中心であったルール・ザール問題の棚上げ交渉であります。
  で、統一の市場という目的で、自由な市場という目的に限って主権を共有してECというのを作りましたけれども、大体80年代までに古典的な意味の自由市場というのは成立いたしました。で、冷戦後、EUは完全な政治統合というプロセスに入っておりまして、何と憲法の批准プロセスに入っております。
  そういう意味では、1つは、今ですから、EU圏内に排出権取引が実現しておりますが、これは大変に巧妙にEU機能の生き残りでありまして、自由な市場と、それから新しい国際関係を非常に巧妙に利用しているのがEU国内における排出権取引でありまして、これは、実は先ほどの酸性雨のプロセスも、同じような――大分違いますけれども――酸性雨のプロセスも排出権取引をやってきておりますので、そういう意味ではEUの新しい統合形態と、それから温暖化問題に対する地球レベルでの国際交渉のカードという意味では、EUは非常に手だれ者のポジショニングをしているということであります。
  それから、もう一つは、EUのダブルトラック化ということでありまして、一旦EU委員会で決まったものは、二、三年以内に国内法を整備しないといけませんので、普通、議会制民主主義は唯一ましな権力分野であって、ただ時間がかかると。そうすると、科学技術の発展もしくは認識の変化に立法プロセスがついていかない。そうすると、EUが先に科学技術あるいは世界のトップのアジェンダを強制的に、万力をかけるようにEU勘定が先に強制力ある指令を採択させてしまって、各国に強制力を持って国内法を整備させると。
  それで、場合によっては相互主義、reciprocityと言って、これは元々が通商問題では最恵国待遇ですけれども、EU共通のスペックのところなら自由なやり取りをしてもいいけれども、できないところは基本的には途上国だという間接的なメッセージで、世界の国際交渉の、これは温暖化だけではなく、私は生命倫理とか情報政策、特にゲノムをやっておりますけれども、ほとんどEU指令のスペックをアメリカも日本もしぶしぶ受容しないと、EUとまともなテーブルにつけないというようなことに少しなっております。
  先ほど申し上げましたけれども、ですから、国際関係というのは戦争あるいは安全保障が基本になっておりますので、EUというのは完全な巨大な不戦共同体が成立したということであります。ですから、コソボもEU以外が爆撃していくわけですので、少なくともEU地域では絶対に戦争が起こせない。ですから、次のセキュリティ問題である温暖化を国際交渉の上位に挙げても、EU圏ではそれは正当性を保てるということなのだろうと思います。そういう意味では、EUの理念的道徳的優位を確保するということだろうと思います。
  で、こういう前提でいきますと、日本は大変に変わった国でありまして、先進国の中で唯一冷戦国家にならないでポスト冷戦に転がり出た、要するに軍事というコンセプトをほとんど国内にビルトインしないまま、しかも国内の省エネ・公害防止投資をほとんど一巡してしまったとんでもない模範的な国家であります。しかも、それが世界の大問題である中国と海を1枚隔てて持っているという非常に非対称な地域に国際環境で置かれている。
  上から3つ目を見ていただきますと、日本・中国というのは、世界史的に非常にまれな非対称性を持っておりまして、むしろ日本は世界に向かって――本当は中国に向かって言うのですけれども――温暖化条約が発行したときに、通産省は国内政策として3つのEということを言い出しました。すなわち、Environment、Energy、Economy。この場合のエネルギーは多分原発だと思いますけれども、21世紀の現在は多分日本は外交として温暖化対策とエネルギー安全保障と通商問題、この通商問題というのは知的所有権のことでありますけれども、この3つを同時実現するような日本は地球へのコミットメントをするのだということを言いながら、間接的に中国に向かってメッセージを投げるということを日本が考えるのが、誰が考えてもそういうことになるのではないか。
  むしろ、こういう戦略的な目標に対してどういう表現をするか。どういう体系的な考え方をするかというのが、日本の知恵の出しどころなのではないかというふうに思います。
  私の方の提案は終わりです。私は、12時10分ぐらいに退席させていただきます。

○西岡委員長 それでは、12時10分だと……、議事を考えているのですが、何か簡単なご質問はございますか。後ほど皆さんには是非色々とお伺いいたしますけれども。
  どうぞ。

○南川地球環境局長 1つだけいいですか。
  中国と実際にこれから交渉する場面が非常に多くなります。特に私も、今、酸性雨とか黄砂の問題で中国との問題に直面しておりまして、また3月にも国際交渉をやるのですけれども。
  まず、今おっしゃられたヨーロッパのような情報共有ができないという問題がありまして、測定はするけれども教えないとか、そういう状況にありまして、シミュレーションができないという状況にあります。12月には、科学者で議論してもらったのですけれども、全く何も進まなかったと。そういうこともあってまた3月にやりますけれども、非常に見通しが暗いと。
  中国というのは、国際的なそういう大きな動きの中で、自分の国をどういう形でアダプトさせようとしているのか。何かもしイメージがあれば教えていただきたいと思います。

○米本委員 自然科学の客観的データとか、そういったものというのは、即時公開、無原則自由利用というのは、これは実は先進国の常識、価値観でありまして、科学データもあるいは環境データ、特には国家主権が及ぶというふうに考えている国は必ずしも中国だけではないと思います。
  で、私は、青い本、『スタディーズ』というやつですけれども、1冊置いておきますが、そこに実は旧環境省時代にウォッチして、結構批判的な説明になっていますけれども、まず第1に、先進国が一歩引くというのが先進国の立場であります。相手国の面子を潰さないというよりは、あくまで政策対話でやると。
  東アジアでこの認識共同体を構築するためには、OECD国に96年に入った韓国に中心になってもらう。中国からの理屈上の被害は韓国の方が近いわけですので、むしろ韓国の外交センスを日本がサポートするという気持ちで、長い目で中国が変わってくれるまで、日本は韓国と似たポジショニングをとるというのが、多分コストパフォーマンスは一番いいのではないかというふうに思います。

○西岡委員長 簡単なご質問はございますか。

○太田委員 コメントはたくさんあるので、また後でお伺いしますが、事実確認だけしたいと思います。
  今のG8の会議の原点は、アメリカが一方的に金とドルの兌換制をやめた時点で、もう少しオイルショック前、71年だと思うのですけれども。初めにあったのは、ワシントンのスミソニアン博物館で開催された10カ国増層会議で合意を見た、ドル救済を目指した国際通貨体制の構築というか、固定相場制というのがもう崩壊してしまった、どうするのだというところで、蔵相会議を初めてやったというのが。73年ですよね、第1次石油ショックは。 今のG8の会議が始まったのは、アメリカが一方的に金とドルの兌換制、相互性をやめたところでランブレー会議とかあったので、もう少しオイルショックよりずっと前、71年だと思うのですけれども。初めにあったのは、スミソニアンとかで集まって、固定相場制というのがもう崩壊してしまった、どうするのだというところで、蔵相会議を初めてやったというのが、スミソニアン会議でランブレーへ行くわけであります。それは73年ですよね。第1次石油ショックは。だから、ちょっと事実関係が……。

○米本委員 G8は、75年です。

○太田委員 首脳会議の始まる今のは、首脳会議の始まる一番の発端というのが、やはり国際通貨の安定というのを固定相場制が崩壊してしまうというところで始まったというふうに私は認識していますが、石油ショックはその後だということなので、もう一遍……。

○米本委員 1回目は75年です。

○太田委員 もともとは蔵相会議で始まって、それから発展していくというところで、石油ショックはその後だというふうに……。

○米本委員 はい、もちろんそうです。

○太田委員 それを確認したかっただけです。

○西岡委員長 それでは、まだ皆さんたくさんあると思いますので、米本先生がいらっしゃる間に議論を進めたいと思っております。
  5分位、和田さんの方から、全体としてどういう感じで進めていきたいかという話をご説明願いたいと思います。

○和田国際対策室長 ごく簡単に。実は今後のスケジュールで今日の論点のようなところを簡単に紹介したいと思っています。
  お手元の資料の3-2と3-3、両方とも1枚ずつでございますけれども、両方並べてごらんになっていただければありがたいと思いますけれども、3-2の方から簡単に説明させていただきます。
  3-2の方は、今回のClimate Securityを議論、それからまとめるということの背景でございますけれども、左上から右回りで回ってアウトプットのところまで行くというストーリーになっているのですけれども、背景はもう既に先ほど私の方からClimate Securityという言葉のハイライトのところでご説明をさせていただいたところでございますけれども、今回の検討の目的という意味では、いわゆる安全保障問題として気候変動問題を捉えていくということを前面に、まず前提に置いて、◎の3つ目のところにありますけれども、我が国の政治のリーダーシップによるトッププライオリティとして認識を形成とか、政府部内での用語として積極的に活用とか、国内世論形成に活用とか、それから、今後各国の政策・企画・立案などに使っていくとか、仄聞するところによりますと、米国もセキュリティというキーワード、Climate changeよりはSecurityというキーワードに非常に敏感に反応する。当たり前かもしれないのですが、そういう話も最近出てきているということもあって、そういう意味では認識の拡大、意識改革を図るといった点でございます。
  それから、今日ご議論いただきたいのは、次回に渡りますけれども、気候安全保障という問題を捉える上での考え方とか留意点というところを、忌憚のないところで少しご意見をいただければと思っております。
  もう1枚の紙でご説明したいと思いますけれども、一応今回を入れて3回ほどでまとめて、少しインテンシブに議論をいただいてまとめさせていただければと思っております。
  それから、アウトプットについては、今後、先ほど説明させていただきましたとおり、G8とか次期枠組みとか、色々と気候変動問題をめぐる国際的なモメンタムが目白押しでございますので、そういう様々な場面でこのClimate Securityというキーワードで国際協調を図りながらハイライトしていくといったところでございます。ひいては各国のトッププライオリティ、いわゆる首脳が取り上げるべき重要課題というところのモニュメント的というか、重要キーワードとしてClimate Securityを位置付けられればというふうに思っております。
  3-3の方でございますけれども、今日の議論も含めまして、こういう方向でご議論をいただければということで、僭越ながらでございますけれども、少し簡単なストーリー的なものをご用意させていただいております。
  今日はどちらかというと報告的なものが多かったのでございますけれども、1.2.3.のところで少し気候変動問題の最近の動向とか、安全保障として取り上げられるに至った緊急性、重要性の度合いのところを少し今日は取り上げさせていただいて、この後ご議論いただければと思っておりますのが、いわゆる気候変動問題が安全保障問題として位置付けられ始めている現状について、どう認識すべきなのかといった観点とか、安全保障問題として位置付けるに当たっての留意点とか注意点というところはどの辺なのかというところを、今日、残ったお時間の中でご議論をいただければというふうに思っております。
  次回は、第2回委員会、3月下旬あたりを予定しておりますが、いわゆる従来型の安全保障論、今米本先生の方からもございましたけれども、国家安全保障との、少しアナロジーをしてみるとどうなるかという観点や、安全保障というキーワードとして位置付けるに当たっての、要件的なものを少し整理してみようとかです。
  その意味で、気候変動問題がどう位置づけられるかといった点で次回ご議論いただいて、できれば4月中位に整理をしてまとめてしまいたいというふうに思っております。
  以上でございます。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  それでは、残り時間、皆さんのご意見をお伺いしたいと思います。顔ぶれをみますと、この問題ではとてもではないけれども、短い時間で終わるような議論にはならないと思っておりまして、今、和田さんの方からもお話しがありましたけれども、次回は是非そういうことをしたいと思っておりますので、できたらメモ出しなども是非していただきたい。
  私は、今日の米本委員のご発表は非常に色々示唆に富むところがあったと思います。それぞれ、いや見方が違うという話もあるだろうし、それから私は、こういう気候安全保障というような言葉を聞いたら、それは何か他意があってそういうことをしているのだろうかとか、色々批判的に見るところもあるし、先ほどの話にも出ましたように、本当に安全保障という言葉の従来の定義とどう違うのだろうかと。従来の定義等はどうでも良くて、実はこういうことでこういう言葉を作るぞと言って一体何がメリットがあるのかと。どういう取り組み方がかかってこなければいけないのだろうかとか、そういうことについても検討しなければいけないかと思います。
  もっとも、なぜそういう部門に、いわゆるハイ・ポリティックスとおっしゃいましたけれども、そういうことも持ち上げる状況になったか。それはほぼ皆さん共通のところがあるのではないかと思っておりますし、その他諸々、皆さん、今のお話をお伺いになって感じられたところがあるかと思います。
  もし、米本先生にぜひ質問したいという方があったら、まず先に手を挙げていただけませんでしょうか。後で皆さん、1人ずつお伺いします。

○明日香委員 明日香です、どうもご無沙汰しております。
  まず、議論になるかもしれないのですけれども、酸性雨と温暖化問題の似ているところと違うところというところで質問をさせていただきたいのですが、先生のスライドの15枚目ですか、経済水準と大気汚染との関係で、これを見ると、温暖化対策、温暖化法もある程度いわゆるグテネックスカードみたいなのが想定できるようなふうに読み取れるのですが、その辺はどう先生お考えになって…。やはり途上国なり中国をどう考えるかというのは結構大きな問題だと思いますので、その辺はどうなのかなという質問です。

○西岡委員長 スライドの方も、今問題のものを。

○米本委員 これは、本当はもっと右の方に遙か彼方に書くべきところをしたので……。

○西岡委員長 右の方に黄色いのがずれている。

○米本委員 一番右の温暖化が、あたかも世界中がGDPが1万ドルを越せば全員が温暖化対策に投資を振り入れているという、そういうことではなくて、たまたまこれはセマティックに書いてあるだけで、温暖化対策というのは殆どあり得ないというのか、なかなか温暖化対策を投資の上位に意識的に挙げるというのはまず殆どあり得ないのではないかなというふうに思います。

○明日香委員 私も問題意識、結構大きな、とりわけ大きなやつになるかもしれないのですけれども、途上国家が温暖化対策をしていないというのは、やはりちょっと誤解があるのかなと思っています。なので、よく途上国はまだそこまでレベルが行ってないとか、そういう余裕はないとか、経済成長は云々というのは、大方の場合は具体的にはちょっと違うのではないかと。1人当たりの排出量というのは全然小さいですし、ちょっとその辺は誤解が、世の中には誤解が多いかなと私は思っていますので、ちょっとご質問させていただきました。

○西岡委員長 他にございましょうか。
  はい、どうぞ。

○太田委員 大変興味ある報告で、色々と勉強になりました。理論でございました。
  私は、epistemic community、認識共同体についてちょっとお伺いしたいのですけれども、私もこの共同体の存在価値とか意義というのはかなり評価している方なのですけれども、特に温暖化の問題に見た場合、このepistemic communityが例えばIPCCとか国立環境研究所とが認識共同体の一端を担うのでしょうか、アメリカでも非常に強い認識共同体があるわけですけれども、いかんせん経済的、社会的な影響が温暖化対策をとる場合に大きいので、ほかの経済主体とか政治的な意志決定過程に参与する政策決定者とかの勢力や影響力が大き過ぎて、なかなか認識共同体の本来のメッセージが通らないというか、政策的に反映されないという事実があるのですけれども……。IPCCとか国立環境研究所とか、ああいうような研究者の団体があって、アメリカでも非常に強い認識共同体があるわけですけれども、いかんせん経済的、社会的な影響が対策をとる場合に大きいので、ほかの経済主体とか政治的な意志決定過程に参与する政策決定者とか、そちらの勢力が大き過ぎて、なかなか認識共同体の本来のメッセージが通らないというか、政策的に反映されないというのがあるのですけれども……。
  酸性雨の問題はかなり認識共同体というのは影響力があったと思いますけれども、温暖化の場合は難しいと思うのですけれども、その辺のところを克服するというか、あるいはどういうふうにさらにコミュニティーの影響力を高めていけば良いいのか、もし提言があれば是非お聞きしたいと思うのですけれども……。
  酸性雨の問題はかなり認識共同体というのは勢いがあったと思いますけれども、温暖化の場合は難しいと思うのですけれども、その辺のところを克服するというか、あるいはどういうふうにさらにコミュニティーを広げていけば良いというような、もし提言があれば是非お聞きしたいと思うのですけれども……。

○米本委員 私は、お友達はたくさんいるのですけれども……。
  特に個人的にはありませんけれども、日本の科学者はもっと独自の包括レポートに関しては書けるはずなのに、結集力がないのは何かなというふうに思っております。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  ちょっと国立環境研究所の話ですけれども、今ちょうど、アジアの人を集めてモデルのワークショップをやっているのです。これはもう10何年続けています。その中で、今の認識共同体という感じで、政府が言っていることとまたちょっと違うようなデータがいっぱい出てきています。
  この前、確かCO2の排出が下がったことがあったのですけれども、その時の前に、あれは統計でちょっとおかしいところがあるなという感じの情報がどんどん入ってくるのです。ですから、まだ私どもの科学者集団とかというところの、何と言いましょうか、影響力は少ないかもしれないけれども、事実を積み重ねていくということは、特に気候だとか相手が自然の場合は非常に重要だという具合に思っておりまして、それをどう使うか、また政策レベルの話ではないかなという具合に思っております。

○小島地球環境審議官 米本先生の最後のところなのですが、日本は非常に20世紀後半に冷戦国家を経ないで21世紀に到達した唯一の先進国と、こういうのがありますね。セキュリティの議論を、EUからあるいはアメリカも行っていて、これはきっとすっと落ちていくと思うのですけれども、日本で安全保障という言葉は、とにかくものすごく固いし、それから安全保障という言葉がすっと落ちていくのだろうかと。余り得意ではないですから。
  つまり、国際的にこれから議論が進んでいくClimate Securityの議論というのは、かなり洗練されたものというか、非常に戦略的に進んでいくのですけれども、それに日本の国内が付いて行けるのだろうかと。そもそも戦略的にとかセキュリティというのは余りやったことがない日本が、あるいは国民のレベルで、言葉も聞いたことがないなとか、漢字が沢山並んでいるなとか。僕らはそういうコミュニケーションをやるのですけれども、漢字が沢山並んでいるだけでもう分からないとかいうふうになってしまう部分もあるのです、きっと。
  だから、国際的に進んでいくものと国内で組み立てていくものと、国民レベルあるいは日本国が全体でこれはセキュリティの問題だというふうにすっと落ちて行くプロセスというのは、少し工夫が要るのではないかというのは、冷戦をやったことがないところが、セキュリティと言われてびっくりしてしまうのではないかという、その危惧ですけれども、どうでしょうか。

○米本委員 おっしゃるとおりだと思います。ですから、冒頭に、アメリカはいかに変わった国で、大体今から冷戦のときに1国だけで1万8,000発ぐらいの核弾頭を配備していたわけですから、人類史上、こんな変な科学技術の使い方をしたことはないのですよね。
  で、「核の傘」と軽々言うのだけれども、冷戦時代の抑止力と今の核の抑止力の使い方は多分全然違うと思いますが、そういう意味でも日本は安全保障、セキュリティといった――ですから、私は逆にそれを逆手にとって、日本はしたたかにしかし断固善意ある、よその先進国とは違う文明的価値を既にビルトインさせているのだということを、私は戦略的に、本当にこれは表現のことで、要するに発見的に自分たちはどういう利点と欠点があるのかというのをもう一度文明論的な意味の自己発見をするような何かをして……。
  僕は、何か幾らでも戦略的に使える装置というのは、言葉にしてないだけで、僕はゴロゴロ転がっているのではないかと思いますけれども。ちょっと申し上げ難いのですけれども……。

○西岡委員長 高橋委員。

○高橋委員 ありがとうございます。電話が鳴ったりしてすみません。実は、今日、私どもICUの大学院で入学試験をやっておりまして、私は多分受験生が選択しないであろうと思われる質問を出してきたのですが、電話で、それを回答している学生たちがいると。直ちに出なくてはならない。すみません。
  それで、十分議論に参加できないのですが、3点だけ非常に簡単にコメントをさせていただきます。多分このテーマは、これからもかなり議論されると思いますので、ピーテルに渡っては後ほどということにさせていただきたいと思います。
  第1点は、Climate Securityというコンセプトのことを考えました。私、30年前のことを思い出すのですが、30年ほど前でしたが、私はOECDの事務総長の補佐官に任命されました時、OECDの事務総長から国際参謀としてのレッスンをお願いするといってレクを受けまして、親分からレクを受けるというのはちょっと珍しいのですが……。
  その時言いましたのが、世界を動かすという仕事だと。その要諦というのは当然のことながら主要国を動かすということだと。主要国を動かす時何をまず考えなければならないかというと、こういうことだということを言っていました。それが今回のテーマそのものに当てはまると思います。ある特定の共通のテーマ、例えばそれが貿易の自由化でも何でもいいですが、そういうテーマがあったときに、それぞれの主要国を動かす形にそれを翻訳し直して動かしていくのだと。それを集積して世界を動かしていくのだということでした。
  貿易自由化の問題も、フランスを動かすのだったらこれは文化の問題に結びつけないとこの船は動かないと。ドイツを動かすためには、これはインフレに結びつかないとあの国は動かない。イギリスを動かすためには、失業の問題に結びつけないと動かない。これが今回のスターン・レポートですね。成長というのは、これはもう失業問題ですから。それから、日本。日本を動かすには、省庁間の見解を利用すること。アメリカ。アメリカを動かすには、何が何でもセキュリティに結びつけろと。こういうことです。
  で、国際社会は、そのための作業というのを色々な形でやってきました。アメリカを動かすためにやってきた今まで作業としましては、かなり強引ではありましたが、開発の問題に関してはヒューマン・セキュリティと言ってみたり、あるいは食料の問題に関しましては、世界最大の食料国ですから、そのアメリカを動かすフード・セキュリティと言ってみたり。今回その伝でClimate Securityという言葉を、イギリスとアメリカの内情を良く分かっていますから、アメリカを動かすために使っている。このコンセプトは私は非常に正解だと思います。
  我々はこの問題を来年のサミットの時に目玉に据えなければいけないわけですが、その際に、アメリカを動かすためにこのコンセプトをこれから内容を詰めていくのだということを明確に認識した上で、これを扱っていく必要がある。
  先ほど、審議官、ちょっと日本のことを心配されていましたが、日本を動かす必要はないと思うのです。日本は動かないと思います。ただ、アメリカを動かすために、来年のホスト国としてこれにまともに取り組まなくてはならんということだと思います。それが第1点。
  第2点は、私は非常に危惧していますが、ここのところの環境分野全体、特にClimate Securityに関しましても、リーダーなしのプロセスが続いている。プロセスだけで動いている。これは非常に危険だと思います。
  この30数年でしょうか、一時期国際社会のいわゆる国際協力全般にまで渡ってしまいましたが、これはモーリー・ストーンの力学で動いてきました。モーリー・ストーンのリーダーシップで動いてきました。そのモーリー・ストーンのリーダーシップの時代が終わりました。その後、では誰がどういう形でリーダーシップを取っていくのか。これは1人ではなくて集団指導体制になるのか。そういうことを見詰めて、恐らく2008年のサミットのプロセスで日本が非常に重要な役割を果たすという、そのプロセスを通じて、日本があるいは日本の中の特定の方々が世界のこの問題のリーダーシップコミュニティーに入っていくということ、これを目指さなくてはならないだろうということが2点目でございます。
  それから、本来ですとそれぞれ非常に詳しくお話ししなくてはいけないと思いますが、簡単に第3点目に移らせていただきます。2010年のことを想像しますと、2010年に2013年以降のことは絶対詰まっていません。そこで大事になりますのは、フォールバックのポジションといいますか、フォールバックのアレンジメントといいますか、それが交渉の対象になるだろうと思います。今から2010年に詰まらなかったときに、これをどういう形で乗り切っていくかというフォールバックのことを考えておく必要があるだろうと。それが今後、国際社会でリーダーシップを取っていく時、非常に生きていく筈だということでございます。
  以上の3点、簡単ですがコメントをさせていただきました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  他の皆さんからご意見をいただきたいと思います。
  どうぞ。

○島田 私は、国際交渉専門官の島田と申します。よろしくお願いします。
  まず、私自身も学生の時に米本先生の本を読ませていただきまして、ご本人にお会いできて非常に光栄に思っております。
  米本先生の発表以外にも幾つかコメントがありますが、短くさせていただきたいと思います。
  まず、1点ですけれども、先ほど国際対策室長の和田から説明がございました気候安全保障、Climate Securityの資料3-2の3つ目のポツですが、「各国の政策における最重要課題としての位置づけを促進」と書いてありますが、大変申し訳ないのですが、私はもうこれは既にとても遅いと思います。
  アメリカの方でも既に政策転換といいますか、意識の転換が起こっておりまして、今まではCEQというホワイトハウスの下のところの評議会のところにあったのですが、最近の決定で、現在、ナショナル・セキュリティ・カウンセルの方にこの気候変動セキュリティ、Climate Securityの問題の検討作業の既に権限が移っております。誰が今リーダーをしているかというと、ライス国務長官です。
  ですので、今、外交問題、安全保障問題としてホワイトハウスの中に既にもうこの検討が始まっております。また、先週、小島地球環境審議官と私は議会の会議に参加させていただきましたが、その場でも主要な議会の上院議員会議に於いても既にClimate Securityという言葉を使っておりますので、既に日本から何かを出したところで位置付けが促進されるという時点ではないということで、私からお話し申し上げるのは大変申しわけないのですが、検討を本当に急いでいただきたいと。
  今、EUとアメリカの方でも2本柱が立っていますので、国際政治上の3本目の柱、日本から何か気候変動のセキュリティ、Climate Securityというのはどういう意味かということをやっていただきたいと思います。
  米本先生のプレゼンテーションにもございましたが、17ページです。水没によって領土削減が起こる恐れがあるので、これがハイ・ポリティクス化してくると18、19ページともつながってくるわけですが、同時にもう今水が枯れて、干ばつの問題でも非常に安全保障問題化していると。この一番の原因となっているのが、今スーダンのダーフルのケースですので、これも私は元々環境省に来る前はずっと国際交渉の自然交渉官というのをやりましたので、そういう意味では非常に自分の元職の方で問題になっている段階だということです。
  あと、1点ですが、また2001年のちょうどテロがあったのでオジャンになってしまったのですけれども、既にあの時点で国連の中に、気候変動問題というのは安全保障理事会で扱う問題であるというような位置付けにしようという話になっていて、テロが起こりましてぶっ飛んで、今は何も起こっていなかったのですが、この流れは新しい潘国連事務総長になってもう一つ強まると思いますので、恐らく安全保障理事会の下に置かれます。
  色々とありますが、最終点として、米本先生の19ページの最後の点なのですが、「安倍ドクトリン」=「アジア環境構想」というのがあるのですが、これは例えばどういう内容を想定されているのかという点と、もう一つは、やはりフィージビリティのところでしょうね。日本がこういうドクトリンとしてアジアに打ち出した場合に、どういう意見になってくるのかなという点が非常に疑問です。
  1点、もう既に中国では、中国の影響力が非常に強いものですから、中国自身に今何かイニシアチブでもとらせて、内容は日本が入れるというのか、その逆をとるのか。いろいろやり方があると思いますが、戦略を練る上ではこの「安倍ドクトリン」は私は非常にいいと思いますけれども、どういう形で出すのか。
  また、先ほどの、もうお帰りになりましたが、高橋先生の方からG8の方でという話がありましたが、昨日イギリスのブレア首相の方からも、既にEUというのは環境技術での、グリーン技術での優位性というのは非常に失われていると。アメリカもアジア諸国ももう付いてきているので、いつまでも寝ぼけたことはヨーロッパ自身も言うべきではないということで、実際20年前に20%削減とかいう目標に関しては、大々的にサポートすると言っております。

○西岡委員長 米本さん、もうお時間ですね。

○米本委員 はい、どうもありがとうございました。

○西岡委員長 では、明日香委員。

○明日香委員 今までのお話での感想なのです。ちょうど今小島審議官がおっしゃった通り、日本の社会に安全保障なりClimate Securityがぽっと落ちるかというお話なのですが、多分、鶏と卵でやはりトップダウンも非常に重要だと思うのです。確か去年の12月の国連総会でイギリスのベケット外務大臣は、50分位の演説の時、35分位温暖化の話をずっとしたらしいです。多分、我が国はそういうことはなかったと思いますし、そういう非常にカラーの違いを感じました。
  やはり日本というのは、セキュリティということに他の国とは全然違う国民意識を持っていると思うのですが、そこは変える、両方のトップダウンの非常に努力が必要なのかなと思っております。
  これも今の、ご参考までになのですけれども、EUパーラメントですか、EUカウンシルの方ですか、20%削減というのを入れてある。で、30%国際行為があればということなのですけれども、EUカウンセルの方はもっと過激な方向で、30%を全部基本にしようという方向で進んでいる。それはそれで確かEUカウンセルが課するのが方針として可決されているので、以後、より色々な動きがあって、厳しいところはもっと厳しく動いているというのが今の現状かなと思っています。

○西岡委員長 他の皆さん、如何でしょうか。
  工藤さん、如何ですか。

○工藤委員 議論がClimateを中心としたセキュリティという形で、どういうふうに進めていくかということがあるのですが、先ほどアジアをちょっと出されていたので、やはりアジアで今議論をしようとした時に、1つはエネルギー・セキュリティとそれからちょうど米本さんがちらっとおっしゃったEnvironment Securityがまだまだ残っている部分があって、どういう形で日本がアプローチしていくのか。すなわち、気候変動のセキュリティをアジアで顕在化させるということが重要なのか、もしくはどこを中心とすると逆にClimateの部分もアジアでセキュリティがリードされていって、そういったアジア独自の取り組みが、例えばアメリカなりヨーロッパが主張している部分とどういう位置付けになるというのか。そういう1つの体系化みたいなものが必要なのかなという気がします。
  恐らくは、エネルギーを見ている人たちからすると、Climate Securityがその結果として付随的に付いてくる要素があるので、やはりエネルギーをリードしていきたいというところがあるでしょうし、中国の人からすれば、もしかしたら地域の環境問題というのがまだあって、実はそれを解決するする手段がClimateなりエネルギー・セキュリティをも解決するというその相互関係があるので、このClimate Securityという言葉そのものだけを独立して取り出すということは、余りアジアという地域性を見たときには得策ではない。
  一方で、ヨーロッパなりアメリカと色々議論する時に、日本はどういう交渉でこれをとらえているのかというようなことをいろいろ考える整理だとすれば、それはそれで重要だと思います。
  だから、その辺の例えばアジア太平洋パートナーシップなどというものは、その辺を今統合化したような形の中で捉えていこうとしていますので、そういったような見方とClimateというものにある意味特化していくという考え方をどう体系付けていくかというところは、日本の置かれている地域性を含めて重要なのではないかという気がいたします。

○西岡委員長 どうもありがとうございます。
  では、蟹江委員。

○蟹江委員 私、実は昨日ちょうど広島である方のドクター論文の審査に行っていたのですけれども、その時に原爆の平和記念館に行きまして、ちょうど安全保障という課題というのはこういう話なのだろうなというふうな感じというか、思いを強くしました。
  環境問題と安全保障というのは、要するに気候変動の場合は、先ほどの米本さんのお話の中でも、戦争以外の国境変更というのは今までないというお話がありましたけれども、そもそも物理的に領土が削減されたと、無くなるということはないわけで、ただ気候変動というものが進んでいってしまうと、例えばツバルというのが、そのものがなくなってしまうと。そうすると、やはり原爆直後の広島の何もなくなったような図を見てきましたけれども、そういう同じことが起ころうとしているのだということが、環境問題に関する安全保障というものの一番の根元の話なのではないかなという感じがしました。
  ただ、そういう意味での戦争というか、安全保障の問題というのは、我々これまでも経験していると思うのですけれども、気候変動の問題は過去の経験が全くないというところで、1つの難しさが出てきますし、先ほどの米本さんのお話にもありましたけれども、科学と政策とのインタラクションという部分、あるいは科学と政策とのインタラクションのデザインというのが非常に重要になってくるのではないかなと、そんなことを感じながら帰ってきました。
  で、もう一つは、環境の安全保障あるいは気候変動の安全保障というのを考えた時には、予防原則というのが1つの考えを支える柱になるのではないかという気がします。1つは、そもそも安全保障というのは広島のような惨状が起こる前に、事前にそういう戦争のような状態を防ごうと。あるいは、戦争も安全保障の1つの経済学的な考え方もありますけれども、少なくとも人が殺し合いをするのをやめようと、事前に防ごうという考えがあると思うのですけれども、その意味では非常に予防原則という考え方と気候の安全保障というのは親和性が高いというか、我々には予防原則という考え方があるじゃないかというような気がいたします。
  それから、先ほどもお話しにありましたけれども、あと1点、私がこの議論を通じて感じたのは、やはり主体が変化していると。安全保障の考え方自体も変化しているというところは非常に重要なポイントで、先ほど工藤さんからのATBの話とかもされていましたけれども、そこで扱われている主体というのも、国が中心ではなくどちらかというと企業が中心であるということだと思いますし、今、気候変動の影響を一番受けやすいというのは一般市民、特に脆弱な地域の人々ということになると思いますし、一方で行動する主体というのも、国を含めて色々な主体があると。従来の国を中心とした安全保障という考えを打ち破らないと、この気候変動に関する安全保障という問題は扱えないのではないかという気がしています。
  論点がいろいろ拡散しましたけれども……。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  では、隣の亀山委員。

○亀山委員 お先に失礼します。
  もういらっしゃらなくなりましたけれども、先ほどの米本先生のお話の中で、シュワルナゼあるいはゴルバチョフの1988年のスピーチの話がありました。ちょうど私、そのとき大学生で国際政治学の学生をやっていまして、あのスピーチを見て環境問題と政治学というものを卒論に取り上げようとしたきっかけとなったので、すごく感銘を受けていたのですけれども、それ以降、20年近く研究をやっているなと思いながら、高橋先生が30年前のお話をされたので、私はやはりまだ若いのかなと思ったり、喜んでいたのですけれども。
  雑談は置きまして、卒論を取り上げたときに、非常に環境問題がハイ・ポリティクス化しておりました。サッチャー、ミッテラン、コールといった政治家がここぞとばかり地球環境問題の話をしたのが1988年、1989年。あのあたりの背景を考えてみますと、ちょうどオゾン層の話と酸性雨の話というのがようやく合意に至って条約化されていった時期だったのです。それで、次は何かというとやはり温暖化ではないかという話が出てきて、そういうふうに思いますと、環境問題がハイ・ポリティクス化する時期というのは、非常に最後の最後の時期なのですね。
  科学に『ネイチャー』や『サイエンス』でいろいろな問題を取り上げられるのが、もし先行指標として位置付けられるのであれば、政治家が、国のトップが環境問題の話をするというのは土壇場なのです、一番最後。ですので、それをその20年前の現象を思い起こしますと、今、去年あたりから環境問題、温暖化問題がハイ・ポリティクス化してきたという事象を第三者的に客観的に見ると、非常に危うい時期だというふうにお考えいただきたいなというふうに思います。
  それで、その危ういと国家の首長が主張してから大体3年ですね。1989年にハイ・ポリティクス化して、山が1992年の地球サミットであった。それから、気候変動枠組条約の採択であったり、大体ハイ・ポリティクス化してから3年ですごい大きなメルクマールがあるということを考えますと、やはり2009年から2010年あたりにすごく大きな山があるというふうにお考えいただいて計画を進めていかれた方が良いのではないかなと思います。
  2点目ですけれども、第2回、第3回と安全保障の概念についての整理という作業をすることになっておりますけれども、その整理をする際の1つの観点として、やはりどこをオーディエンスとして整理していくかということを念頭に置くことが重要だと思います。
  今日の他の委員の先生のご発言を伺っても、アメリカがセキュリティという概念に敏感だという意見もありましたし、アジアということをお話しされる先生もいらっしゃいました。蟹江先生のように、主体はもう国家だけではなくて、産業界とか一般市民だったり、やはりそこが1つではないかというご意見もありました。あるいは日本政府を動かしたいというのが、もしかしたら環境省さんのお考えなのかもしれません。
  どこをターゲットとしてこの作業をするかということによって、もしかしたらこの安全保障の概念の整理の仕方が随分違ってくるかもしれない。そういうことを念頭に置いて私自身も2回参加していきたいと思います。
  以上でございます。

○西岡委員長 ありがとうございました。
  では、住委員。

○住委員 小島審議官が言われた安全保障という言葉なのですが、やはりここの言葉が出てきたということは、非常に注意した方がいいと思うのは宗教の問題なのです。アメリカはキリスト教です。悪魔がいるのです。敵というのが必ずいるというのは安全保障の原則なのです。だから、そうすると普通人の安全保障と言った場合でも、例えば天災、地震、津波などは多分敵ではないけれども、それを起こすものがあって、それに対して守るということですよね。ところが、気候変動の場合誰が敵かというふうに……。要するに自分たちが敵。それはモラルの運動では多分ないはずで、特に国際政治の中で考えると、インプリシットにターゲットは絶対設定されるはずですよね。誰が敵なのだと。
  ただし、誰かが悪さをしているから安全を犯されるのだと。そこのロジックがどうなるかは知りませんけれども、必ずそういうことが出てくることがあって、僕はものすごくアメリカが入ってくると意外と米中というのが非常にいい線だなという気が僕はしなくもないのです。
  そういう観点で、必ずやはり安全保障という言葉が出た段階で、しかもハイ・ポリティクスになった段階で、明確に書くか書かないかは別として、仮想敵国なり何かは絶対想定されている筈だと僕は思います。そうでないと、道徳運動になってしまうのです。皆さん、自分たちが敵なのですよということを言うのだったら、それはもう安全保障の議論ではなくて道徳運動になってしまいますから。多分外交交渉とかそういう国家的なレベルにした時の、そこのところの対応策を非常に上手く持っていかないまま、方便だと言って付いていくと、結構アメリカのしたたかなポリティクスに巻き込まれる可能性もあるし、そこを非常に注意した方がいいと思います。

○西岡委員長 それでは、高村委員。

○高村委員 ありがとうございます。4点ほど述べたいと思います。
  1つは、この時期にClimate Securityという問題を取り上げることの意味について述べたいと思います。いくつか既に先立つ委員の方、米本さんからも小島審議官からもございましたけれども、私が1つ強く強調したいのは、現在の安全保障、国際の平和と安全に責任を担う安全保障理事会の常任理事国であるイギリスから、温暖化問題が安全保障の問題として提起をされているということです。そして、同じくそのイギリスというのは、温暖化にかかわる国際交渉において常に欧州とアメリカのかけ橋としての役割を果たしてきたという意味で、イギリスがこの問題をこの時点で出してきていることの意味ということを理解する必要性をまず感じます。
  そして、Climate Securityを今取り上げることの意義として、もう一つの点は、むしろこちらが本道でありますけれども、先ほどのIPCCの報告をうかがうと、亀山さんの発言とも関わるのですが、いわゆるサイエンスから極めて大きな脅威であるということが強く打ち出されているにもかかわらず、それに見合う国際政治、国内の対応ができていないというそのギャップというものを、改めてこのClimate Securityという言葉で提起することで示そうとしているのではないかという点であります。
  そういう意味で、次回以降の議論を深めたいと思います、それに関わる残りの3点について述べたいと思います。1つは、安全保障の概念が、先ほど米本さんの報告でもありましたけれども、従来の伝統的な安全保障の概念からかなり広がってきている傾向が近年見られるという点だと思います。これは亀山さんを初め、既に過去論稿を書かれていらっしゃる方もいるのですが、いわゆる他国の軍事的な脅威からそれ以外の脅威の存在が認識され、あるいは守るべきものが国土、領土からよりもっと広く人間オリエンティッドな、人間にフォーカスを当てた安全保障概念に広がってきているということがあります。
  しかし、他方で、3点目になりますけれども、ここで考える必要があると思いますのは、Climate Securityという文脈において、果たしてそれが日本と日本の国民にとってどういうタイプの脅威なのかということをやはり考える必要があるのではないかというふうに思います。つまり、安全保障概念の広がりということを第2点目に申し上げましたけれども、様々な概念の整理はできるかと思いますが、温暖化問題が日本にとって、日本の国民の安全保障にとってどういう意味を持つのかという点であります。
  1つは、伝統的な領土保全という安全保障の観点から言っても、海面上昇の影響というのは極めて日本の領土保全にとって大きなインパクトを持つというふうに明確に言うべきだというふうに思います。これは、以前、専門委員会で横田先生のご指摘がありましたが、例えば沖ノ鳥島を一生懸命護岸工事して排他的経済水域を維持しておりますけれども、仮に海面上昇が本当に予測された通り起こり、沖ノ鳥島が水没した時に、失われる排他的経済水域というのは日本の国土に相当する排他的経済水域です。これをどういうふうに捉えるのかという問題です。これは、伝統的な安全保障概念の中でも既に安全保障の問題として捉えられることができるタイプの問題ではないかというふうに思います。
  そして、3点目でございますけれども、日本にとって果たしてClimate Securityという概念が新しいものなのかどうかということは、同時に問い直す必要があるだろうと思います。1つは、今言いました伝統的な安全保障概念でも気候変動の脅威というものは捉えられるということとあわせて、工藤さんの方からもありましたが、食糧安全保障ですとか、エネルギー安全保障というのは、明らかに気候変動の影響と関わっている部分があります。さらに言いますと、人間の安全保障概念というのを非常に強く推進してきた日本の外交の経緯から言いますと、必ずしもこのClimate Securityというのは新しい、新奇なものではなくて、従来の日本が考えてきた安全保障の概念の中でも十分に整理し、かつ今の新たな脅威をとらえ直すことができる、そういう性格のものではないかというふうに思います。
  そういう意味で、今後の検討の視角として3点申し上げたいと思います。
  以上です。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  それでは、太田委員から明日香委員で終了にしましょう。

○太田委員 今まで発言された蟹江委員、そして亀山委員、そして住委員、そして今の高村委員の話に少しずつかぶるようなお話だと思いますけれども。
  まず、住委員のお話で、安全保障というからには敵が要るということで、それで環境問題で安全保障という概念を使うのはよろしくないという批判は確かにあったのです。米本委員が少し触れられていたのですけれども、具体的に、「環境安全保障」("environmental security")という概念は紛らわしい概念だと、非常に誤解を生じさせるような概念を環境問題に使わない方がいいという意見。それはなぜかというと、今言われたように、軍事の方では意図的に敵が攻撃するということです。環境問題は意図的な攻撃をする人はいなくて、反意図的な結果として起こってしまうというところがあるので、一般的に軍事的な"security"(安全保障)を連想させるような"security"という言葉を環境問題に適用するのはよろしくないのではないかということは確かにあります。
  ただ、私事で恐縮ですが、自分がこの気候変動問題に関心を持ちだしたのは、元々はアメリカの核戦略を勉強していたとき、カール・セーガンの言っていたような核の戦争による「核の冬」という問題が大変だなと思っていた時に、温暖化という問題が発生しまして、亀山委員のように研究課題としてこれは非常にハイ・ポリティクスの要素のある問題で、核兵器の戦争の問題は非常に将来的に暗いイメージがあって、自分の精神衛生上もよくないので、こちらの温暖化問題はまだ救えるチャンスがあるとか、将来に向けての話だから、そちらの方に自分の研究関心を移行させていって、多少安全保障の観点からこの問題を勉強した時期がありました。
  今、この視点からの研究から遠ざかっていますが、そのときに、冷戦の終結以前、そして終結直後は盛んに安全保障の概念の再定義という、安全保障の再定義("redefining security")という議論を、例えばジェシカ・マシューとかリチャード・ウルマンといった国際関係の学者も展開ました。しかし、先ほど申し上げたような観点から環境安全保障などの批判をする学者もいます。
  では、一体どうなのだろうということで、実証的に環境の劣悪化と紛争の関係を検証するという学者も出てきまして、それがホーマー・ディクソンを代表とする研究グループがいるのですが、そのグループ、初めは温暖化とか酸性雨の問題も環境問題に起因する安全保障問題として対象に挙げていたのですけれども、よくよく実証的にやっていくと、なかなか危機が顕在化しないし、急性的な紛争に至らないということで、当面、水の問題とか土壌の劣化とか、そうした環境の劣悪化が紛争を導くという、そういう実証的な研究がなされてきました。
  その反面、あるイギリスの学者らは、安全保障にはどういう側面があるのだろうかということで、当然、軍事的な安全保障が第一義的で、攻撃的な敵対者から人の生命や国を守ることが最重要視される。しかしそれだけではなく、経済的な安全保障というものも重要で、経済の繁栄、福祉、あるいはエネルギー問題が非常に安全保障問題として重要であると。さらに社会文化的な安全保障ということで、国の思想なりアイデンティティなり伝統的文化なり、そうしたものを守るということも重要である。そして最後に環境の安全保障ということで、今申し上げたすべての活動の基礎となる環境や生態系の維持が必要であると。以上のように安全保障の諸側面に注目して議論をする学者もいます。
  それで、今回、この気候変動の問題と安全保障という概念、これはやはり今申し上げた軍事、経済、社会、すべてを包括して、気候の安定あるいは不安定というものが食糧生産にも影響を与えるし、エネルギー多消費型の今の文明のあり方が環境、ひいては社会的な影響も与えると。そういった全てを繋げるような形で、この気候の不安定によって引き起こされる様々な問題が非常に強い介在的要因として紛争を助長するのではないかという、そういう議論がどうもしているのかなという気がします。
  そして、日本のことで言いますと、皆さんもご存知だと思うのですけれども、1970年代にオイルショックがあって、政治的なニクソンショック(金・ドル兌換制の一方的廃止と日本の頭越しの米中接近)とオイルショックがあって、日本は非常に真剣に食糧やエネルギーの安全保障も含む、包括的安全保障("comprehensive security")をどのように実現すべきということで、大平総理の私的諮問の九つの研究グループが形成されて、そのうちの1つが包括的安全保障概念研究でした。
  その時に、伝統的な軍事的安全保障や国際経済体制の安定に加えて、エネルギー、食糧、そして地震という問題に備える必要があるのではないかという研究報告がなされています。この成果を真剣に受け止めて自らの政策に反映させたのが中曽根総理と言われていますけれども、こうした包括的な安全保障概念を、おおよそ1970年代後半から1980年代初頭にかけて、日本もある程度研究した時期がありました。安全保障という概念そのものは、軍事的な意味合いを強く連想させるということで、戦後の日本社会では一般的には使われなかったと思うのですけれども、色々な包括的かつ複合的な問題として安全保障を捉えようとした為政者の努力はあるのです。
  それは、高村委員が言われたように、日本にとっては非常に切実な問題としてこの気候の変動が与える様々な物理的な影響を、いよいよ大きな脅威としてとらえる必要があって、それを踏まえて安全保障の概念をどの様に包括的な概念として捉えるか、あるいは日本独自の視点を加えたものとするか、ということは非常に重要なのだなと思います。

○明日香委員 私も、皆さんのお話を聞いて思ったことを何点かお話しさせていただきたいと思います。
  まず、住先生の敵国を想定するという、まさにその通りだと思っていまして、端的に申し上げて、中国が仮想敵国になっているような昨今の風潮があるような気はしています。私も直接関わったのですけれども、数カ月前に週刊誌のインタビューを受けたのですけれども、見出しは、「中国発の異常気象」ということでして、それはおかしいのではないですかと私は言ったのですけれども、そういう編集方針で決まっているので、中身に関係なくだめですと却下されました。
  クダゲンはそうですし、そういうイメージ、多分アメリカは前は中国が参加していないからということだったと思いますし、変わるかもしれませんが、日本では他の問題も含めて仮想敵国・中国というのがあるのかなという気がしますし、それはちょっと懸念されるところだと思います。
  2点目なのですけれども、その辺はEUなりイギリスはある程度わかっていて、もっとコミュニケーションなりパートナーという方向で中国とくっつこうとしているのではないのかなと。その1つの努力が、中外対話というホームページにウェブページがありまして、www.chinadialog.comなのですが、そこは非常に温暖化問題で中国といわゆる西側なりEUがどういう議論をできるか、どういうことが共有できるか、日本語と中国語で、スターン・レポートが中国にどういう影響を与えるかとか、どういうふうに書かれているかとか、非常に細かいことをやっています。で、やはりそこは、イギリスは違うなと私は思いました。
  では、そういう議論が中国なり途上国でどう考えるかという話なのですけれども、今、3点目なのですけれども、多分、皆さん思っている以上にso whatのところがあると思うのです。というのは、私、よく言うのですけれども、ハリケーン・カトリーナの被害が、3,000人ぐらいの方が亡くなったあれですが、去年、中国でも洪水で3,000人ぐらい亡くなっているのです。それは日本の新聞には殆ど取り上げられない。だから、中国なり途上国にとっては、既に起こっているクライシスであって、これから起こるような話ではないと。3,000人が3,300人に死ぬ人が増えたからといってso whatと言う。
  だから、先進国はこれこれをやれというのが、全然途上国の現状を異常気象で年間数万人――3万人か4万人位なのですけれども――世界中で死んでいるという状況で、ほとんどが途上国だということを先進国は知らないのではないかと、そういうような反応をしてくると思います。そういう反応をしています、僕の知っている限りでは。だから、それに対して色々反省点もあるでしょうし、どういう様なチェックを先進国の方が作れるかということだと思います。
  4点目は、ちょっとお話の毛色が違うのですが、やはりヒューマン・セキュリティという言葉がテーマ、多分それをある所ではヒューマって、あるところではヒューマってなくて、私も世界的なレベルでどの程度というのは分からないのですけれども、それで人間の安全保障という言葉を上手く広める努力で、上手くいったとかうまくいかないというのが多分あると思うのですけれども、それの上手くいかなかったところを一生懸命勉強して、Climate Securityという言葉をより変わるものになるか、それとも一部にするのか、外務省とも色々議論しながら、日本のClimate Securityという定義をしていくなり宣伝をしていくべきなのかなと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
  私も何か言いたいところですが、時間もございませんので、皆さんのご意見、本当に示唆に富むことが多かったと。これを良くまとめていただいて、次の議論にぜひ生かしていただきたいという具合に思っております。
  他に何か事務局の方でございましょうか。

○和田国際対策室長 特にございません。
  次回の日程につきましては、また、事務方の方からご連絡させていただきまして、3月中下旬あたりで設定させていただきたいと思っておりますので、何とぞよろしくお願いしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

○西岡委員長 それでは、今日の委員会はこれで終了いたしたいと思います。どうもありがとうございました。

午後12時41分閉会