中央環境審議会地球環境部会第12回気候変動に関する国際戦略専門委員会議事録

開催日時

平成18年3月14日(火) 14:00~17:12

開催場所

法曹会館 2階 高砂の間

出席委員

(委員長)

西岡 秀三

(委員)

明日香 壽川
亀山 康子
新澤 秀則
原沢 英夫

甲斐沼 美紀子
工藤 拓毅
三村 信男
(報告者)

赤井 誠
独立行政法人産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門
分散システムグループ長

欠席委員

住 明正
高村 ゆかり
横田 洋三

高橋 一生
松橋 隆治

事務局 小島地球環境審議官
竹本水・大気環境局長
梶原地球温暖化対策課長
水野国際対策室長
吉川研究調査室長補佐
笹谷審議官
清水総務課長
山本調整官
竹本室長補佐

議題

  1. 気候変動問題に関する最近の国際動向について
  2. 適応対策について
  3. その他

配付資料

資料1 気候変動に関する最近の国際動向
資料2-1 CO2回収隔離技術の現状と展望
資料2-2 CO2回収・隔離技術-R&Dから政策課題化へ
資料3-1 適応5ヶ年作業計画の概要と今後の課題
資料3-2 本専門委員会における適応対策の議論について
資料3-3 地球温暖化の適応に関わる科学的知見(原沢委員提出資料)
参考資料1 環境省報道発表資料:
気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)及び京都議定書第1回締約国会合
(COP/MOP1)概要と評価
参考資料2

環境省報道発表資料:
クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ第1回閣僚会合の結果について

議事録

午後2時00分開会

○水野国際対策室長 それでは、定刻でございますので、ただいまから気候変動に関する国際戦略専門委員会第12回会合を開催いたしたいと思います。なお、昨日行われました中央環境審議会第7回総会におきまして、中央環境審議会の運営方針の一部が改正をされ、環境への配慮について、会議資料として配布する紙の枚数を必要最低限にするということで環境負荷を削減するように努めるということになりましたので、今回、資料を縮小印刷しておりますので、ご了承をいただければと思います。
 それではまず、小島地球環境審議官より一言ご挨拶を申し上げます。

○小島地球審議官 地球環境審議官の小島でございます。本日は、お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 昨年の11月から12月にかけてモントリオールで COP11、COP/MOP1が開催されました。そこで京都議定書の実施に関するいろんな諸ルールが決定をされました。あわせて2013年以降の検討が始まったわけでありまして、3条9項、いわゆる先進国の約束、それから9条の議定書の見直し、条約の見直しに関する条項、そして長期的及び対話が始まる。こういう2013年以降の議論が始まったというふうに認識しております。あわせまして気候変動の影響というものが予測されたよりも早く大きくあらわれつつあるというような報告がたくさん出されてまいりました関係で、適応策に対する関心も高まってきております。緩和対策の補完的な役割という適応策でございましたけれども、次期の枠組みにおきましては避けられない気候変動に対する適応策というものが大きな位置づけをもってくるということも予測されるわけでございまして、COP11においては適応の5ヶ年作業計画も決定をされております。その中身をこれから詰めていくという作業が国際的にはございますけれども、我が国もそれに対応できるようにこの適応策について詰めていく必要があると思っております。
 また、緩和対策でありますけれども、温室効果ガスの排出の抑制とともにその温室効果ガスを吸収していく、これまでは自然の吸収源というシンクの問題でございましたけれども、IPCCからいわゆる工学的にCO2を回収・隔離していくという新しい吸収をする方策も報告が出まして、その炭素の回収・隔離技術というものもクローズアップをされてきております。中長期の技術として注目もされております。
 本日はこの適応の問題、そして炭素の回収・隔離技術ということについて、ご審議をいただけるということでございまして、今後の枠組みの議論に大いに活かしてまいりたいと思っております。これから我が国の国際的な対応で交渉が始まっていくわけでございますけれども、この専門委員会におけます議論というものを踏まえまして積極的な対応をしてまいりたいと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いをいたします。

○水野国際対策室長 それでは、議事進行につきまして西岡委員長、よろしくお願いいたします。

○西岡委員長 小島審議官、どうもありがとうございました。お手元に議事次第がいっております。きょうの議題は3つございますけれども、3番を除きまして大きく2つございます。最初に事務局の方から「気候変動問題に関する最近の国際動向」ということで、この数ヶ月にあった動向についてお話をお願いしたいのですけれども、これと関連いたしまして独立行政法人産業技術総合研究所のエネルギー技術研究部門分散システムグループ長、赤井誠さんにおいでいただきまして、IPCCが昨年の秋に公表いたしました二酸化炭素・貯留技術に関する特別報告書ということについてのお話をおうかがいしたいと思っております。
 といいますのは、私どものこの委員会自身は国際戦略をどう立てていくかということでございますが、その抑制の方法の中でも最近はCCS( Carbon Capture Storage)といわれている二酸化炭素の回収・貯留技術がどういう役目をするのだろうということなしには論点ができないという状況になりつつあるかと思います。きょうは赤井さんの方からその主として技術的な状況はどうなっているのかというお話をおうかがいしながら、これが政策的にはどういう意味を持っているかについては、また続けて考えていきたいという具合に考えている次第です。
 それから2つ目の議題でございます。適応対策の議論について事務局からお話をいただきますけれども、そのあと原沢委員からは適応に関する科学的知見ということでお話をいただきたいと思っております。これにつきましても、もう長い間、その適応策は必要だよという話がいろいろいわれてきて、かつIPCCの方でも気候変動が思ったより早く進んでいるなという感じがアナウンスされつつありまして、そういう面から考えますと、日本にどういう適応策を考えなければいけないかということについても考慮しなければいけませんし、あるいは国際的社会で日本がどういうスタンスでこの問題を取り扱っていくかという、この2つの面から検討をする必要があるかと思っております。そういうことを念頭に入れていただいて、きょうの2つの事務局からの話、それから原沢委員からの話をおうかがいして、議論をいただきたいと思っております。ですから、お話を聞いていただいている間に我々はいったい何をしなければいけないかというようなことを考えて頂き、ご意見をあとでいただきたいと思っております。この論議はきょうだけで終わるとは思っておりません、まだあと数回この論議をする必要があるかと思っておりますので、きょうはいくところまでいってみたいという具合に思っております。
 予定では17時までの3時間を予定しておりますけれども、早く終わるのでしたら早く終わらせたいと思っております。
 最初に資料の確認をお願いいたします。

○竹本室長補佐 それでは、着席のままご説明いたします。まずお手元一番上に議事次第と資料一覧がございます。その次に座席表を挟みまして資料-1 気候変動に関する最近の国際動向、資料2-1 CO2回収隔離技術の現状と展望、資料2-2 CO2回収・隔離技術-R&Dから政策課題化へ、続きまして資料3-1 適応5ヶ年作業計画の概要と今後の課題、資料3-2 本専門委員会における適応対策の議論について、資料3-3 地球温暖化の適応に関わる科学的知見、このあと参考資料でございまして、環境省の報道発表資料でございます。
 まず1つ、参考資料1ですが、モントリオールで行われましたCOP11とCOP/MOP1の概要と評価、続きまして、参考資料2といたしまして、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ第1回閣僚会合でございます。不足がございましたらよろしくお願いいたします。
 以上です。

○西岡委員長 資料の不足ないと思いますので進めさせていただきます。
 昨年のCOP11あるいはCOP/MOP1など気候変動に関する最近の国際動向ということで、事務局からお話をお願いしたいと思います。

○水野国際対策室長 それでは、昨年の後半以降の主な動きにつきまして、ご説明をさせていただきたいと思います。
 まず、最近の国際的な動きは大きく3つの流れに分けて考えることができると思います。まず、この図を見ていただきますと一番左側、これがCOP及びCOP/MOPの流れでございまして、これと同時並行的にG8のプロセス、それからその他ということでアジア太平洋パートナーシップですとかIPCCのような動きがございます。まずCOP及びCOP/MOPの動きでございますけれども、昨年末、11月から12月にかけましてモントリオールで会議が開催をされまして、この会議の結果、あとで詳しくご説明をさせていただきますが、京都議定書の実施基盤が整備をされたということと同時に、将来の行動に向けた対話等が開始をされるということが決まっております。これを受けまして今後2006年、2007年、2008年と順々に会議が続くわけですけれども、まずことしの5月には補助機関会合の中で3条9項、これは議定書に基づきまして先進国の次期以降の約束について議論すると、検討をするという規定でございますけれども、これについて議論をすることになっております。
 それから、COP11の決定に基づきまして米国や途上国を含む長期的な協力に関する対話というものも始まります。11月にはCOP/MOP2がケニアで行われまして、ここではさらに議定書全体のレビューを規定した議定書の9条に基づく議論が始まりますし、さらにその翌年にはアジアでCOP/MOP3が開催されるという動きになる予定です。一方、G8でございますけれども、これは昨年既にご説明をさせていただきましたが、7月にグレンイーグルズ・サミットで気候変動問題が主要議題の一つとして取り上げられまして、その結果、G8プラス新興経済諸国と対話を開始していくということが決まっております。これを受けましてことしの秋にはメキシコ、さらにそれ以降議論を深めて2008年の日本が議長国のときに、その成果を報告するというようなプロセスが決まっております。またG8本体につきましては、ことしはロシアが議長国でエネルギーを主要課題にするということが決まっておりますし、来年はドイツ、その次は日本ということで議長国も決まっております。その他といたしましては、ことしの1月にAPPと略しておりますアジア太平洋パートナーシップというものが正式に立ち上がっております。
 まず、COPの流れのところからご説明をさせていただきます。昨年の11月から12月にかけましてモントリオールで開催されましたCOP11及びCOP/MOP1でございますけれども、ここに書いてございますように約1万人弱の人々が参加されたということで、COP3以来の大きな会議だったのではないかというふうにいわれております。また、この会議は将来の行動、すなわち京都議定書の第1約束期間が終了する2013年以降の枠組みについての議論が開始される会議であるということで、大変大きな注目を集めた会議でもありました。
 この会議での主な課題でございますけれども、これは事前に議長国であるカナダがこの「3つの"I"」ということで整理をしておりました。1つ目が Implementation、京都議定書の「実施」であります。2つ目が Improvement、京都議定書のもとで既に動いている制度の「改善」でございます。さらに3番目が Innovation、「創造」ということで、2013年以降の将来の行動をどうするということであります。結果といたしましてはいずれの「3つの"I"」それぞれについて成果があったということでございまして、それを順を追って説明をさせていただきます。
 まず、最初のImplementation(実施)でございますけれども、これは京都議定書を実施に移すということを意味しておりまして、まず大きな成果の1つは、マラケシュ合意が正式に採択をされたということであります。これはすなわち京都議定書の実施運用ルールにつきましては、COP7でございますけれどもマラケシュ合意と呼ばれておりますが、COP7におきまして運用ルールが暫定的には決定はしていたのですが、これは文字通り京都議定書の運用ルールでございますから、正式にはCOP/MOPで京都議定書の提案会合で決定をする必要があるということでございまして、今回のCOP/MOP1で正式に決定をするということが目指されていたわけでございますけれども、これが無事に異論なく決定をされたということであります。この具体的内容といたしましては、吸収源の算定方法でありますとか、京都メカニズムの運用ルール、さらには排出目録等の算定方法等々が含まれております。
 2番目が、遵守ルールの採択ということでございます。これは削減約束を守れなかった場合、どのような措置をとるのかということにつきましては、実はその内容そのものは先ほど申し上げましたマラケシュ合意で決定をされておりましたが、その形式、措置の位置づけについてはこのCOP/MOP1で決定をするということがその段階で決まっておりました。それを受けまして今回、これをどういった位置づけをするかということの議論がなされまして、最終的に京都議定書の改正ということではなくてCOP/MOP決定という形で規定をするということがきまりました。これは言い方によりますと法的拘束力を持たない形ということができますが、これについては後ほどまた若干説明の補足をさせていただきます。
 それから3点目でございますけれども、こういったマラケシュ合意の採択、それから遵守ルールの決定ということを踏まえまして遵守委員会、それから6条監督委員会が立ち上がりました。遵守委員会は遵守の促進及び判断する委員会でございまして、6条監督委員会はいわゆるJIを監督する委員会であります。こういったことで京都議定書の運用ルールがすべて整ったということで、京都議定書を実施していくための基盤が整備されたということでございます。なお、若干遵守ルールのところだけ補足をさせていただきます。
 京都議定書の数値目標、日本でいえば-6%でございますが、これは法的拘束力がありまして、先進各国は目標達成の義務がございます。また、先ほど申し上げましたように、もしもこの目標達成ができなかったという場合にどうするかということについても、内容についてはマラケシュ合意の段階で決定をされております。ここに書いてございますように、1つには遵守できなかった超過分の1.3倍を第2約束期間から差し引く。2番目には遵守行動計画をつくる。3番目は排出量取引の売却の禁止ということが決まっておりました。
 で、今回議論されたのは、要するに数値目標の不遵守時の措置、今挙げたマラケシュ合意の措置に法的拘束力を課す。これはすなわち京都議定書にその措置を書き込むということでございますけれども、書き込むことにするのか、それともそこには書き込まないでCOP/MOP決定という別の文書の形でまとめるかということが議論されたということでございます。で、先ほど申し上げましたように文書に書き込むということについては引き続き、若干議論をしていくということになりましたけれども、今回のCOP/MOPといたしましてCOP/MOP決定をしたということで正式に遵守ルールが動き出したということでございます。
 これに基づいて設置された遵守委員会でございますけれども、ここには大きく、一番下に書いてございます促進部と執行部という2つの枠組みがございます。促進部は、議定書の実施について締約国に助言と便宜を与えるということで約束の遵守を促進するという役割を持っておりますし、執行部の方は、削減目標の約束の達成の確定及び京都メカニズムへの参加要件を判断するという役割を持っております。3月1日に第1回の遵守委員会が開催をされまして、促進部の方は浜中慶應大学教授が議長として選出をされております。なお、執行部の方はエスケトラーダさんというアルゼンチンの方が議長に選ばれております。
 以上がimplementation(実施)のところの成果でございます。
 2つ目、Improvementでございます。これは大きく分けて2点あります。1つは、CDMの改革ということでございます。CDMにつきましてはCDM理事会を中心に既に運用がなされていたわけでございますけれども、なかなかそのプロジェクトが承認されにくいと、時間がかかるというようなことがございまして、これをさらに促進し、その取り組みを加速していくためにどうやって改善したらいいのかということについて多くの国が関心を示しておりました。その結果、CDMはさまざまな角度で改善をしていくと、そして審査を迅速化していくということで、例えばCDM理事会ですとか事務局の強化案が決定をされましたし、そのほか省エネプロジェクトをさらに進めていく方向性についての議論ですとか、さらには炭酸隔離・貯留についてのCDMの提案も出ておりますので、これについてもちゃんと議論をしていくということが決まっております。
 それから2つ目が適応策でございますが、これは一昨年のCOP11で「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」というものが決まっておりますが、その中で適応に関する5ヶ年作業計画をつくるということが決まっておりました。この5ヶ年作業計画を今回のCOP11で決定することができたということであります。これによりまして途上国を中心に重要課題であります適応策の基本的設計が確立されたということでございます。
 以上大きくは2点でございますけれども、これによりまして京都議定書の制度の具体的促進、改善が図られたということができると思います。
 特に2番目の適応策につきましては、後ほどまた詳しくご説明をさせていただきますので簡単に申し上げますけれども、5ヶ年でどういった目的に基づいて、どういった作業範囲で、どんな方法で作業をするかということが決まっておりまして、さらに具体的な作業のプログラム等につきましては引き続き議論をして深めていくことになっております。
 最後の"I"でございますけれどもinnovation(創造)でございます。このinnovationにつきましては非常に重要なポイントであるというふうに考えておりますけれども、3つの点がございます。
 1つ目が「長期的協力のための行動の対話」ということで、これはCOP11のもとでの決定でございます。すなわち気候変動枠組条約、締約国すべてを含んだ形で長期的協力のための行動の対話が開始されることが合意されたということでございまして、それはすなわちアメリカですとかあるいは中国、インドといった途上国を含んですべての条約締約国が参加する形で長期的行動について対話を開始するということが決まったということでございます。これは一つには条約締約国会議のガイダンスに基づきということで、条約プロセスの中にしっかり位置づけられているということが1つ、それから最大4回のワークショップを2年間のうちに行うということでプロセス化されているということが指摘できることかと思います。ただし、この対話につきましては将来の交渉や約束そのものの予断を持たずに開催をするということで、一定の留保がつけられた形になっております。
 2番目は、京都議定書第3条9項に基づく検討の開始でございます。議定書の3条9項では2005年末までに先進国の次の約束期間について検討を開始するということが規定をされております。したがいましてこの規定に忠実に沿う形で今回、検討を開始するということが合意されたということでございまして、そのための具体的な場として特別作業グループというものが設置されることが決まっておりまして、先ほど一番最初のところでご説明をさせていただきました5月の補助機関会合からこの作業グループが活動を開始するということが決まっております。また、この作業グループの作業の内容についても若干の時間帯のタイミングについても規定がなされておりまして、第1約束期間と第2約束期間との間に空白を生じないようなタイミングで結論を出すことを目指すということが規定をされております。
 3点目が、議定書第9条に基づく京都議定書の見直しということでございます。議定書の9条には議定書全体のレビューということが規定をされておりまして、これをCOP/MOP2で行うということが書かれております。ただし、今回の会議ではCOP/MOP2まで待つのではなくて、その準備をCOP/MOP2に先立って進めるということが決定をされたということでございます。
 したがいまして、こうやって1、2、3と並べますと、簡単に申し上げますと1のところではアメリカや中国、インド等も含んだすべての国が参加する形で議論が行われるということ。2番目は、先進国の次期以降の約束についての議論が行われるということ。3番目のところではアメリカは入りませんので、京都議定書の議論ですからアメリカは入りませんのでアメリカ等を除く議定書の締約国が参加した形で議定書によった議論が行われるということになっております。ちなみに我が国といたしましては、かねてよりすべての国が参加する実効ある枠組みづくりが、次期枠組みについてはぜひとも必要だということで主張しておりますので、この1、2、3のそれぞれの取り組み、将来の構造に向けた取り組みのプロセスをいかに統合していくかということが課題ではないかというふうに認識をしております。
 以上が主な「3つの"I"」の成果の概要でございますけれども、若干モントリオールで各国がどのような発言をしたかということをここに整理をしております。抜粋ですので必ずしも全体像として適切かどうかということはあろうかと思いますけれども、紹介の意味でここに掲げさせていただきました。日本につきましては先ほど申し上げましたように、すべての国が参加する実効ある枠組みが必要ということで、つまり取り組みというのは条約の究極目的を目指してそこに向かうようなものとしてつくっていかなければいかんというようなことなどを主張していったということであります。またECも先進国が率先して取り組むということと同時に途上国もしっかりと役割を果たすべきであるということを主張しておりますし、英国のところを見ていただきますと、特に具体的にEUとして2020年までに15%~30%、またはそれ以上の削減を目指す戦略をつくるというようなことも明言をしております。アメリカにつきましては、特に技術が重要であると。技術が鍵であるということはかねてより主張していたわけですけれども、ここでもそのことを強調しておりまして、技術協力の枠組みが重要であるということを主張しております。G77及び中国は、まずは先進国がしっかりやるべきということを言っておりますし、他方中国は、もう少し前向きに共通だが差異ある責任のもとで今後を考えていくべきだということを言っております。逆にインドは、2013年以降については先進国の義務を設定するものと考えているということで、途上国についてはいっさい議論の余地なしというようなことをにおわせているところもあります。
 以上のようなことでG77プラス中国の中では多様な意見が見えつつあるということがうかがえたということであります。
 次に、その他の国際的取組について若干ご説明をさせていただきます。これは先ほど冒頭にご説明をしました、まずG8のグレンイーグルズ・サミットの成果でございますけれども、これは昨年の7月に開催をされたときに1、2、3の3つの成果が得られました。「科学についての認識の共有」、それから具体的な行動についての前身ということで「グレンイーグルズ行動計画」の策定、それから3番目に「新興経済国とのパートナーシップ」ということでG8に限らず新興経済諸国ということでここでは5ヶ国ぐらい選ばれておりますけれども、そういった国々と対話をして今後さらにその対話を強化していくということで、これがプロセス化をされたということでございます。
 その第1回目の対話の会合が昨年の11月にロンドンで開催をされておりまして、この会議には約20ヶ国、1ヶ国不参加でしたので19ヶ国が参加しまして、また世銀ですとかIEAなども参加して将来の低炭素社会の実現に向けてどのように国際協力を進めていくかということについての具体的方策についての議論がキックオフされたということであります。これにつきましては、また引き続きことしはメキシコで議論されるということになっております。
 次に、ことしの1月12日に立ち上がりました「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」でございます。こちらここに書いてございますように参加国が6ヶ国ということでございまして、米国が主唱国でございますが、そのほかにオーストラリア、中国、インド、日本、韓国の6ヶ国でございまして、ここでは非常に特徴的なこととしては官民のパートナーシップというのを前面に打ち出しておりまして、各国の代表と同時に民間企業の首脳レベルの方々が同時に会議に出席をして議論をしたということが特徴として挙げられます。
 また、この第1回の閣僚会合ではこのアジア太平洋パートナーシップが正式に立ち上がると同時に8つの分野でのタスクフォースというものが立ち上げられまして、それぞれの具体的な個別分野でどのような協力が進められるかということについて検討が開始をされたところであります。その具体的な8つのタスクフォースというものがここに書いている8つでございまして、このうち日本は鉄鋼とセメントの分野でリードをしていくということを発表いたしております。内容についての検討は今から進めるということになっております。
 これは参考でございますけれども、アジア太平洋パートナーシップに参加をしている国々のさまざまな仕様で見たときの世界におけるシェアでございますけれども、いずれも世界の約半分ぐらいのシェアを占めておりまして、これらの国々の今後の取り組みあるいはこのAPPの枠組みでの取り組みというものが非常に重要な意義を持つ可能性があるということがここから明らかであろうかと思います。
 最後にIPCCにおける検討状況ですけれども、先ほど冒頭に紹介をさせていただきましたように二酸化炭素回収・貯留技術に関する特別報告書、それからオゾン層保護と地球気候システムに関する課題に関する特別報告書というものもこの間に出ておりまして、2007年の秋にはCOP13に間に合うような形でサマリーが取りまとめられる予定になっておりますけれども、第4次評価報告書が出る予定になっております。ここではこれまでにも増して最新の影響や将来予測が報告をされる見込みとなっております。
 続きまして各国個別の国々の動向について簡単にご説明をさせていただきたいと思います。
 まず、アメリカでございますが、アメリカは表題に書いてございますように、まず技術が鍵ということを主張しているわけですけれども、主体によりましてさまざまな取り組みが進められつつあります。まず、ブッシュ大統領でございますけれども、ことしの一般教書演説、1月31日でございますけれども、この中で「エネルギー高度化計画」というものを発表いたしました。これは温暖化対策ということではなくて、中東への石油依存からの脱却ということで、研究開発予算をさらに増額することによってエネルギー源の多様化あるいは自動車動力源の多様化ということを図ることによって中東への石油依存から脱却するということを目指すということを打ち出しております。
 それから、連邦レベルでは先ほど申し上げましたようなAPP(アジア太平洋パートナーシップ)のほか、メタン市場化パートナーシップ等々、技術協力に主眼をおいたさまざまなパートナーシップを進めつつあります。
 それから議会レベルでは、これまでもビンガマン法案等々いろいろな動きがあったわけですけれども、最近でもいろいろ動きがございまして、まず2005年6月ですが、これはビンガマン・ドメニチ決議ということで、簡単に申しますと、排出量取引のような形のプログラムを含んだ国家計画を制定すべきであるというような決議が可決をされております。それからまた、ここで主導的な役割を果たしましたビンガマン議員あるいはドメニチ議員がそのミッショントレーディングの導入に向けてホワイトペーパーというのをことしになってから公開をしております。
 それから、COP/MOP1の直前には24名の上院議員が連名で大統領に申し入れをしておりまして、そもそも米国というのは気候変動枠組条約の提案国として交渉に積極的に参加する義務があるということを、ブッシュ大統領に申し入れております。こういったことが背景にあったのかどうなのかわかりませんが、いずれにしてもこういった申し入れのあとに先ほどのCOP/MOP1が開かれて、先ほど申し上げましたようなCOP11決定の中ではアメリカも含んだ形で合意がなされたということがあります。
 それから3つ目、ルーガー・バイデン決議ですが、これは外交委員会のルーガー委員長とバイデン議員が、簡単に申しますと、米国は国際的な気候変動交渉に戻るべきだということについて決議案を出しておりまして、これについては審議待ちの状態になっております。
 それから、州レベルで一番大きな動きとして挙げられるのはRGGと呼ばれておりますけれども、東部の7州、当初9州だったのですが2州が最終的には残念ながら参加できないということで7州になりましたが、この7州が発電所からのCO2排出に関してキャップ&トレード型の排出量取引制度を導入すると、具体的には2009年から14年までは現状レベルに排出量を維持して、そのあと10%削減するということで合意をしております。したがいまして、2009年からこうした制度が入ることになると思われます。
 それからまた、カリフォルニア州でもいろいろな取り組みが行われておりまして、温室効果ガス排出削減に関する行政指令ということで具体的な目標を掲げたりですとか、あるいは自動車の排ガス規制ということで温室効果ガスの排出量を削減するということを実施することとなっております。なお、これについては訴訟なども行われているということで、議論は引き続き行われているようですけれども、こういった動きがございます。それからその他の州でもさまざまな動きがございます。ここに書いてございますように、いろいろな州でいろいろな形で取り組みが行われつつあるということであります。
 それから最後に民間レベルでございますけれども、シカゴ気候取引所(CCX)でございますけれども、このCCXも活発に活動を行っておりまして、一つにはモントリオール取引所と共同で温室効果ガスの取引所を開始するという計画を発表いたしましたし、それからこのCCXにニューメキシコ州が州として初めて参加をするというようなこともことしになって実現をしております。
 続きましてEUの動向ですが、最初の環境理事会の話については既に前回の専門委員会でもご説明をさせていただいたところですけれども、2℃目標を確認するとともにそれに向けて具体的に先進国はどの程度削減をすべきか、ということについて打ち出しをしております。それに引き続いて2005年10月の環境理事会でもモントリオールで2012年以降の枠組みの構築に向けてすべての国の間でプロセスの開始を期待するということ。それから炭素市場の構築ということを非常に重視をしておりまして、昨年の1月からEU-ETSが始まっておりますので、そういった背景もあってそういったことを特に打ち出しているということがございます。
 それから、昨年末に欧州の環境庁が報告書を出しておりまして、京都議定書の目標については現行の対策のみでは達成できないけれども、既に導入することは決定をしているけれども、まだ実施に移されていない追加対策というものを実施すること。それから京都メカニズムを活用するということで目標を超過達成することができるという報告書を出しております。これがそれを説明した図でございまして、現行対策のみでは98.4%にとどまりますが、追加対策を講じることでさらに5%以上深掘りできるということで、京都メカニズムを加えると目標達成にとどくということであります。
 それからイギリスでございますけれども、イギリスは昨年のEUの議長国の際に気候変動問題を中心課題の一つとして取り上げて以降、非常に積極的にこの問題に取り組んでおりますけれども、幾つかの動きがございます。
 まず、ブレア首相とベケット大臣の発言から引用しておりますけれども、ブレア首相は米国やインドや中国の参加はぜひ必要だということ。しかしそういった合意の可能性も出てきたのではないかというようなことも期待を含めて述べておられますし、ベケット大臣のところで特に関心を持たれているのは、下のところですけれども、原子力は今まで否定的に持続可能ではないと考えているけれども、推進する可能性があることを認めざるを得ないと、これは一例でございますけれども、原子力について今後どういうふうに位置づけるかということが英国の中で議論になりつつあるということがいろいろな報道でなされております。またこういったことのほかに先般のG8の動きなども踏まえて、主に経済的観点から温暖化の問題についてレビューをしようということで、スターン卿という方が外務大臣の指示のもと、こういった報告書をつくるべく努力というものをされております。
 また、環境省とDEFRAでは、DEFRAというのは環境食糧地方開発省、英国の環境省でございますけれども、共同してプロジェクトを実施するということで、国家間が中心になってこういったプロジェクトを実施していただくことも既に発表しているところでございまして、ことしの6月にこの第1回のワークショップを開催することも既に決まっております。
 それからカナダの動向でございます。カナダはCOP/MOP1の議長国ですから、これはCOP/MOP2が始まるまでは引き続き議長国でありますが、政権交代がなされたということで必然的に環境大臣がかわりましたので、ディオン前大臣から今回、アンブローズ環境大臣という方にかわりました。で、保守党が第一党になったわけですけれども、この前の京都議定書に対していろいろ否定的な態度を表明しているというような発言もございましたが、いずれにしてもまだ大臣が選ばれたという段階で今後どういった方向性を打ち出していくのかということについては必ずしも明確にはなっておりませんが、少なくともカナダ環境省発表によりますと、カナダはことしのCOP及びCOP/MOPまでの議長を務めることになっていると。アンブローズ大臣はディオン大臣から引き継ぎを受けてCOP及びCOP/MOPの議長は、環境問題における同国のリーダーシップを示す上で重要な職務であるということを表明しているところでございまして、前向きな姿勢を示しております。また、仮に保守党が京都議定書に否定的な姿勢を示すといたしましても少数与党でございますので、そのほかの野党はいずれも京都議定書に肯定的な姿勢を示しておりますので、今後の動向が注目されるところであります。
 それから最後に中国の動向でございますけれども、中国は先ほどCOP/MOPのときの発言のところで若干説明をさせていただきましたが、ややほかの、例えばインドなどに比べると前向きな姿勢を示しておりますが、その一例かと思いますけれども、これはきょう公布予定ということになっておりますけれども、第11次の5ヶ年計画の中でここに書いてあるようなことをうたっております。1つが5ヶ年計画では年平均の経済成長率目標を7.5%とすると、それと同時に資源節約型社会への転換を目指して、2010年までにGDP当たりのエネルギー消費量を2005年比で20%削減するということをうたっておりまして、最初の7.5%というのは預期性指標ということで、これは下に書いてございますように単なる見通しのような意味だそうでございまして、下の原単位10%削減ということの目標は約束性指標という、ノルマということで使い分けをして、初めてこういった資料を用いて資源節約型社会の実現に向けた決意を示しております。ちなみにこれが実現されますと、2つ目の※印にありますように2005年から2010年までの5年間の経済成長率が44%になりますが、これに対してエネルギー消費量、ですから大体CO2の伸びと見てもいいかもしれないと思うのですが、それが15%に抑制されるということでございますので、経済成長とCO2排出のデカップリングを目指してということがいえるかと思います。またそれの具体的な一つの方策として、再生可能エネルギーにも力を入れておりまして、昨年の11月に開催をされました再生可能エネルギーの会議におきましても、さまざまな再生可能エネルギーの導入に向けて積極的に取り組むことで2020年までにはそのシェアを15%にするということについても発表がなされたということであります。
 簡単に駆け足でしたが以上でございます。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。今、事務局から報告がございましたが、ご質問、ご意見ございましょうか。
 はい、原沢委員どうぞ。

○原沢委員 参考の遵守委員会のところ、5ページになりますけれども、この中で例えば[1]については第2約束期間の割当量から差し引くというようなことが明言されているのですけれども、現段階では第2約束期間そのものが決まっていない状況だと思うんですが、この第2約束期間の位置づけをお聞きしたいのが1点と、次のページで遵守委員会ができて手続も含めて決めていくと思うんですけれども、この中で特に重要なのは温室効果ガスのインベントリとかそういったデータではないかと思うんです。その場合、IPCCではタスクフォース・オン・ザ・インベントリというのがありまして、IPCCとの関連も出てくると思うんですが、2点をお聞きしたいのですけれども。

○水野国際対策室長 まず、1点目でございますけれども、まさにご指摘のように第2約束期間の約束量といいますか約束の形態がどのようになるかということは今まったく決まっていない状態でございますので、そういったことが決まっていない状態でこの1.3倍を差し引くということはいったいどういう意味を持つのかということは、実は多くの人が疑問に思っているところではあります。したがいまして、これが実際にどのように運用されていくのかというのは、まさに今後、次期約束の枠組みがどのように決定をしていくのかということに大きく依存するということになると思いますので、今の段階でこれが具体的にどんな形になるのかということは、文字通り読むと第1約束期間と同じような形でということを、念頭にはおいていたということが予想はされるわけですけれども、そういったことは決まってはおりませんので、今後の行く末次第ということだろうかと思っております。
 それから2点目でございますけれども、インベントリとの関係でございますけれども、京都議定書では96年改正のIPCCガイドラインを使ってインベントリをつくるということが決まっておりまして、また遵守委員会ではこの遵守委員会そのもので独自に例えばインベントリをみなすとか何とかということではなくて、基本的には専門家レビューチームがそのインベントリの報告書等を審査をした結果を踏まえて、それについて議論をしていくというようなことですので、そこにワンクッション入っているということなのです。いずれにしても、ご指摘のようにIPCCの成果を踏まえつつ審議をしていくことになろうかと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。ほかにございましょうか。
 はい、三村委員。

○三村委員 7ページのCDM対策の件なんですが、CDMは途上国の参加をうながしていく上で非常に重要な仕掛けだというのでいろんな方面で期待が高いと思うんですけれども、現状は、例えばCFCですね、温暖化係数が非常に大きなものから順番に削っていくとか、希ガスのプロジェクトが非常に増えているということです。もともと制度の大きな目標であった、途上国が高効率なエネルギー技術を導入しながら持続可能な発展に導いていくとそういうようなことではなくて、少しこう何かひずんだような姿になっていると思うんですけれども、それを本筋に戻すとかそういう議論はかなりされているのでしょうか。

○水野国際対策室長 今、ご指摘いただいた点は、まさにかねてから各国から特に重要な問題の1つというふうに認識をされていたところでございまして、これはもちろんクレジットがCO2に比べてフロンなどは非常に温暖化係数が高いということもあって、容易にクレジットが獲得できるということもあるんですけれども、やはりもう1つは、省エネなどのプロジェクトはベースラインの引き方が非常に難しいということで、要するにビジネス・アズ・ユージュアルというのを決めて、そこからどれだけ減ったかということを決めなくてはいけなくて、そのときのビジネス・アズ・ユージュアルで経済的にメリットがあると、もうそれだけで跳ねられてしまいますので、クレジットがあって初めてプラスに転換するという微妙なバランスがとれなくてはいけないということで、方法論が非常に難しいということがございました。このために日本ではCDMの将来委員会というようなことを各省協力して立ち上げて、各国とともにその方法論の開発等に取り組んでおりますし、またこのCDM改革の中の決定の中では小規模CDMの扱いですとかポリシーCDMの扱いですとか、そういったことについて何か改善すべき点はないだろうかということについて、今後さらに検討をしていくことになっておりますので、問題意識としてはかなりその点は共有されているというふうに理解をしておりますし、その点について具体的な前進がみられているというふうに思っております。

○西岡委員長 ほかにございましょうか。工藤委員どうぞ。

○工藤委員 遅れてきてすみませんでした。1点、EUが昨年来、長期的ないろいろな考え方を理事会等でずっと整理をしてきて、多分モントリオールまでいったのだと思うんですけれども、逆にそれまで議論してきたEUのこういう考え方でやろうということが、モントリオールの会議で何かしらの形で議論の中に出されていたのか、かえってモントリオールではその辺を逆に出さないで議論されたのか、その辺どうだったんでしょうか。

○水野国際対策室長 EUは非常に長期的な目標を立てて、それに向けて大胆に進んでいこうということで世界をリードしていこうということで、かねてから具体的な数字を出して議論をしておりました。それで交渉といいますか、COP/MOPあるいはCOPの中ではいろいろな場面でそういった発言は出されていたと思いますけれども、議論の焦点というのは例えばさっき言いました議定書の3条9項をどういうふうに議論をしていくかというような議論あるいは9条の議論をどうやってやるかというような議論なものですから、非常に問題が特化された形でそれについて、端的にいうと先進国と途上国が若干対立するような形で議論がされたような形だったものですから、EUの意図にかかわらずそういった場面はそもそも議題としてのってくる場面がなかったというような理解ができるのではないかと思います。
 それを意図として、どういうふうに反映させようとしていたのかというところまではちょっとわかりませんが、個別に話をしますとそういった目標を持ちつつもそれを直接交渉の議題とするものについては若干慎重な姿勢も持っていたというふうに理解をしております。

○西岡委員長 ほかにございましょうか、よろしいですか。

(発言する者なし)

○西岡委員長 それでは、次の報告に移りたいと思います。IPCCの動向に関してですけれども、昨年、二酸化炭素回収・貯留技術に関する特別報告書というのが公表されました。きょう報告をお願いしております赤井さんは独立行政法人産業技術総合研究所に所属しておられますけれども、そのIPCCの報告書に非常に積極的に関わっておられるということで、ご報告をお願いしたいと思います。

○赤井氏 ただいまご紹介いただきました赤井です。本日、こういうテーマでお話するようにというご依頼を受けたときに、今回はIPCCの特別報告書のさわりといいますか大体内容をご紹介して、いろんな質疑あるいはもう少し深掘りした情報、あるいは議論について次回以降に機会をいただくということでしたので、今回はそういった趣旨でご紹介させていただきます。一応このプレゼン資料、お手元に配ってあるものに1枚だけ別のものを含めてありますけれども、今の水野室長のお話をうかがっておりますと、もうとばしてしまった方がよさそうなところもありますので、お手元の資料が2つありますけれども、資料2-2の方がこのCO2の回収隔離技術の特別報告書のSPMの部分をざくっとサマライズしたような資料ですので、そのあたりのポイントを中心に後でつけ加えさせていただきたいと思います。
 これはSPMに書かれていますCO2回収隔離技術の概要を示す絵ですけれども、大量排出計があります。ちょっと見にくいかもしれませんけれども、発電所、それからセメントや鉄工所などの大規模な産業施設、それから石油コンビナート、こういう大規模なところでのCO2回収というのが経済的にもメリットがあるということで、このあたりでCO2を回収してストレージするかどうかは別として地中、それから海洋、こういった貯留先へ持っていってインジェクションして長期間保存すると、そういう概念です。
 まず、特別報告書の中に移る前に若干もう少しシンプルに回収隔離というのをお話しします。回収技術には幾通りかありますが、化石燃料を燃やした後で例えば発電所の排ガスからCO2を分離してどこかへ貯蔵する。その時には当然電力が発生するわけですが、そういった燃焼後の回収技術、これは代表的な技術として化学吸収法などが使われております。もう1つは酸素燃焼と書いてありますけれども、英語では Oxyfuelという言い方が今一般的になっています。単純に考えていただければ、例えば石炭を純酸素で燃やすと出てくるのはCO2だけです。そうしますとCO2を分離する手間と必要がないので、その辺の余分な動力やエネルギー損失がなくなる、低減できるというアイデアです。ですから化石燃料を空気から酸素を分離して、酸素で燃やしてCO2だけを貯蔵するといった方法がありますが、これは研究段階です。
 それからもう一つ代表的なもので、これは特にアメリカなどがかなり熱心なのですけれども、燃焼前に回収するというやり方です。これは石炭でも天然ガスでも良いのですが、ガス化してCOと水素、一酸化炭素と水素にして、さらにシフト反応というのを追加しまして、一酸化炭素をCO2までしてしまって、その出てくる残りの水素を燃料として用いる。例えばそれで発電所で──してもいいですし、一部は外へ出して輸送部門、車用の水素燃料などにするというやり方もあります。そういう意味でこれは水素社会に向けたCO2の回収隔離という言い方がされています。ご存じの方も多いかもしれませんけれども、アメリカにおいて提唱中でなかなか予算化がままならかったヒルチャージェンという、10年間で1,000億ぐらい投じるプロジェクトは、まさにこの方式を具体化しようとしているものです。
 これは天然ガスからの水素製造、これは特にカナダなどではかなり天然ガスの改質によって水素をつくるというプラントが動いておりますけれども、そこは改質しますと残りCO2がほとんど出てきますので、それをそのまま例えば地中等に集めればまさにこの水素がカーボンフリーの水素になるということで、これも水素社会へ向けたCO2の回収隔離という言い方をこれもされております。先ほどのIGCCなどですと、ここが石炭になってこの水素を発電に用いるということになりますけれども、そういう意味でカナダなどでは天然ガスからの水素製造のような、もう既にCO2がある程度CO2分離というのが前提になっているものについては、要するに早期機会、アーリーオポチュニティというコスト増分が比較的マイルドな形でCO2の回収処分ができるという技術としてされております。
 このCO2の回収処分を論じるときに必ず疑問を持たれるのが、例えば極端な話、発電所からCO2を回収して処分するようなことをしたら、エネルギーがマイナスになってしまうのではないか、ということを今だにおっしゃる方もいらっしゃいますが、そうではないということをお示しするために分析した結果です。これは実は10年近く前に私がとりまとめた経産省関係の委員会で評価した結果を、最近のいろんな電力の動向等で再評価した結果を示しています。これは日本での評価の結果なのですけれども、国際的にみても大体似たような評価結果が得られています。
 これは何を示しているかといいますと、例えば一番簡単なのは2番目の棒グラフです。これはPCFと書いてありますけれども、これは微粉炭火力発電所でFGC、排ガスから回収分離する。先ほど一番最初のスライドでお見せした燃焼後回収というプロセスですが、それを適用した時に元々の発電効率が40%少しあったとして、それが Captureと書いてありますが、CO2を回収することによって、例えば化学吸収法によってCO2を吸収剤に吸わせて、化学吸収剤そのままですとCO2は吸わなくなりますので、再生するために熱を加えてCO2を追い出して、それをどこかに貯蔵するというプロセスになるわけです。その化学吸収剤を再生するためのエネルギーが、実際はエネルギー損失になるわけですが、そういったエネルギー損失がどれぐらいあるか、それによって発電所の効率が40%少しから30%台半ばぐらいまで落ちますよということを示しています。さらに、場合によってはそのCO2を液化してどっかに運んでいくとか、そういうプロセスを追加すると更に数パーセント落ちて、もともとの40%強の効率が30%強ぐらいまで落ちる可能性があるということを示しています。
 ここに並べてあるのは天然ガス火力から微粉炭火力についても燃焼後の回収と、それから先ほど申し上げた酸素燃焼、それから加圧流動床型のものとか空気抜きのITCC、いろんなケース、最後は──ガスか燃料電池発電です。こういったいろんなプロセスについて評価した結果を並べていますが、大ざっぱに言えばもともとの発電効率──相対的にみればエネルギー損失は少なくなるということが言えます。
 実はここのエネルギー損失のかなりの部分が回収のプロセスにとられるということで、これは処分方式で縦に並べてあるのでかなり見難くなっています。例えばパイプラインで地中に処分するときにCO2の Captureと回収とトランスポート、実際には輸送とインジェクションがこの場合一体になりますが、回収とその輸送処分にどれだけエネルギーがかかるかということを示したものです。回収の方が多くて、輸送が少ない。多くの場合、回収に要するエネルギーが6割とか7割とかいう風邪に言われていますけれども、例えば液化とか輸送をどこに入れるかによって、その辺の評価はかなりかわってくるのです。大ざっぱに言えば回収にかなりエネルギーを要するということになります。
 コストで見ますと、これも先ほどの地中処分でパイプライン方式を、このあたり2つ見て下さい。大体500キロから100キロぐらいの輸送距離を考えますと、t-CO2当たり大体40ドルから50ドルぐらい、5,000~6,000円というそのあたりが一つの目安になると思います。この値も比較的海外でのいろんな分析結果あるいは国内での分析結果とほぼ同じような例示を示しています。このあたり非常に高いもの、例えば500キロのパイプラインを引いて海洋に処分するとか、それから地中処分でも1万2,000キロメートル船で輸送して処分する、例えば中東にもう一回埋め戻しにいくとか、そういったことを想定すると100ドル近く高くなるということを示しております。
 この図は海洋、地中処分、両方ありますが、今日は地中処分の話を中心にご紹介します。地中貯留、地中隔離の概念を若干詳しく描いたものですが、排出源から回収されたCO2を、例えば海の底の地層あるいは陸域の地層にパイプで持っていって処分するというような概念を示しています。大体地層処分、地中隔離、地中貯留ということをお話ししますと、何か穴が開いていてそこにどんどん押し込んでいくようなイメージを持たれるかもしれませんが、実際こういった岩と砂、それから水が混ざったような層、そういう意味で水がある層、帯水層という呼び方をしますが、そういった層の中に入れる。顕微鏡で見てもほとんど密に詰まっているような状態です。もう一つこの帯水層で必ず懸念が起きるのが、この水は我々が飲料水にしている生活圏の水とのインタラクションがあるのではないか、それを汚染するのではないかということがよく言われますが、実際はこのCO2の処分の対象としているような帯水層というのは地下1,000メートルや1,500メートルといった深部にあって、人間の生活圏とのインタラクションはまずないということが言われている層にしか堆積しないという風にされております。
 次の図はお手元の資料にはないのですが、国内ではナガオカテックス、地中処分の実験がされました。今こういった設備は撤去されています。先ほどの顕微鏡写真がありますが、そのイメージをここでもう少しわかりやすくお見せしようとしたのです。これが1メートルの物差しで1,000メートル強の所から掘り出した帯水層のサンプルです。ご覧になれば分かるように、ほとんど粘土の固まりのイメージであるということが良くお分かりいただけるかと思います。こういったある意味では目で見て殆ど隙間無く、殆ど分からないような層にCO2はどんどん入っていってそこに貯留するというのが地層処分の概念です。このあたりは以下すべて特別報告書にも書いてあります。幾つか現在進行中の実証プロジェクト、あるいは商業プロジェクトをご紹介します。
 多分これが世界で最初の大規模な地中処分プロジェクトと言われるものです。 Sleipnerというノルウエーのスタットオイルの国営石油会社が持っている鉱区でSleipnerという名前がついたプロジェクトです。ノルウエーはここにありまして、その沖合、ここの部分にこのサイトがあります。ここはスコットランドです。この断面図に示してありますように、ここが天然ガスの層です。ここからパイプを通って天然ガスを汲み上げてきて、そして海の上に建設したプラットフォームの上でCO2を分離して、地下800メートルから1,000メートルの所にある帯水層に押し込んで処分しているというものです。
 これは実際の天然ガスが10%を超えるぐらいのCO2を含んでいます。それは商品として売るにはCO2の濃度が濃過ぎるということで、別にこのCO2を地中に埋め戻さなくてもこの天然ガスからCO2を分離して、天然ガスを純化して例えば陸上にパイプラインで輸送するということは普通の商業行為としてやられていることです。こういう時代、1996年9月から始めていますが、こういう時代でCO2を大気にそのまま放散するのも具合が良くないというか、スタットオイル社にとってはいろんな思いがありました。どうせここで分離しているならもう少し投資をして地下へ圧入して世界最初のCO2地中貯留というのを天下に示そうという意図がかなりあり、そういうことをやったということです。これで96年9月から、海の深さは100メートルから200メートルの浅い海ですけれども、その下の1,000メートルぐらいのところに年間100万トンぐらいのCO2を圧入したのです。
 実はこれはスタットオイルという会社のプロジェクトなのですが、世界初めてということもありまして、IEA、国際エネルギー機関の一つのプロジェクトがここを国際研究協力の場としてコーディネーションをして、様々な研究者がここでモニタリングの技術の研修をやったり、そのようなことをやる場として提供しています。
 それから似たようなことになっているのが、これはこのラインより上がカナダで、このラインより下がアメリカですが、Weyburnという油田地帯でCO2がチェンジされています。これは元々EOR、エンハンストオイルリカバリー、石油増進回収のプロジェクトです。普通は石油増進回収というのは、石油の圧力が下がってきたときに、例えば水を押し込んでその圧力で石油の回収量を上げようとする技術が古くからありました。アメリカあたりでは単に水で押し出すというのではなくて、CO2を押し込むことによって、そのCO2と油が混じりあって粘性が下がって、先ほどお見せしたような密な砂の層の間を油がかなり通りやすくなって表に出てくる。そういった現象を利用してCO2によるEORという技術がアメリカ中で、多分70ヶ所ぐらいの油田で行われていますが、そういったものが元々ありました。ですからCO2は石油と一緒に出てくるのですが、そのCO2はもちろん硫化物ですので、ちゃんと回収してもう一回地下に圧入するというリサイクルがされています。ただし何割かのCO2はそのまま地面に留まります。では、その地面に留まったCO2は大気から隔離されたと言えるだろうということで、そのEORをCO2を地中処分の一つとして捉えるという事に今はなっております。
 これはアメリカのノースダコダで石炭を使うプラントがあるのですが、ここから300キロ以上パイプラインを引きまして、そのCO2を使って石油増進回収をやっています。ここも大体年間100万トン規模のCO2を押し込んでいます。先ほど申し上げましたようにCO2隔離のモニタリング研究のサイトとしてやはりオープンにされて、いろんな研究者が集まって作業をしております。
 これは何でCO2をここから運んでいるかと言いますと、例えばアメリカのテキサスあたりですと、天然に穴を掘ればそこからCO2が出てくるような所がたくさんありまして、比較的安くCO2を購入することができます。それをEORに使っているのですが、このあたりにはそういう所がないということで300キロぐらいのパイプラインを引っ張ってもその方が安いということで、こういったパイプラインから供給されるCO2を使っているということです。
 これが一番新しいプロジェクトで一昨年の秋ぐらいから稼働し始めたのですが、アルジェリアのIn Salahというガス田で、最初のスタットオイルの場合と同じように天然ガス中から不純物のCO2を回収して、この場合はちょっと深いのですが、1,800メートルぐらい地下の帯水層に処分しています。生産量は若干ぶれますけれども、吸入量は約100万トンから120万トンぐらい年間注入しています。ここもやはり実証プロジェクトの場として提供されて、IAEの枠組みなり、あるいは数年前立ち上がった Carbon Sequestration Leadership Forumというアメリカが提唱する枠組みの中での共同プロジェクトとして使われるようになっております。ちなみにここの上物は、すべて日本の日揮さんが設計施工をしたと聞いています。これは先ほど最初に申し上げたノルウエーのスタットオイル社とBPの共同プロジェクトです。ここに一つアルジェリアの石油会社が入っていますが、実質はスタットオイルとBPが共同でやっているということで、世界的にはこういうオイルメジャーが、かなりこのような技術に関心を持って実際のプロジェクトも引っ張っているという状況があります。
 IPCCの特別報告書をこのような背景のもとにざっと述べますと、マラケシュ合意でIPCCに対して何かレポートを作れという勧告又はサジェスチョンがされました。19回総会でとりあえずトーキングを行うためのワークショップを開催するようにという勧告が出まして、そのワークショップの後で開かれた2003年の総会でCO2の回収処分、Capture and Storageの報告書を作る、スペシャルレポートを作るということが決まりました。それと同時に先ほどもちょっと話題になっておりましたIPCCガイドラインの改訂版2006年、今年のおそらく夏前には発行されると思いますが、そこにもCO2回収隔離を組み込んだ形での改訂版を作成することが、このときに決まっております。
 これが特別報告書の目次です。ご存じの方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、Introductionから始まりまして、CO2の排出源、回収技術、輸送技術、地層、地中貯留率、海洋貯留技術、それから7章は異質なのですが、鉱物CO2を反応させて固定するとか産業にCO2を利用するとか、この7章はこの報告書全体では異質というか執筆者の間では悪い言い方ですけれども、ごみのような章だという人たちもいたりして、ここは異質です。それから8章がこの範囲全部を横断的に見て、コストと経済的なポテンシャルを評価した章です。それから9章は、これも特別報告書に記述するのは早過ぎるのではないかと申し上げたのですけれども、一応そのインベントリあるいはアカウンティングに関してCCSがどう位置付けられるのかといったようなこと、殆ど中身はないといっていたのですが、そういった章があります。
 では、SPMはどうなっているかと言うますと、ここにあります9項目の問いに対して答えを書くという形式になっております。技術の紹介、特徴はどうなっているか、現状レベルはどうか、ソースとシンクのマッチングがどうなっているのか、コストと技術的・経済的ポテンシャルはどうか、かなり色々な面で懸念される健康安全、環境へのリスクはどうなっているのかといったことです。それからもう1つは、例えば漏洩したときにもっともっと隔離することによって気候変動対策として位置付けていたものが、この漏洩によってどうマイナスになるのか、それから法規制の問題、これも国内法、国際法、リージョナルなものとインタナショナルなもの両方ありますので、そういったものの現状はどうなっているのかということ。それからインベントリやアカウンティングはどうなったと、こういった項目についての答えを記述するという構成になっています。
 最後にもう一つ、もともとは10番としてパブリック/セクション、公衆の認知がどうなっているのかという問いがあったのですが、これは一応原稿はあったのですが、あまりにウィークで殆どIPCCでリファーできるだけの資料がないということもありまして、このSPMを議論するIPCCのワーキング3の最後の総会で、10番目のそのパブリック/セクションに関するところは削除されました。時期としては特定の技術を対象とした報告書としてはこれがめずらしくIPPCとしては初めてのものだということで、もう1つは走り始めているインベントリガイドライン改訂版に反映されるということと、第4次の報告書にも当然反映されるであろうということ。
 それから先ほどのご紹介にもありましたようにCDMに関しても適応性が議論されているということでも見られますように、いろんな交渉活動あるいは環境とかエネルギーに関する政策そのものへも影響を及ぼす可能性があるようなものになるので、技術そのものと報告書の内容も相当盛っております。
 これはガイドラインの方ですが、このようなエネルギーの CaptureでCO2の地中貯留だけがとりあえず扱われております。私はこれにも参加しているのですが、技術に対して、特にモニタリング技術に対しては幻想を抱いているのではないかといつも批判しています。実際には実施する人たちにとってはかなり大変な内容になっております。これはCCSアップのアカウンティングをどうするかという概念図ですが、これは説明を省略します。
 それから国内動向をご紹介しますと、経済産業省は回収処分に関して、CCSに関して大きく分けて3つのプロジェクトを走らせています。一番最初に走ったのが海洋隔離、2番目が地中貯留、3番目が炭素で、海洋隔離については元々懸念される環境影響予測、ここをメインにしており、ここも技術開発が中心です。炭層固定というのは使われなくなった石炭層にCO2を入れると、もともと石炭に吸着されていたメタンがCO2によって置換されて、要するに新しい燃料としてメタンが回収できるというメリット、先ほどの石油増進回収と同じような経済的メリットが生じるということで魅力ある技術として研究が行われております。そういった技術についても経産省で技術開発をやっております。
 私も今ご紹介したようなものにも絡んではいますが、むしろ最近個人的にはこのあたりの方が面白いと思って色々ご提案したり、実際に関与してやっています。1つはインベントリの問題、これは技術開発をやっているときに待てよと、これがなければ意味がないということに気がつきました。こういったルールをどうするかということを国際的に提唱していこうというプロジェクトをご提案してやらせていただいて、その中から幾つかこのあたりに派生するプロジェクトの種をここで撒いたということであります。このあたりはその興味関連でCCSをどう扱うかということで先ほどご紹介ありましたCCS技術のそのCDL適用可能性がどうなるかといったようなことに関しても、一応このあたりから議論の種を国際的に撒いたということになっております。
 それから国際動向ではCSLF、これはアメリカが提唱したもので、実際にこれはどれくらい意味を持つのか、APPや何かともかなり重複しますし、私も参加はしていますが、年に2回ぐらいの会合に出て議論に参加する程度にしております。それから国際エネルギー機関では Zero Emission Technologyに関するイニシアティブ、それから一つの国際研究協定で Greenhouse Gas R&D Programmeというのがあるのですが、こういったところで先ほどのプロジェクトのコーディネーションや技術の評価だとかコミュニケーション活動などをやっております。面白いのはこのGreenhouse Gas R&D Programmeは91年に発足したのですが、先日、会合に出ていたときに、例えばCCSの特別報告書が出たということが話題になりました。91年以来、このプロジェクトが始まった頃にはCO2の回収隔離なんてことをいうと、何か頭のおかしい連中の集まりじゃないかと揶揄されたのが、15年たつと時代も随分変わったねというような話をしております。
 それから同じくIEAではCCSの経済的側面の評価について急きょレポートをつくって、これは一昨年の12月に発行されております。2050年までの経済的ポテンシャルを分析したレポートです。
 それからこれは(グレンイーグルズ行動計画)G8の行動計画でここでもCCSが一つの課題として書かれております。そしてAPPにも地中貯留が一つの課題として提示されております。
 回収隔離について私がいつも思うことで、これを技術としてどう位置づけるかということなのですが、大きく分けて2つの考え方があります。技術として本当に安全に長期間隔離できると、可能性は高いと思うのですが、そうすると究極の方策としてこれさえあればいいじゃないかという極端な意見をおっしゃる方も当然いらっしゃる。ただ、そのときには「大幅削減を可能とするほとんど唯一の技術」と書いてありますけれども、省エネとか新エネとか原子力とか、そういうものと比較すると、原子力に匹敵するのも、その削減ポテンシャルを一つの技術で持ってしまっているということが言えます。ただし、先ほどもご紹介したようにエネルギーロスを伴うことと、それから所詮は化石資源をベースとしたシナリオの上に乗った技術ですので、Sustainabilityという意味では、私の個人的な評価ですが、ないだろうと思います。
 もう一方の技術として、繋ぎの技術として比較的低コストで、これは例えば日本で言いますと風力発電によるCO2削減と比較できるぐらいのコストです。太陽光などに比べると二桁近くコストは低いのですが、比較的前のようなコストで将来の一種リスト的な技術までの時間稼ぎには使うことが正しいやり方なのかと個人的には思っています。そういった意味でよく言うのが一世代と一世代半ぐらいの技術と考えたらいいのではないかと。例えば発電所のような長期間のインフラのものについて四、五十年の寿命のものが2回入れ替わるぐらい、60年から80年ぐらい、そのぐらいの技術で2100年に向けて少しずつ進歩していっていいのではないかと個人的には思っております。そういったことが今の化石燃料に頼った社会をドラスティックに変えるのではなく、少しずつ次の世代へ移っていくための技術として有効なのではないかと思っています。ただ、これが技術としては非常にインパクトの大きな特性を持っていますので、国際的なエネルギーや環境政策上、この技術をどういうツールとして使うのか、あるいは使われてしまうのかといったようなことに関しては十分検討をしていく必要があると思っております。
 時間をオーバーしますけれども、先ほどのSPMの内容をご紹介しますと、これはお手元の原稿の方の資料にほとんど書いてあることですが、SPMとしては単一の技術ではだめだということを書いております。今私が述べたような対策の柔軟性を保つため、比較的低コストでできるということを言っています。ただ、可能性としてはポートフォリオで考える必要がある。
 それから、先ほど申し上げたCO2の工業利用はほとんど意味がないということ、追加エネルギーは10%~40%ぐらいになって、正味の削減率は80~90%、アボイデルコストの話は省略します。
 現状は先ほど申し上げたように回収方式にいろいろあって、輸送にはパイプライン方式が有利ですけれど、輸送力が小さい割には船輸送もありうるということ。
 それから技術現状レベル、これも回収技術、輸送、地中隔離技術、海洋、先ほど鉱物を炭酸塩化するとか工業利用にするとか色々な方式について研究開発段階、実証段階、それから特定の条件下では経済的に成立あるいは成熟した市場だとかそういった評価をした結果がこの表(資料2-2、表2参照)です。これはかなりコントラバーシャルな表で──会合のたびに議論がかなりあったのですが、最終的にこういう形にまとまっております。それぞれの推進派が、いや、それはもう成立するのだとか、まだまだ研究開発段階だとか、そういった議論が出ます。余りこれをそのまま鵜呑みにするような表ではないなとい考えております。
 それからシンクとソースのマッチングですが、世界的に見ればソースとシンクのマッチング、大体300キロ以内というのがかなり多い。海について世界全体で見れば可能な場所に近いものは少ない。世界全体で見れば海岸線というのはそれ程多くないのでこれは当然の結論かと思いますが、こういったことがなされております。
 それから技術的、経済的ポテンシャルですが、発電コストの上昇がUS$/KWh 当たり1セント~5セント、1円から5~6円でしょうか、それが発電コストの上昇分になると。最初にお見せした私の評価でも大体こんなものになっています。ほとんどCO2回収に要するコストが支配的になると言っていますが、特に日本で考えた場合に、CO2回収については技術開発でもう少し下げられる余地があります。例えばパイプラインで輸送しようとしたときにはそちらのコストがかなり大きくなってくる可能性があると言われています。その辺りについては今色々な所でコストの再評価が行われていまして、ここらについては来年度辺りでいろんなデータが出てくると思います。
 それからポテンシャルの話ですけれども、世界中の地中隔離の技術的ポテンシャルは約2,000 GtCO2です。これは当初の議論からするとかなり下方修正した値で、これより一桁多い値を地中隔離を推進している技術屋さんたちが言っていたのですが、もう地中というと色々な構造がありますのでかなり固い線を追っていくと、今のところは2,000 GtCO2と言っているのが一番確実だろうということで、この辺に落ち着いています。
 それから海洋については、これは結局海洋に隔離したCO2の挙動というのは大気中のCO2濃度のレベルに移動しますので、安定化シナリオによってかなり変わってくるので、安定化レベルに依存して数千GtCO2というオーダーになるということです。
 それからリスクですが、ほとんどのプロセスが既存の産業プロセスと同じですので、今特別変わったことはありませんが、地中へ処分したときにはやはり適切なサイト設定、レギュレーションを含むようなきちんとした制度が必要だろうということは認識されています。ただ、実際には硫化水素とCO2のホームガスなどはカナダ辺りでは幾らでも地中に入れられていますので、そういう経験からしてそれほどリスクは現状では高いとは思えない。それから海については当然海洋生態系への影響というのが懸念されるということで、そういった観点から経産省でもそういったところに着目したプロセス等をやっているということです。
 それから漏洩ですけれども、地中に入れたCO2が100年後にそのままとどまる割合が99%以上である確率は90~99%、1000年後だと66~90%であると、こういったかなり回りくどい言い方をしていますが、こういった形で100%とどまるというトーンは出さない形がとられています。海については先ほど申し上げましたように、結局入れたものは自然のサイクルに入ってしまいますので、入れた深度によって余り浅いとすぐ出てきてしまうし、十分深く入れれば例えば100年後だと100%海に入ったままで地上に出てくることはあり得ないというようなことはシミュレーションで実証されます。
 法規制については、そのままCO2隔離、適用を受けてもらおうと思っている国はほとんどなくて、今CO2地中処分をやりたい、積極的にやろうとしている国々においてはこの辺りの整備が急がれているようです。それから国際法についても、今ロンドン条約なので若干議論が始まっていますけれども、完全にこれをカバーしたものについてはまだ存在しないというのがIPCCの見解です。
 それからアカウンティングについては改訂版で扱わるということで、公衆の認識は先ほど申し上げたように削除されました。
 以上です。ちょっと長くなりました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。それでは委員の方からご意見をいただきたいと思います。
 甲斐沼委員からどうですか。

○甲斐沼委員 どうもご説明ありがとうございました。幾つかお聞きしたいのですけれども。1つは日本でどれだけCO2を隔離できるかということです。今、世界的には詳細なお話しをして頂いたのですが、日本の場合にどれだけのポテンシャルがあるのかということと、あと何年ぐらいでCCSが実用化できるかという点です。今回のお話で、今後CCSで対応するのは60年から80年ぐらいがめどで、将来的には Sustainableな技術ではないというご説明があったのですが、その60年から80年ぐらいはCCSで対応する場合と、最初からCCS以外の再生エネルギーの技術開発に重点をおいた場合との技術開発の投資と効果についてのご意見をできればと思います。現在150年先のシナリオづくりをしていますが、80年ぐらい先はほかの再生エネルギーを考えるのであれば、現在の投資と将来の実用性をどう考えていったらよいのか。
 そのときに、今CCSの場合はもう実用段階に入って技術開発コスト自体は余りかからないのかということと、技術開発コストは再生エネルギーなり Sustainableなエネルギーの方に向けていけばよいのか、その辺についてお願いします。

○赤井氏 ありがとうございます。日本のポテンシャルですけれども、実は10年近く前にあるスタディがありまして、それでは日本のいろんな陸上で、それからいわゆるキャットロックがあるような層とか、それからそういう構造は検討しないけれどもおそらく大丈夫だろうというような層まで含めて900億トンぐらいのCO2が貯蔵できるという試算がありました。ただ、そのうち確実なところだけとっていくとどんどん減ってくるのですけれども。
 それで実は今、やはり経産省のプロジェクトの中でポテンシャルの再評価が進められていまして、一部ではもう既に例えば講演会などで研究成果として発表されている例があるのですけれども、大体400億トンとかいう数字が出ています。ただ、それは今研究をやってみたらこういう数字がはじけましたという値だというふうに、私は理解、認識をしています。ただ、それがオーソライズされた数字になるのか、すべきなのかとか、その辺りは政策との絡みがあると思うのですが、大体そういう数字があれの中にあるということです。
 それから先ほどの60年とか80年と言うのは、これはあくまでも私の本当に個人的な意見で、もちろんCCSというのは急激な濃度上昇のピークシェアリングをやるという役割というのがかなり言われています。そうした場合にはやっぱり今おっしゃったように150年とか200年ぐらいのスケールの間で考えるのがいいのかなと思います。ただ、その辺りはほかの代替技術というか Sustainableな技術の開発あるいは実現可能性とのトレードオフでそちらが早くできればそちらにいけばいい。ですからその辺りは60年、80年は150年だという結論になろうと個人的にはかまわない。ただ、問題はモデルスタディをやりますと、CCSというのは結局化石燃料がベースですから、今の石炭の可採埋蔵量を考えたときに、今の急成長がそのまま続くとするとCCSに頼ってしまう。そうすると可採埋蔵量も多分2070年か80年ぐらいいってしまいますよね、確認可採埋蔵量、ただ石炭についてはまだそれの10倍ぐらいあるとかいう意見はありますので、それから非在来型の化石燃料というのもあるので、そちらにシフトしていけばいいと思います。いずれにしても石炭でさえ先が見えてしまうことになるので、そういった意味で21世紀中ぐらいに次のステップに移れないかという希望的観測を持っております。
 投資についてですが、今まで例えば明治以降でもいいかもしれませんが、一つの業種、一つの技術を100年続けて商売している所は多分ほとんどない、60年、80年という期間商売できる技術だったら御の字じゃないかと、個人的には思っています。
 それから、R&Dコストですけれども、これはやはり今の気候変動問題に対してこのCCSというのを一つツールとしてどういう思想のもとに使おうとすると、すべてがわかってからやるというのは時間が遅いと思います。ですから、今幾つかご紹介したようなプロジェクトのように走りながらサイトとして極力堅いところを選んで、そこで実際に事業あるいは実証をやりながらモニタリングやリスクマネジメントを考えるということが必要になっているという気がします。そういった意味で例えば日本でやるとしても、どこか堅いところでやって削減量としてカウントしてもらいつつ、技術を蓄積していくという、そのためにはもしかしたらコストの安い海外で展開を考えるのがいいのかもしれませんけれども、そういったことが必要かと思います。そうしたときには事業として独立するまでの間は、やはり国としても若干投資が必要かなと考えています。ご返事になりましたでしょうか。

○西岡委員長 ほかにございますか。

○新澤委員 日本のポテンシャルも重要だと思うんですけれども、京都会議型の交渉をやるとしたら他国のポテンシャルというのも大変重要で、そうするともう少しその国に頑張ってくださいよとかいうことになると思うんですけれども、国別のポテンシャルというのは把握できるんでしょうかということですね。それに関連して技術的ポテンシャルから2,000 GtCO2という数字が上がっているんですけれども、これは多分石油の埋蔵なんかですと費用をかけて探せばみつかるという歴史を繰り返してきているんですけれども、そういった類のものと考えていいのかどうか。

○赤井氏 ありがとうございます。国別のポテンシャルですが、この辺りは先ほどご紹介した例えばCSLF何かでもいろんな国の人たちが共同で、例えばポテンシャルの評価方法をなるべく共通のものを使おうとかそういうことをやって、方法論の問題はそういう動きがあると。それからこれも先ほどご紹介したIEAの Greenhouse Gas Programme の中で先進国についてはそういう過去の活動である程度わかっていると、例えば日本はゼロから900億トンぐらいの幅を持った数字があります。所詮どこの国でもかなり幅を持っていますが、IEAのような場で例えば次は途上国に協力してインドのポテンシャルを評価しようかとか、そういった動きが徐々に、国別のポテンシャルを評価しようという動きは起こっております。
 それからもう一点は……ごめんなさい。

○新澤委員 探査をすればみつかると。

○赤井氏 探査をすれば、これも冗談で言っていたのですけれども、もしかしたら将来は隔離層の探査技術を持ったところが有利になるのかもしれないなんて申し上げています。実際にはやはりオイルメジャーが石油をとるためにいろんなところで探査をやっていて、その膨大なデータを持っていますので、やはり彼らは強いなという気はします。

○原沢委員 非常に貴重な情報をいただいたと思うんですけれども、コストの点で先ほど40ドルから50ドルということで、これは将来的にだんだん減らしていけるものかどうかということで、Capture のところが少し減らせるけれども、トランスポートとかインジェクションの方はなかなか減らせないのかなということで、今後の技術開発とコストの点をお聞きしたいのが1点と、その中で例えば船で1万2,000キロ先に持っていくということなので、法規制の問題ということで──CO2というのは、これは産業廃棄物になるとすると、結構これは取扱いがややこしいなと思うんですが、そういうような議論なのかどうかというのを教えていただきたい。

○赤井氏 コストはたしかに悩ましい問題で、今、経済産業省も例えば6,000円ぐらいが中間値だとすると、それを例えば10年後、20年後に2,000円台までもっていけないかとか、そういった検討はかなり進めております。ただ1つは、さっき言ったアーリーオポチュニティを利用するということで天然ガスの不発のように、もう既に回収が前提となっているようなプロセスにインジェクションプロセス、ほぼそれだけを付け加えることによって処分コストとしてはかなり安くするとか、あるいはEORということで経済的メリットを別途得るということでコストは逆に極端な場合にはマイナスできるようなこともありますね。そういったところから活用していくのが筋かなと思います。もちろん、それと同時に技術によるコスト削減あるいはそのセーブ的に見てコストが高くなっている可能性が日本にはありますので、その辺りも同じものを日本でやる場合と海外、先進国を含めて海外でやる場合のどれぐらいコストが、何が効いてきて、どう違ってくるのかといったような分析も今ちょうどやっているところです。
 CO2の産業廃棄物に該当するか否かという問題は、実は今議論されているのはロンドン条約の場でして、議定書も発行しました。ただ、ロンドン条約はご存じのとおり、北海周りの国々がかなりイギリスを中心として熱心な場でして、ところがその北海を囲む国々というのはCO2の回収処理にはかなり熱心なのです。彼の方には多分EORとかEOGであるとか見ているんですけれども、そういった意味で彼らは自分の事業を正当化させるための環境づくりという意味でロンドン条約については、本来カバーされうる海底化への、海底の底の帯水層のCO2処分が認められるような方向で、今議論が進められていると聞いております。ただ、CO2がそもそも産業廃棄物ではないということになってしまえば、その辺りの議論はどうでもよくなってしまいますけれども、そこについてはまだ決定は出ていないと言えると思います。

○西岡委員長 もう1問ぐらい、どうぞ。
 まず、明日香さん、それから工藤さん。

○明日香委員 お話どうもありがとうございました。まず、電力発電所のところで既存設備から集める場合と、新設の発電所をつくるときに事前に計画をしてやる場合、かなりコストが違うかというのがあって、たしか中国のどっかの発電所でイギリスがやるという話をちらっと聞いたんですけれども、そこら辺どうなっているのかなと、お話を。
 あと、2番目で一度地中に埋めたらかなりの確率で出ないというような話だったと思うのですが、そういう意味ではモニタリングの技術というのは確立しているし、コストもそれほどかからないという理解でよろしいのでしょうか。
 あと、3番目はやはりコストの話なんですが、例えばパイプラインで運ぶときにそのパイプラインの通行料とか土地のお金とかいろいろ問題がかなりかかってくると思うんですけれども、そういう数字もコストに入っているのか。で、将来的に普及を考えたときに、やはり40ドル、50ドルということですと、やはりカーボンマーケットですか、CO2の価格が40ドル、50ドルの世界になってだんだんに普及していくというようなイメージで考えていった方がいいのか、それとも何か違うイメージで何かお考えをお持ちなのか教えていただければと思います。

○赤井氏 簡単にお答えいたします。既設のものに対するレトロと新設ですけれども、当然レトロフィットの方が高くなります。これについてはきちんとしたスタディというのはないのですが、個人的にはレトロフィットができなければ、これからの新設だけではそんなに効果はないなというふうに思っています。それから中国とイギリスのものについてはあいにく情報を持ち合わせておりません。
 それからモニタリング技術ですけれども、技術面はおそらくかなり揃っていると言ってかまわないかと思います。これも海外のいろんなプロジェクト、先ほどの国際共同プロジェクトのようなものを通じて、モニタリングにかかる費用の試算をした例があるのですけれども、それは扱うCO2の量が膨大だということもあって、このCO2に直すと、先ほどの回収処分コストの数もほとんど無視しうるオーダーになっています。ただ、 Inventory Guidelinesとの関係でモニタリングが必須条件のようなことになっているのですけれども、実際にモニタリングで地下に入れたCO2のリークが測れるというふうに想定するのは、私は幻想だといつも議論しているんですけれども、その辺りがあのガイドラインの不安なところです。
 それからパイプラインについては、これまさにちょうど今そういった詳細なコストスタディというものをやっています。先ほどお示ししたような値とかそれから海外でやっている値はものによってまちまちで、土地の賠償を入れるとか、リスク管理の費用を入れるとか入れないとかその辺りかなりまちまちですけれども、おおむね日本のパイプラインの施設コストはかなりなものです。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。これで大体議題の1を終わりたいと思います。赤井さん、どうもありがとうございます。多分今のをベースにして今後どういう抑制策、適応策を打っていくかというときに、またこの問題に戻っていくこともあるかと思いますので、そのときはひとつよろしくお願いしたいと思います。
 それでは、次の議題に移ります。議題の2は適応対策ということでございますけれども、まず事務局の方から適応5ヶ年作業計画、これの概要と今後の課題ということについてご説明を願いたいと思います。それから本委員会は何を求めておられるかという非常に重要な話だと思いますので、よろしくお願いします。

○竹本室長補佐 今、ご紹介にあずかりましたが、2点説明させていただきます。1つは水野の方から冒頭ご案内しましたが、今般、モントリオールにおきまして適応5ヶ年作業計画が策定されております。これについてご説明いたします。
 経緯でございますけれども、気候変動枠組条約のもとで適応策というのは位置づけられておるわけですけれども、具体的に何が適応なのかということについては十年来ありますけれども、なかなか議論が進んでこなかったという状況でございまして、COP7、マラケシュで京都議定書の運用ルールが決まったわけですけれども、これを大体このようなタイミングから具体的に提言についての議論をやろうということで、2ページ目、資料3-1の表1にございますけれども、2000年以降からCOPの交渉の場での適応についての議論が本格的に行われるようになってきたということでございます。そして2004年からは適応という議題が SBSTA、これは条約の補助機関会合でございますけれどもアジェンダ設定されまして、その中で一昨年の12月、COP10におきまして適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画という、これは大枠に関する計画が採決されたと。この計画に基づきまして昨年のモントリオールのCOP11におきまして、「気候変動の影響、気候変動に対する脆弱性及び適応の科学的、技術的及び社会的側面に関する5ヶ年作業計画」、これはSBSTAの適応5ヶ年作業計画でございますが、具体的な5ヶ年計画が採択されております。
 なお、この作業計画は今後5ヶ年にわたって計画をつくるというものではなく、もう既に効力を発生しておりまして2005年の目標から5ヶ年間、2010年までの計画という位置づけになっております。ただ、COP11におきまして合意されたものは目的ですとか期待される成果、作業範囲等のこれについての枠組みが示されたというものでして、この中のテーマごとの作業リストというものにつきましては、補助機関会合(SBSTA)の裁量に任されているということでございます。したがいまして、今後例えば5月にSBSTA24というのがボンで行われますが、そこで本作業リストの詳細や優先順位について議論、採択が行われる予定になっております。作業リストの概要の簡単なものについてはこれからご説明いたします。
 作業計画期間中でございますけれども、2007年にはIPCC第4次評価報告書が来年ございますので、この報告書を受けて2008年には作業計画のレビューを行いまして、さらに2010年の計画の終了時にはCOP16に報告が行われる予定となっております。
 これまでのこの作業計画に関して交渉が行われたわけですけれども、論点は主に2つございます。1つは、先進国と途上国の間の認識の違いというものでして、具体的には先進国においては適応策の策定に必要な科学的・技術的基盤整備をするためのツールであるという認識、例えば観測をしたり影響評価を行う、さらには普及・啓発を行うといったようなソフトな作業を進めていくためのツール、認識であるのに対しまして、途上国は、もうそういった気候変動の影響とか適応の内容というのは、もう既に既知のものである。したがって、この作業計画に基づいて先進国から支援を得たい。そのためのツールであるという認識を持っておりましたので、ここについては非常に先進国、途上国の間でのギャップがあったために、交渉が難航しました。
 もう1つは、途上国間の間においても意見の相違があったということでございます。これは気候変動の影響といいますのは地域によって非常にまちまち、あるいは程度もまちまちでございまして、各国とも関心のある分野が非常に異なっている。例えば島嶼国においては脆弱なこれらの国への特別な配慮、高潮ですから海面上昇といったようなものに対しての特別な配慮をぜひやってもらいたいと主張しましたし、一方、産油国などは気候変動対策、緩和策の実施に伴って産油国の産業が影響を受ける、こういったものに対しての保障をしろというような主張をした。そのようなことで途上国間でもなかなか一致点がみつけられなかったということで、作業リストの詳細までは踏み込めなかったということでございます。
 次のページでございますけれども、3といたしまして計画の概要についてご説明いたします。
 まず、この作業計画の目的ですが、各国が影響・脆弱性・適応への理解を深め、評価を改善し、科学的及び社会経済学的知見に基づいた適応活動に関する意思決定を可能にするということでございます。
 期待される成果といたしましては、5点挙げられておりまして、まずは国際、地域、国内、セクター、地方、さまざまなレベルで影響や脆弱性、さらに適応措置を理解をして、その実践かつ効果的な適応活動を選択する能力、キャパシティビルディングが行われると。2番目としてはCOPへの情報や助言の改善というもの。3点目といたしましては、実践的な適応、実際の適応の活動から知見を得て、さらにこれを普及し、こういった知識を利用していくことの強化を図られるというもの。4点目といたしましては、気候変動リスク管理能力の向上を目指した締約国やその他の各アクターの連携の強化。5番目としては持続可能な開発の統合という点が挙げられております。
 具体的な作業範囲でございますけれども、大きく分けまして影響及び脆弱性と適応計画・措置・行動の2つのテーマが挙げられておりまして、次の表2にそのサブテーマが示されております。これをごらんになるとおわかりのとおり、最初のaとbでいわゆる先進国の関心事項と途上国の関心事項ということで大別すると分けられるのかなと、最初の影響と脆弱性といいますのは、観測とか評価をしたりするための方法論ですとか情報へのアクセスですとか、そういった点を中心に今後作業をさらに展開していくと。後半の計画・措置・行動につきましては、具体的な適応計画を評価した、計画そのものを評価したり改善をしていくということですとか、具体的な適応プロジェクトの情報の収集、さらにそういった具体的な行動に関しての情報のコミュニケーションといったようなものが挙げられます。
 今後の作業につきましては先ほど申し上げたとおり、今後補助機関会合で具体的なリストの詳細、さらにこういったサブテーマの作業をさらに詳細に決めたりあるいはこういったサブテーマの優先順位を議論していくという予定になっております。以上がその適応5ヶ年作業計画の概要でございます。
 続きまして資料3-2でございますが、この国際戦略専門委員会におきましてこれまでも一部適応に関してのご議論をいただいております。その経緯を復習させていただきたいと思います。
 まず、平成16年12月に中間報告をいただいておりますが、ここでは適応策に関しては、緩和策の補完策としてどう位置づけるべきか、気候変動への適応策と通常のインフラ整備・開発との区別をどのようにするべきか、またどのように他の政策や開発計画に組み込んでいくかなどが課題となるということで、今後の課題についてご提示いただいたところでございます。
 その後、昨年の5月に出されました第2次中間報告、ここではいわゆる長期目標に関することを中心にご議論をいただいたわけでございますけれども、ここでは気候変動による影響は甚大かつ不可逆的なものとなるおそれがある。また、これまでに人類が排出した温室効果ガスにより、既にある程度の地球温暖化は避けられない。また温暖化問題におけるリスク管理のための政策の決定を支援する知見の蓄積や手法の開発は重要な課題であると。飛とばしますけれども、緩和と適応のバランスをいかにとるかといったような課題も含まれるといったようなご指摘をいただいております。これを受けた形で昨年の10月に第11回の戦略専門委員会をいただいておりまして、ここで事務局の方からも若干の問題提起をさせていただいたわけですけれども、その後、3つポイントがございまして、それは適応は気候変動問題の主要な対策の一つであるということ。そして適応は主要課題となりつつあると。また、適応問題への対処には専門的な観点からの検討が必須であるということでございます。
 そして、原沢先生に本日もお願いをいたしますけれども、気候変動の影響について、異常気象等の状況について、前回ご説明をいただいたところでございます。こういった流れを踏まえまして、今後、本専門委員会におきましてその裏にございますような点について、ご議論をいただければよろしいのではないかということで提案をさせていただきます。
 まず、国際動向、こういった点も非常に重要になってまいりますが、冒頭ご説明しましたように「適応5ヶ年作業計画に基づく作業の内容と優先順位に関する検討」、2つ目に「適応基金などの基金に基づくプログラムの検討」というものがございます。今回、詳細はご説明いたしませんが、気候変動枠組条約あるいは議定書に関しましては、3つの基金というものがございまして、それぞれの基金がその適応策に使われるということになっております。産油国基金のように既に実施されているものもございますけれども、この適応基金といいますのはCDM──手数料のようなものですね、こういったものから基金が積み上げられて、それを今後どう分担していくかといったようなことを交渉で決めていくことになりますので、こういった基金についてもしっかりと勉強してご紹介したいと思っております。また3点目ですが、来年のIPCCの第4次評価報告書も非常に重要な動向になるかと思います。こういったように適応に関連する議論というのが国際的に本格化しているということでありまして、2013年以降の気候変動対策の構築の議論においても重要な論点になると想定されるということでございまして、この適応を我が国の国際戦略上の観点からも検討をしていくということが重要であるという認識でございます。
 この際、議論は2つに大別することができると考えております。1つは、日本自身の適応対策をどういうふうに推進していくかという点でございます。2つ目は、国際的な適応対策、特に途上国の適応をどのように推進していくかという点でございます。本委員会におきましては今後予想される時期枠組みの本格交渉に備えるため、5ヶ年作業計画等の国際的な進捗状況も踏まえつつ、ご議論をいただければと思っておりまして、具体的にはとりあえず入れさせていただいておりますけれども、まずは科学的知見ですとか適応策の事例、コストの評価、さらには最近途上国もそうですけれども、先進国でも適応計画というものが策定または策定中という国がふえてきております。こういったものについてのご紹介とご議論、さらに基金の状況、その他といったことについて知見を整理していっていただければと思います。これを踏まえて戦略的な検討、具体的には我が国において、気候リスクを低減するための方策は何か。次期枠組みへの開発途上国の参加インセンティブを誘導するための方策、さらには緩和対策と適応対策のバランスをどうとるべきかといったような点について、ご議論をいただければと思っております。
 以上です。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。これからこの専門委員会でも適応策について議論をしていきたいと思っております。今、説明にありましたように、まず2つのポイント、すなわち日本自身の適応策をどう考えていくか。これは気候変動に関する適応策ということになりますと、多分この中央環境審議会辺りがある程度は音頭をとって考えていかなければいけないことでございますけれども、むしろ国土全体のことを考えますとほかの省庁も非常に関連するところであります。そういう面から私ども気候変動の適応対策については、ある程度情報の集約といったことも含めて何か仕事をしていかなければいけないのではないかなということは1つあるかと思います。
 2つ目が国際的な適応対策、具体的に国際的な場に出ていって、いったい日本はその適応策をどう考えているんですかという話もあるかもしれません。あるいは今後の交渉において、この適応策といったものをどういう具合に考えて使っていくか、途上国協力の問題にもかかってくるかと思いますけれども、そのような多くの課題がこの問題についてはあるかと思います。適応策は何となくまだ大丈夫だろう、大丈夫だろうと言いながら進んできましたけれども、非常に最近は異変が起きているということもあり、そろそろ真剣に考えていく必要があるのではないかなという具合に考えています。今の事務局案の説明に対しまして、何かご質問ございましょうか。

○亀山委員 ご説明ありがとうございました。1点質問は、きょうここで何を議論すべきかという質問にもなるかと思うのですが、この資料3-2の裏側の一番最後の2つの白いポツが今後ここの専門委員会で議論していくべき内容ということであれば、この白い○にもっとこんなことも話した方がいいんじゃないかというようなアディショナルな提案もきょうここですべきなのか、それともそういう話は次回やるのかということを、まず一点確認をさせていただきたいと思います。

○西岡委員長 非常に重要な話かと思います。どんなお考えですか、もちろんこちらすぐするべきだということあるんですけれども、何かございますか。

○竹本室長補佐 ご質問ありがとうございます。きょうの段取りではまず原沢先生の方から科学的知見ですとかコストに関する点をご説明いただきまして、またご案内のとおり適応に関する議論、現在進行形でようやく本格的に立ち上がったところでこれからゴールデンウィークにかけて適応に関するワークショップなど、危機に関するワークショップとかいろいろ行われ、さらに当省も進んでいくということで、おそらく次回のときにまた新たな情報が内容もさることながら新たな論点ですね、こういった点も出てくる可能性がございますので、我々事務局としてはこれに固定することはまったく考えておりませんで、そういう意味でその他というのをおいておりますので、もし本日こういった点についても議論するべきではないかというご意見がございましたら、ぜひご指摘いただければと思っております。

○亀山委員 では、もしかしたら原沢さんもあとでさらにいろいろと、ほかの委員の方からもコメントあるのかもしれませんが、1つこういうのも入るのかなと思いましたのが、適応しきれない影響というのがあるわけですよね、例えば2つ目の白い○の一番最初の項目を見ますと、「わが国において、気候リスク(熱波、海面上昇、食糧不足等)」というのは、ほとんど我々人類に対する気候リスクでありますし、ある程度適応可能なリスクでありますけれども、例えば生態系への影響などは適応できないものも数多くあるかと思います。このようなものについてちゃんとそういうものが存在するんだということを常に強調しておかないと、気候変動というのは努力すれば適応可能なんだというような印象の方が強調されかねないのではないかなという気がするんですが、そういうような点についてもどこかの場面で紹介していただけることは可能でしょうか。

○西岡委員長 また今のようなことも考えに入れていきたいと思っております。ほかに今のような論点でございましょうか。後ほどまだ多分、原沢さんの発表のあとにも時間があってそういう討議もやりたいなと思っております。
 それでは、まず原沢委員の方からのご説明を。

○原沢委員 地球温暖化の適応に関わる科学的知見ということで、1年半ぐらい前の第6回専門委員会で適応に関しましては三村先生の方から資料及びそのプレゼンがありました。それも踏まえましてこの1年半余りにどんなことがわかってきたか、1つはIPCCが進んでおりますし、あとはコストの面でいろんな研究成果がでてきたということであります。
 前回のところで気候変動枠組条約の中にはいわゆるCO2を削減するという対策と、もう1つは既に温暖化が進んでいるので、生態系とか食糧生産とか経済開発がうまくいくような適応策を打っていこうということで、条約の中に2つの対策が盛り込まれていたわけですけれども、やはり削減の方が先に枠組みの問題等々もあり議論されて、最近やっと適応策について国際的な俎上にのってきたということではないかと思います。
 IPCCをはじめとして、影響があった場合に適応策をどうとるかということで1990年の最初から研究面では議論していたということになります。適応策の必要性ということであとでもご紹介しますように補完的な対策ということではあったのですが、昨年のハリケーン・カトリーナ等の現象が起きてから補完的な対策というよりも主要な対策というふうに位置づけが少し変わってきたかなと思います。前回のポイントですけれども、450 ppmの安定化でもやはり影響は出ます、例えば380 ppmで安定化することは現実的ではないので、ある程度の影響は避けることはできないだろうということですし、やはり緩和と削減策と適応策をうまい形で進めていく必要があるだろうということです。これはIPCCの第三次報告書のポイントを3つ挙げたわけですけれども、ちょっと読みます。
 適応策は多くの気候変動の悪影響をかなり低減し、場合によっては悪影響を増大する可能性があるけれども、すべての被害を防ぐことはできない。これはやはり先ほどの亀山委員のご発言にあったとおりだと思います。
 2番目が、自然システムは事後的な適応であるが、これは生態系ですが、生態系は自分で計画的に適応できませんので、起こってしまったあとの適応策ですが、一方人間システムの方は事前的、計画的な適応もできるわけです。計画的な適応につきましては脆弱性を減少して、機会を活かす潜在的な可能性を有する。
 4番目は、現在の気候リスクにも注目して情報とか対応策の現状を把握する必要があるだろう。
 5番目が、適応に関する費用につきましては開発ですとか、他に比べる費用としては相対的に低いのではないかということがIPCCの報告書にあります。
 最後ですけれども6番目として、気候変動への適応が効果を上げるためには、気候以外のストレスを考慮し、既存の政策基準や開発目的、管理制度との一貫性が必要であるということで、現在の開発政策とかいろんな対策の中に適応策を組み込んでいく、メインストリーミングといったものがキーワードとして最近ではよく出てまいります。
 適応に関連してIPCCでは適応能力にはいろんな特性があるということと、その適応能力をかたちづくる要因としては資金力とか技術力、情報、技能、インフラ、制度、公平性といったいろんなものが関わるという認識であります。さらに開発とか持続性、公平性といったような現在でも問題となっているようなことと密接にリンクするということですので、温暖化と持続可能な開発という中に適応策というのが入ってきたということで、UNDPの開発戦略の中にそういった適応策に関連するようなことが入っております。
 削減策と適応策を幾つかの観点から比較したものでありますが、削減策の場合は地球規模で関わるけれども、適応策の方はむしろ局所あるいは地域といったような少し狭い領域であると。効果があらわれるまでの時間は長期目標といわれておりますように、削減策の場合は長いですけれども、適応策の場合は比較的短い時間で効果があらわれると。対策の共通の尺度といたしましては、緩和策の方は排出ガス量でありますが、適応策の方は影響についてはいろんな尺度がある。コストで統一できればいいのですが、なかなかコスト評価が難しいということでありますので、緩和策はコストで評価ができるが、適応策はなかなかできないので同一の土俵でなかなか議論ができない点もございます。対象となる国は最近ですと緩和策、適応策両方ともすべての国ですが、特に適応策については脆弱な途上国というのが対象になっているかと思います。
 論点の2としては、気候変動への適応策と通常のインフラ整備・開発との区別をどのようにするか。そもそも適応策というのはどのような範囲を指すのか。そして人間活動に起因した気候変動の影響を区別することは困難ですが、明らかに気候変動の影響であるケースや、気候変動に極めて脆弱なケースにどう対応するか。また適応策をどのように他の政策や開発計画に反映させるかというのが論点の2であります。
 論点の3は、適応策を実施する責任はだれにあるのか。コストはだれが負担をするのかということで、適応策の場合にはステークホルダー、関係者が多いわけですので、責任あるいはお金をだれが払うかという問題も出てきております。
 以上が前回の適応策に関する主要な論点だったのですが、これから少し新しいことをお話しいたします。
 今、IPCCでどんな議論がされているかということで第4次報告書、第2作業部会、影響・適応につきましては来年の4月ぐらいに総会がありまして、そちらで採択されるはずですけれども、今編集が進んでいます。余り内容に立ち入った情報は提供できないのですが、こんな議論をしているということをご紹介したいと思います。報告書は、20章構成になっておりまして、今回は温暖化の影響が世界中で出ているというところに1章を丸々割り当てておりまして、またページ数もほかの章に比べて多いということで、非常に多くの事例が集まっており、それを今まとめているところであります。
 2番目が「主要な脆弱性」と呼んでおりますけれども、条約でいいます安定化の問題も取り扱っております。それをキーブルベナビリティ(Key Vulnerability)という形でまとめております。
 3番目は、ヨーロッパの熱波ですとかハリケーンカトリーナ、現象的にはまだ温暖化との関係は不確かではあるのですが、いったん起きますと非常に影響が大きい。特に異常気象と温暖化、特に欧州の熱波とハリケーンについては特別に話題として取り上げております。日本では余り話題にならないのですけれども海洋大循環の停止など大規模な極端現象についても発生リスク等々について取り上げております。そして海洋の酸性化なども新たな知見ということで盛り込まれる予定になっております。適応策につきましては影響軽減のために非常に重要になってきたということで、前回に比べると重要視されていると思います。加えて温暖化と持続可能な開発についても言及しているということであります。
 これは第三次報告書で有名な地図でありますが、大体50点ぐらい地図に点が打ってありまして、これが今回、さらに点数がふえるということはたしかであります。さらに前回の場合は雪氷圏と生態系の変化ということでしたが、今回はさらに人間社会への影響も報告・論文が出ておりますので、まとめられる予定になっております。キーワードとしては、雪氷圏、水文・水資源、陸域生態系は第三次報告書とほぼ同じですが、さらに海洋の酸性化が加わって、それに関連して海洋・淡水生態系への影響と、人間社会・経済活動ということで干ばつ、熱波、洪水というようなキーワードが出てきております。
 適応策については17章で議論をしておりまして、簡単に紹介します。適応策の有効性ということで適応策はどの程度有効か、あるいは自然災害、防災の経験が気候変動に適応として活かされるのかどうか、緩和策、適応策との関係はどうかという適応策の有効性についてのキーワードであります。
 2番目は現在の気候リスクへの対応ということで現在の気候関連リスク、例えば台風、豪雨、干ばつなど、あるいは将来の気候変化のリスクで今日さまざまな形で適応が行われているであろう、そういったものをしっかりとらえて将来に活かしていこうということで、エルニーニョ、ラニーニャ発生時の予測の能力、洪水時の予測・警戒システム、あるいは節水プロジェクトなどというのは、将来の温暖化に対しても適応策として非常に有効な知見になってくるのではないかと思います。
 3番目は適応能力に関する理解ということで、当然ながら地域と分野によって異なるだろうという認識を新たにしまして、特に途上国の適応にも限界があるので、財政、制度、技術、社会、認知、情報といった適応能力の構成要素についての情報が不足しているので、こういったものを今後ともやっていこうということです。持続可能な発展を目指した計画へのメインストリーミングの重要性ということで、メインストリーミングというのがキーワードとして入ってきております。
 適応能力増強ということで、もう既に幾つか国際的なものが走っておりますので、そのうちの3つをちょっと挙げております。
 国別の適応行動計画ということ、これは条約関係の中で動いているものでありまして、特に後発の開発途上国(LDCs)が気候変動の悪影響に適応するための課題を明確化しております。2番目が適応政策フレームということで、 Adaptation Policy Framework、これはUNDPが設定しておりまして、開発戦略の中に適応を盛り込むということで進めております。これはあとでご紹介します。
 あとは、AIACCプロジェクト、これはIPCCの議論の中で途上国の研究能力人材を育成した方がいいのではないかということで、GEFの資金をとりまして、途上国を中心にした影響と適応の研究プロジェクトをやっています。その研究成果がいろいろ最近出てきているということであります。既に研究面あるいは政策面で適応策を具体的に、パイロットプロジェクト的ではありますけれども、やってきているということになります。これからご紹介しますのはUNDPの報告書が最近出まして、そちらで適応策あるいは緩和策を一つのフレームの中に納めた形で進めているということであります。
 これはその説明の図でありまして、温暖化の影響がありますと、それをとらえてあるいは関係者に情報を提供したり、さらに計画、設計、監視評価といったような、こういったプロセスでぐるぐる回すような適応策をとる。適応策と緩和策の両方を考えるということで、これまで別々に議論していた2つの対策がUNDPという開発、特に途上国の開発政策の中では一つの流れの中で位置づけられている。横にありますのが気候変動への対応フレームの中で検討すべき項目ということで、監視とかモニタリングの問題、評価の問題でどうパフォーマンスをあらわすかという指標の問題と、ラーニング・バイ・ドゥーイング、活動しながら考えるということです。あと参加型のモニタリングとか評価、そして先ほどメインシュトリーミングというようなことがキーワードとして入っております。
 ちょっと細かな図になりますが、中身にはふれませんけれどもいろんなタイプの適応のプロジェクトがあるだろうということで、これもやはりUNDPの分類でありますけれども、国と地方、局所とういうような空間的な差が一つある。横軸はいろんなタイプということで、例えば危険リスクに基づくアプローチ、リスクを知らせるというようなタイプのプロジェクトがあるということになりますし、2番目は脆弱性に基づくアプローチ、これは影響に対して脆弱性を改善するようなプロジェクトです。それから適応能力に基づくアプローチということで、これは産業分野そのものを気候変動等に強い分野にしていくというようなイメージであります。そして政策に基づくアプローチは国レベルでないとなかなかできないアプローチということで、例えば沿岸の堤防の嵩上げです。UNDPは開発という中で適応を考慮したプロジェクトの分類とか、具体的に実施されてきているということであります。
 これは同じくUNDPの報告書にあります。どんな関係者が適応策に関わっているかということでありまして、局所、地方、国で一番外側は世界ということでUNEPですとかGEF、UNDPがあり、局所になりますと市区町村の役所、コミュニティ、地域、NGO、これはなぜこういった関わってくるかというと、先ほどもご紹介したように適応策そのものは局所、あるいは地域、あるいは地方と、やはりそこに住んでいる人たちあるいは行政担当者が主体となって適応策を打ってなければいけないという意味で適応策に関わる利害関係者あるいはステークホルダーをかなり広めにとってきております。これはそういういろんな人が関わっているという一つの説明であります。
 持続可能な発展につきましては、これまでは持続可能な発展戦略という形で途上国をはじめとしたプロジェクトをいろいろやってきたわけですけれども、そのプロジェクトそのものはレビュー、モニター、評価という形で回っているわけですが、そこに気候変動に対する適応戦略をうまく盛り込めないだろうかということで、政策のギャップを埋めるとか、現在の戦略を再検討するということで、持続可能な発展政策そのものも見直すような方向で考えている。このUNDPは途上国の開発という面で進めてきたわけですけれども、そこにも気候変動の適応策を積極的に位置づけていこうということになってきています。若干例も出ているのですが、あとで一部ご紹介いたします。
 分野ごとの適応事例ということで、これも既に前にお話ししたこともあります。例えば水資源ですと水利用の高効率化ですとか貯水池とか、いろいろなメニューは上がってはいるのですが、例えばコスト評価の研究が進んだかというと、なかなかそこまではいっていないということで、今その先を目指して研究を進めているという段階であります。
 先ほど生態系については事後的にしか対策を打てないということですが、生態系の関連で人間が計画的に生態系を適応させるということもできるわけです。あらかじめリスクの高い生態系については、いろいろな策を打てるということで、その適応策のタイプを示しています。自然保護とほとんど同じような対策が書いてございます。こういったこともIPCCの中では議論されているということになります。
 これは欧州の熱波2003年でありますけれども、ヨーロッパは影響の研究や適応の研究は一歩進んでいたわけですけれども、実際にこういう現象が起きてフランスでは1万4,800人の方が亡くなったということで、これは大変だということで適応策について早速WHOのヨーロッパ支部の報告書が出ております。そこで挙げられている熱波の適応策ということで、行政面での適応策、技術・工学面での適応策、あるいは行動面での適応策ということで事例が上がってきております。
 我が国でも例えば環境省・環境研では熱中症予防情報ということで、ホームページの方から逐一情報を提供しているということもありますし、あるいは気象予報の中で、あすは暑くなるので外出をひかえてくださいといったような警報システムに近い形で取り組みをされつつあります。ヒートアイランド対策は熱中症予防の対策ともいえますし、適応策とも位置づけることができるのではないかと思います。また、特にアメリカではシカゴとかフィラデルフィアは熱中症で亡くなった方が多いので、早期警戒システムなどをつくっておりまして、いわゆるコストベネフィット分析などをやっておりますので、その事例については後ほどご紹介いたします。
 環境省の方でも温暖化と感染症の懇談会を2回ほどやりまして、いわゆる自然災害のあとに衛生状態が悪くなることが予想されていますので、そういったときに有害生物管理というシステムがありますので、今後温暖化の適応策という面で再評価をしていく必要があるのではないかと思います。感染症懇談会で川瀬先生が実際に愛・地球博のときに、何か起きたときにはすぐ対応がとれるような平時の対応業務などもやっていたということで、こういったことは表に出ないんですけれども、裏でそういった非常に努力をされているということになります。
 これは青いところが満潮以下の地域でありまして、海面が1メートル上がりますと、緑のところが面積がふえるということでありまして、これについていろいろな研究がされております。適応策ということになりますと、大きく3つ分かれまして、1つは堤防をつくる防護の話、2番目がどんどん水が高くなってきますので、高床式みたいな形で順応というタイプ、さらに後ろへ後退するような撤退という大きな3つの対策があって、特に途上国あるいは小島嶼国では海面上昇の影響については非常に深刻な状況になっていますので、適応策は既に行われているということは前回にも三村先生がご報告されたとおりであります。
 農業関係では、将来やはり温暖化の影響が出るときにどうすれば被害を減らせるかということで、これは国立環境の研究所で小麦の潜在生産性に及ぼす影響の研究をしまして、栽培時期をずらしたり、より高温に耐えるような種を入れたらどうなるか検討し、こうした適応策で生産性が大分持ち直すということがわかってきましたが、それでも完全に持ち直すことはできません、適応策を入れても完全に現状維持ということはできないということです。こういった研究が進んでいるのですが、さらにこれを国際的なマーケットにどれぐらいの影響があるかについては、今後やっていく必要があるということで。これはそういった気温上昇とか降水量の変化、どこに影響を与えてそれをどう適応策を打ったらいいかという一つの例であります。
 次はコスト評価も非常に重要ということで、現段階で影響のコストの評価あるいは適応策のコストの評価は非常に事例が少なく、そうはいってもだんだんふえてきているということで、今後の議論で参考になるのではないかということで幾つかの事例をお持ちいたしました。
 これは先ほどご紹介した海面上昇1メートルの日本の場合であります。例えば平均満潮以下の土地、人口、資産ですね、2倍から3倍に増加する。そのときの影響を避けるために堤防を嵩上げしたときには12兆円かかるとか、あと一番下ですけれども、波及的な被害ですとか心理的な被害、洪水が起きたときに直接的な被害と間接的な被害があり、その両方を考えると対策実施によって便益は1.7兆円あるというような研究成果も出ております。これは一つの例であります。
 2番目が温暖化のキリバスへの影響です。UNDPでは、特に島嶼国が非常に温暖化の影響を受けやすいということで、これはキリバスへの影響ということでまとめられたものであります。2025年、2050年、2100年でそれぞれシナリオを設定いたしまして、さらにENSO、エルニューニョが起きたときも想定して計算をしています。その下が影響と被害額ということで沿岸域の影響については浸食による土地の損失、これが100万ドル単位で0.1~0.3というような形の経済評価をやっております。
 この結果からいいますと、被害の合計額が8~16プラスで、これはキリバスのGDPの17%~34%に当たるということで、やっぱりこれは非常に大きな被害があるということです。その被害を軽減するための適応戦略ということで、リストアップしたのでありまして、これは幾らかけてどれぐらいの被害が軽減できるかというような分析はないのですが、例えばマングローブやサンゴ礁の保護が必要であるとか、ラグーンにおける固形廃棄物の管理とか広範囲な計画を立てております。実際にこれがうまく動いているかどうかというところまでは報告書にはなのですが、もうUNDPの方ではこういった個別事例についての検討をやっているということになります。
 例の3ですが、これは台風の被害ということで、必ずしも温暖化との関係は、例えば昨年のカトリーナと温暖化の関係についてはまだよくわからないということではあるのですが、温暖化が進むとこういった台風やハリケーンが強くなるということがあるので、特に保険会社はこういった事例については非常に関心が高いということです。こちらはイギリスの保険業協会の報告書、あるいはつい最近出ましたミュンヘン再保険会社(Munich Re)の資料等をお持ちしたわけであります。2002年のヨーロッパの洪水は160億ドル、1.7兆円の被害があったという話でありますし、2004年にはアメリカで4つのハリケーンが1ヶ月強の間に上陸いたしまして、大体560億ドル、6.2兆円の損失があって保険会社は300億ドル、3.3兆円支払ったということであります。
 日本では10個の台風が上陸して1.5兆円の被害、保険会社が大体7,600億円を払ったということです。2005年のカトリーナだけで14.7兆円の被害、これは最新のMunichの保険会社が出した資料から引用しております。保険会社は6.5兆円を支払ったということであります。この14.7兆円というのはやはり非常に大きな数字で、いったんこういった巨大なハリケーン、台風がきますとかなり被害は大きいということだと思います。
 それを踏まえて2080年の予測をやっておりまして、2080年の状況で台風・ハリケーンの風力が6%強くなるという想定でやっておりまして、日本の場合は大体2.7~3.7兆円ぐらいに被害が増大するのではないかということです。もっともこれは毎年起きるわけではなくて、ある年起きたらこれぐらいの被害があるのではないかということですが、こういった被害額についての計算も最近は公表されてきております。
 例4は、カナダでございますけれども、カナダの場合は現在の気候へ適応するという条件で計算をしております。100万カナダドルの単位で例えば運輸では1,675ですとか、というようなコスト評価がされておりまして合計では1万1,653というような適応コストを計算しています。温暖化した後どうなるかについては、算定はされておりませんので、傾向として例えば運輸とか家計については気温が上がることによって、例えば雪の被害がなくなるということもあって減少傾向ではないか、その傾向だけについて示されております。これは1990年代初頭に行われた計算であります。
 例5は、農業分野における費用便益分析ということで、これが先ほどご紹介しましたAIACCというプロジェクトの一環でやられたものです。ガンビアにおけるミレットという雑穀の一種の栽培に適応策を打ったらどうなるかというのを費用便益分析をやっております。右にありますのが灌漑なしと灌漑あり、現在は雨水で耕作しておりますので、そこに灌漑を入れますと平均収量が大体3倍になります。市場価格も考えますと300ドルぐらい儲かるということでですが、一方、灌漑の費用はかなり膨大になっていますので、純便益という項目で見ますとマイナスになり、この比をとりますと0.14とか0.09、これは金利によってかわるのですけれども、これからいうとかなり適応策も施設タイプのものはやっぱり効率が悪いということの例であります。これをどう考えるかというのは、まだ検討が必要だということになりますが、こういった計算が先ほどご紹介したAIACCの中でやられているということであります。
 例6は、熱波の早期警戒システムということで、これはフィラデルフィアの事例の論文が出ております。フィラデルフィアでは93年の7月に熱波が起きまして118人が死ぬというような事態が起きたということで、早速早期警戒システムをつくりました。費用便益をやっているのですが、ほぼ同じ条件でやりますと117人が助かるだろうということで、一人の値段が400万ドルという計算をしていまして、4億6,800万ドル便益がある。かかった費用ですが、これは電話番をふやしたりとかそういうようなことで21万ドルで圧倒的にやはり適応策の効果はあるんだということであります。ただ、この人の命の値段をどう評価するかという非常に難しい問題があります。
 フィラデルフィア市の対応について簡単に書いたんですけれども、まずラジオ等々で危ないということの報道と、さらに親戚とか友人には高齢者を訪問して助けてあげるというような話があったりとか、あるいはヒートラインという電話相談を開設したりとかいうことで、施設ではなくてソフトな対応でかなりうまくいっているようであります。
 例7は、1mの海面上昇に伴う適応コスト評価ということで、これはグローバルなレベルでは何人かの方が研究をされておりまして、これは2002年にTolという研究者がもう一回計算をやり直した値であります。各9地域に分けまして、海岸の保全費、これは具体的には堤防をつくる、あと移転費というのは、もうそこに住めなくなるので国内、地域内で移動をする、これを移転と書いております。移住というのは地域を超えて移動するということで、そのコストをどう計算したか上に式がありまして、例えば地域間を超えて移住する場合には受け入れ国における一人当たりの収入の40%費用がかかるというような、そういう想定をして計算をしているということであります。これが本当にどういう意味を持っているかは非常に難しいところがあるのですが、ただ一方では全世界レベルで適応策を打ったらどれぐらいの費用がかかるというような面では、一つの研究事例ということになるのではないかと思います。
 例8は、イギリスの例でありますけれども、自然災害とか大雨の適応策についてですが、自然災害・防災の分野でかなりやられているかと思うのですが、温暖化への適応策の事例ということで、イギリスでは河川や沿岸の洪水ですとか都市内の洪水、浸水の被害ということで現状は例えば10億米ドル単位ですけれども、1.8とか0.6かかります。排出シナリオとして高い、低いということで2つ想定しまして、適応策がない場合は例えば河川や沿岸の洪水では高いケースは26.5の被害が発生するのですが、適応策を打った場合にはそれが1.8になる。20分の1ぐらいになるという話が出ています。具体的に適応策というのは洪水の防御であったり土地利用計画であったり、都市における洪水の貯留、かなりいろんな対策を想定して計算をしているということです。これは適応策が中心ではあるのですが、あわせて削減策も一緒に考慮しているということがありますので、国によってはこういった研究あるいは検討をしているという例です。
 最後ですが、これは前回の適応策のまとめということで再度お持ちいたしました。
 温室効果ガスの排出削減の補完策として適応策が必要ということであります。
 気候変動は先進国、途上国に大きな影響を及ぼす。特に南太平洋の島嶼国など途上国は気候変動・海面上昇に極めて脆弱であり、これらの国の温暖化対策は適応策が中心になるだろう。
 各国にあった適応策の確立、人材育成、国際的な援助は不可欠であるし、また適応にはこの地域の条件や伝統的相互扶助の仕組みや固有技術を活かす必要がある。
 対応能力を各国でそれぞれ形成するのは難しいので、地域全体での協力が必要であるということです。
 これに私の方でちょっと加えましたのが、これはスタンレポートを若干参考にして書いたのですが、例えば適応策の世界、国、地域別の戦略が必要であるということで、途上国におきましては持続可能な発展とどう折り合いをつけるかという話でありますし、先進国におきましては主流の対策へどう適応策を組み込むかという話がありますし、さらに適応策と緩和策の統合も検討する必要がある。
 2番目は、気候変動情報を使っていく必要があるのではないかということで、現在の気候変動性とか異常気象の被害や対策コストというのは、いい情報になっているのではないかということと、やはり将来どう気候が変わるかということで、やっと最近地域レベルの将来気候予測ができましたので、そういった情報をうまく活用する必要があるのではないか。
 3番目は、地域に根ざした影響評価がやっぱり必要になってくるということで、高度化とその結果の普及というのが適応策を打っていくための一つの貴重な情報になってくるのではないか。
 4番目は、適応評価の手法の確立ということで、先ほどご紹介したコストの事例はまだまだ少ないので、コストによる評価は難しいということなので、コスト以外の指標による適応策の評価というものも必要になってくるのではないかと思います。
 最後に利害関係者がたくさんありますので、そういった利害関係者の多い中でどうやって啓蒙とか情報を普及あるいは能力開発をしていくかというのは非常に大きな問題だと思います。伝統的な適応策などを含む適応優良事例、グッドプラクティスの事例をやはりしっかり踏まえていく必要があるし、適応情報の共有ですとか国内外のネットワークをうまく活用していく必要がある。あとはどこまでできるかわかりませんけれども、例えば参加によって地域レベルの適応能力を開発していくということも必要になってきているかもしれません。
 以上です。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。三村委員の方から追加等ございますか。

○三村委員 よろしいですか。

○西岡委員長 はい、どうぞ。今、原沢委員の方から非常に詳細な適応策の現状というのをうかがいました。ちょっと、もし時間がありましたら付け加えていただいて。ちょっと私の方の進行の不手際で時間が足りなくなってきましたけれども、皆さん、これからどうやって進めていくべきかといったことについて、それぞれ一言ずつぐらいいただきたいと思います。

○三村委員 ごく簡単にお話をしようと思うんですけれども、前回、私が報告した中身を原沢委員に非常に要領よくまとめていただいたのですけれども、ちょっと2つ訂正というか、その後、考えたことを2つだけご紹介したいと思います。
 1つは、原沢委員の資料の6ページで緩和策と適応策の特徴の中で、効果があらわれるまでの時間、リードタイムが比較的短い、適応策が短いと書いてあるのですけれども、本当にそうかどうかは分野によると考えるようになりました。この図は今、原沢委員から紹介がありました世界の災害の経過でして、横軸は1950年から2000年まで、IPCCの図で1990年に入って災害がふえている、こういう図なんですが、これは世界の傾向なんですが、次の図は実は日本の同じような図でして、これは1945年から1997年までです。
 我が国は、1959年に伊勢湾台風で5,000人以上の方が命を落とされるという大きな災害が起こりました。1960年にはチリ地震津波が起き、この前後に大きな台風が続いたものですから、海岸を防護するということで一生懸命護岸とか堤防をつくったわけですね。海岸の自然環境を失ったりとか副作用ですね、そういうのもいろいろあったのですが、安全面では一生懸命努力をしたということで、ごらんのとおり世界の傾向は被害が増えているのに、日本の傾向はずっと減ってきた。これが言ってみれば適応策の効果です。ただ、この効果を出すために40年以上かかっているわけですね。
 実は日本の災害による死亡率の低下を見てみますと、大体終戦直後ぐらいは10万人に1人ぐらいの方が毎年災害で亡くなっていたのですが、現在は200万人に1人とか非常に落ちている。この災害死亡率を低下させるというのが適応策の効果だったということだと思うのです。
 これはバングラデシュですが、実は同じようなデータがないのですが、バングラデシュでは10メートルを超えるような高潮が起こって、1970年代には1つの災害で30万人ぐらいの方が亡くなるというような経過があったのですが、そのときには実に人口の1,000人に1人ぐらいが亡くなるようなことになっていたんですね。ですから、途上国において日本と同じ効果を出そうとすると、1,000人ぐらいのところからどうやってこの100万人に1人というところに落としてくるか。そのためには我が国で40年以上かかった、営々とやってきたんですね。それと同じような時間がやっぱり必要かもしれない、それは緩和策と同じぐらいの時間がかかることもしれないということを、我々もちょっと認識しておく必要があると思います。
 実は今トレースしているのですけれども、ずっと災害が落ちてきた。ところが去年ぐらいから逆に上がったんですね。この年は阪神淡路大震災があって、地震のデータも入っているからなんですけれども、我が国でも災害の被害をずっと落としてきたのですが、2002年、2004年は特異的にボンと上がった。もし同じような傾向が続けば我が国も新たな投資をしないと、同じような災害に対する安全性は確保できないというようなことです。以上のことから、6ページの図の「比較的短い」と、それだけをいうのは片手落ちで、適応のリードタイムは長い時間、長い努力が必要な分野もあるということが1つです。
 それからもう1点は、これはスライドではないのですが、7ページですね、次のページで論点の3で「適応策を実施する責任はだれにあるのか」ということですが、結局、安全を確保する責任は、それぞれの国の政府やその国の人たちにあるというふうに思うんですね。けれども気候変動というのは自然の状態に付加的なプレッシャー、圧力をかけるわけですから、気候変動によってよりたくさんの対策をとらなければいけなくなった分については、国際社会が負担するという考え方があるのではないかと思います。気候変動に関する交渉でそういうことが言えるかどうか、ちょっとよく分かりませんけれども、そういうふうに考えるグループが今出現していて、例えば途上国の海岸対策をやるときに、気候変動がなかったときにはこういう設計で護岸をつくりますと、それで、将来の海面上昇や台風が強くなるということを最初の設計の段階から入れたら、最初のコストはこれだけ高くなるが、50年ぐらいを通すと防災効果を発揮して、トータルとしては安くなる。その最初のコストで上がった分については、国際社会がちゃんと対応しなければいけない。そういうような形の報告書がアジア開発銀行のプロジェクトなどで出されたりしています。この論点3というのは問題提起の形ですけれども、いろんな主張というか具体的な考え方が少しずつ出されつつあるのではないかなというふうに思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。どうでしょうか、ほかの委員の方で今後の適応策の問題、国内あるいは国際的にどういう取り組みをしていくべきか。先ほど亀山委員の方から、見逃しているところがあるのではないかというお話もございました。

○工藤委員 先ほど5ヶ年作業計画の検討の中で先進国と途上国間の中での考え方の違い、もしくは途上国間と意見の違いがありますという、ここの認識というのは実に非常に大事かなと思います。すなわち、今三村先生のご説明になりましたが、ある意味、この適応を考える前提というのはいろんな意味での因果関係とか効果というのを仮想しながら議論をしなければいけない。かつそこに数多くステークホルダーなり何なり要るということになりますので、いろんな意味でそういう前提のもとに考えているということと、あと気候問題だけで切り離すと、本当に評価できるのかどうかという辺りも当然考えなければいけないわけですね。この辺の一種複雑形みたいなところをどのように前に改善していけるのかということを、考えなければいけないのかなと、そういう意味では例えばどの時点で、どういう地域で、どういう影響がみられて、どういった適応策を事前にか、事後なのかなどといういろんな評価軸といいますか、検討すべき項目がたくさんあるんじゃないかなと。そういったものを今すぐ検討なり行動できることですとか、長期的にみて行動しなければいけない、検討すべきでないといけないとか、先ほどのマトリックスがありましたけれども、そういったようなことを、すなわち、やはり科学的知見に基づいたさまざまな情報の共有化と環境づくりというものが、まず第一義的にあるのかなと。
 そういう意味で例えばベストプラクティスというようなことも含めまして、いろいろな意味での具体例とか、それからやり方としては影響の類似性がある地域とか、同じような技術をうまく補完できるような関係である地域だとか国だとかということで、いろいろとやり方を考えていくとか、そういったいろいろなやり方が視点としては考えられるのではないかなという気がします。そういった意味で事務局が整理された今後のテーマの例えば適応対策に関する知見の整理のところに挙げられている項目をもう少し整理されたらどうかなと、例えば適応に関する科学的知見というのは、おそらくは知見のさらなる蓄積とそれをいかに共有化していくか。先ほど原沢委員も啓発という言葉を出されていましたけれども、そういったような視点ですし、対策コストの話とかいうのはまさに対応を適用するための基礎な情報をちゃんと評価するということですし、それ以下国際交渉なり何なりというのは、まさにプラクティス、構造という話なので、その辺をうまく項目みたいなところを整理して、それぞれどういうことを考えたらいいかとかということを考えたらいいんじゃないかなと思います。あと、その下にある次期枠組みへの参加インセンティブ云々というあたりは、私はこれちょっとよくみえない文章で、逆にこれで本当に議論ができるのかなというのは、正直いって悩ましいなと、きょう拝見した印象です。
 以上です。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 ほかにございましょうか。

○新澤委員 適応というのは、その費用を負担すると自分が被害をまぬがれるという意味で、ミチゲーションと基本的に性格が違うわけですよね、出発点として各国単独で別にやってもかまわない。で、先ほど三村先生がいわれたような途上国に対する責任の議論はもちろんありますけれども、出発点について基本的に各国、単独でやれるものがあると思うんですね。なぜそれを国際的に議論しなければならないのかという点を、もう少し区別していった方がいいんじゃないかと思います。
 先ほどの原沢先生の報告を聞いていると、まずモニタリングはやっぱり国別ではだめだろうなというのがわかりました。そのほかいろいろ考えてみると、例えば日本が独自にやるんだけれども、日本自身に起こる影響に日本自身には適応できないというのも幾つかあって、たとえば農産物はかなり外国から輸入しているわけですけれども、輸出生産国の方で何か起きた場合に日本に対して間接的に悪影響があるとか、そういったものは日本では適応できないので相手国の適応というのを、輸出国側の適応というものを日本が考えることが戦略上やっぱり必要かなという気もします。
 で、最後には当然国際的に議論するのは責任の議論があってですね、三村先生がおっしゃったような、これまでたくさん温室効果ガスを出した国が責任をとれという議論は当然あると思うんですけれども、その前の段階にも日本自身のことを考えて、国際的に日本自身の適応を考えると国際的に何か協力の枠組みをつくっていかないとできないということはあるのではないかと、そういうふうな仕分けが必要なのではないかと思いました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。

○明日香委員 今の二人のお話を聞いてちょっと思ったことなんですが、多分三村先生がおっしゃった──部分だけを負担するというのは、私はインプルメンタルコストの議論にいって、GEFはそれをリン──プルしていって、受けた分だけ払うと、で、ある程度10年、20年たっていて、いろいろ問題はあるんですけれどもその辺、方法論として確立して、特に気候変動の場合は……実際計算はたしかなんですが、その流れできているのだと思います。
 私が思ったのは今、責任という言葉が出たんですが、やはりミチゲーションの場合、どういう責任分担をするときにある程度──考えて、そういう意味ではその責任をミチゲーションの方の責任分担とある程度リンクできる話なのかなと思いました。そのときに国の排出量、一人当たりの排出量を考えるとかいうのは重要な論点になると思いますし、そこら辺も含めてそういう意味では責任問題というのは両方にいろいろ議論すべきことなのかなと思いました。

○西岡委員長 ほかにございましょうか。

○甲斐沼委員 国際機関との連携が重要ということでご紹介させて頂きます。先週UNEPの会議に出席しました。議題は、環境と開発をテーマに将来シナリオを検討することでした。UNEPは国連の環境計画で、持続的発展が主要議題でした。ミレニアム開発目標をいかにして達成するかということがひとつ重要な課題になっていました。気候変動も話題の一つでした。気候変動を対策は、安定化対策だけと考えると非常にコストも高くなるけれども、開発目標を達成することと一緒にその対策を考えたらどうかというような議論がありました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。ほかにございましょうか。

○三村委員 日本自身の適応対策をどのように準備するかという論点なんですけれども、例えば2004年の台風の災害に対して、防災水準を上げて危ないところをもっとちょっと防護しなければいけないというような、国土交通省の方も一生懸命今取り組もうとされていると思います。同じようにもし農業や林業などに影響が出ているのだったらば、それに対して現在既に政策を何か考えておられるだろう。それから熱波、感染症についても厚生省ではいろいろやっておられるはずだと思うのです。
 そうすると、現在の政策の中に既にある程度、組み込まれている適応策と、それでは対応しきれないような将来の気候リスクに対しては上乗せの適応策が必要ということが分かります。そういう広範なサーベイを是非やって、我が国の適応策の必要な分野とその対応策、現在とれている対応と将来とらなければいけない対応の一覧表のようなものを、つくるということがぜひ必要なのでないか。これは政府のどこかでまとめてやられればいいと思うんですけれども、環境省もそういうような立場のひとつだと思うので、ほかの省庁にも呼びかけてその一覧表を少し整理をされてみたらどうかなと思います。そういうものを見せていただければこの場の議論というのはかなり具体的に進めることができるます。

○原沢委員 例えば今の話非常に重要でありまして、今アメリカがハリケーンカトリーナのいろいろな情報を集めて、それに対してどう国としてあるいは地方として対応したかというのを再評価しようとしています。そういったことを日本の場合も、例えば2004年の猛暑、豪雨、台風10個上陸ということをしっかりデータとして押さえて、かつ被害とかそういうような情報をどっかでしっかり集めて分析していく必要があるのではないかなと思います。
 今つくばの研究所(防災科学技術研究所)では台風データベースをつくってその被害情報をまとめています。意外とそういったデータが、なかなか共有できずにいました。今三村先生がおっしゃったような議論になかなかならないようなところがありますので、都市対策、自然災害対策、気候変動に関わるような分野についてはそういった取り組みが必要かなと思いました。特にハリケーンカトリーナですとかヨーロッパの熱波というのはやっぱりしっかり日本としても勉強をしておく必要があるのではないかと思いました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。一通りのお話をおうかがいしたと思います。まず基本的には情報だとかデータとか評価という問題があるかと思いますけれども、ある程度いってみれば行動計画みたいなものにもしていかなければいけないと思いますし、それからその場所だとか時間だとかいろいろと適応に関してはいろんな側面があると思いますので、そういったことの整理を考えながらやっていく必要があるかと思います。国際的な問題につきましては、どう基本的なことを考えていくかという課題が残っているわけですが、大体議論として本当は出尽くしていて、日本としてどう考えるかという問題の方が多分大きいのかもしれません。
 いろいろとお話も出ました。時間もなくなってきましたので、この辺で議論をおしまいにしたいと思っておりますが、次回はこのような資料を整理していただいて、また次のステップへ進みたいと思います。事務局、何かありますか。

○竹本室長補佐 次回は4月を予定しております。委員長ともご相談の上、ご案内したいと思います。
 以上です。

○西岡委員長 それでは、どうもありがとうございました。遅くなりまして申しわけございません。

午後5時12分閉会