中央環境審議会地球環境部会第11回気候変動に関する国際戦略専門委員会議事録

開催日時

平成17年10月3日(月)10:01~12:04

開催場所

合同庁舎5号館 共用第8会議室

出席委員

(委員長) 西岡 秀三  
(委員) 明日香 壽川
亀山 康子
住 明正
松橋 隆治
甲斐沼 美紀子
工藤 拓毅
高村 ゆかり
原沢 英夫

議題

1.
気候変動問題に関する最近の国際動向について
2.
国内外の異常気象などの状況について
3.
その他

配付資料

資料1
気候変動問題に関する最近の国際動向
資料2
国内外の異常気象などの状況(原沢委員提出資料)
参考資料1
環境省報道発表資料
 「気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)及び京都議定書第1回締約国会合
(COP/MOP1)閣僚準備会合」の結果について(お知らせ)
参考資料2
適応問題の検討の必要性について

議事録

午前10時01分開会

○水野国際対策室長 それでは、定刻となりましたので、ただいまから気候変動に関する国際戦略専門委員会第11回会合を開催したいと思います。

地球環境審議官挨拶

○水野国際対策室長 まず初めに、小島地球環境審議官より一言ご挨拶を申し上げます。

○小島地球環境審議官 地球審議官の小島でございます。おはようございます。
 この専門委員会は、5月に第2次中間報告ということで、気候変動の長期目標のあり方についてご報告をいただきました。昨年12月の第1次中間報告とあわせまして、着々と次の枠組みの課題について、一つずつ検討の結果をいただいているところでございます。
 その後、国際的にはいろいろなことがありまして、5月のボンでの政府専門家セミナー、7月のG8のグレンイーグルスサミット、8月はグリーンランドでダイアローグが行われ、つい先ごろオタワで準備会合がありました。また、日本も参加しておりますが、アメリカ、オーストラリア、韓国、中国、インドが入った6カ国のアジア太平洋パートナーシップも立ち上げられています。中国に関しては、EUも中国との間で温暖化のパートナーシップをつくるということで、ついせんだってEUは中国あるいはインドの方にも訪問をしているということで活発な動きが見えております。モントリオールの交渉に向けて先般開かれました準備会合で、非公式ながら、ようやく各国の現時点での交渉ポジションが見えてきたのではないかと思いますけれども、今の段階は、どの国も相手の出方を見ているということが正直なところではないかと思います。本日は、この間の動きについてもご紹介をしたいと思っております。
 他方で、最近気候変動との関係も疑われるといいますか、そういう異常気象が頻発しております。欧州での洪水、熱波、アメリカにおけるハリケーンというような異常気象の影響というのは非常に大きなものになってきております。日本でも多くの台風あるいは集中豪雨がありますけれども、こうした異常気象の世界的な状況を整理しておくことも重要であろうと思っております。
 次の枠組み交渉にはいろいろな課題がありますけれども、開発途上国の関心が非常に高いものの一つに適応戦略があります。具体的には気候変動によるさまざまな影響というものにどう適応していくかということでありますけれども、人々の関心からすると異常気象と温暖化はどう関係するのかというところが現実的な感覚としての出発点だろうと思います。今回は、異常気象の状況の整理を皮切りに適応対策についての課題を整理していただきたいと思っております。この専門委員会の活発な議論を期待したいと思いますし、そういうものを踏まえて、適応対策は国際的にもようやく議論が緒についたばかりでありますけれども、着実に一つずつ課題を整理して国際交渉に臨んでいきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

事務局紹介

○水野国際対策室長 それでは、議事に入ります前に事務局で人事異動がございましたので、ご紹介をさせていただければと思います。
 まず、今ご挨拶をさせていただきました小島地球環境審議官でございます。

○小島地球環境審議官 よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 続きまして、小林地球環境局長でございます。

○小林地球環境局長 小林です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 竹本環境管理局長でございます。

○竹本環境管理局長 竹本です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 笹谷審議官でございます。

○笹谷審議官 笹谷です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 梶原地球温暖化対策課長でございます。

○梶原地球温暖化対策課長 梶原です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 山本調整官でございます。

○山本調整官 山本です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 塚本研究調査室長でございます。

○塚本研究調査室長 塚本です。よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 吉川研究調査室長補佐でございます。

○吉川研究調査室長補佐 よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 竹本国際対策室長補佐でございます。

○竹本国際対策室長補佐 よろしくお願いいたします。

○水野国際対策室長 以上でございます。
 それでは、議事進行につきましては、西岡委員長、よろしくお願いいたします。

適応問題の検討の必要性について

○西岡委員長 皆様、おはようございます。今日は、言ってみれば新しいシリーズ的な会合になると思いますので、今日の議題をどういう背景で設定したかということ、それから今後の進め方について事務局の方からまず簡単にご説明いただきまして、審議に入りたいと思います。

○水野国際対策室長 それでは、ごく簡単に説明をさせていただければと思いますが、参考資料2をごらんいただければと思います。「適応問題の検討の必要性について」ということでございます。
 背景ですけれども、従来から適応問題というのは、気候変動問題への主要な対策の一つということで、緩和策を補完するという意味で重要な施策ということで条約や議定書にも位置づけられておりました。しかしながら、国際交渉などの場面では、これまでのところ、実際問題としては緩和策の方が重視をされてきたという経緯がございます。
 しかしながら、適応問題というのは、特に途上国などにとりましては、かねてから主要関心事の一つでございました。そういった背景もありまして、昨年12月のCOP10では、途上国への資金支援や人材育成支援などに加えて、5ヶ年作業計画の策定について決議されておりまして、これが「適応対策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」という名前がついた決議でございます。現在は、この「ブエノスアイレス作業計画」に基づきまして、適応に関する5ヶ年作業計画をCOP11で策定すべく、10月にワークショップが開催されるなど検討が進められることになっております。
 (注)に書いてありますように、この「適応に関する5ヶ年作業計画」というのは、より一層具体的な行動を進めていくために、まずは具体的にどのような知見が存在し、どのような知見が不足しているのかということについて手順を追って作業を進めていくということで、具体的には方法論、脆弱性評価、適応計画、持続可能な開発への統合などの要素につきまして作業計画をつくるというものでございます。
 後ろに参考で資料をつけておりますので、またごらんいただければと思います。
 こういったことで適応問題は主要課題となりつつあります。さらに、次期枠組み交渉の中でも、適応問題を明確に位置づけるべきという意見も散見されるようになってきております。したがいまして、我が国といたしましても、今後適応問題に対する国際的な議論あるいは行動に具体的に貢献していく必要があるということでございます。しかしながら、適応問題につきましては、科学的な知見あるいは概念整理などの面でもいまだ議論が十分尽くされていない。このため、現時点で専門的観点から適応問題をめぐる論点について整理をいただくということでございます。
 簡単な議論の進め方、具体的なスケジュールにつきましては、裏をごらんいただければと思いますが、今のところ3回ぐらいをめどに議論をいただきまして、この適応問題について整理をいただければと考えております。今回再開後の第1回と書いてありますが、この専門委員会では、適応問題を考える上での重要な基礎情報となる異常気象の問題について検討・整理をいただくということと、国際的な議論の動向などについても整理をさせていただければと思っております。
 その後、10月17~19日にかけまして、この5ヶ年作業計画策定に向けた非公式なワークショップが開催されますし、11月末からCOP11では5ヶ年作業計画が策定の予定、あるいは将来枠組みに係る議論でも適応の問題が取り上げられる可能性もあるということでございます。
 こういった交渉経緯なども踏まえまして情報をアップデイトさせていただいて、1月には第2回、そして必要に応じて第3回ということで適応問題について議論をいただければということで考えているところでございます。
 簡単ですが、以上でございます。

○西岡委員長 ありがとうございました。
 適応の問題については、いつも難しいのは、一体いつから始めるかということがありまして、それから、非常に時間がかかるものもあれば、その時々に適応するという話もありますし、また、ミティゲーションとの関連でこれをどう扱っていくかという問題もあります。さらには、既にCOPの方ではある程度の枠組みが決まりつつあって、日本はどういう形でこれにコントリビューションしていくかという問題も残っているかと思います。そういうわけで、今回のシリーズで適応問題を取り上げようということになっております。
 今日のプログラムを見ていただきますと、議事次第の1が「気候変動問題に関する最近の国際動向」ということで、この適応だけに限らず、この問題に関する動向についてのお話を事務局の方からいただきたいというのが1つです。それから、いつから始めるかという話をいたしましたけれども、今あちこちで言われている異常気象といったものがどういった意味を持っているのだろうかということについて原沢さんから報告をいただきまして、それをベースに適応の問題をそろそろ考えていこうということで考えております。
 今日は12時まで2時間ということでございますので、ひとつよろしくお願いいたします。

1.気候変動問題に関する最近の国際動向について

○西岡委員長 まず最初に資料の確認をした後に、事務局の方から「気候変動問題に関する最近の国際動向」をご説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○竹本国際対策室長補佐 まず、資料の確認をさせていただきます。着席したままで失礼いたします。
 既にいろいろごらんになっているかと思いますけれども、一番表に議事次第がございます。それから、資料1といたしまして「気候変動問題に関する最近の国際動向」、資料2といたしまして「国内外の異常気象等の状況について」、参考資料1が「気候変動枠組条約第11回締約国会議及び京都議定書第1回締約国会合閣僚準備会合の結果について」、参考資料2が、水野室長からご説明がありましたが、「適応問題の検討の必要性について」でございます。
 以上でございます。

○西岡委員長 それでは、資料の不足がなければ、「気候変動問題に関する最近の国際動向」ということで事務局からお願いいたします。

○笹谷審議官 審議官の笹谷です。どうぞよろしくお願いします。座って説明させていただきます。
 この資料は、タイトルとして「気候変動問題に関する最近の国際動向」ということで、全体をレビューする形をとらせていただいておりますが、私自身、先週オタワ会合から戻ってきたばかりでありますので、オタワ会合での感じを中心に最近の動向についてレビューをしてみたいと思います。
 これを考える前に、COPプロセス、参考1「G8サミット及びその他これまでの国際動向」、参考2「EU及び米国の状況」という構成になっておりますが、COPプロセスを中心にご説明いたします。COPという外交を考える場合、また、COPプロセスの交渉を考える場合にいろいろな見方がありますが、今後見ていく上で、私の私見ですが、いろいろな国際フォーラムの中には2つあるのではないかと理解しております。1つはディスチャージング・フォーマット、何かを決めていく、決定していくというチャージする、ディスチャージング・フォーマット、もう1つはディベーティング・フォーマットということで、いろいろな対話をする、議論をする。何かが決まるわけではないけれども、相互に学んで、相互に啓発する、理解する。こういうようにディスチャージング・フォーマットとディベーティング・フォーマットというのが存在するのかなというふうに見ておりますが、またその中間的なスタイルも当然あり得ると思っております。今後見ていく上でどれがどれに該当するのか、非常に微妙ではありますが、そういう見方が1つあるのではないかと思います。
 2つ目は、外交とか交渉とかを見ていく場合には4つの視点が必要だというふうに見ております。これも私の考え方ですが、1つはアジェンダの設定の仕方、争点、一体何を決めるのか、そういう対立軸になる項目は何なのかというコンテンツ、そういうアジェンダの設定の仕方がまず1番目に大事である。2番目に、そのアジェンダによって交渉関係国、UNFCCCであれば相当の数の国々がありますし、京都議定書締約国も相当の数の国々がありますが、そういう交渉関係国の構成や関係者の絵柄、それから場合によってはCOP1から今度COP11になりますが、いろいろなグループ形成などもありました。そういう関係交渉国の絵柄とか構成がどうなっているかというのが2番目でございます。
 3番目は、これも極めて重要ですが、議長裁き、COPというのは、プロセスとしては持ち回り議長国方式でやっておりますが、今回のCOP11はカナダです。その議長国の議長裁きと、それから事務局のサポート機能、そういう軸、会議運営軸というのを頭に置いておく必要がある。
 4番目がプロセスでありまして、何かを決める会議設定に向けての手順、段取りがどのようになっているか、こういったことが大事ではないかと思っております。
 今申し上げましたアジェンダの設定の仕方、交渉関係の構図、議長裁き、プロセス・手順、こういったことを頭に置きながら以下の資料をご説明申し上げたいと思います。
 それでは、1ページ目のプロセスから見てまいります。COP11、一番下にありますモントリオールは11月から12月の初めにかけまして会議が設定がされておりますので、まさにそれに向けてどのように展開するかということに一番関係の深いものを洗い出してみますと、昨年、アルゼンチンの議長国で行われましたブエノスアイレスが直前になりますが、もちろんCOP1からCOP9に向けてもずっとプロセスがありますが、何と言いましても、ロシアの批准によりまして京都議定書が2月16日に発効した。COP10は発効する直前の意味があった、今度のCOP11は発効直後ということの意味があります。
 COPのプロセスを見る場合に、これは一つのフォーラムでありますので、このフォーラムの組織として重要なのは、真ん中の右にありますSB22、これはCOP11に向けまして準備をしている会合ですので、ボンでの5月に何が行われたかというのはもう一回レビューをしておく必要があるのではないかと思います。
 もう一つは、同じボンで行われましたが、専門家が集まったセミナーの形をとりまして意見交換をした。これらはどういう意見交換だったのか。これがCOP11、COP/MOP1に向けての一つの予想図を描く上での重要要素だと思っております。
 一番下に注で小さく書いてありますが、COPとCOP/MOPと出てきますが、COPというのは「Conference of the Parties」ということで、これは条約の批准国、締約国の会議です。COP/MOPというのは「Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties」となっておりますが、これは京都議定書の国々の締約国会合ということであります。こちらは京都議定書発効後ですので、COP/MOPの方は1ということでございます。
 まず、セミナーでは何が問題になったかという前に、私が一番大事だと見ておりますのは、前提のところに書いてありますが、「本セミナーは将来の交渉、約束、手続、枠組み、マンデートに関するいかなる予断を持つものではない」とCOP10で決定された前提で行われているわけでありまして、思い返せば、ブエノスアイレスの昨年のCOP10ではこれが非常に重要なテーマだったんですが、徹夜の交渉を経てようやくセミナーの開催にこぎつけているということが事実としてあるわけであります。
 そういう中で締約国が率直な意見交換をしまして、今後「非公式な見解」と「公式な見解」というのが出てきますが、5月のものは非公式ですが、EU、米国、インド、サウジアラビア、南アフリカ等々と書いてありますが、このような見解があらわれております。EUは、長期目標の点、それから炭素市場の確立を強く主張している。米国は長期な技術開発に関心が高い。インドとサウジアラビアは先進国の削減に向けての取り組みが先決であるという言い方をしている。南アフリカ、メキシコはグローバルな削減努力の議論をしようということや、途上国の中でのさらなる差異化を支持している。小島諸国連合は、途上国も排出義務を展開すべき。多くの途上国はCDMに関心。我が国としては以下の主張をしたということです。
 これは見ればわかると思いますが、今日の委員の先生方は皆さん専門家ですので重々ご承知のとおりだと思いますが、基本的にそれぞれの持っている、自分の置かれた状況から出てきている発言であるなという感じがするわけでございます。これはセミナーでございます。
 次がサブスタです。ここは非常に抽象的で、もう少し細かいものを見ないとわかりにくいと思いますが、例えば(2)の1行目にありますが、各個別議題の下で、条約の着実な実施(途上国支援、国別報告・目録、研究・観測等)、それらに関連する方法論についてさらなる進展を図ろうということが重要だと思いますし、一番下のところは、日本のイニシアティブによりましてCDMの改革に向けての委員会を立ち上げているということが注目される点でございます。
 それでは、いよいよ今回オタワに行った状況でございます。
 オタワの会合は閣僚準備会合ということで、英語の案内によりますと、プレパラトリーということになっております。それから、議長国カナダの前提としまして、インフォーマル、非公式と銘打っております。そういう前提ですので、通常ですと、どの国がどのような発言をしたかはクォーテーションをあまり明確にしないというのが大まかな前提になっております。なお、ここからご説明する内容につきましては、日本政府代表団、小池大臣をヘッドに外務省の担当大使、環境省、それから経済産業省で構成されます日本政府代表団の公的な整理の内容でございます。
 22日~24日、オタワにおいて40カ国を集めて行われました。これは全部の国を集めるのではなく、主な国40カ国、それから欧州委員会、条約事務局、我が国からは小池大臣にご出席いただいたわけでございます。カナダがこの会議を終わってから公表しておりまして、ニュースリリースによりますと、カナダの議長を行いましたリオン大臣が3つのことを言っております。
 まずは、今回の会合で我々としてはアクションをとらなければいけない。1つは京都議定書の現在の約束の完全なる実施である、それから京都議定書及び条約におけるいろいろな事項の改善、3番目に、我々としては将来の世界に向けての展開についてイノベイティブである必要がある、こういったことをクロージング・リマークでまとめた。これがカナダのプレスリリースによる発表でございます。
 会合の内容はどうだったかといいますと、概要のところの(1)にありますが、論点としては大きく分けて2つに分けられると思います。1つは京都議定書の実施と現在の仕組みの改善です。2つ目が、今日の後段の議論とも関係が深いと思いますが、2013年以降の将来の枠組みのあり方ということです。(2)にありますが、基本的対立が見られる論点も多く残された。今回は非公式な会合ですので、いろいろな意見を戦わせながら、カナダとしては全体としての絵柄を念頭に置きたかったのではないかと思っておりますが、対立論点も多く残されております。
 我が国の基本ポジションは以下の4点です。1つはスピード感を持って、2つ目は小池大臣から達成計画の策定と「チーム・マイナス6%」やクール・ビスなどの取り組みを紹介し、非常に興味を持って関係国の関心なり知的刺激を得られたといったようなエコーの表現もありました。3番目と4番目が基本ポジションで、京都議定書は条約の究極目的の実現に向けた第一歩、モントリオールではそれの実施及びCDMの改善を進めるべきだ、これが我が国の主張の第1です。
 第2の2013年以降は2つの要素を言っております。すべての国の参加、実効性ある枠組み、この2点を主張したわけでございます。
 これらの両方の論点につきまして、各国の絵柄ですが、まず、京都議定書の実施と現行の各種制度の改善につきましては、1番目に、マラケシュ合意ということでいろいろなことが決まって、いずれ決めましょうということになっている合意がありますが、これらの採択が重要であるということが多くの国から言われたわけです。ここに若干特殊なことですが、遵守手続の措置については、法的拘束力を持たせるため議定書の改正が必要とする国もあったということで、これは法的拘束力を持たせるためには議定書の改正が要るわけです。議定書を改正しますと、さらにもう一回議定書の批准の手続を踏むという手続があるわけですが、そういう国もありましたが、我が国をはじめ多くの国は、まずは京都メカニズムなどを円滑に実施するということで、COP/MOPでマラケシュで決めたことを徹底するのが必要というのが大まかな方向であったということが1つ目でございます。
 2つ目はCDMの審査の迅速化。
 3つ目は炭素市場についてです。これは市場をつくっているEUが中心にこの市場を進めていくという指摘が多いわけですが、一方で、一部の先進国、一部の途上国からも市場の力だけではなかなか進まないのではないかという対立があったということでございます。
 そのほか、技術の開発、開発政策と気候変動政策との連結、それから基金の充実、最後に、今日の2番目のテーマですが、適応につきましてはブエノスアイレス5ヶ年作業計画を早くつくろう、これは非常に重要であるということは意見の一致を見ております。
 以上が1点目の京都議定書関係です。
 2番目は2013年以降の問題ですが、これは1番目のポツのところが最も重要かと思いますが、2013年以降について早期に対話を開始しようではないかという国がかなりの程度ありましたが、一方、現在はより実践的、具体的な取り組みを進めることがより重要であり、新たな約束についての対話、交渉は時期尚早で応じられないと主張する一部の主要先進国及び途上国双方から意見が出ておりまして、ここの点については両者の隔りが大きかった。これは日本政府代表団としての評価ですが、大きかったという印象を持っているわけでございます。
 次のポツは若干専門的ですが、3条9項でCOP/MOP1で、先進国のうち京都議定書批准国が次の期間についての約束を議論しようということが決まっているわけですので、まずはそこを十分に議論すべきという意見がありました。一方、条約全体のレビュー条項等から見れば、すべての国の幅広い参加のもとでの議論をすべきだということでございます。
 3番目は途上国からあった議論ですが、先進国は、まずは京都議定書の義務を果たすべきだ、途上国は義務を負うべきではない、適応問題をきちんとやってほしいといったような指摘があったわけですが、先進国からは、議定書の約束を果たすというのは当然一生懸命やっているわけですし、それはそれでレビューをする。一方において、将来の枠組みについてあわせて議論するということは十分に可能である。それから「共通だか差異のある責任の原則」というのがありますので、これに基づいて議論をしていこうということの議論の展開があった。
 以上がオタワの会合の結果でありまして、我々はこの結果からあと2カ月間の様子を見ていくということになりますし、我が方のポジションを形成していくということになるわけですが、国際交渉、国際外交ですので、刻々と展開が動いてまいりますので、適時適切に対応してまいりたいと思っております。
 次のページに、今の京都議定書の議論を理解する上で、これはファクトシートですが、京都議定書は、右端に2008年~2012年の5年間が第1約束期間と決まっているわけですが、その前の2005、2006、2007とそれぞれやるべきことが議定書上、条約上明らかになっていることがありますので、これを改めて頭の整理用に洗い出しております。
 一番左上の議定書3条9号で、先進国の第2約束期間の約束内容について2005年に検討を開始するということが書かれております。議定書18条に、先ほどちょっとお話がありました不遵守のときの法的拘束力について議論するということの条項があります。そのほか2005、2006、2007とそれぞれやるべきことがありますし、2007年はIPCCの第四次報告書の予定になっております。
 以上、頭に置いておく必要があると思います。
 以上から見ました今度の11月の、先ほど私が一体何が争点でアジェンダかということが1番目に大事だと申し上げましたが、アジェンダをとりあえず洗い出してみますと、11月28日~12月9日、モントリオールということですが、COPという条約国全体の会合と京都議定書締約国のCOP/MOPが入れ込み方式でそれぞれ並行して進められまして、12月7~9日の3日間は大臣級のハイレベルセグメントでそれらの総括的な議論をする。今回のやり方としてはそのようなやり方を考えているということでございます。
 主な審議、予定事項と書いてありますが、これはあくまで予定でありまして、これから議題の選定自体が議論になります。よく国際会議が始まりますと、アジェンダの採択というところから始まるわけでありまして、アジェンダの設定の仕方、順番といったこともこれから議論されるので、ここでは主要な事項の予定を洗い出しただけでありますので、極めて流動的という前提で聞いていただきたいと思います。
 Iの京都議定書の実施と現行の各種制度の改善等、「等」というのは4番の適応の問題であります。1から3は京都議定書関係ですが、1番目が京都議定書の遵守ルールに関する事項、いろいろありますが、議定書の委員会ですとか、遵守委員会を設置するといった実務的には非常に重要な事項が含まれております。2番目が京都議定書実施に関する事項で、京メカのルールですとか、吸収源の算定ルールですとか、その他です。3番目は改善事項でCDMの審査。これは審査が非常におそい、列をなして待っているという状態の改善について強い声がある。それから、方法論というのは若干わかりにくいのですが、例えば省エネルギーのものについての審査の仕方といったことについて確立が十分ではないというところを確立していきたいということであります。
 なお、1番と2番はマラケシュ合意に関連して決定された事項でございます。
 IIは、先ほどいろいろ対立があったと申しましたけれども、2013年以降の将来の枠組みのあり方の部分でございます。
 大きく分けてこの2つが審議事項であろうと見ております。
 次のページですが、先ほどプロセス、手順が大事だと申し上げましたが、実はCOP11,COP/MOP1に向けてのプロセス自体は、今回のオタワ会合が最後でありまして、あとは議長国や関係国との非公式な意見交換が中心になると思います。ここで洗い出しておきたかったのは、交渉関係者が集まるという意味と、気候変動が議題になるという意味で重要な会議が、日本の外務省とブラジルが共同で主催する非公式の意見交換があります。それから、11月の頭にG8のフォローアップとして、これは気候変動だけではなくてクリーンエネルギー、持続可能な開発といった幅広いテーマがありますが、G8のフォローアップの会合、約20カ国程度が集まる会合があります。最後にモントリオールに向けていく。右側はそれらと若干関係がありますが、いろいろ幅広い環境関係のスケジュールでございます。
 以上のようなプロセスを経て11月に向かうということでございます。
 以上が今回のオタワ会合を中心としたご紹介でございました。
 参考資料の方はごく簡単にポイントだけご紹介しておきますが、まずはサミット、ここでのポイントはいろいろありますが、次のページでプロセスが決まっているということが特色です。2008年、日本議長国のG8プロセスにおいていろいろな対話について報告をするというプロセスが決まっている。もう一つ、実はここには書いてありませんが、サミットで決まった重要なもう一つの要素は、気候変動についてUNFCCCの場で将来についての議論をすることが必要ということが合意をされておりますので、UNFCCC、要するに気候変動枠組条約のフレームの中で議論しましょうということが別途あります。
 では、このフォーラムは何なのかといいますと、11月1日のところに書いてありますが、G8と新興経済諸国との対話の進め方について議論をしますし、グレンイーグルス行動計画というのが決まっておりますので、それの実施計画をつくっていくというプロセスがあるということが特色でございます。
 次のページからは、それ以外の8月、9月の動きであります。グリーンランド・ダイアローグ、日本からは小島地球環境審議官にご出席をいただきましたが、これはチャタムハウス方式ということで、発言者付きの引用禁止という本当の自由な意見交換でありますが、ここで決まりました10項目につきましても、おいおいCOP11,COP/MOP1においての議論の一つの思想となっていきますので、そういう意味では参考になるというふうに理解をしております。
 次に、アメリカを中心にした動き、それからEUを中心にした動きがありました。7月28日に、アメリカが主唱国でありますが、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップということで日本も参加した6カ国の枠組みができております。ここで重要なのは[2]気候変動枠組条約に整合的であり、京都議定書を代替するものではなく、これを補完するものであるという明記があります。今後の予定は未定でございます。
 2つ目は、EUがいろいろな動きをしておりましたが、9月5日と9月7日、中国、インドとの間でパートナーシップを構築しております。
 最後に、参考資料2ですが、EU及び米国の状況ということで、これは本委員会の委員はよくご承知のことですので、EUのところは省略をさせいただきます。真ん中に小さく書いてあるところが新しいかと思いますが、EU全体で1万1,428の事業所に対して、約5割ぐらいのカバー率、そこに数字が書いてありまして、EU約束の12%相当の排出権、これ自体は相場ができておりまして、今は既に相場が毎日動いております。最初のころは1単位当たり6~7ユーロだったものが一時は30ユーロにまではね上がって、現在は23~24ユーロの水準で、これ自体は1トン当たりの価格ですが、価格がついた市場が現に動いているということが非常に重要な要素ではないかと思います。先ほどの炭素市場についてのEU各国の考え方などは、こういう事実の動きを念頭に置いたものと思われます。
 一番下にもう一つ小さい字で、「EUの初期割当量に対応する形で発行される、EU-ETS内でのみ通用するEU通貨のようなもの」という若干不透明な書き方になっておりますが、EUの中では、これは無形固定資産という法的整理をされているようでございます。
 次が米国の状況ですが、ポイントは限られますが、ブッシュ大統領の発言は、一番上にありますデンマークにおける発言など、京都議定書離脱の理由、ここには理由を書き忘れておりますが、理由は2つです。途上国が参加していない、それから経済に悪影響を与える。ここに書いてありますが、「可能な限り温暖化ガスを制御するために、我々は技術を共用して共に努力していく」ということで、技術重視の考え方が打ち出されているわけでございます。
 なお、米国政府の動きの中に、先ほどのアジア太平洋パートナーシップの動きなど、それから関連のエネルギー法案、最後のページですが、地域レベルでは幾つかいろいろな動きがあるということをご紹介しております。
 以上、カナダでの会合の論点と関係国の動きを中心にご紹介申し上げました。どうもありがとうございました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。非常に詳細な状況の説明がございました。委員の方々からご質問ございましょうか。
 明日香委員、どうぞ。

○明日香委員 もしおわかりでしたら差し支えない程度で教えていただきたいのですが、いわゆる主要排出国、インド、中国、幾つかあると思うのですけれども、そこら辺の個別の国の将来枠組みに関する発言なり、発言のニュアンスというのはどんなものだったのでしょうか。

○笹谷審議官 個別の国の発言はちょっと差し控えさせていただきますが、先ほどの発言の中の途上国サイドからの意見といったものへの同調、先進国の削減約束の達成ということが必要ではないかといったような表現や、途上国の排出について強制されるべきではないといったようなことについては同様に述べていたのではないかというふうに記憶しております。それぞれの国のニュアンスの違いまでは非公式な会合ですので、差し控えさせていただきます。

○西岡委員長 工藤委員、どうぞ。

○工藤委員 先ほどの適応のところでご説明があったことに関連してですけれども、参考資料2のところで、COP11で例のブエノスアイレスの作業計画を検討するということと、一方で、次期枠組みにおいても適応を明確に位置づけると、これはどちらかというとCOP/MOP1の議論のイメージを感じたのですが、実際に適応の議論も含めまして、COPとCOP/MOP1のアジェンダの区分けといいますか、その辺がどういう形で進められそうだというイメージととらえていらっしゃるのか、その辺お伺いしたいのですが。

○笹谷審議官 今予定されておりますアジェンダの構想案によりますと、COP10で決まったということがありまして、まずブエノスアイレスで計画をつくろうということが決まった。それを受けてCOP11で作業計画をつくるというのが既定ラインですので、基本的にはCOPの議題であろうと思っています。
 今委員がおっしゃった将来の問題というのは、5年間で終わる問題ではないということで、2013年以降の枠組みを議論するときに、当然適応の問題というのはさらに深めていく必要がありますね、ということは大体皆さんおっしゃるわけでありますので、どちらの議題というふうに聞かれれば、COPの議題であろうと思っておりますが、当然京都議定書締約国の中でも関心の高い事項ですので、両方で議論されてもおかしくないと思っています。一応議題上はCOPという理解です。

○西岡委員長 それでは、高村委員、お願いします。

○高村委員 2点発言申し上げたいと思うのですが、1点目は、今工藤委員からありました点については、ご指摘があったように、条約の枠組みであるCOPの場での議論と、議定書の枠組みであるCOP/MOPの場での議論と適応に関してはかなり制度が入り組んでいるのが現状だと思います。それは後半の議論の中でもう少し意見交換できればと思いますけれども、本来は条約の枠組みの中で適応の交渉がこの間進められて、5ヶ年計画も今審議官がおっしゃったように条約の枠組みでやっておりますけれども、他方で適応の基金等は議定書の枠組みで設置されております。ですから、この2つのレジーム、条約の制度をどううまく使いながら適応の枠組みをつくっていくかということが重要な視点ではないかと思います。こちらは後半の議論にかかわる点でもございます。
 先ほどのご報告に関してもう一つコメントさせていただきたいと思いますのは、8枚目のスライドに当たるかと思いますが、準備会合の続き、2013年以降の将来の枠組みのあり方の一番最初の項目についてであります。まさに審議官おっしゃったように、国際交渉の中でどのような形で、どういうプロセスで、どういうタイミングでアジェンダを設定して交渉していくかということは国家間の駆け引きでもありますし、非常に重要な点だと思うのですけれども、現状を見ますと、国家の立場にはまだ大きな隔りがあるというご紹介をいただいたかと思います。
 一つ懸念いたしますのは、緊急に、拙速に交渉を進める必要があるというふうには思っていないのですけれども、他方で第1約束期間の実施ということが近づいてまいりますと、将来、つまり2013年以降の枠組みがどうなるかという交渉の進展度合いが第1約束期間の義務の実施に影響を与えるということを懸念いたします。例えば2013年以降の枠組みがいつまでたっても決まらない、いつ決まるかわからないという状態が続きますと、2013年以降の、例えば京都メカニズムの事業に対しては、事業者に対して非常に不透明感を与えるだろうと思いますし、遵守の手続についても、基本的には次の約束期間という形で、何らかの形で京都の枠組みが続く中で遵守を、第1約束期間の義務の履行を担保する仕組みであるというふうに理解をしております。したがいまして、第2約束期間、2013年以降の制度がはっきりしない、いつ決まるかわからないという状態が続きますと、第1約束期間の義務の履行に悪影響を及ぼすのではないかということを懸念します。そういう意味では、どういうタイミングといいますか、どういうプロセスで今後交渉を展望していくのかという点について、もしお考えがございましたらご教示いただきたいと思います。以上です。

○西岡委員長 いかがでしょうか。

○笹谷審議官 高村先生おっしゃることは両方とも非常にもっともでございまして、専門の立場からのご示唆として賜らせていただきました。
 1番目の適応のあり方を制度的にどのように位置づけて、どちらのフォーラムで、どういうふうに議論をしていくかというのはおっしゃるとおりの整理がありますので、この委員会で今後整理をする際に、よくそこの意識を持ちながら、区分けすべきところは区分けをし、連結すべきところは連結をしながら、議論の混乱のないように進めてまいりたいと思います。
 2番目の2013年以降のことも、まさにそういう考え方で意見を述べた先進国も多うございました。そこには「早期に対話を開始すべきとする国が多くあった」とだけ書きまして、こういう理由からというところはオミットしておりますが、まさに高村先生がおっしゃったような、投資家へのシグナルを送るべきだといったような角度からの意見もありましたし、きちんとスケジュール感覚を早く持とうという意見もありました。対話を開始すべきという国のサイドからはいろいろな角度から意見が出ているところでありまして、日本としましても、それらについてよく分析をし、また我々も頭の整理をしていきたいと思っております。日本も早期に対応すべきという部分は大臣から強く主張させていただいておりますが、具体的にどのようなタイムスケジュール感覚と、どのような要素を主張していくか、十分に先生方の意見も頭も置きまして、今後検討に努めてまいりたいと思っております。

○西岡委員長 ほかにございますか。

○明日香委員 意見になるかもしれませんが、高村さんの今のご発言に補足する形で、私個人的に思いますのは、京都メカニズムの、特にCDMの2013年以降のクレジットの価値をどう考えるかという問題に関しては、将来枠組みの議論と離して議論した方がいいのかなと思います。というのは、将来枠組みの議論というのは多分数年間続きますし、CDMの価値の議論というのはこの1~2年で決めなければいけないということで、プロセスという意味でもある程度分けて考えるべきではないかと思います。実際にそういう動きはあるようでありますが、多分そのためには日本なりEUがかなりイニシアティブをとって途上国等を巻き込んで動かなければならないと思いますので、なるべくそのような形で動いていただければと思います。

○西岡委員長 今のご発言はご意見ということでお伺いしておきます。

2.国内外の異常気象などの状況について

○西岡委員長 それでは、先へ進みたいと思います。
 これから原沢委員の方から国内外の異常気象などの状況についてのお話をお伺いしたいと思っております。先ほどから適応というお話がありましたけれども、現在のいろいろな異常気象というのは本当に異常なのかどうかも含めまして報告されております。今日はそのお話をお伺いするわけですけれども、このあたりをどう考えて適応あるいは今後の温暖化問題に取り組んでいくかということにつきまして、後ほど皆さんの間でご議論をいただきたいと考えております。
 それでは、よろしくお願いします。

○原沢委員 国立環境研究所の原沢です。「国内外の異常気象等の状況について」ということでご報告いたします。
 昨今、異常気象と温暖化の関係が、一般の方々も含めて話題になっているということでありますが、これは昨年の異常気象の影響ということでありまして、世界じゅうでかなり大きな異常気象が起きているという地図であります。具体的には気象庁のデータを地図に張りつけたものですが、2004年に限って見ますと、大型の台風ですとか集中豪雨による気象災害の多発ということがあります。これを見ますと、世界じゅうでこういったことが起きているという話が一つと、さて、異常気象とはどういう定義なのか、いろいろなことを考えるわけでありまして、今日は特に異常気象というところに限ってのお話であります。
 これは今年の8月29日、カテゴリー5という最強のハリケーンになったカトリーナというのがアメリカに上陸したということでありまして、その後リタが出まして、さらに昨日ですけれども、スタンという18番目のハリケーンが発生したということのようであります。名前をつけるということがあるのですけれども、21の名前しか用意していないので、今年はどうも名前を使い尽くしそうだということで、さらに名前が必要になったらギリシア語でα、βとつけるということであります。こういった巨大なハリケーンが連続して起きているという状況があります。
 現在の時点で国内外の異常気象の事実としてどんなことがわかっているかということ、そして、被害の状況についてのご報告ということになります。
 まず、異常気象の定義ですけれども、簡単に言うと「気候が平均的状態から大きく偏った状態」ということなのですけれども、ここに気象庁の定義とIPCCの定義を出しております。気象庁のいわゆる気象関係の定義ですと、「30年に1回起きるような、非常に稀な現象」ということになるわけですけれども、一方、IPCCなどでは気候変化によって極端な現象という位置づけをしておりまして、Extreme Weather EventあるいはExtreme Climate Eventということで、我々研究者も含めて一般の方々も異常気象と考えている現象については、むしろIPCCの定義の方がより適切ではないかと思います。また、IPCCの方では広く気候変動を扱っておりますので、平均的な状況だけではなくて、例えば1日の最高気温の分布の変化ですとか、そういった単純な気象現象なども含めて扱っているということであります。
 IPCCの定義もぼやっとしているのですけれども、ちょっと読んでみますと「特定地域における気象現象の確率分布から見て稀な現象」ということで、この「稀」というのは、大体10%以下とか90%以上ということでありますので、先ほどご紹介した気象庁の定義は30年に1回ですから、大体3%ぐらいの確率ですけれども、こちらは10%ということで、そういった違いがございます。「極端な気候現象は、一定期間の気象現象発生数の平均であって、その平均自体が極端なこと」ということで、例えばとして、ある季節の降雨量ということが挙げられております。この辺の定義の話に入り込みますとなかなか難しい点もあるのですけれども、ここの話では、IPCCの定義で「極端な現象」ということで話を進めたいと思います。言葉としては「異常気象」ということを使いたいと思います。
 異常気象と扱われることが多い気象事象ということで、冷夏ですとか、暑い夏とか、寒い冬とか暖冬ですとか、長雨、豪雨、干ばつ、台風、洪水、熱波、寒波ということで、この中では、今の気象関係では日本では定義されていないような、熱波などもこういった事象に入るのではないかと思います。
 こちらでは「ある一定期間」ということで、例えば冷夏の場合には6月~8月という期間に、平均気温が平年より3階級表現で「低い」とか「平年並」とか「高い」ということで区切っておりまして、この場合、平年値が30年ですから、10個ずつに分けまして、いわゆる33%ぐらいに入る階級分けをしていて、さらに、10%をとると「かなり高い」とか「かなり低い」という表現であらわされている事象であります。こういった異常気象を考える際の現象としてはこんなものがあるということであります。
 これはIPCCの極端な気象現象の方の、何がわかっているかということをまとめたものでありまして、過去何回かこういった表を出しております。現象の変化が真ん中にありまして、右側に予測される変化の問題と、左側に観測された変化の信頼度ということで、気候変動の場合は、観測された事実から言えることと、将来のいろいろな研究の成果、具体的に言いますと、気候モデルの成果等を踏まえて言えることが若干違っております。今日お話ししている現象としては、最高気温ですとか、干ばつとか降水の問題、下の方に行きますと、熱帯低気圧、台風の問題があるわけですが、例えば熱帯低気圧の最大風速が増大するという現象が、これまで観測されたデータからははっきりわからないということですけれども、気候モデル等の研究からは幾つかの地域で将来的には熱帯低気圧の最大風速が変化する可能性があると、そういった科学的な知見の差がございます。
 これは2001年に発表されたものですので、この5年間相当研究が進んでいるということでありますが、残念ながら、第四次報告書は2007年ですから、あと2年たたないと出てこないという状況であります。
 これもIPCCの引用ですけれども、気候の変化と極端な気象現象の考え方ということで、横軸に時間をとりまして、これは日最高気温をとった場合ですけれども、年々変化していく。それがだんだん上がっていく状況を示したものであります。現在の日最高気温の分布を考えますと、ある一定の値、具体的に言いますと真夏日、日最高気温で30℃といったことを考えますと、その危険性の割合がこの分布からわかるわけですけれども、分布が将来だんだん右にずれていくとしますと、ある値を超える、リスクを超えるような値が増えてくるということになります。そういう意味で、温暖化が進みますと異常気象の割合が増えてくるということが言えるかと思います。これはあくまでも分布が変わらないという状況ですけれども、もし気候変動とともにこの分布がよりなだらかになるということであれば、さらにある値を超えるようなリスクが高まるということになります。
 異常気象をもたらす原因ということで、これにつきましては事柄を示すだけにいたしますけれども、エルニーニョですとか、インド洋ダイポール現象、アジアモンスーン、ブロッキング現象、テレコネクションということで、ある地域に起きた現象が、大気の循環等を踏まえていろいろなところに影響するということでありまして、南方振動ですとか、太平洋北米パターン、北大西洋振動、北極振動等々ございます。非常に複雑な関係でありまして、これは日々研究が進んでいるということであります。ここでは自然変動のメカニズム的な話は、こういったことがあるということだけにとどめたいと思います。
 幾つか異常気象を起こす原因について、IPCC等で報告されていることについてご紹介したいと思います。
 エルニーニョ現象につきましては、これが起きますと世界各地で異常気象が起きるということがわかっております。上の3つの事柄につきましては、IPCCの報告書、2001年、第三次報告書の記載でありますが、1970年代以降、それまでに比べてエルニーニョの発現の頻度とか持続期間、強度が増大しているという話とか、これが起きますと、例えばアジアとかアフリカの一部では干ばつの頻度が増えるということがわかっております。
 こちらは気象庁のデータをお借りしてきたのですけれども、最近ですと2002年、2003年にエルニーニョが起きておりますし、その前の1997年~98年は観測史上最大のエルニーニョが起きているという状況であります。これは赤い方がエルニーニョで、その間にラニーニャという逆の現象が起きているということであります。最近起こり方が少し変わってきているという状況も観測されております。
 エルニーニョ、先ほどご紹介した97年~98年の最大級のエルニーニョが起きたときの各地の影響を地図上にプロットしたものでありまして、世界じゅうにそういった影響が波及しているということと、特にこの場合ですとインドネシア等東南アジアで干ばつになりまして、森林火災等があってかなりの影響があったということがわかっておりますし、いろいろな影響が波及的に起きているということがわかります。
 エルニーニョ現象が発生したときにどんな天候の特徴があるかということでいろいろ書いてあります。例えば日本について見ますと、夏場、6月~8月の降水量につきましては雨が多い傾向が見られるということが一般的に言えます。一方、冬場の気温ですけれども、暖冬傾向になるということが言えるかと思います。こういったエルニーニョ現象時の天候の特徴といったものは比較的しっかりまとめられているかと思います。
 こちらは過去4回のエルニーニョの状況の動画ですが、右下が97年~98年のエルニーニョの状況です。ペルー沖の熱帯地域の海水温がだんだん上がってきて、それが世界じゅうに波及効果をもたらすということになっております。
 3.異常気象等の発生状況ということでありますが、昨今異常気象にかかわるいろいろな研究成果も出始めていると同時に、特に温暖化の影響上、最初に大きな影響をもたらす氷河とか海氷の影響についての報告も相次いでいるということもありまして、ちょっとまとめてあります。
 1つは、8月に小島審議官も出席された気候変動に関する非公式会合、これはグリーンランドだったと思いますけれども、イルサートの近くで開催されたということで、特にイルサート氷河が過去数年で10km以上縮小しているということがありまして、非常に話題になったということであります。
 2番目は既にご報告しておりますけれども、昨年の秋に「北極圏気候影響アセスメント報告書」が出まして、そちらで北極の氷は非常に速いスピードで解けているということが報告されておりまして、それを再掲しております。具体的にいいますと、過去30年で、夏場の海氷の面積が20%減少して、今世紀末までには気温が4~7℃上昇して、夏場の海氷の面積が50%以上減少するというような話がありますし、そこにはグリーランドの氷の減少ということが報告されております。
 これをある程度裏付ける形で、アメリカの雪氷データセンターがこの3月に北極海の氷が相変わらず減少を続けているということがありまして、2004年から2005年の冬期については観測史上初めて、冬期にも十分回復できなかったという報告がなされております。
 これは先週発表されたものですけれども、先ほどご紹介した北極圏の方は2000年ぐらいまでの海の氷の報告が入っていたのですが、これにつきましては最近の2005年の3カ年の平均まで含めて報告がありまして、例えば左上が1979年~81年の3年間の平均の海の氷でありますが、それが左下になりますと、2003年~2005年、やはりかなり面積が小さくなっているということであります。それをグラフにしたのが右下の図でありまして、1978年以降ずっと海氷の面積が減少しているということであります。
 これはその動画を借りてきたのですが、79年からだんだん年を追うごとに海氷の面積が減っているという状況が如実にわかるということであります。この線がもともとあったところですが、だんだん全体的に狭くなってきているということです。これは2005年の状況です。
 南極の棚氷や氷床につきましても、これも既にご報告していることもありますけれども、南北のラルセンB棚氷というのが2002年に大崩壊いたしまして、棚氷そのものが薄くなってきているということが報告されていたりとか、また、棚氷が壊れて氷山になると同時に、氷のバランスが壊れて、南北の場合ですと氷床、氷の本体そのものが流れているようですが、その流れが速くなるということも報告されております。
 一方、一番下には気象庁の気候変動監視レポートの報告ですけれども、南極域全体で見ますと、海氷の面積については、(減少・増加などの)目立った長期的な傾向は見られないということが報告されております。
 こちらは氷河の方ですけれども、ヒマラヤの氷河が消滅するということがありまして、氷河については後退が進んでいるということを前にもご紹介しましたけれども、さらに、最近、8月ですけれども、定期的にやっております世界氷河モニタリングサービスの報告書が出まして、Fluctuations of Glaciers報告書が出まして、そちらよりますと、世界26カ国の780カ所の氷河を調査して、この5年間にほとんどの氷河で縮小を確認しているということで、温暖化が原因であるという断定もしております。このまま行きますと、ヨーロッパアルプスなど世界の多くの山岳地帯で氷河が数十年後にほとんどなくなる可能性があるという記載もございます。
 続きまして、洪水ですけれども、2002年、ヨーロッパの洪水は非常に大規模なものであったということで、被害も大きかったということでありますが、例えばチェコ、オーストラリア、ドイツ、フランスの4カ国で70人以上の方が亡くなって、40万人の方が避難して、被害額は、推定ですけれども、160億ユーロ、2兆1,760億円という非常に大きな被害がございました。
 日本でも大雨が増加しているということで、こちらは日降水量が200mm以上の発生回数、2004年は469回、1978年ぐらいから見ますと、傾向ははっきりわからないのですが、最近ちょっと増えているかなという傾向があります。下が日降水量400mm以上の発生回数でありまして、2004年は30回ということであります。今年も台風によって、九州では1日で1,300mmという降水量が降るということで、雨の降り方そのものが変わってきているという感じがございます。
 洪水の次は干ばつですが、干ばつにつきましてはなかなかいいデータがないのですけれども、ここでは「干ばつとは」ということで、長期わたって降水量が少なくなって、日照りが続いて水不足の状態を言うということでありまして、定義といたしましては、降水量の多少でいう気象学的な干ばつと、農作物を中心に考えた農業的な干ばつ、水文学的な干ばつということで、地下水とかといったものも含めて考える定義、さらに社会的な水不足をもたらすような干ばつ、そういった区分がされております。ですから、どの干ばつを扱っているんだということによって少し状況が違うわけです。
 例えば1900年~99年の降水量の変化、これはIPCCの第三次報告書の降水量の変化を季節ごとに見たものですが、茶色い方が降水量が少なくなるということでありまして、マルが大きいほど降水量の減少率が大きいということであります。4つの季節に分けておりますが、傾向がなかなかわかりづらいのですけれども、サハラ南部のアフリカですとか、中央アジアなどが全般的に降水量がだんだん減ってきているということでありますので、非常に干ばつが起きやすいということが容易にわかるわけです。
 それを被害というところから、後でご紹介する自然災害のデータベースがありまして、そちらから持っていた図です。EM-DATというデータベースがありまして、そちらのデータ、1974年から2003年までの干ばつと飢饉の発生数についてまとめた図です。具体的に言いますと、赤いところほど干ばつが発生しているということでありまして、サハラ南とか、インド、中国、オーストラリアなどが干ばつの発生数が多いということになります。このほかにも何人の被害とかいろいろな情報があるのですが、ここでは発生数という形でお示しいたしました。
 次は熱帯低気圧ということで、台風とかハリケーンの状況ですけれども、熱帯低気圧につきましては、気象庁の定義と、例えばハリケーンの定義ではちょっと違っておりまして、今回これを調べてみて、気象の関係は標準的な分類になっているのかと思ったのですが、日本とアメリカでは違うということであります。IPCCでも熱帯低気圧は非常に大きな問題として取り上げているのですけれども、地域によって呼び方が違うとか、強さの定義が違ったりしております。IPCCの中では、記載として「サイクロン」という言葉がありますが、「サイクロジェネシス」という言葉で統一して呼んだような経緯もあります。
 ということで、熱帯低気圧の分類が日本とアメリカで違うということでありまして、日本は国際分類に従った分類になっておりまして、最大風速、これは10分間の最大風速をとっておりますけれども、17.2m/s未満の場合に熱帯低気圧と呼んで、それ以上を台風と呼ぶということであります。ハリケーンの分類は、昨今新聞等をにぎわしましたけれども、カテゴリーというのを使いまして、カテゴリー1というのが33m/s、この場合、最大風速は1分間ということですので、10分間の日本と直接比較はできないということで、分けて図を描いております。先ほどご紹介したカトリーナというのは、カテゴリ5ですから、最大風速が70m/sを超えるような非常に強大な台風が発生したということになります。
 2004年3月ですけれども、これは南大西洋のブラジルの南部にハリケーンが発生したということでありまして、これまで南大西洋でハリケーンが発生したことはないということだったようで、初めて発生したハリケーンということで、名前がないということがありまして、「カタリーナ(Catarina)」、上陸した地点の名前をつけて「カタリーナ」という名前がつけられたということであります。こういったことが2004年には起きたということであります。
 我が国でも2004年は台風が10個上陸したということでありまして、数だけで考えてみますと、平均台風の上陸数は2.7個、過去最大で6個であったということですから、10個というのは非常に多かったということになります。
 これは気象庁の方からいただいたデータですけれども、昨年台風の上陸数が多かった理由といたしましては、太平洋高気圧が北に張り出していて、また対流活動が活発だというような状況があったので、日本に上陸する数が多かったということが解説されております。
 今、IPCCだけではなくて、気象の分野でも温暖化と熱帯低気圧の関係についての論争が続いております。その一端をご紹介したいと思うのですけれども、IPCCの第三次報告書では、熱帯低気圧の発生というのは、40年代から60年代にかけて多かったという傾向があります。その後、70年代から90年代初めは少なくなって小康期だったのですが、95年以降再び増加傾向にあるということで、10年周期ぐらいの、先ほどご紹介したような規模の自然現象の一環があって、長期的な傾向は認められないということです。ただし、気象モデルの研究からは、温暖化いたしますと、発生数は減少しますけれども、中心の風力などが増加するという予測があったわけであります。
 最近、熱帯低気圧と温暖化は関係なしとする知見といたしましては、熱帯低気圧の発生は自然の現象であって、たまたま95年以降は、いわゆる台風あるいはハリケーンが増える時期に当たっているというような話があります。発生にかかわるいろいろな要因は、単に水温だけではなくて、塩分濃度ですとかいろいろあるので、温暖化との関係はなかなかはっきり言えないし、さらに温暖化との関係はなしと断定されている研究者の方もいます。
 その1人がクリス・ランドシーさんということで、これはNOAAの研究者でありますが、ちょっと細かな話になりますけれども、今ご存じのようにIPCCの第四次報告書つくりが進んでおります。作業グループの1がこういった温暖化の現象を扱うグループでありますが、第3章がオブザベーションということで、観測事実を取りまとめる章であります。そちらの責任の執筆者は後でご紹介するトレンバースさんという方ですけれども、そのトレンバースさんがクリス・ランドシーさんに台風に関する記載をお願いしたわけですけれども、トレンバースさん自身は温暖化との関係が濃厚というご意見の方でありまして、一方、ランドシーさんは関係なしとする研究者でありますので、論争がありまして、結局、ランドシーさんがIPCCの活動をやめたという状況があって、その辺から温暖化と熱帯低気圧、ハリケーンとか台風の関係についての論争が続いております。
 先ほどご紹介したのは関係ないとする説ですが、関係ありとする説につきましては、この数カ月に論文が何本か出ております。その一つがケビン・トレンバースさん、この方はアメリカの大気研究センター(NCAR)というところの研究者ですけれども、ハリケーンが発達し、強い勢力となるに適した状況を温暖化がつくり出しているということで、カテゴリー4とか5、非常に大きなハリケーンが増えている。海水の表面温度、これはSSTと略しますけれども、非線形だか上昇していて、ただし、SSTのみがハリケーンに影響する要因ではないということであります。
 続きまして、ケリー・エマニュエルさん、この方はMITの方ですけれども、ハリケーンの発生から消滅までの総エネルギーを指標として解析して、過去30年間にハリケーンがより長く、より強力になっているということを報告しております。
 9月16日にはウエブスターさんらが、過去30年間にカテゴリー4とか5のハリケーンが増加したということで、海水温の上昇が要因ではないかということです。ただし、さらに検証が必要だということであります。
 ということで、科学的にはまだ温暖化と昨今のハリケーンですとか台風の関係はまだよくわからないということではあるのですけれども、研究はこのところ急激に進んでおりまして、単にハリケーンの数が増えた、減ったということを統計的に検討するだけではなくて、メカニズムが何だというところまで入り込んだ研究にだんだん進展しているようであります。ということで、現段階ではどちらがどちらということはわからないのですけれども、こういった研究が矢継ぎ早に出ているということであります。
 次は熱波です。これは前回、前々回にも報告したと思うのですけれども、2003年の夏に非常に大きな熱波がヨーロッパを襲ったということでありまして、夏場はヨーロッパは非常に涼しくて、過ごしやすいということで、25℃ぐらいの平均気温が40℃まで上がって、かつ長い間続いたということでありまして、フランスでは約1万5,000人の方が亡くなったということであります。その後いろいろ研究がありまして、ヨーロッパの熱波は過去500年のデータで見ても最大規模の熱波であるとか、あるいは地域気候モデルを使った研究から、4万6000年に1度しか起きないような、非常に稀な現象が起きたということであります。さらに、やはり温暖化がかかわっているというような研究の報告も出ているということであります。
 今までは大体発生状況についてのデータでありますが、これからは被害状況ということであります。被害状況につきましては、一つのいいデータベースとか情報源があるかというとなかなかありませんで、そういう中でもEM-DAT(Emergency Events Database)というのがこういった自然災害の影響あるいは被害を扱ったデータベースとして最近よく引用されるようになっております。これはWHOのCollaborating Centreになっておりまして、ベルギー政府が支援をしているということであります。ただし、細かな、小さな規模の自然災害まで含めるということではなくて、日本で言いますと、中規模から大規模な自然災害を扱っているということがありまして、死者が10人以上、被災者数が100人以上、緊急事態宣言が出されたものですとか、国際的な支援が要請されたものということで、比較的規模の大きな災害についてのデータを集めているということであります。
 一つ問題としては、データソースが非常に多岐にわたるということで、信頼性の問題もあるということでありますが、逆に言うと、こういった災害の世界的なデータベースはあまりしっかりしたものがまだないということも言えるかと思います。
 その一つの例ですが、自然災害による各国の死者と災害別割合ということで、1975年~2001年までありますが、下の方に凡例が出ております。火山の爆発ですとか地震といったようなものも、いわゆる自然災害すべてが入っておりますが、特に気候変動に関しては、青が洪水であります。洪水もいろいろ種類があります。赤がWind Stormですから、これに熱帯低気圧ですとか台風ですとかハリケーンが全部入っているということであります。逆に言いますと、細かな分類をできるほどのデータはなかなかないということで、洪水とWind Storm、暴風雨という形のカテゴリー分けをして統計としてまとめております。
 上の図はその割合を示したものですが、特に中国で見ますと、やはりWind Storm、暴風雨と洪水による被害が多いということがわかるかと思います。アジア全域で見ましても、Flood、洪水と暴風雨による災害が多いということがわかるかと思います。
 洪水災害の発生数につきましてEM-DATのデータをプロットしたものですが、74年以降、一時は安定していたのですが、最近やはり洪水が増えているという傾向にあります。先ほど熱波のご紹介をしましたけれども、世界保健機関(WHO)と別途EPIというところが推計しておりまして、フランスのデータは1万4,802人で同じですが、ほかの国については若干数値のとらえ方が違うということもあって総計が違っておりますが、WHOによりますと2万2,000人、EPIによりますと3万5,000人の規模の方が亡くなったということであります。
 これは熱中症が中心ですけれども、健康な方が熱中症で亡くなったというよりも、持病を持っていらっしゃって、例えば呼吸器疾患とか、そういうものを持っていらした方が亡くなるとか、この2月にイギリスであったG8のための科学的なシンポジウムの中の発表では、気温が上がって大気汚染のために亡くなった方もいるという報告もありましたので、内訳については今の段階ではわからないのですけれども、いずれにしろ、こういった熱波が起きて多くの方が亡くなったということがわかっております。これは世界災害報告2004年版に出ております。
 次は洪水関係ですが、一般資産水害密度等の推移ということで、これは国土交通省のデータをお借りしてきたのですけれども、浸水そのものは減っているということではあるのですけれども、都市化が進展しておりまして被害は増大しているということであります。特に日本は台風に対する災害対策は非常に進んでいて、これまでは非常に少なかったのですが、ただ、一たん起きると大きな被害が出るという傾向にあります。かつ、こういった災害の特徴ですけれども、災害を受ける側の、いわゆる人口の集中ですとか、資産の集中ですとかというような面もあるかと思います。
 これはまたIPCCの報告書の図を借りてきたのですけれども、異常気象による被害額や保険の支払い額が増えているということの図でありまして、よく引用される図です。1950年代は、経済的な被害としては1年間当たり40億ドルぐらいだったものが、90年代には400億ドルぐらいになってきているということで、この傾向は2000年以降も続いております。ただ、この場合は、やはり異常気象が増えているということが一つと、先ほどご紹介したように、影響を受ける側の問題もあるということでありまして、具体的に言いますと、沿岸域に大都市が形成されて人口や資産が集中してきて被害を受ける方が問題であるということで、社会あるいは経済がより異常気象に脆弱になっているということ、両方の効果が入っているということがあります。
 以上、異常気象の状況と被害の状況についてご報告したのですけれども、まとめをしてみますと、異常気象の発生状況が変化しつつある。人間活動や社会への被害も増加傾向にあるということであります。
 因果関係ですけれども、異常気象と温暖化との関係については、昨今の個々の異常気象と温暖化の関係についてはまだ不確実性が高いが、両者の関係を指摘するような研究事例も出てきている。一方、気候モデルの研究から温暖化すると台風の数は減るが、中心風力が増大するなど、温暖化の進行とともに異常気象の発生の仕方が変化すると予測されているということであります。
 これにどう対処するかということですけれども、異常気象は、影響面からしますと、一たん発生すると多大な人命や資産に被害を及ぼすということでありますし、地域経済だけではなく、今回のハリケーンカトリーナのように、国の経済そのものも影響するということでありますし、さらに国際的な影響も及ぼす可能性もあるということであります。温暖化の進行とともに異常気象が増加する可能性が指摘されていることから、温暖化防止のため温室効果ガスの削減を早急に実施するとともに、異常気象の発生に対して脆弱になっている社会ですとか都市構造を変えていくという意味での適応策の強化も必要ではないかということであります。
 以上、国内外の異常気象等の状況についてご報告いたしました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。非常に詳細な報告をいただきました。

意見交換

○西岡委員長 あと時間が30分ぐらい残されております。ほかに議題がございませんので、この論議をしていただきたいと思います。2つあると思うのですが、今の発表、すなわち異常気象等の状況について、それがどういうことを意味しているのか、あるいはどういう解釈をすべきかということについて皆さんのご質問を受けたいと思います。なぜかといいますと、原沢さんに調べていただきましたが、住さんがご専門ということで、こういうことをどう解釈すべきかという話をぜひお伺いしたいと思っております。それから、適応策をこういうものを踏まえてどうやっていくか。これにつきましては、日本もどうするかという問題をそろそろ考えなければいけないかもしれませんけれども、差し当たっては国際的な適応策の論議の中で、我々はどういうことを発案していけるだろうかということも論議の的ではないかと思っております。そういう2段階に分けて論議を進めていきたいと思います。
 それでは、最初の段階ということで、異常気象等の状況についてという報告について、まず、住先生以外の方から質問ございますか。
 甲斐沼委員、どうぞ。

○甲斐沼委員 直接異常気象ということではないのですけれども、排出量と影響とのタイムラグについて教えていただきたいと思います。1990年からこの温暖化の問題に取り組んでおりまして、当初は排出量をとにかく下げなければいけないということで、IPCCの第一次報告書などでも直ちに60%下げなければいけないという報告がありました。97年のCOP3のときに、どういう影響があるのかということが話題になった時に、温暖化の影響は2050年ぐらいに顕在化し、94年の猛暑だとかは、そのほかの要因が大きいのではないかというふうに、私自身もある程度思っていたところがありました。温暖化影響は2050年以降ものすごく大変になるけれども、今顕在しているものはほかの要因もあるのではないかと。ただ、今日お話を聞いている限りにおいては、既に影響がかなりあらわれてきているということで、排出量と影響の間は当初思っていたよりもっとタイムラグが短いのかなと感じています。また、気候モデルで過去30年の気温の上昇というのは明らかに人為的な排出の増加によるという報告もありますので、その辺について教えていただければと思います。

○西岡委員長 続けて工藤委員、お願いします。

○工藤委員 長期を見るときの科学的なことで、このシリーズでイメージしてきたことなのですが。今日のお話を伺って、要するに、ここでいろいろ実際に評価されていることというのが、端的に温暖化問題ということと直接因果関係を持って発生していることなのかどうなのかというところは、私も専門ではないので正直言ってよくわからないし、こういったことを伺っていれば「なるほど、そうかもしれない」と思う中で、でも、もしかしたらほかのイシューも関係するのではないかとも感じるわけです。その辺の整理が、今回は第三次評価報告書をベースとしていろいろやられているのですが、既に今第四次評価が行われていると思うのですけれども、国際的な評価という側面から見て、他のイシューとの複合的な部分で、過去見られていたことと最近の見られ方というのはどう違ってきているのか、どの辺がどうクリアになってきているのかということが、この以降のシリーズでも若干出ればいいと思っているのですが、その辺今原沢委員はどうお考えになっているかということを聞かせていただければと思います。

○西岡委員長 続いて、松橋委員、お願いします。

○松橋委員 ハリケーンについて伺いたいのですけれども、多くのマスコミといいますか、マスメディアで最近カトリーナをはじめとするハリケーンが温暖化の影響であるということをニュース等で言われているわけです。その一方で専門家の見解を聞きますと、温暖化と関係があるという意見とそうではないという意見がある。海水温の上昇自体が温暖化の影響ではなく、その他の影響による海水温の上昇が大きいから、そこで意見が割れるのか、それとも、海水温の上昇を気象流体モデルに入れますと、必ずしも台風が増える、あるいは強大化するということがモデル上は観察されていないのか、この辺を教えていただきたいと思います。

○西岡委員長 それではもう一つ、明日香委員、お願いします。

○明日香委員 私は質問ではなくて補足になるかもしれないのですが、たまたまEM-DATというデータベースを私も最近調べまして、それによりますと、死亡者数が、先ほどグラフで、ちょっと見にくかったと思うのですが、ここ10年、去年の津波の数字を入れなくて自然災害でたしか58万人死んでいて、そのうち気象災害によるものが8割を超えている、たしか16%が洪水ということになっています。この10年間で大体9万人、年間ですと9,000人ぐらい洪水で亡くなっている。先ほど2002年の70人という数字が出たのですが、実際は毎年1万人近い方が洪水で亡くなっている。今年もご参考までに、中国で800人、900人、夏に洪水で亡くなっていますので、温暖化とは関係なく既に自然災害でかなりの方が亡くなっているのが現状だと思います。
 以上です。

○西岡委員長 それでは、先に住委員の方からテクニカルな話及びこの問題をどうとらえるべきかという点でご意見をいただければと思います。

○住委員 こういう問題に関しては、普通、因果率になれている人から考えると、そういう因果率ではなかなか説明できない部分があるということです。ですから、温暖化をしたときでも2つの標本があって、温暖化していないクライメイトと温暖化したクライメイトがあったときに、温暖化したクライメイトだと起きる現象があって、温暖化しないクライメイトだと全く起きない現象、そんなものがあるかというと、ないんです。ですから、結局、ウォーム・クライメイトといったときの起きるすべての現象は、今でも起きることが起きるだけなのです。ですから、突拍子もない変なことが温暖化したら起きるということではないということが大事です。ですから、逆に言えば、今環境が持っているクライメイトを支配するプロセスで温暖化しても物事が起きてくるので、そういう点で、本当にone to oneで因果関係を言うということは現在の段階では非常に難しいと思います。
 そういう点では、よく言われておりますけれども、正しさを証明するなら2100年まで待てばいいんです。待って「なったね」、「よかったね」とみんな滅びればいいわけで、それが自然科学の伝統的な方法なのです。ですから、自然科学の伝統的な方法は、多くの場合は起きている現象とメカニズムを解明することですから、よく温暖化の問題に関して物理屋さんが非常に反対するのは、その問題自体が明確に定義されていないから、そんなことをやる必要はないというわけです。それはやらなくて済む問題なら、私たちもやらなくていいと思います。だけど、こういう問題はやり直しがきかないわけですから、2100年になって、確かに正しかったねと、全部セットバックしてやり直しができるという問題ではないわけです。そうすると、ある意味では、現在持っている限られた技術の中での推論と、ある種の予防原則のような形で適切な措置をとっていく、そういう考え方だと思います。
 一応そう考えると、いろいろな不備があるけれども、不十分であっても、現在我々が持っている科学的な知識の集大成であるところのそういうモデルを用いた推論というのは、それなりに敬意を払ってもいいのではないかと思うわけです。そうすると、例えばモデルを使った実験をやれば、SSTをちょっと変えて、いろいろなモデルを使って計算すれば、確かに個数は減るけれども、強いのが増えてくるという結果は出てくるわけです。そうすると、ごちゃごちゃいろいろなことは言えるけれども、いろいろな今までの知識の集大成を使って推論すれば、それがモースト・プロバブルな予測であろうということになるので、そうしたら、それに従って一応考えていくというのが一番合理的な判断だろうと思います。
 ですから、こういう将来に関する問題というのは、日本の伝統的なあれと同じで、神風が吹くかもしれないわけです。ある日突然神風が吹いてすべての懸念はチャラになる。だから、神国日本は不滅だということは言えるけれども、実際はそんなことは起きないわけだから、と思うべきなのです。ですから、そういう点で考えると、いろいろなことを言っていても、やはりIPCC等で行われている将来の予測というのは、私はそれなりにリーズナブルだと思います。
 ただ、明らかにみんな慎重になっているのは、どう考えても温暖化というのはあるレジームがシフトしているわけですから、今ある台風が温暖化だから全部こんなに強くなるというわけではなくて、やはりある自然の揺らぎがあるわけですから、今度のカトリーナもどの程度がということになると、そう断定的には言えないと思いますが、今までの知識から類推していくと、そういうことの兆候ととらえるべきだろうというのが私の意見です。
 あと、被害額の問題等は、明らかに社会環境の変化等がありますから、例えば台風の強度も、カトリーナと同じようなハリケーンが昔全くなくて今度出てきたのかというと、それはそうでもなくて、多分あのくらいのものが昔もあったと思います。そういう点では、明らかにハリケーンの頻度も長期的な変動がかぶっているから、そこのところはそんなには言えないのですが、ただ、いろいろなところの状況を勘案していけば、いろいろなものの差し示す知識というのがあるんだから、それをもとに対応していけばいいということと、one to oneという因果率のああいうジレンマになっていると、自然というのはそんなやさしい問題ではないので、何でもありみたいなシステムですから、逆に言えば、その中で将来のアセスメントをとってやっていくということが必要だろうと思います。
 もう一つ大事なことは、対応策というのが非常に難しいのは、だれの目にも明らかに温暖化の影響が出たときというのは、対応策というのは多分とれないと思います。みんな勝手に動いているから。ですから、そこはジレンマで、経済の方でもあるように、ゆとりがあって何もしなくていいときしか対応策はとれないんだけれども、そのときは何も問題が起きていないからとらなくていいと言うし、問題が起きたときは対応策をとる余地がないというジレンマがあるのです。ですから、こういう温暖化対策も同じで、今はまだぼけっと多くの人が大したことはなさそうだと思っているときだからこそ、それなりに対応できる余地があるので、あちこちでいろいろなことが起き始めたら、そんなことを構っている暇はないということを非常に強調したいし、だからこそ、モデル等によるシミュレーションとかアセスメントというのは、現在持っている我々の合理的な手法に対する判断として意味があるのだろうと思います。

○西岡委員長 原沢委員、何かございますか。

○原沢委員 住先生のお答えですべてカバーされていると思うのですが、追加的にご説明しますと、甲斐沼さんから話があった影響と排出量の話ですけれども、これまでどちらかというと平均的な状況を想定して50年後、100年後の影響を考えてきたということですが、最近自然の揺らぎみたいなものが変わってくるとすると、異常気象ですとか、極端な現象の影響というのをとらえていかなければいけないということであります。それが本当にすぐ出るかどうかというのも、たまたま大循環的な話が最近重なっているということかもしれないのですけれども、そういう意味で、いわゆる観測データの解析というのはある意味非常に重要になってきているのかなと思います。
 それに関連して、先ほどご紹介したハリケーンの報告などは、「サイエンス」あるいは「ネイチャー」に出ているものですけれども、結構早目に研究者の方が即時解析して出すというようなことをやっているのです。ヨーロッパの熱波についても、あの後すぐに矢継ぎ早に報告が出たということで、そういう研究者側の態勢といいますか、意気込みというか、そういったものも重要だなと思います。まだよくわからないということはもちろんあるのですけれども、こういう研究報告がだんだん出てくることによって議論が進みますし、さらに現象解明とか、温暖化の将来予測に役立つような情報が出てくるのではないかと思います。
 ただ、いずれの論文も「今後さらに検討すべき」ということで、もっと研究しなければいけないという話がある一方、もう被害が出ているということで、今の段階で予防原則という立場から適応策をいかにうまくやっていくかという話も出てきているのではないかと思います。
 あと、今回なるべく多くのデータを集めたいと思ったのですけれども、必ずしもいいデータベースがないということで、先ほど明日香先生の方からもご紹介があったように、自然災害の影響という面ですとEM-DATぐらいしかないのではないか。この辺が今後温暖化が進むにつれてもし被害が増えていくということであれば、こういったような情報の整理も研究面での一つの大きな課題になってくるのではないかと思います。
 あと、松橋先生からお話があったように、因果関係をどう解明していくかということになると、一つの大きな話は観測データの解析ですし、その都度異常気象が起きた原因については、ブロッキング現象ですとか、先ほど紹介した気象庁の高気圧の張り出しが違うとか、我々としては、高気圧の張り出しがなぜ起きたのかとか、ブロッキング現象がなぜ起きたのかという、もう一つ踏み込んだ現象解明みたいなものを気象の分野でやっていただけたらと思います。
 あと、海水温の上昇には、これはエルニーニョの問題とか地球規模で起きている問題もあったりするので、こうなってきますと、単に気象だけではなくて、海洋ですとか、あと影響面からすると社会経済分野の総合的な研究も必要になってきますし、そういう形で世間の質問に答えられるような研究も必要になってきているのではないかと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 質問がありました中で、松橋委員の方から海水温とモデル、この関係は今お話があったのですが、海水面が上がったのが人為的かどうかというのはわからないということになると思います。
 それから、工藤委員の方から過去と最近がきちんと区別されてデータがとれているのだろうかというお話がありました。毎年毎年異常気象といって騒いでいるようではデータの信憑性が疑われるわけですけれども、そのあたりのことについて原沢委員、何かございますか。

○原沢委員 私も過去の観測値は非常に重要だと思いますけれども、例えば日本ですと、台風のデータが整備されたのは1950年ぐらいからで、アメリカの場合ですともう少し長くて1880年ぐらいですから、100年ちょっとです。気温のデータが140年ということですから、そのデータをプロットして線を引いても、統計的に本当に大丈夫なのという話があって、そうなってくると、研究者の方はメカニズムにも入り込んだ説明をしていかなければいけないということがありますので、そういう意味では、今過去のということで、いわゆる古気候についてはIPCCの方でも1章設けて、過去に起きたことをしっかり調べて、それと現在起きていることを比較することによって研究を進めていこうという方向に行っているのかなと思います。
 その一つ、今日は話に出なかったのですが、海洋大循環が止まるみたいな話は、過去に、8500年前と1万何千年前に止まったことがあるということがありまして、そういった状況の検討もされているようです。要するに、過去のデータをもう一回見直して、今起きていることを位置づけるということは研究面でも今非常に重要になってきているのではないかと私自身は思っております。

○住委員 例えばデータに関してはバイアスがあるということは覚えておいた方がよくて、台風などでも、例えば戦前を考えれば、そこにだれもいかなかったら台風なんかわからないわけです。だれも住んでいない海で台風が発生していても、船がトコトコ行くからわかるわけで、しかも、実際の観測の船などは台風がひどかったら逃げるので、ある程度データにバイアスがあるのは確かです。その辺は割り引く必要があると思います。
 それから、中心示度も議論があるのですけれども、戦後は米軍の飛行機が飛んで、ドロップゾンデを落としてはかっていたのが、ある時期から米軍がやめて、今度は写真を見て経験的に示度を推定したりしているわけです。その点でも測定方法が変わるので、厳密に同じようなことでずっと昔からデータがそろっているというふうには思わない方がよくて、総体的に最近あちこちにみんな住むようになったし、データも衛星が飛んでカバーするようになったので、多分個数なども、熱帯低気圧とかそういうものに関しても、そういう意味での手段の変化というのはそれなりにあるということを心に置いておく必要があると思います。

○明日香委員 全く専門外で、一つは補足と一つは質問です。
 補足は、ベルギーの大学のデータベースですけれども、一応100年前から自然災害の数字を集めていて、100年前はかなりいいかげんなものもあるけれども、ここ30年はかなり正確性が高いのではないかとホームページに書いてありました。
 もう一つ、質問ですが、クリス・ランドシーさん、熱帯低気圧と温暖化は関係ないという方ですが、この方は人為起源の温暖化自体を否定しているのでしょうか。もう一つ、40年か60年周期で変化しているというふうに、それが原因だということをおっしゃっていると思うのですけれども、この原因はどこら辺だというふうに主張なさっているのでしょうか。

○原沢委員 クリス・ランドシーさんは、人為的で温暖化が起きているか起きていないかという問題ではなくて、今ハリケーンがカテゴリー5というものが発生しているというような、台風の発生としての現象についての発言をされているということです。先ほど挙げた論文はこの12月に発表される論文ですけれども、あらかじめ許可を得てホームページ等に載せて、ある意味、そういった見解をアピールしているということだと思います。
 2番目の質問ですが、その方の見解ですと、温暖化しているとすれば、地球規模でそういうことがどんどん起きてもいいのではないかということで、地域性を持った現象ではないかというようなニュアンスもあったりするので、メカニズムとしてのハリケーンの起き方の解明が必要だということもおっしゃっています。ですから、温暖化している、していないという次元の問題ではなくて、台風の起こり方、あるいは台風が強大になっているかどうかというところについての議論をやっていると思います。ただ、海水温が上がってきますとエネルギーが高くなってくるということで、後でご紹介した関係があるというのは、温暖化と結びつけた解析をやっているかと思います。

○西岡委員長 時間がなくなってきましたが、適応策全体についてのお話ももしよろしかったら皆さんからお伺いしたいと思います。住先生にお伺いしたいのですけれども、甲斐沼さんのご質問で、いわゆる気候システム自身が持っている慣性について、どれほどのものだろうかという非常に大ざっぱに話で、なぜかといいますと、適応策はなるべく早くやらなければいけない。起きてしまったら、みんな既得権を持って動かないという状況ですから、早目にウォーニングをしなければいけないわけですが、そのときにどれだけの科学的なベースを持って言えるのだろうか。それは既にある気候システムが持っている慣性を考えてみても、今ここで話があった極端な現象というのが先んじて出てくる可能性があるということだったら、それなりに考えようがあるのではないかと、いろいろ考えるのですが、そのあたりはどうなのでしょうか。

○住委員 結局、2つの状態があったときに、その状態に移っていくとしても、その間はガサガサっと揺れているから、今の状況でそれをはっきり言うことは難しいと思います。ですから、結局ここで議論になるのは、そういう点では、普通に議論すると最もコストが安くて、うまく乗り切るにはどうしたらいいかというようなことを考えると、それはやめた方がいいというのが私の結論です。それはものすごくトリッキーなことになっていて、結局、モデルなり予測で言えるのは、十分ある程度シグナルが大きくなったらどんな状態になるだろうかということは言えるわけです。その間がどうなるかというのは博打みたいなものかもしれない。例えばあと10年だったらうまくしのげるかもしれないと思うのですが、そこで考えた人の時間スケールがあって、対応策もそうなのですが、もう10年後はどうなってもいい、どうせおれは死ぬからと。10年間できれいさっぱり行くのであれば、ほとんど何もなくて、毎年遊んで暮らしていた方がいいというふうになってしまうわけです。そこが、逆に言うといろいろな人の価値観が入ってくる部分があって、そういうリソースの分配の問題であるのですが、そういう点では、逆に言うと、科学的な観点からいって破局的なことが起きるかもしれないと脅すのは私はあまり好きではないです。

○西岡委員長 いかがでしょうか。
 先ほども幾つか話がありましたが、ヨーロッパの熱波の話、さらに最近の論文を見ておりますと、熱波でヨーロッパの一次生産、食物の生産がものすごく減ったという話がありますし、いろいろなことを研究しておかなければいけない話がかなりあるのではないかと思っております。
 それから、今の住委員のご意見などを参考にしますと、もう科学論争をあまり詰める段階はある程度で止めなければいけないかなという気もいたしまして、そのあたりをこの委員会としてもある程度考えていかなければいけないのではないかと思っております。

○住委員 例えば科学が不十分だから議論ができないというロジックを使うのはもうやめてもらいたいのです。ですから、逆に言うと、この問題に関して言えば「1+1=2」みたいな結論は絶対に出てこないです。それが何もしない理由に使われるのは非常に不愉快なのです。ですから、ある程度の情報は出ているし、大体はわかるのです。だけど、どんな状況でも個人がうまく立ち回れる余地は幾らでも残っているわけです。どんな戦争が起きて焼け跡になっても、おれは儲かるかもしれないと。それは儲かるかもしれないけれども、そういうレベルの議論と一緒にすると困るので、そうなると、相当程度現在の科学的知見は、少なくとも100年後の道筋というか、こうなるということは示しているので、日本に関してもある程度出ているので、何をやるべきかということの大枠は出ていると思うのです。ただ、問題はそれが多分温暖化だけの問題ではなくて、少子高齢化だとか、いろいろな問題に絡んでくる部分があるので、そこの調整とかということは非常に大事だと思います。

○西岡委員長 亀山委員、どうぞ。

○亀山委員 私、専門が将来枠組みはどうあるべきかという制度的なものでありまして、先ほどの高村委員のご発言の続きになるのですけれども、今の一連の原沢さんのご発表及び質疑応答を制度的な観点からずっと聞いていました。私の関心というのは、将来の枠組みにおいてどのように適応を扱っていけばいいのかということを考えていたのですけれども、今ある5ヶ年作業計画の項目を見ていますと、脆弱性の評価でありますとか、持続可能な開発の統合でありますとか、つまり原因がCOの排出であろうとなかろうと、台風とか洪水とかが来たときに、それに対して適応できるような行動をとっていきましょうというのがこの5ヶ年作業計画なのです。ですから、原因はどこにあるかというのはとりあえず伏せておいて、温暖化が原因であろうがなかろうが、とにかく台風が来たときに生き残れるようにしておきましょうねというのが、多分今の適応の作業計画だと思うのです。
 私の原沢さんに対する質問というのは、今後将来枠組みの話が出てきたときに、COの排出が原因であるというものを今後とも伏せておいて議論を進めていった方がうまくいきそうなのか、それとも、例えばある異常気象が起きたときに、この異常気象は温暖化によって起きる可能性と、温暖化によらないで起きる可能性が6対4ですよというような科学的知見が出たら、では、その6割部分は適応基金でカバーしましょうねと、何か因果関係で議論できるような制度がつくれそうなのかどうか、ちょっとその辺の制度関係者へのアドバイスをしていただけたらと思うのです。

○原沢委員 ちょっと私ではお答えが難しいのですが、一つは、これまでも自然災害という形で人類は遭遇してきたわけですが、それに今気候変動による異常気象が重なるという考え方だと思うのです。ですから、両方やっていかなければいけない。これは後で発言しようと思ったことにもかかわるのですが、昨年津波で非常に大きな被害があって、これは気候変動ではないということで割り切って考えていたのですけれども、昨年ハリケーンのアイバンというのが高潮で23m出た。これは「サイエンス」か何かに研究例として出ていました。ということで、もしかすると、温暖化が進むと自然災害そのものが非常に大きな問題となってくるし、自然災害だ、気候変動の影響だと分けて来るわけではないので、やはり影響を受ける側としては両方に対する対応をしていかなければいけない。そういう意味で、UNFCCCは気候変動でありますが、一方では自然災害の国際的な枠組みがあったりするので、そういったところとどうやってうまくやっていくかという視点も必要になってくるのではないかと思います。
 例えば適応策でいいますと、都市対策とか、自然災害対策、これは日本は非常に進んでいるわけですけれども、そういったメインストリームの対策をうまく適応策に入れ込む、逆に言うと、適応策をそちらに入り込ませるような、そういうメカニズムみたいなものも具体的には必要になってくる。それが途上国でうまくいくかどうかは別なのですけれども、自然災害の対応は自然災害でやって、都市対策は都市対策でやって、気候変動の適応策は適応策でやっているというようなバラバラな問題というのは何とかしていかなければいけないなという感じです。ちょっとお答えとコメントが混じったのですけれども、以上です。

○西岡委員長 ほかにございますか。

○工藤委員 今の議論は非常に大事だと思っておりまして、必ずしも温暖化のレジームのみではできないということはクリアだと。そうすると、亀山委員がおっしゃったこと、原沢委員がおっしゃったことも含めて、適応策にどういうアプローチがあるのだということをまずきちんと整理しておく必要があるのではないかと思います。あとは、いろいろな分野にかかわること、いろいろな価値観にかかわるということであるならば、非常に複雑な取り組みになる可能性があるわけですが、いろいろな意味でそういうものに関連したベストプラクティスではないのですが、さまざまな取り組みがあると思いますので、そういうものをいろいろ引き合いに出しながら、こういった問題への適応が可能かどうかということを考える。適応策の適応ではないのですけれども、そういった視点でいろいろ分析しておくということも必要なのかなという気がしました。

○明日香委員 私も今のお話に関連することですが、先ほど紹介させていただきましたように、温暖化に関係なく9,000人ぐらいの方が、例えば洪水で亡くなっている。多分適応議定書なりができたり、温暖化に関連して何らの適応をしなければいけないということになったとしても、この数字がどれだけ変わるかということはなかなか難しいところだと思いますので、適応議定書なりで過大な評価をして、今の自然災害なり気象災害の被害者が少なくなるというのは実際には難しいのではないかと思います。
 あと、途上国の方と話をしまして、これから自然災害が増えるかもしれない、それが温暖化の影響だと。温暖化の理由としてCOの排出がある。だから、あなたたちの被害を減らすために、あなたたちもCOを減らさなければいけないというロジックを先進国の方は時々言うのですが、途上国の方がおっしゃるのは、そういう先進国のロジックというのは脅しみたいなものであって反発すると。京都議定書がなかろうが、温暖化云々がなくなろうが、自然に何千人、何万人の方が途上国で亡くなっている。ある意味では温暖化対策をしたとしても、途上国がCOを減らしたとしても、自然災害の被害者の数というのはほぼ変わらないだろうということで、途上国も排出削減をしなければいけないという理由のために適応なり、途上国での被害の拡大を言うというのは、途上国の方には通じるロジックではないのかなと、私は思っております。

○西岡委員長 皆さん、どうもありがとうございました。
 本日は原沢委員のプレゼンテーションの後、非常に有意義な議論があったと思います。適応ということを、私もGEFの関係で相当論議をしたことがあるのですけれども、最終的には本当に何が来るかわからないけれども、対応できる社会システムみたいなものが非常に重要だという話もあります。それから、最後に議論になりました災害、これはいわゆるディザスターだけではなく干ばつだとか農作物の関係、それからヘルズの関係、いろいろありますので、そういうところとの協調をどうとっていくかということは今後の課題になってくるし、また、実効的には非常にきいてくる話ではないかと思います。そういうことをもろもろ考えながら、今後我々の中でも検討し、世界に発言していく必要があるのではないかと考えております。
 何か特にございますしょうか。
 それでは、皆さん、本日はどうもありがとうございました。

午後0時04分閉会