中央環境審議会地球環境部会第9回気候変動に関する国際戦略専門委員会議事録

開催日時

平成17年4月22日(金)10:00~12:32

開催場所

共用第8会議室 合同庁舎5号館6階

出席委員

(委員長) 西岡 秀三  
(委員) 明日香 壽川
亀山 康子
住 明正
原沢 英夫
甲斐沼 美紀子
工藤 拓毅
新澤 秀則
三村 信男

議題

1.
気候変動の長期目標に関する考察(その2)について
2.
第二次中間報告骨子(案)について
3.
その他

配付資料

資料1
気候変動の長期目標に関する考察(その2)(原沢委員提出資料)
資料2
第二次中間報告骨子(案)について

議事録

午前10時00分開会

○水野国際対策室長 それでは、既に定刻を過ぎておりますので、ただいまから気候変動に関する国際戦略専門委員会第9回会合を開催したいと思います。
 それでは、議事進行につきまして西岡委員長、よろしくお願いいたします。

○西岡委員長 おはようございます。
 それでは、第9回会合でございますが、開催いたしたいと思います。
 本日の議事は、お手元の議事次第にございますが、大きく2つございまして、1つは「気候変動の長期目標に関する考察」ということで、これは先回も原沢委員の方から発表がございましたが、その続きといった形でお願いしたいと思っております。これが約1時間ちょっと取るということでございます。それから「第二次中間報告骨子(案)」ということでご審議願いたいと思います。全部で2時間半予定しておりますが、議事の進行によっては早く終わりたいと思っております。
 まず、事務局の方から資料の確認ということでお願いしたいと思います。

○瀧口室長補佐 資料の確認をさせていただきます。
 議事次第が1枚ございます。ちょっとミスがございまして、本日は4月22日の金曜日で、会合は10時から12時半ということで修正していただければと思います。
 それから、先ほど西岡先生からご紹介がありましたように、資料は2点ございまして、1つが資料1「気候変動の長期目標に関する考察(その2)」原沢委員に提出していただいた資料でございます。もう1つが資料2で、この専門委員会の「第二次中間報告骨子(案)」というものでございます。
 よろしくお願いいたします。

○西岡委員長 資料は余り問題ないと思います。
 それでは議事に入りたいと思いますが、最初が「気候変動の長期目標に関する考察(その2)」ということで、先回に引き続きまして、目標をどのように考えたらいいかということについての報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○原沢委員 おはようございます。原沢でございます。
 前回「気候変動の長期目標に関する考察」ということでご報告しましたけれども、その際いろいろご議論があって、かつまた質問もあったということで、引き続き私の方で(その2)という形でご報告したいと思います。
 内容ですけれども、きょうは前回に比べてちょっと字が小さかったりするものですから、お手元の資料と、パワーポイント、両方使いながらお話したいと思います。
 今日は、前回のフォローアップということで、幾つかご質問が出ましたので、それに対するお答えと、あと長期目標の議論にかかわる前提条件を確認しようということが最初であります。2番目にその長期目標の考え方(続)ということで、3番目に安定化濃度、気温上昇、排出パスということで、長期目標に関する取り組みの研究事例を中心にお話をして、最後に今後の課題ということにしたいと思います。
 次、お願いいたします。それで、フォローアップですけれども、前回いろいろコメントをいただきまして、かつ質問も出たということで、当日お答えできなかったこともありましたので、若干調べてまいりました。まず危険なレベルに関してはいつごろからそういった議論がされているのだろうかということでルーツについての話、2番目は、気候変動のもたらす良い影響の例ということで、これはIPCCの事例を持ってまいりました。3番目に温暖化と異常気象について、現在わかっていることについての、これもIPCCの知見ということであります。
 2番目に、長期目標についての議論のための前提条件の整理ということで、再度お示しして確認という形になります。
 次、お願いいたします。それで、危険なレベルに関する知見について、いろいろ調べEUが96年ぐらいに出した2℃、550ppmがありまして、その辺から探し始めたのですが、さらに90年ぐらいに第2回世界気候会議がございまして、こちらに報告があったということであります。ここでお示ししますように、これは信号の赤、黄色、青ですけれども、それに対応して気温と海面上昇の絶対値と速度というのを提案している例がございました。これはフェリンガとロブ・スウォートという方が報告しているということです。ロブ・スウォートさんはIPCCの第三次報告書の第3作業部会の事務局長をやった研究者でありますので、90年ぐらいからこういった安定化濃度あるいは安定化のための危険なレベルについて検討していたということであります。
 赤を見ていただきますと、気温が2℃というのが最大値として取られておりまして、気温の変化速度が0.2℃/10年、海面上昇も書いてありまして、最大海面上昇の幅が0.5mで、かつ速度が0.05m/10年、このときにもう社会経済が崩壊するとか不安定化するリスクが大になるというようなことです。
 緑の方は1℃未満で、気温の上昇速度は0.1℃未満ということ、海面上昇が0.2m未満で、10年で0.2mというようなスピードで、この場合、生態系の一部は損失して、ただ不安定化のリスクは非常に小さい、そういったことが書いてあります。
 それで、この表をつくった根拠といたしましては、生態系が適応できるようなレベルですとか気候システムの安定化や非線形応答を最小にするということが書いてあるのですが、その科学的な知見は明確ではなく、ある程度エキスパートジャッジメント(専門家の判断)になっているのではないかと思います。
 つぎ、お願いいたします。2つ目が、ドイツ連邦政府が出しました報告書がございます。最初95年に出されておりまして、その後、97年、2003年にも出されております。
 ここで2つの原則ということで、1つは生態系を保全するという原則、2つめが過剰なコスト防止という、後でご説明しますけれども、その2つの原則に則って、例えば生態系の保全につきましては地球の年平均気温で2℃以下を出しております。この場合も、前回も議論になりましたけれども、工業化前から2℃ということであります。
 このときの根拠といたしまして、現在の気候あるいは人類文明を形成した最終氷期、現在から過去数十万年ぐらいの気温上昇を見ますと、現在に比べて1.5℃を超えたことはないことを引き合いに出し、それに現在は適応力があるだろうということで0.5℃上乗せをして2℃の設定をしております。
 一方、気温の上昇速度0.2℃/10年につきましては、気候変動への適応コストに耐えられることが必要だろうということで、これを大体GNPの5%から求めて、10年で0.2℃というような設定をしております。ですからこちらもしっかりした科学的な論文があって、それをもとにして決めたというよりも、これもやはりいろいろなことを考えながら、ある程度エキスパートジャッジメントで決めているようなところかと思います。
 速度につきましては、10年間で0.2℃ですから、最近ですと0.22℃ということが書いてありまして、もうこのスピードを超しているではないかという話があるのですが、10年という単位で平均して0.22℃という見方ではなくて、もう少し長いレンジであくまでも気温の上昇速度は見るべきだというようなことも書いてあります。
 2003年の報告書につきましては、やはり同じく最大2℃で、括弧づきですけれども10年で0.2℃以下、さらにCOの濃度を450ppm以下に抑制すべきだということで、全部の温室効果ガスを入れた形で450ppmということです。そうしますと、2050年までにCOの排出量、これも全部の温室効果ガスですけれども、1990年比で45から60%削減、先進国は2020年までにCO削減量20%削減しなければならないと結論している報告書になっております。
 次に5ページ目ですけれども、EUは1996年に閣僚理事会がございまして、こちらで2℃、550ppmの安定化に合意したということでありますが、この際の根拠といたしましては、1995年に出されましたIPCCの第二次報告書の知見を重視しているということであります。
 550ppmの安定化は現在の排出量を50%以下にする必要があり、そのときの全球平均気温は工業化前に比べて2℃上昇するということですが、この場合はCOを中心にした議論になっております。
 その後、2005年、今年欧州委員会報告書がつい最近出まして、そちらで工業化前に比べて全球気温上昇は最大2度、550ppm、今度の場合はCO等価ですから、全ガスを考えて550ppmよりもずっと低いレベルで安定化することが必要であるということを述べております。
 その下に、確率的な検討を行った結果、CO等価で425ppmに設定しても、それを達成する確率というのを考えますと3分の2、66%ぐらい、550ppmになりますと6分の1ですから大体16%ぐらい、650ppmになりますと16分の1というようなことで、550ppmに設定しても、2℃という温度を超える確率があるということがわかってきたので、それを踏まえた上で550ppmよりもずっと低いレベルに安定化させることが必要であるということが報告書には書いてございます。その補足資料という形で今お話したようなことの解説があるということであります。
 これが安定化濃度や気温上昇ルーツということで、確固たる科学的な知見があって、それで2℃あるいは550ppmということではなくて、IPCCの知見等も考慮しながら、ある程度エキスパートジャッジメント、専門家の判断で決まってきたのではないかなと、私自身はこういった文献等を調べまして感じた次第であります。
 次、お願いします。それで、前回も温暖化の初期の段階では良い影響もあるのではないかということでございますが、こちらもIPCC等では、温暖化の最初の段階、特に気温上昇が低い段階ではいろいろ良い影響もあるということで、これは一連の議論の中の1つのトピックスであります。こちらはそのIPCCの報告書のSPM(政策決定者用要約)の部分、好影響と悪影響の対比されている部分です。まず好影響につきましては、幾つかの分野に分けて書いてございます。
 その1つ、農作物への影響につきましては、数度以下の気温の上昇に対して、中緯度の一部地域においては農作物生産が増加するということで、報告書のほうにはa fewということで数度ということが書いてあるのですが、実をいいますとIPCCの報告自体は数字で書いてあったのですけれども、IPCC総会で議論している段階で、SPMの議論をするわけですけれども、そこで最終的に数度、a fewという言葉が盛り込まれたということであります。ですから、総会では、このa fewの読み替えとしては2℃から3℃ということではあるのですけれども、その際の議論としましては、いろんな国からコメントが出まして、例えば中国ですと、a fewを中国語に訳すと7℃から8℃という訳になってしまうとか、必ずしも2℃、3℃というのが伝わらないのじゃないかという話がありました。括弧づきで入れたりとかいう話もあったのですが、最終的にはそういったことが盛り込まれずに、a fewという言葉だけが残ってきたということで、2℃から3℃が、好影響と悪影響を分ける閾値になっているかと思います。
 悪影響につきましては、この数度を超えるとほとんどが悪影響、ですから好影響が出るとしても、温暖化の初期の段階で気温の上昇が2℃とか3℃までぐらいの中で、一部の地域、一部の分野では好影響が出るというようなことであります。
 あとは林業ですとか水資源とか、報告書本体にはそれぞれいろんなことが書いてあるのですけれども、まとめの部分ではこういう形で温暖化して、好影響もあるけれども概して悪影響、特に温度レベルが数度を超すと悪影響ということになっております。
 次、お願いします。温暖化と異常気象ということで、具体的にいいますと、これはIPCCの第1作業部会報告書の表でありまして、真ん中の欄にいろんな現象が取り上げられています。一番上が最高気温が上昇して暑い日が増えるというような現象ですね。一番下の2つが熱帯低気圧の最大風速ですとか平均降水量が増える、です。ここで異常気象という訳は、もともとイクストリーム・イベンツ、極端現象を異常気象と訳していますので、いわゆる気象庁が言っている30年に1回起きるような現象ということよりも、むしろ気候の中で極端な現象、ですから1日のうちの最高気温とか最低気温も極端な現象ということで取り上げております。
 1日のうちの最高気温とか最低気温がだんだん上がってきているということは、観測値でもはっきり言える。左側の欄が、観測値から言えることですし、右の欄は、気候モデル等の研究から言えることです。今お話しましたように1日の最高気温とか最低気温が上がるということは、観測値でもはっきり言えるし、モデルでもそういったことが言えるということですけれども、一番下の2つにあります熱帯低気圧、いわゆる台風とかサイクロンにつきましては、観測値からまだはっきり言えないのですが、気候モデルを使った研究から、一部の地域ではそういったことが言えるということであります。もう5年前の報告書ということで、この5年間に大分科学的な知見が蓄積されてきておりますので、次の2007年の第四次報告書につきましては、もう少し項目が増えて、新しい事実が入ってくるのではないかと思いますが、今現在につきましてはこういった温暖化と異常気象の関係についての知見であるということであります。
 次、お願いします。この5年位にいろいろ知見が出てきたという中の1つに、気候モデルの進歩がありまして、例えばこれは、温暖化が進みますと、真夏日ですとか豪雨日数がふえるということが地球シミュレーターによる予測から出ているということで、事例として持ってまいりました。
 上が真夏日の日数が変化するということで、2000年ぐらいがこの辺ですから、2倍から3倍ぐらいになってくる。現在真夏日につきましては、昨年の例ですと、この霞が関周辺では70日ぐらいありますけれども、それが2倍から3倍になるので、1年のうち半分ぐらいが真夏日ということになってしまうだろうし、都会の場合はヒートアイランドも加わります。筑波の場合も昨年は60日、2カ月ですけれども、それが4カ月暑い日が続くというような状況になる可能性があるということです。
 下の方がいわゆる大雨、豪雨の日数で、だんだん増える傾向にあるし、暑くなって集中豪雨もふえるというような世界になっていくことが最近の気候モデルの研究からわかってきているということであります。ただ、こういった気候モデルによる異常気象に関する予測の結果を受けた影響の研究というのがまだございませんので、そういう意味ではこれまでのいわゆる自然災害と分野的にも近い研究が必要だろうし、影響の研究も今後そういった分野と一緒にやっていく必要があるのではないかということであります。
 次、お願いいたします。長期目標についての前回の議論を踏まえて、前提条件の整理ということでまとめておきました。
 1つは、対象とする温室効果ガスということで、先ほどご紹介しましたように、IPCCの第二次報告書の1995年ぐらいの時点では、温室効果ガスとして取り上げているのはCOだけだったのですけれども、最近の研究、対策面から考えると、全温室効果ガスを含めて考えていかなければいけないだろう。こちらの方が良いわけですけれども、なかなかCO以外のガスを十分捉えられない。例えばSOは冷却効果を持っているわけですけれども、その量の推定ですとか、いろいろnon-COガスを入れることによって問題は出てきます。いずれにしろ全温室効果ガスを取り扱って安定化の問題、排出ガス削減の問題を考えていく方向にあると思います。ただ、京都議定書の関係もあったりするので、場合によっては京都議定書にかかわる6ガスを中心にした報告書も出ていることは確かだと思います。
 2番目に、危険なレベルの判断の対象とする分野ということで、前回はタイプ1とタイプ2で分けてお話しましたけれども、議定書あるいは条約で対象としているのは生態系と食料生産と経済発展ですが、いろんな報告を見ますと、さらに水資源、沿岸の関連で海面上昇ですとか、あるいは健康というような分野も取り上げていますので、ここでは幅広く分野を挙げております。
 2番目のカテゴリーが大規模な現象ということで、海洋大循環が止まる話ですとか、あるいは西南極氷床が溶けるといったような気候の大規模な変化も分野として取り上げて、2001年の第三次報告書には、こういった大規模な現象が20世紀に起きる確率は非常に小さいので、余り気にしなくてもいいというニュアンスがあったのですけれども、この5年ぐらい、この辺の研究が進んで、やはりこういった大規模な現象も温暖化が進むと起きる可能性がかなり高まってきたというのは前回ちょっとご報告したとおりであります。そういう意味で、この大規模な現象というのも、危険なレベルを考える際に非常に重要な役割を果たしつつあるということであります。
 3番目が、評価の起点ということで、報告書によっては、例えばIPCCですと、いろんな将来の排出シナリオをつくる際に、1990年を起点にしていますので、温暖化の影響もやはり90年からの気候の変化をとらえて影響研究をするということで、90年の起点という場合が研究例では多いのですが、温暖化そのものはもっと前から始まっているということで、工業化前、1750年ぐらいのいわゆる産業革命が始まったころを指すのか、あるいは工業化前ということで、プレ・インダストリアル・エラということで、1850年ぐらいを指すのかということです。ヨーロッパ、EU等は工業化前を、1850年ぐらいを起点に気温上昇をはかっている。ですからもう既にIPCCの報告書にありますように、20世紀中に0.6℃上がっておりますから、2℃の安定化といっても、もう0.6℃上がっているという解釈で、余裕分は1.4℃ということになります。
 4番目が、危険なレベルの判断指標で、全球の年平均気温の最大上昇幅で評価するというのがメインだと思います。その際に大気中のCOの濃度が安定化した後に、遅れて気温が安定化するわけですから、気温の安定化というような時点は先になります。その際、そういった時点の安定化なのか、例えば2100年ぐらいの政策的に長期目標を立てる際の時点を問題にするか、いろいろ考え方があるのですが、ここでは気温の最大上昇幅で評価するということにとどめております。
 5番目ですが、評価の空間スケールということで、地球全体を年平均気温でとらえておりますが、北極、南極はさらに高い気温上昇がありますので、そういった温暖化にセンシティブな地域、あるいは日本ということも念頭に置いて考える必要があるということであります。
 6番目として、その他ということで、これも重要な点ではあるのですが、不確実性ですとか、あるいは気候以外のリスクの因子とか、後は適応することによって影響そのものを減らすことができるということもあるのですけれども、そういったことを考えるとかなり複雑になってきますので、一応その他の視点ということで、忘れないようにしておくということです。
 次、お願いいたします。次は気候変動の長期目標の考え方のその2ということで、前回お話したことの繰り返しになりますが、影響の閾値のタイプ分けということで、前回に若干加えたのですけれども、タイプ1の方は、ある点を超えると政策決定者が許容できないと考える被害をもたらすような値であって、これは社会経済的な限界値と言い換えることもでき、気温と影響の関数形を考えると、線形か滑らかな変化をするような関数形になるということであります。
 それで、一番下に下線を引いておりますが、被害などの経済コストが算定できたりとか、適応策を加えることによって被害軽減が可能である、そういうタイプの影響の閾値を扱っている。
 2番目のタイプ2というのは、これは気候システム自身が変わってしまうような、あるいは不安定になるような値を問題にしていますので、地球物理学的な限界値であったり、生物学的な限界値、生物あるいは生態系は人間がなかなかコントロールできないというような意味でタイプ2の閾値という形になっております。
 こちらも関数形を示していますが、非線形な関数形で、場合によってはジャンプがあるような不連続な変化をする関数を想定している。これもタイプ1と同様に、一番下に書いてありますように、こういった非常に地球を不安定にするような現象が起きたときの影響の研究がないことが、タイプ1に比べて特に強調しておくべき点かと思います。
 次をお願いします。これも既に何度か見ていただいている図ですが、地球全体の平均気温を指標として温暖化の影響を全体でとらえるとどうなるかということでありまして、5つのバーがございます。1)脆弱なシステムから始まりまして、2)極端な気象、3)悪影響の分布、4)世界経済とか5)破局的な事象という5つがございまして、この5つがいわゆる影響の分野に相当するわけですけれども、先ほどご紹介したタイプ1の影響といいますのは、この3番目と4番目を中心にした話になりますし、システムの安定化と、生態系につきましては1番目と5番目の話ですね。2番目の異常気象については両方にかかわるという、区分けかと思います。
 色のつけ方も、厳密につけているわけではないということを前提にして理解しますと、白は大丈夫だけれども、黄色から赤に行くに従って危険になるということで、この図からはなかなか、どのレベルが危ないのかはわからないのですが、最近ですとこういった図に線を書き込んでいる研究者もいるようですが、あくまで5つの分野で温暖化の相対的な影響を見ているということでご理解いただければと思います。
 次ですけれども、気温の上昇幅についての知見を前回ご紹介しまして、ある程度考え方をまとめたわけですけれども、再整理したものでお話したいと思います。気温の上昇幅1℃以下にしないといけないのは、特に生態系の場合ということで、これも前回お示ししたような図を持ってきたのですけれども、大体1℃というような気温上昇でも、いわゆるサンゴ礁は80%ぐらいが白化してやられてしまうので、やはり気温の上昇に対して脆弱であるということです。
 次、お願いします。それで、気温の上昇2℃以下ということで、先ほど見ていただきましたようにIPCCの報告の中にも、a fewという表現がありますけれども、2℃から3℃になると地球規模で悪影響が顕在化することが指摘されるということです。この2℃、3℃というのが1つ、ある地域に良い影響が見られる場合もあるけれども、2~3℃以上になるとほとんどの地域で悪影響が顕在化するということですから、この2℃という、IPCCは2~3℃ということを言っていますが、その下限をとりまして2℃というのが1つの影響の発現の目安になってくるのではないかということであります。
 前回は、食料生産ですとか、いろいろなものを挙げておりました。次、お願いします。これが前回もお示ししましたイギリスのParryさんのグループがまとめたものでありまして、4つの分野、食料生産、水資源、マラリア、海面上昇といった4つの分野についての影響の研究をまとめまして、横軸に気温上昇、縦軸にいわゆるリスク人口をとって作成しております。
 この図から見ますと、食料は温度が上がりますとだんだんリスク人口がふえてくることがわかるのですが、水資源の場合は1.5℃から2℃を境にしてかなり急激に変わってくる。そういう意味では非線形な変化をしているわけですけれども、この1.5℃から2℃ぐらいというのがやはり1つ、閾値という形のとらえ方もできるのではないかということです。
 次、お願いします。先ほどのタイプ2に相当することですけれども、この場合は気温の上昇3℃以上になりますと、いわゆる気候システムが安定性をなくすような話も出てくる。まだ研究成果は非常に限られているのですが、安定化濃度の議論をする際に、非常に重要性を増してきたということもありますので、これも視野に入れておいた方がいいだろうということです。まだまだ研究事例が少なかったり、知見が少ないということではあるのですが、この何年かにそういった知見もだんだん蓄積されてきているものですから、重要なポイントになるのではないかということです。
 ここでは海洋大循環の停止を避けるためには、90年に比べて100年間で3℃の全球平均気温上昇が限界ということの論文が、これは「サイエンス」に載った論文を事例として出しております。この際、起点は90年ですから、全部の論文が工業化前の起点というわけではなくて、それぞれの条件でやっております。こういう形で起点を合わせて、かつ温度上昇で現象を見ていくことなど、まとめ方が難しいという状況ではあります。
 次、お願いします。今1℃、2℃、3℃という温暖化影響の閾値に分けた形で紹介したわけですけれども、その一番下の行に、EU等がこれまで主張してきました気温上昇の抑制幅を2℃にするという考え方は、長期目標の検討の際の出発点になり得ると書いています。これを中心に議論を進めていくことでいいのではないかということであります。
 科学的な知見がどんどん増えている中で、今日お話したようなことをベースに議論することでよろしいということではありますけれども、EUは当初2℃、550ppmということを言っていたのが、最近は550ppmよりもかなり下げた状態に安定化する必要があるということで、EUも少し主張を変えているようなところがあります。やはり最新の科学的な知見を常にレビューしながら、こういった安定化濃度あるいは閾値の問題を見直していく必要もあるのではないかということであります。
 3番目ですけれども、これまでは気温の上昇幅と影響の関係からある程度危険なレベルの気温上昇幅というのはどんなものかという話をして、2℃という話が中心であったのですけれども、さらに安定化濃度と排出量のパス(排出経路)の問題があり、研究がかなり蓄積されてきております。
 次のページをお願いします。この図は、安定化濃度、気温上昇と排出量パスの研究の分類をしたものです。一番最初に出ましたのは、IPCCが第二次報告書、1995年の報告書で、安定化濃度と排出量の関係を出しております。それをSプロファイルと呼んでいます。ですから、550ppmに安定化するためにはかなり早い段階で削減をしないといけないというようなメッセージになったわけですが、一方、これとほぼ同時期にWREプロファイルというのが研究で出されました。
 このWREといいますのは、ウイグレーとリッチェルとエドモンズが出した論文で、その研究者の頭文字を取って、それ以降IPCCでもWREプロファイルということで使っています。同じ安定化の濃度を達成するパスは複数あり、経済的に安いパスをとるとするならば、どんどん最初に出して、後でいい技術ができたときに急激に下げればやはり同じ安定化濃度に達するということで、これが非常に議論になったわけです。安定化濃度が決まっても排出パスはいろいろある。どのパスを取るかは前提条件によるというような、経済的なコストミニマムというような考え方を入れた安定化濃度と気温上昇と排出パスの研究がまず最初にされました。
 その後、やはり気温ですとか海面上昇の絶対値、あるいは速度をある範囲内に抑えていく必要があるのではないかということで、ここでEmission Corridorとか、あるいはTolerable Window、本質的には同じだと思うのですけれども、たまたま研究グループが、あるいは国が違ったりするので名前が違うということであります。ある程度幅を持って推定して、その幅の中で排出をしていけば気温の閾値あるいは海面上昇の閾値を超えずに安全に着地できるとか、安全なパスを描けるというような研究があります。
 それで、こうした研究も踏まえて、これは環境研の研究ですけれども、Multi-criteria Optimum Pathway Approachということで、複数の基準をとらえて経済的に安くいけるようなパスを見つけていこうということで、当初の経済性の問題だけでなくて、安全な範囲にパスを入れるようなモデルをつくって検討しております。
 以上が研究の大きな流れですけれども、最近さらに確率的な分析を入れて、先ほど不確実性は考慮しないと言ったのですけれども、実は最近不確実性を考慮した研究が出てまいりまして、2月に開催されましたイギリスのシンポジウムでもこれが発表されましたし、ヨーロッパは、EUでもこういった研究成果を踏まえた上で、先ほどご紹介した550ppmをある確率でキープするにはどうしたらいいかというようなことに議論が発展してきているようであります。
 次、お願いします。これはいろんな研究がありますので、その研究の中身を少し細かく書いたものですが、安定化濃度を費用最小で達成するということで、WREプロファイルですとかIPCCのPost-SRESなんかも、いわゆる削減コストを中心に考えています。
 2番目が、これはMulti-criteriaということで、先ほどご紹介したような、国立環境研究所のモデルですね。
 費用便益分析は1番の方は影響の被害が入ってないので、経済的な面のアプローチですので、その影響がどうなるかというのを考えなければいけないということで、1つのアプローチとしては、費用便益分析でいろいろなコストを入れ込んだ、これはNordhausの研究が有名な研究であります。
 Emission Corridorについては、幅で求めるということであります。次、お願いします。Tolerable Windowも同じようなことでありまして、それをまたGuardrailとか、いろいろな言葉を使って言っておりますし、これはポツダム研究所がICLIPSという名前のモデルをつくっております。
 こういった安定化濃度と気温上昇と影響を解析する上で、統合評価モデルが使われるということがありまして、それぞれの国の研究所がこれまで何年かかって開発してきたものを安定化の問題にアプリケーションしているということであります。
 先ほど確率的な話があるということをお話しましたけれども、これはEqual Quantile Walkということで、これだけからは何だかよくわからないのですけれども、原則的にはCOとノンCOをIPCCのベースラインに応じて使っていくという方法です。こういった解析をする上での幾つかの問題となるのは、1つは経済性だけを取り上げているか、いわゆる影響被害も取り入れているかということがポイントですね。もう1つはCOだけか、ノンCOを含めた解析をしているのかですけれども、最近ですとCOだけではなく、ノンCOも含めた解析が中心になっております。
 ここでノンCOといいますのは、CO以外のいわゆる6ガス、メタン、NO、HFC、PSC、SFですね。あとは対流圏オゾンの前駆物質ということでVOC、CO、NOx、あとは冷却効果を持っているSOなどのエアロゾルも考慮に入れて計算しているということであります。
  先ほどご紹介したSプロファイルは、IPCCが最初に出したときには、いずれの安定化濃度に行く場合も、やはり最初から削減をした方がいいというポリシーで描いた図ですけれども、そうではなくて、経済的には最初はどんどん出して、後で急激に下げても安定化濃度には行く、そちらの方が安いという話がありまして、これで議論が沸騰したわけです。安定化濃度が決まりますと、総排出量が決まりますので、総排出量をいかに時間的に配分するかという問題に置きかえることができます。配分する際にどういう基準で配分するかということで、経済性を重視するか、影響も重視するかというようなことが問題になってくるということであります。
 次、お願いします。国立環境研究所で進めている研究ですけれども、Multi‐criteriaといいますのは、気温ですとか海面上昇とか、絶対量と、あとは速度の制約もかけられるということでありまして、制約条件のもとで経済的に最適なパスを通るというようなことをやっております。
 今回は一部だけをご紹介しますけれども、影響もあわせて計算できるようにしておりますので、将来的には安定化濃度と影響も本格的に分析できるようなモデルになっております。
 次、お願いします。これが事例でありまして、右側が大気中の濃度であります。この場合も全ガスをCO換算で書いております。左の図が気温上昇であります。幾つかの線が書いてありますのでややこしいですけれども、例えばこのミカン色を見ていただきますと、これが475ppmで、この青が550ppmのラインになります。これは2100年まで取っておりますが、あと気温上昇は、ある程度安定化するかどうかも見るために2150年まで示しておりますので、気温上昇と大気中の安定化濃度は時間スケールが違うということで、ちょっとご注意ください。
 いろんな線が書いてあるのですが、例えば550ppmで考えますと、大気中の濃度は2100年ぐらいにはもうほぼ安定化します。その際の気温上昇は、2150年で見ますと、大体これが2.5℃ぐらいになります。ですから、2100年ぐらいでも2.5℃をわずかに下回っていますけれども、全ガスを考えて、かつ、工業化前をスタートとして気温上昇を考えると、550ppmでは2℃は守れないということになります。
 一方、ミカン色は、475ppmということで、これは2℃の制約条件をかけて計算をいたしますと475になるわけですけれども、この475ppmの安定化ですとかろうじて2℃をクリアできるということになります。
 これは後でご紹介する確率的な分析ではなくて、点推定になりますけれども、大体2℃に安定化させようと思いますと、全ガスで475ppmぐらい、今EUで言っている550ppmに安定化すると2℃を超えてしまうということになりますので、550ppmを相当下げたレベルで安定化しないと2℃は達成できないということであります。ただ2℃じゃなくてもう少し許すのであれば、例えば2.5℃であれば550ppmぐらいでも大丈夫ですし、もし3℃ということになれば650 ppmもそのあたりに落ち着くということであります。
 次、お願いします。こちらが大気中の濃度で、先ほどの右の図と同じものであります。このダイダイ色が475 ppmで、青が550 ppmですけれども、そのときに排出のパスはどうなるかということを計算で求めたものでありまして、この550ppmはこれでありまして、475 ppmはこのミカン色であります。550ppmですと、これはいろんな条件でやっているわけですけれども、しばらく出せて減らさなきゃいけないということですが、安定化時点ではかなり減らさなければいけない。その途中の時点では、いろんな条件によってこのパスは変わってくるわけですけれども、この計算ではこういう形のピークを持った削減量になっている。
 一方、2℃を守るための475ppmの場合ですと、もうすぐに下げていかなければいけないということでありますし、2020年ぐらいで約10%減、2050年ぐらいで約50%減、2100年には75%減にしないと475ppmの達成はできないということになります。
 気温上昇があって、安定化濃度があって、さらにその安定化濃度を達成するための排出パスがあるということでありまして、これについてはいろんな研究がなされているということでありますが、EUの報告書あるいはドイツの報告書につきましても、こういった統合評価モデルを使った研究成果をもとに報告書がつくられているということであります。
 繰り返しになりますけれども、EUが2℃、550ppmと言ってきた問題も、どうも2℃と550ppmは直接リンクしていなくて、いろいろ複雑な関係があるということがわかってきたものですから、EUは最近では550ppmをかなり下回ったレベルで安定化する必要があるということで、少し主張が変わってきたのではないかと思います。
 次、お願いします。これまでのこの種の分析はほとんど影響が考慮されてない、考慮されたとしても非常に簡単な影響関数が入っているだけですけれども、このモデルではその影響を入れていこうということで、安定化濃度が決まりますと影響も計算できるようになっています。例えばこちらがインドの米の収量への影響です。このピンクがBaU、SRESで言うところのB2を使ったときにはかなり収量が減るのですけれども、安定化濃度を厳しくすればするほどそういった被害は減少するということであります。これが米の例であります。こちらは小麦の例であります。
 こういった影響も横目で見ながら安定化濃度の議論をしていくようなツールができておりますので、今後はこういったものを使いながら、影響面も考えながらやっていく必要があるかと思うのですが、この際、先ほどの影響の閾値にかかわるのですけれども、例えばこれは米の例で、18%減というようなことがインドにとってどんなものか。例えば小麦で言えば25%ぐらい減というのは、これはインドでどういうことかということで、そういったいわゆる閾値と影響の関係の研究も必要になってくるということであります。
 次、お願いします。もう1つの例といたしまして、安定化濃度と気温上昇を確率的に分析した事例をお話します。ちょっと複雑で、私も十分理解できてないところがありますが、1つは不確実性を考慮したらどうなるかということで、その不確実性の1つといたしまして気候感度を考えてやろうということで、ここにありますのが、気候感度をこれまでIPCCは1.5から4.5℃、平均的にはが2.5℃ぐらい使ってきたのですけれども、気候感度の分布が最近いろんな研究者が出しててきました。これが一番有名なウイグリーら気候感度の確率分布で、対数正規分布を使っているかと思います。他の研究者もこういった分布を出しておりまして、最近ですとやはりもう少し高い方に気候感度があるのではないかというようなことで、4℃を超えるような気候感度にかなり確率がある分布形を出している方もいます。今の段階ではこういった1つに気候感度の確率分布は特定できないということで、この8つの気候感度の分布を使った計算をしております。
 次、お願いします。これは先ほどの8つの気候感度の確率分布を使って安定化濃度を2℃にした場合にどれだけの確率で2℃以下に抑えられるかということですが、こちらは横軸に安定化の濃度を書いております。この辺が550ppmです。この辺が400ppmです。この縦軸は2℃を超える確率です。ですから550ppmの場合を見ていただきますと、2℃を超える確率が大体66%という計算になる場合と、99%になる場合がありますので、この間に8つの線が入っているということであります。ですから、550ppmに安定化したとしても、2℃を超える確率は66%以上あるということでありますから、本当にかなりの確率で2℃に抑えようと思ったならば、400ppmとか、そういったところまで持っていかないと2℃というのは実現できないという、この確率分布を考慮したこういった解析というのは、ある意味非常にショッキングな研究成果ではあって、これ自体が本当かということもあるのですが、そういう意味では8つの気候感度というのが1つ大きなポイントになっておりますし、2℃と、気温上昇と安定化を結びつけるところは1対1対応ではないということで、まだまだ研究の余地があるということもあるのですが、政策的には非常に大きな意味を持ってきているのではないかと思います。
 次、お願いします。これも同じような形で、安定化濃度を幾つかに絞った解析の結果でありまして、これが550ppmですね。それで、横軸に年を取っておりまして、これは2400年までとっておりますからかなり先ですが、これが2℃のラインですね。550ppmではもう2℃を達成できないことがすぐわかるかと思います。
 では、この2℃に抑えるということで、例えば475にしてみますと、このとき大体50%のライン、平均は大体2℃で収まるということなわけですね。ただそれを超えてしまう確率がまだ50%ありますので、これをどれぐらいまで減らしたらいいかということになります。
 これを減らす方法としては、1つは、さらに400ppmを考えるということですが、現時点で400ppmにすることは不可能ではないにしても非常に難しいということで、これはある研究者たちが考えたのは、まず475 ppmで安定化させるパスを通して、その後400 ppmに方針変更しようというオーバーシュートさせて、次にまた400 ppmに持っていった、そういうパスも書ける。そうしますと、2℃を超える確率は20%まで減ってくるという、そういう分析をしております。
 本当に現実的にできるかどうかということを考えますと、理論的な計算になるわけですけれども、2℃と安定化を考える上での非常に重要な研究の成果になってきているのではないかと思います。
 次、お願いします。もう1つは、ある程度排出パスはいろいろあるので、いろんなパスをどう考えていくかということで、先ほどご紹介した475ppmにして、後に400 ppmにするようなオーバーシュートのシナリオを考えた場合に、これはピークをいつ出すかを、いろいろパスがあるのでピークを遅らせれば遅らせる程、後で削減の比率が高くなるというような図です。
 ですから、こういった研究事例から、対策を遅らせれば遅らせる程、後で当然ながらきつくなるということがわかってきたということでありますし、次、お願いします。以上幾つかの事例をご紹介したということなんですけれども、まずその気温上昇を制約としたときの安定化濃度についてどんなことがわかっているかということで、幾つか書いております。
 一番上の2つを読みますと、産業革命以降、全温室効果ガスの濃度は、280ppmから357ppmになって、COは280ppmから369ppmになっているということです。COのみの場合はこういったことはないのですけれども、SOも含めて考えますので、さらにフロンですとかメタンですとか、そういったものを考えると、温室効果ガスのCO換算の値というのはこういう値になってくるということになります。
 その次は、全温室効果ガスで550ppmに安定化させても、気温上昇幅が工業化前に比べて2℃を超える確率が相当高いため、気温上昇幅を2℃以下に抑えるためには、550ppmを十分に下回る水準に抑える必要があるということで、これはEUの最近の報告書に出ていることと同じです。
 幾つか数字を並べておりますけれども、IPCCの事例、モデルの事例ですが、そのほかにも今お話したMeinshausenらの事例以外にも事例がありまして、例えば2℃以下に抑える確率を80%にするには、約400ppmの安定化が必要だとか、安定化濃度450ppmでは2℃以下となる確率は50%で、550ppmでは10から20%、650 ppmでは3から10%というような研究も出ております。
 それで、我々の計算の結果は紹介したのですけれども、2℃を達成するためには475ppmの水準に持っていく必要がある。この水準を達成するためには、温室効果ガスの大幅な削減を早期に実現する必要があるということで、具体的にいいますと2020年では約10%削減、2050年では約50%、2100年では約75%ということで、こういった値につきましては、475ppmでの安定化につきましては、ほかの研究事例もほぼ同じような数字を出しております。
 次、お願いいたします。今度は安定化濃度達成のための排出パスです。既にお話したことの繰り返しになるのですけれども、いろいろなことがわかってきたということであります。ただ産業革命以降、あるいは工業化前以降ということでありますと、もう既に0.6℃上がっているし、全ガスを考えると、ノンCOの場合ではメタン、 NOのほかにフロンが入ったりとかエアロゾルのSOが入ったりしますので、ppmとしてはこういう値になるということです。
 最後に、こうした削減を達成するために必要となるCOの削減パスについては、今後さらに検討を深める必要があるということで、きょうご紹介したいろいろな研究事例は、無数にあるパスをある基準で求めておりますので、その基準を変えるといろんなパスが出てきます。パスの研究というのはさらに必要でありますし、その際にどこでピークを持ってくるかとか、あるいは低い温度の安定化というのは大変難しいわけですけれども、先ほどご紹介したオーバーシュートといったようなことも研究例では出ておりますので、幾つかの研究のアプローチも今後とっていかなければいけないのではないかと思います。
 今後の課題についてまとめますと、まず1つ目が、長期目標は、ある程度の柔軟性を持った目標としてとらえることが必要であり、今後のさらなる科学的知見の充実に対応して、継続的に検討を加えていく必要があるだろうということであります。
 2番目が、安定化濃度、気温上昇、排出パスにかかわる不確実性要因を考慮した解析や、排出ピークやオーバーシュートなど、段階的、複合的な目標を設定した場合の解析も検討が必要になってきております。
 3つ目ですが、地球規模で求められる排出削減量を達成するために、各国がどのような役割を果たすかについては、政策的な判断や日本としての戦略が求められるため、今後の検討課題である。こういったことを検討するに当たって、最初の2つに挙げましたようないろんな分析結果が必要になってくるということであります。
 一番下ですけれども、生態系や農業への影響を考慮すると、気温上昇の大きさだけでなく、変化の速度についても留意する必要があるだろうということで、速度についての検討も課題である。
 それで、ドイツなどは、速度についての検討もやっておるのですが、温度の方に比べると速度に関する知見はそんなに蓄積されていないということもあるのですけれども、気温の上昇速度などもやはり十分考えていく必要があると思いますし、あとは海面上昇、ほぼ気温上昇と並行する形になっておりますけれども、例えば島国あるいは海岸地域の安全性を考える場合には、海面上昇なども必要になってきます。研究面でまだまだやることはいっぱいあるかと思いますが、今の段階ではこういったところまでわかったということであります。
 以上で報告を終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 これから幾らかの時間を費やしまして皆さんの質問、意見、討論をしたいと思っております。今3つ大きくございますので、それぞれについて、まあ4もありますが、まず個別に議論を進めていきたいと思っております。
 その前にですけれども、この国際戦略専門委員会、今回を含めて3回考えておりますけれども、8回、9回、10回ということでございますが、このシリーズでは今後国際交渉においてどういう方向で削減していくかという、どういうやり方でというのが一番の交渉のポイントではございますけれども、そのベースとしての、どこまで本当は下げなきゃいけないのだろうといったことに対する見解をある程度まとめておこうというのがこのシリーズの目標であります。そういう観点から、現在行われている研究、論議、そして国内での研究成果といったことについて一通りお話をいただいたわけであります。
 まず最初に、前回のフォローアップということで、お手元のコピーでいいますと9ページまでですね、このあたりにつきまして何か質問あるいは意見ございましょうか。はい、どうぞ。

○三村委員 非常に総合的なというか、網羅した報告で、これだけまとめるのは大変だったでしょうし、おかげさまでいろんなことがよくわかって、私自身も非常に勉強になったと思います。9ページの「前提条件の整理」というところで、[2]に「「危険なレベルの判断」の対象として取り扱う分野」というのがあります。ちょっと原沢先生にお伺いしたいということもありますけれども、気象災害とか自然災害とか水関係の災害とかいうようなことがこの中に明示的には入ってなくて、例えば水資源のところに渇水が入っていたりとか、沿岸のところに台風の被害が入っているのかもしれませんけれども、私の感じでは、そういう災害という言葉を外に出しておいた方がいいのじゃないかなという気がするのです。
 というのは、ちょうど上のページにありますけれども、温暖化が進むと真夏日とか豪雨日数がふえるとかいうようなデータもあるし、それから台風自体がどう変化するかというのはなかなかはっきりしないということかもしれませんけれども、いろんな国の、特に途上国の人たちの心配の大きなものの1つは、そういう気象災害がすごくふえて、危なくなるのじゃないかということです。それにどう対応したらいいのだというような話がいろいろなところから聞こえてくるので、言葉としても何か災害というようなものを出した方がいいのじゃないかなと思います。
 それで、ちょっと昔のデータを調べてみたら、アジアの災害の中で、災害事象、どういう事象が起こったかというので、非常に大ざっぱな数字で申しわけないのですが、水気象災害というのが1年間400件ぐらいで、その他が80件ぐらいです。地震とかそういうのだと思うのですけれども、だから、災害というともうほとんど何か気象災害みたいな感じなんですね。そういうこともあるので、後で閾値を決めるときの1つの項目として、気象災害を出しておいた方がいいのじゃないかと思うのですけれども、どうでしょうか。

○西岡委員長 どうもありがとうございます。
 ほかにございましょうか、委員の方。それでは原沢さん。

○原沢委員 三村先生のおっしゃることはそのとおりだと思います。これまでも災害という項目は、先程紹介した水資源の中で、いわゆる雨が多くなって洪水という形で入ってきたりとか、沿岸の方はいわゆる海面が徐々に上がってくるだけじゃなくて、台風が来て高潮が重なったりとか、個別の分野に取り込まれているかと思います。ただ、昨年の異常気象の話もありますけれども、IPCCの議論でも、やはり異常気象が非常に重要だということで、異常気象を受ける側の分野としては自然災害ですとか、国土保全まで、そういった分野がやはり重要だということで、明示的に示しておいた方がよろしいと私自身も思っております。
 ただ、異常気象については、やっと異常気象の予測ができましたので、その影響になりますと、もちろんこれまでも自然災害のいろんな研究があったりするわけですけれども、将来予測も踏まえて、かつ過去のいろんな自然災害に対する研究の知見を踏まえて、温暖化として見ていく、こういう研究が影響でも必要になってきたのではないかと思っています。

○西岡委員長 どうもありがとうございます。
 今の件は、もともと枠組条約の第2条のところには、生態系であったり食料であったり健康であったり、そして経済開発という言葉はあるけれども、人の住んでいる場所自身の話、すなわち生存自身の話であるとかあるいは水資源のようなことは明示的にされてないというので、どうしても研究としてはっきりされてないのですけれども、この際条約の目標以上のものを科学の面からは言っておく必要があるのではないか。そういうことがだんだんと気象災害がふえることによって切実な問題になってきたということでしょうかね。
 ほかにございましょうか。目標等に関してですけれども。住先生、変化の予測、温暖化と異常気象のあたりにつきましては、こういった考え方で……。

○住委員 2つあると思いますが、一般的に温暖化に伴ういわゆる水資源とか異常気象の問題では、世界的に見るとやはり旱魃なんですね。基本的に大陸の多くの部分が乾いていくということがあって、しかも旱魃というのは非常にボディブローみたいに効きますので、大体世界じゅうの関心は旱魃に向かっているのですが、モデルでやりますと、アジア・モンスーン地域だけはたくさん降るようなモデルが出て、だから洪水とか何かが出るのは大体東アジアの特徴なんで、世界的には余り気にしてないというか、足らない方が多いので、たくさん降るならいいじゃないかという話になっているので、そういう点では割とアジアはそういうことを考えるというのが非常に僕は大事だと思います。
 それと、ただ災害は圧倒的にインフラとの相関で起きる場合が多いので、そこのところは逆に言うと、気候としては温かくなれば雨が強くなるのは別に何らおかしくはないわけで、それは正常な気象なんだけれども、インフラが、例えば50ミリの排水基準でつくったインフラに対して70も80も降ってくれば、それは合わなくなっているだけなんですよ。ある意味ではね。だからそこのところが災害をとらえるときに、こちら側の社会側の適応性の問題と非常に絡んでくると思いますが、ただ明らかにそういう点では、気候帯がシフトすれば、ノーマルであっても人間社会に与える影響は出てくるということは強調しておいた方が僕はいいと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。はい、どうぞ。

○三村委員 今非常に重要なご指摘があったので、ちょっと私もそういう面で追加のあれをしようと思うのですけれども、今まで沿岸災害とか海面上昇の影響なんかをいろいろやっていて、今住先生がおっしゃったとおりのような影響のあらわれ方をするのだなというのを非常に強く思いまして、というのは、海面上昇とか災害が来たときに洪水がふえるとか土地が沈んじゃうというふうにみんな考えるわけですけれども、日本だとそうはならないのですね。きっとそういうふうなときが来たら、堤防を高くしたりとか、いろいろつくって、国土を守るために防ごうとする。だから日本に対する影響は、国土保全のための投資が追加的に必要になるという格好で影響があらわれるのだと思うのですね。ところが、そういうお金とか何かがない国は、しようがないからどんどん土地が沈んじゃったりとか洪水がふえるというような格好になる。
 ですから、災害の問題を扱うときに、後ろの方でまた出てくるのだと思うのですが、どういう指標で見るかというときに、その沈む土地の面積とか影響人口とかというふうにカウントされる部分と、防災対策のために非常になる追加的な経済費用というような形で影響がカウントされる部分と、両方出てくるのだと思うのですね。今、住先生おっしゃったことは、後の影響をどういうふうにカウントするかというところでもまた効いていくような気がします。

○西岡委員長 ほかにございませんか。はい、どうぞ。

○明日香委員 もしどなたかご存じでしたら教えていただきたいのですけれども、COの肥沃効果が以外にないという研究が最近どこか、だれかが出したような気がしたのですけれども、そこら辺、実際どうなっているのか、もしご存じでしたら教えていただきたいと思います。

○原沢委員 私の知っている範囲でお答えをしますと、実験室レベルではかなり肥沃化効果があるということだったのですけれども、IPCCの第三次報告書では、野外の現場でいろいろ実験がされまして、FACE(フェイス)実験とか、新しい実験施設や方法をつかって野外で計りますと、思ったほど肥沃化効果はないという結果になってきたというのは事実だと思います。ですから、かなり肥沃化効果を盛り込んで農業の予測をやっていますので、そういう意味では非常に肥沃化効果の多少というのは農業生産への影響のもかなり効いてくるのではないかと思いますし、農業で2℃、3℃といったときに、その肥沃化効果である程度カバーできるようなところもあるのじゃないかという話があったのですけれども、どうも肥沃化効果そのものは現場ではそれほど効かないというような話も実際出てきているかと思います。それがどれぐらいかというのは、いろいろな研究事例があるようですけれども、全般的に現場の方が低目に出ているということだと思います。

○住委員 それは本当にあれと同じで、部分最適か全体最適化というのと同じで、本当に実験室で全部コントロールすればそうなるけれども、自然界だと、例えばミネラルとか肥料とか、いろんなものがリスク要因がいっぱいあるから、そう簡単にはいかないというのは、大体やる前からわかると僕は思いますけれども。

○西岡委員長 幾つか私も論文を見た中では、肥沃効果も確かに効くけれども、それを打ち消すほどむしろ温度とか等々の変化の方が効いて、総合的にはどうかなという説が最近出ておりますね。
 ほかにございませんか。よろしかったら次へ移りまして、次の長期目標の考え方、特にこのパスに行く前に、1℃、2℃、3℃、このあたりをどう考えていったらいいだろうか。非常にある面では論議を呼ぶところでございます。割とこの1℃、2℃、3℃という目標の違いによって今後のパスの緩やかさというのは結構効いてくるところもありますね。後の計算なんかを見ますと。そういうわけで、このあたりを温度で設定するのか濃度で設定するのか、それとも気候自身でやるのか、いろんな考え方があると思うのですけれども、ここでやはり、一応みんなが言っている温度で考えてみて、1℃、2℃、3℃のあたりで考慮するべきじゃないかという結論、今の見解でしょうかね、になっていると思いますが、いかがでしょうか。

○住委員 これを考えるとき、相当いわゆる具体的なシミュレーションみたいなのをやってイメージをつくった方がいいと思うのですよ。だから例えば、要するにキャンペ-ン的に、プロパガンダするときに割と強めに言っておきましょうという、そういうオプションがありますよね。ただ本音ベースでどうか。例えば最後は経済活動をブレークダウンしてもいいからやらなきゃならないパスもあるわけだから、いろんなオプションがある。だからその辺をもうちょっと具体的なあれで、やはりそういうことを考えておかないと、一般的に言うところはいいのだけれども、要は本音ベースでいけばそこでどう、多分みんなすべての国が思っているのだけ、自分の国はどううまく立ち回れるか。自分の国が安泰だったら次にこうしようとか、そういうふうに思っているはずだと思うのです。だからそこをもうちょっと具体的な、やはり何段階もあるようなオプションのパスみたいなのを準備しておいた方がいいような気がする。
 だから、相手がこうだったらこうする、例えば幾ら言ったってアメリカががんがんがんと全然無関係に言ってきたときはどういうオプションがあるかとか、ひょっとしてアメリカがこっちへ来たときにはどうなるかとか、だからそれと科学技術の進展具合とか、日本の人口が減っていくからどうだとか、何かものすごいいろんなファクターがあるのを、より具体的にいろんなシナリオパターンみたいに日本としては用意していくようなことが、外へ出すかどうかは別です、出すかどうかは別だけれども、部内的に検討するときには何かそういう具体例がないとなかなかだめなんじゃないかと僕は思うのです。
 そういう点で、シミュレーションゲームとは言いませんけれども、ああいう具体的な、あんたはアメリカが担当、こうやりながらやっていくようなことをやってみた方が非常にいいような気がするのですがね。

○西岡委員長 はい、どうぞ。

○工藤委員 後ほどのところをちょっと置いておいて、今、住先生がおっしゃったように、結局、例えば経済社会のアクティビティーで排出がどうなると、その排出によって濃度がどうなると、いろいろな要素の組み合わせの中で話をしながら、今温度ですね。じゃ温度と濃度の関係の不確実性なりリスクがどうなるかという話なのですけれども、そういったさまざまなシナリオの中で、2℃、3℃という話はあくまでもグローバルな、平均化という言葉は当たらないのかもしれませんが、そういうかなり指標性を持った形で今議論されているのですけれども、そういった影響なり何なりという、そのローカルなところに落ちてくるところと、こういった世界全体で考える、グローバルな数字で考えようという、その辺の因果関係なりシナリオというのは、多分今おっしゃったように多様なのだと思うのです。
 それで国際交渉なり何なりでグローバルなところにある程度フォーカスしながらも、そのバックグラウンドでいろいろな影響なり何なりを地域も含めてちゃんと見ておいて、それを前提としてこのグローバルになっているのだという、そういう視点の整理というのが、確かに私も必要なのかなと思います。
 例えば日本にとってどう戦略をとるかとか、どういう国に対してどういう影響が出るのかとかいう、そういうようなさまざまな組み合わせの中でこの2℃なり3℃なりの話をしているのですということを、ある程度予見として持っておかないと、なかなか数字のよしあしというのが見えてこないというのが、今いろいろ話を伺っていて感じたところです。

○西岡委員長 今の点については、三村、原沢両委員にお伺いしたいのですけれども、IPCCでは幾つものローカルな影響についてはやっておりますですね。しかしながらそれを世界的に今のお話のようにインテグレートするということは実は余りやられていないようにも私は思うのですね。よく農業への経済影響で自由貿易だったらどれだけ中国からアメリカへ行くかとか、そういうことをやった例もたくさん昔ありましたけれども、そのあたりのローカルとグローバルをつなぐ関連はどういう具合に今なっているとお考えでしょうか。

○三村委員 じゃ、まず私から。
 IPCCの影響は、第2作業部会で扱っているわけですけれども、以前から地域ごとの影響をもっとクリアにあらわすことが重要だ、地域影響が重要だということがいろいろ言われていました。だけどそれは、今、西岡先生から言われたとおり十分実現できなかったというのが現実だと思うのですけれども、今度の第四次報告書では、その地域影響、影響の地域的な分布ということについてもっと焦点を当てようというような意見は非常に強いと思います。
 それで、第四次報告書の影響に関する検討の焦点の1つは、キーバルナラビリティー(鍵となる脆弱性)というので、この温暖化の危険な水準をどういうふうにとらえるか、それを明らかにしようということなんですけれども、論点は2つぐらい私はあると思うのです。
 1つは、既にあらわれている影響の分布、そこのところをまずはっきりさせるということで、わざわざ1章分を取って、観測されている影響という章を一番最初に持ってきたというのが1つですね。
 それから2番目は、これはどこでどういうふうにやるのかわかりませんけれども、ホットスポットを特定するというようなところにやがて焦点が行くと思います。ホットスポットというのは、地球全体では、ある2℃なら2℃でこういう影響が出ますとなったときに、ちょうどリービヒの肥料の最小律みたいに、あるところに対してだけは非常に脆弱性が強くて、同じ2℃でもほかの国はまあまあ何とかやっていけるのだけれども、その国や地域についてはもうそれではやっていけないというようなところが出てくる。それは、例えば非常に低い島国だとか、あるいはアジアのメガデルタというようなところとか、いろいろ指摘されています。恐らくそういうところを明らかにするためにという趣旨だと思いますけれども、コモンケース・スタディというのが考えられていまして、その取り上げられる対象としてアジアのメガデルタとか、そういうようなものが焦点になっている。
 だから、閾値といいますか、2℃にするか3℃にするかという議論の関係でいうと、最も影響が厳しくあらわれるような地域を特定していこう、そういう意味で地域的な特色が述べられていくのじゃないかなと思います。

○西岡委員長 原沢委員何か。

○原沢委員 三村先生のご発言にちょっと加えたいと思います。1つは、IPCCの第2作業部会の報告書の構成は、分野ごとの影響、地域ごとの影響、それをまとめたキーバルネラビリティー(Key Vulnerability)の話があります。これまでどちらかというと分野は分野、地域は地域ということできたのですけれども、かなり横断的な情報交換が始まっていまして、分野と地域、地域の間でもアジアとヨーロッパの地域、さらに条約2条の関係のいわゆる安定化濃度にかかわるところは常にコミュニケーションしてやっているということで、2条の方の担当者からは、多分今回は、何℃だったらどういうことが起きるかというのを研究事例からもっと明示的に出すというような方向に行くのではないかと思います。
 影響研究をこれまで考えてみると、必ずしも何℃でどういう影響が何%という成果の出し方はしてないのですね。日本でも非常に多くの研究があるのですけれども、何℃上がったときに何%、何がどうなるというようなまとめ方をしてこなかったものですから、たまたまこういう安定化の問題が出てきたときに、なかなか事例をまとめきれなかったということがあります。多分IPCCも、1つの影響のまとめ方として、これはイギリスのシンポジウムの後に、ハドレーの研究者が何℃上がってどんな影響が何%出たというようなリストを今つくっているのですけれども、そういう影響の1つのまとめ方として出てくるのではないかなと思います。
 その際に、グローバルで考えてどんな影響が何%出ているかという話と、日本で、あるいは北極で何℃上がってどんな影響が出てくるか、グローバルでも見て、かつ地域でも見ていくようなまとめ方の方向に行くのではないかなと思っています。

○西岡委員長 今の住さんの問題提起、それから工藤さんの問題提起なんですけれども、実際問題として、それほどすべての人をステークホルダーに入れたシミュレーションモデルどうのこうのって、多分できないと思うのですよね。今みたいにローカルなことをにらみながら、それからちょうど13番の絵にありますけれども、非常に弱いところのことも考え、全体も考え、何となく頭の中で考えていろいろ決まりつつあるというような感じなんですけれども、これは亀山さん、何かもしご意見があったらお伺いしたいのですけれども、こういう論議というのはどういう具合に展開していくのでしょうかね。今必ずしも世界の目標1つでいかないといった場合、いろいろみんな違った立場で被害が多分認識される、今まだされてないわけですけれども、されたときに、どんな形で国際交渉としていくように考えればいいのでしょうかね。

○亀山委員 急に振られて困っているのですが、この長期目標を設定すること自体よりか、むしろ先生のご質問が一番問題になってくるのは、設定した後で、じゃどうやって対処しようかというときに国際政治の部分で問題になってくるのだと思うのですね。つまり、途上国では、起きてしまった被害に対してその適応をどうやってやっていくかという方をむしろ話し合ってほしいというふうに話が展開するでしょうし、日本やEUについてはどうやって抑制していくかという方を話し合いたいという方に話がいくでしょうし、2つに分かれたときにそれをどう調整していくかという話が多分問題になると思うのですね。ですから、多分国際政治においては長期目標を設定する部分で先進国と途上国が大きく意見が異なるとか、そういうことは余りないのじゃないかなという気はしていますが。

○住委員 現在IPCCの中で地域的な影響を前面に出してくるのは、すべての国の人により具体的に気候温暖化の影響をわかってもらいたいということが非常に大きいですね。そのときは、分解度を細かくすればどの国もいろんな悪影響が出るよという、そういうストーリーで大体思っているのだと思うのですが、ただその社会影響になると、僕は一番大事だと思うのは、やはり多くの人が経済で生きているのですよ。僕はそれはいいか悪いかは別として、お金を目当てとはいいませんけれども、やはりお金が非常に重要になってきているわけで、そうするとそのエコノミカルな部分に関しては相当いろんなレスポンスが起こるような気がするので、例えば今日の鉄の、要するに鉄が足らなくなるのだって、非常に過剰に高炉を減らして、そうすると現状のあれによってその負荷がかかったかかり具合がいろいろ違う形が出てきたりするような気がする。
 それは同じように、例えば中国のある部分で非常に旱魃が起きて、非常に災害が出たときの影響というのは、単に中国で例えばそういうことがありますだけじゃなくて、もろに日本に響くはず。どういうふうに響くかは知らないけれども、いろいろ響くはずですよね。
 そういうような形とか、いろんなことがあるので、その国際政治経済的な部分のところのそういうシミュレーションというのは、多分ケース・バイ・ケースで違うような気がするので、そういうのはやはり2020年ぐらいを見越していろんなシミュレーションをやっていて、要するに囲碁と同じだと思うのですね。向こうはこういう手を打ってくればこうなるから、ここではと、どんなシナリオに転んでもまあ日本のセキュリティーは7割ぐらいもつからまあ大丈夫だよと思っていれば安心してできるし、おや、やばいなと思えばどうするかとか、いろいろ、何かそういうことをやっていって、そういうシミュレーショントレーニングでいろんなケースを頭に押さえておけば、そこでどういう国際交渉でもいけるのだけれども、今のところ割とないような気がする。
 それで一番違うのは、アメリカの政策担当者は、彼らはうちは絶対大丈夫と思っているのだ。どうなろうとアメリカは自分の国だけでやっていけると思っているから強いわけですよね。多分だから中国だって、うちはどうなっても大丈夫と思っているはずなんだ。日本はじゃ、うちはどうなっても大丈夫と言えないような位置にあるような気が僕はするのです。そうすると、ものすごく残念なことだけれども、島国国家は相当そういうところに配慮しながらやっていくということが僕は非常に大事なような気がするのです。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。はい、どうぞ。

○明日香委員 まとまってないかもしれないのですけれども、そのシミュレーション、多分ダメージコストというのは計算が難しいと思うのですね。よく行われているのはミティゲーションコストで、多分EUが今度出してきた中では、例えば450とか、2050年までに何%減らすというときに、GDPが毎年2.25%ぐらいふえると仮定すると、そのミティゲーションによるコストはマイナス0.05%とか、そういう数値を出していると思います。だから多分日本も今後そういう数値を少なくともミティゲーションコストに関しては出していかざるを得ないし、多分EUはそういうのを既に計算して、そのときのテクノロジーオプションが15個あって、チュウチョウリュウが入っていて原子力も入っていてということをやった結果、EUはああいうポジションを出しているのだと思います。だからそういう作業は必要でしょうし、多分計算として、出るかどうかわからないのですけれども、それほどGDPに対して大きな影響を与えないというような結果が出るのじゃないかなと期待しています。
 あともう1つ、出たとしても、やはりどうしても、単純に言えば困る国と困らない国が出てくる。困らない国が困る国に対してどのように考えるべきかというのは、やはりモラルなりあるいはバリュージャッジメントの問題になってくると思うのですね。そこは結局世界じゅうの個人のウエルファーを足したものが世界じゅうのウエルファーにならないと思いますので、そういうものをどういうふうに考えるかというのは、バリュージャッジメントなり、エクイティーなり、モラルの話をもうちょっと詰めて、それで日本がそういうのをどう考えるかというのをやっていくしかない。
 だから、その2つというのでしょうか、そのシミュレーションも大事だと思いますけれども、シミュレーションの限界はありますし、最終的にはモラルジャッジメントなりバリュージャッジメントをどう考えるかという日本の立場になると思います。アメリカの悪口を言うわけじゃないのですけれども、アメリカは基本的にアメリカだけがよければいいと公言している国ですので、ある意味ではモラルジャッジメントを捨てているところもあると思うのです。日本はそこをどうするかという、そういう選択の問題になるのじゃないかなと。

○西岡委員長 ほかに。

○甲斐沼委員 確認だけの話なんですけれども、ここの気温上昇幅というのはあくまで年平均の気温上昇幅で、ここに書いてある中身については、GCMとかを使った、地域的なものも考えた中での年平均気温がこれだけ、2℃上がったらどう影響するかというのがちゃんと書いてあると思うので、その地域の話で、例えば13ページの方のサンゴ礁、ここは全球/地域と書いてあるので、サンゴ礁は1℃上がってももう大変ですよというお話なんですけれども、この17ページの気温上昇の2℃というのは全球の話で、具体的にはその地域によっては2℃以上上がるところもあるのだけれども、全球で2℃上がったときにという影響で書いて、ちょっとその辺、説明を加えて方がわかりいいかなということ。
 あともう1点は、次のパスと関係すると思うのですけれども、やはりこれは非常に難しいと思うのですが、費用を金額換算すればいいのか、それともそこまで行かないでその手前で評価するのか、あとそれについて価値判断もまた入ってくるだろうし、影響の方をどうやって金額換算するのか、その辺についての事例というのがあれば、これはパスの方とも関係すると思うのですけれども、教えていただければと思います。

○西岡委員長 原沢さん何か。

○原沢委員 13ページの図ですけれども、情報自体を全球平均気温でまとめた方がいいだろうなと思いながらも、地域のものが入っているので、甲斐沼委員がおっしゃったとおり、ミスリーディングしないようにしっかり見極める必要があると思います。例えば2℃全球で上がったとしても、北極はさらに高い気温になっていますから、そこで生物が影響を受けるということではあるのですが、見方としては、絶対温度が上がったときにそういう生態系に影響が出るという形で、具体的な地球レベルの話を考えるのも1つですけれども、ここでは絶対的な気温上昇がどう生物に影響を与えるかということで、混乱をしないほうがいいとは思います。1℃でも影響を受ける生物があるということでご理解いただければと思います。今お話があったように地域の情報と全球の情報はちょっと分けて考えないと、ちょっとミスリードする可能性は高いことは確かです。
 2番目の、金額で被害を表すことですが、これは影響研究者は常に金額で被害を出せという話があります。削減コストは非常によく研究されていますし、GDP何%というのはいろいろ出ていますが、影響・被害の方は、人が亡くなったりサンゴ礁が白化したりをどう金銭で評価するか。もしそういったことを入れないと、非常に金額では低い見積もりになってしまったときに、被害が大したことないという判断もされる可能性があるのではないか。そういうこともあり金額になかなかできないということと、あとは影響の分野も、今日もいろいろ議論があったように、農業あり、生態系ありということでなかなか同一の土俵で比較できないので、考えられる方法としては、リスク人口みたいなもので社会影響の方は考えるということです。さらにいろんな研究者がいろんなことを言って、ウエルフェアでやるとか、いろいろ話はあるのですけれども、金額評価を削減策と同じレベルまで持っていくには時間がかかるかと思いますが、その必要性は感じていますし、その方向に研究も進めております。
 実際今日も、IPCCの第三次報告書の中に載っている経済評価の図を出そうかと思ったのですけれども、非常にばらつきがあったりするものですから、かえって誤解を招くとまずいということで、今回は出しておりません。ですから研究がないわけではないのですけれども、非常に難しい研究の分野だということだと思います。

○西岡委員長 三村さん。

○三村委員 この後、パスの話とか政策の話になると思うのですけれども、その前に、この温暖化のターゲットを2℃以下にするかどうかというところの議論をもうちょっときちんと詰めておく必要があるのじゃないかなと思うのです。
 私、きょうの話を伺って、13ページとか15ページ、いろいろデータを出していただいて、かなり見通しがよくなってきているので、非常に研究も進んでいるし、整理もよくしていただいているなと思うのですけれども、それでも世界全体で温暖化の上昇のレベルを2℃に抑えなきゃいけないということをもっとクリアにはっきりさせるような研究が必要だし、それをきちんと整理する努力が今後もさらに必要なんじゃないかというように思います。
 それで、15ページのこのMillions at Riskという中で、例えばですけれども、このグラフの中でcoastal floodingというのがありますけれども、これはイギリスのロバート・ニコルスという人が長くやっていて出した結果だと思うのですけれども、つい3月に我々の研究室で別のアプローチでやってみたら、これ、人間の数がどれぐらいになっているのですかね、左の軸だから、100万だから、2℃のところで1,000万とか2,000万ぐらいのオーダーだと思うのですけれども、これは台風とか高潮の影響を十分入れてないような気がするのですね。我々の研究室で台風の影響も入れてやったら4億とか5億とかというような人口になるのですよ。だから、世界全体で台風が起きてどれぐらいの人が潜在的に影響を受ける可能性があるかなんという計算をやるのはかなりあやふやなところがあるのですけれども、そういうまだよくわかってないところもある。
 それで、その2℃、こういう横軸に温度の上昇を取って、それで影響がどういうふうな形であらわれるかということをもっと詰めていって、それで全体で眺めてみたら、本当に2℃のところがかなりクリティカルなところなんだということをクリアに示すような研究をさらに強める必要があるのじゃないかなと感じます。これが第1点。
 それから2番目のダメージコストの話ですけれども、これは非常に難しいと原沢さんおっしゃったとおりなんですが、ぜひそれをやろうというので、本年度から環境省の地球環境総合推進費で、戦略研究で温暖化の危険な水準というのも走り始めているので、その中でできるだけそういう定量的な経済的な評価というのもぜひやる必要がある。その中で食料のことについては、アジアの貿易を組み込んだ食料モデルというようなものもやろうと思っているので、さっき住さんおっしゃったように、中国とかタイで何か影響が起こったときに日本にどうはね返ってくるかというような効果をぜひ取り込んだようなこともやるというようなことで、この2℃というのがターゲットなんだということをいろんな形で多面的にもっとクリアにしていくという努力をやはり今後やる必要があるのじゃないかと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 この今のディスカッションは特にこの17ページの1、2、3ぐらいのところを考えて、その後の話につなげていいかどうかというのが、できたらもう少し本当はいただきたいところではあるのですけれども、なぜそういう問いが大切かという話は、将来、次の段階にありますシナリオで減らしていくのだということを出すために、このプロセスの中でやはり目標を設定するのが大切になってくるだろうという、極めてある面では実務的な線で今検討していただいているというように思います。
 実際そういう考え方でまず将来の排出目標を設定するかどうかということももちろんあるのですけれども、全体の世の中の流れはそういう具合に行っている。果たしてそれがいいかどうか、もちろんここで議論する必要があるかと思うのですけれども、そういう面で、いってみればテンタティブかもしれませんけれども、このあたりで1℃あるいは3℃の間、まあ2℃ぐらいがそういう面では、別段間を取ったわけではないけれども、いろんなデータを総合すると今のところではこのあたりかなということなんですね。そのあたりでよろしゅうございますか。はいどうぞ、工藤さん。

○工藤委員 さっきグローバルとかローカルという話をさせていただいたときに、数字というものの持つ意味、だから2℃、今、三村先生のおっしゃったような、そういった考え方、私自身の認識の2℃というのは、逆に原沢先生からいろいろご説明を受ければ受けるほどその2という数字の設定の、絶対これですよ、ここがまさにみんなのコアですよというところにどんどん自信がなくなっていく、いろんな意味でのリスクなり不確実性なり、幅があるということですよね。
 だから、そういう数字の持つ意味というものをある程度明確にしながらその数字のいってみれば指標性なのか、まさにそこまで行かなきゃいけないということなのかという、その違いといいますか、中身そのものはちゃんと全体で理解した上でそれを考えるということがやはり多分必要だと思います。恐らくそこが将来も含めて絶対かどうか、これはまだみんなわからないけれども、今ある程度共通認識としてこういう数字であり、かつ、そのバックグラウンドにはさまざまな相互関係の中でこれが振れる可能性もあるのですよということ。先ほどの白と赤の中でずっと色が変わっているのですねということでしょうから、そういう数字の持つ意味をある程度みんなで認識した上で、次のステップなり何なり、もしくはその現状の数字が、じゃ何かが起これば当然いろんな意味で調整が入るのですよねという、そういうことをちゃんと相互に理解した上で行う必要があるかなという気がします。

○西岡委員長 全くおっしゃるとおりで、そういうために割と広くいろんな面からの検討がなされているのじゃないかなと思っております。
 よろしゅうございますか。それじゃ次へ移りまして、この安定化濃度と気温上昇、排出パスのところにつきまして何かご質問、ご意見ございましょうか。はい、どうぞ。

○工藤委員 確認の意味で、25ページのいわゆる濃度と各排出パスの関係で、「社会厚生関数最大化」と書いてある、その社会厚生関数というものの中身だけ、どういったものをある程度設定したものなのかをちょっとお教えいただけるとありがたいのですけれども。

○原沢委員 これはマージナルコスト(限界費用カーブ)を入れていまして、消費による効用を最大化し、削減費用を最小化するということす。その際の割引率4%で、全ガスを考えてますので、削減コストをどこに割り振るかということがありまして、我々のモデルの中では基本的にノンCOガスの削減コストを低目に設定をしているものですから、そちらからまず削減していくということがあります。
 それで、これは各モデルのいろんな違いが出てくるところでありますけれども、割引率そのものは4%を使っておりますが、これは大体こんなものかなということですね。
 それで、基本的にはやはり経済削減費用を最小化するとともに、消費の効用を表す厚生関数については、それを最大化するということです

○西岡委員長 ほかに。はい、新澤委員。

○新澤委員 今回初めてミティゲーションコストのことが出てきたと思うのですけれども、対策コストを考えると、余り極端な対策は無理だという結論に使われがちですけれども、また別の意味で、やりようによって対策コストが随分変わるのだということは、コストに注意を払っておかないとそういうことは言えないわけですね。ですから、コストに注意を払うということも重要であろうというふうに思います。それは極端な対策は無理だということを言うためではなくて、むしろここでは、やりようによっては大分費用というのは違うのだということ。
 それで、WREのモデルのことをご説明いただきましたけれども、私の印象ではその後、例えばインデュースト・テクノロジカル・チェンジというか、政策を実施することによって技術変化が生まれて、それが長期的にどういう効果があるかというような議論があって、それが私が思っているよりも随分幅広く意味を持ち出しているというふうに思っていまして、安定的な政策を早くつくれば、そのことによって大分コストが違うとかいうような話が広がっているようですので、コストを全く度外視した議論ばかりやっているとそういう側面が全部落ちてしまうというように思いますので、今回そういう側面まで踏み込めるかどうかは別として、やはりちょっとコストの面にも注意を払っておく必要があるのじゃないかと思いました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 ほかにございませんか。

○明日香委員 3つありましたが、先ほど2℃の意味、工藤さんのおっしゃったことを考えているのですけれども、多分政治的な目標というところは否めないと思います。それで、今おっしゃったように、やはり技術革新なり、そういうものを動かすための政治的目標という意味合いは非常に強いかなと思います。あともう1つ、ほかにもあると思うのですけれども、やはりプレコーショナリーな数字というような意味合いもあると思います。この2つをつけ加え、強調したいと思います。
 あともう1つ、オーバーシュートする確率の議論がいろいろあると思うのですけれども、その意味をちょっと考えてみたいのですが、例えば10%オーバーシュートするというのはどういうことかというと、どういうことかというか、その数字だけ見れば、もしかして飛行機に乗って10%落ちる確率があるというようなことと同じだと思うのですね、10%というのは。多分こういうよくわからないリスクの場合、非常に確率が小さいのですけれども、この10%なり75%は非常に大きな確率であって、そういう数字のもとに政策決定者としてはどのような判断をとらなきゃいけないかということでありますし、飛行機の例はちょっといいかどうかわからないのですけれども、非常に高い現実的なものと考えなきゃいけないのかなとは思います。
 あと、おくらしたときのどうなるかというのも結構ポイントだと思っていまして、結局、先送りすればするほど後からたくさん減らさなきゃいけないと。もちろんそのときのコストの計算が出てくると思うのですけれども、たしかこのイギリスの会議のときの話でも、5年間おくらすだけでかなり後で減らさなきゃいけない速度が非常に効いてくる。だからそういう意味でも早目に政治的な指標は必要でしょうし、そういう意味でも2℃というのがありますし、後でやるというのは結局ただの先送りでしかなくて、オーバーオールのコストというのは非常に大きくなるということは直感的にわかりますし、そこら辺を明示的に数字でこれから議論されるべきかなと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。

○小島地球環境局長 ちょっと質問ですが、今、明日香さんがおっしゃったことですけれども、そこにあるIPCCで言うところのライクリーとこういう、割合が半分だとか30%というのは、そのリスクとして高いとか低いとかってありますよね。50%だともう丁か半かみたいな感じがするのですけれども、温暖化におけるリスクの確率というのが非常に粗いというと変なんですけれども、そういう感じがするのです。そこでの議論というのは、この50%、30%、さっきの飛行機ではないのですけれども、50%ぐらいかというと何か丁半ばくちのような気もしないでもないのですけれども、その確率の数の大きさというか、粗さというか、そういうのはどういう議論、あるいは温暖化におけるリスクのマネージメントのこのリスクというのはどういうふうに議論されているのでしょうかという、そこをちょっとお聞きしたいと思いますけれども。

○西岡委員長 原沢委員。

○原沢委員 確率の議論は、最近研究事例が出てきて、例えば何%だったらどういう政策を打つかというようなところまでは行ってなくて、この場合ですと、550ppmを超える確率は70%以上になっているということで、そのときどう政策判断をするかということではなくて、いわゆる不確実性を考慮したときの、気候感度をとって不確実性を考えた場合に、それが安定化濃度と気温上昇にあらわれてくる不確実性の伝播みたいなものを考えているわけで、例えば50%の確率で2℃を下回るということになると400ppmということになってくるわけです。例えば、飛行機の例がありましたが、あした晴れる確率は50%、逆に言うと雨が降る確率は50%に傘を持っていくかどうかという、その判断のところは、まだ議論ができるところまでにはなってないと思います。あくまでも気候感度という不確実性を考慮したときに2℃を超える確率がどうなる、そしてこれをどう政策的に考えるか、50%なのか30%なのか、またちょっと次の段階の議論ではないかと思います。あくまでもその2℃と安定化濃度の関係を不確実性を1つ入れて考えたときの計算結果ということで、IPCCのライクリーというのを入れたことで、リスク評価になっているようなイメージもあるのですけれども、これはそういうことではなくて、IPCCでカテゴリー分けをやっていますけれども、それで見るとそういう分類に入るということです。今局長がおっしゃったように、リスク評価のためのデータという形では出てなくて、何%だったら本気になって考えたらいいかというようなところまでのデータとはなってないと思います。あくまでも不確実性を1つの要因として、気候感度の不確実性を8人の方の研究成果を入れて考えるとこれだけばらついていますよ。550ppmに安定化するというこれまでの議論は不確実性の要素を入れて考えると、大分やはり変わってきていますよ。リスクマネージメントとか、そちらの方までのデータにはちょっとまだなってないのじゃないかと思うのですけれども、先ほどの飛行機の事故というようなところで、その飛行機に乗るか乗らないかというようなところまではまだちょっと行ってないデータだと思います。

○明日香委員 すみません、私も専門ではないのでうまく説明できるかどうかわからないのですけれども、おっしゃるように飛行機の例はよくなかったかもしれないのですけれども、多分2℃を超えるリスクを考えているのだと思うのですね。2℃を超えたからといっても、その後のリスクというのも大切だという話であって、単純に2℃を超えるリスクが、確率がどうだという話だと思いまして、よく不確実性の議論で一番槍玉に上がるのが気候感度だと思うのですね。それで2.5から4.5、もう2倍以上差がある、どれなんだと。実際そこを縮めることは多分15年、20年以上かかるというふうにたしかカカノミッツサークルでは言われていると思います。もっとかかるとも言われている。その理由というのは、物理的な計数をどう入れるかとか、前提で全部変わってしまうと。なので、そこの幅はそう簡単には縮まらない。だからある意味ではたくさんの人のデータを集めて、いろんな人がどういうことを言っているかを集めて、それで分布図を書いて、確率分布関数で議論しようと。一番確率的に中間値というのですかが例えば3.5で、3.5だったら非常にシンプルなんですけれども、実際その3.5というのを断定的には言えないので、ある程度幅を持たせて議論しているということだと思います。
 でも、少なくともポイントは、今まで550というイメージが何となくあったのですけれども、それだと2℃はかなり難しいなと。だからそういう意味では気候変動枠組条約の安定化濃度が究極的目標というのがあるのですけれども、それをある意味では変える、話がちょっとそれはオーバーかもしれませんけれども、そういうような意味合いも実は持っているのじゃないかと。それで、学者、研究者に言わせると、ある人に言わせると、気候変動枠組条約では濃度というふうに書いてあるけれども、それは原沢先生がこの前おっしゃったようにプロブレマティックですので、はっきりした科学的な知見というのは提供できない。だからどれだけCOを排出したら何℃上がるというような議論だったら非常に科学的な知見が提供できるというような話に今ちょっと変わりつつあるのかなと私は認識しています。

○小島地球環境局長 念のために。原沢先生が正確にお答えいただいたのですが、科学的なあれが丁半ばくちだと言ったわけじゃなくて、科学的なものを政策的に判断をするときのリスク評価として、半分とかというのは結構粗い議論になるなという、そこのリスクマネージメントって、その次の段階のものをどういうふうな議論があるのかなということ、今正確にお答えいただいたのでそういうことはないと思うのですけれども、そちらの研究というのはどうなっているのかなという話、それはまあこれからということですね。

○原沢委員 直接のお答えにはならないのですが、IPCCもいろんな数値を出してきたときに、不確実性の議論がいつもついて回るわけです。今回の場合は、SPM(政策決定者用要約)でも、確率分布で例えば気温上昇の値を出していくとか、そういう方向に行きつつあって、実際研究面でも、例えばGCMの結果ですとか、あと排出量の分布とか、研究がふえてきています。多分2007年の第四次報告書では、これまでは数字で出ていたものが、確率分布で出てくるわけですね。そうすると2℃プラス・マイナス1.5とかいうものが今度確率分布で出てきたときに、それをどう政策決定者が読み解くかというところで、いわゆるリスク評価とリスクマネージメントという新たな分野が温暖化と政策を結ぶことになります。これまではある程度、2℃、何℃ということで、ある意味判断が楽ということではないのですけれども、確率が入ったので、より情報量がふえたのだけれども、今、局長がおっしゃったように、だったら何%の範囲を対象にして政策を打っていくのか、よりわかりづらくなっていくのではないか。それが1つSRESシナリオにあらわれておりましていると思います。SRESシナリオは、それ以前のIS92AがBaUシナリオ、成り行きシナリオということで、それを中心に研究もし、議論もしてきて、わかりやすかったのですけれども、SRESシナリオになった後に6つのシナリオを等価に扱うということで、影響面でもちょっと混乱が出ています。といいますのは、影響の対象となる人口もシナリオによって全部違うのです。影響人口を求めようと思ったときに1つの図に載らなくなってきています。そういう状況の中で影響をどうやってとらえるかという問題になっていますし、影響人口が、例えば計算できたときに、それをまた確率で政策決定者に示したときに、それをどう判断するか、情報量がふえたがゆえに、政策決定とかリスクマネージメントのところにはまた新たな難しい問題も出てきつつあるのではないかなと思います。
 この図は、不確実性を目に見える形で取り込んで、安定化濃度と気温の関係を議論ができるようになってきたという意味で、非常にショッキングな研究成果だと思いますが、逆にかなり550ppmを下回らないと2℃を達成できないということもわかってきて、政策的な解釈ですとか研究面での解釈とかいうのは幅が広がった上に、かえって選択の幅が増えるがゆえに難しくなってきたのかなというような個人的な感じです。

○西岡委員長 住さん。

○住委員 僕はこの確率をつけるというのは反対なんですが、要するに何も理屈はわかってないのだけれども、ただいろいろやってみてものをデータ処理したらこうなったというだけなんですね。要するに単純に場合の数なんですよね。僕はそう思っている。ところが、確率分布だという言葉を使うと、何か本当に理論があって何かあるような印象を与えて、だからこういう数値化でもそうだけれども、ものすごい仮定が一番ベースにあるのに、きれいなお化粧をしていけばしていくほど何かものすごい高度化してというような印象を与えがちな部分があって、僕は非常に反対なんです。反対というか、よくないなというか、結局迎合している感じがするのです。
 本当のところはやはり3℃プラマイ1.5ぐらいの幅でわかってない。だから逆に言うと、ものすごくわかっていると、僕は前からそれで判断するには十分じゃないかと思うわけ。そこが3℃プラマイ0.01だったら全然変わらないでしょう、人の行動は。だって、基本的には欲望とか、もっと別のところでみんな行動しているのに、こんなことがわからないからやりたくないわけじゃないでしょう。全く違うところでみんな動いているくせに、全部そのツケをサイエンスに押しつけてくるわけですよ。だから本当に腹立たしいと思うのは、要するにほとんど子どものロジックと同じで、できもしないことをやって、あれができないからできないというロジックで先送りをしているだけだと僕は思うのですが、そういうトラップにはまっていくと非常に危険がある。
 それで、例えばオーバーシュートでも、あれはモデルが悪いのですが、例えば単純に言えば、デンチュウ研がやった例もそうだけれども、非常にリニアにレスポンスするのですよ、モデル全体が。だからそうしたらあの500℃も、600℃も、700℃も、800℃もどんどんやってきて、ある日ぱっと下げればそれでもとに戻っちゃうわけ。今のモデルは、現在はね。だけど、それは何かモデルは欠けているわけで、それは非常にヒステリシスの部分とか、論理への部分が欠けている。いっぱいあります。
 だから、そこはやはり要注意があって、そういうことを言うと反対派の連中は、モデルが悪いのだったら上がるところもおかしいだろうと、こう言ってくるわけね。だから今のオーバーシュートって非常にトリッキーなところがあって、温暖化するところをモデルをもって支えるのだったら、下がるところだってモデルは同じ振る舞いを示すのだからいいじゃないか。そこはモデルが悪いと言うのだったら、こっちも悪いからチャラにしようというロジックになっている場合があるような気がする。だから逆に言うと、モデルというのはそれほどパーフェクトではないのだから、そこはそこはか使い道を考えていくようにした方が僕はよくて、何となくそれが、そういう別な背景にあるもののトリックに使われていくような傾向があって非常に不愉快なんです、基本的には。

○西岡委員長 工藤さん。

○工藤委員 今出されている図とか下の図が、原沢先生もおっしゃったようにこういう見方が出てきましたよということだと、逆にこの理解をするためにお教えいただきたいのですけれども、要するに濃度と気温の間での不確実性なり何なりをこういうリスクという指標で示すとこうですよということですが、当然そのベースにあるのは例えば排出量と濃度との関係との変化もあって、この図はそれも含んだものとして見るべきものなのでしょうか。それとも、例えば排出なり濃度というものの因果関係はある程度ギブンで、それでさらに濃度と気温との関係の中でこういうブレがあるのですよということを言っているのか、その辺ちょっと教えていただきたい。

○原沢委員 もとの式自体は大気中のCO濃度が何ppmになったときに何℃上がるという関係式を使っていまして、そこに気候感度によって変わってきますので、これまでは大体2.6℃とか、1つの値を使って1つの値を出したわけです。そこに確率分布関数を入れ込んだのでこういう幅が出てきたということです。排出量まで戻った計算ということではなくて、あくまでも大気中の二酸化炭素、これは等価な二酸化炭素濃度ですけれども、等価の濃度と気温との関係式の間に気候感度の確率分布関数を入れて、確率計算をしたような形での計算結果が出ているということです。

○西岡委員長 ほかにございませんか。

○明日香委員 多分住さんに対するコメントというか、まあ私の意見なんですけれども、やはり不確実性を非常に批判する人がいたからそれに反抗するロジックとしてこういうのが生まれたのだと思います。なので、この人たちを責めるよりも、何となく2.5から4.5、幅があるからもう全部インチキなんじゃないかというような人を責めた方がいいのかなと私は思います。
 あと、さっきもちょっと申し上げたのですけれども、多分経緯としてはその550というのは実は最初にあった。それが条約にも安定化濃度と書いてあると。でも550でいろいろやっているとやはり気候感度という不確実性にぶつかってしまって、2℃というのはうまくいかない。だからそこら辺を整理するためにこういうのが出てきたのかなというふうに私は思っています。
 それで、多分丁か半か、これは政策決定者にもよると思うのですけれども、例えば2.5でも、2.5℃以下にはならないというようにも言えると思うのですね。それは非常に信頼性がある。だから不確実性と信頼性というのは多分両方の、コインの両側というところもありますし、僕は比較的こういうある程度幅で確率分布化するというのは、わかりやすくて、なった方がいいかなという気はしています。

○西岡委員長 そろそろまとめなきゃいけないと思います。いい議論をいろいろいただきましてどうもありがとうございます。
 基本的には、これは今ちょうど政府の審議会の下にある専門委員会として、いろいろと政策的判断をするときに、非常にロバストな科学的な知見がどこだろうかというところを問われているのではないかなと思っています。そういう意味で、今、住さんがおっしゃった本当にロバストなところ、中心はどこなんだというところはしっかりまず押さえなきゃいけない。
 それで、先ほどから論議があります確率論議になりますと、ロバストじゃないという意見に対して対応せんがためにいろいろとかえって小手先のところに入っていく可能性もあるなといったような判断が示されているかと思います。
 そういう面で、全体に一番ロバストなところは、何度も何度も同じことを言っているのですけれども、既に幾らかその変化はあらわれているだとか、変化しているだとか、大体は人為的な原因であるとか、それからこの問題につきましては最終的に半分以下にするのが物理的な点から必要だというようなところが一番中心でありまして、しかしながら今問われているのは、それじゃどういう下げ方をしていったら一番みんなが満足するような形でいけるだろうかということを判断するための科学的知見について今問われているということかと思います。
 大体きょうの論議を踏まえまして、論議と、それからきょう出された幾つかの科学の結果というのを踏まえた中で、先ほどのリスク管理の話をやっていくのは、まさに行政の方の仕事がかなりでありまして、我々は考え方、事実あるいは考え方を示すことはできるけれども、最終的な判断は専門委員会のいささか範囲外にあるかと思います。
 一番最後、「今後の課題」というところは余り検討できませんでしたけれども、今幾つか出たご意見を踏まえれば、もう少しつけ加えるところもあるかなという具合に感じております。
 以上で取りまとめをいたしましたが、よろしゅうございましょうか。
 それでは、残りの時間で次の議題を検討していただきたいと思います。資料2、第二次中間報告の骨子ということで、これは事務局の方から簡単に説明していただきたいと思います。

○水野国際対策室長 それでは、資料2に基づきまして第二次中間報告の骨子の案についてご説明をさせていただきます。次回につきましてはこれに肉づけをしたものをご議論いただければというふうに考えております。
 この骨子ですが、7章構成にしておりまして、まず「はじめに」はこれまでの経緯を説明するということでございます。
 2番目「気候変動の長期目標に関する国際動向」ということで、2.1が「気候変動枠組条約の究極目的と長期目標」ということでございます。
 1つ目のパラグラフは、条約の究極目的の内容を示しているものでございます。2番目のマルは、京都議定書が発効したという最近の状況、それからその次は、次期枠組の形成に向けて議論の気運が高まっているということ、そのために条約の究極目的の具体化、定量化に向けた努力が求められているということを示しております。
 1ページの最後のパラグラフは、これは前回の中間報告でもご指摘をいただいたことですけれども、長期目標の設定というのは、条約の究極具体化、定量化の作業でもあるということでありまして、したがいまして、既に世界が合意している目標をさらに明確化するための試みであるということであります。
 次、2ページにいっていただきまして、2.2でございます。「長期目標の設定に関する国際動向」ということで、まず1つ目は、IPCCが第三次報告書等を発表して、最新の科学的知見等を提供しているというということでございます。
 次のマルにつきましては、前回事務局からご紹介をさせていただきましたEUの動向、EUが2℃以下に抑えるという長期目標を設定し、首脳レベルあるいは環境大臣レベルでの2020年、2050年というところでの具体的な取り組みのあり方に言及しているということ。それから米国でも長期目標に関する決議案などが提出されているということを紹介をしております。
 それから2.3でございますけれども、我が国として長期目標を検討することの必要性ということで、1つ目は、これは前回もご議論いただきましたけれども、1つには科学的知見が蓄積されつつあるということ。それから国際的に長期目標の設定についての検討が進んでいるということで、日本としてもこれらの課題について検討を深めておくことが重要であるということでございます。
 それから、長期目標を設定するとすれば、概念的には5つのステージがあるということで、これは前回の中間報告の中でご指摘をいただいたことでございます。それでその中で、今回は特に「気候変動による影響」それから「気温の上昇」それから「温室効果ガスの大気中濃度」というところに焦点を当てて議論をいただいた、検討いただいたということでございます。
 次に3章が「長期目標を設定することの意義」ということでございますけれども、まず1つ目としては、先ほど最初のところでご説明をしましたように、京都議定書は重要な第一歩であるけれども、その次、第二歩目、第三歩目をどうするのかということが重要だということで、それに向けて、長期目標というのはその進むべき方向の指針という意義があるのではないかということでございます。
 続きまして3ページの一番上でございますけれども、長期目標というのは、地球規模のリスク管理という観点からも意義を有するのではないかということであります。またこれは、影響が不可避であるということが明らかになるということにつながりまして、適応策の筋道という意味でも意味があるというふうに考えられます。
 それから次のマルでございますけれども、これは気候変動対策を継続的に実施するという観点から目標を持つということが必要ではないかということで、方向が明確になるということで初めて、例えば本格的な民間投資などを呼び込むことができるのではないかということであります。
 続きまして4章が「長期目標を議論する上での前提条件」ということでございまして、これは前回と今回ご議論いただいたところのエッセンスを掲げているものでございます。議論をすすに当たっては幾つかの前提条件を整理する必要があるということで、例えば対象ガス、評価の起点、それから評価指標、それから評価の空間スケールということがあって、ここがばらばらですと議論が混乱するということで、ここでは基本的に全ガスを対象として、必要に応じて6ガスの寄与に言及、それから起点については工業化以前、それから評価指標としては気温の最大上昇幅、それから評価のスケールは全球での平均気温ということで議論を行うということを明記しております。
 それから、3ページの一番下ですけれども、閾値ということについて2つ種類があるということで、タイプ1の閾値の議論とタイプ2の閾値の議論があるということで、ここではその両方を視野に入れて議論をいただいたということであります。その後で補足でしておりますのは、タイプ1の閾値については危険な水準の判定というものについて価値判断を含む要素があるけれども、タイプ2ではそういった価値判断の差は小さいということであります。
 続きまして5章「地球温暖化による気温上昇と影響」ということで、これは世界への影響、それから日本への影響に分けて、さらにタイプ1とタイプ2に分けて、これまでご説明をいただきました資料をもとに整理をさせていただければというふうに思っております。
 続きまして、中核部分になりますけれども、「長期目標の設定」ということで、まず最初は長期目標設定の考え方であります。ここについては、科学的知見が既に蓄積されつつあるということで、これまで得られている科学的知見を踏まえると、気温上昇の抑制幅について次のように整理できるのではないかということで、4ページの一番下のマルから5ページの3つ目までのマルにつきましては、本日原沢先生からご説明をいただきましたプレゼンテーションの資料からそのまま引用をさせていただいております。
 気温上昇幅1℃であれば、一部の脆弱な生態系への影響が出てくる可能性があるということの一方で、既に0.6℃の気温上昇があるということを踏まえると、その実現というのはなかなか困難な面があるということ、気温上昇幅2℃ということに関しては、気温上昇幅が2℃、3℃になると地球規模で悪影響が顕在化するということが指摘されておりますので、2℃以下にするということであれば、その顕在化を未然防止することになる。また、2℃で急激に影響が上昇するということの研究成果もあるということで、その悪影響の大規模な拡大を効果的に防ぐという観点からも意味があるということであります。
 気温上昇幅3℃につきましては、タイプ2の閾値を超えて、海洋大循環の停止などが生じる可能性が高まるというような研究成果もご紹介をいただきました。ただし、これにつきましてはまだ研究成果が十分ではないということであります。
 以上のようなことから、気温上昇幅を2℃とする考え方が今後の検討の出発点となるのではないかということであります。
 その次の、5ページの4つ目のマルにつきましては、前回いろいろご指摘をいただいたところ、あるいは今回もご指摘をいただきましたけれども、1つには、長期目標の設定というのは科学のみで決定されるべきものではなくて、最終的には社会としての判断が必要だということで、したがいましてこの2℃を中心にしてさらに社会的な議論の進展が期待されるということであります。それからまた、この知見に関しましても、さらに影響等に関してその蓄積が必要であるということであります。
 それから次のマルにつきましては、こちらでちょっと提案をさせていただいている部分ではありますけれども、仮にまだ2℃を中心に議論するとしても、1つにはまず1℃というところでも既に一部の脆弱な生態系に対する影響が生じるおそれがあるということが指摘されているわけですから、こうした影響に対する対処の方法というものについても引き続き研究、検討する必要があるのではないかということが1つ。
 それから、逆に3℃の場合については、3℃ということで2℃より高目の温度ということもあり得るわけですけれども、その場合でも温室効果ガスの削減という意味では、早期の大幅な削減が必要だということについての認識が必要ではないかということであります。
 それから次の、5ページの最後のマルでありますけれども、これは注意事項ということで、1つは既に産業革命以降、20世紀に0.6℃の気温の上昇があるということ、それから全球での平均気温の上昇と比較して、日本を含む中高緯度地域では気温上昇幅が大きいということに留意する必要があるということであります。
 ちなみにここに関しましては、本日も特に地域ごとの差、これについて特に留意をして、さらに検討を深める必要があるというご指摘をいろいろいただきましたので、それも含めてここの部分の充実について検討させていただければというふうに思っております。
 それから6ページでございますけれども、6.2「大気中の温室効果ガス濃度及び地球規模の排出パスとの関係」ということで、ここにつきましても、この4つマルがございますけれども、基本的には原沢先生からご紹介をいただきましたもののエッセンスを要約をしておるわけでございまして、まず1つ目が、実績として温室効果ガスがどの程度上がっているかということ、それに伴って気温の上昇がどのぐらいあるかということを整理をしております。
 2番目が、550ppmに安定化させても2℃を超える確率は相当高いということで、もし2℃以下に抑えるとすれば、その550ppmを十分下回る水準に抑える必要がある。AIMモデルによる試算では475という値が出ているということであります。
 それから、排出パスに関しては、定性的に言えば早期に大幅な削減が必要だということで、AIMモデルによる試算では、ここに2010年と書いてありますが、多分2020年だと思いますが、2020年で10%、2050年で50%、2100年で75%削減することが必要とされたという試算があるということであります。もう1つは、COについてはさらに検討を進める必要があるということですが、これにつきましては特に不確実性の問題をどう取り扱うのかということについていろいろ貴重なご指摘をいただきましたので、その点、それからもう1つはコストというような面についても配慮する必要があるというようなことについてもご指摘をいただきましたので、そこも含めまして、記述の充実について検討させていただければというふうに思います。
 最後の検討課題ですが、まず1つは、これも本日ご議論をいただいたところではございますけれども、その目標の値の性格づけということにもかかわってまいりますけれども、長期目標というものはどのようなもので設定するにせよ、ある程度柔軟性を持った目標としてとらえる必要があり、今後さらなる科学的知見の充実に対応して継続的に検討を加える必要があるということが1つ。
 それから、各国がどのような役割を今後排出削減に当たって果たすべきかということについては、日本の戦略ということも大事になってくるということで、今後の検討課題ということであります。
 それから最後の点は、温度の上昇幅だけではなくて、その上昇に至る速度というものについても今後は考慮していく必要があるということであります。
 もちろん検討課題についてもいろいろご指摘をいただきましたので、ここについてもさらに充実をさせていただければというように考えております。
 簡単ですが、以上でございます。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 我々の議論をまとめていただいているわけでございますが、委員会として出すものでございますので、もう少しここを強調してほしいというところがございましたらご意見をいただきたいと思います。どうぞ、住委員。

○住委員 3ページの上から2つ目のマルのところなんですが、気候変動問題に対し将来の目指すべき方向が不透明なままでは、大規模な民間投資は期待できないと書いてあるのだけれども、これはそれでいいけれども、その前に、やはり国の、要するに公共投資のあれに対して非常に大きな影響があるので、まずそこを書いて、さらに民間投資にしないと、何となく民間の金をあてにしてこれをやるのかみたいになっちゃうから、やはりそこを書いた方がいいと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 原沢委員。

○原沢委員 1つ確認ですけれども、2ページの2つ目のマルなんですけれども、EUの話がありましてアメリカの話があるのですけれども、いろいろ資料を調べていて、EUはイギリス、ドイツ、オランダ、みんな含んでいるわけですけれども、イギリス、ドイツ、オランダの報告書に見る方針とEUの方針が温度差があるような感じで、EUと言った場合にイギリス、ドイツ、オランダなどのいろいろな国のものを踏まえた上で、上位の概念としてEUがあるとするならば、EUの長期目標をしっかりとらえた方がいいのか、あるいは国ごとの長期目標との位置づけというのがちょっとわからなくなってきたので、教えていただきたいのと、このパラグラフの中に、アメリカでは長期的な目標設定を支持するというのがあるのですが、これはアメリカで目標設定することを支持したのか、あるいはEUの2℃を支持したのか、確認させて下さい。

○西岡委員長 三村委員。

○三村委員 2点あります。3ページ目から4ページ目にかけて、タイプ1の閾値とタイプ2の閾値というような表現があるのですが、これは国際的にもそういう言葉で通用しているのかどうか。私の意見は、タイプ1とかタイプ2というのはよくわからないから、何か中身を示すような言葉に置きかえた方がいいのじゃないか。これは恐らくアメリカのスタンフォード大学のシュナイダーさんが最初に論文を書いたときにそういうように分けたからIPCCでもそう使っているのだけれども、例えばタイプ1というのは累加的な影響とか、タイプ2は破局的な影響とか、何かその中身がわかるものに、これは外に出すものでしょうから、もしまだ国際的にも定着していないのだったら、我々の方から何か定義した方がいいかなと思います。
 それから、2点目は、4ページ目から5ページ目の議論ですけれども、0.6℃の気温が上昇しているというだけじゃなくて、既に影響があらわれているということも書いた方がいいような気がします。1℃以下であっても一部の脆弱な生態系に対して影響が生じるおそれがあるというのだけれども、もうあらわれている面もあるわけですよね。だからその両方書いておいた方がいいような気がしますけれども。

○西岡委員長 ほかにございますか。

○甲斐沼委員 すみません、単語だけの話なんですけれども、さっきの話で、先ほど原沢さんにというのは、気温上昇の話で、ローカルかグローバルか、どっちか、グローバルに統一するという話じゃなくて、その前のローカルの1℃の影響のも、これは重要で、1℃でローカルで影響があらわれている、これはローカルですよということを明示した方がいいのじゃないかというのが最初の話で、この4ページ、5ページのところで気温上昇幅という言葉と全球平均気温という言葉が使われていて、5ページの一番下のところでは全球平均気温と比較して気温上昇幅が大きいという2つの言葉が使われているのですけれども、ここの気温上昇幅ですけれども、そこまでの上の幾つかのマルの気温上昇幅は全球気温上昇の2℃とか3℃だと思って、それから4ページの方の一番下のところの気温上昇幅が1℃であってもというのは、これはローカルな幅だと思うので、その辺の定義のところだけちょっと明確に。

○西岡委員長 それはなかなか難しいところですね。今のはわかりました。じゃちょっとそちらに。

○亀山委員 3点あります。
 1つは、先ほどの甲斐沼さんの話にさらにつながる話なんですが、4ページ目の一番下から始まる気温上昇幅というのが、産業革命以前からなのか1990年以降なのかとか、そういうことをちゃんと明記しないと意味が正確に伝わらないと思います。
 それから、その1つ上の5章なんですが、5.1「世界への影響」5.2「日本への影響」となっていますが、もし可能であれば、その間にアジア太平洋地域への影響というものを入れると、先ほど世界全体では旱魃なんだけれども、この地域だけ洪水が起きるのだとか、そういう話もありましたし、太平洋地域にはいっぱい島国もありますから、その島国への影響がとりわけこの地域に多いのだとか、あと中国、インドといった大国、いわゆる途上国の大国がこの地域にはございますので、多分この地域特有の影響というものを示すことができるのじゃないかと思います。
 それから、一番最後の6ページ目の、まあ6.2だけに限らないのですけれども、この報告書全体、政府の審議会の中間報告としてこういうことが許されるのかどうかわからないのですが、できるだけ図表を入れた方が視覚的にわかりやすいのじゃないかと思いまして、例えばAIMモデルでの試算の結果とか、そういうものをもし図の形で載せられるようであれば載せていただいた方が、むしろ文章だけよりもわかりやすいのじゃないかなと思いました。
 以上です。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 じゃ明日香さん。

○明日香委員 2点あります。
 1つは、長期目標の話をしているのですが、やはり短期目標も大事だと思うのですね。長期目標だけつくって短期目標がないというのは、先のことだけ考えて近い先は考えないというようなとられ方もしますので、長期目標はある程度の具体的短期目標に裏打ちされたものであるべきだというのを入れた方がいいかなと思います。いろいろ議論はあるところだと思いますけれども、ただ単純な長期目標だと、言いっ放しになってしまうという、そういう懸念からです。
 2番目は、これも多分議論があるところだと思うのですけれども、長期でも中期でも短期でもそうなんですけれども、今こういう話をすると、よくある反論というのは、国際的にはそんなに決まらない、まとまらないというような議論があるのですね。そのときに、でもそれは個人的には非常におかしなロジックだと思いまして、たとえはよくないかもしれないですけれども、例えば郵政民営化に反対している人が、郵政民営化の議論がまとまらないから反対だというのと同じようなことだと思うのですね。もし入れられるとしたら、3ページの上の3のところに、例えばこういう長期目標の必要性を日本は認識して、日本政府としては国際社会を引っ張っていくリーダーシップをとるというようなのが一言入ると、多分国際社会から見て日本のポジションがはっきりわかるでしょうし、いろんな意味で、そういうまとまらないというのじゃなくて、まとめるというような意気込みを見せることが重要なんじゃないかなと思います。多分議論があるとは思いますが。

○西岡委員長 ほかにございますか。よろしゅうございますか。はい、どうぞ。

○甲斐沼委員 最後のページの6ページの、6.2の最後なんですけれども、こうした必要となるCOの排出パスについて今後さらに深めると。その前のところは6ガスというか、全ガスについてあったのですけれども、日本の場合はCOがほとんどなんで、これは日本の戦略というか、日本の中でどう考えるというのはCOなんでしょうけれども、国際戦略というか、よその国も考えるのであれば、何か日本の戦略というか、日本の削減をどうやっていくかということでCO削減パスだけが取り上げられているのか、ちょっとその辺、気になるところです。

○西岡委員長 わかりました。
 いいですか、何かあったらどうぞ。

○工藤委員 この中身についての議論は次回に詳細にやるという前提でよろしいですか。

○西岡委員長 今のところは差し当たって要望をやっていただきまして。

○工藤委員 かなりヒートアップしているようで、1点だけ、全体を通して、例えばこの2℃なら2℃の解釈で、原沢先生も、既に0.6上がった上で、それを含めた2℃なのか何なのか、言葉の定義的なところはちょっとクリアにしておいた方がいいなと感じるところと、あと、書かれるときに1ページ目の長期目標設定云々の枠組条約のところと、2ページ目のところの長期目標が枠組条約とどういう関係になっているものを今意図しているのかとかいう、米国なりヨーロッパなりのポジションも含めて、この辺、世界が合意している目標の延長線上で云々ということと、さきほどの明日香さんがおっしゃった短期目標云々という話で、どう整合化しているのかというのがちょっと、いろいろな意味で議論があるところだと思うので、その辺は若干整理をするときに留意していただければと思いました。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 それでは、今幾つか出ましたけれども、これはまず当然やるべきだというのが幾つかあったし、それから我々の議論から飛び出すようなところもちょっとあったかなと思いますので、それは十分文章を書くときに反映させていただきたいと思います。
 何か今の時点ですぐに答えられることがもしありましたら。

○水野国際対策室長 基本的にはできるだけ今いただきましたご指摘を考慮して次回の肉づけをしたものを用意をさせていただきたいと思っておりますが、若干のところだけ回答といいますか、コメントをさせていただきたいと思います。
 まず、原先生からいただきましたEUの中で若干矛盾があるのではないかというようなお話があったかと思いますが、これにつきましてはもう少し中でも調べてみたいと思いますが、基本的には今回の首脳レベルでの結論あるいは環境大臣レベルでの結論というものは、文字通り首脳レベル、大臣レベルということで、各国の代表が、首脳レベルが集まって合意をしたということですから、これ自体にはもちろん全体が了解をしているというふうに理解をしていいものだと思います。その中で恐らくは一部の国はさらに強めのコミットメントをしているということはあると思いますけれども、そういった理解でいいかと思います。
 それから、アメリカの部分につきましては、これは前回ご紹介させていただきましたが、アメリカが支持すると言ったということじゃなくて、支持するべきだという決議案が出ているということにすぎません。この支持するべきだという決議案の中身ですが、これについては前回紹介をさせていただきましたが、例えば2℃以上に上昇することを防ぐための長期的な目標設定を支持するというようなことが入っております。
 それから、三村先生からご指摘をいただきましたタイプ1とタイプ2がどれぐらいなじんでいるかというのは、これはむしろ原沢先生にお伺いした方がいいかとも思いますけれども、いずれにしてもその中身がはっきり対外的に誤解のないように、わかるようにしていきたいと思います。
 それから、当然入れるべきところについては1つひとつ回答せずに、次回のときに記述を充実させていただければと思いますけれども、5の影響の部分につきまして亀山先生からご指摘をいただきましたアジア・太平洋地域への影響という部分につきましては、これは情報があればそういったものもぜひ入れ込んでいきたいというふうに思っております。
 それから、甲斐沼先生からご指摘をいただきました全球の記述と、それから気温上昇幅といったときに全球なのか地域なのかということなんですが、基本的には最初の前提条件のところで書いてありますように、全球の気温上昇幅ということで、基本上昇幅といったときにはそれを意味するように使っているつもりではありましたけれども、その地域的な基本上昇幅と誤解があるような表現があるのであれば、それをさらに工夫をして、誤解のないように努力をしたいと思います。
 それから、短期目標と長期目標の関係につきまして明日香先生からもご指摘をいただきましたけれども、今回短期目標そのものについて直接ご議論いただいたわけではございませんので、それにつきまして特に書き込むということは予定はしておりませんけれども、ただ今回の議論が短期目標についての何らかのメッセージ、例えば短期目標をしなくていいような、というようなことを意味しているものではないということは、誤解がないようにということだけは気をつける記述については検討したいと思います。ですから基本的には今回はその長期目標というところに焦点を当てて整理をさせていただいて、誤解のないようなところだけを指摘をするということにとどめさせていただければというふうに思っております。
 以上でございます。

○西岡委員長 まだ全部どうするという話は、結局書かれたもので判断したいと思います。次回の委員会のことについてちょっとお話いただけますか。

○水野国際対策室長 次回は、今度5月12日の午前中にまた第3回目ということで、これは当面の、当面といいますか、この第二次中間報告のまとめに当たっての最終回ということにさせていただきたいと思います。そのときには、今回の骨子に肉づけをしたものをお示しをしてご議論いただくわけですけれども、連休も入っているので時間的に限られてはおりますけれども、できれば事前にお送りをして、事前にコメントをいただければというふうに考えております。
 それで、その結果を踏まえて次回5月12日に議論をいただいて、第二次中間報告についてはまとめていただければというふうに考えております。今後につきましてはまたご相談の上で検討させていただければと思います。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 大体の筋とか考え方についても相当きょうの間に議論いただいたと思いますので、次回は割と、と思っております。
 ほかに何かございませんか。よろしゅうございますか。
 それでは、どうもありがとうございました。本日第9回の検討会を終わります。

午後0時32分閉会