中央環境審議会地球環境部会第4回気候変動に関する国際戦略専門委員会議事録
開催日時
平成16年9月3日(金)9:59~13:05
開催場所
環境省 第一会議室
出席委員
(委員長) | 西岡 秀三 | ||
(委員) | 明日香 壽川 | 甲斐沼 美紀子 | |
亀山 康子 | 住 明正 | ||
高村 ゆかり | 新澤 秀則 | ||
原沢 英夫 | 松橋 隆治 | ||
三村 信男 |
議題
1. | 「これまでの議論の整理」について | |
2. | 「将来枠組みの構築にあたっての視点」について | |
3. | 「将来枠組みの設計におけるリスク管理の考え方」について | |
4. | 「将来枠組みにおける衡平性の扱い」について | |
5. | 「途上国・ロシア中東欧諸国の将来枠組みにおける役割」について | |
6. | 「その他」 |
配布資料
資料1 | 気候変動問題に関する国際的な戦略について(これまでの審議経過のまとめ) |
資料2 | 将来枠組みの構築にあたっての視点 |
資料3 | 将来枠組みの設計におけるリスク管理の考え方 |
資料4 | 将来枠組みにおける衡平性の扱い |
資料5 | 途上国・ロシア西東欧諸国の将来枠組みにおける役割 |
議事録
午前 9時59分開会
○水野国際対策室長 若干、定刻前でございますが、委員の先生方におかれましては、松橋先生を除いて全員お集まりいただいておりまして、松橋先生は若干遅れるというご連絡をいただいておりますので、会議を始めさせていただきたいと思います。
ただいまから、気候変動に関する国際戦略専門委員会第4回会合を開催したいと思います。
それでは、議事進行を西岡議長、よろしくお願いいたします。
○西岡委員長 本日、 お手元にいっております「議事次第」のとおり6つの議題があります。それぞれの議題をどういうぐあいに論議していくかということにつきまして、後ほど事務局から説明していただきたいと思っております。
先にお断りしなければいけないのは、私事でございますが、都合がございまして11時半に中座させていただくことになっております。その後、隣に座っておられる三村委員に議長をお願いしたいと思っております。
よろしゅうございましょうか。
どうもありがとうございます。それでは、そうさせていただきます。
まず最初に、資料の確認を事務局からお願いいたします。
○瀧口室長補佐 資料の確認をさせていただきます。
まず最初に「議事次第」「資料一覧」の1枚紙がございまして、座席表を配布させていただいております。それから、資料1が「気候変動に関する国際的な戦略について」(これまでの審議のまとめ)という資料でございます。資料2が「将来枠組みの構築にあたっての視点」というA4縦の資料でございます。資料3が「将来枠組みの設計におけるリスク管理の考え方」ということで、高村委員にご提出いただいた資料でございます。資料4が「将来枠組みにおける衡平性の扱い」ということで、亀山委員にご提出いただいた資料でございます。資料5が「途上国・ロシア中東欧諸国の将来枠組みにおける役割」ということで、明日香委員にご提出いただいた資料でございます。
それから、委員の先生方には、前回第3回の専門委員会の議事録を配布させていただいております。そのほかの方におきましても、環境省のホームページで議事録は入手できますので、ご参照いただければと思います。
それから、次回、第5回の委員会は10月5日を予定させていただいておりますが、場所等につきましては、後日ご連絡させていただきたいと思います。
その次、第6回の委員会は10月下旬から11月上旬を予定しております。いつもどおり委員の先生のお手元にご予定を伺う紙をお配りしておりますので、お帰りになる前にご記入いただいてテーブルに置いていただければと思います。
資料の不足等ありましたら、事務局までお申しつけください。よろしくお願いいたします。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
資料の件につきまして何かありましたら、事務局にお申し出いただきたいと思います。
それでは、きょうの議事の説明につきまして、水野室長、ご説明ください。
○水野国際対策室長 それでは、本日の議題につきまして、簡単に説明させていただきます。
「議事次第」をごらんいただきますと、本日は議題が6つ、実質的には5つございます。まず初めが「これまでの議論の整理」について、2番目が「将来枠組みの構築にあたっての視点」について、3番目が「将来枠組みの設計におけるリスク管理の考え方」について、4番目が「将来枠組みにおける衡平性の扱い」について、5番目が「途上国・ロシア中東欧諸国の将来枠組みにおける役割」について、その他でございます。
このうち、1つ目と2つ目につきましては事務局から説明させていただきたいと思っております。それから、3番目につきましては高村委員、4番目につきましては亀山委員、5番目につきましては明日香委員からご説明をいただきまして、それぞれの議題ごとに議論をいただければと思っております。
簡単ですが、以上でございます。
○西岡委員長 どうもありがとうございます。
議事の進行について何かご意見ございましょうか。
それでは、今の説明にあったように進めさせていただきたいと思います。
それでは、お手元の資料1、第1の議題、これまでの議論の整理についてということで、事務局からご説明いただきます。
○水野国際対策室長 それでは、資料1に基づきまして、内容を簡単に説明させていただきたいと思います。資料1は、これまでの審議の経過を、ちょうど区切りがいいということもございまして、事務局でまとめさせていただいたものでございまして、今までの会議で示していただいた資料あるいはご意見等をこちらで整理し直したものでございます。
最初に目次がございますが、内容としては6つに分類して整理をさせていただいております。最初に「要約」と「はじめに」がついております。ページをめくっていただきまして、5ページまでが「要約」でございますので、6ページから始まります。
まず、「はじめに」でございます。最初のところでは、ことしの1月に地球環境部会でとりまとめていただきました中間とりまとめの7つのポイントを、この専門委員会のきょうの前提ということで再掲させていただいております。
7ページからが専門委員会設置の経緯と検討の進め方でございまして、9ページをごらんいただきますと、何回かごらんいただいた図でございますけれども、これまでの検討のプロセス、あるいは、今後の検討プロセスを図示したものでございまして、これまでの3回のご議論で、上の大きな枠で囲みました地球規模のシステムにつきまして一通りご議論いただいたということで、今回、専門委員会における今後の審議の進行管理に資するために、これまでの審議の経過を事務局でとりまとめさせていただいたという位置づけの資料でございます。
10ページからが本題でございまして、本題の見出しの下にそれぞれの項目のポイントを強調して枠組みで説明しておりますので、そこをかいつまんで説明させていただきたいと思っております。
10ページの(1)は気候変動問題に取り組むためのゴールということで、条約の究極目的を確認しておりまして、10ページの下の(2)から目標を具体化するにあたっての考慮すべき科学的知見について整理をしております。まず最初は、濃度の安定化にかかわるところでございまして、現時点では温室効果ガスの排出量が吸収量を大幅に上回っていて、温室効果ガスが浄書しているという整理をさせていただいております。
それを11ページから13ページまでにわたって図で示しております。11ページでは炭素収支の図を用いて、大気中に放出される炭素の量が吸収量よりはるかに多いということ。12ページでは濃度安定化のためには排出量の削減が必要であるということ。また、12ページの下の図では将来の排出量がさらに伸びると予測されていること。13ページの図では陸域の吸収源と呼んでいるものが将来的にはむしろ排出源になる可能性すらあるということを整理しております。
14ページからは濃度安定化のレベルということで、濃度安定化のレベルに対応してさまざまな排出経路を描くことができるということが事実としてありますが、いずれのレベルで安定化を目指すにせよ、排出量の削減と濃度安定までの期間、それから、濃度安定から気候の安定までの期間にずれが生じると。すなわちタイムラグがあるということを整理しておりまして、それが15ページの下の図にございます。
16ページからが気候変動による影響についての科学的知見ということで、簡単に申しますと、これまで地球温暖化が既に観測されているということと、さまざまな影響が既にあらわれているということ、それから、将来においても多様な悪影響が懸念されるということ、等々を整理しております。
17ページ、18ページは、過去、現在及び将来の具体的な影響の内容を整理しておりまして、19ページは温度上昇の幅とリスクの関係ということで、特に100年の間に2℃以上上昇すると悪影響が卓越してくるということを整理しております。
20ページの上の図は気温の上昇速度の重要性を強調した図でございまして、影響の発現と温度上昇の速度に関係があるということと、速度に関して言えば過去と比較して、現在及び将来予測される温度の上昇速度が急激なものであるということを整理しております。20ページの下では異常気象と気候変動の関係の懸念されているということ、さらに21ページでは破局的事象の懸念すらあるということを整理させていただいております。
22ページからは第2節でございます。ここでは、条約の究極目的を達成するために、世界全体としてどのようなアプローチを採用すべきか、あるいは、考慮すべき課題や前提条件は何かということについて、審議の経過をまとめさせていただいております。
まず最初は、考慮事項ということで、期間の問題について22ページ、23ページで整理しております。先ほど申しましたように、タイムラグがあるということを考慮に入れつつ、究極目的の達成を目指す必要があるという整理をさせていただいております。23ページの真ん中以降には、どのようなレベルでの濃度安定化をするにせよ、気候変動による影響は避けられないということで、後で出てきますが、適応策の必要性というところにつながる議論を整理させていただいております。
24ページからが衡平性の問題でございまして、これにつきましては、排出削減をすべき国と影響を受ける国との間の衡平性、それから、現在世代と将来世代との間の衡平性の問題の2つに分けて整理をしております。
まず最初に、排出国と影響国との間の衡平性ということで、25ページから27ページにかけては、前回ご紹介させていただいた図表を列挙させていただいておりますが、26ページにありますように、上位40カ国で84%ぐらいの排出量を占めるのに対して、影響を受けやすい国はほとんど排出をしていないに等しいほどの貢献しかしていないということが27ページの表で明らかでございます。ただし、25ページの下の○にございますように、そうは言っても地球規模での相互依存関係が進行しているので、例えば日本の場合には食糧自給率が低いということもあって、食糧安全保障といった観点からも、気候の問題は重要だという点を補足しております。
28ページの上は先ほど申しました世代間の衡平性の問題でございます。28ページの中段からが、地球規模でのリスク管理の必要性ということで、気候変動問題は地球規模でのリスク管理を求められているということと、不確実性に関して言えば、科学的な側面ではなお残されているとは言え、気候変動が進行しつつあり、今後ともさらに進行していくこと、さらに速やかに大幅な排出削減対策を講じなければ将来大きな悪影響を生じるおそれがあることなどについては、ほとんど疑問の余地はないという整理をしております。
それから、不確実性に関連して、29ページでは、目標をどのような段階で設定するにせよ、それぞれ異なったタイプの不確実性が伴ってくるということ、また、どのようなステージで目標を設定するかということに応じて時間的ずれも生じてくるということを整理しております。
さらに30ページでは、科学的な不確実性と人類の選択による不確実性というものを分けて考える必要があって、特に将来予測に関して言えば、後者の影響が重要であるということを整理しております。
31ページからは、遅くとも2050年以前に排出量を減少基調にする世界システムの構築ということで、時間間隔について整理しております。
32ページの上の表をごらんいただきたいと思いますが、安定化濃度をどのようなものを目指すにせよ、一番下の1000ppmを除き、遅くとも2050年以前には排出量のピークを持ってこなければいけないということ。特に、例えば550ppmで言えば2020年とか2030年というタイムスパンで物事を考えなければいけないということを示しております。それから、下の図は、濃度が安定化してもなお排出量はどんどん下げていかなければいけないということを整理しております。
33ページの上にいきますと、そういったことで今後10年から20年間がとりわけ重要であるということを整理しております。
33ページの(5)では、緩和策と適応策の二つの対策ということで、まず気候変動対策の基本は緩和策であるということを踏まえた上で、そうは言っても緩和策だけでは影響を完全になくすことはできないということがありますので、適応策も重要であるということを整理しております。
36ページからが、目標の設定に関して、長期、中期、短期、それぞれの期間を区別した目標の設定が可能だし、また意味もあるということを整理しておりまして、ここで言う短期は2020年ぐらいまで、中期というのが2030年から50年ぐらいまで、長期的な目標が2100年以降ということで、それぞれ異なった役割と意味があるということを整理しております。
そのことを具体的に書いておりますのが、36ページ、37ページでございます。例えば長期目標というのは条約の究極目標の具体化でありますし、中期目標というのは長期的な目標の達成に向けたマイルストーンと位置づけられるということでございます。ただし、先ほど整理させていただきましたように不確実性が残っているという面もございますので、37ページの下にございますように、長期・中期目標の設定に関しては柔軟性を考慮する必要があるということを整理させていただいております。
38ページは、欧州諸国における長期目標・中期目標の設定例ということで、この表にございますとおり、ドイツ、イギリス等でも2050年までに例えば45%から60%程度の削減を目指すという大胆な目標設定をしているということを提示させていただいております。
39ページからは、社会経済の発展シナリオと気候変動対策ということで、前回、甲斐沼先生からご発表いただいた部分でございますけれども、IPCCにおけるシナリオ分析の議論の整理をさせていただいたところでございます。シナリオというものは幾通りも考えることができて、それぞれに応じて排出経路や排出量が大きく異なるので、将来対応不可能な事態を招くことを避けるためには、種々の温暖化対策にとどまらない社会構造全体の改革が早いうちから必要になるということを強調させていただいております。
それが41ページの図からわかるものでございまして、41ページの図の下のところでは、今後の研究の課題といたしましては、各地域の多様性のある発展システムを前提にした検討が必要になってくるだろうということを整理させていただいております。
続きまして、43ページからは技術の問題でございます。まず、CO2の排出量が43ページの下の式にございますように、活動量、エネルギー効率、炭素集約度の3つの要素に分けて考えることができて、技術に関して言えば後ろ2つが特に重要なわけでございますけれども、この2つで考えますと、特に炭素集約度については歴史的実績を上回るスピードが必要だということで、技術の向上が重要な意味を持っているということを整理しております。
44ページは多様な技術の開発が期待されているということを整理させいただいております。
45ページの上の部分は、革新的技術の開発という部分について、それが確実にできる保証はないということで、不確実性を伴っていることを強調しております。その下の(2)は、特に普及ということを考えたときには、とりわけ世界レベルでの普及ということを考えたときには、数十年レベルでの時間を要する可能性が小さくないということを、過去の実績を踏まえながら整理させていただいております。
その例として、47ページには石炭ガス化複合発電技術が基礎研究の開発の段階から商業化までにどのぐらいの時間がかかったかということを掲げさせていただいております。47ページの下の(3)では、技術開発・普及を促進する上での制度のあり方と政府の役割について整理させていただいております。まず、制度といたしましては、需要を刺激するということと、供給を支援するということがあり得るということで、そのいずれも大事だということ。それから、政府の役割ということでは、特にインフラの整備にかかわるものが多いということと、初期投資にはリスクを伴う場合があるということで、こういった場合には政府の適切な関与が重要であるということを整理させていただいております。
49ページからは、将来の技術の役割に関連して大きく2つの議論があるということで、1つは早い段階から既存技術を利用して着実に削減していこうというアプローチ、もう1つは当初は革新的な技術の開発に資源を集中的に投入して、その開発が十分に行われた段階で急激に削減するという2つのアプローチがあるということで、しばしば比較されているということを紹介させていただいておりまして、どちらをとるべきかということについては、先ほど申し上げましたような不確実性とか普及の問題等々も考えながら考慮していく必要があるということを整理させていただいております。
50ページの下にありますのは、特にこの問題は、先ほど申しましたように、普及ということを世界規模で考えなければいけないということ、それから、削減のピークを、先ほど申しましたように、遅くとも2050年までに持ってくるというのは、日本だけの話ではなくて、中国とかインドといった途上国も含めてそうしなければいけないということを念頭に置いて、時間的な感覚をつくっていく必要があるということを整理させていただいております。
52ページからは今後の議論につながる部分ということでございまして、脱温暖化社会の形成に向けてのさらなる検討の視点ということで、ここでは大括りな方針だけが整理されておりますけれども、気候変動問題というのは人類が今後100年以上の間否応なしに取り組まざるを得ない問題であるということがありますので、この問題を前向きにとらえて、価値観をポジティブにしてとらえていく必要があるということ、それから、戦略をしっかり持って対策の戦略づくりに取り組んでいく必要があるというような点を整理させていただいております。
以上がこの資料の概要でございまして、これをもとに、先ほど9ページの図で説明させていただきましたように、今後の議論ということで、将来の、次期の枠組み制度の構築という議論に移行していただければと思っております。
以上でございます。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
次期の長期の国際的な戦略をどうやっていくかにつきましては、発効すればすぐに議論が始まるわけでございますが、もう既にあちこちで議論が始まっております。その中で非常に大切なのは、全体の長期にわたる温暖化問題の本質を十分に把握しておくことが必要であるかということかと思います。それにつきましては、この委員会でも半分ぐらい終わったあたりで非常にいいまとめになっているのではないかと思います。共通認識を持つということが非常に大切で、そういう面では確実に取り組めたのではないかと、いいまとめをどうもありがとうございました。
今の説明にありましたように、このまとめ自身は既に我々が議論したものをまとめたものでございまして、きょう議論するということではございません。既に皆さんからのチェックもいただいていると思いますけれども、さらにまだチェックが必要でありましたら、事務局に提出していただきたいと思っております。よろしゅうございますか。
それでは、そういうお願いをいたしまして、何かこの説明について。
○前橋委員 外部には公開するんですか。
○西岡委員長 本委員会の資料は全部公開になっておりまして、これ自身も公開ということになります。
ほかにございましょうか。
ないようでしたら、2番目の議題に移りたいと思います。2番目の議題は、将来の枠組みの構築にあたっての視点ということで、事務局からご説明いただきます。
○瀧口室長補佐 それでは、資料2を用いまして、将来枠組みの構築にあたっての視点ということをご説明させていただきたいと思います。
ただいまの事務局からの説明にありましたように、資料1でこれまでの審議の経過をとりまとめさせていただきまして、今後この将来枠組み、制度を構築していくにあたって、そこからどういう点を読み取って構築していけばいいのかというところを整理してみましたので、説明させていただきます。
温室効果ガス濃度の安定化レベルということで言いますと、さまざまな水準が考えられるわけですが、仮に産業革命前の約2倍として、CO2濃度を550ppmに安定化させる場合に、実際にどういう排出経路をとることが必要で、先進国や途上国がそれぞれどの程度の削減を求められるかということにつきまして、定量的な分析を試みてみました。これによりまして、炭素制約社会というのがどういうことを意味しているのかということを考察できればということでございます。
計算は以下の前提に基づいておりまして、こういう計算に基づいた、どちらかというと大体の相場観をつかむための分析でございます。まず、IPCCの第三次評価報告書に記載されたWRE550ppmプロフィールを参考にしております。
このプロフィールはCO2排出量として化石燃料の燃焼による分と土地利用変化によるものの双方を考慮しているわけですが、ここでは化石燃料の燃焼分のみを考慮することといたしまして、土地利用変化によるCO2排出量(1980年代の平均値では約17億炭素トン)を差し引いた値を用いております。
それから、厳密に計算するには炭素循環のフィードバック効果など、自然吸収量の変化も考慮する必要があるわけですが、ここでは計算の簡素化のためにしておりません。
それから、先進国、途上国の区分は現在の区分を用いておりまして、例えば2100年においても現在の区分があてはまると言いますと、必ずしもそうではないと考えられますので、ここは現在の区分を用いた計算というふうにご理解いただければと思います。
この550ppm安定化を達成するためには、どれぐらいの排出量にすべきかという観点から、先進国、途上国それぞれの排出量の年増加率を設定しております。ですから、ここは仮置きの数字でありまして、モデルの結果等を参照した値ではございません。
その結果が2ページ目にございます。WRE550ppmプロフィールというのは図-1の550ppmのところのカーブで示されたものでございまして、これを見ますと、2030年ぐらいにピーク、11ぐらいの値のところにきていますが、これは約110億炭素換算トンを意味しております。そこから2300年にわたって継続して減らしていくというプロフィールになっております。この分は土地利用の変化による分も含んでおりますから、化石燃料分だけで言いますと、約93億トンぐらいになるという計算になります。
表-1は、先進国からの排出量、途上国からの排出量、その合計ということで、簡単な計算をしてみました。1990年と2000年の値は実績でございます。2000年時点で世界全体で化石燃料燃焼分で約64億炭素トン出ているわけでして、今後どういう道筋をたどっていくかということですが、2010年につきましては、先進国の排出量は、京都議定書の1990年から約5%削減というのがございますので、それに基づいた増加率を置いておりまして、途上国の排出量は、現在の推移を見込んだ排出量の年増加率を置いております。
2010年以降は550ppm安定化シナリオに一致するためにはどういう年増加率にすることが必要かという観点から、先進国、途上国の年増加率を設定しております。例えば2010年から2020年において先進国からの排出量が年増加率-0.5%となっていますが、10年間で約5%減らすという仮定を置いております。途上国の場合は排出の伸びを鈍化させるということで、この数字は先進国は継続して排出削減をしていく、途上国も2030年ぐらいまでにその伸びを抑えて、それ以降削減していく。こういう仮定を置きますと、数字にもよりますが、安定化シナリオと大体近い数字になるというものです。
これを図示したものが3ページ目でございます。上の図-2は甲斐沼委員が中心になって算定されましたCO2排出量の今後の見通しで、これで言いますと2100年には20というところで近い数字になっていますが、世界全体で約200億トン出る見通しになっています。
例えば550ppm安定化を達成するということですと、図-3、先ほどの表を図示したものでございまして、2100年で50億トンを下回るレベルにしないといけないという図になるわけです。
4ページ目にまいりまして、イギリスでも同様の分析をしておりまして、英国のエネルギー白書においては、CO2濃度を550ppmに安定化させるためには、先進国がCO2排出量を2050年までに現在のレベルより60%削減することが必要だということを打ち出しております。
この計算の過程において、途上国が排出削減を実施する時期を計算しておりまして、表-2にありますように、先進国の排出量を2050年までに40%、60%、80%と、2000年比でそれぞれ削減した場合、自然吸収量の差にもよりますが、途上国がいつの時点から排出削減をしなければいけないかということを分析しております。
途上国の排出増加が急激な場合は、先進国の排出削減のいずれの数字とも関係なくなってきまして、自然吸収量が大きい場合でも2030年、小さめな数字の場合は2010年という割と近い時期から削減を始めないといけないという計算をしているようです。排出増加が緩やかな場合、これも自然吸収量によるわけですが、2100年という数字が出ていますけれども、イギリスの報告書では現在の伸びを見ると途上国の排出増加が緩やかな場合というのは考えにくくて、急激な場合を想定することが現実的であるという注釈をつけております。
5ページ目にまいりまして、2100年までのCO2排出量の見通しと化石燃料の埋蔵量との比較を試みました。先ほどの550ppm安定化を図るための世界全体の排出量の計算では、2000年から2100年までの累積排出量が約7,330億炭素トンという計算になります。これと現在の化石燃料の埋蔵量及び資源量をIPCCのデータを用いて比較してみますと、従来型の化石燃料の埋蔵量だけでも1兆2,940億炭素トンに上るものですから、特に石炭が豊富に埋蔵されているということで、21世紀中には化石燃料の枯渇という面からは、炭素排出量が制限されないということが言えるかと思います。
一方、石油や天然ガスの従来型の埋蔵量、資源量は、7,330億炭素トンという数字と比べてもかなり少ないものですから、今後、エネルギーの供給を見通した場合、石炭に頼るのは炭素制約社会と相反する部分がございますから、再生可能エネルギーなどの利用拡大の必要性を示しているということが言えるのではないかと思います。
最後、6ページは、これからどういったことが読み取れるかということで、550ppm安定化のケースでかなりばくっとした計算をしてみたわけですが、2010年以降、先進国はさらに削減を進めて、途上国はその伸びを鈍化させ、2030年ごろから削減傾向に持っていく必要があるという計算結果が得られました。これはこの専門委員会でもご議論いただいたことですが、今後の10年、20年でどのような世界システムを構築していくかということが極めて重要になるかなと思います。
特に、炭素制約社会において、いかに経済成長がエネルギー供給の伸びとCO2排出量を分離するか、いわゆるリカップリングと呼ばれているものですが、この課題。それから、これに関連してCO2を排出しない再生可能エネルギーなどの利用をいかに拡大していくかということが、重要な課題になるかと思います。
それから、世界全体を見ますと、地域や国により発展の度合いや方向、スピードは大きく異なるわけで、先進国や途上国という従来の区分だけではなく、経済が急速に成長していく国と成熟段階にある国、資源が豊富にある国とそうでない国というように、地域や国の置かれた状況は多様でございますから、こういう違いも包含しながら世界全体で排出量を削減していく仕組みを構築することが求められているのかなと思っております。
以上でございます。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
前にまとめがありますが、それをさらにまとめていただいて、しかも、そのエッセンスのプラスアルファということでご説明いただいたわけであります。
今の内容を見ますと、2050年で相当な量を減らさないといけないということですね。従来の経済成長をそのまま伸ばしていくようなことは必ずしもできないような状況。それから、経済成長とカップリングするものではございませんけれども、相当の努力が要るなというのが、今のまとめから想定できるわけであります。
特に一番最後のところで、先進国も努力しなければいけないと同時に、どうやって途上国をそのメカニズムの中に入れていくのか、いわゆるグローバルパーティシペーションということも非常に重要になってきましたし、さらに技術をどうエンハンスすべきかということが大きな問題になってきると思われます。
今のまとめにつきまして、何かご意見、コメントはございますか。
○甲斐沼委員 先ほど引用していただいた3ページの表ですが、最初の説明で表-1と図-3に対しては、WREプロフィールに従っているというご説明でしたが、3ページの表はB2シナリオに基づいて分類したものであります。
先ほどの資料1の41ページに気候安定化のための対策の必要量という図-4.1がありまして、一番右下の地域共存型社会(B2)というシナリオのうちの対策なしシナリオという、ちょっと濃い灰色のところの1つ、かなり上側になっております。2100年で20億トンに近いところです。その下の対策シナリオ、550という数字が消えていますが、類推していただくとわかるかと思います。ここの計算自体はIPCCから提供されています簡易モデルを使って計算したもので、海洋の炭素吸収量の変化などは考慮されています。
図-3は今回簡易的に計算された結果ですけれども、かなり近い結果が得られています。図-3と、資料1の41ページの右下にある、ちょっと線が薄いですが、550の線は、2100年の数値も大体同じ値になっています。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
今のお話は、どういう道筋で減らしていくかと、いろんな道筋があるわけでございますけれども、その一例ということで、その出典がB2を例にとったということだと思います。
はい、どうぞ。
○三村委員 5ページの化石燃料の埋蔵量との比較ですが、550ppmの安定化シナリオと比べて、従来の埋蔵量でも十分間に合っているという話だと思うんですけれども、論点が2つぐらいあるかなと思うんですね。
例えば3ページの上の対策がない場合の排出量の見通し、つまり全然対策を打たないでいろんな国がそれぞれ経済発展を追求していっても埋蔵されているものは大丈夫なのかどうか。つまり、何も対策を打たないと資源制約の方から何とかしなければいけないというような要請が出てくる時期はあり得るのではないかという話が1つ。
それから、対策を打ったらば埋蔵されている化石燃料などの寿命が延びると。そういう資源を使っていくという意味でも対策を打つことがかなり有利に働く面があるとか、2つ面があるような気がするんです。そういう意味では、5ページの文章の中に対策を全然打たなかったときには資源制約になるかならないかというような情報が加わると、少し整理がされるかなと思うんです。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
はい、どうぞ。
○瀧口室長補佐 今の三村先生のお話に関連いたしまして。先ほど甲斐沼委員から言及のありました資料1の41ページの図-4.1を見ていただきたいと思います。図-4.1の左上の化石燃料の依存型の高成長社会は対策なしのCO2排出量が一番増えるケースを見ますと、2100年で約400億トンに近い排出量になるわけですが、この場合よりもさらに石炭の埋蔵量は上回っております。ですから、2100年ぐらいまで見たところだと化石燃料からの制約はかからないようです。
○西岡委員長 ほかにございますか。
原沢委員。
○原沢委員 1点、確認なんですけれども、資料2の1枚目で自然吸収量は考えてないということで、4ページではイギリスの例があって、ここでは自然吸収量がということで、20億トン、10億トンと考えていると。ドイツもあまり吸収量に依存しない方がいいだろうというような話があったりするんですけれども、基本的なスタンスとして自然吸収量の考え方をご説明いただきたいと思います。
○瀧口室長補佐 厳密に計算しようといたしますと、自然吸収量を幾らに見込むかというのが必要になるかと思いますが、ここでは相場観をつかむことを目的としておりまして、ここでは自然吸収量というのは勘案していないんです。実際にもう少し精緻な計算ということになれば考慮する必要があると思います。そうすると、もう少し複雑なモデル計算になるかと思いますので、そこのところは先生のご意見も伺いながら進めていきたいと思っております。特に自然吸収量をどういうふうに考えるのかというのは今後の課題と思っております。
○原沢委員 自然吸収量は外して考えるということではなくて、ある程度しっかりした数字が出てくれば、それも考慮して考えていくという方針ですね。
○西岡委員長 自然の吸収量につきましては、まとめの13ページに一つの例があります。人間が出しているのが6あるいは7GtCという中で、この吸収量が現在のところ3GtC。それが人間の出している分のどこまでいくのか。吸収が5になるか7になるかということは大きな問題ですけれども、相場としてはそんなに増えそうもないなということなんだと私は理解しております。
どんなに頑張っても5はいかないだろうし、それが2100年の成り行き排出量20に比べますと非常に小さな数字である。それをどこまで頼りにできるかというと、そんなに頼りにはできないのではないかなと思っています。
ほかに何かございましょうか。
よろしゅうございますか。
それでは、今のお話は特に今後の論議のひとつの方向づけであったかと思います。
次の議題に入りますが、先ほどの9ページの絵で見まして、大きな前提について我々はお話しましたものですから、次のステップといたしましては、これを国際交渉の中でどういうスタンスで考えていくべきかという話に移っていくということでございます。
そういう意味で、きょうは3つ議題がございまして、1つは将来枠組みの設計におけるリスク管理の考え方ということで、最初に高村先生からお話をいただきたいと思っております。
どうぞお願いいたします。
○高村委員 龍谷大学の高村でございます。ただ今、西岡委員長からありましたように、これまでの委員会の中でご報告、それから議論をいただいて、気候変動とその悪影響についての科学的知見はいかなる状態であるのかということは明確になっているかと思います。今回の私からのご報告は、その科学的知見と将来の枠組みの設計を含めた「政策」とをつなげる際の一つの視角を提起させていただきたいと考えております。
内容は大きく3つです。気候変動とリスク管理の問題、そして、国際社会と我が国がどういう考え方でこうしたリスクに対応していこうとしているのか、最後に、将来枠組み設計への示唆であります。
今日冒頭で水野さんからもご紹介されておりますので、時間をかけませんけれども、これまでの科学的知見についてもう一度ここで確認をしております。IPCCによってロブストな予測の結果が出てきております。少なくとも気候モデルを用いた20世紀の気温変化の再現からは、温室効果ガスの排出の増加という要因を入れないと、この数十年間の気候変動の説明はつかない。さらに、大気中の温室効果ガスの濃度の上昇は、その予測に一定の幅はあるものの、気温上昇をもたらす。そして、悪影響は深刻または回復不可能なものであるおそれがあり、特にその影響は社会的弱者、国際社会の枠組みでいきますと、発展途上国に対して大きな影響を与えるだろうということであります。
そういう意味では、現状のままでは深刻または回復不可能な損害を生じさせるおそれがあり、早期かつ大幅な排出削減が世界的に求められています。これはIPCCからのメッセージでもありますし、同時にそれはIPCCからのメッセージとしてCOP8の際に、デリー宣言の中でも政治的に確認されている事項でもあります。
他方で、こうしたロブストな知見について、予測に一定の不確実性は残ることもまた指摘されております。これは原沢先生から既にご報告をいただいておりますし、今日水野さんからもご指摘がありました図ですが、左の図はシナリオによって予測される気温変化に幅があるということ、右の図は気温上昇に伴う悪影響のリスクに一定程度の幅があるということを示すものであります。
気候変動問題を考えていく上で、その悪影響のリスクに対してはこうした不確実性が伴う。特に、ここに書いておりますように、どの程度、どれぐらいの蓋然性で生じるのか、どのような影響が生じるのか、大枠の気候変動のリスクはかなりの確度で明らかなわけですけれども、同時にその影響の程度については予測に不確実性があるということを認識して、問題に対処することが求められております。
政策の側でこうしたリスクに対してどういう形でこれまで対応してきたか、そして、対応しようとしているかという点では、現在、「予防」(Precaution)という考え方が国際社会では注目されております。環境損害を顕在化する前に防止する、「未然防止」という考え方は国際社会の中に従来からあったわけですけれども、とりわけ70年代以降、十分な科学的証拠がないということで対策をとらなかったことによって後になって損害を生じさせる、このことに対する懸念が強くなってまいりました。
国際社会に先だって、日本、アメリカ、ヨーロッパの諸国、とりわけドイツで顕著でありましたが、80年代にはこれらの諸国の国内の政策においても、この"Precaution"という言葉が使われないにしても、こうした「予防」という発想に立って政策が進められてきたということは、皆が確認しているところであります。
国際社会に目を移しますと、80年代に入りまして、1985年のオゾン層保護条約は、オゾン層の破壊が特定の化学物質によるものかどうか、その原因、因果関係、影響について必ずしも100パーセントの科学的証拠がない中で、国際的にオゾン層保護のための対策に合意をした条約であります。
こうした80年代の経験を踏まえて、1992年の地球サミットで採択されましたリオ宣言では、原則15で予防的な考え方を盛り込んでおります。リオ原則以外にも、今日の資料にもおつけしておりますように、多くの環境条約や国際文書において予防的な考え方が盛り込まれることが広まっておりますが、最もよく知られた原則として、ここにリオ原則に定められている3つの要素を提示しております。
[1]深刻なまたは回復不可能な損害のおそれがある場合、[2]十分な科学的証拠がなくても、[3]損害を未然に防止する措置を遅らせないということをその内容としております。
このスライドのタイトルに「予防的な方策(予防的取組方法)」とございますが、英語の原語でいきますと、"Precautionary Approach"の訳であります。どの訳語を使うかというところは議論があるかと思いますが、バイオセーフティの議定書では「予防的取組方法」という訳語をあてられているようですけれども、ここでは我が国の環境基本計画の訳語に沿って「予防的方策」という言葉で紹介させていだいております。
多くの国際環境条約や国際文書で定式化されているということで、このスライドの後に一覧をつけておりますので、ごらんいただければと思います。地球温暖化はもちろん、生物多様性とか、今申し上げましたバイオセーフティの問題、化学物質の問題、さまざまな分野の条約にこの「予防」という考え方が既に盛り込まれております。ただし、その定式化はさまざまであるということもこの表は示しております。「予防」という考え方が具体的には一律の措置、一律の行動を国家に要求していないということであります。
日本もこれまで「予防」の考え方が盛り込まれた多くの普遍的な条約について批准してきております。
目を気候変動に移しますと、気候変動枠組条約の3条3項は、条約の究極的目的達成のために、かつ条約の実施のために、その指針となる行動原則として「予防的アプローチ」「予防」という考え方を盛り込んでおります。この定式化は、先ほど紹介しましたリオ原則とほぼ同じ定式化でありますが、同時にこうした予防的措置を含めて措置の費用効果を高いものにするよう考慮することも定めております。
目を日本に移しますと、我が国においても平成12年に閣議決定されております環境基本計画では、この「予防」の考え方を21世紀に向けた持続可能な社会の構築、環境政策の基本的な考え方とすることを確認しております。そういう意味では、気候変動枠組条約の締約国でもあり、我が国の環境政策の基本として確認されているこれまでの内容から考えますと、気候変動における将来の枠組みの設計においては、「予防」という考え方を念頭において対処する必要があると思います。
では、この「予防」という考え方がいかなる政策的要請を持つものなのかということであります。「予防」という考え方が個別の問題に応じて対応するアプローチなのか、国際社会においていかなるときにも対応されなければならない原則なのかという点については、国によってその考え方は異なっておりますけれども、少なくとも"Precaution"、「予防」という考え方に内在するものについては、各国の中でかなり共通する認識があるように思われます。
ここで挙げた4つは国際的な議論を踏まえたものでありますけれども、同時にイギリス、カナダ、EUなどの諸国・地域がこれまで「予防」という考え方について国・地域の政策を整理した文書からも共通してうかがえるところであります。
まず第1点目は、不確実性が伴うといっても、可能な限り持っている科学的評価とリスク・アセスメントに基づいて政策が組み立てられるべきである。
2つ目は、「予防」という考え方は一律の措置を要求するものではありませんが、社会にとって許容可能なリスクが何かに照らしながら、いかなる措置がとられるべきかということが検討されなければなりません。
3つ目が、不確実性が伴うゆえに、この問題によって影響を受ける、あるいは、利害関係を有するものが、その意思決定、政策決定に参加しなければならない。
4点目が、やはり不確実性が伴うゆえに、将来の科学的知見の発展に応じてその政策は見直しをする柔軟性を持たなければならないという点です。
今回の専門委員会で検討しております将来枠組みについて、こうした「予防」という考え方を踏まえて、どういうことが考えられるべきかという点を以下、簡単に述べさせていただきたいと思います。
まず、これまでご報告があり、議論をしてまいりました長期・中期目標の設定をはじめとして、将来枠組みの設計においては、今まで明らかになった科学的知見を踏まえながら、それに伴う不確実性を踏まえた対処が必要です。具体的な観点として以下の点を提示したいと思います。
1つは、当然のことでありますけれども、不確実性を低減するための科学研究を推進する重要性は言うまでもありません。しかしながら、この分野の研究の成果を見ますと、必ずしも科学研究に投資をした分だけ不確実性が減るものではないということも指摘されています。逆に、科学研究の推進によって新たな不確実性が発見されるという可能性も指摘されています。そういう意味では、科学研究の推進の重要性とともに、しかしながら、不確実性がなくなるまで様子を見て待つという対応では政策的にはリスクを顕在化させてしまう対応ということが言えるかもしれません。
とりわけ気候変動とその影響については、回復不可能な、不可逆な性質を持つということが既に指摘されております。そして、不確実性があると言いますと、しばしばそのリスクに対して軽視する傾向がないわけではないと思いますが、不確実性が残るということは、同時に予測のうちの最も悪影響の大きい方向で事態が進行するおそれがあるという余地も持って対処しなければならないということかと思います。
その上で、中長期の目標、将来枠組みの設計において考え得る考え方として、最も悪い方向で、予測の最も悪い方向で事態が進行したとしても、そのリスクを社会が納得できるレベルとしうるような、目標を達成しうるような、目標と対策の設定が必要であろうと思われます。
こうした考え方は「ヘッジ戦略」と言われておりますが、550ppmを目標に据えて対策をとってきたけれども、ある時点で科学的知見が集積されてくると、450ppmでなければ危険な人為的干渉を防ぐことができないということがわかる可能性もあります。しかし、550ppmの安定化を目指す技術・制度・社会、550ppmをターゲットにした直線的な目標を設定していた場合に、不確実性が悪い方向に向かった場合には550ppmの世界から450ppmへの世界への転換が非常に難しくなる。そういう意味では、不確実性が伴う場合により悪いことが起こりうるという想定をふまえた制度・技術・社会の構想を持つ必要があるという点であります。
さらに、この「予防」という考え方をとる際に具体的にどういう水準の目標を設定するのか、措置をとるのかということは、「予防」という考え方からは一律的には出てまいりません。その不確実性の中で社会がどこまでどういう考え方で許容可能なリスクのレベルを決めていくか次第と言えます。その意味ではリスクを潜在的に被る可能性がある、同時に、それを避けるための費用を担う可能性のあるステークホルダーがきちんと参加した形で枠組みが設計されることが必要であります。
気候変動の問題に引きつけて申し上げますと、悪影響がおそらくすべての国家に生じるであろうと予測されていますが、とりわけ気候変動の悪影響を最も深刻に被ると現時点で予測されている途上国が参加する枠組みが必要であろうと思います。そういう意味で、今後の枠組み設計において、枠組みの設計のプロセスへの途上国の参加というのはこの観点からも重要であります。
以上、ご報告申し上げましたが、これまでのIPCCによる予測結果を踏まえた制度設計が必要であるということ、しかしながら、予測に伴う不確実性については、将来のオプションを確実に残すようなヘッジの戦略が重要であること、そして、最も悪影響を被ると思われるステークホルダーがきちんと参加できる枠組みの設計プロセスが必要であることをとりわけ指摘させていただきました。
この「予防」という考え方は、現在の政策決定において声を持たない将来の世代の利益への考慮を反映させる、そういう意味では私たち現代の世代が将来の世代を配慮して、慮って政策決定をするための一つの手法というふうに考えられます。それは、これまでのご報告、ご意見にもありました、いわゆる将来世代との衡平性をいかに確保するかという考え方を盛り込んだ手法ということであります。この後、亀山委員から衡平性に関する報告があるかと思いますが、そのような観点からもあわせてご議論いただければと思います。
以上です。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
今の話は、特に気候変動の問題でいつも不確実であるから何もやらないということがよく論議されることがございますが、それでは考え方が違うんだと、そのベースとなる予防原則、あるいは、予防的措置についてのお話でありました。さらに、どれだけのリスクを危険と考えるかということについては、それぞれの社会によって違うということもあり、関係者の議論への参加が重要ではないかというお話だったと思います。
本件につきまして、委員の中でいろいろご議論いただければと思います。
○住委員 非常に大事なことだと思っているのは、社会の認識の問題です。今年の夏は非常に暑かったけれども、我々の観点から考えますと、例えば94年と比べても、それほど異常な暑い夏ということは出来ないと思います。しかし、10年前の猛暑のときに比べると、社会的な印象というか、世間の関心の度合いというのは全く違ってきているような気がします。
これだけ今年の猛暑をマスコミが取り上げているというのは、確かに根拠があって、去年のフランスの猛暑などが効いていると思います。何かおかしいんじゃないかという認識が社会的にでき始めてしまうと、加速的にそれが広がっていきます。映画の『デイ・アフター・トモロー』もそれなりのインパクトがあったと思いますが、ああいうポルトガル・プロパガンダみたいな映画がかなり影響を持ってきます。ですから、温暖化の問題は、科学の問題と同時に社会の問題があり、特に現在のような民主的な社会だと大衆の認識というのは非常に大きいような要因であると思います。
そこの部分に相当注意しないと、全く同じ状況でも、社会の行動は、いろんな意味で変わってくるような気がします。それが今の状況で、逆にすべての問題が不確定な上に、将来の問題があって不安感があるときに、意図的にマッチポンプで騒動を起こして稼ごうというグループは必ず存在します。意図的に悪さをしようというのが必ず存在しますね。善意の人ばかりじゃありませんから。そうすると悪意を持っているグループ、確信的な悪意じゃなくても、ある種の価値観を持って行動するグループがあるという中で、地球温暖化のような問題を扱おうとすると、政治的な意味で難しい状態になるんじゃないかという気がしています。
その点で、僕の言いたいポイントは、今度の環境省のモーニング娘。を用いたキャンペーンなどを考えて、情報をいろんな分野の人に正しく伝えていくことは非常に大事なことだということです。従来の発想だと、上から正しいことさえ言っていれば確実に伝わっていくんだみたいに思っていましたが、最近は違うような気がします。世の中がモザイク化されていまして、ある一定のグループはこの情報を一切見もしないという状況にあります。それぞれのグループに対して的確に情報を与えていかないとダメなのではないか、例えば新聞で「大本営発表」と言っていれば全部伝わっていくというわけではないかという気が最近している。
そういう点では、同じような情報であっても、国民なりいろんな階層に対して的確に、相手に応じて話を伝える。年寄りには年寄り向きの応対の仕方、若者には若者とか、そういうことをきめ細かくやっていくことが大事だろうと思います。それから、途上国の場合でもステークホルダーが一様じゃないような気がするんですね、これからの時代は。途上国のステークホルダーだと、今のままで構わないという左うちわのグループがあれば、おかしいなと思っているグループもあったりするので。
多くの人の意見で決まらなければならないんだけれども、それに対する情報の提供の仕方というのは、クラシカルな、古典的な知識人型のイメージで、講壇でしゃべっていればいいというだけでは、世界全体にかかわる問題に関してはだめなのではないかというのが、今年の夏の印象だと僕は思います。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
松橋委員、どうぞ。
○松橋委員 今の住先生のご指摘に関連するんですが、いわゆる大衆煽動的ではなくて、正確な情報をやる必要があると思うんですけれども、今のご発表とあわせて考えますと、気候変動のリスクというものを正確に、自然科学で気候変動にどういう影響が出るのかというところを伝えていかなければいけないと思うんですね。
そのリスクを考えるときに、先ほどのご発表の5ページ目に原沢先生から出されたリスクの考え方がありますね、破局的事象が起こる確率がどれぐらいあるか、世界経済が影響を受ける可能性がどれぐらいあるか、極端な気象状況が起こる可能性がどれぐらいあるか。こういったものをできる限り定量化していく。これもまた大変難しい話で。そこに、先ほど住先生がおっしゃったように、その分野の専門家でない人が大衆煽動的に言ったことが流布すると、プラスであれマイナスであれ、あまりいいことはないだろうと。
では、どうすればいいかというと、気候変動の、例えば自然科学的な影響の場合は、その分野のトップのサイエンティスト、自然科学のサイエンティストの方が現状の気候モデルの最新の状況と、その問題点まで含めてわかっていらっしゃるのは、例えば気候モデルであれば住先生とか、現状、日本のトップの方にエキスパート・ジャッジメントでやっていただくしかないと思いますので、そういう日本のトップあるいは世界のトップの、その分野の自然科学を中心とした先生方に、この幅がどれぐらいあるのかということを出していただくしかないのかなと。
それを現状の人類の良心的な知見として、それをもとに今度は国民全体と言いますか、政府全体としてどれぐらいの確率にリスクを抑えていくのか、ヘッジしていくのかということを判断する。それが先ほど申し上げたように、気候の話であれば住先生、あるいは、海面上昇で日本の場合どれぐらい砂浜があれして、護岸をどれぐらいやらなきゃいけない、そのときどのぐらいのコストがかかるなんていうのは三村先生によってされているわけですから、その分野は例えば三村先生にしていただくとか。その分野、その分野のトップのサイエンティストの先生方にエキスパート・ジャッジメントで出していただいて、それをもとに私たちが、さっきおっしゃられたヘッジ戦略に基づいて、どの程度のレベルにリスクを抑えるのかということを次に考えると。そういうことをぜひやっていくべきではないかと考えております。
○西岡委員長 どうもありがとうございます。非常に具体的な提案で。
明日香委員、どうぞ。
○明日香委員 何点かあるんですけれども、第1点目は、不確実性があったとしても、どうやっても1℃程度の上昇はあるというのは確実だと思うんですね。ですから、それは押さえておかなければいけないと思いますし、1℃の上昇によって被害者も出るし生態系も壊れると。そこで誰が責任をとるかは別にして、責任という問題も考えていくべきということだと思います。
2番目は、気候変動というのは非常にユニークな、まだ人間が経験したことのないリスクでありまして、そういう意味でもプレコーショナリーな対応は必要なのではないかと。例えば、カーブがどのぐらい曲がっているかわからないんだけれども、カーブに突っ込んでいる車のような感じなんですね。カーブがどれだけ曲がっているかをわかるためには、スピードを落とさなければいけないんでけれども、スピードを落としていない。ぶつかって初めてそのカーブのきつさがわかるという状況になっているんじゃないかなと思います。
3番目は、米本昌平先生がよくおっしゃることなんですけれども、温暖化の脅威なりリスクというのは良性のリスクで、対策なり結果として残るのは省エネルギー技術とか、エネルギー安全保障の面でもコストの面でも非常にプラスになるものだと。例えば軍事的な脅威とは違って、兵器みたいに残っても何も使えないようなものとは違う。そういう意味ではリスクの種類がユニークで、かつ良性のリスクというふうに考えることはできるのではないかということです。
もう1つ、科学と政治の話で、科学の不確実性ということで政治的な判断をしないという議論になりがち、科学的な知見が足りないとか、客観的ではないとか、恣意的なものになってしまうとか、そういう批判があるんですけれども、社会としてはある程度決めているものはたくさんあると思うんですね。例えば20歳以下はお酒を飲んではいけないというのも、なんで20歳なのか。19歳というのは科学は証明できないと思うんですね。だけれども、社会のある規範として決めていて、それが結果的に社会として必要になっている。そういうものがありますので、科学的な不確実性が政治的な判断を遅らせているということはおかしいのではないかと。特に温暖化問題ではそういう考え方は批判しなければいけないのかなと思います。
以上です。
○西岡委員長 ほかにございますか。
○三村委員 2点ほどあります。今、問題になっている科学的な知見が最新のものをどんどん政策にフィードバックするという話ですが、将来枠組みという話はどういう目標を持つかとか、どういう政策を打つかという話が最初からの結論だと思うんです。その中に科学の知見をどうフィードバックするかということまで踏み込まれるような設定の仕方があるかどうか。今だったら、たくさん引用されているみたいに、IPCCが5年に一遍ぐらいずつ評価してフィードバックしているということですけれども、そういうものを制度的に国際的な制度の中に踏み込んでいくということがあるかどうかというのが1つ。その辺はどうかなと。
2番目は、今、お話があったのはリスク管理という考え方なんですけれども、きょうのまとめの中で非常に重要な点だと思うのは、最初にいただいた資料の最後の方に、「今後の検討の視点」でポジティブなものにしましょうということがあって、温暖化問題をポジティブに考えるということは、温暖化の対策をすると途上国も先進国も含めて持続可能な開発にとってメリットがあるんだというような方向の政策を打てるかどうかということだと思うんですね。
リスク管理の方は、何か大変なことが起こりそうだから、将来を見越して手を打っておきましょうという話なんですけれども、ポジティブな方は、温暖化対策をとるともっといい世の中になるということを言いたいわけですよね。うまくまとまらないんですけれども、リスク管理のような枠組みの目標の立て方と、さっきのポジティブな目標の立て方が、うまくマッチするような目標というのはあり得ますか。これはご質問なんですが。
○西岡委員長 ほかにございましょうか。
たくさん意見が出まして、特に最後のご質問は、明日香さんの方の話とも関連する話でございますし。
○高村委員 ありがとうございました。すべてのコメント、ご質問にお答えするだけのキャパシティーがありませんけれども、大筋、ご指摘の2件について同じ考え方を持っております。
今回、気候変動とその悪影響に関するリスクとその管理という観点から、どういう発想、考え方を持つべきかということに絞ってご報告をいたしましたけれども、三村先生、明日香先生からご指摘ありましたように、単に対策がリスク管理的な側面だけを持つものではないというところは、まさにそのとおりだと思います。これまでの専門委員会の議論でも、気候変動対策が持っているポジティブな影響、側面というものをあわせて考えていく必要があるという点が指摘されて参りましたがその通りかと思います。どういう形でマッチングをしていくかというところは、具体的な制度の考え方の中で、私自身ももう少し考えてみたいと思いますし、この専門委員会の場でご議論できればと思います。
あわせて、幾つかご指摘のありました、科学専門家の重要性、それから、リスクにかかわる情報をきちんと的確に伝えていくということ、そして、政策決定者の側がどういう方向性を持つかという重要性、そして、科学と政策を国際的に結びつける制度・枠組みのあり方、こういった点についてご指摘があったかと思いますが、委員会の報告の中に反映していただければと思います。
以上です。
○西岡委員長 どうもありがとうございました。
今のセッションで非常にポジティブな意見が幾つか出ました。特に情報の伝達というものにもう少し力を入れなければいけないのではないか、しかも、そのやり方について考えなければいけないということが1つありました。それから、今のようにいつもいつもリスクというと、何かあるから大変だというより、もう少し積極的な形で打って出られないかということが指摘されたわけでございます。
事務局で、ぜひ今の議論を取り入れたものにして、また先ほどの文書のようにうまくまとめていただきたいと思っております。
私から一つだけ、コメント的ですけれども。先ほど高村先生は「科学に投資しても不確実性が拡散する」というようなこともおっしゃったんですが、ちょっと意味合いが違ってくるのではないかと思うんですね。もちろんそういう場合もあるんですけれども、気候変動に関しては投資をすればするほどある一つの方向に向かっての確実性は増えているのではないか。これは私のコメントと言いましょうか、見方であります。
○住委員 特に日本の場合、リスク管理の問題について議論しておいた方がいいと思います。例えば、現在のいろんな科学的な不確実な知見に基づいても、21世紀中に関東大震災が起きる可能性は結構あるという議論がされていますね。関東大震災が起きたとすると、その影響は凄まじいインパクトで日本を覆うはずです。しかし、起きないかもしれない。例えば200年の時間スケールで考えれば起きているのは確かです。そういう場合に、どういう対策を今とるべきか、が問題になります。
地球温暖化は、非常にグローバルで遠い問題のようですが、日本で考える場合には、国の安心・安全という観点からの議論が必要で、大きな地震の問題などと対比させながら考えていくということが非常に大事ではないかと思います。外に出すかどうかは別としても、国民に対して説得するときに、具体的な例、例えば、原子力発電所等の問題などを挙げ、具体的ないろんなリスクがあって、それに対してこんなコストがかかっています。 それから、地震のリスクというのは国民に説明しなくても地震の被害は見ればわかるし、経験もしているから、ひどいということはすぐわかるわけですね。温暖化に関して、何がひどいのかが実感できないということがあります。今年のような猛暑になると、「こうなるよ」と言えば、「ああ、こんなふうになるのか、じゃ大変だ」と理解してくれます。人間というのは具体的な個人的な経験がないものに関しては、頭で想像しろといってもなかなかできない。具体的なイメージで、「温暖化したときのリスクはあるんだよ、こんなふうになっては困るでしょう」ということを、国民世論に訴えてゆくという努力が非常に大事だと思います。
そうしていかないと国民は疑うんですよね、「温暖化と言っているけれども、何か腹があってだまそうとするんじゃないの」というように。国民が持っている感情の中には、絶対的に国がやろうとすることは裏があるというような不信感があります。戦前から国にだまされ続けたという思いがあるか、そのことを使って稼ごうと思うか、そういうような気がして仕方がありません。だから、そういう点をクリアしていくことが大事なような気がします。
○西岡委員長 どうもありがとうございます。
リスクというのは急性的にくるものについては、たとえば地震対策にはお金が出ますが、温暖化対策というじわじわとした慢性のものにはなかなかお金が出ないということがあります。これはいつも言っているんですけれども、人間でも、「心臓病で死ぬよ」と言ったらすぐ酒をやめるんですが、「じわじわと肝臓にきいてくるよ」というとなかなかやめないというのがあります。あるいは、自動車の場合も同じなんですね。運転している人は絶対事故なんか起きないと思っているけれども、周りを歩いている人はいつどういう事故が起こるかわからないということがあって、感じ方も違うわけでございます。
リスク・コミュニケーションの面でやっていかなければいけないことは相当あるのではないかというのが一つの結論かと思います。
それでは、あと5分の間に次の議事が終わる確率はほとんどないということで、プレコーショナリーに三村先生にお願いしたいと思います。
○三村委員 それでは、西岡先生の仕事を引き継いで、以下の議事進行をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
次のご発表に入りまして、亀山委員から「将来枠組みにおける衡平性の扱い」について、ご発表をお願いいたします。
○亀山委員 国立環境研究所の亀山でございます。後ろにも傍聴の方がいらっしゃいますので、大変失礼とは存じますが、座ったままで発表させていただきたいと思います。
私に与えられましたテーマは「将来枠組みにおける衡平性の扱い」ということでございます。
なぜここへきて衡平性について考えなければいけないのかということをお話したいと思います。
衡平性とはそもそも何ぞやということですが、私はここで「ある利益または負担の配分に応じて関係者が納得する配分の基準」という仮の定義を設けました。
なぜ私がそんな定義を自分でつくらなければいけないかと申しますと、次に書きましたが、衡平性、英語でいうと"Equity"、それと類似の言葉といたしまして、公正(Equity)、あるいは、Fairnessが公正だと思います。または、「公」という漢字を使った公平性(Fairness)、正義(Justice)などがありますが、このそれぞれの言葉の定義が学術分野や用いる個人によって異なるんですね。広辞苑を引きましても、衡平性は正義だと書いてありますと、どうしていいかわからなくて、とりあえず上のような簡単な定義を置かせていただいた次第でございます。
なぜ気候変動問題を扱う上で衡平性の配慮が必要なんでしょうか。大きく3つに分けてみました。
1つは個人の権利の確保であります。現世代及び将来に生きる全ての人々が、等しく、大気という地球公共財を利用する権利を持つと考えることができるのではないかいうこと。
2つといたしまして、今に生きる我々、現世代の間の負担の調整。排出量の大きさ、あるいは、受ける被害の大きさも、まちまちの多様な国が合意に達成するためには、全ての関係国がある程度納得する内容である必要があるということです。
3つ目といたしましては、世代間の配慮の必要があります。今生きる私たちが排出した温室効果ガス排出量による気候変動の悪影響を受けるのは、将来に生きる私たちの子供や孫が被害を受けるわけですね。早期対策が将来世代への配慮につながるという考え方ができます。
先ほど資料2のご説明を環境省の方がされているときに、今,対策を打っていった方がいいのか、あるいは、今は何もしないで将来ガクッと減らした方がいいのかというオプションがあるという例示がありましたが、将来まで対策を引き延ばしていくと、将来世代は対策の負担も、そして、気候変動の悪影響による被害も、両方受けることになるので、その意味で現世代と将来世代との間の衡平性が確保できなくなるというような考え方なわけです。
それでは、今までのさまざまな論文で衡平性ということが考えられてきたのかということについてご説明したいと思います。
ここでは、IPCCの報告書やアメリカのピューセンターで出された報告書を用いて衡平性の考え方を分類してみました。IPCCがそれ以前に出されたさまざまな論文をレビューしたものをまとめたものですので、まとめのさらにまとめということになりますが、代表的な例といたしまして、一つの論文では気候変動対策の負担配分のための衡平性の原則として3つに分けておりまして、その3つのそれぞれの原則をさらに数種類に分けています。
1つ目の分類は、地球全体の排出量の配分における衡平性の考え方でして、ここをまたさらに4つに分けています。
1つは、平等原則(egalitarian)ですが、一人当たりの排出量が全く等しくなるように配分する方法。
2つ目は、各国の主権を尊重する配分方法(sovereignty)、現状の排出量を重視し、そこから一律に削減していく方法。
3つ目は、汚染者負担の原則(polluter pays principle)。排出量の割合に応じて影響の被害を支払っていくという方法。
4つ目といたしましては、支払い能力(ability to pay principle)。これはGDPの水準次第、つまりお金持ちであるほどたくさん支払うような配分量を決定するものです。
大きくはこの4つに分けられるのではないかというふうに分類されています。
2つ目の分類は、制度実施後の衡平性とタイトルされていますが、ある制度を実施した後の結果が衡平な状態になるような原則として次の4つに分類されております。
1つは、横軸の衡平性の確保(horizontal)。同じ経済水準の国、例えば先進国において対策によるコストの増加を一律化させるような方法。
2つ目は、縦軸の衡平性の確保。"vertical"というふうに言われていますが、異なる経済水準の国(先進国と途上国間)において、対策によるコストの増加を一人当たりGDPの違いに応じて異なるように設定する。つまり、お金持ちのグループとお金持ちでないグループによっては、異なる約束を実施することがある意味で衡平だという考え方です。
3つ目が、補償による衡平性の確保(compensation)。これは影響を受ける国をそのほかの国か補償してあげるというような考え方です。
4つ目は、実利主義による衡平性の確保。"utilitarian"という英語ですが、これは世界全体で対策コストが最小となることを目指し、個々の国のコストの配分については後で考えましょうというような方法であります。
次のページにまいりまして、3つ目は、配分による衡平性ではなくて、その配分を決定するまでのプロセスにおける衡平性の確保の話です。ここでは、例えば貧しい国の生活レベルを向上させるような配慮。
または、市場万能主義、"Market Justice"という英語を使っていますが、市場が動くままの結果を重視する。例えば最も高額の入札者に排出枠を配分するようなルールづくり。
あるいは、コンセンサスによる衡平性、コンセンサス(全会一致方式)を重視することで、公平な交渉プロセスを確保するという考え方です。
既存の論文で「衡平性」という言葉を使うときには、このような意味で使われているといふうふうに分類されていたということです。
次にいきまして、それでは、今現在、気候変動問題に対処するために、国際的に合意された2つの国際法、つまり、気候変動枠組条約と京都議定書の2つで衡平性の問題はどういうふうに扱われているのでしょうか。
まず、条約の方ですが、ご存じのとおり3条1項におきまして、「締約国は、衡平の原則に基づき、かつ、共有だが差異ある責任及び各国の能力に従い……」というふうに、衡平の原則を踏まえるべきということが明記されております。
この条約の内容を見てみましても、例えば附属書I国は2000年までに1990年レベルでの安定化を目指して措置を講じることが規定されているわけであります。また、附属書II国、これは先進国にあたりますが、先進国は途上国に支援のために資金を供給する。同じく附属書II国は、途上国支援として技術移転を促進するための努力を払う、あるいは、特別に悪影響を受ける国に対しても配慮すべきというようなことが書かれております。
京都議定書の交渉が1995年から7年まで2年間あったわけですが、私も実際そこに参加していまして、今から振り返りますと、あそこの交渉で起きていたすべての項目における議論は、どういう結果が衡平なのかということを目指して行って交渉なんだということをつくづく感じるわけです。
1番目の排出量の目標値。先進国間で一律の排出削減割合とするのか、あるいは、異なる割合とするのか、差異化するのかというのは、一番目立っていた部分なんですけれども、それ以外にも、例えば京都メカニズムを使っていいのかどうかということについては、排出量取引は豊かなお金がたくさんある国が排出枠を買うゆとりがあるわけですから、豊かな国に有利な制度として当時は途上国が強く反対していました。
あるいは、途上国関連につきましても、途上国に新たな義務を設けるのは先進国の対策が実現した後という途上国の主張と、排出量の多い途上国は排出量目標を掲げるべきだというアメリカの主張との食い違いが見られました。
あるいは、共通の政策・措置、例えば先進国は共通して炭素税を入れましょうというような話をEUが主張していました。
あるいは、途上国は、途上国支援の資金メカニズムの設立を主張していました。
あるいは、特別に悪影響を受ける国に対する配慮についても、一部の国からは強い要求がありました。
気候変動を起こした責任の大きさによって、削減目標を決定するブラジル提案も出てきました。
こういうさまざまな交渉があった結果として、今の京都議定書はあるわけですが、その結果を見てみましても、排出削減目標、皆さんご存じのとおり附属書I国のみに対して、削減目標は差異化されました。あるいは、附属書I国の中でもロシアなど経済移行中の国は、基準年を1990年以外とすることを認められております。あるいは、排出量取引制度の導入も認められました。
途上国には新たな義務を課さないということが決められました。
または、CDMとして、先進国が途上国での排出抑制を支援する手続き制度が認められました。
このように過去を振り返ってみますと、2つのことが言えるのではないかと思います。1つは、論文ではいろいろな衡平性の原則が出てきていたわけですが、ある特定の衡平性の原則でみんないきましょうということが合意されて、それが適用されたというわけではないということです。2つ目としては、衡平性の確保は、単に排出量関連義務、つまり、日本6%削減、ヨーロッパは8%という数字だけで確保されているわけではなくて、途上国への資金メカニズムやCDMにおける扱いなど、「レジーム」の中で包括的に確保されてきたものなんですよということが言えるのではないかと思います。
過去をみるとそのようなことが言えたと。それでは、今後どうしていったらいいのかということがこれからの話になります。
将来枠組みについては本当にたくさんの提案が出ているということは皆様ご承知のことかと思います。いろいろな提案が出されている中で、衡平性というのはどういうふうに配慮されているのかということを見てみますと、衡平性を最も重要な項目としている提案として、例えば収斂及び収束、"Contraction
& Convergence"というのが、中期的に一人当たりの排出量が世界で一律になるように目標設定していくようなやり方。
あるいは、マルチステージ等、途上国分類のための提案。マルチステージというのは、一人当たりGDPなどの指標がある一定レベルに達した国から排出量義務を負うという提案です。あるいは、ブラジル政府提案。先ほど申し上げましたが、温暖化への寄与度(累積排出量)に応じて削減を割り当てていくような方法。
このような提案は、衡平性を重視して提案にもっていっているようなタイプと考えることができます。ちなみに、そこに書かれていますContraction &
Convergenceの考え方は、先日の議論にもありましたドイツやフランスの中長期目標の中でも反映されております。
衡平性だけを見ているわけではないのですが、枠組み決定の基準の一つとして扱っている例といたしましては、例えばトリプティック。これは、排出量目標設定にあたり、一人当たり排出量を基準の一つとし、その他の基準としては、「効率性」を反映させるためにGDP当たりの排出量やセクター別原単位なども基準としている。それ全部をミックスしたような提案とか、GDP当たり排出量を削減していくような提案。あるいは、温暖化版マーシャルプランというふうに言われているんですが、途上国に大規模な資金移転をして、途上国で温暖化対策をするような提案が見られます。
その他、提案そのものにはまだ見られていないのですが、こんな点での衡平性も今後考えていかなければいけないと言われている点を4点ほど挙げさせていただきたいと思います。
1つとしては、手続きの衡平性。合意に至るまでの協議に参加する機会を全ての関係者に均等に与える「手続きの衡平性」といたしまして先ほどリスク管理のところでもありましたけれども、情報へのアクセスとか、途上国の代表団がCOPに参加するための費用を負担するとか、決定方法を全会一致にするのか多数決にするのかというような話がございます。
特に一部の国家、例えば排出ベスト8の国だけで削減目標を決めるというようなやり方ですと、「手続きの衡平性」という点で問題になるということであります。
2つ目といたしましては、世代間の衡平性があります。現在の提案のほとんどは、世代内の衡平性は考慮されているんですが、世代間の衡平性までは残念ながら考慮できていなくて、この点については今後考えていく必要があるのではないかと思われます。
3つ目といたしましては、気候変動の悪影響の面での衡平性。つまり、排出量をどうやって分けるかという点では、研究がなされて論文も多く出ているんですが、気候変動の悪影響というのは既に世界各地で出始めているわけです。これは地理的にすべての地域に平等に生じるわけではなくて、相対的に被害の少ない地域は、被害の大きい国に対して何らかの支援をするような制度が今後もっと考えられていかなければならないのではないかということが言われています。
最後、4つ目といたしまして、衡平性と環境保全上の実効性との関係。これはちょっと難しい話ですが、衡平性の確保と環境保全上の実効性とは必ずしも正の相関関係にはない。つまり、衡平性の確保だけを念頭において、例えば途上国に配慮して、途上国はまだこれから発展しなければいけないから削減しなくていいということを言っていると、気候変動の対策という意味ではベストのソリューションではないおそれも出てくるということで、そのバランスを考えなければいけないということが言われています。
このようなことを受けまして、今後、衡平性を具現化していくにはどういうことを考えていかなければならないのか。
中長期的、例えば2050年等に向けては、一人当たり排出量の一律化を目指すべきだという声が非常に強くて、これはみんなが納得する、大多数の声になってきているのかという気がいたします。
しかしながら、短期的な約束、つまり2010年以降どうするかという話になりますと、もう少し多様な主張がございまして、複数の衡平性のミックスに加えて、効率性等その他の基準を考えて最終的な制度にする必要があるのではないか。
先進国と途上国という2つのグループ分けから、「一人当たり排出量」あるいは「一人当たりGDP」等の複数の指標でのグループ化にしなおすことも、衡平性確保の観点から検討の余地かあるのではないかと考えられます。
最後、まとめですけれども、まとめの第1ポイントとしまして、「衡平性」は、気候変動に関する将来枠組みを議論する上で不可欠な要素というふうに考えられます。
2つ目は、長期的には一人当たり排出量の均一化を目標とすべしという声が聞かれるが、短期の制度においては、各国のより多様な事情を制度に反映させることが必要であると考える。
気候変動枠組条約や京都議定書の経験を踏まえますと、衡平性は、排出量の目標値だけで達成されるのではなくて、途上国への基金や脆弱な国への配慮等、レジームの中で総合的に達成する方が現実的であると考えます。
最後ですけれども、我が国としては、上記の点を踏まえ、衡平性の重要性かつ国の多様性を理解した上で、バランスの取れる制度提案を行っていくべきだと考えられます。
以上でございます。
○三村委員 どうもありがとうございました。非常に難しいテーマをうまくまとめていただいて説明していただきました。
ただいまの亀山委員からのご説明に対してご意見あるいはご質問があろうかと思いますので、どなたからでもお願いいたします。
○原沢委員 どうもありがとうございました。非常に考えがまとまってよかったかと思いますが、2つほどお聞きしたいと思います。
1つは、21ページの影響面の衡平性ということで、危険なレベルを考えると、地球が壊れるようなレベル、生態系が壊れるようなレベルとか、社会経済に影響するようなレベルというのがあると思うんですけれども、こういった衡平性の中に自然生態系みたいものが全然入ってこないのか、あるいは、議論の中では自然生態系の価値が入って議論されているかどうかというのをお聞きしたいと思います。なぜならば、自然生態系というのが温暖化の初期のレベルでもかなり影響を受けると。それを人類としてどう考えるかという話があります。そういう意味では、影響面での衡平性という中にそういった考えも入っているのかどうかというのが1点目です。
2つ目は、いろいろ文献を整理されて、衡平性の問題は現在でも非常に大きな問題だと思うんですけれども、そういう中で気候変動問題について現在の衡平性の問題に比べて、世代間の衡平性という問題は気候変動にかかわる非常に大きな問題だと思うんです。そのほかに、現在の気候変動の問題で特に注目すべき衡平性のポイントみたいなものがあれば教えていただきたいんです。
○三村委員 あとでまとめて答えていただけますか。
そのほかに。甲斐沼委員さん、どうぞ。
○甲斐沼委員 非常にわかりやすくまとめていただいてありがとうございます。
1点お聞きしたいのですが、18、19ページのところに衡平性を最重要項目としている提案ということで、提案名がございまして、内容も簡潔にまとめて頂いていますが、例えばブラジル提案ですと、ほかのものもそうなんですけれども、これを具体的に示すにはたくさんのデータとか、特にブラジル提案の場合は温暖化への寄与度を過去のデータから計算しなければいけないということもありまして、私どももそういった計算をやりかけてはいますが、いろんな情報が必要であります。どんな情報を出していけばよいのかという的をしぼって計算することが必要と思っています。
質問は、国際交渉においてどの程度までの情報と言いますか、具体的にどういった情報が求められているのかということについてご意見をお伺いしたいと思います。
○三村委員 では、お願いします。
○明日香委員 確認なんですけれども、15枚目に「京都議定書で途上国に新たな義務を課さない」という文章があるんですが、これはベルリン・マンデートでも既にそういう義務を課さないという合意があって、それを踏まえているので、京都議定書で決まったのではなくて、ベルリン・マンデートで既に決まっていたということではないのかなと思うんですが。
○三村委員 たくさん質問が出ているので、後になったら忘れるかもしれないから。今、4点ほど出たと思うんですが、それぞれ答えていただいた方がいいかなと思うんですが、いかがでしょうか。
○亀山委員 たくさんのご質問と重要なご指摘をありがとうございました。
原沢さんのご質問は非常に難しくて、自然生態系への配慮を衡平性の議論でしているかというと、多分あまりしてない。そもそも衡平性の議論というのは、今のところ人類間の衡平性の確保だけしかなくて、何とか虫が絶滅しそうなときに、その虫のことまで配慮しているかというと、残念ながらそうではなくて、その間に生態系の価値というものを人類に間接的に上乗せした上で、生態系の多様さが確保されている方が人類にとっていいでしょうと、だからというと話にはなるかと思うんですけれども、残念ながらその部分の配慮はなされていないというのがお答えになるかと思います。
原沢さんの2つ目のご質問は、私、十分理解できなかったのですが、もう一度。
○原沢委員 衡平性の問題は現在でも問題になっていますよね。気候変動にかかわる衡平性の問題で一つ大きな違いは、世代間の衡平性というポイントだと思うんですけれども、そのほかに、気候問題だからゆえに、現在抱えている衡平性の問題において特殊と言いますか、特別な問題があるのだろうかどうかという質問です。
いや、世代間の相違だけというのが大きな、現在の問題でも衡平性の問題で、かつ、気候変動にとって特に問題点なのかということでよろしいかと思います。
○亀山委員 補足説明、ありがとうございます。
既存の文献、あるいは、現在の議論を見ている限りは、原沢さんのおっしゃった気候変動の持つ特殊性は、世代間の衡平性という今まで扱ったことのないものを扱おうとしているというところが最大のチャレンジなんだと思うんですね。傍聴されている先生方の中にもっとすばらしいお答えを持っていらっしゃるかもしれません。あと、一部の途上国の中では、国内の衡平性も国際的なレジームで扱うべきだという主張をされている方もいらっしゃいます。しかし、それにはいろいろ議論があります。
それから、2つ目に、甲斐沼先生からのご質問で、具体的にどのような情報が必要なのかということですが、これも非常に難しいご質問で、どのような提案に沿って交渉を進めるかによって必要となる情報というのは違ってくると思うんですね。しかしながら、振り返ってみますと、例えば基本的な排出量のデータさえ途上国からはまだ十分に出ていない状態ですので、今後、特に途上国にどういう参加の仕方をしてもらうのかという話をしていく際には、途上国のベーシックなデータを集めていくところから始めていかなければならないのではないかというのが私個人の考えですが、これも先生方はよくご存じかと思います。
それから、明日香さんのご質問というよりも確認だったと思いますけれども、そのとおりでして、途上国が新たな義務を課されないというのがベルリン・マンデートで既に合意されているということ。京都議定書でそれが確認されましたということです。
○三村委員 どうもありがとうございます。
3番目の質問で、1点、議論のために確認をしておきたいんですけれども、累積排出量というときには、化石燃料由来のものについて言っているのか、それとも土地の改善とかいうものも全部含めてそういうことが提案されているのか、あるいは、甲斐沼さんの方で計算されようとしたときには全部、自然の改変というものも含めた排出量を計算するということを考えておられるのか。どちらでもお考えがあれば教えていただきたいと思います。
○亀山委員 ブラジル提案が出されたのは京都議定書が採択される前でして、そのときには先進国間の排出量の割合を決めるときに出てきたので、吸収については全然入っておりません。
今は将来枠組みでもう一回、ブラジル提案を使おうとしている一部のグループがあるんですけれども、ブラジル政府は「あの提案は今はもう出さない」と言っていますので、決まったものはありません。
○三村委員 ありがとうございました。
じゃ、明日香さん、お願いします。
○明日香委員 ブラジルは排出がかなり多いんですね。なので、ブラジル提案をブラジルにあてはめるとブラジルが困ってしまうという状況になるということですね。いろいろ計算の仕方はありまして、1860年ぐらいから計算するとかいろいろあるんですけれども、そんな背景があるということです。
○三村委員 ありがとうございました。
それでは、またご質問、ご意見おありの方があると思いますので、そちらの方に帰りたいと思いますが、いかがでしょうか。
では、お願いいたします。
○新澤委員 私も大変関心のある部分なのでコメントは多々あるのですけれども、その中で1つだけ、この委員会のこれまでの議論との関連で、質問かどうかは亀山さんが判断していただきたいと思います。
アダプテーション、適応の議論があって、だんだん重要視されるようになってきているということだったと思うんですけれども、亀山さんからご報告いただいた衡平性は、主にミティゲーションに関して行われてきた議論なんですよね。適応の話を始めるとすぐに費用負担の話に直結するだろうと思うのですが、ミティゲーションの場合の衡平性とアダプテーションの場合の衡平性について、何か違いはあるんだろうかと私自身も考えているところなんですけれども、よくわからない。
これはある意味で賠償と言いますか、発生した現象に対して対応する費用の負担ですから、かなり性質の違うものかなという気もするのですけれども、おそらくアダプテーションの衡平性に関する議論というのはないですよね。そういうコメントです。
○三村委員 ほかにありますでしょうか。
○亀山委員 私も全く同じ認識でございまして、アダプテーションの話が今後広がるとしたら、こちらの方がむしろ"polluter pays principle"をあてはめやすい部分なのではないかと。むしろミティゲーションの部分での衡平性の方がごちゃ混ぜになりがちなのではないかというふうに認識して国環研での研究を進めていきたいと思います。
○三村委員 ほかにどなたか。
では、お願いします。
○高村委員 衡平性について網羅的な整理をしていただいて、大変よくわかりました。ご報告について3点ほどコメントさせていただきたいと思います。
1つは、スライドの5ページ、16ページにかかわるのですけれども、衡平性の議論で大だ事と思いましたのは、亀山さんが指摘されているとおり、国際的制度・枠組みをつくっていく際に、気候変動だけではないと思うんですが、ある一つの衡平性の理論的な原則を適用して、制度構築をしている例はおそらくないだろうという点です。そういう意味では、ここに指摘されているようないろいろな削減負担配分はもちろんですけれども、資金メカニズムとかその他の制度の構成要素を組み合わせていかに制度全体として衡平性を確保するかという点は非常に大事な点ではないかと思います。特にそれが大事と思う理由は、5ページのところには書かれていないのですが、温暖化防止のためにはぜひとも参加をしてほしいと思う国が衡平だと認識できない制度には、その国は参加しないだろうと思いますので、その意味でも制度全体としての衡平性をいかに確保するかというのは、重要な国の参加という観点からも重要ではないかと考えるからです。
2点目が、20ページ目の2枚目のスライドの衡平性の議論の中で指摘されました世代間の衡平性の問題です。原沢先生がおっしゃったように、気候変動の問題ではこれが非常に重要な側面を持つわけですけれども、現在までに出されている提案の比較的多くが、各国間の排出削減負担の配分の衡平性に専ら力点を置いているというのは、亀山さんのご指摘のとおりだと思います。
ただし、「世代間の衡平性」という文言は使っていないのですけれども、人類にとって危険な人為的干渉はいかなるもので、長期的にはどのレベルに排出を抑えなければならないかということを、将来の影響予測との関係で議論している提案というのは幾つかあると思います。「世代間の衡平性を実現する」とは直接的に書かれてはいないんですが、中長期の目標を設定するという形で、この世代間の衡平性を確保しようという提案はいくつかあるかと考えております。他方で、確かに成り行きに任せれば何とかなるという提案もしばしば見られますので、全体的な基調としてはここでご指摘のとおりかと思います。
3点目は、現在出されている提案の力点が国家間の排出削減負担の衡平性の議論にフォーカスされているわけですが、その問題に絞って考えていく上でも考慮に入れられていないのではないかと思う点がが2つでございます。
1つは、私が先ほど報告をした中で、単に気候変動対策というのはリスク管理だけではなくて、その対策によって付随するポジティブなものがあるんだというご指摘をいただきましたが、まさにそのところが、排出削減負担の提案の中ではあまり検討されていないと言いますか、盛り込まれておりません。
2つ目は、削減の負担の配分の衡平性というときに、例えば京都議定書の8・7・6という数値であらわれた「負担」の配分の衡平性なのか、それとも途上国も入ったときに途上国自身は仮に義務を担ったとしても、対策を打つ費用が自ら負担できないという問題があると一般的に言えるわけですが、「費用」の負担の配分の議論なのか。このあたりは新澤先生がお詳しいと思うんですが、その費用負担の問題と、削減の負担の配分の問題が混同されて議論されたり、また、うまく組み合わせて議論されていないような傾向を感じます。そういう意味では、衡平性の議論をしていく上でそうした観点を持つことは重要ではないかと思います。
以上です。
○三村委員 どうも。
じゃ、明日香さん、お願いします。
○明日香委員 新澤先生のコメントに対するコメントというか、お答えかどうかわからないんですけれども、補償という意味では、イーガリタリアン的な考え方は、平等な分配という考え方もあると思うんですが、平等に自然災害から守られるべきという考えもリーガリタリアン的な衡平の原則だと思うんです。そういう意味では、アダプテーションも衡平に守られるべきだという議論はあると思います。
もう1つ、ライアビリティの話なんですが、ベニト・ミューラーというドイツの人が「それはタブーだ」と言っていて、ライアビリティという議論はみんなあまりしたくないし、特にアメリカはしないようにしているというような話はあるんですけれども、アダプテーション・プロトコールなり、今いろいろ議論されている一つで災害保険みたいな話は、ライアビリティをある程度認識して、先進国がそれを飲むかどうかはわからないんですが、そういう動きもあるということは言えるかなと思います。
それから、先ほどの高村先生の、後で私の話にも出てくると思うんですけれども、衡平性の中にもヒエラルキーみたいなものがあると思うんですね。お金がなくても、責任との関係はどっちが重要視されるべきだとか、この辺は何らかの議論ができつつあるのではないかなと思いますので、後で説明させていただきたいと思います。
以上です。
○三村委員 どうもありがとうございます。
そのほかに何かご意見ありますでしょうか。
私から。今も議論になった点ですけれども、衡平性というのは、一番最初の定義を聞いてなるほどなと思ったんですが、要するに参加した人が「うん、それでいい」と納得するかどうかみたいなところがありますよね。この3ポツで、単に排出量の目標だけではなくて、そのほかのアダプテーションだとか、あるいは、技術移転だとか、そういうものも含めてパッケージで合意ができたらば、途上国とか米国なども衡平性が担保されているという感覚を持つと、そういうような方向が可能なんでしょうかね。それをここに書いていると思うんですけれども。
というのは、次期の枠組みの話の中で、中間まとめでも出てましたけれども、次の枠組みはミティゲーションだけではなくて、アダプテーションとかいろんなものが加わってくるような感じがあるので、そういうもの全体に対してどういうふうに衡平性が担保されたという感覚が保証されるかというのはどうなのかなと思うんです。今までの議論ではそういうようなことはかなり意識されているのか。それは今からの議論なのかですね。その点はいかがですか。
○亀山委員 今の三村先生のご質問には、人によって答え方は違ってくると思いますが、きょう私の発表で時間がなくて説明しなかったのは、京都議定書が達成されるときにどうやって衡平性が確保されていったかというのを目の当たりにして見ていますと、例えばアメリカが最後まで「途上国も入ってこい」と頑張っていて、途上国は「排出量取引なんか絶対入れるな」と言って、最後のところで両方が折れて、途上国は入らなくていいけれども、排出量取引だけは入れてくれみたいな取引があったとか。排出量取引を入れたんだったら、7%は飲むよというのがアメリカのスタンス、途上国が参加しなくていいけれども、排出量取引という。排出量取引を入れるんだったら、アメリカは7%のまま。アメリカが7%を飲むのなら、日本も6%を飲まざるを得なくなるとか。そういうふうに連鎖的になって一つの合意ができ上がっていったんですね。
そういう話は交渉の場にいないとわからないのかもしれません。ということで、将来どうなっていくかというのは、将来の交渉の流れを見ていかないと何も申し上げることはできないんですが、きっとそうやってお互いにトレードオフしあいながら、合意というのはできていくものじゃないかなと思っています。
○三村委員 わかりました。どうもありがとうございました。
そのほかに何か特にご質問とかご意見ありますでしょうか。
それでは、時間の関係もございますので、続きまして、5番目の議題であります「途上国・ロシア中東欧諸国の将来枠組みにおける役割」について、明日香委員にご説明をお願いしたいと思います。
よろしくお願いします。
○明日香委員 私に与えられたテーマは「途上国・ロシア中東欧諸国の将来枠組みにける役割」、国の数も多いですし、ヘビーなテーマなので、本当は不公平だと思っているんですが、頑張りたいと思います。
内容ですが、途上国の「参加」問題とは何か、途上国の主張と提案、途上国間の衡平性(役割分担)、グループ分けみたいな議論を紹介させていただきまして、皆さんご関心あると思いますので、中国の最近の動き、まとめてロシア中東欧諸国の最近の動き、今後の課題ということでお話させていただきたいと思います。
まず最初に、途上国の「参加」が必要だからというような単純な話ではないということを申し上げたいと思います。先ほど三村先生の最後の質問にあったと思いますけれども、公平感というのはどこから出てくるかというと、例えば税金においても公正の原則というのは大きいと思うんですが、ある一律のシステマティックなフォーミュラによって税金を払う額を決める。それは東京に住んでいようと沖縄に住んでいようと関係ないと。そういうようなロジカルにある程度議論できるものであるし、議論しないと駄目なのではないかと思っています。これから紹介することや今まで提案されている枠組みも、そういう方向性でいかにそういうフォーミュラをつくっていくか、かつ簡潔なフォーミュラをつくっていくかという方向で進んでいると思いますし、会議の議論もそういうふうに進んでいくと思います。
最初に、途上国の「参加」問題ですけれども、これは先ほどもありましたFCCCのArt.3の1で、共通だが差異のある責任及び各国の能力に応じて。単純に"common"に重きを置くか、"differentiated"に重きを置くか、"respective
capability"をrespectするか。この辺は言う人によってそれぞれ違ってくるということです。
言う人によって違うのは、ポリティカルにはコレクトだと思うんですが、ロジカルに考えて、モラリスティカルに考えてどうかというのはまた違う話だと思うんですね。これは一人当たり排出量を縦軸にして、横軸は人口です。炭素制約ということから、よく「バジェット」という言葉が使われるんですが、まさにこのバジェットをどういうふうに減らすか、分配するかということになると思います。見ていただけばわかりますように、アメリカが多くて、途上国は少ないと。途上国の問題のときに、一番最初のきっかけでもよく引き合いに出されるのは、バード・ヘーゲルという、1997年の7月ぐらいに「途上国も参加しないと同じタイムフレームで削減義務なり制約を負わないような議定書はアメリカは批准しない」というような、95対0で通ったものがあると思うんですけれども、それはまさにここら辺の議論をよく考えないでしている議論なんじゃないかなと思うんですね。
というのは、これを排出量ではなくて、一人当たりのカロリー、栄養摂取量だと考えまして、全体でこれを分配しなきゃいけないと。食糧が少なくなってきた、そういうふうに考えたときに、例えば計算だとアメリカの1年のカロリー摂取量は1.1テラカロリーでして、途上国全体で1.3テラカロリーなんですね。途上国の方が多いから途上国はたくさん減らさなきゃいけないという議論はおかしい。一人当たりにすると、途上国ですと2000カロリーぐらいで、アメリカは3700カロリーぐらいだと思いますので、途上国に減らせということは途上国の人にとってごはんを1回減らせということであって、アメリカの人が減らすということはアイスクリームを食べるのを1つ減らすというようなことだと思うんです。だから、単純に足して出した数字が大きいか小さいかという形で議論をしたらロジカルではないし、モラル的にもおかしいのではないかというのがまず言いたいことです。
過去なり現状を忘れて、これからどういうふうに各国の人たちのビヘイビアが変化するかという、途上国の問題は、これから途上国は増えるから大変なんだ、何とかしなきゃいけないという議論があるんですが、これは一人当たりの排出量の今後2020年までの伸びです。見ていただければわかりますように、アメリカが中国、インドよりも多い。だから、一人当たりのビヘイビアとしてもこれから増えるのは、一人当たりで見れば先進国の方が多い。もちろん、韓国とかメキシコも注目されるべきなんですが、少なくとも中国、インド、特にインドはマイナスですし、これは世界平均の伸びを引いているんですけれども、中国もほかの先進国に比べると低いと。そういう意味では、今後のビヘイビアという意味でも、途上国の方がすぐに何かしなければいけないというのは、ジャスティファイできるかどうかはなかなか難しいところだと思います。
途上国の「参加」が必要である理由として何点か挙げられているんですけれども、環境保全上の実効性、Leakage、経済効率性、規範。環境保全上の実効性というのは何となくわかるんですけれども、どういうふうに分配するか、いつからその情報が入ってくるかと。途上国は本当にこれまで何もしていなかったのかいうような議論をまとめていくと、必ずしも途上国が何らかの削減義務を負わなきゃいけないということには結びつかないと思います。
あと、よく言われるようにLeakageというのがあるんですけれども、途上国が義務を負わないと、途上国で増えるだけではないかと。国際競争力という話になるんですが、実際問題として、今、日本で起こっているリーケージ、空洞化の話というのは、温暖化対策なりエネルギーコストとは必ずしも関係ないことだと思います。経済効率性というのは、CDMという仕組みが既にありますので、ある程度担保できるのではないか。
最後の規範ですが、これも先進国がやらなきゃいけないか、途上国がやらなきゃいけないかというシンプルな議論でして、例えばディナーのときに、途上国の人も背広を着なきゃいけないというような議論でしかないのではないか。途上国の場合は背広を買えない、または背広を買うためには食費を切り詰めなければいけないというような背景があるというのを捨象してしまった議論ではないかと個人的には思います。
途上国「参加」問題というのは、途上国が参加しなければいけないということではなくて、いろんな側面がある。まず、一つの問題は134カ国という途上国をひとまとめにして議論してしまっていると。
2番目は自分がやりたくないから責任を押しつけていると。それから、米国「参加」問題との混同。アイスクリームの話と食事を1回減らすという、全然違うコンシークエンスがあるのに、そこら辺を無視した議論になっている。結局は、国際競争力低下への懸念が大きい。競争力低下というのもある意味では建前であって、本音は国内対策によって経済的な負担が企業にとって増えることに対する懸念でしかないのかなと。
パンドラの箱としての戦略的利用というのは、バード・ヘーゲルでは途上国の「参加」を前提にして、途上国も参加しなくてはいけないという話で、ブッシュもそのように言っていたんですが、インドのCOP8では率先して途上国は参加する必要はない、開発が必要だというふうに豹変しているんですね。まさに戦略的に交渉を難しくするために使っているところもあると思います。
途上国の主張及び提案ですが、134カ国、途上国がありますので、いろんな国がいろんなことを言っています。これはかなりバリュー・ジャッジメントが入ってくるんですが、経済的あるいは人口、これまでの交渉において影響が大きいと言われている順番に並べてあります。G77及び中国、途上国グループは、「京都以後について話すことは全くばかげている」とベネズエラの代表は発言している。これは京都の削減目標を先進国が守っていない段階で京都以後について話すことはばかげているというような文脈での話です。
中国の場合は、共通だが差異のある責任ということを言い続けていまして、適応、ボトムアップ、少なくとも途上国に対して何らかのキャップをつけるのはよくないと言い続けています。中国の代表は途上国に対するキャップというのを反対していまして、先進国に対するキャップに関しては言及していないと、私が交渉担当者と話をした限りではそういうふうに言っています。一部、中国は先進国のキャップも必要ではないということを言っているという報道が過去にあったと思うんですが、それは間違いだと私は思っています。
3番目はOPEC、いろんなところがいろいろ言っていると。特にAOSISはすべての国が対策を講じる必要があると。韓国、メキシコはすべての附属書I国の参加。なので、すべての国なりすべての附属書I国の参加なのか、それぞれ微妙に違ってくると。ちなみに、韓国、メキシコはどういう条件だったら我々はスキームに入るということを既に表明しています。
基本的には衡平性、信頼、資金、技術が途上国の主張していること、または、提案だと思います。途上国の主張を箇条書きしてありますけれども、先ほどのカロリーの計算でもいいんですが、あれをどういうふうにEquitableに分けるかということが問題であると。どういう問題設定をやるということを明確にするべきだということを議論しています。そうなると、そういう問題ではないんだということを言いたい国もありますので、なかなか難しいところになっています。
あと、開発を優先、適応措置を重視、先ほどちょっとお話しましたが、技術移転、能力構築。これはキャパシティ・ビルディングもありますし、交渉に対するキャパシティ・ビルディング、交渉を分析して新しいプロポーザルを理解して、それに対して意見を持つというような分析能力に対するキャパシティ・ビルディングも必要だと言っています。最後にはCDMの改善。開発を優先というのは、お金がないとか、一人当たりの所得が少ない状況においては、どう貧困をなくすかというのが一番大きな問題だということを優先するべきだということはよく言っていることです。
CDMなんですけれども、CDMの現状に関して問題点。誰にとって改善なのかというのはあるんですけれども、途上国にとっての改善という意味で申し上げますと、まず、価格が低いと。これはロシアのコスト・フリーなホット・エアーとの競合。まさに不公平な競争を強いられている結果だと思います。
また、皆さんご存じかどうかわからないんですけれども、フロンなりN2Oの案件が出ておりますが、両方とも韓国なんですね。今まで抱かれていたCDMのイメージ、特に途上国で再生可能エネルギーというような話ではなくなっているということが言えると思います。今、いろいろな不確実性がある状況でEUの排出量取引制度がなかったらCDMはなくなっていただろうというのは市場関係者が考えていることです。
改善案として挙げられているのが、セクター別CDMなり、先進国が量なり地域なり価格なり質をオブリゲーションとして高く買うというようなことが提案されています。現在、税金がかかっているのはCDMだけですので、JIなりエミッション・トレーディングにも課税するということも提案されています。
基本的に需要がなければCDMは機能しないため、先進国の数値目標は不可欠ということは非常にロジカルな結論だと思います。よく先進国の数値目標は要らないけれどもCDMはいいというような議論があるんですけれども、それは論理的に矛盾していると思います。
途上国の衡平性。今まではどちらかというと途上国の立場というか、途上国の人はこういうふうに考えていると申し上げたんですが、個人的にも途上国が衡平性を担保した形で参加してくる。それはすぐにではなくて、ある程度時間をおいてということになると思うんですけれども、それは必要だと思っていますし、途上国の人もこのように認識していると思います。
そのときにいかに公平なフォーミュラ、簡潔なフォーミュラで途上国の参加を考えていくかということです。いろんな議論があるんですけれども、衡平性ということに関して言えることは、ヒエラルキーがあるのではないかと。そのヒエラルキーをある程度、枠組みのプロポーザルの中にも入れていかなければいけないのかというような議論はありますし、私も個人的にはそう思います。
どういうことかというと、基本的な生活レベル確保。例えば電気のない人に電気を使うなとは言えないと思うんですね。それがまずあって、2番目に経済的負担対応力があると。お金がない人にお金を払えとは言えない。その次に排出責任がある。例えばお金がないから石炭を使わざるを得ないという状況もあると思いますので、経済的負担対応力が排出責任よりも上位にくるというふうに考えられています。
4番目が排出既得権。まさに資源は最初に見つけた者がすべて権利を持つんだというような考え方なんですが、これは一番下位になるのではないか。かつ、排出している者がほかの人に被害を与えるようなものである場合には、より下位に置かれるべきではないかと個人的にも思いますし、このようなヒエラルキーを担保するようなプロポーザルをつくっていかなければいけないのではないかと思います。ヒエラルキーに関しては、私も大学の学生に聞いてみたところ、50人ぐらいいたんですが、50人ともこういうようなヒエラルキーになるのではないかと合意していましたので、少なくとも私個人だけの考えではないと思います。
先ほど亀山さんのお話にもあったんですけれども、これをどういうふうに具体的な指標として考えていくかというときに、よく挙げられるのが一人当たりのGDPと一人当たり排出量の組み合わせで、これを足して単純に2で割る。それとも、一人当たりGDPだけを使う、一人当たり排出量だけを使うとか。一人当たり排出量も、現在の排出量だけではなくて、歴史的な排出量も入れるとか、いろんなバージョンはあるんですけれども、少なくとも一人当たりGDPと一人当たり排出量の組み合わせが、上の衡平性の原則の優先順位をオペレーショナイズしているような指標ではないかと思いますし、そういうふうな議論があると思います。
具体的にどのようなプロポーザルなりグループ分けが可能かということです。先ほどもちょっと出ましたけれども、マルチステージ・アプローチという、オランダのRIVMという国立環境研究所みたいなところが提案している枠組みは、第一ステージ、例えば一人当たりの排出量も一人当たりの所得も非常に少ない場合は定量的な削減義務なし。先進国の所得の60%なり、一人当たり排出量が世界平均にいったときに第二ステージにいくと。第二ステージもインテンシティ・ターゲットで、それがある程度の大きさになったときに第三ステージにいくと。第三ステージになったときに排出量の安定化は10年ぐらいにおいといて、10年以降は自動的に第四ステージにいくと。このようなものが、いろいろバージョンはあるんですけれども、論理的に考えればシステマティックにナショナルな考え方なのではないかと思いますし、NGOが提案しているものもこれに近いものだと思います。
今までは途上国の話をしていたんですけれども、第四ステージはイコール先進国に入る話であって、途上国の話を決めたときに、そのフォーミュラを自動的に適用するのであれば、先進国の排出量なり排出削減量も決まってくるということになります。
このような話を途上国に受け入れてもらうときの注意点なり必要条件として考えられることといたしまして、2点あると思います。まず、途上国が交渉グループとしての力を維持するために、マルチな枠組みが必要だと認識していることは言えると思います。アルゼンチンの教訓というのは、アルゼンチンがかつて自主的な目標を持つというような、アメリカといろいろと取引をしてアルゼンチンが発表した24時間以内にアメリカが議定書にサインしているんですけれども、それをやった結果アルゼンチンはうまくいかなくて、アルゼンチンの教訓ということで途上国の脳裏に刻まれていると言われていると私は認識しています。
もう1つ、中国、インドが準備する時間を持つ、排出量取引による資金移転額を把握可能なものにする、などのために衡平性の原則と中長期目標に基づいた合理的分配が必要。中国、インドが準備する時間を持つというのはどういうことかというと、住民一人当たり排出量なり一人当たりの所得ということで考えますと、中国やインドは第一ステージか第二ステージですので、第三、第四までには時間があると。それがどのぐらい時間がかかって、何年ぐらいかかるというのがはっきりわかれば、中国とかインドとしても準備できると。
どういう技術に投資すればいいか、どういう技術を入れる必要があるかということが考えられるのではないかということを、インドのNGOが言っています。インドのNGOというのは、途上国のNGOの中でもラジカルな、一人当たりコントラクション、一人当たりの排出量の平等を最初に主張したNGOなんですが、そういうNGOでさえ「グループ分けは必要であって、システマティックラショナルなグループ分けなりフォーミュラであればインドも受け入れ可能だ」ということを公に言っています。
それから、途上国の基本的な懸念というのは、資金なり技術移転というのはあるんですけれども、どれもアドホックなものであって、かつボランティアなものであって、数字もよくわからないと。衡平性の原則なり中長期目標に基づいた合理的な分配で、かつ、エミッション・トレーディングが入るものでしたら、自動的に幾らぐらい資金移転があるかというのを計算できますので、そういう意味でも衡平性の原則なり中長期目標に基づいた具体的な分配なり排出バジェットをはっきりさせることが重要なのではないかと考えられます。
中国、インドが注目ものの、実際問題としてどこの国がすぐに第三ステージなり第四ステージに入るかと考えると、韓国、メキシコ、ブラジル、中東、トルコなんですね。最初の方のスライドにもありましたけれども、韓国はこれから20年間の一人当たり排出量の伸びがアメリカよりも多い。そういう意味では、アメリカよりも行動に対して文句がつけられやすいというような国であると思います。
一人当たり排出量や一人当たり所得という意味では、韓国、メキシコ、サウジアラビアといた中東の国が入ってきますし、トルコも、アネックス1でもアネックス2でもないような立場になりますので、どういうふうな形で入ってくるとかというのが注目されるべきでありますし、アメリカとしても論理的に考えれば中国なりインドがすぐに入ってくるということは考えられない。アメリカの人でもまじめに考えている人はそういうふうに思っていますので、アメリカの国内世論なり保守勢力をある程度納得させるためにここを入れることが、アメリカを入れるためにも最終的な鍵になる可能性はあると思います。
将来枠組み以外の話にもなってしまうんですが、中国の話に入りたいと思います。私は中国の話になると力が入ってしまうんですが、日本においてはいろんな状況に対する認識が不足しているのではないかと思います。例えば自然災害、ことし500人以上が洪水で死んでいますし、150万人が避難している。ハリケーンも、台風13号で50人とか60人ぐらい死んでいると。洪水に関しては『朝日新聞』にほんのちょっと記事が載ったんですが、ハリケーンに関してはそれほど載っていなかった。それから、石炭依存。炭鉱事故で1万人が死んでいると。中国においても、石炭の問題なり自然災害の問題は非常に大きな問題として認識されているということは言えると思います。
あと、CO2の問題に関しても、カーフェンという中国の交渉担当者のトップが、中国でのワークショップで「中国はこれからどんどんCO2をアメリカと同じようなレベルで増やし続けるんですか」と聞かれたときに、「そのためには地球が5つか6つ必要だ」と言っているんですね。ガンジーが似たようなことを言っているんですが、カーフェンも公の場で同じようなことを言っている。ですから、中国としてもある程度考えているということは言えると思います。
もうちょっと分析してみますと、これは中国の農業研究所のデータによるものですけれども、先進国と比較して、中国のGDP当たりのCO2排出量はまだ大きく、それが中国バッシングの一因となっていると自己分析しています。GDP当たりの排出量はどんな感じになっているかというと、90年から2001年で52%低下してはいますけれども、それでも大きい。実際問題として、GDP当たりのCO2排出量、排出寄与度を何とかしなければいけないし、かつ、何としろというプレッシャーはかかってくるだろうと分析していまして、それをどういうふうに予測するかというのが困ったところでもあります。
アメリカのエネルギー省(DOE)の予測では48t-C/百万人民元ですか、中国政府は38、49、56といろんな予測がある。かつ、途上国の場合ややこしいのは、国家目標がありまして、これとのかねあいが出てくる。ご存じのようにアルゼンチンが排出寄与度の目標をつくったんですけれども、結局、GDPとCO2排出量の関係がうまく予測できなくて破綻していると。途上国の場合は特にGDP当たりの排出寄与度を指標としてという議論があるんですけれども、現実的にはかなり難しいということが言えると思います。排出寄与度に関しては、ほかにもいろいろ難しい問題があると思うんですが、途上国の場合は特に難しいと言われています。
しかし、CDMに関しては期待が大きくなりつつあるのではないかと言われています。現に中国政府がつくっているCDMのホームページ、cdm.ccchinaがありますし、世銀とも取引していますし、HFCに関するワークショップを海外等で半ば秘密、半ばオープンなんでしょうか、開いています。また、インドに対する対抗心みたいなものも感じられます。中国の一番の問題は価格をどういうふうに設定し、政府がどの程度介入するかということかと言えると思います。
次にロシア中東欧諸国ですが、現在の批准絡みの話、かつ、初代枠組みの話にもかかわってくることになります。ロシアに関してはいろいろ議論されているんですけれども、プーチンなりいろんな人の話で、彼らは経済的な問題としか考えていないのではないかということは言えると思います。批准引き延ばしが経済合理的、ドウゲミロンでも何でもいいんですけれども、少なくとも現時点では合理的なので引き延ばしているのではないかと考えられると思います。で、アメリカとEUからいろんなものを得ようとしている。
ホット・エアーに関しては、どういうタイミング、どういうふうに言えばいいかというのを考えているところでもあるし、CDMの様子を見ているというところでもあります。ちなみに、ホット・エアーに関しては、2割か3割ぐらいを出して、残りはバンキングすればいいということになっていますので、そのバンキングの分をどうするか。例えば、次の枠組みで先進国の数値目標がなくなってしまったらホット・エアーは無駄になるので、ホット・エアーを出すなり、ホット・エアーを安く売るなり、そういうような交渉も出てくる可能性があると思います。
国連なり米国への不信というのは戦略的にもあると思いますし、アメリカに対しては、アメリカが抜けてしまったということでホット・エアーを売るところがなくなったと。買ってくれるはずだったのが売れなくなったということに関する不信はあると言われています。
中東欧諸国ですが、途上国なり中東欧諸国を含めてグループ分けをするときに、幾つかのグループに分かれまして、一人当たりのGDPは低いけれども、CO2排出量は高いという国があるわけです。特にロシア・中東欧諸国は、所得はそれほど多くないけれども、CO2はたくさん出しているというので、途上国とのトレードオフ関係が、最終的なバジェットが決まって、それを分けるときに、かつ、先ほどのような指標を考えるときには、途上国にとっていいような分け方は、ロシア・中東欧諸国にとって悪くなるというような構造になっています。
CDMに関しても、基本的には競争関係があると思います。
今後の課題なんですが、「原則」「合理」「妥協」「組み合わせ」「プレッシャー」というふうにまとめました。単純なフォーミュラで、原則で衡平性に則っている。まさに税金みたいに、税金の原則、中立、公正、簡素、そのような原則がちゃんとあるか、そしてそれが合理的かどうかということだと思います。これがないと途上国は乗ってこないと考えていいのではないかと思います。
そういうやつも「妥協」、それは国内的にも国際的にも必要でしょうし、「組み合わせ」も、CDMをちょっと変えるとか、価格をある程度キャップをかけるとか、いろんな組み合わせが考えられると思います。「プレッシャー」というのは、「正式非参加国」、具体的には批准していないロシアなり、離脱してしまったアメリカなりのフリーライダーに対するプレッシャーがないと、途上国としても不公平感が残るような話になると思います。
ちょっと順番が変わってしまったんですが、優先順位として考えなければいけないことは、中長期目標をどう設定するかということだと思います。これを設定し、かつ、分配の決め方を考えていけば、あとは自動的にシステマティックに決まるという、単純と言えば単純な話だと思います。そのときに注意しなければいけないのは、先進国に対してホット・エアーがあればCDMはなくなってしまいますし、不公平感は残ると。
卒業指数、例えば一人当たりのCO2排出量が世界平均になったときというふうに設定すれば、それに入る以前で排出削減の努力をしますので、今は削減目標を持っていないけれども、削減はするというようなやり方もあります。ですから、それを例えば60%にするか、半分にするか、100%にするか、いろんな考え方があると思います。例えば日本国内の企業に対して対中なり対インド、国際競争力低下の懸念をどう配慮するかというのは、具体的な政治的な問題になると思いますので、CDMの改善も必要ということだと思います。
最後に、枠組みに関する提案はいろいろされていると思うんですが、途上国という文脈で考えて、これだったら途上国は飲まないな、飲めないなということを何点か挙げたいと思います。 今、国別ではなく世界全体で排出量を決めればいいのではないかという議論があると思うんですけれども、ライアビリティー、先進国としての責任を問う途上国としては、責任がどこかにいってしまったような話なので飲めない話だと思います。かつ、大量排出国で、ある一部の国だけで何かをやるという話も、途上国としてはいかにマルチラテラリズムを維持して、途上国の交渉力を維持するかというのが至上命題ですし、ユニラテラリズムの世界に対して途上国なり世界がどうマルチラテラリズムを維持していくかというのが大きな課題になっていますので、そのようなユニラテラリズムに近いような話は受け入れないだろうと。
国際協力はいろいろあるんですけれども、単純に国際協力の課題に途上国も期待してはいませんし、先進国が国際協力をやればいいという単純な話ではないと思います。途上国の方も、先進国が今までたくさん国際協力をやってきて、その結果がうまくいってなかった例をたくさん知っていますので、そう単純な話ではないと思います。オーバーオールとして、今言ったような世界全体での排出量なり、ユニラテラリズムなり、国際協力でやればいいというような話は、途上国は入ってこないでしょうし、そのようなものが日本のプロポーザルになったら、日本は孤立するのではないかと個人的には思います。
今回は途上国ということで、アメリカは入ってないんですけれども、アメリカの参加が途上国参加の条件だというような議論もありますので、最後にアメリカに関して私見を述べたいと思います。個人的にはアメリカはケリーになってもそれほど変わらないと、上院の構造が変わらない限り変わらないと思います。
参考までに、ポール・オニールという財務長官が解任されたんですが、彼は温暖化をかなり熱心にやっていて、最近、『忠誠の代償』という本を出しています。この本の6分の1ぐらいは温暖化の話になっています。そこでポール・オニールとクリスティン・ホイットマンが、4人の上院議員によっていかにつぶされたかということが非常に詳しく書いてあります。現政権にとって、現政権の支持基盤、"ベース"という英語を使っているんですが、それしかないと財務長官が判断していますので、そういう上院という構造が変わらない限り、CO2が減るという意味での実効性があるような削減枠組みにアメリカが入ってくる可能性は低いのではないかと思います。
話がバラバラになってしまいましたが、以上です。
○三村委員 どうもありがとうございました。
焦点の国や地域の動きについてビビッドなお話を伺ってよかったと思うんですが、若干時間もありますので、今のご発表に対するご質問あるいはご意見がありましたら、いただきたいと思います。いかがでしょうか。どなたからでも結構です。
じゃ、お願いします。
○高村委員 報告、興味深くうかがいました。これまでの専門委員会の議論でも、いかなる形であっても、中長期的には途上国において排出削減がなされなければ気候変動の防止はできないだろうということは明らかであります。他方で、1960年、70年代からずっと先進国と途上国の間の発展の格差をいかに縮めていくかというのが国際的な課題でもありますし、そのために国際社会のすべての国が努力するということが国際的な規範の一つでもあると思います。
今日の報告を拝聴しながら、そして、先ほどの亀山さんからのご報告も念頭に置いて、途上国が排出削減の努力に足を踏み出す際に何がバリアになっているのか。言い方を変えると、途上国にとってその制度が衡平なもので、参加してもいいかなと途上国に認識されるためには、何がクリアされるべき条件なのかなと考えながらうかがっておりました。これまでの発言に重なるところがあると思いますけれども、3点ほどコメントさせていただければと思います。
1つは、途上国が、いろいろな言い方はあると思いますけれども、一番懸念していると思いますのは、現在ないしは将来の経済発展が温暖化対策をとることによって阻害される、あるいは、何らかの制約を受けるのではないかという懸念にあるように思われます。そういう意味では、私の報告にコメントをいただきましたけれども、実は経済の発展という問題と温暖化対策というのはそう単純なものではなくて、排出を減らすあるいは排出がない形での経済発展の方向性があるんだという、発展の経路をいかに具体的に示せるかというところが大きい問題ではないかと思います。それは京都議定書の下であるかということに必ずしもかかわらず、先進国が、経済の発展あるいは生活水準を維持・向上させながら、排出削減に成功するというモデルをどう示せるかということが重要な課題ではないかと思います。
より制度的な、将来の枠組みのレベルにおいて2点申し上げますと、1つは、明日香先生からもご指摘がありましたが、途上国は、対策をとるのはいいけれども、じゃ費用はという問題を、もう1つのバリアとして認識しているように思います。そういう意味では、削減の負担を担うということとあわせて、その費用を国際社会全体でうまく確保する費用負担の仕組み、資金のメカニズムというものを、制度枠組みの中で考える必要があるのではないかと思います。
最後に、これも制度的な観点ですけれども、気候変動の影響が現に検出されている中では、過去に排出されたものについてなぜ自分たちがその悪影響を甘受しなければならないのかという思いを持つ途上国というのはあるかと思います。そういう意味では、適応、さらにその費用の負担の問題をどういうふうに将来の枠組みの中に仕組みとして位置づけていくかということが、途上国の排出削減に向けた努力への参加という意味ではもう1つ重要ではないかと考えております。
以上です。
○三村委員 どうもありがとうございました。
明日香先生、何かコメントありますでしょうか。
○明日香委員 最初の点、先進国がモデルになるべきだというのはまさにそうだと思うんですけれども、実際問題として、今言われたように排出量は途上国でも増えているという状況なので、一方の視点では先進国はモデルになりえていないというのが現状かなと思います。
2番目の費用負担に関しましては、実際の枠組みのプロポーザルでエミッション・トレーディングを入れると、具体的にはアフリカなりインドに対してはお金が動くことになるんですね。そのお金が幾らぐらい動くかという計算も既にいろいろされています。そこら辺の数字を紹介しようかなと思ったんですが、時間の関係で次の機会ということで割愛させていただいたんですけれども、具体的には需要と供給でカーボンクレジットのプライスが決まって、それを買うために先進国から途上国へ資金が移転すると。そこら辺もシステマティックに考えれば数字がぱっと出ることになります。それが、例えば現時点でのODAとどう違うかとか、額としてどう違ってくるとか、どの国にどれだけいくかとか、そういう具体的な話になってくるかと思います。
3番目の適応に関しては、適応プロトコルとか、先ほどの災害のための研究というのは、そのような文脈から出てきた話だと思うんですけれども、私が聞いた限り途上国の中でもそこら辺は議論があって、AOSISは適応に関する議論をしすぎると削減の方の議論が進まなくなってしまうので、インドのときのCOPでは適応プロトコルに関してはAOSISが反対したという状況をみますと、この辺はバランスの問題なり戦略的にどう考えるかというのは、途上国の中でも意見がありますし、なかなか難しいところかなと思います。
○三村委員 どうもありがとうございました。
費用負担とか資金のメカニズムをどうするかというのも非常に大きな枠組みの問題だと思うんですけれども、これは短い時間ではできないので、いつか別の機会にお願いできればと思います。
そのほか、今の明日香先生のご発表に対して。
じゃ、そちらから順番に。
○松橋委員 今のご質問と明日香先生のお答えとも関係するんですが、「先進国が規範となる排出削減のシナリオを示せれば、途上国に対して何かの規範になり得るんじゃないか」というご質問に対して、明日香先生は「現に先進国は排出量が増えているシナリオを実現してきているので、それが規範にはなり得ない」というようなお答えだったかと思います。私もそのとおりだと思います。
特に後半に明日香先生が示されたGDP当たりのCO2の排出寄与度、あるいは、エナジーオーバーGDPでもいいんですが、CO2オーバーGDPないしエナジーオーバーGDPの長期傾向をとるというのはかなり昔からされていることだと思いますけれども、イギリスとかアメリカなどかつての先進国の長期傾向をとりますと、必ず発展の初期においてはエナジーオーバーGDPがかなり上がっていくと。GDP当たりのエネルギー排出寄与度が上がっていって、それから第2次産業から第3次産業へ構造変化が起こるに伴って、GDP当たりのエネルギー排出量が落ちていると。そういう過去の先進国の長期傾向を見ると普遍的に近い傾向があるかと思うんですね。
これをこれから発展する途上国が同じようにたどっていくのかどうかというのが、かなり重大な関心事ではないかと考えております。もしこれをたどっていくんだとすると、途上国は発展の中期ぐらいまでは、エネルギー消費量、CO2排出量が増えていって、成熟してからインテンシティーが落ちていくということになると思うんです。その点で注目されるのは中国の傾向だと思っておりまして、明日香先生が示されたように、90年代の後半からですかね、GDP当たりのCO2排出量が落ちてきている。これをアメリカ、イギリス、日本、ドイツ、そういうところの傾向と比べると早めに落ちてきているように思うんですね。
私のところに中国人の大変優秀な留学生が来ていて、彼らと一緒にこれから中身を分析しようと思っているんですが、これが何を意味するのか。いわゆるゴールデンバーグとかが言っているような、経済発展のリープフロッギングんていう、カエル飛びみたいなことを意味しているのか。それとも、市場経済化する中で、サービスとか今までGDPに入っていなかったものが入ってきたせいで減っているのか。それとも、何かほかの統計上の都合、理由によるのか。この辺を突っ込んで分析してみたいなという気がしています。
ですから、制度がどうあるべきかとか、衡平性云々ということよりも、まずは研究上の、分析上の興味に近いんですけれども、ひょっとするとそこに何かヒントになるようなものがあるかもしれないなと思っておりまして、重大な関心を持っておりますが、明日香先生、この辺について何かお考えございますでしょうか。
○明日香委員 これに関しては、半分は数字がおかしい、半分は構造的な変化があるのではないかなと。ご存じだと思うんですけれども、石炭の生産量や消費量がガクンと落ちているんですね。4億トンぐらい落ちていまして、小さい炭鉱をつぶしたとかいろいろあるんですが、実際は営業していたという話はあります。どのぐらい営業していたかというペーパーもあります。私もいろんな人に聞くんですけれども、減った割合の半分はうそだろう、半分は頑張ったんだろうというのが一般的な多数意見かなと。研究者はそんなに多くないんですけれども、この問題に関しては日本でも何人かよく知っておられる方がいます。
実際問題として2000年からどうなっているかというと、石炭の生産量はまた伸びているんですね。そういう意味では、中国のCO2の排出量はかなり増えると思います。ですが、最初にバード・ヘーゲルの話をしたんですけれども、あのときの計算では2015年にアメリカの排出量を中国の排出量が超えるという話だったんです。でも、2015年というのは、多分そうじゃないということはわかりつつありまして、バードも最近はその数字は言っていないです。今一番新しいデータ、私が見ている感じでは、アメリカをいつ超えるかというのは、2030年より先なんですけれども、特にこの一、二年の石炭の生産量の伸びを考えると、下方修正、上方修正というんですか、2030年か2040年ぐらいにはアメリカを超える可能性もあるのかなという気はしています。
すみません、褒めているのかけなしているのかよくわかりませんけれども、そんなところだと思います。
○三村委員 どうもありがとうございました。
時間もきておりますけれども、最後に原沢先生と新澤先生にコメントをいただきたいと思います。
○原沢委員 非常に話題豊富で勉強になりました。いろいろ質問したいことがあるんですが、1点だけ。
15枚目のマルチステージ・アプローチですが、これは先ほど亀山委員からいろいろな衡平性確保のアプローチがあり、多分10以上あって、そのまた組み合わせがあるので、相当いろいろな組み合わせになってしまう。そういう中でマルチステージというのは実現性の高いアプローチで、その際に、途上国を対象にしたときに、データの問題が非常に大きいのではないかと思うんです。卒業指数をどう決めるか、こうしたいろいろな分析をするにしろ、最終的に政策的に決定するにしろ、データ面での不足は結構多いんじゃないかと思うので、現状と今後の見通しを教えていただけらと思います。
○三村委員 じゃ、お2人にお話をしていただいた後で。
○新澤委員 私も同じところなんですけれども、マルチステージの考え方でいくと、一人当たり所得がある程度にならないと、自らの負担での排出抑制は無理であるという考え方ですと、一体いつごろになるんだろうということなんですね。2050年とか資料2と比較すると、一人当たりのGDPはかなり差があって、中国の現在の成長が仮に続いたとしても、話にならないほど遅いということになった場合には、戦略論としてどうするのかということ。
マルチステージは大変わかりやすくて、それ以外ないだろうなと、一人当たりGDPがある程度にならないと難しいだろうなと思うんですけれども、それが遅いということになったら、そこから先の話は、私も松橋先生とほとんど同じ視点を持っているんです。
○三村委員 明日香先生、最後に簡単にお答えいただければと思います。
○明日香委員 まず、データの問題ですが、第一ステージは削減義務なしので、データが少ないところは削減義務はないし、その間にいろいろインベントリーを集めてくださいということかなと、単純に言えばそういうところかなと思います。
新澤先生のご質問ですが、具体的にはRIVMの出している報告書を読んでいただけるとわかりやすいかと思うんですけれども、どの国がどういう指標、域値で考えると、何年ぐらいから入ってきて、どれだけ減らさなければいけないかと。そのときにトレーディングをするとどの国がどれだけもうかるかという計算は既にされています。そこら辺はFAIRというモデルがあって、そこの変数を変えるとどうなるかというのはすぐできますので、ある程度シミュレーションができると思います。
中国に関して言えば、それこそ域値の話なんですけれども、いろんなバージョン、パターンが考えられると思います。そのときに大きな問題になるのは、今あるいろんな枠組み案のどれがいいとか、どれが悪いとかいう比較をするときに、中長期目標を決めているんですね。例えば2150年に650ppmで安定化させると。そうするとバジェットはこれくらいだと。それを全世界の国に対してこういうルールで分配するとこうなりますと。そういうような研究の仕方だと思います。
そのとき前提になるのは、お尻のバジェットを決めて例えばブラジル提案だとどうなると、コントラクション・コンバージェンスするとどうなると、マルチステージはどうなったと、どの国がどれだけ削減しなきゃいけないか、削減コストがマージナル・アベートメントカーブを計算すると、各国のGDPの何パーセントぐらいになるかというような計算もされています。ですから、いろんな計算はされていて、あとは交渉次第というんでしょうね。中国とか云々ではなくて、一人当たりの排出量なり一人当たりのGDPがここまできたらというので単純に分ける話なので、そこで中国だからという話をしちゃうと中国はかたくなになってしまいますし、これは税金と同じようなルールだと言えば従わざるを得ないと。先進国としては公平なルールだからというので議論をするしかないと。そのルールを先進国も受け入れるというスタンスで交渉をするのが一番理想だと思います。もちろん、それが現実的に可能かどうかはなかなか難しいとは思います。
○三村委員 どうもありがとうございました。
それでは、まだいろいろご意見、ご質問があろうかと思いますけれども、時間も過ぎておりますので。
本日は非常に多面的な面でご発表、ご意見をいただきました。この専門委員会の第二ステージの枠組み制度の構築の第1回目としては非常に充実した中身で議論をさせていただいたと思います。
最後に、次回のこと等について事務局からご説明をお願いいたします。
○水野国際対策室長 次回のスケジュールでございますが、次回は10月5日、火曜日、10時から13時までを予定させていただいております。場所はまだ決まっておりませんので、決まり次第ご連絡させていただきたいと思っております。
以上でございます。
○三村委員 ありがとうございました。
それでは、この辺で本日の議論を終えたいと思います。
本日の議事録については、事務局で取りまとめていただいた上で、これまで同様後日皆様に確認をお願いすることになっておりますので、よろしくお願いします。
それでは、きょうはどうもご苦労さまでした。ありがとうございました。
午後 1時05分閉会