中央環境審議会地球環境部会第2回気候変動に関する国際戦略専門委員会議事録

開催日時

平成16年5月31日(月) 13:30~16:30

開催場所

環境省 第一会議室

出席委員

(委員長) 西岡 秀三
(委員) 明日香 壽川  甲斐沼 美紀子
亀山 康子  工藤 拓毅
住  明正  高橋 一生
高村 ゆかり  新澤 秀則
原沢 英夫  松橋 隆治
三村 信男  横田 洋三
 

議題

1. 気候変動による影響と適応について
2. 中長期的な目標の設定について
3. その他
  

配付資料

資料1  気候変動による影響と適応
資料2  「中長期的な目標」の設定について
参考資料1  中長期目標に関連した報告書の概要
参考資料2  EUロシアサミット終了後の記者会見(京都議定書関連)

議事録

午後 1時30分開会

○牧谷国際対策室長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから気候変動に関する国際戦略専門委員会第2回会合を開催いたします。
 それでは西岡委員長、よろしくお願いいたします。

○西岡委員長 はい。それでは、会合を開催したいと思います。
 最初に、前回ご出席いただけなかった委員の方のご紹介をお願いいたします。

○牧谷国際対策室長 それでは、私からあいうえお順でご紹介をさせていただきます。
 高橋委員でございます。

○高橋委員 よろしくお願いします。

○牧谷国際対策室長 高村委員でございます。

○高村委員 よろしくお願いいたします。

○牧谷国際対策室長 松橋委員でございます。

○松橋委員 よろしくお願いいたします。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 今日は5月の31日ということで、衣がえには1日早いのですが、もう住先生の話によると、やはりかなり温暖化が進んできているということで、まず1日早く背広を脱がせていただきまして、皆さんも気軽な服装で会議に参加していただきたいと思います。
 この専門委員会ですけれども、第1回は主として温暖化の科学的背景ということで、今の科学の知見がどこまで進んでいるかということについての話があり、それについての討議があったわけでございますが、本日はお手元の議事次第にございますように、今度は気候変動による影響はどうなんだと、あるいはそれに対する適応策をどう考えるかというのが1つ、それからそういうことを踏まえて中長期的な目標をどう設定するのかということに対するイントロダクションというところが本日の主な議題でございます。
 また、本日は、アースポリシー研究所所長のレスター・ブラウンさんがお時間をとって、こちらに来ていただけるということで、30分ぐらいの短い時間でございますけれども、審議の途中でレスター・ブラウンさんからお話をうかがうことを予定しています。
 本日は16時30分まで、一応3時間という長丁場になっておりますけれども、ひとつよろしくお願いいたしたいと思います。
 それでは、まず資料の確認ということで、事務局の方からお願いします。

○事務局 それでは、資料の確認をさせていただきたいと思います。
 まず、お手元の資料の確認をお願いしたいのでございますが、議事次第がございます。上から座席表、それから資料1が「気候変動による影響と適応」ということで、新澤先生が用意してくださった資料です。資料2が「「中長期的な目標」の設定について」ということで、これは亀山委員が用意してくださった資料でございます。それから、参考資料の1ということで、「中長期的目標に関連した報告書の概要」を用意しております。それから、参考資料の2で「EUロシアサミット終了後の記者会見」ということで、後ほど簡単にプーチン大統領の発言をご紹介させていただきたいと思います。
 それから、委員の皆様方には第1回の議事録をお手元に配付させていただいております。そのほかの皆様方におかれましては、ホームページからアクセスできますので、ご参照ください。
 それから、また委員の皆様方には次回の専門委員会、第3回会合を7月の中・下旬に予定しておりますので、そのご予定の伺いということで1枚紙を置かせていただいております。この委員会の終了までにご記入いただきまして、その場に置いておいていただければと思います。
 それでは、参考資料の2ですが、ご参照いただけますでしょうか。
 去る5月21日にEUロシアサミットがモスクワで開かれまして、その場でプーチン大統領が京都議定書に関連して発言をしております。京都議定書の発効が待たれる現在、プーチン大統領の発言が注目されてきたわけですが、この中でプーチン大統領が大きく3点に分けて述べておりまして、1点目はロシアは京都プロセスに賛成し支持する、しかしロシアが引き受けることになるコミットメントに関して幾つかの懸念を有しているというのが第1点。それから、2点目がロシアは幾つかのリスクを含んだ問題に一度に対処せねばならなかった、それはEUの拡大、WTO加盟交渉、それから京都議定書だということを第2点目として言っております。それから第3点目ですが、EUはロシアのWTO加盟交渉に関する間に幾つかの点について譲歩をした、これは必然的にロシアの京都議定書に対するポジティブな態度に影響を与えるだろう、ロシアは京都議定書の批准に向けて取り組みを加速化させていくということを言っております。
 それで、我が方といたしましては、プーチン大統領の発言はこれまでよりは前進があったというふうにとらえておりますが、一方で議定書に対する懸念というようなことも同時に述べておるものですから、これからも注意深くロシアの動向というのを見守っていきたいというふうに考えております。
 以上です。

○西岡委員長 はい、どうもありがとうございました。
 資料等の不足がございましたら、申し出てください。
 それから、議事録につきましては、皆さんの目を通していただいておると思いますけれども、さらに何かございましたらまたお願いいたします。
 それでは、最初の議題に入りますけれども、最初の議題は気候変動による影響と適応についてということで、原沢委員からご説明をお願いいたします。約60分お願いしておりますが、レスター・ブラウン氏がいらっしゃるのが大体2時45分ぐらいということで、約1時間ございます。原沢委員の説明の後、質問に入っているかもしれませんけれども、途中で打ち切ることがあるかもしれません。
 それでは、よろしくお願いします。

○原沢委員 国立環境研究所の原沢です。前回に引き続きまして、今回は気候変動による影響と適応ということでご報告をいたします。
 私の話の中では、気候変動、気候変化、温暖化という言葉は少しニュアンスが違うのですけれども、ほぼ同じ意味としてお話ししたいと思います。では、次お願いします。
 今日は、気候変動の影響の現状、影響研究の一つの前提であります気候シナリオ、その後、前回もお話ししました5つの大きな影響分野ごとに少し詳しい話、そして最近話題になっております影響の閾値とは何か、緩和策と適応策のベストミックスについてお話ししたいと思います。では、次お願いします。
 影響、適応、脆弱性の関係ですけれども、温暖化の影響を研究するとき、気温さえ計っていれば温暖化の影響がわかるはずというような話があったんですが、いやそうではなく影響はシステム、この場合ですと自然生態系ですとか社会経済システム、そこに外力、気候変動、あるいは人間活動が入ってきます。一方システムの方はシステム固有の感受性、あるいは抵抗力を持っていますし、ある程度その状態が進むときには適応する能力を持っています。この2つを両方考えることで、システムの外力に対する影響として現れ、これを脆弱性と呼びます。ですから、気温だけ計っているのでは、こういった影響についてはっきりわからないということがわかります。次お願いします。
 では、気候変動の影響の現状ということで、次お願いします。IPCCの第3次報告書の一つの大きな影響のトピックスは、もう既に温暖化の影響があらわれているということです。ただ、温暖化の影響を科学的にどう判定するかという問題がございまして、前回お話ししましたように、気候変化の場合、温暖化しているかどうかという温暖化の検出と、もし温暖化しているとするならば何が原因かという、原因究明が求められます。
 同じように、温暖化の影響が出ているとするならば、影響が出ていることを確認して(影響の検出)、その影響の原因は何か、原因究明をしなければなりません。科学的に同じプロセスを踏まなければいけないということになります。過去50年間の温暖化は人間が起こした可能性が非常に高いという一つのメッセージがあったわけですけれども、それを踏まえまして、既に温暖化が進んでいるのであれば温暖化の影響は出ているはずだということで、2,500ぐらいの研究論文を集めまして、それを丹念に調べて、最終的には50ぐらいの研究事例に絞って、温暖化の影響が出ているか出ていないかを科学的に判定したということでございます。
 IPCCがとった科学的な基準は、例えば表示している点について、温暖化の影響が既にあらわれていると判定した地点ですけれども、1つは影響の出ている生態系ですとか氷河について、20年以上の長期のデータがあること、もう一つは、温暖化の影響をもたらす原因としては、気温とか降水量があるんですけれども、降水量についてはなかなか記録もなかったりしますので、特に気温について取り上げて、気温と、当然気温が上がると変化すべき現象を確認することで、その2つを基準にして判定をしたということでございます。
 具体的に例で言いますと、極域では氷が薄くなったり、山岳地帯では氷河が後退したりというようなことが科学的にも明らかになっています。この地図自体には、先ほどお話した50ぐらいの点が打ってあるんですけれども、北米とヨーロッパにはかなり点の数が多いんですが、アジア、例えば日本には点はないんです。これは影響があらわれていないということではなくて、影響があらわれているとする研究の論文がないということです。そういう意味では途上国には、もっといろいろな影響が起きているはずなんですけれども、科学的にそれを判定しているような論文がなかったということでございます。
 日本につきましては、桜の開花等についての、50年ぐらいの非常に長いデータがあり、解析も当然していたわけですけれども、IPCCの執筆者に伝わっていなかったこともありますので、次期の第4次報告書には日本のいろいろな影響の出現に関する論文を取り上げていただけるのではないかと思います。次お願いします。
 具体的にどんな影響が科学的に観察されているかということですが、先ほどお話ししました氷河の縮小とか永久凍土の融解、河川・湖沼の氷結期間の短縮、中・高緯度では植物の成長期間の延長とか、動植物がだんだん極方向に移動している、あるいは高地へ移動したりする、あとは生育数の減少ですとか、先ほどご紹介しましたが、桜の開花といった樹木の開花時期の変化、昆虫の出現とか鳥の産卵が早まるということが検出されています。次お願いします。
 これは2001年に環境省で発表した影響の報告書に記載されているものですけれども、日本でも明らかに桜の開花時期が早くなっており、大体50年で5日ぐらい早まっています。あるいは、後で紹介します高山植物が減ったり、あるいは移動している。さらに、チョウや、トンボ、セミの分布域がだんだん北に上がってきている。よく引かれる例はナガサキアゲハがだんだん北上しているという話、あるいは今までは南方系のクモが関東地方に現われたり、あるいはマガンの越冬地がだんだん拡大したり、最近ですと海が暖かくなったということで、大阪湾で熱帯産の魚がとれるようになったというようなことがございます。
 そのほかにも新聞にはいろいろな事例が挙げられているわけですけれども、一つの重要な点は、人間の活動の影響も入っているということでありまして、温暖化と人間活動の影響をどうやって仕分けるかは科学的には非常に難しい点であります。ですから、日本の影響研究者は、IPCCの判定基準である非常に長いデータがあって、かつ気温との関係が非常にはっきりしている事例について、影響の検出研究を進めております。次お願いします。
 例えば、これは京都のソメイヨシノの例ですけれども、3月の気温がだんだん上がってきていまして、ソメイヨシノの開花時期が早くなっています。今年は1週間ぐらい早くて、昨年は平年どおりだったのですが、2年前は10日から2週間早かったという状況ですので、温暖化がどんどん進んでまいりますと、桜が咲かなくなる可能性ですとか、北の方が先に咲いて後から南の方が咲くという、桜にとってみても非常に混乱するような状況が起こると考えられます。次お願いします。
 影響の研究を進める際には、前提となります将来の気候値が必要です。そういう意味では気候シナリオが重要になってくるわけですけれども、前回お話ししましたように、気候モデルの予測の結果を使いまして、それで影響予測をやるということになります。次お願いします。
 ただ、影響研究に至るまでには、今お話ししました気候モデル研究が進まなければいけないし、それ以前に、気候モデルの前提となる排出シナリオ、将来の人口予測とか経済はどうなるといった条件の設定が必要になります。真ん中にあります影響研究でどんな気候モデルの結果を使ってきたかを考えますと、まず排出シナリオがあって、それを受けて気候モデル(GCM)の計算がされます。そのGCMの計算結果を使って影響を予測するということですから、大体2、3年のタイムラグがあるということになります。
 IPCCは、影響研究と気候モデルの研究、さらに排出シナリオの研究について、同時期に進めたいという希望があったわけですが、なかなかそうもいかないということで、少なくとも気候モデルの結果を影響研究ですぐに使えるような体制にしたらどうかということで、データディストリビューションセンター(DDC: Data Distribution Center)をイギリスとドイツにつくりました。最新の気候モデルの結果をそこにストアしまして、それを影響研究者が使えるようにしたことにより、当初は気候モデルの研究グループ、影響の研究グループ、あるいは排出シナリオの研究グループはそれぞれバラバラに研究を進めていたんですけれども、IPCCの努力によっていろいろなグループが協力しながら研究を進めているという現状です。
 ただ、影響研究につきましては先ほどお話ししましたように、タイムラグがあるということで、現在でもまだダブリングCO2、いわゆるCO2の2倍時点の影響を検討していたり、一方では排出シナリオとしてSRESシナリオという新しいシナリオをもとに気候モデルの計算をしており、そうした計算結果も出始めておりまして、そういった最新の予測データを使って影響研究をやっているイギリスのグループもあります。影響研究につきましては、1世代前のCO2の1%増加といったような実験の結果を使ったり、特に途上国ではまだCO22倍時点の気候モデルの結果を使っていたりということで、気候モデルの成果がなかなか影響モデルに反映されていないという実態もあります。次お願いします。
 今見ていただきますのは、東大気候システム研究センターと国立環境研究所の共同で開発した気候モデルの計算結果の例です。A2というタイプの将来シナリオの計算結果です。気温が高い赤いところがだんだん増えてきていると同時に、さらに黄色くなるということです。地球全体の平均気温という形でお話を進めていますけれども、地域的によると、北の方ほど、あるいは南の方ほど気温上昇が高いということです。ですから、日本は小さくてよく見えないのですけれども、九州よりも北海道の温暖化による気温上昇が高いわけです。影響面から言いますと北の方ほど影響は深刻になるだろうということがわかります。
 これはA2の将来予測値ですけれども、前回もご紹介しましたように、全部で6つ将来像がありますので、6つの計算結果が出てまいります。
 そのほかにもイギリスの研究グループの計算結果があったり、あるいは先ほど紹介しましたIPCCのデータセンターから、世界の7つの研究機関からのデータを提供しております。どのデータを使って影響研究をやるかというのが一つの大きなポイントになってきますが、そういう意味ではこの5、6年の影響研究を進めてきて一番難しいのは、どの気候モデルの計算結果を使っていくか、どの排出シナリオの計算結果を使っていくか、ちょっと悩ましいところがございます。
 最新のSRES排出シナリオに基づいた気候モデルの結果を使うのが、今の段階では一番よろしいのですけれども、まだいろいろな研究所が計算を終わっていないので、一つのモデルだけによるということは影響研究では難しいところもありまして、基本的には複数の気候モデルの結果を使って影響を計算し、その結果を解釈するというような形での研究が進められております。次お願いします。
 具体的に影響予測に入ります。次お願いいたします。
 これは、前回見ていただきましたものですけれども、左側が第3次報告書に載せられております気温の変化予測です。2100年の段階で1.4から5.8℃で、それを影響面から大きく5つの分野で解釈するとどうなるかということで、脆弱なシステム、極端な気候現象、あるいは悪影響の分布、世界経済の影響と破局的な事象です。右に行くほど非常に深刻な影響をもたらす現象になると思いますし、赤いほど影響が大ということであります。気温上昇が2℃から3℃ぐらいの範囲であれば、一部の地域、あるいは一部の分野でいい影響が出る可能性もありますけれども、それ以上になると深刻になってくる、余り早い温暖化ですと破局的な現象が起きる可能性もあるというお話をしたかと思います。5つの分野ごとに影響関係でどんなことがわかったかをお話ししたいと思います。次お願いします。
 まず、安定化濃度と影響ということで、IPCCの第3次報告書には安定化濃度についていろいろな検討がされております。それを影響面で評価したということですが、ちょっと見づらいのですけれども、450ppmの場合、550ppmの場合、750ppmの場合、かつ気候モデルの方のばらつきといいますか、気候感度も考慮しまして、気候予測の下限での影響ということで、例えば550ppmですと大体下限で2℃ぐらいの気温上昇、一方上限を考えますと5℃ぐらいの気温上昇ということで、先ほど見ていただきました5つの分野でそれぞれどういうことが言えるか、影響がどうなるか、を叙述的に書いてあるので、余り差がわからないんですけれども、こういった安定化濃度と影響についての検討もIPCCの第3次報告書に記載されておりますし、後でご紹介しますように、IPCCの第4次報告書でもCO2の安定化濃度と影響については一つの大きな問題として取り上げられております。次お願いします。
 まず、脆弱なシステム、温暖化の影響として一番問題なのは自然生態系への影響であります。次お願いします。
 これは環境省の推進費研究でやられたものでありまして、例えば一番温暖化の影響を受けやすい植物の中でも、高山植生は一番脆弱だということです。これはアポイ岳、北海道の800mぐらいの山ですけれども、そちらにヒダカソウという高山植物で非常に貴重な種類が咲いております。ヒダカソウの分布域の下にハイマツが生えておりまして、そのハイマツがどうも最近上がってきているということです。これは現地調査の結果ですけれども、低い標高から高い標高に行きますとハイマツの樹齢がだんだん若くなります。ということは若い木ほど上の方に来ているということで、この辺の判断はなかなか難しいのですけれども、それをもってハイマツがだんだん上の方に上がってきているという判断を専門家がいたしました。幅を持たせて予測しておりますが、1年間にハイマツの上昇速度が0.4から2mぐらい。ヒダカソウが生えております高山草原は30mから640mで、温暖化の進行が早い場合は30年ぐらいでヒダカソウが消滅するかもしれないという予測が出ております。
 ただ、残念なことは、アポイ岳は非常に多くの方がレクリエーションで入ってこられて、中にはヒダカソウそのものをとっていってしまう人がいるということがあるものですから、気候変化だけでなくて、そういった人間の活動の影響が入っていること、また温暖化の影響という形で研究をしてまいりましたけれども、自然保護等の問題も出てきております。温暖化の影響が現実化してきたということが、自然保護の方ともつながってくるという事例であります。次お願いします。
 一方、日本全国ブナという樹種があるのですけれども、このブナも温暖化しますと大分分布域が狭められるということで、例えば2℃全域で上がった場合にもかなり分布域が小さくなりますが、北海道では広がってくるようなのです。先ほどお話しました東大気候システム研究センターと国立環境研の気候モデルを使った計算ですが、これは1%の漸増シナリオですけれども、この結果を入れますとブナそのものがなくなってしまうということが予測されています。
 ブナにつきましては、日本の代表的な樹種ということで、例えば北山のブナは、シイナと呼ぶらしいんですけれども、なかなか再生産できないようなことになりますので、日本全国のブナの動向を見ていく必要がある、問題として見る必要も出てくるんではないかと思います。次お願いします。
 2番目は、極端な気象・異常気象の予測ということであります。次お願いします。
 第3次報告書のときは、異常気象は、一旦起きますと非常に多くの方が亡くなったり、生態系がやられたりするものですから、非常に話題としては大きかったんですけれども、異常気象と温暖化の関係はまだよくわからないことがあったり、あるいは影響研究で異常気象のシナリオを使って影響評価をやるというようなことがなかったものですから、いわゆる概念的な整理にとどまっております。
 そこで出されたのがこの図ですけれども、例えば横軸に時間をとりまして縦軸に日最高気温をとります。そうしますと、日最高気温はばらつきながらだんだん上がっていくという状況で、これまで温暖化は平均的な値を想定して影響評価をやってきたわけですけれども、どうもばらつきがだんだん大きくなるかもしれない。そうしますと、ある一定値(閾値)を考えますと、一定値を超える数がだんだん増えてくる。すなわち、異常気象の発生が増えてくるということが考えられます。
 ただ、全球的に異常気象が増えていると判断できるだけの観測データがなかったり、また気候モデルの方も異常気象の予測というところまでできないということもあるものですから、今の段階ではこういった概念整理にとどまっておるわけです。
 例えば分布で表しますと、現在の分布はこういうような気温の分布をしていまして、将来さらに分布がシフトしてこういう分布になったとしますと、ある高温の閾値みたいなものがありますと、現在に比べてかなりリスクは高まることがわかります。実際これが起きているかどうか、今いろいろな研究所で研究を進めているわけであります。次お願いします。
 IPCCの第3次報告書ではどんな異常気象現象があって、どういうことが言えるかと、真ん中に現象の変化があり、左に観測値から言えること、右に気候モデルから言えることがまとめられています。例えば、一番下には熱帯性低気圧、いわゆる台風の平均降水量とか最大降水量が増加するという科学的な知見がありますが、観測値からはまだ十分なデータがないのではっきり言えない。ただし、将来予測される変化につきましては、気候モデルの研究が進み、幾つかの地域で可能性が高い、いわゆる台風、あるいはサイクロンが変化する可能性が高いというようなことがわかってきた。
 幾つかの地域はどこかという話ですが、具体的に言いますと、アジア地域はこの地域に入っております。アジア地域については、異常気象と温暖化の関係については第3次報告書に少し踏み込んだ記載をしておりますが、第4次報告書、2007年にまとめる報告書には、異常気象の変化についてさらに確信度の高い知見が得られるのではないかと思います。次お願いします。
 これは前回も示しました2003年のヨーロッパの熱波ですけれども、既にその研究レポートが何本か出ております。影響の方ではWHOの報告が出ております。フランスでは1万4,800人ぐらいの方が平年に比べて追加的に亡くなったというお話をしたんですが、先ほどお話ししましたように、現在の気温の分布は、これは将来イギリスの気候モデルを地域に落とした地域気候モデルを使って計算した事例ですけれども、分布そのものが高い方にシフトするとともに、分散、ばらつきは大きくなる可能性を示しています。まだ1例しかありませんので、はっきりしたことは言えないのですけれども、単に平均値が高い方に移動するだけでなくて、ばらつきも幅広くなる。幅広くなった分だけ極端な異常気象の現象が起きる可能性もあることを、この研究は示唆しているということです。
 次お願いします。
 実際いろいろな極端な気候現象、あるいは異常気象が起きた場合にどういう影響があるかということで、基本的には第3次報告書でかなりしっかりまとめられています。極端な単純現象、もともとの英語はsimple extreme eventsということで、extreme events、異常気象の中には非常にシンプルな、例えば日最高気温が上がったり、日最低気温が上がったりという例もあれば、台風とかエルニーニョのような複雑な現象があるということで、そちらはcomplex extreme eventsというタイトルになっております。次お願いします。
 これは先ほどお話ししました極端な複雑な現象の場合です。ただ、気候モデルの方、あるいは気象の方からも、モンスーンですとか台風ですとか、断片的にしかわかっていないということもありますので、影響の方もそれに対応する影響事例を集めて表にしているということです。
 いずれにしても、異常気象が起きますと、影響が大きいものですから、影響関連の第2作業部会では、異常気象について関心が高いということでございます。次お願いします。
 異常気象の予測といいますか、影響ですけれども、そこを見ますと、台風の数は減るけれども、中心の風力等は増大する可能性がある。エルニーニョが発生しますと各地に異常気象をもたらすということですけれども、エルニーニョに似た現象が気候モデルの実験で再現できた事例が増加しています。洪水の頻度、規模が増大し、異常高温の頻度、規模が増大します。
 ヨーロッパにつきましては、気候変化によって、ヨーロッパ南部については洪水が増えるとか、ヨーロッパ全体で高温が発生するというような記載があるんですけれども、昨年のように非常に極端な現象が起きるというところまではIPCCも予測できていないというところがあります。
 といいますのは、今までの影響予測は大体平均的な状況における影響だったのですが、それに加えて異常気象の発生とそれによる影響が重要になってきたということです。次お願いします。
 3つ目は悪影響の分布です。地理的な分布という意味ですが、まず農林水産業についてです。
 農林水産業への影響ですが、世界の影響をお話しますと、日本はどうかというのを聞かれまして、日本だけお話ししますと、世界がどうかと聞かれますので、世界と日本を併記する形にしています。特に世界につきましては、IPCC第三次報告書のSPM(政策決定者用の要約)の知見を持ってきております。概要をお話しします。特に食糧、あるいは穀物につきましては、第2次報告書の場合も人口増加を考えても、大体穀物はとれるので大丈夫だという、報告でしたけれども、最近の第3次報告書では、人口が増加しても大体農作物の収量は技術革新ですとか、あるいはCO2の肥沃化効果等を考えて、ほぼとれるかもしれないけれども、例えば熱帯地域で高温障害とか、あるいは水不足が発生するので、生産量は減少する。そうすると、とれるところととれないところが出てくるので、それを平滑化するのが貿易、あるいは穀物市場ですけれども、途上国はお金がないので、穀物価格が上昇した場合に買えなくて、それが原因で飢餓も発生するかもしれない。いわゆる温暖化の影響は、国際マーケットを通じていろいろ国に影響する可能性があるということです。
 日本では1993年、これは冷夏だったのですけれども、米が7割しかとれなくて米不足でパニックになりましたが、このようなことが将来的に日本でも起きる可能性を示唆しております。
 日本では、農業の場合は気候が変わりますと、変化した気候に自分たちをうまく合わせる工夫をいろいろしておりますので、米の生産量はそれほど変わらないのではないかと言われていますが、ただ雑草とか病虫害の効果が入っておりませんので、そういったものを考えると、もしかすると減産になるかもしれないということです。
 さらに、日本の場合は、自給率が非常に低くて、もしほかの国が影響を受けると間接的に日本も影響を受けるので、食糧安全保障といった面も温暖化の影響では重要な部分になってきています。次お願いします。
 こちらは国立環境研究所でやった研究の例ですけれども、現状のコムギの生産量をあらわしています。将来、適応なしのケースで温暖化して高温、あるいは水不足といったことで、とれる地域が少なくなっております。ところが、品種を変えたり、あるいは種をまく時期など耕作時期を変えたりすることによって、被害を避けることができる、いわゆる適応のケースです。世界中でこういった研究が進められておりまして、穀物への影響、さらに食糧安全保障という点から貿易モデルを使った研究などが進められております。次お願いします。
 これはイギリスの事例ですけれども、新しいSRESシナリオを使いまして、その気候の予測結果を使って穀物にどういう影響があるか予測をしたものです。総合的な研究で、SRESシナリオのうち、例えばA2につきましては3つシナリオをつくっております。これは、気候モデルの計算をする際に少し条件を変えて計算した結果を使うということで、A1についてはFIというシナリオ、A2については、3つ条件の異なる計算をして取り入れていますし、B1については1つ、B2については2つ計算をしております。青が2020年、黄色が2050年で、ピンクが2080年ということで、温暖化が進むにつれて穀物生産量に影響してくるということになります。
 こちらはCO2の肥沃化効果がある場合と、CO2の肥沃化効果がない場合です。なぜある場合とない場合をやるかといいますと、実験室レベルではCO2の肥沃化効果はかなりあるということですけれども、第3次報告書では現場、実際の農地では実験室レベルの肥沃化効果が出ないかもしれないということがあり、影響面から肥沃化効果をなしとした場合とあるとした場合の両方を計算して比較するということです。これは穀物生産量への影響で、肥沃化効果があっても、なくても、やはりかなり減少するということになります。
 ただ、縦軸のスケールの肥沃化効果がない場合、こちらは400とか、こちらはまた1けた小さくなっておりますので、肥沃化効果はあった場合でも被害が出ますけれども、なしの場合に比べるとかなり、1けたぐらい小さくなります。こうして世界中の穀物生産の計算ができます。次お願いします。
 今度はそれを貿易という形で食糧の需給がなされるわけですけれども、この場合はIIASAというオーストリアの研究所が開発したBLSという貿易モデルを使って、穀物価格という形で表しています。そうしますと、CO2の施肥効果がない場合、かなりやはり価格が上がってしまう。価格が上がりますと、途上国は買えなくなりますので、そういった影響が食糧安全保障上出てくるということであります。次お願いします。
 これが最終的に飢餓人口という形で、何人そういった人たちが出るかという図でありまして、CO2施肥効果がある場合に比べ、ない場合については飢餓人口のリスクは上がるということですが、一方CO2施肥効果を最大限見積もると、かえって飢餓人口が減ることもあるというような結果になっています。
 こういった食糧の安全保障面での研究も進められておりますが、まだ世界で1つ2つぐらいの研究グループがやっているという状況です。次お願いします。
 農林水産業の一つに林業があるわけですけれども、これは森林総合研究所がやった研究で、人工林、例えば関東地方のスギ林は枯れているということで、乾燥ストレスと高温ストレスが影響していることがわかりました。それで、温暖化が進みますとこういった人工林にも影響するということで、乾燥ストレス、特に降水量との関係でまとめたマップですけれども、この赤から黄色いところは危ないということです。高温だけを考えてみますと、やはり南の方が非常に危ないということです。こういった研究が行われています。次お願いします。
 次は水資源への影響です。次お願いします。
 水資源につきましては、現在でも水不足の人々が多いということで、それが2025年には50億人ぐらいになり、温暖化すると水不足の人口がさらに増えるということです。日本ではなかなか水資源の問題というのは降水量の予測がまだ気温に比べると非常に不確実性が高いということで、日本でこういった検討をするまでの精度がまだないのが現状でして、ただそうはいってもいろいろ工夫して研究をしています。
 例えば、雪解けが早くなるので流況の変化がある、すなわちピークが前倒しになるということです。降雪量が減ってくる。あとは3℃気温が上がりますと上水の需要が3%ぐらい増加するかもしれない。次お願いします。
 降水量の予測そのものがなかなか難しいということですけれども、いろいろな気候モデルの結果に共通して言えることは、中東、地中海沿岸、南アフリカ、オーストラリアで乾燥化する、一方、東南アジアは洪水が多発するというような点で気候モデルの予測結果は共通しています。まだ降水量の予測、あるいはそれを踏まえた河川流量の予測をやっていますが、その不確実性がなかなか下がらないというような状況であります。次お願いします。
 次は海面上昇、あるいは沿岸域への影響ですが、次お願いします。
 海面上昇の場合はシナリオといっても海面が幾ら上がるかというのが重要な要素ですので、例えばこの例ですと、40センチ海面が上がりますと被害人口は7,500万人から2億人、これは適応策の違いによってこれだけ幅がありますので、個別的な研究も進んでおりまして、エジプト、ポーランド、ベトナムでは数百億ドルの被害が発生すると予測しております。
 日本では10年前ぐらいに海面上昇の研究が進んでおります。この委員会の委員であります三村先生が中心になって、砂浜は1m海面上昇しますと90%ぐらいなくなるとか、あるいは1m海面上昇の被害を防ぐために、堤防を整備したりするのに7.8兆円必要だというような、そういったような計算が行われています。次お願いします。
 これは先ほどお話ししました44cm海面上昇した場合ですけれども、海面上昇と高潮の影響も含めて考えておりますが、さらに堤防をつくった場合とつくらない場合というような、いろいろな適応策の検討をしております。これは、適応策を施さない場合の影響人口でありまして、例えばこの青いところはこの沿岸沿いで5,000万人以上が影響を受ける、アフリカや、日本も含めた東アジアについては1,000万人~5,000万人ぐらいが影響を受けるというような計算結果が出ております。
 健康への影響ですけれども、次お願いします。
 健康への影響につきましては、2種類ございまして、1つは直接的な影響では熱波などによる影響、間接的な影響では感染症の影響ということです。特に感染症につきましては現在でも3億5,000万人から5億人マラリアの患者がいて、温暖化が進むと5,000万人から8,000万人増加するということで、日本にいるとマラリアの怖さはなかなかわからないんですけれども、熱帯、亜熱帯の地域の人々にとっては非常に脅威であるということです。さらに、コレラなどの感染症が増加すると思いますし、気温が上がれば大気汚染とかアレルギーなどの複合影響も増加するということであります。
 また、西南日本ではマラリアが発生してもおかしくない環境になる可能性があるとされております。
 これは東京の例ですけれども、病院に搬送される熱中症患者が、日最高気温が30℃を超えますと増えてまいります。特に日最高気温が35℃を超えると極端に熱中症患者の数が増えるということで、そろそろ本格的に熱波の対策を大都市でとらないといけないところにきていると思います。次お願いします。
 これはマラリアの潜在的な感染地域です。潜在的といいますのは、そういう条件になったらマラリアが起きてもおかしくないという地域ですから、実際に起きるかどうかはその地域の衛生状態ですとか、蚊とマラリアとマラリア原虫の3者の密度によるということで、温暖化の影響が現われてくるということです。
 現在のCO2時と2倍のCO2時の比較です。2倍のCO2時は2050~60年ぐらいの状況ですけれども、黄色い部分がだんだん北の方に上がってきているというのがわかるかと思います。西南日本がそういった地域にかかわってきます。次お願いします。
 世界経済への影響ということで、次お願いします。
 温暖化の影響の場合は、異常気象の問題のほかに温暖化の影響の経済評価がいつも話題になっております。ただ、全然研究事例がないわけではありません。これは1990年代に温暖化の影響を見積もった事例であります。全球レベルで見積もっておりまして、どんな手法を使うかといいますと、統合評価モデルを作って、温暖化の影響についてそれぞれの項目、例えば被害がどうなるか、生態系はどうなるかというのを関数として入れて、最終的には地球全体のGNPがどれぐらい影響を受けるかを予測しています。例えば人命が失われたときに人命の価値をどう評価するか、あるいは自然生態系とか多様性がなくなったり、あるいは減少したりするのをどう評価するか、いわゆる環境の価値づけという問題がなかなか解決できておりません。次お願いします。
 日本でもそういった影響の経済評価の事例があります。ただ、物理的な影響に比べますとまだまだ事例が少ないということです。次お願いします。
 温暖化の影響の経済評価の問題点を簡単にまとめますと、1つは方法論の問題があります。先ほど、統合モデルを紹介しましたけれども、大体経済評価の一般均衡とか部分均衡モデルを組み込んだモデルでありまして、そちらに環境の価値を関数として入れ込む。環境の価値づけについては最近いろいろな方法が使われていますけれども、ただ生態系の価値づけにつきましては、仮想評価法、CVMと言われるような方法ぐらいしかないという状況です。さらに、社会的な費用の推定につきましては、割引率の問題ですとか、そういった費用を見積もる方法自体にも不確実性があるという話で、さらに影響の推定や解釈についていろいろあるということが書いてあります。例えば、影響に関する科学的な予測の差、あるいは予測された影響の解釈の仕方、例えば、被害人口をどう見積もるか、何をもって被害人口とするかというような話です。影響に対する琴線的な評価額の差ですとか、市場的な影響評価及び生態系、これも既にお話ししました。あとは適応といったものを自動的にとる場合であれば、被害は異なってくる。さらに副次的な便益も発生しますので、そういったものを織り込むいろいろな理由を述べておりますけれども、影響の経済的な評価の研究が少し遅れている状況です。
 ここはなぜ重要かといいますと、後でこの委員会でも問題になりますような、いわゆる削減策のコストとどう比較していくかというときの一つの指標としては、経済的な、いわゆる金銭評価が重要になってきています。次お願いします。
 続いて破局的な事象です。次お願いします。
 今どんなことが話題になっているかですが、1つは温室効果ガスが急に放出されて、それが原因でまたさらに温暖化が加速するというような問題です。永久凍土が急激に融解してメタンが放出する。たまたま17日ですけれども、永久凍土などの影響に関する報告書がロンドン大学(ユニバーシティーカレッジロンドン)から出されております。かなり影響があるという報告でした。
 さらに南極、あるいはグリーンランドの氷床が融けるという話がありまして、ただIPCCの第3次報告書では、グリーンランドが融けるのは1,000年単位のオーダーで徐々に解けるという話があったりするんですけれども、こういった現象については今後の科学の進展が期待されているということであります。次お願いします。
 これは前回もお話ししました海洋大循環の崩壊、停止ということで、「デイ・アフター・トゥモロー」という映画は、海洋大循環が止まって、世界が寒くなるという話のようですけれども、こういった大規模な極端な現象は、それがすぐに起きるとは限らないんですけれども、温暖化の影響からしますと起きると大変なことになりますので、こういった破局的な事象が、研究の対象になっています。ヨーロッパ、あるいはアメリカの研究者はこういった現象に注目して影響研究を進めております。実際海洋大循環が止まるか、止まらないかを気候モデルで検討している事例もあるようです。次お願いします。
 気候変動の影響の現状と予測をまとめますと、温暖化の影響は既に検出されているということで、特に脆弱な雪氷、あるいは自然生態です。温暖化の影響は、気温上昇が小さい段階ではある程度利益を得るところもあるけれども、ある気以上では悪影響が卓越する。特に熱帯・亜熱帯の途上国は影響を受けやすく、かつ深刻である。温暖化は中長期的な影響を与えるとともに、短期的にも異常気象の発生頻度や規模が変化する可能性が高い。破局的な事象につきましては、21世紀中に発生する確率は小さいと見積もられているけれども、速い温暖化はそうした現象の発生確率を高める可能性がある。
 そういう破局的な事象を大規模な事象とか、最近ではサプライズというような言葉が使われているようですが、用語としてもまだ定着していないようです。破局的な事象も影響面から重要になってきたということで、多くの研究者が関心を持っておりますし、特に気候モデルのグループ、あるいは現象のグループ、かなり密に連絡をとって研究しなければいけないということであります。次お願いします。
 影響の閾値ということですが、物理的な影響につきましてはかなりいろいろわかってきました。経済的な評価はまだなかなかわからないのですけれども、安定化濃度、いわゆる気候変動枠組条約第2条の究極的な目標を達成するためにはどうしたらいいか。影響の閾値というものがポイントになっております。
 2週間前に、これはIPCCのワークショップがアルゼンチンでありまして、三村先生がそちらに出席されています。その概要をお話ししたいと思います。次お願いします。
 危険な水準のとらえ方については、なかなかこれまで体系的な検討がなされていなかったのですけれども、やはり危険な水準はいろいろなレベルがある。例えば温室効果ガスの排出量をどこまで下げたらいいかという話がありまして、次は大気中の温室効果ガスの濃度、例えばCO2の濃度が何ppmまでだったら大丈夫なのか、これが気候変動枠組条例の究極的な目標であります。大気中のCO2の濃度から今度は気温上昇を計算して、気温上昇が何度までだったら耐えられるのか。
 その気候変動の影響としてはいろいろあります。例えば、自然生態系のうちのサンゴ礁は1℃の上昇でも危ないですし、3℃までなら大丈夫な植物とかもありますので、影響の閾値が重要になってきます。
 最終的に大気中の安定化濃度を求めることは、影響の閾値がある程度わかってきて、それをバックキャストといいますか、逆に見ていくことによって大気中の濃度が550ppmがいいのか、650ppmがいいのかという議論が必要になる。ただし、何ppmがいいかを決めるには、価値判断が入りますので、それは科学のやることではなく、政策決定者が決めるべきなので、科学者としてはこれに関するいろいろなデータを出していくこと、またそれがIPCCの基本でもあるということです。次お願いします。
 鍵となる影響分野は何かということで、5つの懸念分野が大事です。さらに、極端な気象現象と大規模な現象も重要な話題です。では、どの指標をどう定量化するかは、市場の影響、人命損失、多様性、収入とか生活の質が重要です。これはシュナイダーという温暖化では有名な研究者が発表したことを書いています。計算は、世界規模の影響をやっていますが、危険にさらされる人口が重要です。
 温暖化の影響の場合、指標として何を使ったらいいかということを議論しているわけですが、どうも一つの指標、例えば金銭だけで影響をはかることもできないし、多分幾つかの指標の組み合わせ、特にリスクというような考え方が重要になってくる、そういう指標自信の検討も必要になってきます。
 危険な水準の判定につきましては、もう既にお話ししましたように、価値判断を含むことになります。ですから、価値判断を含む問題と科学的な知見の問題をどうやって切り分け、かつうまく連携していくかが重要になってきますし、価値判断に対して判断材料を与えるというのが科学の役割だろうということです。
 さらに、影響閾値そのものが受ける側の適応力によって変わってくるし、さらに国や地域によっても異なるということであります。次お願いします。
 気候変動枠組条約第2条の危険な人為的な干渉ということをどう考えていくか、概略、影響の大きさとその影響がどこまで許せるかという許容度からなるのではないか。大体こういった図式がいろいろな国の戦略をつくる場合の基礎になっているようです。悪影響をどの程度受け入れられるかということは、意思決定者の価値判断に依存するので、科学はそれに資する資料をいろいろ出していく必要があります。
 IPCCの第3次報告書では、何が危険な人為的干渉であるかは示していませんが、かわりにその判断に際して有用な影響の大きさに関する知見を示しています。基本的にはIPCCの第4次報告書の方針もこういうことになるのではないかと思います。次お願いします。
 この人為的な干渉の定義については、幾つかの報告書の中で取り上げられております。例えば、ドイツ連邦の諮問委員会の報告書では、広域にわたる深刻な影響もしくは全球的観点から見て重大な地域影響の蓄積を引き起こす気候システムへの人為的干渉を「危険な人為的干渉」としています。スウェーデンはこれです。
 こういった危険な人為的な干渉の定義そのものをどうするかも一つ大きな話題かと思います。次お願いします。
 ドイツの諮問委員会の報告書では、どういう影響閾値を扱っているかという、その事例をお話しします。
 1つは生態系への影響を考えています。サンゴ礁では1℃ぐらいでも危なくなりますが、ほかの生態系はもう少し温度上昇に耐えられることもあり、いろいろなものがあります。よって、どの生態系なり種を基準にして考えたらいいのかが問題となります。次お願いします。
 一方、食糧生産に関しましても、大体2℃ぐらいが閾値になっているのではないか、その閾値を中心に議論を進めたらどうかというような話があります。次お願いします。
 水の場合はさらに閾値が下がってきます。1.5℃から2℃ぐらいで水の問題の分かれ目になってくるのではないか。ですから、こういった将来の戦略を考える上で、科学的な議論の一つとして閾値をどこに設定していくのか。影響の閾値がさらに大気中の気温上昇の閾値になります。それがめぐりめぐって安定化濃度の閾値になっていくので、こういった科学的な知見を総合化して検討することが必要ということになるわけです。次お願いします。
 これはイギリスのパリー先生が出した図です。一つの方法としては統合モデルのような統一的なモデルをつくって、そこでいろいろな要素の変化を見るという方法と、分野ごとの影響を一つの図に落とすということをやった例がこれです。具体的に言いますと水不足リスク、マラリアリスク、飢餓リスク(食糧)、あと沿岸洪水リスクということで、IS92Aという将来的に現在の世界が続いた場合の状況を想定し、これを比較ケースとして、例えば750ppmであればどれぐらい影響が出る、あるいは550ppmであればどれぐらい影響が出るかということをプロットしたものです。
 例えばIS92Aという現在の状況が将来続いた場合に比べますと、750ppmという目標を持って政策を進めれば、影響は大体マラリアや水不足についてリスク人工は3割方減るだろう。飢餓リスクや沿岸リスクは大体半減するだろうということです。さらに、750ppmから550ppmにしますと、例えば水不足のリスクがかなり低くなるだろうということがわかります。ただ、新しいSRESシナリオについては現在検討中ですから、あくまでも参考ケースはIS92Aというようなものが基礎になります。次お願いします。
 もう最後になりますけれども、緩和策と適応策についてです。次お願いします。
 これは前回も示しましたように、影響が出るとするならばどうやって対応を打っていくかということで、一番大事なのはCO2を下げること(緩和策)、さらに温暖化しつつあるということに対応するためには、適応策といったものをとっていく必要があります。次お願いします。
 これは簡単に緩和策と適応策をまとめたものです。適応策についてはまだ日本では余り検討が進んでおりませんけれども、温暖化しつつある環境に自分たち、あるいは生態系をどう当てはめていくか、どうやって影響を軽減するかということであります。基本的にはこの両方の対策を組み合わせていくことですが、金銭あるいは経済的なものだけでは比較できない状況にありますので、温暖化の影響の方はリスク、あるいはいろいろな指標を組み合わせるという形で検討していく必要があるかと思います。次お願いします。
 適応策については、これは第3次報告書に出ているのですけれども、2つ種類があります。1つはanticipatory、事前的あるいは計画的という意味でありまして、あらかじめ対応するような話です。一方、起きてしまってから対応するような適応もありまして、こちらはreactive、こういう適応策について検討を進めることが必要ではないかということであります。次お願いします。
 適応の種類と事例ということで、例えば水資源の場合ですと、水利用の高効率化、あとはダムなどの構造物をつくる。すなわち現在のいろいろな政策、あるいは対策も、適応策と位置づけられるし、我々は暮らしの中でいろいろな工夫とか経験がありますので、そういったものも適応策と言うことができます。また、さらに都市計画とか自然災害への対応は、ほとんど適応策と言ってもいいぐらいですので、うまく温暖化の適応策については主流の対策に組み込んでいくことが重要ではないかと思います。次お願いします。
 これが最後です。4の閾値の問題と緩和策と適応策のまとめですけれども、どの濃度/気候安定化目標を選択しても、目標達成のためには早急に大規模な排出削減努力が必要である。2番目は、排出削減努力を推し進めてもある程度の影響は不可避であるので、これについては適応を考える必要がある。排出削減対策による気候変動・影響の緩和と同時に、適応対策による被害軽減を行うことも重要です。こういった3つのことが影響研究から言えることではないかと思います。
 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

○西岡委員長 どうもありがとうございました。ちょうど冒頭に申し上げましたように、レスター・ブラウン氏がおいでになりました。今、原沢委員のご説明は、後半を簡略化してお話しになったところもあるかと思いますので、質問はブラウンさんの講演の後に時間を設けておりますので、そのときにお願いしたいと思います。
 ご承知のように、レスター・ブラウンさんはワールドウォッチ研究所というのを1974年に設立されて以来、「地球白書」という日本語の訳名になっておりますけれども、有名な書籍を出版され、毎年30年以上にわたり地球環境問題についての警鐘を鳴らしてこられると同時に、多くの提言をなさっておられます。本日は、ブラウン氏から温暖化の影響などについての話をお伺いできるということになりましたので、ここで30分ぐらいの間、皆さんにお話を聞いていただこうと思っています。大体15分ぐらいお話しいただいて、その後、皆さんから質問がありましたら、質問を受けつけたいと思います。
 それではブラウンさん、お願いいたします。

○レスター・ブラウン(通訳) きょうはお招きいただきまして大変にありがとうございます。スケジュールの関係上、非常に私の話は簡単ということになりまして、かいつまんだ部分だけをご説明したいと思っております。
 詳細に関しましては、私が出版しました新しい本、あるいは私どもの関係上のウェブサイトを見ていただきたいと思います。
 私ども環境に携わってきている研究者たちが、長年にわたりまして常に問題視してきたことが、今のような傾向が続いていけば、これから様々な問題が起こってくる、しかし、明確でないのは、それがどういう質の問題なのか、いつその問題が起こるのかということだったのですが、最近、明確になってきましたのは、まず食糧の問題が起こってくるだろうということでありますし、食糧の値段が高騰するだろう、しかもそれがこの一、二年のうちに起こってくるだろうということが明確になってきました。
 ここ数年間、穀物の生産高は大変減少してきているということは、皆様よくご存知だろうと思います。この30年間で穀物の在庫量、備蓄というものが非常に少なくなってきております。
 ここでの問題は、今年はどうだろうかということの見通しで、ほとんど一致した世界的なコンセンサスができつつありますが、今年の穀物の収量というものが非常に落ち込むだろうというふうに考えられております。これは5年間減作でありまして、今年の末までに恐らく在庫量も今までになく下がり、これまでの最低レベルになると考えられています。
 農民の方たちにとりましては、2つの直面する問題があると。1つは水の問題であります。それから、もう一つが気温の上昇ということであります。これは最近起こったことで、これまでに経験のない問題であるかと思います。
 水の問題というのはまた別途お話するといたしまして、現在、平均気温がこの30年間ずっと上昇し続けているということがございます。0.7℃の上昇ということで、特にこの6年間の上昇は非常に高いということであります。
 それから、IPCCによりますと、この温度の上昇幅でありますけれども、21世紀に入りましてからの温度の上昇幅は、実際の歴史上の最後の氷河期から今日までの上昇幅に相当するほど大きなものであるということであります。
 実際に国際的な研究所、それからアメリカ農務省が出しましたこのような温度の上昇の影響、すなわち収量に対します影響でありますけれども、これは作物の生育期間中の適作地にあって気温が1℃上昇すると、収量は10%減少するということがわかっています。
 それから、2002年でありますけれども、世界の穀物生産量が消費量を下回ったということでありまして、この年、非常に大きな干ばつがインド、アメリカを襲いました。このときの実際の生産量は最低レベルになったということなんです。生産量としましては、9,000万トンということでした。
 実際に昨年、2003年でありますが、アメリカ農務省からも実際の推定で発表があったわけですけれども、この年はヨーロッパにおきまして非常に強烈な熱波が発生いたしました。6月と8月であります。実際に8月の熱波によりまして、9月の世界の穀物収穫量の月間推定が8月の推定よりも3,500万トン低いという結果になりました。これは実際にアメリカの小麦収穫量の半分に匹敵するほどの減少だったわけでありますが、これの原因が8月のヨーロッパの熱波だと言われております。
 このような環境の中で、中国が実際に穀物の市場に参加してまいりました。今後も中国の輸入量が大幅にふえるということがございます。実際にこの5年間にわたりまして中国における収穫量が7,000万トン下がってきたと。それが5年間減少してきたということで、これはほぼカナダの収穫量全体に相当いたします。
 これまでは中国はまだストックを持っていたわけですけれども、このように生産量というものが中国自体、非常に減ってきた。それによりまして備蓄も枯渇してきた。ということは輸入せざるを得ないということで、この数カ月を見ましても、オーストラリア、カナダ、アメリカにおきまして、中国が実際にそれらの国から輸入した量というものは700万トンに上っています。恐らくこれからの経過を見てみますと、これが3,000万トン、4,000万トン、5,000万トンに増大していくのではないかというふうに見ています。
 実際に、このように中国が国際的な市場に参入してくると、すなわち輸入を続けていくということになってまいりますと、特に今年予想されておりますように、穀物の世界全体の生産量というものが非常に少ないと、この30年間でも最低レベルになるだろうという場合に、大幅な穀物の価格の高騰というものが考えられる。そうしますと、当然輸入に依存しているような国々、途上国などにおきましては、これが非常に大きな不安定要素になるということがございます。
 中国自体でまだそれほど多くの問題を抱え込むことはないわけでありまして、貿易黒字がございます。これが大体1,200億ドルというふうに言われております。この額を使いますと、アメリカの穀物の生産量の倍ぐらいの量を実際に買いつけることが十分可能です。
 このように、品目ごとにとりましては穀物の高騰などによって、これは非常に経済的に大きな影響があるということで、世界全体の経済のシフトに対しましても非常に大きな影響がある。そうしますと、今後、環境的なトレンドというものを一切無視できないような状況になっていくだろうと思います。
 それでは、何ができるかということですけれども、私の「プランB」の本の中でも書いておりますけれども、これは京都議定書をさらに強化するというような提案になると自分では思っておりますが、カーボンエミッション、二酸化炭素の排出というものを2015年までに実際に半分に削減するということです。このような状況、すなわち温度は上昇する、収穫量はどんどん減っていく、それからそれによりまして食糧の価格というものが上がるということになりますと、当然その結果としまして消費者の方から炭素の排出量をとにかく減らそうという動きが出てくるだろうと考えられます。
 いかに排出量を削減するかということの提案ということで、まず1つですけれども、これからの3年間の間に非効率的な電球を効率的なものにしていく。すなわち電力消費量を3分の1にしていく。これによりまして、実際に供給している石炭を主体とした火力発電所からの燃焼というものを大幅に削減することができます。
 それから、アメリカの例でありますけれども、実際に現在の非常に非効率的な燃料消費型のアメリカの車を今後10年間の間にトヨタのプリウスのような形にするということになれば、ガソリンの消費量を半分に抑えることができます。
 それから、供給サイドでありますけれども、これはヨーロッパにおきまして実際に風力による発電というものを使うということで行いますと、現在におきましても4,000万という消費者が実際に風力で電気を使っているわけですけれども、2020年までにヨーロッパの人口の半分。それから、もっと最近の調査によりますと、ヨーロッパ政府が実際にこのような風力エネルギーの目標をさらに高く推進するということで、2020年までにすべての家庭用の電気というものを風力エネルギーによって賄うことができるという試算が出ております。
 なぜ毎年30%ずつ風力発電が伸びてきたかという理由を3つ挙げますと、1つはやはり豊富である、それから安い、それから無尽蔵に広くいろんなところにある、それから健康に対しまして決してマイナスにならない、そういういい影響を与えると。
 これからのことを考えますと、市場が正確な情報を出すということが大事です。なお、我々消費者、あるいは政府の政策決定者や、あるいは地主、すべてが経済的な決定をするということで、これは経済的な真実が何かということを知らされなければいけない。実際には市場からは非常に間違った情報というものが流れて、これによりまして間違った決定というものがされてきている。
 このためには何が必要かといいますと、やはり間接コストというものを計算の中に入れるということです。すなわち化石燃料を使って実際に経済活動を行っていくということで、どれだけの間接コストの問題が起きてくるか。それの一つのモデルとしまして、最近でありますけれども、アメリカでコストトウソサエティー(cost to society)、社会に対してどのようなコストがかかるのかということの一つの例といたしまして、喫煙をするという場合、喫煙に関しましてのコストが2つあります。1つは、病気になって、その病気を治療するためのコスト、もう1つはそれによりまして労働の生産性が落ちるというコストであります。これらのコストというものを考えますと、それが1箱のたばこというものに係るこれらの経費というものが、コストが7ドル18セントという算出が出てきたんです。これは実際の生産コストよりも高いということで、全部合わせますと今のたばこの価格というものの3倍にせざるを得ないだろうというコストが出てきます。
 それでは、実際に1ガロンのガソリンを燃やすとどういう結果があるかというような研究の中で、一つの調査の研究というか、試算結果が出ているんですけれども、バングラデシュで実際に1m海水域の海面が上昇するということになりますと、これによりまして実際に耕作地の半分というものが水没してしまうということで、それによる難民が4,000万人というふうに試算されております。そうしますと、バングラデシュの4,000万人の難民を100万人ずつでも受け入れる可能性がある国がどれだけあるかということで、これは非常にドラマチックな一つの例かもしれませんが、やはりこれだけ経済によりまして引き起こされるコスト、天候に被害を与えるコストというものがどれだけ高いかということに、直面せざるを得ない時代になってきています。
 このために何を行うかといいますと、やはり環境的に化石燃料を実際に燃焼させたということによる環境コストというものを、炭素税というような形で税金として製品などに盛り込む、それによって市場に出すと。すなわち、収入による所得税というものは引き下げられる、しかしそのかわりにこのような炭素税というものが導入されるということで、税制自体をリストラクチャリングするという考え方です。
 これは「プランB」の中でも私は書きましたけれども、どのようにして経済をサイエンスにするか、それよりましてどのように温暖化を安定化させていくかということなんですけれども、1945年のルーズベルトの年頭教書演説の中で、実際に今後これだけ兵器、それから戦車等々でありますけれども、どれだけ武器というものを生産するかという、非常に広大な量の目標が掲げられました。それまでは自動車産業が注目期に入りますけれども、不況の時代にとって実際の生産の大きな依存先になっていたわけですけれども、その後これが非常に短期の間に塗りかえられたということで、実際に1942年から1945年というのは一切自動車というものは生産されなかった、民間のための自動車は生産が禁止されたわけです。
 これは一つの例でありますけれども、このようなことが実際に必要になって実行するのは10年間とか、あるいは1年間もかからない、数カ月の間にすべての経済の仕組みというものをリストラクチャリング、再編成するということが可能になったわけです。ですから、世界の現在の経済というものの大勢も見てみますと、これだけ非常に難しい問題が山積している場合、やるということさえ決定されれば、その実現性というものについても十分に可能である、必ず実行できるというふうに考えています。
 以上ですが、質問をお受けしたいと思います。いかがでしょうか。

○西岡委員長 どうもありがとうございました。
 それでは、質問をどうぞ。横田先生。

○横田委員 アメリカは京都議定書に参加しないと言っています。ブラウン博士は、アメリカが京都議定書に参加するようにするために、どの様な革新的且つ具体的な提案をお持ちですか。

○レスター・ブラウン(通訳) 恐らく1941年の12月6日の直前でしょうか、戦争を実際にやるかどうかという調査を行い、恐らく反対が8割はあったんじゃないかと思います。12月の7日になったらこれが逆転して、戦争肯定派が8割だと。それだけ短期的に、非常に大きく政策的にも変わるというような、一つの例であります。ですから、何か行うという場合にそれだけ正しい情報、実際に現在の状況は非常に厳しく、温暖化を安定させなければならないということなども、正確な情報が流されれば、それだけ市場の消費者を管理することもできます。

○西岡委員長 どうも有り難うございます。では、他の質問を高橋委員、どうですか。

○高橋委員 どうも有り難うございます、ブラウン博士。シンプルな質問ですが、博士が述べられた初めの部分、食糧生産に関係する点について伺います。博士が示唆されるポイントは日本の農業団体に極めて前向きに受け入れられています。日本社会全体における変革の主要な問題の一つとして、環境問題への取り組みがありますが、博士のご意見は、この強力な農業団体に対して、非常に強いアピールとなっています。現在日本の政治は改革推進に困難を極めていますが、これが博士の我々に対するメッセージと捉えても良いでしょうか。世界的な食糧不足の傾向を強調した警告、つまり食糧不足により食糧の値段が高騰する、これが我々に一番伝えたいメッセージなのでしょうか。日本が今進めつつある社会変革は非常に厳しい状況にありますが、世界的な食糧生産不足の傾向を鑑みて、日本はこの変革を止めるべきでしょうか。

○レスター・ブラウン(通訳) 日本の食糧の生産を減少させるということは、私は同意できないということであります。日本は現在の穀物の7割を輸入されているということで、これは食糧安全保障上、非常に大きな問題だと思います。少なくともコメに関しましては現在自給されているというふうに聞いておりますが、この自給だけは今後も維持されるということが重要ではないかと思います。国際的な圧力がかなりあると思いますけれども、しかしその中でもコメだけは死守されるということが重要だろうということです。これは安全保障上からの問題であります。
 もう一つは、日本におきましてコメの生産に関しましての助成金の問題でありますが、これはある意味で申し上げますと、やはり世界の現在非常に厳しくなっている穀類、それから食物の生産の減少という問題に対しまして、日本が助成をすることによりまして生産を応援しているということは、世界全体の食糧状況に対しての一つの貢献ではないかというふうに思っております。
 本日は専門委員会へご招待頂きまして、誠に有り難うございました。皆さんのお考えを伺うことは非常に興味深く、もう暫くご質問にお答えしたいのですが、次のスケジュールがおしていますのでこの辺で失礼させていただきます。どうも有り難うございました。(拍手)

○西岡委員長 それでは、先ほどの原沢さんの説明に対する質疑を少々やりまして、それから休憩に入りたいと思います。質疑の時間を約15分から20分ぐらい用意しておりますので、もし何かございましたらどうぞ。
 はい、どうぞ。

○高橋委員 非常に勉強になりまして、私にとりましては大体午後のこの時間は眠いんですが、全然眠気を催しませんで、エキサイトして聞いておりました。
 質問は、やはり気温の上昇が何らかの、例えば生態系の変化をもたらしたときに、その変化が起こることによってさらに変化が加速していくような場合と、それから変化が起こることによって諸種のいろんなものもまた2次的3次的に変化が起こってきて、バランスを戻す場合と、両方当然のことながら考え方としてあると思うんですが、そのうち特に危険なのは変化を加速していくような変化が一時的に起こった場合だと思うんですが、そのあたりの峻別がどこかなと思って一生懸命伺っていたんですが、ちょっと私にははっきりしませんでした。恐らくこの報告書の中をよく見ればあるんだと思うんですが、そのあたりを学ばせていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

○原沢委員 今のご質問は、前回触れたところもあるんですが、例えば植生は気候を安定化するという意味とCO2に影響を与えているという意味で、非常に重要な役割を果たしているんです。現段階では植生全体としてはCO2のシンク(吸収源)になっているわけですけれども、気温上昇がだんだん上がってまいりますと影響をだんだん受けてきます。特に水の問題と気温上昇のいわゆる高温障害がおきますと、植生が普通の状況ではなくなって、ある段階で一斉に枯れてしまう。そうしますと、例えばCO2が大気中にまた大量に排出されて、いわゆるフィードバックがかかるというような話がありまして、それについては全球レベルでのダイナミックな植生モデルをつくって、今研究を進めているようです。
 2050年ぐらいを境にして、これまで森林とか植生がCO2の吸収源として働いていたのが、その段階から温暖化の影響が出始めて放出源になってしまう。そうしますとさらに温暖化を進めて、どんどん悪い方にいくという話です。
 現在、植生モデルも検討していますが、ある環境になったときに、そこにこういう植物がいるはずだという、潜在植生という形の研究をやっていたのですが、最近はダイナミックな植生同士のインタラクションを入れたようなもので、例えば広葉樹林と針葉樹林の競合も含めるモデルができておりまして、そういったモデルの結果を見ますと、やはり2050年ぐらいを境にどうも植生のリアクションが変わってきそうだと、いい方向ではなくて悪い方向に変わっていきそうだというような報告が増えております。
 日本について見ますと、やっと潜在植生のモデルの結果が出始めていて、今お話ししたような、例えば広葉樹林と針葉樹林がインタラクションしながら動いていくようなモデルはまだできておりません。それがグローバルではかなりそういうことがわかってきたけれども、ローカルなレベルで、例えば日本で森林がどうなるかというような話は、潜在植生の研究にとどまっているという状況ではないかと思います。

○西岡委員長 ほかにございましょうか。はい。

○住委員 こういうコストを挙げて、経済的なところというのはいかにもいかがわしいとは言いませんけれども、何ぼでもなるような気がするわけです。恐らく我々気候モデルの側が言われている以上に、経済モデルなんかほとんど当たったためしがないわけですよね。そうすると、そんなものごちゃごちゃというか、なるようにしかならないんじゃないかみたいな、そういう批判とかありますよね。その辺に対して現在の経済力ならどうかというような。
 例えば、前のIPCCの第2次報告書でも、要するに人命の価値で何もせずに死んだら 5,000万でもあげるといったほうが安くつくと、そういう議論がありますよね。結局、そういう経済効率みたいなマーケットに関してもさっきからそうだけれども、経済効率的なコンセプトと人間の価値観みたいな、結局2つの相入れないような価値を議論しているような気がして。だから、非常に落ちつきが悪いような印象があるんで、その辺は全体でどんな状況なんですか。

○原沢委員 私も住先生と同じような感じであるのですけれども、先ほど適応策と緩和策と、両方あるというお話をして、適応策についてはこれまでずっと影響の方に関係してきたんです。適応策を打つと影響が軽減される。影響側によく要求されるのは、金銭的価値、被害額を求めなさいと、適応策を幾らお金をかけたらどれだけ被害が下がるかを求めなさいということです。ずっと言われてきていて、それにまだ答えられないんですね。一番大きな問題としては、環境の価値づけとか人命の価値づけというのができるかということを問われているのと同じ話です。
 ですから、適応策と緩和策のベストミックスという話をたまにするんですけれども、同じ土俵でまだ議論できない状況です。ただ、対策の方のIPCC第3作業部会の方は、対策を打ったら幾らかかり、どこまで二酸化炭素を下げられるかということを、不確実性があったとしてもある程度答えを出してきているので、今の段階としては適応策、あるいは影響の被害はどれぐらいなのか、コストが出れば比較できるよというところまできてはいるんですが、影響の方の被害やコストがなかなかでてこない。もしかするとあと50年ぐらいできるかもしれないんですけれども、ただグローバルな見方ではそういったものを出しているところがあるということで、影響面からするとかなりグローバルでわかってきましたので、ローカル、例えば日本でどうかとか中国でどうかというお話になってきたときには、さらに経済という面からはなかなか評価できない話です。
 影響関係では経済をやっている方が全然いないんです。ですから、経済学者に入ってきていただいて、影響研究者と一緒にやる。これまで気候モデルと影響グループが別々にやってきたんですが、最近一緒にやるようになったんですね。ですから、影響グループは今後経済学者と協力しながらやっていくことによって、統一的な指標で議論をする方法でいくのか、もう一つは影響の方はリスクとかいろんな指標があるので、それはそれとして多次元の評価をしてうまく対策の方の金銭的なインプリケーションができるような方向に持っていくのか、そういうところではないかなと思います。今、IPCCの第2作業部会の影響があり、リスクというものを前提にした指標化をして、金銭にはかえられないものについてはリスクで評価して、もちろん堤防のコストとか、そういったものは、ある意味でダメージを減らすという金額で評価できるので、そういう影響、利害、適応策を、多面的な評価をして、それで緩和策の方においてもうまくやっていく方向にいくのではないかと思います。
 ただ、おっしゃるとおり、影響関係は経済評価をやれということをずっと言われていたのですけれども、まだこれはやられていないし、それは本質的に難しい問題が重なっているわけです。ですから、ちょっと発表の中でも価値判断というのをサイエンスとしてみたらどうかという問題も含めて、非常に大きな問題だと思いますが、IPCCとしては基本的には緩和策と適応策なり影響被害を同一次元で議論できるような方向に行きつつある。その一つの代表的な手法が金銭であるし、影響の方からはリスクであったり、リスク人口といった影響人口であったりするようなところで、多次元の指標をつくって考えていこうとしていると思います。

○西岡委員長 はい、何かございますか。

○明日香委員 すみません、IPCCの方向をもうちょっと教えていただきたいんですが、2℃なり1.5℃なり、そういう数字がいろんなところから出てきて、そのようなイメージを持っている方が多いと思うんですが、多分その数字を軸にこれから議論すると思うんですけれども、IPCCとしましてそのような議論をサポートする方向にあるのか、それとも方向にないのか、そこら辺の議論。先ほど価値判断はしないと言いつつも、多分したいと思っている人もいらっしゃると思いますので、そこら辺の内部の力学なり方向性を端折って結構ですので教えていただければと思います。

○原沢委員 今のご質問は非常にIPCC、あるいは影響研究にとって重要な質問ですけれども、IPCCは原則的にポリシーレバレント(Policy relevant)、政策に関連することは扱うけれども、ポリシープレステクティブ(Policy prescriptive)、政策べったりの研究は排除するという方向です。
 今日のお話の中でも、新しい排出シナリオ、これは6つあるんですけれども、そのどれかが起きやすいという判断はしない。言ってみれば、何度になるか、あるいは安定化濃度の何ppmがいいかというような判断はIPCCはしない。あくまでも550ppmであれば何度気温が上昇してこういう影響が出ます、750ppmだとこうですよという、そういう科学的な知見を出して政策判断に役立てていただく、そこまでの役割ということで一線を画しています。
 以前、例えば安定化濃度を解析する際に、350、450、550、650、750、1,000ppmという値を出したんですけれども、1,000ppmを出した途端にIPCCの全体会合で、1,000ppmを使うということはIPCC1,000ppmまでいっていいというお墨つきを与えるのかという議論がありました。
 ですから、あくまでも一つのデータや濃度、気温に限定することなく、サイエンスとしての知識を提供するというところまでを役割としており、そこから先は政策判断ですので、いわゆる価値判断が入ってくるということで、そこまではやらないということは、第1、第2、第3次報告書、第4次報告書もそうですけれども、やはりそこはいつも配慮しているようです。

○甲斐沼委員 1点補足しますと、IPCCの先ほどの原沢先生のご説明に関連して、先日IPCCの脆弱性に関する会議がありました。会議では、危険が生じる閾値をどうとらえるかということが一つの大きな議題でしたが、そこでは不確実性(uncertainty)のリスクといいますか、不確実性をどういうふうにとらえたらよいのかというのが話題になりました。
 そのときに出てきた、たまたま私も参加させていただいていました会議で出てきた話題では、何がデンジャラス(危険)で、どんなリスクをどこまで受けとめられるのかということは、今のところわからないけれども、リスクプロバビィリティー(リスクの確率)という概念で表すことができるという説明がありました。そのリスクプロバビリティーの定義がなにかというのは、私もまだ完全には理解していませんが、10%ぐらいのリスクだったら3℃までに抑えなければいけない、1%ぐらいまでのリスクプロバビリティーを受け入れるのであったら2℃、0.1%ぐらいだったら1℃以下に2100年までの気温上昇を抑えなければいけないという、アンサーティンティー(不確実性)と目標との関係が議論されていました。ちょっとこれは補足ですが。

○住委員 いいですか。前IPCCでやったときに、委員長が言っていたんですけれども、ここが正しいと思うんだけれども、第二次報告書のときはモデルが要するに気候モデルで大体利用される予測値だけではなくて、いろんなファクターを考えても、今のままいくと結構いろんな面で破綻するねと。だから、単にモデルが予測して温度が何度になるから、それが根拠で、例えばいろんなことをしなければというだけではなくて、それが間違っていても、例えばリソースだとか、廃棄物だとか、いろんな要素を考えても、やはり今のままビジネスはユージュアルでいくのはだめだねという、そういうようなリーズニングをしたんだと。だけれども、第3次報告の中では完全にモデルがこうだ、それは正しいか否か。どうも温暖化対策するリーズニングをそこのところに絞り込み過ぎている。
 逆に言うと、このモデルはそんなに信用できるのかと1点さえ崩されると全部が崩れるんで、そういう何かちょっとわなにはまっているような気が若干しているんですけれども、どこまでいったって絶対にモデルが完全でないです。だから、そういうものに持っていって、ほら先わからないでしょう、全部やめましょうというロジックに巻き込まれつつあるような気がして。
 だから、今言われたuncertainty(不確実性)もそうだけれども、それは不可避なんですよね、どれを見たって。そうすると、そういうものがあるんだということを前提にするような考えというか、だからそういうのはもう少し緩いというか、新しいロジックをつくらないとだめだなという気が若干しているのですが。
 それから、防災とかリスクを減らすマネジメントをやっている人の場合、一番つらいのは、日々リスクが減ってくれば、それはリスクが減ってくればありがたいと思うんだけれども、ほとんど来ないリスクなんか減ろうが減るまいが、そんなのほとんどえせ宗教と同じで、何ぼでもやれやというのがあるんですよと僕は思います。
 だから、例えば地震だと阪神・淡路でみんな目の前で見ているから、やっぱり地震て起きたら怖いね、となるでしょう。だから、原爆も戦争が始まったらひどいねって、体感していればそれはなくなるというのはわかるけれども、温暖化のことになると先がちょっと遠いとか。だから、もう少しリスクを減らして原因が出るんじゃなくて、より露骨にもうけが出るみたいな、率直な理論にずれた形で定義していく。例えば、それは逆に言えば温度が上がるような環境の中で新しい世界をつくってくれば、こうした方がよりいい社会になるようにといったら、やっぱり何か言わないと、聞いていて暗いんですよね。何か暗たんたる、もういいや、どうせ死ぬんだからまあいいやと何かぷっつんするような気がするので、だから逆に言うとそれはサスティナブルソサエティー(sustainable society)をどう作っていくかということでしょう。
 だから、ある意味ではこれから人類が21世紀も22世紀も含めてずっとやっていけるような社会づくりをどうするかというふうに言わないと、という気がするんですけれども。

○西岡委員長 はい。

○横田委員 若干今までの議論にも関係すると思うのですけれども、お伺いしたいのは、ご報告で科学的知見をなるべくわかるようにする、そしてそれを一般に知らしめるということになります。その先の政策は、政策決定者がそれを使って決めていくということになるだろうということで一応お話しされたと思います。しかし、現実の状況というのは、環境問題に限らず、財政もそうですし、人間の健康もそうですし、ほとんどあらゆる分野において、科学的な知見が政治的・経済的にある意味では操作されています。これが科学的知見だという形で提示されて、ある方向に行ってみたら、必ずしも科学的知見は正しくなかったというようなことがよくありますね。
 環境の分野でそういうことが繰り返されるのは好ましくないのですが、私がお伺いしたいのは、そういう意味で科学的な知見をできるだけ科学的・客観的にし、できるだけその知識を広くシェアしてもらうようにするという方向について、どういう努力をしているのかということです。あるいは、操作の要素というのはどうしてもあって、我々はいつも注意しなくてはいけないのかという、その点についてご意見をお伺いしたいのですが。

○原沢委員 はい。非常に難しい質問なものですから、うまくお答えできるかわからないんですけれども、先ほどの不確実性とかなり裏腹の問題だと思うんです。現在、地球の複雑な環境を完全にわかるということは、これは私はないと思います。ただ、なるべく不確実性を減らすように観測システムもできていますし、気候モデルも数字を出していますし、影響モデルもできています。
 IPCCでも不確実性は、第3次報告書の場合、個々の作業部会の報告書に入ってはいるんですけれども、体系的に扱っていなかったことがあります。また、不確実性という話は温暖化にまつわる問題として取り上げられており、実を言うと2週間前にアイルランドのダブリンでIPCCの不確実性に関するワークショップがありまして、私も出席したのですが、そこでの議論は不確実性の話としてだけ議論していてもだめで、最近やはりいろんな気候モデル、あるいは排出シナリオの研究でも、結果を確率で出していこうという方向です。それを見せることによって、現在どこまで不確実性が狭まってきていることが、わかるんではないか。全ての研究が確率を扱っているわけではありませんが、積極的にそういったことを出していこうという話になりました。多分第4次報告書は一部確率分布関数みたいなものが、排出シナリオと気候モデルを使った結果として、気温の上昇1.4から5.8℃はどれぐらいの確率でその範囲に入っているかというような情報が、SPM、政策決定者用の要約にも載るのではないかと思います。
 不確実性もIPCCの科学的な知見として評価していこうということになると思います。それでも完全にわかることはなくて、不確実性の下で政策判断をしなければいけないということです。ただ、地球環境問題は回復不可能な現象ですから、やはりそこのところは試行錯誤しながらだとは思いますけれども、ただ世間で問題になっている不確実性を下げる努力をしていますし、不確実性そのものを見せる努力も今回はかなりなされるのではないかと思います。
 ちょっと質問が難しいので、不確実性の話はいろいろ複雑な問題ですので、今、科学的知見がどこまで本当に確かで、それを考慮して政策を打ったときの誤る確率とかうまくいく確率というようなところまでは、まだ研究としては進んでいないのですけれども、IPCCとしては不確実性の原因を明らかにして、そのより定量的な評価をして、それを提供していく、それを見てより良い政策判断に使っていくということですね。
 ただ、IPCCは基本的には科学的なところでやってはいるんですけれども、全体会議(総会)は、各国代表から構成されているので、全く政治的な色彩がないかというと、必ずしもそうではないところがあるんです。それは別として、いわゆる報告書類は、科学的な知見をしっかりまとめていく、いろいろなケースがあるということをまとめていくという、そういう意味では科学の最前線をしっかり伝えていくこともあります。また、IPCCそのものは研究プロジェクトではなくて、あくまでも科学的なアセスメントということで、いわゆる温暖化懐疑派の研究者も積極的に取り込んで議論をしていますし、そういう意味ではいい方に進んでいるんではないかと思います。

○住委員 その確率分布関数をつくるというのは、一見よさそうには思いますけれども、つくるところに仮定が入るというのは、要するにそれは、だから決まっているわけでないので、そこがそれをアクセプトするかどうかのところで割と、だからそれは仮定があるものだということだと思います。
 ただ、非常に大事なことは、どんなに反温暖化の人が頑張っても、CO2が増えれば寒くなるという解はないですよ。絶対的に、どうやったモデルでも出てこない。要するに、問題は1℃ぐらいしか上がらないから、そう何もしなくてもいいよと言っているだけなんですね。彼らの主張の中心は、目先10年は何もしたくないねとか、そういうところなんです。
 だから、今のままで別にそれは自由にやろうと何でもいいですよ。2300年、500年といったら、それは温度は上がるに決まっています。だれでもそれは納得するんです。でも、今の10年はいいね、僕が死ぬまではこのままいこうよと思うか、いや、孫の代までやっぱりという。だから、僕はほとんどサイエンスの側で出せるようなところは出ていると思います。ワーキンググループワーのレベルで出せる情報というのは出ている。
 要は、だけれどもそれに従って身を節するのは嫌だね、やっぱりちょっと楽をしたいね、と思う心を認めるか、あきらめて少しまじめになったらというのでやるか、というだけだと僕は思って、それは対策技術と政治側の問題が今は非常に大きいと思う。ただ、そのためにもモデル、科学知識が一応リーズニングになっていますので、この問題はみんなが大事だと思っているんで、科学にどやされているということがあるので、そのために科学は準備を進めて真剣に努力をする必要があるし、それはメッセージとしてあるんですけれども、その部分が全責任を背負っていて、あとは政策も、行政が言ったからおまえは全責任だよ、ということではないと、僕は思うんですけれども。

○西岡委員長 だんだん時間が少なくなってきました。多分休憩はないと思います。

○甲斐沼委員 一言だけ。今の議論に関してなんですけれども、やはり大事なのは、既に被害が出ているということだと思うんですね。たとえ1℃しか上昇しないというふうになっていったとしても、被害は出ると。もう既に出ているし、1度の場合も何万人の方は人命に危険を及ぼすかもしれないと。だから、どこまで受け入れられるかということだと思います。なので、今のお話にもあったように、どんな不確実性が解消したとしても、人間・人類はかなり大幅な排出削減をしなければいけないと。どんなモデルになったとしても、不確実性と削減しなければいけないということは別の話だと思います。
 あともう一つ、得する人と損する人というお話があったと思うんですけれども、不確実性がなくなったとしても、温暖化対策をする場合は得する人と損をする人はいるんですね。その割合なり人数というのは不確実性ともまたちょっと違う話だと思います。短期的には違うかもしれないんですけれども、長期的にはどんな形でも削減すれば得する人は得しますし、損する人は損をすると。それと、モデルの不確実性なり将来予測の不確実性というのはそれほど関係しないんではないかというふうに思います。

○新澤委員 2つほど質問させてください。ちょっと意外な展開でびっくりしているんですけれども、ある意味で経済評価は若干うさん臭いというお話でしたけれども、経済の方としては自然科学で閾値(スレッシュホルド)が出れば、mitigation費用の多少の大小にかかわらず、それをターゲットにすればいいと考えていたんですけれども。そうではないということであると、ちょっと認識を改めないといけないなという印象を受けております。
 もう一点は、適応、adaptationの話が出てくるロジックを伺いたいんですけれども、adaptationという言葉は大分以前からありましたけれども、adaptationでかなり可能なんだから、費用を安くできるんだから、ミティゲート(mitigate)しなくてもいいよという文脈で出てきているというのが1つ。
 もう一つは途上国、特に一部の国や地域でもう現実にアダプトしなければならない。費用負担の問題が出てきているから、これを詰めろというふうな輪郭で出てきたのか、どっちなんでしょう。

○西岡委員長 短くお願いいたします。

○原沢委員 はい。適応の話は、先ほど紹介したように、影響研究の一環として出てきたんです。被害が既に発生しているのであれば、その被害を軽減しなければいけない。これはCO2を下げることによって気候変動を抑えて、その結果影響が下がるという話もあるんですが、それよりも現実に対応しなければいけない被害が出ている。これは気候変動枠組条約の第2条に、前半には安定化濃度の話があるんですが、安定化濃度を達成したときに、多少生態系や、食糧生産に影響が出ても、許容できる範囲であれば良しとする。そういうことである程度適応により被害を減少できるぐらいのところで抑える必要があることもうたわれているわけです。
 ですから、気候変動枠組条約にはCO2を下げるという対策の他に、適応という考え方も入っていて、それはやはり対策の一つということだと思います。
 この適応策については、適応策だけですべてがうまくいくということはありません。あくまでも削減策を主にして、適応策はもう既に現れている、その被害を軽減するという位置づけだろうと思います。 
今の議論は、適応策と緩和策をどうミックスするかという、今、一番考えておくべき問題のひとつだと思いますし、また適応策については影響から来ている話と政策の方から来ている、いわゆる削減策の方とどううまく折り合いをつけるかというような問題もあったりするものですから、温暖化研究にとっても非常に大きな研究テーマになってきていると思います。

○西岡委員長 まことに申しわけないんですけれども、まず次の議題もこれを含むところがあると思います。先に亀山さんの発表をお願いしたいと思います。用意をお願いいたします。
 実は、今の件は本委員会にとって非常に重要なポイントでありまして、折に触れてさらにいろんな論議をしていきたいと考えております。これについても同じようなことが言えるかと思います。
 それでは、お願いいたします。

○亀山委員 国立環境研究所の亀山と申します。よろしくお願いいたします。
 私の発表は「中長期的な目標」の設定についてということで、時間が押していますので、ちょっとはしょるところもあるかと思いますが、発表させていただきたいと思います。
 流れといたしましては、原沢さんの前回のご発表、そして今日の前半のご発表を踏まえまして、やはり気候変動問題というものは今まで私たち人類が直面してきたいろんな問題とは随分性質を異にしている問題であるというふうに考えておりまして、原沢さんのご説明というのは、今こういう問題が起きている、放っておいたらこうなるというメッセージだったわけです。今、私のやっている研究というのは、では、それに対して私たちは何をしていかなければいけないのかという対策の方面での研究でございます。
 それで、中長期的な目標を設定するということも私たちができる一つの対策の方向なのではないかと考えておりまして、これからの発表はこの目標設定に関するさまざまな業務をまとめたものでございます。次のスライドお願いいたします。
 発表内容は3点にまとめておりまして、まず中長期的な目標設置の意義、なぜ必要かということを簡単に挙げていきたいと思います。2つ目といたしましては、中長期的な目標設定の例、具体的にどのような設定の仕方が考えられるのかということをご説明したいと思います。それから、最後には中長期的な目標設定に関する論点。このような目標設定に関しましてはさまざまな議論がなされておりますので、その議論をまとめてみたいと思います。次のスライドお願いいたします。
 まず、最初の目標設定の意義ですけれども、次のスライドお願いします。
 やはり気候変動問題の特徴というのがございます。例えば、影響が100年単位の長期にわたる問題であるということ、また原因及び影響が地球規模にわたる問題であるということ、予想される影響の大きさ及び深刻さから、人類の生存基盤にかかわる問題であるということ。この具体的な内容につきましては、先ほど原沢さんからご説明があったわけですけれども。つまり、我々が直面している問題というのは、ほかの今まで起きてきた環境問題でありますとか、紛争でありますとか、安全保障とか、そういう問題と違いまして、本当に中長期的な地球規模での環境リスクで、それの管理を私たちが今求められているということであります。次のスライドお願いいたします。
 じゃ、地球規模での中長期的なリスク管理というのを我々はどうやって、やっていったらいいのか、その考え方の幾つかの柱でありますけれども、1つとして中長期的な目標というものを設定してみたらどうか。また別の次元ですけれども、緩和策、つまり排出量の減少に加えて適応策、adaptationが必要なのではないか。これは先ほど新澤先生のご質問とちょっと関係するかもしれませんけれども、これは決してadaptationできればmitigationしなくていいということだけではありませんで、今のところ一番環境保全型の発展シナリオでさえ、一部の脆弱システムや地域は気候変動による悪影響を既に受けておりますので、そこのところはadaptationをしていかなければいけないということでよろしいかと思います。
 それから、国際社会としての価値判断。これは一番難しいところかもしれないんですが、受容可能な影響レベルなどについて各国で認識の違いというものが実際に今見られるわけでして、それにどう対処していくかという問題がございます。次のスライドお願いいたします。
 中長期というふうに先ほどから申し上げているわけですけれども、タイムフレームとしてはこういうふうに考えております。
 まず、長期的な目標というのは2100年より先の話、かなり本当に長期の目標ですが、気候変動枠組条約の第2条の究極目的にありますように、目標というのは長期的な目標というふうに言えるのではないかと思います。それに対しまして、中期的な目標、これが大体2030年から2050年あたりというふうに考えておりますが、これは長期的な目標を達成するための中間地点での目標というふうに考えられます。例えばですが、2050年までに二酸化炭素排出量を50%削減するというような目標設定は中期目標として考えることができます。最後に短期的な目標、これは本当に2010年とか2020年のオーダーですが、例えば京都議定書の削減約束、これは本当に具体的なコミットメントというふうに考えることができます。次のスライドお願いいたします。
 これは気候変動という問題がどういうふうに動いているかというのを図で示したものでして、ピューセンターが昨年12月に出した報告書に載っているものに若干手を加えたものであります。原沢委員の先ほどのスライドにも似たような作品がありましたけれども、ここでは気候変動のサイクルを5つのステージに分けております。ステージ1は我々の人間活動、エネルギー生産でございますとか消費など、まさに私たちのアクティビティーがステージ1であります。ステージ1であるアクティビティーが行われますと、温室効果ガスが排出されます。排出がステージ2と考えることができます。
 そして、排出されますと大気中の温室効果ガスの濃度が変化いたします。これがステージ3であります。そして、大気中の温室効果ガスの濃度が上昇しますと、地球の平均気温が上昇いたします。これがステージ4というふうに考えられます。気温が上昇いたしますと、気候変動による影響が世界のあちらこちらで生じます。これがステージ5というふうに考えることができます。そして、ここの影響が我々人間活動に影響を与えていくということです。例えば、暖かくなったので冷房をつける量が増えますと、また冷房で電力消費量が増えてステージ2に行く、これがくるくる回る、こういう状況になっています。
 それで、前回からいろんなところで不確実性という言葉が出てきたんですが、不確実性の意味というのは実はここに幾つか黒い網かけした部分で書きましたとおり、同じ不確実という言葉を使いながらも、それぞれのステージ間で意味が若干違うんです。例えば、人間活動から排出するという、ここのところが実は余り時間的なラグもありませんし、不確実性もそれほどないわけなんですけれども、ステージ2からステージ3にいくときには若干時間的なラグというものも出てきますし、不確実性というのもここのところ地球規模では炭素を最近どれぐらい木が吸収しているのかとか、海が吸収しているのかとか、そういうところの不確実性が若干でありますが入ってきますし、今度ステージ3からステージ4に移るときには、時間的なラグというのが大きくなりますし、不確実性につきましても放射強制度の大きさ等の不確実性が出てきます。
 ステージ4からステージ5に行くまでにはさらに時間的なラグは大きくなりますし、この先温度が上がると地域的に何が起こるかということは、地域レベルでも違ってきますので、そういう意味での不確実性が高まったと思います。
 ですので、このステージ1、2、3、4、5、すべてのステージにおいて、実は目標というのは立てられるわけなんですが、どこのステージに目標を立てるかによって、そのインプリケーションというのが違ってきます。次のスライドお願いいたします。
 これはIPCCにも出てきているんですが、ステージ間の時間的ラグというものをわかりやすく絵で示しているものでして、ステージ1や2、つまり我々の人間活動によって生じる排出量を短期的に変えたとしても、残るステージ3、ステージ4、ステージ5に与える影響というものは本当に1,000年単位で続くということをこの図は示しております。次のスライドお願いいたします。
 それで、じゃ具体的にどのステージでどの目標を設定したらいいのかということですが、次のスライドお願いいたします。
 ステージ2で例えば目標を設定するとすると、排出経路が目標設定の対象となります。タイムフレームといたしましては、多分短期から中期、2030年から2050年あたりを目標にするのが時間的、スケール的に一番適切であろうというふうに考えられます。
 ステージ3、つまり安定化濃度で目標設定するとした場合には、きっとタイムフレーム的には長期、つまり2100年あたりで立てるのが最も適切であろうというふうに考えられます。例といたしましては2100年までに二酸化炭素濃度を550ppmで安定化させるというような目標が考えられます。
 また、ステージ4、気温上昇レベルで目標設定するといたしますと、きっとタイムフレーム的にはさらに長期、2100年以降が適切であると考えられます。具体的には、例えば将来の温度上昇を2℃以下に抑制するなんていう目標はステージ4に立てた目標というふうに考えることができます。次のスライドお願いいたします。
 皆さんのお手元には参考資料として幾つかの長期目標を分析したものが配られているかと思いますが、それを簡単にまとめたのがこの表でして、既に欧州の幾つかの国では自分たちの国の長期ビジョンを考えていく上で、将来目標というのを実際にもう立てているんですね。それで、その目標に従って具体的な対策というものを議論し始めています。
 それらの報告書が具体的にどういう目標を立てているかというのをちょっと見てみますと、多くの場合、長期の目標と中期の目標を両方立てています。例えばドイツのWBGUでありますと、産業革命前と比較して地表温度の上昇を最大2℃、10年間で0.2℃以下に抑える、あるいは二酸化炭素濃度を450ppm以下に抑えるというような、長期目標を設定すると同時に、2050年までにエネルギー起源の二酸化炭素の排出量を45から60%削減するというような目標を立てています。イギリスもそんな感じです。次のスライドお願いいたします。
 フランス、スウェーデンで似たようなアプローチでそれぞれ目標を立てております。次のスライドお願いいたします。
 これもIPCCのTAR(第3次報告書)からとってきたのですが、ここは我々がもし今後、中長期目標を考えていくとしたら、どういう設定の仕方がいいのか、あるいは450ppm、550ppm、2℃といった数値にどういう根拠があるのかということを示そうとしている図なんですけれども、これは前回の原沢委員のご発表と関係するのですが、排出シナリオというものがそもそもいろんなシナリオを想定しています。それで、その排出シナリオを想定した上で、さらに濃度がどれぐらい上昇していくかというのを考えていくと、これだけシナリオごとに分かれていく。
 さらに、では、気温がそのときどれだけ上昇するのかというと、一つ一つのシナリオごとにさらに幅が広がるというものなので、難しいということを示しているんですね。次のページお願いいたします。
 これもIPCCから出しているんですが、この表は横軸に大気中の濃度をとっていまして、縦軸に気温の上昇をとっています。それで、例えば450にしようとか550ppmにしようという濃度で目標を立てたとしても、気温にそれを換算してみますとかなりの幅があるということがこの表でおわかりいただけるんじゃないかと思うんですね。だから、ドイツやイギリスやフランス、スウェーデンなどで450とか550という目標をppm、濃度で立てているところがかなり多いんですが、それがじゃ何℃上昇を許容しているのかということについては、これだけの幅があるということをちょっとお示ししたいなというふうに思いまして、この図をとりました。
 それで、要するにきっと我々が今後地球規模でリスクを管理していくときに、この幅をどういうふうに解釈するかということを考えていかなければいけないと思うんですね。つまり、この幅の一番上の部分をとって、これを一番超えられない壁というふうに考えようとするのか、あるいは一番下の最低限上昇するここでさえ大変なんだというふうに考えて行動するのか、多分その違いについてどう考えていくかがこれから重要になってくるんじゃないかと思います。次のスライドお願いします。
 これは先ほどお見せした図を表にまとめたものですけれども、結局それぞれの濃度が大体ほかのステージにどのぐらい相当するのかというものを一覧表にしたものでして、一番右には対策コスト、先ほど経済学は余りなってないみたいにおっしゃられた委員の方もいらっしゃいましたけれども、対策コストについてもかなり幅がありまして、これはあくまでも対策コストだけのことを書いてありまして、対策することによって回避される気候変動の悪影響も経済的な価値も入っておりません。次のスライドお願いします。
 それでは、最後に目標設定に関する論点でありますけれども、次のスライドお願いいたします。
 いろんなことが言われますね。450だとか550ppmという目標を設定する人たちに吹っかけられる議論なんですけれども、もちろん1つ目としては科学的な不確実性と社会・経済的要因の不確実性、それぞれが不確実性。ふだん不確実性というと、皆さんこちらの方ばかり考えるんですが、社会・経済的な要因の方だって不確実なわけでして、それをどういうふうに意思決定していくかという問題があります。
 それから、受容可能なリスクや倫理観について各国の違い。先ほどレスター・ブラウンさんは、同じアメリカっていう国だってパールハーバーが起きれば一遍で変わるんだみたいなことをおっしゃっていましたけれども、一つの国だってそれほど変わるわけでして、今現在見たところでも国ごとにかなり気候変動や売り物に対するリスクの認識の仕方が違っているということが言えます。
 このような状況を踏まえて、じゃどういうふうに目標を設定していったらいいのか。これは多分、皆さんが考えている以上にいろんなアプローチというのが可能なんだと思います。例えば、Tolerable Windows Approach、これはドイツが実際にとっている方法なんですけれども、長期目標の達成に至るまでの排出パスとして受け入れられる対策コストや影響レベルを考慮して、幅を持った排出ガスを決定するものなんです。ですから、帯状に目標を設定していくという形であります。
 それからヘッジング戦略、これも単一の長期目標に合意できなくても、一定の幅を持った形で長期目標を念頭に置いて中期目標を設定していく。それで、その目標に外れそうになったときに、中期目標とほとんど変えていくようなシステムをつくっていく。次のスライドお願いいたします。
 ちょっと時間がなくなってしまったので、だんだんはしょっていきますけれども、長期的な目標、中期的な目標とありまして、それぞれきっと目標の立て方というのは違うべきだろうし、違っていていいだろうというふうに考えます。長期の場合は、具体的な義務にするというのは多分適切ではなくて、むしろ指標としての位置づけがいいのではないか。また、単一の目標値、あるいは幅を持った目標値でもいいのではないか。具体的な目標値としては、目標の候補として大気中濃度の安定化レベル、対象ガスはCO2だけなのか、六ガスにするのかといったことを考えていかなければいけないと思います。
 気温上昇レベルにつきましても、最終的な安定化温度というのと、あと上昇速度、つまり先ほどドイツは10年ごとに0.2℃以上の速度では上がらないようにするという目標を立てていましたが、そういう速さの問題もあるんですね。それから対象年、目標、具体的な数値のことを考えていかなければいけないと思います。
 中期的な目標、こちらはまず長期を設定した後で、その長期に至るためにやっておかなければいけないだろう目標というふうに考えることができます。そして、短期目標との接点というふうに考えることができるのではないかと。これも単一の目標値、あるいは幅を持った目標値も可能となっています。同じような問題、具体的なじゃガスはどうするとか、対象年、目標数値ということも考えていかなければいけない。次のスライドお願いいたします。
 まとめですけれども、繰り返しになりますけれども、地球規模のリスクの管理というものが必要であるということの重要性をもう一度述べておきたいと思います。
 長期目標としては、気候変動による、ある程度の影響が不可避の中で、国際社会が進むべき方向と取り組むべき課題を示すために長期目標を立てるのではないかとか、中期目標は長期的な目標の達成に向けたマイルストーンとして炭素制約の具体化ではないか。550ppmと言われてもきょとんとしてしまいますので、もう少し具体的に設定できるのが中期目標ではないかと。
 それから、中長期的な目標設定の論点といたしましては、不確実性や各国の認識の違いをどういうふうに克服していくか、あるいは目標の性格、対象、具体的な数値をどういうふうに決めていくか。この2つが今後もし目標を設定しようと決めた場合に取り組んでいかなければいけない大きな2つの論点としてございます。以上です。

○西岡委員長 はい、どうもありがとうございました。
 そもそもですが、地球環境部会の気候変動に関する国際戦略専門委員会の任務といいますのは、今後言ってみれば京都議定書以降の問題、長期の問題に関して、その戦略をどう立てていくかということに対して、価値観を入れずに今ある状況について報告し、その案を示せということのように受けとめております。
 今まであった議論、これからだんだんと枠組みの議論に入っていくわけですけれども、前回と今回の原沢委員のお話で、科学の面からの枠組みといいましょうか、ここまでは確かでここまではまだ確かでないところ、そして科学の面からこういうことが要請されるというところまで行ったわけですね。これからだんだんと中長期的な目標、あるいは具体的な政策の枠組みについて論議していく段階に入ってきているんではないかなと思っております。
 今の亀山委員の発表につきましては、一番最後におっしゃいましたけれども、例えば中長期的な目標の設定が本当に要るのかどうかも含めて、もし要るとしたらこれまでいろんな国ではこういうやり方でやっている、という説明があったのではないかと思っております。
 今の発表、あるいは前の発表も踏まえまして、少々議論をしたいと思っております。このほかには本日の議事はありませんので、時間いっぱい議論を続けたく思っています。何かご質問、ご意見ございましたら。
 それでは、松橋委員。

○松橋委員 今の西岡委員長のお話と、先ほどの原沢先生のお話、それから亀山先生のお話を聞いていて、議論のスタートとしまして、先ほど西岡委員長がおっしゃった京都議定書以降の問題について、なるべく価値観を挟まないでどうしていったらいいのかという目標設定を考えていくということなんですが、もし価値観を挟まないで中長期的な目標を定めるということにしますと、これは極めて難しいと思うんですね。
 といいますのは、価値観を挟まないで目標設定するには、このままでいくと確実に、例えば人類が破局をするとか、非常に危険な破局的な影響が100%近い確率で起こるということになれば、これはコストとかそういうことを言っている場合ではないので、相当の犠牲を払ってでも必ず行動を起こさなければいけないということに対して、それほど大きな反対はなくなって、コンセンサスを得ることができるのではないかと思うんですけれども、現状、先ほどの原沢さんのお話ですとか住先生のお話を総合しても、やはり相当不確実性の幅というのがどうしてもある。そうすると、何らかの価値判断というものを入れないと、どうしても意思決定に行けないのではないかなという気がするんです。
 先ほどの議論で、ちょっと私、話が長くなって申しわけないんですが、例えば私は13年ぐらい前に車を買ったんですが、その当時、助手席のエアバッグというものが標準装備でなくて、そのときに家族を乗せるリスクを考えたときに、お金を払ってでもエアバッグをつけるかどうかという議論をして、最終的には家族を乗せて事故に遭ったら大変だというリスクがあるので、その不確実性というか、リスクを考慮して、10万円だか15万円だか忘れましたけれども、それだけ払ってエアバッグを入れることを意思決定したんです。
 そういうふうに、我々はふだんから不確実性がある、交通事故に遭うか遭わないかわからないけれども、遭ったら命にかかわるというようなことがほかにもいっぱいあって、そのときに不確実性の問題に対してお金を出して対策をとるかとらないかということを日ごろから、暗黙のうちに意思決定していると思うんです。
 ですから、そういう問題で、気候変動の問題に対しても、こうこうこれだけのリスクがあると、しかしそれは確実に死ぬとわかっているわけではない。しかし、幅を考えるとこれだけの確率でこれだけのリスクがあるということが、もし多少でも情報が得られているとすれば、それに対して国の政策として、あるいは公共のお金をこれだけ投入することもある程度説明できるはずであるし、あるいは我々としてもこうこうこれだけの犠牲を払ってもいいであろうと、そんなような意思決定はきっとできると思うんですね。
 ただ、そこで話が長くなって申しわけないのは、先ほど新澤先生がむっとしておられたのは、経済学はいいかげんであるというようなご説明があった。経済学はそういう不確実性の幅がある程度出てきていれば、さっきお話のあったCVMとかコンジョイントで、それに対してどれだけお金を投じてもいいかということを計測する手法については、少なくとも提供されているので。
 ですから、あとは今の住先生とか原沢先生とか、世界の本当のトップの自然科学の先生方の知見を集めて、いろんな影響がどの程度の幅があるのか、それはモデルだけに頼るんではなくて、専門家としての総合的なご判断をいただいて、数値だけでは言いづらいけれども、専門家の主観、判断確率として、このくらいのリスクがあるんだということを集めてきて、そしてしかるべくCVMなり環境経済の手法で公共政策としての支払い意思なんかを計測していけば、そこに価値判断というのが入るんですが、国民全体の価値判断ということで、国の政策としてそれをやる、そこにこれくらいの資金を投入する、そういうことの説明がある程度できるのではないか。
 ですから、100%の確率で起こるといえば価値判断の必要はないけれども、どこまで科学が進んでも多少の不確実性の幅はやむを得ないとすれば、それを今わかる範囲で出して、そこから今言ったような手法で計測してやるのができる一つの方法ではないか、そこから中長期的な目標というものも見えてくるような気がしていて、ただ550ppmとかCO250%削減と言われても、国民はそれに対してやっぱり判断できないだろうと思うんです。
 すみません、ちょっとまとまらなくて。

○西岡委員長 はい、どうもありがとうございました。何か今の論点に関しましてございましょうか。はい。

○住委員 僕は別に経済学の悪口を言ったわけじゃないんですが、ただ非常に大事なことは、100年という時間、僕はもっと根底となる基盤が変わってしまうって、ものすごくこれはアンノウン(unknown)があるはずなんですよ。
 例えば、これが起きたのだって、サルが放火したから起きたわけで、例えばある日突然中国にまたもや革命が起きて、行け行けどんどんでぱっと始まったら全然変わってしまうわけですよ。もうそんなCO2だとかより、とりあえず防衛だとか。だから、そういう非常にアンノウン(unknown)なファクターがある中で、そういう。だから、僕は価値判断がまず要ると思うんですね。
 そのときに、今の日本の場合で一番問題なのは、例えば年金制度でもほとんど100年後なんか何をやると言われてもほとんど信用しない。ということは、何を言ってもみんな信用しないじゃないですか。100年後にどんな政策とったって、そんなのうそでしょうとみんな思うわけです。それは歴史を見ても、今までの歴史を見ると100年にわたって整合性ある政策をとれた例は、ほとんどないというのは歴史を見ればわかる。そうすると、そういう紆余転々する中で、そんなものというのは僕もそう思いますし。
 そうすると逆に言えば、むしろどういうふうないい社会をつくっていくかというような、手段として、要するに教育の目標はみんな楽しく暮らしましょうよということだと僕は思うんです、わかりやすく言えば。だから、腹減らしてそこでやせ我慢しているよりは、多少勝ち負けに差があってもいいからみんな楽しくハッピーに行きましょう、それだったらこうした方がいい、何かそういうふうなプラクティカルな政策決定にした方が、何となく僕はいいような気がしているんですね。
 それで、何か国民レベルでいくと、ああいう係数だとか何とかちゃかちゃか行政は説明するけれども、ほとんどうそだと思っているか、正しい学問だと思っているか、国民によって違うと思いますが、僕らの世代から上はやっぱり太平洋戦争で相当ひどい目に遭った人が多いので、国の言うことは信用しないというのが本能的にまずあるわけです。それは当然。
 だから、環境の問題でも一番ややこしいのは、しょせん統制経済でしょ、何かごちゃごちゃ言ってくると。喜ぶのは役人だけねと。若い人はどう思っているか知りませんけれども、やっぱり隣組とかああいう時代を過ごしたような人は、何となくうさん臭いなという感じがあって、そこが環境の問題の規制と自由という問題をどうとるかというと、まだ解けていない問題だと思いますけれども。

○西岡委員長 ちょっと待ってください。明日香さんと、高橋さんどうぞ。

○明日香委員 すみません。私たちのコメントをちょっと一言。
 松橋さんのおっしゃることもわかるんですが、自動車事故というのはちょっと余りいい例じゃないかなと。というのは、ある意味であれは自己責任だと思うんですね。
 温暖化問題というのは、被害者と加害者がある意味でははっきりしていて、被害者は途上国の脆弱な地域に住む人たちです。その人たちは自己責任というよりも、ほかの人の責任によって被害を受けると。なので、単純に自動車事故の自己責任のリスク云々で議論できるものではないのかなという気はします。
 僕も経済学者と自称するときもあるので、そういう計算は自分でもやったりはしているんですけれども、自己責任と他者責任の議論は温暖化問題に関しては結構重要なんじゃないかなと思います。
 そういう意味では、先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、要は被害をどこまでアクセプトできるかと。実はアクセプトするのは、加害者ではなくて、被害者だと思うんですね。そういう意味では、我々がここで議論していても本当は意味がなくて、被害者がどのように自分たちの被害を認識して、それをどうするかということであって、加害者が被害の程度を判断あるいは決定するという権利は多分倫理的にはないんじゃないかなと思います。

○高橋委員 今のお2人の言われたこと、住委員それから明日香委員のお話、非常に関係しているんですが、私は先ほどから自然科学の住委員、そうではない私と、どうも似たような感覚だなと思いながらご発言を伺っていたんですが、それは特に今、明日香委員が言われた他者責任のところの問題に関係してくると思うんです。我々が議論していることの一番政治的に難しい、具体的には世の中を動かす上で難しいところというのは、問題が出てくるのは地球の8割ぐらいの途上国の人たちのところに出てくる。その問題を起こしている9割方のところは我々がやっていると。そこらのあたりでどうも整合性がうまくいかない。
 例えば、日本の政府頑張れって言っても、政府は基本的に日本の国民に対してはいろいろアカウンタブルな行動を制度上とりやすいわけですけれども、世界に対してアカウンタブルな行動というのはなかなかとれない。そういう問題があるというふうに私は思います。
 それは具体的にはどういうことかといいますと、我々が今議論しているのは、地球公共財をどうやって形成していくかということだろうと思うんですが、その困難さは地球公共財形成の困難さにあるんだろうと思います。具体的には、問題が出てくるようなところに対して地球公共財の提供不足により問題が出てくるような場合、あるいは発想の転換でネガティブなこと、これをダメージリミテーションだけで発想しているのを、もっとポジティブなものというのはないんだろうかという発想の面で、地球公共財をふやしていくような可能性を探っていくような場合、両方あると思うんですけれども。
 例えば、非常に幅の広いトレンドとして出てくる地球公共財の形成との関係での要因というのは、最終的に政策判断していくときに全部結びついてくるんだろうと思います。紛争というのは残念ながらどんどん増加している、多くの場合は途上国でそれが起こっていて、それから通貨金融システムというのは非常に不安定だ、これは今後も何回も何回も危機が起こってくるに違いない、これもやはり9割方途上国の人たちが被害をこうむる。それでまた今の制度そのものでいけば、地球公共財で所得その他が非常に貧しい状況では、貧富の格差がどうしても大きくなる。地球規模で見れば社会的に不安定になっていく。また、我々の社会では巨大システムというのがどんどんできていく。それ自身のリスクというのは大きくなっていく。それは我々にある程度リスクがかぶってくる面、あると思いますが、多分多くの部分は途上国の方にもこれまた行く。
 そういうものの一環として、恐らく地球温暖化の問題もあるんだろうというふうに私は思うんですが、そうするとそういうものがどんどん結びついた形で、地球公共財をどうしてつくり上げていくのか、そのプロセスで中間財をどうしてつくっていくのか、そういうようなことが全部絡み合っているような気がいたしますので。価値判断を抜くというときに、何を称して価値判断と言うか、その定義次第によると思うんですが、これらはすべて結びついているので、そういうものもある程度の客観的な要素を含みながら、ただしそれに関しての社会的な状況からしてプラスマイナスということは当然判断しながら、何らかの幾つかの提案を地球環境部会に提供していくということは当然含んでくるわけで、そういう意味で私はある程度の価値判断というのはこの小委員会の作業としては仕方ないと。それは最初から織り込み済みではなかろうかというような感じがしています。
 その点で、価値判断ということで言いますと、私から見ますと我々が使っているテーマについての一番大事なポイントというのは、ただ1つだけ。それは何かといいますと、環境分野というのは世界で非常に議論されていながら前になかなか進まなかった唯一の理由というのは、物事をダメージ・リミテーションで見過ぎてきたという感じがいたします。状況が変われば、それに基づくもっとプラスのものがいっぱいあり得るはずなんで、そのプラスのものをどうやってマキシマイズするかという作業というのがなぜ行われないんだろうか、そこのところをもう少し突いていく、それで世界にそのありようを提示していく、それが日本が提言していくシナリオ、それが世界を動かしていく知恵なんだろうというふうに思います。
 そうしますと、これはまさに価値観の問題だ。その価値観というのは、物の考え方ということを前提として、人によってはそれは考えようによってはいくらもうかるというような話になるのかもしれません。そういうことも含めて、価値観をもっとポジティブなもの、それを前に押し出す作業というのが必要なんではなかろうかなと、そんな感じがいたしております。
 ちょっと抽象的過ぎでしたので、具体的な例を申しますと、例えば先ほどのレスター・ブラウンさんの食糧危機の問題、30年前から同じようなことを言っているように私は思いますが、温暖化という状況がある程度の確実性を伴って、それには当然裏に不確実性があるわけですが、そういうトレンドが出てきた場合に、ある特定の社会状況のもとに、では、どういう新品種を改良していったらいいだろうかということが出てきてしかるべきなんですね。そういう可能性というのを指し示しながら、同時にマイナスの部分も出していく、その両方をトータルに社会としては使っていくという発想が私は非常に大事なんだろうというふうに思います。
 以上です。

○西岡委員長 すみません、では、横田先生から、それから高村先生、それから一度亀山さんに戻しておしまいにします。

○横田委員 亀山委員のご報告、大変参考になります。特にステージを5つに分けての考え方というのは共有できますし、我々がこれから政策を決めるときに参考になると思いました。
 私が申し上げたいのはこういうことです。長期目標については、今から100年後のことを数字で示すことがそもそも怪しげなことになりますから、私はもうちょっと言葉で表現していいのではないかと思っています。
 例えば、「今わかっている範囲で言うとこういうふうになりそうだ」と。それで当面こういうことを目標にしようと言うぐらいはいいのですが。言葉ということになると、例えばの話ですが、地球規模の大きな気候変動によって人類の安全とか健康とか、あるいは文化的な生活、生物の多様性のようなことが重大な悪影響を受けないように政策をとっていくということを、言葉として出せば良いのではないか。その上で具体的には今のわかっているところではこういう目標にしたら良いのではないか、ということを打ち出していけばよいのではないか。
 状況が変わって20年後にもっとはっきりわかってきたときには、そこを変えられるようにしておいた方がいいというのが私の考えなのですね。中期目標はもう少し具体的にしてもいいのでしょうが、これもまたそんなにぴたっとした数字は出せないと思います。短期の方はできるだけはっきりさせて進むことができる。こういう3段構えで行った方がいいのかなと思うのです。
 結局のところ、長期、中期のところは、私の理解では短期の目標をある意味で全体的な流れの中で示すための枠組み、我々はこういう考えの中で短期の目標を具体的に決めましたという形で出すものであって、100年後のことまで数字でぴたっと出すことはできませんし、出したとすればそれはちょっと無理があるような気がするというのが私の意見ですね。
 それから、もう一点ちょっと考えていただきたいのは、その政策を決める場合に、私たちの立場としては、公平という視点を入れた方がいいと思っているのです。つまりフェアネスということです。住先生が先ほど言われたことと関係しますが、結局どういう政策をとっても、そこに負担と受益というものがあって、これが実は環境問題では、ずれているのですね。同じ負担をした人が利益を受けるという関係になくて、負担しているところは負担させられて、受益しているところは受益しているというアンバランスがあります。高橋委員の話の中にもそういうことがあったと思います。先進国と途上国という立場の違いがそれです。
 私の感じでは、国家間というか、国際レベルの公平、それから国内のいろいろな利益団体の公平、それからもう一つは世代間の公平、この3つの公平さということを原則としてどこかにきちっと書いて政策を決めるようにするということを一般的に出した方がいいのかなと思っております。

○西岡委員長 はい、それじゃ高村先生、お願いします。

○高村委員 諸先生の方からもう既にご発言があったことをなぞるような形になってしまいますが、2点発言をさせていただきたいと思います。
 委員の方々からご発言があった内容は、私たちが今検討している問題が、いわゆる不確実性を伴うリスクというものにどういうふうにグローバルに対処していくかという問題であり、それは高橋先生がおっしゃった南北の衡平性の問題であるとともに、横田先生がおっしゃった将来の世代とのリスクの配分の問題であります。同時に、それは、対策をとる、あるいは適応、悪影響を回避するコストの配分の問題でもあります。
 予防原則と呼ぶか、あるいは予防的アプローチ(方策)と呼ぶかは置いても、この間、温暖化にかかわらず、不確実性を伴うリスクに対する対処については一定の国際的な合意のようなものが、手法のレベルでは生まれてきているように思います。横田先生のご指摘にもかかわりますが、目標であればとりあえず決めた目標についても一定の期間がたった後にリバイスできるような仕組みでありますとか、あるいは安全側でバファーをとった目標の設定ですとか、あるいは松橋先生がおっしゃいました、そうはいっても現在の科学的知見に基づいて、その不確実性の程度を明らかにしながら目標を設定するといったような手法であります。
 他方で、特に原沢先生のご発表を聞いていますと、目標設定をする際に恐らく、どういう社会ビジョンを想定して排出経路を考えながら目標を設定するのかという将来の社会ビジョンと目標とのやりとりなしには、科学的にどうだという一元的な解はどうも出てこないように感じます。
 2つ目の点ですけれども、私は中長期の目標設定の「プロセス」に大きな意義があるように考えております。目標の設定の仕方については、横田先生ご指摘のように、拘束的な何らかの形で確定的、絶対的な枠をはめるような目標設定というのは、これは恐らく現実的ではないだろうというふうに思う半面で、現在私たちがそれでは何ができて何をしなければならないかを考えるための一つの指標としての役割といったものを中長期の目標の設定には期待できるのではないか。
 そして、さらには、どういう目標設定をするかというプロセスの中で、最終的に合意には恐らく幅があるでしょうし、あるいは合意ができない可能性もあるかもしれませんが、温暖化にかかわる一定の問題についての共通認識の形成をはかることができるのではないかと思います。それは技術開発の担い手でもある市場、市民、あるいは社会に対する、私たちがどういうふうにこのリスクに対応するのか、すべきなのかを問いかける問題提起の意義があるのではないかと考えます。
 

○西岡委員長 それでは亀山委員の方からこれまでのお話をまとめて。

○亀山委員 はい。多くの先生方に非常に貴重なご意見をいただきまして、本当に心からお礼申し上げたいと思います。
 残念ながら時間が過ぎておりますので、一つ一つのコメントにこちらから申し上げることはできないんですが、総じて私もうんうんとうなずくことばかりでして、先生方のコメントを踏まえた形で今後もう少し具体的な制度設計のあり方というものを考え直してみたいと思います。
 一番最後に高村先生がおっしゃったとおり、きっと目標そのものよりもそのプロセスが大事というか、多分この会議そのものもプロセスの一つだと思いまして、こういう目標についてみんなで集まって話すこともそうそうないかと思いますから、今回の会議も一つの大事な場だったのではないかと思います。

○西岡委員長 時間が来てしまいました。どうも皆さん、議論ありがとうございました。
 差し当たって、例えば濃度レベルから排出レベルに落とすときには、今日時間がなくて説明していただかなかったんですけれども、フェアネス(公平性)という考え方が入っているわけですね。ですから、こういう問題についてまだまだこれから論議していきたいと思っています。いろいろと込んできて、余り時間はないかもしれませんけれども、こういう問題については折に触れて討議をしていきたい。
 皆さんのお話の中で、プロセスの話、予防原則、ヘッジング、それからそういうリバイスできるシステム、あるいはフェアネスの話、それから最終的には我々が何を目標にしてやっているのか、これは一番大切な話なんですけれども、そういう話が出てきまして、この専門委員会でやる、大体前書きの部分ぐらいまできたかなという感じを受けました。
 時間がまいりましたので、これで今回の討議はおしまいにしますが、次回は多分シナリオをどう書いていくか、あるいはその技術の内容をどういうものを選んでいくかという話になるんではないかなと思っておりますが、またこの問題にも多分戻っていくかと思います。
 私の方からはこれでおしまいですが、事務局の方から何かございますか。

○牧谷国際対策室長 特にございませんが、きょうは十分な時間がなかったのかもしれません。この中長期的な目標というのは非常に大きなテーマでございまして、論点はいろいろ出たと思いますが、もう少し言い足りないというようなこともあるかもしれませんので、その場合はまた適宜事務局に書面で出していただければ、この場に提供することができます。どうぞよろしくお願いいたします。

○西岡委員長 もしほかになければ。よろしゅうございますか。
 それでは、第2回の専門委員会をこれで終了いたします。どうもありがとうございました。

午後 4時38分閉会