平成30年度第4回薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会化学物質調査会 平成30年度化学物質審議会第1回安全対策部会 第186回中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会 議事録

1.日時

平成30年7月13日(金)13時30分~15時00分

2.場所

経済産業省別館2階 227・231・235各省庁共用会議室

3.出席:(五十音順、敬称略)

薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会化学物質調査会委員

石田 誠一     小川 久美子    菅野 純

鈴木 勇司     高橋 祐次     田中 博之

能美 健彦(座長) 平塚 明      本間 正充

化学物質審議会安全対策部会委員

浅野 哲      大石 美奈子    柏田 祥策

金子 秀雄     小林 剛      恒見 清孝

東海 明宏     林 真(部会長)  原田 房枝

参考人

坂田 信以

中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会委員

青木 康展     石塚 真由美    稲寺 秀邦

菅野 純      小山 次朗     白石 寛明(委員長)

鈴木 規之     田辺 信介     山本 裕史

吉岡 義正     和田 勝

事務局

厚生労働省  渕岡化学物質安全対策室長

経済産業省  飛騨化学物質安全室長

環境省  新田化学物質審査室長 他

4.議題

 

1.優先評価化学物質のリスク評価(一次)評価Ⅱにおける評価等について

<審議物質>

(1)アニリン【人健康影響】【#54】

(2)アクリル酸【生態影響】【#94】

(3)安息香酸ベンジル【生態影響】【#128】

2.その他

5.議事

○経産省 それでは、時間がまいりましたので、ただいまから平成30年度第4回薬事・食品衛生審議会薬事分科会化学物質安全対策部会化学物質調査会、平成30年度化学物質審議会第1回安全対策部会、第186回中央環境審議会環境保健部会化学物質審査小委員会合同審議会を開催したいと思います。

議事に先立ちまして、夏期の軽装のお願いについて申し上げます。地球温暖化防止、省エネルギーに資するため、政府全体として夏期の軽装に取り組んでおります。これを踏まえ、事務局は軽装にて対応させていただいております。委員の方々におかれましても、ご理解、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

本日は、いずれの審議会も開催に必要な定足数を満たしており、それぞれの審議会は成立していることをご報告いたします。

○厚労省 毎度のことでございますが、本合同審議会を開始する前に、厚生労働省事務局より、所属委員の薬事分科会規程第11条への適合状況の確認結果について報告をさせていただきます。

薬事分科会規程第11条におきましては、委員、臨時委員または専門委員は、在任中、薬事に関する企業の役員、職員または当該企業から定期的に報酬を得る顧問等に就任した場合には辞任しなければならないと規定しております。今回、全ての委員の皆様より同規程第11条に適合している旨ご申告いただいておりますので、報告させていただいております。

委員の皆様には、会議開催の都度、書面をご提出いただいており、ご負担をおかけしておりますが、引き続きご理解、ご協力賜りますよう、何とぞよろしくお願いを申し上げます。

○経産省 続きまして、化学物質審議会安全対策部会の新任の委員をお2人ご紹介したいと思います。

1人目は、東洋大学生命環境科学研究センター・センター長の柏田祥策先生です。もうお1人が、元日本農薬学会副会長、金子秀雄先生です。今回から安全対策部会の委員にご就任いただきました。お2人の先生方、済みません、一言ずつご挨拶いただけますでしょうか。

○柏田委員 皆様、初めまして。東洋大学の柏田と申します。専門は生態毒性学を専門としております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

○金子委員 金子でございます。きょうから参加させていただきますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

○経産省 加えまして、きょうは一般社団法人日本化学工業協会の坂田信以常務理事に参考人としてご出席いただいております。坂田常務理事は、前石井日化協常務理事のご後任として、本来は本日も委員としてご参加いただく予定だったのですが、手続の関係上、今回は参考人としてご参加をお願いしました。

○環境省 続きまして、化学物質審査小委員会の新任の委員をご紹介いたします。

4月よりご就任いただいておりますが、安全対策部会との3省合同会議は今回が初めてになります。国立大学法人富山大学医学部公衆衛生学教授、稲寺秀邦先生です。一言ご挨拶いただけますでしょうか。

○稲寺委員 富山大学の稲寺と申します。私は4月から、福井大学の日下先生の後任という形で入らせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

○経産省 本合同審議会は、第一部と第二部に分けて実施します。13時半から15時までを第一部とし、優先評価化学物質のリスク評価(一次)評価Ⅱの審議等を公開で行います。終了後、休憩を挟みまして、15時半より第二部を行いますので、よろしくお願いいたします。

それでは、お手元にお配りしている資料の確認を行いたいと思います。

まず、議事次第、次に、資料1シリーズで、資料1-1として、優先評価化学物質のリスク評価(一次)人健康影響に係る評価Ⅱ有害性情報の詳細資料(案)【アニリン(♯54)】、資料1─2として、アニリンのリスク評価書簡易版(案)、資料1─3として、アニリンのリスク評価結果について(案)、続きまして、資料2としまして、優先評価化学物質のアクリル酸(#94番)の生態影響に係る有害性情報の詳細資料(案)、資料3として、リスク評価(一次)評価Ⅱにおける安息香酸ベンジルの評価結果を受けた対応について(生態影響)(案)がお手元にある配付資料です。その他の議事次第にある参考資料等は、お手元に配っているものも含めてiPadもしくはパソコンの中に全て入っておりますので、適宜ご覧いただければと思います。過不足などございましたら、お申しつけください。よろしいでしょうか。

それでは、これより議事に入ります。

本日の全体の議事進行につきましては、化学物質審議会化学物質安全対策部会の林部会長にお願いしております。林部会長、よろしくお願いします。

○林部会長 林です。どうぞよろしくお願いします。

それでは、これより議事に移らせていただきます。

まず初めに、本日の会議の公開の是非についてお諮りします。

各審議会の公開につきましてはそれぞれ規定のあるところでございますが、公開することにより公平かつ中立な審議に著しい支障を及ぼすおそれがある場合または特定な者に不当な益もしくは不利益をもたらすおそれがある場合等、非公開とすべき場合には該当しないと考えますので、原則公開といたしたいと思います。ただし、営業秘密等に該当する場合は秘匿することを認めることといたしたいと思います。よろしいでしょうか。──それでは、本日の会議は公開といたします。

議事録につきましては、後日ホームページ等で公開されますので、あらかじめご承知おき願います。

本日は、リスク評価(一次)の評価Ⅱに進んでいる2物質の評価に関する審議と、既に平成29年3月に評価を実施した安息香酸ベンジルについて、今後対応すべきとした事項について評価結果が出ましたので、報告を行うということを予定しております。

それでは、まず、議事1から進めたいと思います。優先評価化学物質のリスク評価(一次)評価Ⅱにおける評価ということで、アニリン人健康影響についてでございます。

それでは、まず、アニリンの人健康影響の観点でのリスク評価Ⅱの有害性評価(案)について、事務局よりご説明願います。

○厚労省 通常であれば、リスク評価書(案)の説明となりますが、アニリンの人健康影響に係る有害性評価の内容について、専門家の先生方の間で議論が継続しておりますことから、まずは資料1の有害性評価書(案)のご説明をしたいと思います。

まず、一般毒性につきましては、7ページより記載がございます。アニリンの経口及び吸入暴露は、ヒト及び実験動物にメトヘモグロビン血症と、それに伴う血液・造血器系への毒性影響を誘発いたします。

生殖・発生毒性につきましては、9ページより記載がございます。ラット及びマウスを用いた試験では、アニリン投与による顕著な生殖・発生毒性は認められておりません。

変異原性につきましては、11ページより記載がございます。In vitro遺伝毒性試験の結果を表1─6に、in vivo遺伝毒性試験の結果を表1─7にまとめております。In vitro試験につきましては、全ての復帰突然変異試験は代謝活性化系の有無にかかわらず陰性であった一方、マウスリンフォーマ試験及び染色体異常試験においては陽性結果が得られております。In vivo試験につきましては、マウスを用いた小核試験や染色体異常試験など、一部遺伝毒性試験において陽性結果が得られております。

以上により、本有害性評価書(案)では、アニリンは変異原性を有すると判断しております。

発がん性に関しましては、18ページより記載がございます。アニリンにより、雄のラット脾臓において発がん性が認められております。また、ヒトにおいても、主要な原因ではないと考えられるものの、膀胱発がんに関与する可能性が示唆されております。

以上を踏まえ、本有害性評価書(案)では、ラット及びヒトで認められたアニリン誘発腫瘍に変異原性が少なからず関与している可能性を考慮し、アニリンを閾値のない遺伝毒性発がん性物質として扱っております。

アニリンの有害性評価値の算出につきましては27ページより記載があり、表1─11にまとめがございます。一般毒性、生殖発生毒性、発がん性にかかる毒性データを比較検討した結果、最も感受性の高い指標となるのは発がん性でございました。発がん性の有害性評価値につきましては、ラットを用いた経口投与による104週間発がん性試験をキーデータとしまして、雄ラットの脾臓に生じた間質肉腫をエンドポイントとして求めたBMDL1046.75㎎/㎏bw/dayを外挿の出発点として算出した実質安全量0.00468㎎/㎏bw/dayを有害性評価値としております。また、吸入経路の有害性評価値につきましては、経口経路から換算した0.0117㎎/㎥としております。なお、アニリンについては、暴露経路に依存せず、速やかに吸収・代謝され、メトヘモグロビン血症が発現いたします。また、ラットにみられた脾臓腫瘍は暴露経路に依存せずに発生する可能性がございます。そのため、本有害性評価書(案)では、発がん性に係るリスクに関しては経口暴露推計量に基づくリスク比と吸入暴露推計量に基づくリスク比を合計した値をもってリスクを推定することが毒性学的に妥当であると考えております。

事務局からの説明は以上になりますが、本有害性評価書(案)を事前に委員の先生方にみていただいた際に、遺伝毒性の閾値の有無あるいは遺伝毒性機序による発がんの閾値など、閾値を設定するかどうかにつきましてさまざまなご意見を頂戴しておりますので、本審議会におきまして、この点につきご議論いただければと思います。

以上になります。

○林部会長 ご説明ありがとうございました。

それでは、これから審議に入るわけですけれども、意見のある方は名札を立てていただきたいと思います。順次こちらのほうから指名させていただきます。きょうはちょっと会場が非常に長いので、なかなか目が行き届かないところがあるかもしれませんけれども、そのときには大きく手を挙げていただくとか、アピールをしていただければと思います。

まず最初に、浅野委員。

○浅野委員 済みません、浅野です。ちょっとお尋ねしたいのですけれども、今の事務局から説明していただいたような感じで、変異原性がまず遺伝毒性があり、陽性ということと、それから発がん性試験、がん原性試験に認められた所見、これが遺伝毒性に基づくという、そういう結論になってVSDで基準値が得られていると思うのですけれども、これは発がん性試験の所見をみますと、やはり同じ用量で組織障害性の変化、この肉腫が出るのと相関したような状態で、ハイブローシスですとか、組織損傷障害、細胞障害、組織障害、そういったものに基づいた、つまり遺伝毒性以外のメカニズムというのがかなり影響しているのではないかという感じがしたものですから、これは閾値を求められる障害ではないかと考えたのですけれども、いかがでしょうか。

○林部会長 どうもありがとうございます。今のご意見は、閾値のあるがん原性物質という評価がよいのではないかというようなご意見でしたが、ほかに。

○能美座長 このアニリンについては、芳香族アミンということで、類縁物質には非常にたくさん遺伝毒性発がん物質、変異原性をもった発がん物質というのがございます。ですから、そういう意味からしますと、in vitroのAmes試験では今回陰性という形になっておるのですけれども、潜在的にはDNAと反応する化学物質だと考えています。

あと、vivoのほうの発がん性が何によるかというところですけれども、本来であれば、その発がんの標的臓器、この場合ですとラットの脾臓ですけれども、現在ですとトランスジェニックラットを使った変異原性試験というのがございますので、トランスジェニック試験を使って脾臓で陰性であるという結果が出てくれば、発がんと変異は無関係、化学物質の変異原性とは別の作用で発がんが起きただろうと考えられるわけですけれども、そのようなデータはないという状況です。一方では先生のおっしゃられたような脾臓の病変というものが何か発がんに影響しているのではないかとか、そういう推測は成り立つわけですけれども、ただ、この物質と類縁物質に関しては遺伝毒性発がん物質というものが多数知られており、決定的なトランスジェニックアッセイで陰性というデータがない状態では、私は、安全サイドに立って、今回、事務局のような閾値のない遺伝毒性発がん物質として評価するのが妥当ではないかと考えております。

○林部会長 今のご意見は、構造的な類縁物質等には非常に多くの変異原物質が含まれているというご意見だとも理解できるのですけれども、前回かその前から議論しているように、やはり評価の単位、何を評価しているのかというのははっきりしておく必要はあると思います。今回はあくまでアニリンが評価の対象であって、その対象物について議論すべきだというふうに考えます。

どうぞ、金子委員。

○金子委員 今、先生のおっしゃられたことについて、少し、関連事項なのですけれども、申し上げたいことがございます。

このアニリンにつきましては、DNAに対する付加体というのがこのレポートの中に2報出てくるわけですけれども、一番新しいので1995年で、内容は放射性ラベルのアニリンを使って結合性をみているということなのですけれども、レポートをみますと、これはDNAに結合するという証拠は全くなくて、DNA画分に放射能があったという非常に古いやり方で、かつ、そのDNA画分にあった放射能というのはほとんどがほぼバックグラウンドに近い状態なので、DNA画分にあったというだけですから、今現在の化学からみると、P-32ポストラベリングか、もしくはLC-MS/MSで付加体を抽出して同定しないとなかなか難しいのかなということと、先生がおっしゃいましたようにトルイジンとかアニリンの誘導体につきましては確かにDNA付加体ができるという報告はたくさんありますけれども、アニリンに関してはPub-Medを調べた限りではないということがわかっておりますので、これは科学的に正しいかどうかは別として、ニトロリウムイオンがベンゼン環に置換基があると安定化するかしないかが関係しているのではないかというふうなことが言われております。ですから、私としては、このDNA付加体と、もう一つはAmesネガ、UDSネガ、それでマウスリンフォーマはclastogen作用かgene mutation作用か知りませんがポジだということですけれども、このアニリンについてはDNAに対する損傷性をする可能性は少ないのではないかというふうに考えております。

○林部会長 ありがとうございました。

今、ちょっと順番は小川先生が先だったのですけれども、変異原の関連でしたら本間先生にお願いしたいのですが。

○本間委員 今、金子委員から、変異原性はないのではないかという意見がありました。遺伝毒性に関しては資料1の13ページからですか、いろいろな結果が得られております。非常に基本的な物質なので、全ての試験が古いというのが問題ですけれども、今説明がありましたようにAmes試験では陰性、ところが、他のin vitro、あとin vivoの試験では陽性を示すという結果になっております。私としても、Ames試験が陰性であれば、一般的には、確かにおっしゃるようにDNAに対する直接的な作用がないのではないかと考えるのが一般的と思います。

ただ、ここで一番重きを置いていただきたいのは、やはりマウスリンフォーマ試験です。マウスリンフォーマ試験は、Ames試験と同様に遺伝子突然変異試験で、いわゆる変異原性を見る試験です。マウスリンフォーマ試験のほうがミューテーショナルスペクトラムを考えると非常にさまざまな突然変異をみることができます。一般的にはAmes試験が陰性であってもマウスリンフォーマ試験で陽性であることは十分にあり得ます。逆に、Ames試験が陽性であってマウスリンフォーマ試験が陰性であることは論理的にはあり得ません。しかしながら、マウスリンフォーマ試験の問題点は非常に偽陽性が出やすいということです。そのため、その結果の解釈については非常に慎重になるべきと考えています。

ところが、この試験は、4試験実施されております。しかも、全ての試験において陽性の結果が出ています。試験結果で注意する点としては、非常に高い用量での反応ではないか、さらには非常に高い細胞毒性における反応で、非特異的な反応ではないかということを気をつけるべきであると思いますが、全ての試験において用量はガイドラインを超えるものではなく、また、細胞毒性も非常に弱いレベルにおいて突然変異の誘発が認められます。ただし、誘発率はコントロールの2倍を超える程度であり、弱いということは確かです。このように再現性のある結果であり、さらにその反応性に生物学的な妥当性があるということですので、私はこのマウスリンフォーマ試験の結果からアニリンは変異原性があると考えてもよいのではないかと思います。

では、なぜAmes試験で陰性を示すかというのは、恐らくこれは芳香族アミンの一つの特徴ではないかと思っています。芳香族アミンは、それ自体は確かにDNAに対する反応性はありませんが、NH2(アミノ基)の部分が酸化されてヒドロキシ体となると、DNA反応性を持つというメカニズムが知られています。その結合の強さは周りの官能基に依存しますが、官能基のないアニリンの場合は非常に弱くて、それがバクテリアの系ではなかなか出にくい。ところが、ほかのほ乳類の系ではDNAとの反応性が出やすいのではないかと推測されます。

さらには染色体異常試験においても陽性、またin vivoの試験においても陽性です。本来であれば突然変異の誘発が重要ですから、能美委員がおっしゃったようにin vivoでの突然変異誘発の証明ができればよいのですけれども、それがここではできていません。こういった状況を考えると、アニリンに関しては多くの試験で遺伝毒性を示し、特にマウスリンフォーマ試験の突然変異誘発性が陽性であることから閾値が設定できない変異原性物質であると考えるのが妥当と思われます。それと発がんの関係についてはまた別の問題ですので、それはほかの委員からまた意見をいただければと思っています。

私からの意見は以上です。

○林部会長 ちょっと座長から質問なのですけれども、マウスリンフォーマ試験というのは本間委員が一番よくご存じだと思うんですけれども、gene mutation試験と染色体異常の両方を検出できる系ということになっているのですけれども、ここでの陽性がgene mutationによるものだという何か証拠というか、説明はあるのでしょうか。

○本間委員 マウスリンフォーマの突然変異は全てgene mutationです。固定されたmutationですので。それは、点突然変異か、大きな欠失であるのかは解析してみないとわかりませんけれども、ここに起きているものは全て突然変異です。そして、それが永続的であり、不可逆的な反応です。

○林部会長 それが点突然変異に基づくものか、要するに染色体異常のような大きな欠失をもたらすものの結果として陽性を示したのか、その辺はわかるんですか。

○本間委員 どちらかですけれども、この場合は突然変異の解析をしないとわかりませんので。ただ、突然変異であることは間違いありません。

○林部会長 わかりました。

それでは、次に小川委員。

○小川委員 遺伝毒性機序かどうかというところについては、私はなかなかわからないところですが、発がん性という観点で、確かに細胞傷害を伴っているのですけれども、細胞傷害はほかのことでも起こりますが、発がんに至ることというのはそんなに多くはないということです。このデータからすぐに細胞傷害による2次的なDNA損傷であるといえるかの判断は、なかなか難しいのではないかと思います。ヘモジデローシスが以前にあるということと思いますが、ヘモジデローシスは疾患としてもみられますが、そこから発がんというのは、確かにそういった議論もあるのですけれども、ヘモジデローシスによるものなのか、ヘモジデローシスを伴っているということなのかということ、原因なのか、一緒に起こっている交絡的な因子なのかというところは、明らかではないと思います。また、今回出ている腫瘍が、多種の肉腫ができているということからも、細胞傷害の一つの原因で説明できるのかと。一方、それが遺伝毒性がメインかどうかというところは、遺伝毒性であるという証拠もはっきりいえるところではまだない状況ではないかと。芳香族アミンの発がん性について、まだ機序がしっかりわかっていない状況ですので、断定的なことをいうのはちょっと難しいのではないかなというふうに考えております。

○林部会長 ありがとうございました。

浅野委員。

○浅野委員 マウスリンフォーマ試験が陽性、変異原性が陽性であるということは、そこも確認なのですけれども、マウスの発がん性試験で、ラットのほうではがんが出ているのですけれども、マウスで出ていないんですね。かなり高用量で暴露されていると思うのですけれども、この辺のところを鑑みても、変異原性がこの発がん性につながっているのかどうか、そこはまだちょっと疑問があるところなんです。それはいかがでしょうか。マウスで出ていなかったという点に関してはいかがでしょうか。

○林部会長 本間委員、何かありますか。

○小川委員 よろしいでしょうか。

○林部会長 はい。では、先にどうぞ。

○小川委員 ラットとマウスで違うということは、なかなか証拠としては難しいのかなと思っています。例えば、ヘテロサイクリックアミンのような強力なDNA損傷をするものであっても、ラットにはアダクトを介してというか、でも、アダクトの位置に必ずしも発がんが起こるわけではないのですけれども、大腸がんであったりとか、乳がん、前立腺がんができますけれども、マウスにはそういったことが起こらないといった違いがあるので、種差といったことは発がん性においては遺伝毒性とはまた別の次元かもしれません。必ずしも一定しなかったり、雌雄差もあり得るというふうに考えます。

○浅野委員 私が疑問をもっているのは、ちょっと考えているところというのは、遺伝毒性が全て発がん性につながっているのかどうかというところです。だから、それが、つまり遺伝毒性があるので閾値がとれないVSDというような考え方ではないかと思うんですけれども、これはほかの要因というのが発がん性に関与している可能性が高いのではないかというふうに考えたものですから、このような質問をさせていただいています。

○菅野委員 小川委員のサポートをする立場になるのですが、おっしゃられる「ほかの要因」ですが、組織障害、雌雄差、これらは全て、そういう場合もあるかもしれないねというレベルであって、ここの場で判定する段においては決定的な要因ではないと考えられます。というのは、例外がそれら全部についてある。例えば、メトヘモグロビン血症は発がん剤を投与した際に、一般的に窒素を含む発がん剤であれば必発と考えてよいですし、場合によっては溶血も起こりますので、脾臓にヘモジデリンが蓄積するわけですね。この様な発がん物質では当然発がんしますけれども、ヘモジデローシスが起こるほかの化合物で発がん性を示さないものはいくつもあるわけです。その中には脾臓に線維化を起こすものもあるわけですね。ですから、ヘモジデローシスが強く線維化するから、それが原因で発がんするではないかといわれても、それは一般論としては成り立たないわけです。

先ほど、小川先生が言われた様な、発がん陽性対照物質として使われていても良いような変異原性物質でも、ラットには出てマウスには出ないといった現象があるわけです。ですから、従来2種の動物で発がん性試験を実施する事とされてきたわけです。それを今回、全く逆の面からおっしゃるものだから、こちらとしてどうお答えしていいかわからないぐらい、ちょっとかみ合わないわけです。要するに、閾値のありなしや、これは炎症で起こったのだとかという論議は、今いただいた情報からは、成立しないというのが我々の立場です。その上でみてみると、ドーズ・レスポンスがあって肉腫が発生していて、変異原性をみたら、Amesが陰性の発がん物質は今までたくさん経験していますから、それに対してマウスリンフォーマ試験で、本間先生のコメントを聞いても、これは陽性ととるべき、ポイントがある領域か、染色体のあるでかい領域かは別として、遺伝子に固定される形の変異であるという点を加えて、総合的に見れば、これは閾値を設定できるというエビデンスは非常に少ない、という話になってきます。我々は常に、限られた情報で最適な判断しなければいけないという立場に置かれる、ということを考えると、この場合は閾値設定は難しく、VSDで実施するのが妥当なのではないかという結論になる、そういうふうに考えます。

○浅野委員 先生、どうもありがとうございます。今の説明でジャッジに至ったという経緯がよくわかりましたので、これ以上の私のほうからの質問はないです。ありがとうございます。

○林部会長 ありがとうございました。

ほかに。

○青木委員 今、浅野先生のコメントで何か全て終わってしまったような気がするのですが、確かに、この物質は、新しいデータがないので非常に難しいのだと思うんですね。確かに、先ほど能美委員のほうからご説明があったように、もし確定的なことをやるならば、確かに幾つかの実験系というのは組めると思います。ただ、この場はそういうことをやることではない。そういったことでどう判断すべきか。つまり、化学物質で多くの場合、不確実性の多いデータの中でどのように専門家として判断をするのかというのが最大の問題になります。

あと、ちょっと細かいことなのですけれども、金子委員がおっしゃられたのはもっともなのだけれども、この試験は新しいものでも1980年代の試験ですね。DNAの結合試験。その当時を振り返ってみると、ポストラベリングだってどの程度一般的だったかどうかはよくわかりませんよね。ましてや、今決めている(LC-МS/МS法も)ここ10年ぐらい、もしくは5年ぐらいかもしれない、そういう状況のデータをどう判断するかということになるので、私としてはここは閾値ありという判断はできないというふうに思います。つまり、それだけの逆に確定的な証拠をもって議論するならば、環境省選出の委員がこういうことをいうのは非常におこがましいのですけれども、ここは厚労省の先生方のご判断というのを。一応私も毒性学を学んだ人間からすれば非常に妥当なご判断であるというふうに思います。

○林部会長 ありがとうございました。

そのほかに。

○金子委員 今、先生方のお話をお聞きして、私は変異原性がないというふうなことは言っていなくて、gene mutation作用の可能性は少なくて、clastogenの作用の可能性が多いのではないかというふうなことと理解していますし、ましてやこの発がん性は、CIITのレポートでは非常に高用量で雄ラットだけに出るということで、要するに発がん性に種差と性差があるということが如実に出ているということで、それで、議論がありましたように、マウスの小核、ラットの小核でも陽性になるのに、菅野先生はそういうことはいくらでもあるんだよというふうにおっしゃるのですけれども、総合的に考えますと、非常に高い投与量でしか出ないようなものについて、閾値のない毒性物質というのは非常に考えにくいし、その点、厳密に安全サイドに考えれば、それは今の状況証拠、確たる証拠はどこにもないので、閾値がないというふうに考えるというのはわかるのですけれども、全体的にこのデータからみると、私は閾値がある遺伝毒性発がん物質であろうと考えます。

それで、小川委員がおっしゃられたヘモジデリンの蓄積で脾臓に発がんというのにはいろいろな形であるだろうということなのですけれども、アニリンについては、アニリン類縁体もヘモジデリンの蓄積部位にこの肉腫は発生しているということは知られているということと、そこでは鉄の集積による酸化も進んでいるという報告もございます。

それで、このレポートを読ませていただいたときに、ROSの引用が非常に少ないなというふうに思って、要するに、遺伝毒性発がん以外のルートについてどれほど幅広く情報を収集されたのかというふうなことを少し疑問に思って、要するにこの発がんは誰も正確な答えを言えないわけですけれども、遺伝毒性ではなくて、ほかの要因で発がんしているのではないかなというふうに私自身は思うわけですけれども、水掛け論になるのかもしれませんけれども、そういうふうに思っております。

○林部会長 ありがとうございました。最近入手した情報では、海外のいろいろな公的機関の評価が、遺伝毒性とがん原性は認めつつも閾値のあるものだということで評価が行われているものが多いというふうに理解をしております。

それで、ここで今の議論を聞いていましても、遺伝毒性にしてもがん原性にしても、ともに強いものではないというようなことは一つの認識かと思うんですけれども、その場合に、まともに、とにかく定性的に陽性であったから閾値のない遺伝毒性がん原物質というレッテルを貼ってしまっていいのかなというのが、ちょっと座長の個人的な考えなのですけれども、その辺、どなたかもう少しご説明いただけないでしょうか。

○青木委員 ちょっと2つのことを思ったのですけれども、1つが、これは水掛け論をさらに水掛け論にするようなのであまりいいたくはなかったのですが、では遺伝毒性が関与していないという根拠もどこにもないですね。

あと、もう一つ、確かに不確実ですから。そういう点でいうと、そういう不確かなものの発がんリスクの評価がどうやって行われているかというと、逆にそれは専門家の判断としてその部分が委ねられているのだと思います。ガイドライン上もですね。そうしたときに、よく使う方法は両方の評価。ここから先はちょっと私見が入りますが、一応委員ですので私見をいわせていただいていいと思うのですけれども、やはり両方のリスク評価、つまり閾値あり・なしの両方の評価を例えば見てみて、それを総合的に判断するというのが一つの考え方だと思いますし、それは多くの審査、ちょっとこの化審法の場合は具体的なところがどうなっているかというのは、あまり議論というのは聞いたことがないのですけれども、ほかの例えば基準値なり指針値を決める環境省のガイドラインもそうなっていますし、例えば食品安全委員会のほうでも議論されていますし、そういったときにやはり安全側というか、閾値あり・なしの両方の考え方から判定してみて、それでみてみる、考えていくというのが一般的ではないかと思います。そうすると、一般的には安全側でみたときに、この閾値なしという考え方に基づくリスク評価ということがこの場合は妥当なのではないかというふうに私は判断します。

それで、例えば、もしかすると閾値ありのリスク評価が行われているということで、もしかしたらICH─M7の例を出されているかと思うんですけれども、例えば5ページ目で出されたものではないかなと思うんですが、これ、詳細は5ページ目です。それで、このときはUFを10,000とっているんですね。普通、UF、不確実係数10,000というのはとらないですよね。不確実性が大きいということ。これはある意味、この値、仮にpoint of departureはDOPがBMDL10をとったときには10-5乗の値と、従来のUFを10,000とったときと同じ値になるはずです。ですから、そこはある意味、そこの議論はなかなか難しいなということで、つまり閾値あり・なしの議論は難しいなということで、こういう形で、例えばICHの──ちょっとこれは本間先生のほうが詳しいと思うので、私が間違えていたら直していただきたいのですが、行われているのではないかと思うので。やはりここは、ひとつ安全側をとってみるということでいいのではないか。

あと、実際に、後の資料をみさせていただくと、行政文書をみると、これは厳しい値をとっても人の健康影響は一応まあ問題ないというふうに評価されている。行政文書で評価されていると思うので、こういう化審法の精神を考えたときに、これは皆さん共有されていると思うのだけれども、そういうある一定程度厳しいリスク評価をやったとき、有害性評価値を出したとき、そこでリスクを評価してみてどうか、というところまで少し総合的に判断してみることも必要なのではないかなというふうに思います。

以上でございます。

○林部会長 本間委員。

○本間委員 多分、今までの議論があったように、これの遺伝毒性が仮にあったとしても、これは発がん性にどう影響しているかというのはなかなか不確定な部分が多いのではないかと思います。28ページの冒頭にその辺の苦しい説明があるのではないかと思います。1行目のほうから書いてありますけれども、「4─7章で述べたとおり、ラットにみられた脾臓腫瘍の発がん機序が遺伝毒性によるものであると判断できる直接的な根拠はないが、本評価では、マウスリンフォーマ試験とin vivo遺伝毒性試験で陽性結果が得られていることに基づき、アニリン誘発ラット脾臓腫瘍は、閾値がない遺伝毒性発がん機序で生じる可能性があると判断し、アニリンの発がん性に関する定量的評価及び評価値の試算を行うこととした」とされています。ここでも明確な証拠があるとは述べていません。要は、この文書を皆さんに認めていただけるかどうかということだと思います。これが認められないというのだったら、またもとに戻って議論する必要があるかもしれません。どうでしょうか。

○林部会長 いかがでしょうか。その前に、菅野委員の札が立っていますが。

○菅野委員 金子委員のご質問に対する答えをちょっと用意していたのですが、でも、今それをやってしまうとこんがらがりませんか。大丈夫ですかね。

○林部会長 やってください。

○菅野委員 金子委員の、閾値がある云々というお話なのですけれども、例えば放射線、あれは閾値ありとは一応しませんよね。電離放射線で8-OHdGがアダクトなのかもしれませんけれども。では脾臓でヘモジデローシスがないとそこでの二次的な反応が起こらないかというと、その証拠もないんですよね。また放射線に戻るけれども、どの臓器にがんが起こりやすいかというのは、本来は全身どこにできても良いはずなのに決まりますよね。ですから、もしアニリン自体が悪さをしていなくても、鉄との反応でそこで何か起こってというときに、ヘモジデローシスが起こらなければそういう反応は起こらないから、ヘモジデローシスが起こったところで閾値にしましょうという論議は先生の頭の中にはおありになるのではないかと思ったのですが、その証拠もないんですよね。脾臓の様に鉄がリッチのところであれば、アニリンがそこに到達しさえすれば反応が起こるとなれば、ヘモジデローシスが無くてもよいという筋書きも成り立ってしまうと考えます。そこの所はまだ科学的に詰められていないので、どうしてもブラックボックスなので、我々としては限られた情報からある程度決めざるを得ないという立場で、先ほどの私の説明が妥当ではないかと、今までの類縁物質の情報もあるから、ということだと思うのです。脾臓で実際に起こっていることが何かというのは、お互いにいろいろ想像すると科学的に興味深いですけれども、証拠が足りないので、閾値が設定できるという論議を覆すアイデアも出せてしまうのですね。鉄さえあって、そこにアニリンさえ行けば、そこで反応が起こって、変異原性の反応が起こるということで、ではそれは代謝とどう違うのだという話になるのですけれども、それは今までの化学物質の発がんにおいて、代謝が関係して起こっているものが沢山あるわけですね。そうなった場合には、DNAの修復にかかわるところのイベントだとすると、やはり放射線と同じで閾値を設定できないということになってしまうと考えるわけです。そこら辺で、水掛け論になるかもしれないけれども、それはちょっと置いておいて、こちらの評価書のレベルで判断したほうがいいのではないかなと思う次第です。

○金子委員 ご存じのように、ラットには代謝に性差というのがございます。それで、ちょっとうろ覚えで間違っているかもしれないですけれども、このアニリンのラットにおける代謝で性差というのは、代謝物からみるとあまり認められなかったんですね。だけど、脾臓における発がんにはすごい性差があるということは、もし変異原性が脾臓発がんの原因であれば、同じような代謝を受けるだろう雄雌で差があるというのは少し理解ができないところがありまして、確かに性差のあるラットでアミンの水酸化は雄ラットのほうが早いのかもしれませんけれども、そういう差があったとしても、こういうふうに如実に性差が出るというのは、遺伝毒性を考えた場合は、遺伝毒性が発がんの原因と考えると、なかなか説明しにくいのではないかなというふうに思うんですが、その辺はいかがでしょうか。

○菅野委員 背景病変まで完全に雄雌で差があって、例えば、雌で背景病変が認められていない場合は、ちょっと私も考えるかもしれないです。けれども、やはり閾値のない遺伝毒性発がん物質も組織障害を起こすわけです。その様な背景病変の発生するメカニズムと代謝と発がんのメカニズムが全く違うということもあまりない、と普通は考えます。そうしてみると、これ、発がんは雌雄差がありますけれども、背景の線維化などの反応は雌でもちゃんと出現しているのですね。

話が変わって申しわけないですけれども、例えば、二酸化チタンの発がん性も、粉体だから雄雌関係ないだろうと思っていても、実際には雌にしか発がんしなかったということもあるわけです。今のところ雌雄差は原因不明です。実は、これは再現性がとれてしまう様なのです。しかし、雄にも背景病変は出現しているのです。やはり、背景の病変の方が、実際に誘発されたがん病変よりも、低用量から高頻度に出現する訳で、実際に動物に起こった反応の氷山の一角である「発がん」を発がん性試験というのは捉えるわけでして、うまくいったときは雄雌両方にがん病変が誘発されますけれども、ちょっと差があると、背景病変は同じ様に出ていて雄だけに有意にがん病変が出る、背景病変も若干雄のほうが強い、とか、その逆ということで、ある意味、写真の現像みたいな現象が起こるわけですね。写真を現像した方なんてもういないですか、ここには。白黒の写真を自分で現像すると、放っておくと写真が真っ黒になってしまいますよね。途中のいいところで現像を停止するわけです。2年間の発がん性試験というのは、最適のところでとめたかどうかはわからないけれども、2年でとめるわけですね。ですから、これも、更に放っておけば雌でも出るのではないかということがいえるかもしれない理由は、背景病変が出ていること、となるわけです。そういうことを総合的に判断すると、2年間の発がん性試験というのは、雄しか出ない、雌しか出ないというのはよくあるよねという話になって、だけど、大体背景病変はどっちもある程度出ていて、発がん性が示された性のほうが背景病変がひどいことが多いよね、というのが多分我々のコンセンサスだと思うのです。ですから、2年間も費やした試験を有効に使うとなると、雌だけだから、雄だけだからということから、だから閾値がある・なしというのは、私としては今のところ飛び込めないアイデアだということになります。

○金子委員 ただ、変異原性の閾値の考え方というのは、2000年以前と2000年代になってからでは大分変わってきているように思うんですけれども、今ここで出ているEUと米国とも、この評価というのは約15年前で、ICHのものは昨年というんですか、2017年度の評価ということで、ICHの評価は医薬品の不純物に対する評価という面で、少しその分ストレートに評価していいのかどうかはわからないのですけれども、ICHはそういうふうな閾値のある遺伝毒性発がん物質であるという評価をされているわけで、それで、林部会長が最初にいわれたように、ほかの国でもアニリンの評価というのは閾値のある遺伝毒性発がん物質というふうなことになっているので、安全サイドに立つという意味は非常によくわかるのですけれども、全般的にみたら閾値のある遺伝毒性発がん物質という評価の方向が世界的には評価されているのではないかなというふうに思うんですけれども、その辺はいかがなのでしょうか。

○菅野委員 済みません、私個人の印象ですけれども、そんなことはないと思っています。むしろ、一般の毒性物質も、大きく2つの理由から、閾値がないというふうにしたほうが良いと私は個人的に思っているぐらいです。それは余計な話ですが。

○林部会長 ありがとうございました。

では、最後に高橋委員。

○高橋委員 ありがとうございます。先ほどの性差の話でございますけれども、もし、これが代謝物ということであった場合、ラットは代謝酵素に関しては性差がございます。それは、雄の場合、ステロイドホルモンで調節されていますので、同じように酵素はあるのですけれども、ある種の代謝酵素に関しては、CYP3Aのように性ホルモンで酵素量が調節されていて、雄では酵素量が多いために代謝物が増加する。それで、この代謝物がそれに該当するかわかりませんが、そういうことはあります。

○金子委員 2C11,12,13ですよね。CYPの。性差をあらわすのが。

○林部会長 大分時間が過ぎてしまいまして、今ずっと聞いておりますと意見は完全に平行線になっているというような印象を受けます。それで、先ほど本間委員のほうからご提案があったように、ここのこの文書として受け入れられるかどうか、その部分が最終的なポイントになるのではないかと思います。それで、ここにきょういろいろ議論が出たような文言を書き込むのか、それか今のこの文書のまま、28ページの一番上のところですけれども、この書き方で行くのかということになろうかと思います。

それで、一つの考えとしては、座長と事務局預かりというようなことも考えられるのですけれども、恐らくきょうのような意見が完全にもう平行線になってしまった場合には、そういう預かりにしてもあまり意味がないように感じます。それで、この化審法というのは3省で運用しているわけですけれども、ヒト毒に関しては厚生労働省様の所掌ということもあり、きょうの平行線の片側の意見は厚労省の委員の方の意見が主だったというふうに考えますので、いかがでしょうか、経済産業省、環境省の委員の皆様におかれましても、今のこの28ページの冒頭の文書、これをもし認めていただけるのであれば、この有害性評価書をこの場で議論して一応結論に達したというふうに考えたいのですが、最後にどなたかご意見はございますか。

○金子委員 今、部会長がいわれたのは、この今の文面でファイナル化していいかということをお尋ねになっているという理解でよろしいんですか。

○林部会長 はい、そうです。それと、もう一つ、これに加えて修文案として何かこういうふうな記載を入れたらいいとかいうような具体的なご提案があれば、それは考慮するということになるかと思います。

○金子委員 個人的な意見としては、もう少しこの内容を、最終案を、今みていたものにずっと目を通しているわけではございませんので、きょうこのまますぐファイナルにするのだったら、今まで議論したことが意味がないように思い、それが反映されないようなことになってしまうので、次回までにもう一回この意見を水面下で議論してファイナル化するというのはいかがでしょうか。

○青木委員 水面下というのはどういう意味ですか。

○金子委員 ここの場ではなくて、メールか何かでやりとりしながら、ファイナル合意形成をしてはいかがかというふうなことです。

○林部会長 今の金子委員のご発言の趣旨は、今ここで、この文案だけで決めてしまうには少し早計ではないかと。もう少し時間をかけて考えさせてほしいということだと思うんですが。

○青木委員 ただ、確かに文章については一定の理解はします。ただ、これはあくまで有害性評価値をどうするかというのが最後のポイントになるわけですよね。そこを置いておいていいのかなと思いますが。それは多分──私からいっていいのかな、水面下という意味がメールのやりとりだということでしたら、結構されているというふうに私は漏れ聞いているのですが──というのは、ちょっとあまり、それ以上はいいません。

○林部会長 ほかに何かご意見はございますでしょうか。

○東海委員 有害性の専門家ではないのですけれども、ちょっと気づいたことを一言申し上げたいと思います。やはり議論の背景にありますのは、基本的にはこの化審法上の判断に資するリスク評価をする上で、どのようにして評価値を決めるかと、そういうことだと思いますが、ガイドにしているガイダンスドキュメントなるものがありますけれども、そこでうたわれていることは、基本的には各物質において不公平がないような評価をするということと、それから、常に最新の科学的な知見の導入に対してオープンであるべきだと、そういう基本的な考え方があるんですよね。ですから、先ほどのご意見を伺っていた限りにおきましては、相当最新の科学的な知見の解釈というものが決まる部分にかかわってきているように感じますので、それは3省で合意されたこのガイダンスドキュメントに従って執行するというところとかなりかかわり合いがあるところだと思いますので、私の意見としては、少し、もうちょっと時間をあけて議論をされてもいいのではないかというふうに感じております。

○林部会長 ありがとうございました。

どなたか、そちらで1人……。どうぞ。

○鈴木(規)委員 座長の質問に対する私の感想ですが、28ページ冒頭の「閾値がない遺伝毒性発がん機序で生じる可能性がある」という、この部分だけについていうならば、私は特に違和感はないと。今までの議論を伺っている限りでは、文言はともかくとして、では逆に発がん機序で生じる可能性がないという論証もされていないと思いますので、「可能性がある」というこの文面までは特段違和感はないように思います。

○林部会長 ありがとうございました。もう意見が出尽くしたとは申しませんけれども、もうかなり時間を超過しておりますので、ちょっとこれ、先ほどは決めてしまおうと思ったのですけれども、もう時間切れということで……

○厚労省 済みません、厚労事務局です。ご意見いただいてありがとうございました。済みません、長時間ご議論いただいたところ申しわけないのですけれども、このまま次回に継続してといわれましても、さてどうしようかなと思って、ちょっと頭が痛いので一言いわせていただきたいと思うんですが、論点というか、議論のポイントが2つあって、それがずれているように感じています。1つは、可能性があるのではないか、ないのではないかという話で、それぞれのお立場でそれぞれの観点に従って、いや、こういう場合があるではないか、こういう場合があるではないかという話で、各委員が考える「こういう場合」のケースを考慮して、ありかなしかというのを議論していただいたのだと思うので、それについてもう少し丁寧に議論の結果としてここの報告書の中に明示的に反映すべきではないかという話は1つあろうかなと思います。

ただ、その上でもう一つとして、今いったように、あるともないとも結論はお互いに出ていただけなかったというふうに理解をしているので、それについては資料に書いてあるように、可能性がないとは断言できないので,「可能性があると判断し」ということで、化審法に基づく安全性の評価という観点では結論は変わらないのではないかなと思います。結論が変わらないのであれば、ここの評価として進めさせていただいて、報告書の形としてどこまでどう書くのかという話は、もう少し文面について再度議論をしてご意見をいただいて、次回会議資料に書かせていただくということは可能だろうと思うのですが、可能性あり・なしがわからないという話だとするとちょっとこじれてしまいますし、それについては可能性があると判断して安全側に立つという化審法の趣旨でやらせていただきたいというのがこちらとして考えているということなので、それ自体についてご理解がいただけるかどうかということは決めていただけると助かるなというふうに思います。

済みません、以上です。

○青木委員 私は、今の厚労省さんの事務局の考え方を支持します。

○林部会長 今本当に、まさに平行線になっているというのがその部分であって、最終的に今ここに書いてあるような結論としてこの評価書を進めていいかどうかだけご意見をいただければと思うんですけれども、恐らくこれでまた意見を求めても平行線になると思いますので、いかがでしょうか、文言は、今も厚生労働省さんのほうが修文をしても構わないということはおっしゃっていただいているので、要するに方向性としてこういう形でまとめてもいいのかどうかだけ決めたいというふうに思います。今は、その方向性でいいのではないかということを環境省さんのほうの委員の方から……

○青木委員 環境省の委員というか、青木です。環境省の意向を受けたわけではありません。

○林部会長 意向を受けたわけではないけれども、所属される委員の一人のご意見としていただきましたけれども、そのほかはいかがでしょうか。もし特段の意見がなければ、今厚生労働省さんのほうで示された方向でとりまとめたいというふうに思います。よろしいですね。

そうしましたら、今の、先ほど厚労事務局のほうからご説明があったように、方向性としてはこのまま、この方向性で行くと。そして、この評価書の文言に関しては、きょうの議論の内容も踏まえてもう一度修文を行い、次回にもう一度最終的なものを提示していただくというふうなことにさせていただきたいと思います。

この先にはちょっと進めませんでしたけれども、長時間のご議論をどうもありがとうございました。

それでは、続きまして、次の題に移りたいというふうに思います。次は、アクリル酸でございます。

事務局のほうからご説明をお願いいたします。

○環境省 それでは、アクリル酸の生態影響での観点でのリスク評価Ⅱの有害性評価(案)について、事務局よりご説明をいたします。

通常であればリスク評価書(案)の説明となりますけれども、アクリル酸につきましても生態影響に関する有害性評価の内容について専門家の間で議論が継続しておりますことから、本日は有害性評価(案)のみをご説明したいと思います。

それでは、資料2をご覧ください。

有害性評価でございますけれども、生態影響に関する有害性評価の技術ガイダンスに従いましてデータの有害性情報を収集いたしまして、それらのデータの信頼性を確認するとともに、既存の評価書における評価や国内外の規制値の根拠となった有害性評価を参考としつつ、予測無影響濃度(PNEC値)に相当する値を導出いたしました。

ちなみに、アクリル酸のLogPowでございますけれども、0.46となっており、3未満でございますので、水域への評価のみとさせていただいております。

それでは、1─1です。水生生物に対する予測無影響濃度(PNEC)を導出するための毒性値について、専門家による信頼性評価が行われた結果、表1にお示しする毒性値がPNECの導出に利用可能な毒性値とされております。表1─1にお示しをするとおりでございます。なお、信頼性評価を行った有害性の情報につきましては、この本資料の10ページ以降にお示ししておりますので、適宜ごらんいただければと思います。

続きまして、PNEC値の導出でございます。表1─1にお示しをしましたとおり、急性毒性に関しましては3種の栄養段階でデータが得られております。慢性毒性に関しましては、生産者及び一次消費者のデータが得られているところでございます。慢性毒性値につきましてご説明いたします。

まずは、生産者に関してでございます。BASFは、純度約99.9%のアクリル酸を用いまして、デスモデスムス属の生長阻害試験を実施いたしました。対象区及びこちらに示します10濃度区でpH調整を行わずに実施をされております。100㎎/Lを除く濃度区のpHは、開始時が7.2~7.9、終了時が7.7~10でございました。濃度の分析でございますけれども、GC-FIDによりまして、対照区及び10㎎/L、100㎎/Lについて行っております。最終的な結果でございますけれども、設定濃度に基づく3日間生長阻害に関する無影響濃度(NOEC値)に関しましては0.016㎎/Lでございました。

続きまして、一次消費者(甲殻類)でございます。こちらの純度99.78%のアクリル酸を用いまして、オオミジンコの繁殖阻害試験を実施いたしました。試験は対照区及びこちらにお示しする5濃度区(公比2)で行われております。各濃度区の実測濃度の算術平均値はこちらにお示しするとおりでございまして、設定濃度の72~95%となっておりました。実測濃度に申しまして、21日間繁殖に対する無影響濃度(NOEC値)は19㎎/Lとなっております。

続きまして、急性毒性値です。二次消費者(魚類)に関してです。環境省は、純度99.7%のアクリル酸を用いまして、メダカの急性毒性試験、半止水式で実施をされております。設定濃度は、対照区及びこちらにお示しする5濃度区(公比1.3)で行われております。最終的な結論でございますけれども、4日間半数致死濃度(LC50)は100㎎/L超ということでございます。

続きまして、PNECの導出でございます。2栄養段階(生産者及び一次消費者)に対する信頼できる慢性毒性値(0.016及び19)の小さいほうの値を種間外挿のUF、不確実係数の「5」で除しまして、0.0032㎎/Lと、二次消費者の急性毒性値100㎎/L超をACR(急性慢性毒性比)「100」で除した1㎎/L超のうち、小さいほうの0.0032㎎/Lをさらに室内から野外への外挿係数「10」で除しまして、アクリル酸のPNECといたしまして0.00032、0.32μg/Lが得られております。アクリル酸の毒性値に関しましては、3栄養段階で急性毒性値が得られておりまして、生産者である藻類への急性毒性が最も強いことが示唆されております。しかし、類似物質を含めて魚類の慢性毒性値は得られておりませんで、アクリル酸の藻類や魚類に対する作用機序が明らかでなく、栄養段階間の毒性傾向が不明であることなどから、魚類の慢性毒性が藻類に対する慢性毒性値に比べでどの程度であるかは現時点では判断できないといたしました。したがって、種間外挿の不確実係数を減じるに至る科学的な根拠は乏しいといたしまして、PNEC値の算出は技術ガイダンスに従い行っております。

続きまして、上記で算出したPNECにつきまして、国内外の規制値との比較を行いまして、その妥当性を検討いたしました。アクリル酸に関しましては、主要国で水生生物保全に関する基準値等は設定されておりません。国内外のリスク評価に関する情報でございますけれども、環境省は化学物質の環境リスク初期評価を公表しておりまして、2回ほど評価を行っております。最新の第10巻では藻類に対する72時間生長阻害のNOEC0.030㎎/Lをアセスメント係数10で除しました0.003㎎/LをPNECとしております。なお、10巻の評価でございますけれども、魚類の慢性毒性値は得られていないけれども、藻類の感受性が高いとしてアセスメント係数を設定しております。

続きまして、独立行政法人製品評価技術基盤機構が公表している化学物質の初期リスク評価書では、藻類に対する72時間生長阻害のNOEC0.016㎎/Lをアセスメント係数50とあわせて用いております。欧州リスク評価書(EU-RAR)では、藻類に対する72時間生長速度阻害のEC100.030㎎/Lをアセスメント係数10で除しました0.003㎎/LをPNECとしております。なお、EU-RARにおきましても魚類の慢性毒性値は得られておりませんけれども、急性毒性値が甲殻類と同じ範囲であることから、慢性毒性値が藻類の毒性を下回らない可能性が高いとしております。世界保健機関、環境クライテリア(EHC)では、評価に用いる具体的な数値は示されておりませんけれども、藻類はアクリル酸に対し感受性が高いとはしております。

本有害性評価に関しましては以上となります。

○林部会長 どうもご説明ありがとうございました。

それでは、ご質問、ご意見、お願いいたします。

○柏田委員 これまでの経緯をあまりよく知らなくて発言するのはあれかなと思ったのですが、率直な感想をちょっと申し上げますと、確かに計算方式でいくと、5と10を50で除して出すという値は妥当と思うんですけれども、種間の感受性をみてみると藻類に対して特段に感受性が高いという結果を得ていますし、WHOでもそういうコメントがわざわざ出ています。

それで、今回出された値0.0032㎎/Lというものを既にほかで出しているPNECと比較すると、10倍程度厳しい値を設定されているのですけれども、ちょっと今回、藻類の感受性が特段高いので、場合によってはこれは過大評価になってしまってはいないのかなというのをちょっと懸念しますけれども、そのあたりはどうでしょうか。

○林部会長 ありがとうございました。今のご質問に対して、どうぞ。

○小山委員 この評価に至るまでに我々はいろいろ検討して、確かに今、柏田委員がおっしゃったような議論もありました。ただ、この当時はまだ、このときには、要は、何で藻類に対して毒性が強くて魚類に毒性が弱いのか、そのメカニズムというのはわからないんですね。今の時点でメカニズムがわからないままでUFを減じていいだろうかということがあって、今ここに書いてあるように科学的な根拠がないということで、現時点ではUFを減じることはしないほうがいいだろうという結論に達しました。もちろん我々としては、UFを絶対減じないという態度ではなくて、UFを減じるに足るようなデータが、科学的な根拠があれば、もちろんそれは十分考える余地はあると思っています。

○林部会長 ありがとうございました。減じるに足るデータというのは、具体的にはどのようなものをお考えでしょうか。

○小山委員 今の時点では、どうしても足りていない魚類の慢性毒性のデータですね。これが明らかに植物プランクトンの毒性値よりもかなり大きな値であれば、これはやはり藻類に非常に強い慢性毒性を示すだろうというふうにある程度判断できるかと思います。

○林部会長 ありがとうございました。

ほかにご意見はありますでしょうか。

では、今の場合は、これはルールにのっとった方法でこのような毒性値を導出するということになろうかと思いますが、金子委員、どうぞ。

○金子委員 今の件でちょっと確認させていただきたいことがありまして、魚類については急性毒性だけで慢性毒性の値はないということで、藻類と甲殻類というか、ミジンコは慢性毒性があるということなのですけれども、ACRを用いると、例えば魚類の値を、急性毒性を慢性毒性に置きかえるために100で割るというふうなことがあると思うんですけれども、100で割っても今のミジンコのデータに比べてまだ急性毒性値が高い──高いというのは数値が高いということなので、だから、もうそれで、先に柏田先生がおっしゃったように、それでも高いのに藻類の毒性値に50で割ると過大評価になってしまうのではないかというふうに思うんですけれども、その辺はいかがお考えでしょうか。

○小山委員 これは、我々、粛々とガイドラインに基づいて評価をしておりまして、3種の急性毒性値がそろっていますので、それぞれのUFを掛けて、急性毒性値から考えた値、そして慢性毒性から得られた値、それを比べて小さいほうをPNECの候補値とするということはご理解いただけると思うんですね。それにさらにUFの問題というのは、今度は値の問題とは別の問題になってきます。魚類の慢性毒性値にUFを掛けて、その値が藻類より大きいから、ではUFを減じるかという話はまた別の問題だと思うんですね。我々はあくまでもガイドラインに基づいてUFを決めています。UFを減じるときには、先ほど申し上げたような根拠があってUFを減じるというふうに考えて評価を行っております。

○林部会長 今のお答えでよろしいでしょうか。

○金子委員 その技術ガイダンスに沿って粛々とやるということは理解できるのですけれども、例えば、もうさっき議論が出たと思うんですけれども、OECDのHPVとかEUでは、50ではなくて10で、同じデータを使って10というふうなことになっていると思うんですけれども、その点については、彼らの評価と今回の評価の相違点の一番大きい違いは何とお考えなのでしょうか。

○小山委員 その話は、アクリル酸についてという話でしょうか。

○金子委員 そうです。

○小山委員 アクリル酸でそんな評価が出ているのでしょうか。

○金子委員 アクリル酸では、アセスメントファクター10というのは2つとも出ていますけれども。

○小山委員 ちょっと私はそれを存じ上げていなかったのですけれども、少なくともUFを別に国際的に統一する必要があるのかどうかというのは別の議論であると思いますし、我々としてはあくまでも我々がもっているデータを用いてUFを考えておりますので、今、しかもこのガイドラインはここでオーソライズされて決まったものですので、ここで変えるという議論はちょっとなじまないかと思います。

○林部会長 事務局のほうは何か今の点に関して情報をおもちですか。

○環境省 金子委員ご指摘のはEUのリスク評価書のことでしょうか。確かにEUのリスク評価書は、こちらの評価書にも記載してありますとおり、あちらではEC10を使うことになっておりますけれども、それで魚類の慢性はないのですが、そこの部分を減じているというのは事実でございます。これにつきましては、これはドイツが担当しているのですけれども、そちらにも問い合わせをしたところ、科学的に何か情報があって減じているわけではないということでしたので、当方といたしましても科学的な証拠なしに、では何か、そちらがそうしているから下げるというようなことはいたしませんので、ぜひ科学的な──もちろん、小山先生からご発言いただきましたとおり、減じることに関しましては、それは情報があればぜひ検討させていただきたいと思いますので、ぜひその根拠となる情報をご提供いただきたいというふうに考えております。

○林部会長 どうもありがとうございました。

ということで、さらに何か。どうぞ。

○柏田委員 済みません、小山委員にちょっと教えてほしいのですけれども、僕もちょっと不慣れで申しわけないのですけれども、慢性毒性のない場合は、急性から慢性でACRを適用して100で除するというのも、これはルールにのっとったやり方だとは思うんですけれども、それに対して金子委員が今それで申し上げたのですけれども、それは今回は適用しないということで、そのようなやり方でやるということでしょうか。

○小山委員 いや、急性毒性値をUFを使って割って求めた値と、慢性毒性値にまたUFを使って求めた値、それを比較して、より小さいほうを使ってPNECを定めるということです。UFの話は、またそれとは別の話ですということです。今回は、急性毒性値のデータにUFを使って計算した値よりも慢性毒性値から求めた値のほうがずっと小さいので、そちらを使っているということです。

○林部会長 よろしいですか。

それでは、時間も来ておりますので、アクリル酸に関しましてはこの有害性情報の詳細資料というか、評価資料をお認めいただくということでよろしいでしょうか。──では、この原案をお認めいただいたというふうに考えます。

それで、環境省さんのほう、これはどうしますか。ここはもう大分時間が来ているので。

○環境省 そうですね。大分時間が過ぎておりますので。ただ、リスク評価書の暫定版ではあるのですけれども、iPadのほうに格納させていただいております。資料2の参考……

○林部会長 資料2の参考1というのがそれですね。

○環境省 そうですね。済みません、これは紙でお配りしているようでございます。こちらに通常のリスク評価の結果を用意しておりますので、非常に簡単にご説明をしたいと思います。

物理化学性状はちょっと飛ばさせていただきまして、3ページ目をごらんいただきたいのですけれども、排出源情報でございます。製造輸入数量に関しましては、23年度からほぼ横ばいというような状況でございます。

次のページがPRTRの情報でございますけれども、評価の対象物質が途中で若干変わっておりまして、21年から22年ということで、アクリル酸からアクリル酸及び水溶性塩ということで、そこでちょっとガタンと変わっているのですけれども、水域への排出量はほぼ横ばいと──少しふえているときもあるのですけれども、昔と比べるとほぼ同程度であるということでございます。

有害性評価値に関しましては5ページにお示ししておりまして、今ご説明をしたとおりということでございます。

6ページに関しましては、5のところでございますがリスク評価の結果でございます。排出源ごとの暴露シナリオの評価でございますけれども、水生生物に対するリスク推計結果に関しましてはリスク懸念箇所が6ヵ所、5─2で様々な排出源の影響を含めた暴露シナリオによる評価に関しましては、PEC/PNECが1を超えたところが27ヵ所ということでございます。

さらにめくっていただきまして7ページでございますけれども、過去10年の水質モニタリングデータを収集いたしまして、PEC/PNECが1を超えた地点が7地点ということになっております。簡単にご紹介をいたしました。

現時点で排出源ごとの暴露シナリオ、5─1でご紹介したところでございますけれども、PRTRデータを用いました推計結果で懸念箇所が出ておりますので、これに関しましては何らかの取り組みなりが必要ではないかというふうに環境省としては考えているところでございます。

大変駆け足になりましたけれども、以上です。

○林部会長 ありがとうございました。これはあくまで今の暫定版の説明ということで、単に今の説明だけをしていただいたということでよろしいんですね。

○環境省 そうですね。ただ、既に有害性評価値をお認めいただいたということでして、懸念地点が出ているということでございますので、これに関しましては次回にもう一度審議はせざるを得ないとは思うのですけれども、何らかのアクションというか、そういったものを検討していきたいかなというふうに思っております。

○林部会長 わかりました。それでは、次回までに検討すべき点はしていただいて、文章の修正等があればしていただくということになろうかと思います。

これで一応議題の2つ目までは終わったことになるのですが、何かここまでのところで全体を通してご意見は。

○東海委員 ありがとうございます。時間の押しているところ、手短に述べたいと思います。

もう既にきょうご議論されたことですけれども、やはり3省合同での審議が必要な資料は、いうまでもなく最新の知見に対してオープンであるというスタンスのもとで、技術ガイダンスにのっとり検討し、作成されたものであるがゆえに、その現状のデータ整備の限界も踏まえた上で、可能な限り物質間の公平性が確保された評価がされているがために、適切な規制措置ですとか具体的な措置内容の判断が可能となると考えております。化審法上の判断に用いられるリスク評価において必須となる物理化学性状値あるいは人健康有害性評価値、生態影響、PNECでは、不確実性も含めて国際的に流通可能なデータであるかどうか、あるいは日本の暴露特性等も考慮されているか等が確認されてきたことはご承知のとおりであります。今回、アニリン、アクリル酸、2つの物質につきまして、各省それぞれ検討された有害性評価値案、PNEC値案に対して、事前に3省の関係する専門家の方々からのインプットを受けた資料が審議会資料として提出されていることから、これによってデータや知見の不確実性も含めてリスク評価の審議が可能となり、結果として審議の過程の透明性ですとか、あるいは迅速性の確保に向けた審議のプロセスになってきているのではないかと感じた次第です。

したがいまして、私の考えといたしましては、今回の案件を踏まえて、3省合同審議会におきましては、審議の手順といたしまして、まず有害性評価書(案)の審議をする。了承された場合は、了承された有害性評価値とPNEC値によるリスク評価書(案)の審議をするといった、その2段階の審議のプロセスというものが今後より一層必要になってくるのではないかというふうに感じました。

コメントです。以上です。ありがとうございました。

○林部会長 どうもありがとうございました。私も座長としてこれまで何度か議事進行させていただいたのですけれども、今の東海委員のおっしゃるように、有害性評価書の議論が十分できていないうちにリスク評価のほうの議論に入ってしまっているなというふうに感じることがよくあったんですけれども、今のご提案のように、それぞれをきちんと議論していくということは非常に重要なことかと思います。それで、事務局におかれましては、今の東海委員のご提案の趣旨を踏まえていただいてご検討いただければよろしいのではないかというふうに考える次第でございます。

○青木委員 今の東海委員のご発言は非常に、一つの考え方として、こういう有害性の議論というのは大切かな、という観点でのご指摘かと思って理解したのですけれども、ただ、そのときに、やはり非常に、化審法のこの現在のリスク評価のことを当初からご案内の方というのはだんだん減ってきたような気がするのですけれども、2020年目標の達成というのは非常に大きかったはずですよね。つまり、リスク評価を加速させる。そのための目標というのは2020年である。それをどうするかということの議論というのは約10年ほど前に結構、ある意味非常に厳しくやって、そういう中で今のガイダンスができたのだというふうに理解しています。ですから、そのガイダンスにのっとってやるということは、加速という意味ももちろんなのですが、つまり、あるガイダンスをつくって、そのもとでやっていく、それは加速化につながるということがあるのです。けれども、それ以上に大きいと私は理解しているのですが、物質間の公平性というのは非常に大きな観点だと思います。現実にいろいろな基準値なり指針値を決めてきて、関与して関係していた立場でいうと、一番悩むのが物質ごとの公平性だと思います。そういう中で、やはりこうやってしっかりした──もちろんいろいろ問題もあって、途中で見直しが必要だという議論というのは私も聞いていますし、そこは納得する部分はあるのですが、やはりガイダンスをもう一回よくみていただいて、そういう中でこのリスク評価が、この化審法のリスク評価が進んでいるということをもう一回確認していただきたい。それは、委員はもちろんですけれども、事務局の方にもよくそのことは振り返っていただきたいなと思うところです。

○林部会長 事務局のほうから何か。

○厚労省 済みません、1点だけ、コメントというか、考え方なのですけれども、有害性評価について丁寧にご議論いただくというのは非常に重要だろうと思っていますので、それについて有害性を評価した上で、その結果がオーケーであれば、次にリスク評価というのは正しい順番かなと思います。ただ、その一方で、今ちょっとご議論ありましたけれども、なかなか時間をかけて、必ず1回そこでオーケーをいただいた後、次の会議に2段階でやらなければいけないというのがマストになると、それはそれでちょっとスケジュールの関係等もありますので、必ずしも2回に分けてということではなくて、丁寧に有害性評価をやった上で、その結果、了承を得られた上でリスク評価をやりましょうというご趣旨でご意見をいただいたというところだけご確認したいと思っています。やり方を含めて検討させていただきますけれども、場合によっては、済みません、1度の会議で出させていただくこともあるのではないかなと思いますので、丁寧にやらせていただくというのは間違いないかなと思いますので、よろしくお願いいたします。

○林部会長 まあ、一日の間でやってもいいし、次から次へ順番に流していけば、それほど時間的な延びが生じるわけではないと思うので、その辺も含めてご検討いただければというふうに思います。

もう予定の時間が過ぎてしまったのですけれども……。どうぞ、吉岡委員。

○吉岡委員 有害性に関して丁寧な議論をするということなのですけれども、今、パラレルで平行線になってしまった意見をここに出してきて、また平行線を議論し続けるというのは、果たして時間的に有効なのでしょうか。だから、丁寧な議論というのは何を丁寧にするのかということをもうちょっと考えていただきたい。ここに出てくるまでの間に論点が全部整理されていて、それに対して賛否両論があって、こういうメリット、デメリットがありましたよという、その議論をすべき論点をきちんとしてこの会に出してくることが「丁寧に議論をする」ということなのだということだと思うんですがね。

○林部会長 ありがとうございます。今の吉岡委員のご発言内容は非常によくわかるのですけれども、先ほどもちょっといいましたように、環境省、厚労省、経済産業省というそれぞれの所掌があって、それぞれの所掌の範囲で今はこの有害性評価書というのはまとめられていると思うんですけれども、そのときに、他の省の専門家の方の意見がどれだけ反映されるかということ、要するに、より広く専門家の意見を集約した評価書ができればいいのかなというふうに、私は東海先生のご意見を理解させていただいた次第です。

それでは、次の議題に移りたいと思います。安息香酸ベンジル。ご説明をお願いします。

○環境省 それでは、資料3に基づいてご説明をさせていただきます。

平成29年1月に公表された生態毒性に係る安息香酸ベンジルのリスク評価(一次)評価Ⅱの評価結果は、以下に示すような不確実性が指摘をされておりました。

丸2つに関しましてはいつもの文言でございますので省略いたしますけれども、3つ目の丸をごらんいただきたいのですが、PRTR対象物質ではないため、PRTR情報が得られていないこと、環境排出量の推計に不確実性があること、また、環境モニタリングによる実測濃度が得られていないことから、評価Ⅱの判断に足る暴露評価結果が得られていないと判断し、環境モニタリングによる実測データを収集することとするといたしました。

こちらの評価結果を受けまして、水質濃度、底質濃度の実測を行いまして、当該地点での環境中濃度を、水質、底質、それぞれPNECと比較をいたしました。また、製造・輸入数量が増減する可能性もございますので、製造・輸入数量の最新データも確認をしております。これらを実施したことによる安息香酸ベンジルの新たな評価結果及び今後の対応は、以下のとおりとしたいと思います。

2ページ目をごらんください。

環境排出量の推計の不確実性を低減するために、製品使用に伴う大気への揮発割合や家庭用水系洗浄剤に含まれる香料の衣類の残存割合に関する推計排出量への影響を試算したほか、下水道集水域の精緻化も試行しましたが、推計排出量に及ぼす影響はいずれも限定的であると考えられました。

平成28年度に水質濃度及び底質濃度の実測を行いまして、測定地点でのPECを比較した結果、PNECを下回っておりました。

環境モニタリング地点でございますけれども、主要用途である家庭用水系洗浄剤が多く排出される人口密集地に近接する川の河口で測定されていることから、暴露シナリオに対する空間的代表性という観点で有効であると考えられました。

化審法の届出による製造・輸入数量は、平成24年度以降横ばいでございました。

以上から、生態に関しましては優先取り消し相当ということなのですが、人健康におきまして有害性情報が得られておりませんで、有害性情報を収集する等してスクリーニング評価を行った後、優先取り消しかどうかということを判断させていただきたいと考えております。

関連情報は3ページにお示しをしておりまして、モニタリング結果を載せております。

さらに参考情報といたしまして、モニタリング情報のもう少し詳しい情報、また、5ページ目に化審法届出情報ということでお示しをしております。参考資料1のほうに29年1月の評価書、参考資料2のほうに新たに今回のモニタリングデータ、また、排出源ごとのシナリオのもの、さまざまな排出源のシナリオのものに関しまして、対象年度を元データとした化審法の製造・輸入数量のほうを年次更新しておりますので、新たにリバイスしてつくり直しておりますので、こちらもあわせて後ほどごらんいただければと思います。

資料3シリーズに関しましては以上です。

○林部会長 どうもありがとうございました。これは宿題が出て、その回答が出たので、報告ということで、特に問題になるような点はみつからなかったというご報告だと思うのですけれども、まだもう一つ宿題が残っていまして、人健康の有害性情報がまだ十分に得られていないということで、それをもう少し集めるという宿題がもう一度出されたというような形かと思います。これをここで議論するということではないのですけれども、何かご質問でもあればどうぞ。

○恒見委員 この結論自体は問題ないと思っています。ただ、環境モニタリングをして、もうそれでオーケーというだけではなくて、なぜ以前のリスク推定でPECがPNECを超える地点がみられたのか、それは排出源のほうに問題があったのか、排出量の配分に問題があったのか、モデルの条件設定に問題があったのかも含めて考察をすることで、シミュレーションの精度を向上させるということも意図して、その辺の解析もぜひ、今後また同じような機会はあると思いますので、やっていただければと思います。

○林部会長 ありがとうございました。事務局、何かありますか。

○環境省 ご指摘ありがとうございました。2ページの一番上の丸でも書かせていただいたのですが、ご指摘のとおり、そのシミュレーション結果、以前シミュレーションを行った結果とモニタリングが不一致であったということでございまして、幾つかの条件で、例えば揮発してしまうとか、洗濯物にくっついてしまうとか、そういったこともちょっと試算をしてみたのですけれども、それはあまり大きな影響ではなかったと。

一つ、断定的にいうことはできないのですけれども、アルカリ性側に傾くとかなり分解が早く進むというような情報もございまして、恐らくその物化性状の設定のところと、あと、本物質はPRTRの物質ではございませんので、化審法のデータが都道府県ごとというものを、ある統計情報を用いてメッシュに配分して、それが川に入ってくるということをしておりますので、そういったところも影響しているようだということで、ちょっとここには細々記載をしていないのですけれども、いろいろ検討をしておりますので、また個別に恒見委員などにもご相談しつつ改善をしていきたいというふうに考えております。

○林部会長 では、どうぞよろしくお願いします。

それでは、これで本日予定された議事は全て終了ということになると思いますので、事務局のほうに……

○小山委員 前回のこの委員会で、ノニルフェノールエトキシレートについて審議を行ったと思うのですが、それが今回は出てこなくて、今どういう状態になっているかというのを教えていただけないでしょうか。

○林部会長 事務局、わかりますか。ノニルフェノールエトキシレート。

○経産省 ノニルフェノールエトキシレートは、その後引き続き、有害性評価値の議論をしています。前回審議会後に金子先生からの新たなご質問を環境省に照会し、ご回答をいただき、それを今また金子先生が検討しているという状況で、まだ引き続き継続中です。

○小山委員 ここでこの話をしないほうがいいかもしれないのですけれども、この議論のやり方というのが、金子委員個人と我々の間でのやりとりというような、ちょっとあまりルートとしてはよろしくないのではないかと。経産省としてきちんと質問をまとめていただきたいと思います。我々は今まで、ECHAのデータとかいろいろなものを、傍証をいろいろ積み上げていって検討してきました。前はECHAのデータは使っていなかったのですけれども、産業界からも使ってくれということをいわれて、ある程度そういうことに配慮しながらいろいろ検討してまいりました。一方で、それを何か逆に否定するような内容の質問もされることがあります。ですから、ここは必ず経産省経由でそういうことを十分考えた上で質問を投げ掛けていただきたいというふうに考えます。

○経産省 失礼しました。今、金子委員といいましたけれども、その点も含めて我々経産省として環境省にご提出させていただいた意見でございます。

○林部会長 ほかに何かございますか。──ないようですので、もう大分時間が超過してしまったのですけれども、マイクを事務局のほうにお返しします。

○経産省 特段ございませんが、第二部のほうは15時半より開催したいと思いますので、引き続きお願いします。第二部は新規物質の審査で非公開なので、傍聴の方はご退席ください。

それでは、15時半までに席にお戻りください。

本日はどうもありがとうございました。