中央環境審議会総合政策部会環境と経済の好循環専門委員会(第3回)議事要旨

日時

平成15年12月19日(金)14-16時

場所

環境省第1会議室

議題

環境と経済の好循環を目指したビジョンについて委員等からの意見発表と討議

要旨

1.「自然がはぐくむこころとちから」をテーマに委員等から意見発表

○辻 晴雄委員

  • シャープは環境先進企業をキーワードに、スーパーグリーン戦略を進めている。これは、[1]環境技術開発を強化する『スーパーグリーンテクノロジー』[2]環境負荷の低い工場づくりを目指す『スーパーグリーンファクトリー』[3]環境配慮型商品を創出する『スーパーグリーンプロダクト』、の3つの課題を絡めて進めるスパイラル戦略である。
  • 業界での長年にわたる技術開発の成果として、太陽電池と液晶技術開発がある。無公害で無限の太陽光発電は、スーパーグリーンプロダクツの主役。1994年に国庫補助制度が開始して普及のピッチが上がった。最近、補助金額が減る一方で設置台数は増えているが、補助金の意義は、経済的なメリットだけでなく、国が力を入れていくビジョンの決意表明と考える。液晶テレビは、ブラウン管テレビに比べて省エネルギー、省資源であり、コストダウンとともに普及。デジタル放送と相性が良く、2011年に地上波アナログ放送が終わる時点で全てのテレビが液晶になれば、森林面積換算で東京都の約1.4倍分のCO2削減に寄与する。
  • 環境と経済の好循環について数値的に考える手がかりとして地球温暖化対策推進大綱をみると、その当面の目標よりもさらに進んだ取組も可能ではないかと考える。
  • 自然を豊かにしながら他の産業をのばすという良い循環ができるのではないか。農林業、漁業、観光、医療、福祉、教育、自動車、鉄道、IT、エレクトロニクスなどの技術とノウハウを融合させ、いやしや快適空間の体験を国内外の人々に提供するよう、自然を守りながらその中で産業を伸ばしていく「つつみこむ環境国家」を目指すようなグランドデザインが望まれる。

○養老 孟司委員

  • 環境問題は人の問題。自分自身が自然を含んでいるという感覚がないと、自然環境や環境と経済の関係はつかめない。例えば、現在の東北、関東、中部などの行政区分は、人間の都合ではなく、かつて本州が島に分かれていたころ、すなわち自然区分の反映。自然と人間の活動の関係は意外と調べられていない。
  • この委員会を含めて人は何か整合的、秩序だったことをしようとするが、脳は昼間に働いて、夜寝ている間に秩序を回復する、すなわちエントロピーを減少させる。環境問題でエネルギーを使うとCO2、ごみがでるというのもエントロピーの問題。
  • 我々自身の生活には、都市環境と田舎の環境というものがどうしても必要である。我々は、意識的な生活を持っていると同時に体が勝手に動いていく無意識の部分も持っているわけで、その両方を個人の生活にある程度戻していかなければならない。国主導で、1年に1カ月田舎へ行き働くように指導してもよいのではないか。
  • 毛沢東の下放になってしまっては怒られるが、からだを使うと考え方が変わるということが皆さんもわかると思う。例えば、ゴルフをやる人は、何がいいのか尋ねてもはっきり答えないが、また行くところをみると、調子が良いのに違いない。環境省職員は少なくとも半年ぐらいは緑のあるところにいるようにするのはどうか。

○山本 加津子委員

  • 「ゆうゆう」の読者は50代、専業主婦が最も多いが、このような読者がどのように自然とふれあっているかをアンケートから見てみる。まず、物を買うよりも旅行や趣味にお金を使いたいと考えており、また、今までに何か具体的な社会運動系のお稽古ごとをしている人は少ないが、今後やってみたい人はもっと多いようである。趣味は、旅行が4分の1、その他自然に関係するものとしてガーデニング、ウォーキング、登山などが挙がっている。
  • 元気ときれいを促すものとして「歩くこと」を特集したところとても好評で、再度特集した。ウォーキング人口は、成人人口の半分にあたる3300万人と言われる。誰でもすぐに出来るスポーツであり、手軽に、気軽に参加できるためと考える。
  • 里山歩きをすることによって、多くの人が自然とふれあうところまできている。これがさらに自然と対話するところまでいくと、皆が環境問題を具体的に自分の問題として捉えるようになるのではないか。もう一歩自然と向き合う段階までいくにはどうしたらよいかが課題。エコツアーというものもあるが、例えば、里山歩きからもう一歩山に踏み込むためのノウハウが気軽に身に付くような方法があると良い。

○小林 英俊講師

  • エコツーリズムは、エコロジーをみせるツーリズムと考えることができる。次々とスポットを回る従来の観光と異なり、人と地形、植物、動物はどのように関わって暮らしているか、結果としてどのような文化を残してきたかなどをみせるので、地域全体が観光資源化する。また、単に野生生物をみるとか環境教育型の旅行でもなくて、自然環境へのインパクトを最小にするような旅行、という厳密な定義の難しい幅のある考え方がある。
  • 今までは、観光産業と環境保護活動はばらばらであり、地域も関心が薄かったが、今後は、楽しく学びながら環境、地域コミュニティ、地域経済に関われる観光産業、すなわち「持続可能なエコツーリズム的観光」が求められるのではないか。
  • エコツーリズム推進の利点は、[1]地域経済への貢献、[2]地域イメージや住民意識の向上、[3]ツアー参加者の意識に好影響を及ぼす、[4]推進地域に汎用性がある、[5]地域の自然環境や文化の保全に役立つ、ことがある。
  • 環境を良くすると経済が良くなるというのは口で言ってもなかなかわからないが、環境の質を高くすることで良い観光客が集まり、ますます評判になっているところがある。そのようにして儲かったお金を農業育成など周辺の産業を支えるために使っている。こういう事例をみると、環境を大事にする、あるいはそういう仕組みをつくらなといけないということがわかると思う。

2.環境と経済の好循環に対する現時点での考え方について委員から意見発表

○黒須 隆一委員

  • 全国市長会廃棄物対策特別委員会では、現状の重点課題として[1]ダイオキシンの発生抑制、[2]容器包装廃棄物の発生抑制、[3]家電製品のリサイクル推進、に取り組んでいる。
  • 八王子市は、2001年を環境元年として環境基本条例を制定、具体的行動計画として市民、事業者、行政との協働による環境基本計画を策定しているところ。
  • 市民の世論調査によれば90%が定住意向だが、その最大の理由は緑豊かな自然環境。高尾山は、わずか標高600メートルの山に年間250万人が登り、その高尾山を中心に明治の森国定公園等がある。したがって、森林の保全と観光産業の育成がテーマとなっている。
  • 環境と経済の好循環を目指すためにも、地方自治体として市民、事業者と協力しながら地域からの取組を進めていきたい。

3.自由討議

○小倉 康嗣委員

  • 多少高くても環境に良い商品がきちんと売れれば好循環だが、商品を買う消費者とのインターフェースのところで情報がつながってないのではないか。流通は、安くて利益のあるものを売ってしまうが、もう少し環境に良いものを売るということが必要。消費者とのインターフェイスでもっと環境の情報を掲げて、消費者に見えるような形にするとよくなるのではないか。

○崎田 裕子委員

  • 人と自然が共生する社会をつくると、地球だけでなく人も元気になり、地域も元気になって社会経済が好循環になっていくようなイメージが見えてきた。
  • 旅やガーデニングなど消費者が好きなこと、楽しみでやってることに環境的な視点を入れ、それにより環境がどうなるかということをはっきり見せていくということが好循環につながる早道だと思う。
  • つなぎ手も必要。今環境活動を行っている環境リーダー、グループ等と、こういう現実の状況とがうまくつながる仕掛けや情報提供をするのも良いのではないか。

○安井 至委員

  • 我々が行っている研究の中では、環境情報の提供だけでは消費者は動かないという結論。消費者はその情報を受け取るだけの知識体系を持っていないためであり、環境情報を有効に活かすには、コミュニティなどでの教育が必要。
  • 太陽電池や液晶テレビの製造時の使用エネルギーなど事業者にもデータを出していだたきたいし、情報を改善しなければならないと思う。

○辻 晴雄委員

  • ユーザー、それも特に若い人の方の環境に対する関心度は、以前と比べて高くなっていると感じる。商品企画の段階で、この商品は環境に対してどれだけプラスになるかという問題をテーマに入れている。
  • 製造段階のエネルギー消費の問題が指摘されているが、作り手側は、新しい商品、工場をつくるときには、環境負荷がかからないよう大変努力をしている。

○神津 カンナ委員

  • 景気が悪い時に元気のいい商品がでると、環境負荷についてまでは言いにくいところもあるかもしれない。
  • 外国からの旅行者の話では、今は京都・奈良よりも高山・白川郷が流行っているとのこと。最近、外国から何を見にくる方が多いのか伺いたい。

○辻 晴雄委員

  • 液晶テレビもプラズマもここ数年でもっと環境負荷を下げることができると思う。
  • 日本を、自然を守り自然をつつみ込む環境・観光王国として、そこから何か学びたい、勉強になるから行こうという国にしたいと思う。

○小林 英俊講師

  • 今、高山・白川郷は、外国の方に人気がある。ところが、売る方は未だに京都・日光・鎌倉だと思っている。そこのギャップが非常にある。発想を変えて、日本の田舎って実はすごくきれいだということをもっとアピールできればおもしろいと思っている。

○小倉 康嗣委員

  • 製造者は一生懸命宣伝していると思うが、消費者とのインターフェースのところでもっと売り込む努力すると、製造者が報われるのではないか。エコの旅行を売るエコツーリズムは、そのインターフェースで努力されている事例。

○浅野 直人委員

  • 情報の受け手側の問題はまさにその通りだが、環境省の情報提供もばらばらである。例えば、今エコツーリズムについて検討が行われているが、こちらでは好循環が検討されており、またホームページにも多くの情報があるが、それぞれのつながりがよくわからないところがある。環境基本計画の見直しに向けて、事務局はうまくまとめて欲しい。
  • 情報の質の担保、品質管理が好循環の議論の中で大きな課題だとわかった。

○笹之内 雅幸委員

  • 全体の産業を見ると、必ずしも環境を商品の魅力として売るものではないものがあり、環境を魅力とするものよりも市場規模は大きい。だれがそのマーケットを誘導していくかというのを十分に議論しなければ、なかなか実効があがっていかないと思う。

○筒見 憲三委員

  • 環境と経済の好循環については、企業や経営者の立場からの視点と、市民や消費者の立場からの視点の2つを整理して考える必要があるのではないか。そうしないと、受け取る方が混乱してしまうと思う。

○山本 加津子委員

  • 企業からの情報により説得されて環境に良い商品を買うより、自分が好きとか心地よいとか楽しいというようなところから受けていった方が本当に環境に良い生活が実践でき、そしてそのような商品を選択していくことになるのではないかと思うが、そこまでつなげるところが難しい。

○崎田 裕子委員

  • 年齢が低い時期に自然体験活動をする、あるいは、自然にいっぱいふれあいながら暮らしている人は、自然と共生する観点でものの判断ができるようになる。それが心地いいということになるのではないか。自然とふれあう部分を今の人たちが増やしていくことで、また、そういう仕掛けが自然と増えていくことで結果的に経済も活性化していくようになれば、素晴らしいことだと思う。