1.Japanチャレンジプログラムの経緯

化審法制定時の既存化学物質の取扱い

我が国では、PCB(ポリ塩化ビフェニール)による環境汚染問題に端を発し、昭和48年に世界に先駆けて「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」が制定され、新たに製造又は輸入される工業用化学物質(新規化学物質)について、事前審査を受けることが義務付けられました。

一方、化審法公布時に既に我が国で製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)は、化審法制定時の国会の附帯決議において、国が安全性の総点検を実施することとされました。これを受け、国においては、化審法の有害性項目に係る安全性点検を始めとして、有害性・リスクの評価に関する施策を実施してきました。また、事業者においても、国際的な協力の下での高生産量(HPV: High Production Volume)化学物質に関する情報収集の取組等に参加し、安全性確認に係る自主的取組を行ってきました。

国際的な取組の進展

1990年代に入り、経済協力開発機構(OECD)を中心に国際的な協力によってHPV化学物質の安全性情報を収集する取組が開始されました。

OECD/HPVプログラムは、HPV化学物質(OECD加盟国の少なくとも1ヶ国で年間1000トン以上生産されている化学物質)について安全性を収集し、有害性のおそれに係る初期評価を行っています。

日本は、OECD/HPVプログラム発足当初から一貫して協力しており、これまでに情報取得終了した約500物質のうち、約100物質についてスポンサーとして情報を収集・提供してきました。このプログラムには、平成10年以降、産業界も積極的に参加してきています。

平成15年の化審法改正時における議論とその後の対応

平成15年の化審法改正に際し、厚生労働省、経済産業省、環境省の三省合同審議会により、既存化学物質の安全性点検については産業界と国が連携して実施すべきであるとの提言が行われました。  

また、改正法案の国会審議に際し、既存化学物質の安全性点検については、産業界と国の連携により計画的推進を図ることとする附帯決議が行われました。  

これらを踏まえ、産業界と国の連携により、既存化学物質の安全性情報の収集を加速し、広く国民に情報発信を行うため、平成17年に官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称:Japanチャレンジプログラム)が開始されました。

2.Japanチャレンジプログラムの概要

Japanチャレンジプログラムの基本的な考え方は、以下の5つです。

  1. 化学物質の安全性情報を広く国民に発信
  2. 産業界と国の連携によるプログラムの推進
  3. 政府部内における連携の強化
  4. 国際的な取組との協調
  5. 収集情報の一元管理・公表

これらを踏まえ、プログラムの実施に係る具体的な枠組みは以下のとおりとしています。

  • 既存化学物質に対し情報収集の優先度を設定
  • 優先度の分類に基づき優先情報収集対象物質を選定
  • 優先情報収集対象物質のうち情報収集予定の無い物質については民間よりスポンサーを募集
  • 国は情報収集に当たり新規性、開発性が認められる物質や民間では情報収集が困難な物質について情報を取得
  • 既存データについては信頼性を確認し、積極的に活用
  • スポンサー状況、進捗状況は積極的に公開 収集された化学物質の安全性情報は広く国民に発信

こうした枠組みの下、プログラムにおいて平成20年度までに優先して安全性情報を収集・発信すべき化学物質を以下のとおり選定しています。

  • CAS番号ベースで国内年間製造・輸入量が1000トン以上の有機化合物を優先情報収集対象物質としてリストアップ(優先情報収集対象物質リスト)。
  • 1の物質をa)安全性評価済み、b)安全性情報収集予定あり、c)安全性情報収集予定なし、の3つに分類し、c)について情報収集を推進する。
  • a)~c)に該当する化学物質について安全性情報の発信を行う。

プログラム開始当初は、優先情報収集対象物質リストに665物質が記載され、このうち安全性情報収集予定のない166物質について、情報収集を推進することとされました。なお、優先情報収集対象物質リストは、製造・輸入数量が変動するものであることにかんがみ、将来、新たなデータに基づき見直しを行います。

プログラムの流れについて説明します。  

まず、国は優先情報収集対象物質リストを公表し、「スポンサー」を募集します。その後、事業者等は自らがスポンサーとなって情報収集に当たる物質を選定し、スポンサー表明を行い、国にスポンサー登録をします。スポンサーは、文献情報、手持ちデータ等既存データを活用しつつ、必要に応じて試験を実施し、安全性情報を収集し、国に報告します。また、国が情報収集を行うこともあり、その場合は情報収集に着手する前に公表することにより産業界との重複取得を避けることとします。  

スポンサーの形態には、(ア)1物質につき1スポンサー(企業・団体)のほか、(イ)スポンサー募集対象物質を含む1カテゴリーにつき1スポンサー、(ウ)1物質につき1コンソーシアム(複数の企業・団体が形成)、(エ)1カテゴリーにつき1コンソーシアム、の4種類があります。

スポンサーが収集すべき情報は、以下のOECD/SIDS項目です。 OECD/SIDS項目

国はプログラムの進捗状況について毎年度把握し、プログラム推進委員会に報告します。また、国は収集された情報をデータベースにて一元管理し公表することにより、化学物質の安全性情報を広く国民に発信します。  

プログラムの開始から3年を経過した平成20年4月以降に、プログラムの進捗状況及び成果を取りまとめて中間評価を実施することとしています。(Japanチャレンジプログラム中間評価(平成20年8月)についてはこちら。)

<用語解説>
SIDS項目
SIDSとは、Screening Information Data Set(スクリーニング情報データセット)の略称。OECDのHPVプログラムでは、SIDSに該当する項目が1,000t以上の生産がある化学物質を評価するために必要な情報とされています。
カテゴリーアプローチ
類似の構造を持つ複数の化学物質からなる化学物質のグループを一つにまとめることにより(カテゴリーの形成)、試験データのない個別の物質についても評価できる場合があり、個別に評価を進める場合よりも必要な試験の数を減らすことができます。
コンソーシアム
同一のスポンサー募集対象物質を製造、輸入等している複数の事業者や類似の構造を持つ化学物質をそれぞれ製造、輸入等している複数の事業者がカテゴリーアプローチのために共同でスポンサーになろうという場合にコンソーシアムを形成します。
スポンサー
スポンサー募集対象物質の製造者又は輸入者等であって、当該物質の安全性情報を収集し、必要に応じて追加的な試験等を実施し、最終的な報告を行おうとする事業者。
  • 既存化学物質の安全性情報の収集・発信に向けて-Japan チャレンジプログラムの提案-(平成17年6月)[PDF(180KB)]