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化学物質と環境円卓会議(第14回)議事録

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■日時:平成17年6月21日(火) 9:30~12:30
■場所:九段会館  鳳凰の間(2F)
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  戸田 英作 環境省環境保健部環境安全課長補佐
<学識経験者>
  北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部 教授
  原科 幸彦 東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授
  <市民>
  大沢 年一 日本生活協同組合連合会 環境事業推進室長
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパン シニア・オフィサー
  <産業界>
  鳥居 圭市 (社)日本化学工業協会 常任理事(岩本公宏 代理)
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会 広報委員会顧問
  中塚 巌 (社)日本化学工業協会 ICCA対策委員長
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会 環境・安全専門委員長
  越智 徹 (社)日本電機工業会 2005年化学物質総合管理専門委員会委員長
  八谷 道紀 日産自動車株式会社(山下光彦 代理)
  嵩 一成 日本チェーンストア協会 環境委員
  <行政>
  黒川 達夫 厚生労働省大臣官房審議官
  関 成孝 経済産業省製造産業局化学物質管理課長 (塚本修 代理)
  滝澤 秀次郎 環境省環境保健部長
   (欠席)
安井 至 国際連合大学 副学長
有田 芳子   全国消費者団体連絡会事務局
後藤 敏彦   環境監査研究会 代表幹事
角田 季美枝   バルディーズ研究会 運営委員
片桐 佳典   神奈川県環境農政部 次長
染 英昭   農林水産省大臣官房参事官
   (事務局)
上家 和子 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)について [PDF(346KB)]
資料2  国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)第2回準備会合(2004年10月)報告書で示されたアウトライン [PDF(301KB)]
資料3  国際的な化学物質管理の成果と今後の動向 [PDF(120KB)]
資料4  国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)(戸田さん講演資料) [PDF(828KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  第13回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
参考資料2  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
参考資料3  PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック ~平成15年度集計結果から~ [HTML]


■議事録

1.開会

(上家) 本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。時間がまいりましたので、開催させていただきます。本日は、北野さんに司会をお願いしています。北野さん、よろしくお願いします。

(北野) 皆さん、おはようございます。ただいまから第14回化学物質と環境円卓会議を開催します。今回は、メンバーの皆さんと相談し、「SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)への対応も視野に入れた、今後の化学物質対策において優先的に取り組むべきと考えられる課題」について意見交換を行うこととなっています。これに当たり、事務局の環境省環境保健部環境安全課課長補佐の戸田英作さんから20分程度の情報提供をいただきます。まず、事務局の方から本日のメンバーの出席状況と資料の確認などをお願いします。

(上家) まずはメンバーの交代をお知らせします。産業側の西方聡さんから越智徹さんに交代です。越智さんは、(社)日本電機工業会、2005年度化学物質総合管理専門委員会委員長です。次に、代理出席についてお知らせします。産業側の岩本公宏さんの代理で鳥居圭市さん、山下光彦さんの代理で八谷道紀さん、行政側の塚本修さんの代理で関成孝さんがご出席です。本日のご欠席は、学識経験者の安井至さん、市民側の有田芳子さん、後藤敏彦さん、角田季美枝さん、行政側の片桐佳典さん、染英昭さんです。
 次に配付資料の確認を行います。資料1は、「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)について」、資料2は「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)第2回準備会合(2004年10月)報告書で示されたアウトライン」、資料3は「国際的な化学物質管理の成果と今後の動向」、資料4が戸田さん講演資料「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)」です。次に参考資料について、参考資料1は「第13回化学物質と環境円卓会議議事録」です。これは本円卓会議のメンバーのみに配布しているものですが、既にメンバーにご確認いただき、環境省HPに掲載しています。参考資料2は「化学物質と環境円卓会議リーフレット」です。リーフレットは毎回必要に応じて改訂しながら配布しています。参考資料3は「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック~平成15年度集計結果から~」です。これは、毎年度PRTRデータの公表後に作成しているものであり、今般、6月10日に公表いたしましたので、皆様に参考として配布させていただいております。以上です。

(北野) それでは、早速、議事に入りたいと思います。今回の議題は「SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)への対応も視野に入れた、今後の化学物質対策において優先的に取り組むべきと考えられる課題」ということで、会議冒頭にもお話ししましたとおり、まず事務局の戸田さんから情報提供をいただきます。戸田さんお願いします。

2.議事

(戸田) 
 皆さん、おはようございます。環境省環境保健部環境安全課課長補佐の戸田です。私は、現在、国際的な化学物質対策を担当しており、SAICM(注、Strategic Approach to International Chemicals Management;国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)以外にもPOPs条約(注、Persistent Organic Pollutants(残留性有機汚染物質)の製造・使用の禁止又は制限、非意図的生成物質の排出削減、在庫・廃棄物の適正管理及び処理、及びこれらの対策に関する国内実施計画の策定などを定める条約)やOECD(注、Organization for Economic Cooperation and Development;経済開発協力機構)の化学品プログラム等を担当しています。私自身は着任してから半年しか経っていませんので、SAICMの準備会合そのものにまだ参加していません。しかし、既に何度か非公式な会合には参加しています。また、バンコクで開かれたアジア太平洋地域会合にも参加し、そこで日本がアジア太平洋地域を代表する3カ国に選ばれましたので、ストックホルムで開催された拡大ビューロー会合にも出席するなどして、各国と調整をしています。また、私は、現在の部署に着任する前に、OECDの化学品プログラムの事務局で働いていましたので、行政の視点以外からもSAICMの動きについて情報提供をさせていただきます。
 本日は、議論の材料としてこれらの情報提供をいたします。SAICMそのものについては、これから文章化していかなければいけない部分がたくさんありますので、具体的な題材として扱うには難しい点もあります。ですから、SAICMに留まらず、今後の化学物質対策に優先的に取り組むべき課題といった広い視野で議論していただければと思います。なお、SAICMについては、これまで2回の準備会合が開催されており、この9月には第3回の準備会合が控えています。これまでも行政側だけでなく、経済界や労働界、NGOの代表の方々も地域会合や準備会合に参加され、情報をインプットしています。
 それでは、スライドに沿ってお話しいたします。資料123がメインの資料で、資料4が講演資料です。

 化学物質行政のみならず、各国の環境行政は、1972年にストックホルムで開催された「国際連合人間環境会議」や1992年の地球サミット「環境と開発に関する国際会議」等を拠り所としています。1970年代から各国で始まったのは主に国内対策で、地球環境問題が大きく取り上げられるようになったのは、1980年代末のオゾンホールの問題からだと思います。オゾン層や地球温暖化問題について国際的な議論が進む中、1992年の地球サミットにおいて、世界として地球環境問題に取り組もうという気運が盛り上がったように思います。1992年の地球サミットでは、「アジェンダ21」が合意されました。これは、21世紀に向けた持続可能な発展のための人類の行動計画です。その中の第19章に、化学物質に関する行動計画がまとめられています。ここでは、国際的な化学物質の重点分野がかなり明確に示されています。それぞれについては、成果が挙がっている分野もありますし、これからの課題となっている分野もあります。アジェンダ21には、6つの重点分野があります。第1が「化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進」、第2が「化学物質の分類と表示の調和」、第3が「有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換」、第4が「リスク低減計画の策定」、第5が「化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化」、第6が「有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止」で、それぞれについて課題と成果を挙げています。詳細を資料1に書いていますので、御参考になさってください。アジェンダ21の第19章をフォローアップするために、IFCS(注、Intergovernmental Forum on Chemical Safety;政府間化学物質安全性フォーラム)が組織され、これまで4回のフォーラムが開かれました。第3回の会合では、2000年以降の重点分野についての文書が採択されています。以上を踏まえ、これまでの国際的な化学物質分野で何が行われ、どのような成果があがったのか、そして現在どのような課題があるのかについて概観します。

 第1の分野は、「化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進」です。アジェンダ21には、定性的な目標がいろいろと掲げられていますが、ここでは、ある程度定量的に示されているものだけを取り上げます。まず、「数百の優先化学物質を2000年までに評価する」と書かれていますが、IFCSの2000年以降の優先行動事項の中では、もう少し明確に、「2004年までに新たに1,000物質のハザード評価を行う」ことが書かれています。この成果といたしまして、OECDの高生産量化学物質プログラムで、2004年までに約500物質についてハザード評価が終了しています。また、新たな目標として2010年までに新たに1,000物質の評価を行うことが掲げられています。この分野については、多大な成果が挙がっています。ただ、高生産量の化学物質は全部で5,000近くありますので、既存化学物質の評価は未だに課題となっています。例えば、現在、欧州のREACH(注、Registration, Evaluation and Authorisation of Chemicals;2003年10月に欧州委員会が提案した新化学物質規制。現在、システムの実行可能性が検討されている。)というシステムが議論されていますが、それは、既存化学物質の評価を加速していかなければならないという問題意識がその根底にあります。

 第2の分野として化学物質の分類表示があります。これも、かなり成果が挙がっている分野だと考えられます。アジェンダ21では、2000年までにGHS(注、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals;化学品の分類および表示に関する世界調和システム)を作ると書かれています。当時は野心的な分野であるとさえ言われていましたが、2003年にはGHSができ、国際連合から発出されました。現在では、爆発性などの物理的危険性や人の健康への有害性、環境への有害性という3分野の分類基準と世界統一の表示が合意されています。これを2008年までに実施することがIFCSの2000年以降の目標であり、また、2002年のヨハネスブルグサミット(注、持続可能な開発に関する世界サミット)でも合意された目標です。APEC(注、Asia Pacific Economic Cooperation;アジア太平洋経済協力)諸国では2006年の実施を目標としています。

 第3の分野は、「有害化学物質に関する情報交換」です。ここでは、貿易に関する事前通報手続き(PIC:Prior Informed Consent)の実施が目標として掲げられていますが、もう少し広い分野でのいくつかの定性的な目標があります。国際的な情報交換だけではなく、国内においてもMSDS(注、Material Safety Data Sheet;化学物質安全データシート)の添付の仕組みを作ることや、有害化学物質の有害性についての情報をデータベース化し、皆で共有できるようにすることも含まれます。この分野の成果の1つとして、「PIC(注、Prior Informed Consent;事前のかつ情報に基づく同意の手続)に関するロッテルダム条約」が国際的な枠組みとしてできました。また、今後の取り組みとして、有害化学物質情報交換システムを国レベルで稼働させる、というものが残っています。例えば、有害性に関するデータベースをしっかりと整備し、有害性に関する情報を交換できるようにすることや、安全性情報添付手続きの核になるであろうMSDSの制度化といったものがIFCSの目標として掲げられています。この辺りは目に見える成果として計ることはできませんが、ある程度は進捗が見られる分野だと考えています。

 第4の分野である「リスク低減計画の策定」は、科学的なリスクアセスメントに基づいてリスクを低減させていく取り組みです。アジェンダ21の目標として、「許容できないリスクを除去し、経済的に実行可能な程度までリスクを減少させる」とあります。これには様々なツールがあり、IFCSの2000年目標に掲げられているPRTR(注、Pollutant Release and Transfer Register;化学物質排出移動量届出制度)の制度化やPOPs条約は、そのうちの1つです。国レベルでは、新規、既存化学物質の審査手続きや、食品関係、労働安全関係、農薬関係などの様々な制度があります。それらのものが一体となり、リスクの低減を図っていくことが目標です。すべての取り組みを網羅することはなかなか難しいですが、国際的な成果の1つとして、POPs条約ができました。1992年のアジェンダ21の頃から見れば、かなりの成果だと言えます。

 第5の分野である「化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化」は、難しい問題です。アジェンダ21の目標として、2000年までに「可能な限りすべての国で化学物質管理のための国家組織を設置」するとされています。これは組織だけの問題ではなく、予算や制度、政策の枠組みの話でもあります。IFCSは政策の枠組みを重視しており、ナショナル・プロファイル(注、国の化学物質管理状況をまとめた文書)を作るということや、化学物質管理計画を国レベルで作るということが書かれています。どちらかというと途上国向けの話であり、先進国については、ほぼすべての国で化学物質管理のための政府組織がしっかりできています。また、化学物質管理制度において、管理計画そのものが作られていなくても、制度としてしっかりできあがっている国が多いです。しかし、途上国ではなかなかそのようにはいきません。この分野の成果の1つとして、75カ国でナショナル・プロファイルが整備されました。しかし、ナショナル・プロファイルを作成した後にどうするのか、という点は難しい問題です。また、SAICM策定の大きな動機の1つには、先進国と途上国の化学物質管理能力のギャップが広がっているという問題があり、今後対処していかなければいけない課題です。

 第6の「有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止」の分野は、これまでの5つの分野に比べ、かなり内容が具体的です。このプログラム分野は、途上国における重大関心事項の1つです。廃棄物については「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」があり、また、有害化学物質を輸出する際にその情報を知らせるPICという制度も作られています。しかし、途上国側ではなかなか実質的なコントロールができないという問題があります。政府機関がそこまで有害化学物質や廃棄物の輸出入をフォローできないということや、それらに関する情報がなかなか入ってこないということがネックになっているようで、この辺りが継続的な課題として挙げられています。
 以上がアジェンダ21に掲げられている6分野のこれまでの成果と課題です。

 このような状況を受け、2005年までにSAICMを作ることになりました。その目標として、WSSD(注、World Summit for Sustainable Development;持続可能な開発に関する世界首脳会議。通称ヨハネスブルグサミット)の2020年目標が掲げられています。これは、ヨハネスブルグ実施計画の中に書かれている化学物質管理に関する目標です。その内容は、「予防的取組方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されること」を2020年までに達成するというものです。SAICMの狙いは、具体的にこの目標が何を意味し、そして目標達成のためには何をしたら良いのか、ということを国際的に合意された文書として作成することです。

 次に、SAICMのこれまでの経緯とこれからの予定について説明します。2003年11月に第1回のSAICM準備会合で議論が始まり、2004年10月には第2回のSAICM準備会合があり、そして、今年4月にはアジア太平洋地域会合がありました。また、先週パリでOECDの会合があった際に、その機会を利用し、先進国グループ会合が開かれました。さらに、南米やアフリカ、東欧など世界5地域での地域会合の成果を集約し、来週拡大ビューロー会合がストックホルムで開催される予定です。そこでは、世界15カ国の代表とNGOの代表、またWHO(注、World Health Organization;世界保健機関)などの国際機関の代表が集まり、これまでの成果を受け、今年9月に開催される第3回準備会合の準備を行います。第3回準備会合では、SAICMの案文が固められ、そして、来年2月の国際化学物質管理会議(ICCM)で採択される予定です。採択後は、UNEP(注、United Nations Environment Programme;国連環境計画)の特別管理理事会やWHO、ILO(注、International Labor Organization ;国際労働機関)の会議に送付し、承認をもらうという手続きが考えられています。

 資料2では、SAICMの構成が詳しく書かれています。SAICMは、3部構成になっています。第1部は、「ハイレベル宣言」です。ここでは政治レベルの簡潔な宣言文をまとめます。第2部の「包括的方針戦略」は、今後の国際的な化学物質対策を進めていく上での原則やアプローチになると思います。具体的には、まず、「I スコープ」では、できるだけ幅広く、フレキシブルなスコープを目指すことが書かれています。次の「II 必要性」では、国際的な化学物質管理において、どのようなニーズがあるのかを記述しています。「III 目的」から、実際に何を目指していくのかということを書いています。リスク削減、知識と情報、ガバナンス(注、統治)、キャパシティー・ビルディング(注、能力開発)と技術協力、不正な国際取引などです。おおよそ、アジェンダ21の6つのプログラム分野に相当する書き方がなされています。「IV 財政に関する考慮」は、途上国の大きな関心事項ですが、政治的な大きな問題であるがゆえに、議論を始めるためのテキストもない状況です。「V 原則とアプローチ」も、議論が進んでいない分野です。資料2の6頁の最初に「予防(precaution)、均衡(proportionality)、代替、防止、汚染者負担、知る権利、ライフサイクル・アプローチ、パートナーシップ・アプローチ、法的責任と説明責任」といったキーワードが並んでいますが、それぞれのキーワードが何を意味するのかは、未だ国際的な合意がありません。この部分も、9月に開催される第3回準備会合で議論のテーマになると考えられます。「VI 実施と進捗の評価」には、SAICMのフォローアップをどの国際機関が行うか、また、どのようにフォローアップしていくか、ということが書かれています。第3部の「具体的な取組」には、非常に長いリストがあります。あまりにも長いので今回の資料2からは外しています。このリストを、今後どのような形でわかりやすく整理していくのか、ということが問題になるかと思います。以上がSAICMの構成です。

 続いて、議論の参考にしていただきたい3つの視点を挙げます。

 視点1として、化学物質対策のグローバル化について述べます。例として、POPs条約を挙げます。POPs条約は、正式名称を残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約といい、2004年に発効しました。1995年には既に12物質についてのリストが作られていましたが、それから10年という月日がかかっています。今後これをどのように運用し、新たなPOPsにどのように対応していくのかが課題です。しかし、このような道具ができたという意味では1つの大きな成果だと言えます。

 視点2として、先進国間の協力の成果を挙げます。この代表的なものが、OECD環境健康安全プログラムの成果です。まず挙げられるものは、「データの相互受け入れ」です。OECDで作成された試験法に基づき、GLP(注、Good Laboratory Practice;優良試験所基準)を達成する試験所で得られたデータは、国を越えて相互に受け入れることができるという合意があります。また、高生産量化学物質プログラムでは先進国が協力し、産業界の参加も得て、かなり精力的にハザードアセスメントが進んでいます。1カ国で1,000t以上生産されている約5,000物質の中で、2010年までにさらに1,000物質について評価することを目標としています。これを進んでいるとみるか、進んでいないとみるかの判断はなかなか難しいところですが、我々としては、重要な物質について最大限の努力で進めていく考えです。その他、PRTRやGHSに関する協力、その他新規化学物質のデータの相互受け入れについてのパイロットプロジェクトも進んでいます。また、秋にはグリーン調達における化学物質の安全性の配慮に関するワークショップが開催される予定です。

 視点3は「途上国・移行経済国の支援」です。先進国間の協力がかなりの成果を挙げているのに比べ、途上国、移行経済国においては、化学物質管理は未だになかなか難しい状況です。例えば、POPs条約の条文においても途上国における対策は、先進国の支援に依存している、ということが明文化されています。これを書かなければ条約がまとまらなかったという経緯もあります。このPOPsの問題にしても、対策技術や代替品を使用するためには、追加的なコストが必要となることが、途上国にとって負担になっています。さらに、対策を行う以前に、各国政府におけるキャパシティー・ビルディングが課題となっています。途上国におけるキャパシティー・ビルディングの道具として、ナショナル・プロファイルや各条約に基づく技術センター、研修プログラムなどいろいろとありますが、この課題を抜本的に解決していくためのメニューを示すのは難しいです。これが、SAICMの中心的な課題の1つだと考えられます。
 以上3つの視点を挙げましたが、これにとらわれずご議論いただければと思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。戸田さんのお話に対し、メンバーから質問等はありますか?まず、私から1つ質問させてください。地球サミットを受けてIFCSが作られました。今度は、ヨハネスブルグサミットを受けてSAICMを作るということですね? そうなると、IFCSとSAICMはどういう関係になるのでしょうか?

(戸田) これは非常に難しい問題です。IFCSは来年フォーラムを開くことになっていますが、その議題を設定するのが難しい状況です。現在の議論では、IFCSはSAICMのフォローアップを行うための機関として有力な機関の1つです。IFCSには2000年以降の優先行動事項がありますが、これで十分ではないということで、さらに広範で具体的な措置を盛り込み、2020年をにらんだ行動計画を作るというのがSAICMです。これのフォローアップのためにUNEPとIFCS、そしてその他の国際的なフォーラムが協力していくことになっているようですが、いろいろな人に聞いても答えが違っていることもあり、私の方から明確な説明ができません。

(北野) 要するに、今後の化学物質の国際的な取り組みの基本となるのがSAICMだという理解でよろしいですね。瀬田さんどうぞ。

(瀬田) 私は、SAICMの原文に一通り目を通しました。基本的には好ましい方向だと思います。また、いろいろな取り組みの調整はこれから行われていくのだろうと思います。しかし、実際に原文に出てくる意見を見ていると、内容があまり高い見識に基づいて出されている感じがいたしません。したがって、このような議論の中に本当に将来の姿が期待できるのか、という疑問を持っています。先ほど北野さんがおっしゃったように、これが今後の国際的な化学物質の取り組みの基本になるものだとすれば、意見の多くは非常にエゴイスティックで、視野が狭いように感じます。その辺りはいかがでしょうか?

(戸田) 私自身は、準備会合そのものには参加していませんが、アジア太平洋地域会合に出席した限りでは、途上国の参加者の中には化学物質対策の経験が少なく、あまり経験に基づかない議論をされていることが多々ありました。しかし、パリで行われた先進国の会議では、先進国の経験を積んだ人たちから、この議論はこういうふうに持っていかないと良くない、という話が出ました。彼らには、そのような問題意識を持って議論をリードしていこうとする姿勢が見受けられます。準備会合の議事録を見ると、アイデアを出し合っただけで合意がほとんどありません。合意した事項については付け加えられたものもありますが、いろいろな人が言ったことをそのまま書いているように見受けられます。しかし、例えば「スコープ」や「必要性」の部分では、演説合戦の裏で、ある程度ネゴシエーションをし、テキストを確定させたところは成果だと思います。残っている分野については、第3回準備会合で行わなければいけません。

(北野) 原科さんどうぞ。

(原科) 瀬田さんがおっしゃった疑問を私も感じました。今のお答えである程度分かった気もします。SAICMは、「Strategic Approach to International Chemicals Management」で、Strategic(注、戦略的)と言っていますが、この場合、どのような意味合いでStrategicという用語を使っているのでしょうか? また、国際的な場では、各国の状況が違いますので、Harmonization(注、調和)が必要です。しかし、先進国と途上国では状況に大きな差があるため、議論がかみ合いにくいところがあります。そうすると、Harmonizationをどのように行うのか、という考えがある程度出てこなければ、来年2月にSAICMを採択するというスケジュールでは相当厳しいように思います。2月というスケジュールを本気で考えているのか、それとも、ある程度様子を見て、少し時間がかかることも考慮しているのか、といった動きについてお答えいただければと思います。

(戸田) 例えば、資料2のハイレベル宣言の3を見ていただきますと、「社会が化学物質を管理する方法に根本的変更が必要である。」とあります。先進国の会合では、先進国の間でうまくいっている方法は今後も続けていけば良いという考え方があります。また、必要な変更は追加的に考えていけば良い、本当に根本的変更が必要なのかという議論もあります。ただ、やはり対途上国では、結局うまく化学物質の管理を行えていないという現状認識があります。ではなぜうまく行えなかったのかということを考えた時に、Strategy(注、戦略)が無かったからだという結論になり、おそらく「Strategic」という用語を入れることになったのでしょう。では、何を作ればStrategicだと言えるのか、という点については、形になっていないのが正直なところです。Harmonizationについては、分類表示や試験法について行われましたし、できるところはどんどん進めていると思います。今まで、OECDの場などでは、各国のアセスメントや規制法制までをHarmonizationした方が良いという議論が行われてきましたが、そこまで行うことは難しいですし、また、そもそもそのようにする必要性について合意が得られていない状況です。なお、スケジュールは2月に変更はないと思います。

(原科) Strategyが無かったために根本的な変更が必要だった、つまり、根本的な変更を立脚させるために「Strategic」という表現をしたということですね。Harmonizationについては、できることから進めているということですが、むしろできないことがあるからこそHarmonizationが必要です。その辺りは、社会の様々な制度やソフト面、いわゆるインフラが揃わなければならないため、大変難しいと思います。それこそ、この分野だけではなく、多方面からアプローチしていただかなければならないでしょう。

(北野) 中下さんどうぞ。

(中下) 先ほど、IFCSでは不十分だからSAICMができたというコメントがありましたが、不十分だとされた点は、端的に言うとどの部分なのでしょうか?

(戸田) SAICMのWSSDの決定の中に、アジェンダ21の19章とIFCSの2000年以降の優先行動事項に基づいて、更に発展させると書いています。ですから、不十分というよりも更に発展させていく必要があるということだと思います。私の個人的な感想としては、途上国へのキャパシティー・ビルディングなどが十分ではなく、先進国と途上国の化学物質管理のギャップが広がっているという点を重視しているように思います。何が不十分で、これからどの部分を拡張させていかなければいけないのか、ということについては、各参加者それぞれに考えがあると思います。

(北野) それでは、「SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)への対応も視野に入れた、今後の化学物質対策において優先的に取り組むべきと考えられる課題」について意見交換を行いたいと思います。今回は、あらかじめ設定した3つの課題について、各メンバーには事前に1つ意見等をいただく課題を選定していただいています。本日は、課題毎に順次、選定いただいたメンバーより御意見等をいただき、その後に引き続き、各々の課題毎に15分程度の時間で意見交換を行いたいと思います。各メンバーからの意見等の時間は、1人当たり3分程度とさせていただきます。また順番は課題毎に、市民、産業界、学識経験者、行政とさせていただきます。なお、3つの課題は議事次第にもありますように、「(1) WSSDの2020年目標『予防的取組方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されること』を如何にして達成するか。」、「(2) 安全・安心な社会の構築のために、どのように化学物質に関するリスクコミュニケーションを行うべきか。」、「(3) 昨今の国際的な化学物質管理政策の動きにどのように対応するか。」です。その後、まとめとして、残り時間15分程度で、SAICMに対する意見等や全体的に言い残したこと等を議論していただくこととします。
 なお、今回あらかじめ与えられている課題は、1つ1つが大変重要でかつ大きな課題です。これらについてこのような短い時間で十分な意見交換をすることは難しいかもしれませんので、本日は、「課題の抽出」に主眼をおいて意見交換ができればと考えています。よって、本日の意見交換で十分な時間がとれず、今後改めて意見交換をするべき具体的な課題が出てくれば、改めて毎回円卓会議の後で開催しているビューロー会合で取り上げて、今後の取扱いについて検討したいと思います。
 それでは、1つ目の課題である、「(1) WSSDの2020年目標『予防的取組方法に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されること』を如何にして達成するか。」の議論から始めたいと思います。今回、この課題を選定いただいたのは、市民側の村田さん、産業側の鳥居さん、中塚さん、越智さん、学識経験者、行政からはありません。それでは、市民側から順次座席の時計回りでお願いします。村田さん、よろしくお願いします。

(村田) 私は、IFCSの2000年以降の優先行動事項とSAICMがどのように重なっているのか、また、どう違うのかについて、まだ完全に理解できていません。しかし、純粋にWSSDの2020年目標を達成するためにどのように考えればよいのか、ということについて、私なりの考えを述べます。化学物質管理はかなり幅が広く、多くのステイクホルダー(注、利害関係者)が関わっています。ですから、様々なステイクホルダーが化学物質管理に参加するということが前提です。最初のステップとして、具体的に2020年目標を評価できる形で示すとどういう言葉になるのか、という翻訳作業が必要です。次のステップとしては、利害関係者にはそれぞれの考えがあると思いますので、現状をきちんと理解し合うということが大事です。そして、最後のステップとして、現状が分かってくれば、おのずと現状と目標との間のギャップが浮かび上がってきますので、そのギャップを十数年かけてどのように埋めていくのかについて考えていく作業が必要になると思います。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。まず、多くの利害関係者が化学物質管理に参加すること、そして、化学物質管理はどうあるべきかを議論し、現状とのギャップをどう埋めていくのかということについて議論すべきであるというお話でした。
 では、次に産業側から鳥居さんお願いします。

(鳥居) スライドを用意しましたので、スライドに沿ってお話しします。

 IFCSやSAICMと直接関係の無いものもありますが、日本化学工業協会(以下、日化協)の化学物質管理への取り組みの背景や具体例を説明します。

 化学業界は、様々な利害関係者、例えば、行政や産業界、お客様、市民や一般社会、NGO、マスメディアなど、いろいろな方々とお付き合いをしています。

 1970年頃までは、化学物質管理を法規制だけで行ってきましたが、いろいろな状況の変化があり、今では法規制と自主管理のミックスという関係になっています。自主管理はRC(注、Responsible Care;レスポンシブルケア)という形で行っています。

 SAICMへの意見表明として、つい最近ICCA(注、International Council of Chemical Association;国際化学工業協会協議会)がUNEPに文書を出しました。その中のポイントは、「SAICMは2002年WSSDを実現するためのロードマップであり、基本的には歓迎する。具体的には次の3点を重要と考える。1つ目、先進国と途上国の化学物質管理の格差を縮小する。2つ目、不必要なコストや硬直性を避け、国際的な化学物質管理での効率と効果を上げる為の一貫した努力を行う、3つ目、たくさんの関係者の方々が協力して、それぞれの責任を分担する」というものです。

 HPV(注、High Production Volume;高生産量化学物質)については、498物質の評価が終わっており、そのうちの半分以上を産業界が行いました。また、1,000物質についてもコミットメントしています。

 このグラフでは、HPVについての産業界や日本企業の貢献を示しています。

 そして、HPVをフォローする形でJapan Challenge Programが始まろうとしています。これは、化学物質審査規制法の改正を機に出てきたプログラムで、産業界と国が連携し、化学物質の安全性情報を収集、発信するというものです。2008年までに新たに700物質について安全性情報を収集・発信する予定になっています。

 次に、LRI、Long-range Research Initiative(化学物質の健康・環境への影響に関する長期研究)についての取り組みを紹介します。エンドクリン(注、内分泌かく乱作用を有する化学物質、いわゆる環境ホルモン)や化学発ガンなど、化学物質の影響に関する科学的知見の充実や、試験法やスクリーニング手段の開発等に取り組んでいます。国際的に協力する目的で1998年から民間で協力しながら行っています。

 それから、GHSについても、その導入に向けて積極的に作業をしています。GHSは、記号を使うことで字が読めない方でもちゃんと化学物質の管理ができることを目的の1つとしています。

 また、Risk Managerというリスクに関する評価システムを構築しました。

 このRisk Managerは、例えば、工場から化学物質が排出されたとき、住民の健康や環境に影響があると想定し、風向きや濃度、量などについてのデータをインプットすると、物性や5km先の地点の濃度などから考慮して、住民の健康や環境にどのくらい影響するのか、といったことが評価できるツールです。現在これを使ってリスク評価の作業を行っています。

 次に、お客様業界では、現在、グリーン購入の取り組みが進んでいます。これに関連した動きとして、電気・電子業界では、EUのRoHS指令(注、Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment ; 特定有害物質使用禁止指令。電子、電気機器を対象として、平成18年7月以降にEU加盟国で新規に市場に投入される製品への鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの重金属と、臭化物難燃剤PBB(ポリ臭化ビフェニル)とPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6物質の使用を禁止している。)への対応として、使用禁止物質やリサイクルの問題が生じています。また、自動車業界では、同じくEUのELV指令(注、End of Life Vehicle;廃自動車指令。車両・ELV・構成部品・材料・補修部品・交換部品を対象にしたリサイクルを目的とした制度で、2000年10月21日に発効。2003年7月以降に販売する自動車に対し、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの新車への使用禁止又は同含有部品の埋め立てを禁止している。)などがあり、これについても対応が行われています。

 日化協としては、サプライチェーン各層で情報の共有化に積極的に協力しています。具体的には、MSDSを利用する際に、不足している情報については、「情報シート」等で補完しています。

 最後に、日化協は、途上国支援として、レスポンシブルケア活動やASEAN諸国の支援を行っています。また、途上国への知見の伝達や途上国における人材育成なども行っています。具体的には、タイやマレーシアなどに日化協の職員を派遣し、人を集めて授業や講演を行っています。また、日本政府が行っている受け入れ教育のAOTS(注、The Association for Overseas Technical Scholarship;(財)海外技術者研修協会)やJICA(注、Japan International Cooperation Agency;(独)国際協力機構)、ICETT(注、International Center for Environmental Technology Transfer;(財)国際環境技術移転研究センター)などにも年間を通じて協力しています。
 以上のことが日化協の取り組みです。どれも重点項目ですが、内外のステイクホルダーとの関わりや貢献を続けていくことが非常に重要だと考えています。以上です。

(北野) ありがとうございました。化学工業会には多くの利害関係者がいること、法規制と自主管理が大きな意味を持ってきていること、そして、SAICMについては基本的に賛成であるということ、その中でも、先進国と途上国の格差を縮小することが重要であること、以上、多くの関係者の協力がいることを踏まえて、日化協としては、Japan Challenge ProgramやLRI、Risk Manager、グリーン調達や途上国支援などの活動を行っているというご紹介でした。では、中塚さんお願いします。

(中塚) 化学系企業にとって、レスポンシブルケアの取り組みは、非常に良い考え方で、誇れるものだと思います。自主的取り組みは基本だと思います。また、Sustainable Development(注、持続可能な開発)やSustainableな技術開発が産業界として今後とも重要だと思います。例えば、省エネや二酸化炭素の排出の抑制、有害化学物質に対する排出の制御などといった技術は今相当高いレベルにありますが、先進国としては、更に技術開発に重点的に取り組むことが重要だと思います。化学品の安全については、当然、評価技術の進歩に対して協力していきます。LRIやそれ以外に企業間でできる技術開発、学会等と協力してできる技術開発を、連携して進めていく必要があると思います。アジェンダ21やWSSDに関しては、OECDのプログラムに準じて行っていくことが、SAICMの目指す方向だと考えています。また、サステイナブル技術や安全性評価技術の開発などを行っていくことが、先進国として南北問題の解消や社会貢献につながるように思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。レスポンシブルケアの取り組みは基本的なもので、非常に重要だということ、また、これからの技術開発はSustainableな方向になるということ、そして、化学物質の評価技術の開発に関しては、学会などと協力していきたいということ、OECDの動きにフォローしていくことが大事だということ、さらに、南北間の格差の解消を考えていかなければいけない、というご意見でした。では、最後に越智さんどうぞ。

(越智) 私は、ユーザー企業で化学物質管理を担当しています。SAICMについては、名前は知っていましたが、中身について触れるのは今回が初めてです。今回、配布・説明いただいた資料を見て感じたことを申し上げます。資料2の3頁目「II 必要性」の下から5行目に「多くあるSAICMの活動に優先順位を付ける事が必要だろう。」とあり、下から3行目に「適切な監視のメカニズムが、(中略)」と書かれています。何かの目標を達成するステップとしてPDCA(注、P(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Action)という事業活動の「計画」「実施」「監視」「改善」サイクル)を考えた場合、まず目標を定めて、その次のステップとして、主体は誰なのか、そしてその主体の役割責任はどのようなものかについて考えます。どのようなマネジメントシステムにも、プログラムを推進するに当たってのゴールやマイルストーン(注、里標。スケジュールの中の特別なチェックポイント。)の定量化に基づいた監視も必要です。配布された資料にはそのようなものが見当たりませんが、当然そのようなことは具体的に設定し、進められているだろうと思います。例えば、2020年までの目標を一般の人に分かりやすく情報提供するためには、定量的に、そして進捗状況等を含めた形で情報開示を行うこと、つまり、見える形にすることが望まれます。それが結果的に2020年までの目標を着実に進めていく手立てになるように感じました。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。一般市民への情報提供においては、ゴールを決めてから、どこまでができているのかということを定量的な形で公開することが必要だということ、そして、そのためには主体が誰で、どのような役割があって、何をゴールとしているのか、ということをきちんと確認して行っていく必要があるのではないか、というご意見でした。
 4人の方々に共通する意見は、多くの利害関係者が集まり、そこで協力体制を作っていくことが大事だということでした。それでは、10分ほどの時間でこの課題についての意見交換を行いたいと思います。瀬田さんどうぞ。

(瀬田) 先進国と途上国における化学物質管理のギャップの問題が挙げられていますが、各国の事情はそれぞれ異なります。したがって、SAICMについて意見を述べろと言われたときに、どこに焦点を合わせれば良いのかが分かりませんでした。今までの話を伺いますと、日本での活動が中心になっていますが、それだけで良いのかということが気になりました。

(北野) 原科さんどうぞ。

(原科) 2020年目標の内容は、おっしゃる通り、日本の活動に留まるものではありませんが、2020年目標は非常に漠然と書かれているため、具体的に何をすれば良いのかは分かりません。問題は、どの程度行うのかということです。定量的に目標を表現したいという気持ちはありますが、この辺りが非常に難しいところです。評価の視点としては2つあり、1つは定量的な目標です。国によって状況が違いますので、国によって定量的な目標は異なります。もう1つは、水準だけではなくシステムを明確にし、それを評価することが必要だと思います。そうしなければ、2020年目標の内容が分かりにくくなります。例えば、途上国の中で先進国が工場を経営している場合は、先進国の標準に合わせることができます。しかし、現地の企業ではなかなかそうはいきません。すると、ギャップがあるからこれは取り組みが十分ではないと考えるのか、あるいは過去と相対比較をして、10年間でこれだけ向上したから取り組みが進んでいると考えるか、ということがあります。メカニズム自体を評価するようなシステムが必要だと思います。

(北野) それは、なかなか難しい問題だと感じます。私は20年前にOECDの専門家会議に出席しましたが、先進国の集まりの中でもなかなか議論がまとまらなかったという経験があります。特に、国連が中心になる場合は途上国の問題が入ってきますので、議論をまとめるのは非常に難しいです。それでは、この辺りで、この課題についての意見交換は終了したいと思います。
 次に2つ目の課題である、「(2) 安全・安心な社会の構築のために、どのように化学物質に関するリスクコミュニケーションを行うべきか。」の議論に移ります。この課題を選定いただいたのは、市民側から大沢さん、崎田さん、産業側から、瀬田さん、八谷さん、嵩さん、学識経験者から私、北野、行政からは滝澤さんです。それでは、市民側から、順次座席の時計回りでお願いします。大沢さん、よろしくお願いします。

(大沢) 当たり前の話ですが、リスクコミュニケーションはそれだけで独立しているわけではありません。リスク評価やリスク管理が正しく行われ、それらに対する信頼感があることやリスクコミュニケーションの相手に対する信頼感があるということが前提になります。その上で、リスクコミュニケーションをどのように進めるのか、という手法の話になるかと思います。ただ、この手法は様々です。本日のタイトルにある「戦略的」ということとは違う感じもしますが、粗っぽくいえば、現在は試行錯誤の段階だと思います。様々な経験を積み重ねていくことが大事です。市民の立場から考えますと、リスクコミュニケーションはこのような会議の場よりも、日常的には商品の問い合わせ等を通じて行われるコミュニケーションの方が圧倒的に多いと思います。ですから、GHSを含め、商品のラベル等でコミュニケーションを行えることも重要だと思います。また、正確で分かりやすい情報を必要なときに簡単に入手できることも大切です。資料2では、4頁目の「知識と情報」にそのことが書かれています。企業にしろ、行政にしろ、専門家集団にしろ、信頼できる問い合わせ先が今以上に十分にあることがリスクコミュニケーションの大きな入り口になると思います。そして、日常の暮らしの中でリスクコミュニケーションが行われていくことが社会全体の土壌になっていくように思います。リスクはある意味で確率の話になりますから、全体像が見えてその中で自分の位置が分からなければ、リスクの概念を正しく理解できません。ただ、ひとりひとりの市民や消費者から見れば、その確率がどんなに小さいと言えども、当たるかはずれるかの二択の選択になりがちです。そういう視点があるということを理解していただいた上で、企業、行政が消費者とリスクコミュニケーションを進めていただければと思います。もちろん消費者自身も全体像が見えるような努力をすることは当然必要です。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。リスクコミュニケーションはそれだけで独立するのではなく、リスク管理やリスク評価に対する信頼感に大きく影響されるということ、またリスクコミュニケーションは試行錯誤を重ねて築き上げていくものだということ、そして、日常的には、問い合わせ窓口のようなところからコミュニケーションが進んでくるということ、GHSなどは正確で分かりやすい情報として役に立つのではないかということ、また、一般の人がリスクをどう認識するかということについても考えていく必要があるというご意見でした。では崎田さん、どうぞ。

(崎田) リスクコミュニケーションは、市民、企業、行政の信頼の好循環をどのように作っていくか、ということだと思います。特に政策形成上の話し合いと同時に、暮らしや地域の実践に密着した対策を同時並行的に行っていくことが大事です。その際に大切にしたいポイントを4つ挙げます。1つは、情報公開の徹底です。情報には、個別の商品情報や企業情報、政策的な情報など、いろいろな段階があると思いますが、情報を持っている方がそれを明快に公表し、それに対して市民が簡単にアクセスできる状況を確保することが大事です。2つ目に、その情報を基にした相互のコミュニケーションの場をきちんと確保することが大事です。3つ目に、市民参加型の場作りをすることが大事だと思います。市民参加型とは、例えば、自ら環境改善に実践的に取り組む環境NPOなどを積極的に活用するということです。その他にも環境教育や環境活動を推進できる場を作っていくことが信頼関係の醸成には大変重要だと思います。4つ目に、ファシリテーター(注、コミュニケーションの場が円滑に進行するように、議論を整理したり、進行方法を提案したりする、いわば司会進行役を務める人。リスクコミュニケーションにおいて必要な人材であり、中立的な立場から議論を整理する人のこと)やコーディネーターなどの人材を育成することが大切だと思います。以上のポイントを踏まえ、実際にリスクコミュニケーションを推進するための4つのポイントをお話しします。1つ目は、私たち生活者自身の暮らしを維持するために、多くの化学物質が使われ、製品が作られているという状況を市民が認識すること。そして、自分たちの暮らしと化学物質が非常に関連していることを考えながら、学び、活動していくことだと思います。これは、化学物質と市民自らの生活とをつなぐ意識改革です。今、これが1番欠けていると思います。2つ目は、そのような意識をできるだけ消費行動につなげていくことです。お店の方とコミュニケーションを行ったり、環境ラベルについてメーカーの方と話し合っていくなどして、消費行動の中で意識を培っていくことが大事だと思います。3つ目に、私たちが生活の中で化学物質をどのように使っていくか、ということが重要です。例えば、小さい子どもがいる家庭では、どのような状況でどのような製品をどのように使っていくか、ということにきちんと関心を持つことが大事です。4つ目は、その処理方法です。簡単に下水道に流して良いはずはありません。その処理の仕方、例えば、お店やメーカーに戻すといった様々な処理の仕組みを完備することも大事だと思います。このようにして、社会全体で様々な主体がきちんとコミュニケーションを行い、知識を増やし、信頼関係を増やしていくことが大事だと思います。そのために必要な2つの視点をお話しします。1つは、全国的にリスクコミュニケーションを広めていくだけではなく、どこかにモデル地域を決め、具体例を積み重ねていくことです。その中から、全国的に広められる方法を抽出し、広めていくという政策が良いと思います。もう1つは、市民が活動を起こす際は、自らができるだけ多くの消費者に話しかけ、問いかけていくことです。そして、消費行動を促し、環境配慮型企業の製品を購入する、又は、そのような企業のブランドを応援していく、というような環境と経済の好循環を果たしていく視点を持つことが必要だと思います。全体の流れの中で、環境負荷も低減されるような、そして信頼関係が深まっていくような社会が作られていけば良いと思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。リスクコミュニケーションは、市民、行政、企業の間の信頼の好循環を作り上げるためのものとして位置づけるということ。そのためには、情報公開を徹底することや情報を相互に共有しながらコミュニケーションすること、市民参加型の場にすること、また、人材を育成することの4つを提案していただきました。一般市民の生活に関しては、私たちの生活と化学物質がどういう関係になっているのか、ということを理解し、理解した上で次の消費行動につなげる必要があるということでした。つまり製品の選択と言えるでしょう。また、化学物質の処理の問題といった幅広い観点で化学物質に向き合う必要があるということ、さらにこれを具体的に進めていくとすれば、全国同じようにするのではなく、どこかに拠点となる都市を設け、そこで重点的に進め、次に全国に広げていく方法が良いということ、そして、最後に、環境と経済の好循環を大きな目標として据えるべきだというご意見でした。では、瀬田さんお願いします。

(瀬田) 私は、SAICMへの意見を6つの点について考えてみました。まず1つ目、SAICMの中では、発展途上国と先進国間のギャップの問題が出ていますが、先進国の間にもギャップがあるように思います。日本の中でも、環境対応が進めば進むほど実態が伝わりにくくなるという状況があると思います。2つ目、リスクコミュニケーションでは、使われる言葉(ワーディング)が非常に重要です。例えば、本日も「キャパシティー・ビルディング」という言葉が何度も出てきていますが、通常「キャパシティー・ビルディング」という言葉を辞書で引いても見つかりません。この定義が何なのかということが分かったような、分からないような状況になってしまいます。そのような、討議者の間で必ずしも確認されていない言葉が頻繁に使われると、だんだん分かりにくくなって議論の関心が薄れるような気がします。それがギャップの原因の1つになると思います。3つ目、様々な政策が行われていくときには、当事者が未来に対する高い見識を持っていることが感じられなければなりません。SAICMに関するリスクコミュニケーションについても高い見識が基本にならなければ、改革は生まれてこないと思います。4つ目ですが、ExTEND2005(注、環境ホルモン戦略計画SPEED'98の改訂版で、化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省の今後の対応方針として取りまとめたもの。2005年3月環境省公表。http://www.env.go.jp/chemi/end/extend2005/index.html)の作成過程ではリスクコミュニケーションについて随分多様な議論が行われたようです。私は、ExTEND2005は非常にうまくまとまっていると思います。本当の問題点が随分出てきて、それによってリスクコミュニケーション自体が進歩した、という印象を持ちました。そのような事例などを、SAICMで紹介すれば良いと思います。5つ目ですが、環境の汚染者は誰なのかということを考え直す必要があります。例えば、夜な夜なコンビニの前に散らかるゴミはメーカーの責任ではありません。また、カラスのせいでもありませんから、誰かの責任であることに間違いありません。そのような意識を持たなければならないと思います。同じように地球温暖化の問題にしても、暑くなると、立派な車でも冷房のためにエンジン等をかけっぱなしでアイドリングしているケースが多く見られます。そのようなケースを一体どのように考えれば良いのかということです。6つ目ですが、環境教育に関して、小中学校からの教育が非常に重要だと思います。草の根レベルでは非常にいろいろなことが行われていると思います。私自身、2002年11月に盛岡市にある中学校の文化祭で開催された環境シンポジウムに、安井さんと一緒に出席しました。詳細は、安井さんのホームページに詳しく書かれています。(市民のための環境学ガイド書庫 http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Shimohashi.htm) このような話を全国レベルで集めれば、良い話が随分出てくるのではないかと思います。また、このような情報が世の中に出ることによって、様々な小中学校でも同じような環境教育が進んでいくと思います。ただ、その場合、何かを今すぐ禁止しましょうという話ではなく、子どもたちに冷静で最新の情報を正しく説明し、きちんと理解してもらうことが重要だと思います。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。SAICMの国際的な面を踏まえて、リスクコミュニケーションのあり方をご提案いただきました。SAICMの中で先進国と発展途上国のギャップが大きな話題となっていますが、我々先進国の中でもギャップがあるのではないかということ。また、難しい言葉がどんどん人を遠ざけてしまう可能性があるので、言葉に気を付ける必要があるということ。SAICMなどでは担当者の将来に対する高い見識の有無が問われる、またそれが無ければ皆はなかなか付いて来ないのではないかということ。また、ExTEND2005のまとめかたが非常に参考になるため、情報を発信したらどうかということや、最近の環境問題を踏まえて汚染者は一体誰なのかということを考える必要があるということ。また、環境教育の重要性、特に科学的事実に基づいた冷静な議論での環境教育が必要だというご意見でした。では、八谷さん、お願いします。

(八谷) 自動車工業会の八谷です。これからお話しすることがリスクコミュニケーションにぴったり沿うかどうか分かりませんが、情報の授受ということで考えてみました。御存じのように、自動車産業は物を作るという上ではサプライチェーンの中の最下流になります。つまり、サプライヤーから部品を買ってきて、最後に組み立てます。一方では、最終製品としてお客様に製品を販売し、お客様と直接向き合っているため、問い合わせや苦情など、いろいろな声が寄せられます。しかし、化学製品という切り口で見ますと、非常に情報が少なく、また、メーカーにとっても、よく分からない部分が多いのが現状です。過去に世の中で化学製品がフォーカスされない時代には、自動車は部品に対して機械的特性や性能をスペック(注、仕様)として要求し、その性能に合致するものを部品取扱業者が納めるという形がありました。しかし、昨今欧州のELV指令により、4種類の重金属が使用禁止になりました。これをきっかけに、4種類の重金属が絶対に部品に含まれていないという証明をすることの難しさを肌身に感じました。今欧州ではREACHという法案が提出され、検討されています。その中では7千種類の化学物質が対象となっています。自動車1台には、細かい部品まで数えて1万点という数の部品が使用されています。ですから、1万掛ける7千という組み合わせのマトリックスで管理をしなければいけないのかな、と非常に心配しています。自動車メーカーには、化学物質に関する専門家がいませんので、化学的な分析はほとんどできません。ですから、サプライチェーンの上流にある化学メーカーや素材メーカーにその情報を頼らざるを得ないところがあります。しかし、上流から下流に情報が伝わるまでには、複数の企業を転々とし、それぞれの段階で加工されます。そして、中間に位置する企業には、技術的に、また、ノウハウ的に弱い中小企業も含まれます。ですから、どうしても情報が出てこないこともあります。そこを飛ばしてでも情報が欲しいのが実態ですが、素材メーカー等でノウハウとして持っている情報は開示されない以上、私たちは知る術がなく、また、消費者に対して開示することもできません。上流から下流にかけて、それぞれの部品に含まれている化学物質に関する情報がきちんと流れて来ない限り、私たちは責任を持った対応をすることが非常に難しく、それが、非常に悩ましい課題です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。サプライチェーンの最終にあたる自動車メーカーとしてお客様と向き合っているだけに、いろいろな問い合わせや質問を受けるが、化学物質について分からないことも多く、適切な答えができないというのが現状だということでした。さらに今後は重金属などの規制が導入されてくるため、物理的、機械的な性能だけでなく、化学的な面でもデータが必要になってくるということ。素材メーカーや部品メーカーなど、サプライチェーンの途中には多数の企業が関わるため、上流から下流へ情報がきちんと流れてこないという事態が起こる、特に、大きなネックとしてノウハウの問題があるということ。それらを踏まえ、どのように上流の企業から情報を流してもらうのかということでした。また、情報をきちんと流すことが今後ますます大事になってくるというご意見でした。では、嵩さんお願いします。

(嵩) 私は、チェーンストア協会に所属しています。私たちのコミュニケーションのメインは、B to C(注、Business to Consumer;企業と一般消費者の取引)です。本日は、私たちが現状で考えていることや今後の方向性についてお話しします。化学物質のコミュニケーションは、チェーンストア協会でも苦手中の苦手分野です。これは私たちにとっても国レベルにとっても非常に不幸なことです。1日に数百万、数千万の方々と日々コミュニケーションをしている産業界の中で、適切に化学物質に対してコミュニケーションができていないということは、市民に広がっていかない要因の1つになっていると思います。電話だけでも年間数万件かかってきます。例えば、塩化ビニルやステビア、ビスフェノールA、ホルムアルデヒド、着色料、保存料などについて、この数ヶ月間だけでも相当数の化学物質に関するコミュニケーションが生まれてきます。その度に、私たちのノウハウだけでは、当然解決できませんので、組織や横のネットワークを使い、省庁やNGO、見識者、メーカーなどに問い合わせ、いろいろな見解を持ってお客様とコミュニケーションを行っていきます。しかし、現状のコミュニケーションは、高いクオリティにおいて成立してはおらず、お互いにモヤモヤした中でコミュニケーションが終了する場合が多く、非常に残念です。私は、化学物質に限らずいろいろなコミュニケーションを行うときには、3つの要素が必要で、1つでも欠けると必ずそのコミュニケーションは成立しないと考えます。1つは、分かりやすさです。自分の立場で、ついいろいろなことを言ってしまいますが、相手の立場、相手の目線に立ってコミュニケーションを行うことが大事です。2つ目、情報の信憑性、信頼性、透明性です。3つ目は、自分たちがコミットメントするということです。現状の情報を持ち、私たちは今こうしようと思っています、何年後にはこうなります、というような自分たちの見解をしっかり話すことが重要です。透明性や情報公開の重要性は今までも言われてきましたが、私は常にこのような視点で自分のコミュニケーションを整理します。また、流通業界に限らず、コミュニケーションを担当するリーダーがコミュニケーションを行いやすくするために、様々な見識者や利害関係者がフォローしていき、そして、広がりを持たせていくことが鍵になってくると思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。チェーンストア協会の立場からお話しいただきました。私なりに要約します。B to Cという形でコミュニケーションを行っているといろいろな分野について多くの問い合わせがあるということ、そして、現状では必ずしも高いレベルでのコミュニケーションにはなっていないというお悩みがあるということ。嵩さんのコミュニケーションが成功するか否かの3つの要素として、1つは、相手の目線に立ってコミュニケーションを行うこと、2つ目に、情報の信頼性や透明性、3つ目に、その中でいかにコミットしていくかということでした。つまり、それは自分たち自身の問題として捉えていくという言い方ができるかもしれません。これらの3つの要素が無ければコミュニケーションは成立しないということ、そしてやはり、多くの方々の協力を得ながらより良いリスクコミュニケーションを行っていきたいというご意見でした。
 では、次は私がお話しします。21世紀は安全と安心の世紀だと言われますが、私自身、安全と安心を結ぶものがリスクコミュニケーションだと考えています。安全とは、その時点での科学的事実に裏付けられた客観的なものです。また、安心とは、本人が理解し、納得した主観的なものだと思います。最近ではリスクコミュニケーションの必要性が訴えられるようになってきましたが、まだまだ不十分です。現在は、リスクコミュニケーションはどうあるべきか、また、どう行うべきか、という方法論を議論する時代ではなく、既に実行していく時期だと考えます。私自身、これまで2回ほどリスクコミュニケーションに参加しました。開催日まで、特に企業の方々は不安感をお持ちでしたが、終わった後は、皆さん本当にやって良かったという感想を持たれます。リスクコミュニケーションを行いながら、試行錯誤しながら、お互いの協働関係が作られてくるように思います。今後のリスクコミュニケーションにおいて大事なことが2つあります。1つは、学校における教育です。安全性をどう考えるのか、リスクをどう考えるのかということを学校で教育する必要があります。また2つ目は、リスクコミュニケーションの進行係となる人材、例えば、ファシリテーターや化学物質アドバイザーなどの育成が大事だと思います。人材とは、単に化学的な知識を知っているだけでなく、難しいことを分かりやすく、そして優しく相手に伝えることのできる人です。また、信頼を得られるキャラクターを持っているかということも大事です。一番大事なことは、相互の信頼関係であり、それはコミュニケーションを行いながら徐々に作っていくものだと思います。以上です。
 では、滝澤さんお願いします。

(滝澤) 行政のこれまでの取り組みについて、また、これからの取り組みについて反省等を踏まえながらお話しします。私は、現職に就いて2年になります。環境保健部には、環境安全課や環境リスク評価室、化学物質審査室など様々な組織がありますが、私が着任したときは、それぞれの組織が縦割りであったため、せっかく蓄積しているデータを横断的に関連付けなければならないのではないか、ということを私は2年間言い続けてきました。17年度は、例えば、PRTRや黒本(注、環境省環境安全課が昭和49年以来実施している化学物質の環境調査結果をまとめて公表する年次報告書。黒表紙の冊子であったことから、通称で黒本と呼ばれている。)、ExTEND2005など、それぞれを相互にリンケージさせていこうと少しずつ改善しています。ExTEND2005について言えば、パンフレットにまとめられるまでの5年間、手法やコンセプトの転換について、企業側、市民側から相当緻密な議論をしていただきました。これは、取り組みの成果としてアピールしていきたいと思います。情報としての素材を活用していくことと適正に発信していくということは、リスクコミュニケーションという横断的な場において関係してきます。環境省でも、例えば、教育素材やホームページ、人材など、わずかながらそういうことも予算化しながら、具体的に役に立つようリスクコミュニケーションの道具の整備を行っています。また、目下第3次の環境基本計画を手直ししている最中です。今日の化学物質に関するリスクコミュニケーションは中規模なテーマだと思っていますので、その辺りの位置付けや実際どのように前向きに記載していくかということも、環境保健部として的確に対応していきたいと思います。それから、この12月に沖縄で環境ホルモンに関する国際シンポジウムを開催します。そのプログラムをどうしようかと議論をしていた時に、崎田さんから次のようなご意見をいただきました。それは、専門家の発表と意見交換の場としてのプログラムと、一般の方の関心を引くようなプログラムだけではなく、その間の層の方々向けのプログラムも用意して、どんな方にも上手に伝わるような話題や場を仕組んでいくことが必要だということでした。まさにその通りだと思います。専門的なことを、分かりやすく、いろいろなレベルの方に対して、特に、専門家と一般市民だけではなく、その間の層の方々に対しても伝えるために、それぞれの関心度に合わせて段階的に道具を開発したり、人材を開発したりすることが大事だと思います。そして、今はまだまだ対策が不十分だと反省しました。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。従来、縦割りだった行政をいかに横断的にしていくのかということが問われているということと、もう1つは、どんな方にもうまく伝わるような方法を仕組んでいくということ、その工夫をするのが行政の問題だというご意見でした。それでは、10分ほどの時間で、この課題についての意見交換を行いたいと思います。中下さんどうぞ。

(中下) リスクコミュニケーションを行う際は、リスクに関する情報が正確であればあるほど好ましいと考えられます。しかし、これが正確だと言えないものもたくさんあります。そのような状況の中で、どのようにしてリスクコミュニケーションを進めていくのか、ということを皆さんに伺いたいと思います。また、人間が社会を作っている以上、コミュニケーションを行うことは、ごくごく当たり前のことです。それなのに、ここでわざわざリスクコミュニケーションと言われているのは、一体どういうことなのだろうかと考えました。その時に、嵩さんがコミュニケーションを成功させるための3つの要素として挙げられたコミットメントということが、非常に大事なのだと思いました。先ほどから皆さんはステイクホルダーの参加等が大事だとおっしゃっています。しかし、最終的に意思決定するということが自分の行動や国の政策、また、企業の政策等に結びつくようなアウトプットがあって、初めてリスクコミュニケーションに意味があると思います。この点については、どのようにお考えですか?

(北野) 今、2つの質問が出されました。1つは、情報が完全でない時にリスクコミュニケーションをどのように進めていくべきなのかということ、もう1つは、コミュニケーションすることは当たり前のことなのに、なぜリスクコミュニケーションと言われているのかというお話でした。私は、前者についてはPrecautionary Principle(注、予防原則)を念頭に置くのが良いと思います。また、後者は、従来日本ではコミュニケーションは一方的なメッセージの伝達だったと思います。しかし、本来のコミュニケーションとは双方向の共有だと私は理解しています。原科さんどうぞ。

(原科) 情報に不確実性があるということはすべてにおいて言えることですが、情報が不正確な場合に被害に遭う確率がどの程度なのかということが問題だと思います。化学物質の場合、極端な例では、命に関わる場合があります。コミュニケーションは双方向で行われるものですから、議論する場というものをきちんと作るべきです。議論をする場には、いろいろな場が考えられます。今日の議論には出てきませんでしたが、ここで、メディアという場について考える必要があると思います。メディアを通じて情報が伝わると一方通行になります。リスクが懸念される場合に、一方通行であると皆が過大に考えてしまい、過剰反応してしまいます。メディアこそ双方向の議論の場を作らなければなりません。リスクは、人によって受け止め方が違いますので、コミットメントも違ってきます。十分にリスクについて議論することが大事で、そのためにも、情報提供をしていく場を作ることが必要だと思います。それを作るための新しいメディアもいろいろあります。国レベルでの双方向の議論や、地域や市町村単位で議論を行うためにはどうすればよいか、どのようにメディアを活用するかということを課題として考えていただきたいと思います。

(北野) 中塚さんどうぞ。

(中塚) 中下さんのご質問にお答えするものではありません。先ほど北野さんがPrecautionary Principleが良いとおっしゃいましたが、私はそうは思いません。我々産業界では、Principleというと、イノベーションまで否定する話になりかねないと思っています。産業界は、Sustainable Developmentや技術開発が非常に大切なことだと思って取り組んでいます。しかし、Principleと言われてしまいますと打つ手がありません。ちょっと危ないということになったらすぐにやめるということになりかねないからです。先ほど、瀬田さんのお話にありましたように、言葉の定義や認識の仕方が個人個人で違います。北野さんがおっしゃったPrincipleの意味は、そのような意味でお使いになっているとは思いませんが。この点は、アジェンダ21でも相当議論され、Precautionary Approach(注、予防的取組方法)という表現に決まったものと理解しています。ですから、Approachは結構ですが、Principleという言葉には気を付けていただければと思います。

(北野) 私はそんな強い意味でPrincipleという言葉を引用したわけではありません。いずれ、PrincipleやApproachについて議論できればと思います。関さんどうぞ。

(関) 経済産業省の関です。本日は、塚本の代理で出席しています。今の予防原則のお話に関連して申し上げます。1つは、言葉の書きぶりだけ見ていると、欧州にしても米国にしてもものすごく大きな差があるわけではありませんが、個々の地域や国が実際の行動に翻訳しているときにかなり大きな差が生じてくるということです。欧州の国々のアプローチには、現実性という観点で捉えたときに、かなり無理な部分があると思います。もう1つは、ある新しい知見ができ、特定の化学物質に多少懸念があるということが分かったときに、代替物を使用しようということになります。特に、ユーザー企業側のセンシティビティ(注、感受性)が高いように思います。しかしながら、結果として、新しい物質についての十分な評価が行われていない状態で、新しいものを採用するということが往々にしてあります。それよりはむしろ素性が分かっていて、使い方によっては危険かもしれないけれど、正しく使っている限りは大丈夫だ、というものを使っている方が、よほど安全かもしれません。世の中にはそのようなものがいくらでもあります。我々が普段食べている塩でも砂糖でも摂りすぎると体に悪いことぐらい分かっています。当然、化学物質も同じです。重要なのは、リスクを科学的に評価して、削減するということです。科学的なアプローチには不確実性に対する対応も含んでいます。中下さんがおっしゃったようにすべての化学物質について自信を持って白黒付けられるわけではありません。なぜならば、それだけの試験を行うことはとても大変だからです。しかし、ある程度の曖昧さがあっても、注意して使えばまず問題が起きないというレベルに1つの妥協点を探っています。そういった意味では、情報のギャップをすべからく同じように埋めるために、情報のための情報を作るのではなく、目的はあくまでもリスクの合理的なminimization(注、最小限にすること)でしょう。決して、マトリックスを1万掛ける7千で作り、それをすべて埋めるということを意味している話ではないはずです。

(北野) 崎田さんどうぞ。

(崎田) 様々な解釈ができる情報や不十分な情報、また立場によって意見が違うものや基本的に難しい情報といったように多様な情報が基にあるからこそ、コミュニケーションを行うのだと思います。コミュニケーションそのものは、自分がどのように理解し、どのように行動するのかをそれぞれが考え、決定するための大事な過程です。1つ例を挙げます。数年前に初めて環境ホルモンやダイオキシン等が社会的に大問題になったときに、ゴミ問題に関心のある人々に呼びかけて、月に1回の勉強会を半年間にわたって連続開催しました。講師には科学者やマスコミの方など、見解がまるで異なる方々をお呼びし、お話を伺いました。そして、それを踏まえて最後に一般市民の方々が出した結論は、いろいろな情報を聞きながら自分がどう行動するのかを自分で考えることが重要だ、というものでした。そういう体験を得て、それぞれが自分の考え方や行動に規範を持つという過程がリスクコミュニケーションだと感じました。

(北野) ありがとうございました。そろそろ時間が参りましたのでこの課題についての意見交換は終了したいと思います。10分程度の休憩を挟んだ後、課題(3) に移りたいと思います。

―― 休憩 ――


(上家) 本日、この会場は、環境省の温度管理と同じく28度に設定されています。このため若干暑く感じられている方もいらっしゃるかと思いますが、上着やネクタイをおとりになって、涼しい格好で引き続き傍聴なさってください。

(北野) それでは再開します。3つ目の課題は「昨今の国際的な化学物質管理政策の動きにどのように対応するか。」です。この課題を選定いただいたのは、市民側から中下さん、産業側から吉村さん、学識経験者からは原科さん、行政から黒川さん、塚本さんです。それでは、市民の方から、順次座席の時計回りでお願いします。では、中下さんからお願いします。

(中下) 国際的動向になるべく協調しながら施策を進めていくべきであるということに皆さん異論はないかと思いますので、国際的動向を踏まえて、国内的な施策の中に何が必要かという点について提案したいと思います。資料2にあるSAICMのハイレベル宣言の3つ目に「社会が化学物質を管理する方法に根本的変更が必要である。」とありますが、まさにその通りだと考えます。そこで、戦略が必要になります。しかし、2つの側面から見て、日本には戦略が無いと思います。1つは、組織的な面です。化学物質については様々な省庁が関わっていますし、環境省の中でも縦割りだと滝澤さんがおっしゃっていました。縦割りという枠組みでは戦略を立てることができません。ですから、縦割りの枠組みを超えた組織、具体案として、内閣府の中などに化学物質安全委員会といった組織を設けて、戦略を立てていく必要があると考えます。2つ目に、理念、原則の面です。化学物質政策の戦略の基本原則が何かということについては、予防原則か予防的取組方法かといった言葉についての対立があるぐらい、まだ共通認識にはいたっていません。そこで、化学物質安全基本法のようなものを作り、共通の理念や原則を確認する必要があると考えます。その法律の中には、理念や原則に関して5つのことを最低盛り込むべきだと考えます。1つは、予防的取組方法、あるいは予防原則です。予防的取組方法についてはおそらく合意が得られるかと思いますが、具体的に何を意味し、どのような場面でどのように使っていくのか、ということについては、まだ議論が十分深まっていません。私どもダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議では、「公害はなぜ止められなかった? 予防原則の適用を求めて」というブックレットを作成しました。これは、過去の公害事件や化学物質規制のきっかけとなった事故について、それぞれどの時点で予防原則を適用すべきであったかということを検証したものです。実際に行われてきた施策は、ほとんどすべて後追いです。問題が起こり、被害がある程度出てから施策が講じられています。被害の未然防止という観点からのアプローチが必要であり、未然防止のためにはどのように施策を講じていくべきかということを議論する必要があります。2つ目は、既存物質の毒性データをいかに整備していくかということです。日本でもJapan Challenge Programをやっておられますが、それは一部です。戦略というからには、全体を踏まえたものでなければなりません。3つ目に、化学物質についてもライフサイクル管理を行わなければなりません。レスポンシブルケアは、とても重要だと思います。それを自主的取り組みにとどめないで、法的規制も含め、サプライチェーン全体でどのように化学物質を管理していくのか、ということを考える必要があります。少なくとも情報をすべて透明化していかなければ、サプライチェーン全体での管理はできないと思います。そのようなシステムをどのように作っていくのか、ということが問題になってくると思います。4つ目に、化学物質に対して脆弱な人々に対する配慮、特に胎児や乳児、幼児といった子どもに対する配慮が必要です。今の化学物質対策で必ずしもこれらの人々への配慮がなされているとは思いません。それをきちんと示すべきだと思います。5つ目に、意思決定におけるステイクホルダーの参加です。情報が不十分な中で意思決定をしていかなければならないとすれば、予防原則や予防的取組方法を使うことになります。それをどのような場面でどのように使うのかということは、多様なステイクホルダーが参加する中で決めていく必要があります。また、意思決定もそのようにしていく必要があると思います。科学だけではもはや政策決定は不十分だと考えます。その点について、もっと端的に示していく必要があります。今回のSAICMを見ると、女性の役割を強化するということがわざわざ書かれていますが、そういうことも基本理念として挙げていく必要があるかと思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。社会が化学物質を管理していく上で日本には戦略が無いのではないかというご指摘でした。1つは、行政が縦割りであること、もう1つは、化学物質をどう考えるのか、安全をどう考えるのかという理念や基本原則が無いということでした。提案された基本原則の1つは、予防的取組方法、いわゆる未然防止という考え方です。2つ目に、既存化学物質のデータを整備すること、3つ目に、化学物質のライフサイクルによる管理、レスポンシブルケアのような自主的取り組みをもっと公的なものにするという提案でした。4つ目に、化学物質に対して脆弱な人々への配慮、5つ目に、意思決定へのステイクホルダーの参加。これら5つのことを基本原則や理念として提案していただきました。では、吉村さんどうぞ。

(吉村) 日本石鹸洗剤工業会の吉村です。課題について3つのポイントをお話しします。1つは、鳥居さんもおっしゃいましたが、規制と自主管理という考え方です。法規制だけですべて対応するということではなく、自主的な活動に基づいた取り組みを進めることが非常に重要です。今、我々は様々な化学物質の管理活動を行っています。現在の活動の1つの方向付けとなっているものがアジェンダ21で示された枠組みです。これは、今我々が行っている活動の中で非常に重要な位置を占めており、また、意味のあるものです。SAICMの戦略的な枠組みを考える上では、5年、10年経った後で、やはりあの政策は重要だった、と言えるような枠組みを提示する必要があると思います。キャパシティー・ビルディングが基本になると思いますが、十分議論をして方向性を出すべきだと思います。2つ目に、具体的な活動として高生産量化学物質の安全性点検プログラムがあります。日本石鹸洗剤工業会でも、それぞれの企業が関係している化学物質の安全性点検作業に積極的に参加し、かなり多くの化学物質について取り組んでいます。米国の石鹸洗剤工業会が中心になっているものや、個々の企業でプログラムを組んでいるものなど、様々です。この活動から得られるプラスの面として、HPVの安全性点検プログラムの中で示されているアプローチの仕方や揃えるべきデータなどが、HPVに取り上げられていない物質の安全性評価を行う際、大変参考になるというポジティブな面もあります。3つ目に、HPVの基本はハザードデータ点検ですが、最近ではリスクキャラクタリゼーションも行われています。洗剤業界としては、欧州の石鹸洗剤工業会(AISE)が先行して始めたことですが、ハザードだけでなく、最終的な使用場面も踏まえてリスクアセスメントを行うHERA(注、Human and Environmental Risk Assessment on ingredients of household cleaning products)というリスク評価に関するプロジェクトを進めています。そして着々とその成果が確認され、公表もなされています。これに連動するような形で、日本の石鹸洗剤工業会でも、3年前から本格的に洗剤のリスクアセスメントに取り組んでいます。その結果については、報告書にまとめて配布したり、石鹸洗剤工業会のホームページに掲載したりして、情報公開に努めています。また、HERAには日本や米国はオブザーバーとして参加しています。考え方の共有や集められたハザードデータの共有を図ろうと、HERAの動きと一緒に私たちも活動しています。世界的な取り組みの1つと位置づけながら、その成果を日本の条件に当てはめてリスクアセスメントを行っています。これは今後も継続していく考えです。また、リスクアセスメントの結果やPRTR対象化学物質の数値をまとめて、どのような傾向になっているのか、また、我々が行っているリスク評価との観点でどのような状況にあるのか、ということをできる限り公開しようと考えています。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。化学物質の管理については、規制プラス自主管理が良い、特に今後自主管理の重要性がさらに大きくなってくるというお話でした。具体的に、工業会として行っているHPVへの協力や、それ以外の物質を評価する際にもその手法が参考になるということ、さらに従来のハザードデータの収集だけでなく、リスクアセスメントまで踏み込んでいき、最終的には情報公開を行っていきたいというご意見をいただきました。では、原科さんどうぞ。

(原科) 3つのポイントをお話しします。1つは、国際的な場における日本の役割として、Harmonizationに貢献することが挙げられます。そのための基本的なアプローチとして、キャパシティー・ビルディングなどがあります。これは政府だけでなく、民間でも情報や人材の蓄積がありますので、媒介役として国際機関、例えばJICAのようなところが積極的に活動してくれれば、相当程度貢献できると思います。2つ目ですが、そのための組織や建物を作ることでも、日本は国際協力ができると思います。この時に、情報を生産し、流通させ、そして進行管理をよりやりやすいように監視することが大事です。このような監視を行えるような第三者的な機関が作られるように支援することが大事だと思います。日本では、公務員の数が多いという世論があり、現在減少させる方向にありますが、法治国家であれば、法を守るために国がきちんと対応しなければなりません。ですから、本当は公務員を増やさなければなりません。日本の人口あたりの公務員数は、米国の半分以下です。これは国と地方、特殊法人を含めてですから、非常に少ないです。法治国家であるのに法が守られないとなると、放置国家になってしまいます。そのような日本の失敗を繰り返さないためにも、監視という仕組み作りを支援することが大事です。3つ目は、社会的なインフラの整備です。オーフス条約(注、環境問題に関する情報へのアクセス権、意思決定への参加、司法へのアクセス権、という3つの柱において市民参加の最低基準を定めた条約。国連欧州経済委員会で採択され、2001年10月発効)が欧州で始まっており、既に36カ国が批准しています。この動きは欧州側で始まりましたが、アジア側と連携を図ろうという目的で、アジアでも取り入れる動きが始まっています。オーフス条約は、今日の議論のベースになるかと思います。その中身である、環境情報へのアクセス権、意思決定への参加、司法制度との連動がきちんと行えることがリスクマネジメントの基本だと思います。このような枠組みが無いと、情報公開ができなかったり、ルールが守られない場合の対抗措置が無いという理由で放置されたままになったりしてしまいます。私は、アジア版のオーフス条約を経済的な先進国である日本がリードすべき立場にあると思います。これは、化学物質の安全管理だけではなく、環境計画一般や環境アセスメントなどにとっても大変重要だと思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。日本はHarmonizationや情報の流通、監視する機関の支援、そしてアジア版のオーフス条約を作っていく、という以上の領域で国際貢献できるのではないかというご意見でした。最後に行政側からご意見をお願いします。まずは、黒川さんどうぞ。

(黒川) 厚生労働省の黒川です。化学物質には毒性の強いものから、生命に対する作用がほとんどないと考えられるものまでたくさんあります。人類が化学物質によって大きな恩恵を受けていることを踏まえると、その性質に基づいた適切な管理が重要です。そして、適切な管理のためには、その基本的な性質を明らかにすることが必要条件です。例えば、生命がその化学物質をどのように使うのか、あるいは、化学物質が生命に対してどのように働きかけるのかといったことは、基本的な性質の大きな一部分だと考えます。既存化学物質の安全点検が、このための重要な取り組みであることは言うまでもありません。今般開始されている既存化学物質の点検プログラムは、大変重要であり、我々も積極的に進めていきたいと考えています。また、産業界からの参画を大いに期待しています。適切な管理の方法論には、一番厳しい製造の禁止から、自由な製造・使用といったことなど幅があります。様々な取り組みを振り返り、評価に基づいた戦略的なアプローチを目指すという点では、SAICMは非常に有意義だと感じています。途上国と先進国もさることながら、日本国内においても考え方が適用できる部分があると思います。私どもからすると、化学物質を製造している方々、場合によっては使用者も含みますが、そのような方々が化学物質の性質について一番よく知っているはずだという期待があります。ですから、製造者や使用者の自主的な取り組みが1番重要だと考えます。行政としては、それを積極的にバックアップしていく環境を整備していくことが大切な役割だと認識しています。厚生労働省では、公衆衛生の向上が大きなテーマです。人の健康影響に焦点を当てて国内外のリスク管理の取り組み、例えば、OECDの化学品プログラムやPRTR等を行ってきました。また、化学物質の有害性評価を中心に評価手法の開発や高度化の取り組みなどが推進されてきています。OECDのテストガイドラインの策定や改訂に当たっては、専門家の派遣などを行っています。また、試験方法の標準化や、世界各国で取得されたデータを各国で共有できるようなシステムの開発に努力していきたいと思います。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。適切な管理のためには、基本的な化学物質の性質を明らかにすることが大事だということ、国が中心になって行っている既存化学物質の点検プログラムをどんどん進めていきたいということ、SAICMは国内的な化学物質の対策を考える上でも重要だということ、今後ますます重要になってくる化学物質の自主管理を推進するために行政としてのポジションを考えていきたいということ、最後に、国際貢献については、例えば、OECDの協力等のお話がありました。では、最後に関さん、お願いします。

(関) 主要な部分は既に黒川さんがお話しされました。私もその通りと考えます。その上で、重複を避ける観点でお話しします。国内の問題、海外の問題、そして共通した問題を共に解決していく上で、SAICMは非常に重要だと思います。その時に、化学物質のリスク評価を科学的に行い、リスク管理策を科学的根拠に基づいて探していくことが大事です。これも1国だけで行うのではなく、国際協力ができるところをなるべく使っていくことが大事です。OECDが行ってきたことは、まさにそれそのものです。OECDでは、有害性のデータについて、条件が整っているのであれば、他国でもその結果を受け入れられるようにするという考えがあります。これはMAD(注、Mutual Acceptance of Data;化学品安全性評価におけるデータ相互受け入れ)と言われます。そのために、テストガイドラインやGLPを作りました。今、OECDは、これを途上国にも広げていこうとしています。こういう活動の中で、JICAのような機関を通じて、日本としても協力しています。産業界の方にも専門家として加わっていただいています。これは積極的に展開していくべきだと考えます。もう1つは、情報のギャップの問題です。簡単にとれる情報ではないことが主因です。OECDでは、効率的に、そして、極力動物を使わずに代替的な方法を使って評価できないか、検討しています。これもまさに国際協力の1つですが、実はそのような方法論を支えるためにもデータが必要になります。Japan Challenge Programもそうですが、計画的に行わなければいけません。中下さんがおっしゃるような大きな戦略ではありませんが、戦略をもって一つ一つの活動を進めています。OECDがさらに考えていることは、各国が持つデータをシェアしながら新しい方法論を検証することです。これは簡単にできそうだと考えられるかもしれませんが、そうでもありません。化学物質の情報そのものに所有権の問題が発生しますし、使われ方によっては企業秘密になります。これは、川上だけでなく、川下でも同じ問題が起こります。情報のニーズや使われ方が変わり、また、情報の保護の仕方も変わってきています。今まさに国際レベルで化学物質についての情報を共有できるデータベースの取扱い方法に関するルールを作っている最中です。先ほど崎田さんが、リスクコミュニケーションはそれぞれの責任を明確にし、コミットしていくという意味で非常に重要だとおっしゃいましたが、私もそう考えています。それから、今までは、有害性の話が中心に出てきましたが、リスク評価には暴露の話もあります。リスク評価のアプローチとして、有害性からふるいにかけていくものや、暴露からふるいにかけていくものなど様々です。どちらが正しいということではなく、国情などを考慮し、それぞれの合理性の中でリスク評価を行えばよい話です。お互いがどのようにリスク評価を行っているのかということ、また、その合理性を理解しながら、共有できるデータの利用方法の開発を推進することがOECDにおける昨今の議論です。このような話がどんどん進んでいくと戦略性がより深まっていくと考えます。以上です。

(北野) ありがとうございました。私なりに要約します。SAICMの重要性について国際的な話ばかりではなく、国内的な対策にも非常に役に立つということ、OECDの活動やMADの話、情報のギャップができる理由として、データをとることが大変だということ、情報のギャップ埋めるためには川上と川下の責任を明確にすることが重要であるということ、またどのように情報を扱うべきかという議論が行われているというお話をしていただきました。
 それでは、この課題についての意見交換を行いたいと思います。中塚さんどうぞ。

(中塚) おそらくSAICMはいろいろな省庁に関連する項目だと思いますが、各省庁が協調し、日本の方針や対応を考えていけるのでしょうか?

(北野) 滝澤さんどうぞ。

(滝澤) 当然、意見調整をしながらこの9月や来年2月に向けて日本国政府として対応していくことになると思います。

(北野) 十分に協議を重ねるということですね。では、村田さんどうぞ。

(村田) 産業側の方から自主管理がかなりの位置を占めており、そのような取組を評価すべきであるというお話がありました。私も自主管理の重要性はまったく否定しません。しかし、自主管理はあくまでも自主的なものですので、その自主管理の質をコントロールする取り組みや、自主管理にはとうてい向かない分野や範囲について、どのようにお考えかをお聞かせください。

(北野) 自主管理の質をどのようにコントロールするのか、また自主管理では無理な領域があるのではないか、というご質問でした。瀬田さんどうぞ。

(瀬田) 自主管理は法制管理を越えて、安全や安心の分野に取り組んでいます。ですから、中身や質をコントロールするとなると、それはもはや自主管理ではなくなってしまう感じがします。その時その時のベストナレッジで、これは危険だという問題に対して自ら対応していくわけです。また情報等が変わるとその前提条件も変わる可能性があります。1つ例を挙げます。東京都ではグリーン購入ガイドを作成し、それがいろいろな地方自治体の参考になっています。従来は、塩化ビニルを極力使わないようにということがガイドに記載されていましたが、最近その記載がガイドから消えました。それは塩化ビニルに対する考え方が従来の環境と変わってきていることを意味すると思います。ですから、規制やコントロールということになると、自主管理というものの性格を変えてしまう気がします。規制よりも自主管理の方が企業にとって行動規範やモチベーションに結びつくと思います。そういう意味では、むしろ自主管理をもっと活かし、意識を徹底するためにはどうすべきか、という議論にすべきだと思います。

(北野) 吉村さんどうぞ。

(吉村) レスポンシブルケアの活動では、自主管理が独りよがりなものにならないために、第三者検証という形をとっています。第三者の意見を取り入れながら活動を見直していくことが非常に重要だと考えます。先ほど申し上げた洗剤のリスクアセスメントに関しても、報告書を出したきりで終わりではなく、専門家の方々にも送付し、いろいろなご意見を伺い、フォローアップなどを必要な時に活かしていくことを行っています。第三者の意見を報告書の中に入れることなども、今議論しています。私は独りよがりな活動を勝手に行うことが自主管理として良いと言っているわけではなく、ある程度客観性を持って、また説明責任を果たすという視点が大事だと思います。

(北野) 中塚さんどうぞ。

(中塚) 企業では、何か課題がある場合に、効率的に、そしてより効果の発揮するやり方を追求します。ですから、課題によっては自主的取り組みの方がより規制の精神に適い、より効果的な場合があります。トータルとして見た場合、結果的に非常に良い方向に影響すると考えます。また、規制は今や最低のラインです。それを越えて未然防止という考え方で手を打っていかなければ、現在の企業競争や国際競争には勝てません。国内外の消費者に対する影響や環境への影響を配慮せずして、企業は存続し得ません。基本的に企業ではそういう認識を持っています。以上のことから、自主的取り組みの質は、結果的に高いものになっていくだろうと信じています。

(北野) ありがとうございました。私としては、情報を公開することが自主管理の原則だと思っています。今日は戸田さんからSAICMの話について、またその後に3つの課題についてメンバーからご意見をいただき、ディスカッションを行ってきました。最後に、SAICMに対する意見やその他、全体的に言い残したこと等があればお願いします。原科さんどうぞ。

(原科) 自主管理と情報公開がセットだということは、その通りだと思います。情報公開は、通常の規制ではなく、情報公開に関する枠組みやルール作りが必要だと思います。例えば、環境アセスメントは規制法ではなく、枠組み規制です。環境アセスメントでは手続きのルールが決まっていて、その手順を踏むことによって情報が公開され、事業主体が社会に対する説明責任を果たします。そのような形の、自主管理を促進するような枠組みをきちんと作っていただきたいと思います。

(北野) 越智さんどうぞ。

(越智) 今回のSAICM等の枠組みは、化学物質のリスクに関する継続的、蓄積的な分野のリスクかと思います。もう1つ、環境に対するリスクという見方をした場合に、事故や局所的な環境汚染、例えば、従来の公害型などの問題が今の発展途上国でも起こる可能性があるかもしれません。本日の資料、説明ではこのことへの言及がありませんでしたが、そのような事故的なリスクや地域限定的なリスクも、このSAICMの中に含まれているのでしょうか?

(戸田) 当然含まれています。アジェンダ21にも事故に対する準備や責任に関する活動が書かれています。また、そのような記述に基づいて、例えば、OECDでも化学事故プログラムなどがあります。本日は説明の中に含めませんでしたが、当然含まれています。

(越智) ありがとうございました。

(北野) そろそろ時間となりましたので、この辺りで、本日の会議は終了したいと思います。次回第15回の議題については、この後開催する予定のビューロー会合において協議して決めたいと思います。それでは、最後に事務局からお願いします。

(上家) 長時間にわたり活発なご議論をいただき、ありがとうございました。本日の意見交換でいただいた御意見等につきましては、今後、国や自治体における政策、事業者や国民の方々の取り組みの検討に際して参考とさせていただきます。また、このうちのいくつかの御意見等につきまして、今後のSAICMにおける検討、6月末の拡大ビューロー会合や9月の第3回準備会合の際にも参考にさせていただきます。また、現在検討が開始されている第3次環境基本計画の策定作業に際しても、参考にさせていただきたいと考えています。ご理解の程、よろしくお願いします。ビューロー会合は、2階の鶴にて行いますので、メンバーの方は、よろしくお願いします。以上です。

(北野) それでは、本日の会議はこれで閉会にさせていただきます。どうもありがとうございました。