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化学物質と環境円卓会議(第10回)議事録

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■日時:平成16年7月29日(木) 14:00~17:00
■場所:スクワール麹町 3階「錦華」
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  関 荘一郎 環境省環境管理局大気環境課長
  <学識経験者>
  原科 幸彦 東京工業大学工学部教授
  <市民>
  有田 芳子 全国消費者団体連絡会事務局
  大沢 年一 日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  角田季美枝 バルディーズ研究会運営委員
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパンシニア・オフィサー
  <産業界>
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会広報委員会顧問
  田中 康夫 レスポンシブル・ケア検証センター長
  中塚 巌 (社)日本化学工業協会ICCA対策委員長
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会環境・安全専門委員長
  西方 聡 (社)日本電機工業会化学物質総合管理委員会委員長
  <行政>
  片桐 佳典 神奈川県環境農政部技監
  黒川 達夫 厚生労働省大臣官房審議官
  菊地 弘美 農林水産省大臣官房参事官(染英昭代理)
  滝澤秀次郎 環境省環境保健部長
  関 成孝 経済産業省製造産業局化学物質管理課長(塚本修代理)
   (欠席)
北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
安井 至   国際連合大学副学長
山下 光彦   (社)日本自動車工業会環境委員会副委員長
嵩 一成   日本チェーンストア協会環境委員
   (事務局)
上家 和子 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1-1  VOC排出抑制:規制と自主取組 ~大気汚染防止法改正~(関さん講演資料) [PDF(491KB)]
資料1-2  大気汚染防止法の一部を改正する法律の概要など(関さん資料) [PDF(155KB)]
資料2-1  環境と企業経営(瀬田さん講演資料) [PDF(816KB)]
資料2-2  環境と企業経営「工学は何のためにあるか」(瀬田さん資料) [PDF(85KB)]
※注:(株)化学工業日報社の月刊「化学経済」2004年5月号から転載したものです。
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  リスクコミュニケーションに係る議論について(メンバーのみ配布) [PDF(600KB)]
参考資料2  第9回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
参考資料3  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
滝澤さん資料1 「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」に関する国連勧告の仮訳の公表について(お知らせ) [PDF(13KB)]
滝澤さん資料2 化学品の有害性表示等に関するアンケート調査の結果について(お知らせ) [PDF(11KB)]
滝澤さん資料3 「化学物質ファクトシート(暫定版)」の公表及びご意見募集について(お知らせ) [PDF(109KB)]
滝澤さん資料4 「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック~平成14年度集計結果から~」の公表について(お知らせ) [PDF(49KB)]
滝澤さん資料5 パンフレット「環境ホルモン戦略計画 SPEED'98 取組の成果」(メンバーのみ配布)[PDF(642KB)]
片桐さん資料 神奈川県における化学物質対策 [PDF(154KB)]


■議事録

1.開会

(上家) 本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。時間が参りましたので開催させていただきます。私はこの4月より環境安全課課長を拝命いたしました上家です。よろしくお願いします。本日は原科さんに司会をお願いしています。原科さん、よろしくお願いします。
(原科) それでは、ただいまから第10回の化学物質と環境円卓会議を開催します。記念すべき第10回です。随分たくさんの方にお集まりいただきまして、傍聴の方も今ざっと拝見して70,80名はいらっしゃるようで、これまでと同様に盛況だと思います。
今回は、メンバーの皆さんと相談した結果、「自主的取組による化学物質管理」について意見交換を行うことになっています。これにあたり、まず環境省大気環境課の関荘一郎さんから、30分程度のお話をいただきます。続きまして、社団法人日本化学工業協会広報委員会顧問の瀬田重敏さんから30分程度のお話をいただきます。
 瀬田さんに先ほど名刺をいただきましたが、実は私と同業者になられたそうです。同業といっても理事ですからもっと偉い方ですが、東京農工大の理事もやっておられます。
それでは事務局から本日の資料の確認などをお願いします。

(上家) それではまず、メンバーの交代についてお知らせします。産業界では、社団法人日本自動車工業会環境委員会副委員長の菅裕保さんから山下光彦さんに代わられました。本日はご欠席です。行政では厚生労働省大臣官房審議官の鶴田康則さんから黒川達夫さんに、経済産業省経済産業局次長の福水健文さんから塚本修さんに代わられていらっしゃいます。本日は、塚本修さんに代わり関成孝さん、そして染英昭さんに代わり菊地弘美さんにご出席いただいています。それから、本日は学識経験者の北野大さん、安井至さんがご欠席です。産業界では先ほどご紹介しました山下光彦さん、それから嵩一成さんがご欠席です。市民の方では、崎田裕子さんから所用により遅れてこられる旨をご連絡いただいています。
 それでは資料確認です。まず、片桐さんの資料「神奈川県における化学物質対策」は、事務局から滝澤さん資料を紹介した後に片桐さんより簡単にご紹介いただきたいと思っています。参考資料1「リスクコミュニケーションに係る議論について」は、これまでのリスクコミュニケーションに関するご発言について事務局が整理したものを第8回、第9回会議と2回に渡りご議論いただき、第9回会議後にメンバーに最終的にご確認いただいたものです。これにつきましては部数の関係もあり、メンバーの方のみに配布させていただきました。本日以降、速やかにホームページに掲載します。
 参考資料2「第9回化学物質と環境円卓会議議事録」もメンバーの方のみに配布させていただきました。既にメンバーの方にご確認いただき、環境省のホームページに掲載しているものです。次に、パンフレット「環境ホルモン戦略計画SPEED’98 取組の成果」は、急遽配布することになりました滝澤さんの資料です。議事次第には間に合いませんでした。これは7月27日に公表したものですが、余部がほとんどないため、メンバーの方のみに配布させていただきました。まもなく、PDFファイルを円卓会議ホームページに掲載できるよう検討しているところです。それでは、滝澤さん資料1~4のご紹介、参考資料3について説明させていただきます。
 滝澤さん資料1は、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)に関する国連勧告の仮訳の公表について」のお知らせです。4月27日に公表したものですが、環境省を含む関係省庁連絡会議が仮訳を行いました。このGHSは第9回の議題にもなりました。
 次にこれに関連して、滝澤さん資料2は、「化学品の有害性表示等に関するアンケート調査の結果について」のお知らせです。こちらも4月27日同日に公表しています。これは環境省が消費者に対して行ったアンケートの集計結果で、生活用品の危険有害性に関する表示については、「表示が何を意味しているのかわからないという点が問題」という指摘が54.4%にのぼっていました。それから、危険有害性に関する表示がついた場合の購入・使用量の変化については、「購入量や使用量は変わらない」が過半数でありましたが、やはり購入や使用量を控えるというご意見もありました。
 それから、滝澤さん資料3は、「化学物質ファクトシート(暫定版)の公表及びご意見募集について」のお知らせです。化学物質に関して提供される情報は専門的かつ断片的なものが多いため、誤解に基づく無用な不安を引き起こす恐れあるという指摘があります。このような中で、化学物質に関する情報を分かりやすく整理したものを環境省からの請負で(社)環境情報科学センターが作成中です。広くご意見をいただいて完成させたいということでご意見の募集を行いました。現在、いただいたご意見をもとに修正作業をしているところです。
 次に滝澤さん資料4は、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブックについて」のお知らせです。こちらは7月27日、つい一昨日にお知らせをしたところです。平成13年度データを用いて作成した市民ガイドブックを昨年6月に公表しましたが、今回は新たに14年度データを加え、前年度データとの比較の結果を盛り込みながら改訂をしたものです。
 次に、参考資料3「化学物質と環境円卓会議リーフレット」は、従来から毎回お配りしているものです。
 以上が本日の配布資料です。

2.議事

(原科) それではさっそく片桐さんの資料「神奈川県における化学物質対策」について、片桐さんより5分ほどでご紹介いただきます。

(片桐) 簡単にご説明させて頂きます。神奈川県における化学物質対策については、第1回の時にいろいろと説明させていただきました。前回は口頭のみで説明しましたが、今回はその一部も盛り込んだ資料として配布させていただきました。
 今年の3月に条例を改正し、化学物質管理についても改正しましたので、その内容について紹介をさせていただきます。
 条例の改正の背景ですが、一つにはダイオキシン法やPRTR法、土壌汚染対策法等の施行があります。県条例の内容と重複する部分があるのと、また、取組も進んできているということがあり、化学物質の関係、土壌の関係、フロンの関係について改正しました。
 平成9年に条例を全面改正し、平成10年4月に施行しましたが、その中では化学物質に関しては自主管理という規定を設けています。ただ、その内容が非常に抽象的だったため、条例の施行から6年経ったこともあり、この内容についていろいろと検討してきました。また、PRTR法の施行により、MSDSが義務化されてユーザーレベルでは化学物質関連の情報がいろいろと把握が可能となってきているということ、排出量や移動量の集計作業が一般化、ルーチン化して活用されてきているということ、事業所の方から周辺住民や地域の社会に対しての情報公開が進んでいるということがあります。また、事業所の方からは、こういったデータや情報が増えても何をターゲットにどのような対策を進めていったらいいのかといった課題があるという声も聞いています。
 このようなことから、私どもとしては、化学物質関連の条例改正にあたり、ただ単に出口の排出濃度や排出量だけではなくて、未然防止として化学物質の安全性に着目し、事業所全体の化学物質のリスクを削減するための取組をステップアップしていくために改正を行いました。
 次に、イメージ図を見ながら説明させていただきたいと思います。(片桐さん資料p3参照)まず、左上にある「現行規制・指導」の下に、「先端技術産業立地化学物質環境対策指針」を持っています。平成5年に施行して以来、10年ちょっと経ちますが、100に満たない工場に対して指針に基づいていろいろ指導してきました。この内容を簡素化するとともに、条例の許認可の対象になる工場の範囲を拡大していこうと考えています。
 条例の中では「環境配慮書」を提出してもらうことになっています。化学物質だけに限らずいろいろな形で提出していただくことになっていますが、その「環境配慮書」の中に化学物質の安全性の影響度、配慮等を記載し、提出していただこうと考えています。具体的は、条例の設置許可が必要となる工場は現在神奈川県の対象では約8000ありますが、そのうちの従業員が30名以上の事業所を対象として、PRTR法第一種の354物質と第二種の81物質について、取扱量や排出係数、毒性係数を掛けあわせて、総和を求めて安全性影響度を算出していただき、それを環境配慮書の中に記載していただくという考え方です。この環境影響度の算出方法については、現在、指針書の中身を検討していまして、今年の9月ぐらいには公表する予定です。条例では、事業者に環境配慮書を提出していただくことになっていますが、実質的な取組の推進が目的ですので、環境配慮書に対するペナルティの規定は特に設けていません。
 それから、二段目の欄にある「生活環境保全条例」についてです。条例の化学物質の定義の中で、今まで「生態系」に対して明確な考えを記載していませんでしたが、今回の改正で、生態系への配慮を定義の中に盛り込みました。
また、右の方にある「PRTR法届出対象事業者」ですが、PRTR法の届出事業者の自主的な管理を促進しようという面からいろいろと内容を改正しました。今まで、PRTR法に基づく対象事業者には、条例に基づいて実施していただいた化学物質の自主管理を強化するために条例を改正してきましたが、この中で自主管理目標の設定、達成状況の報告、県民への情報提供を義務づけています。まず、自主管理目標の設定や達成状況の報告を記載していただくためには、取扱量や用途を報告していただき、具体的な管理目標や取組内容を記載していただきまして、PRTRの報告時に一緒に県に提出していただくことになっています。2年目からは、管理目標の達成状況の報告も合わせて提出していただくことになっています。事業者にはPRTR法に基づきながら自主的にいろいろと対応していただいていますが、条例によりさらに自主的に進めていっていただきたいと考えています。また、事業者から周辺住民にデータを提供していただくとか、そのような中で、私どももお手伝いしながら、化学物質のリスクを低減させるという趣旨でやっています。
 それから、資料の一番下に「汚染対策」とありますが、これまで私どもでは、環境汚染のモニタリングで汚染が見つかった場合に、対策を打ってきましたが、法・条例の対象事業者でない場合は、お願いベースで対策を行ってきました。この部分も条例に盛り込みました。
 今後の取組としては、今ご説明したことを念頭に入れながら、事業者に対して説明周知しつつ、資料に記載したような内容を進めていきたいと考えています。
 以上です。

(原科) ご説明どうもありがとうございました。神奈川県ではこれまでもかなり踏み込んだ対応をされていると思いますが、新しい取組についてご報告いただきました。ちょっと質問させていただきたいのですが、神奈川県の場合にはPRTR法の届出対象事業者はどのくらいの数になりますか?

(片桐) 県内全部で1500程度です。今は横浜、川崎を経由して県にあがってくるようになっています。実際には、横浜市と川崎市の管轄分を除外した850社が私どもの条例の対象になります。

(原科) わかりました。他に何かご質問はありますか?では、村田さんどうぞ。
   
(村田) 化学物質自主管理書という形では、2年目以降に県に情報が集まりますね。

(片桐) 「環境配慮書」については、化学物質だけではなく、公害防止の観点等、いろいろな観点から企業や事業所の皆さんが自主的に配慮されている全ての項目についての内容を県の許認可や設備変更の際に提出していただくようになっています。PRTR対象事業所については、年1回県に報告をしていただきますので、その際に目標等を記載して提出していただきます。目標について相談があった場合、私どもの方から「こういう風にしなければいけない」ということではなく、あくまで事業者の皆さんが自主的に考えながら目標を作っていただきたいという観点からやっております。

(村田) 県としてはそういった情報をどのようにフィードバックするのか、どういうことをしないのかというところをお聞かせいただければと思います。

(片桐) 県に提出していただいた情報をトータルでまとめたものを公表します。それ以外に、条例の中に、事業者の方から地域住民の方に対してできるだけ情報提供をしてくださいという条項も入っています。例えば、社外における掲示板やホームページ等どういう形でも結構ですから、事業者の方が自ら地域住民の方に公表してくださいという規定が盛り込まれています。

(原科) それではさっそく議事に入りたいと思います。今回の議題は「自主的取組による化学物質管理」です。この会議の冒頭でも申しました通り、お二人の方にお話をいただくことになっています。はじめに、環境省大気環境課の関荘一郎さんから「大気汚染防止法における規制と自主的取組」についてのお話をいただきたいと思います。
それではお願いします。

(関(荘一郎)) 環境省大気環境課の関と申します。本日は化学物質管理における自主的取組についてということでお招きいただきまして大変ありがとうございます。

 先の国会で大気汚染防止法が改正され、VOCの排出抑制を進めるということになりました。この法律はこれまでの環境法とは少し異なります。中央環境審議会等いろいろな場において、どういう手法でVOC全体の排出を抑制するか随分議論がなされ、最終的に規制的な手法と自主的取組をうまく組み合わせて最も効率よく排出抑制を図る「ベストミックス」が妥当であるという内容になりました。もちろん自主的取組をこと細かに法律に書くと、それはもはや自主的取組ではありません。大気汚染防止法の改定の内容については規制的な部分を中心にきっちりと規定しつつ、その中で自主的取組との関係について法文上触れています。そういう意味では、環境法の中では従来の例から考えると、きわめて新しいやり方ですので、今回のテーマであります「化学物質管理における自主的取組」に関する話題としてご紹介させていただきます。

 4点に分けてご紹介させていただきます。1点目でVOCとは何か、また大気汚染の状況等について、2点目では我が国のVOCの排出実態がどのようになっているのか、これらをイントロとして簡単にご紹介させていただきます。3点目でVOCの排出抑制でどういう議論がされてどうなったのか、具体的にそれが今回の大気汚染防止法にどう反映されたのか、についてご紹介させていただきます。

 VOCはVolatile Organic Compounds(揮発性有機化合物)の略です。昔は我が国では、非メタン炭化水素ということで捉えていましたが、国際的にVOCということでもう少し広い定義で捉えることになっており、VOCと呼んでいます。代表的な物質として、我が国ではトルエン、キシレンなど溶剤として使っているものがあります。工業的に頻繁に使われているものだけで物質としては200種類、厳密に言うと何万種類、ほとんどの化学物質で揮発性があるもので無機化合物でないものはこのVOCの概念に入るだろうと思います。排出量の観点から代表的なものとして、塗装の際に薄めるために用いるシンナーが圧倒的な量を占めています。ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、大気中に排出されたガスが微小粒子(二次粒子)になる、あるいは古くて新しい問題でありますが、光化学オキシダントと光化学スモッグの原因にもなっています。今年は極めて暑いものですから、7月に入り、連日光化学スモッグ注意報が発令されています。自治体において健康被害の観点から外に出ないようにと未だに言わざるをえないこの状況は大変申し訳ない限りです。そういう意味でVOC対策が遅きに失したというご批判もありますが、今回こういうことで道筋がついたというものであります。概括的な大気汚染の中で見ますと、国際的には4種類の重要な大気汚染物質があり、これらは大気中に出る量の多さから問題になっています。物の燃焼に伴うSOx、NOx、粒子状物質(SPM ; Suspended Particulate Matter)、それとVOC、この4種類が世界各国の大気汚染対策のターゲットです。我が国では最初の3つについては既に様々な手が打たれておりますが、VOCについてはやや遅れて今回対策を打つことになりました。

 これは、粒子状物質やオキシダントとはどういうものかを示しています。先ほど申し上げました今回のVOC対策の目的は、粒子状物質の大気汚染の軽減と光化学スモッグの軽減です。

 最近晴れているのに視界が極めて悪いという日があります。これは環境省のビルの屋上から撮った粒子状物質の写真です。こちらが昨年の9月3日、晴れている日ですが新宿の方を見ますと視界が極めて悪く、真っ白になっています。次の日の9月4日はすっきりしてよく見えます。こういう白いもののほとんどがいわゆる二次粒子といわれるものです。VOCだけではありませんが温度が高く光化学反応が大気中で進むときに他のガスも微小粒子化し大気中をさまようことで白く見えます。

 我が国の大気汚染の中で、微少なSPMの環境基準の達成というものは極めて重要な課題となっています。現時点での主たる発生源は自動車、特にディーゼル自動車ですが、二次粒子も重要な役割を担っています。「SPMの環境基準達成率の推移」では、残念ながら平成12、13、14年度の環境基準の達成率は、改善していたものがまた悪化傾向にあり、なんとかこれを食い止めなければいけないという状況です。

 もう一方の光化学オキシダントは昭和40年代の終わり頃に猛威をふるいましたが、その後、窒素酸化物の対策あるいは、自動車からの炭化水素の規制等で効果がありました。黄色いグラフが注意報の発令を示しています。環境基準の2倍を超えると、注意報を出して自治体が住民に周知します。ざっと見ていただきますと、まあまあ落ち着いてきたと思っていましたが、最近の3年間は、のべ日数では、残念ながら全国で200日前後注意報が出ている状況です。赤い折れ線グラフは被害の訴えの数です。平成14年度は千数百人で主にお子さんが目の痛みや胸の苦しみ等を訴えています。
 環境問題の中で被害が訴えられているものというのは、光化学オキシダントの汚染以外に現在はありませんのでそういう意味でも大変な、重要な課題だと私どもは考えております。

 これはVOCがどのように今の2つの現象に関わるかを示したポンチ絵です。大気中に排出されたVOCが主に太陽光線の中の紫外線のエネルギーを使い、光化学反応を起こし、オゾンを生成します。もう一方ではそのできたオゾンが他のガスと酸化して粒子化する、あるいは凝縮を通して粒子になることでオゾンの生成と大気中での微小粒子の生成との二つが生じていることを表しています。

 現在の我が国の大都市における大気中に存在するSPMの原因がどこにあるのかを分析したものです。左は、沿道以外のいわゆる一般の地域における関東地方の平均的なものです。黒いものが大気中でガスが粒子になった二次粒子として大気中に存在しているもので、これで見ていただきますと、実は大気中に存在する全粒子のうち、もともと粒子の状態で排出されて大気中にあるものというのは全体の半分以下になっています。これは今や黒い煙が出ている煙突を探すのが難しいくらいに対策が進んだという結果です。ガスとして出たものが大気中で粒子に変換する。最もシェアが高いVOCでだいたい1割程度、東京周辺の大気中のSPMの1割程度がVOCが変化した二次粒子であるという結果です。

 次に、VOCの排出の実態がどうなっているかを簡単にご紹介させていただきます。

 固定発生源からのVOCの排出の内訳です。ちなみに我が国の移動発生源からのVOCは昭和49年にガソリン自動車からの炭化水素の排出規制が施行されて以来、当初の規制値から100分の2ほどまで厳しくなり、我が国の総排出量の約9割が固定発生源からのVOCになっています。固定発生源起因のVOCが年間150万トンあり、移動発生源からは15万から20万トン程度はありますので、全体で180万トン程度が我が国の排出の実態です。セクター別にご覧いただきますと、赤が屋内塗装、白が屋外塗装を示しており、塗装起因のものが全体の半分以上を占めています。その他、印刷、接着剤、洗浄、化学製品の製造等、きわめて多様な産業のあらゆる分野で使われています。そういう意味では燃焼系の大気汚染に比べて関係する業種、業態がきわめて多いというのがVOCの排出の特徴です。

 これは我が国のVOCの中で具体的な物質としてどういうものが多いのかを表したものです。一番下からトルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等が多くなっています。例えばトルエンは先ほどの150万トンのうち26万トン程度になります。

 日本のVOCの排出が国際的にどういう状況にあるのかについて日本と米国、EUを比べたものです。この単位に少しお気をつけください。国土面積あたりの排出量という単位で比べています。絶対量ではなく大気中の濃度が問題ですので、排出密度で比べています。これで見ますと我が国はこの10年間ほとんど変化していません。米国は若干減少傾向にあり、EUはかなり減少しています。この2010年はEU共通の排出量目標年次です。

 先ほどのグラフの裏付けですが、各国は固定発生源のVOCの排出抑制についてどう取り組んでいるかを表したものです。我が国において国の法律レベルでは固定発生源のVOCは、これまで何も手当てがされていませんでした。一部の自治体においては条例でVOCの排出の規制措置がとられていました。一方米国は1990年に大気清浄法を改正し、VOCの排出規制が導入されました。EUにおきましてもEUの共通指令、各国が国内法でその内容を担保するいわば条約のようなものでありますが、1994年にVOC貯蔵施設についての規制措置指令、1999年に使用施設指令が制定されています。ここには入っておりませんが、今年の春にはVOCを含んだ製品の規制、ペイント中のVOCの含有率等の規制が成立し、施行されるようになっています。また、韓国、台湾等におきましても過去10年間の間にそれぞれ大気汚染防止法に相当する法律の中でVOCの排出抑制が規制的な措置として位置づけられています。

 このような現実を踏まえ、VOCの排出抑制のあり方について昨年の夏からご議論いただき、今回の法律改正になったわけですが、ここからが今日の議論に関係が深いところになります。

 昨年、平成15年9月に中央環境審議会の大気環境部会においてVOCの問題は看過できないため早急に専門家の意見を聞き検討することになり、それを受けて専門家の方に集まっていただきVOC排出抑制検討会を設け、5回ほど検討いたしました。その結果を中央環境審議会の大気環境部会に報告し、さらに部会で4回、大変熱心なご議論をいただき、今年の2月に「VOCの排出抑制のあり方について」という中央環境審議会としての意見具申をとりまとめていただき、環境大臣に提出したところであります。今日の配付資料の中に意見具申の全文が入っています。

 この一連の議論の論点ですが、まず1点目にVOCの排出抑制には合理性があるのか、本当に必要かどうかという、当然のことでありますが、これが最初の論点です。2点目として、仮に排出抑制が必要であるとするならば、いつまでにどれだけ排出抑制することに合理性があるのか。3点目はそういう目標を実現するために、どういう政策手法が望ましいのか。こういう大きな3点についてご議論が交わされました。

 1点目の排出抑制の合理性について、いずれも今年の2月の中央環境審議会の意見具申の抜粋ですが、最終的には「浮遊粒子状物質が光化学オキシダントにかかる大気汚染状況は未だ深刻であり、現在でも浮遊粒子状物質による人の健康の影響が懸念され、光化学オキシダントによる健康被害が多く届け出されている」状況に鑑みまして、「浮遊粒子状物質と光化学オキシダントの原因となるVOCのうち、固定発生源に起因するものについて包括的に排出抑制を図っていくことが必要であり、かつ緊急の課題」だという合意に至り、VOCは排出抑制しなければいけないということになりました。

 最終的な目標年次として平成22年(2010年)が目標になりました。この平成22年(2010年)というのは、政府がNOx・PM法に基づき、政府の基本方針の中でこの年までにSPMの環境基準を概ね達成することを公約した年です。今回のVOCの排出抑制はSPMの環境大気汚染の改善も大きな目標の一つでありますので、平成22年を削減の目標にすることになりました。
 削減量の決定はなかなか難しいわけですが、シミュレーションモデルを使い、平成12年度の排出実態からどの程度VOCの排出を減らせば大気中の状況はどういうことになるかという計算を行い、3割程度削減することによって相当程度の効果があるということが明らかとなりました。そのこともふまえ平成22年までに3割程度の削減を目標とすることが意見具申に書き込まれました。私のスライドに参考としてつけています(注:スライド45)。

 3点目の論点である排出抑制をするための政策手法としてどういうものが望ましいのか、これについてかなり熱心な激しい議論が行われ、最終的に「ベストミックス」に決まりました。環境省は伝統的に規制手法を重視してきましたし、検討会においても、人に義務を課す時には法律に基づいて明示的に課すのが最も公平なやり方なので、規制でやるのが良いのではないかという意見がありました。また、中央環境審議会においてもそういうご意見が多数を占めていました。その論拠は「法規制については一定の制度のもとで確実かつ公平に排出抑制が行われることになり、現にこれまで煤煙や自動車の排ガス対策として排出削減に成果をあげてきた」というものです。一方で産業界を代表される委員の方からは、むしろ自主的取組で減らす方がより効率が高いというご意見がありました。論拠は「自主的取組は事業者の創意工夫に基づき、柔軟な対応が可能である、費用対効果が高く、多様な物質および排出源の対策が必要となる有害大気汚染物質の排出削減に実績をあげてきたと」というものです。このように、VOC全体を抑制する時には、法規制が良いのか、自主的な取組に委ねるのが良いのかというところで様々な角度からいろいろな意見が交わされ、最終的には「VOCの排出抑制にあたり、法規制か自主的取組かの二者択一的な考え方ではなく、これらの手法のそれぞれの特性を活用し、より効果的な手法を構築することが適切である」というものに落ち着きました。

 環境基本計画の中に環境政策の様々な政策手法についての書き込みがあり、その中で自主的取組に触れたものがあります。そこでは「事業者などが自らの行動に一定の努力目標を設けて対策を実施する自主的な環境保全のための取組」ということで、自主的取組を説明しています。一般的にはこの特徴として「事業の実態に応じて創意工夫を活かした柔軟かつ迅速な対応が可能である」と言われています。
 先ほどご紹介しましたように、平成8年以降進めてきたベンゼン等の微量な有害大気汚染物質対策においては「自主管理」という名前を使っていますが、これにより目覚ましい成果があがってきました。義務や強制ではないために当然やらない方がでてくる、フリーライダーの問題が避けて通れません。一生懸命まじめにやっていただく方が全てを背負い込んでしまうという意味で公平ではないのではないかという懸念が常につきまといます。そこを公平にするために強制するとそれはむしろ自主的取組ではなく、法による規制的な枠組みをがっちりはめることになるという悩ましい問題が当然あります。また、自主的取組を評価・検証ができるシステムがあり得るのか、誰がどのように評価・検証するのかという点についても曖昧さが残ります。

 もう一方で、その法規制の特徴として、同じ環境基本計画の中では「生命や健康の維持のような社会全体として一定の水準を確保する必要があるナショナルミニマム的な性格を持っている事項を中心に活用すべき」と書かれており、規制的な手法もきわめて重要であると位置づけています。規制的な手法は、排出抑制が確実に行われる、つまり、法律ですからやっていただけない方には罰則が付くために確実に行われる、強制力があるという意味では公平ですが、その一方でどうしても一定のルールの下に強制することになるので、硬直性は免れないところがあります。諸外国を見ますと、国によって濃度規制であったり、量規制であったり、様々ではありますが、VOCについて言えば、規制的な手法で排出抑制を図っているという事実もあります。

 様々な議論がなされ、両者のそれぞれ良いところをうまく活用することができないかということになりました。実は、環境基本計画の中にもそういったことが書かれています。21世紀の環境政策は様々な政策手法をうまく活用すべきであるというくだりですが、「政策のベストミックス、最適な組み合わせの観点からそれらを適切に組み合わせて政策パッケージを形成し、相乗的な効果を発揮させる」という考え方が極めて重要であるということが明確に述べられています。

 こういうことも踏まえまして、最終的にVOCについてはベストミックスで排出抑制を図ろうということになりました。ベストミックスとは意見具申の中で次のように記載されています。「VOCは、これまでの有害大気汚染物質の自主的取組に比べると、物質数が格段に多く、発生源の業種、業態も一層多様であり、また、浮遊粒子状物質による健康被害の懸念や光化学オキシダントによる健康被害の訴えの状況など、有害大気汚染物質とは異なる事情にあるものの」この趣旨は、有害大気汚染物質の議論がなされた時は、現に被害は起こっていないけれども、未然防止の観点からその時の政策手法で何が適切かということを議論されていましたので、それとの対比としてこのように書かれています。VOCから浮遊粒子状物質、光化学オキシダントの生成についてはとばさせていただいて、「不確実性が避けられないことも考慮して、これまでの自主的取組のノウハウを活用し、事業者の実態をふまえた事業者の創意工夫と自発性が最大限に発揮される自主的取組により効果的な排出抑制をはかることが重視されるべき」というように自主的取組はきわめて重要であるということを先にうたっています。

 「従って、VOCの排出抑制に当たっては、これまでの自主的取組の結果を最大限に尊重して、自主的取組を評価し、促進することを第一とするという基本的な立場に立ち、法規制は基本的シビルミニマムとなるように抑制的に適用する、といった従来の公害対策にない新しい考え方に基づいて法規制と自主的取組を組み合せることが適当」であります。

 このような考え方のもとに、具体的にはVOCの「自主的取組の進捗状況を勘案して最終的には法規制で担保されるということになるので、事業者がそれぞれの事情に応じて取り組むという柔軟な方式でも排出抑制は進展すると考えられる」、「事業所、企業、業界団体等の最もふさわしい主体ごとに、適切な方法を検討し、確立することが期待される」、これは、現在行われていますベンゼン等の有害大気汚染物質の自主管理は、当時の環境庁と通産省の両省庁で業界団体の取組指針というものを作り、各業界団体に通知、つまりは行政指導を行い、業界団体毎に削減目標を決めて、業界団体管理を行ってくださいという形の自主的な取組です。それとの対比でこういう議論がされたものの結論ですが、今回の特徴はベストミックスですから、法規制と自主的取組という二本柱でデマケーション(住み分け)が行われています。
 そういう仕組みであるから、いわゆる有害大気のような業界毎の業界法で仕切るようなことでなくても事業所単位や企業単位、業界単位でもそれぞれふさわしい主体がより自由にやっていただければ良いのではないでしょうか、というのが今回の意見具申の意味するところです。ただ、その中にいずれにしてもどういう主体毎にやったとしても情報公開と検証の内在化が必須であると述べられています。

 一方の法規制によるVOCの削減については、施設あたりのVOCの排出量が多く、大気環境への影響も大きい施設は社会的責任が重いことから法規制により排出抑制を進めることが適切ということで、6つの施設類型を念頭に置いて、排出量が大きい施設に対しては規制を行うことになりました。規制は従来の大気の規制のやり方に沿って、地方公共団体に届出をし、規制基準を設けてやる方法が適当であろうということになっています。

 その6種類のものが先ほどのインベントリに沿って、塗装なり化学製品の製造なり、洗浄、貯蔵、印刷等この6種類を念頭に置いて規制をかけなさいということになっています。

 全体をポンチ絵で書いたものがこれです。大きな排出源となる施設に限定して規制をかける。それに必要なものは今回の大気汚染防止法で措置する。しかしたくさんの小さな排出源がある場合については自主的な取組でやってください。両者は相まって2010年までに3割削減を行うということです。

 ここが重要なところです。国会の審議でも自主的取組について、何もやらない人がいた時には一体誰がどう責任をとるのかという議論がありました。その点についても議論され、意見具申では、削減目標に照らして全体で3割を削減する、VOCの排出削減が十分でない事態が生じた場合には取組の状況のレビューを行い、法規制と自主的取組の組み合わせの仕方を見直すことで対応するということです。平たく言うと、自主的取組というのは結果責任をとっていただくことになります。結果として削減していただければそれで結構ですし、レビューをして目標年までに達成できないのであれば、自主的取組は機能しないということでもう一本の柱である法規制の対象を広げざるをえないという合意のもとに自主的取組をやるということです。

 こういうことで意見具申がまとまり、それを受けて政府の中で大気汚染防止法の改正についての原案を作成し調整を行い、3月9日に閣議決定して国会に提出いたしました。4月、5月に参議院と衆議院でご議論いただき、両議院とも全会一致、全政党が賛成ということで5月26日に公布されています。

 改正法では、規制的部分を主に書いていますが、自主的取組についても施策の実施の指針ということで第17条の2にこのようなことが書かれています。

 最後に、自主的取組とベストミックスの具体的なルールをどう作るかということです。一つ特徴的なのは、今年の7月1日に具体的なルールについて中央環境審議会に諮問し、専門委員会を設け、さらに施設類型別に6つの小委員会を設けました。実は今日の午前中も議論をしていました。環境省としては異例ですが、この小委員会の全70数名の委員のうち50名が事業者団体の代表の専門家です。
 そういう場でもちろんすべてを公開で議論し、ベストミックスということで規制的な部分と自主的取組を勘案し具体的な規制の部分を決めていこうと来年の春を目途に議論を進め、全体像を明らかにするということになっています。
 私からは以上です。ありがとうございました。

(原科) どうもありがとうございました。今の関(荘一郎)さんからのお話に対して何かご質問ありますでしょうか?簡単なご質問等ございましたらお願いします。

(瀬田) VOC排出量の国際比較(注:スライド14)についてですが、先ほどのご説明では排出量を国土の面積で割り、排出密度で考えるというお話でした。縦軸とその下に書いている「諸外国と比べて発生量が多い」という結論とはどうも一致しないのではないかと思います。なぜなら、この問題はもともと患者が発生しているということが一つあり、それの原因としてVOCが考えられるからです。そして、諸外国と比べ日本ではVOC発生量が多く、しかも規制がないということでこの問題が表に出ていると思います。しかしながら、第一点として、諸外国と比べ発生量が多いというのは非常に間違っているように思います。発生量が多いという言い方をした場合は絶対量で理解するのが普通です。この表の縦軸を今のように説明していただくと、日本は諸外国と比べて圧倒的に排出量が多く、しかも90年から2000年にかけてほとんど努力をしていないのに対し、EUは非常に努力をしているという印象が一つの固定概念になってしまうのではないかとういう気がします。
 例えば、米国と日本で見ましても、国土面積は米国の方が20倍大きいわけで、その絶対量でいくと日本と米国はだいたい10分の1になります。つまり、日本は米国のトータル発生量の10分の1しか発生していないということになります。また国土面積で割ることでこれからの環境対策を考えるとなると、国土面積比でしか日本では同じ産業を興すことができないということにもなりかねません。したがって、諸外国と比べて発生量が多いという表現を一つ考え直していただけないかということが第一点です。
 第二点は、私は決してVOC抑制に反対するものではありません。私自身も20年ぐらい前に塗料原料を事業として、また研究としてやったことがあります。しかし、なかなか良いものを作っても最終的な性能がこの溶剤型に及ばないということがあり、それによってなかなか普及しませんでした。この溶剤規制がこれからどんどん広がっていくから、この事業は大きくなるという希望を持ってやっていたのですが、そうはならなかったというのが実情です。
 ですから、こういう問題を考える上では、関(荘一郎)さんのお話にあったようにVOCの発生量がどうだという議論もありますが、なぜ欧米の場合には規制があって日本になかったのかを考える必要があると思います。一つはその被害者の発生量の比率が米国、ヨーロッパで非常に深刻であったということが背景としてあるのかないのか、そのことについてのご説明なしに日本で規制がなかったという話にしてしまうと何か間違ってくるのではないかと思います。
 また日本の場合は米国、ヨーロッパと違い、気象上の条件がかなり異なります。一つは、日本の場合、非常に湿度が高いため、そのことが影響しているのかしていないのか、それから最近また光化学スモッグが出てきているということですが、例えばそれは偏西風によって中国の方から酸性雨のような問題ででてくるということはないのかどうか。つまり、日本でいくら減らしても結局オキシダントは減らないということにならないのかどうか、そういうシミュレーションの考え方や条件をもっと広く議論をした結果でなければ、VOC対策はなかなか成果が上がらないということにならないのかどうかなど。その辺りの議論はどうだったのか、その二つを質問したいと思います。

(関(荘一郎)) 一点目については、大気汚染というのはVOCに限らずその大気中の濃度が問題です。ご指摘のように、我が国が同じ人口の同じ産業規模で国土面積が20倍広ければ大気中の濃度というのは当然分散して低くなります。VOCに限らずSOx、NOx等においても、これだけ人口が集中して、産業活動が集中していますと他の国土面積が広い国よりもそれだけ対策が大変になり、より深い対策をとらなければいけないということはVOCに限ったことではありません。言葉遣いとして、排出密度が高いと書けばより良かったと思いますが、意味としては、これは我が国の宿命的なものです。

(原科) 排出密度という表現の方が良いみたいですね。確かにそういう問題だと思います。

(関(荘一郎)) それから第二点目について、様々な議論が大気環境部会であり、日本化学工業協会の代表の方も委員として入っていただきました。私がスライドで示したものは最終的に全員合意の上でとりまとめた意見具申の表現です。そのような議論もありましたが、最終的に国としては排出量を削減すべき、抑制すべきという結論になったものです。以上です。

(後藤) この問題で、経済産業省の産業構造審議会において私も委員の一人だったのですが、確か自主的対応という提案がありました。それには反対し、ベストミックスを主張しました。その時の自主的対応に対する反対の理由としては、一握りの大手は自主的対応ができるけれども排出源のほとんどを占める中小企業では自主的対応はできないと思っていたからです。ベストミックスという結論になり、委員会では業界の方が入って6つの分野について、規制される分野の方々の議論はされます。しかし、規制対象外の中小企業は大量にあり、そこでの自主的対応はどうするかということについて、経団連や日化協は多分一握りの大きな企業の意見だけしか反映できませんし、日本商工会議所は上部団体として規模も小さくそんな能力があるとはとても思えません。個別の商工会議所は個別で動いていますから東商や大商はなにがしかの能力があるにしても地方の小さな商工会議所がそのような能力があるとは思えません。どういう形で自主的対応をするのかについて産業界ではどういう話になっているのか、これはむしろ産業界の話かも知れませんが、少なくとも委員会は6つの規制対象分野だけですよね?

(関(荘一郎)) 当面は自主的取組を配慮し、規制的な部分を決めろと法律に明示されていますので、自主的取組をやっていただく産業界の代表の方に加わって規制的な部分を決めようという趣旨です。ただ、どうすれば自主的取組が促進されるかについては第一回の排出抑制専門委員会でもまず規制的な部分を決めた後に議論をしようということで合意されています。ご指摘のように自主的取組はこと細かく決めないから自主的取組ですので、取組の確実性を増そうと思えば思うほど、法律で決めないと上手くいかない部分が残る恐れがあります。悩ましいものであるというご意見が議論の中で随分ありました。

(原科) ただ自主的取組の場合には、それを進めるインセンティブを与える枠組みが必要です。PRTRもそうです。情報公開によってインセンティブを与えるという。

(後藤) 自主的取組の場合に、大企業に対しては自主的に何のルールもなくどうぞご自由に取り組んでくださいというので結構だと思いますが、中小企業に取り組んでもらうときに、ガイダンス文書みたいなものがなく、自分の創意工夫でやるというのではできないでしょう。どう取り組んだら良いかというガイダンス文書は行政で作れるはずです。
 自主的取組は自分のところが自由にやるから中身には口を出すなというのは結構ですが、中小企業の対応は一切なしで産業界は自主的にやりますというだけでは駄目なんじゃないのかなというのが産業構造審議会の時の私の反対意見でした。

(関(荘一郎)) 中央環境審議会の議論の中でも情報の提供、「このようにすればうまくいく」というようなことを含めた情報の提供等も一つの支援措置として重要であり、それは行政がやるべきであるという意見を頂きました。いろいろな委員の意見を聞きながら、例えばマニュアルや事例集などは課題として今後順次とりまとめていく予定にしております。

(関(成孝)) 本当はこの後の議論の時間にお話しようかと思ったのですが、たまたま本質の議論が既に先にあったので、まず、事実関係についての話からお話ししたいと思います。VOCの絶対量で言えば、EUは日本の6倍、米国は日本の9倍出ています。これは瀬田さんのおっしゃる通りです。他方では、この手の環境問題は濃度で見るべきであるということも確かに正しい議論です。その上でもう少し注目しなければいけない部分もあるように思います。それは、日本の産業界が欧米の産業界に比べてどのくらいのパフォーマンスを持っているのかという視点です。その部分が先程のグラフ(注:スライド14)だとわかりにくくなっています。一般的に使われるのは、例えばGDP当たりの排出量です。経済規模にその排出量が見合うと想定するのはフェアな視点です。その場合では、日本の排出量はEUに比べて3.5分の1、米国に比べて5分の1です。ということは、EUが日本の産業と同じパフォーマンスに達すれば、EUの目標は簡単にクリアできることになります。それだけ日本のパフォーマンスは高い状態にあるということです。別にこれは、だから日本は何もやらなくて良いということにはなりません。日本は幸運なことに、非常に高い技術を持っていますし、環境問題に対する企業の感度も高いものがあります。これは環境問題が大きく騒がれた時の教訓を生かしているためであり、多分日本は他の国に比べても非常に感度が高いと思われます。
 また非常に面白いことに、OECDのレポートを見ていただいてもわかる通り他の国では自主管理はあまり効果がないという話もあるのですが日本ではよく機能しています。これの一つのインセンティブが情報開示です。先ほど原科さんがおっしゃったのもその通りです。実は規制というものは、個別特定のものについてその危険度を明確に定義し、その数字を一つ一つ検証するという作業を、つまりは国民に対して説明をするという努力をしなければいけません。これも決して容易ではありません。特にこの世界には化学物質の数がたくさんあり、とりあえず今はVOCと十把一絡げにやっています。できるだけのことを効率にやるという一つのやり方がリスク管理という話でした。さて実際にこれが機能するかどうかについては関(荘一郎)さんがおっしゃった通り、まさに公約ができたところであって、これから議論とするところにあります。中小企業との公平性の問題はある意味では産業界がその部分も引き取って検討するような話になります。つまり産業界の中において大手と中小企業の間に明らかに公平性の問題ができて自主的な取組が進まないということであれば、その中でまたいろいろな議論が出てくるはずです。中小企業について別の言い方をすれば、より貧しい人と例えても良いかも知れません。ではその人に対してどこまで何を求めることがフェアなのか、これも決して簡単に答えが出る話ではないわけです。これも実際に対応を見ながらやっていく話だと、きちんと数字的にパフォーマンスをフォローする、そしてその情報開示をしていくということに尽きるのではないでしょうか。

(原科) はい、自主的取組の中身に関する議論は、ここでひとまず打ち切らせていただきます。もう一つ、具体的に企業では、産業界ではどうやっておられるかということの話題提供をいただいた上でさらに今の議論を進めていきたいと思います。
 では引き続きまして、日本化学工業協会広報委員会顧問の瀬田重敏さんから「環境と企業経営」についてのお話をいただきたいと思います。30分ほどでお願いいたします。

(瀬田) 瀬田でございます。前回までは産業界のメンバーでしたが、今はちょっと中途半端な立場になっています。しかしずっと産業界におりましたので、今回のところは産業界からのメンバーということでご了解いただきたいと思います。

 テーマはだいたいこういうことです。今日話したいことは、だいたい60何枚ありますので、バーッと飛ばしていきます。

 「化学産業は、環境問題に対しどのように取り組んでいるか」、それからもう一つはその中で「研究者、技術者のこころ、工学は何のためにあるか」ということをお話ししたいと思います。この最初のテーマでは、「化学技術者の思い」ということから「環境安全衛生努力」、「地球温暖化防止への取組」あるいは「台頭する環境調和型技術」、「環境立国とは」、「日化協からの提言」についてお話したいと思います。

 まず「化学技術者の思い」についてです。「如何なる事象、現象、存在も人間がこれを利用しようとするとき必ず正負二つの面が発生することは避けられない。」「古来、人間はこのことを知り、利用しようとするもの正負を司る理を知り、計り、制して活用してきた。」

 これが人間の英知であったわけです。その対象は自然現象を知り、利用することから始まり、ときには失敗し、試行錯誤を繰り返して英知を磨いてきたその延長線上に化学及び化学技術があったわけです。

 多くの他の産業の基盤として、「技術及び社会の発展に大きな貢盤として大きな貢献を果たしてきた。」、「今や衣食住から知的生活、さらには人類の夢に至るまで、化学及び化学技術を利用した製品を除いての人間生活、社会構造は考えられない」状況になっています。

 第2期科学技術基本計画で挙げられる重点分野の研究開発においても、化学及び化学技術を措いての達成は考えられないということです。

 このように、化学と化学技術は、人間社会に大きな発展の為の技術基盤を提供してきました。「材料」がそのひとつです。材料は構造材料と機能材料、両面にわたり、また原理としても、他の分野技術と融合し、新しい技術の開拓に寄与してきました。

 ところで、人間は極めて最近まで、海も川も大気も、そしてその自浄作用もみな「無限」であると、人間の活動の結果排出されるものは地球に比べれば極に小さなものでしかすぎないと考えていました。私が学生の頃に大学の先生がそうおっしゃっていたのを覚えています。

 実はその考えが公害に繋がりました。それに加えて、第二次大戦後、先進国で繰り広げられた大量消費文明がこれを加速しました。先進国のどの地域でも、物を大切にする文化が破壊されました。

 それでも公害は地域限定的なものであり、人間活動がもたらす地球環境への広域な人影響の可能性に人間が気づいたのは更に20年以上の時間が費やされた後であったと思います。

 人間はことの重大さに驚愕しました。企業も社会も、物質と生産がもたらす重大な負の側面に気がつき、全力を挙げてその改善に努めるべきことを認識し、人間は初めて、自分達がある「環境」の中に生きていることを認識しました。

 日本でも、化学産業はこの理を十分理解していなかったために、過去のある時期、不幸な公害問題の原因を作りました。深刻な事態に直面して、化学産業はその解決予防に真剣な目を向けたわけです。

 化学産業は、あらためて環境安全への理念を深めました。化学産業は、設備投資、研究費、有能な人材を含めて大きな資源を投入してきました。このことは、各社の環境報告書にいろいろと書かれています。その結果、日本が世界に誇る公害防止技術、あるいは環境保全・改善技術、エネルギー原単位というものが次々と生まれてきました。

 このように世界の化学産業はある時期から「環境」を根本的に見直す新たな認識と理念の時代に入ったということが言えると思います。そういう意味で今の化学産業は昔のそれとは全く違っている、現在の化学産業はEHS、環境(Environment)、健康(Health)、安全(Safety)に関する明確な認識と社会責任を基本理念にして事業活動を行っていると言えると思います。

 現在の化学産業は、レスポンシブル・ケア(RC)とグリーン・サステイナブル・ケミストリー(GSC)の2つの指導理念をもって、事業活動と研究開発を行い、更に、CSR(注:Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任))の理念によって社会責任と説明責任を果たそうとしているわけです。

 このように、化学産業各社は環境安全に相当な資源を投入していますが、公害時代に一度作られた「化学」、「化学産業」に対する悪いイメージがなかなか消えません。しかし、それをつぶやくだけでは、先に何も生まれないので、前を向いて歩かなければなりません。

 これに対して、産業界がどんな努力をしているかということをお話しします。産業界は、非常に多くの法令と関連しています。

 法令は、ざっと挙げてもこれだけありますが、

もっと詳しく書くとこれだけの法令に囲まれて化学産業は生産および営業を続けています。 

 さらに企業は、法規制と併行して、KYK(危険予知、指差呼唱、安全基本行動)も行っています。さらに、HHK(ヒヤリ・ハット・気がかり)といったようなことを提案活動として行っていますし、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動、そして、経営層を含めた製造現場の環境安全衛生査察等をやっています。これらによって、環境安全衛生の確保に努めています。もちろんこれは製造工程だけではありません。製品への責任についても同じことをやっています。重要なことは、予兆への感性の涵養、実はこれが大事だと認識しています。

 ハインリヒの法則と言う言葉がありますが、これはよくご存じの方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。一番大事なことは、知識よりも実際に生かす道ということです。ハインリヒの法則というのは「1-29-300」とこれは災害科学の中で言われることですが、「1つの大きな災害事故の陰には、同じ原因による29の小さな事故と、犠牲を出さずに済んだ300の事故がある」と言われています。したがって、この300の中から予兆を読み取るということが大事なわけです。

 実はこの法則は、産業災害だけではなくて、人間生活の全ての事象に当てはまると思います。事故や事件には必ず予兆がある。その予兆への感性を高め、対応してゆくことで、多くの事故や事件を回避することができるということです。

 大事なこと、「知識」を「現実」に変える。その中の一つの最大のポイントは、予兆を見逃さない、予兆の段階で手を打つ、予兆に対する感性を上げる、企業はこういうことをやっているのです。

 最近の技術は極めて高度かつ複雑、しかも技術革新のテンポが速く、加えて、分析技術、シミュレーション技術、地球気象の測定解明技術が進歩しましたので人間生活の地球規模への影響が明らかになってきました。従来の企業の環境安全対策は、法規制、行政指導、公害防止協定等の遵守で進められてきましたが、既存の法律に準拠した安全活動だけでは対応できないという事態を企業はよく認識しています。より効果的な自主活動が必要であるということです。

 そこで化学産業では、RCの理念が生まれたわけです。RCの対象は環境保全、製品安全、保安防災、そして労働安全衛生・健康。世界の化学産業の自主活動であり、さまざまな自主対策と自己評価を実施しています。

 次に環境改善技術ですが、多くの会社が地球温暖化ガス排出削減、RC、ISO、PRTRへの取組、省資源、省エネルギー、原料転換、あるいは廃棄物の削減、リサイクル、ダイオキシン、オゾン、環境ホルモン関係、あるいは、環境報告書、こういったことをいろいろやっています。

 それに加えて、企業内ではいろいろな教育訓練をやっています。結局こういった環境保全や化学品・製品安全、保安防災、あるいは労働安全衛生・健康を守る力の源泉は、結局従業員一人一人の意識と行動にあるわけで、この意識の徹底を図るということを節目節目にやっているわけです。

 これはたまたま旭化成のデータが手元にありますので説明しますが、一番上が新入社員教育から始まり、フォローアップ、部長研修、課長研修まであります。このような教育は、旭化成に限らずどの企業でもやっていることです。環境安全の推進活動は、やはりHHK等、カードに書いて提出して、改善提案のようにノルマを付けて提案し、提案されてものは審議の上必ず実施するということを進めているわけです。

 これは、化学産業における環境安全投資の例です。これも旭化成のRC報告書に書いてあります。私が旭化成にいたということもありまして、使いやすいので使っていますが、このようなことはほとんどどの会社でも実施されています。

 1970年から始まり、2002年までずっと環境安全投資をやってきました。右の方は単年度の数字を示しますが、例えばこれはほぼ毎年50億円ぐらい投資してきたことになります。

 50億円という数字は、伝統的な公害対策以外に省エネ、省資源及びそのためのプロセス革新、あるいは原燃料転換等、に関わる実際の設備投資が入っています。

 こういった費用は、正確な計算をしたわけではありませんが、環境配慮の総費用で見ると、多分、毎年これの3倍は使っているだろうと思います。つまり、その投資は償却費として入ってきますし、設備投資をするために研究開発、エンジニアリング投資が必要になります。また、環境安全のために人件費が必要です。これで、約3倍の150億円ぐらいになるのではないか、と思います。150億円という金額は大変なもので、多くの企業ではだいたい利益の中の半分とか相当部分占めてしまうくらいの投資をしていることになります。そういう投資をした結果が現在の収益になっているという構造です。

 次に、「地球温暖化防止への取組」です。これは地球温暖化ガスの削減に関するものですが、これ以外にもたくさんあります。いろいろな企業の環境報告書を見て、数字で表せるということを申し上げたくてスライドを出しました。

 これは、ついこの前の新聞に出たものです。日本経済新聞の7月6日ですね。このグラフは縦軸が2から始まっています。産業界が突出して見えますが、縦軸の0はもっと下にあるので、決して運輸や民政も小さくないということです。

 この記事には、CO2抑制に関していろいろなことが書いてあります。産業部門としては原発の稼働率の向上、民生部門でもいろいろなCO2削減方法が書いてあります。しかし、なかなか展望が開けないということがでています。

 旭化成の場合の地球温暖化ガスについてです。基準年度に対して6%下げるということになっていますが、旭化成は1990年比で劇的に減らしています。これは非常に誉められたことではあります。しかし、実際はN2Oを劇的に下げるような良い技術開発ができ、それに投資した結果、こうなったわけで、炭酸ガスはなかなか減っていません。

 これは、地球温暖化ガスの排出削減の比率です。2002年で90年比の指数で見ると、例えば旭化成ですと0.48ぐらいですが、CO2だけで見ると5%ダウン(0.95)です。ところが、この間にエネルギー原単位はこの10年間の間に2割下げています。ほかの会社でも、やはりこの指数がほとんど1.0とかあるいは0.9と、平均1ぐらいですが、エネルギー原単位はみんな10%近く下げています。一つ例外もありますが、この企業でも大変効果的な技術を投入した成果がありました。

 これは、環境報告書からの引用で、その一つの例です。

 これは日化協の今田さんが作成された表です。1990年に対して化学産業の使用エネルギー、CO2の排出量の変動を示していますが、2002年までの実績で2010年の見込みを行っています。炭酸ガスはどうしても増える傾向にあります。ところがこの間、エネルギー原単位は減っています。つまり、相当な努力を行っているが、生産量が増えているためにそれに伴う炭酸ガス排出増加を吸収しきれないで、やはり10%ぐらいのプラスになっています。このような構造の中で増える炭酸ガスをどうやって減らすかが問題です。

 総じて言えることは、成長にはエネルギーが必要である。通常生産量とエネルギー消費はリンクする。このリンクはエネルギー原単位の削減によって軽くはなるのですが、それには大変な努力が必要である。企業は今まで相当のことをやってきました。省資源・省エネルギーです。絞りきったタオルをまた絞らなければならない。それでもエネルギー原単位の削減だけでは、生産の伸びによる全体としてのCO2増をカバーできない。それで、目標は「成長を果たしながらのCO2削減」ということになるわけです。

 企業はこのようなことに随分お金をかけてきました。資源投入に大きな努力をしましたが、一方で新しく出てきた技術を事業化すると企業にはリスクが発生するということです。それから、炭酸ガスの「6%削減」ですが、当初は原発分を見込んでいました。これはそれだけで7%ぐらいに相当します。しかし今は、原発の増設なしでこれを、しかも第一約束期間中に実現しなければいけない。技術革新は必要であると誰でも言いますが、実際それを行う研究者としては、結果を約束することはなかなかできません。研究開発と投資の両方を実現しなければならないからです。努力目標なら書けますが。しかし、CO2削減目標が困難だからといって工場を海外移転するだけでは、地球全体として問題を解決したことにはなりません。

 先進国がいくら努力しても、産業の伸びが著しい途上国でのCO2排出が底抜けでは地球環境としては解決しない。そういう中で、われわれは次の時代の夢を創っていかなければならない立場にあります。日本としてこれらの壁を破って経済成長を果たしていくためには、生産の中により高い価値を創造していく以外にない。経済はすぐには転換できないということもあります。

 CO2削減が差し迫った必要である限り、まずは現在の経済産業活動の改革が重要ですが、それだけでは実現できません。やはり、国民のライフスタイルの変革が重要です。この話は中央環境審議会でも出てきましたが、真剣にこれに絞って議論されることはありませんでした。また、往々にして国益論を離れた議論が行われることがありますが、しかしそれはあまりやりすぎると「物言わぬ」日本の未来世代への負の遺産となります。

 こういった状況の中で、いろいろな環境調和型技術が台頭してきました。「さまざまなプロセス開発、原料転換」実はこれが1番大きいのです。それ以外によく新聞に出ているのが「PETボトルの原料リサイクル」や「セメント工場を中核とするトータルゼロエミッション」です。

 これは帝人さんのフローで、PETボトルが原料に立ち戻っていくという図です。できた製品の品質は元の製品に勝るとも劣らぬものが作れます。

 セメント工場を中核とするトータルゼロエミッション計画です。これは(株)トクヤマさんのデータです。リサイクルを外部・内部でやって、焼却までしますが、埋め立てが非常に少なくなっています。リサイクル率はどんどん上がって、2005年までに92%を目標としていたのが、2002年でこれを上回って94%ぐらいまできているということです。

 その他、省エネ、省資源、省水、あるいはゼロエミッション、地球温暖化ガス排出削減、その環境技術、あるいはエネルギー多消費型の事業は撤収していくとか、エネルギー源を多元化していく等、いろいろな努力を行われています。

 例えばこれはまた旭化成の例で、ちょうど私自身が開発に関与したということもありますが、時間の関係で省略します。しかし、いろいろな情報が簡単に出てきます。他の会社にも、こういうものを挙げろと言ったらずらりと出てくるはずです。

 これは住宅断熱材としての位置づけです。横軸は熱伝導率を表しています。要するに、ある同じ断熱を得るための断熱材の厚みと考えていただければ良いです。それによって非常に薄くて良い断熱性が開発されています。この辺りが開発の最近の実績です。

 そういうことで、環境立国ということになるわけですが、「環境立国」というのは、先ほどの関(荘一郎)さんのお話にもありましたように我々日本は同じ環境立国でもどういう方向を目指すのか、「環境規制」立国か、「自主理念」でいくのか、あるいは「ベストミックス」環境立国か、それぞれに意味があると思います。例えばマスキー法(注:ガソリン乗用車から排出される窒素酸化物の排出量を現状から90%以上削減するという規制。)が非常に効果があったということは事実です。それから、地球環境問題は国民の問題でもあります。一つの例として規制と自主ということで、自主活動の成果の例を示します。これは関(荘一郎)さんの資料の中でも出てきましたが、有害大気汚染物質の削減というのがありました。

 これが一つの成功例ですが、JRCC(日本レスポンシブル・ケア協議会)で、中央環境審議会指定の22物質のうち、自主管理対象に12物質を選んで、計画的な削減に取り組んできました。第一期が97年、99年、概ね30%削減しようというものです。削減目標は物質によって違いますが。それから、第二期については01年から03年までということで、第一期からさらに30%下げていくという計画を立て、第一期につきましては、クロロホルムを除く11化学物質について目標を大幅にクリアしました。

 その結果、環境中の濃度が確かに低下していることを確認しています。第二期の計画ですが、ほぼ完全達成の見通しです。確実に環境濃度が下がっていることも確認しつつあります。例えばスライド60のジクロロメタンの表ですが、1995年を基準とて、第一目標を大幅にクリアしました。第二目標もかなり前倒しで実現していることは、いろいろなものを見ていただければわかると思います。



ホルムアルデヒドやトリクロロエチレン、エチレンオキシド等ほぼ完全達成の見通しにあります。

 中央環境審議会でもこの産業界の自主活動による「第一目標達成を高く評価する」という一文を入れていただきましたし、環境報告書にもこれについての話が記載されています。第二目標をクリアすることによって10物質が95年度の排出物の約3分の1までに削減することができることになります。かなりラフな言い方ですが、概ねこういう形になるだろうと思われます。

 最後に、日化協からの提言になりますが、第1提言として日化協はCO2削減目標を設定します。2010年までにエネルギー原単位を1990年の90%にします。大企業の場合にはほぼこれを実現していますが、今後、いろいろな技術革新を進めて、トータルとして90%までに持っていくということです。それから化学産業が有する触媒技術やバイオ技術による環境調和型技術の開発に努める、あるいは海外への技術移転を行う。

 これは第2提言の一例ですが、住宅への貢献ということで、太陽光発電の促進、樹脂サッシの複層ガラスにすることによって熱の保持ができるというものです。あるいは、高性能断熱材を革新することによって冷暖房費を削減することができます。例えば、京都議定書6%CO2削減(対90年度)で、だいたい7,400万トンCO2/年になります。

 これは超ラフ試算ですが、太陽光発電でいきますと300万トンくらいです。これは非常に広く行き渡った場合のことを考えています。同じく樹脂サッシや複層ガラス。ご承知の通り、アルミサッシですと、フレームを伝わって熱が出入りします。したがって寒いところではアルミサッシは使えません。樹脂や木をサッシとして使うと冷暖房費の40%ぐらいの省エネができると考えられます。3000万戸全部にこの技術が行き渡ればこれだけで先ほどの6%がクリアされるのですが、これはちょっとできすぎのところがありますので話半分ぐらいに聞いておいていただきたいと思います。あと、断熱材の技術革新です。これも冷暖房費を約30%削減できることになる計算です。

 必要なものはリスクコミュニケーションとその場です。もちろんPRだけの場でもないし、糾弾の場でもない。情報公開の場ではありますが、その責任は企業だけでもない。説明の場、国民の不安に答える場、それぞれのセクターにとって、公正正確で継続的な判断材料を得る場であることが必要です。そして情報の質と量が必須であると考えられます。

 最後に、研究者、技術者のこころについてお話します。「工学は何のためにあるか」ということです。この言葉は、故広井勇教授(1862~1928)が残された言葉で、司馬遼太郎の「台湾紀行」の中に書かれています。元々は土木技師で、明治28年に東大に教授として招かれています。「小樽港の父」と言われている方です。小樽港は日本の港湾の中でもずば抜けた傑作と言われる港で設計者だと言われています。これは「日本土木史」司馬遼太郎からの引用です。

 「工学は何のためにあるか」、もし、工学が人生を煩雑にするのみならば、何の意味もない。これによって、数日を要するところを数時間の距離に短縮し、1日の労役を1時間に止め得たとしても、

 それによって得られた時間で、静かに人生を思惟し、反省し、神に帰る余裕を与えることにならなければ、われらの工学には全く意味を見出すことはできない。

 これは、我々技術者、研究者にとっては70年、80年の時空を越えて、魂を揺さぶられるような言葉です。この言葉に感動する心が、現代の技術者、研究者に脈々と引き継がれていると私は思っています。また現代の企業経営の心ある人々もまた、この言葉に感動する素地を持っています。

 私も同じ技術者として、同時に、同じ1人の市民、国民として、日本の将来、次世代のために、心ゆくまで議論を尽くし、力を尽くしたい。特に、国の宝である若い技術者の味方でありたいと思っています。ご清聴、ありがとうございました。円卓会議は、まことに得難い機会、真正面から対応したい、大切にしたい場だと思っています。以上です。

(原科) どうもありがとうございました。それでは、簡単な質問をいただいて、その後休憩に入ります。

(中下) いろいろと貴重なお話をありがとうございました。有害大気についてかなり成果を挙げているというお話がありましたが、その取組の方法について、先ほどのお話だと、計画的に削減し、目標を定めて実施していくということでしょうが、例えば実施方法やその具体的な方法についての計画の中での規定ぶり、あるいは各企業と日化協の連携関係についてお聞かせ下さい。

(瀬田) どのような形で行われたか、簡単に申し上げるのは容易ではありません。しかし、少なくとも日化協の中でこれに対応する企業の方々に皆集まっていただいて、そこでいろいろな議論をしながらやってきました。目標が甘ければ達成率は高くなりますが、今回の目標は非常に高いものでした。それを実現するために、一つはプロセス毎の革新を考えて、一つ一つの確証を高めていくなど、総合的に行ってきました。その間に、日化協の中でいろいろな情報交換をやりながら行ってきたというのが実情です。

(中下) 実際にどの削減方法を採用するかは個々の企業に任せて、情報交換をしながら目標値だけを定めて、具体的な方法については特に定めなかったのでしょうか?

(瀬田) そうです。

(村田) 今のことに関連して、先ほどの例では、全体としては大幅に目標以下に排出量を削減したということですが、個々の企業間のばらつきはどの程度だったのでしょうか?

(瀬田) 個別のデータは手元にありませんが、私はとにかく全体が実現すれば良いと思っています。例として、先ほどお話ししたCO2の場合に見られるように企業によって確かに差があります。その差は、たまたま良い技術が開発できた、ある技術が導入できたなどが大きく影響しています。同じようなことがこの有害大気についてもあったと思います。

(後藤) 素晴らしいお話をどうもありがとうございました。一つだけコメントをさせていただきますと、人類の活動が既に地球の許容量をこえているわけで、成長という概念はもうやめて、いかに縮小し、キャパの中に収めるか、その中で企業がどう発展していくかを考える必要があると思います。言葉の綾ですが「成長概念」ではなく「発展概念」に変えないとなかなか難しいのではないかなという感触を持ちました。

(瀬田) 今の点について私もコメントさせていただきます。一般的によく言われるのは、成長率が2%を切ると失業率が上がると言われています。やはり、成長は非常に大事です。ただ、その成長が、量の成長なのか、質の成長なのか、あるいは価値の成長なのか、そこに我々の将来というものがかかっていると思っています。

(原科) この辺りをもっと議論したいと思いますが、少し休憩をとりましょう。3時55分に再開します。

―― 休憩 ――


(原科) まず、先ほど瀬田さんのお話の最後に、「成長」をどう考えたら良いかというご発言がありました。これに関しては、いろいろと議論しなければいけないことがあると思います。私の考えを申し上げますと、単に成長ばかりというのはいかがなものかという感じを持っています。成長率が2%をきったら失業が増えるということが本当かどうか、もう少し経済の仕組みを変えたらそうでもない可能性はあります。そういう意味では、経済学者の皆さんにも十分検討していただきたいと思います。これまでの経済学で言えばそうですが、仕組が変わったら変わりうると思います。

(関(成孝)) むしろ私の立場でないと、こうやって挑発的な議論ができないかもしれないので敢えて申し上げます。例えば、先ほどの地球環境問題において大幅な地球温暖化ガス削減が必要だと言われていますが、それは今の技術では不可能でしょう。やはり新しい革新的な技術を入れざるを得ません。その革新的な技術を待つということは、やはりその成長という要素を入れざるを得ないわけです。これは一つの側面です。
もう一つの側面としては、先ほど失業という話もありましたが、経済が縮小する過程における国民の意思決定というのは大変難しいものが出てきます。要するに政治の難しさが出てくるわけです。それは先進国、途上国両方の問題があります。仮に成長という言葉があまりにも物質的なものを意味し、それを浪費しているのではないかという反省にたっているというのであれば、これは正しい話だと思います。しかし、どういう意味で言っているのかということを明確にしないと話が混乱すると思います。

(原科) 成長がないと大幅な技術革新ができないというご意見でした。私は必ずしもそうは思っていません。理由を言い出すときりがないとは思いますが。

(後藤) 先ほどの質問に対しては、瀬田さんにコメントをいただきましたので納得しました。決して従来路線の成長だけを言っておられるのではなく、もっといろいろと考えなければいけないと。ですから逆に言うと、「成長」と言った場合に誤解されるので、言葉の綾を使うわけではないですが、「成長」と言うより「発展」というような言葉を使ってはどうでしょうか。「成長」という言葉にこだわられるのでしたら、中身は従来路線の「成長」だけを言っているわけではないというコメントを付けないと、議論が上滑りになると思います。その辺のコメントをぜひ付けていただいて議論が深まればと思っています。

(瀬田) その点は、先ほど総じて言えることとしてずらっと挙げた中に入れたつもりだったのですが、もっと大きく入れた方が良いということですね。わかりました。

(原科) それでは「自主的取組による化学物質管理」について幅広く意見交換したいと思います。

(片桐) 瀬田さんにお伺いしたいと思います。自主的な取組という形で事業所や企業がいろいろとやっておられるのは分かりますが、その中で行政に対して何か望むことがありますか?企業や事業所のいろいろな取組が、住民や市民に対して明らかになってこないため、どういう形でそれをオープンにし、みんなに分からせるのかというような観点から、事業者の方の自主的な取組を支援するものとして条例の改正を行っています。しかし、それは私どもの県に限ったことですし、国というレベルで考えるのであれば、日化協や産業界として、国や地方自治体に求めることが何かあればお伺いしたいと思います。

(田中) この自主的な取組に関する情報公開は非常に大事だと思っています。例えば、先ほど言われたようにノウハウに属する情報を公開するよう指導するのは少しいきすぎかもしれません。しかし、やはりどんな対策を打ったのか、目標をなぜ30%に決めたのかは、非常にファジーな部分もありますが、同業ですから割とフランクに話し合えます。そのような情報を行政から公表してもらえると中小企業には非常に参考になると思います。

(中塚) 最近の化学物質は、広範で多様なものがあり、利用方法が非常に多岐にわたっています。今、こういった状況を全て把握した上で規制だけで対策を打つのは非常に大変で、実質困難な部分が出てくるだろうなという印象があります。こういう時代になってからは、自主的な対応を入れざるを得ないというのが一つの考え方になっていると思います。
 もう一点は、企業はグローバルな世界的な大競争の中に巻き込まれています。そんな中、世界各国では規制等、様々な動きがあります。それらも視野に入れて対応せざるを得ません。日本の規制も常に世界を意識しながら整えていただいていますが、そこには時間的なずれや地域特性の差がある場合もあります。そのような中でビジネスを展開していく場合は、自主的に対応という考えがどうしても必要になってくると思います。また、今日では新素材やナノテク等といった非常に新しい技術がどんどん出てきています。ゲノムもバイオも含めてそうですが、新しい技術に対して規制が無いから何もしなくて良いという考え方では、企業として社会的責任を果たしたことにはならないと考えています。これもまた自主的な世界と思います。
 このように、自主的な取組は、今後非常に重要になってくるだろうと思います。かといって、自主的な取組だけで良いとは思いません。やはり規制した方が良い部分が今後も存在するだろうと思います。そういう意味で、ベストミックスというのが良い形であると個人的に感じています。

(中下) 私自身は、一定の目標とする環境の質が達成できるのであれば、規制的手法でも自主的な取組でも、より実現しやすい方法をとっていただければ良いと思っています。
 産業界の皆さんにお尋ねします。今回のVOCでもそうですが、規制は反対で自主的取組の方が良いと主張されることが多いように思います。今の中塚さんのご発言によると、規制の方が良い場合もあるということでした。規制の方が良い場合、悪い場合とは、どういう点なのかお伺いしたいと思います。
 行政の方にお尋ねします。ある環境目標を達成するための手法として、規制的手法と自主的取組で成果がどのくらい違うのでしょうか?検証された結果について資料があれば教えていただきたいと思います。また、自主的取組の成果をどのように検証しているのでしょうか?そしてそれが達成しなかった場合にはどのような次の手段を設けるのか、またそのことを事前に予告しているのかどうかを教えてください。

(中塚) 規制の良いという部分は、やはり公平性と確実性、浸透性です。性悪説というわけではありませんが、やはり規制があって初めてより公平に等しく遵守されるという部分があると思います。

(原科) 通常、明確にリスクが社会に認識されているものに関しては、きっちり規制してもらいたいという基本的な部分ですね?

(中塚) 基本は科学的なリスク評価になります。ハザード情報だけで、規制という事は問題で、科学的なリスク評価をして、リスクが大きいことが明確であれば規制が必要だと思います。

(瀬田) やはり、規制は科学的な根拠が明確でなければいけないと思います。規制したけれども、目的が達成されなかったというようなことも、メカニズムが違っていればあり得ます。ですから、規制の場合にはどうしても根拠をきっちり押さえなければいけない。しかし、それでは対応が遅くなることもあるので自主的取組を行う、基本的にはそうだと思います。ですから、規制を急ぎすぎると、結局全然違うことをやって、影響だけ残って何も成果が挙がらないということもあり得るわけです。
 私が先ほどVOCについてもそのような議論がなされたかとお聞きしたのはそういう意味です。やはり、いろいろな要因から成り立ってきます。例えば、最近ではベイサイドにいっぱいビルが建ったことが要因で都内の温度が上がったと言われています。規制は相当慎重にしなければいけません。もう一つは、フリーライダーを避けるという意味でもスタンダードのような形で規制が行われ、それを実行するために自主的取組で非常に豊かな成果を挙げるというのが本当のベストミックスなのではないかと私は思います。

(関(荘一郎)) 政策手法毎の成果の検証についてですが、2つの政策手法を同時に並行して行ったことはありませんので、そういう意味で実証したレポートはないと思います。
 自主的取組がうまくいかなかった場合の担保措置についてですが、これもなかなか難しい話です。先ほど瀬田さんにご紹介いただきました平成8年の大気汚染防止法の改正では、有害大気汚染物質をどのように抑制するのかについて、当時の中央環境審議会で大変な議論になりました。規制でやるべきか自主的取組か真っ二つの議論になり、最終的には100%自主的取組でいくことに決まりました。ただ、しばらく経って全く環境濃度の改善等がなければ、改めて規制的な制度を考慮するということになっていました。この件については、排出量が3分に1に減ったということで、結果的には目覚ましい成果を挙げました。VOCについては、中央環境審議会の結論は自主的な部分について仮に検証した時にうまくいかなかったら、両者の役割分担を見直す、つまり規制の範囲を広げるということで担保するという合意になっています。以上です。

(原科) それが一つのインセンティブになるかもしれないということですね。

(片桐) 化学物質全般で考えると、数は非常に多いです。そうすると、先ほど瀬田さんがおっしゃったように、全ての物質について排出量がどのくらいあるのか、どのくらい下げれば良いのか等、科学的検証を全て行わないとなかなか規制はできないだろうと思います。一つ一つについて法令や条例で規制を行うというのは非常に大変な作業になりますので、そこは自主的な取組の中でいかに減らしていくかを考えていただいた方が良いと思います。
 具体的に言うと、自治体では日本全国といった大きなレベルではなく、特定の地域に限って排出量をどの程度削減するという話です。大手の企業がある地域はうんと減らせると思います。ところが地域によっては中小企業が固まって化学物質を使用しているところがあります。そういう地域においては、自治体から情報提供を行いながら、自主的な取組の中でいろいろとやっていただくのが一番良いと考えています。

(原科) 規制のためには情報収集や監視のコストがかかります。社会的なコストもあるので、その点では確かに大変多量の物質について規制することはできません。

(中下) それは分かります。一般的には分かります。でも、ある種の化学物質に関しては、やはり規制的手法の方が望ましいものもあると思います。例えばvPvB(注:very Persistent and very Bioaccumulative(残留性と生物蓄積性が非常に高い化学物質))などです。EUの規制のように、ある種の物質が含まれてはいけない、用途を限ってこの製品には含まれてはいけないといった対策はやはりあると思います。ですから、一般的に全部の化学物質について規制できないから自主的に対応しましょうということではなく、ベストミックスという考え方はあり得るのではないでしょうか。

(片桐) 神奈川県でもVOCの関係では、ベンゼン、トルエン等において昭和52年頃から濃度規制を行っています。炭化水素化合物の貯留施設からの排出防止についても対策の方法を神奈川県の公害防止条例で定めています。その中で、自主的な取組の方が良いのか、規制をしたら良いのかというのは物質によると思いますし、規制をしなければいけないものがあれば、条例で定めて対応したいと思います。

(原科) 行政の方でほかにレスポンスされる方はおられますか?では、関成孝さん、お願いします。

(関(成孝)) 重複を避けて漏れている点だけ申し上げれば、この世界においては必ずしも我々は全ての完璧な知識を持っていません。不確実性がある中でどのように対応するかは非常に大きな政策課題です。規制という手法では、関荘一郎さんや瀬田さんがおっしゃった通り、まずその危険性を明確にし、その上でアクションし、計画的に削減するというアプローチをとるという話になってしまいます。技術に対する不確実性があり、科学的な知見が少ない状態で、このような手法が果たして一番効率的なのかという疑問も実はあります。特に、VOCのように物質が多く、一つ一つの物質の貢献度等が分からない時、まず相対的に排出量を下げることが大事な場合において、物質によっては下げやすいものもあれば下げにくいものもあります。しかし、とにかく総じてやれるものはやってみるというアプローチは非常に経済的で合理的なアプローチになっています。一律に規制という手法でアプローチをするのは、日本の法規制の中では非常に難しい話です。
 2つ目、先ほどRoHS指令(注:電子、電気機器を対象として、平成18年7月以降にEU加盟国で新規に市場に投入される製品への鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの重金属と、臭化物難燃剤PBB(ポリ臭化ビフェニル)とPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6物質の使用を禁止している。)の話がありましたが、このRoHS指令の分野でさえも、日本の製造業種は大変感度が高いです。規制を導入するまでもなく、事実RoHS指令の対象となっている物質は、日本製の製品の中に既に入っていない状態になっています。これもまたPRTRやその情報開示の中で、そのような物質を使うということが企業にとっていかにリスクの大きいことなのかということの証になっています。

(中下) 逆に言うと、規制があるからそのようなインセンティブになっているのではないですか?

(関(成孝)) 私は必ずしもそうとは考えません。RoHS指令は、科学的に考えたときにやや派手だと言わざるを得ないところがあります。対象物質がそのまま環境中に放出されたときに、リスクがあるということはよく分かります。しかし、実際に製品に入っていて仮に製品が環境中に出たとしても、そこからその化学物質がどれほど出てくるのか、いわゆる暴露量とリスクまで科学的な観点で考えると、必ずしも規制の必要性は出てこないように思います。

(中下) 規制があるからだけではなく、予防原則などの観点から企業は使わなくなっているのではないですか?日本の企業は、早く転換しようとしているのではないですか?

(関(成孝)) 規制がなくても何らかの格好で化学物質の安全性に対する懸念があった場合には、日本の企業というのは概ね、かなり早めに対応しています。必ずしも規制が必須にはなっていません。

(原科) そのためには情報公開を相当進めなければいけないと思います。わからなければ何をやるかわからないということがありますからね。

(関(成孝)) 原科さんのおっしゃる通りですし、特に既存の化学物質に対する安全性の点検を加速化するということは大変大事な政策課題になっています。

(原科) それはつまり、パフォーマンスが分かる、社会で認知できるようにしないといけないということだと思います。

(後藤) 規制についてですが、確かに過去は科学的な事実が解明されなければ、なかなか規制対象にはなりませんでした。しかし、PRTRのように情報公開を義務づけるという一種の規制によって、自主努力で減らしていくというやり方もあります。同じ規制でもいろいろなやり方があり得ます。科学的に全て解明をできなくても、情報公開というような方法もあり得るのではないかというのがPRTRの時の議論だったと思います。
 規制と自主的対応の問題で、前回のビューロー会合で紹介させていただいたOECDの文書(注:「Voluntary Approaches for Environmental Policy: Effectiveness, Efficiency and Usage in Policy Mixes」
 http://www.oecdtokyo.org/theme/environment/2003/20030620volantaryapproaches.html に紹介記事あり。)において、自主的対応は必ずしも効果的ではないという文があるということです。先ほど関成孝さんから、日本では比較的自主的対応が有効に機能しているという意見がありました。そういう部分はあるかもしれないとは思いますが、一方で自主的対応は機能していないという文書がOECDから出ています。この神学論争をするよりは、日本では自主的取組が機能するということの検証を、役所がやるのが良いのか業界がやるのが良いのかわかりませんが、実際にやっていただけると有り難いと考えます。

(角田) 自主的取組か規制かという前に、自主的取組をどうやって増やしていくか、あるいはどうやって実効性の高いものにしていくかというところで産業界の方にお尋ねしたいと思います。企業の立場からしますと、自主的に取り組む方がメリットがある、例えば、コストが削減できるとか技術開発ができて競争力が高まり利益を得ることができるなどです。あるいは、それをやっていることを公表してイメージアップになります。ひょっとしたら、先にかけられる規制を先延ばしにできるかも知れないといったようないろいろなメリットがあるからやっておられると思います。それは、企業の行動からいって当然であると思いますが、問題は、その自主的取組をどうやって増やしていくのか、あるいはできなかった場合に業界としてどういう風に引き上げようとするのかといった努力がなかなか見えにくいところにあるのではないかと思います。例えば、レスポンシブル・ケアという行動ですが、日本化学工業協会の会員全てがJRCCの会員ではありません。米国やヨーロッパ等の化学工業協会は協会に入るときにレスポンシブル・ケア活動を義務づけるといったことを行っていますが、日本はそうではなくJRCCに入った企業がやることになっています。そうなると、例えば印刷や塗料などの企業が全てJRCCに入って自主的取組を行えば、かなりのVOC削減が期待できますし、CO2削減も期待できるのではないかと思います。やはり、JRCCに入っているところを増やしていかなければ業界全体としてなかなか減らないということになります。その辺りについて、どのように苦労されているのかをお聞きしたいと思います。
 それから、企業によって凸凹があるのは確かですし、自主的取組をやってもすぐに効果が出ない場合、取り組んでいない企業をどのように引き上げようとしているのか、取組の信頼性を高めるために、どのようなことをやろうとしているのかを伺いたいと思います。

(田中) 自主的な取組ですから、業界の全体的な数値は公表していますが、各社の努力結果は公表していません。しかし、自主的に公表している企業もあります。内部でレビューし、目標が達成されていない場合にはもっと積極的にやりましょうということになります。
 有害大気汚染物質のようにいろいろな業界が関係する場合は、物質によって異なりますが、各業界30%削減を目標にやろうということになりました。若干達成率の悪い業界はありますが、全体で達成されなかったことは今までありません。それぞれデータを持ち寄ったときにわかるので、達成率の悪い業界は次の時には努力されています。
 検証に関してですが、ISO等の審査機関とは違って、各社の対策が業界水準に比べて妥当であるかが基準になります。例えばコ・ジェネを導入して、それが全体の電力使用量から考えて1%に満たないようなら、業界水準から劣っているという判断です。業界水準は10%、15%等2桁の使用量に対するコ・ジェネを考えています。そういう検証をして、検証センターが意見を申し上げるという制度をとっています。法律ではないため、強制力がないと言えばそれまでですが、今までのところは非常にうまく回っています。うまくいかなかった時のことを想定しなければいけないのかもしれませんが、今までのところは一緒に目標を定めてやってきたものについては非常にうまくいっていると思います。

(原科) 日化協メンバーの中ではうまくいっているということですね。もう一つ、そのメンバー自体が限られているので、これを拡大するにはどうしたら良いかというご質問がありました。

(田中) 全体として目標が達成されていればそれで良いわけです。中小企業あるいは会員以外の方々の排出量が多いということならば、その対策も重要になりますが、今のところは会員会社全体の排出量の方が非会員企業の排出量よりも多くなっています。トルエン等になると少し変わるかも知れませんが、有害大気汚染物質に関しては、我々の業界だけではなく、関係の深い石油工業業界や石油精製業界にも呼びかけて実際に取り組んでいます。中小企業等からの排出量が大きいという問題が発生したときには今後の課題になるとは思います。しかし、今までのところはそこまでお願いしなければならないような事態にはなっていません。

(村田) 自主的取組の意義については、疑う余地はなく個人的にはその通りだと思っています。ただ、自主的取組でもそのやり方によっては効果の度合いがかなり違うと思います。お伺いしたいのは、例えばその自主的取組と情報公開をどう考えているのか。例えば、取組をスタートさせる時点でどういう状況にあって、いつまでにどういう目標を立てたのかを公言して結果を公表するという仕組みをどう考えているかをお伺いしたいと思います。

(中塚) 名称はそれぞれ違いますが、今多くの企業が環境レポートを作成し、その中で、例えばエネルギー原単位を10年間でどれくらいにするとか、CO2の削減努力をどのようにしていくといった計画や達成状況をまとめて広く公開しています。多くの場合、インターネットでも見られるようになっています。ご覧いただいたら、業界あるいは企業がどのような計画を立てて取り組んでいるかがわかります。企業によっては環境レポートの内容について第三者監査などを受けており、客観的に厳しい評価を受けた結果をオープンにしています。広く社会の人が、その達成の度合いを読み取れるというような傾向にどんどんなっています。

(田中) 今のご発言に補足しますが、結局企業は個別にやっているわけです。全体としてどうなっているかは、業界団体でレビューし、まとめた冊子を毎年発行しています。

(村田) 環境報告書という形でいくつかの企業が取り組んでいるのはもちろん承知しています。しかし、例えばVOCの場合、自社からどんなVOCが出ていて、それをどう削減していくのかというレベルまで踏み込んだ情報を出している企業がどれだけあるでしょう。業界の中で成績の良い何社かの話しではなく、それ以外の会社が足並みを揃えてそれぞれ自主的に取り組むことを促進するためにも、そのような情報公開をしていない企業に対してどうするかをお聞きしたいと思います。

(田中) 情報公開はある程度の強制力というのが必要な事態もあるかもしれませんが、先ほど言いましたように今のところは会員110社中60社ぐらいが環境報告書を公表しています。我々がこの全体をまとめて公表するとともに、説明会や市民との交流会も行い、取組状況をご理解いただいているという状況です。このような取組をもっと増やすことが課題として残っていますが、今のところはこのような報告書を作成し説明会をさせていただいているという状態です。

(原科) 今のお話の中で、110社中60社、約5割ちょっとの会社が環境報告書を公表しているということですが、情報公開という点では私はもっと進めていただきたいと思います。お手元の滝澤さん資料4「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」ですが、76ページに平成13年度と14年度の成果を比較したものがあります。この1年間で4%ほど総排出量が減ったそうです。ですから、情報公開は効果があるのではないかと思います。まあ、1年だけではわかりませんが。米国の場合には最初の10年間で43%減っていますので、日本もこの調子でどんどん減れば良いと思います。PRTR制度は始まったばかりですから、いろいろと誤差もあると思いますのでもう数年経たないと安定した結果は分かりませんが、少なくとも減っている方向に動いているということだと思います。ただ、届出排出量は減っていますが、移動量、つまり廃棄物として出す量はむしろ増えた感じがするので、新しい対策が必要かと思います。しかし、少なくとも環境中に直接出すものは一定程度減っているということだと思います。やはり情報公開することで、自主的な取組が進んだのではないかと思います。ですから、情報公開を進めると更に効果があるのではないかという感じを持ちます。

(関(荘一郎)) 情報公開を義務づけると、それは自主的取組ではなくなると思います。どこまで自由なのが自主的かという議論はありますが。平成8年の大気汚染防止法の有害大気汚染物質の時に、当時の環境庁と通産省が指針を作り通知した際にはリスクコミュニケーションという概念があまりありませんでした。情報公開ということも明示的には書かれていませんでしたが、半分ぐらいの企業は自主的にやっていただいたということです。そのことについて、私どもが把握している限り、個別の工場や事業所等ではその周辺住民に対する影響が問題なのだから、有害大気について公表されているところもあります。しかし、そうでないところもあり、業界団体毎でしか推移がわからないというご意見やご不満がたくさんあるというのも事実です。そういうことも今回のVOCで議論され、意見具申の中では、最も大事なのは情報の公開と第三者の検証、そういう仕組みが内在された自主的取組を実現していくことが重要だと明示されました。

(西方) 今の自主的取組の中で、業界として目標を立てて行ったケースと目標を特に立てずに削減したケースがありますのでご紹介したいと思います。有害大気の場合は、各社から目標の数値を出してもらい、それに向けてどのくらい削減したかを毎年集計しています。例えば、ジクロロメタンは、目標削減率60%に対して平成14年度実績が72.2%削減というようにかなり削減が進んでいます。では、業界として目標を出さない場合はどうであったのか。日本電機工業会の会員企業のPRTRデータを集計した結果があります。VOCについて、2001、2002年度の集計をしていますが、日本電機工業会の削減率は19.3%でした。PRTR等の情報公開だけですが、各社がそれぞれに目標を立てて実施しているということで非常に大きな削減効果を生んでいます。

(大沢) 目標を作っている企業が公開するというのは、もちろんそれで良いと思います。逆に、目標を立てていないということ自身を公開することも情報公開だと思います。そのことで全体のレベルアップにつながるのではないかという気がします。そしてもう一つ、立てた目標が相当大変なものなのか、やれる範囲のものなのかがちゃんと国民に伝わるような目標の出し方をしていただいた方が良いと思います。

(原科) 目標を出していただきますがそれはどういう目標なのか、意味がわからなければ判断できないというのは確かにそうですね。

(瀬田) VOCの話になると塗料や接着剤が問題視されていますが、私は塗料工業会の方は一所懸命やっておられると思います。ところが、排出量を削減するために新しい技術を作り確立しなければいけない。その確立というのが、例えば、これは技術開発が必要ですが、溶剤系塗料をもっと高濃度にできるようにすれば、同じ塗装でも少ない溶剤で済むということです。あるいは水系塗料や粉体塗料など、いろいろな方法がありますが、結局これはユーザー次第という点があるように思います。その点は塗料メーカーの立場を理解する必要があります。ユーザー、つまり我々が、例えば非常にきれいな仕上がりを必要とする。しかし、必要でないような用途に対しても非常にきれいな仕上がりを要求するならば、従来の溶剤がなかなか切れません。それが20年間ずっと続いてきていると思います。もちろんコストの問題もあります。また設備投資が必要です。その事業によって、設備投資を回収できるための費用が得られるのかという問題もあります。そういうことがあって、私は規制だけを進めても実際の目的は苦しくなるだけで、なかなか実現しにくいのではないかという気がします。ですから、そのようなことも考慮して規制を考えていかなければいけない。目標というものはそういうものであるべきだと思っています。それがある程度理解できるような目標になっていけば、自然に自主的取組によって対策が進んでいくという風に思います。

(片桐) 目標の立て方について私どもの条例の中でも若干触れていますのでその考え方についてお話しさせていただきます。もちろん目標というのは数値目標も当然あるかと思います。大きくて力のある企業であれば、数値目標というような形でやっているもしれませんが小さなところについてはなかなか難しいと思います。工程の変更やこういう風に考えたら良いのではないかなど目標の立て方は事業所によっていろいろと違ってくると思います。自分の事業所ですから、当然利益を上げていかなければいけないし、続けていかなければいけない、そんな中で他の同じような事業所ではどのようなことをやっているのかということを情報公開し知ることによって他の事業所が行っている良いものを取り入れることも可能ですし、簡単な目標でもそれを繰り返して何年か経っていくうちにだんだん全体の排出量の削減につながっていくのではないかという風に考えています。

(有田) ここに参加している市民側に自主的取組を否定する人は一人もいません。ただ、必要な規制があるにもかかわらず、規制については見えてきません。例えば、地球温暖化の自主的取組において、6%という目標が今は既に14%ぐらいを目標にしなければ削減できないような世の中になってきているというデータがあります。もちろん片桐さんがおっしゃったような無理のない目標の立て方や、ここにいるメンバーはISOなどの目標の立て方、PDCA(注:P(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Action)という事業活動の「計画」「実施」「監視」「改善」サイクル)についてわかっているので無理なことは言わないとは思います。それに、98年から化学工業界と対話集会などもやってきているので、どういう努力をされているかということは十分承知した上でここに参加しています。今日、瀬田さんから哲学的な素晴らしいお話を伺いまして、どこか騙されていないかなと一所懸命騙されているところを探すのが大変なほど、あまりにも良いお話でした。ただ、気になったのが、関成孝さんがおっしゃった科学的な根拠についてです。私たちはそれを重要だと思っていますが、今回のVOCのベストミックスという考え方について、何かとんでもないというお考えを関(成孝)さんはもっていらっしゃるので先ほどから意見をおっしゃっているのかなと思いました。それについてお伺いしたいというのが一つです。
 それから、VOCの排出量の国際比較について私の感想を言わせていただきます。先ほど、関荘一郎さんがおっしゃったようなリスクの概念では分かりやすかったです。関成孝さんがおっしゃったように量がきちっとわかるもう一つ別のデータがあった上でこれがあればもっと良いなと思います。それが情報公開だと思います。

(関(成孝)) 私の言葉が足りなかったのかもしれませんが、基本的に環境問題は大事だと思います。国土が狭いというのはどうしようもない事実であり、同じ産業があったとしても、その産業界は世界に比べてやはり厳しい十字架を背負ってしまうという事実があります。そこに問題が発生するのであれば対応すべきです。私が一番申し上げたかったことは、対策をとろうとしている人が、怠けているから頑張れという間違った見方をして欲しくないということです。既に日本のパフォーマンスは高いです。現在のパフォーマンスをEUの企業たちが成し遂げれば、先ほどあたかもEUは素晴らしい目標を掲げているかのように見えたものが余裕綽々で達成できます。それだけのパフォーマンスを日本は持っているということをちゃんと理解した上で、その上でどこまで何ができるかを考える必要があります。それも否定的に捉える必要はありません。繰り返し申し上げますが、日本はそれだけのポテンシャルを持っているわけで、そういう相互の正しい理解に基づいて建設的に議論していくことが大事だということを申し上げたかったわけです。

(原科) 日本は狭いとおっしゃいましたが、そんなに狭くないと思います。日本の国土はヨーロッパで並べると4番目だったと思います。結構広いのですが、密度が非常に高いです。人間活動の密度が高いわけです。確かに、密度ということでいくと非常に活動が集中していますので、私にはこれ以上成長を追求するのはいかがなものかという考えがあります。そういうことで、経済活動のパフォーマンスもその分高いわけです。全体的に見なければいけないというのが関(成孝)さんのおっしゃった大事な点だと思います。ただ一方で、密度も高いので環境からいうと具合が悪いのだと思います。

(有田) 関(成孝)さんがそういうことをお話しされたかったというのは分かりつつ、あまりに冷たいお話のされ方だったような気がしたものですから。それと中塚さんがおっしゃったように、取組に自信のある企業は規制でも大丈夫で、規制は最低で、それ以上の自主的な取組でされている。規制ということが出せるというのは、自社の取組に自信がある企業と市民側は見ます。

(崎田) ここのところ、本当に多くの企業が社会的責任というものに非常に関心を高めています。自主的に取り組む要素はどんどん増えていくだろうし、実際に取り組んでいくのは素晴らしいと思います。ただ、そういったときに、いくつか必要なことがあります。まず、目標を設定するときに、個別の企業が目標設定するよりはもう一つ上の段階で、社会全体の目標や合意形成のために話し合いを十分尽くすという状況が必要だと思います。その後に、それぞれの企業が目標設定をして取り組むときの情報公開の徹底も要素だと思います。
 もう一つ、情報公開プラスそれを明確に素材としてコミュニケーションをするということです。単に情報が出ましたというだけではなく、それを多くの市民に伝わるようなレベルでコミュニケーションの素材として高め、深めていき、消費行動や金融の投資行動など、全部に影響を与えるくらいの状況に持っていくという次の段階が求められていると思います。少し社会的な話になりますが、そういう状況設定というのが必要なのではないかなと感じています。そうなると、今度は評価を社会的なプラスにもっていくというような作業や信頼関係作りも必要なのではないかなと感じています。
 さらに、社会的なビジョンを持っていく時に、規制か、ものによってはトップランナー方式にしても良いと思います。トップランナー的な数字を出して、みんながそれに向かっていくという方法は、過去に世界や日本にもあります。そのような方法を全国に広げていくためにどうするのか、その辺りも大きな課題だと思います。

(滝澤) 休憩明けに中下さんの質問に瀬田さんがお答えになったところで少し疑問を感じました。聞いている皆さんが誤解されてはいけないと思い、コメントします。
 自主的取組の方が良いのではないか、規制的なものに対してどうして否定的なのだという中下さんの質問に対して、科学的根拠がはっきりしていれば規制でも良いというニュアンスが瀬田さんのお答えの中にあったと思います。そうすると、いかにも今度の法改正が科学的根拠のないことを認めたように、論理的にはなってしまいます。そうではなく、まさにベストミックスだという論理で、非常に現実的な選択として自主的取組をチョイスしたということです。科学的根拠がないから自主的取組を促すということではないということを行政も主張すべきだと思いますし、表裏一体の単純に二律背反の話ではないのではないかということを申し上げます。

(原科) そういう意味では科学的根拠というのは必要条件ですけれども十分条件ではありません。それをベースにした社会的合意があるかどうかは次の段階です。規制というのは、効率性や他の評価項目があるので、総合的に判断しなければなりません。ただ、科学的根拠に関する情報がなければなかなかアクションはとりにくいということだと思います。

(中下) EUでは予防原則についても議論されていて、この間から私たちも議論をしていますが、必ずしも科学的な根拠が100%なくても必要な対策をとることを社会として合意形成することが必要な場合もあり得るのではないかと思います。私たちはむしろそういうことをやっていかなければいけない。これだけ複雑な化学物質のリスクについて、全て科学的に100%証明するということはなかなかあり得ません。その間にも被害が防止できないと思っています。ですから、その辺は言葉遣いに気をつけていただきたいと思ったのが一つです。
 そう考えると、やはり科学者と行政だけで規制を決められるものではないと思います。盛んに市民参加、社会的な合意形成をずっと主張していますが、そういう意味では崎田さんがおっしゃった社会としての目標をもっと市民が参加した形で決めていく、瀬田さんがおっしゃったように、確かに国民自身の消費者としての性行もあるので、私たちの生活も利便性一辺倒ではなく、環境に優しいということを入れた上でライフスタイルの変革も促して行かなくてはいけない。そういうことを社会的な合意形成にしていけば一人一人の国民自身も納得をして、最後の出来上がりが若干不便だとしても納得できると思います。ですから一つの分野だけではできない、そういう意味でここも規制と自主的管理というもののベストミックスです、一つの分野だけではなく、もっと総合的に考えて対策を行っていく必要がある。そのためには社会の合意、社会全体の目標を考え、枠組みを作っていく必要があります。これは円卓会議の一つの課題なのではないかと思いました。

(原科) 社会の合意の前に情報の共有ですね。よく言われますが、皆さんのご理解を得た上でご協力いただくということだと思います。

(瀬田) 私は科学的根拠がある程度はっきりしなければ規制はやるべきではない、つまり規制にはそういうものが必要だということで、必ずしも100%というつもりで言ったわけではありません。やはり規制する以上はその効果を考えて、その効果を現すためのメカニズムははっきりしておく必要があるということです。例えばVOCを規制する場合、日本はVOCの排出量が非常に多いということからスタートしていますが、実際には量は少ない。要するに密度の問題になってくるわけです。例えば米国でも砂漠がいっぱいあって、ロサンゼルス等の都市部に人口が集中しています。でも、砂漠があるからトータルとしては良いのだということにはならないはずです。本当にVOCを厳しく規制すれば、光化学オキシダントは本当に減るのか、海外からの寄与はないのか。オキシダントによる実際の患者数は今回のデータにありませんでした。欧州や米国で規制化され、日本では規制化されないのは、患者数の発生数の差もあるのではないか。発表されていないからそう思うのであって、実際は同じぐらいなのかもしれません。少なくともメカニズムをはっきりさせた上で規制しないと、規制によってマイナス効果だけを生んで、プラスの効果を生まないということもあり得るのではないでしょうか。従って、科学的根拠があれば即規制と申し上げるつもりはありませんが効果を挙げるためにはメカニズムがいるということです。

(吉村) 企業活動をしていく上で情報公開は基本的な要件だと私は思っています。また、我々の会社も基本的にそう思っています。ただ、情報公開も内容が問題だと思います。我々がここまで情報開示すべきだと思っていることと、消費者や一般の方の求めるものとではズレがあるように思います。これはある面では仕方がないことと思いますが、企業活動を理解していただくために、どこまで情報を開示すべきか、あるいは化学物質の取扱量や排出量などについて最低限どこまで情報を公開していかなければいけないのか、社内でもいろんな議論がありまだまだ続いています。しかし、基本的には可能な範囲で情報を提供していくべきではないかという意見になりつつあります。情報開示を行うということはある面では大変な緊張関係を生みだすことになります。情報開示に耐える内容でなければならないということで技術の発展が促されるということもあります。そういう意味で、情報公開が重要だという見方もあると思います。ただ、今すぐNGOの方が求められているような情報を全部出せるかということと、実際に必要な情報を我々がどこまで出したらよいのかということに関しては差がありますし、今後、検討していかなければいけない課題だろうと思います。
 それから、規制と自主管理についてですが、規制というのは最小限の要求であって、この規制を遵守しつつ、各企業ではそれ以上のことを自主管理活動として行っていると思います。科学的なことが解明されていることが前提ですが、どうしても緊急を要する場合には新たな規制が必要ということはあり得るのかも知れないと思っています。自主的な取組についてですが、外部に公表している活動について言えば、企業として社会に対してそれらの取組の活動目標を出すべきだろうと思っています。

(関(成孝)) 誤解がないように補足させていただきます。予防的なアプローチは実は大事でやるべきだと考えています。ただ、非常に困ったことに、いわゆる予防原則といったときに、EUが特別な意味合いを持たせていることです。特別な意味合いとは、現実的に非常に困難な要求であるために、それをEU以外の国が否定しているということです。日本で既存化学物質として知られているものだけでも約2万件あります。その1件1件についてすべての毒性データが分かっているわけではありません。1番初歩的なスクリーニングの毒性を知るためでも、1物質につき例えばラットが100匹必要になるでしょう。徹底的に検査をやれば1億円からあるいは4、5億円かかります。では果たしてそれを本当にやらなければいけないのかという疑問があります。
 化学物質には、科学的に見ればかなり問題があると思われるものもあればそうでないものもあります。したがって、最初は分解性をテストして、それが低い物質を重点的に見ていくという段階的な評価方法を採用することで、効率的に化学物質の点検を行っています。欧米においてもそのようなアプローチをしていますし、その取組を加速することは良いことと思いますが、いきなりどの物質でもマウス100匹、ラット100匹のデータを採るという話をしてしまえば安全性評価はなかなか進まなくなるでしょう。さらに言えば、我々はきっと何千という天然の化学物質を食物という形でとっていますが、それらについても安全性のデータをちゃんととったものはほとんどないわけです。経験的に問題がないから摂っているものもたくさんあります。しかし、よくよく調べてみると食物というのは直接的に摂取しているだけに、通常使っている化学物質よりも実は発がん性が高いということもあります。全体のバランスを見た上で、まさに正しい予防的なアプローチをするというのは大賛成です。我々が持っている資源は限られていますから、その資源をいかに有効に使って最も安全性の高い生活ができるか、そういう化学物質をうまく使えるかということを考えていくことが一番大事だと考えています。

(中下) お金がかかるのはよく分かります。だからこそ、コペルニクス的転換をしなければ、私たちと化学物質のつきあい方を変えていかなければ、安全が守れないのではないかというのが私の考え方で、EUの考え方もそうだと思います。このままのスピードで点検していたら100年かかっても終わらないのではないか。化審法ができてから2万物質とおっしゃいましたが、それを点検して30年間かけて毒性チェックを全部できたのは二百数十物質です。だからそのスピードでやっていたのでは間に合わない、EUの考え方も、全部の物質にというのは、もちろんターゲットは全部ですが、試験のレベルは違いますし、それは物質の量に応じてどれくらいの試験をしていくかというのを考えて良いと思います。多い物質に関してはある程度企業側が一定の安全性を証明したものしか市場に出さない、製品として使う以上はそういうものを保証するというのは生産者の責任の考え方から言っても、製造者責任という考え方からいっても、当然のことではないのかと思います。

(原科) 時間を少しオーバーしましたので、今日はこの辺で終わりにしたいとお思います。私は先ほど科学的根拠は必要条件だと申し上げましたが、そういう意味では因果関係というほどのことではなくても、科学的な事実やデータが必要だと思います。その上での議論で、社会的合意は因果関係を立証できなくても先ほどお二人ともおっしゃったように予防の考え方は大事です。そういう場合にはむしろデータからどう推定するかによって判断が変わります。ですからとにかく情報は必要であり、基本的な情報を得た上で、社会的な合意を作っていくということです。そうしますと、情報を共有するための空間も必要でそれをもっと広げたいということだと思います。この円卓会議もその一つだと先ほど中下さんがおっしゃいましたが、今日もたくさんの方にお集まりいただき、結局100名ほどの方に傍聴で来ていただいたようです。これが1万人、10万人になると、もっと広がっていくのだと思います。
 それでは時間になりましたので、これで終わりにいたします。次回、第11回の議題についてはこのあと開催します「ビューロー会合」において、協議して決めたいと思います。
 それでは、本日の会議は終了いたします。どうもありがとうございました。