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化学物質と環境円卓会議(第9回)議事録

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■日時:平成16年3月11日(木)9:30~12:30
■場所:主婦会館プラザエフ 9階「スズランの間」(東京都千代田区六番町15)
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  城内 博 日本大学大学院理工学研究科教授
  増沢 陽子 鳥取環境大学環境政策学科助教授
  <学識経験者>
  原科 幸彦 東京工業大学工学部教授
  安井 至 国際連合大学副学長
  <市民>
  有田 芳子 全国消費者団体連絡会事務局
  大沢 年一 日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  角田季美枝 バルディーズ研究会運営委員
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  <産業界>
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会広報委員長
  田中 康夫 レスポンシブル・ケア検証センター長
  中塚 巌 (社)日本化学工業協会ICCA対策委員長
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会環境・安全専門委員長
  和田 政信 (社)日本自動車工業会(菅裕保代理)
  嵩 一成 日本チェーンストアー協会環境委員
  <行政>
  染 英昭 農林水産省大臣官房審議官
  滝澤秀次郎 環境省環境保健部長
  鶴田 康則 厚生労働省大臣官房審議官
  福水 建文 経済産業省製造産業局次長
   (欠席)
北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
村田 幸雄   (財)世界自然保護基金ジャパンシニア・オフィサー
西方 聡   (社)日本電機工業会化学物質総合管理委員会副委員長
片桐 佳典   神奈川県環境農政部技監
   (事務局)
安達 一彦 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  リスクコミュニケーションに係る議論について [PDF(598KB)]
資料2-1  化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)について(城内さん講演資料) [PDF(702KB)]
資料2-2  GHS制定の経緯とその概要(城内さん資料) [PDF(443KB)]
資料2-3  化学物質政策における「表示」の意義について(増沢さん講演資料) [PDF(244KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
参考資料2  第8回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
有田さん資料 GHSに期待する~消費者の視点から~ [PDF(186KB)]
滝澤さん資料1 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)に関するパンフレットの作成について(お知らせ) [PDF(45KB)]
滝澤さん資料2 「化学物質と環境に関する学習関連資料」の試作版公表と人気投票の開始について(お知らせ) [PDF(35KB)]


■議事録

1.開会

(安達) 本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。時間になりましたので、第9回化学物質と環境円卓会議を開催させていただきたいと思います。本日は、安井さんに司会をお願いしています。安井さん、よろしくお願いいたします。

(安井) 皆さん、おはようございます。それでは、ただいまから第9回の化学物質と環境円卓会議を開催させていただきます。これまでリスクコミュニケーションについて議論をしてきましたが、今回は、メンバーの皆さんと事前に相談した結果、資料1をもとにこれまでの議論の整理について確認をすることになりました。これは、リスクコミュニケーションの議論について結論を出すという意味ではありません。
 その後、化学物質の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)に関して意見交換を行いたいと思います。本日はお二人の専門家をお招きしています。最初に、日本大学大学院理工学研究科教授の城内博さんに30~40分のプレゼンテーションを、その後に鳥取環境大学環境政策学部助教授の増沢陽子さんに15~20分のプレゼンテーションをお願いしています。
 議事に先立ちまして、事務局から本日の資料の確認をお願いします。

(安達) 資料の確認の前に、メンバーの交代がありましたのでご紹介します。産業側メンバーの日本石鹸洗剤工業会の大池弘一さんに代わりまして、同じく日本石鹸洗剤工業会環境安全専門委員長の吉村孝一さんにご参加いただくことになりました。また、日本化学工業協会の河内哲さんに代わりまして、同じく日本化学工業協会ICCA対策委員長の中塚巌さんにご参加いただくことになりました。それから、日本電機工業会の横山宏さんに代わりまして、同じく日本電機工業会化学物質総合管理副委員長の西方聡さんにご参加いただくことになりました。なお、西方さんは来年度より委員長になられる予定と聞いております。本日はご都合により欠席されています。続きまして、日本チェーンストア協会の大野郁宏さんに代わりまして、同じく日本チェーンストア協会の嵩一成さんにご参加いただくことになりました。
 次に、出欠状況についてご報告させていただきます。本日は、菅裕保さんの代理として和田政信さんにご参加いただいています。また、西方聡さん、北野大さん、村田幸雄さん、片桐佳典さんからは事前に欠席のご連絡をいただいています。なお、環境省の滝澤は、業務の都合により遅れてまいります。
 資料の確認と説明を行いますので、議事次第をご覧ください。資料1は、「リスクコミュニケーションに係る議論について」です。資料2-1及び2-2は、GHSに関する城内さんの資料です。資料2-3は、同じくGHSに関する増沢さんの資料です。メンバー配付資料ですが、有田さん資料といたしまして「GHSに期待する~消費者の視点から~」、滝澤さんからは2つのお知らせに関する資料(滝澤さん資料1)を配付しております。参考資料1は、毎回配付しております化学物質と環境円卓会議のリーフレットです。参考資料2は前回会議の議事録ですが、メンバーの方々にご確認いただいた後、すでに環境省のホームページに掲載しておりますので、配付はメンバーの方のみとさせていただいています。
 続いて、配付資料の内容について簡単に説明いたします。滝澤さん資料1は、本日の議題のGHSに関するパンフレットについてのお知らせで、2月10日に公表したものです。環境省は、昨年7月に国連より勧告されたGHSについて広く知っていただくためパンフレットを作成しました。本パンフレットは、GHSの目的、仕組み、市民との関わりについて解説したものです。これにより、市民、事業者等のGHSに関する理解の向上の一途になると期待しているところです。なお、資料に記載してありますように、本パンフレットは希望者に無料配布しております。それから、現在、国連勧告全文の翻訳作業を関係省庁で進めており、近く完成する予定です。完成後は、メンバーの皆さんにお送りさせていただきますとともに環境省のホームページに掲載する予定ですので、その際はぜひご活用いただけたらと思っております。
 次に、滝澤さん資料2ですが、リスクコミュニケーションに関する環境省の最近のトピックスの一つということで、「化学物質と環境に関する学習関連資料の試作版公表と人気投票の開始について」のお知らせです。一昨年、環境省ではパソコンゲーム等3種類の学習関連資料を作成して配布しましたところ、非常に大きな反響がありました。環境省では、教育現場においてこのような学習関連資料がまだまだ不足していると考えておりまして、引き続き化学物質と環境に関する充実した学習関連資料の提供を行うため、昨年の3月3日~4月25日まで学習関連資料のアイデアを広く募集しました。そして、ご応募いただいたアイデアの中から、審査委員会で選定した3つのアイデアを基に試作版を作成いたしました。それが、「ケミストリーカードゲーム」、「ころころカンパニー」、「こざるのそうじ」の3つの学習関連資料です。これらはいずれもパソコン上で体験できるものでして、環境省のホームページからダウンロードできるようにして実際に体験していただき、最も良いと思われる作品に投票していただきました。この投票結果を踏まえまして、試作版からより完成度の高い正式版を作成し、環境省のホームページにおいて公表する予定にしています。滝澤さん資料については以上です。
 次に、資料1「リスクコミュニケーションに係る議論について」について簡単にご説明いたします。前回の円卓会議で、事務局からこれまでの円卓会議におけるリスクコミュニケーションに係る様々な議論を整理したものを、資料1として提出させていただきました。前回はこれを基に議論していただき、会議後に再度メンバーから加筆・修正等のご意見を事務局にいただくことになりました。いただいたご意見をもとに、事務局で修正等を行い、さらに事前にメンバーの方々にご確認いただいたものが今回の資料1です。前回の議論にありましたように、この資料は本会議におけるメンバーの皆さんのリスクコミュニケーションに関するこれまでの発言を整理したものであり、表に空欄等があっても何ら意見がないということを意味するものではありません。また、記載された内容は、メンバーの個人的な意見であり、市民側、産業側の欄に記載されている意見であっても、各界の意見を代表しているものではありません。
 それでは、資料1について、前回からの修正点をご紹介します。まず、A3版の綴じ込み資料をもとに説明します。「化学物質と環境円卓会議におけるこれまでのリスクコミュニケーションに関する議論のまとめ」の加筆・修正部分は下線で示してあります。
 「1.必要となる関連情報の不足」の「現状」にある「化学物質のマスフローやリスク情報等の不足」において、産業側メンバーの意見の欄の下線部は、第1回~第7回の会合で発言があった内容を追加したものです。同じページの下にある行政側メンバーの意見の欄の下線部は、これまでの円卓会議でご発言があったものではありませんが、第8回会議後に新たな追加意見として片桐さんからいただいたものです。2ページの行政側メンバーの意見の追加も同様です。
 3ページの「2.市民と企業の信頼関係」の「現状」にある「市民の信頼」において、産業側メンバーの意見の欄の下線部は、表現の変更です。また、「環境報告書」の欄の下線部は、過去の議論のご発言を追加したものです。「対応」の産業側メンバーの意見の欄の下線部も同様です。
「対応」の「環境報告書」にある産業側メンバーの意見の欄の下線部は、表現の変更がありました。同じく、行政側メンバーの意見の欄の下線部は、片桐さんから新たに追加でいただいたご意見を記載したものです。
 4ページの「3.市民参加」において、産業側メンバーの意見の下線部は、過去のご発言の追加記載であり、行政側メンバーの下線部は片桐さんから新たに追加でいただいた意見です。
 5ページ「4.その他(各主体の望まれること)」で、市民側メンバーの意見の下線部は、第8回円卓会議におけるご発言を新たに追加したものです。産業側メンバー意見の下線部は、過去に発言された意見を追加したものです。行政側メンバーの意見の下線部は、片桐さんから新たに追加でいただいた意見です。
 最後の「その他」の項目は、第8回円卓会議後に修正した際、新たに付け加えました。この欄に記載されたご意見は、いずれも第8回円卓会議におけるご発言を記載したものです。
 6ページ以降の議事要約は、円卓会議におけるこれまでのリスクコミュニケーションに関する議論を抽出して要約したものです。第1回~第7回までの要約は、前回に提出した資料1と変更はありません。第8回のリスクコミュニケーションに関する議論の要約につきまして、64~66ページに追加しました。更に、67ページには、第8回円卓会議後に片桐さんからいただいたご意見を記載しました。以上で事務局からの説明を終わらせていただきます。

2.議事

(安井) それでは、早速議事に入りたいと思います。まず、資料1について、議論を1~5ページの表に集中させて議論したいと思います。

(瀬田) 2つ3つ質問と意見を述べたいと思います。まず1点目として、今までいくつか非常に大事な議論があったと思いますが、その中で、未知のリスクは予知できるかという議論がありました。これに対して、安井さんから意見をいただいたと認識していますが、この表の中のどこに位置づけられているのでしょうか。2点目は、まとめ方についてです。リスクコミュニケーションは、リスクとハザードをどのように使い分け、理解していくかが必要になってくると思います。この点についてどのようにまとめていけばよいでしょうか。3点目の視点は、この整理表をどのように使っていくかです。

(安井) この点について意見はありませんか?

(後藤) 今、瀬田さんはリスクコミュニケーションとハザードコミュニケーションを分けていましたが、私の理解では、世間一般でリスクコミュニケーションのリスクとは、厳密な意味のリスクではなく、ハザード、リスク、ペリル全てを含めた意味での非常に漠然とした概念だと思います。日本化学工業協会がリスクコミュニケーションとハザードコミュニケーションを分けて考えているのであれば、それは世間一般の使い方とは違うように思います。

(安井) 資料を拝見すると、過去に、円卓会議に参加していない第5の主体であるメディア等に対する意見・要望が出ていたと記憶していますが、整理表にはまとまっていません。

(原科) 安井さんがおっしゃった通り、私も第5の主体であるメディアが非常に大事だと感じていて、そのような図式で社会システムを考えています。情報が伝わらなければしょうがないので、市民、産業、行政、学識経験者と4つの主体のコミュニケーションにおいて、メディアを考えないのは変だと思います。その点については考える必要があると思います。ただし、コミュニケーションは、情報が多すぎると伝わらないので、情報を整理していかなければなりません。その意味で、今、整理表にあがっている視点の重要度は人によって違いますが、円卓会議の場で特にどの点が重要か整理して公表することが重要だと思いました。その議論を行った上で、この整理表をどのように使っていくかが重要になってくると思います。

(有田) 前回もメンバーの誰かから意見が出たと思いますが、私は今まで議論してきた内容だけで整理表を埋めてみて、整理表の空いている部分については今後議論していくべきだと思います。行政側メンバーの意見に空欄が多くなっています。なかなか発言しにくいところがあるとは思いますが、何度も「行政メンバーに発言してほしい」と意見を出したところ、発言が活発になってきて良い会議になってきたと感じていました。しかし、整理表を見るとやはり埋まっていないところがたくさんあります。また、マスメディアについても、2回目か3回目の円卓会議で議論になったと記憶しています。そのため、マスメディアに関する議論の整理もあった方が良いと思います。

(田中) 私も、整理表は過去の議論とこれから行うべき議論とは分けて整理した方がよいと思います。例えば、第3者機関の設置に関して、費用負担の懸念について議論の余地があるという発言もありましたし、それに対して行政から屋上屋を重ねるような組織であってはならないという意見もありました。その辺について、現在はどのように考えているのでしょうか。
 先ほどの後藤さんの意見に対してですが、日本化学工業協会はリスクコミュニケーションとハザードコミュニケーションと分けて考えているわけではありません。リスクとハザードと区別した上でリスクコミュニケーションを行っていかなければならないと私は考えています。

(安井) 整理表については、過去の発言を記録することにして、本日いただいた意見を踏まえ、今後の対応についてはまた協議したいと思います。いずれにしても、現在は議論の中間地点であり、今までの議論を整理すると資料1のようになるという位置づけにしたいと思います。

(瀬田) まさにそのとおりでよいと思います。整理表を見て、皆さんそれぞれの立場で問題意識を持ったと思いますので、それぞれの意見をぶつける機会を持つことに意味があると思います。

(安井) 今の瀬田さんの意見を議事録に記録させていただいて、先ほど説明した方向で整理表について対応していきたいと思います。
 それでは、続いて本日の主題のGHSに関する議論に入りたいと思います。先ほど、紹介したように、本日はお二人の専門家をお招きしています。最初に、日本大学大学院理工学研究科教授の城内博さんから30~40分のプレゼンテーションをいただきたいと思います。それでは、城内さんよろしくお願いします。


(城内) 今日は、化学品の分類と表示に関する国際調和の話をさせていただきます。

 スライドの名前の下に、UNSCEGHS (注、United Nations Subcommittee of Experts on the Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:国連化学物質の分類及び表示に関する世界調和システムに関する専門家会議) 委員と書いてありますが、私はこの委員会に8年間携わってきました。そして、ようやく去年の7月に国連勧告としてGHSが世の中に出てきたわけです。英語で、Global Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals を略してGHSと呼んでいます。
 最初の数枚のスライドで、化学物質管理がどのように重要なのかについてイントロとして説明したいと思います。

 GHSで何が変わるのかを分かっていただくために、このようなスライドを作りました。これは、化学実験室等でよく見られるラベルです。横のラベルは、私がGHSの基本原則にのっとって作ってみたものです。GHSが導入されるとラベルはこのように変わるでしょう。
 表示が変わると中身も変わります。GHSの中身についてはこれからお話ししますが、絵や文字の書き方や危険有害性の分類が関わってきます。

 もっと前に戻って、原則的な話をしますが、化学物質が非常に多く使われて、事故や疾病、環境破壊が起きてきました。特に、日本では化学工業も盛んで、化学物質がたくさん使われ、それによる事故や職業性疾病も多く、環境破壊もかなり進んできたという状況があります。
 その中で、予防対策としては、もちろん生産禁止や使用禁止が疾病予防や環境破壊防止には一番良い方法です。実際に、黄リンや膀胱がんを誘発する染料の原料などは、実際に使用禁止になっています。ところが、依然としてたくさんの化学物質が使われています。
 実際に、多くの化学物質が生産・使用されている中で、我々がとった対策は、マスクや手袋の着用、局所排気装置の設置、リスク管理のためには暴露限界を設けて、労働者が過度に暴露されないようにしてきました。
 効果的に対策が行われるためには、やはり危険有害性情報の伝達が絶対に必要になりますが、現状はそれほどうまくいっていません。基本的には、危険有害性情報の伝達を上手行い、化学物質を取り扱う人が注意するということが基本ですが、それも現状では十分ではありません。
 そこで、危険有害性情報の伝達をどのような約束のもとにやるかがGHSです。ですから、GHSは化学物質を扱う上で一番原則に関わることだと思っています。

 これからの話は、GHSの歴史、目的、概要と内容に係る危険有害性の分類、ラベルとMSDSに関わる情報伝達、GHSと日本の法体系のギャップの順序で進めていきたいと思います。

 世界には2300万種以上の化学物質が存在します。これは、皆さんご存じのCAS(注、Chemical Abstract Service:米国化学会が行っている化学特許検索サービス)から取ってきた物質数です。ILO (注、International Labour Organization:国際労働機関)の発表によると、毎年110万人が労働災害で死亡し、このうち四分の一は化学物質によるものと推定されています。現在、行政的に管理が行われているのは数千物質ですが、管理の仕方も色々あり、我が国では1000物質くらいについてMSDSを作成しています。

 GHSとは、「化学物質及び混合物を、物理化学的危険性及び健康や環境に対する有害性に応じて分類するための判断基準及びラベルや安全データシートに関する要件とそれらの情報伝達に関する事項を含む共通の統一(調和)されたシステム」です。要するに、危険有害性を判定するための統一の基準とこの基準に基づいてラベル、安全データシートを作り、その情報をどのように伝達していくかを決めています。
 最初に、Harmonizedと言いましたが、これを調和システムと呼んでいます。結果的には、統一のシステムということになりますが、これまでの作業、今後のGHSを実施するという意味において、「調和」という言葉が使われています。

 GHSの目標は、「危険有害性に関する情報をそれを扱う人に正確に伝えることにより、人の安全と健康を確保し、環境を保護すること」と言えると思います。

 GHSの適用範囲は、全ての危険有害な化学品で、純粋な化学物質、その希釈溶液、化学物質の混合物が含まれます。ただし、成形品は除くことになっています。成形品の定義は、アメリカの労働安全衛生局で出している法律(米国 OSHA 29CFR1910.1200、http://www.osha.gov/pls/oshaweb/owadisp.show_document?p_table=FEDERAL_REGISTER&p_id=13349)に基づいていますが、配付資料の中にその法律に関する情報が書いてあると思います。興味がある方は、ホームページでも見ることができますのでご覧下さい。
 とにかく、GHSの適用範囲は化学品全てになります。ただし、薬品、食品添加物、食品の残留農薬等はラベルの対象から除きます。生産現場では除外されませんが、情報伝達としてラベルに書くときは、これらの項目は除くということです。医薬品は他の法体系がありますし、食品のように意図的に摂取するものについては、ラベルの対象から外してもよいのではないかという議論からこうなりました。
 情報伝達の対象は、労働者、消費者、輸送関係者、救急対応者となっています。

 GHSが出てきた背景は、国が全ての有害化学品を把握し、それらを法規制により管理することは不可能なためです。2300万種の化学物質が全て市場に出ているわけではありませんが、少なくとも数十万単位では出ています。そのため、レスポンシブル・ケアという考え方も出てきていると思います。
 国によって、有害性の定義や表示及びSDS(注、Safety Data Sheet:安全データシート)に必要とされる情報も異なっています。これらの違いは、健康と環境保護および貿易に影響を及ぼしています。

 それでは、GHSを導入したら、どのようなメリットがあるのかという点について説明します。まず、「人の健康と環境保護を促進する」、「化学品に関する貿易を容易にする」といったことがあります。また、「試験・評価の重複をなくすことができる」がGHSの特徴になります。現在あるデータで危険有害性を調査することになっています。つまり、新しく試験をする必要はないということです。
 「化学品の管理において国や国際機関を支援できる」ですが、日本では化学物質管理について色々な法整備がされていますが、いわゆる発展途上国と言われている国では、化学物質規制の法律がないこともあります。そのような国でも、一から支援できるのではないかと思っています。
 「危険有害性の種類と程度が絵表示によりある程度理解できる」は後で紹介しますが、日本の有害性情報の伝達はほとんどが漢字で行われます。GHSを導入すれば、特に危険有害性が高い物質は絵表示である程度その内容を理解できます。つまり、我々が外国に行っても、ある程度危険有害性が想像、理解できますし、逆に外国人が日本に来ても同じことが言えます。

 GHSの歴史ですが、1990年のILOの会議で化学物質条約と勧告が出ています。この中で、化学物質の有害性情報の提供について定めています。ただし、ここでは分類基準がなく、当局が決めることになっていました。

 しかしこの勧告は、即実施には至りませんでした。1992年に国連環境開発会議がブラジルで開催され、ここで有名なアジェンダ21第19章で「有害化学物質の環境上適正な管理」を行うための6つのプログラムが採択されました。

 第2番目のプログラムが、化学品の分類と表示の調和で、GHSのプログラムです。

 ここで、掲げられた目標は、「物質安全データシート及び簡単に理解できる記号も含めた、地球規模で調和した危険有害性の分類及び表示システムを、可能であれば2000年までに利用できるようにするべきである」というものでした。
 実際は、予定より2年遅れた2002年に作業部会で最終案を採択し、昨年の7月に国連勧告として出されました。

 GHSを作成するに当たって、参考になった主な規則があります。第一番目は、「国連危険物輸送・モデル規則」と言われているものです。このほかに、EU指令、カナダの指令、米国の規制などがあります。
 もちろん、日本も法体系や特に分類と表示に関して情報提供を行いました。ただし、日本の規制は縦割りで、化学物質から見た危険有害性を網羅するようになっていないため、情報はピックアップされませんでした。

 次は、GHSの分類についてお話をします。

 分類調和における基本方針ですが、物質の持つ性質である危険有害性、つまりハザードに基づくことが基本になっています。これは、ハザードコミュニケーションになりますが、物質の持つ性質である健康影響、環境影響、物理化学的な危険性などの危険有害性に基づき分類することになっています。また、これらの分類は、入手可能なデータを用いて行うことになっています。

 分類調和の対象となった物理化学的な危険性ですが、火薬類、引火性/可燃性ガス、引火性エアゾール、酸化性ガス、高圧ガス、引火性液体、可燃性固体、自己反応性物質、自然発火性液体、自然発火性固体、自然発熱性固体、水反応可燃性/禁水性物質、酸化性液体、酸化性固体、有機過酸化物、金属腐食性物質です。



 有害性は、健康影響としては急性毒性、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/刺激性、呼吸器感作性または皮膚感作性、生殖細胞変異原性、発がん性、生殖毒性、慢性毒性(特定標的臓器/全身毒性(TOST: Specific target organ systemic toxicity))です。

 環境影響については、現在のところ水生環境有害性についてのみ合意されていまして、もう少しで土壌環境有害性も出てくる予定です。

 続いて分類の方法ですが、これは引火性液体の例です。判定基準を示していますが、この前にも細かい定義があります。区分1の判定基準は、引火性が23℃より高く初留点が35℃以下、区分4になると引火性が60℃より高く93℃以下となります。区分の1の方がより引火しやすい物質になり、区分番号が小さいほど危険有害性が大きくなります。

 これが、急性毒性の分類です。急性毒性も区分の数字が小さいほど有害性が大きいことになります。急性毒性は半数致死量で判定します。半数致死量とは、簡単に説明すると100匹の動物を暴露したときに50匹が死ぬ量です。
 経口急性毒性の場合は、体重1kgあたり5mg以下を口から飲ませた場合に半数が死ぬ物質を区分1に分類することとなっています。日本の毒劇法では、毒物が50mg以下、劇物が300mg以下なので、更に区分が細かくなります。
 急性毒性については、経口、経皮、気体の濃度、蒸気、粉じん及びミストで区分が分かれています。

 これは、呼吸器及び皮膚感作性についてですが、区分は一つしかありません。分類が一つしかないので、感作性があるかないかで分けています。

 これは、水生環境への影響による分類基準です。生物濃縮係数や生体への蓄積性と毒性を勘案して、急性毒性、慢性毒性が区分されています。このようにして、30種くらいの危険有害性についてすべて分類されています。

 今までの話は純物質についての話でしたが、混合物については加成性で判断します。つまり、同じような毒性であれば、濃度に比例して毒性が変わるという考え方で計算します。ここに示した式は、最も簡単な混合物の場合の計算式です。

 これが、危険有害性の分類についての基準の本です。これは全てインターネットでダウンロードできます。ご興味があれば、OECDのサイトからご覧いただきたいと思います。

 次は、情報伝達についてです。

 情報伝達について調和・統一しようとしたのは、ラベルとSDSです。

 情報伝達については、まず分かりやすいものにしようということになりました。最初に、「情報を複数の手段で伝える」とありますが、一つの手段で情報を伝えてもよく伝わらないというコミュニケーションの研究結果があります。何とか複数の手段で同じ情報を伝えるため、絵と言葉の両方で伝えることを約束としました。
 その次に、「危険有害性の種類が異なる場合でも、その重大性を表す言葉(危険、警告)は同じものを用いる」という約束があります。つまり、危険有害性の重篤度に応じて、「危険」あるいは「警告」いずれかの言葉を使うというコンセンサスがありました。その時に、発がん性と爆発性のように危険有害性の種類が違うときに、それは各区分の中で「危険」や「警告」の言葉を使い分けますが、危険有害性の区分が違っても、「危険」、「警告」という言葉は固定して使うという意味です。つまり、発がん性でも「危険」という言葉を使うし、爆発性でも「危険」という言葉を使います。

 ラベルの中で統一するものとして、シンボルやピクトグラムと言われる絵表示があります。次に、注意喚起語といって、「危険」と「警告」のいずれかを使います。英語ではSignal Wordといいます。危険有害性情報は、Hazard Statementといいますが、例えば「飲み込むと生命に危険」といった言葉です。注意書きは、「吸い込んだら医者に診てもらいましょう」、「目に入ったら洗い流しましょう」など色々ありますが、このような注意書きを統一します。化学品特定名、認識番号/混合物は、CAS No.やIUPAC(注、The International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正応用化学連合)などの認識特定名、また、国連輸送番号などの認識番号も含まれます。ラベルにおける危険有害性の優先順位もありますが、これについては後で説明します。

 これは、国連危険物輸送・モデル規則の絵表示です。実は、1950年代から危険輸送物勧告の際に使われている絵です。これらの絵表示は日本国内で見ることは少ないですが、皆さんが外国に行かれるとき、空港のチェックインカウンターにはこれらの絵表示が貼られています。日本でも海上輸送と航空輸送ではこれらの表示を使っていますが、陸上輸送では使っていません。
 この絵表示は、世界中のほとんどの国が採用しています。1950年代から採用されているということもあって、GHSの絵表示の基礎になっています。ただし、国連危険物輸送には物理化学的な危険性及び急性毒性は含まれていますが、他の健康影響や環境影響は含まれていません。その部分をGHSで補ったと言えると思います。
 輸送を行っている人は、この絵表示だけで全て分かるように教育されていますので、GHSのように、文字を一緒に使うことがありません。そこが、GHSと大きく違うところです。

 これが、GHSの絵表示と絵表示に使われる危険有害性の種類です。シンボル、つまり赤枠の中の絵を見てください。ほとんど国連危険物輸送勧告で用いられたものをそのまま使っています。それを赤枠で囲んでGHSのマークとしたわけです。ただし、環境有害性のマークはEUで使われていたものです。また、GHSで新しく採用されたものは感嘆符と発がん性等を示すマークです。これ全体で、GHSの絵表示一覧になります。

 危険有害性のラベルの優先順位ですが、例えば、ある化学品はほとんどが混合物で、それぞれの混合物が危険有害性を持っている場合、それぞれの混合物の危険有害性が重複する場合があります。そのとき、危険有害性の数だけラベルを貼るわけにはいかないので、優先順位をつけることになります。つまり、より重篤な危険有害性があるとき、下位のラベルは示さなくても良いということです。ですから、注意喚起語でも、ある化学品の中で危険と表示すべき物質と警告と表示すべき物質とが混合されていれば、危険という注意喚起語のみを表示することになります。

 もう一つ、営業秘密情報というものがあります。これは、Confidential Business Information、略してCBIと呼ばれています。日本のMSDSの作成の時にも一文が入っていますが、営業秘密が入っているときは、それを示さなくてもよいことになっています。GHSも同じような取り決めがあり、「当局はCBIの保護についての制度を構築すべきである」、「CBI保護に関する規定が健康及び環境保護を後退させてはならない」としています。また、「CBIは化学品の名前と成分に限定すべきである」はポイントで、化学品の名前と成分に限定すべきであって、有害性については隠してはいけないとしています。最後に、「緊急を要する場合の情報の開示について明確にすべきである」は、事故などが起きた時にそなえて、情報の開示をするプロトコール(注、取り決め、規則)を作るという意味です。

 GHSの別の特徴として、選択可能方式、Building Block Approachがあります。これは、輸送安全、消費者保護、労働者保護、環境保護など、それぞれの部門がその目的に応じてGHSを部分的に活用してもよいとしています。例えば、発がん性の物質にだけGHSを適用してもよいということです。GHS全体を国に取り入れるのが難しい場合は、可能なところから適用してもよいという基本原則があります。ただし、判定基準の数字は絶対に変えないことが原則です。

 分類区分とラベルの項目について、急性毒性を例に一覧表示するとこのようになります。つまり、絵表示と「危険」という注意喚起語と有害性情報をセットにしてラベルに使います。区分3までは同じ絵表示と注意喚起語を使いますが、区分4は絵表示が感嘆符に、注意喚起語が「警告」になり、区分5では絵表示がなく「警告」だけが表示されます。

 これは、選択可能方式の例ですが、上にGHSの例を示して言葉も絵表示も使っています。下は危険物輸送の例で、絵表示のみです。なおかつ、区分の4,5は表示が不要になっています。このような使い方ができるため、選択可能方式の例としてあげられています。

 これは、トルエンを例に私がGHSにのっとって作ったラベルです。

 次は安全データシートです。産業界では、ISO基準の安全データシートを使用しているので、あまり説明は必要ないと思います。16項目については今までと一緒です。ただし、第2番目と第3番目の項目が入れ替わり、危険有害性に関する項目が2番目になりました。

 今までと違う点は、MSDSを作成する目安として、危険有害性に関するGHSの判定基準を満たす全ての化学物質を対象とすることです。日本では1000物質くらいがMSDSの対象になっていますが、GHSは全ての物質を対象にします。
 混合物のSDSを作成する目安として、各有害性のカットオフ値が示されています。

 これが、カットオフ値の一覧です。だいたい1%以上ですが、変異原性の区分1、発がん性、生殖毒性を持つものについては0.1%以上が混合物に含まれる場合にSDSを作ることになっています。

 これがSDSの16項目です。

 GHSを実施するに当たって、教育訓練、リスクに基づいた表示、翻訳に当たっての注意が必要です。リスクに基づいた表示は、議論があったところです。

 例えば、発がん性物質が入っている場合、それを表示するかどうかという議論です。特にアメリカから、例えば社会としてがんが発生する確率が100万分の1であった場合に、それは社会のリスクとして受け入れても良いのではないか、情報として伝達しなくてもよいのではないか、ラベル上に記載しなくても良いのではないかという意見があがりました。ヨーロッパは反対の立場でした。
 結局、当局が判断してプロトコールを決めることになっています。ただし、この適用は、発がん性、慢性毒性、生殖毒性に限ることになっています。

 次は、GHSの実行です。これは強制力を持たない勧告とします。国連危険物輸送も勧告ですが、全世界で使われていることをモデルにして、GHSもそのようにしています。

 APEC(注、Asia Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)では2006年までに、全世界では2008年までに実施することとして努力目標があがっていますが、日本ではどうでしょうか。

 最後に、日本の現状について紹介したいと思います。

 日本には、分類と表示に関連した法規制がたくさんあり、30くらいの法律が関わっています。しかし、全ての法律が統一的な基準を持っているわけではありません。

 日本における化学物質管理の法規制の特徴は、災害や疾病発生後に同様の事故防止対策として策定されたものが多いです。例えば、労働安全衛生法の中に、特定化学物質等障害予防規則というものがありますが、この中にはかなりの発がん性物質が入っています。これも経験でできた法律です。また、PCBのように社会的な問題になった物質がきっかけで、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律ができたという経緯もあります。
 ところが、物質や作業を列挙し、なおかつ、物質それぞれについて管理方法が決められているのが特徴です。危険有害性に関する情報伝達が定められている場合は、それと同時に措置がほとんど決められています。ところが、GHSは危険有害性に関する情報だけ伝えるシステムです。そうすると、情報伝達とリスク管理が対になっていることを何とかブレイクしないと日本には受け入れられにくいと思います。もう一つは、情報伝達のほとんどが文字によるものなので、外国人は分からないという状況もあります。

 毒劇法には分類基準があります。その他の法律では、物質列挙のような形になっています。ただし、国連危険物輸送・モデル規則は、航空法、船舶安全法にそのまま取り入れられています。

 これは日本の表示例です。

 このように、全て漢字で表されています。

 これは、最初に紹介したラベルですが、ここには労働安全衛生法による取扱い注意事項が、ここには消防法による表示、毒劇法による表示があります。絵が描いてありますが、これはEUの表示を模した任意の表示で、法律で規制されているものではありません。PL法施行以降、業界や企業個別でこのような取り組みが進んでいます。

 これは、トリクロロエチレン500mlビンの裏側ですが、労働安全衛生法による取扱い注意事項が左側にあり、化審法の取扱い注意事項が右側に書いてあります。二つの法律が係っているので、内容はそんなに変わりませんが、併記しなければならない状況です。

 ここに示した絵は、業界や個別企業が独自につけているものです。

 GHSに則るとラベルはこのように変わるのではないかと思います。

 日本のMSDSに関しては、ISOに準拠した16項目を使用していますが、法規制で添付が義務づけられているのは約1000物質です。

 日本の課題は、GHS導入のために対象とする化学品数を増大せざるを得ないということだろうと思います。また、法で規制されていない危険有害性に関する情報の入手が重要になります。日本で今、色々な法律で規制している危険有害性は限られています。そのため、法律間、各省庁間で持っている情報がばらばらです。そうすると、物質の方から見た危険有害性を包括的にする必要があるだろうと思います。あとは、情報伝達とリスク管理との切り離し、法の違いによる重複記載の解消なども必要になります。

 日本のGHSに対する対応として、現在、省庁連絡会議を設置しています。これは、法律を作るためのものではなく、GHSの国連会議のフォローアップを目的として設置されたものです。各省庁では、関連法規について対応を検討しているのではないかという希望的観測でクエスチョンマークをつけています。GHSの日本語への翻訳は、かなり進められていて、ANNEX以外の翻訳はすべて終了しているので、もうすぐ各省庁の関連サイトに出ると思います。また、本日の配布資料にもありますが、パンフレットの作成やセミナーの開催をしています。

 GHSに関する話は色々なところで行っています。しかし最初は、各主体がGHSに関心を示さず、自分には関係ないことだと思っていたようです。そのため、GHSに関心を持ってもらおうと思い、このスライドを作りました。
 産業界は当然関心を持っています。それは、自分たちで化学物質を分類し、ラベルやSDSを作らなければならないからです。労働者や消費者はSDSやらラベルを理解しなければなりません。行政は、関連法規を整備してもらわないと大変なことになります。NGOは色々な関心もあるでしょうし、活用もあるでしょう。
 これは、私の主張ですが、学校教育でも化学物質の危険有害性を教えなければならないと思います。また、学会への要望ですが、30にものぼる危険有害性を一人では絶対に分類できません。しかし、分類をしなければならない状況にありますので、ぜひ学会の先生方も分類のための情報提供をしていただきたいと思います。

 最後になりますが、これがGHSに関する情報のサイトです。ここからGHSのテキストをダウンロードできます。全部で443ページありますが、ぜひご覧いただきたいと思います。以上で、私の話を終ります。

(安井) ただいまのお話に関して、メンバーから意見があったらお願いします。

(後藤) そもそもの大前提として、こんなに化学物質が多いことが大問題で、それを減らすことが最も重要だと思います。なおかつその中でGHSのようなシステムを導入することが重要だと思いますが、そのあたりについて国連で議論されたのでしょうか?
 GHSを一般市民が全て理解をしても、一方で化学物質が大量に生産されているのは間違いのように思います。化学物質を減らしていこうという大前提の中で、なおかつ現実に使っている化学物質についてはGHSのようなシステムを導入することにしないと、交通のマークもたくさんある、化学物質のマークもたくさんあるという状況は少しおかしいように思います。

(城内) どのようにお答えすればよいか分かりませんが、マークのことについて言えば、今まであるものを使うことを基本にしています。GHS独自に2つ増やしましたが、それは仕方がないと思います。GHSは情報伝達をどのようにするかを議論してきたので、この中では化学物質の種類や量を減らす議論はしていません。アジェンダ21の第19条の中で進んでいる面もあると思いますが、それ以上について私から言うことはできません。

(原科) 後藤さんのような意見もあると思いますが、科学技術の発達した世界なので、それを利用したいという利便性の問題もあります。ですが、このような情報が提供されると、危険な物質を識別できるので、消費者が使わなくなり、結果的に減っていくものもあると思います。GHSにはそのようなプラス面があると思いました。
 GHSについて城内さんに3つ質問したいと思います。
 まず、GHSの適用範囲で、全ての危険有害な化学品が対象でも、医薬品、食品添加物、食品中の残留農薬は対象外になっていました。この趣旨は、他の法律でこれらについては対応されているので除外するという趣旨で良いのでしょうか?
 次に、具体的に実施していく方法の中で選択可能方式がありました。まずできることから始めますが、次に拡大してゆくインセンティブはどのように与えるのでしょうか?
 最後に、これらを進めるために、日本は特に省庁間の縦割り制度になっていることによる弊害があるということでしたが、どのように打開すれば良いと思いますか?難しい問題ですが、お考えがあればお願いします。

(城内) 最初の除外の理由ですが、一つは医薬品についてWHO(追って注を付けます。(事務局))等で基準があるため、その適用で問題ないという判断です。残留農薬や食品添加物は、消費者の選択で分かって摂取するものはラベルを付けなくて良いだろうという結論になりました。また、ラベルの付けようがないということもあります。
 選択可能方式という考え方が出てきたのは、現状がそうなっているからです。私が最初にGHSの会議に出たときは、当然輸送にも適用されると思って議論していました。私だけではなく、皆もそう思っていました。しかし、輸送に携わっている方からすると、1950年代から使われてきたシステムで、それに関わってきた人がたくさんいるのに、どうして後からできたGHSに合わせなければならないのかという印象があったようです。それで、今あるシステムは尊重し、選択可能方式と位置づけました。ある国で受け入れられないという意見が出たら、そこでGHSがストップします。それは避けたいので、選択可能方式を採用しています。
 省庁の縦割りの問題ですが、縦割りでやってきたからこそ各々の分野での専門家も育ち、リスク管理がうまくいっている部分もあると思います。法律の中で情報伝達とリスク管理を同時に行っている物質は、今ある表示をGHSに統一するだけで良いと思います。それが現実的な解決策だと思います。現状では、記載の重複や漢字だけの表示になっていますが、GHSに統一することは可能だと思います。
 GHSの翻訳を関係省庁が分担して行っていますが、このような取り組みは初めてではないかと思っています。本当にすばらしいことで、期待しています。

(原科) 情報伝達とリスク管理を切り離すというところがポイントですね。情報伝達だけなので、省庁間の横つなぎができるということですね。それこそ、省庁間のハーモニーですね。

(中下) 質問を4つさせていただきたいと思います。
 まず一つ目として、OECDの基準はGHSの基準と考えて良いのでしょうか?
 二つ目は、GHSの対象は全ての物質ということでしたが、そうすると、企業が自分で作った物質の有害危険性は全てその企業がチェックすることになります。その場合、どんな物質についても、新しいテストは要求されないのでしょうか?そうすると、手持ちの情報がないのでラベルに何も記載しないことがあり得えますが、それは許されるのでしょうか?
 三つ目は、もしそのようなことが許されると、強制力がない、何も罰則がないと本当は分かっている情報をラベルに記載していないこともあり得ます。このような状況でも罰則はないのでしょうか?
 最後に、日本ではMSDSが消費者にまで渡るシステムになっていません。MSDSも消費者まで渡るようなシステムにGHSはなっているのでしょうか?

(城内)  GHSの健康影響と環境影響は、OECDの分類をそのまま用いているので問題ありませんが、OECDで分類していてもGHSの分類項目に入っていないものもあります。GHSの会議で、OECDで分類している項目を追加するか否かについて議論するステップがあります。
 二つ目の質問について、全ての物質とはGHSの分類で危険有害性があると判断された物質です。市場に出回っている化学物質の3割くらいが対象になると発言していた人もいましたが、実際に調べた人はいないので具体的数字は分かりません。
 三つ目の質問について、各国に新規化学物質の調査を行う法律があります。例えば、安全衛生法により変異原性試験を行うことになっています。GHSは、動物保護等の観点から、基本的に試験を新規に行わなくてもよいということになっています。ただし、有害危険性情報がない物質は、その旨をラベルに記載することになっています。罰則は、各国の法規制の問題なので、GHSの中には書いてありません。
 MSDSは、基本的に労働者対応から出てきているので、それを公にするかどうかについては、GHSが決めることではなく、企業や国の政策だと思っています。
 ニュージーランドではGHSが導入されています。当然、皆で情報を共有するということが基本にありますが、企業にデータを出してほしいとお願いすると、「まだ準備できていない」と回答する企業が多いそうです。日本の企業が持っている情報を英語にして世界中に発信すれば、逆に帰ってくるものも多いと期待しています。

(中塚) 資料の中に、世界中には2300万種類の化学物質があると書いてありますが、この数は本当に流通しているもので、表示の対象になり得る数でしょうか?私のイメージではこんなに多くないと思います。一般的には、世界中で10万種程度が利用されていると言われていますが、いかがでしょうか?
 また、急性毒性は数値で出るので判定しやすいですが、発がん性は動物実験で長い実験を行い、最終的な判定は専門家に任されています。非常に複雑な評価が必要で、データの解釈も専門家が行っています。色々な化合物について調べてみると、動物実験の場合、ある一つの化合物に関して色々な評価の見方があります。このような中で、既存のデータで判断するのが難しいのですが、それはMSDSを作成する人の判断に任されることになるのでしょうか?
 最後に、混合物については、リスクアセス的な考え方をすると、難しい問題があると思います。GHSはハザードで表示するのでいいのですが、混合物についても分かりづらい、難しい面があると思います。

(城内) 2300万物質とは、CASに登録されている物質なので、実際に流通している物質数とは違います。アメリカでは、流通している物質が65万種くらいだと言われていますし、日本では産業界がよく使われているのは5万5千から6万種と言われていますので、ご指摘の通りだと思います。
 発がん性の評価等については、勝手にMSDSの作成者が1文献を読んで作るのではなく、例えばIARC(※追って注を付けます。(事務局))などのリストを使うとか、今ある情報を使うことになっています。ただし、新規物質で公的機関の情報がないものは、専門家の判断を仰ぐことになっています。
 混合物の分類は、非常に難しいと思います。純物質でも、危険有害性によっては分類が難しい物があると思います。純物質については、ある程度情報交換がされていますので、当初はばらついても、年数が経てばあるところに収束していくと期待しています。しかし、ご指摘の通り、混合物の分類は難しいと思います。

(吉村) 先ほどの話に重複しますが、2300万種はCASの登録数ということでしたが、実際に化審法では5万種、ヨーロッパでは10万種、アメリカは8万種、その中で重複があるので全体で10万種くらいが登録されていて、実際に流通している物質はもっと少ないと言われています。このような説明の時に2300万種と言われると非常におどろおどろしい数字になってしまうので、実際に流通している数を書いていただきたいと思います。
 後藤さんの発言で、化学物質の量を減らすとありましたが、私はこれに同意できません。それは、原科さんがおっしゃったように、化学物質の有用性は無限にあるかもしれないので、開発して我々の人類の生活に必要なものは役立てていくことが必要だと思います。ですから、減らすという位置づけで私は議論できません。ただし、CASに2300万種登録されていることには意味があると思います。例えば、有害性がある物質を産業界は使わないようにしています。ですから、実際に使っている量は少ないのです。
 例えば、サリドマイドは、催奇形性があるので一度使用を取りやめましたが、がんの治療に有効なので最近は限定的に使われています。ある局面で有害性が出たからそれを全て抹消してしまうという考え方は、少しおかしいのではないかと思います。後から続いてくる人のために、情報を残すためにCASに登録するという意味もありますし、そのときに採られた有害性情報も登録して皆さんが見られるようにする。それによって、次世代の方が有用に使う方法を見いだすかもしれません。ですから、私は有用性を見いだす可能性はまだまだあると思います。ですから、前提として数を減らしていくという考えは少し違うと思います。

(安井) それでは、ここで10分ほど休憩に入りまして、11:05に再開したいと思います。

―― 休憩 ――


(安井) まず、メンバーの退席についてお知らせします。休憩中に農水省の染さん、環境省の滝澤さんが国会関係で退席されました。厚生労働省の鶴田さんも12時頃に退席されます。
 それでは、後半は増沢陽子さんのプレゼンテーションから始めていただきます。増沢さん、よろしくお願いいたします。


(増沢) 鳥取環境大学の増沢です。よろしくお願いいたします。私は、以前にPRTR制度の構築に関わったことがあり、化学物質などのリスク管理と情報について研究しています。私の専門は化学ではなく法律・政策なので、「政策と表示」というテーマで話をした後に皆さんからのご教示をいただければと思っています。

 最初に、「表示」という言葉ですが、製品に付着した形で提供される情報のことを一般的に表示と呼んでいます。主として、一般消費者を対象とした表示を念頭において話をさせていただきます。

 まず、表示の話をする前に、情報についてお話しします。一般的に、環境政策の手法では規制と誘導という分類がなされることがあります。規制はご承知の通り、何か義務を明示し、その不履行に対して不利益を与えることによって履行を担保することです。これに対して、誘導手法とは、肯定的または否定的なインセンティブを与えることによって一定の作為または不作為を誘導するものです。
 誘導手法の中には、経済的手法と情報手法があり、経済的手法の場合は税や課徴金といった経済的なインセンティブを使用します。これに対して、情報手法は一定の情報を提供する、あるいは提供させることによって、相手方の行動を誘導するものです。情報手法の例を挙げると、環境ラベル、環境報告書です。環境報告書自体は政策ではありませんが、法制的に義務化するという話もあるので、こちらが政策としての例になると思います。もちろん、PRTRは典型的な情報手法です。今日のテーマである表示もこの情報手法の一つとしてお話ししたいと思います。

 情報手法に、他の手法や規制等と比べてどのようなメリットがあるかということですが、まずは政策対象者にとって行動の選択の余地が広いという意味で柔軟な手法であるということができます。ここで、政策対象者とは、情報を提供する側と提供される側の両方を意味しています。
 次に、政策対象者の行動は情報、市場、社会的な対話で行動のレベルが決まってくるので、規制のように社会としてどのような水準が望ましいかという情報を行政があらかじめ全て揃える必要はないというメリットがあります。
 三つ目は、いわゆる比例原則という考え方からすると、直接規制に比べて情報手法は強制度が低いということから考えると、比較的リスクが小さい問題、あるいは不確実性が大きな問題への対応が可能になるというメリットがあります。

 それに対して、情報手法のデメリットは、誘導という性格上、相手がどのような行動や判断をするのか、事前に十分な予測ができないので、このような対策や政策をとった結果についてもコントロールすることが困難です。もともと、情報自体がどのように伝わっていくかといった問題もあると思います。

 化学物質の関係で、日本の情報手法の活用例を挙げてみました。
 まずPRTRです。これは、皆さんご承知の通り、行政に提出した排出に関する情報を請求すれば誰でも見られます。市民に対する情報提供としても間違いないと思います。
 二つ目が、MSDSです。これは、市民というよりは職業的な化学物質の使用者を対象としたものです。
 三つ目は、製品の表示です。色々な法律がありますが、具体的に一般消費者を対象にした法律はそんなに多くありません。
 最後に、若干毛色が違いますが、土壌汚染対策法にある指定区域台帳です。これは、原則として全ての人が閲覧可能なので、ある意味では情報を使った社会的対話、あるいは市場の判断に委ねるという情報手法の活用例と考えられます。

 情報手法の中で、表示に限った場合にどのような特徴があるのかについてです。
 最初に、「プッシュ型の情報提供」と書きましたが、想定される相手方に情報、リスクメッセージを伝達するのが容易です。つまり、製品に添付された形で情報が伝わるため、必要な人への情報伝達が容易になります。逆にPRTRは、関心がある人が積極的に取りに行かない限り情報は得られないので、プル型と言えるかもしれません。
 もう一つの特徴ですが、情報に対する応答行動が容易です。表示制度には、製品であれば買うか買わないか、買っても使用上の注意をよく読んで注意して使うか使わないかといった一人一人の行動の変化が集積して社会的な影響を及ぼすという性格があります。PRTRの情報を入手してそれに対して行動を起こそうとする場合に、影響力を発揮するためには組織的な行動も必要になるかもしれないので、情報に対するリアクションの形が違うと思います。
 一つの問題としては、提供できる情報量が限られることがあります。わずかなスペースで必要な情報を提供することになるので、どのような情報をどのような形で提供するかによってかなり相手方の反応が変わってくるという特徴もあると思います。

 化学物質の有害性表示の効果についてまとめてみました。情報を受ける側への影響あるいは効果は二つに分けて考えれば良いと思います。
 一つ目は、リスクを内在する活動、例えば家庭用塩素系漂白剤を使うか酸素系の漂白剤を使うかといったことですが、その際に、他の洗剤と混ぜないようにする、窓を開けるといった、リスクを内在する活動に従事しつつ、リスクを最小限にするよう行動するという形で表示が影響します。
 それに対して、そもそもリスクを内在する活動に従事すべきかどうかを選択する。つまり、表示を見てそのリスクが自分のコントロールを超えていると思うのであれば、そもそもリスクを内在する活動には関わらない。例えば、ある種の漂白剤や殺虫剤は買わないといった選択もあり得ると思われます。
 2つの効果は、表示制度がどちらを目的としているかということとは必ずしも関係ありません。実際に情報を見た方がこのように活動するという意味です。それから、リスクと書きましたが、一義的には健康リスクになりますが、生態系へのリスク、廃棄に由来するリスクについては使う方に起因するリスクを減らすという意味も含まれています。

 次に、表示は情報提供をする側へ影響することも考えられます。すなわち、提供する活動に内在されたリスクを低減するということです。これは、例えば情報受領側の反応をあらかじめ予想して、あるいは市場を通じてある種の反応を得て、それによってリスク低減の行動をするといった効果があると思います。その方法としては、有害性が高い物質からより低い物質に代替する、あるいはその製品のデザインを変えて暴露可能性を低くするなど色々な方法が考えられると思いますが、このように情報提供側の行動にも影響を与えるということが言えます。 

 以上、簡単ですが、化学物質のリスク管理、そのための政策における表示の意義について話してきました。ここからは、海外で表示制度がどのように活用されているかについて少し具体例をご紹介したいと思います。
 まずはEUの分類・表示の制度についてです。物質と調剤それぞれについて根拠となる指令があります。物質の根拠となる指令は、「危険な物質の分類、包装、表示に関する法律、規則、行政規定の近似化に関する指令」です。これは、1967年にできたものですが、何度か改正され、現行のシステムは第7次修正指令によるものです。この指令は、現在は新規化学物質の上市前の審査・届出の規定も含んでいます。ただし、もともとは分類・表示制度から始まっています。
 それに対して、調剤の根拠となる指令ですが、調剤は混合物です。ヨーロッパ市場の化学品の9割程度が調剤だという話もありますが、調剤に関しては物質に関する指令を準用して適用する形で1988年に導入されています。現在は、1999年の指令に全面的に入れ替わっています。

 分類は事業者が行います。EUの域内で分類の表示について合意ができたものは付属書Iに掲載されていますが、付属書Iの掲載物質は同付属書に従って分類し、またそれに応じた表示をすることになっています。それ以外の化学物質、調剤は、製造者等の供給者自らが調査を行い、分類することになっています。新規化学物質は、もともと届出の際に試験が要求されていますので、それに基づいて分類・表示の案を一緒に届け出ることになっています。既存の化学物質についても、入手可能なデータに基づき暫定的な表示を行うことになります。
 こうした分類に応じた表示を行わなければ、危険な物質・調剤を上市することができないとされています。

 表示すべき内容ですが、「物質等の名称」、「供給者」、GHSのデザインのもとにもなった「シンボルマーク」、有害・刺激性といった「危険性の指示」、もう少し詳しい危険有害性に関する情報である「リスク警句」、「安全勧告文」いわゆる使用上の注意です。

 これはシンボルマークの例ですが、左のドクロと右の魚のマークはGHSでも出てきますが、真ん中のクロスはGHSに採用されていないようです。
 リスク警句の例としては、「飲み込むと有害」、「皮膚に刺激あり」といった危険有害性の説明があります。
 安全勧告文は、「目に入れない」、「ガスを吸い込まない」といった取扱い上の注意です。

 EUの表示制度がどのように機能しているかについてですが、どの程度事故が減った、どの程度製品系のリスクが減ったということは、実際問題として評価が難しいですし、適当な指標も残念ながら見ていません。そこで、先ほどご説明した表示の効果、表示に従って行動することによってリスクを減らすということとの関係で、どの程度表示を読み、表示に従って行動を取っているかについて少し紹介したいと思います。
 これは、ECの委託で行われた調査ですが、デンマーク、フランス、スペイン、イギリスの4カ国で、家庭用製品の表示を読むか、表示に従って行動するかについて、消費者に対して電話でインタビューした結果です。これは、表示を読むかどうかについての結果ですが、「いつも読む」、「時々読む」を足し合わせると、9割以上の方が化学品の表示を読んでいるということが分かります。

 どこを読むかということですが、シンボルマークを読む人は多いのですが、危険有害性に関する説明について読んでいる人が非常に多いということが分かります。それに対して、安全使用情報はあまり読まない方が多いです。人によって読む部分に違いがあります。
 なお、このデータにはデンマークのデータが含まれていませんので、サンプル数が少なくなっています。

 この後、ラベルの中身をどの程度理解しているかという項目もありますが、ラベルの中身、危険有害性の種類によって違うため、その部分は割愛します。
 表示の安全使用の指示、S-phraseというのがありますが、それに従うかという質問に対しては、いつも従うという方が3/4以上、時々従うという方も入れると、かなり高い数値になっています。
 この結果を見る限りでは、EUの分類・表示制度については、リスクのある活動に従事する際に、慎重な行動を誘導することによってリスクを低減するということについては、ある程度有効に働いているという感じを受けます。
 このように、表示を見たり活用したりすることについての調査は日本でも色々な製品について行われていまして、いずれもある程度高い数値が出ているのではないかと思います。
 こうした認知に対する調査はかなりありますが、行動がどの程度変化したかという調査結果は必ずしも多くないという印象を持っています。

 今のEUの表示と性格が異なる、これも表示制度の一種といっても良いと思いますが、制度をご紹介したいと思います。
 これはアメリカのカリフォルニア州のプロポジション65というものですが、正式名称は、安全飲料水及び有害物質執行法といいます。
 この中で、警告の義務が一つの大きな柱になっています。発がん性物質と生殖毒性物質だけですが、表示等の警告をする義務が課されます。対象となる物質は原則として有害性評価で選定されます。今、恐らく700物質程度が選定されています。ただし、リスクが一定以下であることを事業者が証明できれば、警告は不要となります。この一定のリスクとは、発がん性リスクが10-5の超過リスクで、生殖毒性については極めて厳しい基準が設けられています。

 プロポジション65の警告文の例ですが、クリアであればどのような警告でもいいことになっています。しかし、それでは事業者も判断に困るので、標準警告文が定められています。例えば、「警告:この製品は、カリフォルニア州にがんを引き起こすと知られている物質を含む」という非常にシンプルな、ある意味ではよく分からない文章となっています。ご覧の通り、物質名が分かりませんし、リスクの程度も分かりません。どのような経路で暴露の可能性があるかということもわからないので、使用時に注意することにはなりません。結局、買うか買わないかという選択になると思われます。

 プロポジション65の効果ですが、情報を受ける側にリスクに関して正確な判断を促すという意味では疑問が多いと言われています。警告文から、なかなかリスクの正確なところ、全体像は分かりません。従って、受け手が正確な判断を促すことは難しいです。ただ、情報を提供する側のリスク低減行動を促すという意味では、いくつか効果があったと言われています。いくつかの消費生活用品について、対象となっている物質からそれ以外への物質への代替が進みました。例えば、食器に含まれている鉛の代替や削減、マニキュア液に含まれているトルエンを別の物質に変えたなど色々な例が報告されています。しかし、果たしてこれが社会としてのリスク削減にどの程度寄与しているかについては疑問です。

 最後に、表示を化学物質のリスク管理に関する政策に活用する際の留意点について、私が考えるところをご説明します。
 まず、表示の内容の正確性を確保するということが前提になると思います。正確にならない時とは、一つには非意図的な誤り、つまり、本当は正確に表示したいのにできないということがあると思います。例えば、表示の基準、あるいは表示の制度が不明確、曖昧である場合については当然誤りが起こりやすくなります。また、データがなくて表示・分類をできないということもあります。このような場合は、データベースの整備、それ以外の技術的支援が必要になってくると思います。
 これに対して、正確性が損なわれるもう一つの場合としては、意図的な不正確な表示を行うということも当然考えられます。これに対しては、監視や執行をどのように行うかが問題になってきます。もともと、表示は情報が広く社会に出るので、関係者間の相互の監視がある程度行いやすいと思います。例えば、EUの場合、監視について同業他社からの通報が違反発見の対象になるという話もあります。
 それから、先ほどのプロポジション65は市民訴訟という形で、ある意味では市民を巻き込んだ監視・執行の体制があります。
 関連情報のデータベースですが、製品であれば、どんな製品にどんな化学物質が含まれているのかについて必要なデータベースを作るといった関連情報の収集整備も重要ではないかと思います。

 表示の内容が正確であったとしても、その表示が相手方に認識・理解されなければ、その表示が判断・行動に結びつきません。表示すべき内容として、リスクについて正確な判断ができるような事項が含まれていることが重要なことです。その上で、分かりやすい表現、レイアウト、分量といった表示の表現形態についても色々な検討が必要だと思います。
 最後になりますが、普及啓発あるいは教育も欠かせないと思います。例えば、スウェーデンはEUの指令にのっとった表示がなされていますが、危険有害性や表示に関しては学校教育の中に取り入れられているという話を聞いています。日本でもある程度包括的・統一的制度が今後整備されるとすれば、こうした普及啓発・教育についても検討していかなければならないと思います。
 以上、簡単ですが、私の報告とさせていただきます。

(安井) ありがとうございました。それではまず、ただいまの増沢さんのお話に対しまして、メンバーからのご質問を受け付けたいと思います。

(原科) 私も環境政策の手段を整理していますが、だいたい同じような枠組みで考えています。規制的な方法とそれ以外の誘導、法の世界では枠組み規制と言いますが、二つに分けられます。また、誘導は、さらに経済的手段と情報的手段の二つに分けられますが、情報的手段の説明であまり効果的ではないようなご発言があったので気になりました。スライドの4枚目ですが、私は情報的手段には色々なレベルがあると思っています。その中で、表示は一番簡単な情報伝達です。しかし、この整理の中に入っていませんが、環境アセスメントも重要な手段だと私は思っています。むしろ、情報的手段の元祖だと思っています。ただし、環境アセスメントは社会の一種の契約で、コミットメントが大変深いので、その場合には政策対象者の判断・行動が予測できます。それから、結果に対してもコントロールできます。そのため、コミットメントが深いものに対しては、情報的手段はかなり有効だと思います。ただ、今それは大変なので、もっと幅広くできる表示は非常に大事だと思います。
 今やっている方法は不十分かもしれませんが、最後に説明された問題点が解消されれば、状況はかなり変わってくると思いますが、その辺はどのように考えていますか?

(増沢) 情報手法について問題があるといいましたが、情報手法が有効ではない、他に比べて劣るという意味ではありません。これは、環境アセスメントの系統ではなく、排出規制を念頭において書きました。排出規制の場合は、規制値が決まっているので、それを達成したか否かで罰則がかかるかどうかが決まります。ある種の定型的な効果を上げる際に予想がしやすいです。しかし、非定型的であって大きな効果を挙げられるアセスメントでは、ここに書いたこととは別の話になってきます。いずれにしても、情報手法についても、当然使い方や場面において大きな効果をあげうると思っています。

(崎田) これから化学物質に関しての情報を整備することは大変重要だと思っています。それとともに、同じくらい重要だと思っているのは、それをどのように交流させ、活用させてです。ですから、情報についてこのようにまとめていただいて非常にありがたいと思っていますが、最後の普及啓発・教育を意識して今後の展開を考えていくような状況を起こしていったほうがいいと考えています。ただし、市民やNGO、NPO、消費者団体がともにやっていくことが大事だと感じています。

(増沢) ありがとうございました。確かに、普及啓発や教育が重要だと思いますが、私がこの面について十分に検討できていなかったのでスライドには簡単に書きました。現状において、必要な情報をどのような形で出していくかが重要だと思い、その点を中心に話しました。

(角田) 情報的手法の活用の場合、情報がどのように出てくるかが非常に重要で、表現手段や伝え方ではなく、公平性が非常にネックになってくると思います。特に、ネガティブ情報の場合、受け手が情報を出している人に対して否定的になってしまうことがあり、かなりの対象者が情報を出さないと読み手は公平に判断できません。そのあたりについて、政策的に公平性を担保しつつ消費者もそれも公平に判断できるには、どのようなポイントが必要でしょうか?

(増沢) 場合によっては、ネガティブな印象を与えかねない情報なので、自主的に出せと言っても難しい面もあり、どの部分の情報を出すかもまちまちなので、少なくともある程度何をどのように出すかに対しては、制度的な裏付け、義務付けが必要だと思います。
 出す情報に第三者の検証を入れるということもあるかもしれませんが、その部分を厳密にやると、そこでかなり時間や費用もかかります。基本的には一定の枠組みを政策的に示した後については、それを見て事業者が情報を提供し、そこでもし何らかの間違いや不適合があれば、出てきた情報を見た人たちが反応することによって直していけばよいのではないかと考えます。

(城内) GHSの視点から答えると、基本的に危険有害性情報を分類してラベルやSDSに書くことは、供給者、製造者の責任で行います。物質の分類の根拠データやそれを使ってラベル・SDSを作った人に責任が問われることがGHS制度です。ネガティブ情報は出したくないといっても、出さないことの責任を問われることになるので、そういうことで、少し是正されると思っています。

(角田) GHSの選択可能方式で、それぞれの部門がその目的に応じてGHSを部分的に活用することとありましたが、例えば消費者保護、環境保護の観点のデータを出していないときに、それが有害だからデータを出さないのかその物質を取り扱っていないから出していないのか判断しにくいです。もし、事業者が自主的に判断して出す出さないを決めるときに、出している所が損をしてしまうのは本来あるべき姿と違うと思い、質問しました。

(城内) 選択可能方式とは、GHSを法制度に取り入れる時に整合性がとれるところから始めてくださいという意味です。GHSにのっとって情報を出すか出さないかというのは別のレベルの話だと思っています。

(後藤) 化学物質は、現実に数が多いので、GHSのような仕組みで統一して分かりやすくしていくことが重要であることは重々承知した上でなおかつ普及啓発が必要だというのもわかります。しかし、GHSのスタートがILOの勧告から来ているということは、職業上の注意で安全を図るという観点から消費者を含んでいます。労働者に対するラベルや警告を分かりやすくすることと消費者に対して分かりやすくすることは必ずしも一致しないのではないかと思います。また、事業者はラベルで情報提供をしているので、市民が間違えて使った場合も免責理由が立つことになります。職業上でGHSを使う場合と消費者へ使う場合とで別のサポートする仕組み、例えばオーフス条約を批准するといったような色々な条件を付けないと、このようなシステムの普及啓発を図るだけでは問題だと思います。

(増沢) ご質問の趣旨を正確に理解しているかどうか分かりませんが、職業上と消費者向けでは当然対象者の特性が違います。どのような表示が分かりやすいかについても違うと思うので、そのような配慮は必要だと思います。ただし、同じ物質が同じように含まれている場合、同じ表示があること自体、情報共有の面からは悪いことではないと思います。それを見た方それぞれの観点からが判断するということだと思います。ご質問の答えになっていますでしょうか?

(後藤) 少し趣旨が違うので、総合討論でもう一度お話ししたいと思います。

(城内)  ILOがもとになっているので、職業用に偏っているのではないかというお話でしたが、GHSのラベル・表示については、GHSの委員会のメンバーはそのように思っていないと思います。ILOではそのような動きがありましたと紹介しましたが、GHSのラベルを考えるときには色々な立場の人が参加しています。OECD、WHO、FAO(追って注を付けます。(事務局))、各国の専門家、業界団体、労働組合など、NGO、政府代表、国際機関の枠組みの中で代表者に声をかけて議論をしたという枠組みです。労働者向けのラベルや消費者向けのラベルという意識はなく、皆が分かるラベルを作るという位置づけでやってきました。SDSは確かに労働者向けですが、ラベルについてはそのような意識では決めていなかったと思います。

(原科) 後藤さんの質問の趣旨は、労働者は判断するだけの情報を十分に持っている環境にあるためそのような情報提供を行っても十分に対応できますが、一般市民の場合には情報が十分にないため対応できないという意味だと思います。その場合、増沢さんの発言にあったように、普及啓発や教育が非常に重要で、そのあたりと連動する話だとおもいます。もう一つは、普及啓発や教育だけでは少し弱いのは、相互理解のために、インタープリテーションといった役割を果たす人材や組織が必要になってくると思います。

(後藤)  PL法の話も先ほど出ましたが、表示をすれば一種の免責条件になります。消費者に、普及啓発も表示もしている場合、事故が起きたときに被害者救済になりません。そうすると、消費者を救済するためには、情報へのアクセス、司法へのアクセス、市民参加とリンクしてこのようなシステムを普及していかないと、ただ普及させるだけでは問題があると思います。

(有田)  EUで使用されていたクロスのマークはGHSのマークとして採用されていませんが、国際的な場面ではかなり使われています。このマークがGHSに採用されなかった経過、今後採用される可能性について情報があれば教えてください。

(増沢) 先ほど紹介した理解度調査でどのマークが分かりやすいか調査をしたところ、クロスのマークは分からないという人が多かったようです。それも一つの理由だと思います。

(城内) 増沢さんの回答で良いと思います。ヨーロッパではよく知られていますが、アフリカでは全然理解してもらえなかったということだと思います。

(有田) 理解度の問題ということはよく分かりました。そのほかに理由があればと思い質問しました。GHSと同じマークの中に、かなり広く使われていて、現実にPL法関連の取扱い情報のマークとして扱われているものもあります。このようなマークがあるからと業界団体の方が反対されたのではないかと思いました。

(中下) 二つ質問させてください。一つは、EUの表示の有効性ということで、アンケートの結果から表示がかなり有効であることが分かりましたが、プロポジション65では、消極的な評価になっています。この二つにはどのような違いがあって、評価が変わってきているのでしょうか?
 二つ目は、城内さんから表示とリスク管理は切り離して考えたらどうかという話がありました。でもやはり、情報の部分はリスク管理と切っても切り離せない部分だとおもいます。日本では、絵の表示が少ないということでしたが、それとリスク管理の関係で根拠があるのかどうかが分かればお教えてください。

(増沢) EUの評価を高く、プロポジション65を否定的に評価しているわけではありません。表示制度にはいくつかの機能があり、リスクのある活動に従事しながら表示に従ってリスクを減らすべく行動させる、表示を見てリスクに関わる行動をするか否かを判断させるという方向があると思います。
 前者に関して言うと、EUは詳しく情報が出ているので、実際にラベルを読んでその記載内容に従って行動している人が多いという意味において、ある程度有効だと説明しました。同じことをプロポジション65で見てみると、表示に発がん性物質が入っているか否かが書いてあるだけなので、リスクコミュニケーションという意味では少し問題があると説明しました。
 その一方で、もともとプロポジション65の表示は、起草者に言わせると、非常に複雑な表示を全て理解して判断するのはむしろ無理であり、単純な表示を見て行動を取るか採らないかという判断をしてもらえればよいと考えていたようです。そのような意味では、成功と言えるのかもしれません。実際に市場の洗礼を受けたからか事業者があらかじめ心配したか分かりませんが、色々な代替の例は広く知られているので、後者の意味ではプロポジション65は効果があったと言えると思います。

(中下) 両者の違いは、絵表示がない、リスク警句の書き方が違うという2点でしょうか?

(増沢) 表示の表現に関する主な違いとしては、その通りです。

(城内) GHSを会社が使って情報提供する分には何の問題もないと思いますが、私の論点は、これを法律に入れようとしたときには、二つを切り離さないと今の法体系にそぐわないということです。つまり、日本の法律はリストアップした物質に措置が付いていますから、その措置をGHS適用の物質に全て対応させるのは難しいです。そうしたときに、ハザードの大きさと生産量等から現在の法制度はできているので、それと整合させようとしたときには、現状のままではある程度切り離さないと難しいという意味で言いました。ですから、レスポンシブルケアの一貫としてGHSを取り入れるのは全く問題ないと思います。

(中下) 日本の制度がGHSの表示に従ったとき、リスク管理に支障を来すことはあるのでしょうか?それとも、現行法で表示の部分だけGHSに従えば少なくともすぐ実行できるのでしょうか?

(城内) GHSを導入することとリスク管理とは全く別の問題だと思います。情報提供することでリスク管理しやすくなることはあると思いますが、逆はないと思います。

(中下) GHSは一つの枠組みの中の情報提供になるので、その枠組みからはみ出る部分はないということでしょうか?

(城内) GHSの枠組みからはみ出る危険有害性はたくさんあります。ただ、その危険有害性は、それほど大きくないという理解でGHSの枠組みができています。例えば、体重1kgあたり、何十gも摂取して大丈夫な物質はGHSの対象から外れています。

(中下) それはそもそもGHSから外れていますが、日本の法制度との関係ではどうでしょうか?

(城内)  GHSのカテゴリーに日本の法制度のカテゴリーを入れようとすると、かなり不十分、埋まらない部分が多いでしょう。

(瀬田) 今回のGHSの話、国連でこのような勧告が行われた背景には、資料2-1の5枚目のスライドにあるように、世界中に2300万種の化学物質が存在し、毎年110万人が労働災害で死亡する、その1/4が化学物質によるとあり、この説明を受けて驚きました。これらが基本になって、GHSの必要性がでてきたのでしょうか?
 二つ目は、このILOの数字はどのような背景に基づいているのか、日本で考えた場合に、この数字をそのまま受け入れてこのような議論をすることが正しいのでしょうか。
 三つ目は、化学物質には天然由来と合成由来がありますが、GHSは合成由来を対象にしているのでしょうか?
 四つ目は、この議論が円卓会議で行われているということは、日本でGHSのシステムがそのまま導入されるという方向に進んでいるのか、省庁間でそれについてある程度の合意がなされているのでしょうか?

(福水) 滝澤さん資料1のパンフレットの最後のページに、「今後各国で導入されていく予定であり、国際的には、2002年に開催されたヨハネスブルグサミットにおいて、2008年までの実施が目標とされています。また、日本をはじめアジア太平洋経済協力(APEC)に属している国々では、2006年までの実施が目標とされています。」とあります。また、「環境省では関係省庁と協力し」とありますが、まさにこの方向に動いているのは間違いありません。現に省庁間連絡会議があるので、そこで今議論しているという状況です。
 もともと、GHSはEUや危険物輸送の場合に、言葉が違う人には何が入っているのかが分からないので、絵を付けて危険物輸送をコントロールしようというところから始まっています。EU内でも言葉が違うので、全く無知の人が分かるように絵を付けるところから始めています。
 この制度は、二人の方からお話があったように非常にフレキシブルにできています。ところが、言っていることは非常に包括的です。全ての物質に対して、混合物に対してもこれを適用しようということです。これは理想としてすばらしいと思います。しかし、実際それができるかというと、皆できないと思っています。ですから、できるところからやりましょうと言わざるを得なくなっていますし、選択方式のように、“いいとこ取り”でもいいことになっています。
 また、この制度は規制ではありません。できるところからやっていくことになっています。ここが、GHSの非常にフレキシブルで、ある意味では融通無碍な概念が入っていると思います。
 では、この制度を日本でどのように導入するかについては、「関係省庁と協力し」と書いてありますが、情報伝達とリスク管理を切り離して適合できるところからやっていくという意見と公平性や第三者による透明性や罰則規定などを求める意見とが出ています。
 日本の今の規制法は、規制対象となる物質を決めています。また、例えば高圧ガス保安法は、圧力だけを見ています。水生生物への影響や健康被害は全然考えていません。そのような法律がいくつもあります。個人的な感覚では、1000物質程度について絵を入れて表示することはそんなに難しくないと思いますが、全ての評価項目について判断することは難しい、判断するための情報があるのか、別の事業者が同じ物質について同じようなラベルを作れるのかといった問題点があります。
 現在、日本の法律で表示を規定しているものは、表示しないと罰則があり非常に厳格な仕組みを採っていますが、その辺をどのようにするか話し合っています。また、法律で対応している物質が1000程度ということですが、それ以外の物質にどのように対応させていくかも検討しなければなりません。それで作った仕組みが、実行できなければなりません。例えば、日本では混合物を町工場などで調合していますが、その人達にデータを集めさせてラベル表示をさせることが実行可能なのかどうか現在鋭意検討を行っています。

(城内) 2300万種は私が調べて出した数字です。スライドの10枚目に示した頭から4項目までが、GHSを導入したメリットとして正式に発表しているものです。GHSを策定する段階で色々な議論を行って、ILOの話も出ましたが、最終的にGHSの文章からは消えています。
 日本の現状は、データもいろいろあると思いますが、労働安全衛生法で行けば、現在1万以下の業務上疾病のうち、3~4%が化学物質による労災補償を受けています。ただし、普通の機械製作切削油で手荒れしたといったレベルの報告はほとんど上がってきていませんので、母集団としてはもっと多くなると思います。これが日本の現状です。
 対象とする化学物質ですが、化学物質として定義されている物質や混合物は、天然、合成に関わらず対象だと理解しています。

(安井) 場合によっては、もう少し詳しいデータを出してもらった方が良いのかもしれませんね。例えば、労災で、硫化水素による被害が年間何件あるといった内容の話です。

(瀬田) 化学物質に関する情報は重要ですが、それと同じようにその情報をどのように使うかが大事です。それで、最初がハザード情報、次がリスク管理の情報と位置づけて説明されたのだと思います。城内さん、増沢さんはGHSについて非常に知見が豊富ですし、色々な場所で講演もされていると思いますが、ハザード情報だけを与えられると、市民は驚くことが多いと思います。この場では、リスクの議論を主にしてきましたし、城内さんや増沢さんの話はインパクトが大きいと思いますので、是非、ハザード情報と同時にどのようにリスク管理の話に持って行くかを付け加えて話をしていただきたいと思います。

(嵩) 我々流通、例えばスーパーマーケットの立場でお話を聞いて、二つの問題があると思いました。一つは、流通という立場から、消費者へどのように伝えるか、啓発の部分を担っていくという点です。もう一つは、日本中に1000~2000の店舗があって、そこで働いている8割くらいが主婦です。そうすると、労働者と消費者と切り分けて話を進められていましたが、私たちの立場からするとこの両者は同じです。
 流通業界は、MSDSに関して専門的な知識を持つ社員が少ないので、MSDSをアクションにつなげていくのは苦労するところです。コンプライアンスには、リスクマネジメントの意識はあると思いますが、やはり普及啓発・教育という言葉はその通りだと思うし、それは意識啓発よりも逆にアクションにつなげるための主要な部分の理解が必要になると思います。そのような意味で、GHSの動きは歓迎していますし、流通の立場からはユーザーの立場になるのでその点において非常に期待しています。

(有田) 本日、資料を出させていただきました。先ほどから疑問に思っているところからお話をさせていただきたいと思います。GHSの原稿を書くに当たって、消費者の立場としてGHSについて研究する場所に参加させていただく機会がありました。そのとき、リスクコミュニケーションを化学工業会の方と進めている中で、化学工業会がどのように動くのかたくさんの疑問が出てきました。生活協同組合の職員も「情報がちゃんと出ていないとドクロマークがつくのではないか、売れなくなるのではないか」というような懸念を持っているようです。ところが、ホームセンターやスーパーマーケットで調べてみたら、現実にGHSのマークが付くような製品はそんなにありません。
 また、農薬工業会に、GHSが導入されたら化学メーカーはどうなるかについて質問の電話をしたところ、すごく丁寧に良い対応をしてくれました。しかし、「取扱い情報、PL情報については今後も検討していくけれども、GHSは怖いマークが付くのでやりません」といった回答でした。また、日本は化学品を非常に大量に生産・輸出していて国際的取引があるので、国際的動向についてはどのように考えているのだろうと思い、「十分な教育を受けた人ばかりではないので、逆にマークを付けた方が分かりやすいのでは?」と聞いたところ、「英語で表記した袋に入れて、現地で容器に詰めるので問題ない」という回答でした。また、園芸用農薬を使用する私たちは素人ですが、農家の方は専門家と認識されているようでした。このような回答を得て逆に疑問を感じ、色々な難しいことはあるかもしれないけれど、分かりやすい統一マークは必要だと思いました。また、マークを付ける一般ユーザー向け商品はほとんどないことを考えたら、逆に消費者が労働者になる可能性から、最初から分かりやすいマークを付けておいたほうが世の中のためになると思いました。

(崎田) 家庭にある化学品には丁寧な表示がなされていますが、字ばかりで読みこなすまでにずいぶん時間がかかる状況です。GHSが導入されてラベルが絵と文字で統一されていくと、普段の生活の中で使いこなす、きちんと選択をするときに役に立つと思いますので、産業界の皆さんが積極的に考えていただけると嬉しいと思っています。産業界の方も、実際の取り組みをこのような場で紹介したり、社会全体で化学物質の管理を行い、リスクを削減して、私たち消費者もそれとつきあって暮らしの中で見つめていくという状況が、このような場を通じて広がればいいと思います。

(安井) ありがとうございました。そろそろ時間です。第10回会合については、ビューロー会合で協議をさせていただきたいと思います。
 それでは、本日の会議はこれで終わりにさせていただきます。ありがとうございました。