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環境省保健・化学物質対策科学的知見の充実及び環境リスク評価の推進化学物質の内分泌かく乱作用に関するホームページ対談・コラム >コラム・エッセイ(27)

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内分泌かく乱化学物質を扱う 欧州における規制に向けた取組みの進展

コンサルタント
イギリス
マイケル・ロバーツ、クリスティーナ・ライ
(2016年3月25日 掲載)


マイケル・ロバーツ氏 クリスティーナ・ライ氏

 内分泌かく乱化学物質(EDCs)は、ホルモンや内分泌系をかく乱して有害影響をもたらす可能性がある環境中化合物であるが、その影響は1940年代には起きており、ある種の鳥類で卵殻が薄くなったり、卵が割れたりする現象が報告されている(Vethaak and Legler、2013)。欧州では他の地域と同様に海棲軟体動物ヨーロッパチジミボラ(Nucella lapillus)の個体数の著しい低下が認められてきたが、これは、1980年代から1990年代にかけて、防汚剤塗料成分のトリブチルスズへのばく露による雌の雄性化が原因とされている(Gibbs & Bryan、1996; Matthiessen & Gibbs, 1998)。Lyeら(1997)は、英国のタイン川(River Tyne)河口に分布する雄ヨーロッパヌマガレイ(Platichthys flesus)の卵黄蛋白質ビテロゲン誘導は下水場からの排水へのばく露に関連することを示した。英国の淡水域及び河口域に棲息する魚類を対象に更に調査したところ、排水中の多くの化学物質による女性ホルモン様作用による雌性化影響が広範囲に及んでいることが判明した(Jobling & Sumpter, 1993; Jobling, 1998、2002; Matthiesenら2002; Kirby, 2004; Stolzenberg, 2013)。沿岸水域における海棲魚類の雌性化も認められた(Allen, 1999; Bateman, 2004; Stentiford & Feist、2005; Scott, 2007)。他の水域では、クラフト製紙工場下流の雌カダヤシ(Gambusia affinis holbrooki)に典型的な男性ホルモンの影響である臀鰭の雄性化が認められ(Howell & Denton、1989; Cody & Bortone、1997; Bortone & Cody、1999; Parks, 2001)、パルプ製紙工場排水が雄雌魚の生殖能力を抑制し、結果として生殖能力を阻害する可能性についても示された。排水中の内分泌かく乱作用が塩素消毒処理の中止後や高度処理の導入後も認められることから、木材中の化合物そのものによる影響であることが示唆された(Munkittrickら1998)。更なる調査から加工木材パルプから遊離したステロール類に疑いが絞られた。河川水及び底質中の細菌がステロール類を男性ホルモン様物質に変換しており、それが河川水中に混入し、魚類の発達に影響を及ぼしていた(Jenkins, 2001、2003)。

 このような懸念から、1998年に欧州議会は欧州委員会(EC)に対し、欧州連合(EU)内の立法上の枠組みの改正を求める決議を採択し、1999年9月に内分泌かく乱化学物質に対するEU戦略(Community Strategy (COM 1999 706))が採択された(Stolzenberg, 2013)。

EU 戦略(Community Strategy COM 1999 706)

(http://www.europarl.europa.eu/meetdocs/committees/envi/20000418/123706_en.pdf)

 これは、短期的、中期的及び長期的アクションによって、重要な要請事項である、研究の展開、国際的な協力、パブリック・コミュニケーション及び時宜を得た政策対応を実施するための戦略である。

 短期的アクション(1~2年)は、内分泌かく乱化学物質優先リストの作成、リストに挙げられた化学物質のモニタリング計画、情報交換と国際的協調、一般市民への情報提供及び利害関係者に対する相談窓口提供を目的とした。

 中期的アクション(2~4年)は、内分泌かく乱化学物質の同定と評価、新規の改良型試験方法の開発のほか、作用機構、因果関係、リスク評価・ばく露評価及びモニタリングツールに関する研究開発を目的とした。

 長期的アクション(4年以上)は、内分泌かく乱作用を考慮し、化学物質のみならず消費者、健康及び環境の保護についても包括するべく、現行のEU化学物質、消費者の健康保護及び環境保護に関する立法措置の制定または改正を目的とした。

 本戦略は進捗状況を定期的に報告しており、最近では2011年8月に報告書を公表している。 (http://ec.europa.eu/environment/chemicals/endocrine/pdf/sec_2011_1001.pdf参照)

 この報告書の結論のひとつとして特記されるべきことは、多くのEUの立法では特別条項を設けているが、内分泌かく乱化学物質の同定及び評価の検討方法について合意形成が必要であること;EUの立法措置では内分泌かく乱化学物質の累積的影響を包括的に評価する機会は限定されているとされた点である。

EU内での内分泌かく乱化学物質の立法的な枠組みの現状と近年の重要な変更

 既に指摘されている通り(Stolzenberg, 2013)、EU戦略における優先リスト作成では、内分泌かく乱化学物質及び内分泌かく乱化学物質と疑われる化学物質の大半は、内分泌かく乱化学物質に関係づけられているか否かにかかわらず既にEUでの規制または立法措置の対象となっていると結論された。

 EU戦略では、種々の立法措置への内分泌かく乱化学物質に関する特別条項の追加がなされた。水枠組み指令(WRD: Water Framework Directive, 2000/60/EC)1 、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH: Registration、Evaluation、Authorisation and Restriction of Chemical Substances, 1907/2006)2 、植物保護製品規則(PPPR: Plant Protection Products Regulation, 1107/2009)及び殺生物製品規則(BPR: Biocidal Products Regulation, 528/2012)が該当する。内分泌かく乱化学物質を扱う条項は、化粧品規則(Regulations on Cosmetics, 1223/2009)3 及び医療機器規則EC提案4 にも追加されている。

1 http://ec.europa.eu/health/endocrine_disruptors/docs/wfd_200060ec_directive_en.pdf
2 http://ec.europa.eu/health/endocrine_disruptors/docs/reach_1907_2006_regulation_en.pdf
3 http://ec.europa.eu/health/endocrine_disruptors/docs/cosmetic_1223_2009_regulation_en.pdf
4 http://www.ft.dk/samling/20111/almdel/suu/bilag/225/1085257.pdf

 REACHは、内分泌かく乱化学物質に対する主要な法的措置の一つである。REACHにおいて高懸念物質(SVHC)とされた化学物質は、認可対象物質とされ、厳格な条件の下での限定的用途について認可されない限り使用できなくなる可能性がある。内分泌かく乱性を有する化学物質についても、以下のいずれかの物質と同等の懸念があると個別的に判定された場合は、REACHの認可手続の対象となり得る。

  • 発がん性物質、変異原性物質、生殖毒性物質(CMRs)
  • 残留性、生物蓄積性及び毒性を有する物質(PBTs)
  • 高残留性かつ高生物蓄積性の物質(vPvBs)

 REACHではEUが内分泌かく乱性に関する認可を点検する立場にある。

 EUの法的措置全体を見渡すと、内分泌かく乱化学物質の有害影響及びその因果関係に関して実に様々な定義が存在する。既に指摘されている通り(Stolzenberg, 2013)、EU規制の枠組みにおける基本的な考え方は、ハザード(ある化合物が有害性を引き起こす固有のポテンシャル)の同定とリスク(その化合物へのばく露によって害が生じる実際の可能性)の評価とが前提となる。だが近年のEU法規制における変更によって、リスクベースからハザードベースへの取組みに移行しつつある。とりわけ、植物保護製品規則と殺生物製品規則においては、その傾向が強い(以下を参照)。

http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1456663246430&uri=CELEX:32009R1107
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?qid=1456663246430&uri=CELEX:32009R1107

 植物保護製品規則においては、非標的生物に対する内分泌かく乱性を有する化合物は、以下のいずれかの条件に該当しない限り、活性成分、毒性緩和剤または共力剤として使用できない。

  • ばく露が無視できるほど小さい
  • 植物への深刻な危害を食い止める必要性があり、他の代替手段(非化学的手段を含む)がない(最大5年間に限定)

[注: 規則 (EC) No 1107/2009では、「毒性緩和剤(safeners)」を「植物保護製品の植物への毒性を消去または低減する目的で植物保護製品に添加される化合物又は組成物」と定義。また、「共力剤(synergists)」を「それ自体の活性はないか微弱であるが、植物保護製品中の活性生物の活性を増大させる化合物又は組成物」と定義
 (http://ec.europa.eu/food/plant/pesticides/legislation/docs/qanda_regulation_1107-2009_en.pdf)]

 殺生物製品規則においては、有害影響を引き起こす内分泌かく乱性を有する化合物は、以下のいずれかの条件に該当しない限り、認可されない。

  • 特に閉鎖系、ヒトの接触や環境への放出があり得ない条件において、リスクが無視できる
  • ヒト、動物、環境の健全性のために必須である
  • リスクよりも、社会に対して多大な負の影響が生ずる

 内分泌かく乱性を有する化合物については、一般市民による殺生物剤としての用途を認めない。

規制上の定義(クライテリア)の必要性と関連課題

 内分泌かく乱化学物質の規制をこのようにリスクベースからハザードベースに変更しようとする際、いくつかの問題が生じてくる。おそらく最も重要な事項は、「内分泌かく乱化学物質」とは厳密には何をさすのか、であろう。いくつもの科学的定義が存在するが、最も広く受け入れられているのは世界保健機関(WHO)/国際化学物質安全性計画(IPCS) (2002)による次の定義である。

「内分泌かく乱化学物質とは、外来性の物質または混合物であって、内分泌系の機能を変化させ、その結果として健全な生物、その子孫、その(準)個体群に対し有害な影響を引き起こすもの」

 だが、法規制に用いるには幅広い定義であり、国際的にもEU内においても法規制上正式な内分泌かく乱化学物質を同定するクライテリアは存在しない。植物保護製品規則及び殺生物製品規則は内分泌かく乱化学物質を同定するクライテリアを定める権限をECに託しており、またECはそのような要請を欧州理事会及び欧州議会からも幅広く受け続けてきている。更に、ECワーキングプログラムが2012年に開始した内分泌かく乱化学物質に関する新しいEU戦略の展開において鍵となる要素として、横並び型(EU法的措置において横断的に用いられるような)クライテリアがあげられる。

 内分泌かく乱化学物質に関する多くの問題について合意がなされている一方、いくつかの点については、科学者側及び規制者側の内部では依然としてさまざまな見解がある。発がん性、変異原性、生殖毒性などの内分泌かく乱作用でない影響を「Lead Dose」として規制に取り込むべきか否か、ポテンシーを考慮するか否か、ハザード同定の一部として実施するのか、ポテンシーを考慮するのなら「cut-off」クライテリアとなるのか、または証拠の重み (Weight of Evidence)を検討する上での一部分となるのか、内分泌かく乱化学物質のカテゴリーを定めるのか、その場合はいくつのカテゴリーとなるか、などである。

 また、以下のような科学的問題が未解決のままである。

  • 既存の内分泌かく乱化学物質に関する試験法が適切であるか否か(現行試験法は不統一であり、不完全であって内分泌かく乱化学物質の潜在的影響のすべてを把握しきれていないとの批判がなされてきた)
  • 有害影響の閾値は存在するか否か、あるいは測定可能か否か(化学物質がどのような道筋をたどって規制されることになるかは、閾値を巡る議論が左右することになるであろう。内分泌かく乱化学物質に有害影響の閾値があると規制者側が判断すれば、REACHを適切に運用することによって内分泌かく乱化学物質の認可が検討されることになるであろう)
  • 非単調用量相関(NMDRs)や低用量毒性をどのように扱うか(従来検討されているよりはるかに低濃度での有害影響であって、毒性学基本概念の範疇外である)
  • 混合物影響をどのように扱うか(複数の内分泌かく乱化学物質への同時ばく露により予想外の有害健康影響をもたらすかもしれない)

 試験プロトコールについては、主に経済協力開発機構(OECD)において広範囲にわたる国際的開発プログラムが進行してきた。この点をふまえ、欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)の科学委員会は最近以下の声明を出した。
(http://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/doc/3132.pdf)

  • 内分泌かく乱化学物質の重要ハザードを同定及び特性化しようとする際、十分に完成されたとみなされる一連の試験法が既に(もしくは間もなく)利用可能である
  • これらの試験法は安全な用量・濃度を設定する目的に基本的に合致する
  • したがって内分泌かく乱作用は、ヒト健康や環境の見地から懸念される他の化合物と同様に扱うことができ、リスク評価の対象とすることが可能である

 有害性の閾値については、欧州委員会共同研究センター(Joint Research Centre)の内分泌かく乱化学物質に関する専門家諮問グループ(Endocrine Disrupters Expert Advisory Group (ED EAG))による最近の報告書において、内分泌かく乱化学物質にも閾値が存在しそうだという点では合意がなされているが、科学者側の広範な見解を反映するような合意形成には至っていないとも述べてられている。
(http://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/bitstream/111111111/32062/1/lb-na-26-068-en-n.pdf)

 ECは、最終的な内分泌かく乱化学物質のクライテリアが公表されれば、認可に係る閾値の試験ガイダンスが作成されると見込んでいる。

暫定クライテリア、委員会ロードマップ及びコンサルテーション

 既に2013年にECはクライテリア作成の要請を受けているが、これはEU加盟国間の合意によるものではなかった。一方で、次のような暫定クライテリアが採択されている。

 クライテリアの採択を見送るにあたり、EC規則No 1272/2008の規定により発がん性カテゴリー2及び生殖毒性カテゴリー2に分類されている、またはされるべき化学物質は、内分泌かく乱性を有するとみなす。

 更に、EC規則No 1272/2008の規定により生殖毒性カテゴリー2に分類され内分泌器官に有害影響を有する化学物質は、内分泌かく乱性を有するとみなす。

 ECは2014年6月にロードマップを公表し、クライテリア及び規制判断に向けた取り組みに関するオプションを立案した。
(http://ec.europa.eu/smart-regulation/impact/planned_ia/docs/2014_env_009_endocrine_disruptors_en.pdf)

クライテリア同定に向けた4オプションが立案された。

オプション1 政策上の変更なし(ベースライン)。クライテリアを設定せず、暫定クライテリアの適用を継続する。
オプション2 WHO/IPCSによる定義を適用。規制はハザード同定のみに基づく。
オプション3 WHO/IPCSによる定義を適用するが、科学的根拠の強度に基づいた分類も追加する。カテゴリーIに内分泌かく乱化学物質、カテゴリーIIに内分泌かく乱化学物質と疑われる物質、カテゴリーIIIに内分泌活性化学物質が分類される。
オプション4 WHO/IPCSによる定義を適用するが、ポテンシーを組み込む。ハザードの同定及び特定化が必要となる。

 別の視点(アスペクトII)では規制判断に向けた取組みとして3オプションが立案された。

オプションA 政策上の変更なし(ベースライン)。規制の結果に関する殺生物製品規則及び植物保護製品規則における規定は変更なし。
オプションB 規制条項にリスクアセスメントのさらなる要素を導入。管理手段はハザード同定のままとするが、無視できるばく露よりも無視できるリスクを対象に植物保護製品規則の例外条項を設けるなど、潜在的な社会経済的影響の低減を主眼とする。
オプションC リスク-便益分析など、さらなる社会経済的考慮を規制条項に盛り込む。製品の禁止によって社会に著しく不都合な影響が及ぶ場合には例外を認めるよう植物保護製品規則を改正するなど、不都合な社会経済的影響を防ぐためには内泌かく乱化学物質が不可欠な場合には製品を許可する。

 ECが定めるクライテリアは、植物保護製品規則及び殺生物製品規則を直接適用されるものであるが、この問題が内分泌かく乱化学物質を対象とした特別な条項をもつ他のEU規制にも影響が及ぶことに注意せねばならない。

 ECは2014年9月から2015年1月にかけて上記オブションに関するパブリックコンサルテーションを実施した。
(http://ec.europa.eu/dgs/health_consumer/dgs_consultations/food/consultation_20150116_endocrine-disruptors_en.htm)

以下の事項について情報提供が求められた。

- クライテリアの4つのオプションによる評価
- 規制に向けた3つの取り組みそれぞれを適用した場合の評価

 医療、農業、製造業、NGO、学会及びEU内外の行政担当者等、社会の広い分野から27,000件超の意見が寄せられた。うち約25,000件は同様の内容であり、組織的なキャンペーンによるものであった。2015年2月には全意見が公表され、7月にはその分析結果が公表された。
(http://ec.europa.eu/health/endocrine_disruptors/docs/2015_public_consultation_report_en.pdf)

 分析結果から、次のように結論している。寄せられた意見を総合すると、EUは内分泌かく乱化学物質クライテリアを同定する必要があるとするものであり、特別なクライテリアを設けないオプション1は支持されなかった。その他、クライテリアを定義するオプションに対する賛否、内分泌かく乱化学物質をどのように規制するかに関して広範な見解が寄せられた。食品安全上の懸念、内分泌かく乱化学物質がヒト健康や環境に及ぼす脅威、オプションによって想定される農業、産業、健康及び環境への不都合な影響に関し、幅広い意見が寄せられた。特に農家や農薬業界は、農業分野で内分泌かく乱化学物質の同定クライテリアを設定する場合に生じる潜在的な悪影響を強調している。EU外の行政担当者は貿易に対する潜在的影響を特に指摘している。農家、企業、産業貿易組織、EU外の行政担当者を含む多くから、内分泌かく乱化学物質をリスクベースで規制する取組みが提案された。EU外の行政担当者は、内分泌かく乱化学物質に関するいかなる決定も世界貿易機構(WTO)の原則を遵守するよう求めている。

現在の進捗状況 インパクトアセスメントと予想工程

 内分泌かく乱化学物質の規制クライテリアの定義がなされると、重大な影響が社会に及ぶ。コンサルテーションで示されたような広範な見解があり、第三国においては規制力をもつクライテリアもない。このことから、委員会は、標準的手法でのインパクトアセスメント(IA)を実施することが余儀なくされた(http://ec.europa.eu/health/endocrine_disruptors/impact_assessment/index_en.htm)。インパクトアセスメントの目的は、健康、環境、農業、貿易及び社会経済全般への影響についての理解を深めることである。とりわけ深刻な影響が想定された分野は、主にハザードベースによって規制判断がなされる植物保護製品であったが、他の条項(例えば殺生物剤)においてはそれほどでもなかった。インパクトアセスメントは完全な評価を意図したものではく、あらゆる結論を排除するものでない。欧州委員会共同研究センター(JRC)はインパクトアセスメントに基づきスクリーニング方法論を開発した。現在、植物保護製品規則、殺生物製品規則、REACH、化粧品規則及び水枠組み指令に該当する約600の化学物質を対象に独立の外部契約業者による試験が進行中である。全体的なインパクトアセスメントを実施するためには、規制評価報告書、広範なデータベース及び焦点を絞った文献検索等、様々な情報源を利用せねばならない。パブリックコンサルテーションや利害関係者会合での意見も取り入れなければならない。

 2015年5月には化学物質スクリーニングが開始され、農業・貿易、健康・環境、中小事業者(SMEs)、産業及び行政を対象としたインパクトアセスメントを2016年2月までに終えることとされた。これは、インパクトアセスメントの結果が2016年9月末には得られる見込みであることを意味する。だが、ECがクライテリアの開発全般を行うべきと考える加盟国がある一方、所要時間の長さが批判されてきた。2015年末のEU一般裁判所での判決に続き、2016年2月に欧州議会で議論された結果、期限が早められ、目下、2016年夏までにはクライテリアが提出されることになっている。

まとめ

 内分泌かく乱化学物質をどのように規制すべきかは、今後ともEUにおいて優先度が高い課題であり、法的なアプローチを支援するには、合意されたクライテリアが必要である。しかし、根幹部分において「政治的」にも科学的にも共通認識が形成されていないため、クライテリア作成は当初の想定よりも困難な状況となっている。EC提案が表されたとしても、日本、米国、カナダ及びオーストラリア等でリスクベースでの内分泌かく乱化学物質評価を採用されている状況において、EUでは法規制に向けた検討をどのように推進していくかは、今後とも大きな課題であり続けるであろう。

英語原文

参照文献

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略歴

ロバーツ博士は、環境生物学を専攻し、学士、修士及び博士の学位を取得。以前は、英国の環境・食糧・農村地域省(Defra)で、特に環境中の潜在的内分泌かく乱物質及び金属に関して、科学と持続可能な化学物質管理のための政策立案との懸け橋の役割を担っていた。
ロバーツ博士は水環境中の内分泌かく乱化学物質に関する日英共同研究事業に携わっていたことに加え、経済開発協力機構の化学品テストガイドラインプログラムにおいて英国の環境担当ナショナルコーディネーターも務めた。
2016年1月にDefraを退職後、コンサルタントとして独立。
趣味はゴルフ(あまりハイレベルではないけれど!)と歴史書の読書。

ライ博士は、Enviresearch社における作業、監督業務・サービスの課長であり、リスク評価チーム長でもある。
政府、産業界、学術界、コンサルタント業務における25年以上もの環境リスク評価・管理の経験から、特に内分泌かく乱作用が疑われる化学物質に関して、生態毒性分野の幅広い専門知識を習得。
ライ博士は内分泌かく乱化学物質に関する数々の査読済み科学論文の著者であり、英国環境・食糧・農村地域省(Defra)の様々なプログラムにおけるコンサルタントでもある。また、経済開発協力機構(OECD)の試験法開発事業のコンサルタントも務める。
英国ニューカッスル大学で生物学の博士号を、スウェーデンのストックホルム大学で微生物生態学の修士号を取得。
余暇には地域コミュニティでの活動や、健康維持として、ヨガやブートキャンプを実施。