保健・化学物質対策

環境ホルモンによる子どものIQ低下は国家的損失

ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
理事 水野 玲子
(2015年6月24日 掲載)


 欧米では、環境ホルモン問題を国家の優先課題のひとつとして位置づけるなど、この問題の重大性への認識がますます高まっています。それでは、なぜ欧米ではこのように、環境ホルモン問題を重要視しているのでしょうか。その理由の一つとして考えられるのは、乳がん、前立腺がん、精巣がんなどホルモン依存性がんをはじめとする様々な病気が先進諸国で激増しており、それらの病気に、この数十年間に使用量が激増している化学物質、その中でも環境ホルモンの関与が疑われているからなのです。

子どもの発達への影響と環境ホルモン

 とくに近年、先進諸国ではADHDや自閉症などの発達障害が激増しています。2012年、WHP/UNEPによる環境ホルモンに関する総合的なレビューの中でも、子どもの脳神経発達への環境ホルモンの影響について、知見が蓄積されたことが示されています。その中でもPCB曝露による子どものIQ低下は、確かな科学的証拠によって証明されています。また、現在日本でも多用されているビスフェノールA,有機フッ素化合物、臭素系難燃剤、フタル酸エステル類などの子どもへの影響の証拠も集まっています。身の回りの環境ホルモンが、子どもを多動にしたり、IQを低下させたり、攻撃的にしたりする可能性はもはや疑いようもなくなりました。

コルボーン博士の最後のメッセージ

 『奪われし未来』の著者のコルボーン博士は、亡くなる1カ月前に「見逃されている人の健康と化石燃料ガスとの関連」を書き、そのなかで最近激増している子どもの自閉症などの発達障害について、 「子どもの脳神経の発達に悪い影響を与える環境ホルモンが、私たち人間の大切な力である"人を愛する力"、"お互いに楽しむ力"、"問題を解決するために座って話し合う力"、"社会性"などをなくさせて、人間を人間たらしめている様々な能力を奪い取ってしまいます。本当に健康で知性がある人間が減少してしまったら、人間らしい社会を維持して世界平和を保つことは不可能なのです」と述べました。環境ホルモンへの曝露が長期的にもたらす社会的な影響について、もっと真剣に私たちは考えなくてはならないと思います。

*参照 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議ニュースレタ―2015年Vol 91

EUでは経済的損失を試算

 2015年3月、米国とベルギーで同時に発表された内分泌学会のプレスリリースによれば、内分泌かく乱化学物質への曝露は、不妊や生殖機能障害、肥満や糖尿病、子どもの神経・行動異常やなどの病気を増加させ、EU内での医療費やその他の機会損失などを計算すると、年間約1570億ユーロ(約20兆円)の経済的損失になるとのことです。これは、環境ホルモンの使用が増えれば増えるほど、長期的には国は大きな経済的なコストを支払わなければならないことを示しています。
 環境省は、このように環境ホルモン曝露による国の経済的損失を試算しているのでしょうか。現在日本でも特別支援教育を受ける児童・生徒数は、最近数十年間で2倍以上に増加しています。これ以上、発達に問題を抱える子どもが増えたら、大きな国家的な損失ではないでしょうか。企業が利益をあげても、それを引き継ぐ優秀な人材がいなくなり産業界も成長しません。日本でも環境ホルモン規制に関する考え方を、そろそろ転換していく必要があると思います。

私たち市民団体は

 私たち市民団体「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」は、この数年、環境ホルモンに関する国際シンポジムを開催してきました。今年は最新の環境ホルモンの動向をわかりやすく紹介するパンフレット「環境ホルモン最新事情 -赤ちゃんが危ない」を作成しました。胎児期から環境ホルモンの曝露に気をつけて、健全な知性を持つ子どもが、日本でも一人でも多く育つように心から望んでいます。