保健・化学物質対策

内分泌かく乱化学物質と私たちのくらし

ジャーナリスト・環境カウンセラー
崎田 裕子
(2011年3月1日 掲載)

 毎年、推移を見守っているアンケートがあります。それは、全国1500人前後の男女から回答を得て実施されている「環境にやさしいライフスタイル実態調査」(環境省)です。
 その中の「関心ある環境問題」を選択する質問(23項目から複数回答可)で、内分泌かく乱化学物質への関心が、年々低くなっているのが気になっています。
 2001(平成13)年と2009(平成21)年の変化を見ると、両年とも1位は「地球温暖化」で76.2%から79.2%に上昇しているのに対し、「内分泌かく乱化学物質の生物への影響」は13位(33.7%)から17位(23.6%)へと下っているのです。

 確かに、1996年に「奪われし未来」で化学物質の野生生物や人の生殖機能などへの影響が指摘され、「内分泌かく乱化学物質」への関心が急激に高まり、化学的に未解明な部分が大きいと、国も1998年に「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を策定し、国際的協力を含む本格的な研究が始まりました。この10年で国や自治体、事業者の内分泌かく乱化学物質への取り組みが一気に進んだからこそ、社会の不安感が薄れ関心が下がったとも考えられますが、逆に無関心層が増えているなら、研究や対策の進展にはつながらないと思えてなりません。

 私たちのくらしは、衣類防虫剤、台所用洗剤、洗濯用洗剤、化粧品、塗料、接着剤など、化学物質の性質を大いに活用して成り立っています。その他、住宅や多様な事業活動でも使用されており、便利ながら使い方や処理を誤ると、その毒性に触れたり体に入って生態系や人の健康に影響がでる可能性もあります。
 また、すぐに現れる毒性だけでなく、微量ながら内分泌系をかく乱し、胎児や乳幼児など次世代のこどもの健康への影響が疑われる化学物質もあります。「SPEED'98」でメダカを用いた試験をした36物質の内、ノニルフェノール、オクチルフェノールで内分泌かく乱作用が強く推察され、ビスフェノールA、DDTでも推察されるという結果が報告されています。

 その後、人への影響をみるため哺乳類のラットを用いた試験では、明らかな内分泌かく乱作用は認められないと判断されましたが、産業界もプラスチック容器やラップへのノニルフェノールの使用や、缶詰やポリカーボネート製哺乳びんなどへのビスフェノールAの使用を自主規制しています。

 2005年に内分泌かく乱化学物質研究の国の方針を見なおした「ExTEND2005」では、生態系を中心に人の健康への影響も踏まえ、野生生物の観察や環境中濃度の実態把握及びばく露の測定などを実施。別途実施された「化学物質環境実態調査」では、延べ257物質について調査をし、131物質が検出されました。
 このような成果を踏まえ、改定されたEXTEND2010では今後5年間の新たなプログラムとして、化学物質の有害性とばく露を総合して、化学物質の内分泌かく乱作用に伴うリスクを評価し、必要に応じて規制するなど管理してゆくことをめざしています。アメリカやEUでも進み始めている化学物質のリスク評価を加速させる方針です。
 事業者の自主規制も進んでいますが、明確にリスク削減に向けた管理の方針が出せるよう、私たちも関心を持ってゆきたいものです。

 なお、これまでの研究アプローチとは別に、「子どもの健康と環境に関する全国調査」(環境省)、略して「エコチル調査」が始まっています。10万人の妊娠中の女性の参加登録を得て、誕生した子どもの成長を10年以上追いかける日本で初めての大規模な疫学調査です。
 大人と違い、胎児期や乳幼児期は化学物質を含めた環境汚染に影響されやすい時期です。この時期の影響を解明して対策をとるための国家プロジェクトが、アメリカ、ノルウェー、デンマークなどでも進められています。
 日本でも、子どもたちの心身異常が年々増加しており、ここ25年でダウン症や水頭症など先天異常発生頻度は2倍以上、小学校のぜん息被患率もゼロ%に近かったものが最近は4%にまで達しています。その他、アレルギー体質の増加、学習困難児の増加、男児の出生率の低下なども報告されており、世界各国や多様な分野の専門家の知見を合わせて調査分析し、将来世代の持続可能なくらしに向けて、私たち世代がどのように取り組んだらいいのか、道を示してくれることを願っています。

 数年前に、化学物質のリスクコミュニケーションを中心にスウェーデンに取材にゆきました。その際取材した住宅建設会社では、建築材や塗料、接着剤などから有害性が疑われる化学物質を排除するために、建設現場の作業員がすぐ確認できるようなHPを整備し、住宅を引き渡す時にも、建築過程で使用した化学物質のリストを住み手に渡すことまで徹底していました。
 細かすぎる情報をいただいても消費者が理解しきれないのでは、と質問すると、「いえ、全部公開することが重要なのです。アレルギーのある人もいますし、詳細は関心のある人だけしっかり見ていただければいいのです。化学物質の健康影響をできるだけ減らそうとする企業姿勢を伝えて信頼していただくことが重要なのです。」という答えが返ってきました。
 調査研究結果をただ待つだけでなく、広く社会の関心を高めて事業者の自主的取り組みを応援するために、市民もマスコミもNGOも関心を高め続けていたいと願っています。

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