報道発表資料
平成9年度は、ダイオキシン類について一般環境調査として国設大気環境測定所等の10地点、道路沿道調査として2箇所の沿道及びその後背地で測定を実施した。また、ベンゼン等の揮発性有機化合物9物質、アルデヒド類2物質、重金属類5物質及びベンゾ[a]ピレンについて、一般環境調査として国設大気環境測定所等の12地点、道路沿道調査として全国の自動車交通量が多い道路(3箇所)の沿道で測定を実施した。
ダイオキシン類に係る調査結果を平成9年9月に設定された大気環境指針値と比較すると、測定した全ての地点で大気環境指針値0.8ピコグラム-TEQ/m3以下であった。
ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンに係る調査結果を、平成9年2月に設定された大気環境基準値と比較すると、ベンゼンについては、国設大気環境測定所等で測定した15地点のうち11地点で環境基準値を上回っており、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、すべての地点で環境基準値を下回っていた。
また、今回の調査においては、ダイオキシン類似化合物であるコプラナーPCBについても一般環境調査をダイオキシン類測定地点と同地点(10地点)で行った。さらに同地点において降下ばいじん中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの調査を行った。
1.調査趣旨
大気中の濃度が低濃度であっても人が長期的に曝露された場合には健康影響が懸念される有害大気汚染物質については、平成9年4月から改正大気汚染防止法に基づき対策が推進されている。
環境庁においては、昭和60年度から未規制大気汚染物質モニタリング調査を行い、大気汚染防止対策推進の基礎資料としているが、平成9年度の調査では、ダイオキシン類、揮発性有機化合物9物質、アルデヒド類2物質、重金属類5物質及びベンゾ[a]ピレンの合計18物質を対象として調査を行った。また、一般環境におけるコプラナーPCB及び降下ばいじん中のダイオキシン類、コプラナーPCBについても調査を行った。
2.対象物質及び調査方法
(1)一般環境調査
{1}ダイオキシン類及びコプラナーPCB
・調査方法
全国10箇所の国設大気環境測定所等において、夏期及び冬期に、それぞれ24時間のサンプリングを1日間行うことにより、各地点2検体、計20検体を採取し、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により分析を行った。
{2}揮発性有機化合物、アルデヒド類、重金属類及びベンゾ[a]ピレン
・対象物質
揮発性有機化合物・・・アクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,3-ブタジエン、ベンゼン
アルデヒド類・・・・・アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド
重金属類・・・・・・・ニッケル化合物、ヒ素及びその化合物、ベリリウム及びその化合物、マンガン及びその化合物、クロム及びその化合物
多環芳香族炭化水素・・ベンゾ[a]ピレン
・調査方法
全国12箇所の国設大気環境測定所等において、原則として毎月1回(ベンゾ[a]ピレンについては年2回)、連続24時間のサンプリングを行い、揮発性有機化合物についてはGC/MS法、アルデヒド類及びベンゾ[a]ピレンについては高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)、重金属類については誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)により分析を行った。
(2)道路沿道調査
{1}ダイオキシン類
・調査方法
全国2箇所の自動車交通量が多い道路の沿道(沿道及びその後背地)において、夏期及び冬期に、それぞれ24時間のサンプリングを1日間行うことにより、各地点2検体、計8検体を採取し、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により分析を行った。
{2}揮発性有機化合物、アルデヒド類、重金属類及びベンゾ[a]ピレン
・対象物質
(1){2}で示した対象物質
・調査方法
全国3箇所の自動車交通量が多い道路の沿道において原則として毎月1回、(ベンゾ[a]ピレンについては年2回)連続24時間のサンプリングを行い、揮発性有機化合物についてはGC/MS法、アルデヒド類及びベンゾ[a]ピレンについては高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)、重金属類については誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)により分析を行った。
(3)降下ばいじん調査
{1}ダイオキシン類及びコプラナーPCB
・調査方法
全国10箇所の国設大気環境測定所等において、3月に約1ヶ月間のサンプリング(デポジットゲージにより湿性沈着物、乾性沈着物を同時採取)を行うことにより、各地点1検体、計10検体を採取し、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により分析を行った。
3.調査結果の要点
(1)ダイオキシン類及びコプラナーPCB
{1}ダイオキシン類
ダイオキシン類には多数の異性体が存在しており、これらの中で最も毒性が強いといわれている2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)等量濃度(TEQ:以下のダイオキシン類濃度は全てTEQ換算濃度をした結果で示す。)にそれぞれ異性体の濃度を換算し、評価するのが一般的である。2,3,7,8-TCDDに換算した結果は、地域ごとに以下のとおり。(表1参照)
工業地域近傍の住宅地域の平均値は0.18pg/m3(0.17pg/m3、0.18pg/m3)、大都市地域の平均値は0.32pg/m3(0.010pg/m3~0.50pg/m3)、中都市地域の平均値は0.16pg/m3(0.12pg/m3、0.21pg/m3)、バックグラウンド地域の平均値は0.095pg/m3(0.01pg/m3、0.18pg/m3)、沿道地域(沿道)の平均値は0.47pg/m3(0.14pg/m3、0.80pg/m3)、沿道地域(後背地)の平均値は0.38pg/m3(0.11pg/m3、0.64pg/m3)であった。
なお、ダイオキシン類の大気環境指針値が平成9年9月に設定されているので、これと比較すると、測定した全ての地点で大気環境指針値以下であった。
また、降下ばいじんに含まれるダイオキシン類濃度を2,3,7,8-TCDDに換算した結果は、地域ごとに以下のとおり。(表12、13参照)
工業地域近傍の住宅地域の平均値は1.5mg/km2/月(0.67mg/km2/月、2.4mg/km2/月)、大都市地域の平均値は1.3mg/km2/月(0.68mg/km2/月~2.4mg/km2/月)、中都市地域の平均値は0.72mg/km2/月(0.51mg/km2/月、0.94mg/km2/月)、バックグラウンド地域の平均値は0.25mg/km2/月(0.020mg/km2/月、0.48mg/km2/月)であった。
(注)1pgは1兆分の1g
(参考)ダイオキシン類の指針となる大気環境濃度として、中央環境審議会答申を受け、年平均値0.8pg-TEQ/m3以下(大気環境指針値)と平成9年9月に設定。
{2}コプラナーPCB
コプラナーPCBについてもダイオキシン類と同様、多数の異性体が存在している。2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)等量濃度にそれぞれ異性体の濃度を換算するための係数(毒性等価係数:TEF)がWHOより提案されており、今回の発表に当たってはその係数を使用した(WHO-TEF:1997、参考1参照)。2,3,7,8-TCDDに換算した結果は、地域ごとに以下のとおり。(表10参照)
工業地域近傍の住宅地域の平均値は0.012pg/m3(0.012pg/m3、0.013pg/m3)、大都市地域の平均値は0.020pg/m3(0.0059pg/m3~0.026pg/m3)、中都市地域の平均値は0.012pg/m3(0.0083pg/m3、0.015pg/m3)、バックグラウンド地域の平均値は0.0063pg/m3(0.0044pg/m3、0.0082pg/m3)であった。
また、降下ばいじんに含まれるコプラナーPCB濃度を2,3,7,8-TCDDに換算した結果は、地域ごとに以下のとおり。(表14、15参照)
工業地域近傍の住宅地域の平均値は0.17mg/km2/月(0.069mg/km2/月、0.28mg/km2/月)、大都市地域の平均値は0.12mg/km2/月(0.013mg/km2/月~0.25mg/km2/月)、中都市地域の平均値は0.076mg/km2/月(0.057mg/km2/月、0.095mg/km2/月)、バックグラウンド地域の平均値は0.023mg/km2/月(0.015mg/km2/月、0.031mg/km2/月)であった。 なお、コプラナーPCBについては今後とも環境濃度の推移を継続して調査する予定である。
(2)揮発性有機化合物及びアルデヒド類(表4、8参照)
ベンゼンについては、一般環境の平均値は4.8μg/m3(2.3μg/m3~11μg/m3)、道路沿道の平均値は6.5μg/m3(4.9μg/m3~9.3μg/m3)であった。トリクロロエチレンについては、一般環境の平均値は2.3μg/m3(0.15μg/m3~6.0μg/m3)、道路沿道の平均値は1.9μg/m3(0.15μg/m3~3.2μg/m3)、テトラクロロエチレンについては、一般環境の平均値は1.3μg/m3(0.21μg/m3~2.2μg/m3)、道路沿道の平均値は1.8μg/m3(1.0μg/m3~2.9μg/m3)であった。
なお、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの環境基準が平成9年2月に設定されているので、これと比較すると、ベンゼンについては15地点のうち11地点において環境基準値を上回っており、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについてはすべての地点で環境基準値を下回っていた。
(注)1μgは100万分の1g
(参考)ベンゼンの環境基準は、年平均値3μg/m3以下
トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの環境基準は、それぞれ年平均値200μg/m3以下
4.今後の対応
有害大気汚染物質の大気環境モニタリングについては、大気汚染防止法に基づき、国及び地方公共団体が調査の実施に努めることとされており、地方公共団体においても、平成9年度から本格的な調査が開始されているところである。
環境庁としては、今後とも、有害大気汚染物質の大気環境モニタリングの充実を図るとともに、地方公共団体による調査結果とあわせて、有害大気汚染物質による大気汚染の健康リスク評価を行い、対策の推進に役立てていくこととしている。なお、今後、地方公共団体における大気環境に係る平成9年度の測定結果についても順次とりまとめた上で公表する予定である。
(参考1)
毒性等価換算濃度(TEQ)について
ダイオキシン類の濃度については、測定により得られるダイオキシン類の各異性体の濃度値に国際毒性等価係数(I-TEF;International Toxicity Equivalen-cy Factor;表参照)を乗じて、毒性等価換算濃度(TEQ;Toxicity EquivalencyQuantity)により表すものとする。
表 ダイオキシン類に関する国際毒性等価係数
PCDD異性体 | I-TEF | PCDF異性体 | I-TEF |
---|---|---|---|
2,3,7,8-TCDD 1,2,3,7,8-PCDD 1,2,3,4,7,8-HCDD 1,2,3,6,7,8-HCDD 1,2,3,7,8,9-HCDD 1,2,3,4,6,7,8-HCDD OCDD その他のPCDD |
1 0.5 0.1 0.1 0.1 0.01 0.001 |
2,3,7,8-TCDF 1,2,3,7,8-PCDF 2,3,4,7,8-PCDF 1,2,3,4,7,8-HCDF 1,2,3,6,7,8-HCDF 1,2,3,7,8,9-HCDF 2,3,4,6,7,8-HCDF 1,2,3,4,6,7,8-HCDF 1,2,3,4,7,8,9-HCDF OCDF その他のPCDF |
0.1 0.05 0.5 0.1 0.1 0.1 0.1 0.01 0.01 0.001 0 |
参考 コプラナーPCBの毒性等価係数について(WHO-TEF、1997)
IUPAC.NO. | 毒性等価係数(TEF) |
---|---|
3,4,4',5-T4CB #81 3,3',4,4'-T4CB #77 3,3',4,4',5-P5CB #126 3,3',4,4',5,5'-H6CB #169 2',3,4,4',5-P5CB #123 2,3',4,4',5-P5CB #118 2,3,3',4,4'-P5CB #105 2,3,4,4',5-P5CB #114 2,3',4,4',5,5'-H6CB #167 2,3,3',4,4',5-H6CB #156 2,3,3',4,4',5'-H6CB #157 2,3,3',4,4',5,5'-H7CB #189 |
0.0001 0.0001 0.1 0.01 0.0001 0.0001 0.0001 0.0005 0.00001 0.0005 0.0005 0.0001 |
モニタリングを行った物質の発がん性の評価、大気環境基準等
物質名 | IARC(国際がん研究機関)の発がん性評価 | 大気環境基準等(単位:μg/m3) (ダイオキシン類の単位はpg-TEQ/m3) |
||
---|---|---|---|---|
EPA10-5 | WHO欧州 | 環境庁 | ||
アクリロニトリル | 2B | 0.1 | 0.5 ※1 | - |
アセトアルデヒド | 2B | 5 |
- |
- |
塩化ビニルモノマー | 1 |
- |
10 ※1 | - |
クロロホルム | 2B | 0.4 |
- |
- |
1,2-ジクロロエタン | 2B | 0.4 | 700 | - |
ジクロロメタン | 2B | 20 | 3000 | - |
ダイオキシン類 | 1,3 | - |
- |
0.8 |
テトラクロロエチレン | 2A | - | 250 ※2 | 200 |
トリクロロエチレン | 2A | - | 23 ※1,2 | 200 |
1,3-ブタジエン | 2A | 0.04 |
- |
- |
ベンゼン | 1 | 1 | 1.7 ※1,2 | 3 |
ベンゾ[a]ピレン | 2A |
- |
0.00011 ※1,2 |
- |
ホルムアルデヒド | 2A | 0.8 | 100 | - |
ニッケル化合物 | 1 | 0.042 | 0.026 ※1 | - |
ヒ素及びその化合物 | 1 | 0.0023 | 0.0067 ※1,2 |
- |
ベリリウム及びその化合物 | 1 | 0.0042 |
- |
- |
マンガン及びその化合物 |
- |
- |
0.15 ※2 | - |
六価クロム化合物 | 1 | 0.00083 | 0.00025 ※1 |
- |
・「大気環境基準等」の「環境庁」の欄は、環境基本法第16条に基づく大気環境基準値又は中央環境審議会答申に基づく指針となる大気環境濃度
・IARC発がん性評価
1 人に対して発がん性を示す物質
2 人に対して発がん性を示す可能性のある物質
2A 可能性の高い物質
2B 可能性の低い物質
3 人に対して発がん性を評価するには十分な証拠が得られていない物質・ダイオキシン類のIARC発がん性評価は、2,3,7,8-TCDDについては1、その他の異性体については3
・「EPA10-5」の欄は、米国環境保護庁が設定したユニットリスクの10-5リスクレベル換算値
・「WHO欧州」の欄は、WHO欧州地域事務局のガイドライン値
※1 ユニットリスクの10-5レベル換算値
※2 WHO欧州地域事務局(1996)の改定ガイドライン値
問2-14 WHOにおけるトリクロロエチレンのリスク設定の方法があらためられたことを受けて、環境基準を見直す考えはないのか。
(答)
WHOは1987年の大気質ガイドラインの改定案を公表しているところである。
わが国では、環境庁に設置した中環審大気部会環境基準専門委員会の科学的判断に基づいて環境基準の設定を行っているところであり、トリクロロエチレンについては昨年2月に、中環審の答申を踏まえて、基準として告示したところである。
環境庁としては、現段階で直ちに改定することは考えていないが、今後も必要な知見の収集に努めてまいりたい。
問2-16 大気環境中の重金属類を測定するのは初めてか。それぞれどのような健康リスクが指摘されているのか。
(答)
初めてである。
ニッケル・・・IARCでは1に分類しており、発がん性(肺がんなど)が懸念されている。(WHO、IRIS:肺がん)
ヒ素・・・IARCでは1に分類しており、発がん性(肺がんなど)が懸念されている。(WHO、IRIS:肺がん)
ベリリウム・・・IARCでは1に分類しており、発がん性(肺がんなど)が懸念されている。(IRIS:肺がん)
六価クロム・・・IARCでは1に分類しており、発がん性(肺がんなど)が懸念されている。(WHO、IRIS:肺がん)
マンガン・・・IARCでは特に分類は行っていない。神経系への影響などが懸念される。(IRIS:神経系への影響)
(参考)
アクリロニトリル・・・発がん性が疑わしいものの、肺がんなどの懸念はある。肝への影響が懸念されている。
塩化ビニルモノマー・・・発がん性(肝・胆管系がんなど)が懸念される。
ジクロロメタン・・・神経系への影響などが懸念。
ダイオキシン類・・・感における腫瘍や生殖影響などが懸念。
テトラクロロエチレン・・・神経系や肝などへの影響。発がんについても懸念。
トリクロロエチレン・・・神経系や肝などへの影響。発がんについても懸念。
ベンゼン・・・急性骨髄性白血病が懸念されている。
その他物質についても、発がん性や慢性影響が懸念されている。
添付資料
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- 図11[PDFファイル] [PDF 25 KB]
- 連絡先
- 環境庁大気保全局大気規制課
課 長 :飯島 孝(内6530)
補 佐 :柳橋 泰生(内6532)
補 佐 :佐々木裕介(内6547)
環境庁大気保全局自動車環境対策第二課
課 長 :松本 和良(内6550)
補 佐 :印南 朋浩(内6551)