対談インタビュー

食品ロスをゼロにする、デザインとネーミングとは?

食品ロスをゼロにするためには、まだまだ幾つかのハードルがあります。世界や日本の現状、それを解決するヒントを各界の専門家にお話を聴きました。

ドギーバック普及委員長

小林 富雄

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フードジャーナリスト

佐々木 ひろこ

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ソーシャルグッドデザイナー

福島 治

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ソーシャルグッドプロデューサー

石川淳哉

小林富雄(ドギーバック普及委員長)、佐々木ひろこ(フードジャーナリスト)、福島治(ソーシャルグッドデザイナー)、石川淳哉(ソーシャルグッドプロデューサー)4人の対談風景
左から小林富雄(ドギーバック普及委員長)、福島治(ソーシャルグッドデザイナー)、佐々木ひろこ(フードジャーナリスト)、石川淳哉(ソーシャルグッドプロデューサー)

石川: 今回、ドギーバッグの新しいネーミングとデザインを募集することになったんですが、僕はこれ、非常にいいアイディアだと思うんですよ。ドギーバッグを社会実装させ、食品ロスを減らすためには「持ち帰る」という行動を国民に選んでもらわなきゃいけない訳で、その国民がプロジェクトのスタート地点から関われるのはいいなぁと。今日はそれぞれ専門分野をお持ちの皆さんと一緒に、このドギーバッグのプロジェクトについて議論したいと思います。応募してくだる方のヒントにもなればいいな、と。まずは長く食品ロスの研究をしてこられた小林先生、食品ロスの定義から教えていただけますか?

小林: はい、まず⾷品ロスとは「本来⾷べられるのに捨てられている」⾷品廃棄物を指す⾔葉です。⽇本全国で毎年約650万トン⽣まれていて、そのうち外⾷での⾷べ残しは年間80万トン程度出ているとの説がある。この数字だけを⾒ると1割ちょっとですが、ドギーバッグで⾷べ物を持ち帰ると、まず⾷べ残しへの意識が変わりますよね。家庭での消費⾏動(⾷べ残し約110万トン/年)への波及効果もあると思います。「捨てない」ことで、⾷材を⼤切に調理したレストランのシェフたちには喜ばれるし、病気等で⾷事に時間がかかり、なかなか食べ切ることができない方にはありがたいシステムだったりもする。数字で表せる世界を超えて、幸せな感情を共有できるというか、波及効果や展開可能性が大きいプロジェクトだと思いますね。

石川: 今回皆さんが応募するのは、とても意味のあるプロジェクトなんですよね。ところで世界の現状はどうなっているんですか?

小林: たとえばアメリカや中国では、食べ残しを持ち帰るのはごく普通のことなんです。食事の終盤に店員さんにパックを持ってきてもらって、持ち帰れるものを詰めて帰る。ごく自然な流れです。逆にフランスでは食文化上、持ち帰りははしたないと考えられ、施策が進まないため政府が近年、「持ち帰らせる」ための法律案を作りました。レストランでドギーバッグの要望があった場合、提供を断れなくなる予定です。

石川: なるほど。国によてってさまざまなんですね。次に日本でいろんなレストランとの接点が多い佐々木さん、ドギーバッグって日本で普及しているんですか?

佐々木: 高級業態の個人店から安価なチェーンレストランまで、さまざまな飲食店がある日本ですが、現在ドギーバッグを導入している店はごく少ないのが現状です。おそらく、需要が一番大きいのはホテルや居酒屋などの宴席。みんな飲んだり話したりするのに忙しく、食べ物はかなり残ることが多いからです。あとはアラカルトのお店で大きなポーションで出す店あたりでしょうか。ただ持ち帰りの文化って、実はかつての日本にはあったんですよ。料亭での宴席や、慶事法事の際の食事などで、残った料理を折詰にし、お土産替わりに持って帰る習慣です。ですが料亭の衰退などともあいまって、ほとんどその文化が忘れ去られてしまいました。

WORDS

ドギーバッグ
主にアメリカの外食産業で用いられる、客が食べ残した料理をつめて客が持ち帰るための袋や容器である。英語のdoggy bagを日本語に直訳すると「犬のための容器」であり、客は「犬に食べさせる」という建前で店から食べ残した料理を持ち帰り、たいていは人間が食べるために用いられている。

SDGs
持続可能な開発目標とは17のグローバル目標と169のターゲットから成る国連の持続可能な開発目標。 2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』と題する成果文書で示された2030年に向けた具体的行動指針。 ウィキペディア

小福島治(ソーシャルグッドデザイナー)の対談風景

PROFILE

福島 治(ふくしま おさむ)
グラフィックデザイナー・ソーシャルデザイナー。 (株)フクフクプラス取締役、東京工芸大学デザイン学科教授、日本デザイナー学院顧問など。世界ポスタートリエンナーレトヤマでグランプリ、メキシコ国際ポスタービエンナーレ1位、カンヌ広告フィスティバル金賞など30以上の賞を受賞。デザインを通じた社会貢献の可能性を探求、実践し、被災地支援プロジェクトとして「unicef祈りのツリー」、「おいしい東北パッケージデザイン展」等がある。障がい者のアートを展示する「深川アートパラ2020おしゃべりな芸術祭」の発起人・総合プロデューサー。

「使おう」という意識が生まれる
仕組みからデザインする

石川: 確かに、日本には折詰文化があったんですよね。じゃあ時は流れて、今のレストランがドギーバッグを「やりづらい」と思っている理由、導入のハードルについて、聞こえてくる声はありますか?

佐々木: やっぱり一番は、持ち帰った後に食中毒を起こされると大変、という安全上の問題だと思います。そしてフランスと同様、持って帰るのははしたないという意識も生まれている。高級業態のガストロノミーなんかでは特にそうですね。コース最後の小菓子を包んでもらう、くらいはありますけど。

石川: ドギーバッグを推進するためには今後、何かあったときの責任所在を明らかにするための法整備が必要でしょうね。では福島さん、パッケージデザインは実際の社会実装のためにとても需要ですが、これまでさまざまなプロジェクトに関わってこられた経験をもとに、今回のプロジェクトについて考えるところはありますか?

福島: パッケージのデザインは確かに重要なんですが、ただ難しいのは「デザインがいいから、素敵だからドギーバッグを使おう」という思考の順番にはならないことなんです。まず先に「使おう」という意識が生まれる「仕組み」のデザインが必要。たとえばレストランのテーブルに着くと、ナプキンや調味料のトレーの横にすでにドギーバッグが置いてある、なんていう...そうした仕組みがあってこそ初めて、パッケージのデザインが機能するんですよね。

PROFILE

佐々木ひろこ(ささき ひろこ)
フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue 創設者・代表理事。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。日本で国際関係論、アメリカでジャーナリズムと調理学、香港で文化人類学を学ぶ。日本の水産資源の深刻な現状を知り、2017年、東京の若手トップシェフらとともに海の未来を考える料理人グループを創設しサステナブルシーフードの啓発活動に取り組む。米の海洋保全団体シーウェブが主催するサステナブルシーフード・プロジェクトのグローバルコンペ「Co-Lab 2018」で優勝。

佐々木ひろこ(フードジャーナリスト)の対談風景

石川: 外食のシステムの中に、自然に溶け込むような仕組みからデザインできるようなものがあるといいなってことですか?

佐々木: 業態によって、テーブルに予め置いておくのが難しい店もあると思うので、その場合は店員さんが決まったタイミングで「ドギーバッグをお持ちしましょうか」と聞くマニュアルを作るとか。

福島: そうそう。お店の方に「持って帰りたいんですけど」って手を上げて言う、そのちょっとしたハードルを取り除いて、使いやすい環境を作ってあげる仕組みのデザインがあれば、パッケージのかっこよさや素材などが生きてくると思うんです

小林: 行動経済学で言うデフォルトセッティングですね。ドギーバッグを使うことをオプションではなく、デフォルトにしてしまうって訳です。「使わない」場合には「断る」などのアクションが必要となるようにするっていう。

佐々木: 先ほども申し上げたように、店によって時間によって本当にいろんなシチュエーションがあるので、デフォルトをどう設定するかが鍵なんじゃないかと思います。そこまで提案してもらった方がいいんでしょうか。

石川: 自分はここのシチュエーションでこういう風に使ってほしい、っていうのはアリでしょうね。実装のために役立てる提案はウェルカムですから。1億2000万人が同じ形のものを使わなくてもいい訳ですし。逆に、このシチュエーションでこうしたら確実にみんなが使うだろう、というデザインがあればそれもそれでOKですけれど。...それでは最後にまとめというか、「私が期待するデザイン&ネーミング」という御題でお話しいただけますか。まず小林先生、どうでしょう?

小林富雄(ドギーバック普及委員長)の対談風景

PROFILE

小林 富雄(こばやし とみお)
名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程修了。名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。商社、シンクタンク勤務等を経て、2017年度より愛知工業大学経営学部教授。専門はソーシャル・マーケティング、流通経済、食料経済で、流通で発生する食品ロスを研究。環境省、消費者庁、内閣府等の委員を歴任し、外食時に食べきれない食品を持ち帰る「ドギーバッグ」の普及委員会理事長も務める。『食品ロスの経済学 第3版』(農林統計出版)、『フードバンクの多様性とサプライチェーンの進化』(筑波書房)等著書多数。

デザイン&ネーミングに
期待するもの

小林: 事前の一般向けアンケートでは、皆さん持ち帰りをしたいと思っていましたよね。すごくポジティブ。だけど、いざその場になるとできないっていうことが多いと思うんです。その空気感というか、やっぱり遠慮しがちなところがあるので、そこを打破するようなネーミングやデザインが欲しいですね。

石川: 「社会の空気感を変える力のある、ネーミング&デザイン」。いいですね! 佐々木さん、どうですか?

佐々木: 食べ物は、人間が生きていくためにとても大事なものですよね。かつ地球にとっては限りある資源であり、だからこそ今ロスを減らし、大切に全部食べ切るために持ち帰りを推奨している。だから、私は食べものへの愛や想いが感じられるネーミングやデザインを待ってます。

石川: なるほど、愛ですね。ありがとうございます! では福島さん、どうでしょうか。

福島: そうですねぇ...文化が根付くことは一番大事なので、そのために機能するデザインですね。先ほど議論した「仕組み」が前提の話なんですが、そのうえで、応募する方自身の「自分が使いたくなるデザイン」「友達に薦めたくなるデザイン」でしょう。そんなデザインが描けたら、ぜひ応募してください!

石川: ありがとうございます。じゃあ最後に僕の想いを少し。これはやっぱりみんなで解決していかなければならない問題なので、コレクティブインパクトを出すためにも、多くの人を巻き込めるワードやデザインが挙がってくると嬉しいです。本当に信じている一人の想いでもいい、「どうやったら社会を巻き込めるだろう」という点について、徹底的に考えられたもの。そんな力のあるネーミング&デザインの応募作品を、心からお待ちしています!

PROFILE

石川淳哉(いしかわ じゅんや)
世界の社会課題を解決するために、クリエイティブの可能性を追求するソーシャル・グッド・プロデューサー。株式会社ドリームデザイン代表取締役、一般社団法人助けあいジャパン共同創始者・代表理事、一般社団法人福祉防災コミュニティ協会理事。 主な仕事は書籍『世界がもし100人の村だったら』、ピースアートプロジェクト「retired weapons」、100万枚突破アルバム「日本の恋と、ユーミンと。」等のプロデュース、内閣府防災ポータル「TEAM防災ジャパン」立ち上げなど。カンヌライオンズ金賞、NYADCなど受賞歴多数。

石川淳哉(ソーシャルグッドプロデューサー)の対談風景
食品ロスを解決するには

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