環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第7節 国際的取組

第7節 国際的取組

1 生物多様性に関する世界目標の達成に向けた貢献

生物多様性条約の締約国は、CBD-COP16までに、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえて生物多様性国家戦略を策定・改定することが求められていました。このため、各国の取組を支援するため、生物多様性条約事務局は、世界各地域を対象に、NBSAP(National Biodiversity Strategy and Action Plan:生物多様性国家戦略及び行動計画)ダイアローグを開催しました。我が国は東・南アジア地域のダイアローグをホストするとともに、他地域のダイアローグに登壇し、我が国の「生物多様性国家戦略2023-2030」の策定やその実施に係る経験・取組を共有することで、他の締約国による「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の実施推進に貢献しました。また、我が国は、生物多様性条約事務局に設置されている「生物多様性日本基金」を通じて、NBSAPダイアローグや「生物多様性国際ユース会議 横浜2024」の開催支援を行いました。また、生物多様性保全と地域資源の持続可能な利用を進める「SATOYAMAイニシアティブ」について、途上国の現場におけるプロジェクトである「SATOYAMAイニシアティブ推進プログラム」フェーズ4の実施を進めています。加えて、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実現を支援するために設立されたGBF基金(Global Biodiversity Framework Fund)に対して、6.5億円の拠出を行いました。

2 生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策のインターフェースの強化

2024年3月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)のシナリオ・モデルタスクフォース技術支援機関が設置されました。我が国は、本技術支援機関の誘致や活動支援等を行いました。また、2024年12月に開催されたIPBES総会第11回会合に参加し、議論に貢献しました。

3 二次的自然環境における生物多様性の保全と持続可能な利用・管理の促進

二次的な自然環境における自然資源の持続可能な利用と生物多様性の保全を国際的に推進する「SATOYAMAイニシアティブ」を拡げるため、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)」を支援し、IPSI事務局とともにCBD-COP16や第26回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA26)において、「SATOYAMAイニシアティブ」の考え方や取組を紹介するサイドイベントを開催しました。なお、IPSIの会員は、2025年4月時点で21か国の22政府機関を含む80か国・地域の337団体となりました。

SATOYAMAイニシアティブの理念を国内において推進するために2013年に発足した「SATOYAMAイニシアティブ推進ネットワーク」に環境省及び農林水産省が参加しています。本ネットワークは、SATOYAMAイニシアティブの国内への普及啓発、多様な主体の参加と協働による取組の促進に向け、ネットワークへの参加を呼び掛けたロゴマークや活動事例集の作成や「エコプロ2022」等の各種イベントへの参加を行いました。なお、本ネットワークの会員は2025年3月時点で54地方公共団体を含む119団体となりました。

4 アジア保護地域パートナーシップの推進

2013年11月に宮城県仙台市で開催した第1回アジア国立公園会議を契機に我が国が主導して「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」を設立しました。APAPの参加国は2024年12月時点で、17か国となっており、その取組の一環として、毎年運営委員会等においてアジア各国の保護区に関する情報及び知見の共有等を進めています。また、2024年7月には東京等でアジア地域におけるOECMの事例等を共有するワークショップが開催されたほか、2024年10月から11月にコロンビア・カリで開催されたCBD-COP16では、アジアの保護地域における過去10年間の取組の進展を紹介するサイドイベントが実施され、APAPの取組がアジアの保護地域の管理能力の向上に貢献してきていることが周知されるとともに、30by30目標の達成に向けた意見交換等が行われました。

5 森林の保全と持続可能な森林経営及び木材利用の推進

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約41億haに及びます。一方で、2010年から2020年の間に、植林等による増加分を差し引いて年平均470万ha減少しています。1990年から2000年の間に年平均780万ha減少しており、森林が純減する速度は低下傾向にありますが、引き続き森林減少を止めるための積極的な取組が求められています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営及び木材利用の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。

「国連森林戦略計画2017-2030」は、国連森林フォーラム(UNFF)での議論を経て2017年4月に国連総会において採択され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第60回理事会が2024年12月に横浜市において開催され、ITTOの設置根拠である「2006年の国際熱帯木材協定」の再交渉に向けたプロセスの方向性等が決定されました。また、加盟国等から総額約433万米ドルのプロジェクト等に対する拠出が表明され、我が国からは、コートジボワールにおける食料生産等と調和した持続可能な森林経営、インド国内市場における持続可能なチーク材利用の促進等のプロジェクト等に計約1億1,000万円の拠出を表明しました。

6 砂漠化対策の推進

1996年に発効した国連の砂漠化対処条約(UNCCD)において、先進締約国は、砂漠化の影響を受ける締約国に対し、砂漠化対処のための努力を積極的に支援することとされています。我が国は先進締約国として、科学的・技術的側面から国際的な取組を推進しており、2024年12月にサウジアラビアのリヤドで開催されたUNCCD第16回締約国会議及び同科学技術委員会等に参画し、議論に貢献しました。また、モンゴルにおける砂漠化対処のための調査等を進め、二国間協力等の国際協力を推進しました。

7 南極地域の環境の保護

南極地域は、近年、観測活動や観光利用の増加による環境への影響が懸念されており、南極の平和的利用と科学的調査における国際協力の推進等を目的とする南極条約(1961年発効)及び、南極の環境や生態系の保護を目的とする環境保護に関する南極条約議定書(1998年発効)に基づき国際的な取組が進められています。

我が国は、環境保護に関する南極条約議定書を担保するため、南極地域の環境の保護に関する法律(平成9年法律第61号)を制定し、南極地域における観測、観光、取材等の活動に対する確認制度等を運用するとともに、環境省のウェブサイト等を通じて南極地域の環境保護に関する普及啓発、指導等を行っています。また、南極条約事務局に拠出金を支払い南極条約体制を支援しているほか、2024年にインドのコチで開催された第46回南極条約協議国会議に参画し、南極地域における環境保護の方策に関する議論に貢献しました。

8 サンゴ礁の保全

国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)の枠組みの中で、我が国が主導して2017年から開始した地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)の東アジア地域におけるサンゴ礁生態系モニタリングデータの地域解析について、2021年の取りまとめに利用したモニタリングデータの管理利用方針やデータベースの構築方法を検討するためのワークショップを2024年10月に開催しました。

9 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)の活動推進

東アジア・オーストラリア地域における渡り性水鳥保全のための国際的枠組みである「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)」の活動を推進するため、国内に34か所ある渡り性水鳥重要生息地ネットワーク参加地の関係者を対象とし、2025年2月に、日本有数のシギ・チドリ類の越冬地である佐賀県において、「渡り性水鳥フライウェイ全国大会」を開催しました。

10 生物多様性関連諸条約の実施

(1)生物多様性条約

2024年10~11月にコロンビア共和国・カリで開催されたCBD-COP16には、過去最大規模の13,000名以上が参加し、遺伝資源のデジタル配列情報の使用に係る利益配分に関する多国間メカニズムの大枠が決定されるなど多くの議題で進展がありましたが、一部の議題については議論が残されました。このため、2025年2月にイタリア共和国・ローマでCBD-COP16の再開会合が開催され、残る議題について議論され、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の進捗を測るモニタリングの仕組み等が決定されました。日本からは「生物多様性国家戦略2023-2030」の策定・実施をはじめとする経験を踏まえて積極的に議論に貢献するとともに、サイドイベントの開催や登壇、ブース出展等を通じて、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の着実な実施に向け、自然共生サイトなどの国内施策やSATOYAMAイニシアティブなどの国際連携等について、日本の取組を発信しました。

(2)名古屋議定書

CBD-COP10において採択された「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」(以下「名古屋議定書」という。)について、我が国は2017年8月に締約国となり、国内措置である「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を施行し、名古屋議定書の適切な実施に努めています。

我が国はCBD-COP10の際に、名古屋議定書の早期発効や効果的な実施に貢献するため、地球環境ファシリティ(GEF)によって管理・運営される名古屋議定書実施基金の構想について支援を表明し、2011年に10億円を拠出しました。この基金を活用し、国内制度の発展、遺伝資源の保全及び持続可能な利用に係る技術移転、民間セクターの参加促進等の活動を行う13件のプロジェクトが承認され、ブータン、コロンビア、コスタリカ等の8件は既に完了しています。

(3)カルタヘナ議定書及び名古屋・クアラルンプール補足議定書

バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書(以下「補足議定書」という。)の国内担保を目的とした遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第18号。以下「改正カルタヘナ法」という。)が、2017年4月に成立し、同月に公布されました。補足議定書については、2018年3月に発効し、これに合わせて改正カルタヘナ法が施行されました。また、2024年10月にコロンビアのカリで開催されたカルタヘナ議定書第11回締約国会議(COP-MOP11)において、議定書及び補足議定書の適切な実施のための議論がなされ、我が国としても積極的に議論に貢献しました。

(4)ワシントン条約

ワシントン条約に基づく絶滅のおそれのある野生動植物の輸出入の規制に加え、同条約附属書Iに掲げる種を中心に、種の保存法に基づき国内での譲渡し等の規制を行っています。関係省庁、関連機関が連携・協力し、象牙の適正な取引の徹底や規制対象種の適切な取扱いに向けて、国内法執行や周知強化等の取組を進めました。

(5)ラムサール条約

国内に53か所あるラムサール条約湿地における普及啓発活動を、ラムサール条約湿地関係地方公共団体等と連携して進めました。特に2022年のラムサール条約第14回締約国会議(COP14)において湿地教育の推進に関連する決議が採択されたことを踏まえて、関係地方公共団体や施設管理者を対象に、ラムサール条約湿地における環境教育の実施状況について情報収集を行うとともに、湿地教育の推進のための方策等について検討しました。

(6)二国間渡り鳥条約・協定

2024年1月に米国ハワイ州・ホノルルで開催された日米渡り鳥等保護条約会議の結果を踏まえて、東アジア地域における小型シギ・チドリ類、特にハマシギの衛星追跡調査や保全施策に関する検討等の取組を進めました。また、豪州、中国及び韓国との二国間の渡り鳥保護協定等に基づく会議に向けて、2024年12月に国内専門家による二国間渡り鳥等協定等準備会議を開催しました。