自立・分散型社会の実現のためには、地域が主体性を発揮して、自らの強みである自然資本を活かし、魅力ある地域づくりを進めること、すなわち地域循環共生圏の創造が重要です。その際、地域づくりを地域で担う人材の育成も必要不可欠であり、地域づくりと人づくりは両輪で取り組んでいく必要があります。
このため、自立した地域として、他の地域とネットワークを構築して支えあう地域プラットフォームづくりに向けて、地域プラットフォームの運営主体の育成や、そのための中間支援体制の構築を行うとともに、様々な地域のネットワーク構築を促進するための取組も行います。
また、地域循環共生圏が創造されることで、地域の環境・経済・社会にもたらすインパクトを測定・発信するとともに、各地における優れた取組を表彰・発信することで、より多くの地域が地域循環共生圏創造に取り組むよう働きかけていきます。その際、特に地域の経済循環構造を把握することが重要となるため、そのためのツールの運営・更新を行います。
さらに、持続可能な社会へ移行する過程で、経済社会構造は大きく変化することが予想されることから、そのような地域を対象に、地域循環共生圏の考え方に基づき、経済社会構造の変化に伴う負の影響を最小限とし、環境を軸とした新規産業等を創出していくための地域プラットフォームの構築、ビジョンや事業構想の共有、新たな事業創出など、地域の主体的な取組を支援します。
地域脱炭素に向けた「先行地域づくり」として、地球温暖化対策計画に基づき、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を選定し、各府省の支援策も活用しながら、2030年度までに民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う二酸化炭素排出実質ゼロ又はマイナスを実現するとともに、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現の姿を示します。あわせて、エネルギーマネジメントシステムの導入による需給調整など、デジタル技術も活用しながら、産業、暮らし、インフラ、交通など様々な分野で脱炭素化に取り組むことが重要であることに鑑み、デジタル田園都市国家戦略等に基づき、デジタル技術の活用によるDXとGXの施策間連携の取組を強化します。さらに、「デコ活」や市民参加型の政策形成支援等により、脱炭素先行地域を含む地域全体の住民・企業の取組の連携を促進します。
また、地域脱炭素の加速化に向けた「重点対策」として、政府による財政・技術・情報支援を通じて、地方公共団体は、公営企業を含む全ての事務及び事業について、地域脱炭素の基盤となる重点対策(地域共生・裨益型の再生可能エネルギー導入、公共施設等のZEB化、公用車における電動車の導入等)を率先して実施するとともに、企業・住民が主体となった資源循環の高度化を通じた循環経済への移行、コンパクトシティ・プラス・ネットワーク、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立等の取組を更に加速します。
こうした脱炭素先行地域等の先行する取組の全国展開に当たっては、都道府県、地域金融機関、地域エネルギー会社、株式会社脱炭素化支援機構等と連携し、得られた成果の横展開を図ります。とりわけ、都道府県については、関係部局が連携し、政府による財政支援や地方財政措置も活用しながら、公営企業を含む都道府県による再エネ導入、地域の中核企業の脱炭素化支援、都市計画・交通分野の脱炭素化等を加速することが期待されます。例えば、地域脱炭素化促進事業制度も活用しながら、広域で再生可能エネルギー促進に向けたゾーニングを推進し、地域企業の脱炭素化支援を含めて地域主導で地域に貢献する地域共生型再エネ推進の主体となることが期待されており、国はこのために必要な支援を行います。
さらに、今後ますます激甚化が予想される災害やこれによる停電時に公共施設へのエネルギー供給等が可能な再エネ設備等の整備を推進するとともに、地方公共団体実行計画策定・管理等支援システム(LAPSS)を改修しつつ、その活用を一層促進することにより、地方公共団体の事務・事業の脱炭素化の取組が効果的に進むよう支援します。
加えて、地方自治体の職員等に対する、再生可能エネルギー導入等の脱炭素実現のメリットや手法等についての理解を深めるための官民研修を更に充実させます。とりわけ、令和5年度から開始した脱炭素まちづくりアドバイザー制度等の運用状況や、地方自治体を始めとする地域の脱炭素支援のニーズを踏まえつつ、地方環境事務所、都道府県、地球温暖化防止活動推進センターなど既存の組織に期待される役割・機能も検討した上で、地方自治体等に対して脱炭素型の地域づくりに向けた支援を行える中間支援体制の構築に向けた検討を行います。
地域に貢献する脱炭素事業の構築に向けては、事業可能性調査を含む地域脱炭素の計画づくり支援や、衛星情報など最新のデジタル技術も活用したREPOSとEADASの拡充・連携強化、自治体排出量カルテ・地域経済循環分析等の情報ツールの整備・拡充を行うなど、事業の構築を情報・技術面から支援します。
こうした脱炭素による持続可能な地域づくりを支えるため、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)に基づく地方公共団体実行計画制度の下で地方公共団体が段階的に取組を強化するとともに、制度的対応として、2024年3月に閣議決定し、第213回国会に提出した、都道府県の関与強化による地域脱炭素化促進事業制度の拡充を含む「地域温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」も踏まえ、国は今後も、地方公共団体における再生可能エネルギーの導入計画策定や、再エネ促進区域の設定等に向けたゾーニング等を行う取組への支援等とともに促進事業に向けた事業者の支援を行い、地域共生型再エネ導入を推進していきます。
国土形成計画その他の国土計画に関する法律に基づく計画を踏まえ、持続可能で自然と共生した国土管理に向けて、環境負荷を減らすのみならず、生物多様性等も保全されるような施策を進めていきます。例えば、生物多様性の保全や回復のための民間活動の促進、森林、農地、都市の緑地・水辺、河川、海等を有機的につなぐ広域的な生態系ネットワークの形成、森林の適切な整備・保全、集約型都市構造の実現、環境的に持続可能な交通システムの構築、生活排水処理施設や廃棄物処理施設を始めとする環境保全のためのインフラの維持・管理の促進、脱炭素化に向けた対応等に取り組みます。
特に、管理の担い手不足が懸念される農山漁村においては、持続的な農林水産業等の確立に向け、鳥獣被害対策、農地・森林・漁場の適切な整備・保全を図りつつ、経営規模の拡大や効率的な生産・加工・流通体制の整備、多様な地域資源を活用して付加価値を創出する農山漁村発イノベーション、人材育成等の必要な環境整備、環境保全型農業の取組等を進めるとともに、森林、農地等における土地所有者等、NPO、事業者、コミュニティ等多様な主体に対して、環境負荷を減らすのみならず、生物多様性等も保全されるような国土管理への参画を促します。
国、地方公共団体、森林所有者等の役割を明確化しつつ、地域が主導的役割を発揮でき、現場で使いやすく実効性の高い森林計画制度の定着を図り、適切な森林施業を確保します。なお、自然的・社会的条件が悪く林業に適さない場所に位置する森林については、公的主体による森林整備を推進します。さらに、多様な主体による森林づくり活動の促進に向け、企業・NPO・森林所有者等のネットワーク化等による連携・強化を推進します。
環境保全型農業を推進するため、土づくりや化学的に合成された肥料及び農薬の使用低減に資する技術、効率的、効果的な施肥や防除方法を普及するなどの取組を進めます。
国民全体が国土管理について自発的に考え、実践する社会を構築するため、ESDの理念に基づいた環境教育等の教育を促進し、国民、事業者、NPO、民間団体等における持続可能な社会づくりに向けた教育と実践の機会を充実させます。
また、地域住民(団塊の世代や若者を含む)やNPO、企業など多様な主体による国土管理への参画促進のため、市町村管理構想・地域管理構想の全国展開等による、「国土の国民的経営」の考え方の普及、地域活動の体験機会の提供のみならず、多様な主体間の情報共有のための環境整備、各主体の活動を支援する中間組織の育成環境の整備等を行います。
森林づくり活動のフィールドや技術等の提供等を通じて多様な主体による「国民参加の森林づくり」を促進するとともに、森林空間を活用して健康・観光・教育など多様な分野で体験プログラム等を提供する「森林サービス産業」の創出、地域の森林資源の活用や森林の適切な整備・保全につながる「木づかい運動」等を推進します。
公園緑地等において緑地の保全及び緑化に関する普及啓発の取組を展開します。
地方公共団体、事業者や地域住民が連携・協働して、地域の特性を的確に把握し、それを踏まえながら、地域に存在する資源を持続的に保全、活用する取組を促進します。また、こうした取組を通じ、地域のグリーン・イノベーションを加速化し、環境の保全管理による新たな産業の創出や都市の再生、地域の活性化も進めます。
社会活動の基盤であるエネルギーの確保については、東日本大震災を経て自立・分散型エネルギーシステムの有効性が認識されたことを踏まえ、モデル事業の実施等を通じて、地域に賦存する再生可能エネルギーの活用、資源の循環利用を進めます。なお、これらの再生可能エネルギーの導入に当たっては、景観や生態系、温泉等の自然資本への影響を回避・低減した上で、地域における円滑な合意形成が必要となるため、科学的データの収集・調査等を通じた地域共生型の資源・エネルギーの活用を推進します。
都市基盤や交通ネットワーク、住宅を含む社会資本のストックについては、高い環境性能等を備えた良質なストックの形成を図るとともに、長期にわたって活用できるよう適切な維持・更新を推進します。緑地の保全及び緑化の推進について、行政機関が定める「緑の基本計画」等に基づく地域の各主体の取組を引き続き支援していきます。
また、農山漁村が有する食料供給や国土保全の機能を損なわないような適切な土地・資源利用を確保しながら地域主導で再生可能エネルギーを供給する取組を推進するほか、持続可能な森林経営、木質バイオマス等の森林資源の多様な利活用、農業者や地域住民が共同で農地・農業用水等の資源の保全管理を行う取組を支援します。
さらに、地域の文化・歴史や森林、景観など農林水産物以外の多様な地域資源も活用し、農林漁業者はもちろん、地元の企業等も含めた多様な主体の参画によって付加価値の創出を図る農山漁村発イノベーションやエコツーリズム等、地域の文化、自然とふれあい、保全・活用する機会を増やすための取組を進めるとともに、都市と農山漁村等、地域間での交流や広域的なネットワークづくりも促進していきます。
これらの施策を推進するため、情報提供、制度整備、人材育成等の基盤整備にも取り組んでいきます。情報提供に関しては、多様な受け手のニーズに応じた技術情報、先進事例情報、地域情報等を分析・提供し、他省庁とも連携し、取組の展開を図ります。制度整備に関しては、地域の計画策定促進のための基盤整備により、地域内の各主体に期待される役割の明確化、主体間の連携強化を推進するとともに、持続可能な地域づくりへの取組に伴って発生する制度的な課題の解決を図ります。また、地域の脱炭素化事業への投融資を促進するため、株式会社脱炭素化支援機構によるリスクマネーの供給を通じて民間投資の拡大を図るとともに、グリーンボンド等を活用した資金調達・投資の促進等を引き続き行っていきます。人材育成に関しては、学校や社会におけるESDの理念に基づいた環境教育等の教育を通じて、持続可能な地域づくりに対する地域社会の意識の向上を図ります。また、NPO等の組織基盤の強化を図るとともに、地域づくりの政策立案の場への地域の専門家の登用、NPO等の参画促進、地域の大学など研究機関との連携強化等により、実行力ある担い手の確保を促進します。
中大規模建築物等の木造化、住宅や公共建築物等への地域材の利活用、木質バイオマス資源の活用等による環境負荷の少ないまちづくりを推進します。また、地域の森林・林業を牽引する森林総合監理士、持続的な経営プランを立て、循環型林業を目指し実践する森林経営プランナー、施業集約化に向けた合意形成を図る森林施業プランナー、伐採や再造林、路網作設等を適切に行える現場技能者を育成します。
豪雨や地震等により被災した荒廃山地の復旧・予防対策や海岸防災林等の整備強化による津波・風害の防備など、災害に強い森林づくりの推進により、地域の自然環境等を活用した生活環境の保全や社会資本の維持に貢献します。
景観に関する規制誘導策等の各種制度の連携・活用や、各種の施設整備の機会等の活用により、各地域の特性に応じ、自然環境との調和に配慮した良好な景観の保全や、個性豊かな景観形成を推進します。
古都保存、史跡名勝天然記念物、重要文化的景観、風致地区、歴史的風致維持向上計画等の各種制度を活用し、歴史的なまちなみや自然環境と一体をなしている歴史的環境の保全・活用を図ります。
持続可能な社会づくりの担い手育成は、全ての大人や子供に対して、あらゆる場において、個人の変容と社会や組織の変革を連動的に支え促すことを目的に推進することが重要です。このため、環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律(平成15年法律第130号)及び同法により国が定める基本方針(2024年5月閣議決定)のほか、「我が国における『持続可能な開発のための教育(ESD)』に関する実施計画(第2期ESD国内実施計画)」(2021年5月決定)等を踏まえ、環境教育及びESDを推進します。
学校においては、学習指導要領等に基づき、持続可能な社会づくりの担い手として必要な資質・能力等を育成するため、環境教育等の取組を推進します。また、ユネスコスクールによるネットワークを活用した交流等の促進や、学校施設が環境教育の教材としても活用されるよう、環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備を推進します。さらに、学校全体として、発達段階に応じて教科等横断的な実践が可能となるよう、関係省庁が連携して、教員等に対する研修や教材等の提供等に取り組みます。加えて、家庭、地域、職場等においては、関係府省が連携して、自然体験活動その他の多様な体験活動への参加の機会の拡充を図ります。
環境教育の推進に当たっては、体験活動を通じた学びに加え、ICTの活用、多様な主体同士の対話や協働を通じた学びの充実を図ります。また、「体験の機会の場」等を通じた質の高い環境学習拠点の充実や幅広い場での環境教育の推進を図るほか、表彰制度や研修の機会の提供等を通じて自発的な取組を促進していくとともに、ウェブサイト等により優良事例を積極的に発信します。
また、これらの取組を推進するために、ESD活動支援センター等の中間支援機能の充実を図り、その活用を促進します。
このほか、国連大学が実施する世界各地でのESDの地域拠点(RCE)の認定、アジア太平洋地域における高等教育機関のネットワーク(ProSPER.Net)構築、また、国連大学大学院学位プログラム「パリ協定専攻」におけるカリキュラムの開発・実施への支援を通して、引き続き、ESDの提唱国として、持続可能な社会の創り手を育成するESDを推進していきます。
多様な主体の参加によるパートナーシップを前提とした効果的な協働取組を通じて主体同士が学び合うことにより、地域コミュニティの対応力や課題解決力を高めていくことが可能です。すなわち、パートナーシップの充実・強化は、人づくり、地域づくりにも資するものであり、持続可能な地域づくりのためには、住民、民間団体、事業者、行政等による対話を通じた協働取組が重要です。
このため、地球環境パートナーシッププラザや地方環境パートナーシップオフィスを拠点とし、先進事例の紹介や各主体間の連携促進のための意見交換会の開催のほか、民間団体等の政策形成機能の強化や、自立した地域づくりへの伴走支援等に努め、世代や立場、分野を超えた環境教育や協働取組の促進を行います。また、これらの組織で培った中間支援機能に関する豊富な知見や経験を、地域等で中間支援組織となり得る様々な組織・団体に共有することを促すことにより、地域等の特性に合った協働取組を通じた地域づくり、人づくりを促進します。