環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書>令和6年度 環境の保全に関する施策 令和6年度 循環型社会の形成に関する施策 令和6年度 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策>第1章 地球環境の保全>第1節 地球温暖化対策

令和6年度 環境の保全に関する施策
令和6年度 循環型社会の形成に関する施策
令和6年度 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策

第1章 地球環境の保全

第1節 地球温暖化対策

1 研究の推進、監視・観測体制の強化による科学的知見の充実

気候変動問題の解決には、最新の科学的知見に基づいて対策を実施することが必要不可欠です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の各種報告書が提供する科学的知見は、世界全体の気候変動対策に大きく貢献しており、この活動を拠出金等により支援するとともに、国内の科学者の研究を支援することにより、我が国の科学的知見を同報告書に反映させていきます。

また、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)や「いぶき2号」(GOSAT-2)による全球の温室効果ガス濃度の継続的な観測を行うとともに、2024年度打ち上げ予定の3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)による継続的な観測体制の維持と、後継機の検討を進めます。加えて、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)等を活用した気候変動に伴う地球環境変化の衛星観測を行います。さらに、航空機・船舶・地上観測等による観測・監視、観測データの蓄積・利活用、気候変動予測、影響評価、調査研究の推進等により気候変動に係る科学的知見を充実させます。加えて、パリ協定に基づき各国が作成・公表する温室効果ガスインベントリ報告と、独立性の高いGOSAT観測データに基づく排出量推計値とを比較し、各国排出量報告の透明性の確保を目指すとともに、排出量推計技術の国際標準化を目指していきます。

2 持続可能な社会を目指した脱炭素社会の姿の提示

1.5℃目標の達成に向けた我が国の取組として、地球温暖化対策計画に基づき、2050年カーボンニュートラルに加え、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていきます。経済と環境の好循環を生み出し、2030年度の野心的な目標に向けて力強く成長していくため、徹底した省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの最大限の導入、公共部門や地域の脱炭素化等、あらゆる分野で、でき得る限りの取組を進めます。

3 グリーントランスフォーメーション(GX)の実現に向けて

産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、「グリーントランスフォーメーション」(GX)の実現に向けて、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(令和5年法律第32号)及び同法に基づくGX推進戦略を踏まえ、GX経済移行債を活用した先行投資支援と、成長志向型カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブを組み合わせつつ、重点分野でのGX投資を分野別投資戦略を通じ促進するなど、我が国のGXを加速していきます。

4 エネルギー起源CO2の排出削減対策

経済の発展や質の高い国民生活の実現、地域の活性化、自然との共生を図りながら温室効果ガスの排出削減等を推進すべく、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限の導入、公共部門や地域の脱炭素化、技術開発の一層の加速化や社会実装、ライフスタイル・ワークスタイルの変革等を実行します。

(1)脱炭素でレジリエントかつ快適な地域・くらしの創造

「地域脱炭素ロードマップ」、「地球温暖化対策計画」及びGX推進戦略に基づき、脱炭素先行地域づくり、脱炭素の基盤となる重点対策の全国実施を推進するとともに、地域の実施体制構築のための積極支援を行います。具体的な施策については、第6章第5節1(2)を参照。

新しい国民運動「デコ活」について、令和5年度策定の「くらしの10年ロードマップ」に基づき、官民連携で国民の「新しい豊かな暮らし」に向けた脱炭素型製品・サービス等の大規模な需要創出と、行動変容・ライフスタイル転換を持続的かつ強力に促していきます。

脱炭素社会を実現するため、再生可能エネルギーの主力化を着実に進めることが必要です。再生可能エネルギーの最大限の導入に向け、地球温暖化対策推進法に基づく地域脱炭素化促進事業制度等も活用しながら、環境に適正に配慮され、地域の合意形成が図られた地域共生型再エネを推進していきます。また、公共施設での率先導入により需要を創出することや、民間企業による自家消費型太陽光の導入、エネルギーの面的利用の拡大、窓・壁等と一体となった太陽光発電設備の導入、エネルギーの地産地消を目指す地域における浮体式洋上風力発電の導入に向けた計画策定支援等、様々な取組を通してCO2排出削減対策を進めていきます。

一度建設されると長期にわたりCO2の排出に影響を与える住宅・建築物分野の脱炭素化を着実に推進するため、ZEH・ZEBを普及します。また、国内に多数存在する省エネ性能の低い住宅・建築物の脱炭素改修を加速するとともに、省エネルギー性能の高い設備・機器の導入促進や、家庭・ビル・工場のエネルギーマネジメントシステム(HEMS/BEMS/FEMS)の活用や省エネルギー診断等による徹底的なエネルギー管理の実施を図ります。

省エネトップランナー制度により、家電・自動車・建材等の省エネルギー性能の更なる向上を図ります。

電力部門においては、2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化というG7の合意も踏まえつつ、脱炭素電源を最大限活用することに加え、火力発電については、電力の安定供給を大前提に、できる限り発電比率を引き下げていくべく、2030年に向けて非効率石炭火力のフェードアウトを着実に進めます。さらに、2050年に向けて水素・アンモニアやCCUS/カーボンリサイクル等の活用により、脱炭素型の火力発電に置き換える取組を推進していきます。

(2)バリューチェーン・サプライチェーン全体の脱炭素移行の促進

民間投資も活用した企業のバリューチェーンの脱炭素経営の実践、地域・くらしを支える物流・交通、資源循環などサプライチェーン全体の脱炭素移行を促進します。

「経団連カーボンニュートラル行動計画」の着実な実施と評価・検証による産業界における自主的取組を推進していきます。

工場や事業場に対してもCO2削減計画の策定、省エネルギー性能の高い設備等の導入への支援や企業間で連携した取組への支援を行うことで企業の脱炭素化を進めていきます。

ネット・ゼロ社会の実現には自社のみならず、バリューチェーン全体の削減取組が重要であり、この取組を進めることは企業の競争力強化につながります。このため、バリューチェーンにおける温室効果ガス排出量算定の環境整備、算定及び削減に向けた支援等を進めます。

(3)地域・くらしの脱炭素化の基盤となる先導技術実証と情報基盤等整備

CO2排出削減技術の高効率化や低コスト化等のための技術的な課題を解決し、優れたCO2排出削減技術を生み出し、実社会に普及させていくことで、将来的な地球温暖化対策の強化につなげることが重要です。このため、開発リスク等の問題から民間の自主的な取組だけでは十分に進まないCO2排出削減効果の高い技術の開発・実証を進めます。

廃プラスチック、未利用の農業系バイオマス、廃プラスチック等の地域資源の活用・循環と大幅なCO2削減を実現する、革新的で省資源な触媒技術等に係る技術開発・実証を実施します。

次世代エネルギーの社会実装に向け、地域資源を活用して製造した水素を地域で使う地産地消型のサプライチェーンを構築する実証を実施します。

CCUS/カーボンリサイクルの早期社会実装に向け、CO2の分離・回収技術の実証及び未だ実用化されていない浮体式洋上圧入技術の検討や、廃棄物処理施設等から出る排ガスのCO2を利用して化学原料、燃料等を生成する技術の実証事業等に取り組みます。

(4)モビリティの脱炭素化

電動車の導入や充電・水素充てんインフラの整備を促進するなどの道路交通をグリーン化する取組を進めます。また、第六次環境基本計画が指摘していることを踏まえ、いわゆる誘発・転換交通が発生する可能性があることを認識しつつ、渋滞を原因とする当該区間におけるCO2の排出削減を図る渋滞対策としての幹線道路ネットワークの強化等の道路交通を適正化する取組のほか、安全・安心な歩行空間や自転車等通行空間の整備等による自動車交通量の減少等を通じたCO2排出量の削減や、ダブル連結トラックの利用環境の整備等による物流の効率化、道路整備・管理等のライフサイクル全体の低炭素化による道路施設の脱炭素化を推進します。さらに、ゼロエミッション船等の開発・生産基盤構築・導入、水素燃料電池鉄道車両の開発・導入等、モビリティ全般について次世代技術の開発や性能向上を促しながら普及を促進していきます。港湾については、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進します。航空分野については、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、航空機環境新技術の導入、空港の再生可能エネルギー拠点化等を推進していきます。

また、相対的に低炭素な輸送モードの利活用を促進するため、鉄道を始めとする公共交通の利用促進や、貨物輸送のモーダルシフトの促進に取り組みます。

5 エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスの排出削減対策

非エネルギー起源CO2、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等の排出削減については、廃棄物処理やノンフロン製品の普及等の個別施策を推進します。フロン類については、モントリオール議定書キガリ改正も踏まえ、上流から下流までのライフサイクルにわたる包括的な対策により、排出抑制を推進します。

6 森林等の吸収源対策、バイオマス等の活用

森林等の吸収源対策として、エリートツリー等の再造林や森林・林業の担い手の育成、生産基盤の整備、建築物等への木材利用の拡大等、総合的な取組を通じて、森林資源の循環利用の確立を図るとともに、農地等の適切な管理、都市緑化等を推進します。

また、これらの対策を着実に実施するため、バイオマス等の活用による農山漁村の活性化と一体的に推進します。

さらに、藻場・干潟等の海洋生態系が蓄積する炭素(ブルーカーボン)を活用した取組は、CO2の吸収・固定、海洋環境や漁業資源の保全、観光、地域経済の発展など、多面的価値を有するものであり、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の3つの統合的推進を象徴するものであるため、ブルーカーボン生態系(マングローブ林、塩性湿地・干潟、海草藻場・海藻藻場)の維持・拡大に向けた取組や吸収源対策の検討を精力的に進めます。炭素貯留のメカニズムが異なるブルーカーボン生態系のCO2排出・吸収量の算定については、我が国沿岸域における藻場の分布面積等のより高精度な算定手法の確立を進めるとともに、IPCCガイドラインを踏まえつつ、実現可能なものから速やかに温室効果ガスインベントリに反映していきます。

7 国際的な地球温暖化対策への貢献

COP28で実施されたグローバル・ストックテイクの結果を踏まえ、世界の進む道筋が1.5℃目標と整合的となるよう、我が国として最大限貢献していきます。

具体的には、相手国との協働に基づき、我が国の強みである技術力を活かして、戦略策定・制度構築・人材育成等脱炭素が評価される市場の創出に向けて更なる環境整備を進めるとともに、パリ協定に沿って実施する二国間クレジット制度(JCM)等を農業等も含む幅広いセクターに活用して環境性能の高い技術・製品等のビジネス主導による国際展開を促進し、世界の排出削減と持続可能な発展に最大限貢献していきます。また、グローバルメタンプレッジなど我が国も参加する気候変動対策推進のための様々な国際的イニシアティブと連携しつつ、JCM、都市間連携事業等を活用して、途上国等の脱炭素化に向けた取組に協力していきます。

土地利用変化による温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の2割を占め、その排出を削減することが地球温暖化対策を進める上で重要な課題となっていることから、特に途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)や植林を積極的に推進し、森林分野における排出の削減及び吸収の確保に貢献します。適応分野においても各国の適応活動の促進のため、アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)において科学的情報・知見の基盤整備や支援ツールの整備、能力強化・人材育成等を実施し、その活動を広報していきます。

8 横断的施策

我が国の産業競争力の強みであるバリューチェーンを構成する中堅・中小企業の脱炭素化を推進するため、各地域の自治体、金融機関、経済団体等が連携して地域ぐるみで支援する体制を構築するとともに、「知る」「測る」「減らす」の3ステップに沿った取組を促進します。

地球温暖化対策推進法に定める温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度について、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減や、CCUS/カーボンリサイクル、森林吸収等の新たな取組の促進にもつながるよう、制度の見直し等の検討を進めます。また、省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)の拡充等により、報告義務のない中堅・中小企業を含む事業者が排出量算定・公表を容易にできる環境を整備します。

脱炭素の実現に貢献する製品やサービスを消費者が選択する際に必要な情報を提供するため、企業及び業界による製品・サービスのカーボンフットプリント(CFP)の算定・表示に向けた取組をモデル事業等により支援するとともに、消費者の選択に寄与する効果的な表示の在り方を検討します。さらに、付加価値に転換する観点から、温室効果ガス削減効果など環境負荷の低減効果や削減貢献量、マスバランス方式等も活用したグリーン製品の提供も有効な取組と考えられ、今後、普及に向けた検討を行っていきます。

地球温暖化対策推進法に基づき、温室効果ガスの排出削減等のために事業者が講ずべき措置を取りまとめた温室効果ガス排出削減等指針について、技術の進歩やその他の事業活動を取り巻く状況の変化に応じた対策メニューの拡充を検討するとともに、その利便性の向上を図ることで、活用を促進します。

9 公的機関における取組

(1)政府実行計画

政府は、2021年10月に閣議決定した「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」に基づき、2013年度を基準として、政府全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに50%削減することを目標とし、太陽光発電の導入、新築建築物のZEB化、電動車の導入、LED照明の導入、再生可能エネルギー電力(目標(60%)を超える電力についても、排出係数が可能な限り低い電力)の調達等の取組を率先実行していきます。

(2)地方公共団体実行計画

地球温暖化対策推進法に基づき、全ての地方公共団体は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられています。また、その区域の自然的社会的条件に応じた温室効果ガスの排出量削減等を推進するための総合的な計画として、都道府県、指定都市、中核市及び施行時特例市(以下「都道府県等」という。)は、地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられているとともに、都道府県等以外の市町においても同計画の策定に努めることとされています。具体的な取組の方向性については、第6章第5節1(2)を参照。