生物の生息・生育空間のまとまりとして核となる地域(コアエリア)及び、その緩衝地域(バッファーゾーン)を適切に配置・保全するとともに、これらを生態的な回廊(コリドー)で有機的につなぐことにより、生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)の形成に努めます。生態系ネットワークの形成に当たっては、流域圏など地形的なまとまりや、国境を越えて移動する、渡り鳥等の生物の生息環境の地球規模での生態学的連結性も考慮し、保護地域やOECMも活用しながら、様々なスケールで森・里・川・海を連続した空間として積極的に保全・再生を図りつつ、鳥獣被害対策にも留意した取組を関係機関が横断的に連携して総合的に進めます。
各重要地域について、保全対象に応じて十分な規模、範囲、連結性を考慮した適切な配置、規制内容、管理水準、相互の連携等を考慮しながら、関係機関が連携・協力して、その保全に向けた総合的な取組を進めます。
自然環境保全地域等(原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域)については、引き続き行為規制や現状把握等を行うとともに、新たな地域指定を含む生物多様性の保全上必要な対策を検討・実施します。
自然公園(国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園)については、国立・国定公園の新規指定・拡張を始めとする公園計画等の見直しを進めつつ、公園計画に基づく行為規制や利用のための施設整備等を行います。また、国立公園満喫プロジェクトの全国展開及び滞在体験の魅力向上など、国立公園の保護と利用の好循環により、優れた自然を守り、地域活性化を図るための取組を推進します。
鳥獣保護区内の鳥獣の生息環境を保全、管理及び整備し、これらを通じて地域の生物多様性の保全に貢献します。また、鳥獣保護区内の特に必要な地域を特別保護地区に指定し、鳥獣の生息環境の確保(鳥獣の健全な生息環境の確保に必要な地域の生物多様性の維持回復や向上を含む。)を図ります。
国内希少野生動植物種の保存のため必要があると認めるときは、その個体の生息地又は生育地及びこれらと一体的にその保護を図る必要がある区域を指定し、生息環境の把握及び維持管理、施設整備、普及啓発を行い、必要に応じ、立入り制限地区を設け、種の特性に応じた保護の方針を定めてその保存を図ります。
行為規制等の各種制度とともに現況把握等の実施により、計画的な指定を進めるとともに、適正な保全に努めます。
原生的な天然林や希少な野生生物が生育・生息する「保護林」や、これらを中心としたネットワークを形成し、野生生物の移動経路となる「緑の回廊」において、モニタリング調査等を行いながら、適切な保護・管理を推進します。
「全国森林計画」(2023年10月閣議決定)に基づき、保安林の配備を計画的に推進するとともに、その適切な管理・保全に取り組みます。
多様な主体による良好な緑地管理がなされるよう、管理協定制度等の適正な緑地管理を推進するための制度の活用を図ります。
湿地の保全と賢明な利用及びそのための普及啓発を図るとともに、国際的に重要な湿地の基準を満たし、ラムサール条約湿地への登録によって保全等が円滑に推進されると考えられる湿地について、地域のニーズ及び民間等の取組も踏まえて登録を推進するほか、ラムサール条約湿地を自然体験の機会の場として活用した環境教育の推進を図ります。
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約に基づき登録された5地域(白神山地・屋久島・知床・小笠原諸島・奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島)において、科学的知見に基づく順応的な保全管理を推進することにより、全人類共通の資産である世界自然遺産の顕著な普遍的価値を将来にわたって保護するとともに、持続可能な利活用を推進し、地域活性化に貢献します。
国立公園等の管理を通じて、登録された生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の適切な保全管理を推進するとともに、地元協議会への参画を通じて、持続可能な地域づくりを支援します。また、新規登録を目指す地方公共団体に対する情報提供、助言等を行います。
国立公園と重複するジオパークにおいて、地形・地質の多様性等の保全活用を図るとともに、ジオツアーや環境教育のプログラムづくり等について、地方公共団体等のジオパークを推進する機関と連携して進めます。
世界農業遺産及び日本農業遺産に認定された地域の農林水産業システムの維持・保全等に係る活動を推進するとともに、本制度や認定地域に対する国民の認知度を向上させるための情報発信に取り組みます。
河川、湿原、干潟、藻場、里山、里地、森林等、生物多様性の保全上重要な役割を果たす自然環境について、自然再生推進法(平成14年法律第148号)の枠組みを活用し、多様な主体が参加し、科学的知見に基づき、長期的な視点で進められる自然再生事業を推進します。また、防災・減災等の自然環境の持つ機能に着目し、地域づくりにも資する自然環境の保全・再生や、地域住民等が行う「小さな自然再生」を始めとする全国各地における自然環境の保全・再生の推進を図ります。
里地里山等に広がる二次的自然環境の保全と持続的利用を将来にわたって進めていくため、人の生活・生産活動と地域の生物多様性を一体的かつ総合的に捉え、民間保全活動とも連携しつつ、持続的な管理を行う取組を推進します。「生物多様性保全上重要な里地里山」(重要里地里山)等においては、里地里山の資源を活用した環境的課題と社会経済的課題解決に向けた取組など、里地里山の保全・活用に資する先進的・効果的な活動の支援等を行います。
都市における生物多様性を確保し、また、自然とのふれあいを確保する観点から、都市公園の整備等を計画的に推進します。
都市と生物多様性に関する国際自治体会議等に関する動向及び決議「準国家政府、都市及びその他地方公共団体の行動計画」の内容等を踏まえつつ、都市のインフラ整備等に生物多様性への配慮を組み込むことなど、地方公共団体における生物多様性に配慮した都市づくりの取組を促進するため、「緑の基本計画における生物多様性の確保に関する技術的配慮事項」の普及を図るほか、「都市の生物多様性指標」に基づき、都市における生物多様性保全の取組の進捗状況を地方公共団体が把握・評価し、将来の施策立案等に活用されるよう普及を図ります。
30by30目標について、生物多様性国家戦略2023-2030の附属書として位置付けられている30by30ロードマップに基づき、本目標の達成に向けた取組を推進します。
我が国では、2023年1月時点で、陸地の約20.5%、海洋の約13.3%が生物多様性の観点からの保護地域に指定されていますが、今後、30by30目標を達成するため、国立公園等の拡張により現状からの上乗せを目指していきます。国立・国定公園については、2022年の「国立・国定公園総点検事業」のフォローアップにおいて選定した全国14か所の国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地について、基礎情報の収集整理を継続するとともに、自然環境や社会条件等の詳細調査及び関係機関との具体的な調整を実施し、2030年までに順次国立・国定公園区域に指定・編入することを目指します。また、2030年までに国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの国立・国定公園への編入や地種区分の格上げを進めていきます。加えて、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域において、国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることを目指します。さらに、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により対象となる自然の保護と利用の好循環を形成するとともに、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理を始めとした保護管理施策や管理体制の充実を図ります。
30by30目標は、主にOECMの設定により達成を目指すこととしています。このため、まずは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域(企業緑地、里地里山、都市の緑地、藻場・干潟等)について、「自然共生サイト」としての認定を進めます。認定された区域は、既存の保護地域との重複を除いてOECM国際データベースに登録することで、30by30目標の達成に貢献します。また、国の制度等に基づき管理されている森林、河川、港湾、都市の緑地、海域等についても、関係省庁が連携し、OECMに該当する可能性のある地域を検討します。
ネイチャーポジティブの実現のためには、自然共生サイトのような生物多様性が豊かな場所における活動に加え、管理放棄地等において生態系を回復又は創出するものも含めて民間等による自主的な活動を更に促進することが必要です。そのため、2024年3月に第213回国会に提出した「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案」を始めとした制度的検討を進めます。
30by30目標の達成や生態系ネットワークの形成等を支える取組として、第7節1で収集された自然環境データを基盤として、生物多様性の現状や保全上効果的な地域のマップ化等、生物多様性の重要性や保全活動の効果を国土全体で「見える化」し、生態系の質的な変化も含めて評価・把握する手法の構築を図り、提供します。
かつての氾濫原や湿地等の再生による流域全体での遊水機能等の強化による、自然生態系を基盤とした気候変動への適応や防災・減災を進めるため、2022年度に公表した生態系保全・再生ポテンシャルマップの作成・活用方法の手引きと全国規模のベースマップ等を基に、自治体等に対する各種計画策定等への技術的な支援を進めます。また、自然の有する機能を持続的に利用し多様な社会課題の解決につなげる自然を活用した解決策(NbS)について、我が国における考え方を整理するとともに、効果的な生態系の保全管理に必要な技術的情報等を通じ、地域における活用策を推進します。