環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第4章>第7節 大気環境の保全

第7節 大気環境の保全

1 大気環境の現状

(1)微小粒子状物質
ア 環境基準の達成状況

2022年度の微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率は、一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)が99.9%(有効測定局数855局)、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)が100%(有効測定局数236局)でした(表4-7-1、図4-7-1)。また、年平均値は、一般局8.8μg/m3、自排局9.2μg/m3でした。

表4-7-1 PM2.5の環境基準達成状況の推移
図4-7-1 全国におけるPM2.5の環境基準達成状況(2022年度)
イ PM2.5注意喚起の実施状況

2013年2月に環境基準とは別に策定された「注意喚起のための暫定的な指針」に基づき、日平均値が70μg/m3を超えると予想される場合に都道府県等が注意喚起を実施しています。2022年度の注意喚起実施件数は0件でした。

(2)光化学オキシダント
ア 環境基準の達成状況

2022年度の光化学オキシダントの環境基準達成率は、一般局0.1%(測定局数1,143局)、自排局0%(測定局数31局)であり、依然として極めて低い水準です(図4-7-2)。一方、昼間の測定時間を濃度レベル別の割合で見ると、1時間値が0.06ppm以下の割合は94.8%(一般局)でした(図4-7-3)。

図4-7-2 昼間の1時間値の年間最高値の光化学オキシダント濃度レベル別の測定局数の推移(一般局)
図4-7-3 昼間の測定時間の光化学オキシダント濃度レベル別割合の推移(一般局)

光化学オキシダント濃度の長期的な改善傾向を評価するために、中央環境審議会大気・騒音振動部会微小粒子状物質等専門委員会が提言した新たな指標(8時間値の日最高値の年間99パーセンタイル値の3年平均値)によれば、2020~2022年度の結果はいずれの地域においても2017~2019年度に比べて低下していました(図4-7-4)。

図4-7-4 光化学オキシダント濃度の長期的な改善傾向を評価するための指標(8時間値の日最高値の年間99パーセンタイル値の3年平均値)を用いた域内最高値の経年変化
イ 光化学オキシダント注意報等の発令状況等

2023年の光化学オキシダント注意報等の発令延日数(都道府県を一つの単位として注意報等の発令日数を集計したもの)は45日(17都府県)であり、月別に見ると、7月が最も多く32日、次いで5月が11日でした。また、光化学大気汚染によると思われる被害届出人数(自覚症状による自主的な届出による)は2人でした(図4-7-5)。

図4-7-5 光化学オキシダント注意報等の発令延日数及び被害届出人数の推移
ウ 非メタン炭化水素の測定結果

2022年度の非メタン炭化水素の午前6時~午前9時の3時間平均値の年平均値は、一般局0.11ppmC、自排局0.12ppmCであり、近年、一般局、自排局共に緩やかな低下傾向にあります。

(3)その他の大気汚染物質

2022年度の二酸化窒素(NO2)の環境基準達成率は、一般局100%、自排局100%、浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準達成率は、一般局100%、自排局100%、二酸化硫黄(SO2)の環境基準達成率は、一般局99.5%、自排局は100%、一酸化炭素(CO)の環境基準達成率は、一般局、自排局共に100%でした。

(4)有害大気汚染物質

環境基準が設定されている4物質に係る測定結果(2022年度)は表4-7-2のとおりで、4物質は全ての地点で環境基準を達成しています(ダイオキシン類に係る測定結果については、第5章第1節4(1)表5-1-1を参照)。

表4-7-2 環境基準が設定されている物質(4物質)

指針値(環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値)が設定されている物質のうち、ヒ素及びその化合物は5地点、1,2-ジクロロエタンは1地点、マンガン及びその化合物は1地点で指針値を超過しており、アクリロニトリル、アセトアルデヒド、塩化ビニルモノマー、塩化メチル、クロロホルム、水銀及びその化合物、ニッケル化合物、1,3-ブタジエンは全ての地点で指針値を達成しています。

(5)放射性物質

2022年度の大気における放射性物質の常時監視結果として、全国10地点における空間放射線量率の測定結果は、過去の調査結果と比べて特段の変化は見られませんでした。

(6)アスベスト(石綿)

石綿による大気汚染の現状を把握し、今後の対策の検討に当たっての基礎資料とするとともに、国民に対し情報提供していくため、建築物の解体工事等の作業現場周辺等で、大気中の石綿濃度の測定を実施しました(2022年度の対象地点は全国40地点)。2022年度の調査結果では、一部の解体現場等において1本/Lを超えるアスベスト繊維数濃度が確認されましたので、調査地点が所在する自治体に依頼し、事業者に対して指導を行うとともに、2023年度も引き続き大気中のアスベスト濃度調査を行いました。

(7)酸性雨・黄砂
ア 酸性雨

2023年度に取りまとめた2022年のモニタリング結果によると、我が国の降水は引き続き酸性化した状態(全平均値pH5.07)にあり、欧米等と比べて低いpHを示しましたが、中国の大気汚染物質排出量の減少とともにpHの上昇(酸の低下)の兆候が見られました。また、生態系への影響については、大気汚染等が原因と見られる森林の衰退は確認されず、モニタリングを実施しているほとんどの湖沼で、酸性化からの回復の兆候が見られました。

最近5か年度における降水中のpHの推移は図4-7-6のとおりです。

図4-7-6 降水中のpH分布図
イ 黄砂

我が国における黄砂の2023年の観測日数は、気象庁の公表によると14日でした。黄砂は過放牧や耕地の拡大等の人為的な要因も影響していると指摘されています。年により変動が大きく、長期的な傾向は明瞭ではありません。

2 窒素酸化物・光化学オキシダント・PM2.5等に係る対策

大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)に基づく固定発生源対策及び移動発生源対策を適切に実施するとともに、光化学オキシダント及びPM2.5の生成の原因となり得る窒素酸化物(NOX)、揮発性有機化合物(VOC)等の排出対策を進めています。また、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料となる常時監視体制を整備しています。

特に、光化学オキシダントは環境基準の達成率が低く、国内における削減が急務となっています。また、光化学オキシダントの主成分であるオゾンは、それ自体が温室効果ガスであると同時に、植物の光合成を阻害し二酸化炭素吸収を減少するとして、気候変動への影響も懸念されています。このため、2022年1月に「気候変動対策・大気環境改善のための光化学オキシダント総合対策について〈光化学オキシダント対策ワーキングプラン〉」を策定し、環境基準の再評価に向けた検討を含め、気候変動対策・大気環境改善に資する総合的な対策について取組を進めています。

(1)ばい煙に係る固定発生源対策

大気汚染防止法に基づき、ばい煙(NOX、硫黄酸化物(SOX)、ばいじん等)を排出する施設(ばい煙発生施設)について排出基準を定めて規制等を行うとともに、施設単位の排出基準では良好な大気環境の確保が困難な地域においては、工場又は事業場の単位でNOX及びSOXの総量規制を行っています。

(2)移動発生源対策

運輸・交通分野における環境保全対策については、自動車一台ごとの排出ガス規制の強化を着実に実施しました。また、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号。以下「自動車NOX・PM法」という。)に基づき、自動車からのNOX及び粒子状物質(PM)の排出量の削減に向けた施策を実施しました。

ア 自動車単体対策と燃料対策

自動車の排出ガス及び燃料については、大気汚染防止法等に基づき規制を逐次強化してきています(図4-7-7、図4-7-8、図4-7-9)。「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第十四次答申)」(2020年8月中央環境審議会)を踏まえ、特殊自動車の排出ガス低減対策等について審議を行っています。

図4-7-7 ガソリン・LPG乗用車規制強化の推移
図4-7-8 ディーゼル重量車(車両総重量3.5トン超)規制強化の推移
図4-7-9 軽油中の硫黄分規制強化の推移
イ 大都市地域における自動車排出ガス対策

自動車交通が集中する大都市地域の大気汚染状況に対応するため、自動車NOX・PM法の総量削減基本方針に基づき、自動車からのNOX及びPMの排出量の削減に向けた施策を計画的に進めています。同基本方針に規定される目標年度については、中央環境審議会の「今後の自動車排出ガス総合対策の在り方について(答申)」(2022年4月)を踏まえて、2020年度から2026年度に改め、新たな目標年度までに対策地域の全常時監視測定局において、安定的かつ継続的な環境基準の達成を目指していくこととなりました。

ウ 電動車の普及促進

乗用車は、2035年までに、新車販売に占める電動車の割合を100%にする、商用車は、8t以下の車については、2030年までに、新車販売に占める電動車の割合を20~30%にする、8t超の車については、2030年までに電動車を5,000台先行導入するとの目標に基づき、電動車の普及のための各種施策に取り組みました。

電動車の普及を促す施策として、車両導入に対する各種補助、自動車税・軽自動車税の軽減措置及び自動車重量税の免除・軽減措置等の税制上の特例措置を講じました。

エ 交通流対策

(ア)交通流の分散・円滑化施策

道路交通情報通信システム(VICS)の情報提供エリアの更なる拡大を図るとともに、ETC2.0や高度化光ビーコン等を活用し、道路交通情報の内容・精度の改善・充実に努めたほか、信号機の改良、公共車両優先システム(PTPS)の整備、観光地周辺の渋滞対策、総合的な駐車対策等により、環境改善を図りました。また、環境ロードプライシング施策を試行し、住宅地域の沿道環境の改善を図りました。

(イ)交通量の抑制・低減施策

交通に関わる多様な主体で構成される協議会による「都市・地域総合交通戦略」の策定及びそれに基づく公共交通機関の利用促進等への取組を支援しました。また、交通需要マネジメント施策の推進により、地域における自動車交通需要の調整を図りました。

オ 船舶・航空機・建設機械の排出ガス対策

船舶からの排出ガスについては、IMOの基準を踏まえ、海洋汚染等防止法により、NOX、燃料油中硫黄分濃度(SOX、PM)について規制されています。

航空機からの排出ガスについては、国際民間航空機関(ICAO)の排出物基準を踏まえ、航空法(昭和27年法律第231号)により、炭化水素(HC)、CO、NOX、不揮発性粒子状物質(nvPM)等について規制されています。

建設機械からの排出ガスについては、特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(平成17年法律第51号。以下、「オフロード法」という)に基づき2006年10月から順次使用規制を開始し、2011年及び2014年に規制を順次強化するとともに、「建設業に係る特定特殊自動車排出ガスの排出の抑制を図るための指針」に基づきNOX、PMなど大気汚染物質の排出抑制に取り組みました。

オフロード法の対象外機種(可搬型発動発電機や小型の建設機械等)についても、「排出ガス対策型建設機械の普及促進に関する規程」等により、排出ガス対策型建設機械の普及を図りました。さらに、融資制度により、これらの建設機械を取得しようとする中小企業等を支援しました。

カ 普及啓発施策等

警察庁、経済産業省、国土交通省及び環境省で構成するエコドライブ普及連絡会の枠組みを活用し、CO2削減につながる環境負荷の軽減に配慮した自動車利用の取組「エコドライブ」を推進し、環境にやさしく、安全運転にもつながることを呼び掛けました。

(3)VOC対策

VOCは光化学オキシダント及びPM2.5の生成原因の一つであるため、その排出削減により、大気汚染の改善が期待されます。

VOCの排出抑制対策は、法規制と自主的取組のベストミックスにより実施しており、2022年度の総排出量は2000年度に対し60%削減されました。

VOCの一種である燃料蒸発ガスを回収する機能を有する給油機(Stage2)の普及促進のため、当該給油機を導入している給油所を大気環境配慮型SS(e→AS(イーアス))として認定する制度を2018年2月に創設し、2024年3月末までに628件の給油所を認定しました。

(4)監視・観測、調査研究
ア 大気汚染物質の監視体制

大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、国設大気環境測定所(9か所)、国設自動車交通環境測定所(9か所)、大気汚染防止法に基づき都道府県等が設置する一般局及び自排局において、大気の汚染状況の常時監視を実施しています。測定データ(速報値)、都道府県等が発令した光化学オキシダント注意報等やPM2.5注意喚起の情報について、環境省では「大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)」によりリアルタイムに収集し、インターネット及び携帯電話用サイトで情報提供しています。また、気象庁では光化学スモッグに関連する気象状態を都道府県等に通報し、光化学スモッグの発生しやすい気象状態が予想される場合にはスモッグ気象情報や全般スモッグ気象情報を発表して国民へ周知しています。

国及び都道府県等では季節ごとのPM2.5成分の測定を行っています。また、国において、全国10か所でPM2.5成分の連続測定、全国4か所でPM2.5の原因物質であるVOCの連続測定を行っています。これらの測定データを基に、国内の発生源寄与割合や大陸からの越境汚染による影響等、PM2.5による汚染の原因解明や効果的な対策の実施に向けた検討を進めています。

イ 酸性雨・黄砂の監視体制

国内における越境大気汚染及び酸性雨による影響の早期把握、大気汚染原因物質の長距離輸送や長期トレンドの把握、将来影響の予測を目的として、「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画」に基づき、国内の湿性・乾性沈着モニタリング、湖沼等を対象とした陸水モニタリング、土壌・植生モニタリング等を離島など遠隔地域を中心に実施しています。

国立研究開発法人国立環境研究所と協力して、高度な黄砂観測装置(ライダー装置)によるモニタリングネットワークを整備し、「環境省黄砂飛来情報(ライダー黄砂観測データ提供ページ)」において観測データをリアルタイムで提供しています。

ウ 放射性物質の監視体制

関係機関が実施している放射性物質モニタリングを含めて、全国307地点で空間放射線量率の測定を行うなど、放射性物質による大気の汚染の状況を監視しており、2022年度の大気における放射性物質の常時監視結果を専門家による評価を経て公表しています。

東京電力福島第一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物質のモニタリングについては、政府が定めた「総合モニタリング計画」に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しています。また、放射線モニタリング情報のポータルサイトにおいて、モニタリングの結果を一元的に情報提供しています。

航空機モニタリングによる2023年11月時点の東京電力福島第一原子力発電所から80km圏内の地表面から1mの高さの空間線量率は、引き続き減少傾向にあります。

3 アジアにおける大気汚染対策

アジア地域における大気環境の改善に向け、様々な二国間・多国間協力を通じて、政策・技術に関する情報共有、モデル的な技術の導入、共同研究等を進めています。

(1)二国間協力

第6章第4節1(2)イを参照。

(2)日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)の下の協力

TEMMの枠組みの下で、大気汚染に関する政策対話、黄砂に関する共同研究等を実施しました。

第6章第4節1(2)ア(イ)を参照。

(3)多国間協力
ア アジアEST地域フォーラム

2023年10月にマレーシアのクアラルンプールにおいて第15回アジアEST(環境的に持続可能な交通)地域フォーラムを開催し、アジア地域各国のESTに関する政策の共有を図るなどとともに、第14回フォーラムで採択された「愛知宣言2030」の目標に対する各国の取組状況についてフォローアップが実施されました。

イ 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)

東アジア地域において、酸性雨問題に関する地域の協力体制を確立することを目的として、我が国のイニシアティブにより、2001年に東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)を設立し、現在、東アジア地域の13か国が参加しています。EANETは、2020年の政府間会合で、酸性雨に限らずより広い大気環境問題を扱うことができるよう活動スコープを拡大し、2021年の政府間会合で、具体的な対象物質と取り組む活動、プロジェクトごとに予算を執行する新たな仕組みの導入とそのガイドラインについて合意しました。これにより、従来の活動に加え、より柔軟かつ迅速に課題に対応する活動を実施しています。

ウ コベネフィット・アプローチの推進

アジア太平洋地域の大気環境改善に向けた活動を促進するため、2014年に国連環境計画(UNEP)と連携して立ち上げたアジア太平洋クリーン・エア・パートナーシップ(APCAP)の活動の推進、クリーン・エア・アジア(CAA)と連携した国際会議等における情報発信、国際応用システム分析研究所(IIASA)との共同研究の実施、2010年に創設したアジア・コベネフィット・パートナーシップの活動の推進、我が国の技術の普及拡大等、多国間の連携や二国間の協力等を通じて、大気環境改善と温室効果ガス排出削減に同時に資するコベネフィット・アプローチを推進しました。

4 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)アスベスト(石綿)対策

大気汚染防止法では、全ての建築物及びその他の工作物の解体等工事について、吹付け石綿や石綿を含有する断熱材、保温材、耐火被覆材、仕上塗材及び成形板等の使用の有無を事前調査で確認し、当該建材が使用されている場合には作業基準を遵守することなどを求めており、地方公共団体と連携して、石綿の大気環境への飛散防止対策に取り組んできました。

2020年6月の大気汚染防止法等の改正により、建築物に係る事前調査は、有資格者による実施が義務付けられましたが、より一層の対策の強化のため、2023年6月に大気汚染防止法施行規則等を改正し、建築物に加え主な工作物に係る事前調査についても、有資格者による実施を義務付けることとしました。改正後の大気汚染防止法の円滑な運用がなされるように対応を徹底します。

(2)水銀大気排出対策

水銀に関する水俣条約の的確かつ円滑な施行を確保するため、改正大気汚染防止法が2018年4月に施行されました。同法に基づく水銀大気排出対策の着実な実施を図るため、水銀排出施設の届出情報及び水銀濃度の測定結果の把握や、要排出抑制施設における自主的取組のフォローアップ、水銀大気排出インベントリーの作成等を行いました。また、2023年4月に、水銀に係る改正大気汚染防止法施行後5年が経過したこと、水銀に関する水俣条約が締結されてから8年近く経過し、脱炭素化を含め様々な社会情勢の変化が生じていることから、中央環境審議会大気・騒音振動部会大気排出基準等専門委員会において、水銀に関する情報を収集・整理しました。

(3)有害大気汚染物質対策等

有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握するため、大気汚染防止法に基づき、地方公共団体と連携して有害大気汚染物質モニタリング調査を実施しました。特に酸化エチレンについては、2022年10月に策定した「事業者による酸化エチレンの自主管理促進のための指針」により排出抑制対策を推進しており、同指針に基づく事業者団体等の取組状況を、2023年9月に開催した中央環境審議会大気・騒音振動部会有害大気汚染物質排出抑制対策等専門委員会において報告しました。

有害大気汚染物質から選定された優先取組物質のうち、環境目標値が設定されていない物質については、迅速な値の設定を目指すこととされており、科学的知見の充実のため、有害性情報等の収集を行いました。

5 地域の生活環境保全に関する取組

(1)騒音・振動対策

騒音に係る環境基準は、地域の類型及び時間の区分ごとに設定されており、類型指定は、2022年度末時点で765市、415町、38村、23特別区において行われています。また、環境基準達成状況の評価は、「個別の住居等が影響を受ける騒音レベルによることを基本」とされ、一般地域(地点)と道路に面する地域(住居等)別に行うこととされています。

2022年度の一般地域における騒音の環境基準の達成状況は、全測定地点で90.8%、地域の騒音状況を代表する地点で90.6%、騒音に係る問題を生じやすい地点等で91.5%となっています。

騒音苦情の件数は2022年度には前年度より736件増加し、20,436件でした(図4-7-10)。発生源別に見ると、建設作業騒音に係る苦情の割合が37.9%を占め、次いで工場・事業場騒音に係る苦情の割合が25.6%を占めています。

図4-7-10 騒音・振動・悪臭に係る苦情件数の推移

振動の苦情件数は、2022年度は前年度より242件増加し、4,449件でした。発生源別に見ると、建設作業振動に対する苦情件数が71.4%を占め、次いで工場・事業場振動に係るものが14.7%を占めています。

ア 自動車交通騒音・振動対策

自動車単体の構造の改善による騒音の低減等の発生源対策、道路構造対策、交通流対策、沿道対策等の諸施策を総合的に推進しました(表4-7-3)。また、「今後の自動車単体騒音低減対策のあり方について(第四次答申)」(2022年6月中央環境審議会)を踏まえ、四輪車及び二輪車走行騒音規制の見直し等について検討を行っています。

表4-7-3 道路交通騒音対策の状況

道路に面する地域における騒音の環境基準の達成状況については、2022年度において、全国約937万8,600戸の住居等を対象に行った評価では、昼間・夜間のいずれか又は両方で環境基準を超過したのは約47万9,800戸(5.1%)でした(図4-7-11)。このうち、幹線交通を担う道路に近接する空間にある約402万800戸のうち昼間・夜間のいずれか又は両方で環境基準を超過した住居等は約33万300戸(8.2%)でした。

図4-7-11 2022年度道路に面する地域における騒音の環境基準の達成状況

要請限度制度の運用状況については、自動車騒音に関して、2022年度に地方公共団体が苦情を受け測定を実施した51地点のうち要請限度値を超過したのは5地点でした。また同様に、道路交通振動に関して、測定を実施した79地点のうち要請限度値を超過したのは0地点でした。なお、要請限度制度とは、自動車からの騒音や振動が環境省令で定める限度を超えていることにより道路の周辺の生活環境が著しく損なわれると認められる場合に、市町村長が都道府県公安委員会に対して道路交通法(昭和35年法律第105号)の規定による措置等を要請することができる制度です。

イ 鉄道騒音・振動、航空機騒音対策

新幹線鉄道騒音に係る環境基準の達成状況は、2022年度において、468地点の測定地点のうち260地点(55.6%)で環境基準を達成しました(図4-7-12)。なお、新幹線鉄道の軌道中心から25m以内に住居がない地域数の割合は、2022年度において18.1%であり、近年ほとんど変動がありません(図4-7-13)。また、整備新幹線開業時における障害防止対策及び新幹線鉄道振動に係る指針値は、おおむね達成されています。

図4-7-12 新幹線鉄道騒音に係る環境基準における音源対策の達成状況
図4-7-13 新幹線鉄道沿線における住居の状況

新幹線鉄道騒音対策としては、従来の音源対策である75デシベル対策に加え、新幹線鉄道沿線の地方公共団体に対し、新幹線鉄道騒音による著しい騒音が及ぶ地域については、沿線の土地利用計画の決定又は変更に際し、新たな市街化を極力抑制するとともに、具体的な土地利用において騒音により機能を害されるおそれの少ない公共施設等を配置するなど、騒音防止可能な措置を講じるよう指導しているところです。また、新幹線鉄道騒音の測定・評価に関する標準的な方法を示した「新幹線鉄道騒音測定・評価マニュアル」に基づく測定・評価等を行い、現状の把握に努めています。

航空機騒音については、測定・評価に関する標準的な方法を示した「航空機騒音測定・評価マニュアル」に基づく測定・評価等を行い、現状の把握に努めています。

公共用飛行場周辺における航空機騒音対策としては、耐空証明(旧騒音基準適合証明)制度による騒音基準に適合しない航空機の運航を禁止するとともに、緊急時等を除き、成田国際空港では夜間の航空機の発着を禁止し、大阪国際空港等では発着数の制限を行っています。

航空機騒音対策を実施してもなお航空機騒音の影響が及ぶ地域については、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和42年法律第110号)等に基づき空港周辺対策を行っています。同法に基づく対策を実施する特定飛行場は、東京国際空港、大阪国際空港、福岡空港など14空港であり、これらの空港周辺において、学校、病院、住宅等の防音工事及び共同利用施設整備の助成、移転補償、緩衝緑地帯の整備等を行っています(表4-7-4)。また、大阪国際空港及び福岡空港については、周辺地域が市街化されているため、同法により計画的周辺整備が必要である周辺整備空港に指定されており、大阪国際空港周辺の事業は関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律(平成23年法律第54号)等に基づき新関西国際空港株式会社より空港運営権者に選定された関西エアポート株式会社が、福岡空港周辺の事業は国及び関係地方公共団体の共同出資で設立された独立行政法人空港周辺整備機構が関係府県知事の策定した空港周辺整備計画に基づき、上記施策に加えて、再開発整備事業等を実施しています。

表4-7-4 空港周辺対策事業一覧表

自衛隊等の使用する飛行場等に係る周辺対策としては、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号)等に基づき、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、移転補償、緑地帯等の整備、テレビ受信料の助成等の各種施策を行っています(表4-7-5)。

表4-7-5 防衛施設周辺騒音対策関係事業一覧表

航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、2022年度において、585地点の測定地点のうち、517地点(88.3%)で達成しました(図4-7-14)。

図4-7-14 航空機騒音に係る環境基準の達成状況
ウ 工場・事業場及び建設作業の騒音・振動対策

騒音規制法(昭和43年法律第98号)及び振動規制法(昭和51年法律第64号)では、騒音・振動を防止することにより生活環境を保全すべき地域内における法で定める工場・事業場及び建設作業の騒音・振動を規制しています。

振動規制法に基づく特定施設であるコンプレッサーについて、「一定の限度を超える大きさの振動を発生しないものとして環境大臣が指定する圧縮機を定める告示」及び「低振動型圧縮機の指定に関する規程」を2022年5月に公布し、同年12月に施行されました。2023年度末時点で、低振動型圧縮機として10,436型式を指定しました。

エ 新しい騒音問題等の対策

風力発電施設については、近年設置数が増加していること、騒音等による苦情が発生していることなどから、その実態の把握と知見の充実が求められており、風力発電施設からの騒音等の評価手法等についての検討及び新たな知見の集積を行い、2017年5月に公表した「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」と「風力発電施設から発生する騒音等測定マニュアル」の周知徹底に努めています。また、省エネ型温水器等から発生する騒音等について、人への影響等に関する調査を実施し、2020年3月に公表した「地方公共団体担当者のための省エネ型温水器等から発生する騒音対応に関するガイドブック」の周知徹底に努めています。

2022年度には全国の地方公共団体で、人の耳には聞き取りにくい低周波の音がガラス窓や戸、障子等を振動させる、気分のイライラ、頭痛、めまいを引き起こすといった苦情が335件受け付けられました。

低周波音問題への対応に資するため、地方公共団体職員を対象として、低周波音問題に対応するための知識・技術の習得を目的とした低周波音の測定評価方法に係る講習を行っています。

近年、営業騒音、拡声機騒音、生活騒音等のいわゆる近隣騒音は、騒音に係る苦情全体の約18.0%を占めています。近隣騒音対策は、各人のマナーやモラルに期待するところが大きいことから、近隣騒音に関するパンフレットを作成して普及啓発活動を行っています。また、各地方公共団体においても取組が進められており、2022年度末時点で、深夜営業騒音は41の都道府県及び106の市町村で、拡声機騒音は43の都道府県及び137の市町村で条例を制定しています。

(2)悪臭対策

悪臭苦情の件数は2018年度からは増加していましたが、2021年度からは減少傾向になり、2022年度の悪臭苦情件数は12,435件と、前年度に比べ515件減少しました。

悪臭防止法(昭和46年法律第91号)に基づき、工場・事業場から排出される悪臭の規制等を実施しています。2023年度には、嗅覚測定法における現告示法の見直し、嗅覚パネルの選定に関する見直しの検討等を行いました。また、臭気指数等の測定を行う臭気測定業務従事者についての国家資格を認定する臭気判定士試験を毎年1回実施しています。

(3)ヒートアイランド対策

ヒートアイランド現象が大都市を中心に生じており、30℃を超える時間数が増加しています(図4-7-15)。近年は、猛暑による熱中症救急搬送人員も増加傾向にあり、暑熱環境の改善について社会的な要請が高まっています。

図4-7-15 都市の30℃以上時間数の推移

暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)等の熱中症予防情報の提供を実施するとともに、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善、人の健康への影響等を軽減する適応策の推進を柱とするヒートアイランド対策の推進を図りました。

(4)光害(ひかりがい)対策等

不適切な屋外照明等の使用から生じる光は、人間の諸活動や動植物の生息・生育に悪影響を及ぼすとともに、過度な明るさはエネルギーの浪費であり、地球温暖化の原因にもなります。

このため、良好な光環境の形成に向けて、2020年度に近年のLED照明の普及など照明技術を取り巻く環境の変化も踏まえて改定した光害(ひかりがい)対策ガイドライン等を活用し、普及啓発を図りました。また、星空観察を通じて光害(ひかりがい)に気づき、環境保全の重要性を認識してもらうことを目的として、夏と冬の2回、肉眼観察とデジタルカメラによる夜空の明るさ調査を呼び掛けました。

また、良好な感覚環境の創出に向けて、五感を活かした地域の取組等について文献、事例調査を行い、よいかおりや心地よい音などの良好な感覚環境の創出と健康増進効果に関する知見収集を行うなどの取組を進めています。