環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組>第1節 生物多様性条約COP15及び生物多様性国家戦略

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組

第1節 生物多様性条約COP15及び生物多様性国家戦略

1 生物多様性条約COP15に向けた取組

愛知目標に代わる新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の検討プロセスは、2018年11月にエジプト・シャルムエルシェイクで開催された生物多様性条約第14回締約国会議(COP14。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章におけるCOPは、生物多様性条約締約国会議を指す。)において決定され、その具体的な検討は、2019年1月に愛知県名古屋市で開催された「ポスト2020生物多様性枠組アジア太平洋地域ワークショップ」から始まりました。以降、生物多様性条約の公開作業部会(OEWG)や補助機関会合(SBSTTA、SBI)、さらには新型コロナウイルス感染症による影響を受けてCOP15が何度も延期される中で、多数のオンライン会合が開催されました。2021年10月にオンラインを中心に開催されたCOP15第一部では、ハイレベルセグメントにおいて山口壯環境大臣(当時)が、当該枠組の実施にも貢献するため、生物多様性日本基金(JBF)の第2期として総額1,700万ドル規模での途上国支援を行うこと等を表明しました。我が国はこれらの会合において、当該枠組に記載すべき内容やその科学的根拠、実施報告、評価及びレビューのための仕組み等について、より効果的なものとなるように意見を表明してきました。

また、当該枠組の採択に向け、様々な国際的な決意やイニシアティブが表明されました。2020年9月には生物多様性を主要テーマとした初めてのサミットである「国連生物多様性サミット」が開催されるとともに、全世界の首脳級に参画を呼びかけた初めての生物多様性に関するイニシアティブとして、2030年までに生物多様性の損失傾向を食い止め、回復に向かわせるというネイチャーポジティブの考えに基づいた10の約束事項を掲げた「リーダーによる自然への誓約」の署名が開始され、我が国も2021年5月に参加を表明しました。2021年1月には当該枠組に30by30目標等の野心的な目標の位置づけを求める国々の集まりである「自然と人々のための高い野心連合(High Ambition Coalition for Nature and People)」が立ち上げられ、我が国も参加を表明しました。

さらに2021年6月に開催されたG7サミットでは、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという世界的な任務を支える「G7 2030年自然協約」を採択しました。この自然協約においてG7各国は、2030年までに世界の陸地及び海洋の少なくとも30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持すること、また、国内の状況に応じて、少なくとも同じだけの割合の自国の陸水域と内水面を含む土地と沿岸・海域を効果的に保全し又は保護することにつき範を示すこと等を約束しました。

こうした経緯のもと、2022年12月にカナダ・モントリオールでCOP15第二部が開催されました。我が国からは西村明宏環境大臣を政府代表団長とする代表団が出席し、愛知目標を取りまとめたCOP10議長国としての経験を活かして積極的に議論に貢献しました。12月15日から17日に開催されたハイレベルセグメントには、各国の首脳級及び閣僚級が参加し、2050年までの長期目標「自然と共生する世界」に向けた各国の取組が発信され、西村明宏環境大臣からは地球環境ファシリティ(GEF)への6.38億ドルの拠出及び生物多様性日本基金(JBF)への総額1,700万ドル規模の支援に加え、2023年から2025年にかけて生物多様性保全への支援として1,170億円のプレッジを表明しました。こうした様々な検討や議論を経て、愛知目標に次ぐ新たな世界目標が「昆明・モントリオール生物多様性枠組」として採択されました。

2 生物多様性国家戦略

「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択を受け、生物多様性国家戦略2023-2030を2023年3月に閣議決定しました。

環境省では、2021年8月に中央環境審議会自然環境部会に「生物多様性国家戦略」の変更について諮問し、これを審議するために生物多様性国家戦略小委員会を設置しました。2021年度から2022年度にかけて同小委員会を7回開催し、昆明・モントリオール生物多様性枠組に関する国際的な議論の動向等を踏まえながら、関係省庁やNGO、農林水産業関係者などからもヒアリングを行うなど、様々なステークホルダーの参加を得つつ検討を進めてきました。

生物多様性国家戦略2023-2030は、2030年ミッションとして「2030年ネイチャーポジティブ」を掲げ、その達成のための5つの基本戦略とそれらに紐づく状態目標及び行動目標を設定し、2030年までにこれらの達成に向けた施策を推し進めていくこととしています。また、昆明・モントリオール生物多様性枠組の点検・評価プロセスに合わせ、点検・評価を実施し、取組状況の更なる向上を継続的に図っていくこととしています。さらに、本国家戦略には2022年4月に公表した30by30目標を達成するための行程と具体策を示した「30by30ロードマップ」を掲載しています。