環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

1 多様な主体の参画

(1)マルチステークホルダーによる生物多様性主流化のための連携・行動変容への取組

我が国では、2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された「愛知目標」の達成に向け、産官学民の多様なステークホルダーからなる、「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」(事務局:環境省)を設置し、生物多様性についての普及啓発などの取組を進めてきました。

2021年11月には産官学民の連携・協力によって「昆明・モントリオール生物多様性枠組」、「国連生態系回復の10年」などの国際目標や国内目標の達成に貢献するため、UNDB-Jの後継組織として「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)」を設立しました。

本会議では、30by30目標をはじめとする「昆明・モントリオール生物多様性枠組」などの国際目標や関連する国内戦略等の達成に向け、企業や国民の具体の行動変容を促す取組強化、様々なステークホルダー間の連携を促すための枠組み構築等に取り組みました。具体的には、COP15第二部において日本の取組発信、ビジネスフォーラムや地域連携フォーラム、行動変容ワーキンググループといった下部組織を設け、生物多様性における国際動向や国内取組の共有、企業や国民の具体的な行動変容を促す取組について議論・検討を進めています。30by30目標の達成に向けては、産官学民による30by30アライアンスを2022年4月に発足させました。

また、J-GBFは、生物多様性に関する理解や普及啓発に資する取組として、国民一人一人が自分の生活の中で生物多様性との関わりを捉えることができる5つのアクション「MY行動宣言」の呼び掛け、ビジネス・地域連携・行動変容の各フォーラム等での活動等を行い、これらの活動状況を発表するオフィシャルウェブサイトを用いて普及啓発を促進しています。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2023年3月末時点で47都道府県、162市区町村で策定されています。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2023年3月時点で191自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国で89の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づき、2023年3月時点で16地域が地域連携保全活動計画を作成済みであり、21自治体が同法に基づく地域連携保全活動支援センターを設置しています(図2-2-1、表2-2-1)。また、同法の更なる活用を図るため、地域連携保全活動支援センターへの各種情報提供、同センターの設置促進等を行いました。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制支援措置等を実施しました。また、非課税措置に係る申請時の留意事項等を追記した改訂版のナショナル・トラストの手引きの配布等を行いました。

利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得等、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とした地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年法律第85号。以下「地域自然資産法」という。)の運用を進めました。2023年3月時点で、地域自然資産法に基づく地域計画が沖縄県竹富町と新潟県妙高市で作成されており、両地域において同計画に基づく入域料の収受等の取組が進められています。

(3)生物多様性に関する広報・行動変容等の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2022年のテーマは「Building a shared future for all life」でした。国際生物多様性の日を迎えるに当たり、国連大学サステイナビリティ高等研究所、地球環境パートナーシッププラザと共催で、オンラインシンポジウム「国際生物多様性の日2022シンポジウム-すべてのいのちと共にある未来へ!-」を開催しました。冒頭に大岡敏孝環境副大臣(当時)やエリザベス・マルマ・ムレマ生物多様性条約事務局長からビデオメッセージを発信しました(写真2-2-1)。そのほか、生物多様性の重要性を一般の方々に知ってもらうとともに、生物多様性に配慮した事業活動や消費活動を促進するため、前項で紹介したJ-GBFの各種取組のほか、「こども霞が関見学デー」、「GTFグリーンチャレンジデー」など、様々なイベントの開催・出展や様々な活動とのタイアップによる広報活動等を通じ、普及啓発を進めています。

写真2-2-1 国際生物多様性の日2022シンポジウム-すべてのいのちと共にある未来へ!-大岡敏孝環境副大臣(当時)の挨拶

2 ビジネスにおける生物多様性の主流化、自然資本の組み込み

(1)企業の経営戦略

2021年2月に、英国財務省から生物多様性の経済学に関する報告書であるダスグプタレビューが公表され、民間事業者による生物多様性への配慮の重要性がますます高まっています。

近年の事業者を取り巻く生物多様性に関する国際動向を踏まえ、2017年に策定した「生物多様性民間参画ガイドライン(第二版)」の改訂作業を行いました。また2021年3月には、2020年5月に策定した「生物多様性民間参画事例集」及び「企業情報開示のグッドプラクティス集」の英語版を作成し、SBSTTA24、SBI3、OEWG3、OEWG4さらにCOP15の第一部及び第二部などで国際的に発信をしました。

経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画パートナーシップ」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」との連携・協力を継続しました。さらに、2020年11月には経団連と環境省で「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」を立ち上げ、成果として、日本企業の先進的な取組を2021年10月のCOP15第一部及び2022年12月に開催されたCOP15第二部で紹介しました。

(2)自然関連情報開示とESG投融資等

民間レベルでの国際的な動きとしては、生物多様性・自然資本に関する情報開示を求める自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)や、定量的なインパクト評価や目標設定の手法を定めるScience Based Targets for Nature(SBTs for Nature)、生物多様性に関する国際規格を検討するISO TC331等において、生物多様性を企業経営に組み込んでいく仕組みづくりが加速しています。こうした国際的イニシアティブやESG投融資等の動きを受け、環境省では個別の課題に対応するための関連する検討会やこれらを統合的に検討するネイチャーポジティブ経済研究会を立ち上げ、民間企業の支援を通じてビジネスにおける生物多様性の主流化を推進しています。

(3)生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みの一例として、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、木材・木材製品については、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)(平成12年法律第100号)により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすために、証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等については、国が定める「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠することとしています。また、農業の環境負荷の低減につながる有機農業により生産された農作物等について、官公庁を始め国等の機関の食堂での使用に配慮するようグリーン購入法に基づく基本方針が見直されました。加えて、合法伐採木材等の利用を促進することを目的として、木材等を取り扱う事業者に合法性の確認を求める合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)(平成28年法律第48号)が2017年5月に施行されました。政府は、この法律の施行状況について検討を進め、2023年2月に川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認を義務付けること等を内容とするクリーンウッド法の改正案を閣議決定し、国会に提出しました。これらの取組を通じ、合法証明の信頼性・透明性の向上や合法証明された製品の消費者への普及を図っています。

3 自然とのふれあいの推進

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトがスタートしました。本プロジェクトでは、日本の国立公園のブランド力を高め、国内外の誘客を促進することにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の保護と利用の好循環を実現するため、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を中心に、先行的、集中的な取組を進めてきました。2021年以降も本プロジェクトを継続的に実施し、公園の特性や体制に応じて、34国立公園全体で推進するとともに、新型コロナウイルス感染症の影響により減少した国内外の利用者の回復に向け、国内誘客も強化する等新たな展開を図ることとしています。2021年度は阿寒摩周国立公園や十和田八幡平国立公園等での廃屋撤去等の利用拠点の上質化に向けた取組が進められるとともに、ナイトタイム等の新たなコンテンツ造成等の取組が行われました。また、2022年度は新たに12社と国立公園オフィシャルパートナーシップを締結し、既締結の継続企業と合わせてパートナー企業数は計130社となりました。そして、2020年度に引き続き、ビジターセンターや歩道等の整備、多言語解説やツアー・プログラムの充実、その質の確保・向上に向けた検討、ガイド人材等の育成支援、利用者負担による公園管理の仕組みの調査検討、国内外へのプロモーション等を行いました。

さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大により減退した公園利用の反転攻勢と地域経済の再活性化を図るため、地域関係者が行う国立・国定公園の利用拠点での自然体験プログラムの推進やコロナ対応、ワーケーション(観光地といった通常の職場以外でテレワーク等により働きながら休暇も楽しむもの)の受入や、自然との調和が図られた滞在環境の整備を支援することにより、今後の誘客に向けた受入環境整備を行うとともに、国立公園等で「遊び、働く」という健康でサステナブルなライフスタイルを推進しました。

また、国立公園の本来の目的である「保護」と「利用」が地域において好循環を生み出し地域の活性化につながるよう、改正自然公園法(昭和32年法律第161号)により新たに創設された「自然体験活動促進計画」及び「利用拠点整備改善計画」の作成に取り組む自治体等の支援を実施しました。民間提案による高付加価値な宿泊施設を中心とした国立公園利用拠点の面的な魅力向上に取り組むこととし「宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的魅力向上検討会」を設置し、2023年1月~3月にかけて検討会を3回開催しました。

2011年3月に発生した東日本大震災により被災した東北地方太平洋沿岸地域では、三陸復興国立公園を核としたグリーン復興プロジェクトの取組として、2019年6月に全線開通したみちのく潮風トレイルにおける誘客、持続的な路線の維持管理に向けた仕組みの構築、自然環境モニタリングの実施、公園利用施設の整備等の取組を実施しました。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動や、サンゴ礁や干潟の生き物観察など、子供たちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員及びパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

国立公園の周遊促進を目的とした、アプリを用いた「日本の国立公園めぐりスタンプラリー」の運営や、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成を行いました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を国直轄事業とし、安全で快適な公園利用を図るため、ビジターセンター、園地、歩道、駐車場、情報拠点施設、公衆トイレ等の利用施設や自然生態系を維持回復・再生させるための施設の整備を進めるとともに、国立公園事業施設の長寿命化対策、多言語化対応の推進等に取り組みました。2022年度には、妙高戸隠連山国立公園の妙高高原ビジターセンター(2022年5月オープン)を新規整備しました。また、国立・国定公園及び長距離自然歩道等については、44都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。現在、長距離自然歩道の計画総延長は約2万8,000kmに及んでいます。

旧皇室苑地として広く親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、施設の改修、芝生・樹木の手入れ等を行いました。また、庭園としての質や施設の利便性を高めるため、新宿御苑において早朝開園を行うなど、取組を進めました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育の場となる森林・施設の整備等への支援策を講じました。国有林野においては、森林教室等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施するとともに、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」等の設定・活用を図り、国民参加の森林(もり)づくりを推進しました。また、「レクリエーションの森」の中でも特に優れた景観を有するなど、地域の観光資源として潜在能力の高い箇所として選定をした「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」において、重点的に観光資源の魅力の向上、外国人も含む旅行者に向けた情報発信等に取り組み、更なる活用を推進しました。

(4)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2021年度には、温泉掘削許可157件、増掘許可8件、動力装置許可96件、採取許可55件、濃度確認89件、浴用又は飲用許可1,530件が行われました。

環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については、新たに由良温泉(山形県鶴岡市)と湯の児・湯の鶴温泉(熊本県水俣市)を加え、2023年3月末時点で79か所を指定しています。

2018年5月から現代のライフスタイルに合った温泉地の楽しみ方として「新・湯治」を推進するためのネットワークである「チーム新・湯治」を立ち上げ、2022年度は3回のセミナーを実施しました。2023年3月末時点で405団体が参加しています。

また、温泉地全体での療養効果を科学的に把握し、その結果を全国的な視点に立って発信する「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」について、「新・湯治」の効果の検証・発信を各温泉地における自主的な取組として継続していくためのモデル事業を実施しました。

(5)都市と農山漁村の交流

農泊の推進による農山漁村の活性化と所得向上を実現するため、農泊をビジネスとして実施するための体制整備や、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げるための専門家派遣等の取組、農家民宿や古民家等を活用した滞在施設等の整備の一体的な支援を行うとともに、農泊地域の情報発信など戦略的な国内外へのプロモーションを行いました。

また、農山漁村が有する教育的効果に着目し、農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村宿泊体験等を推進するとともに、農山漁村を都市部の住民との交流の場等として活用する取組を支援しました。