環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況>第2部 各分野の施策等に関する報告>第1章 地球環境の保全>第1節 地球温暖化対策

第2部 各分野の施策等に関する報告

第1章 地球環境の保全

第1節 地球温暖化対策

1 問題の概要と国際的枠組みの下の取組

近年、人間活動の拡大に伴ってCO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、代替フロン類等の温室効果ガス(GHG)が大量に大気中に排出されることで、地球温暖化が進行していると言われています。特にCO2は、化石燃料の燃焼等によって膨大な量が人為的に排出されています。我が国が排出する温室効果ガスのうち、CO2の排出が全体の排出量の約91%を占めています(図1-1-1)。

図1-1-1 我が国が排出する温室効果ガスの内訳(2021年単年度)
(1)気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年8月から2023年3月にかけて公表した第6次評価報告書において、以下の内容を公表しました。

○観測された変化及びその原因

○将来の気候変動、リスク及び影響

○適応、緩和、持続可能な開発に向けた将来経路

(2)我が国の温室効果ガスの排出及び吸収状況

2021年度の我が国の温室効果ガス排出量は、11億7,000万トンCO2でした(2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値))。新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等により、製造業における生産量の増加や、貨物輸送量の増加等に伴うエネルギー消費量の増加等から、前年度(11億4,700万トンCO2)と比べて2.0%増加しました。また、エネルギー消費量の減少(省エネ等)や、電力の低炭素化(再エネ拡大、原発再稼働)に伴う電力由来のCO2排出量の減少等から、2013年度の排出量(14億800万トンCO2)と比べて16.9%減少しました(図1-1-2)。

図1-1-2 我が国の温室効果ガス排出量

2021年度のCO2排出量は10億6,400万トンCO2(2013年度比19.2%減少)であり、そのうち、発電及び熱発生等のための化石燃料の使用に由来するエネルギー起源のCO2排出量は9億8,800万トンCO2でした。さらに、エネルギー起源のCO2排出量の内訳を部門別に分けると、電力及び熱の消費量に応じて、消費者側の各部門に配分した電気・熱配分後の排出量については、産業部門からの排出量は3億7,300万トンCO2、運輸部門からの排出量は1億8,500万トンCO2、業務その他部門からの排出量は1億9,000万トンCO2、家庭部門からの排出量は1億5,600万トンCO2でした(図1-1-3、図1-1-4)。

図1-1-3 CO2排出量の部門別内訳
図1-1-4 部門別エネルギー起源CO2排出量の推移

CO2以外の温室効果ガス排出量については、CH4排出量は2,740万トンCO2(2013年度比6.1%減少)、N2O排出量は1,950万トンCO2(同11.1%減少)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)排出量は5,360万トンCO2(同66.7%増加)、パーフルオロカーボン類(PFCs)排出量は320万トンCO2(同4.1%減少)、六ふっ化硫黄(SF6)排出量は200万トンCO2(同1.3%減少)、三ふっ化窒素(NF3)排出量は40万トンCO2(同76.5%減少)でした(図1-1-5)。

図1-1-5 各種温室効果ガス(エネルギー起源CO2以外)の排出量

2021年度の森林等の吸収源対策によるCO2の吸収量は4,760万トンCO2でした。

なお、各数値については、気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「国連気候変動枠組条約」という。)の報告ガイドラインに基づき、温室効果ガス排出・吸収量の算定方法を改善するたびに、過年度の排出量も再計算しているため、以前の白書掲載の値との間で差異が生じる場合があります。

(3)フロン等の現状

特定フロン(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC))、ハロン、臭化メチル等の化学物質によって、オゾン層の破壊は今も続いています。オゾン層破壊の結果、地上に到達する有害な紫外線(UV-B)が増加し、皮膚ガンや白内障等の健康被害の発生や、植物の生育の阻害等を引き起こす懸念があります。また、オゾン層破壊物質の多くは強力な温室効果ガスでもあり、地球温暖化への影響も懸念されます。

オゾン層破壊物質は、1989年以降、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下「モントリオール議定書」という。)及び特定物質等の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和63年法律第53号。以下「オゾン層保護法」という。)に基づき規制が行われています。その結果、代表的な物質の一つであるCFC-12の北半球中緯度における大気中濃度は、我が国の観測では緩やかな減少傾向が見られます。一方、国際的にCFCからの代替が進むHCFC、及びCFC・HCFCからの代替が進むオゾン層を破壊しないものの温室効果の高いガス(いわゆる代替フロン)であるハイドロフルオロカーボン(HFC)の大気中濃度は増加の傾向にあります。

オゾン全量は、1980年代から1990年代前半にかけて地球規模で大きく減少した後、現在も1970年代と比較すると少ない状態が続いています。また、2022年の南極域上空のオゾンホールの最大面積は、南極大陸の約1.9倍となりました(図1-1-6)。オゾンホールの面積は最近10年間の平均値より大きく推移しましたが、これはオゾン層破壊を促進させる極域成層圏雲が例年より発達したことなど、気象状況が主な要因とみられます。オゾン層破壊物質の濃度は依然として高い状態ですが、オゾンホールの規模については、年々変動による増減はあるものの、長期的な拡大傾向は見られなくなりました。モントリオール議定書科学評価パネルの「オゾン層破壊の科学アセスメント:2022年」によると、オゾン全量は、南極では2066年頃に1980年の値に戻ると予測されています。

図1-1-6 南極上空のオゾンホールの面積の推移
(4)気候変動枠組条約及び京都議定書について

国連気候変動枠組条約は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。

1997年に京都府京都市で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、国連気候変動枠組条約締約国会議を「COP」という。)で採択された京都議定書は、先進国に対して法的拘束目標達成に活用できる京都メカニズムについて定めています。2008年から2012年までの第一約束期間において、我が国は基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)加盟国全体では同8%等の削減目標が課されました。これに対し、同期間の我が国の温室効果ガスの総排出量は5か年平均で12億7,800万トンCO2であり、森林等吸収源や海外から調達した京都メカニズムクレジットを償却することで京都議定書の削減目標(基準年比6%減)を達成しました。

2012年に行われた京都議定書第8回締約国会合(CMP8。以下、京都議定書締約国会合を「CMP」という。)においては、2013年から2020年までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、米国の不参加や近年の新興国の排出増加等により、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1にすぎないことなどから、我が国は議定書の締約国であるものの、第二約束期間には参加せず、全ての主要排出国が参加する新たな枠組みの構築を目指して国際交渉が進められてきました(図1-1-7)。

図1-1-7 世界のエネルギー起源CO2の国別排出量(2020年)
(5)パリ協定について
ア パリ協定採択までの経緯

2011年のCOP17及びCMP7では、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することとし、そのための交渉を行う場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設置することに合意しました。

2015年、フランス・パリにおいて、COP21及びCMP11が行われ、全ての国が参加する温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されました。また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務付けられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、5年ごとに協定の世界全体としての実施状況の検討(グローバルストックテイク)を行うこと、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。そのほか、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応に関する世界全体の目標設定及び各国の適応計画作成過程と行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

パリ協定の採択を受けて、ADPは作業を終了し、パリ協定の実施に向けた検討を行うための新たな作業部会である「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」を設置することなども合意されました。

イ パリ協定の発効

2016年4月にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。同年5月には我が国でG7伊勢志摩サミットが開催され、同協定の年内発効という目標が首脳宣言に盛り込まれました。同年9月には米中両国が協定を同時締結したほか、国連主催のパリ協定早期発効促進イベントが開催されるなど、早期発効に向けた国際社会の機運が大きく高まりました。そして同年10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定が発効しました。なお、我が国は同年11月8日に締結しました。

ウ 実施方針に関する交渉等

2016年11月、モロッコのマラケシュにおいて、COP22、CMP12及びパリ協定第1回締約国会合第1部(CMA1-1。以下、パリ協定締約国会合を「CMA」という。)が行われました。COP22では、パリ協定の実施指針等に関する交渉の進め方について、実施指針を2018年までに策定することなどが決定されました。また、2017年11月、ドイツのボンにおいて、COP23・CMP13・CMA1-2が行われ、パリ協定の実施指針のアウトラインや具体的な要素がまとめられました。

2018年12月、ポーランドのカトヴィツェにおいて、COP24・CMP14・CMA1-3が開催されました。COP24では、パリ協定の精神にのっとり、先進国と途上国との間で取組に差異を設けるべきという二分論によることなく、全ての国に共通に適用される実施指針を採択しました。採択された実施指針では、緩和(2020年以降の削減目標の情報や達成評価の算定方法)、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標の進捗・達成状況等の報告制度)、資金支援の見通しや実績に関する報告方法等について規定されました。パリ協定第6条(市場メカニズム)については、根幹部分は透明性枠組みに盛り込まれ、詳細ルールはCOP25における策定に向けて検討を継続することとなりました。

2019年12月、スペインのマドリードにおいて、COP25・CMP15・CMA2が開催されました。COP25では、COP24で合意に至らなかったパリ協定第6条の実施指針の交渉が一つの焦点となりましたが、合意に至りませんでした。

2020年11月にCOP26が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、2021年に延期を余儀なくされました。

2021年10月より、英国のグラスゴーにおいて、COP26・CMP16・CMA3が開催されました。COP26では、全体決定である「グラスゴー気候合意」として、最新の科学的知見に依拠しつつ、パリ協定に定められた1.5℃に向け、今世紀半ばのカーボンニュートラル及びその経過点である2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求める内容のほか、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減及び非効率な化石燃料補助金からのフェーズアウトを含む努力を加速すること、先進国に対して、2025年までに途上国の適応支援のための資金を2019年比で最低2倍にすることを求める内容が盛り込まれました。また、パリ協定第6条の実施指針について合意され、国際枠組の下での市場メカニズム(JCMを含む。)に関するルールが完成しました。二重計上の防止については、我が国が提案していた内容(政府承認に基づく二重計上防止策)が打開策となり、今回の合意に大きく貢献しました。この結果を踏まえて、その他、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標に向けた取組みの進捗・達成状況等の報告制度)、NDC実施の共通の期間(共通時間枠)、気候資金等の重要議題でも合意に至り、パリ協定のルール交渉を終え、更なる実施強化のステージへと移りました。

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて、COP27・CMP17・CMA4が開催されました。COP27では、「緩和作業計画」の策定、パリ協定6条の実施に必要となる事項についての決定、ロス&ダメージへの技術支援を促進する「サンティアゴ・ネットワーク」の完全運用化に向けた制度的取決めについての決定、特に脆(ぜい)弱な国を対象にロス&ダメージへの対処を支援する新たな資金面での措置を講じること及びその一環として基金の設置等が決定されました。また、全体決定である「シャルム・エル・シェイク実施計画」では、グラスゴー気候合意の内容を踏襲しつつ、緩和、適応、ロス&ダメージ、気候資金等の分野で、全締約国の気候変動対策の強化を求める内容が盛り込まれました。特に緩和策としては、パリ協定の1.5℃目標に基づく取組の実施の重要性を確認するとともに、2023年までに同目標に整合的なNDCを設定していない締約国に対して、目標の再検討・強化を求めることが決定されました(写真1-1-1)。

写真1-1-1 COP27クロージングプレナリーの様子

2 科学的知見の充実のための対策・施策

(1)我が国における科学的知見

気象庁の統計によると、1898年から2022年の期間において、日本の年平均気温は100年あたり1.30℃の割合で上昇しています。また、文部科学省と気象庁が2020年12月に公表した「日本の気候変動2020-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」によると、20世紀末と比較した21世紀末の年平均気温が、気温上昇の程度をかなり低くするために必要となる温暖化対策を講じた場合には日本全国で平均1.4℃上昇し、また温室効果ガスの排出量が非常に多い場合には、日本全国で平均4.5℃上昇するとの予測が示されています。

また環境省は、気候変動が我が国に与える影響について、2020年12月に「気候変動影響評価報告書」を公表しました。

気候変動の影響については、気温や水温の上昇、降水日数の減少等に伴い、農作物の収量の変化や品質の低下、家畜の肉質や乳量等の低下、回遊性魚類の漁期や漁場の変化、動植物の分布域の変化やサンゴの白化、洪水の発生地点の増加、熱中症による死亡者数の増加、桜の開花の早期化等が、現時点において既に現れていることとして示されています。また、栽培適地の変化、高山の動植物の生息域減少、渇水の深刻化、水害・土砂災害を起こし得る大雨の増加、高潮・高波リスクの増大、海岸侵食の加速、自然資源を活用したレジャーへの影響、熱ストレスによる労働生産性の低下等のおそれがあると示されています。

(2)観測・調査研究の推進

気候変動に関する科学的知見を充実させ、最新の知見に基づいた政策を展開するため、引き続き、環境研究総合推進費等の研究資金を活用し、現象解明、影響評価、将来予測及び対策に関する調査研究等の推進を図りました。

気候変動対策に必要な観測を、統合的・効率的に実施するため、「地球観測連携拠点(地球温暖化分野)」の活動を引き続き推進しました。加えて、2009年1月に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星1号機(GOSAT)(第6章第3節2(1)を参照)は、主たる温室効果ガスであるCO2とCH4の全球平均濃度の変化を継続監視し、2009年の観測開始から現在に至るまで季節変動を経ながら年々濃度が上昇している傾向を明らかにしました。さらに、観測精度を向上させた後継機となる2号機(GOSAT-2)を2018年10月に打ち上げ、2019年2月に定常運用を開始しました。この衛星は、全球の温室効果ガス濃度を観測するミッションを継承するほか、燃焼起源のCO2を特定するための機能を新たに有しており、今後各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指します。なお、水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」後継センサとの相乗りを見据えて調査・検討を行ってきた3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)は2024年度打ち上げを目指して開発を進めています。

また、宇宙空間では軌道上にある使用済みとなった人工衛星やロケット上段等のスペースデブリ(宇宙ごみ)の増加が問題となっています。環境省はGOSATがスペースデブリとして宇宙空間に滞留することがないようにするため、2020年3月にスペースデブリ化防止対策を検討する環境省内検討チームを立ち上げ、同年10月には「今後の環境省におけるスペースデブリ問題に関する取組について(中間取りまとめ)」を公表しました。これを契機として、同年11月に開催されたスペースデブリに関する関係府省等タスクフォースにおいて、関係府省等で政府衛星のスペースデブリ化を防止するための必要な措置に取り組むことが政府方針として合意されました。

世界の政策決定者に対し、正確でバランスの取れた科学的情報を提供し、国連気候変動枠組条約の活動を支援してきたIPCCは、第6次評価サイクルにおいて1.5℃特別報告書(2018年10月公表)、土地関係特別報告書(2019年8月公表)、海洋・雪氷圏特別報告書(2019年9月公表)及び「2006年IPCC国別温室効果ガスインベントリガイドラインの2019年改良」(2019年5月公表。以下「2019年方法論報告書」という。)を公表し、2021年8月から2022年4月にかけて第6次評価報告書第1作業部会報告書、第2作業部会報告書及び第3作業部会報告書をそれぞれ公表しました。その後、2023年3月に第6次評価報告書の統合報告書が公表され第6次評価サイクルは終了しました。これら報告書は、パリ協定において、その実施に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられています。我が国は、第6次評価サイクルの各種報告書作成プロセスに向けた議論への参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行ってきました。その一環として、2019年5月には、前述の2019年方法論報告書の採択を議論するIPCC第49回総会を京都市で開催しました。IPCCのインベントリガイドラインは、パリ協定の実施に不可欠な、各国による温室効果ガス排出量の把握と報告を支えるものですが、本報告書は、2006年に作成したガイドラインのうち、衛星データの利用や、改良が必要な排出・吸収カテゴリーに対する更新、補足及び精緻(ち)化を行ったものです。第7次評価サイクルにおいても、引き続き積極的な貢献を行う予定です。

さらに、我が国の提案により公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリ・タスクフォース(TFI)の技術支援ユニットの活動を支援し、各国の適切なインベントリ作成に貢献しています。第6次評価サイクルにおいても、我が国はTFIの共同議長を引き続き務めています。

国連気候変動枠組条約の目標を達成するための我が国の取組の一つとして、環境研究総合推進費による「気候変動影響予測・適応評価の統合的戦略研究(S-18)」等の研究を2021年度にも引き続き実施し、科学的知見の収集・解析等を行いました。これらの研究により明らかとなった知見は、IPCC等にインプットされることになります。

3 持続可能な社会を目指したビジョンの提示:低炭素社会から脱炭素社会へ

2020年10月26日、第203回国会において、我が国は2050年までにカーボンニュートラル、すなわち脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、第204回国会で成立した地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第54号)では、2050年カーボンニュートラルを基本理念として法定化しました。また、2021年4月22日の第45回地球温暖化対策推進本部において、2050年目標と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていくことを宣言しました。

2021年10月22日、新たな2030年度削減目標を踏まえ、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図る新たな「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。また、同日、新たな2030年度削減目標を記載した「日本のNDC」を第48回地球温暖化対策推進本部において決定し、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)に提出しました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、新たな「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2021年10月22日に閣議決定し、同月29日にUNFCCCに提出しました。

この戦略では、政策の基本的な考え方として、2050年カーボンニュートラル宣言の背景にある「もはや地球温暖化対策は経済成長の制約ではなく、積極的に地球温暖化対策を行うことで産業構造や経済社会の変革をもたらし大きな成長につなげる」という考えをしっかりと位置付けています。

また、エネルギー、産業、運輸、地域・くらし、吸収源の各部門の長期的なビジョンとそれに向けた対策・施策の方向性を示すとともに、「イノベーションの推進」、「グリーンファイナンスの推進」等の分野を超えて重点的に取り組む11の横断的施策についても記載しています。今後、ステークホルダーとの連携や対話を通じ、我が国は、この長期戦略の実行に挑戦し、世界の脱炭素化をけん引していきます。

グリーントランスフォーメーション(GX)実現への10年ロードマップを示していくという岸田文雄内閣総理大臣指示を踏まえ、2022年12月22日、GX実行会議において、GXの実現を通して、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年のカーボンニュートラルの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換や我が国の産業構造・社会構造の変革を実現すべく「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を取りまとめました。その後、同基本方針について、パブリックコメント等を経て、2023年2月に閣議決定を行いました。

2021年5月、農林水産省において、食料・農林水産業の生産力向上と持続性を両立するための新たな政策方針として「みどりの食料システム戦略」を取りまとめました。この戦略は、温室効果ガス削減やカーボンニュートラルの実現、生物多様性の保全にも寄与するものであり、2050年までに目指す姿として、農林水産業のCO2ゼロエミッション化等の14の目標を定めています。2022年6月には、2030年の中間目標を設定し、「農林水産省地球温暖化対策計画」等と併せて、CO2排出削減対策等を推進することとしています。

4 エネルギー起源CO2の排出削減対策

(1)産業部門(製造事業者等)の取組

2013年度以降の産業界の地球温暖化対策の中心的な取組である「低炭素社会実行計画」の2021年度実績について、審議会による厳格な評価・検証を実施しました。具体的には、目標達成の蓋然性を確保するため、2021年度に実施した取組を中心に各業種の進捗状況を点検し、2030年の目標達成に向けて着実に対策が実施されていることを確認しました。また、業界や部門の枠組みを超えた低炭素社会・サービス等による他部門での貢献、優れた技術や素材の普及等を通じた海外での貢献、革新的技術の開発や普及による削減貢献といった各業種の取組についても深掘りし、こうした削減貢献を可能な限り定量化することにより、貢献の可視化とベストプラクティスの横展開等を行いました。2023年3月末までに109業種が2030年を目標年限とする定量目標を設定しており、自主的取組に参画する業種の我が国のエネルギー起源CO2排出量に占める割合は5割を超えています。加えて、「地球温暖化対策計画」においても、「低炭素社会実行計画」を産業界における対策の中心的役割と位置付けており、政府の2030年度削減目標との整合性や2050年のあるべき姿を見据えた2030年度目標設定、共通指標としての2013年度比の二酸化炭素排出量削減率の統一的な見せ方等の検討を進めるなど、引き続き自主的な取組を進め、温室効果ガスの排出削減をより一層推進していきます。

需要サイドでの事業者による非化石エネルギーの導入拡大の取組を加速させるため、2022年5月にエネルギーの使用の合理化等に関する法律(昭和54年法律第49号)をエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下「省エネ法」という。)に改正し、需要側における非化石エネルギーへの転換に関する措置を新設しました。この措置では、2023年4月からエネルギーを使用して事業を行う者に対し、その使用するエネルギーのうちに占める非化石エネルギーの使用割合の向上を求めることとしています。また、事業者の更なる省エネ取組を促すため、省エネ法に基づくベンチマーク制度の対象業種が拡大されました。

工場等に対して、CO2排出量削減余地診断に基づいた脱炭素化促進計画の策定及び省CO2型設備へ更新するための補助を行いました。また、LD-Tech(先導的脱炭素化技術)情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

中小企業等におけるCO2排出削減対策の強化のため、省CO2型設備導入における資金面の公的支援の一層の充実や、中小企業等の省エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証し、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度での排出量調整等に活用するJ-クレジット制度の運営、さらにCO2排出低減が図られている建設機械の普及を図るため、一定の燃費基準を達成した建設機械を燃費基準達成建設機械として認定しており、加えて新たに2022年4月からホイールクレーンの認定を開始しました。

農林水産分野においては、「農林水産省地球温暖化対策計画」に基づき、緩和策として施設園芸等における省エネルギー対策、バイオマスの活用の推進、我が国の技術を活用した国際協力等を実施しました。

(2)業務その他部門の取組

エネルギー消費量が増加傾向にある住宅・ビルにおける省エネ対策を推進するため、省エネ法における建材トップランナー制度に基づき、断熱材・窓(サッシ、複層ガラス)等の建築材料の性能向上を図っており、2021年6月から、更なる性能向上を図るため、目標基準値の強化に向けた検討を行った結果、窓については2022年3月、2022年度を目標年度とする目標基準値について、2030年度を新たな目標年度として目標基準値を約40%引上げることを決定し、断熱材については2022年10月、2022年度を目標年度とする目標基準値について、2030年度を新たな目標年度として目標基準値を約5%引上げることを決定しました。また、大幅な省エネ性能を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指したビル(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル。以下「ZEB(ゼブ)」という。)の普及を進めるため、先進的な技術等の組み合わせによるZEB(ゼブ)の実証事業を行っています。また、2022年6月には、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号)を改正し、2025年度までに原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付けることとしました。加えて、より高い省エネ性能への誘導のため、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度を強化するとともに、形態規制の合理化等により既存ストックの省エネ改修を推進することとしています。また、再エネ設備導入促進のための措置として、市町村が地域の実情に応じて再エネ設備の設置を促進する区域を設定できることとしました。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)、省エネルギー性能に特化した評価・表示制度である建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の充実・普及、省エネ・省CO2の実現性に優れたリーディングプロジェクト等に対する支援のほか、ビルオーナーとテナントが不動産の環境負荷を低減する取組についてグリーンリース契約等を締結して協働で省エネ化を図る事業に対する支援や、環境不動産の形成を促進するための官民ファンドの運営支援等を継続的に行いました。こうした規制措置強化と支援措置の組み合わせを通じ、2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることや、2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることなどを目指します。

更なる個別機器の効率向上を図るため、省エネ法のトップランナー制度においてエネルギー消費効率の基準の見直し等について検討を行っています。具体的には、2022年5月に、家庭用エアコンの新たな省エネ基準を策定するために関係法令を改正しました。また、2022年9月には、エアコンの省エネラベルの変更を行うため、小売事業者表示制度を改正しました。さらに、事業場等に対して、CO2排出量削減余地診断に基づいた脱炭素化促進計画の策定及び省CO2型設備へ更新するための補助を行いました。また、LD-Tech(先導的脱炭素化技術)情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」に基づく取組に当たっては、2007年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成19年法律第56号)に基づき、温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を実施しました。

(3)家庭部門の取組

消費者等が省エネルギー性能の優れた住宅を選択することを可能とするため、CASBEEや住宅性能表示制度の充実・普及を実施しました。大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量を正味でおおむねゼロ以下とし、省エネ性能と住み心地を兼ね備えた住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。以下「ZEH(ゼッチ)」という。)の普及や高性能建材を導入した断熱リフォームの普及を支援しました。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて家庭部門の省エネを強力に推進するため、住宅の断熱性の向上に資する改修や高効率給湯器の導入などの住宅省エネ化への支援を強化する必要があることから、国土交通省、経済産業省及び環境省は、住宅の省エネリフォームを支援する新たな補助制度を創設するとともに、3省の連携により、各事業をワンストップで利用可能(併用可)としました。さらに、都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24年法律第84号)に基づく、認定低炭素建築物の普及・促進を図りました。加えて、各家庭のCO2排出実態やライフスタイルに合わせたアドバイスを行う家庭エコ診断制度において、専門の資格を持った診断士やWEBサービスによる「うちエコ診断」を実施、2011年度から2021年度までに約11.2万件の診断を行いました。

また、一般消費者に一層の省エネに取り組んでいただくことなどを目的として、エネルギー供給事業者が行う省エネに関する一般消費者向けの情報提供を評価・公表する制度(省エネコミュニケーション・ランキング制度)の運用を2022年度より本格的に開始しました。

行動科学の理論に基づくアプローチ(ナッジ(nudge:そっと後押しする)等)により、国民一人一人の行動変容を情報発信等を通じて直接促進し、ライフスタイルの自発的な変革・イノベーションを創出する、費用対効果が高く、対象者にとって自由度のある新たな政策手法の検証を行いました。具体的には、デジタル技術によりエネルギーの使用実態や環境配慮行動の実施状況等を客観的に収集、解析し、ナッジ等の行動科学の知見とAI/IoT等の先端技術を組み合わせたBI-Techにより、一人一人に合った快適でエコなライフスタイルを提案することで、脱炭素に向けた行動変容を促しました。例えば、ナッジ等を活用した環境教育プログラムを開発し、全国の小・中・高等学校の教育現場で実践したところ、平均で5.1%のCO2排出削減効果(電気・ガスの合計)が統計的有意に実証され、プログラムの1年後においても効果の持続が確認されました。このプログラムの特筆すべき点としては、一般にナッジの効果は持続しないとも言われる中で、ナッジを実施している間はもとより、終了した後も効果が持続することを明らかにしたことが挙げられます。また、2017年4月には産学政官民連携の日本版ナッジ・ユニット(BEST)を発足し、2023年3月までに計29回の連絡会議を開催しました。

(4)運輸部門の取組

省エネ法に基づき、輸送事業者に対して貨物又は旅客の輸送に係るエネルギーの使用の合理化に関する取組等を、荷主に対して貨物の輸送に係るエネルギーの使用の合理化に関する取組等を、推進しています。また、AI・IoTを活用した運輸部門における省エネ取組を進めるため、荷主・輸送事業者・着荷主等が連携して、サプライチェーン全体の輸送効率化を図る取組や、車両動態管理システム等を活用したトラック事業者と荷主等の連携による輸送効率化や、自動車整備事業者へのスキャンツールの導入による適切な自動車整備が行われる環境の整備を通じた使用過程車の実燃費の改善の実証を支援しました。引き続き、運輸部門における省エネ等を進めていきます。

自動車単体対策としては、自動車燃費の改善、車両・インフラに係る補助制度・税制支援等を通じた次世代自動車の普及促進等を行いました。また、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、ビッグデータを活用した渋滞対策等の交通流対策やLED道路照明灯の整備を行いました。さらに、改正された流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)(平成17年法律第85号)に基づく総合効率化計画の認定等を活用し、環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築を促進しました。そして、共同輸配送、モーダルシフト、大型CNGトラック導入、貨客混載等の取組について支援を行ったほか、物流施設への再エネ設備等の一体的導入の支援による流通業務の脱炭素化を促進する支援制度を創設しました。

港湾分野については、港湾の最適な選択による貨物の陸上輸送距離の削減を推進しました。また、我が国の産業や港湾の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しており、第210回国会で成立し、2022年12月に施行された港湾法の一部を改正する法律(令和4年法律第87号)では、港湾における脱炭素化の取組を推進するため、港湾管理者が、官民の関係者が参加する港湾脱炭素化推進協議会を活用しつつ、港湾脱炭素化推進計画を作成する仕組みが導入されました。

加えて、グリーン物流パートナーシップ会議を通して、荷主や物流事業者等の連携による優良事業の表彰や普及啓発を行いました。さらに、省エネ法のトップランナー制度における乗用車の2030年度燃費基準(2020年3月策定)に関して、モード試験では反映されない燃費向上技術の達成判定における評価方法について検討を行うとともに、重量車の2025年度燃費基準(2019年3月策定)に関して、製造事業者等による重量車の電気自動車等の導入について取組を評価するため、2022年10月に新たに重量車の電気自動車等のエネルギー消費性能の測定方法を策定しました。

鉄軌道分野については、燃料電池鉄道車両の開発の推進、鉄道車両へのバイオディーゼル燃料の導入の促進等による脱炭素化を促進するとともに、省エネ車両や回生電力の有効活用に資する設備の導入により、鉄軌道ネットワーク全体の省エネルギー化を行いました。

国際海運分野については、我が国は2021年11月に、国際海事機関(IMO)に対し米国、英国等と共同で提案した2050年国際海運カーボンニュートラルを実現すべく、IMOにおいて引き続き議論に参画することに加え、新造船におけるゼロエミッション船の加速度的な普及などを最大限に進めることにより達成できる2040年の中間目標として、2008年度比50%削減目標を2022年12月にIMOに対して新たに提案しました。加えて、「次世代船舶の開発」プロジェクトによる水素、アンモニアを燃料とするゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発・実証を行っており、アンモニア燃料船は2026年、水素燃料船は2027年の実証運航開始を目指しております。内航海運分野については、革新的省エネ技術等の実証事業や「内航船省エネルギー格付制度」の運用等により、船舶の省エネ・低炭素化を促進しました。また、2021年12月に公表した「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」とりまとめに示した施策として、連携型省エネ船の開発・普及、バイオ燃料の活用や運航効率の一層の改善に向けた取組、省エネルギー・省CO2の見える化の推進に向けた取組を実施しました。省エネルギー・省CO2の見える化については、省エネ法における荷主のエネルギー使用量の算定において、内航船省エネルギー格付制度の評価に応じた原単位を使用できるような措置を行いました。

航空分野において、2022年6月に「航空法等の一部を改正する法律」が成立し、航空会社や空港が主体的・計画的に脱炭素化の取組を進めるための制度的枠組を導入しました。同年12月には同法に基づき、今後の航空分野における脱炭素化の基本的な方向性を示す航空脱炭素化推進基本方針を策定しました。国際航空分野では、国際民間航空機関(ICAO)において、2022年10月、我が国が議論をリードしてきたCO2排出削減の長期目標について「2050年までのカーボンニュートラル」が採択されました。また、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」で取りまとめた工程表の取組を着実に進めていくため、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、機材・装備品等への環境新技術の導入の3つのアプローチごとに関係省庁と共同して官民協議会を設置しました。空港分野においては、「空港分野におけるCO2削減に関する検討会」において空港施設・空港車両等からのCO2排出削減、空港への再エネ導入など空港脱炭素化に向けた検討を進めるとともに、関係者の協力体制構築を図るため「空港の脱炭素化に向けた官民連携プラットフォーム」を設置しました。また、2022年12月には、空港脱炭素化に向けた計画策定や再エネ・省エネ設備の導入を適切かつ迅速に行うための一助となることを目的として「空港脱炭素化推進のための計画策定ガイドライン(第二版)」及び「空港脱炭素化事業推進のためのマニュアル(初版)」を公表しました。

(5)エネルギー転換部門の取組

太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、バイオマス等の再生可能エネルギーは、地球温暖化対策に大きく貢献するとともに、エネルギー源の多様化に資するため、国の支援策により、その導入を促進しました。また、ガスコージェネレーションやヒートポンプ、燃料電池等、エネルギー効率を高める設備等の普及も推進してきました。さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入に向け、技術開発や貯留適地調査等を実施しました。

電気事業分野における地球温暖化対策については、2016年2月に環境大臣・経済産業大臣が合意し、電力業界の自主的枠組みの実効性・透明性の向上等を促すとともに、省エネ法やエネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)(平成21年法律第72号)に基づく基準の設定・運用の強化等により、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する2030年度に排出係数0.25kg-CO2/kWhという目標を確実に達成していくために、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしています。これを受けて、2022年12月、政府としては、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会資源・エネルギーワーキンググループを開催し、電力業界の自主的枠組みの評価・検証を行いました。

さらに、経済産業省では2030年に向け安定供給を大前提に非効率石炭火力のフェードアウトを着実に実施するために、石炭火力発電設備を保有する発電事業者について、最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標において求めることとしています。その際、水素・アンモニア等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進につなげていきます。

さらに、2030年以降を見据えて、CCSについては、「エネルギー基本計画」や「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」等を踏まえて取り組むこととしています。

5 エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスの排出削減対策

(1)モントリオール議定書に基づく取組

2016年10月、ルワンダ・キガリにおいて、モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催され、HFCの生産量及び消費量の段階的削減を求める議定書の改正(キガリ改正)が採択されました。本改正を踏まえ、2018年6月に特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第69号)が成立し、キガリ改正の発効日である2019年1月1日に施行され、我が国を含む先進国はHFCの生産量及び消費量を2036年までに基準量比(2011~2013年平均値+HCFCの基準値の15%)の15%まで削減することとなりました。改正されたオゾン層保護法に基づき、我が国では代替フロンの生産量及び消費量の割当てによる段階的な削減を進めています。

(2)非エネルギー起源CO2、CH4及びN2Oに関する対策の推進

農地土壌や家畜排せつ物、家畜消化管内発酵に由来するCH4及びN2Oを削減するため、「農林水産省地球温暖化対策計画」に基づき、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対する支援を行うとともに、家畜排せつ物の適正処理等を推進しました。

廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進により化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減を推進するとともに、有機性廃棄物の直接最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物処理施設における燃焼の高度化等を推進しました。

下水汚泥の焼却に伴うN2Oの排出量を削減するため、下水汚泥の燃焼の高度化や、N2Oの排出の少ない焼却炉及び下水汚泥固形燃料化施設の普及、下水道革新的技術実証事業における温室効果ガス削減を考慮した汚泥焼却技術の実証を通じた技術の普及を促進しました。

(3)代替フロン等4ガスに関する対策の推進

代替フロン等4ガス(HFC、PFC、SF6、NF3)は、オゾン層は破壊しないものの強力な温室効果ガスであり、我が国の排出量についてUNFCCCに毎年報告しなければならないとされています。

代替フロン等4ガスの中でも、HFCについては、冷凍空調機器の冷媒用途を中心に、CFC、HCFCからの転換が進行し、排出量が増加傾向で推移してきました。HFCの排出の約9割は冷凍空調機器の冷媒用途によるものであり、機器の使用時におけるHFCの漏えい及び廃棄時未回収が排出量に大きく寄与しています(図1-1-8)。

図1-1-8 代替フロン等4ガスの排出量推移

HFCを含めた業務用冷凍空調機器に使用されるフロン類の排出削減に向けて、フロン類のライフサイクル全体にわたる対策を定めたフロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号。以下「フロン排出抑制法」という。)において、フロン類製造・輸入業者及びフロン類使用製品(冷凍空調機器等)の製造・輸入業者に対するノンフロン・低GWP(温室効果)化の推進、機器ユーザー等に対する機器使用時におけるフロン類の漏えいの防止、機器からのフロン類の回収・適正処理等が求められています。また、機器廃棄時の冷媒回収率は長らく低迷しており、直近でも4割程度にとどまる状況を踏まえ、機器ユーザーの廃棄時のフロン類引渡義務違反に対して、直接罰を導入するなど、関係事業者の相互連携により機器ユーザーの義務違反によるフロン類の未回収を防止し、機器廃棄時にフロン類の回収作業が確実に行われる仕組みを構築するため、2019年にフロン排出抑制法が改正され2020年4月から施行されました(図1-1-9)。加えて、2021年10月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」においては、2030年までに代替フロン(HFCs)を2013年比約55%削減し、フロン類が使用されている業務用冷凍空調機器の廃棄時回収率を2030年に75%まで向上させる目標を定めました。2022年度はウェブ等を活用した広報活動に加え、業務用冷凍空調機器の管理者及び建物解体業者、廃棄物・リサイクル事業者に対して改正フロン排出抑制法に係るオンライン説明会を開催し、改正法についてより一層の周知を行うとともに、IoT技術を活用したフロン漏えい検知システムによる機器の管理を、フロン排出抑制法に定める簡易点検を代替するものとして認める告示改正を行うなど、フロン類の更なる排出抑制対策に関する措置等も実施しました。また、冷媒のノンフロン化を推進するため、省エネ型自然冷媒機器の導入を促進するための補助事業等も実施しています。

図1-1-9 フロン排出抑制法の概要

また、特定家庭用機器再商品化法(平成10年法律第97号。以下「家電リサイクル法」という。)、使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号。以下「自動車リサイクル法」という。)に基づき、家庭用の電気冷蔵庫・冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機、ルームエアコン及びカーエアコンからのフロン類の適切な回収を進めました。

産業界のフロン類対策等の取組に関しては、自主行動計画の進捗状況の評価・検証を行うとともに、行動計画の透明性・信頼性及び目標達成の確実性の向上を図りました。

6 森林等の吸収源対策、バイオマス等の活用

土地利用、土地利用変化及び林業部門(LULUCF)については、パリ協定に則して、森林経営等の対象活動による吸収量について目標を定めています。具体的には、「地球温暖化対策計画」に基づき、森林吸収源対策により、2030年度に約3,800万トンCO2、都市緑化等の推進により、2030年度に約120万トンCO2、農地土壌炭素吸収源対策により、2030年度に850万トンCO2の吸収量を確保することとしています。

この目標を達成するため、森林吸収源対策として、「森林・林業基本計画」等に基づき、多様な政策手法を活用しながら、適切な造林や間伐等を通じた健全な森林の整備、保安林等の適切な管理・保全、効率的かつ安定的な林業経営の育成に向けた取組、国民参加の森林づくり、木材及び木質バイオマスの利用等を推進しました。

都市における吸収源対策として、都市公園整備や道路緑化等による新たな緑地空間を創出し、都市緑化等を推進しました。さらに、農地土壌の吸収源対策として、炭素貯留量の増加につながる土壌管理等の営農活動の普及に向け、炭素貯留効果等の基礎調査、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対する支援を行いました。

加えて、ブルーカーボン生態系によるCO2吸収量の計測・推計に向けた検討を行うとともに、海藻が着生しやすい基質の設置や、浚渫(しゅんせつ)土砂や鉄鋼スラグを活用したCO2吸収源となる藻場等の造成等を実施しました。

7 国際的な地球温暖化対策への貢献

(1)開発途上国への支援の取組

途上国では深刻な環境汚染問題を抱えており、2018年に開催された世界保健機関(WHO)の大気汚染と健康に関する国際会議やIPCCの報告書等においても、地球温暖化対策と環境改善を同時に実現できるコベネフィット・アプローチの有効性が認識されています。我が国では2007年12月から本アプローチによる途上国との協力を進めているほか、国際応用システム分析研究所(IIASA)やアジア・コベネフィット・パートナーシップ(ACP)の活動支援を通して、アジア地域におけるコベネフィット・アプローチを促進しています。

途上国が脱炭素社会へ移行できるよう、我が国の地方公共団体が持つ経験を基に、制度・ノウハウ等を含め優れた脱炭素技術の導入支援を行う都市間連携事業や、アジア開発銀行(ADB)等と連携したプロジェクトへの資金支援を実施しました。

加えて、気候変動による影響に脆(ぜい)弱である島嶼(しょ)国に対し、気候変動への適応・エネルギー・水・廃棄物分野への対応に関する支援や、研究者によるネットワーク設立に向けた支援など、様々な取組を行っています。

森林の減少を含む土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約2割を占めるとされており、2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)に加え、途上国の森林減少及び劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減等(REDD+)の実施及び支援を推奨すること(同2項)などが定められました。また、REDD+を推進するため、JCMにおけるREDD+の実施ルールの検討及び普及を行いました。

政府全体の「インフラシステム海外展開戦略2025」(2022年6月改訂)の重点戦略の柱の1つである「脱炭素社会に向けたトランジションの加速」の実現に向けて、相手国のニーズも踏まえ、実質的な排出削減につながる脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援を推進し、相手国の脱炭素移行を進めるため、政策立案の上流からセクター別や個別案件等の下流までを一体とした政策支援を実施しています。

(2)アジア太平洋地域における取組

開発途上国の中には、気候変動影響に対処する適応能力が不足している国が多くあります。このため、我が国では、アジア太平洋地域において気候変動リスクを踏まえた意思決定と実効性の高い気候変動適応を支援するために構築した「アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム」(AP-PLAT)を活用し、[1]気候変動リスクに関する科学的知見の情報共有、[2]政策意思決定用ツールの提供、[3]気候変動適応策実施のための能力強化等の取組を、地域内の各国や関係機関等との協働により推進しています。

また、様々な国際協力スキームや産官学に蓄積されてきた優れた適応ソリューションを活用し、気候変動影響評価ツールやビデオ教材などの開発を進めています。また、気候変動に脆(ぜい)弱な開発途上国に共通する喫緊の課題と多種多様な技術協力ニーズに応えるため、河川・沿岸防災、健康、水資源、食料安全保障、都市のレジリエンス、造礁サンゴ再生等による自然を基盤とした解決策(NbS:Nature-based Solutions)など様々な適応課題に対し、気候資金へのアクセス支援を中心に気候変動適応の技術協力を推進しています。

(3)JCMの推進に関する取組

環境性能に優れた先進的な脱炭素技術・製品の多くは、一般的に導入コストが高く、普及には困難が伴うという課題があります。このため、途上国等のパートナー国への優れた脱炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するJCMを構築・実施してきました。こうした取組を通じ、パートナー国の負担を下げながら、優れた脱炭素技術の普及を促進しています。

これまでにクレジットの獲得を目指す環境省JCM資金支援事業のほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証事業を実施しており、2022年に新たに加わった8か国を含め、25か国とJCMを構築しています(表1-1-1)。

表1-1-1 JCMパートナー国ごとの進捗状況

「地球温暖化対策計画」では、JCMについて、「官民連携で2030年度までの累積で、1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目標とする」ことが定められました。また、2021年10月末から開催されたCOP26での合意を踏まえ、環境省は「COP26後の6条実施方針」を発表し、[1]JCMパートナー国の拡大と、国際機関と連携した案件形成・実施の強化、[2]民間資金を中心としたJCMの拡大、[3]市場メカニズムの世界的拡大への貢献を通じて、世界の脱炭素化に貢献していくこととしました。2022年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」では、「二国間クレジット制度(JCM)の拡大のため、2025 年を目途にパートナー国を30か国程度とすることを目指し関係国との協議を加速するとともに、2022 年度に民間資金を中心とするJCMプロジェクトの組成ガイダンスを策定し普及を行う」ことが定められました。

(4)短寿命気候汚染物質に関する取組

ブラックカーボン、CH4、HFC等の短寿命気候汚染物質については、その対策が短期的な気候変動緩和と大気汚染防止等他分野の双方に効果があるとして国際的に注目されており、2012年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質(SLCP)削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、2012年4月より我が国も参加しました。2022年11月にはCOP27の場でCCAC閣僚級会合が開催され、農業、クーリング、廃棄物を始めとした主要分野におけるSLCP対策を推進するための2030年戦略の進捗の確認や新しいプロジェクトの始動、目標の重要性の確認等が行われました。小野洋地球環境審議官から、冷媒として使用されるHFCを含むフロン類について、CCACと連携しながら、使用時や廃棄時を含め、ライフサイクル全体での排出抑制に積極的に取り組むことを表明しました。環境省はCOP26の会場においてCCACとの共催により、サイドイベントを開催し、こうしたフロン類のライフサイクルマネジメントの必要性を呼びかけました。

世界全体のメタン排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目標とするグローバル・メタン・プレッジについて、我が国は、2021年9月の日米豪印首脳会合において参加を表明しました。我が国としては、「地球温暖化対策計画」に基づき、国内のメタン排出削減に取り組むとともに、国内のメタン排出削減の優良事例を各国と共有していくこと等のイニシアティブが期待されています。

8 横断的施策

(1)地域脱炭素ロードマップ

2021年6月に開催した第3回国・地方脱炭素実現会議において「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を策定しました。本ロードマップに基づき、地域脱炭素が、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を起こすべく、今後5年間を集中期間として、あらゆる分野において、関係省庁が連携して、脱炭素を前提とした施策を総動員していくこととしました。

「実行の脱炭素ドミノ」のモデルとなる「脱炭素先行地域」については、2022年度に2回選定を行い、46の地域を選定しました。また2022年度に新たに創設した「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」では、脱炭素先行地域の取組に加え、32の地方公共団体における脱炭素の基盤となる重点対策の加速化を支援しました。さらに、民間資金を呼び込む出資制度の創設や地方公共団体に対する財政上の措置を講じることで、脱炭素化に資する事業の加速化を図るため、「地球温暖化対策の推進に関する法律」の改正を行い、2022年10月に株式会社脱炭素化支援機構が設立されました。脱炭素化支援機構は、脱炭素に資する多様な事業への呼び水となる投融資(リスクマネー供給)を行い、脱炭素に必要な資金の流れを太く、速くし、経済社会の発展や地方創生、知見の集積や人材育成など、新たな価値の創造に貢献します。

(2)低炭素型の都市・地域構造及び社会経済システムの形成

都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24年法律第84号)に基づく低炭素まちづくり計画がこれまで26都市(2022年12月末時点)で作成されました。また、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)に基づく立地適正化計画がこれまでに470都市(2022年12月末時点)で作成され、計画に基づく都市のコンパクト化を図るための財政支援を行うことにより、脱炭素に資するまちづくりを総合的に推進しました。

低炭素なまちづくりの一層の普及のため、温室効果ガスの大幅な削減など低炭素社会の実現に向け、高い目標を掲げて先駆け的な取組にチャレンジする23都市を環境モデル都市(表1-1-2)として選定しており、対象都市に対して2021年度の取組評価及び2020年度の温室効果ガス排出量等のフォローアップを行いました。

表1-1-2 環境モデル都市一覧

都市の低炭素化をベースに、環境・超高齢化等を解決する成功事例を都市で創出し、国内外に展開して経済成長につなげることを目的として、2011年度に東日本大震災の被災地域6都市を含む11都市を環境未来都市(表1-1-3)として選定しており、引き続き各都市の取組に関する普及展開等を実施しました。

表1-1-3 環境未来都市一覧

2022年度蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業により、IoT技術等を活用し、複数の再生可能エネルギーや蓄電池等を束ねて制御し安定した電力として供給する技術や、工場や家庭等が有する蓄電池や発電設備、ディマンドリスポンス等のエネルギーリソースを統合制御し電力の需給調整に活用する技術といった、いわゆるアグリゲーションビジネスの促進に向けた技術実証を行いました。また、2022年度地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金により、既存の系統線を用いることでコストを抑え、非常時には地域内の再生可能エネルギー等から自立的に電力供給する、いわゆる「地域マイクログリッド」の構築に向けて、2022年度は16件の計画策定と6件の設備導入等の支援を実施しました。

交通システムに関しては、公共交通機関の利用促進のための鉄道新線整備等の推進、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、ビッグデータを活用した渋滞対策等の交通流対策を行いました。

再生可能エネルギーの導入に関して、2013年10月に国内初の本格的な2MWの浮体式洋上風力発電を設置、2016年3月より運転を開始し、本格的な運転データ、環境影響・漁業影響の検証、安全性・信頼性に関する情報を収集し、事業性の検証を行いました。2016年度からは、洋上風力発電の事業化を促進するため、施工の低コスト化・低炭素化や効率化等の手法の確立及び効率的かつ正確な海域動物・海底地質等の調査手法の確立に取り組み、2020年度からは、事業性検証・理解醸成事業に取り組んでいます。

海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)(平成30年法律第89号)に基づく海洋再生可能エネルギー発電設備の整備促進区域の指定について、2022年9月に新たに「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖」、「新潟県村上市及び胎内市沖」及び「長崎県西海市江島沖」の3海域を指定し、公募スケジュールを見直していた「秋田県八峰町及び能代市沖」と併せ、同年12月に発電事業者の公募を開始しました。この他、これまでに4か所(5海域)において発電事業者を選定しています。また、洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される港湾(基地港湾)について、これまで国土交通大臣が4港を指定し、整備を進めています。このうち、秋田港では整備が完了し、2021年4月に港湾法(昭和25年法律第218号)に基づき海洋再生可能エネルギー発電設備取扱埠頭に係る賃貸借契約を締結しました。

地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業等により、地域防災計画に災害時の避難施設等として位置付けられた公共施設、又は業務継続計画により災害等発生時に業務を維持するべき公共施設に、平時の温室効果ガス排出削減に加え、災害時にもエネルギー供給等の機能発揮を可能とする再生可能エネルギー設備等の導入を支援しました。さらに、公共施設等先進的CO2排出削減対策モデル事業により、複数の公共施設等が存在する地区内で再エネ設備等を導入し、自営線等を整備、電力を融通する自立・分散型のエネルギーシステムを複数構築し、システム間において電力を融通することにより、地区を越えた地域全体でCO2排出削減に取り組む事業の構築を支援しました。さらに、農業分野にも再生可能エネルギーの導入を促すため、優良農地の確保を前提とした再生可能エネルギー発電設備を導入し、農林漁業関連施設等へその電気を供給するモデル事例を創出しました。

このほか、近年、RE100やSBT(Science Based Targets)のように、再生可能エネルギーを指向する需要家が増えてきていますが、需要と供給を結び付けるためには、再生可能エネルギーの価値を市場で取引できるようにする必要があります。この観点から、2018年度より、自家消費型の再生可能エネルギーのCO2削減価値を属性情報とともに遠隔地間で売買取引するプラットフォーム実証を実施し、ブロックチェーン技術での価値の移転の記録に成功しました。

(3)水素社会の実現

水素は、利用時にCO2を排出せず、製造段階に再生可能エネルギーやCCSを活用することで、トータルでCO2フリーなエネルギー源となり得ることから、脱炭素社会実現の重要なエネルギーとして期待されています。また、水素は再生可能エネルギーを含め多種多様なエネルギー源から製造し、貯蔵・運搬することができるため、一次エネルギー供給構造を多様化させることができ、一次エネルギーのほぼ全てを海外の化石燃料に依存する我が国において、エネルギー安全保障の確保と温室効果ガスの排出削減の課題を同時並行で解決していくことにも大いに貢献するものです。

水素利用については、家庭用燃料電池(エネファーム)や燃料電池自動車(FCV)の普及が先行しており、導入拡大に向けた支援を行いました。また、水素の供給インフラについても、商用水素ステーションが整備中16か所を含めて全国179か所(2022年11月末時点)で整備されるなど、世界に先駆けて整備が進んでいます。さらに、燃料電池バス・フォークリフト等の産業車両への導入支援や水素内燃機関水素発電の技術開発実証など、水素需要の更なる拡大に向けた取組を進めました。

水素の本格的な利活用に向けては、水素をより安価で大量に調達することが必要です。このため、海外の褐炭等の未利用エネルギーから水素を製造し、国内に水素を輸送する国際水素サプライチェーン構築実証に取り組んでいます。また、製造時にもCO2を排出しない、トータルでCO2フリーな水素の利活用拡大に向けては、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に資する技術として、太陽光発電といった自然変動電源の出力変動を吸収し、水素に変換・貯蔵するPower-to-Gas技術の実証にも福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)等において取り組んでいます。さらにこれに加え、地域の未利用資源(再生可能エネルギー、副生水素、使用済みプラスチック、家畜ふん尿等)から製造した水素を純水素燃料電池、FCV、燃料電池フォークリフト等で利用する、地産地消型の低炭素水素サプライチェーンの構築実証等及び既存の再エネ施設等を活用した水素供給コストの抑制や需要の創出につながるシステムの構築等、事業化に向けた水素供給モデルの運用実証に向けた検討を行いました。

一方、水素社会の実現には、技術面、コスト面、インフラ面等でいまだ多くの課題が存在しており、官民一体となった取組を進めていくことが重要です。このような観点を踏まえて決定された「水素基本戦略」(2017年12月再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議決定)では、水素社会実現に向けて官民が共有すべき方向性・ビジョンを示しています。また、大規模かつ強靭なサプライチェーンを国内外で構築するため、既存燃料との価格差に着目しつつ、事業の予見性を高める支援や、需要拡大や産業集積を促す拠点整備への支援を2022年3月に立ち上げた水素政策小委員会において検討しています。引き続き、水素社会実現に向けた取組を官民連携の下で進めていきます。

水素がビジネスとして自立するためには国際的なマーケットの創出が重要です。経済産業省及びNEDOは2021年に引き続き2022年9月に、「第5回水素閣僚会議」を対面とオンラインのハイブリッドにより開催し、世界で加速する水素関連の取組について共有するとともに、東京宣言およびグローバル・アクション・アジェンダの進展の加速と拡大に向けた議長サマリーをとりまとめ、2030年に向けて再生可能エネルギー由来の水素及び低炭素水素を少なくとも9,000万トンとする追加的なグローバル目標を各国と共有しました。

(4)温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度

地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度により、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、毎年度、排出量を国に報告することを義務付け、国が報告されたデータを集計・公表しています。

全国の1万2,783事業者(特定事業所:1万2,178事業所)及び1,303の特定輸送排出者から報告された2019年度の排出量を集計し、2022年12月に結果を公表しました。今回報告された排出量の合計は6億4,274万トンCO2で、我が国の2019年度排出量の約6割に相当します。

(5)排出削減等指針

地球温暖化対策推進法により、事業者が事業活動において使用する設備について、温室効果ガスの排出量の削減等に資するものを選択するとともに、できる限り温室効果ガスの排出量を少なくする方法で使用するよう努めること、また、国民が日常生活において利用する製品・サービスの製造等を事業者が行うに当たって、その利用に伴う温室効果ガスの排出量がより少ないものの製造等を行うとともに、その利用に伴う温室効果ガスの排出に関する情報の提供を行うよう努めることとされています。こうした努力義務を果たすために必要な措置を示した、排出削減等指針を策定・公表することとされており、これまでに産業部門(製造業)、業務部門、上水道・工業用水道部門、下水道部門、廃棄物処理部門、日常生活部門において策定していますが、その改定を行いました。また、排出削減等指針の拡充に向けて、先進的な対策リスト及び各対策の効率水準・コスト等のファクト情報を網羅的に整理して公表しました。

(6)脱炭素社会に向けたライフスタイルの転換

カーボンニュートラル実現に向けて、自治体、企業、団体等と連携して国民のライフスタイル変革を強力に後押しするため、2022年10月に「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を開始し、同時に官民連携協議会を立ち上げました。

新しい国民運動の個別アクションの第一弾として、「ファッション」、「住まい」、「デジタルワーク」による、新しい豊かな暮らしを提案しました。特に、「住まい」では、国土交通省、経済産業省及び環境省が住宅の省エネリフォーム等に関する新たな補助制度をそれぞれ創設し、ワンストップで利用可能とするなど、連携して支援を行うことにより、住宅の省エネ化の一層の推進を図りました。

食とくらしの「グリーンライフ・ポイント」推進事業では、2022年度に環境配慮製品・サービスの選択等の消費者の環境配慮行動に対し新たにポイントを発行しようとする48の企業や地域等に、企画・開発・調整等の費用を補助することで、消費者の環境に優しい行動を促し、脱炭素型のライフスタイルへの転換を促進しました。

再生可能エネルギー(再エネ)の活用について、個人、地方公共団体、企業それぞれに再エネ導入のメリットや具体的な導入方法などを紹介し、再エネ導入をサポートするポータルサイト「再エネスタート」を立ち上げ、再エネ促進に積極的に取り組む事例の紹介も含め、情報提供を行いました。

また、脱炭素で快適、健康、お得な新しいライフスタイルを提案し、断熱リフォーム・ZEH(ゼッチ)化と省エネ家電への買換えを促す「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンを実施しました。

さらに、夏期・冬期には、過度な冷房・暖房に頼らず様々な工夫をして快適に過ごすライフスタイル「クールビズ」「ウォームビズ」、通年の取組として、国民一人一人の多様な移動手段をよりCO2排出量の少ない移動に取り組む「smart move(スマートムーブ)」、CO2削減につながる環境負荷の軽減に配慮した自動車利用への取組「エコドライブ」を推進しました。

これらの取組のほか、コロナ禍に対応したオンラインイベントへの出展や「気候変動×スポーツ」をテーマとした動画を制作・公開、これまでに制作した地球温暖化の意識啓発アニメや動画の貸出など、地球温暖化に対する危機意識醸成を図りました。

(7)J-クレジット、カーボン・オフセット

国内の多様な主体による省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用等による排出削減対策及び適切な森林管理による吸収源対策を引き続き積極的に推進していくため、カーボン・オフセットや財・サービスの高付加価値化等に活用できるクレジットを認証するJ-クレジット制度の更なる活性化を図りました。J-クレジットの対象となるプロジェクトの拡充や認証プロセスの効率化により、制度の円滑な運営を図るとともに、認証に係る事業者等への支援やクレジットの売り手と買い手のマッチング機会を提供するなど制度活用を促進するための取組を強化しました。特に、森林管理プロジェクトについて、2022年8月に主伐後の再造林の推進等によるクレジットの創出を後押しするための制度改正を行ったほか、2022年12月に水素・アンモニアの利用に関する新規方法論を、2023年3月に水稲栽培における中干し期間の延長によるメタン排出削減に関する新規方法論を策定し、新規技術を含めて方法論を拡充しました。2023年3月末時点で、J-クレジット制度の対象となる方法論は69種類あり、これまで54回の認証委員会を開催し、省エネ・再エネ設備の導入、森林管理や農業分野に関するプロジェクトを477件登録し、また登録プロジェクトから、累計476回の認証、累計697万トンCO2のクレジット認証をしました。J-クレジット制度の活用により、中小企業や農林業等の地域におけるプロジェクトにカーボン・オフセットの資金が還流するため、地球温暖化対策と地域振興が一体的に図られました。また、カーボン・クレジットの取引の流動性を高めるとともに、適切な価格公示を行うことで、脱炭素投資を促進する観点から、カーボン・クレジット市場の創設に向けた実証を2022年9月から開始し、J-クレジットの試行取引が行われました。

「カーボン・オフセット」とは、市民、企業等が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、排出削減・吸収量(クレジット)の購入や、他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動の実施等により、排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方です。

2012年11月から、算定されたカーボンフットプリント(CFP)等の値を活用してカーボン・オフセットを行い、専用のマーク(どんぐりマーク)を添付する「カーボンフットプリントを活用したカーボン・オフセット制度」を開始し、2018年4月に従来の事務局による制度認証から、規程にのっとった実施事業者による自主的な制度認証(自主宣言)へと移行しました。

(8)金融のグリーン化

脱炭素社会を創出し、気候変動に対して強靱で持続可能な社会を創出していくには、必要な温室効果ガス削減対策や気候変動への適応策に的確に民間資金が供給されることが必要です。このため、ESG金融等を通じて環境への配慮に適切なインセンティブを与え、資金の流れをグリーン経済の形成に寄与するものにしていくための取組(金融のグリーン化)を進めることが重要です。

詳細については、第6章第2節を参照。

(9)排出量・吸収量算定方法の改善等

国連気候変動枠組条約に基づき、温室効果ガスインベントリの報告書を作成し、排出量・吸収量の算定に関するデータとともに条約事務局に提出しました。また、これらの内容に関して、条約事務局による審査の結果等を踏まえ、その算定方法の改善等について検討しました。

(10)地球温暖化対策技術開発・実証研究の推進

地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化、有効活用を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、民間の自主的な技術開発に委ねるだけでは進まない多様な分野におけるCO2排出削減効果の高い技術の開発・実証、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)等の新素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)等に関連する技術の開発・実証、普及を促進しました。

農林水産分野においては、「農林水産省地球温暖化対策計画」及び「農林水産省気候変動適応計画」に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を推進しました。

温室効果ガスの排出削減・吸収技術の開発として、農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発、アジア地域の水田におけるGHG削減等に関する総合的栽培管理技術の開発、農産廃棄物を有効活用したGHG削減に関する影響評価手法の開発、畜産分野における温室効果ガスの排出を低減する飼養管理技術等の開発を推進しました。

また、地球温暖化緩和に資するため、農地土壌の炭素貯留ポテンシャルの評価とそれに貢献するメカニズムに関する研究、炭素貯留能力に優れた造林樹種を効率的に育種する技術の開発、針葉樹樹皮から化石由来プラスチックの代替品として利用できる樹脂原料等の開発を推進しました。

農林水産分野における温暖化適応技術については、流木災害防止・被害軽減技術、発生リスクの上昇が予想される赤潮の被害軽減技術等の開発を推進しました。

9 公的機関における取組

(1)政府実行計画

政府における取組として、地球温暖化対策推進法に基づき、自らの事務及び事業から排出される温室効果ガスの削減等を定めた「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」を2021年10月に閣議決定しました。この計画では、2013年度を基準として、政府全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに50%削減することを目標とし、太陽光発電の導入、新築建築物のZEB(ゼブ)化、電動車の導入、LED照明の導入、再生可能エネルギー電力の調達等の措置を講ずることとしています。

各府省庁は温室効果ガスの削減に取り組み、調整後排出係数に基づき算出した場合、2021年度は基準年度である2013年度に比べ28.2%(速報値)の削減を達成しています。

(2)地方公共団体実行計画

地球温暖化対策推進法に基づき、全ての地方公共団体は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する計画である地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられています。また、都道府県、指定都市、中核市及び施行時特例市は、地域における再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギーの推進等を盛り込んだ地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられているほか、2022年4月に改正地球温暖化対策推進法が施行され、その他の市町村においても区域施策編の策定が努力義務とされました。さらに、当該改正により、市町村が、住民や事業者などが参加する協議会等で合意形成を図りつつ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する再生可能エネルギー事業を促進する区域を定める、「地域脱炭素化促進事業制度」が創設されました。

環境省は、地方公共団体の取組を促進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施に資するマニュアル類の公表や、「自治体排出量カルテ」をはじめとした、温室効果ガス排出量の現況推計に活用可能なツールを提供しているほか、地方公共団体職員向けの研修を実施しています。2022年度は、当該マニュアル・ツールの改定に加え、地域における再生可能エネルギーの最大限の導入を促進するため、「地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業」を通じて、地方公共団体における再生可能エネルギーの導入計画の策定や円滑な再エネ導入のための促進エリア設定等に向けたゾーニング等の合意形成を支援しました。

地球温暖化対策推進法に基づき、引き続き都道府県や指定都市等において、地域における普及啓発活動や調査分析の拠点としての地域地球温暖化防止活動推進センター(地域センター)の指定や、地域における普及啓発活動を促進するための地球温暖化防止活動推進員を委嘱し、さらに関係行政機関、関係地方公共団体、地域センター、地球温暖化防止活動推進員、事業者、住民等により地球温暖化対策地域協議会を組織することができることとし、これらを通じパートナーシップによる地域ごとの実効的な取組の推進等が図られるよう継続して措置しました。