環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第3節 人の命と環境を守る

第3節 人の命と環境を守る

公害の防止や自然環境の保護を扱う機関として誕生した環境省にとって、人の命と環境を守る基盤的な取組は、原点であり使命です。その原点は変わらず、時代や社会の変化と人々のライフスタイルに応じた政策に取り組んでいます。

1 熱中症の深刻化と対策の抜本的強化

(1)熱中症の深刻化

近年、我が国の熱中症による救急搬送人員や死亡者数は高い水準で推移しています。2022年5月から9月の救急搬送人員は約7万1千人であり、死亡者数は5年移動平均で1,000人を超える年が続くなど、自然災害による死亡者数を上回る状況にあります。また、世界的には、2022年6月に欧州を中心として熱波が発生し、甚大な人的被害をもたらしました。今後、地球温暖化が進行すれば、極端な高温の発生リスクが増加することが見込まれる中、我が国における熱中症対策は喫緊の課題となっています(図3-3-1)。

図3-3-1 熱中症による死亡者(5年移動平均)の推移
(2)対策の抜本的強化

熱中症対策のさらなる推進を図るため、政府がより一層連携して対策を推進するべく既存の熱中症対策行動計画を法定の閣議決定計画に格上げするとともに、重大な健康被害が発生するおそれのある場合に熱中症特別警戒情報を発表することや、特別警戒情報の発表時に公共施設等を地域住民に開放する指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)として、また、熱中症対策の普及啓発等に取り組む民間団体等を熱中症対策普及団体として市町村が指定できる制度を設ける「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律案」を2023年2月に閣議決定し、第211回国会に提出しました(写真3-3-1、写真3-3-2)。

写真3-3-1 熊谷市「まちなかオアシス事業」の事例
写真3-3-2 高齢者支援団体による呼びかけ活動

2 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

化学物質などの環境要因が子供の成長や発達にもたらす影響への懸念から、国内外で大規模な疫学調査の必要性が認識されるようになりました。このようなことを背景に、我が国では、胎児期から小児期にかけての化学物質へのばく露が子供の健康に与える影響を解明するため、2010年度から、全国で約10万組の親子を対象とした「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を実施しています。協力者から提供された臍(さい)帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取保存・分析するとともに、質問票によって健康状態や生活習慣等のフォローアップを行っています。また、約10万人の中から抽出された約5,000人の子供を対象として、医師による診察や身体測定、居住空間の化学物質の採取等の詳細調査を実施しています。この調査は、国立研究開発法人国立環境研究所、国立研究開発法人国立成育医療研究センター、全国15地域のユニットセンター等を主体として実施しています。エコチル調査の開始から12年が経過し、今までに約540万検体の生体試料が収集され、順次、化学分析等を実施し、質問票による子供の健康状態等に関する情報も蓄積しています。

これらの貴重なデータを基に発表された論文は、325本に上っています(2022年12月末時点)。例えば、妊婦の化学物質等のばく露と生まれた子供の体格やアレルギー疾患等との関連などについて明らかになっています(図3-3-2)。

図3-3-2 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)これまでの論文数について

3 化学物質対策

特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)の対象となる化学物質の見直しを行う改正施行令が2023年4月から施行されました。見直された対象化学物質の環境中への排出量等を把握することにより、より適切な環境リスク評価ができるようになります。化学物質排出移動量届出制度(PRTR制度)による事業者からの届出は2024年度から実施されます。事業者からの把握・届出が適切になされるよう、周知・広報等を進めていきます。

化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号)では、第一種特定化学物質の製造・輸入等を原則禁止しています。近年、特に動向が注目されているペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は2010年に、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)は2021年に、それぞれ第一種特定化学物質に指定され、措置が講じられています。また、2020年にPFOS及びPFOAを水質に関する要監視項目に位置付け、都道府県等の地域の実情に応じ水質測定を行うとともに、2022年12月にこれらを水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)の指定物質に追加し、事故に伴って流出する場合の措置を関係事業者に義務づける(2023年2月より施行)など、監視強化やばく露防止の対応を図っています。さらに、2023年1月に専門家会議を新たに設置し、PFOS等に関する水環境の目標値等の検討や総合戦略の検討を進め、国民の安全・安心のための取組を進めていきます。

コラム:地域等における気候変動適応の取組~地域気候変動適応計画~

近年、気温の上昇、大雨の頻度や強度の増加、農作物の品質の低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動による影響が全国各地で現れており、地球温暖化に伴って、今後、長期にわたり影響が拡大するおそれがあります。気候変動に対処するためには、温室効果ガスの排出の抑制等を行う緩和だけではなく、気候変動の影響を回避・軽減する「適応」を進めることが重要です。気候変動による影響は、地域の気候条件や地理的条件、社会経済条件等の地域特性によって大きく異なります。また、早急に対応を要する分野や重点的に対応を行う必要のある分野も地域によって異なります。そのため地方公共団体が主体となって、地域の実情に応じた地域気候変動適応計画を策定し、多様な関係者の連携・協働の下、適応に取り組むことが求められています。

環境省は、気候変動適応法に基づき地方公共団体が策定する地域気候変動適応計画の策定支援を目的として、「地域気候変動適応計画策定マニュアル」を2018年度に公表し、2023年3月に新たな知見等を追加して改訂しました。2023年4月現在で、47都道府県、19政令市、140市町村で地域気候変動適応計画が策定されています。