環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第2節 ライフスタイルシフト

第2節 ライフスタイルシフト

我が国は2050年までにカーボンニュートラル、すなわち温室効果ガスの「排出量」から、森林吸収源などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを宣言しました。カーボンニュートラル達成のためには、国や地方公共団体、企業等という構成単位に加えて私たち生活者一人一人も、今までの慣れ親しんだライフスタイルを変える必要があります。我が国の温室効果ガス排出量を消費ベースで見ると、全体の約6割が家計によるものという報告があり、その必要性が明らかと言えます(図3-2-1)。

図3-2-1 消費ベースでの日本のライフサイクル温室効果ガス排出量

今までの「大量生産・大量消費・大量廃棄」型のライフスタイルが、私たちの衣食住を支える「自然」がもたらす様々な恵みである「生態系サービス」を劣化させていると言われています。グリーン社会実現のためには、「住まい」「移動」「食」「ファッション」の側面から、温室効果ガスの排出量を減らし、廃棄物を減らして3R+Renewableによる資源循環や自然資源を大事にする視点でライフスタイルを変えていく必要があります。

環境省では、2022年に、環境配慮製品・サービスの選択等の消費者の環境配慮行動に対し、企業や地域等がポイントを発行する取組を支援する、食とくらしの「グリーンライフ・ポイント」推進事業を開始し、日常生活の中で環境配慮に取り組むインセンティブを実感できるような環境を醸成し、消費者の行動変容を促すことで、脱炭素・循環型へのライフスタイルの転換を加速させていきます(図3-2-2)。

図3-2-2 対象となる“グリーンライフ”のイメージ

また、消費者が脱炭素・低炭素な製品やサービスを選択する上で必要な情報を提供するカーボンフットプリントについて、環境省では2022年度に、製品のライフサイクルを通じたCO2排出量の算定に取り組む企業を支援するモデル事業を実施し、その成果も踏まえ、経済産業省と環境省の共同で2023年3月に「カーボンフットプリント ガイドライン」を公表しました。カーボンフットプリントの普及を促進し、製品やサービスのCO2排出量の見える化を進めていきます。

さらに、こうした製品やサービスを積極的に選んでいただけるよう、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」において、消費者へのインセンティブ付与や情報発信等の取組を官民連携で進めることで、行動変容を推進していきます。

1 「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」及び官民連携協議会

2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向けて、暮らし、ライフスタイル分野でも大幅なCO2削減が求められます。しかしながら、国民の9割が「脱炭素」という用語を認知している一方、そのために何をしたらよいか分からないなど、具体的な行動に結びついているとは言えない状況にあります。そこで、国民・消費者の行動変容、ライフスタイルの変革を促すため、環境省は2022年10月に「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を開始しました(写真3-2-1、写真3-2-2)。

写真3-2-1 脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動発足式で発表を行っている西村明宏環境大臣
写真3-2-2 山田美樹環境副大臣による「サステナブルファッション」の紹介

この新しい国民運動では、今から約10年後、生活がより豊かに、自分らしく快適・健康で、そして2030年温室効果ガス削減目標も同時に達成する、新しい豊かな暮らしを提案するとともに(図3-2-3)、国のみならず、企業・自治体・団体等と連携しながら、国民・消費者の豊かな暮らし創りを後押しすることで、ライフスタイル変革と併せて新たな消費・行動の喚起と国内外での製品・サービスの需要創出も推進していきます。

図3-2-3 新しい豊かな暮らしの提案内容

新しい国民運動の具体的な取組の一つとして、新設した新しい国民運動のホームページにおいて、4つの切り口([1]デジタルも駆使した多様で快適な働き方・暮らし方の情報、[2]脱炭素型の製品・サービス情報、[3]インセンティブや効果的な情報発信を通じた行動変容の後押しにつながる情報、[4]地域独自の暮らし方の提案等の情報)から、企業・自治体・団体等より登録いただいた情報を発信することで、国民の豊かな暮らし創りを後押ししています。

また、新しい国民運動の発足と同時に立ち上げた官民連携協議会では、国・自治体・企業・団体・消費者との連携による足並みやタイミングを揃えた取組・キャンペーンの展開等を図っています。2023年3月時点で、約550以上の自治体・企業・団体等の参画の下、脱炭素につながる具体的な製品・サービスを知るとともに、知るのみならず、実際に体験・体感といった共感につながる機会や場の創設等に向けて、省エネ住宅、サステナブルファッション、デジタルワーク、節電等をはじめとする官民連携のキャンペーンやプロジェクトを展開しています。

例えば、省エネ住宅について、快適で健康な暮らしにもつながる住宅の断熱リフォーム促進キャンペーンを展開します。これは、2030年度の家庭部門からのCO2排出量約7割削減(2013年度比)や、2050年に住宅のストック平均でZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保へ貢献するものです。特に、既築住宅の約9割が現行の省エネ基準を満たしていないため、住宅の省エネリフォームを後押ししていくことが重要です。環境省、経済産業省及び国土交通省は住宅の省エネリフォーム等に関する新たな補助制度をそれぞれ創設し、連携して支援を行うこととしています。中でも、環境省及び経済産業省は、既存住宅の断熱性能を早期に高めるために、断熱性能の高い窓への改修に対し補助を行います。これらの補助制度について、新しい国民運動では、関係する業界団体等に幅広く協力を呼びかけながら、様々なメディアやSNS、集客力のある民間イベント等との連携等により多くの国民・消費者に強く訴求するとともに、補助制度と関連する団体等独自の取組とも連携していきます。

このほか、協議会員からの具体的な提案としては、[1]さっぽろ雪まつりにおいて、札幌市と地元電力・ガス会社とが連携し、電気・ガス式の暖房設備を体感できるブースを会場内に設置するなど、道内で一般的に普及している灯油式暖房からの熱源転換に向けた理解促進にかかる取組提案(写真3-2-3)や、[2]「新しい豊かな暮らし」を支える製品・サービスについて、これを実際に知って触れてもらう機会・場を設けるため、商業施設において協議会参画企業等から製品・サービスを持ち寄ったイベント実施の提案(写真3-2-4)、[3]地方の課題解決と脱炭素、国立公園を絡めたワーケーションの提案、[4]環境配慮行動へのポイント付与といったインセンティブを通じた自家用車から鉄道へのモーダルシフトの後押しや、低環境負荷商品等の購買の促進の提案、[5]デジタルツール上で、国民の行動による環境負荷を見える化するとともに、環境に配慮された行動に対する金銭・非金銭的なインセンティブを付与することによる行動変容促進の提案等、アナログ・デジタル問わず、様々な国民の脱炭素行動を促す提案が積極的に行われています。

写真3-2-3 電気・ガス式の暖房設備を体感できるさっぽろ雪まつりのブースの様子
写真3-2-4 商業施設において「新しい豊かな暮らし」を支える製品・サービスを持ち寄ったイベントを実施している様子

また、新しい国民運動の趣旨のもと、協議会員独自の取組も進められています。その取組の一つとして、電力需要のひっ迫という社会課題に対し、家の電気を消して、商業施設へ出掛けることで街全体の節電につなげていこうという提案・取組が実施され、西村明宏環境大臣が視察しました。この取組に賛同し、新しい国民運動の個別アクション第2弾として「スイッチを消してお出かけ省エネ・節電キャンペーン」を打ち出しました(写真3-2-5)。

写真3-2-5 おでかけ節電プロジェクトの参加店舗を視察している西村明宏環境大臣

2022年度には、すでにいくつかの提案を実証事業として実施しました。実施したこれらのプロジェクトの効果検証等を行いながら、2023年度には全国でこうした官民連携のプロジェクトを実施していきます。

今後も、気候変動の影響をわかりやすく伝えるとともに、新しい国民運動の取組を加速化し、自治体・企業・団体等と連携し、国民の豊かな暮らし創りを力強く後押ししていきます。また、新しい国民運動、そして官民連携協議会は企業、自治体、団体のほか個人の方も参画できます。

コラム:ナッジを活用した行動変容(日本オラクル、住環境計画研究所、東京ガス)

ナッジ(nudge:そっと後押しする)とは、行動科学の知見の活用により、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」です。環境省のナッジ事業の一環として、日本オラクル、住環境計画研究所及び東京ガスでは2017年度から2020年度にかけて、アクティブ・ラーニングの手法に加え、ナッジ(行動の結果の見える化やフィードバック、コミットメント等)や行動変容ステージモデル等の最新の行動科学の知見が活用された省エネ教育プログラムを開発し、全国の小・中・高等学校の教育現場で実践しました。その結果、家庭での電気・ガス・水道使用量やCO2削減効果、環境配慮行動の実践度合い等を定量的・定性的に検証したところ、省エネ教育後に平均5.1%のCO2削減効果(電気・ガスの合計)が統計的有意に実証されました。

開発した省エネ教育プログラムのテキスト
プログラムで行われるエコ・クッキングの様子

また、日本オラクル及び住環境計画研究所では2017年度から2020年度にかけて、全国の約30万世帯を対象に、ナッジ等の行動科学の知見に基づく省エネアドバイス等を記載したレポートを送付して、その後の電気やガスの使用量にどのような効果が表れるかを実証しました。毎月ないし2か月に1回程度の頻度でレポートを2年間送付し、ランダム化比較試験と呼ばれる頑健な効果検証の手法により、レポートを送付していない世帯と比較した結果、平均で約2%のCO2削減効果が統計的有意に実証されました。

ナッジの活用を終了した後の効果の持続について検証したところ、上記のいずれの実証においても1年後に効果が持続していることが確認されました。

ナッジを盛り込んだ省エネレポート(ホームエネルギーレポート)

2 住居

消費ベースで見た我が国のライフサイクル温室効果ガス排出量において、住居からの排出は全体の18%を占め(図3-2-1)、民間の固定資本形成に次いで高いとの報告があります。住居でのエネルギー利用を見直し、家にいる時間をより快適にするとともに、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、家庭のCO2排出量削減、住宅分野の脱炭素化は重要と言えます。

(1)三省連携による住宅の省エネリフォームへの支援強化

2030年度目標の達成、及び2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、住宅の脱炭素化を後押ししていくことが重要です。そこで、前述の通り、環境省、経済産業省及び国土交通省は住宅の省エネリフォーム等に関する新たな補助制度をそれぞれ創設し、ワンストップで利用可能とするなど、連携して支援を行います。

(2)「みんなでおうち快適化チャレンジ」

コロナ禍において、家庭で過ごす時間が増え、世帯当たりのエネルギー消費量に増加傾向が見られます。これらを踏まえると、「おうち時間」に焦点を当てて、新たな日常の脱炭素化を進める必要があります。

環境省では、2021年8月からは夏季、11月からは冬季の「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンを展開しています(図3-2-4)。本キャンペーンでは、在宅時間の増加による住宅での冷暖房使用等による家庭でのエネルギー消費の大きくなるタイミングを捉え、家庭の省エネ対策としてインパクトの大きい、ZEH(ゼッチ)化・断熱リフォームを「みんなでエコ住宅チャレンジ」として、省エネ家電への買換えを「みんなで省エネ家電チャレンジ」として、関係省庁及び関係業界等と連携して呼び掛け、国民一人一人の行動変容を促していくことにより、脱炭素で快適、健康、お得な新しいライフスタイルを提案しています。

図3-2-4 キャンペーンロゴ
(3)再生可能エネルギー電力への切換え

家庭での再生可能エネルギー使用には、太陽光発電設備等を自宅に設置する以外にも、家庭で使用する電力を再生可能エネルギー由来のものにする方法があります。

現在、全国では、複数の小売電気事業者が太陽光や風力等の再生可能エネルギー由来の電力メニューを一般家庭向けに提供しています。再生可能エネルギー由来の電力メニューを選択する家庭が増えることにより、家庭部門からの排出削減に加え、再生可能エネルギーに対する需要が高まり、市場の拡大を通じて再生可能エネルギーの更なる普及拡大につながることが期待されます。環境省では、再生可能エネルギー電気使用の導入方法や事例を紹介する「再エネ スタート」キャンペーンを実施しています。

再生可能エネルギー電気を選択する家庭を増やすための地方公共団体による支援も広がっています。電力切替え希望者を広く募ってまとめて発注したり、競り下げ方式の入札で契約事業者を決定したりすることで、個別の契約よりも安い料金で契約できる取組等も行われています。

3 移動

消費ベースで見た我が国のライフサイクル温室効果ガス排出量において、移動からの排出は全体の11%を占めるとの報告があり(図3-2-1)、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、住居と同様に温室効果ガス排出量を削減することは重要です。自動車の電動化については、政府として2035年までに新車販売の電動車100%を実現する方針を掲げました。この目標に向けて、地域の自動車サプライチェーンに携わる方々が前向きに取り組んでいけるよう、積極的に支援するとしています。

再生可能エネルギー電力と電気自動車(EV)等を活用したドライブを「ゼロカーボン・ドライブ(ゼロドラ)」と名付け、家庭や地域、企業におけるゼロドラの取組を応援しています。2021年度に引き続き、2022年度補正予算では、公用車・社用車を率先して再生可能エネルギー発電設備の導入とセットで電動化し、さらに地域住民の足として利用可能なカーシェアリングに供する取組を支援する事業を盛り込みました(図3-2-5)。

図3-2-5 ゼロドラのロゴマーク

4 食

消費ベースで見た我が国のライフサイクル温室効果ガス排出量において、食からの排出は全体の11%を占めるとの報告があり(図3-2-1)、食と環境は密接に関係しています。大量の食品ロスはもったいないだけでなく、廃棄には多くのコストがかかります。また、食料の調達から生産、加工・流通、消費においては多くのCO2を排出していることから、食品ロスの削減は環境負荷の低減のためにも重要です。

また、食品や農林水産物の持続的な生産消費が重要であり、農林水産省、環境省、消費者庁は「あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」を実施しています。これは、2030年のSDGs達成を目指し、今だけでなく次の世代も豊かに暮らせる未来を創るべく立ち上げられたプロジェクトです。2023年3月末時点で、178社・団体等が参画しており、プロジェクトメンバー間の協働により、食分野における持続可能な生産消費の促進に取り組んでいます。また、食や農林水産業に関わる持続可能な生産・サービス・商品を扱う地域・生産者・事業者の取組を広く国内外に発信することを目的として「サステナアワード2022 伝えたい日本の“サステナブル”」では各取組動画を表彰し、発信しています(写真3-2-6)。

写真3-2-6 地域・生産者・事業者の取組動画を表彰する「サステナアワード2022表彰式」にて環境大臣賞を授与する国定勇人環境大臣政務官
(1)「てまえどり」

食品産業から発生する食品ロスを削減するためには、食品事業者における取組のみならず、消費者による食品ロス削減への理解と協力が不可欠です。消費者が買い物をする際、購入してすぐに食べる場合などは、商品棚の手前にある商品等、販売期限の迫った商品を選ぶ「てまえどり」をすることは、販売期限が過ぎて廃棄される食品ロスを削減する効果が期待できます。

環境省は、消費者庁、農林水産省、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会と連携して、食品ロス削減月間(10月)に合わせて「てまえどり」の呼びかけを行いました(図3-2-6)。また、2022年12月にはユーキャン新語・流行語大賞トップ10に選出されるなど「てまえどり」の普及・認知が進んでいます。

図3-2-6 てまえどり
(2)様々な食品ロス削減の工夫

本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品、いわゆる「食品ロス」の量は2020年度で約522万トンでした。食品ロス削減のため、環境省は、消費者庁、農林水産省及び全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会と共に、2022年12月から2023年1月まで、「おいしい食べきり」全国共同キャンペーンを実施し、食品ロス削減の普及啓発を行いました。外食時には、残さず食べきることが大切ですが、どうしても食べきれない場合には自己責任の範囲で持ち帰る「mottECO(モッテコ)」に取り組む活動の普及啓発を実施しています(図3-2-7)。また、環境省、消費者庁では、食品ロスの削減に先駆的に取り組み、国民運動をけん引する団体等を対象に「令和4年度食品ロス削減推進表彰」を実施しました。企業、団体、学校、個人など様々な主体から計128件の応募があり、環境大臣賞には株式会社クラダシによる「農家の未収穫ロス削減をサポートし、地方創生を実現するエコシステム『クラダシチャレンジ』」、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)賞には特定非営利活動法人eワーク愛媛による「愛媛県地域循環型食品ロス削減ネットワークによる食品ロス削減推進」が選ばれました。

図3-2-7 mottECOのロゴ

コラム:森里川海アンバサダー(食チーム)と連携したライフスタイルシフトの情報発信事例

自然資源(森里川海)を豊かに保ち、その恵みを支える社会づくりの普及啓発をするため、環境省は森里川海プロジェクトアンバサダーを任命し、アンバサダーと連携したライフスタイルシフトを提案する情報発信を行っています。2022年度はアンバサダーが衣食住等チームに分かれて、それぞれ情報発信しました。

食チームは、「私たちの体をつくっている食の見直しと持続可能な暮らし方」をテーマに、一人一人がライフスタイルシフトを意識する事によって環境にどのような好影響を与えるのか、SNS等による情報発信及び3回のワークショップを開催しました。第1回目は千葉県鴨川自然王国にて、半農半歌手であるアンバサダーのyaeさんを中心に「食・農・生物多様性」のつながりについて、第2回目は上智大学にて、アンバサダーの清水弘美さんを中心に「オーガニックな給食等について」の意識啓発交流イベントを開催しました。第3回目は、プラントベースフード(植物由来食品)を提供する店舗にて、学生等と地元産品の普及、有機農業の活性化等をテーマに議論しました。

第2回目ワークショップの様子

5 ファッション

ファッション産業は、世界全体で水を大量に消費し、温室効果ガスを大量に排出するなど、近年、環境負荷が大きい産業と指摘されるようになりました。また、生産過程における労働環境の不透明性も課題とされています。経済産業省の「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」によると、我が国の衣料品の約98%が輸入であり、このような環境負荷と労働問題の大部分が海外で発生しています。2022年度に環境省が実施した調査では、1年間に新たに国内に供給される量の約92%が使用後に手放され、約64%はリユースもリサイクルもされずに廃棄されています。このような現状を変革するため、サステナブルファッションの推進が求められています。我が国においても、適正な在庫管理とリペア・アップサイクル等による廃棄の削減、回収から製品化までのリサイクルの仕組みづくり等の企業の取組が進んでいます。加えて、2021年8月に個社では対応が難しい課題に業界横断的に取り組むための組織として「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」が設立されました。JSFAには、正会員・賛助会員合わせて57社(2023年3月時点)が参加しており、2050年目標として「ファッションロスゼロ」と「カーボンニュートラル」を掲げ、知見の共有、生活者とのコミュニケーション、政策提言の検討等を行っています。政府においても、2021年8月に消費者庁、経済産業省、環境省による「サステナブルファッションの推進に向けた関係省庁連携会議」を立ち上げ、政府一丸となって取り組む体制を構築しました。さらに、経済産業省と環境省は、2023年1月に「繊維製品における資源循環システム検討会」を立ち上げ、繊維製品の資源循環に関する課題解決に向けた検討を開始しています。

消費者庁は消費者向けの啓発及び人材育成、経済産業省は繊維リサイクル等の技術開発の支援及び環境配慮設計のあり方の検討、環境省は企業と家庭から排出される衣類の量及び回収方法の現状把握を行う等、各省庁の視点から関連する取組を進めています。

(1)ファッションと環境の現状
ア 海外で生まれ我が国で消費される服の一生

我が国で売られている衣料品の約98%は海外からの輸入品です。海外で作られた衣料品は我が国に輸送され、販売・利用されて、回収・廃棄されます。こうした原材料の調達、生地・衣服の製造、そして輸送から廃棄に至るまで、それぞれの段階で環境に負荷が生じています。海外における生産は、数多くの工場や企業によって分業されているため、環境負荷の実態や全容の把握が困難な状態となっています。

イ 生産時における産業全体の環境負荷(原材料調達から店頭に届くまで)

私たちが店頭で手に取る一着一着の洋服、これら服の製造プロセスではCO2 が排出されます。また、原料となる植物の栽培や染色などで大量の水が使われ、生産過程で余った生地などの廃棄物も出ます。服一着を作るにも多くの資源が必要となりますが、大量に衣服が生産されている昨今、その環境負荷は大きくなっています。

ウ 1人あたり(年間平均)の衣服消費・利用状況

手放す枚数よりも購入枚数の方が多く、一年間一回も着られていない服が一人あたり35着もあります。

エ 手放した後の服の行方

生活者が手放した服がリユース・リサイクルを通じて再活用される割合の合計は約34%となっており、年々その割合は高まってきていますが、まだまだ改善の余地はありそうです。

オ 捨てられた服の行方

家庭から服がごみとして廃棄された場合、再資源化される割合は5%程でほとんどはそのまま焼却・埋め立て処分されます。その量は年間で約44.5万トン。この数値を換算すると大型トラック約120台分を毎日焼却・埋め立てしていることになります。

(2)ファッションと環境へのアクション

サステナブルファッションを実現していくためには、環境配慮製品の生産者を積極的に支援するとともに、生活者も一緒になって、「適量生産・適量購入・循環利用」へ転換させていくことが大切です。具体的には、以下の5つのアクションが挙げられます。まずはできることからアクションを起こしていくことが大切です。

[1]服を大切に扱い、リペアをして長く着る

[2]おさがりや古着販売・購入などのリユースでファッションを楽しむ

[3]可能な限り長く着用できるものを選ぶ

[4]環境に配慮された素材で作られた服を選ぶ

[5]店頭回収や資源回収に出して、資源として再利用する

コラム:2025年日本国際博覧会

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をメインテーマとし、ポストコロナ時代の新たな社会像を提示していくことを目指しています。また、「未来社会の実験場」というコンセプトのもと、会場を多様なプレイヤーによる共創の場とすることにより、イノベーションの誘発や社会実装を推進しようとしています。

本コンセプトの具体化に向け、各府省庁の予算要求等を踏まえた現時点の取組・検討状況についてまとめた、「2025年大阪・関西万博アクションプランVer.3」が2022年12月に公表されました。同アクションプランにおいては、再エネ水素を使ったメタネーション実証事業の実施、カーボンニュートラルに向けた地域脱炭素の取組の発信、会場内での資源循環に関する支援、海洋プラスチックごみ対策の発信、日本の国立公園の魅力の発信などといった取組が盛り込まれています。環境省では引き続き、大阪・関西万博に向け、環境分野の取組について発信してまいります。