環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第4節 1.5℃に向けて

第4節 1.5℃に向けて

2021年4月、米国主催の下で気候サミットが開催されました。同サミットは、各国に対し、更なる気候変動対策を求め、国際社会の機運を高めることを目的とし、約40の国・地域の首脳級が参加しました。

2020年10月、我が国は、「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言するとともに、2021年4月、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な2030年度の新たな削減目標を表明しました。我が国を含め、2021年に120を超える国と地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明し、気候変動対策の国際交渉、国際会合を行っています。第4節では、気候変動に関する国際的な施策の動向として、各国際交渉、国際会合の内容について紹介します。

1 G7・G20における議論

我が国を含む主要先進7か国は、2021年6月のG7コーンウォール・サミットにおいて、世界的な気温上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ続けるための努力を加速すること、このため遅くとも2050年までのネット・ゼロ(温室効果ガスの排出実質ゼロ)にコミットすることで一致するとともに、排出削減が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を2021年末までに終了することにコミットしました。さらに、新興国を含むG20でも、2021年10月のローマ・サミットにおいて、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ続けるために、長期的な野心と短・中期的な目標とを整合させる明確な国別の道筋の策定を通じ、全ての国による意味のある効果的な行動及びコミットメントが必要であることを確認しました。

2 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)

2021年10月から11月に英国・グラスゴーで開催されたCOP26では、パリ協定を採択した2015年のCOP21以降初めてのCOPでの首脳級会合となる、世界リーダーズ・サミットが開催されました。同サミットには、我が国から岸田文雄内閣総理大臣が出席し、スピーチを行いました(写真1-4-1)。

写真1-4-1 COP26世界リーダーズ・サミットでスピーチを行う岸田文雄内閣総理大臣

岸田文雄内閣総理大臣からは、2030年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、全ての締約国に野心的な気候変動対策を呼びかけたほか、新たな2030年温室効果ガス削減目標、途上国に対する今後5年間での最大100億ドルの追加支援の用意及び適応支援の倍増の表明、グリーンイノベーションの推進等、我が国の気候変動分野での取組の発信を行いました。

COP26では、全体決定として、最新の科学的知見に依拠しつつ、パリ協定に定められた1.5℃に向け、今世紀半ばのカーボンニュートラル及びその経過点である2030年に向けて野心的な気候変動対策を締約国に求める内容のほか、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓(てい)減(フェーズダウン)及び非効率な化石燃料補助金からのフェーズアウトを含む努力を加速すること、先進国に対して、2025年までに途上国の適応支援のための資金を2019年比で最低2倍にすることを求める内容が盛り込まれました。

また、COP25において検討を継続することとされていたパリ協定第6条に基づく市場メカニズムの実施指針が交渉の結果、合意され、パリルールブックが完成しました。同実施指針のうち、二重計上の防止については、我が国が打開策の一つとして提案していた内容(政府承認に基づく二重計上防止策)がルールに盛り込まれ、今回の合意に大きく貢献しました。その他、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標に向けた取組の進捗・達成状況等の報告制度)、国が決定する貢献(NDC)実施の共通の期間(共通時間枠)、気候資金等の重要議題でも合意に至り、パリ協定のルール交渉から目標達成に向けた本格的な実施へと、新しいステージへの移り変わりを告げる歴史的なCOPとなりました。山口壯環境大臣は、主要国大臣と10か国・地域の閣僚級及び代表と二国・二者間会合を行い、合意に向けた提案や議論をしたほか、閣僚級会合でも我が国としての主張を展開するなど、精力的に交渉を行いました(写真1-4-2)。

写真1-4-2 クロージング・プレナリーで今後の気候変動対策について述べている山口壯環境大臣

さらに、今回のCOP26では、産業、土地利用、エネルギー、資金、海運等々の部門において、有志国や関係者が実施約束(プレッジ)をしてさらなる排出削減を加速させる、一種の協調行動を促すプログラムが盛り込まれました。

そのほか、会場内に設置した「ジャパン・パビリオン」においては、12の企業・団体による脱炭素技術等の展示及び31件のセミナーの開催等を通して、国内外の脱炭素移行に資する技術や取組を積極的に発信し、我が国による脱炭素に向けた取組をアピールしました(写真1-4-3)。さらに、我が国のCOPにおける初めての試みとして、ウェブサイト上で「ヴァーチャル・ジャパン・パビリオン」を開設し、計33の企業・団体が展示やプレゼンテーションを行いました。

写真1-4-3 COP26の会場内に設置した「ジャパン・パビリオン」の様子

コラム:COP26をきっかけとした世界の動き

パリ協定のルール交渉から目標達成に向けた本格的な実施へと、新しいステージへの移り変わりを告げる歴史的なCOPとなったCOP26は、政府だけでなく、地方公共団体、民間事業者等のあらゆるセクターが自主的に目標を設定して取組を加速化させる共同声明がなされました。

例えば、「COP26 DECLARATION ON ACCELERATING THE TRANSITION TO 100% ZERO EMISSIOIN CARS AND VANS」は、主要市場で2035年、世界全体で2040年までに販売される全ての新車を電気自動車(EV)等のゼロエミッション車とすることを目指す共同声明です。

イギリスやカナダ等の28か国は、遅くとも2040年(主要市場では2035年)までに販売される全ての新車をゼロエミッション車とすること、ニューヨークやサンフランシスコ等の45の地方公共団体は、遅くとも2035年までに所有またはリースで使用している車両をゼロエミッション車にする、また、権限が及ぶ範囲でゼロエミッション車の導入を政策的に支援すること、メルセデス・ベンツやフォード、ゼネラルモーターズ等の自動車メーカー11社や投資機関等は、主要市場において遅くとも2035年までに全ての新車販売をゼロエミッション車とすることを表明しています。

3 パリ協定6条(市場メカニズム)の実施拡大に向けて

COP26でパリ協定6条ルールが合意されたことにより、今後は同6条メカニズムの世界的な実施拡大を通じた排出削減の進展が重要となっていきます。

世界に先駆けて二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)を実施してきた我が国として、6条ルールの合意を踏まえ、環境省は主に3つのアクションに着手していきます。1つ目は、JCMのパートナー国の拡大、そしてアジア開発銀行、世界銀行、国連工業開発機関(UNIDO)などの国際機関と連携した案件の形成・実施の強化です。現状の17のパートナー国に加えてインド太平洋を重点地域として新たなパートナー国を得るべく、関係国との交渉を加速化していきます。また、COP27がエジプトで開催されるということも踏まえ、アフリカにおけるJCMの実施も強化していきます。2つ目は、民間資金を中心としたJCMの拡大です。これまでは政府資金を中心として、JCMプロジェクトを形成してきましたが、民間企業においてJCMを通じた国際的な排出量取引市場への関心が高まっていることも踏まえ、経済産業省等の関係省庁と共に、民間資金を中心としたJCMプロジェクトの形成に向けた検討を行っていきます。3つ目は、市場メカニズムの世界的拡大への貢献です。国連気候変動枠組条約の地域協力センターあるいは世界銀行と連携して、政府内の体制構築支援、あるいは実施プロジェクトによる削減量算定等に必要な技術支援などを行っていきます。これに関連して、2022年2月及び3月にパリ協定6条の市場メカニズムの実施拡大に向けた理解促進と能力向上に関する「パリ協定6条国際会議」を主催しました。山口壯環境大臣はオンラインで参加し、100か国以上、約1,000名の参加者とともに、各国政府関係者及び関係事業者等の具体的な体制整備や能力構築を促進するためにJCMや他の既存の取組の経験などの共有や市場メカニズムの利用に係る各国政府等の先進的な取組などをもとに議論しました。我が国はこの議論の結果を踏まえ、アジア太平洋地域を対象に、政府職員や事業者の能力構築支援、6条報告に関する相当調整を含めたトレーニング等の展開を行っていくこととなりました(写真1-4-4)。

写真1-4-4 第1回パリ協定6条国際会議で冒頭挨拶する山口壯環境大臣

4 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、Glasgow Financial Alliance for Net Zero(GFANZ)

COP26開催のタイミングに合わせて、金融の分野で大きな二つの動きがありました。そのうちの一つがGlasgow Financial Alliance for Net Zero(GFANZ)の発足です。GFANZはネットゼロへの移行を目的として設立された銀行、保険、アセットオーナー、運用機関等の7つの金融イニシアティブの連合体です。2021年4月、前イングランド銀行総裁、国連気候変動問題担当特使であるマーク・カーニー氏が設立を表明し、同年11月に正式に発足しました。世界45か国の450社を超える金融機関が加盟しており、資産規模は約1京4,800兆円に及びます。参加機関は科学的根拠に基づいたガイドラインにより2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを達成することや、30年の中間目標を設定すること、透明性の高い開示を行うこと等が義務付けられており、日本の金融機関もGFANZの構成イニシアティブに多く加盟しています。

もう一つの大きな動きが、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立です。国際会計基準(IFRS)の設立主体であるIFRS財団が、COP26の開催に合わせ、国際的なサステナビリティ基準を設定するために立ち上げた審議会です。今後の動きとして、まずは気候変動に関する情報開示の国際基準を策定することが見込まれています。日本国内でも、ISSBに対する意見発信のための体制整備を進めるなど、金融庁が関係省庁と連携して取り組んでいます。