環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 1.5℃に向けて>第1節 世界の気象災害・我が国の気象災害と経済的影響

第1章 1.5℃に向けて

「気候危機」とも言われている気候変動問題は、私たち一人一人、この星に生きる全ての生き物に結びついた、避けることができない喫緊の課題です。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)のグラスゴー気候合意では、「気候変動及び生物多様性の損失という相互に結びついた世界全体の危機、並びに自然及び生態系の保護、保全及び回復が、気候変動への適応及び緩和のための利益をもたらすにあたり重要な役割を果たす」と述べられています。

世界的にも平均気温の上昇、雪氷の融解、海面水位の上昇が観測されており、我が国においても、平均気温の上昇、大雨、台風等による被害、農作物や生態系への影響等が観測されています。2021年8月に公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第I作業部会報告書政策決定者向け要約」によると、極端な高温、海洋熱波、大雨の頻度と強度の増加などを含む気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大すると報告され、地球温暖化を抑えることが極めて重要であることが確認されました。

パリ協定で示された産業革命以前に比べて世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標は、COP26のカバー決定にも盛り込まれました。IPCCの「1.5℃特別報告書」において、気温上昇を約1.5℃に抑えるためには、2030年までに2010年比で世界全体のCO2排出量を約45%削減することが必要という知見が示されたため、世界各国は様々な問題に立ち向かいつつ、できるだけ早く、できるだけ大きく排出量を減らす取組を加速的に進めています。

第1節 世界の気象災害・我が国の気象災害と経済的影響

1 近年の国内外の気象災害

個々の気象災害と地球温暖化との関係を明らかにすることは容易ではありませんが、地球温暖化の進行に伴い、今後、豪雨や猛暑のリスクが更に高まることが予想されます。第1節では、近年の主な気象災害等の状況について振り返ります。

(1)世界の気象災害

世界気象機関(WMO)や気象庁の報告によれば、2021年も世界各地で様々な気象災害が見られました。

米国やカナダでは6、7月に高温が続き、6月の米国本土の月平均気温は1895年以降で最も高くなりました。また、米国やカナダでは多数の大規模な山火事が発生しました(写真1-1-1)。

写真1-1-1 米国カリフォルニア州の山火事

欧州では、7月中旬の大雨により広範囲で洪水が発生しました。ドイツ西部のリューデンシャイトでは、14日の1日間で、7月の平年の月降水量の約1.5倍に相当する降水量を観測しました。多数の河川で極端な洪水が発生し、ドイツで179人、ベルギーで36人が死亡しました(写真1-1-2)。

写真1-1-2 欧州の大雨の洪水被害の様子
図1-1-1 2021年の世界各地の異常気象
(2)我が国の気象災害

2021年8月中旬から下旬には、日本付近に停滞している前線に向かって下層の暖かく湿った気流が流れ込み、前線の活動が非常に活発となった影響で、西日本から東日本の広い範囲で大雨となり、総降水量が多いところで1,400mmを超える記録的な大雨に見舞われました。特に8月12日から14日は九州北部地方と中国地方で線状降水帯が発生して記録的な大雨となりました。また、西日本日本海側と西日本太平洋側では、1946年の統計開始以降、8月として最多月降水量記録を更新しました(写真1-1-3)。

写真1-1-3 令和3年8月の大雨の被害の様子

この大雨により12名が犠牲となり、388件の土砂災害、26水系67河川で氾濫・浸食による被害が発生するなど(2021年9月2日時点)、各地で多くの被害が発生しました。

我が国では、長期的には極端な大雨の強さが増大する傾向が見られ、アメダス地点の年最大72時間降水量には、1976年以降、10年あたり3.7%の上昇傾向が見られます。

その背景要因として、地球温暖化による気温の長期的な上昇傾向に伴い、大気中の水蒸気量も長期的に増加傾向にあることが考えられています。

2 気象災害による経済的影響

気象災害は一たび起これば巨額の損害が発生する可能性があることから、気候変動問題は経済・金融のリスクと認識されるようになっています。国連防災機関(UNDRR)が2018年10月に発表した報告書(Economic Losses, Poverty & DISASTERS 1998-2017)では、1998年から2017年の直近20年間の気候関連の災害による被害額は2兆2,450億ドル(全体の被害額2兆9,080億ドルの77%)と報告されていますが、これは、1978年から1997年の20年間に生じた気候関連の災害による被害額8,950億ドル(全体被害額1兆3,130億ドルの68%)に比べて約2.5倍です。

また、スイス・リー・インスティテュートの2021年第1号シグマ調査誌及び最新の公表値によると、世界の1970年から2021年にかけての保険損害額の推移のうち気象に関連する大災害による保険損害額は増大しています(図1-1-2)。平均気温の上昇による熱波の長期化と頻度増加、山火事や干ばつ、より深刻な降雨などの2次的災害が顕著に現れ始めています。そして、災害による物的損害、事業中断、作物不足等が、保険金支払いの増加に影響が表れています。

図1-1-2 世界の大災害による保険損害額の推移

我が国においては、一般社団法人日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果(見込み含む)」の調べによると、平成30年度に損害保険会社の主な自然災害の保険金支払額が、平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年台風第24号の自然災害によって過去最高額でした(図1-1-3)。平成30年7月豪雨では、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方など多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位となるなど、広い範囲における長時間の記録的な大雨となり、6,783件の全壊、1万1,342件の半壊など5万800件の住家被害が確認されています。

図1-1-3 我が国の近年の風水害等による支払保険金額

風水災害等による過去の支払保険金の金額は、平成後半以降に起こった災害が上位を占めています。

3 気候変動の状況とその影響

(1)世界の温室効果ガス排出量

国連環境計画(UNEP)の「Emissions Gap Report 2021」によると、2019年の世界の人為起源の温室効果ガスの総排出量は、全体でおよそ581億トン(図1-1-4)、2020年の世界の温室効果ガス全体の排出量のデータはレポート公表時点では存在しないものの、世界の化石燃料由来のCO2排出量は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、2020年には前年から5.4%と今までになく減少したとされています。一方、2021年には強いリバウンド傾向が予測され、予備的な推計では、2019年よりわずかに少ない程度まで排出量が増加すると見られています。また、同報告書では、2020年は排出量が減少したものの、大気中の温室効果ガス濃度は上昇が続いていて、気候変動問題の解決のためには、速やかで持続的な排出削減が必要と述べています。

図1-1-4 世界の温室効果ガス排出量
(2)我が国の温室効果ガス排出量

我が国の2020年度の温室効果ガス排出量(確報値)は、11億5,000万トン(CO2換算)であり、2014年度以降、7年連続で減少しています(図1-1-5)。その要因としては、エネルギー消費量の減少(省エネ等)や、電力の低炭素化(再エネ拡大、原発再稼働)等が挙げられます。また、前年度の総排出量(12億1,200万トンCO2)と比べて、5.1%(6,200万トンCO2)減少しており、その要因としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴うエネルギー消費量の減少が示唆されます。2020年度の森林等吸収源によるCO2の吸収量は約4,450万トンCO2で、森林等吸収源を引くと、11億600万トンCO2で、2013年度の総排出量(14億900万トンCO2)と比べて、21.5%減少となりました。

図1-1-5 7年連続で減少している我が国の温室効果ガス排出量

我が国の温室効果ガス排出量を生産ベースで見ると、主な家計関連に関する排出量の内訳は、冷暖房・給湯、家電の使用等の家庭におけるエネルギー消費によるものが中心となり、我が国全体の排出量のうち家計関連の占める割合は小さくなります(図1-1-6)。なお、生産ベースとは、日本国内で発生した排出量を指しており、発電や熱の生産に伴う排出量については、その電力や熱の消費者からの排出として算定した電気・熱配分後の排出量を指します。

図1-1-6 生産ベースから見た我が国の温室効果ガス排出源の内訳

4 気候変動及び気象災害を発端とする農林水産業への影響

近年、農産物や水産物などの高温による生育障害や品質低下、観測記録を塗り替える高温、豪雨、大雪による大きな災害が、我が国の農林水産業・農山漁村の生産や生活の基盤を揺るがしかねない状況となっています。

気候変動は、作物の生育や栽培適地の変化、病害虫・雑草の発生量や分布域の拡大、家畜の成長や繁殖、人工林の成長、水産資源の分布や生残に影響を及ぼし、食料や木材の供給や農林水産業に従事する人々の収入や生産方法に影響を及ぼします。このような影響は、気温や水温、CO2濃度の上昇といった直接的な原因によるものと、水資源量の変化や自然生態系の変化を介した間接的な原因によるものがあります。また、農林水産分野における気候変動の影響は、商業、流通業、国際貿易等にも波及することから、経済活動に及ぼす影響は大きいものとされています。

農林水産省の「令和2年度食料・農業・農村白書」(2021年5月閣議決定)によると、我が国は近年、異常気象に伴う大規模な災害が多発し、2020年7月に発生した「令和2年7月豪雨」により、広範囲で河川の氾濫による被害が発生し、農林水産関係の被害額は、2,208億円でした。さらに、台風等による被害が発生したことから2020年発生の主な気象災害による農林水産関係の被害額は、2,473億円でした。このように気象災害は、農林水産業に大きな影響を与えていることがわかります。

コラム:私たちの生活への影響

農林水産業は気候変動の影響を受けやすく、近年温暖化による農産物や水産物の生育障害や品質低下等の影響が顕在化しています。「農林水産省気候変動適応計画」(2021年10月農林水産省策定)によると、水産業においては高水温によるホタテ貝の大量へい死、高水温かつ少雨傾向の年におけるカキのへい死が報告されています。養殖ノリでは、秋季の高水温により種付け開始時期が遅れ、年間収穫量が各地で減少し、魚類による食害も報告されています。また、同計画に基づく取組の一環として、「令和2年地球温暖化影響調査レポート」(2021年8月農林水産省公表)では、各都道府県の協力を得て、地球温暖化の影響と考えられる農業生産現場での高温障害等の影響、その適応策等を取りまとめています。一部、現時点で必ずしも地球温暖化の影響と断定できないものもありますが、将来、地球温暖化が進行すれば、これらの影響が頻発する可能性があることからレポートの対象として取り上げています。

コラムでは、例年から影響発生の報告が多い、農畜産物を紹介します。私たちが普段口にする身近な野菜や果物等へ影響することがわかります。

地球温暖化の影響と考えられる農業生産現場での高温障害等の影響及び適応策等一覧