環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第2節 科学的知見から考察する気候変動

第2節 科学的知見から考察する気候変動

1 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書について

IPCCでは、気候変動に関連する最新の科学的知見を報告書として公表しています。IPCCは、2021年8月に第6次評価報告書(AR6)の第I作業部会報告書(WG1)を公表しました。自然科学的根拠に関する同報告書では、気候変動の原因について、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」と、初めて明記されました。また、世界を46の地域に分けて分析が行われ、東アジアを含む多くの地域で極端な高温や大雨の頻度が増加したこと、多くの極端現象には人為的な影響があったこと、地球温暖化の進行に伴い今後も極端な高温や大雨等が起こるリスクが増加すること、報告書で考慮した全てのシナリオにおいて、世界平均気温は少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続けることなどが記載されています。

2022年2月には第6次評価報告書の第II作業部会報告書(WG2)が公表されました。影響・適応・脆(ぜい)弱性に関する同報告書では、「人為起源の気候変動は、極端現象の頻度と強度の増加を伴い、自然と人間に対して、広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を、自然の気候変動の範囲を超えて引き起こしている。」と記載され、人間が引き起こしている気候変動の影響について言及がされました。その他、気温上昇が一時的に1.5℃を超える場合は、超えない場合と比較して、多くの人間と自然のシステムがより深刻なリスクに直面すること、地球温暖化の進行に伴い、損失と損害が増加し、更に多くの人間と自然のシステムが適応の限界に達するであろうことなどが記載されています。

同年4月には第6次評価報告書の第III作業部会報告書(WG3)が公表されました。気候変動の緩和策に関する情報をまとめた同報告書では、「COP26より前に発表された国が決定する貢献(NDCs)の実施に関連する2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高い見込みである」ことや、「オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を1.5℃に抑える経路や2℃に抑える経路では、世界の温室効果ガスの排出量は、2020年から遅くとも2025年以前にピークに達すると予測される」ことなどが記載されています。

図1-2-1 1850年から1900年を基準とした世界平均気温の変化

コラム:ノーベル物理学賞受賞の眞鍋氏の研究

2021年10月、ノーベル物理学賞の受賞者に眞鍋淑郎氏が選ばれました。眞鍋氏は気候変動予測研究の第一人者であり、ノーベル物理学賞に地球物理学分野の研究者から選出されるのは初めてのことでした。眞鍋氏は40年以上前から、地球の大気や海洋の状態をコンピュータ上に表現する気候モデルの開発に尽力してこられました。気候モデルがあることによって、将来の地球環境がどのように変化するかなどを実験的に検証することが可能になりました。眞鍋氏の研究が、科学に立脚した気候変動対策の基盤となっています。眞鍋氏はIPCCの第1次評価報告書(1990年)等の執筆者として報告書の作成に従事されました。また、眞鍋氏の多数の論文が同報告書に引用されるなど気候変動の分野で多大な貢献をされています。

駐米スウェーデン大使(右)からノーベル賞のメダルを授与される眞鍋氏