環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

1 環境分野におけるイノベーションの推進

(1)環境研究・技術開発の実施体制の整備
ア 環境研究総合推進費

環境省では、環境研究総合推進費において、環境政策への貢献をより一層強化するため、環境省が必要とする研究テーマ(行政ニーズ)を明確化し、その中に地方公共団体がニーズを有する研究開発テーマも組み入れました。また、気候変動に関する研究のうち、各府省が関係研究機関において中長期的視点から計画的かつ着実に実施すべき研究を、地球環境保全等試験研究費により効果的に推進しました。

イ 環境省関連試験研究機関における研究の推進

(ア)国立水俣病総合研究センター

国立水俣病総合研究センターでは、水俣病発生の地にある国の直轄研究機関としての使命を達成するため、水俣病や環境行政を取り巻く社会的状況の変化を踏まえ、2015年4月に今後5年間の実施計画「中期計画2015」を策定しました。「中期計画2015」における調査・研究分野とそれに付随する業務に関する重点項目は、[1]メチル水銀の健康影響、[2]メチル水銀の環境動態、[3]地域の福祉向上への貢献、[4]国際貢献とし、中期計画5年目の研究及び業務を推進しました。

特に、地元医療機関との共同による脳磁計(MEG)・磁気共鳴画像診断装置(MRI)を活用したヒト健康影響評価及び治療に関する研究、メチル水銀中毒の予防及び治療に関する基礎研究を推進するとともに、国内外諸機関と連携し、環境中の水銀モニタリング及び水俣病発生地域の地域創生に関する調査・研究を進めました。

水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)締結を踏まえ、水銀分析技術の簡易・効率化を進め、分析精度向上に有効となる標準物質の作成と配布、開発途上国に対する技術移転及び環境影響調査のために研究者の派遣を行うとともに、国際学会においてメチル水銀研究者との研究会議「NIMD FORUM」を主催するなどの国際貢献を進めました。

国外の研究者を受け入れて水銀分析技術を中心とした研修を実施するなど、WHO研究協力センターとしての役割を果たしました。

また、クジラ多食地域におけるメチル水銀ばく露と健康影響に関する調査・研究を、和歌山県太地町にて2008年から長期にわたり実施してきました。比較的高ばく露であっても健康影響はみられないとの結果を報告し、本調査・研究を終了しました。

これらの施策や研究内容について、国立水俣病総合研究センターウェブサイト上で具体的かつ分かりやすい情報発信を実施しました。

水俣条約の締結を踏まえた国内外の動向に則した調査・研究の推進を図る今後5か年の計画となる「中期計画2020」の策定に向けた検討を行いました。

(イ)国立研究開発法人国立環境研究所

国立研究開発法人国立環境研究所では、環境大臣が定めた第4期中長期目標(2016年度~2020年度)と第4期中長期計画が2016年度から開始されました。これらに基づき、環境研究の中核的研究機関として、[1]推進戦略で提示されている重点的に取り組むべき課題への統合的な研究、[2]環境の保全に関する科学的知見の創出等、[3]国内外機関とのネットワーク・橋渡しの拠点としてのハブ機能の強化及び[4]研究成果の積極的な発信と政策貢献・社会貢献を推進しました。

特に、[1]では、推進戦略の領域と一致する「低炭素」、「資源循環」、「自然共生」、「安全確保」及び「統合」の5つの課題解決型プログラムと、東日本大震災等の災害と環境に関する研究として環境回復、環境創生、災害環境マネジメントの三つの災害環境研究プログラムに取り組んでいます。加えて、2018年12月に施行された気候変動適応法(平成30年法律第50号)に関連する業務を開始しました。さらに、環境の保全に関する国内外の情報を収集、整理し、環境情報メディア「環境展望台」によってインターネット等を通じて広く提供しました。

ウ 各研究開発主体による研究の振興等

文部科学省では、科学研究費助成事業等の研究助成を行い、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究・基礎研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を図るとともに、関連分野の研究者の育成を行いました。あわせて、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所における「Future Earth」等の国際共同研究を通じた人文学・社会科学を含む分野横断的な課題解決型の研究の振興により、SDGsの進展に貢献しました。

地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動を推進しました。これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、環境省では、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するとともに、全国環境研協議会と共催で環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図りました。

(2)環境研究・技術開発の推進

環境省では、地球温暖化対策に関しては、新たな地球温暖化対策技術の実用化・導入普及を進めるため、「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」において地下街や駅等の屋外開放部を持つ空間における人流・気流センサを用いた省エネにつながる空調制御手法の開発や、電力消費量が大きい上水道施設対策に必要な高効率・低コストの管水路用水力発電技術の開発など、全体で45件の技術開発・実証事業を実施しました。また、ライフスタイルに関連の深い多種多様な電気機器(照明、パワコン、サーバー等)に組み込まれている各種デバイスを、高品質GaN(窒化ガリウム)半導体素子を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を2014年度より実施中です。2019年度までに、GaNインバータの基本設計を完了し、GaNインバータをEV車両に搭載した超省エネ電気自動車(AGV)を開発し、世界で初めて駆動に成功しました。AGVは東京モーターショー2019にて初公開し、多数メディアにも掲載されました。そのほかに、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)技術の導入に向けて、火力発電所排ガスからCO2分離回収を行う場合の環境影響の検討等を行いました。

文部科学省では、徹底した省エネルギー社会の実現のため、電力消費の大幅削減を可能とする窒化ガリウム(GaN)等を活用した次世代半導体に係る研究開発を推進しました。また、先端的低炭素化技術開発(ALCA)において、2030年の社会実装を目指し、低炭素社会の実現に貢献する革新的な技術シーズ及び実用化技術の研究開発を推進するとともに、リチウムイオン蓄電池に代わる革新的な次世代蓄電池等の世界に先駆けた革新的低炭素化技術の研究開発を推進しました。さらに、未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域において、2050年の社会実装を目指し、抜本的な温室効果ガス削減に向けた従来技術の延長線上にない革新的エネルギー科学技術の研究開発を推進しました。加えて、未来社会創造事業大規模プロジェクト型においては、省エネ・低炭素化社会が進む未来水素社会の実現に向けて、高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の開発を、また、Society 5.0の実現に向けて、センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術の開発を推進しました。

省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、クリーンコールテクノロジー、分離回収したCO2を地中へ貯留するCCSに関わる技術開発を実施しました。

大型車の低炭素化等に資する革新的技術を早期に実現するため、産学官連携のもと、電動化技術や内燃機関の高効率化といった次世代大型車関連の技術開発及び実用化の促進を図るための調査研究を行いました。また、早期の社会実装を目指し、燃料電池小型トラックや電動バスの技術開発・実証等を行いました(上記「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」の一環)。

ア 中長期的なあるべき社会像を先導する環境分野におけるイノベーションのための統合的視点からの政策研究の推進

環境政策の経済・社会への影響・効果や両者の関係を分析・評価する手法及び環境・経済・社会が調和した持続可能な社会の進展状況を把握・評価するための手法等を確立することにより、経済・社会の課題解決にも貢献する環境政策に関する基礎的な分析・理論等の知見を得て、それらの成果を政策の企画立案等に活用することを目的とした環境経済の政策研究を実施しています。2018年度から「第IV期環境経済の政策研究」として、原則3年の研究期間を設け、9件の研究を行いました。

イ 統合的な研究開発の推進

第5期科学技術基本計画(計画年度:2016年度~2020年度)では、経済・社会が大きく変化し、国内、そして地球規模の様々な課題が顕在化する中で、我が国及び世界が将来にわたり持続的に発展していくために、「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」、「国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現」、「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」、「知の資産の持続的創出」の4つを「目指すべき国の姿」として定め、政策を推進しています。

第5期科学技術基本計画に基づき2020年7月に閣議決定した「統合イノベーション戦略2020」において、戦略的に取り組むべき応用分野の一つとして「環境エネルギー」分野を取り上げ、世界のカーボンニュートラル、さらには、過去のストックベースのCO2削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする革新的技術を2050年までに確立することや、パリ協定「2℃目標」の達成及び「1.5℃目標」への国際社会の一員としての貢献を目指すこと、2050年にできるだけ近い時期に「脱炭素社会」を実現等と明記し、関係府省庁、産官学が連携して研究開発から社会実装まで一貫した取組の具体化を図り推進していくこととしました。

内閣府では、2018年度から開始した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期の課題の一つとして「IoE社会のエネルギーシステム」を採択し、様々なエネルギーがネットワークに接続され、情報交換することにより相互のエネルギーの需給管理が可能となるIoE社会の実現のため、再生可能エネルギーが主力電源となる社会のエネルギーシステムのグランドデザインを検討するとともに、再生可能エネルギーを含む多様な入力電源に対して最適制御を可能とするユニバーサルスマートパワーモジュールや高効率・大電力で安全なワイヤレス電力伝送システム等の社会実装に向けて研究開発を進めています。

環境省では、第五次環境基本計画に基づき、今後5年間で取り組むべき環境研究・技術開発の重点課題やその効果的な推進方策を提示するものとして、環境研究・環境技術開発の推進戦略を策定することとしています。

総務省では、国立研究開発法人情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境のリモートセンシング技術や、環境負荷を増やさず飛躍的に情報通信ネットワーク設備の大容量化を可能にするフォトニックネットワーク技術等の研究開発を実施しています。

農林水産省では、農林水産分野における気候変動の影響評価、地球温暖化の進行に適応した生産安定技術の開発等について推進しました。さらに、これらの研究開発等に必要な生物遺伝資源の収集・保存や特性評価等を推進しました。また、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた被災地において、農業者が早期に、安心して営農を再開できるようにするため、除染後農地の地力を回復・向上させる技術開発、農作物の安全性を確保しつつ吸収抑制対策としてのカリ施肥の適正化を図る技術開発、省力的圃場管理技術の開発を行いました。さらに、森林・林業の再生を図るため、森林施業等に関する放射性物質対策技術の検証を行うとともに、木材製品等に係る放射性物質の調査・分析、木材製品等の安全を確保するための効果的な検査及び安全証明体制の構築を図りました。

経済産業省では、生産プロセスの低コスト化や省エネ化の実現を目指し、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノづくり技術の開発を実施したほか、バイオものづくりの製造基盤技術の確立に向けた実証事業に着手しました。

国土交通省では、地球温暖化対策にも配慮しつつ、地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策の実施に向けて、様々な対策の複合的な効果を評価できるシミュレーション技術の運用や、地球温暖化対策に資するCO2の吸収量算定手法の開発等を実施しました。低炭素・循環型社会の構築に向け、下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)等による下水汚泥の有効利用技術等の実証と普及を推進しました。

文部科学省では、希少元素や毒性元素の使用量の低減化に資する研究開発として、「元素戦略プロジェクト」を推進しました。

(3)環境研究・技術開発の効果的な推進方策
ア 各主体の連携による研究技術開発の推進

脱炭素社会に向けた国際研究ネットワーク(LCS-RNet)では、2020年度はコロナ禍により年次会合の開催は見合わせました。他方代替として2020年11月、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)にて、ネットワークの運営委員(フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国)による、COVID-19危機と気候変動がもたらす社会的・経済的影響についてのセッションを実施しました。このセッションでは、コロナ禍による社会的・経済的インパクトの大きさに言及しつつ、コロナ禍への対応・復興においては単にコロナ前の状況に戻るのではなく、これを気候変動やその他の環境課題への対策と結び付け、持続可能でレジリエントな社会への移行に向けてリデザイン(再設計)する機会として捉えるべきとの点が示されました。

世界適応ネットワーク(GAN)及びその地域ネットワークの一つであるアジア太平洋適応ネットワーク(APAN)を他の国際機関等との連携により支援しました。アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)を支援し、気候変動、生物多様性など各分野横断型研究に関する国際共同研究及びワークショップが開催され、アジア太平洋地域内の途上国を中心とする研究者及び政策決定者の能力向上に大きく貢献しました。

エネルギー・環境分野のイノベーションにより気候変動問題の解決を図るため、世界の学界・産業界・政府関係者間の議論と協力を促進する国際的なプラットフォーム「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」の第7回年次総会を2020年10月にオンラインで開催しました。

CO2大幅削減に向けた非連続なイノベーション創出を目的とした、G20の研究機関のリーダーによる「Research and Development 20 for Clean Energy Technologies(RD20)」の第2回会合をオンラインにより2020年10月に開催しました。

イ 環境技術普及のための取組の推進

先進的な環境技術の普及を図る環境技術実証事業では、気候変動対策技術領域、資源循環技術領域など計6領域を対象とし、対象技術の環境保全効果等を実証し、結果の公表等を実施しました。また、2016年11月に実証スキームが国際標準化されたことに伴い、国内体制の整備を実施しました。

ウ 成果の分かりやすい発信と市民参画

環境研究総合推進費及び地球環境保全等試験研究費に係る研究成果については、学術論文、研究成果発表会・シンポジウム等を通じて公開し、関係行政機関、研究機関、民間企業、民間団体等へ成果の普及を図りました。また、環境研究総合推進費ウェブサイトにおいて、研究成果やその評価結果等を公開しました。

地球温暖化対策技術開発・実証研究事業及びCO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業についても、環境省ウェブサイトにおいて成果及びその評価結果等を公開しているほか、2020年には環境省としては初めてとなるアワード型の技術開発実証の取組を行い、脱炭素社会構築に貢献するイノベーションの卓越したアイディアと、その迅速かつ着実な社会実装が期待できる確かな実績・実現力を有する者を表彰しました。

エ 研究開発における評価の充実

環境省では、環境研究総合推進費において2017年度に終了した課題を対象に追跡評価を行いました。

2 官民における監視・観測等の効果的な実施

(1)地球環境に関する監視・観測

監視・観測については、国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視計画(GAW計画)、全球気候観測システム(GCOS)、全球海洋観測システム(GOOS)等の国際的な計画に参加して実施しました。さらに、「全球地球観測システム(GEOSS)」を推進するための国際的な枠組みである地球観測に関する政府間会合(GEO)においては、執行委員会のメンバー国を務めるとともに、文部科学省は、GEO事務局と共に2021年3月に第13回アジア・オセアニアGEOシンポジウムを主催するなど、112の国とEC、134の国際機関(2021年3月時点)が参加するGEOの活動を主導しています。また、気象庁は、GCOSの地上観測網の推進のため、世界各国からの地上気候観測データの入電状況や品質を監視するGCOS地上観測網監視センター(GSNMC)業務や、アジア地域の気候観測データの改善を図るためのWMO関連の業務を、各国気象機関と連携して推進しました。

気象庁は、WMOの地区気候センター(RCC)を運営し、アジア太平洋地域の気象機関に対し基礎資料となる気候情報やウェブベースの気候解析ツールを引き続き提供しました。さらに、域内各国の気候情報の高度化に向けた取組と人材育成に協力しました。

温室効果ガス等の観測・監視に関し、WMO温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてアジア・南西太平洋地域における観測データの品質向上に関する業務を、さらにWMO全球大気監視較正センターとしてメタン等の観測基準(準器)の維持を図る業務を引き続き実施しました。超長基線電波干渉法(VLBI)や全球測位衛星システム(GNSS)を用いた国際観測に参画するとともに、験潮等と組み合わせて、地球規模の地殻変動等の観測・研究を推進しました。

東アジア地域における残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態把握のため、これら地域の国々と連携して大気中のPOPsについて環境モニタリングを実施しました。また、水俣条約の有効性の評価にも資する水銀モニタリングに関し、米国環境保護庁(EPA)等と連携してアジア太平洋地域の国を中心にワークショップ及び技術研修を開催し、地域ネットワークの強化に取り組みました。

大気における気候変動の観測について、気象庁はWMOの枠組みで地上及び高層の気象観測や地上放射観測を継続的に実施するとともに、GCOSの地上及び高層や地上放射の気候観測ネットワークの運用に貢献しています。

さらに、世界の地上気候観測データの円滑な国際交換を推進するため、WMOの計画に沿って各国の気象局と連携し、地上気候観測データの入電数向上、品質改善等のための業務を実施しています。

温室効果ガスなど大気環境の観測については、国立研究開発法人国立環境研究所及び気象庁が、温室効果ガスの測定を行いました。国立研究開発法人国立環境研究所では、波照間島、落石岬、富士山等における温室効果ガス等の高精度モニタリングのほか、アジア太平洋を含むグローバルなスケールで民間航空機・民間船舶を利用し大気中及び海洋表層における温室効果ガス等の測定を行うとともに、陸域生態系における炭素収支の推定を行いました。これら観測に対応する国際的な標準ガス等精度管理活動にも参加しました。また、気候変動による影響把握の一環として、サンゴや高山植生のモニタリングを行いました。気象庁では、GAW計画の一環として、温室効果ガス、クロロフルオロカーボン(CFC)等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線及び大気混濁度等の定常観測を東京都南鳥島等で行っているほか、航空機による北西太平洋上空の温室効果ガスの定期観測を行っています。さらに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中のCO2等の定期観測を実施しています。これらの観測データについては、定期的に公表しています。また、黄砂及び有害紫外線に関する情報を発表しています。

海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」や観測機器等を用いて、海洋の熱循環、物質循環、生態系等を解明するための研究、観測技術開発を推進しました。また、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、国際協力の下、海洋自動観測フロート約3,000個を全世界の海洋で稼働させ、地球規模の高度海洋監視システムを構築する「アルゴ(Argo)計画」を推進しました。南極地域観測については、南極地域観測第IX期6か年計画に基づき、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球環境変動の解明を目的とする各種研究観測等を実施しました。また、持続可能な社会の実現に向けて、北極の急激な環境変化が我が国に与える影響を評価し、社会実装を目指すとともに、北極における国際的なルール形成のための法政策的な対応の基礎となる科学的知見を国内外のステークホルダーに提供するため、北極域研究加速プロジェクト(ArCSII)を開始しました。

GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計により、地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また、国内の影響・リスク評価研究や地球温暖化対策の基礎資料として、温暖化に伴う気候の変化に関する予測情報を「日本の気候変動2020─大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書─」によって提供しており、情報の高度化のため、大気の運動等を更に精緻(ち)化させた詳細な気候の変化の予測計算を実施しています。

衛星による地球環境観測については、全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載の我が国の二周波降雨レーダ(DPR)や水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」搭載の高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)、気候変動観測衛星「しきさい(GCOM-C)」搭載の多波長光学放射計(SGLI)から取得された観測データを提供し、気候変動や水循環の解明等の研究に貢献しました。また、DPRの後継ミッションについて、NASAが計画しているエアロゾル・雲・対流・降水(ACCP)観測ミッションとの相乗りを見据え、2020年8月に開催された「宇宙に関する包括的日米対話」第7回会合において議論するなど、検討に着手しました。さらに、環境省、国立研究開発法人国立環境研究所及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の共同プロジェクトである温室効果ガス観測技術衛星1号機(GOSAT)の観測データの解析を進め、主たる温室効果ガスの全球の濃度分布、月別・地域別の吸収・排出量の推定結果等の一般提供を行いました。GOSATの観測データの解析により、2009年の観測開始から季節変動を経ながら年々濃度が上昇している傾向を明らかにしました。パリ協定に基づき世界各国が温室効果ガス排出量を報告する際に衛星観測データを利活用できるよう、GOSATの観測データ及び統計データ等から算出した排出量データを用いて推計した人為起源温室効果ガス濃度について比較・評価を行うとともに、衛星観測データの利用ガイドブックを作成しました。さらに、観測精度を飛躍的に向上させた後継機である2号機(GOSAT-2)を2018年10月に打ち上げました。本衛星は、GOSATに引き続き全球の温室効果ガス濃度を観測するほか、人為起源のCO2を特定するための機能を新たに有しており、各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指します。なお、水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」後継センサとの相乗りを見据えて調査・検討を行ってきた3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)は2023年度打ち上げを目指して開発を進めています。

我が国における地球温暖化に係る観測を、統合的・効率的に実施するため、地球観測連携拠点(温暖化分野)の活動を引き続き推進しました。また、観測データ、気候変動予測、気候変動影響評価等の気候変動リスク関連情報等を体系的に整理し、分かりやすい形で提供することを目的とし、2016年に構築された「気候変動適応情報プラットフォーム」において、気候変動の予測等の情報を充実させました。

気候変動予測研究については、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用して、全ての気候変動対策の基盤となる気候モデルの開発等を通じ、気候変動メカニズムを解明するとともに、ニーズを踏まえて気候変動予測情報の創出に向けた研究開発を推進しました。これらの成果等を活用し、2020年12月に「日本の気候変動2020」(文部科学省、気象庁)を公表しました。また、地球環境ビッグデータを「データ統合・解析システム(DIAS)」上で蓄積・統合解析し、地球規模課題の解決に産学官で活用できる地球環境情報プラットフォームの構築を進めました。

2020年8月、文部科学省の地球観測推進部会において、「今後10年の我が国の地球観測の実施方針のフォローアップ報告書」を取りまとめました。本報告書等を踏まえ、地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢を整備するため、地球環境保全等試験研究費において、2020年度は「民間航空機による温室効果ガスの3次元長期観測とデータ提供システムの構築」等の研究を継続しています。

(2)技術の精度向上等

地方公共団体及び民間の環境測定分析機関における環境測定分析の精度の向上及び信頼性の確保を図るため、環境汚染物質を調査試料として、「環境測定分析統一精度管理調査」を実施しました。

3 技術開発などに際しての環境配慮等

新しい技術の開発や利用に伴う環境への影響のおそれが予見される場合や、科学的知見の充実に伴って、環境に対する新たなリスクが明らかになった場合には、予防的取組の観点から必要な配慮がなされるよう適切な施策を実施する必要があります。第五次環境基本計画に基づき、上記の観点を踏まえつつ、各種の研究開発を実施しました。