環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第2節 除染等の措置等

第2節 除染等の措置等

平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)では、除染の対象として、国が除染の計画を策定し、除染事業を進める地域として指定された除染特別地域と、0.23マイクロシーベルト/h以上の地域を含む市町村を対象に関係市町村等の意見も踏まえて指定された汚染状況重点調査地域を定めています。

1 除染特別地域と汚染状況重点調査地域

国が除染を実施する除染特別地域については、面的な除染手法の実務や効果を確認するため、2011年11月から、内閣府による「除染モデル実証事業」が実施されました。また、本格的な除染の実施に先立ち除染活動の拠点となる施設等の機能を回復するため、応急的な対応として、同年12月に自衛隊による4役場(楢葉町、富岡町、浪江町、飯舘村)の除染が開始され、2012年1月からは、環境省が、役場、公民館、アクセス道路、インフラ施設等を対象とした「先行除染」を、双葉町を除く10市町村で順次開始しました。

2012年4月までに環境省は、田村市、楢葉町、川内村、南相馬市において除染実施計画を策定し、同年7月から田村市、楢葉町、川内村で本格的な除染(以下「面的除染」という。)が開始されました。他の除染特別地域の市町村においても除染実施計画策定後、順次、面的除染を開始し、2017年3月末までに11市町村で避難指示解除準備区域及び居住制限区域の面的除染が完了しました。

また、2018年3月末までに、市町村が除染を実施する汚染状況重点調査地域を含め、8県100市町村の全てで面的除染が完了しました。

さらに、汚染状況重点調査地域では、2021年3月末までに、地域の放射線量が0.23マイクロシーベルト/h未満となったことが確認された17市町村において、汚染状況重点調査地域の指定が解除されました(図4-2-1)。

図4-2-1 除染特別地域及び汚染状況重点調査地域における除染の進捗状況(2021年3月末時点)

面的除染完了後には、除染の効果が維持されているか確認するために詳細な事後モニタリングを実施し、除染の効果が維持されていない箇所が確認された場合には、個々の現場の状況に応じて原因を可能な限り把握し、合理性や実施可能性を判断した上で、フォローアップ除染を実施しています。

面的除染が完了した地域では、地域の方々の努力によって復興に向けた様々な取組が進められています。除染後に営農再開された農地では、震災前と同じ作物の栽培再開だけでなく、新たな作物への挑戦や、新規就農者の受け入れなども進められています。また、役場・学校等の公共施設の除染を進めた結果、10市町村で役場機能が避難先から帰還し、9市町村で小中学校が再開しています。2021年2月までに、避難指示解除区域全体で1万4,000人以上が帰還又は移住をしています。

事例:環境再生事業の事例

富岡町夜の森の桜並木

福島県浜通り地方の中央部に位置する富岡町は、福島第一原発の事故に伴い町全域に避難指示が出され、約1万6,000人が避難を余儀なくされました。除染が進められた結果、2017年に町の大部分の避難指示が解除されましたが、北東部は現在も帰還困難区域に指定されています。

富岡町のシンボルとも言えるのが、「夜の森の桜並木」です。明治時代に植樹が始まったという桜並木は全長約2.5kmに及び、毎年春には並木の下で「富岡町桜まつり」が開催されていました。全域に避難指示が出ている間、町民相互の結束のために開かれていた「復興の集い」でも、祭でも行われていたよさこい踊りが、桜並木の写真を背景に披露されていました。

環境省では、2015年に桜並木の一部で除染を完了しました。さらに、帰還困難区域内にある残りの桜並木についても、2018年に夜の森地区一帯が特定復興再生拠点区域として指定され、除染が進められています。

除染後の桜並木の様子

その結果、2017年の復興の集いで、7年ぶりに桜の下のよさこいが復活しました。2018年からは「富岡町桜まつり」が再開されると、多くのよさこい連が踊りを披露し、沿道に集まった来場者の方々の歓声が響き渡りました。2020年3月10日には夜ノ森駅が再開し、周辺道路などの避難指示も一部解除されました。2020年の富岡町桜まつりは中止となってしまいましたが、12月から2021年1月までイルミネーションイベント「YONOMORIまち灯り2020」が開催され、桜並木が鮮やかな光に彩られました。

富岡町桜まつりの様子

浪江町苅宿地区の営農再開

環境省は、これまで約8,700haの農地を除染してきました。除染後は、農林水産省が中心となって営農再開に向けた支援を行っていますが、担い手が高齢化する中、何年も休止していた農業を再開させることは容易ではなく、旧避難指示区域全体の営農再開は道半ばの状況です。

約2万1,000人が暮らしていた浪江町も、町全域が避難指示の対象となりました。その浪江町の中央部に位置し、秋には稲穂で辺り一面黄金になる苅宿地区でも、約350人全員が避難を余儀なくされ、震災から長い期間、稲作が途絶えていました。

浪江町では除染が進められた結果、2017年3月、苅宿地区など、帰還困難区域を除く区域の避難指示が解除されました。また、同年に水稲作付けを開始し、2019年には近隣住民が「苅宿ふれあいファーム」という営農管理団体を設立しました。地域ぐるみで協力して米作りに取り組み、2020年には約3haの作付けを行うことができました。収穫は良好で、全量検査の結果、放射性セシウムは不検出でした。同団体で耕作に携わる方は「今後は少しずつ稲作面積を拡大し、将来的には農業法人として地域の稲作を担っていきたい」と話しています。

浪江町苅宿地区の稲刈りの様子

2 森林の放射性物質対策

森林については、2016年3月に復興庁・農林水産省・環境省の3省庁が取りまとめた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づき、住居等の近隣の森林、森林内の人々の憩いの場や日常的に人が立ち入る場所等の除染等の取組と共に、林業再生に向けた取組や住民の方々との安全・安心の確保のための取組等を関係省庁が連携して進めてきました。

除染を含めた里山再生のための取組を総合的に推進するモデル事業として、2018年3月までに14地区をモデル地区として選定し、その成果等を踏まえ2020年1月に中間とりまとめ、同年11月に最終とりまとめを行いました。

2020年度以降は「里山再生事業」として里山の再生に向けた取組を引き続き実施することとし、2021年3月までに8地区を事業実施地区として選定しました。

事例:日常的に人が立ち入る森林の除染により憩いの場の利活用再開につながった事例

田村市都路町にある「行司ヶ滝」は、高瀬川の支流である行司ヶ沢にかかる高さ16メートルの滝で、清流に洗われる奇岩怪石と広葉樹の原生林とがマッチし、四季折々の変化が見事な渓谷美を楽しめる人気観光スポットです。震災による倒木や橋の損傷等の影響で、滝壺に続く遊歩道に立ち入れない状況が長らく続いていましたが、2018年に田村市が橋の修復や安全柵の設置等の整備を進めたことで除染の実施も可能となり、2019年7月14日にリニューアルオープンを迎えることができました。リニューアルオープン当日には本田仁一市長(当時)と共に遊歩道を散策する探勝会が催されたほか、その後も日帰りバスツアーのルートにも組み込まれるなど、観光スポットとしての人気を取り戻しています。

行司ヶ滝、行司ヶ滝リニューアルオープン探勝会

3 仮置場等における除去土壌等の管理・原状回復

除染で取り除いた福島県内の土壌(除去土壌)等は、一時的な保管場所(仮置場等)で管理し、順次、中間貯蔵施設及び仮設焼却施設等への搬出を行っており、2021年3月時点で、総数1,372か所に対し、約79%に当たる1,087か所で搬出が完了しています。除去土壌等の搬出が完了した仮置場等については、2018年3月に策定した仮置場等の原状回復に係るガイドラインに沿って原状回復を進めており、2021年3月時点で、総数の約49%に当たる670か所で完了しています(表4-2-1)。今後も災害等のリスクに備えた仮置場等の適切な管理を徹底しつつ、仮置場等の解消を進めます。

表4-2-1 福島県内の除去土壌等の仮置場等の箇所数

福島県外の除去土壌については、その処分方法を定めるため、有識者による「除去土壌の処分に関する検討チーム会合」を開催し、専門的見地から議論を進めるとともに、除去土壌の埋め立て処分に伴う作業員や周辺環境への影響等を確認することを目的とした実証事業を、茨城県東海村及び栃木県那須町の2か所で実施しました。

事例:仮置場の営農再開事例

除去土壌等の搬出を終えた仮置場は、遮へい土のうや遮水シート等の使用済み資材を撤去し、整地後に土地所有者に返地されます。仮置場用地のおよそ9割を占める農地については、作物の生育に必要な土壌環境を回復させることに加え、水田では均平な土地と用排水路の復旧も行います。原状回復工事では、このように仮置場として借地した時点の状態に戻すこととしています。

楢葉町は、原子力災害からの農業再生に向けて、新たな振興作物としてサツマイモを導入することを決め、生産拡大に必要な農地の確保に向けて、仮置場跡地の活用を検討しました。福島地方環境事務所は、楢葉町の農業振興担当者や担い手である農業法人と協議を行い、遮へい土のうに用いられた土を用いて畑地を整備する方針としました。この方針に沿って、楢葉町前原地区で2019年9月から仮置場の原状回復工事が実施され、その結果、2020年4月から農業法人によるサツマイモ栽培が開始し、同年10月から11月にかけて収穫が行われました。

営農再開された楢葉町のサツマイモ畑