環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第4節 気候変動をはじめとする環境問題の危機にどのように対応していくか

第4節 気候変動をはじめとする環境問題の危機にどのように対応していくか

気候変動をはじめとする地球環境の危機に私たちはどのように対応していかなければならないのでしょうか。先に述べたとおり、今日の主要な環境問題である気候変動や海洋プラスチックごみ汚染、生物多様性の損失は、いずれも現在のグローバルな社会・経済システムと深くかかわるものです。

気候変動について言えば、パリ協定は、今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収のバランスを達成する、すなわち温室効果ガスの排出を実質ゼロにしていくことが求められています。海洋プラスチックごみ汚染に関しては、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンにおいて2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指すこととなりました。生物多様性についてもCOP15に向けた議論では、社会変革をどのように引き起こすのかが重視されています。

このような地球環境の危機へ対応するための非常に高い目標等を達成するためには、現在の経済・社会システムを転換し、パラダイム・シフトを行い、私たちの経済社会活動に必要不可欠な環境の基盤を維持しながら、環境と成長の好循環を実現することが求められます。

本章で触れた、気候変動、海洋プラスチックごみ汚染、生物多様性の損失といった課題は、それぞれ相互に関連しています。そのため個々の問題への取組が複数の目標の達成にも寄与することができます。例えば、IPBESの報告書でも生物多様性の原因の一つとして気候変動が挙げられているように、気候変動対策に取り組むことがパリ協定の達成につながるだけでなく、愛知目標の達成にもつながります。また、プラスチックとの付き合い方を見直すことは大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの達成につながるだけでなく、パリ協定の達成にも寄与します。気候変動、資源管理、生物多様性等のそれぞれの観点からの対策を抜本的に強化するとともに、相互に影響のあるこれらの問題を統合的な視点から取り組んでいくことで環境の基盤を守っていくことが重要です。

SDGsの17のゴール、169のターゲットは、気候変動や生物多様性等に関する目標の他、経済発展や社会福祉等に関わるものが含まれていますが、これらのゴール及びターゲットは相互に関係していて、複数の課題を統合的に解決すること、すなわち一つの行動によって複数の側面における利益を生み出すマルチベネフィットを目指しています。社会変革に当たっては、こうした複数課題の解決に資するというアプローチが必要不可欠になってきます。

気候変動、資源循環、生物多様性いずれの問題もグローバルな課題ですが、同時に私たちの生活とも密接に関係するローカルな課題でもあります。我が国が直面する課題は、環境問題だけではありません。少子高齢化・人口減少、そして人口の地域的な偏在の加速化等により社会・経済の課題も抱えています。国全体で持続可能な社会を構築するためには、各々の地域が持続可能である、すなわち個々の地域でのSDGsの達成が必要です。

環境政策の実施に当たっては、経済・社会システム、ライフスタイル、技術といったあらゆる観点からイノベーションを創出することを通じて、環境だけでなく、私たちの経済・社会システムの持続可能性を向上する「環境・経済・社会」の統合的向上を実現するまさに社会変革が求められます。

経済成長を続けつつ、環境への負荷を最小限にとどめ、健全な物質・生命の「循環」を実現するとともに、健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との「共生」や地域間の「共生」を図り、これらの取組を含め「脱炭素」をも実現する、このような循環共生型の社会(環境・生命文明社会)が私たちが目指すべき持続可能な社会の姿と言えます。

社会変革に向けた取組は、第1章で紹介したような国際的な取組だけでなく、政府の施策、地方自治体や企業等において行われる取組に加え、個人の取組も重要です。このような各主体の実践と主体間の協働に基づき、技術、社会経済システム、一人一人の日常生活を支えるライフスタイルを持続可能なものへと刷新していくことにより、社会変革につなげることが可能となります。

次章以降において、このような危機的とも言われる状況に対応して持続可能な未来を切り開くための政府の取組、地方自治体や企業等の政府以外の主体の取組やライフスタイルの変革を促す個人の取組を紹介します。