環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第6章>第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

1 環境分野におけるイノベーションの推進

(1)環境研究・技術開発の実施体制の整備
ア 環境総合研究推進費

環境省では、環境研究総合推進費において、環境政策への貢献をより一層強化するため、環境省が必要とする研究テーマ(行政ニーズ)を明確化し、その中に地方公共団体がニーズを有する研究開発テーマも組み入れました。また、気候変動に関する研究のうち、各府省が関係研究機関において中長期的視点から計画的かつ着実に実施すべき研究を、地球環境保全等試験研究費により効果的に推進しました。

イ 環境省関連試験研究機関における研究の推進

(ア)国立水俣病総合研究センター

国立水俣病総合研究センターでは、水俣病発生の地にある国の直轄研究機関としての使命を達成するため、水俣病や環境行政を取り巻く社会的状況の変化を踏まえ、2015年4月に今後5年間の実施計画「中期計画2015」を策定しました。「中期計画2015」における調査・研究分野とそれに付随する業務に関する重点項目は、[1]メチル水銀の健康影響、[2]メチル水銀の環境動態、[3]地域の福祉向上への貢献、[4]国際貢献とし、中期計画4年目の研究及び業務を推進しました。

特に、地元医療機関と連携し、脳磁計(MEG)・磁気共鳴画像診断装置(MRI)を活用したヒト健康影響評価及び治療に関する研究やメチル水銀中毒の予防及び治療に関する基礎研究を推進するとともに、国内外諸機関と連携し、環境中の水銀モニタリング及び水俣病発生地域の地域創生に関する調査・研究を進めました。

水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)締結を踏まえ、水銀分析技術の簡易・効率化を進め、開発途上国に対する技術移転のために研究者の派遣を行うとともに、国際学会においてメチル水銀研究者との研究会議「NIMD FORUM」を主催するなどの国際貢献を進めました。

国外の研究者を受け入れて水銀分析技術を中心とした研修を実施するなど、WHO研究協力センターとしての役割を果たしました。

これらの施策や研究内容について、国立水俣病総合研究センターウェブサイト上で具体的かつ分かりやすい情報発信を実施しました。

(イ)国立研究開発法人国立環境研究所

国立研究開発法人国立環境研究所では、環境大臣が定めた第4期中長期目標(2016年度~2020年度)と第4期中長期計画が2016年度から開始されました。これらに基づき、環境研究の中核的研究機関として、[1]推進戦略で提示されている重点的に取り組むべき課題への統合的な研究、[2]環境の保全に関する科学的知見の創出等、[3]国内外機関とのネットワーク・橋渡しの拠点としてのハブ機能の強化及び[4]研究成果の積極的な発信と政策貢献・社会貢献を推進しました。

特に、[1]では、推進戦略の領域と一致する「低炭素」、「資源循環」、「自然共生」、「安全確保」及び「統合」の5つの課題解決型プログラムと、東日本大震災等の災害と環境に関する研究として環境回復、環境創生、災害環境マネジメントの三つの災害環境研究プログラムに取り組んでいます。加えて、2018年12月に施行された気候変動適応法(平成30年法律第50号)に関連する業務を開始しました。さらに、環境の保全に関する国内外の情報を収集、整理し、環境情報メディア「環境展望台」によってインターネット等を通じて広く提供しました。

ウ 各研究開発主体による研究の振興等

文部科学省では、科学研究費助成事業や戦略的創造研究推進事業等の研究助成を行い、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究・基礎研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を図るとともに、関連分野の研究者の育成を行いました。あわせて、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所における人文学・社会科学を含む分野横断的な課題解決型の研究の振興により、「Future Earth」等の国際共同研究やSDGsの達成に寄与しました。

地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動を推進しました。これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、環境省では、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するとともに、全国環境研協議会と共催で環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図りました。

(2)環境研究・技術開発の推進

環境省では、地球温暖化対策に関しては、新たな地球温暖化対策技術の実用化・導入普及を進めるため、「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」において地下街や駅等の屋外開放部を持つ空間における人流・気流センサを用いた省エネにつながる空調制御手法の開発や、電力消費量が大きい上水道施設対策に必要な高効率・低コストの管水路用水力発電技術の開発など、全体で45件の技術開発・実証事業を実施しました。また、ライフスタイルに関連の深い多種多様な電気機器(照明、パワコン、サーバー等)に組み込まれている各種デバイスを、高品質GaN(窒化ガリウム)半導体素子を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を2014年度より実施中です。2018年度には、マイクロ波を選択的にターゲットに照射できる省エネ電子レンジの開発・実証等を行いました。そのほかに、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)技術の導入に向けて、石炭火力発電所排ガスからCO2分離回収を行う場合の環境影響の検討等を行いました。

文部科学省では、徹底した省エネルギー社会の実現のため、電力消費の大幅削減を可能とする窒化ガリウム(GaN)等を活用した次世代半導体に係る研究開発を推進しました。また、先端的低炭素化技術開発(ALCA)において、2030年の社会実装を目指し、低炭素社会の実現に貢献する革新的な技術シーズ及び実用化技術の研究開発を推進するとともに、リチウムイオン蓄電池に代わる革新的な次世代蓄電池やバイオマスから化成品等を製造するホワイトバイオテクノロジー等の世界に先駆けた革新的低炭素化技術の研究開発を推進しました。さらに、未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域において、2050年の社会実装を目指し、抜本的な温室効果ガス削減に向けた従来技術の延長線上にない革新的エネルギー科学技術の研究開発を推進しました。加えて、未来社会創造事業大規模プロジェクト型においては、省エネ・低炭素化社会が進む未来水素社会の実現のため、高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の開発を開始しました。

省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、クリーンコールテクノロジー、分離回収したCO2を地中へ貯留するCCSに関わる技術開発を実施しました。

次世代低公害車の技術開発としては、大型車について低炭素化等に資する革新的技術を早期に実現するため、高効率次世代ディーゼルエンジン、大型液化天然ガス(LNG)自動車といった次世代大型車関連の技術開発及び実用化の促進を図るための調査研究を行いました。また、早期の社会実装を目指し、燃料電池小型トラックや大型LNGトラックの技術開発・実証等を行いました(上記「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」の一環)。

ア 中長期的なあるべき社会像を先導する環境分野におけるイノベーションのための統合的視点からの政策研究の推進

環境政策の経済・社会への影響・効果や両者の関係を分析・評価する手法及び環境・経済・社会が調和した持続可能な社会の進展状況を把握・評価するための手法等を確立することにより、経済・社会の課題解決にも貢献する環境政策に関する基礎的な分析・理論等の知見を得、それらの成果を政策の企画立案等に活用することを目的とした環境経済の政策研究を実施しています。2018年度から「第IV期環境経済の政策研究」として、原則3年の研究期間を設けた9件の研究を進めています。

イ 統合的な研究開発の推進

第5期科学技術基本計画(計画年度:2016年度~2020年度)では、経済・社会が大きく変化し、国内、そして地球規模の様々な課題が顕在化する中で、我が国及び世界が将来にわたり持続的に発展していくために、「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」、「国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現」、「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」、「知の資産の持続的創出」の4つを「目指すべき国の姿」として定め、政策を推進しています。

第5期科学技術基本計画に基づき2018年6月に閣議決定した「統合イノベーション戦略」において、特に取組を強化すべき分野の一つとして「環境エネルギー」分野を取り上げ、パリ協定「2℃目標」の達成を目指してグローバルな視点で再生可能エネルギーや蓄エネルギー等の目標を設定するとともに、その達成への道筋を構築し、関係府省庁、産官学が連携して研究開発から社会実装まで一貫した取組の具体化を図り推進していくこととしました。

内閣府では、2018年度から開始した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期の課題の一つとして「脱炭素社会実現のためのエネルギーシステム」を採択し、IT技術を活用した次世代型超スマートエネルギーネットワークシステムのグランドデザインを検討するとともに、遠距離・高効率・大電力で安全なワイヤレス電力伝送システムやユニバーサルスマートパワーモジュール等、再生可能エネルギーの導入促進や需給調整に資する基盤技術の研究開発・社会実装を図ることとしました。

環境省では、第五次環境基本計画に基づき、今後5年間で取り組むべき環境研究・技術開発の重点課題やその効果的な推進方策を提示するものとして、環境研究・環境技術開発の推進戦略を策定することとしています。

総務省では、国立研究開発法人情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境のリモートセンシング技術や、環境負荷を増やさず飛躍的に情報通信ネットワーク設備の大容量化を可能にするフォトニックネットワーク技術の研究開発を実施しています。

農林水産省では、農林水産分野における気候変動の影響評価、地球温暖化の進行に適応した生産安定技術の開発等について推進しました。さらに、これらの研究開発に必要な生物遺伝資源の収集・保存や特性評価等を推進しました。また、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた被災地において、農業者が早期に、安心して営農を再開できるようにするため、除染後農地の地力を回復・向上させる技術開発、農作物の安全性を確保しつつ吸収抑制対策としてのカリ施肥の適正化を図る技術開発、省力的圃場管理技術の開発を行いました。さらに、森林・林業の再生を図るため、森林施業等に関する放射性物質対策技術の検証を行うとともに、木材製品等に係る放射性物質の調査・分析、木材製品等の安全を確保するための効果的な検査及び安全証明体制の構築を図りました。

経済産業省では、生産プロセスの低コスト化や省エネ化の実現を目指し、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノづくり技術の開発を実施しました。また、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)において昨年度創設した毒性・病原性がないなど一定範囲の性質の遺伝子組換え生物をまとめて申請できる包括確認制度に係る運用改善や、独立行政法人製品評価技術基盤機構における事前審査対象を拡大するなど申請に係る事業者側コスト削減・時間短縮を通じて、バイオ産業の健全な発展に資する事業環境整備を行いました。

国土交通省では、地球温暖化対策にも配慮しつつ、地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策の実施に向けて、様々な対策の複合的な効果を評価できるシミュレーション技術の運用や、地球温暖化対策に資するCO2の吸収量算定手法の開発等を実施しました。低炭素・循環型社会の構築に向け、下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)等による下水汚泥の有効利用技術等の実証と普及を推進しました。また、鉄道分野の更なる環境性能向上を図るため、従来のディーゼル車両と比べ、CO2排出量削減効果が期待される燃料電池車両等の技術開発を推進しました。

文部科学省では、希少元素や毒性元素の使用量の低減化に資する研究開発として、「元素戦略プロジェクト」を推進しました。

(3)環境研究・技術開発の効果的な推進方策
ア 各主体の連携による研究技術開発の推進

低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS-RNet)では、2018年7月に東京において、第10回年次会合が開催され、低炭素社会を実現するための研究成果が共有されました。また、パリ協定の合意内容を着実に実施していくため、各国がどう長期ビジョンに取り組み、各国研究者がどういった共同研究に着手するかが議論されました。

世界適応ネットワーク(GAN)及びその地域ネットワークの一つであるアジア太平洋適応ネットワーク(APAN)を他の国際機関等との連携により支援しました。2018年10月にフィリピンのマニラにおいて「第6回アジア太平洋気候変動適応フォーラム2018」が開催され、約60か国からドナー機関、政策決定者、実務者、研究者、一般市民など総計1,300名を超える出席者があり、気候変動適応に係る様々な問題について議論が行われました。アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)を支援し、気候変動、生物多様性など各分野横断型研究に関する国際共同研究及びワークショップが開催され、アジア太平洋地域内の途上国を中心とする研究者及び政策決定者の能力向上に大きく貢献しました。

エネルギー・環境分野のイノベーションにより気候変動問題の解決を図るため、世界の学界・産業界・政府関係者間の議論と協力を促進するための国際的なプラットフォームとなることを目的とする「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」の第5回年次総会を2018年10月に開催しました。

イ 環境技術普及のための取組の推進

先進的な環境技術の普及を図る環境技術実証事業では、中小水力発電技術分野など計7分野を対象とし、対象技術の環境保全効果等を実証し、結果の公表等を実施するとともに、特定の対象技術分野を定めないテーマ自由枠を運用することにより、幅広い技術の実証やその結果の公表等を実施しました。また、2016年11月に実証スキームが国際標準化されたことに伴い、国内体制の整備を実施しました。

ウ 成果の分かりやすい発信と市民参画

環境研究総合推進費及び地球環境保全等試験研究費に係る研究成果については、学術論文、研究成果発表会・シンポジウム等を通じて公開し、関係行政機関、研究機関、民間企業、民間団体等へ成果の普及を図りました。また、環境研究総合推進費ウェブサイトにおいて、研究成果やその評価結果等を公開しました。

地球温暖化対策技術開発・実証研究事業及びCO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業についても、環境省ウェブサイトにおいて成果及びその評価結果等を公開しているほか、「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業成果発表会」を開催し、一般向けに広く情報提供を行いました。

エ 研究開発における評価の充実

環境省では、環境研究総合推進費において2015年度に終了した課題を対象に追跡評価を行いました。

2 官民における監視・観測等の効果的な実施

(1)地球環境に関する観測・監視

監視・観測については、国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視計画(GAW計画)、WMO/ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)の活動、全球気候観測システム(GCOS)、全球海洋観測システム(GOOS)等の国際的な計画に参加して実施しました。さらに、「全球地球観測システム(GEOSS)」を推進するための国際的な枠組みである地球観測に関する政府間会合(GEO)においては、執行委員会のメンバー国を務めるとともに、文部科学省は、GEO事務局とともに2018年10月から11月にかけて第15回GEO本会合を京都にて主催するなど、104の国とEC、128の国際機関(2019年3月末時点)が参加するGEOの活動を主導しています。また、GCOSの地上観測網の推進のため、世界各国からの地上気候観測データの入電状況や品質を監視するGCOS地上観測網監視センター(GSNMC)業務や、アジア地域の気候観測データの改善を図るためのWMO関連の業務を、各国気象機関と連携して推進しました。

気象庁は、WMOの地区気候センター(RCC)を運営し、アジア太平洋地域の気象機関に対し基礎資料となる気候情報やウェブベースの気候解析ツールを引き続き提供しました。さらに、アジア太平洋地域の気象機関を対象にした研修を実施するなど、域内各国の気候情報の高度化に向けた取組と人材育成に協力しました。

温室効果ガス等の観測・監視に関し、WMO温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてアジア・南西太平洋地域における観測データの品質向上に関する業務を、さらにWMO全球大気監視較正センターとしてメタン等の観測基準(準器)の維持を図る業務を引き続き実施しました。超長基線電波干渉法(VLBI)や全球測位衛星システム(GNSS)を用いた国際観測に参画するとともに、験潮等と組み合わせて、地球規模の地殻変動等の観測・研究を推進しました。

東アジア地域における残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態把握のため、これら地域の国々と連携して大気中のPOPsについて環境モニタリングを実施しました。また、水俣条約の有効性の評価にも資する水銀モニタリングに関し、米国環境保護庁(EPA)等と連携してアジア太平洋地域の国を中心にワークショップ及び技術研修を開催し、地域ネットワークの強化に取り組みました。

大気における気候変動の観測について、気象庁はWMOの枠組みで地上及び高層の気象観測や地上放射観測を継続的に実施するとともに、GCOSの地上及び高層や地上放射の気候観測ネットワークの運用に貢献しています。さらに、世界の地上気候観測データの円滑な国際交換を推進するため、WMOの計画に沿って各国の気象局と連携し地上気候観測データの入電数向上、品質改善等のための業務を実施しています。

温室効果ガスなど大気環境の観測については、国立研究開発法人国立環境研究所及び気象庁が、温室効果ガスの測定を行いました。国立研究開発法人国立環境研究所では、波照間島、落石岬、富士山等における温室効果ガス等の高精度モニタリングのほか、アジア太平洋を含むグローバルなスケールで民間航空機・民間船舶を利用し大気中及び海洋表層における温室効果ガス等の測定を行うとともに、陸域生態系における炭素収支の推定を行いました。これら観測に対応する国際的な標準ガス等精度管理活動にも参加しました。また、気候変動による影響把握の一環として、サンゴや高山植生のモニタリングを行いました。気象庁では、GAW計画の一環として、温室効果ガス、クロロフルオロカーボン(CFC)等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線及び大気混濁度等の定常観測を東京都南鳥島等で行っているほか、航空機による北西太平洋上空の温室効果ガスの定期観測を行っています。さらに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中のCO2等の定期観測を実施しています。これらの観測データについては、定期的に公表しています。また、黄砂及び有害紫外線に関する情報を発表しています。

海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」や観測機器等を用いて、海洋の熱循環、物質循環、生態系等を解明するための研究、観測技術開発を推進しました。また、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、国際協力の下、海洋自動観測フロート約3,000個を全世界の海洋で稼働させ、地球規模の高度海洋監視システムを構築する「アルゴ(Argo)計画」を推進しました。南極地域観測については、南極地域観測第IX期6か年計画に基づき、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球環境変動の解明を目的とする各種研究観測等を実施しました。また、北極域の環境変化及びその変化が現地・全球に与える社会的・経済的影響を明らかにし、ステークホルダーへ発信するため、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)を推進しました。

GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計により、地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また、国内の影響・リスク評価研究や地球温暖化対策の基礎資料として、温暖化に伴う気候変化に関する予測情報を「地球温暖化予測情報」によって提供しており、情報の高度化のため、大気の運動等を更に精緻化させた詳細な気候変化の予測計算を実施しています。

衛星による地球環境観測については、全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載の我が国の二周波降雨レーダ(DPR)や水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」搭載の高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)から取得された観測データを提供し、気候変動や水循環の解明等の研究に貢献しました。さらに、環境省、国立研究開発法人国立環境研究所及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の共同プロジェクトである温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」の観測データの解析を進め、主たる温室効果ガスの全球の濃度分布、月別・地域別の吸収・排出量の推定結果等の一般提供を行いました。「いぶき」の観測データの解析により、2009年の観測開始から季節変動を経ながら年々濃度が上昇している傾向を明らかにしました。パリ協定に基づき世界各国が温室効果ガス排出量を報告する際に衛星観測データを利活用できるよう、「いぶき」の観測データ及び統計データ等から算出した排出量データを用いて推計した人為起源温室効果ガス濃度について比較・評価を行うとともに、衛星観測データの利用ガイドブックを作成しました。さらに、観測精度を飛躍的に向上させた後継機「いぶき2号(GOSAT-2)」を2018年10月に打ち上げました。本衛星は、「いぶき」に引き続き全球の温室効果ガス濃度を観測するほか、人為起源のCO2を特定するための機能を新たに有しており、各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指します。なお、GCOM-W後継センサとの相乗りを見据えて調査・検討を行ってきた3号機については、継続的な観測体制の維持に加え、排出源の監視能力を更に強化した次期温室効果ガス観測センサの設計に着手しました。

我が国における地球温暖化に係る観測を、統合的・効率的に実施するため、地球観測連携拠点(温暖化分野)の活動を引き続き推進しました。また、観測データ、気候変動予測、気候変動影響評価等の気候変動リスク関連情報等を体系的に整理し、分かりやすい形で提供することを目的とし、2016年に構築された「気候変動適応情報プラットフォーム」において、気候変動の予測等の情報を充実させました。

気候変動予測研究については、世界最高水準の性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用して、全ての気候変動対策の基盤となる気候モデルの高度化を通じ、気候変動メカニズムを解明するとともに、気候変動予測情報の創出に向けた研究開発を推進しました。また、世界最大級の地球環境ビッグデータを「データ統合・解析システム(DIAS)」上で蓄積・統合解析し、地球規模課題の解決に産学官で活用できる地球環境情報プラットフォームの構築を進めました。さらに、実際の地域のニーズを踏まえ、地域における気候変動適応策の立案・推進に資する将来予測情報等の創出・提供等を推進しました。

「地球観測の推進戦略」を踏まえ、地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢を整備するため、地球環境保全等試験研究費において、2018年度は「地球温暖化がアジア・太平洋地域における大気質および海洋沈着に及ぼす影響の長期観測」及び、「世界のコメ生産地における気候変動適応策の有効性評価のための耕地環境ストレスモニタリング」の研究を開始しました。

(2)技術の精度向上等

地方公共団体及び民間の環境測定分析機関における環境測定分析の精度の向上及び信頼性の確保を図るため、環境汚染物質を調査試料として、「環境測定分析統一精度管理調査」を実施しました。

3 技術開発などに際しての環境配慮等

新しい技術の開発や利用に伴う環境への影響のおそれが予見される場合や、科学的知見の充実に伴って、環境に対する新たなリスクが明らかになった場合には、予防的取組の観点から必要な配慮がなされるよう適切な施策を実施する必要があります。第五次環境基本計画に基づき、上記の観点を踏まえつつ、各種の研究開発を実施しました。