環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 気候変動影響の適応に係る国際動向

第3節 気候変動影響の適応に係る国際動向

第1節で見てきたように、気候変動の影響は、既に日本を含む世界の様々な地域・分野で現れています。今後、地球温暖化が進行すると、深刻で広範囲にわたる不可逆な影響が生じる可能性が高まることが予測されています。前述のIPCCの報告書にも言及がありますが、気候変動の影響に対処するには、第2節に記した温室効果ガスの排出の抑制等を行う緩和を行うことは当然のこと、既に現れている影響や中長期的に避けられない影響による被害を回避・軽減する適応を進めることが求められており、第3節からは適応に係る取組について概説します。

1 気候変動枠組条約、持続可能な開発目標(SDGs)、仙台防災枠組

気候変動枠組条約においては、当初から緩和の取組と同時に、適応の取組の必要性が認識されていました。特に気候変動に脆(ぜい)弱な島嶼(しょ)国や開発途上国に対し、先進国による様々な支援が行われてきています。また、適応については、COP16において採択されたカンクン合意において、全ての締約国が適応対策を強化するための「カンクン適応枠組み」が合意されました。2015年12月に気候変動枠組条約の下で採択されたパリ協定では、2℃目標等の緩和の目標に加え、気候変動の悪影響に適応する能力並びに気候に対する強靱(じん)性を高めるという適応も含め、気候変動の脅威に対する世界全体での対応を強化することを目標としています。パリ協定の下、各締約国は、適応に関する計画の策定及び実施が推奨されており、多くの国々において計画が策定され、実施されています。

また、2015年9月には、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される持続可能な開発目標(SDGs)が国連総会において採択され、我が国においても、SDGsの実施に向けた取組を進めています。SDGsには、気候変動、更には、食料、健康、保健、水・衛生、インフラ、生態系など、適応に関連する目標が多く含まれています(図2-3-1)。

図2-3-1 持続可能な開発目標(SDGs)のロゴ

さらに、SDGsの採択に先立ち、2015年3月に、仙台市で開催された第3回国連防災世界会議において、世界各国で防災体制を強化するための仙台防災枠組2015-2030が採択されました。この中では、4つの優先行動として、「災害リスクの理解」、「災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化」、「レジリエンスのための災害リスク軽減への投資」、「効果的な対応のための災害準備の強化と回復・復旧・復興に向けた「より良い復興」」が示されおり、これらの考えは気候変動適応に関連する部分も含まれています。

これら、パリ協定の下の適応と、SDGs、仙台防災枠組は、気候変動に対応できる強靱で持続可能な社会を構築するという点で共通する目標を有しており、これらの目標等の間で国際的に連携していくことが重要となっています。

実際に、2018年7月には、気候変動枠組条約事務局との共催により、適応目標及び指標とSDGs・仙台防災枠組との連携についての会合を開催し、国レベルでの実施方法、モニタリング・評価等について議論を行いました。

2 各国政府の動向

欧州では、2013年にEU全体で適応を推進するための方針を定めた「EU気候変動適応戦略」を策定し、気候変動影響等の適応に関連する情報を集約したプラットフォームである「EU ClimateAdapt」を運営し、加盟国の適応施策を促しています。

また、英国では、他国に先駆けて2008年に制定された「英国気候変動法」に基づき、5年ごとに「気候変動リスク評価」を実施し、適応計画に当たる「国家適応プログラム」を策定しています。2017年には2回目の気候変動リスク評価を実施し、2018年に第二次国家適応プログラムを公表して、地方公共団体や企業など様々な主体の取組を推進しています。

欧州以外でも、韓国が低炭素グリーン成長基本法の下、気候変動影響評価を実施し、2015年に第2次国家気候変動適応マスタープランを公表しています。その他、オーストラリアや米国、メキシコなど多くの国々で、気候変動影響の評価及び適応計画の策定の取組が進められています。

一方、開発途上国においては気候変動影響に対処する適応能力が不足している国が多く、国連等の関連機関や先進諸国によって支援が行われ、気候変動影響評価や適応計画の策定、適応策の導入等が進められています。

事例:国立公園の気候変動リスク評価の取組(英国)

英国は、2008年に、今後50年にわたる気候変動対策を規定した法律である気候変動法を世界で初めて制定し、5年ごとに気候変動のリスク評価を実施することとしました。このような背景の下、英国国立公園管理局も環境・食料・農村地域省(Defra)からの勧めを受け、将来の気候変動の影響についての適応報告を作成するため、英国国立公園管理局連合会の気候変動ワーキンググループが、気候変動のリスクと機会を整理するためのテンプレートを作成しました。テンプレートは、地形、種の多様性、歴史的環境、アクセス・レクレーション、地域文化・経済、農業・土地管理、国立公園管理局の事業継続性の7つの分野からなり、気候変動リスク及び機会を整理し、不確実性と影響の重大性の観点から評価し、対策を記入する形式になっています。

国立公園の一つである湖水地方国立公園は、英国の北西部に位置し、面積は約23万 haを有しています。山や川、湖、海岸等の地形に富んだ場所で、多様な動植物が生息しています。

湖水地方国立公園のリスク評価と適応策の策定作業は、国立公園管理局と公園の管理計画(パートナーシッププラン)を策定している湖水地方国立公園パートナーシップ(湖水地方国立公園管理局、カンブリア州議会、カンブリア州内のバラ議会、環境庁、イングリッシュヘリテッジ、ナショナルトラスト等23団体で構成)と連携して進められました。リスク評価の結果、短期的(2020年代)に大きなリスクはありませんでしたが、中期的(2050年代)にリスクが高くなる項目として、[1]洪水等の極端な事象により、公共交通機関や交通インフラが被害を受けたり、国立公園に対する人々の認識に悪影響を与えたり、働いているスタッフや一般の人々の安全が脅かされるリスク、[2]気温の上昇や豪雨の増加により、動植物の分布やバランスが変化し、種の構成や生息条件が変化する。極地高山植物等いくつかの種が消滅し、今まで存在していなかった種が繁殖する。相互依存している種への影響、[3]山火事の頻度が増えたり規模が大きくなることによる、林業、畜産業、農業への影響。樹木の炭素貯蔵効果への影響、が挙げられました。

洪水対策や極地高山植物の保全など、気候変動以外の分野でも緊急性の高い問題については既に取組が進められています。今回検討された適応策については、公園の管理計画であるパートナーシッププランの改定時に盛り込まれる予定です。