環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第2章 気候変動影響への適応>第1節 近年の異常気象と気候変動及びその影響の観測・予測

第2章 気候変動影響への適応

近年、気温の上昇、大雨の頻度の増加や、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動及びその影響が全国各地で現れており、さらに今後、長期にわたり拡大するおそれがあります。2018年の夏、我が国は、西日本の広範囲で発生した「平成30年7月豪雨」や、埼玉県で歴代全国1位の最高気温を更新するなどの記録的な猛暑に見舞われました。これらは、多くの犠牲者をもたらし、また、国民の生活、社会、経済に多大な被害を与えました。個々の気象現象と地球温暖化との関係を明確にすることは容易ではありませんが、今後、地球温暖化の進行に伴い、このような豪雨や猛暑のリスクは更に高まることが予測されています。

気候変動に対処し、国民の生命・財産を将来にわたって守り、経済・社会の持続可能な発展を図るためには、緩和策(温室効果ガスの排出削減等対策)に全力で取り組むことはもちろんのこと、現在生じており、また将来予測される気候変動による被害の回避・軽減を図る適応策に、多様な関係者の連携・協働の下、一丸となって取り組むことが重要です(図2-1-1)。

図2-1-1 緩和と適応の関係

第2章では、気候変動影響に関する科学的知見や気候変動対策に係る国内外の動向、そして本格化しつつある我が国の気候変動適応の取組について紹介します。

第1節 近年の異常気象と気候変動及びその影響の観測・予測

1 近年の国内外の異常気象

近年、国内外で異常気象が頻発しています。国内では、2017年の「平成29年7月九州北部豪雨」において、福岡県、大分県等の同じ場所に猛烈な大雨が降り続け、42名(2018年1月16日時点)が犠牲となる記録的な豪雨となりました。2018年は「平成30年7月豪雨」、歴代全国1位の最高気温を更新した記録的猛暑、非常に強い勢力のまま上陸した台風第21号や台風第24号など、自然災害により多くの被害が出ました。

世界的にも異常気象が頻発しています。2017年には、ハリケーンにより米国南東部からカリブ海諸国にかけての地域において190名以上の犠牲者が出ました。2018年夏には、北極圏でも30℃を超えるなど、ヨーロッパ北部、シベリア、アメリカ南西部など世界各地で記録的高温となったほか、記録的な大雨となった地域、オーストラリアなど大規模な干ばつとなった地域もありました。世界気象機関(WMO)は、これらの異常気象は長期的な地球温暖化の傾向と一致していると発表しています。

2 2018年に起こった我が国の気象災害等

(1)平成30年7月豪雨

2018年6月下旬から7月上旬にかけて、前線や台風第7号の影響により、日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。6月28日から7月8日にかけての総雨量は、四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となったところもあったほか、24、48、72時間降水量が中国地方、近畿地方など多くの地点で観測史上1位となりました。

この豪雨により、広島県、岡山県、愛媛県を中心に237名が犠牲になり(2019年1月9日時点)、約7,000件の家屋が全壊するなど、多くの被害が発生しました(写真2-1-1)。

写真2-1-1 平成30年7月豪雨の被害の様子

この豪雨による被害に対し、環境省は、2018年7月9日から本省及び地方環境事務所職員に加え災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)の専門家からなる現地支援チームを岡山県、広島県、愛媛県等に順次派遣し、災害廃棄物処理に関する支援体制を構築しました。現地では、仮置場の設置、運営、管理等の技術的な支援を実施するとともに、全国各地の自治体や民間事業者から車両や人員を派遣いただき、災害廃棄物等の収集運搬や広域処理の支援を実施し生活圏からの迅速な撤去を行いました。岡山県、広島県、愛媛県における災害廃棄物の推計量は2018年12月時点で約200万トンに上り、それぞれの県では発災から約1~2年間での処理完了の目標を定めています。

(2)猛暑

2018年、夏(6~8月)の東・西日本は記録的な高温となり、夏の平均気温は、平年に比べて東日本で+1.7℃と気象庁における統計開始以降で最も高くなりました。特に梅雨が明けた7月中旬から下旬にかけて、全国的に気温が高くなりました。中でも7月23日は埼玉県熊谷市で日最高気温が歴代全国1位となる41.1℃など、各地で40℃を超える気温が観測されました。また、夏(6~8月)に、各地点において観測史上最も高い気温を観測した地点も202地点に上り、東日本の月平均気温は7月として1946年の統計開始以来1位の高温となりました。

消防庁報告データによると、2018年5月から9月までの間の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は95,137人に達し、前年同期間の52,984人と比べると42,153人増となりました(図2-1-2)。そのうち、2018年7月の熱中症による救急搬送人員は54,220人、死亡者数133人と、1か月の熱中症による救急搬送人員及び死亡者数としては、2008年の調査開始以降過去最多となりました。また、7月16日から7月22日までの1週間の熱中症による救急搬送人員は23,191人、死亡者数67人と、1週間ごとの救急搬送人員及び死亡者数としても2008年の調査開始以降過去最多となりました。年齢区分別にみると、高齢者(満65歳以上)が最も多く、次いで成人(満18歳以上満65歳未満)、少年(満7歳以上満18歳未満)、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)、新生児(生後28日未満)の順となり(図2-1-3)、発生場所ごとの項目別にみると、住居が最も多く、次いで道路、公衆(屋外)、仕事場1(道路工事現場、工場、作業所等)の順となりました(図2-1-4)。

図2-1-2 救急搬送人員の年別推移(6月~9月)
図2-1-3 熱中症による救急搬送人員の年齢区分
図2-1-4 発生場所ごとの項目
(3)台風

台風第21号は、非常に強い勢力で徳島県南部に上陸し、速度を上げながら近畿地方を縦断し、日本海を北上しました(写真2-1-2)。台風の接近・通過に伴って、特に四国地方や近畿地方では、猛烈な風が吹き、猛烈な雨が降ったほか、顕著な高潮となったところがありました。これら暴風や高潮の影響で、関西国際空港の滑走路の浸水をはじめとして、航空機や船舶の欠航、鉄道の運休等の交通障害、断水や停電、電話の不通などライフラインへの被害が発生しました。また、関西国際空港の閉鎖によって関西地域からの物流が止まり、その影響は全国に及びました。

写真2-1-2 台風第21号の衛星写真

台風第24号は、非常に強い勢力で沖縄地方に接近した後、東日本から北日本を縦断しました。台風の接近・通過に伴い、広い範囲で暴風、大雨、高波、高潮となり、特に南西諸島及び西日本・東日本の太平洋側を中心に、これまでの観測記録を更新する猛烈な風又は非常に強い風を観測した所がありました。

こうした台風の被害に対し、環境省は、地方環境事務所職員を被災地に派遣し、仮置場の設置、運営、管理等の技術的な支援を実施するとともに、近隣自治体や民間事業者の協力の下、災害廃棄物等の収集運搬や広域処理の支援を実施しました。

3 気候変動に係る科学的知見

(1)気候変動に関する政府間パネルによる第5次評価報告書

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1988年の設立以来、気候変動の最新の科学的知見の評価を行い、報告書として取りまとめています。2013年9月から2014年11月にかけて、第5次評価報告書が承認・公表されました。本報告書では、気候システムの温暖化は疑う余地がないこと、人間による影響が近年の温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いこと、気候変動は全ての大陸と海洋にわたり、自然及び人間社会に影響を与えていること、将来、温室効果ガスの継続的な排出は、更なる温暖化と気候システムの全ての要素に長期にわたる変化をもたらし、それにより、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まることなどが示されています。

さらに、気候変動を抑制する場合には、温室効果ガスの排出を大幅かつ持続的に削減する必要があることが示されると同時に、将来、温室効果ガスの排出量がどのようなシナリオをとったとしても、世界の平均気温は上昇し、21世紀末に向けて気候変動の影響のリスクが高くなると予測されています(図2-1-5)。加えて、適応と緩和は、気候変動のリスクを低減し管理するための相互補完的な戦略であるとし、適応と緩和の両方の重要性を強調しています。

図2-1-5 世界平均気温の変化
(2)1.5℃特別報告書

2018年10月に開催されたIPCC第48回総会において1.5℃特別報告書(正式名称「気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅の文脈において工業化以前の水準から1.5℃の気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書」)が承認・受諾され、公表されました。本報告書は、気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)からの招請により作成された報告書で、タイトルのとおり、1.5℃の気温上昇に着目して、2℃の気温上昇との影響の違いや、気温上昇を1.5℃に抑える排出経路等について取りまとめられています。

報告書では、世界の平均気温が2017年時点で工業化以前と比較して約1℃上昇し、現在の度合いで増加し続けると2030年から2052年までの間に気温上昇が1.5℃に達する可能性が高いこと、現在と1.5℃上昇との間、及び1.5℃と2℃上昇との間には、生じる影響に有意な違いがあること、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないような排出経路は、2050年前後には世界のCO2排出量が正味ゼロとなっていること、これを達成するには、エネルギー、土地、都市、インフラ(交通と建物を含む。)及び産業システムにおける、急速かつ広範囲に及ぶ移行(transitions)が必要であることなどが示されています(図2-1-6~2-1-8)。

図2-1-6 1850~1900年を基準とした気温上昇の変化
図2-1-7 気温上昇がもたらす影響とリスク
図2-1-8 気温上昇を1.5℃に抑える排出経路における、人為起源CO2排出量
(3)我が国の気候変動の観測事実と将来予測

我が国でも、世界(100年当たり約0.73℃)より速いペース(100年当たり約1.21℃)で気温が上昇しており、21世紀末には、20世紀末と比較して、厳しい温暖化対策を取った場合(RCP2.6シナリオ)で0.5~1.7℃、温暖化対策を取らなかった場合(RCP8.5シナリオ)で3.4~5.4℃上昇すると予想されています。そして、真夏日・猛暑日の日数が増加しており、将来的にも増加すると予想されています。また、短時間強雨が増加している一方、降水日が減少しています。将来的に、短時間強雨の回数の増加、大雨時の降水量の増加、降水日の減少が予測されています。さらに、多くの地域で積雪量が減少する一方、一部地域の内陸部では大雪が増加する可能性も予測されているというような、気候変動の観測事実と将来予測が示されています(図2-1-9)。

図2-1-9 気候変動の観測事実と将来予測

コラム:2100年未来の天気予報

環境省では、現状を上回る温暖化対策を取らなかった場合の予測に基づき、「2100年未来の天気予報」という動画を作成しています。

この動画はもともと、地球温暖化に関する情報を人から人にわかりやすく伝える伝え手「地球温暖化防止コミュニケーター」が活用することを目的に制作したコンテンツであり、登録されている約3,300名の地球温暖化防止コミュニケーターが、セミナーや小中学校の出前授業など、それぞれの活動の場で活用しています。

この動画では、例えば、東京の最高気温が44℃以上になるという予報を伝えています。最高気温については、各地の現在(1981~2010年の6~8月を対象)の最高気温に、気象庁の「地球温暖化予測情報第9報」における地域別・季節別(夏)の気温の将来予測を加算していますが、この予測は、IPCCの第5次評価報告書で用いられた、現状を上回る温暖化対策を行わない場合に世界の平均気温が21世紀末最大で4.8℃上昇するというシナリオに基づいています。

「2100年未来の天気予報」を提供しているCOOL CHOICE TVでは、これ以外にも、地球温暖化の影響と対策に関する動画や様々な分野で活躍する著名人からのメッセージ、暮らしの中で行えるCOOL CHOICEなど、数多くの動画を見ることができます。

2100年未来の天気予報

4 気候変動による影響

(1)気候変動影響評価報告書

我が国における気候変動影響及び気候変動適応に関する調査研究の進展や国際的な動向を踏まえ、既存の研究による気候変動予測や影響評価等について整理し、気候変動が日本に与える影響及びリスクの評価について包括的に審議するため、2013年7月に中央環境審議会地球環境部会の下に気候変動影響評価等小委員会を設置しました。同小委員会において、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然災害・沿岸域、自然生態系、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7つの分野、30の大項目、56の小項目に整理し、気候変動の影響について、500点を超える文献や気候変動及びその影響の予測結果等を活用して、重大性(気候変動は日本にどのような影響を与え得るのか、また、その影響の程度、可能性等)、緊急性(影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期)及び確信度(情報の確からしさ)の観点から評価が行われました(表2-1-1)。この結果を踏まえて、2015年3月に中央環境審議会により「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」(以下「気候変動影響評価報告書」という。)が取りまとめられ、環境大臣に意見具申がなされました。

表2-1-1 気候変動影響評価結果の概要
(2)各分野における気候変動の影響

上述の気候変動影響評価報告書の取りまとめをはじめ、気候変動に関する情報に合わせて、その影響に関わる知見も充実されつつあります。2018年2月には、環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び気象庁の5省庁が協力して「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」を作成しました。気候変動の影響は地域によって違いがあるものの、自然環境や生態系だけでなく社会や経済の分野においても様々な影響が既に生じており、将来、悪影響が更に拡大することが懸念されています(図2-1-10)。

図2-1-10 気候変動の影響例
ア 農業、森林・林業、水産業

気候変動が農業、森林・林業、水産業に及ぼす影響は、地域や品目によって様々です。気温の上昇による作物の品質の低下、栽培適地の変化等が懸念される一方、新たな作物の導入に取り組む動きも見られます。また、近年、異常な豪雨が頻発するようになり、森林の有する山地災害防止機能の限界を超えて山地崩壊等が発生するなど、山地における災害発生リスクも高まっています。野菜の生育障害、果実の食味の変化、ノリ養殖の収穫量の減少等が報告され、予測についてはワイン用ぶどうの栽培適地の拡大、トウモロコシの二期作適地の拡大、各種の病害虫の分布の拡大等が報告されています。

イ 自然生態系

気候変動が自然生態系に及ぼす影響として、植生や野生生物の分布の変化等が既に確認されています。例えば、モウソウチクとマダケの生育に適した土地が拡大して竹林が定着し、地域の生態系・生物多様性や里山管理に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。また、日本で繁殖する猛禽類の一種であるハチクマの渡りに適した空域が失われ、経路が変化してしまうことなどが予測されています。将来もそのような影響が更に進行することが予測されており、人間が生態系から得ている様々な恵み(生態系サービス)への影響も懸念されています。

ウ 水環境・水資源

気候変動が水環境・水資源に及ぼす影響として、気温の上昇を一因とする公共用水域の水温の上昇、渇水による上水道の減断水等が確認されています。近年、降水特性の変化による河川水質の変化や河川流況の変化等の予測が報告されています。

エ 自然災害・沿岸域

気候変動が自然災害・沿岸域に及ぼす影響として、短時間強雨や大雨の強度・頻度の増加による河川の洪水、土砂災害、台風の強度の増加による高潮災害等が懸念されます。また、台風の強度の増加等を考慮した高潮の将来予測変化や、近年頻発している甚大な水害・土砂災害の特徴への考察等が報告されています。

オ 健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活

気候変動が人の健康に及ぼす影響には、熱中症等、暑熱による直接的な影響と感染症への影響等の間接的な影響が懸念されます。近年熱中症による死亡者数は増加しており、また将来的には熱ストレスによる超過死亡の増加も予想されています。感染症については、デング熱等の媒介蚊であるヒトスジシマカの生息域が北上し、2016年には青森県に達したことが報告されています。地球温暖化と大気汚染の複合影響については、気温上昇による生成反応の促進等で、オキシダントや粒子状物質等の濃度が変化していることが報告されています。また、産業・経済活動や国民生活・都市生活においては、気温上昇や海面上昇、極端現象等によって、様々な生産・販売活動や各種のインフラに影響が及ぶ可能性が懸念されています。