環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第5章>第3節 化学物質の環境リスクの管理

第3節 化学物質の環境リスクの管理

1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

化学物質審査規制法では、包括的な化学物質の管理を行うため、法制定以前に製造・輸入が行われていた既存化学物質を含む一般化学物質等を対象に、まずはスクリーニング評価を行い、リスクがないとは言えない化学物質を絞り込んで優先評価化学物質に指定した上で、それらについて段階的に情報収集を求め、国がリスク評価を行っています。2018年3月31日時点で、優先評価化学物質199物質が指定されています(図5-3-1)。また、優先評価化学物質については段階的に詳細なリスク評価を進めており、2017年度までに66物質について「リスク評価(一次)評価II」に着手し、26物質について評価IIの評価結果を審議しました。

図5-3-1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律のポイント

一方、新たに製造・輸入される新規化学物質については、2017年度は、516件(うち低生産量新規化学物質は223件)の届出を事前審査しました。

2017年4月に開催されたPOPs条約第8回締約国会議の議論を踏まえ、2018年2月に化学物質審査規制法施行令を改正し、新たに条約上の廃絶対象とすることが決定されたポリ塩化直鎖パラフィン(炭素数が10から13までのものであって、塩素の含有量が全重量の48パーセントを超えるものに限る。)及びデカブロモジフェニルエーテルを第一種特定化学物質に指定(同年4月1日施行)するとともに、当該物質が使用されている場合に輸入することができない製品群を指定(同年10月1日施行予定)しました。

難分解性及び高蓄積性を有し、人又は高次捕食動物への長期毒性を有するか不明な物質として、2018年4月に新たに2物質を監視化学物質に指定しました。

化学物質による環境汚染の防止を適切に実施するため、[1]新規化学物質の審査特例制度における国内の総量規制を一定の環境排出量を上限とするものに改めるとともに、[2]一般化学物質のうち毒性が強い化学物質に係る管理の強化を図るなどの所要の措置を講ずることを内容とする「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の一部を改正する法律」が、2017年6月に公布されました。本法律の施行期日については、[1]については2019年1月1日、[2]については2018年4月1日としています。

2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

化学物質排出把握管理促進法に基づく化学物質排出移動量届出(PRTR)制度については、事業者が把握した2016年度の排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、2018年3月に公表しました(図5-3-2図5-3-3図5-3-4)。また、2010年度から、個別事業所ごとのPRTRデータをインターネット地図上に分かりやすく表示し、ウェブサイトで公開しています。

図5-3-2 化学物質の排出量の把握等の措置(PRTR)の実施の手順
図5-3-3 届出排出量・届出外排出量の構成(2016年度分)
図5-3-4 届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量(2016年度分)

3 ダイオキシン類問題への取組

(1)ダイオキシン類による汚染実態と人の摂取量

2016年度のダイオキシン類に係る環境調査結果は表5-3-1のとおりです。

表5-3-1 2016年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)

2016年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.55pg-TEQと推定されました(図5-3-5)。

図5-3-5 日本におけるダイオキシン類の一人一日摂取量(2016年度)

食品からのダイオキシン類の摂取量は0.54pg-TEQです。この数値は耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図5-3-6)。

図5-3-6 食品からのダイオキシン類の一日摂取量の経年変化
(2)ダイオキシン法等に基づく対策

ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針(以下「基本指針」という。)」及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)の二つの枠組みにより進められています。

1999年3月に策定された基本指針では、排出インベントリ(目録)の作成、測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進等を定めています。

ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、土壌汚染に係る措置、国の削減計画の策定等が定められています。

基本指針及びダイオキシン法に基づき国の削減計画で定めたダイオキシン類の排出量の削減目標が達成されたことを受け、2012年に国の削減計画を変更し、新たな目標として、当面の間、改善した環境を悪化させないことを原則に、可能な限り排出量を削減する努力を継続することとしました。我が国のダイオキシン類の排出総量は年々減少しており、2016年における削減目標の設定対象に係る排出総量は、目標量を下回っており、排出削減目標は達成されたと評価されます(図5-3-7)。

図5-3-7 ダイオキシン類の排出総量の推移

ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、2016年度は大気基準適用施設で43件、水質基準適用事業場で1件、合計44件(2015年度40件)でした。また2016年度において、同法に基づく命令が発令された件数は、大気関係6件、水質関係0件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係1,352件、水質関係77件でした。

ダイオキシン類による土壌汚染対策については、環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに6地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定され、対策計画に基づく事業が完了しています。

さらに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(3)その他の取組
ア ダイオキシン類の測定における精度管理の推進

「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」又は「ダイオキシン類の環境調査に係る精度管理の手引き(生物検定法)」に基づいて実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、測定に係る精度管理を推進するために、申請に係る負担軽減に配慮しつつ、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。

イ 調査研究及び技術開発の推進

ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。また、環境中でのダイオキシン類の実態調査等を引き続き実施しました。

4 農薬のリスク対策

農薬は、正しく使用しなければ、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づき規制されており、農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬の登録を保留するかどうかの要件のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る基準(農薬登録保留基準)を環境大臣が定めています。

特に、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準は、個別農薬ごとに基準値を設定しており、2017年度は、それぞれ32農薬と27農薬に基準値を設定し、それぞれ3農薬と2農薬を基準値設定不要としました。

農薬の適正かつ安全な使用の徹底を図るため、「住宅地等における農薬の使用について(通知)」、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止及び水産動植物被害の防止に係る指導指針」等により地方自治体や防除業者等に対し適切なリスク管理が講じられるよう周知しました。

我が国におけるネオニコチノイド系農薬等がトンボ類や野生ハナバチ類に与える影響評価や、農薬の大気経由による住民の健康への影響評価を行うとともに、農薬の各種残留実態調査等を実施しました。

農薬の安全性の一層の向上を図るため、農薬の規制に関する国際的動向等を踏まえ、農薬の再評価制度を導入するとともに、農薬の生態影響評価の対象を水産動植物から拡大することなどを内容とした農薬取締法の一部を改正する法律案を2018年3月に閣議決定しました。