環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第6節 科学的基盤を強化し、政策に結び付ける取組

第6節 科学的基盤を強化し、政策に結び付ける取組

1 基礎的データの整備

(1)自然環境調査とモニタリング

我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査のほか、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化を把握しています。

自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した1/2万5,000現存植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。2017年度までに、全国の約84%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、砂浜・泥浜の面積等の変化状況やクマ等の野生鳥獣の生息分布状況の調査を実施しました。

自然環境保全基礎調査における巨樹・巨木林調査では、2000年度の第6回フォローアップ調査終了後からは市民参加型調査に移行し、調査結果を「巨樹・巨木林データベース」で公開しています。2017年度には本ウェブサイトをより親しみやすくリニューアルし、ドローンを活用した「空から見た巨樹の動画」、「おすすめの観察コースガイド」、「各地の観察会情報」等の新たなコンテンツが加わったほか、一般市民による調査結果の閲覧や報告の機能がより手軽に利用できるようにしました。

モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁等)、小島嶼(しょ)について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施し、その成果を公表しています。また、得られたデータは5年ごとに分析等を加え、取りまとめて公表しています。2018年度は第3期の取りまとめの年に当たることから、これに向けてデータの解析等を進めました。

インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集し、提供するシステム「いきものログ」により、2017年度末時点で460万件の全国の生物多様性データが収集され、地方公共団体を始めとする様々な主体で活用されています。

(2)地球規模のデータ整備や研究等

地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化等を推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」の取組の一環として、2017年9月にベトナム・ハノイで開催された第10回全球地球観測システム(GEOSS)アジア太平洋シンポジウムにおいて、AP-BON分科会を開催しました。また、2018年2月には、タイ・バンコクにおいてAP-BONワークショップを開催し、アジア太平洋地域における生物多様性モニタリングを推進しました。さらに、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする「東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)」を推進するため、同地域の行政担当官や若手研究者等を対象に、ワシントン条約附属書掲載種の識別研修をマレーシア・クアラルンプールで実施し、分類学能力構築の研修等をタイ・チェンマイで実施しました。

研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「ミャンマーを中心とした東南アジア生物相のインベントリー-日本列島の南方系生物のルーツを探る-」、「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究」等の調査研究を推進するとともに、約479万点の登録標本を保管し、標本情報についてインターネットで広く公開しました。また、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の活動を支援するとともに、日本からのデータ提供拠点である独立行政法人国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供しました。

2 科学と政策の結び付きの強化

「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」のアジア・オセアニア地域技術支援機関(TSU-AP)が我が国の提案により2015年から公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置されており、TSU-APによるアジア・オセアニア地域の生物多様性及び生態系サービスに関する評価の報告書取りまとめ作業を我が国が支援しました。2018年3月にコロンビア・メデジンで開催された第6回総会では、同報告書の政策決定者向け要約の承認と本文の承諾がなされました。また、IPBESに参加するアジア・オセアニア地域各国の政策担当者の能力強化を目的とした国際ワークショップを、2017年7月に東京都内及び千葉県いすみ市でユネスコと共催しました。このほか、上記報告書を含む作業中の評価報告書等に我が国の知見を効果的に反映させるため、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁による国内連絡会を2018年2月に開催しました。また、IPBESによる評価作業への知見提供等により国際的な科学と政策の結び付き強化に貢献することを目的として、環境研究総合推進費による研究「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」を実施しています。

3 生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

保護区域での適応策検討に資するため、既存のデータ、評価ツールや手法に関する情報収集を行うとともに、大雪山国立公園及び慶良間諸島国立公園をモデル地域として、今後の保護区の管理を想定しながら、それらを活用した生態系の変化予測と生態系サービスを含めた影響の予測、脆弱性評価、それらを踏まえた適応策の案を検討しました。